説明

単線スチールコード・ゴム複合体および空気入りタイヤ

【課題】乗心地や高速耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することができる単線スチールコード・ゴム複合体の製造技術を提供する。
【解決手段】伸線された単線スチールコード10に波付けした後、連続して、ゴムを被覆して、以下の関係を満足する単線スチールコード・ゴム複合体11を製造する単線スチールコード・ゴム複合体11の製造方法。前記単線スチールコード・ゴム複合体11を用いて作製されたシート状ベルトが用いられている空気入りタイヤ。0.300≦a≦0.450。0.002≦(b−a)≦0.010。(b+0.300)≦c≦(b+0.450)。但し、a:単線スチールコードのフィラメント径(mm)。b:波付けされた単線スチールコードの最大径(mm)。c:単線スチールコード・ゴム複合体の最大径(mm)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単線スチールコード・ゴム複合体、および前記単線スチールコード・ゴム複合体を用いて作製される空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤには、スチールコード(フィラメント)を複数本並べた配列体をトッピングゴムで被覆したシート状ベルトがしばしば用いられるが、その際、生産性を低下させることなく、スチールコードとトッピングゴムとの間に充分な接着力を確保するために、スチールコードとして、表面をゴムで被覆したスチールコード・ゴム複合体が好ましく用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
スチールコードとして、単線スチールコード、即ち、1×1スチールコード(モノフィラメントコード)は、製造時の撚合わせが不要で安価であり、しかも曲げ剛性が高くベルト剛性を維持しつつ、マルチフィラメントコードに比べてスチール量を低減できるため、軽量化やコストダウンに大きなメリットを有している。
【0004】
しかし、単線スチールコードは、長手方向に対する伸びが少なく、柔軟性に劣るため、コード折れが生じ易く耐久性に問題がある。また、図6に示すような、単線スチールコードの癖によるシート状ベルト14の跳ね上がり(カール)が生じ易く、カール高さhが大きくなると、タイヤ製造ラインの効率低下を招く恐れがある。さらに、単線スチールコードは、前記したように曲げ剛性が高いため、タイヤの乗心地性能や高速耐久性を低下させることが知られている。
【0005】
このような問題点を解消するために、特許文献2に開示されるように、単線スチールコードの伸線加工と同時に、波付け装置を用いて、単線スチールコードに波付けを施すことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−150340号公報
【特許文献2】特開2001−30705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の方法は、伸線加工装置に波付け装置を設けて、伸線加工と同時に波付けを施す方法であるため、伸線加工ラインにおける生産性が低下する。即ち、一般的に、波付け加工は、伸線加工に比べて加工スピードが遅いため、伸線加工ラインにおける生産性が低下する。
【0008】
また、従来の単線スチールコード・ゴム複合体を用いることによるタイヤの乗心地性能や高速耐久性の改善についても、未だ充分とは言えない。
【0009】
このため、伸線加工ラインにおける生産性を低下させることがなく、さらに、乗心地や高速耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することができる単線スチールコード・ゴム複合体の製造技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る単線スチールコード・ゴム複合体の製造方法は、
伸線された単線スチールコードに波付けした後、連続して、ゴムを被覆して、以下の関係を満足する単線スチールコード・ゴム複合体を製造することを特徴とする。
0.300≦a≦0.450
0.002≦(b−a)≦0.010
(b+0.300)≦c≦(b+0.450)
但し、a:単線スチールコードのフィラメント径(mm)
b:波付けされた単線スチールコードの最大径(mm)
c:単線スチールコード・ゴム複合体の最大径(mm)
【0011】
本発明に係る空気入りタイヤは、
前記の単線スチールコード・ゴム複合体の製造方法により製造された単線スチールコード・ゴム複合体を用いて作製されたシート状ベルトが用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、伸線加工ラインにおける生産性を低下させることなく、単線スチールコード・ゴム複合体を製造することができ、さらに、乗心地や高速耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明により、単線スチールコードに波付けとゴム付けを連続して行うための製造ラインおよび波付け装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明により、波付けされた単線スチールコードの形状を模式的に示す図である。
【図3】本発明の単線スチールコード・ゴム複合体の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】単線スチールコード・ゴム複合体を用いて作製されたシート状ベルトの横断面を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の単線スチールコードを用いたシート状ベルトの構成を模式的に示す図である。
【図6】従来技術で製造されたシート状ベルトの跳ね上がりの様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0015】
1.単線スチールコードの波付けとゴムの被覆
最初に、本発明の主要部である単線スチールコードの波付けとゴムの被覆について、図1を用いて説明する。図1において、(a)は、単線スチールコードに波付けとゴムの被覆(ゴム付け)を連続して行うための製造ラインを模式的に示す図であり、(b)は、波付けの様子を模式的に示す図である。なお、図1において、1は予め伸線された単線スチールコード10の巻出し装置、2は単線スチールコードに波付けを施す波付け装置、3は波付けされた単線スチールコードにゴムを被覆するゴム付け装置、4はゴムが被覆された単線スチールコード・ゴム複合体11の巻取り装置である。
【0016】
図1(a)に示すように、本発明は、従来のように、伸線加工ラインにおいて、伸線加工後に波付けを行うのではなく、伸線加工ラインとは別のラインで予め伸線加工された単線スチールコードを用いて波付け加工を行なう。このため、波付け工程の加工スピードに合わせて伸線スピードを低下させる必要がなく、伸線加工ラインにおける生産性が低下することがない。
【0017】
そして、本発明においては、波付け工程とゴム付け工程とを連続させているが、ゴム付け工程の加工スピードであれば、波付け工程が充分に可能であるため、生産ラインのスピードを落とすことなく、波付けおよびゴム付けの2つの加工を連続して行うことができる。
【0018】
そして、波付けされた単線スチールコードにゴムが被覆された単線スチールコード・ゴム複合体は、従来と同様に、シート状ベルトの作製に際して、単線スチールコードの癖をキャンセルして跳ね上がりの発生が抑制されたシート状ベルトを提供することができる。
【0019】
さらに、本発明の単線スチールコード・ゴム複合体は、以下に示す通り、所定の条件のサイズに加工されているため、優れた耐久性能、転がり抵抗性能、操縦安定性、乗心地性能等を発揮することができる。
【0020】
2.単線スチールコード・ゴム複合体の作製方法
次に、単線スチールコード・ゴム複合体の具体的な作製方法について説明する。
【0021】
(1)単線スチールコードの準備
最初に、予め伸線された単線スチールコードを準備する。
【0022】
単線スチールコードの直径(フィラメント径)が、0.30mm未満の場合には強度不足が生じる。この強度不足に対しては、エンズを大きくすることによりカバーすることが可能であるが、その一方で、コード間隔が狭くなるため、耐久性能の悪化を招く。
【0023】
一方、フィラメント径が、0.450mmを超える場合には、曲げ剛性が高くなりすぎ、乗心地の悪化を招く。また、ゲージ厚みが大きくなるため、転がり抵抗性能(RR性能)が低下する。
【0024】
このため、単線スチールコードとしては、フィラメント径が0.350〜0.450mmの単線スチールコードが好ましい。0.350〜0.400mmであると、より好ましい。
【0025】
(2)波付け工程
イ.波付け装置
次に、準備した単線スチールコードに対して、波付けを行う。波付けの様子を模式的に示した図1(b)に示すように、波付け装置2には、複数本(図1では6本)の固定ピン2aが波型に配置されており、単線スチールコード10は、この固定ピン2aの間を通されることにより波付けされる。
【0026】
ロ.波付けされた単線スチールコードの形状
図2は、波付けされた単線スチールコード10の形状を模式的に示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。本実施の形態における単線スチールコード10は、1方向、即ち正面図(b)の上下方向(2次元)に波付けされているが、上下方向および左右方向の3次元に波付けされていてもよい。
【0027】
図2(b)において、aは、単線スチールコードのフィラメント径、bは、波付けされた単線スチールコードの最大径(波付け方向の直径)であり、即ち、波付け高さは(b−a)で示される。
【0028】
波付け高さが低すぎる場合には、波付けの効果が発揮されず、単線スチールコードの長手方向の伸びが不足すると共に、曲げ剛性を充分に低下させることができないため、良好な乗心地を得ることができない。また、単線スチールコードの単位長さ当たりの比表面積を充分に大きく確保することができないため、単線スチールコードとトッピングゴムとの接着性が充分とは言えず、良好な耐久性能を得ることができない。一方、波付け高さが高すぎる場合には、操縦安定性が低下し、高速耐久性も低下する。これらの点を考慮した好ましい波付け高さは、0.002〜0.010mmである。
【0029】
(3)ゴム付け工程
引き続いて、波付けされた単線スチールコードの表面をトッピングゴムで被覆するゴム付けを行い、単線スチールコード・ゴム複合体を作製する。
【0030】
図3は、単線スチールコード・ゴム複合体の構成を模式的に示す断面図である。図3において、12はトッピングゴムである。また、cは波付け方向における単線スチールコード・ゴム複合体11の最大径(波付け方向の直径)(トッピングゲージ)である。
【0031】
トッピングゲージcが小さすぎる場合には、高速耐久性が劣る。一方、大きすぎる場合には、乗心地が劣る。(b+0.300)≦c≦(b+0.450)の関係を満足することが好ましい。
【0032】
3.シート状ベルトの作製
次に、シート状ベルトの作製について説明する。
【0033】
先ず、作製した単線スチールコード・ゴム複合体を所定のエンズで配列する。その後、前記配列体の両面に、所定の厚さのゴムをトッピングして、単線スチールコード・ゴム複合体とトッピングゴムが複合されたシート状ベルトを作製する。図4は、得られたシート状ベルトの横断面を模式的に示す断面図であり、図4において、13は配列体の両面にトッピングされたトッピングゴム、14はシート状ベルトである。
【0034】
その後、得られたシート状ベルト14を、単線スチールコード・ゴム複合体の長手方向に対して所定の角度でカットし、カットされたシート状ベルト14をそれぞれ逆向きに貼り合せる。図5は、貼り合わせ後のシート状ベルト14の構成を模式的に示す平面図である。なお、図5において、θは、シート状ベルト14の長手方向と単線スチールコード・ゴム複合体がなす角度である。このシート状ベルト14を用いて、空気入りタイヤを作製する。
【実施例】
【0035】
次に、実施例により、本発明をより具体的に説明する。
1.単線スチールコード・ゴム複合体の作製
(1)単線スチールコードの準備
単線スチールコードとして、予め、0.415mmの直径(フィラメント径)に伸線された単線スチールコードを準備した。
【0036】
(2)波付け工程
次に、準備した単線スチールコードを波付け装置に通し、波付け後の単線スチールコードの波付け方向の径(最大径)bが、表2の各実施例および比較例に示す値となるように、比較例1を除いて、2次元波付けを行った。
【0037】
(3)ゴム付け工程
引き続いて、単線スチールコードの表面に、表1に示す組成のトッピングゴムを被覆し、トッピングゲージcが、表2の各実施例および比較例に示す値となるようにゴム付けし、単線スチールコード・ゴム複合体を作製した。
【0038】
【表1】

【0039】
2.シート状ベルトの作製
上記において得られた各単線スチールコード・ゴム複合体を用いて、エンズが25本になるように所定の間隔で配列し、配列体の両面に、前記トッピングゴムと同じトッピングゴムを被覆し、厚さ0.67〜0.88mmのシート状ベルトを作製した。その後、単線スチールコード・ゴム複合体の角度が、シート状ベルトの長手方向に対して、26°になるようにシート状ベルトをカットし、カットされたシート状ベルトをそれぞれ逆向きに貼り合わせた。
【0040】
3.空気入りタイヤの作製
貼り合わされたシート状ベルトを用いて、195/65R15のPCRタイヤを作製した。
【0041】
4.空気入りタイヤの性能評価
作製された空気入りタイヤを用いて、以下の項目について性能評価を行った。
【0042】
(1)高速耐久性能試験(H/S)
ECE30規格に基づき、高速耐久性能試験を行い、波付け加工を施さなかった比較例1における試験結果を100とする指数で評価した。結果を表2に示す。
【0043】
(2)乗心地性能
国産乗用車に各タイヤを装着して、テストコースで走行し、モニターの官能評価によって評点付けを行った。評点は、5点法で、3点以上であれば、一般市場で許容される乗心地性能を示している。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2より、実施例の各空気入りタイヤは、高速耐久性能、乗心地性能が共に優れていることが確認された。このように、よい評価結果が得られたのは、各実施例においては、フィラメント径a、波付け高さ(b−a)、トッピングゲージcが、本発明に規定される
0.300≦a≦0.450
0.002≦(b−a)≦0.010
(b+0.300)≦c≦(b+0.450)
の関係を満足するよう制御されているためである。
【0046】
一方、比較例2では、波付けをしていない比較例1と同等の評価結果しか得られていない。これは、波付け高さ(b−a)が0.001mmと小さすぎて、波付けの効果が発揮されなかったためである。また、比較例3の高速耐久性能の評価結果が低かったのは、波付け高さ(b−a)が0.010mmを超えているためである。比較例4の場合は、トッピングゲージcが(b+0.300)mmを下回っているため、高速耐久性能が大きく低下している。また、比較例5の場合は、波付け高さ(b−a)が0.005mm、トッピングゲージcが(b+0.460)と大きいため、乗心地性能が劣る評価結果となったものである。
【0047】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 巻出し装置
2 波付け装置
2a 固定ピン
3 ゴム付け装置
4 巻取り装置
10 単線スチールコード
11 単線スチールコード・ゴム複合体
12,13 トッピングゴム
14 シート状ベルト
a フィラメント径
b 波付け後の単線スチールコードの波付け方向の径
c トッピングゲージ
h 跳ね上がり(カール)量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸線された単線スチールコードに波付けした後、連続して、ゴムを被覆して、以下の関係を満足する単線スチールコード・ゴム複合体を製造することを特徴とする単線スチールコード・ゴム複合体の製造方法。
0.300≦a≦0.450
0.002≦(b−a)≦0.010
(b+0.300)≦c≦(b+0.450)
但し、a:単線スチールコードのフィラメント径(mm)
b:波付けされた単線スチールコードの最大径(mm)
c:単線スチールコード・ゴム複合体の最大径(mm)
【請求項2】
請求項1に記載の単線スチールコード・ゴム複合体の製造方法により製造された単線スチールコード・ゴム複合体を用いて作製されたシート状ベルトが用いられていることを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−140718(P2012−140718A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293103(P2010−293103)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】