説明

印刷用めっき触媒の製造方法

【課題】ハロゲン化パラジウムを容易に水に溶解できるようにして、還元時の収率を大幅に向上させ、金属パラジウム触媒を効率よく生産する。
【解決手段】印刷用めっき触媒の製造方法は、ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を調製する工程を有し、前記水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する印刷用めっき触媒の製造方法であって、前記水溶液が無機アニオンを含有することを特徴とする。無機アニオンの含有量は前記ハロゲン化パラジウム1質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下であることが好ましい。無機アニオンはハロゲンイオン又はロダンイオンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する印刷用めっき触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の電気設備や電子応用設備の利用の増加に伴い、電磁波障害(Electro−Magnetic Interference:EMI)が急増している。EMIは電子・電気機器の誤動作や障害の原因になるほか、これらの装置のオペレータに健康障害を与えることも指摘されている。このため、電子・電気機器では、電磁波放出の強さを規格又は規制内に抑えることが要求されている。
【0003】
上記EMIの対策には、電磁波をシールドする必要があるが、それには金属の電磁波を貫通させない性質を利用すればよい。例えば、筐体を金属体又は高導電体にする方法や回路基板と回路基板との間に金属板を挿入する方法、ケーブルを金属箔で覆う方法等が採用されている。しかし、CRT(Cathode Ray Tube)、PDP(プラズマディスプレイパネル)等のディスプレイでは、オペレータが画面に表示される文字等を認識する必要があるため、電磁波をシールドする部材には透明性が要求される。
【0004】
特に、PDPは、CRTと比較すると多量の電磁波を発生するため、より強い電磁波シールド能が求められている。電磁波シールド能は、簡便には表面抵抗率で表すことができ、CRT用の透光性電磁波シールド材料では、表面抵抗率は約300オーム/sq以下であることが要求されるのに対し、PDP用の透光性電磁波シールド材料では2.5オーム/sq以下が要求され、PDPを用いた民生用プラズマテレビでは1.5オーム/sq以下(望ましくは0.1オーム/sq以下)という極めて高い導電性が要求されている。
【0005】
また、透明性に関する要求レベルは、CRT用として約70%以上、PDP用として80%以上が要求されており、さらに高い透明性のものも望まれている。
【0006】
上記の要求から、以下に示されるように、開口部を有する金属メッシュを利用して電磁波シールド性と透明性とを両立させる種々の部材がこれまで提案されている。
【0007】
電磁波シールド材の製造方法としては、例えば導電性繊維を使った製造方法や、フォトリソグラフ法によりメッシュを形成して電磁波シールド材を製造する方法、印刷方式によりメッシュを形成して電磁波シールド材を製造する方法等がある。
【0008】
その中でも、印刷方式によりメッシュを形成して電磁波シールド材を製造する方法は、例えば特許文献1〜3に記載があり、印刷用めっき触媒を含むペーストにてパターン印刷を行って、ガラスまたはプラスチック等の透明基板表面に、所定のパターンを有する無電解メッキ触媒層を形成し、次いで、無電解メッキ処理を施すことによって、無電解メッキ触媒層上に金属層を形成させ、複雑な工程を必要とせずに、容易に、所定のパターンを形成した金属層を有する透明導電膜を製造することができる。
【0009】
特に、印刷用めっき触媒の製造方法として、特許文献1及び2では、精製水に塩化パラジウムを溶解し、さらにクエン酸三ナトリウムを溶解して均一に攪拌した後、水素化ホウ素ナトリウムを添加して塩化パラジウムを還元させ、クエン酸で安定、保護コロイド化されたパラジウムコロイドを得、その後、限外濾過により濃縮脱塩を行い、パラジウムを含有するパラジウムコロイドを得るようにしている。
【0010】
特許文献3では、パラジウム微粒子とγ−アルミナをエタノール中で分散、凝集させ、固液分離した後乾燥させ、パラジウム微粒子を担持させたγ−アルミナ微粒子を得るようにしている。
【0011】
【特許文献1】特開平11−170420号公報
【特許文献2】特開2003−109435号公報
【特許文献3】特開2007−281290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の製造方法では、ハロゲン化パラジウムはそのままでは水に容易に溶解しにくいことから、還元時のパラジウムの収率が低く、実質的に金属パラジウム触媒を高い生成効率で製造することができにくいという問題があった。
【0013】
また、従来の製造方法では、パラジウムイオンをパラジウム触媒核に還元する還元剤としては、上記に説明したように水素化ホウ素ナトリウムがよく使用されてきたが、この化合物は還元活性が非常に強くて不均一な反応を起こし易く、また使用時や使用前での化合物の溶液が不安定性で、パラジウムイオンからパラジウム触媒核の生成率の再現性が悪いといった難点があった。また爆発性の高い、水素ガスが副生成する危険性が高いといった取り扱い上の難点もあった。
【0014】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、ハロゲン化パラジウムを容易に水に溶解できるようにして、還元時の収率を大幅に向上させ、金属パラジウム触媒を効率よく生産することができる印刷用めっき触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明の他の目的は、触媒核(パラジウム)への還元活性を緩やかにすることができ、これにより、触媒核を均一に生成することが可能となり、後工程での無電界めっき等において効率のよい触媒反応を実現することができ、しかも、取り扱いも安全で容易な印刷用めっき触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題は本発明を特定する下記の事項及びその好ましい態様により達成された。
【0017】
[1] 第1の本発明に係る印刷用めっき触媒の製造方法は、ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を調製する工程を有し、前記水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する印刷用めっき触媒の製造方法であって、前記水溶液が無機アニオンを含有することを特徴とする。
【0018】
[2] 第1の本発明において、前記無機アニオンがハロゲンイオン又はロダンイオンであることを特徴とする。
【0019】
[3] 本発明において、前記ハロゲンイオンが塩化物イオンであることを特徴とする。
【0020】
[4] 第1の本発明において、前記無機アニオンの含有量が前記ハロゲン化パラジウム1質量部に対して、0.5質量部以上100質量部以下であることを特徴とする。この場合、好ましくは1質量部以上70質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上50質量部以下である。
【0021】
[5] 第1の本発明において、前記水溶液はさらに分散剤を含有することを特徴とする。
【0022】
[6] 第1の本発明において、前記分散剤がクエン酸化合物であることを特徴とする。
【0023】
[7] 第1の本発明において、さらに前記水溶液に還元剤を添加し、パラジウムを還元させる還元工程を有することを特徴とする。
【0024】
[8] 第1の本発明において、さらに前記パラジウムを触媒担持体に担持させる担持工程を有することを特徴とする。
【0025】
[9] 第2の本発明に係る印刷用めっき触媒の製造方法は、ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を調製する工程を有し、前記水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する印刷用めっき触媒の製造方法であって、前記水溶液にアミンボラン系還元剤、ヒドラジン系還元剤、ホルムアルデヒド、塩化第1錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤を添加し、パラジウムを還元させることを特徴とする。
【0026】
[10] 第2の本発明において、前記還元剤がアミンボラン系還元剤であることを特徴とする。
【0027】
[11] 第2の本発明において、前記アミンボラン系還元剤が、モノメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、モノエタノールアミンボランから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
【0028】
[12] 第2の本発明において、前記アミンボラン系還元剤が、モノメチルアミンボラン又はジメチルアミンボランであることを特徴とする。
【0029】
[13] 第2の本発明において、前記アミンボラン系還元剤が、ジメチルアミンボランであることを特徴とする。
【0030】
[14] 第3の本発明に係る印刷用めっき触媒の製造方法は、ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を調製する工程を有し、前記水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する印刷用めっき触媒の製造方法であって、前記水溶液が無機アニオンを含有し、前記水溶液にアミンボラン系還元剤、ヒドラジン系還元剤、ホルムアルデヒド、塩化第1錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤を添加して、パラジウムを還元させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明に係る印刷用めっき触媒の製造方法によれば、ハロゲン化パラジウムを容易に水に溶解できるようにして、還元時の収率を大幅に向上させ、金属パラジウム触媒を効率よく生産することができる。
【0032】
また、触媒核(パラジウム)への還元活性を緩やかにすることができ、これにより、触媒核を均一に生成することが可能となり、後工程での無電界めっき等において効率のよい触媒反応を実現することができ、しかも、取り扱いも安全で容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[印刷用めっき触媒]
本実施の形態に係る製造方法で製造される印刷用めっき触媒は、例えばガラスまたはプラスチック等の透明基板の表面に、無電解めっき処理に先立って、予め所定パターンの印刷層(無電解めっき触媒層)を形成するため等に使用される。
【0034】
所定のパターンは、CRT、PDP、液晶ディスプレイ等の各種表示装置における電磁波シールド膜として使用する場合、メッシュ状、格子状、ストライプ状等に形成することができ、特に、メッシュ状又は格子状に形成することが好ましい。電磁波シールド膜として必要とされる低い表面抵抗及び高い透明性を得ることができるからである。
【0035】
ここで、本実施の形態に係る印刷用めっき触媒の製造方法について説明する。
【0036】
この製造方法は、ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を調製する調製工程を有し、調製された水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する。特に、水溶液は無機アニオンを含有する。
【0037】
無機アニオンはハロゲンイオン又はロダンイオンである。ハロゲンイオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、沃化物イオンで、特に塩化物イオンであることが好ましく、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩酸、塩化アンモニウムなどで用いることができる。またハロゲンイオンの類似体であるプソイドハロゲンイオンとして過塩素酸イオンも用いることが出来、過塩素酸ナトリウムなどとして用いることが出来る。ロダンイオンは、別名チオシアンイオンともよばれるが、ロダンカリウム、ロダンナトリウム、ロダンアンモニウムとして用いることができる。
【0038】
水溶液は、さらに分散剤を含有することが好ましい。この場合、分散剤としては、クエン酸化合物であることが好ましい。
【0039】
上述の調製工程は、水溶液に還元剤を添加し、パラジウムを還元させる還元工程を有する。
【0040】
また、調製工程は、還元したパラジウムを触媒担持体に担持させる担持工程を有する。触媒担持体としては、パラジウムと反対の表面電荷をもった粒子である微細アルミナゲル、シリカゲル等を用いることが好ましい。この担持工程を経ることによって、パラジウムを担持した粒子(以下、パラジウム担持粒子と記す)を得る。
【0041】
水溶液中の無機アニオンの含有量はハロゲン化パラジウム1質量部に対して、0.5質量部以上100質量部以下であることが好ましい。さらに好ましくは、1質量部以上70質量部以下であり、特に好ましくは5質量部以上50質量部以下である。無機アニオンが0.5重量部未満であると、ハロゲン化パラジウムが水に溶解しにくいため、還元時のパラジウムの収率が非常に低くなり易く、高い収率で金属パラジウム触媒を製造することができにくくなる傾向がある。無機アニオンが100重量部を超過する場合は、還元時に塩析を起こしてしまい、塩析を起こした分はその後担持体に担持できず、担持後のパラジウムの収率が低下する傾向がある。
【0042】
また、上述した還元工程は、水溶液に、アミンボラン系還元剤、ヒドラジン系還元剤、ホルムアルデヒド、塩化第1錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤を添加し、パラジウムを還元させるようにしている。
【0043】
還元剤として、従来、NaBH4(水素化ホウ素ナトリウム)を用いる例がよくしられているが、上述した本発明の還元剤を用いることで、パラジウムイオンからパラジウム触媒核への還元活性を緩やかにすることができ、これにより、触媒核を再現性よく均一に生成することが可能となり、後工程での無電解めっき等において効率のよい触媒反応を実現することができ、しかも、危険な副生成物(水素ガス)の発生が少ない、あるいは発生しないため、取り扱いが安全で、且つ、容易である。これは還元剤化合物ないしその溶液が安定であるため、パラジウム触媒核を再現性よくまた収率も高く得ることができたと考えられる。
【0044】
本実施の形態では、上述した還元剤のうち、ボラン系還元剤であることが好ましい。この場合、アミンボラン系還元剤は、モノメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、モノエタノールアミンボランから選ばれる少なくとも1つである。この中で好ましいアミンボラン系還元剤は、モノメチルアミンボラン又はジメチルアミンボランであり、最も好ましいボラン系還元剤は、ジメチルアミンボランである。
【0045】
所定パターンの印刷層を形成するための印刷用ペーストは、上述のようにして製造されたパラジウム担持粒子と、疎水性樹脂と、有機溶剤を含有する。
【0046】
疎水性樹脂としては、めっき液に対して耐性を有し、耐薬品性があり、且つ、後述するインク受容層(透明基板等の支持体の表面に形成された層)に対して良好な密着性が得られれば特に限定されることなく、種々のものが使用可能である。例えば、エチルセルロース、プロピルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルブチラール、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。疎水性樹脂の量は、多いと基材との密着性は増大するが、無電解めっき触媒が、疎水性樹脂中に埋没し、後工程の無電解めっきにおいて金属が析出しなくなる。また、少なすぎると、ペーストと基材との密着が不十分となり好ましくない。従って、疎水性樹脂の量はペースト印刷、乾燥後、無電解めっき触媒あるいは同触媒の担持体が皮膜の表面に露出する程度が好ましい。
【0047】
有機溶剤については、金属粒子の分散が可能であり、樹脂を溶解可能であれば特に限定されることなく種々のものが使用可能である。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系、シクロヘキサノン等の環化脂肪族系、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系、イソプロピルアルコール、α−テルピネオール等のアルコール系等の溶剤が使用可能であり、これら溶剤を印刷方式や条件等に応じて選択する必要がある。また、これら溶剤は単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。
【0048】
印刷用ペーストは、めっき皮膜の金属光沢による透明基板裏面等の反射防止及び色ムラや金属色の抑制のため、黒色顔料を含有させることが望ましい。この場合の黒色顔料としては、印刷用ペースト中に分散容易な粒子径0.1μm以下の着色力の大きな黒色顔料が好ましい。例えば、カーボンブラック、Fe34、CuO−Cr23、CuO−Fe34−Mn23、CoO−Fe23−Cr23等が使用可能である。このうち、特に、カーボンブラックが好ましい。
【0049】
[パターン形成用基体]
上述した印刷用ペーストにて所定パターンの印刷層を形成する場合、パターン形成用基体が用いられる。このパターン形成用基体は、支持体と、該支持体上に例えばエマルジョン状態の疎水性樹脂を用いて形成されたインク受容層とを有する。このインク受容層上に印刷層が形成されることになる。
【0050】
エマルジョン状態の疎水性樹脂としては、めっき液に対して耐性を有し、耐薬品性があり、且つ、支持体に対して良好な密着性が得られればよく、種々のものが使用可能である。例えば、アクリル、ウレタン、シリコーン、エポキシ、酢酸ビニル、SBRラテックス等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。また、めっき液や薬品耐性を高めるため、これら疎水性樹脂中にさらに架橋剤等を加えてもよい。
【0051】
インク受容層には、上記エマルジョン状態の疎水性樹脂に加えて無機微粒子が含有される。無機微粒子としては、例えばシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等のセラミックス系の粒子が挙げられる。
【0052】
上記無機微粒子の平均一次粒径は、0.1μm以下が好ましく、0.005μm〜0.03μmがより好ましい。二次粒子径に関しても同様で0.1μm以下のものがよい。平均粒径が0.1μmを超えると、受容層形成により得られる導電膜形成用基体のヘイズが増加、白濁してしまう傾向がある。また、受容層上に無電解めっき触媒能を有する金属含有インクを印刷すると、受容層中に吸収された金属が印刷箇所に留まることなく受容層内部に広がるため、めっき前における受容層上の見かけの印刷線幅が制御できていたとしても、めっき後に出来上がる線幅は印刷線幅よりも大きくなってしまうおそれもある。
【0053】
インク受容層中のエマルジョン状態の疎水性樹脂と無機微粒子の比は重量比で1:3〜1:50とすることが好ましく、1:4〜1:15とすることがより好ましく、1:5〜1:10とすることがさらに好ましい。エマルジョン状態の疎水性樹脂1に対して無機微粒子が3よりも少ない場合は、インク受容層中に十分な空隙が形成されず、印刷時において、受容層表面におけるにじみが発生しやすくなる傾向がある。他方、50よりも大きい場合は、樹脂によるバインダー効果が十分に得られず、膜強度、密着性の低下を招く傾向がある。また、ヘイズも増加し、透明性も失ってしまうおそれもある。
【0054】
パターン形成用基体の支持体は、めっき液に対して耐性を有し、耐薬品性があり、且つ、透明性、絶縁性、機械的強度等があれば、種々の材料が使用可能であり、アクリル系樹脂やポリエステル系樹脂等が例として挙げられる。また、インク受容層は支持体上に直接形成してもよいが、密着性が得にくいような場合は支持体とインク受容層との間に易接着層を設けてもよい。
【0055】
[印刷層]
印刷層の形状としては格子状にパターニングされ、非印刷部における光透過性を保持したものがよい。また、このパターンにおけるライン幅を、30μm以下、開口率を80%以上にすることで、より透光性が良好な導電膜形成用基体を得ることができる。
【0056】
[パターン印刷]
印刷法としては、特に制限しないが、安定的に印刷ラインの均一性が得られるという点からスクリーン印刷やグラビア印刷を用いることが好ましい。スクリーンマスクやグラビア版としては、成膜後得られる透明導電膜の透明性を維持するため、格子状構造又は網目構造を有した開口率60%以上、平均開口径が7mm以下、平均開口径/平均線幅≧7としたものを用いることが好ましい。
【0057】
<導電膜の製造方法>
そして、導電膜は、上述したパターン形成用基体のインク受容層上に形成された印刷層に対し、無電解めっきを施すことで得られる。
【0058】
[無電解メッキ処理]
通常の無電解めっき浴が使用可能である。使用できる金属としてはAu、Ag、Cu、Cr、Ni、Su、Zn、Coの一種以上を含有する金属である。これらの金属の導電性の点からは、Ag、Cu、Au、Ni等が好ましく、中でもCuを用いることが好ましい。
【0059】
無電解めっき処理においては、先の工程で、パターン形成用基体上に印刷用ペーストをパターン印刷しているので、無電解めっき時にはパターン印刷した部分のみに金属の析出が起こり、高開口率の、すなわち、高い光透過性を有した高導電性の皮膜を得ることができる。
【0060】
[導電膜の形成]
上述したパラジウム担持体を用いて透明導電膜を形成させる場合について概略例示すると、パラジウム担持体を疎水性樹脂と共に有機溶剤に混合して分散させた印刷用ペーストを調製し、例えばグラビア印刷によって印刷用ペーストをパターン形成用基体のインク受容層上にパターン印刷し、印刷後に乾燥させて有機溶剤を揮散させ、パターン形成用基体の表面に疎水性樹脂によりパラジウム担持体を結合した所定形状のパターンを形成させると共に、パラジウム(無電解めっき触媒)を表面に露出させる、さらに、無電解めっき処理を行ってパラジウムを起点として金属を析出させ、パターン形成用基体の表面に格子状又は網目状のパターンを有する金属層を形成させる。
【0061】
[導電膜]
このようにして、パターン形成用基体上に印刷用ペーストをパターン印刷すると、印刷層のみに選択的に無電解めっきが施されるので、得られる導電膜の特性はパターン印刷に大きく影響される。めっき皮膜(金属皮膜)部分はほとんど光透過性が期待できないので開口部を設けて、透明性を確保する。従って、開口率は透明性に大きく影響する。このため、開口率を60%以上とすることで必要な透明性を確保する。
【0062】
開口パターンは、例えば格子状(網目状)の構造が挙げられ、平均開口径/平均線幅を7以上とすることで、開口率(光透過率)60%以上を確保できる。開口ピッチは大きいと格子状(網目状)構造が目立ち、視認性が悪化するから、開口ピッチは細かい程好ましく、1mm以下が好ましい。
【0063】
導電膜の厚みは、特に限定されないが、厚くなると視認性が悪くなり、すなわち、視野角が狭くなる。無電解めっきで得られる金属膜の比抵抗は一般に10-6〜10-5オーム・cmであり、開口率60%の場合、透明導電膜の面抵抗は厚さ1μmで1オーム/sq以下の低抵抗のものが得られる。従って、無電解めっきによって得られる金属層の厚みは、数μm以下で十分であり、従来品と比較して薄膜化が可能となり、視野角の広角化、視認性の向上が達成できる。
【0064】
成膜後の透明導電膜に含有させた黒色顔料の効果は、(1)めっき皮膜の金属光沢による支持体裏面(支持体側から透視した場合の面)の反射を防止することができ、(2)めっきによる析出金属皮膜の支持体裏面の色ムラ抑制及び金属色呈示の抑制ができる。
【0065】
その他、金属層と組み合わせて使用することのできる皮膜には、(a)金属層上へのAG(防眩)膜、(b)金属層上あるいは支持体裏面へのNIR(近赤外線)遮蔽膜、(c)支持体裏面へのAR(反射防止)膜等がある。
【実施例1】
【0066】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0067】
先ず、第1の実施例は、実施例1〜9及び比較例1について、水溶液に含まれるハロゲン化パラジウムを還元剤にて還元した際のパラジウムの収率(還元時収率)と、アルミナに担持させた後のパラジウムの収率(担持後収率)を測定した。
【0068】
[実験方法]
水100重量部に対し所定量の無機アニオン含有塩を加えて溶解させ、塩化パラジウム0.015重量部を投入して、ハロゲン化パラジウムを含む水溶液とした。
【0069】
この水溶液にクエン酸三ナトリウム0.06重量部を加えて溶解させ、その後、水10重量部に対して0.003重量部の水素化ホウ素ナトリウム(還元剤)を溶解させた水溶液を加えた。さらに、限外ろ過により濃縮脱塩を行った。
【0070】
限外ろ過を終えた溶液にアルミナ5重量部を加えてヘテロ凝集、沈殿したところをろ過、解砕して粒子を得た。
【0071】
(実施例1)
塩化パラジウム1重量部に対し、KCl(無機アニオンとしてClイオン)を2重量部の割合で含有させた。
【0072】
(実施例2)
塩化パラジウム1重量部に対し、NaCl(無機アニオンとしてClイオン)を2重量部の割合で含有させた。
【0073】
(実施例3)
塩化パラジウム1重量部に対し、KSCN(無機アニオンとしてロダンイオン)を2重量部の割合で含有させた。
【0074】
(実施例4)
塩化パラジウム1重量部に対し、KCl(無機アニオンとしてClイオン)を0.1重量部の割合で含有させた。
【0075】
(実施例5)
塩化パラジウム1重量部に対し、KCl(無機アニオンとしてClイオン)を0.5重量部の割合で含有させた。
【0076】
(実施例6)
塩化パラジウム1重量部に対し、KCl(無機アニオンとしてClイオン)を5重量部の割合で含有させた。
【0077】
(実施例7)
塩化パラジウム1重量部に対し、KCl(無機アニオンとしてClイオン)を10重量部の割合で含有させた。
【0078】
(実施例8)
塩化パラジウム1重量部に対し、KCl(無機アニオンとしてClイオン)を50重量部の割合で含有させた。
【0079】
(実施例9)
塩化パラジウム1重量部に対し、KCl(無機アニオンとしてClイオン)を100重量部の割合で含有させた。
【0080】
(比較例1)
無機アニオンを含有しなかった。
【0081】
[評価方法]
先ず、限外ろ過を終えた溶液に含まれるパラジウムの量を測定し、塩化パラジウムを含む水溶液中の塩化パラジウムのうち、パラジウムの化学量論的組成の量を100としたとき、限外ろ過を終えた溶液に含まれるパラジウムの量を百分率で表した値を還元時収率とした。
【0082】
また、ろ過、解砕して得られた粒子に担持されたパラジウムの量を測定し、ハロゲン化パラジウムを含む水溶液中の塩化パラジウムのうち、パラジウムの化学量論的組成の量を100としたとき、前記粒子に担持されたパラジウムの量を百分率で表した値を担持後収率とした。
【0083】
評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

添加量:塩化パラジウム1重量部に対する割合
【0085】
評価結果から、比較例1のように、ハロゲン化パラジウムを含む水溶液に無機アニオンが含有していない場合、パラジウムの還元時収率及び担持後収率が共に0%であり、実質的にパラジウムが生成できていないことがわかる。
【実施例2】
【0086】
次に、第2の実施例は、実施例10〜12及び比較例2について、ハロゲン化パラジウムを含む水溶液に投入される還元剤による還元活性の状態をみたものである。
【0087】
[実験方法]
(比較例2)
水100重量部に対し塩化カリウム0.030重量部を攪拌しながら溶解させ、この中にさらに塩化パラジウム0.015重量部を投入して、ハロゲン化パラジウムを含む水溶液とした。
【0088】
この水溶液にクエン酸三ナトリウム0.06重量部を加えて溶解させ、その後、水10重量部に対して0.003重量部の水素化ホウ素ナトリウム(還元剤)を溶解させた水溶液を加えた。
【0089】
(実施例10)
還元剤として、0.009重量部のジメチルアミンボランを用いた以外は、比較例2と同様にした。なお、このジメチルアミンボランは、比較例2において加えた水素化ホウ素ナトリウムの量を1としたとき、3の割合で加えたことになる。
【0090】
(実施例11)
還元剤として、0.03重量部のモノメチルアミンボランを用いた以外は、比較例2と同様にした。なお、このモノメチルアミンボランは、比較例2において加えた水素化ホウ素ナトリウムの量を1としたとき、10の割合で加えたことになる。
【0091】
(実施例12)
還元剤として、0.09重量部のトリエチルアミンボランを用いた以外は、比較例2と同様にした。なお、このトリエチルアミンボランは、比較例2において加えた水素化ホウ素ナトリウムの量を1としたとき、30の割合で加えたことになる。
【0092】
[評価方法]
比較例2及び実施例10〜12を、まったく同じ処方でそれぞれ5回繰り返し、実施例1と同様にして還元時収率をそれぞれ求めた。5回の平均値に対して、5回の再現性が±4%以内を◎、±8%以内を○、±10%以上を△とした。この収率の再現性が高いほど活性均一性が高いと評価した。
【0093】
評価結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
評価結果から、比較例2のように、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いた場合は、還元時収率の再現性が悪く、すなわち、活性均一性が悪かった。これは水素化ホウ素ナトリウム自体の還元活性が高く、その溶液の保存性が悪いのが原因と推測される。また、副生成物(水素ガス)の発生が多く、取り扱いが難しいという問題があった。
【0096】
一方、実施例11及び12は、活性均一性がよく、また、副生成物(水素ガス)の発生も少ないため、取り扱いが容易であった。これは、アミンボラン系還元剤が水素化ホウ素ナトリウムに比べて化合物の活性がやや低くその分はより多量必要であるものの、化合物やその溶液の安定性が高いため再現性が高くて活性の均一性が高いためと推測される。
【実施例3】
【0097】
次に、第3の実施例は、還元剤を水に溶解したあとの経時による変化をみたものであり、経時による変化が小さいほどパラジウム触媒核作成の再現性が高いことにつながる。なお、上記の実施例1と2は、還元剤を水に溶解して直ちにハロゲン化パラジウムを含む液に添加し反応させた。
【0098】
[実験方法]
(比較例3)
水100重量部に対し塩化カリウム0.030重量部を攪拌しながら溶解させ、この中にさらに塩化パラジウム0.015重量部を投入して、ハロゲン化パラジウムを含む水溶液とした。この水溶液にクエン酸三ナトリウム0.06重量部を加えて溶解させた。一方、水10重量部に対して0.003重量部の水素化ホウ素ナトリウム(還元剤)を溶解させた水溶液を調製後、室温下で6時間経時したあとに、上記水溶液に加えた。得られた還元時収率は比較例2で得た還元時収率の平均値の63%であった。
【0099】
(実施例13)
還元剤として、0.009重量部のジメチルアミンボランを用いた以外は、比較例3と同様にした。即ち、ジメチルアミンボランを溶解した水溶液を調製後、室温下で6時間経時させて用いた。得られた還元時収率は実施例11で得た還元時収率の平均値の97%であった。
【0100】
上記から、水素化ホウ素ナトリウムは水に溶解したあと経時で還元活性が顕著に低下していくのに対して、本発明のアミンボラン系還元剤ジメチルアミンボランは経時での安定性が良く、非常に取り扱い易いことが分かった。
【0101】
なお、本発明に係る印刷用めっき触媒の製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を調製する工程を有し、前記水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する印刷用めっき触媒の製造方法であって、
前記水溶液が無機アニオンを含有することを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記無機アニオンがハロゲンイオン又はロダンイオンであることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記ハロゲンイオンが塩化物イオンであることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記無機アニオンの含有量が前記ハロゲン化パラジウム1質量部に対して、0.5質量部以上100質量部以下であることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記水溶液はさらに分散剤を含有することを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記分散剤がクエン酸化合物であることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
さらに前記水溶液に還元剤を添加し、パラジウムイオンを還元させる還元工程を有することを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
さらに前記パラジウムを触媒担持体に担持させる担持工程を有することを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項9】
ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を調製する工程を有し、前記水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する印刷用めっき触媒の製造方法であって、
前記水溶液にアミンボラン系還元剤、ヒドラジン系還元剤、ホルムアルデヒド、塩化第1錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤を添加し、パラジウムを還元させることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記還元剤がアミンボラン系還元剤であることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記アミンボラン系還元剤が、モノメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、モノエタノールアミンボランから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項10記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記アミンボラン系還元剤が、モノメチルアミンボラン又はジメチルアミンボランであることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項13】
請求項10記載の印刷用めっき触媒の製造方法において、
前記アミンボラン系還元剤が、ジメチルアミンボランであることを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。
【請求項14】
ハロゲン化パラジウムを含有する水溶液を調製する工程を有し、前記水溶液を用いて印刷用めっき触媒を製造する印刷用めっき触媒の製造方法であって、
前記水溶液が無機アニオンを含有し、
前記水溶液にアミンボラン系還元剤、ヒドラジン系還元剤、ホルムアルデヒド、塩化第1錫からなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤を添加して、パラジウムを還元させる工程を有することを特徴とする印刷用めっき触媒の製造方法。

【公開番号】特開2009−191316(P2009−191316A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33348(P2008−33348)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】