説明

印刷版材料及び印刷方法

【課題】 印刷版の現像前の取扱いにおいて、異物からの衝撃、取扱いによる傷、擦過に対して、現像不良や白抜け等の印刷故障を起こさず、従来と同等の作業性を有する印刷版材料を提供する。
【解決手段】 機上現像性を有する印刷版材料において、画像形成層側にエラストマー粒子を含有することを特徴とする印刷版材料。前記エラストマー粒子の画像形成層表面からの突出し量が0.1〜10μmであり、かつ画像形成層側にエラストマー粒子とシリカ系粒子を同時に含有することは好ましい。
上記印刷版材料を用いて機上現像後、印刷することを特徴とする印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版材料に関し、詳しくは画像形成層にエラストマー粒子を含有し、コンピューター・トゥ・プレート(CTP)方式であり、機上現像性を有する平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷データのデジタル化に伴い、安価で取扱いが容易で、PS版と同等の印刷適性を有するCTPが求められている。特に近年、特別な薬剤による現像処理が不要であって、ダイレクトイメージング(DI)機能を備えた印刷機に適用可能で、又、PS版と同等の使い勝手を有する汎用タイプのサーマルプロセスレス印刷版への期待が高まっている。
【0003】
近年、印刷版材料は、現像処理が必要ない所謂プロセスレス印刷版が実用化され始めている。例えば特開平7−1849号、同7−164773号、同9−123387号、同10−193823号にプロセスレス印刷版が開示されている。
【0004】
これらプロセスレス印刷版は自動現像処理機を必要とせず、プレートセッターで露光した後、直接、印刷機に設置して印刷することが可能である。しかしながら、この様な印刷版材料は、画像形成層を硬化させるのに十分なエネルギーを与えることが難しく、そのため画像形成層の硬度が弱くなってしまい、衝撃や異物に対して版面が傷付き易くなり、従来、使用されて来たPS版やサーマルプレート等に比べて、取扱い時における傷に対して弱いことが指摘されていた。
【0005】
この点を改善するために、支持体上に、レーザー光を熱に変換する化合物を含有する光熱変換層、及び金属キレート化合物により架橋された親水性ポリマーを含有する親水性層を順次、積層する技術(特許文献1参照)、親水性画像形成層の上に水溶性のセルロース類を含有するオーバーコート層を有する技術(特許文献2参照)、疎水性化前駆体を含有する親水性感熱層及び疎水性オーバーコート層を有する技術(特許文献3参照)等が開示されたが、これらの傷改良方法では未だ十分ではなく、従来の印刷版と同等の作業性、耐傷性には及ばないという問題があった。
【特許文献1】特開2001−92115号公報
【特許文献2】特開2002−19318号公報
【特許文献3】特開2004−237605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、印刷版の現像前の取扱いにおいて、異物からの衝撃、取扱いによる傷、擦過に対して、現像不良や白抜け等の印刷故障を起こさず、従来と同等の作業性を有する印刷版材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記の目的は、以下の構成により達成された。
【0008】
(請求項1)
機上現像性を有する印刷版材料において、画像形成層側にエラストマー粒子を含有することを特徴とする印刷版材料。
【0009】
(請求項2)
前記エラストマー粒子の画像形成層表面からの突出し量が0.1〜10μmであり、かつ画像形成層側にエラストマー粒子とシリカ系粒子を同時に含有することを特徴とする請求項1記載の印刷版材料。
【0010】
(請求項3)
請求項1又は2記載の印刷版材料を用いて機上現像後、印刷することを特徴とする印刷方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の印刷版材料を使用することにより、従来より生産性が向上し、又、従来のPS版等の印刷版と何ら変わることなく取扱いができ、異物からの衝撃、取扱いによる傷、擦過に対して、現像不良や白抜け等の印刷故障が発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明する。
【0013】
本発明の印刷版材料は、片面に粗面化処理を施したアルミニウム基材、又はポリエステル樹脂上に画像形成層、親水性層、必要に応じて下層を塗設し、印刷機上で現像できる印刷版材料である。印刷機上現像については後に詳述するが、通常のオフセット印刷機に露光済みの印刷版材料を取り付けて印刷を行った際、版面に与えられた湿し水と印刷インキの作用により印刷版材料の未露光領域の画像形成層が印刷の初期に選択的に除去されることを意味する。
【0014】
(アルミニウム基材)
基材(支持体)としては、印刷版の基板として使用される公知のアルミニウム材料を使用することができる。基材の厚さとしては、印刷機に取付け可能であれば特に制限されないが、50〜500μmのものが一般的に取り扱い易い。
【0015】
アルミニウム板は、通常、その表面に存在する圧延・巻取り時に使用されたオイルを除去するために、アルカリ、酸、溶剤等で脱脂した後に使用される。脱脂処理としては特にアルカリ水溶液による脱脂が好ましい。アルミニウム板は表面を粗面化したものを用いるのが普通である。アルミニウム板表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。
【0016】
機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。又、電気化学的粗面化法としては、塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。又、特開昭54−63902号に開示されるように両者を組み合わせた方法も利用することができる。この様に粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、燐酸、蓚酸、クロム酸あるいはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0017】
陽極酸化の処理条件は、用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが、一般的には電解質の濃度が1〜80質量%溶液、液温は5〜70℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲が適当である。陽極酸化皮膜の量は1〜10g/m2が好ましい。1.0g/m2より少ないと耐刷性が不十分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着する所謂「傷汚れ」が生じ易くなる。
【0018】
このような粗面化処理を行うことにより、アルミニウム基材と親水性層の接着性が向上し、耐刷性を上げることが出来る。
【0019】
又、裏面の滑り性を制御する(例えば版胴表面との摩擦係数を低減させる)目的で、バックコート層を設けた基材も好ましく使用することができる。
【0020】
(ポリエステル基材)
好ましい印刷版材料用支持体を構成する2軸延伸ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)等である。中でも、より好ましいポリエステルはPET及びPENであり、特に好ましくはPETである。ここで言う構成する物とは、共重合体及びポリマーブレンド物であってもよく、全体に占める構成要素の質量比率が50質量%以上のものを指す。
【0021】
PETはテレフタル酸とエチレングリコール、PENはナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールから構成されるが、これらを触媒の存在下で適当な反応条件下で結合させることによって重合できる。この時、適当な1種又は2種以上の第3成分を混合してもよい。適当な第3成分としては、2価のエステル形成官能基を有する化合物であればよく、例えばジカルボン酸の例として次のようなものが挙げられる。
【0022】
イソフタル酸、フタル酸、2,6−(又は2,7−)ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルチオエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸など。
【0023】
又、グリコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールフルオレンジヒドロキシエチルエーテル、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、シクロヘキサンジオール等を挙げることができる。
【0024】
PET樹脂及びフィルムの固有粘度は0.5〜0.8であることが好ましい。又、固有粘度の異なるものを混合して使用してもよい。
【0025】
基材としてのPETの合成方法は特に限定があるわけではなく、従来公知のPETの製造方法に従って製造できる。例えば、ジカルボン酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させる直接エステル化法、初めにジカルボン酸成分としてジアルキルエステルを用いて、これとジオール成分とでエステル交換反応させ、これを減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去することにより重合させるエステル交換法などを用いることができる。この際、必要に応じてエステル交換触媒あるいは重合反応触媒を用い、又、耐熱安定剤を添加することができる。熱安定剤としては、例えば燐酸、亜燐酸、及びそれらのエステル化合物が挙げられる。又、合成時の各過程で、着色防止剤、結晶核剤、滑り剤、安定剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、粘度調節剤、透明化剤、帯電防止剤、pH調整剤、染料、顔料などを添加してもよい。
【0026】
本発明の印刷版材料用支持体の厚みは特に限定されないが、扱い易さの点から100〜250μm、特に150〜200μmであることが好ましい。
【0027】
(画像形成層)
画像形成層は、像様露光されることで、露光部が親油性の画像部、未露光部が除去されて親水性の非画像部となる。画像形成層には熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子として、以下のような素材を含有させることができる。
【0028】
熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。物性としては、軟化点40〜120℃、融点60〜150℃であることが好ましく、軟化点40〜100℃、融点60〜120℃であることが更に好ましい。融点が60℃未満では保存性が問題であり、融点が300℃よりも高い場合はインク着肉感度が低下する。
【0029】
使用可能な素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800〜10,000程度のものである。又、乳化し易くするために、これらのワックスを酸化し、ヒドロキシル基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり、作業性を向上させるために、これらのワックスにステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、椰子脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミド等を添加することも可能である。又、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体なども使用できる。
【0030】
これらの中でもポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は、融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、潤滑性も有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦傷等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0031】
又、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.1μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりし易くなり、機上現像が不十分になって地汚れの懸念が生じる。又、平均粒径が10μmよりも大きい場合には解像度が低下する。
【0032】
熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化したり、もしくは異なる素材で被覆されてもよい。被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾル−ゲル法等が使用できる。熱溶融性微粒子の含有量としては、画像形成層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%が更に好ましい。
【0033】
熱融着性微粒子としては熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられる。熱可塑性疎水性高分子重合体粒子の軟化温度に特定の上限はないが、該高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。高分子重合体の重量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。
【0034】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えばポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類;スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類;ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体;酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらの内、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0035】
高分子重合体微粒子は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の何れの方法で重合された高分子重合体から成るものでもよい。溶液重合法又は気相重合法で重合された高分子重合体を微粒子化する方法としては、高分子重合体の有機溶媒に溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子重合体を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、この溶液を水又は水性媒体に分散、有機溶媒を溜去して微粒子化する方法等が挙げられる。又、何れの方法においても、必要に応じ、重合あるいは微粒子化の際に、分散剤、安定剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。
【0036】
又、熱可塑性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりし易くなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。又、熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0037】
熱可塑性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化したり、もしくは異なる素材で被覆されてもよい。被覆方法は、公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0038】
熱可塑性微粒子の含有量としては、画像形成層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%が更に好ましい。
【0039】
熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する本発明の画像形成層には、更に水溶性素材を含有することができる。水溶性素材を含有することにより、印刷機上で湿し水やインクを用いて未露光部の画像形成機能層を除去する際に、その除去性を向上させることができる。
【0040】
水溶性素材としては、後出の親水性層に含有可能な素材として挙げる水溶性樹脂を用いることもできるが、本発明の画像形成層には糖類を用いることが好ましく、特にオリゴ糖を用いることが好ましい。
【0041】
オリゴ糖は水に速やかに溶解するため、印刷装置上での未露光部の画像形成機能層の除去も非常に速やかとなり、特別な除去操作を意識することなく、通常のPS版の刷出し操作と同様の操作で刷り出すことで除去可能であり、刷出し損紙が増加することもない。又、オリゴ糖は親水性層の親水性を低下させる懸念もなく、親水性層の良好な印刷適性を維持することができる。
【0042】
オリゴ糖は、水に可溶の一般に甘みを有する結晶性物質で、数個の単糖がグリコシド結合によって脱水縮合したものである。オリゴ糖は、糖をアグリコンとする一種のo−グリコシドであるから、酸で容易に加水分解されて単糖を生じ、生成する単糖の分子数によって二糖、三糖、四糖、五糖などに分類される。本発明におけるオリゴ糖とは、二〜十糖までのものを言う。これらのオリゴ糖は、還元基の有無によって、還元性オリゴ糖と非還元性オリゴ糖とに大別され、又、単一の単糖から構成されているホモオリゴ糖と、2種類以上の単糖から構成されているヘテロオリゴ糖にも分類される。
【0043】
オリゴ糖は、遊離状又は配糖類として天然に存在し、又、多糖の酸又は酵素による部分加水分解によっても得られる。この他、酵素によるグリコシル転移によっても種々のオリゴ糖が生成する。オリゴ糖は、通常雰囲気中では水和物として存在することが多い。又、水和物と無水物とでは融点が異なる。
【0044】
本発明では、糖類を含有する層を水溶液で塗布形成することが好ましいため、水溶液から形成された場合は、層中に存在するオリゴ糖が水和物を形成するオリゴ糖である場合は、その融点は水和物の融点であると考えられる。このように、比較的低融点を有しているため、熱溶融微粒子が溶融する温度範囲や熱融着微粒子が融着する温度範囲でオリゴ糖も溶融し、熱溶融微粒子の多孔質親水性層への溶融浸透や熱融着微粒子の融着といった画像形成を妨げることがない。
【0045】
オリゴ糖の中でも、トレハロースは、比較的純度の高い状態のものが工業的に安価に入手可能可能であり、水への溶解度が高いにも拘わらず、吸湿性は非常に低く、機上現像性及び保存性共に非常に良好である。
【0046】
又、オリゴ糖水和物を熱溶融させて水和水を除去した後に凝固させると(凝固後、短時間の内は)無水物の結晶となるが、トレハロースは水和物よりも無水物の融点が100℃以上も高いことが特徴的である。これは、赤外線露光で熱溶融し、再凝固した直後は露光済部は高融点で溶融し難い状態となることを意味し、バンディング等の露光時の画像欠陥を起こし難くする効果がある。本発明の目的を達成するには、オリゴ糖の中でも特にトレハロースが好ましい。
【0047】
オリゴ糖の含有量としては、画像形成層全体の1〜90質量%が好ましく、10〜80質量%が更に好ましい。
【0048】
(親水性層)
本発明の親水性層とは、多孔質な表面を有し親水性が高く、印刷時にインキを着肉させない目的で(非画像部となる)、画像形成層の下に接して設けられる層を言う。親水性層に用いられる素材は下記のような物が挙げられる。
【0049】
親水性マトリックスを形成する素材としては金属酸化物が好ましく、更に好ましくは金属酸化物微粒子を含むことが好ましい。例えばコロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられ、金属酸化物の形態としては、球状、羽毛状、その他の何れの形態でもよく、平均粒径としては3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。又、粒子表面に表面処理が為されてもよい。
【0050】
上記金属酸化物粒子は、その造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0051】
本発明には、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは、比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、良好な強度を得ることが出来る。
【0052】
上記コロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、更に、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0053】
ネックレス状コロイダルシリカとは、1次粒子径がnmのオーダーである球形シリカの水分散系の総称である。本発明におけるネックレス状コロイダルシリカとは、1次粒子径が10〜50nmの球形コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが真珠ネックレスのような形状をしていることを意味する。
【0054】
ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。
【0055】
ネックレス状のコロイダルシリカとしては、具体的には日産化学工業社性の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられる。製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子系は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらに、それぞれ対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」及び「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0056】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、親水性層マトリックスの多孔質化材として好ましく使用できる。このなかでもアルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックス−PS−M」及び「スノーテックス−PS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、又、印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0057】
又、コロイダルシリカは、粒子系が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明には平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、3〜15nmであることが更に好ましい。又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが地汚れ発生を抑制する効果が高いため、アルカリ性のコロイダルシリカを使用することが特に好ましい。平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとして、日産化学社製の「スノーテックス20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(同10〜20nm)」、「スノーテックス−40(同10〜20nm)」、「スノーテックス−N(同10〜20nm)」、「スノーテックス−S(同8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(同4〜6nm)」が挙げられる。
【0058】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは、前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、層の多孔質性を維持しながら強度を更に向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0059】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95が好ましく、70/30〜20/80がより好ましく、60/40〜30/70が更に好ましい。
【0060】
親水性層マトリックスの多孔質化材として粒径が1μm未満の多孔質金属酸化物粒子を含有することが出来る。多孔質金属酸化物粒子としては、後述する多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子もしくはゼオライト粒子を好ましく用いることが出来る。
【0061】
多孔質シリカ粒子は、一般に湿式法又は乾式法により製造される。湿式法では珪酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることが出来る。乾式法では四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。
【0062】
多孔質アルミノシリケート粒子は、例えば特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。即ちアルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。又、製造時にその他の金属アルコキシドを添加して3成分系以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も、製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0063】
粒子の多孔性としては、細孔容積で0.5ml/g以上であることが好ましく、0.8ml/g以上であることがより好ましく、1.0〜2.5ml/gであることが更に好ましい。細孔容積は塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れ難く、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため、塗膜の耐久性が低下する。細孔容積が0.5ml/g未満の場合には、印刷性能がやや不十分となる場合がある。
【0064】
多孔質化材としてはゼオライトも使用できる。ゼオライトは結晶性のアルミノ珪酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然及び合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0065】
(M1、M21/2m(AlmSinO2(m+n))・xH2
ここで、M1、M2は交換性のカチオンであって、M1はLi+、Na+、K+、Tl+、Me4+(TMA)、Et4+(TEA)、Pr4+(TPA)、C7152+、C816+等であり、M2はCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、C81822+等である。又、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、従って親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、更に好ましくは0.8〜1.0である。xは整数を表す。
【0066】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、又、粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、例えばゼオライトA:Na12(Al12Si1248)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。
【0067】
Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで親水性層自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れ難く、水量ラチチュードも広くなる。又、指紋跡の汚れも大きく改善される。Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。
【0068】
又、印刷版材料の親水性層マトリクスは層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリ珪酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。中でも、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成弗素雲母は、粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。又、合成弗素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0069】
又、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0070】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が1μm未満であり、平均アスペクト比が50以上であることが好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入り難く乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。又、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記値より大きくなると、塗膜に不均一性が生じて、局所的に強度が弱くなる場合がある。又、アスペクト比が上記の値より小さい場合、添加量に対する平板状の粒子数が少なくなり,増粘性が不充分となり、粒子物の沈降を抑制する効果が低減する。
【0071】
層状鉱物粒子の含有量としては、親水性層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成弗素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを作製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0072】
親水性層マトリクスには、その他の添加素材として珪酸塩水溶液も使用することができる。珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムといったアルカリ金属珪酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率は珪酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0073】
又、金属アルコキシドを用いた、所謂ゾル−ゲル法による無機ポリマー又は有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマー又は有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著:アグネ承風社発行)に記載されるか、又は本書に引用される文献に記載される公知の方法を使用することができる。
【0074】
又,水溶性樹脂を含有してもよい。水溶性樹脂としては、多糖類、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン(PVP)等の樹脂が挙げられるが、本発明に用いられる水溶性樹脂としては、多糖類を用いることが好ましい。
【0075】
多糖類としては、澱粉類、セルロース類、ポリウロン酸、プルラン等が使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0076】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜20μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。
【0077】
このような凹凸構造は、親水性層マトリクスに適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布・乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することが、より良好な印刷適性を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0078】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さ等)はアルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加剤の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0079】
本発明で親水性マトリクスに添加される水溶性樹脂は、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが好ましい。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し、水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷適性を劣化させる懸念があるためである。
【0080】
又、更にカチオン性樹脂を含有してもよく、カチオン性樹脂としては、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加してもよい。これは、例えば特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0081】
又、親水性層の塗布液には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができる。珪素系、又は弗素系等の界面活性剤を使用することができるが、特に珪素元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0082】
又、本発明の親水性層は燐酸塩を含むことができる。本発明では親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、燐酸塩としては燐酸3ナトリウムや燐酸水素2ナトリウムとして添加することが好ましい。燐酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。燐酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0083】
又、後述する光熱変換剤を含有することもできる。光熱変換剤としては、粒子状素材の場合は粒径が1μm未満であることが好ましい。
【0084】
本発明では、粒径が1μm以上の無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子を含有することが好ましい。多孔質、無孔質、有機樹脂粒子、無機微粒子を問わず用いてよく、無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、カーボンブラック、グラファイト、TiO2、BaSO4、ZnS、MgCO3、CaCO3、ZnO、CaO、WS2、MoS2、MgO、SnO2、Al23、α−Fe23、α−FeOOH、SiC、CeO2、BN、SiN、MoC、BC、WC、チタンカーバイド、コランダム、人造ダイアモンド、石榴石、ガーネット、珪石、トリボリ、珪藻土、ドロマイト等、有機フィラーとしては、ポリエチレン微粒子、弗素樹脂粒子、グアナミン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、シリコン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等を挙げることが出来る。又、無機素材被覆フィラーとしては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリスチレン、メラミンといった有機粒子の芯剤を芯剤粒子よりも粒径の小さな無機粒子で被覆した粒子が挙げられる。無機粒子の粒径としては芯材粒子の1/10〜1/100程度であることが好ましい。又,無機粒子としては、同様にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなど公知の金属酸化物粒子を用いることができる。被覆方法としては、種々の公知の方法を用いることができるが、ハイブリダイザのような空気中で芯材粒子と被覆材粒子とを高速に衝突させて芯材粒子表面に被覆材粒子を食い込ませて固定、被覆する乾式の被覆方法を好ましく用いることができる。
【0085】
又、有機粒子の芯材を金属メッキした粒子も用いることができる。このような粒子としては、例えば、樹脂粒子に金メッキを施した積水化学工業社製の「ミクロパールAU」等が挙げられる。
【0086】
本発明の範囲を満たすフィラーであれば特に制限なく効果が発揮できるが、特に塗布液中での沈降を抑制するためには多孔質シリカ粒子、多孔質アルミノシリケート粒子等の多孔質無機フィラー、多孔質無機被服フィラーを用いるのがよい。
【0087】
粒径は1〜15μmが好ましく、1.5〜8μmがより好ましく、2〜6μmが更に好ましい。粒径が15μmを超えると、画像形成の解像度の低下や、ブランケット汚れの劣化が生じる懸念がある。粒径が1μm以上の粒子の添加量としては、親水性層全体の1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。
【0088】
親水性層全体としては、有機樹脂やカーボンブラック等の炭素を含有する素材の含有比率が低いことが親水性を向上させるために好ましく、これらの素材の合計が9質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。
【0089】
(下層)
本発明の形態として下層を設けてもよい。下層とは親水性層を補完する層を言い、親水性層より塗膜強度が強く、マット剤を含有・保持する。画像形成層、親水性層を支え、耐刷性を向上する目的で設けられる。基本的には、画像形成層の他には親水性層が1層あればよいが、より安定した印刷品質を具給する場合、親水性と塗膜強度を、それぞれ別の層で機能分離した方が、効果がより大きくなる。
【0090】
下層に用いる素材としては、親水性層と同様の素材を用いることができる。ただし、下層は多孔質であることの利点が少なく、又、より無孔質である方が塗膜強度が向上するといった理由から、親水性マトリクスの多孔質化材の含有量は親水性層よりも少ないことが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0091】
粒径が1μm以上の粒子を含有する場合、粒子の添加量としては、下層全体の1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。
【0092】
下層全体としても、親水性層と同様に、有機樹脂やカーボンブラック等の炭素を含有する素材の含有比率が低いことが親水性を向上させるために好ましく、これらの素材の合計が9質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。
【0093】
(エラストマー粒子)
本発明は、親水性層又は下層にエラストマー粒子を含有することを特徴とする。本発明で言うエラストマーとは、室温でゴム弾性を示す高分子物質を指す。加硫ゴム、シリコンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム類、更にスチレン系、オレフィン系、PVC系、ポリエステル系、ウレタン系、アミド系、ニトリル系などの熱可塑性樹脂類が挙げられる。又、エラストマーを核とし、他の樹脂を殻としたコア/シェル構造、又はその逆のコア/シェル構造を有してもよい。
【0094】
形状としては球形、不定形どちらでもよいが、単粒径又はシャープな粒度を持つことが好ましい。エラストマー粒子の平均粒径としては0.5〜15μmが好ましく、より好ましくは1〜12μmである。エラストマー粒子の含有量としては、親水性層又は下層の固形分に対し3〜25質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。この素材を含有させることにより、印刷版の現像前の取扱いに際し、異物からの衝撃、取扱いによる傷、擦過に対して、現像不良や白抜け等の印刷故障を起こさず、従来と同等の作業性を有する印刷版材料が提供できる。
【0095】
エラストマー粒子としては、上記素材を使用できるが、市販品として、例えば信越シリコーン社製のシリコーンパウダー(KMPシリーズ)や三菱レイヨン社製のメタブレンシリーズ等がある。
【0096】
(光熱変換剤)
印刷版材料の親水性層、下層及び画像形成層は、以下のような光熱変換剤を含有することで高感度を実現する。
【0097】
この例においては、親水性層に下記金属酸化物を光熱変換剤として添加することができる。即ち、可視光域で黒色を呈している素材、又は素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材を使用することができる。
【0098】
前者としては、黒色酸化鉄(Fe34)や、後述の2種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。
【0099】
後者とては、例えばSbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn23(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)等が挙げられる。又、これら金属酸化物で芯材(BaSO4、TiO2、9Al23・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。
【0100】
これら光熱変換素材の内、2種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられる。具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる2種以上の金属から成る複合金属酸化物である。これらは、特開平8−27393号、同9−25126号、同9−237570号、同9−241529号、同10−231441号等に開示される方法により製造することができる。用いる複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系又はCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物であることが好ましい。Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−273393号に開示される処理を施すことが好ましい。
【0101】
これらの複合金属酸化物は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。複合金属酸化物は、平均1次粒子径が1μm以下であることが好ましく、0.01〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。平均1次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均1次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。従って、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておくことが好ましい。平均1次粒子径が0.01未満になると分散が困難となるため、好ましくない。分散には、適宜、分散剤を使用することができる。分散剤の添加量は、複合金属酸化物粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0102】
複合金属酸化物の添加量としては、親水性層全固形分に対して20%以上、40%未満であり25%以上、39%未満がより好ましく、更に好ましくは25%以上30%未満の範囲である。添加量が20%未満であると十分な感度が出ず、又、40%以上であると素材として添加することができる。
【0103】
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、同64−33547号、特開平1−160683号、同1−280750号、同1−293342号、同2−2074号、同3−26593号、同3−30991号、同3−34891号、同3−36093号、同3−36094号、同3−36095号、同3−42281号、同3−97589号、同3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0104】
これらの赤外吸収染料の添加量としては、画像形成層全固形分に対して0.1%以上10%未満であり、0.3%以上7%未満がより好ましく、更に好ましくは0.5%以上6%未満の範囲である。添加量がこれを逸脱すると、上記同様に添加量が0.1%未満であると、十分な感度がでず、又10%以上であると、アブレートによるアブレーションカスが発生する。
【0105】
(画像形成)
本発明の印刷版材料の画像形成の一態様として熱により行うことができるが、特に赤外線レーザーによる露光によって画像形成を行うことが好ましい。より具体的には、赤外及び/又は近赤外領域、即ち700〜1,500nmの波長範囲で発光するレーザーを使用した走査露光が好ましい。レーザーとしては、ガスレーザーを用いてもよいが、近赤外領域で発光する半導体レーザーを使用することが特に好ましい。
【0106】
走査露光に好適な装置としては、該半導体レーザーを用いてコンピュータからの画像信号に応じて印刷版材料表面に画像を形成可能な装置であれば、どのような方式の装置でもよい。一般的には、
(1)平板状保持機構に保持された印刷版材料に1本もしくは複数本のレーザービームを用いて2次元的な走査を行って印刷版材料全面を露光する方式、
(2)固定された円筒状の保持機構の内側に、円筒面に沿って保持された印刷版材料に、円筒内部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いて円筒の周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式、
(3)回転体としての軸を中心に回転する円筒状ドラム表面に保持された印刷版材料に、円筒外部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いてドラムの回転によって周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式、が挙げられる。
【0107】
本発明においては、特に(3)の走査露光方式が好ましく、特に印刷装置上で露光を行う装置においては、(3)の露光方式が用いられる。
【0108】
(機上現像方法及び印刷方法)
本発明の好ましい態様である赤外線レーザー露光により、印刷版材料の画像形成層は、露光部が親油性の画像部となり、未露光部が除去されて親水性の非画像部となる。未露光部の除去は、水洗によっても可能であるが、印刷機上で湿し水及び又はインキを用いて除去する、いわゆる機上現像することが好ましい。
【0109】
印刷機上での画像形成層の未露光部の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインキローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくは、それ以外の種々のシークェンスによって行うことができる。又、その際には、印刷時に必要な湿し水水量に対して、水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは、無段階に変化させて行ってもよい。
(1)印刷開始のシークェンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1〜数十回転させ、次いでインキローラーを接触させて版胴を1〜数十回転させ、次いで印刷を開始する。
(2)印刷開始のシークェンスとして、インキローラーを接触させて版胴を1〜数十回転させ、次いで水付けローラーを接触させて版胴を1〜数十回転させ、次いで印刷を開始する。
(3)印刷開始のシークェンスとして、水付けローラーとインキローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1〜数十回転させ、次いで印刷を開始する。
【実施例】
【0110】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断りのない限り、実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0111】
〈ポリエステル支持体の作製〉
テレフタル酸とエチレングリコールを用い、常法に従いIV(固有粘度)=0.66(フェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)中、25℃で測定)のポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。
【0112】
これをペレット化した後130℃で4時間乾燥し、300℃で溶融後、T型ダイから押し出し、50℃の冷却ドラム上で急冷し、熱固定後の平均膜厚が175μmになるような厚みの未延伸フィルムを作製した。
【0113】
これを、前段延伸が102℃で1.3倍に、後段延伸が110℃で2.6倍に縦延伸した。次いで、テンターで120℃で4.5倍に横延伸した。この後、240℃で20秒間熱固定後、これと同じ温度で横方向に4%緩和した。
【0114】
この後、テンターのチャック部をスリットした後、両端にナーリング加工を行い、40℃に冷却後47.1N/mで巻き取った。このようにして厚さ190μmの二軸延伸PETフィルムを得た。このPETフィルムのガラス転移温度(Tg)は79℃であった。得られたPETフィルムの幅(製膜幅)は2.5mである。
【0115】
〈下引き済み支持体の作製〉
上記で得られたPETフィルムの両面に、8W/m2/minのコロナ放電処理を施し、次いで一方の面に、下記組成の下引き塗布液aをwet膜厚10μmになるように塗設した後、180℃で4分間乾燥した。次いで、その上にコロナ放電処理(8W/m2/min)を行いながら、下記組成の下引き塗布液bをwet膜厚11μmになるように塗布し、180℃で4分間乾燥した(下引き面A)。又、反対側の面に、下記組成の下引き塗布液cをwet膜厚8μmになるように塗設後、180℃で4分間乾燥し、次いで、その上にコロナ放電処理(8W/m2/min)を行いながら、下記組成の下引き塗布液dをwet膜厚5μmになるように塗布し、180℃で4分間乾燥した(下引き面B)。このようにして下引き済み支持体を得た。
(下引き塗布液a)
スチレン/グリシジルメタクリレート/ブチルアクリレート=60/39/1の3元系共重合ラテックス(固形分30%,Tg=75℃) 21.00部
スチレン/グリシジルメタクリレート/ブチルアクリレート=20/40/40の3元系共重合ラテックス(固形分30%,Tg=75℃) 5.60部
アニオン系界面活性剤 S−1 0.6部
純水 73.00部
(下引き塗布液b)
ポリビニルアルコール(固形分5%,平均分子量1700) 5.76部
水溶性コポリエステル/アクリル成分=64/36のアクリル変性ポリエステル(固形分21.7%) 3.10部
アニオン系界面活性剤 S−1 0.011部
マット剤(シリカ平均粒径0.5μ) 0.004部
硬膜剤 H−2 0.058部
純水 91.06部
(下引き塗布液c)
酸化錫ゾル(固形分8.3%) 10.95部
ブチルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=40/20/40の3元系共重合ラテックス(固形分30%) 1.51部
ブチルアクリレート/t−ブチルアクリレート/スチレン/ヒドロキシメチルメタアクリレート=10/35/27/28の4元系共重合ラテックス(固形分30%)
0.38部
アニオン系界面活性剤 S−1 0.05部
純水 87.11部
(下引き塗布液d)
水溶性コポリエステル/アクリル成分=80/20のアクリル変性ポリエステル(固形分17.8%) 14.34部
アニオン系界面活性剤 S−1 0.11部
マット剤(シリカ,平均粒径0.5μm) 0.20部
純水 85.35部
【0116】
【化1】

【0117】
〈バックコート層塗布液の調製〉
下記組成をホモジナイザを用いて十分に攪拌・混合した後、濾過してバックコト層塗布液を作製した。
【0118】
コロイダルシリカ(スノーテックス−XS:日産化学社製,固形分20%)
33.60部
アクリルエマルジョン(DK−05:岐阜セラック社製,固形分48%)
14.00部
マット剤(PMMA,平均粒径5.5μm) 0.56部
純水 51.84部
「固形分濃度:14%」
〈バックコート層の塗布〉
上記バックコート層塗布液を、前記下引き済み支持体の下引き面B側に8W/m2/minのコロナ放電処理を施した後に、ワイヤーバー#6を用いて塗布し、15mの長さの100℃に設定された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させた。バックコート層の付量は2.0g/m2であった。
【0119】
〈親水性層塗布液の調製〉
下記組成をホモジナイザーを用いて十分に攪拌・混合した後、濾過して親水性層塗布液を作製した。
【0120】
アルカリ系コロイダルシリカ(スノーッテックス−XS:日産化学社製,固形分20%) 51.94部
多孔質金属酸化物(シルトンJC−40:水沢化学社製,多孔質アルミノシリケート粒子,平均粒径4μm) 2.22部
層状粘土鉱物モンモリロナイト(ミネラルコロイドMO:Southerm Clay Products社製,平均粒径0.1μm)をホモジナイザで強攪拌して5%の水膨潤ゲルとしたもの 4.44部
Cu−Fe−Mn系金属酸化物黒色顔料(TM−3550ブラック粉体:大日精化工業社製,粒径0.1μm程度)の固形分40%(内0.2%は分散材)水分散物
10.00部
カルボキシメチルセルロースナトリウム(関東化学社製試薬)の4%水溶液
2.80部
燐酸三ナトリウム・12水和物(関東化学社製)の10%水溶液 0.56部
純水 25.04部
「固形分濃度:20%」
〈下層塗布液の調製〉
下記組成をホモジナイザを用いて十分に攪拌・混合した後、濾過して下層塗布液A−1を作製した。
(A−1)
アルカリ系コロイダルシリカ(スノーテックス−S:日産化学社製,固形分30%)
5.2部
アルカリ系ネックレス状コロイダルシリカ(スノーテックス−PSM:日産化学社製,固形分20%) 11.7部
アルカリ系コロイダルシリカ(MP−4540:日産化学社製,平均粒径0.4μm,固形分30%) 4.5部
多孔質金属酸化物粒子(シルトンJC−20:水澤化学社製,多孔質アルミノシリケート粒子,平均粒径2μm) 1.2部
多孔質金属酸化物粒子(シルトンAMT08:水澤化学社製,多孔質アルミノシリケート粒子,平均粒径0.6μm) 3.6部
表面シリカ被覆粒子(STM−6500S:日産化学社製,平均粒径6.5μm)
10.00部
層状鉱物粒子 モンモリロナイト(ミネラルコロイドMO:Southern Clay Products社製,平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5%の水膨潤ゲルとしたもの 4.8部
Cu−Fe−Mn系金属酸化物黒色顔料(TM−3550ブラック粉体:大日精化工業社製,粒径0.1μm程度)の固形分40%(内0.2%は分散剤)水分散物
2.7部
カルボキシメチルセルロースナトリウム(関東化学社製試薬)の4%水溶液
3.0部
燐酸三ナトリウム・12水(関東化学社製試薬)の10%水溶液 0.6部
純水 62.7部
「固形分濃度:12%」
以下の下層塗布液も調製した。
(A−2)
下層塗布液A−1に、KMP−597(信越シリコーン社製,シリコーンゴムパウダー,平均粒径5μm)を10%添加した以外はA−1と同一とした。
(A−3)
下層塗布液A−1に、KMP−600(信越シリコーン社製,シリコーン複合パウダー,平均粒径5μm)を10%添加した以外はA−1と同一とした。
(A−4)
下層塗布液A−1に、KMP−602(信越シリコーン社製,シリコーン複合パウダー,平均粒径30μm)を10%添加した以外はA−1と同一とした。
(A−5)
下層塗布液A−1から、表面シリカ被覆粒子STM−6500S(日産化学社製,平均粒径6.5μm)を除いた以外はA−1と同一とした。
【0121】
〈下層、親水性層の塗布〉
それぞれの下層塗布液(A−1〜A−5)を、上記バックコート層を塗布済みの支持体の反対面(下引き塗布面A)にワイヤーバー#5を用いて塗布し、15mの長さの100℃に設定された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させた。引き続き、上層となる親水性層塗布液をワイヤーバー#3を用いて塗布し、30mの長さの100℃に設定された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させた。下層、親水性層それぞれの付量は3.0g/m2、0.55g/m2であった。塗布後の試料は60℃で1日間のエイジングを行った。
【0122】
〈印刷版材料の作製〉
下記組成の画像形成層を、上記で作製した親水性層の上にワイヤーバー#4を用いて塗布し、30mの長さの70℃に設定された乾燥ゾーンを搬送スピード15m/分の速度で通過させ、画像形成層を形成した。画像形成層の付量は0.5g/m2であった。塗布後の印刷版材料は50℃で2日間のエイジングを行った。
【0123】
カルナバワックスエマルジョン(A118:岐阜セラック社製,平均粒子径0.4μm,融点80℃,固形分40%) 13.88部
マイクロクリスタリンワックスエマルジョン(A206:岐阜セラック社製,平均粒子径0.5μm,固形分40%) 8.75部
二糖類トレハロース(林原商事社製商品名トレハ,融点97℃)の20%水溶液
2.00部
ポリアクリル酸ナトリウム(アクアリックDL522:日本触媒社製)の10%水溶液
25.00部
i−プロピルアルコール 1.50部
純水 48.88部
「固形分濃度:10%」
得られた印刷版材料を660mm幅に断裁し、外径76mmの紙コアに30m巻回し、ロール状平版印刷版材料を得た。
【0124】
《突出し量測定》
電子顕微鏡(日立製作所社製走査型電子顕微鏡,S−600)を用いて、10,000倍で撮影した断面写真から測定を行った。10箇所を測定し、平均値を突出し量とした。
【0125】
〈画像形成〉
各印刷版材料を露光ドラムに巻き付け固定した。露光には波長830nm、スポット径が約20μmのレーザービームものを用い、露光エネルギーを250mJ/cm2として、2400dpi(dpiは1インチ=2.54cm当たりのドット数)、175線で画像を形成した。露光した画像は印刷版材料全面を50%の網点画像としたものである。
【0126】
〈印刷〉
以下に示す条件で印刷を行った。印刷版材料は露光後そのままの状態で版胴に取り付け、PS版と同じ刷り出しシークェンスを用いて印刷した。
【0127】
印刷機:三菱重工工業社製DAIYA F−1
印刷用紙:OKトップコート
印刷速度:6,000枚/時
湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製)2%
インキ:東洋インキ社製TKハイユニティ紅
〈各特性の評価〉
《異物耐性》
作製した印刷版を前述の画像形成方法で印刷版全面を50%網点で露光する。次に前述の印刷方法の条件で印刷を開始し、50枚ほど印刷した時点で一旦停止する。印刷機のブランケットにインキが付いた状態で、ゴミや異物の代用として表1に示す通りに、5mmほどに切った太さの違うナイロン製の釣り糸(74,104,117,148,235μm)をブランケットに貼り付けていく。その後、印刷を開始し、そのまま1,000枚印刷した後、停止し、ブランケットと印刷版の版面の洗浄を実施する。そして再度印刷を行い、50枚目をサンプリングして印刷物へのダメージの度合いを評価する。
148μmまで傷の出なかったものを合格とした。
【0128】
《スクラッチ耐性》
スクラッチ強度試験装置(新東科学社製:HEIDON−18)と、0.1mmφのサファイア針を用いて、印刷版の非画線部に50〜300gまで50gずつ荷重を変化させて傷を入れ、その後に印刷を行い、印刷物の傷の状態を観察した。200gでも傷の見えないものを合格とした。
【0129】
結果を表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
表1より、本発明の印刷版材料は、印刷版の現像前の取扱いにおいて、異物からの衝撃、取扱いによる傷などに対して、現像不良や白抜け等の印刷故障を起こさず、従来と同等の作業性を有していることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機上現像性を有する印刷版材料において、画像形成層側にエラストマー粒子を含有することを特徴とする印刷版材料。
【請求項2】
前記エラストマー粒子の画像形成層表面からの突出し量が0.1〜10μmであり、かつ画像形成層側にエラストマー粒子とシリカ系粒子を同時に含有することを特徴とする請求項1記載の印刷版材料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の印刷版材料を用いて機上現像後、印刷することを特徴とする印刷方法。

【公開番号】特開2007−15242(P2007−15242A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199862(P2005−199862)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】