説明

印刷用版

【課題】貫通孔へのペースト充填における印刷用版の裏回りの現象を防止することのできる印刷用版を提供し、生産性を向上させる。
【解決手段】四辺の版枠と、開口部を有し前記開口部の上方に傾斜部を設けたマスクを四辺の枠状部材に固定しかつ基板材料への押圧手段を有したマスクユニットと、前記版枠に設けられたガイド孔と、前記マスクユニットの枠状部材に配置されかつ前記ガイド孔に緩挿されるガイドピンとを備えた印刷用版を用いてペースト充填を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数層の回路パターンを導電性ペーストでインナービアホール接続してなる多層の回路基板等を製造する過程における導電性ペーストのペースト充填装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高密度化に伴い、産業用にとどまらず民生用の分野においても多層基板が強く要望されるようになってきた。
【0003】
特に多層基板の高密度化は回路パターンの微細化が進み、より複数層の回路パターンとともに基板の薄板化が望まれている。
【0004】
このような回路基板では、複数層の回路パターンの間をインナービアホール接続する接続方法および信頼度の高い構造の新規開発が不可欠なものになっているが、導電性ペーストによりインナービアホール接続した新規な構成の高密度の回路基板製造法が提案されている。
【0005】
ここでは導電性ペーストによるインナービアホール接続のベースとなる両面基板の製造方法とペースト充填方法について説明する。
【0006】
図5(a)〜(f)は、従来の両面回路基板の製造方法の工程断面図である。図6(a)〜(d)は、スキージング法による導電性ペースト充填の工程断面図である。
【0007】
図5において、31は510mm×340mm、厚さ約60μmのプリプレグシートであり、例えば不織布の全芳香族ポリアミド繊維に熱硬化性エポキシ樹脂を含浸させた複合材からなる基材が用いられる。
【0008】
プリプレグシート31の表裏には0.01μm以下の厚みでSi系の離型層部を形成した厚さ約19μm、幅340mmのプラスチックフィルム、例えばポリエチレンテレフタレートなどからなるマスクフィルム32a,32bが接着されている。
【0009】
プリプレグシート31へのマスクフィルム32a,32bの張り合わせは、ラミネート装置を用いてプリプレグシート31の樹脂成分を溶融させてマスクフィルム32a、32bが連続的に接着する方法が提案されている。
【0010】
33は貫通孔であり、プリプレグシート31の両面に貼り付ける厚さ18μmの銅などの金属はく34a,34bと電気的に接続する銅などの導電性粒子とエポキシ系樹脂などからなる導電性ペースト35が充填されている。
【0011】
両面回路基板の製造は、まず、図5(a)に示すように、両面にマスクフィルム32a,32bが接着されたプリプレグシート31の所定の箇所に図5(b)に示すように、レーザー加工法などを利用して貫通孔33が形成される。
【0012】
次に、図5(c)に示すように、貫通孔33に導電性ペースト35が充填される。導電性ペースト35を充填する方法としては、貫通孔33を有するプリプレグシート31を一般の印刷機(図示せず)のステージ上に設置し、ウレタンゴムなどの2本のスキージを交互に用いて往復させることで直接導電性ペースト35がマスクフィルム32aの上から充填される。このとき、上面のマスクフィルム32a,32bは印刷マスクの役割と、プリプレグシート31表面の汚染防止の役割を果たしている。
【0013】
導電性ペースト35の充填方法について、図6(a)〜(d)を用いて説明する。
【0014】
導電性ペースト35の充填にはスキージング法が用いられる。図6(a)は、プリプレグシート31(両面のマスクフィルム図示せず)をステージ49上に設置した図である。図6(b)は、充填用の印刷用版41の版枠42であり、図6(c)は、矢印より見た図である。厚さ約3mmのステンレス製でスキージ進行方向約15°の傾斜を設けた約320mm×490mmの開口部44を有するマスク43が版枠42に取り付けられている。
【0015】
図6(d)は、貫通孔33を開けたプリプレグシート31をステージ49に設置した図である。上方に設けられた上下左右に移動・加圧可能な第1スキージ50aと第2スキージ50bのうち、第1スキージ50aのみをマスク43上の所定位置に降下させ、圧力をかけて導電性ペースト35をローリングさせながら図中の矢印方向に前進させる。スキージ50a,50bの材質は、ウレタンなどの一般のスキージゴムを用いている。また、狭ピッチでかつ数万におよぶ貫通孔33へのペースト充填方法においては、印刷機のステージ49とプリプレグシート31との間に導電性ペースト35中の樹脂成分を吸収と吸着性能を有する多孔質材(図示せず)を用いる場合が多い。
【0016】
次に、図5(d)に示すように、プリプレグシート31の両面からマスクフィルム32a、32bが剥離される。
【0017】
そして、図5(e)に示すように、プリプレグシート31の両面に銅などの金属はく34a,34bが重ねられ、この状態において熱プレスで加熱加圧することにより、導電性ペースト厚み(プリプレグシートと2枚のフィルムの厚み分)がプリプレグシート厚み相当に圧縮されるとともにプリプレグシート31と金属はく34a、34bとが接着され、両面の金属はくは、所定位置に設けた貫通孔33に充填された導電性ペースト35により電気的に接続される。
【0018】
そして、両面の金属はく34a,34bを選択的にエッチングして回路パターン36a、36bが形成され、図5(f)に示す両面回路基板が得られる。
【0019】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1〜特許文献3が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平6−268345号公報
【特許文献2】特開平7−106760号公報
【特許文献3】特開平3−64094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本願発明者は、上記の従来の回路基板の製造方法のペースト充填方法における以下の課題を見出した。
【0022】
充填用の印刷用版には厚さ約3mmのステンレス製でスキージ進行方向約15°の傾斜を設けた約320mm×490mmの開口部44を有するマスク43が取り付けられている。
【0023】
しかし、ペースト充填を行っていくと、プリプレグシートの貫通孔近傍の表面の凹凸の影響によりスキージの振動が発生し、印刷用版がプリプレグシート表面から瞬間的に離れてしまう場合があり、このため前記ペーストが回り込む現象が見られた。ペーストが回り込むと、ペーストを廃棄することとなり、使用できる充填回数が低減する。
【0024】
また、基材に付着することにより、装置の汚染、基材の搬送などに悪影響を与えるという問題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために、四辺の版枠と、基板材料の全周あるいは一部の略外周部を覆う額縁状の開口部を有し前記開口部の上方に傾斜部を設けたマスクを四辺の枠状部材に固定したマスクユニットと、前記版枠に設けられたガイド孔と、前記マスクユニットの枠状部材に配置されかつ前記ガイド孔に緩挿されるガイドピンとを備え、前記マスクユニットは基板材料への押圧手段を有して前記版枠に装着されていることを特徴とする印刷用版を用いて、ペースト充填を行うことである。
【発明の効果】
【0026】
以上のように本発明の印刷用版は、マスクユニットの枠状部材に配置されかつ前記ガイド孔に緩挿されるガイドピンとの構造により、マスクユニットの自重あるいは押圧手段によって基板材料側に安定した圧力を加えることが可能となり、マスク裏面へのペーストの回り込み現象を防止することができ、ペースト廃棄や基材に付着することによる装置の汚染、基材の搬送などに悪影響を与えることなく、充填回数が大幅に改善され、安定したペースト充填が可能となる。
【0027】
また、仮にマスク裏面へペーストが回り込み固着した場合であってもマスクユニットの交換を容易にすることができ、装置の汚染、基材の搬送などに悪影響を少なくし、生産性をも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態における印刷用版を示す図
【図2】本発明の実施の形態における印刷用版を示す図
【図3】本発明の実施の形態における印刷用版のマスクユニットを示す図
【図4】本発明の実施の形態における印刷用版のマスクユニットを示す図
【図5】従来の回路基板の製造方法を示す工程断面図
【図6】従来の印刷用版とその使用例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施の形態)
両面回路基板の製造方法の工程断面図については従来法と同一であり、説明を省略し、ペースト充填の印刷用版について説明する。
【0030】
図1、図2は本発明の実施の形態における印刷用版を示す図であり、図1(a)に印刷用版の概略を示し、図1(b)に図1(a)の矢印方向の断面を示す。また、図2に図1(a)の矢印方向の断面を示す。
【0031】
図1(a)、(b)に示すように、本発明の印刷用版1は、四辺の版枠2にマスクユニット3が装着された構造であり、マスクユニット3を版枠2にネジ(図示せず)などにより固定することもできる。
【0032】
マスクユニット3の四辺の枠状部材4には、マスク5が固定され、前記マスクには開口部6が設けられている。開口部6は被印刷物である基板材料の全周あるいは一部の略外周部を覆う額縁状に開口され、開口部6の上方に傾斜部7が設けられている。
【0033】
また、図2に示すように、版枠2にはガイド孔9が設けられ、マスクユニット3の枠状部材4に前記ガイド孔9に対応した位置にガイドピン10が配置され、ガイドピン10はガイド孔9に緩挿される構造である。
【0034】
この構造により後述する薄板の接着を行ったマスクユニットをあらかじめ準備して、薄板の交換を短時間でしかも容易にすることができる。
【0035】
また、図2に示すように、一部のガイド孔9にバネ11を組み入れることにより、マスクユニットは基板材料への押圧手段を備えて前記版枠2に装着される。この基板材料への押圧手段により、基板材料上へ印刷用版を均一に配置することが可能となる。
【0036】
この結果、貫通孔が形成された基板材料の貫通孔近傍の表面の凹凸の影響によるスキージの振動を低減させ、印刷用版と基板材料表面とを安定して密着させることができる。
【0037】
本実施の形態の印刷用版を用いて1000枚の基材への充填を行ったが、ペーストの薄板への回り込みがなくなり、薄板の使用回数が飛躍的に伸びた。また、薄板ユニットを用いることにより、交換に要する時間が短縮され、生産性が大幅にアップしたことを確認した。
【0038】
次に、本実施の形態における他の事例を以下に説明する。
【0039】
図3、図4は、図1における印刷用版のマスクユニット3のマスク5の部分を示す断面図である。便宜上ガイド孔9、ガイドピン10等は省略する。
【0040】
図3に示すように、マスクユニット3の四辺の枠状部材4には、マスク5が固定され、前記マスク5には開口部6が設けられている。開口部6は被印刷物である基板材料の全周あるいは一部の略外周部を覆う額縁状に開口され、開口部6の上方に傾斜部7が設けられている。
【0041】
傾斜部7の裏面7a(下部)に金属製の薄板8が傾斜部7の先端7bから所定量(2〜5mm)突出させて固定されている。マスク5と薄板8の固定は、熱可塑性樹脂を主体とする接着剤を介してなされている。
【0042】
薄板8の役割は、導電性ペーストがマスク5の下部に回り込むのを防止する目的で配置されているものであり、傾斜部7の裏面7aに固定された薄板8上を後述するスキージが押圧しながら移動する構造となっている。
【0043】
マスク5は厚さ約3mmのステンレス製であり、傾斜部7はスキージ進行方向約15°の傾斜を有し、版枠の所定位置に約490mm×320mmの開口部6を設けている。
【0044】
開口部6の大きさは、510mm×340mmの基板材料のサイズに対して設定されているもので、マスク5で基板材料の外周部を抑えることの出来ることが必要となる。
【0045】
薄板8は、例えば、0.5mmのSUS材からなり、硬度を増す為焼入れを施してある。
【0046】
この薄板8を接着する接着剤(図示せず)の具体的な選択としては、ホットメルト系に属するアドフィックス系、スカイワックス系(日化精工株式会社 商品群)を用いて固定されている。
【0047】
薄板8の固定は、両面テープを用いることも可能ではあるが、両面テープがペーストの樹脂により膨潤し、前記ペーストが回り込み薄板を変形させる場合があり、これによって薄板が変形し、薄板下部にもペーストが回り込む可能性がある。
【0048】
したがって、ホットメルト系の接着剤を使用することが望ましく、接着層の厚みを3μm以下にすることも可能となる。その効果として、接着層へのペーストの回り込みがなくなり、SUS製薄板の薄板8が変形することがなくなる。
【0049】
ホットメルト系の接着剤は加熱溶融することにより液状となるため、傾斜部7と薄板8に塗布したのち、冷却固化することによって容易に固定することができる。また、薄板8が摩耗等によって劣化した場合、ホットメルト系の接着剤であれば、100℃以上の高温に加熱することによって、傾斜部7に固定されている薄板8を容易にはがすことができ定期的に交換することが可能となる。
【0050】
導電性ペーストの充填には、スキージング法が用いられる。基板材料としてのプリプレグシートの両面にマスクフィルム(図示せず)を印刷機のステージ上に設置し、印刷用版を上部より配置する。上方に設けられた移動・加圧可能なスキージで導電性ペーストをローリングさせながら充填していく。
【0051】
以上のように本発明の印刷用版は、マスク5の底面に固定された薄板8及び薄板8の固定にホットメルト系の接着剤を用いることにより、接着層を薄くすることができる。
【0052】
上記構成により、導電性ペーストの回り込み現象を防止し、さらに接着層への導電性ペーストの侵入をも防止できる。
【0053】
その結果、薄板のうねりが防止できるため、薄板下部へのペーストの回り込みが減少しペースト廃棄や基材に付着することによる装置の汚染、基材の搬送などに悪影響を与えることなく、充填回数が大幅に改善され、安定したペースト充填が可能となるという効果を奏する。
【0054】
次に、図4の事例を以下に示す。
【0055】
図4は、図1における印刷用版のマスクユニット3のマスク5の部分を示す断面図である。
【0056】
図4に示すマスクユニット3aの特徴は、マスク5の傾斜部7の上部の傾斜面7cに、薄板8を接着することにより、既述した従来の課題を解決するものである。
【0057】
この構成を採用することにより、導電性ペーストの回り込み現象をより防止することが可能となる。特に、薄板8をマスク5の傾斜部7の上部側傾斜面7cの上部に接着し固定することにより、薄板8と傾斜面7cの接着層への導電性ペーストの侵入を防ぐことができる。仮に前記接着層へ導電性ペーストの侵入があったとしても、マスク5の裏側に導電性ペーストが回り込むことはない。
【0058】
なお、マスクユニット3aの場合、傾斜部7の先端7bから薄板8を突出させる所定量は、図3に示したマスクユニット3よりも少なくし、0.5〜1.0mm程度が望ましい。これにより薄板8が傾斜部7の先端7bから突出していることによる基板材料への傷等の影響を極力抑えることができる。
【0059】
本実施の形態の充填機を用いて1000枚の基材への充填を行ったが、ペーストの薄板への回り込みがなくなり、薄板の使用回数が飛躍的に伸びた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように本発明の印刷用版は、ペースト充填における生産性の向上に大きく効果を示し、導電性ペーストでインナービアホール接続を備えた回路基板全般に有用であり、本発明の産業上の利用可能性は大といえる。
【符号の説明】
【0061】
1 印刷用版
2 版枠
3、3a マスクユニット
4 枠状部材
5 マスク
6 開口部
7 傾斜部
7a 傾斜部の裏面
7b 傾斜部の先端
7c 傾斜部の傾斜面
8 薄板
9 ガイド孔
10 ガイドピン
11 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四辺の版枠と、基板材料の全周あるいは一部の略外周部を覆う額縁状の開口部を有し前記開口部の上方に傾斜部を設けたマスクを四辺の枠状部材に固定したマスクユニットと、前記版枠に設けられたガイド孔と、前記マスクユニットの枠状部材に配置されかつ前記ガイド孔に緩挿されるガイドピンとを備え、
前記マスクユニットは基板材料への押圧手段を有して前記版枠に装着されていることを特徴とする印刷用版。
【請求項2】
押圧手段は、ガイドピンが緩挿されるガイド孔にバネを組み入れたものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷用版。
【請求項3】
前記マスクの傾斜部には薄板が固定して設けられていることを特徴とする印刷用版。
【請求項4】
薄板が固定された傾斜部は、傾斜部の傾斜面または傾斜部の裏面であることを特徴とする請求項3に記載の印刷用版。
【請求項5】
薄板の固定は熱可塑性樹脂接着剤を介してなされていることを特徴とする請求項3に記載の印刷用版。
【請求項6】
薄板は、焼き入れされたステンレス材であることを特徴とする請求項1に記載の印刷用版。
【請求項7】
熱可塑性樹脂接着剤の層の厚みは3μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の印刷用版。
【請求項8】
熱可塑性樹脂接着剤は、ホットメルト系の接着剤であることを特徴とする請求項5に記載の印刷用版。
【請求項9】
基板材料は、両面にマスクフィルムを備えたプリプレグシートに貫通孔が形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷用版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−31507(P2011−31507A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180303(P2009−180303)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】