説明

印刷層が形成された水圧転写用フィルムの製造方法

【課題】凹凸のある立体面や曲面を有する成形体の表面に印刷層を形成するのに好適で、特にインクジェット法により高精細に印刷層が形成されうる、被転写物と印刷層との密着性が良好で工程通過性に優れた、印刷層が形成された水圧転写用フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系重合体フィルムからなり、該ポリビニルアルコール系重合体のケン化度が80〜99モル%であり、該ポリビニルアルコール系重合体フィルムの少なくとも片面がポリウレタン樹脂により被覆されている水圧転写用フィルムに対してインクジェット法により印刷層を形成することを特徴とする、印刷層が形成された水圧転写用フィルムの製造方法により、上記課題は解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸のある立体面や曲面を有する成形体の表面に印刷層を形成するのに主として好適な印刷層が形成された水圧転写用フィルムの製造方法であり、特にインクジェット法により印刷層が形成された水圧転写用フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸のある立体面や曲面を有する成形体の表面に対して、意匠性を付与したり、表面物性を向上させる目的で印刷層を形成する手段として、フィルム表面に転写用の印刷層を形成した水溶性または水膨潤性フィルムからなる水圧転写用シートを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1など)。特許文献1には、水圧転写用シートを印刷面を上にして水面に浮かべた後、被転写体である各種の成形体をその上方から押し入れることで、水圧を利用して被転写体の表面に印刷層を転写するという方法が記載されている。
【0003】
従来、水圧転写用シートの製造には、オフセット印刷、凸版印刷、スクリーン印刷またはグラビア印刷等によって水圧転写用フィルムの上部に鮮明で微細な印刷層を設けるという方法が採用されているが、この方法は、少量多品種生産の要求に応じた小ロットでの生産や一般家庭での利用に適しているとは到底言い難い。また、従来の水圧転写用シートには、水性インクを用いたインクジェット法による印刷に際し、水圧転写用フィルムが膨潤して印刷像がぼやけて高精細印刷ができなかったり、穴があいたりするという問題があるうえ、ポリエステルやポリプロピレンやポリスチレンなどの被転写物との接着性が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、凹凸のある立体面や曲面を有する成形体の表面に印刷層を形成するのに好適で、特にインクジェット法により高精細に印刷層が形成されうる、被転写物と印刷層との密着性が良好で工程通過性に優れた、印刷層が形成された水圧転写用フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、ケン化度80〜99モル%のポリビニルアルコール系重合体と、ポリウレタン樹脂とからなる水圧転写用フィルムが上記課題を達成するのに有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]ポリビニルアルコール系重合体フィルムからなり、該ポリビニルアルコール系重合体のケン化度が80〜99モル%であり、該ポリビニルアルコール系重合体フィルムの少なくとも片面がポリウレタン樹脂により被覆されている水圧転写用フィルムに対してインクジェット法により印刷層を形成することを特徴とする、印刷層が形成された水圧転写用フィルムの製造方法、
[2]ポリウレタン樹脂がポリカーボネートポリオールおよびポリエステルポリオールから選ばれる少なくとも1種の化合物と脂肪族ジイソシアネートとの反応物であることを特徴とする上記[1]の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明における水圧転写用フィルムは、凹凸のある立体面や曲面を有する成形体の表面に印刷層を形成するのに好適で、特にインクジェット法による高精細な印刷が可能であり、被転写物と印刷層との密着性が良好で工程通過性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における水圧転写用フィルムに使用されるポリビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られたビニルエステル系重合体をケン化し、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位としたものを用いることができる。そのビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルを用いるのが好ましい。
【0010】
ビニルエステル系モノマーを重合させる際に、必要に応じて、該ビニルエステル系モノマーと共重合可能なモノマーを、本発明の効果を損なわない範囲で共重合させることができる。
このようなビニルエステル系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、アクリル酸およびアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびメタクリル酸エステル類、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体、ビニルエーテル類、ハロゲン化ビニル、アリル化合物、マレイン酸またはその塩およびエステル類、ビニルシリル化合物等を挙げることができる。これらのモノマーによる変性量は通常25モル%以下、好ましくは5モル%以下である。変性量が25モル%を超えると、水圧転写用フィルムと印刷層との親和性などが低下する傾向がみられる。
【0011】
ポリビニルアルコール系重合体のケン化度は80〜99モル%、好ましくは85〜92モル%である。ポリビニルアルコール系重合体のケン化度が80モル%未満の場合には、水圧転写用フィルムの水溶性速度が低下して水圧転写工程における通過性が悪化する場合があり、一方、ポリビニルアルコール系重合体のケン化度が99モル%を超えた場合でも、水圧転写用フィルムが水不溶化し、水圧転写工程における通過性が悪化する場合がある。
なお、本明細書でいうケン化度とは、ケン化によりビニルアルコール単位に変換されうる単位の中で、実際にビニルアルコール単位に変換されている単位の割合を示したものである。なお、ポリビニルアルコール系重合体のケン化度は、JIS記載の方法により測定される。
【0012】
ポリビニルアルコール系重合体の重合度は500〜3000、好ましくは700〜2500、さらに好ましくは1000〜2000である。ポリビニルアルコール系重合体の重合度が500未満の場合には、基材フィルムとしての機械的強度が不足する場合がある。一方、ポリビニルアルコール系重合体の重合度が3000を超えると、水圧転写用フィルムを製造する際の生産効率が低下する場合があり、また、水圧転写用フィルムの水溶性が低下して経済的な水圧転写の速度を得るのが困難になる場合がある。
【0013】
本発明において用いられるポリウレタン樹脂は、公知の方法にしたがって、2個以上の活性水素原子を有する有機化合物とジイソシアネートとを反応させることにより製造することができ、より具体的には、ポリオールとジイソシアネートとを溶剤中で反応させ、必要に応じて、反応物をエマルジョン化することにより製造することができる。
ポリオールとしては通常ポリカーボネートポリオールまたはポリエステルポリオールが用いられる。
ポリカーボネートポリオールは、例えばカーボネート化合物とジオールとを反応させることにより得ることができ、カーボネート化合物としてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネートなどを挙げることができ、ジオールとしては、低級アルコールで置換されていてもよいエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコールなどの芳香族ジオールが挙げられるが、なかでも脂肪族ジオール、とりわけ1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオールなどの炭素鎖長が4〜9の脂肪族ジオールが好適に用いられる。
【0014】
また、ポリエステルポリオールは、低分子のジオールとジカルボン酸とを縮合することにより得ることができ、低分子のジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられ、中でもエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールが好適に用いられる。ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸などの脂肪族二塩基酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族二塩基酸を用いることができ、中でも脂肪族二塩基酸、とりわけアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのメチレン鎖長が4〜8の二塩基酸が好適に用いられる。
【0015】
ポリカーボネートポリオールまたはポリエステルポリオールの分子量について特に制限はないが、通常、数平均分子量で700〜4000、より好ましくは1000〜2500である。
【0016】
ジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート等を挙げることができ、特に脂肪族ジイソシアネートの使用が好ましい。
【0017】
ジイソシアネートの使用量についてはとくに制限はないが、ポリウレタンの溶液の粘度、ポリオールの分子量、量比、反応溶媒、ならびにポリオールおよび鎖伸長剤中に含まれる水分などによっても異なるが、通常はポリオールと鎖伸長剤の水酸基の当量比(NCO/OH)が0.95〜1.2、なかんずく0.97〜1.1で用いられることが好ましい。
【0018】
ポリオールとジイソシアネートとの反応に際して用いることができる有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、トルエン、キシレンなどが挙げられ、反応物をエマルジョン化する観点からは、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルの使用が好ましい。
【0019】
ポリオールとジイソシアネートとの反応物は、必要に応じて鎖伸長剤を用いて、さらに分子量を増加させることができ、この目的に使用することができる鎖伸長剤としては、低級アルコールで置換されていてもよいエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコールなどの芳香族ジオール、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどのジアミンが挙げられる。
【0020】
また、本発明において、ポリウレタン樹脂としては市販のポリウレタン樹脂が用いられてもよく、特にポリウレタン樹脂エマルジョンとして、例えば、大日本インキ化学工業(株)製の「ボンディック」(商品名)、「ハイドラン」(商品名)、バイエル社製の「インプラニール」(商品名)等を挙げることができる。
【0021】
ポリウレタン樹脂はポリビニルアルコール系重合体フィルムの少なくとも片面を被覆している。
【0022】
ポリウレタン樹脂はポリビニルアルコール系重合体フィルムの片面だけでなく、両面に被覆してもよく、特に制限はない。印刷層と水圧転写用フィルムとの親和性を確保する観点からは、片面のみの被覆で十分であるが、フィルムのカール性やブロッキング防止性などの工程通過性の点からは両面を被覆するのが好ましい。
【0023】
本発明において用いられるポリビニルアルコール系重合体は水溶性であるため、フィルムの片面又は両面を被覆する本発明においてはポリウレタン樹脂は溶剤溶液タイプであることが好ましい。
【0024】
ポリウレタン樹脂として使用することのできるポリウレタン樹脂エマルジョンにおいてポリマー粒子の粒径は0.05〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがさらに好ましく、0.5〜3μmであることが特に好ましい。ポリマー粒子の粒径が0.05未満の場合には、水圧転写用フィルムと印刷層との親和性を十分なものとするためには添加量を増やす必要があり実用的でなくなる。ポリマー粒子の粒径が10μmを超える場合には、フィルムの片面又は両面に被覆する本発明においてはエマルジョンの脱落が起きやすくなる傾向がある。
【0025】
ポリウレタン樹脂をポリビニルアルコール系重合体フィルムの片面又は両面に被覆するには、従来公知の方法を用いることができる。その方法として、例えば、グラビアロールコーティング、マイヤーバーコーティング、リバースロールコーティング、エアーナイフコーティング、スプレー方式等が挙げられるが、均一な層を形成することができさえすればよく、その方法は特に限定されない。
【0026】
ポリビニルアルコール系重合体フィルムの片面又は両面を被覆するのに用いられるコート液には、本発明における水圧転写用フィルムの本来の性能が損なわれることがない限り、ポリウレタン樹脂のほかに、水溶性高分子などのバインダー、オクチルアルコール、トリブチルアルコール等の消泡材、防錆剤、防かび剤、粘度安定剤、界面活性剤、スリップ剤などが添加されていても差し支えない。特にシリカなどの無機フィラー等のスリップ剤を添加することは、印刷層の印刷性を向上させる観点から好ましい。また、バインダーとして添加される水溶性高分子としては、ケン化度が80〜90モル%、好ましくは85〜90モル%のポリビニルアルコール系重合体を用いることが特に好ましい。
【0027】
被覆層の厚みは好ましくは0.05〜20μmであり、より好適には0.1〜10μmである。被覆層の厚みについて厳密な意味での上限はないが、20μmを超えると、コスト的に不利になる。
【0028】
本発明における水圧転写用フィルムは、ケン化度80〜99モル%のポリビニルアルコール系重合体に対して可塑剤を添加することで柔軟性を付与することができる。可塑剤はポリビニルアルコール系重合体に可塑性を付与する機能を有していればよく、とくに制限はないが、グリセリン、ジグリセリン、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール系可塑剤の使用が好ましく、特にグリセリンが好ましい。可塑剤の添加量はポリビニルアルコール系重合体100重量部に対して20重量部以下であるのがよく、15重量部以下であるのがより好ましい。可塑剤の量が20重量部を超えると、ブロッキングが生じる恐れがある。
【0029】
また、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、水圧転写用フィルムに印刷層を形成する際に必要な機械的強度を付与し、水圧転写用フィルムを取扱う際の耐湿性を維持し、あるいは印刷層が形成された水圧転写用フィルムを水面に浮かべた際の吸水による柔軟化の速度、水中での延展性、水中での拡散に要する時間、転写工程における変形のし易さ等を調節することを目的として、ケン化度80〜99モル%のポリビニルアルコール系重合体に対して澱粉、およびポリビニルアルコール以外の水溶性高分子を添加することが好ましい。
【0030】
添加しうる澱粉としては、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の天然澱粉類、エーテル化加工、エステル化加工、酸化加工などがされた加工澱粉類を挙げることができ、特に加工澱粉類が好ましく用いられる。添加される澱粉の量はポリビニルアルコール系重合体100重量部に対して15重量部以下であるのがよく、10重量部以下であるのがより好ましい。澱粉の添加量が15重量部を超えると、ポリビニルアルコール系重合体フィルムは耐衝撃性が低下して脆くなり、工程通過性が低下する恐れがある。
【0031】
水溶性高分子としては、例えば、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ソーダなどが挙げられる。添加される水溶性高分子の量はポリビニルアルコール系重合体100重量部に対して15重量部以下であるのがよく、10重量部以下であるのがより好ましい。水溶性高分子の添加量が15重量部を超えると、水圧転写時における水圧転写用フィルムの溶解性および分散性が低下する恐れがある。
【0032】
また、印刷層が形成された水圧転写用フィルムを水面に浮かべた際の吸水による柔軟化の速度、水中での延展性、水中での拡散に要する時間等を調節する目的で、ケン化度80〜99モル%のポリビニルアルコール系重合体に対して無機塩類や界面活性剤などの添加剤を添加することが好ましい。
【0033】
無機塩類としては、ホウ酸や硼砂の使用が特に好ましい。添加される無機塩類の量は、ポリビニルアルコール系重合体100重量部に対して5重量部以下であるのがよく、1重量部以下であるのがより好ましい。無機塩類の添加量が5重量部を超えると、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの水溶性が著しく低下する。
【0034】
添加される界面活性剤の種類については特に制限はない。界面活性剤の添加量は、ポリビニルアルコール系重合体100重量部に対して5重量部以下であるのがよく、1重量部以下であるのがより好ましい。界面活性剤の添加量が5重量部を超えると、ポリビニルアルコール系重合体フィルムが密着しやすくなり、取り扱い性が低下する。
【0035】
本発明における水圧転写用フィルムは、ケン化度80〜99モル%のポリビニルアルコール系重合体に対して、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー等を添加することができる。これらの添加剤の量は、通常ポリビニルアルコール系重合体100重量部に対して10重量部以下であるのがよく、より好ましくは5重量部以下である。添加剤の量が10重量部を超えると、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの耐衝撃性が悪化する恐れがある。
【0036】
本発明における水圧転写用フィルムの厚みは、水溶性と工程通過性のバランスを勘案して適宜選択すればよいが、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μm、さらに好ましくは30〜50μmである。厚みが10μm未満になると、フィルム強度が不足するため工程通過性の低下が生じる場合がある。また、厚みが100μmを超えると、フィルムの水溶性が低下して、結果的に生産効率を低下させる場合がある。
【0037】
本発明における水圧転写用フィルムは、流延法、押出法、溶融法、インフレーション法等により製膜される。製膜後のフィルムは無延伸でもよいし、用途に合わせて機械特性を改善する目的で、1軸延伸または2軸延伸を施すこともでき、特に限定されない。
【0038】
また、水圧転写用フィルムに印刷層を印刷する工程での印刷適性を向上させる目的で、フィルム表面のスリップ性を向上させるため、フィルムの表面をマット処理することが好ましい。処理方法として、製膜時にロールまたはベルトのマット表面をフィルムに転写させるオンラインマット処理法、フィルムを一旦ロールに巻き取った後にエンボス処理を施す方法などが挙げられるが、表面に凹凸を付けることができさえすれば、方法は特に限定されない。フィルムの表面粗さはRaで0.5μm以上であるのが好ましく、1μm以上であるのがより好ましい。また、フィルムの表面粗さのRmaxは1μm以上であるのがよく、3μm以上であるのがより好ましい。
【0039】
本発明における水圧転写用フィルムの長さおよび幅には特に制限はないが、印刷時の生産性の観点から、長さは1m以上であるのが好ましく、100m以上であるのがより好ましく、1000m以上であるのがさらに好ましい。水圧転写用フィルムの幅は50cm以上であるのが好ましく、80cm以上であるのがより好ましく、100cm以上であるのがさらに好ましい。フィルムの幅が50cm未満であると、印刷時の生産性が低下する恐れがある。フィルムの幅は4m以下であるのが好ましく、3m以下であるのがさらに好ましい。フィルムの幅が4mを超えると、均一な厚みを有する水圧転写用フィルムの生産が困難になる恐れがある。
【0040】
本発明における水圧転写用フィルムは、印刷層を設けた後、従来公知の水圧転写方法に好適に用いることができる。その方法として、例えば、印刷層を設けた水圧転写用フィルムを水面に浮かべると共に該水圧転写用フィルムの印刷層を活性化させる第1工程、水面に浮いている水圧転写用フィルムの上方から所定の成形体からなる被転写体を被転写面が下方になるようにして降下させる第2工程、水圧転写用フィルムの印刷層が被転写体の表面に十分に固着した後で該水圧転写用フィルムにおける転写フィルム基材を除去する第3工程、被転写面に転写用の印刷層を転写させた被転写体を十分に乾燥させて目的製品を得る第4工程の各工程からなる水圧転写方法が挙げられる。
【0041】
本発明における水圧転写用フィルムは、木、合板、パーティクルボード等の木質基材、各種プラスチック類、石膏ボード、パルプセメント板、スレート板、石綿セメント板などの繊維セメント板、珪酸カルシウム板、珪酸マグネシウム板、GRCおよびコンクリート、鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属板、およびこれらの複合物の表面に印刷層を形成するのに使用される。これらの基材および板は、表面の形状が平坦であっても、粗面であっても、凹凸形状を有していてもよく、主として凹凸のある立体面や曲面を有する成形体の表面に印刷層を形成するのに好適に用いられる。
【0042】
本発明における水圧転写用フィルム上に印刷層を形成する際に使用される印刷インクとしては従来公知のものが制限なく用いられる。
【0043】
本発明における水圧転写用フィルムは、インクジェット法による印刷に適しており、特に一般的に使用されている水性インクを用いたインクジェット方式に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって何ら限定を受けるものではない。
【0045】
[実施例1]
ケン化度88モル%、重合度1750のポリビニルアルコール100重量部、グリセリン5重量部、エーテル化澱粉5重量部、およびホウ酸0.5%からなる15%濃度の水溶液を90℃の温度にして、マット面を有する、ステンレス製の金属板上に流延し、製膜することにより、厚さ40μmの基材フィルムを作製した。次いで、基材フィルムの上に、1,4−ブタンジオールとジエチレンカーボネートの重縮合物であるポリカーボネートジオールと、エチレンジアミンと、2,4−トリレンジイソシアネートとの反応物(ポリカーボネートジオール/エチレンジアミン/ジイソシアネート=1/1/2)の酢酸メチル溶液をダイレクト・グラビアロールコーターを用いて75m/分の速度で塗布したのち、乾燥機を用いて150℃の温度で乾燥を行い、片面にポリウレタン樹脂層が被覆された、厚さ42μmのフィルムを得、さらにエンボスロール温度120℃、線圧35kg/cmの条件でエンボス加工を行い、水圧転写用フィルムを得た。
【0046】
得られた水圧転写用フィルムにインクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製PM−200C)を用いて印刷を行なったところ、印刷層ににじみは認められなかった。印刷層を形成した水圧転写用シートをロール状に巻き取り、20℃、65%RHの雰囲気下で1週間保管したところ、印刷層の剥離は認められなかった。
【0047】
上記印刷層面に、活性剤(ブチルセロソルブアセテート26重量部、ブチルカルビトールアセテート26重量部、ブチルメタクリレート重合体8重量部、ジブチルフタレート20重量部、硫酸バリウム20重量部の混合物)をスプレー塗工法で13g/mに塗布した。そして、水温30℃の水面に、前記活性剤を塗布した水圧転写用シートの印刷面が上面になるようにして浮かべ、1分後にABS樹脂製の平板成形体を上方から押し入れ、該成形体の表面に水圧転写用シートを延展密着させた。
次いで、表面に水圧転写用シートが延展、密着しているABS樹脂成形体を水中から引き出し、40℃の温水で30分間シャワーした後、さらに蒸留水でシャワーし、水圧転写用シートから水圧転写フィルムを除去し、続いて乾燥工程を経ることによって、水圧転写法による転写層を有するABS樹脂成形体を得た。
転写用フィルムの除去性は良好で、印刷層の成形体への転写性も良好であり印刷抜けは認められなかった。
【0048】
[実施例2]
ケン化度88モル%、重合度1750のポリビニルアルコール100重量部、グリセリン5重量部、エーテル化澱粉5重量部、およびホウ酸0.5%からなる15%濃度の水溶液を90℃の温度にして、マット面を有するステンレス製の金属板上に流延し、製膜することにより、厚さ40μmの基材フィルムを作製した。次いで、コート液として、ポリエステル系ポリウレタン樹脂としてボンディック2250(大日本インキ化学工業(株)製を固形分換算で1重量部と、バインダーとしてケン化度88モル%、重合度1750のポリビニルアルコール1重量部と水98部からなる2%濃度の水溶液を作製した。このようにして作製したコート液を基材フィルムの上にダイレクト・グラビアロールコーターを用いて75m/分の速度で塗布したのち、乾燥機を用いて150℃の温度で乾燥を行うという操作を繰り返して行い、両面にポリウレタン樹脂層が被覆された、厚さ42μmのフィルムを得、さらにエンボスロール温度120℃、線圧35kg/cmでエンボス加工を行い、水圧転写用フィルムを得た。
【0049】
得られた水圧転写用フィルムにインクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製PM−200C)で印刷を行なったところ、印刷層のにじみは僅かであった。印刷層を形成した水圧転写用フィルムをロール状に巻き取り、20℃、65%RHの雰囲気下で1週間保管したところ、印刷層の剥離は認められなかった。
【0050】
上記印刷面に、活性剤(ブチルセロソルブアセテート26重量部、ブチルカルビトールアセテート26重量部、ブチルメタクリレート重合体8重量部、ジブチルフタレート20重量部、硫酸バリウム20重量部の混合物)をスプレー塗工法で13g/mに塗布した。そして、水温30℃の水面に、前記活性剤を塗布した水圧転写用シートの印刷面が上面になるようにして浮かべ、1分後にABS樹脂製の平板成形体を上方から押し入れ、該成形体の表面に水圧転写用シートを延展密着させた。
次いで、表面に水圧転写用シートが延展、密着しているABS樹脂成形体を水中から引き出し、40℃の温水で30分間シャワーした後、さらに蒸留水でシャワーし、水圧転写用シートから水圧転写用フィルムを除去し、続いて乾燥工程を経ることによって、水圧転写法による転写層を有するABS樹脂成形体を得た。
水圧転写フィルム基材の除去性は良好で、印刷層の成形体への転写性も良好であり印刷抜けは少量であった。
【0051】
[参考例1]
ケン化度88モル%、重合度1750のポリビニルアルコール100重量部、ポリエステル系ポリウレタン樹脂としてハイドランHW−970(大日本インキ化学工業(株)製)エマルジョン20重量部(固形分換算)、グリセリン5重量部、エーテル化澱粉5重量部、およびホウ酸0.5%からなる15%濃度の水溶液を90℃の温度にして、マット面を有するステンレス製の金属板上に流延し、製膜することにより、厚さ40μmの水圧転写用フィルムを作製した。
【0052】
実施例1と同様にして、水圧転写用フィルムのマット面側に印刷層を形成した。印刷層ににじみは認められなかった。印刷層を形成した水圧転写用シートをロール状に巻き取り、20℃、65%RHの雰囲気下で1週間保管したところ、印刷層の剥離は認められなかった。
また、実施例1と同様に成形体への水圧転写性を調べたところ、良好に転写可能であり、印刷抜けは認められなかった。
【0053】
[比較例1]
実施例1で作製した基材フィルムに、何らの処理を施すことなく、グラビア印刷を施したところ、印刷層のにじみが大きく、印刷がぼやけていた。その後、印刷層を形成したシートをロール状に巻き取り、20℃、65%RHの雰囲気下で1週間保管したところ、印刷層の剥離が部分的に認められた。その後、実施例1と同様にして、印刷層を水圧転写した際にも成形体の表面に印刷抜けが認められた。
【0054】
[比較例2]
ケン化度72モル%、重合度1750のポリビニルアルコール100重量部、グリセリン5重量部、エーテル化澱粉5重量部、およびホウ酸0.5%からなる15%濃度の水溶液を90℃の温度にして、マット面を有するステンレス製の金属板上に流延し、製膜することにより、厚さ40μmの基材フィルムを作製した。この基材フィルムを用いたグラビア印刷は良好に行うことができたが、実施例1と同様にして行った水圧転写時のフィルム溶解性が悪く、印刷抜けが多く認められた。
【0055】
[比較例3]
ケン化度99.6%、重合度1750のポリビニルアルコール100重量部、グリセリン5重量部、エーテル化澱粉5重量部、およびホウ酸0.5%からなる15%濃度の水溶液を90℃の温度にして、マット面を有するステンレス製の金属板上に流延し、製膜することにより、厚さ40μmの基材フィルムを作製した。この基材フィルムを用いたグラビア印刷は良好に行うことができたが、実施例1と同様にして行った水圧転写時のフィルム溶解性が悪く、印刷抜けが多く認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系重合体フィルムからなり、該ポリビニルアルコール系重合体のケン化度が80〜99モル%であり、該ポリビニルアルコール系重合体フィルムの少なくとも片面がポリウレタン樹脂により被覆されている水圧転写用フィルムに対してインクジェット法により印刷層を形成することを特徴とする、印刷層が形成された水圧転写用フィルムの製造方法。
【請求項2】
ポリウレタン樹脂がポリカーボネートポリオールおよびポリエステルポリオールから選ばれる少なくとも1種の化合物と脂肪族ジイソシアネートとの反応物であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−23519(P2010−23519A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247196(P2009−247196)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【分割の表示】特願2001−293095(P2001−293095)の分割
【原出願日】平成13年9月26日(2001.9.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】