説明

印刷媒体の移動量検出装置

【課題】印刷媒体の姿勢が搬送平面に対して傾くと移動量の検出精度が低下することがあった。
【解決手段】印刷媒体Pの一方の面に対して光を照射し、一方の面に対して第一照明手段10とは異なる角度で光を照射し、一方の面に対して照射された光の反射光を受光することによって一方の面を撮像し、第二照明手段11に光を照射させずに第一照明手段10に光を照射させた場合の反射光によって表される第一画像を複数取得し、複数の第一画像同士の類似度を示す値を算出し、第一照明手段10に光を照射させずに第二照明手段11に光を照射させた場合の反射光によって表される第二画像を複数取得し、複数の第二画像同士の類似度を示す値を算出し、第一画像同士の類似度と第二画像同士の類似度のうち類似度がより高い関係にある画像の組を取得する際に使用されていた照明手段を、印刷媒体Pの移動量を検出する際に使用する照明として選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷媒体の移動量を検出する装置に関し、特に、非接触で印刷媒体の移動量を測定する光学式の移動量検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷媒体を搬送しながら印刷を行う印刷装置においては、ローラーの回転によってローラーに接する印刷媒体を搬送している。ローラーの回転量とローラーの直径によって印刷媒体を搬送した量を把握可能であるが、ローラーが摩耗しローラーと印刷媒体との間に滑りが生じてしまうと、誤差が生じる。そのため印刷媒体の移動量を当該印刷媒体と直接接し搬送させるローラーによって検出する方法の他に、ローラーによって搬送中の印刷媒体の表面に光を照射してその反射光による画像を複数取得し、当該画像を比較することによって印刷媒体の移動量を検出する方法が知られている。特許文献1には、印刷装置を移動中の印刷物の所定部分の画像を撮影する装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−153149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような光学式の移動量検出手法では、印刷装置の筐体内において印刷媒体が搬送される平面(搬送平面)に対して直角でない方向から印刷媒体に対して光を照射し、その乱反射光をセンサーが受光する。ところで記録剤を吸収した印刷媒体が膨張し印刷媒体自身が反ったり波打ったりすることがある。あるいはまた別の要因で印刷媒体の姿勢が搬送平面に対して傾いてしまうこともある。そのように印刷媒体が搬送平面に対して傾いてしまっているとき、搬送平面に対して直角でない方向から光を照射すると、印刷媒体の搬送平面に対する傾きの角度によってその正反射光を多く受光してしまうことがある。正反射光が多く含まれる画像は、正反射光が多くは含まれていない画像と比較すると全体的に白っぽく明るすぎる(階調が飽和する)画像となり、画像に含まれているであろう印刷媒体の表面の微細な凹凸が形成する模様などの特徴を抽出しにくい。そのため、そのように正反射光が多く含まれるような照明条件下で撮影された複数の画像同士では特徴の比較がしにくい。したがってそのような場合は、移動量の検出精度が低下する。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、印刷媒体の姿勢が搬送平面に対して傾いていても移動量の検出精度を低下させないことを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記目的を達成するための移動量検出装置は、印刷媒体の一方の面に対して光を照射する第一照明手段と、前記一方の面に対して前記第一照明手段とは異なる角度で光を照射する第二照明手段と、前記一方の面に対して照射された光の反射光を受光することによって前記一方の面を撮像する撮像手段と、前記第二照明手段に光を照射させずに前記第一照明手段に光を照射させた場合の前記反射光によって表される第一画像を複数取得する第一画像取得手段と、複数の前記第一画像同士の類似度を示す値を算出する第一類似度算出手段と、前記第一照明手段に光を照射させずに前記第二照明手段に光を照射させた場合の前記反射光によって表される第二画像を複数取得する第二画像取得手段と、複数の前記第二画像同士の類似度を示す値を算出する第二類似度算出手段と、前記第一画像同士の類似度と前記第二画像同士の類似度のうち類似度がより高い関係にある画像の組を取得する際に使用されていた照明手段を、前記印刷媒体の移動量を検出する際に使用する照明として選択する選択手段と、を備える。
【0006】
印刷媒体の移動量を、移動前の印刷媒体の表面の画像と移動後の印刷媒体の表面の画像とを撮影し移動前の画像に含まれる任意のパターンの移動後の画像内における位置によって導出する移動量検出装置において、上述のように印刷媒体の姿勢によってはパターンマッチングなどの画像処理に適さない画像が取得されることがある。そのため本発明では、印刷媒体の一方の面に対して異なる角度で光を照射する少なくとも二つの照明手段を備えている。そしていずれかの照明手段による照明で撮影した印刷媒体の表面の画像を少なくとも二つ取得し、それらの画像でパターンマッチング処理を行い、それらの画像同士が類似している度合いを示す類似度を算出する。また別の照明手段による照明でも同様に少なくとも二つ画像を取得しそれらの類似度を算出する。そして類似度が最も高い画像の組を撮影したときに用いられた照明手段を、移動量の検出に用いる照明として選択する。そのため、印刷媒体の姿勢が傾いている場合であっても、本発明によると移動量を精度良く検出可能な照明を選択し使用することができる。なお、印刷媒体は、シート状の対象物を搬送する機能を有する装置によって搬送される対象物を意味している。搬送機能を有する装置として例えば印刷装置が適用される場合、印刷媒体は記録剤によって画像を形成する対象物を意味しており、搬送機能を有する装置として例えば画像読取装置が適用される場合、読み取りの対象物を意味している。印刷媒体は具体的には例えば紙やフィルム、その他のものであってもよい。
【0007】
(2)上記目的を達成するための移動量検出装置において、複数の前記第一画像は、前記印刷媒体に印刷を行う印刷装置に対して前記印刷媒体が同じ位置で停止している状態で取得されてもよく、また、複数の前記第二画像も、前記印刷装置に対して前記印刷媒体が同じ位置で停止している状態で取得されてもよい。
【0008】
印刷装置に対して第一照明手段や第二照明手段や受光手段は固定されている。さらに印刷装置に対して印刷媒体が相対的に同じ位置に停止している状態で印刷媒体の表面を撮影した場合、同じ画像が撮影されるはずである。すなわち、一方の画像に含まれるあるパターンは、他方の画像においても同じ位置に存在する。しかし、前述のように印刷媒体の姿勢によっては照明手段からの光の正反射光が多く含まれた画像が取得されることもあり、そのような場合には双方の画像に含まれるパターン自体を検出しにくくなるため、パターンマッチング処理の結果としても類似度が低いという結果が導き出される。一方、照明手段からの光の正反射光が多く含まれない画像の場合は、画像に含まれるパターンを検出しやすく、パターンマッチング処理の結果としても、類似度は高いという結果が導き出される。したがって印刷媒体の姿勢によっては印刷媒体の同じ位置を撮影した画像であっても類似度が低い結果になることがある。したがってそのことを利用して、印刷媒体の同じ領域を撮影しているのにも関わらず類似度が低いということが、照明手段からの正反射光が画像に多く含まれている(すなわち印刷媒体が印刷平面に対して傾いている)ことを示しているとして、類似度が高い(正反射光が画像に多く含まれるほどに印刷媒体が印刷平面に対して傾いていない)方の画像の組が撮影されたときに用いられた照明手段を選択することができる。
【0009】
(3)上記目的を達成するための移動量検出装置において、前記第一照明手段の使用状況を示す情報と前記第二照明手段の使用状況を示す情報とを取得する使用状況取得手段を備えてもよく、その場合に前記選択手段は、前記第一画像同士の類似度と前記第二画像同士の類似度とに差異がない場合は、前記第一照明手段の使用状況と前記第二照明手段の使用状況とが均等になるようにいずれか一方の照明手段を選択するようにしてもよい。
【0010】
この構成を採用することにより、照明手段の使用頻度がいずれか一方に偏ることによってその照明手段だけが早く故障してしまうことを防止することができる。なお、使用状況を示す情報とは、照明手段の耐久性に関する指標を用いて表されていればよく、例えば点灯回数や点灯時間などを想定してよい。
【0011】
(4)上記目的を達成するための移動量検出装置において、前記選択手段は、前記印刷媒体に対する印刷が終了するまでの間であって当該印刷媒体の間欠的な搬送毎に照明手段を選択してもよい。
印刷開始前には印刷媒体の姿勢が搬送平面に対して平行であっても印刷中に印刷媒体の姿勢が変化することがある。例えば記録剤がしみこんだ印刷媒体が伸びたり波打ったりすることがある。この構成では、印刷媒体の間欠的な搬送がなされる毎に、上記の複数の第一画像の取得と複数の第二画像の取得を行い、それぞれの類似度を算出して比較することによって照明手段を選択することを繰り返すことにより、印刷中に印刷媒体の姿勢が変化する場合にもその都度適切な照明手段を選択して印刷媒体の移動量の検出を高精度に実現することができる。
【0012】
なお、本発明は上記手段に対応する工程を実施する方法の発明としても成立し、各手段の機能をコンピューターに実現させるプログラムの発明としても成立する。また請求項に記載された各手段の機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、又はそれらの組み合わせにより実現される。また、これら各手段の機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。さらに、本発明はプログラムの記録媒体としても成立する。むろん、そのコンピュータプログラムの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態にかかる移動量検出装置のブロック図。
【図2】本発明の実施形態にかかる照明選択処理を示すフローチャート。
【図3】(3A)および(3B)は2つの照明の角度の関係を説明する模式図。
【図4】(4A)および(4B)はパターンマッチング処理を説明するための図、(4C)および(4D)はと比較対象領域の位置とマッチングスコアとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
【0015】
1.第一実施形態
1−1.構成
図1は、本実施形態にかかる移動量検出装置1の構成を示すブロック図である。移動量検出装置1は、印刷媒体を搬送して印刷を行う機能を有する装置(印刷装置)に備えられており、印刷装置が備える図示しない搬送ローラーによって印刷媒体が搬送されている際に、印刷媒体の移動量を検出する機能を備えている。本実施形態の移動量検出装置1は、印刷媒体の表面の画像を複数取得し、それらの画像に含まれる同一の図形の各画像内における位置の変化量から印刷媒体の移動量を検出する方式を採用している。また本実施形態の移動量検出装置1は、印刷装置内において印刷媒体を載せて搬送する平面(搬送平面)に対して印刷媒体の姿勢が傾いた場合も印刷媒体の移動量を精度良く検出できるようにするために印刷媒体を照明する複数の照明の使用を切り換える機能を有している。
【0016】
上記の機能を実現するために移動量検出装置1は、LED(発光ダイオード)10とLED11と図示しないレンズ等で構成される光学系とイメージセンサー12と制御部20とを備えている。LED10およびLED11は、印刷装置の筐体内において、印刷媒体Pを搬送する搬送平面(主走査方向に平行な方向と副走査方向に平行な方向とを含む平面)に対して片方の側から、当該搬送平面に対して互いに異なる角度で光を照射するように取り付けられている。本実施形態では、搬送平面に平行な状態で図示しない搬送ローラーなどで支持された印刷媒体Pに対して光を照射したとき印刷媒体Pからの正反射光の多くがイメージセンサー12に受光されないような角度で光を照射できるようにLED10が取り付けられている。またLED11はLED10と主走査方向に平行な位置に取り付けられており、LED10およびLED11から等距離にある平面(副走査方向を含む平面)を基準にして面対称な姿勢で取り付けられており、搬送平面に対する光の照射角度がLED10と面対称な関係にある。角度で光を照射する。LED10およびLED11は、印刷ヘッドを搭載するキャリッジの動作領域の近傍に設けられていることが望ましい(印刷媒体の搬送方向においてキャリッジの上流側でも下流側でもよい)。LED10およびLED11は図示しないインターフェイスを介して制御部20と電気的に接続されている。なお、上述の搬送方向とは、印刷媒体Pに対して記録剤を記録開始してから終了するまでの間に印刷媒体Pが送られる方向を意味し、搬送方向に向かって前方を下流側、後方を上流側と表現する。
【0017】
イメージセンサー12は、図示しないレンズなどの光学系を介して印刷媒体Pからの反射光を受光し電気信号に変換する機能を有している。イメージセンサー12は、A/Dコンバーターなどを含む図示しないインターフェイスを介して制御部20と接続されている。イメージセンサー12はエリアセンサーであり、本実施形態ではVGAサイズ(横640画素×縦480画素)のCMOSイメージセンサーを採用するが、もちろん他のサイズのCMOSイメージセンサーやCCDイメージセンサーを採用してもよい。イメージセンサー12では各画素に対応する明度値を検出することができればよい。なお、本実施形態においてLED10,11、イメージセンサー12、光学系は、印刷装置に対して相対的に位置や角度が変化しないように固定されている。
【0018】
制御部20は、図示しないCPUや揮発性メモリーや不揮発性メモリーやROM等で構成されており、移動量検出装置1の全体的な制御を行う。より具体的にはROMに記憶された制御プログラムがCPUによって実行されることにより制御部20は、上記の機能を実現する。揮発性メモリーにはイメージセンサー12によって撮影された画像を示す画像データが一時的に記憶される。制御プログラムは、第一照明制御部20aと第二照明制御部20bと第一画像取得部20cと第二画像取得部20dと第一類似度算出部20eと第二類似度算出部20fと使用状況取得部20gと選択部20h等のプログラムモジュールを備えている。
【0019】
第一照明制御部20aは、LED10の点灯や消灯を制御する機能を果たす。なお、LED10および第一照明制御部20aは請求項に記載の第一照明手段に相当する。第二照明制御部20bは、LED11の点灯や消灯を制御する機能を有する。LED11および第二照明制御部20bは第二照明手段に相当する。また、イメージセンサー12は請求項に記載の撮像手段に相当する。第一画像取得部20c(第一画像取得手段に相当)は、LED10が点灯している状態でイメージセンサー12に2回画像を撮影するように指示し、撮影された2つの画像を示す画像データを揮発性メモリーに取得する機能を実現する。第一類似度算出部20e(第一類似度算出手段に相当)は、LED10が点灯している状態で撮影された2つの画像を示す画像データを対象にパターンマッチング処理を行い、2つの画像の類似度を示す値を算出する機能を実現する。
【0020】
第二画像取得部20d(第二画像取得手段に相当)は、LED11が点灯している状態でイメージセンサー12に2回画像を撮影するように指示し、2つの画像を示す画像データを揮発性メモリーに取得する機能を実現する。第二類似度算出部20f(第二類似度算出手段に相当)は、LED11が点灯している状態で撮影された2つの画像を示す画像データを対象に第一類似度算出部20eと同様にパターンマッチング処理を行い、2つの画像の類似度を示す値を算出する機能を実現する。なおパターンマッチング処理に該当するプログラムは第一類似度算出部20eと共用でよい。
【0021】
使用状況取得部20g(使用状況取得手段に相当)は、LED10およびLED11の使用状況を示す情報を取得する機能を実現する。本実施形態ではLED10およびLED11のそれぞれの使用回数をカウントして不揮発性メモリーに保存する。選択部20h(選択手段に相当)は、第一類似度算出部20eで算出された類似度を示す値と、第二類似度算出部20fで算出された類似度を示す値とを比較し、印刷媒体Pの移動量検出に用いる照明をLED10およびLED11から選択する機能を実現する。
【0022】
1−2.照明選択処理
図2は、印刷媒体Pの移動量を検出するために用いる照明(LED10またはLED11)を選択するための処理を示すフローチャートである。この処理は、印刷媒体Pが図示しない搬送ローラーによって間欠的に搬送されている間であってその停止状態のたびに停止状態の間に実行される処理である。後述する二つのフラグ(第一失敗フラグ、第二失敗フラグ)はこの処理が実行されるたびにステップS100の前にオフに初期化される。はじめに、制御部20は二つのうち一方のLED10を点灯させ(ステップS100、第一照明制御部20a)、印刷媒体Pを印刷装置に対して同じ位置において停止している状態で2回続けて画像を撮影してメモリーに画像データを取得し(ステップS105、第一画像取得部20c)、LED10を消灯させ(第一照明制御部20a)、取得した画像を対象にパターンマッチング処理を行い2つの画像の類似度を算出する(ステップS110、第一類似度算出部20e)。
【0023】
具体的には、LED10を点灯させた状態で画像を2回取得し、その2つの画像を対象にパターンマッチング処理を行う。図2の処理が実行されている間は、印刷媒体Pは印刷装置に対して停止している状態であるので、取得された2つの画像は印刷媒体Pの同じ領域を撮影したものである。印刷媒体Pが図3に示すように搬送平面に対して傾いておらず、図1のように搬送平面に平行である場合は、イメージセンサー12にはLEDから照射され印刷媒体Pから乱反射した光による画像が取得される。図4Aおよび図4Bは、取得した2つの画像を表している。本実施形態では、VGAサイズの画像が取得される。画像の長い方の辺と平行な方向が副走査方向に対応している。印刷媒体Pが例えば紙である場合、紙の繊維による不規則的なテクスチャーが画像には含まれている。
【0024】
パターンマッチング処理では、マッチング対象として用いるパターン(例えば紙の場合は、紙の繊維による不規則なテクスチャーで形成される図形)を一方の画像内において決定し、そのパターンが他方の画像内に存在するか否かを調べることができればよく種々の公知のアルゴリズムを採用してよい。本実施形態では、一方の画像内(図4A)に当該画像(例えばVGAサイズ)より小さいマッチング対象領域A(例えば縦280画素×横40画素)を設定し、一方の画像(図4A)のマッチング対象領域Aに含まれるパターンが他方の画像(図4B)のどの位置に含まれるかを、他方の画像(図4B)全体を対象として判定する。具体的には、まず他方の画像(図4B)の左上隅にマッチング対象領域Aと同サイズの比較対象領域Bを設定し、右下隅に至るまで当該比較対象領域Bを1画素ずつずらして比較対象領域Bの画像とマッチング対象領域Aの画像とを比較する。そして比較対象領域Bが設定された位置ごとに、比較対象領域B内の代表画素に、比較結果としてのマッチングスコアの値を対応付ける。マッチング対象領域A内および比較対象領域B内の同じ位置において同一形状のパターンが検出されたとき、マッチングスコアは最も高い値となる。
【0025】
図4Cは、図4Bの画像内における比較対象領域Bの設定位置と、マッチングスコアとの関係を示すグラフである。具体的には、代表画素の位置をxy座標で表しその代表画素に対応付けられたマッチングスコアを高さzとして表した3次元グラフの、マッチングスコアが最も高い値となる画素を含むxz平面に平行な断面あるいはyz平面に平行な断面を表すグラフである。本実施形態では、同じ位置で印刷媒体Pが停止している状態で画像を2つ取得しているので同じ画像が取得される。したがって図4Cに示すように、図4Aのマッチング対象領域Aと同じ位置において、図4Bの画像に比較対象領域Bを設定したときに最もマッチングスコアが高いという結果が得られる。
【0026】
また、本実施形態では、2つの画像の類似度を示す指標として上記のマッチングスコアの他に、3点の鋭度という指標も用いる。3点の鋭度は、図4Cに示すグラフのピーク付近の鋭さを表す値である。具体的には、マッチングスコアが最大となる画素と当該画素を中心としてその両側(x軸方向またはy軸方向)の近傍の画素の3点を用いてピーク付近の曲線を2次関数(z=ax+bx+cまたはz=ay+by+c)に近似した場合の2次の項の係数の絶対値(|a|)で表される。3点の鋭度を示す値が大きい場合は、小さい場合より、ピーク付近の傾きがよりピーキーであることを表しており、より確実に類似度が高いことを意味する。
【0027】
続いて制御部20は、2つの画像の類似度が所定以上であるか否かを判定する(ステップS115)。具体的にはマッチングスコアの最大値が予め決められた所定の閾値以上であるか否かを判定する。マッチングスコアの最大値が予め決められた閾値より大きい場合は、類似度を示す値を保存する(ステップS120)。具体的には、マッチングスコアの最大値と、3点の鋭度を示す値を保存する。
【0028】
類似度が所定以上でない場合、すなわちマッチングスコアの最大値が予め決められた閾値より低い場合は、類似度が確実に高いとは言えないことを示す第一失敗フラグをオンにセットする(ステップS125)。印刷媒体Pが図3Aに示すように搬送平面に対して傾いているために、一方のLEDから照射した光の正反射光が取得した画像に多く含まれてしまう場合は、ステップS105で取得した2つの画像は両方とも露出オーバーで階調が飽和するため、パターンマッチングの結果は、図4Dに示すように、マッチングスコアの最大値も低く、3点の鋭度を示す値も小さくなる。
【0029】
続いて制御部20は、2つのうちの他方のLED11を点灯させ(ステップS130、第二照明制御部20b)、画像を連続して2回撮影してメモリーに取得し(ステップS135、第二画像取得部20d)、LED11を消灯させ(第二照明制御部20b)、ステップS110と同様に2つの画像の類似度を算出する(ステップS140、第二類似度算出部20f)。そしてステップS115と同様に類似度が所定以上であるか否かを判定する(ステップS145)。類似度が所定以上である場合は、類似度を示す値を保存する(ステップS150)。具体的には、マッチングスコアの最大値と、3点の鋭度を示す値を保存する。類似度が所定以上でない場合は、2つの画像の類似度が確実に高いとは言えないことを示す第二失敗フラグをオンにセットする(ステップS155)。
【0030】
続いて制御部20は、第一失敗フラグと第二失敗フラグの二つのフラグのうちいずれか片方だけがオンに設定されているかを判定する(ステップS160)。第一失敗フラグがオフに設定されており第二失敗フラグがオンに設定されている場合は、LED10が印刷媒体Pの移動量を検出する際に用いる照明として選択される(ステップS165、選択部20h)。第一失敗フラグがオンに設定されており第二失敗フラグがオフに設定されている場合は、LED11が印刷媒体Pの移動量を検出する際に用いる照明として選択される(ステップS170、選択部20h)。
【0031】
その結果、例えば図3Aおよび図3Bに示すように印刷媒体Pが傾いている場合に、一方のLED10による照明では正反射光が多く含まれるためにパターンマッチング処理に敵した画像が取得できない場合であっても、LED10と主走査方向に対称的な角度で光を照射するLED11(図3B参照)を用いることができる。LED10による照明で正反射光の多くがイメージセンサー12に受光される場合、LED10と対称的な角度で光を照射するLED11を用いるとその正反射光の多くはイメージセンサー12に受光されないためである。そのため印刷媒体Pが搬送平面に対して傾いていても、印刷媒体Pの移動量を精度良く検出可能な照明を選択し使用することができる。
【0032】
それ以外の場合は、両方のフラグがオンに設定されているか否かが判定される(ステップS175)。両方のフラグがオンに設定されている場合は、いずれのLEDを用いてもパターンマッチング処理の結果が、2つの画像の類似度が確実に高いと言えない場合であり、いずれのLEDを用いても印刷媒体Pの移動量を精度良く検出できない可能性が高いことを意味する。そのため、いずれのLEDも選択することなく処理を終了する(ステップS180)。すなわち、印刷媒体Pの移動量の検出が実行されない。
【0033】
ステップS175においていずれのフラグもオンに設定されていないと判定された場合は、いずれのLEDを用いても印刷媒体Pの移動量を精度良く検出できる可能性が高いことを意味している。その場合は、ステップS110およびステップS140でそれぞれ算出した類似度を示す値を比較し、より類似度が高い方の画像の組を取得する際に用いられたLEDが選択される(ステップS185、選択部20h)。具体的には、マッチングスコアの最大値がより高い方、または、3点の鋭度を示す値がより大きい方の画像の組と対応するLEDが選択される。
【0034】
なお、ステップS185において、LED10を点灯した状態で取得した2つの画像の類似度を示す値とLED11を点灯した状態で取得した2つの画像の類似度を示す値とがほぼ同一である場合は、LEDの使用状況が均等となるようにいずれかのLEDが選択される。どちらか一方のLEDばかり使用され続けると当該LEDの寿命が短くなるため、交換の時期を早めてしまうことになるためである。本実施形態では、使用状況取得部20gのプログラムにより、LED10およびLED11の使用回数をそれぞれカウントし不揮発性メモリーに保持するようにしている。したがってステップS185において類似度がほぼ同一である場合は、その時点での使用回数が少ない方のLEDが選択される。
【0035】
以上の処理が、印刷媒体Pに対する印刷が終了するまでの間繰り返し実行される。そのため、印刷途中で印刷媒体Pの姿勢が変化した場合にも、その都度最適な方のLEDを選択することができ、印刷媒体Pの移動量を精度良く検出することができる。
【0036】
2.他の実施形態
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば上記実施形態では、使用状況を示す情報として、LEDの点灯回数を挙げたが、他にも例えばLEDの累積点灯時間などを採用してもよい。また、上記実施形態では照明手段としてLEDを挙げたが、レーザーなどその他の照明を用いてももちろんよい。
【0037】
また、本発明の移動量検出装置は、シート状の対象物を搬送する機能を備えた装置として印刷装置に搭載されることを上記実施形態では示した。その他にも例えば、搬送機能を備えた装置として、スキャナーやファクシミリ等の画像読取装置に、本発明の移動量検出装置が適用されてもよい。すなわち、スキャナーやファクシミリなどのADF(Auto Document Feeder)に本発明が適用されてもよい。その場合、複数の第一画像は、印刷媒体を搬送する搬送装置に対して印刷媒体が同じ位置で停止している状態で取得されてもよく、また、複数の第二画像も、搬送装置に対して印刷媒体が同じ位置で停止している状態で取得されてもよい。またその場合、選択手段は、印刷媒体に対する搬送が終了するまでの間に所定の間隔ごとに照明手段を選択するようにしてもよい。所定の間隔ごととは、例えば予め決められた時間経過ごとでもよいし、搬送ローラーが所定量回転するごと、等でも良い。そうすることによってスキャナーなどのADFにおいて搬送中に読み取り対象である印刷媒体の姿勢が変化しても常に最適な照明を選択することができる。
【符号の説明】
【0038】
1:移動量検出装置、10:LED、11:LED、12:イメージセンサー、20:制御部、20a:第一照明制御部、20b:第二照明制御部、20c:第一画像取得部、20d:第二画像取得部、20e:第一類似度算出部、20f:第二類似度算出部、20g:使用状況取得部、20h:選択部、A:マッチング対象領域、P:印刷媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体の一方の面に対して光を照射する第一照明手段と、
前記一方の面に対して前記第一照明手段とは異なる角度で光を照射する第二照明手段と、
前記一方の面に対して照射された光の反射光を受光することによって前記一方の面を撮像する撮像手段と、
前記第二照明手段に光を照射させずに前記第一照明手段に光を照射させた場合の前記反射光によって表される第一画像を複数取得する第一画像取得手段と、
複数の前記第一画像同士の類似度を示す値を算出する第一類似度算出手段と、
前記第一照明手段に光を照射させずに前記第二照明手段に光を照射させた場合の前記反射光によって表される第二画像を複数取得する第二画像取得手段と、
複数の前記第二画像同士の類似度を示す値を算出する第二類似度算出手段と、
前記第一画像同士の類似度と前記第二画像同士の類似度のうち類似度がより高い関係にある画像の組を取得する際に使用されていた照明手段を、前記印刷媒体の移動量を検出する際に使用する照明として選択する選択手段と、
を備える移動量検出装置。
【請求項2】
複数の前記第一画像は、前記印刷媒体に印刷を行う印刷装置に対して前記印刷媒体が同じ位置で停止している状態で取得され、
複数の前記第二画像も、前記印刷装置に対して前記印刷媒体が同じ位置で停止している状態で取得される、
請求項1に記載の移動量検出装置。
【請求項3】
前記第一照明手段の使用状況を示す情報と前記第二照明手段の使用状況を示す情報とを取得する使用状況取得手段を備え、
前記選択手段は、前記第一画像同士の類似度と前記第二画像同士の類似度とに差異がない場合は、前記第一照明手段の使用状況と前記第二照明手段の使用状況とが均等になるようにいずれか一方の照明手段を選択する、
請求項1または請求項2に記載の移動量検出装置。
【請求項4】
前記選択手段は、前記印刷媒体に対する印刷が終了するまでの間であって当該印刷媒体の間欠的な搬送毎に照明手段を選択する、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の移動量検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207547(P2011−207547A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74989(P2010−74989)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】