説明

印刷機、通気性ワークに対する印刷方法及び燃料電池用カーボンペーパーに対する印刷方法

【課題】 通気性ワークに対して高い位置精度で印刷ができるようにする。
【解決手段】 カーボンペーパーのような通気性のあるワークWは、送り出しローラ21によって送り出され、サクションローラ3によって印刷位置に送られて印刷ユニット1によって印刷された後、巻き取りローラ22で巻き取られる。吸引機構により吸引されているサクションローラ3の吸引口310の付近にカバーフィルム5を位置させ、間にワークWが挟み込まれた状態でカバーフィルム5がサクションローラ3に吸引されるようにし、ワークWをサクションローラ3に密着させる。サクションローラ3が回転することでワークWが送られる際、そのワークWの送りに同期させてカバー送り機構7でカバーフィルム5を送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の発明は、通気性ワークに対する印刷技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印刷技術は、各種のものが存在するが、最近では電子回路の印刷等、ハイテク分野でも盛んに用いられている。このうち、ある種の用途では、通気性のワークに対して印刷を行うことが必要な場合がある。
例えば、最近特に注目されている燃料電池では、固体高分子型に注目が集まっているが、このタイプの燃料電池は、電解質膜を一対の触媒層で挟み、さらにその外側をガス拡散層で挟んだ構造を有している。ガス拡散層の外側には、それぞれ水素、酸素(空気)の流路形成するようセパレータが設けられる。ガス拡散層については、ガスを効率良く通すこと(通気性)は勿論のこと、電気を通すことも必要なため、多孔質な導電性ペーパーであるカーボンペーパー(例えば黒鉛化炭素繊維から成るペーパー)がしばしば使用される。この際、ガス拡散層と触媒層との接触性を高めるため、間に導電性の中間層を設ける提案がされており、ペースト状のものをスクリーン印刷法により塗布することで中間層を形成する提案がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−41349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カーボンペーパーのような多孔質な、したがって通気性のワークに対しては、従来の印刷技術で十分に印刷を行えないことが、発明者らの検討により判明した。以下、この点を説明する。
典型的な印刷対象物である紙、フィルムなどの薄いワーク(以下、薄状ワークと総称する)については、多くの場合、ロールツーロールの搬送方式により印刷が行われる。研究室での実験段階のような場合には、シート状のもの一枚ずつセットして印刷することもあり得るが、実用的な印刷機では、量産性を考慮し、ロールから引き出して印刷位置に搬送し、印刷をした後、いったんロールに巻き取り、切断機によって所定箇所で切断して個々の製品を得る場合が多い。印刷機が切断機構を備えている場合は、ロールに巻き取らずに切断を行って個々の製品を得ることもある。
【0005】
いずれにしても、量産タイプの印刷機の場合、薄状ワークを印刷位置まで搬送する機構が必要である。図5は、薄状ワークを印刷する印刷機における搬送機構の一般的な構成を示したものである。薄状ワークWを搬送する場合、複数のローラを組み合わせた機構が採用されることが多い。図5の印刷機では、送り出しローラ21に巻かれた薄状ワークWを駆動ローラ30が引っ張り、送り出された薄状ワークWは印刷位置10で印刷がされた後、巻き取りローラ22で巻き取られる。
駆動ローラ30にはモータが付設されて回転駆動されるが、薄状ワークWとの摩擦力が小さいと空回りしてしまう。このため、駆動ローラ30の表面に摩擦力を高める加工を施したり、駆動ローラ30をピンチローラの構成として薄状ワークWを挟んで引っ張る構成としたりする場合がある。しかしながら、表面に凹凸等を設けて摩擦力を高める構成ではワークが傷つき易い問題があり、ピンチローラで挟んで引っ張る構成でもワークWの傷つきや破れ等が発生し易い問題がある。
【0006】
このようなことから、デリケートな薄状ワークに対しては、エア吸着機構により駆動ローラに吹い付かせて搬送することがしばしば行われる。一般的には、駆動ローラの表面に吸引口を設けるとともに、駆動ローラに真空ポンプのような吸引ポンプを付設し、吸引ポンプにより吸引口から吸引することで薄状ワークを駆動ローラに密着させている。吸引口における吸引圧力を適宜設定することで、薄状ワークを傷つけたり破損させたりすることなく搬送することができる。このようなエア吸引によりワークを密着させるローラは、サクションローラと呼ばれる。
【0007】
従来の印刷機では、上記のような構成により薄状ワークを印刷位置まで搬送して印刷しているものの、カーボンペーパーのような通気性のワークの場合、サクションローラで吸着させながら搬送しようとしても、ローラの表面に吸い付かないため、搬送ができない。
本願の発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、通気性ワークに対して高い位置精度で印刷ができるようにする技術的意義を有するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、通気性のあるワークをサクションローラにより印刷位置に送る印刷機であって、
サクションローラは、吸引機構につながる吸引口を有しており、
通気性の無いカバーと、
吸引機構により吸引されている吸引口の付近にカバーを位置させ、間にワークが挟み込まれた状態でカバーがサクションローラに吸引されるようにするカバー位置制御機構と、
サクションローラが回転することでワークが送られる際、そのワークの送りに同期させてカバーを送るカバー送り機構と
が設けられているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、前記請求項1の構成において、前記カバーは、ワークの送り方向に長いフィルムであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項3記載の発明は、前記請求項2の構成において、前記フィルムであるカバーは、無終端のループ状であるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項4記載の発明は、前記請求項1、2又は3の構成において、前記カバー送り機構は、複数のローラにより前記カバーを送るものであり、これらローラのうちの一つは前記カバー位置制御機構に兼用されるものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項5記載の発明は、前記請求項1乃至4いずれかの構成において、前記カバー位置制御機構は、間に前記ワークが挟み込まれた状態で前記カバーを前記サクションローラに押し付けるものであるという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項6記載の発明は、通気性ワークに対する印刷方法であって、サクションローラにワークを吸着させながらサクションローラを回転駆動することでワークを印刷位置まで搬送するに際して、吸引機構により吸引されている吸引口の付近に通気性の無いカバーを位置させ、間にワークが挟み込まれた状態でカバーがサクションローラに吸引されるようにし、この状態でサクションローラが回転駆動するとともに、回転駆動により送られるワークに同期してカバーを送るという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項7記載の発明は、燃料電池用カーボンペーパーにガス拡散層を印刷するカーボンペーパーへの印刷方法であって、サクションローラにカーボンペーパーを吸着させながらサクションローラを回転駆動することでカーボンペーパーを印刷位置まで搬送するに際して、吸引機構により吸引されている吸引口の付近に通気性の無いカバーを位置させ、間にカーボンペーパーが挟み込まれた状態でカバーがサクションローラに吸引されるようにし、この状態でサクションローラを回転駆動するとともに、回転駆動により送られるカーボンペーパーに同期してカバーを送るという構成を有する。
【発明の効果】
【0009】
以下に説明する通り、本願の請求項1又は6記載の発明によれば、通気性のあるワークに対しても十分な位置精度で印刷が行える。
また、請求項2記載の発明によれば、上記効果に加え、カバーがワークの搬送方向に長いので、カバー位置制御機構が簡略化されるという効果がある。
また、請求項3記載の発明によれば、上記効果に加え、カバーが無終端のループ状であるので、カバー送り機構が簡略化される効果がある。
また、請求項4記載の発明によれば、上記効果に加え、カバー送り機構を構成する複数のローラのうちの一つがカバー位置制御機構に兼用されているので、この点でさらに機構的に簡略化されるという効果がある。
また、請求項5記載の発明によれば、上記効果に加え、カバーがサクションローラに押し付けられるので、ワークの滑り等を防止してより確実に精度良くワークを搬送することができる。
また、請求項7記載の発明によれば、燃料電池用カーボンペーパーに対して位置精度良くガス拡散層を印刷することができるので、より良質な燃料電池を生産するのに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る印刷機の正面概略図である。
【図2】サクションローラ3の構造を示した斜視破断概略図である。
【図3】サクションローラ3によりワークWが送られる状態を示した断面概略図である。
【図4】サクションローラ3の別の例を示した斜視概略図である。
【図5】薄状ワークを印刷する印刷機における搬送機構の一般的な構成を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本願発明を実施するための形態(以下、実施形態)について説明する。
図1は、本願発明の実施形態に係る印刷機について説明する。図1は、実施形態に係る印刷機の正面概略図である。図1に示す印刷機は、一例としてスクリーン印刷機となっているが、本願発明はこれに限られるものではない。
図1に示す印刷機は、印刷ユニット1と、ワークWを搬送する搬送系とを備えている。搬送系は、ロールツーロールの搬送を行う構成となっており、送り出しローラ21と、巻き取りローラ22と、サクションローラ3と、テンションローラ4等から構成されている。
【0012】
本実施形態において、ワークWは、前述した燃料電池用のカーボンペーパーとなっている。ワークWは、厚さが0.05〜0.50mm程度と薄いものであり、幅が100〜1000mm程度の帯状である。
印刷ユニット1は、このようなワークWの長さ方向の所定位置で版を転写して印刷を行うものとなっている。印刷ユニット1の詳細は図示されていないが、スクリーン版、スクリーン版にインキを盛って伸ばすスクレッパーと、インキをワークWに押し付けるスキージ等から構成されている。
送り出しローラ21には、上記のようなワークWが巻かれて装着されている。送り出しローラ21には、不図示の送り出し用駆動源が設けられている。送り出し用駆動源は、サクションローラ3によるワークWの搬送に合わせてワークWを送り出すよう送り出しローラ21を回転駆動するものである。
【0013】
サクションローラ3は、印刷位置にワークWを搬送する主要な駆動機構であり、印刷位置における印刷のタイミングに合わせて間欠的にワークWを搬送するようになっている。図2はサクションローラ3の構造を示した斜視破断概略図であり、図3はサクションローラ3によりワークWが送られる状態を示した断面概略図である。図2及び図3に示すように、サクションローラ3は、ローラ本体31と、ローラ本体31の内部に設けられた中空容器32等から構成されている。
【0014】
ローラ本体31は、ワークWの幅より少し幅が長い円筒状であり、周面に多数の吸引口310が設けられている。吸引口310は、ローラ本体31の長さ方向(ワークWの幅方向)に均等間隔で設けられているとともに、周方向の全周に均等間隔で設けられている。ローラ本体31の表面には、ワークWとの摩擦力を高めるための凹凸等が形成されている場合もある。
中空容器32は、平べったい容器であり、ローラ本体31の内面に沿うようにして全体が少し湾曲している。中空容器32は、ローラ本体31の内面と対向した面(以下、対向面)に吸引用開口320を有している。吸引用開口320は、対向面に均等間隔をおいて多数設けられている。また、中空容器32は図2中不図示の吸引ポートを有しており、吸引ポートには、吸引機構につながる配管322が接続されている。
一方、ローラ本体31は、不図示の駆動軸を有しており、駆動軸にはモータのような不図示の駆動源(以下、SR用駆動源)が設けられている。尚、吸引機構は、真空ポンプのような吸引ポンプや、動作のオンオフのためのバルブを含んでおり、圧力調整用のバルブ等も必要に応じて設けられる。
【0015】
吸引機構が駆動されると、中空容器32内が負圧空間となり、これにより、吸引用開口320及びローラ本体31の吸引口310を通して周囲の空気が吸引される。この結果、ワークWがローラ本体31に押し付けられ密着する。この状態で、SR用駆動源が動作すると、駆動軸を介してローラ本体31が回転し、密着しているワークWがローラ本体31により送られる。この際、吸引機構による吸引作用は、中空容器32の吸引用開口320が存在している領域でのみ生じるので、ワークWはこの領域を過ぎるとローラ本体31に密着することはなくなり、印刷位置に向けて進んでいく。後述するように、吸引機構による吸引作用が生じると、ワークWがサクションローラ3に吸着されるが、以下、ワークWの搬送方向において、吸引作用が生じることで吸着が行われる領域を吸引領域と呼ぶ。図2及び図3から解る通り、この例では、吸着領域は、ローラ本体31の周面の方向に沿った中空容器32の幅にほぼ一致している。
【0016】
吸引機構は常時動作するが、SR用駆動源は、印刷ユニット1における印刷のタイミングに合わせて間欠的に動作するようになっている。即ち、印刷機は、不図示の制御ユニットを有している。ワークWの所定の領域に対する印刷が印刷ユニット1により行われると、制御ユニットは搬送指令をSR用駆動源に送り、ローラ本体31を所定のストローク回転させる。これにより、ワークWが所定距離送られ、ワークWの次の印刷領域が印刷位置に達するようになっている。
【0017】
一方、印刷後のワークWを巻き取る巻き取りローラ22は、送り出しローラ21とほぼ同様の構成であるが、巻き取り用駆動源(不図示)が設けられいる。巻き取り用駆動源は、印刷ユニット1による印刷のタイミングに合わせて駆動され、印刷後のワークWを巻き取りローラ22に巻き取るようになっている。
テンションローラ4は、サクションローラ3に送られるワークWに対して適切なテンションを与えるためのものである。テンションローラ4には、不図示のテンション用駆動源が付設されている。テンション用駆動源は、図1にTで示す方向にテンションローラ4を適宜の力で引っ張り、ワークWに対してテンションを与えるようになっている。テンション用駆動源としては、テンションローラ4をTの方向に一定の力で引っ張るスプリングが採用できる。
【0018】
このような実施形態の印刷機の構成において、前述した通り、通気性のワークWに対してはサクションローラ3のみでは十分に搬送を行うことができない。このため、本実施形態の印刷機は、通気性の無いカバー5をワークWの背後に位置させてサクションローラ3による吸引力を作用させ、この状態でサクションローラ3を回転駆動することでワークWの搬送を行うようにしている。この場合の「背後」とは、ワークWに対してサクションローラ3が位置する側を前側とした場合の背後という意味である。
【0019】
より具体的に説明すると、図1に示すように、印刷機は、通気性の無いカバー5と、吸引機構により吸引されている吸引口310の付近にカバー5を位置させ、間にワークWが挟み込まれた状態でカバー5がサクションローラ3に吸引されるようにするカバー位置制御機構6と、サクションローラ3が回転することでワークWが送られる際、そのワークWの送りに同期させてカバー5を送るカバー送り機構7とを備えている。
【0020】
本実施形態では、カバー5としては、帯状に長いフィルムが使用されている。フィルムであるカバー5の長さ方向は、ワークWの長さ方向に一致し、したがって搬送方向に一致している。以下、本実施形態の説明では、カバーを「カバーフィルム」と言い換える。
カバーフィルム5は、本実施形態では、無終端のループ状となっている。カバーフィルム5は、通気性が無いものであれば足り、材質は特に限定されるものではないが、ポリエステル、ポリカーボネート、塩化ビニール、ウレタン、シリコンゴム、ポリプロピレン、又はPETのようなポリエチレン等で形成されたカバーを使用することができる。
カバーフィルム5の幅は、ワークWの幅よりも少し大きく、サクションローラ3の長さ(軸方向の長さ)より少し短い。このため、カバーフィルム5は、サクションローラ3上でワークWより両側で少しはみ出た状態となる。このはみ出た部分では、カバーフィルム5は、サクションローラ3のローラ本体31に対して直接接した状態となる。
【0021】
カバーフィルム5は、複数のローラ71,72,73に張架されている。複数のローラ71,72,73は、カバー送り機構7を構成するものである。複数のローラのうちの一つは、駆動ローラ71であり、他の一つは、駆動ローラ71によってカバーフィルム5が送られた際に従動する従動ローラ72,73である。
従動ローラの一つ72は、カバー位置制御機構6に兼用されている。即ち、カバー位置制御機構6は、従動ローラ72と、カバーフィルム5がサクションローラ3に向けて押されるよう従動ローラ72を駆動するローラ駆動機構61等から構成されている。
ローラ駆動機構61の詳細は、適宜構成し得るが、例えば、スプリングとトルクモータとを使用する構成が考えられる。従動ローラ72の軸をガイド(リニアガイド又は曲線ガイド)によって支持しておき、図1の矢印Aの方向に常時力が働くようスプリングを設けておく。そして、スプリングの力に逆らって矢印Bの方向に従動ローラを引っ張るようトルクモータを従動ローラ72の軸に連結する。
【0022】
このような構成において、駆動ローラ71に設けられた不図示の駆動源(以下、カバー用駆動源)は、SR用駆動源によるワークWの送りに同期してカバーフィルム5を送るようになっている。「同期して」とは、サクションローラ3のローラ本体31が回転駆動されることで送られるワークWの速度(厳密に言えば線速度)と同じ速度で且つ同じタイミングでカバーフィルム5が送られる、という意味である。
上記構成に係る本実施形態の印刷機において、前述した制御ユニットは、印刷ユニット1やSR用駆動源の他、送り出し用駆動源、巻き取り用駆動源、カバー用駆動源等、各部の制御も行うようになっており、所定のシーケンスでこれら各部が動作するよう制御指令を送るようになっている。
【0023】
印刷機の動作の説明も兼ねてシーケンスの一例を説明する。以下の説明は、印刷方法の各発明の実施形態の説明でもある。
まず、送り出し用駆動源が駆動されてワークWが少し送り出される。送り出されたワークWは、少し弛むので、テンション用駆動源が駆動され、テンションローラ4を図1中Tの向きに少し引っ張り、張力を回復させる。
次に、ある回の印刷が終了すると、制御ユニットは、SR用駆動源に制御指令を送り、所定のストロークだけワークWを送るようSR用駆動源を動作させる。と同時に、巻き取り用駆動源及びカバー用駆動源に制御指令を送る。この結果、ワークWの次の印刷箇所が印刷位置まで送られるとともに、この分だけワークWは巻き取り用ローラ22に巻き取られる。そして、このワークWの送りに同期してカバーフィルム5が送られる。
【0024】
SR用駆動源によりワークWが搬送される際、テンションローラ4は−Tの向きに引っ張られる。このため、テンション用駆動源の力に逆らってテンションローラ4は−Tの向きに少し変位する。
その後、制御ユニットは、印刷ユニット1に制御指令を送って印刷を行わせる。そして、送り出し用駆動源に再び制御指令が送られ、送り出し用駆動源が駆動されてワークWが送り出しローラ21が少し送り出される。その後は、同様の動作を繰り返す。
【0025】
上記動作において、前述したように間にワークWを挟み込んだ状態でカバーフィルム5がサクションローラ3に押し付けられ、その状態でカバーフィルム5がサクションローラ3に同期して送られる。このため、サクションローラ3における吸引力がカバーフィルム5に作用してカバーフィルム5が吸引され、これによりワークWがサクションローラ3に密着した状態となって、ワークWの送りの間、その状態が維持される。このため、ワークWが通気性のものであっても、サクションローラ3の吸引力によりワークWを搬送することができる。
【0026】
そして、吸引機構による吸引力を適宜設定すれば、ワークWのサクションローラ3に対する密着性を適宜なものとすることができ、十分な精度でワークWを搬送することができる。このため、ワークWを十分な精度で印刷位置に位置させることができ、ワークW上の必要な箇所に十分な位置精度で印刷を行うことができる。
このように、本実施形態の印刷機によれば、通気性のあるワークWに対しても十分な位置精度で印刷が行えるので、燃料電池用のカーボンペーパーに対して印刷を行う印刷機として極めて好適なものとなる。
【0027】
上記動作において、カバーフィルム5はワークWの代わりに吸引力を作用させる対象である。したがって、サクションローラ3の吸引力が作用する位置にカバーフィルム5が位置していれば足り、上記のようにサクションローラ3に押し付けられる必要は無い。ただ、カバーフィルム5がサクションローラ3から離れた位置にあり、サクションローラ3の吸引力が働いた段階で吸い寄せられて密着する構成であると、密着の際の衝撃が大きくなり易く、ワークWが傷み易いという問題がある。このため、カバー位置制御機構6によりカバーフィルム5がサクションローラ3に押し付けられる位置に位置させている。尚、この場合の「押し付け」とは、間にワークWが挟み込まれているので、カバーフィルム5がサクションローラ3に直接接する訳ではなく、ワークWがサクションローラ3に接触し、カバーフィルム5がワークWに接触した状態となり、これらの界面に実質的に隙間が形成されないという意味である。
【0028】
また、カバーフィルム5がワークWに接触し、ワークWがサクションローラ3に接触していれば足り、カバーフィルム5が押し付けられていない(力が加わっていない)状態であっても、本願発明は好適に実施可能である。
尚、ワークWがサクションローラ3に密着した状態を維持するには、上記のようにワークWの搬送に同期してカバーフィルム5も送られる必要がある。カバーフィルム5が送られない場合(例えば静止した状態を保つ場合)、ワークWは背面でカバーフィルム5により擦られながら移動することになる。容易に理解できるように、この場合は、ワークWが傷つき易くなる問題がある。
このようにカバーフィルム5がワークWと同期して送られる場合、カバーフィルム5は、本実施形態のようにワークWの搬送方向に長いものとしておくことが好ましい。送られるワークWに対して背後から覆う姿勢を順次取るのが容易で、カバー位置制御機構6が簡略化されるからである。
【0029】
また、カバーフィルム5が無終端のループ状である点は、カバー送り機構7が簡略化される長所がある。カバーフィルム5が無終端のループ状でない場合、例えば、送り出しローラで送り出して巻き取りローラで巻き取る構成が考えられるが、このような機構は、上記本実施形態の機構に比べて複雑になる。尚、本実施形態では、カバー送り機構7を構成する複数のローラのうちの一つがカバー位置制御機構6に兼用されているので、この点でさらに機構的に簡略化されている。
また、カバー位置制御機構6が押し付け機構61を有しており、カバーフィルム5がサクションローラ3に押し付けられる点は、上記説明から解る通り、ワークWがサクションローラ3により密着した状態にしている。このため、ワークWの滑り等を防止してより確実に精度良くワークWを搬送することができる。
【0030】
次に、サクションローラの別の例について図4を使用して説明する。図4は、サクションローラ3の別の例について示した斜視概略図である。図4に示すサクションローラ3も、ローラ本体31と中空容器32とから成っている。
この例におけるローラ本体31も、周面に多数の吸引口310を有している。ローラ本体3は、同軸状の二つの円筒部と、二つの円筒部の間の空間を等間隔に区切る多数の隔壁とからなる構造を有している。以下、各隔壁によって区切られた空間を本体内空間と呼ぶ。吸引口310は、外側の円筒部を貫通して設けられており、各本体内空間とローラ本体31の外側空間とを連通させている。
【0031】
一方、中空容器32は、ローラ本体31と外径がほぼ同じ円環状の部材である。中空容器32は、ローラ本体31側の側面から掘り下げるようにして形成された凹部を五つほど有しており、各凹部の開口が吸引用開口320となっている。そして、各凹部内の空間に連通するようにしてそれぞれ吸引ポート321が設けられている。各吸引ポート321は、不図示の配管によって不図示の吸引ポンプが接続されている。尚、五つの凹部は、中空容器32の中心軸と同心円周上に設けられているとともに、図4に示すように、100〜130度程度の角度範囲において均等間隔に設けられている。
また、中空容器32の中心を通して挿通させるようにしてシャフト34が設けられている。シャフト34は、モータ33に連結されている。
【0032】
尚、図4の(1)は分解図であり、ローラ本体31を中空容器32から離した状態が描かれている。実際に使用する場合には、図4(2)に示すように、ローラ本体31を中空容器32に接近させた状態でシャフト34に固定する。シャフト34の先端を端板で軸支させ、モータ33によってローラ本体31が回転するようにする。モータ33とシャフト34との間には、減速器が必要に応じて設けられる。
不図示の吸引ポンプを動作させると、中空容器32の各凹部内の空間が負圧空間となるため、吸引用開口320を通して吸引される。この際、ローラ本体31が中空容器32に接近しているため、吸引用開口320を通してローラ本体31の各本体内空間が負圧となり、これによって各吸引口310から吸引が行われる。
【0033】
図4に示すサクションローラ3を使用する場合も、ローラ本体31に対しては、間にワーク(図4中不図示)を挟み込んだ状態でカバーフィルム(図4中不図示)が押し付けられる。各吸引口310からの吸引によってカバーフィルムが吸引され、この結果、ワークがローラ本体31に密着する。このため、モータ33を駆動してローラ本体31を回転させると、精度良くワークが送られる。尚、中空容器32は、シャフト34には連結されていないので、静止した状態を保つ。上記説明及び図4から解るように、この例では、中空容器32において各凹部(及び各吸引ポート321)が並んでいる角度範囲が吸着領域であり、上述したように100〜120度の範囲となっている。このような構成をサクションローラ3を使用する場合も、通気性のあるワークを精度良く印刷位置に送ることができ、位置精度の良い印刷が行える。
【0034】
上記各実施形態では、カバーとしてフィルムより成るものを採用したば、一般的には「フィルム」と呼ばないものをカバーとして採用することはあり得る。カバーは、ワークの代わりに吸引力を作用させるものであるから、通気性が無いものであって背後からワークを覆うことができるものであれば、どんなものでも良い。一例を示せば、ワークの搬送方向に長いベルトのようなものをカバーとして採用することもある。この場合、ベルトを無終端のループ状とし、同様に送り機構によってワークに同期して送るようにする場合もある。さらに、「フィルム」とは言っても樹脂製のものに限られないことは勿論である。
【0035】
また、ワークについて「通気性がある」とは、サクションローラのみでは搬送が行えないという意味の「通気性」であって、物理的に完全に空気を遮断する場合以外のすべてを言うという意味ではないことは勿論である。この点は、カバーの「通気性が無い」という点についても同様である。サクションローラにより吸引されてワークWをサクションローラに密着できる程度の「通気性の無さ」であれば足り、物理的に完全に空気を遮断するものに限られる訳ではないことは勿論である。
また、上記各実施形態では、印刷ユニットはスクリーン印刷を行う構成であったが、グラビア印刷等、他の方式の印刷を行う構成であっても良い。印刷の対象物としては、通気性のあるものであれば良く、カーボンペーパー以外のものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明した通り、本願発明は、通気性のあるワークに対して印刷を行うことができるという点で、大きな産業上の利用性がある。
【符号の説明】
【0037】
1 印刷ユニット
21 送り出しローラ
22 巻き取りローラ
3 サクションローラ
31 ローラ本体
310 吸引口
32 中空容器
320 吸引用開口
4 テンションローラ
5 カバーフィルム
6 カバー位置制御機構
61 押し付け機構
7 カバー送り機構
71 駆動ローラ
72 従動ローラ
73 従動ローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性のあるワークをサクションローラにより印刷位置に送る印刷機であって、
サクションローラは、吸引機構につながる吸引口を有しており、
通気性の無いカバーと、
吸引機構により吸引されている吸引口の付近にカバーを位置させ、間にワークが挟み込まれた状態でカバーがサクションローラに吸引されるようにするカバー位置制御機構と、
サクションローラが回転することでワークが送られる際、そのワークの送りに同期させてカバーを送るカバー送り機構と
が設けられていることを特徴とする印刷機。
【請求項2】
前記カバーは、ワークの送り方向に長いフィルムであることを特徴とする請求項1記載の印刷機。
【請求項3】
前記フィルムであるカバーは、無終端のループ状であることを特徴とする請求項1記載の印刷機。
【請求項4】
前記カバー送り機構は、複数のローラにより前記カバーを送るものであり、これらローラのうちの一つは前記カバー位置制御機構に兼用されるものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の印刷機。
【請求項5】
前記カバー位置制御機構は、間に前記ワークが挟み込まれた状態で前記カバーを前記サクションローラに押し付けるものであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の印刷機。
【請求項6】
通気性ワークに対する印刷方法であって、サクションローラにワークを吸着させながらサクションローラを回転駆動することでワークを印刷位置まで搬送するに際して、吸引機構により吸引されている吸引口の付近に通気性の無いカバーを位置させ、間にワークが挟み込まれた状態でカバーがサクションローラに吸引されるようにし、この状態でサクションローラが回転駆動するとともに、回転駆動により送られるワークに同期してカバーを送ることを特徴とする通気性ワークに対する印刷方法。
【請求項7】
燃料電池用カーボンペーパーにガス拡散層を印刷するカーボンペーパーへの印刷方法であって、サクションローラにカーボンペーパーを吸着させながらサクションローラを回転駆動することでカーボンペーパーを印刷位置まで搬送するに際して、吸引機構により吸引されている吸引口の付近に通気性の無いカバーを位置させ、間にカーボンペーパーが挟み込まれた状態でカバーがサクションローラに吸引されるようにし、この状態でサクションローラを回転駆動するとともに、回転駆動により送られるカーボンペーパーに同期してカバーを送ることを特徴とする燃料電池用カーボンペーパーに対する印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−11907(P2011−11907A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160252(P2009−160252)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000111270)ニューロング精密工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】