説明

印刷装置、印刷方法、および印刷開始位置設定方法

【課題】用紙サイズが変更されても、給紙位置および印刷開始位置を容易に調整できると共に、給紙位置や印刷開始位置を調整する処理による計算負荷を軽減すること。
【解決手段】印刷領域の所定位置を仮想的な基準給紙位置として設定すると共に、基準給紙位置と実際に印刷する印刷媒体の所定位置との差分を記憶し、差分に基づいてインクを噴射させない空白ラスターデータを印刷データに付加し、空白ラスターデータが付加された印刷データに基づいて基準給紙位置から印刷処理を開始する制御部31を備える印刷装置10とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、印刷方法、および印刷開始位置設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、給紙位置を任意に設定できる給紙位置自動設定装置に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−16459号公報([0009]、[0010]段落、図3など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される給紙位置自動設定装置の印刷方法では、用紙の先端部分と所望の印刷開始位置との差を保持しておき、紙送り用モーターの回転数と印刷開始位置までに必要な回転数とを比較することにより、給紙位置および印刷開始位置を調整している。しかしながら、次のような問題点がある。すなわち、このような方法では、たとえば用紙の先端を検出するセンサーの故障や用紙サイズを変更するなどにより用紙の先端が検出できなくなると、給紙位置や印刷開始位置の調整ができなくなる可能性がある。
【0005】
ところで、ノズルからインク滴を噴射して記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置において、記録速度の高速化の要望から、多数のノズルが記録媒体の幅以上の長さに亘って配列された記録領域を有するライン型の記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置(以下、ライン型インクジェット記録装置という)が近年実用化されている。
【0006】
このようなライン型インクジェット記録装置においても、用紙サイズが変更されると、給紙位置および印刷開始位置を毎回算出して調整する必要がある。そのため、用紙サイズを変更して印刷する際には、給紙位置および印刷開始位置を調整する処理がその都度発生し、計算負荷が増大してしまう課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、用紙サイズが変更されても、給紙位置および印刷開始位置を容易に調整できると共に、給紙位置や印刷開始位置を調整する処理による計算負荷を軽減する印刷装置、印刷方法、および印刷開始位置設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明の印刷装置の一側面は、印刷領域の所定位置を仮想的な基準給紙位置として設定すると共に、基準給紙位置と実際に印刷する印刷媒体の所定位置との差分を記憶し、差分に基づいてインクを噴射させない空白ラスターデータを印刷データに付加し、空白ラスターデータが付加された印刷データに基づいて基準給紙位置から印刷処理を開始する制御部を備えるものである。
【0009】
このように構成すると、用紙サイズの変更がなされても、仮想的な基準給紙位置から印刷処理が常に開始されることになるため、当該変更に伴う給紙位置や印刷開始位置について調整する処理を逐一行う必要がない。つまり、本発明の印刷装置は、用紙サイズが変更されても、給紙位置および印刷開始位置を容易に調整できると共に、給紙位置や印刷開始位置を調整する処理による計算負荷を軽減することができる。
【0010】
また、本発明の他の一側面は、上述の発明において、印刷媒体の中心位置が揃えて給紙されるように空白ラスターデータが設定されていることが好ましい。
【0011】
このように構成すると、上述した効果に加えて、印刷媒体の中心位置を揃えて給紙される方が安定した品質で印刷できる場合には特に効果的である。たとえば、ライン型インクジェット記録装置の備える複数の記録ヘッドのうち、中心部分にある記録ヘッドの有するノズルの噴射精度が高い場合には、印刷媒体の中心位置を揃えて給紙することにより、中心部分にある記録ヘッドを効果的に使用することができ、従来の用紙上端を揃えて給紙する方法よりも品質の高い印刷をすることが可能となる。なお、そもそも印刷装置の構造上の制限により、印刷媒体の中心位置を揃えて給紙する仕様のものでも、当然に上述した効果を奏することができる。
【0012】
また、本発明の他の一側面は、上述の発明において、制御部が、印刷媒体の印刷開始位置を特定したときは、差分に基づいて印刷媒体の印刷終了位置も算出することが好ましい。
【0013】
このように構成すると、上述した効果に加えて、印刷媒体の印刷終了位置も印刷開始位置と同様の処理により算出できるため、当該印刷終了位置に関する処理を別に行う必要がなく、計算負荷を軽減することが可能となる。
【0014】
また、本発明の他の一側面は、上述した発明において、制御部が、印刷媒体を指定された位置に給紙するための紙送り量を、印刷領域までの紙送り量と空白ラスターデータを読み飛ばした際に生じる紙送り量の総和に基づいて決定することが好ましい。
【0015】
このように構成すると、上述した効果に加えて、制御部で印刷処理を開始する前に用紙サイズに対応した指定位置までの紙送り量を算出することができる。また、従来技術のように検出センサーで用紙の先端をその都度検出する必要がなくなる。
【0016】
また、本発明の他の一側面は、上述した発明において、制御部が、空白ラスターデータが割り付けられたノズルを未使用に設定することが好ましい。
【0017】
このように構成すると、上述した効果に加えて、用紙サイズが変更になると、印刷を開始するラスターデータが割り付けられるノズルも当然異なることになり、ラスターデータが割り付けられる印刷開始位置の算出処理を逐一行わなければならなかったが、空白ラスターデータを割り付けられたノズルを未使用に設定するのみで、当該算出処理を省略することができる。なお、空白ラスターデータのままで印刷処理を行っても当該空白ラスターデータが割り付けられたノズルからインクが噴射されることはないが、そのままでは印字しないノズルから印刷処理が開始されることとなるため、空白ラスターデータが割り付けられたノズルを未使用に設定した方が印刷処理速度の向上が見込める。
【0018】
また、本発明の他の一側面である印刷方法は、印刷領域の所定位置を仮想的な基準給紙位置として設定するステップと、基準給紙位置と実際に印刷する印刷媒体の所定位置との差分を記憶するステップと、差分に基づいてインクを噴射させない空白ラスターデータを印刷データに付加するステップと、空白ラスターデータが付加された印刷データに基づいて、基準給紙位置から印刷処理を開始するステップと、印刷媒体を指定された位置に給紙するための紙送り量を、印刷領域までの紙送り量と空白ラスターデータを読み飛ばした際に生じる紙送り量の総和に基づいて決定するステップと、を有するものである。
【0019】
このように構成すると、用紙サイズの変更がなされても、当該変更に伴う給紙位置や印刷開始位置の変更処理の必要がなく、仮想的な基準給紙位置から印刷処理が常に開始されることになる。また、印刷処理を開始する前に用紙サイズに対応した指定位置までの紙送り量を算出することができる。また、従来技術のように検出センサーで用紙の先端をその都度検出する必要がなくなる。つまり、本発明の印刷方法は、用紙サイズが変更されても、給紙位置および印刷開始位置を容易に調整できると共に、給紙位置や印刷開始位置を調整する処理による計算負荷を軽減することができる。
【0020】
また、本発明の他の一側面である印刷開始位置設定方法は、印刷媒体の所定位置を仮想的な基準給紙位置として設定するステップと、基準給紙位置と実際に印刷する印刷媒体の所定位置との差分を記憶するステップと、差分に基づいてインクを噴射させない空白ラスターデータを印刷データに付加するステップと、空白ラスターデータが付加された印刷データに基づいて、基準給紙位置から印刷処理を開始するステップと、空白ラスターデータが割り付けられたノズルを未使用に設定するステップと、を有するものである。
【0021】
このように構成すると、用紙サイズの変更がなされても、当該変更に伴う給紙位置や印刷開始位置の変更処理の必要がなく、仮想的な基準給紙位置から印刷処理が常に開始されることになる。また、用紙サイズが変更になると、印字を開始するラスターデータが割り付けられるノズルも当然異なることになり、ラスターデータが割り付けられる印刷開始位置の算出処理を逐一行わなければならなかったが、空白ラスターデータを割り付けられたノズルを未使用に設定するのみで、当該算出処理を省略することができる。なお、空白ラスターデータのままで印刷処理を行っても当該空白ラスターデータが割り付けられたノズルからインクが噴射されることはないが、そのままでは印字しないノズルから印刷処理が開始されることとなるため、空白ラスターデータが割り付けられたノズルを未使用に設定した方が印刷処理速度の向上が見込める。つまり、本発明の印刷開始位置設定方法は、用紙サイズが変更されても、給紙位置および印刷開始位置を容易に調整できると共に、給紙位置や印刷開始位置を調整する処理による計算負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本願発明の一実施の形態に係る印刷装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すプリンタードライバーの内部構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す画像情報処理部が有する各機能を示すブロック図である。
【図4】図1に示すプリンターのハードウェアの概略構成を示す図である。
【図5】図4に示すラインヘッドの構成を示す図である。
【図6】図1に示す印刷装置に設定されている仮想的な用紙サイズP2をイメージ化した図である。
【図7】ラインCに用紙P4の中央位置を揃えた場合の用紙サイズ調整をイメージ化した図である。
【図8】ラインSに用紙P3,P4の先端を揃えて給紙する場合の給紙位置および印刷開始位置を説明するための図である。
【図9】ラインCに用紙P3,P4の中心位置を揃えて給紙する場合の給紙位置および印刷開始位置を説明するための図である。
【図10】図1に示す印刷装置において給紙される所定の位置までの紙送り量Lorをイメージ化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態に係る印刷装置について、図1から図10に基づいて説明する。ここで、印刷装置とは、コンピューターとインクジェット方式のプリンターとの組み合わせを指すものとするが、以下の説明において述べる機能を全て備えるプリンターであれば、当該プリンターを印刷装置としても良い。
【0024】
<印刷装置10の概略構成>
図1は、本願発明の一実施の形態に係る印刷装置10の概略構成を示すブロック図である。印刷装置10は、コンピューター20、インクジェット方式のプリンター30で構成される。
【0025】
<コンピューター20の概略構成>
コンピューター20は、不図示のCPU、メモリー、表示装置、キーボード、マウス等のハードウェアと、これらのハードウェアを制御するソフトウェアとから構成される。コンピューター20のソフトウェアは、オペレーティングシステム(以下、OSという)21と、このOS21の管理下で動作するアプリケーション・プログラム22と、プリンタードライバー23とから構成される。
【0026】
OS21は、ワード・プロセッサー等のアプリケーション・プログラム22から出力されたアプリケーションデータを解析するGDI(Graphics Device Interface)モジュール24と、プリンタードライバー23からの制御によりGDIモジュール24の解析結果に応じた印刷データをプリンター30に送信するとともに、プリンター30から送られたステータス情報を受信してプリンタードライバー23に供給するインターフェース部25とから構成される。
【0027】
図2は、図1に示すプリンタードライバー23の内部構成を示すブロック図である。プリンタードライバー23は、アプリケーション・プログラム22から出力されたアプリケーションデータをドット単位の画像情報に変換するラスタライザー23Aと、ドット単位の画像情報に対してプリンター30が使用するインク色(C:シアン、M:マゼンタ、Y:イエロー、K:ブラック等)および発色の特性に応じた色補正を行う色補正処理部23Bと、色補正処理部23Bが参照する色補正テーブル23Cと、色補正された後の画像情報からドット単位でのインクの有無によってある面積での濃度を表現する2値化処理を行うハーフトーン処理部23Dとから構成される。プリンタードライバー23は、以上の処理を実行し、ハーフトーン処理された印刷データをプリンター30に出力する。
【0028】
<プリンター30の概略構成>
プリンター30は、図1に示すように、制御部31とプリンターエンジン32とから構成される。制御部31は、受信部33と、画像情報処理部34と、記憶部35とから構成される。また、プリンターエンジン32は、転送部32Aと、機構制御部32Bおよび記録ヘッド32Cとから構成される。
【0029】
受信部33は、コンピューター20から送信された印刷データを受信する。受信した印刷データは画像情報処理部34へ供給する。なお、受信部33では、印刷される画像情報が含まれる印刷データの他に、印刷する際の用紙サイズの情報なども受信する。
【0030】
画像情報処理部34は、印刷データをプリンター20で採用されるインターレース印刷方式に合った内容の印刷データとして作成する。なお、「インターレース印刷方式」とは、副走査方向に沿ってドットピッチの整数倍のノズルピッチとなるように配列された多数のノズルを有する記録ヘッド32Cを主走査方向へ1回走査することにより多数の主走査ラインを同時に印刷し、次に記録ヘッド32Cと印刷媒体P1とを副走査方向へノズルピッチと互いに素の関係にある整数分だけ相対的に搬送させたあと再び主走査方向へ1回走査して前回までに形成された主走査ライン(ラスタライン)同士の間を埋めるようにして印刷する方式である。
【0031】
図3は、図1に示す画像情報処理部34が有する各機能を示すブロック図である。図3に示すように、画像情報処理部34は、用紙サイズ調整モジュール34Aと、紙送り調整モジュール34Bと、ノズル駆動モジュール34Cと、マスク処理モジュール34Dとから構成される。用紙サイズ調整モジュール34Aは、受信部33から供給された印刷データを所定の記録処理の単位(たとえば1ラスタライン毎)で抽出し、印刷する際の用紙サイズの情報と、仮想的な用紙サイズとの差分を考慮した空白ラスターデータを適宜付加する。紙送り調整モジュール34Bは、仮想的な用紙サイズと実際に印刷する用紙サイズとの差分および給紙される基準位置までの紙送り量の総和を算出する。ノズル駆動モジュール34Cは、各ノズルに対して共通して用いられる原駆動信号を生成する。マスク処理モジュール34Dは、用紙サイズ調整モジュール34Aによって空白ラスターデータが印刷データに付加された場合に、当該空白ラスターデータが割り付けられるノズルを特定すると共に、当該ノズルを未使用に設定する。なお、用紙サイズ調整モジュール34A、紙送り調整モジュール34B、ノズル駆動モジュール34C、マスク処理モジュール34Dの詳細な処理については後述する。
【0032】
画像情報処理部34は、受信部33から供給された印刷データを、上述した各モジュールでの処理を施した印刷データおよび紙送り量の情報を記憶部35に格納する。記憶部35に格納された印刷データは、転送部32Aに供給される。印刷データが供給された転送部32Aは、機構制御部32Bによって制御されたタイミングで記録ヘッド32Cに転送する。
【0033】
図4は、図1に示すプリンター30のハードウェアの概略構成を示す図である。プリンター30は、制御部31と、紙送り機構40と、インク供給機構50と、ラインヘッド60とから構成される。ここで、制御部31は、不図示のCPU、メモリー(ROM、RAM、不揮発性メモリーなど)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、バス、タイマー、インターフェースなどを構成要素としている。制御部31は、記憶部35に記憶されている印刷データや紙送り量の情報などに基づいて紙送りモーター41等のモーター、およびラインヘッド60等の駆動制御を行っている。
【0034】
紙送り機構40は、紙送りモーター(PFモータ)41と、この紙送りモーター41からの駆動力が伝達される給紙ローラ42などから構成され、印刷用紙等の印刷媒体P1を供給部位から排紙側に向けて搬送可能となっている。また、インク供給機構50は、カートリッジホルダ51と、インクカートリッジ52と、インク供給路53とから構成されている。カートリッジホルダ51には、インクカートリッジ52が着脱自在に装着されている。また、インクカートリッジ52とラインヘッド60との間には、インク供給路53が設けられていて、インクカートリッジ52からラインヘッド60にインクを供給可能としている。ラインヘッド60は、印刷媒体P1よりも幅広の長さ寸法を有している。
【0035】
図5は、図4に示すラインヘッド60の構成を示す図である。図4に示すように、このラインヘッド60は、複数の短尺ヘッド61が、副走査方向(Y方向)において交互に前後しつつ、主走査方向(X方向)に沿って並ぶように配列されている。また、個々の短尺ヘッド61には、インク噴射箇所としてのノズル62が印刷媒体P1の搬送方向と直交する方向(印刷媒体P1の幅方向)に列状に配置されている。また、個々の短尺ヘッド61の一端が、副走査方向からみて前方または後方にある短尺ヘッド61の一端と重なるように配列されている。このラインヘッド60は、主走査方向および副走査方向に移動可能であり、ノズル62とノズル62間の隙間にドットを印字することも可能である。なお、短尺ヘッド61のノズル62の幅方向(X方向)の列(以下、ノズル列63とする。)は、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックのインクを噴射可能に設けられている。しかしながら、ノズル列63は、4色に限られるものではなく、6色、7色および8色等、何色であっても良い。
【0036】
<用紙サイズ調整>
続いて、本発明の1実施形態に係る印刷装置10の特徴的な部分である用紙サイズ調整について説明する。印刷装置10では、従来の印刷装置とは異なり、仮想的な用紙サイズP2が予め設定されている。図6は、図1に示す印刷装置10に設定されている仮想的な用紙サイズP2をイメージ化した図である。
【0037】
ここで、仮想的な用紙サイズP2の幅方向(図6における左右方向)をX方向、用紙搬送方向(図6における上下方向)をY方向とする。そして、実際に印刷しようとする用紙サイズ(たとえばA4判)から決まる用紙エリアTA(請求項の「印刷領域の所定位置」に対応)のX方向の長さを「Xpaper」、Y方向の長さを「Ypaper」とする。また、仮想的な用紙サイズP2の印刷が行われる印刷エリアPA(印刷データ領域)のX方向の長さを「Xprint」、Y方向の長さを「Yprint」とする。なお、印刷エリアPAは、印刷装置10において取り扱える最大の用紙サイズと同一であることが好ましいが、それ以外の所定の用紙サイズに設定されていてもよい。
【0038】
印刷処理を行う場合、用紙サイズ調整モジュール34Aは、図6に示すように仮想的な用紙サイズP2と実際の用紙サイズとの差分を考慮して印刷されるように、用紙サイズP2の四辺外側に所定の差分領域Axが実際の用紙サイズにより適宜設定し、印刷エリアPAから差分領域Axを除いた用紙エリアTAが決定する。ここで用紙サイズP2の上側の差分量を「Top」、下側の差分量を「Bottom」、左側の差分量を「Left」、右側の差分量を「Right」とすると、用紙エリアTAのX,Y方向の各寸法Xpaper、Ypaperは、以下の(1)、(2)ように示される。
Xpaper=Xprint−Left−Right ・・・(1)
Ypaper=Yprint−Top−Bottom ・・・(2)
【0039】
Top(差分量ΔB)、Bottom(差分量ΔB)、Left(差分量ΔC)、Right(差分量ΔC)は、用紙サイズや給紙位置に応じてそれぞれ可変な値が設定される。たとえば、用紙の中心位置を揃えて給紙されるように差分量Top、Bottom、Left、Rightがそれぞれ設定される。なお、印刷装置10の記憶部35に、上述した差分量ΔBおよび差分量ΔCは、予め用紙サイズ毎に関連付けられて記憶されており、用紙サイズ調整モジュール34Aはこれらの情報を参照する。用紙サイズ調整モジュール34Aは、当該差分量ΔCに相当する空白ラスターデータを1ラスタライン毎の最初の領域に付加することができる。
【0040】
図7は、用紙P4の中央位置をラインCに揃えた場合の用紙サイズ調整をイメージ化した図である。用紙サイズ調整モジュール34Aは、1ラスタライン毎の最初の領域に付加した空白ラスターデータに相当する差分量ΔB1と同じ分だけ、1ラスタラインの最後の領域(印刷終了位置)についても差分量ΔB2を付加する。このような処理とすることで、印刷終了位置の特定が容易になり、印刷処理速度の向上が見込める。
【0041】
このように、印刷装置10の用紙サイズ調整モジュール34Aは、1ラスタライン毎の最初と最後の領域に空白ラスターデータを付加することにより、用紙サイズの変更がなされても、仮想的な基準給紙位置から印刷処理が常に開始することができ、当該変更に伴う給紙位置や印刷開始位置の調整処理が容易となる。
【0042】
また、特許文献1に開示される給紙位置自動設定装置では、検出センサーの検出方向と直交する方向から用紙の先端を挿入しなければ、当該用紙の先端を検出することができなかったが、本願の印刷装置10では、たとえば検出センサーの検出方向と用紙の先端とが平行となる方向から用紙を挿入されるような場合であっても、予め記憶部35に記憶されている差分量に基づいて用紙サイズの調整を行うことができる。つまり、印刷装置10は、用紙サイズが変更されても、給紙位置および印刷開始位置を容易に調整できると共に、給紙位置や印刷開始位置を調整する処理による計算負荷を軽減することができる。
【0043】
<紙送り量の計算>
続いて、本発明の1実施形態に係る印刷装置10の特徴的な部分である紙送り量の計算について説明する。図8は、ラインSに用紙P3,P4の先端を揃えて給紙する場合の給紙位置および印刷開始位置を説明するための図である。図9は、ラインCに用紙P3,P4の中心位置を揃えて給紙する場合の給紙位置および印刷開始位置を説明するための図である。なお、図8および図9でいうラインSとは、印刷装置10の給紙する基準位置を示している。
【0044】
図8に示すように、ラインSに用紙の先端を揃えて給紙する場合は、用紙サイズが異なっても、給紙位置は常に同じ位置となる。一方、図9に示すように用紙P3,P4を、用紙の中心位置をラインCに揃えて給紙する場合には、給紙される用紙サイズによって中心位置が異なる。具体的には、給紙位置が用紙P3の場合にはラインSとなるが、用紙P4の場合にはラインSから差分量ΔBだけラインC方向よりに移動した位置が給紙位置となる。したがって、用紙の中心位置に揃えて印刷する場合には、給紙位置を調整する処理が毎回必要となっていた。しかしながら、印刷装置10においては、仮想的な用紙サイズP2に基づいて印刷処理が行なわれる関係上、用紙の中心位置に揃えて給紙される場合であっても、基準位置を変更する必要がなく、紙送り量について同一の処理によって調整することが可能となる。
【0045】
図10は、図1に示す印刷装置10において給紙される所定の位置までの紙送り量Lorをイメージ化した図である。紙送り調整モジュール34Bは、図10に示す印刷媒体P1がカートリッジホルダ51と所定の位置(基準位置)に対向するまでの距離Lorと、図6,図8,図9で説明した差分量ΔBに相当する距離の総和分だけ紙送りを行う。なお、印刷装置10で印刷処理を開始する前に用紙サイズに対応した指定位置までの紙送り量だけを算出することも可能であり、従来技術のように検出センサーで用紙の先端をその都度検出する必要もなくなる。なお、この紙送り量は用紙サイズ毎に記憶部35に記憶しておいてもよい。
【0046】
このように、印刷装置10の印刷方法は、用紙サイズが変更されても、給紙位置および印刷開始位置を容易に調整できる。また、仮想的な用紙サイズを用いて印刷を行うため、給紙位置や印刷開始位置を調整する処理による計算負荷を軽減することができる。
【0047】
なお、上述した特許文献1に開示される給紙位置自動設定装置では、用紙の先端から用紙の紙送り方向への位置調整をするものであり、用紙の中心位置に紙を揃えて給紙する場合に、用紙の幅方向のずれについては対応することができなかった。しかし、本実施例の印刷装置10の場合には、用紙の中心位置に紙を揃えて給紙する場合であっても、図6に示す印刷エリアPA(印刷データ領域)外の左右両側に備えられた不図示のガイドをΔCの差分だけそれぞれ移動させて用紙を固定することで、用紙の幅方向のずれについても対応することができる。
【0048】
<マスク処理>
続いて、本発明の1実施形態に係る印刷装置10の特徴的な部分であるマスク処理について説明する。図8に示すように、ラインSに用紙の先端を揃えて給紙する場合は、用紙サイズが異なっても、ヘッド61のノズル62Cから印刷が開始されるため、印刷開始位置は常に同じ位置となる。一方、図9に示すように、用紙P3,P4を、用紙の中心位置をラインCに揃えて給紙する場合には、給紙される用紙サイズによって印刷を開始するノズルが異なる。たとえば、用紙P3の場合には、ヘッド61のノズル62Cが印刷を開始するノズルになるが、用紙P4の場合には差分量ΔB分だけラインCよりに位置するノズル62eが印刷を開始するノズルとなる。したがって、用紙の中心位置に揃えて印刷する場合には、印刷を開始するノズルを調整する処理が毎回必要となっていた。
【0049】
マスク処理は、印刷を開始するノズルを調整する処理による計算負荷を軽減するものであり、上述したノズル駆動モジュール34Cと、マスク処理モジュール34Dによって行われる。まず、ノズル駆動モジュール34Cは、各ノズル62に対して共通して用いられる原駆動信号を生成する。そして、ノズル駆動モジュール34Cは、マスク処理モジュール34Dに対して原駆動信号を供給する。一方、マスク処理モジュール34Dは、印刷データのうち印刷エリアTAからはみ出すドットおよび上述した空白ラスターデータに相当するドットを検出し、検出したドットに対応するノズル62によるインクの噴射を禁止するマスク信号を生成する。
【0050】
マスク処理モジュール34Dには、ノズル駆動モジュール34Cからの各ノズルに対応する原駆動信号と、用紙サイズ調整モジュール34Aおよび紙送り調整モジュール34Bを経由して供給された印刷データに基づく印刷信号とが入力される。ここで、印刷信号は、単位領域に対応する単位領域データであり、一単位領域に対して2ビットの情報(0または1)を有する信号である。マスク処理モジュール34Dは、原駆動信号および印刷信号と、用紙サイズ調整モジュール34Aおよび紙送り調整モジュール34Bを経由して供給された印刷データに含まれる空白ラスターデータの有無に応じて、各ノズル62に対応する駆動信号を生成したり生成しなかったりする。具体的には、マスク処理モジュール34Dは、印刷信号と原駆動信号との判定結果(たとえば駆動する場合には1と判定)に加えて、印刷データに含まれる空白ラスターデータの有無をマスク信号(0または1)として生成し、これらの論理積(AND演算)の演算結果に基づいて、ノズル62毎の駆動信号の出力可否を判定する。この判定により、使用されるノズル62以外は未使用状態となる。
【0051】
制御部31は、上述した処理によりマスク処理モジュール34Dから駆動信号が生成された場合には、当該駆動信号に対応するノズル62を駆動させて、当該ノズル62からインク滴を噴射する。なお、上述したノズル駆動モジュール34Cおよびマスク処理モジュール34Dの機能をハードウェアにおいて実現する駆動回路やマスク処理回路を備えるようにしてもよい。これにより、印刷装置10は、印刷開始位置からの印字動作を実現することができる。
【0052】
このように印刷装置10のマスク処理モジュール34Dのマスク処理によって、空白ラスターデータを割り付けられたノズルが未使用に設定されるため、印刷開始位置算出処理を省略することができる。なお、空白ラスターデータのままで印刷処理を行っても当該空白ラスターデータが割り付けられたノズルからインクが噴射されることはないが、空白ラスターデータを付加された印刷データに基づいてそのまま印刷処理を開始するより、高速に印刷処理が可能となる。つまり、印刷装置10の印刷開始位置設定方法は、用紙サイズが変更されても、給紙位置および印刷開始位置を容易に調整できると共に、給紙位置や印刷開始位置を調整する処理による計算負荷を軽減することができる。
【0053】
<変形例>
以上、本発明の一実施の形態について述べたが、本発明はこれ以外にも種々変形可能である。たとえば、上述した印刷装置10の機能は、印刷装置10を構成するコンピューター20とプリンター30以外の、外部接続可能な装置から実現されていても良い。さらに、上述した各機能の全部または一部分を、ハードウェア的に実現されていても良く、ソフトウェア的に実現されていても良い。また、上述した印刷装置10の機能を備える印刷処理プログラム(請求項でいう印刷装置、印刷方法、印刷開始位置設定方法)を、たとえば、CD、DVD、各種メモリー等に記憶させておき、かかる印刷処理プログラムをコンピューター20および/またはプリンター30に読み込ませて、上述の各処理を実行するようにしても良い。
【0054】
また、上述の実施の形態では、図1〜図3に示すような印刷装置10について説明したが、コンピューター20側に印刷装置10の一部または全てが存在する構成を採用しても良く、プリンター30側に印刷装置10の一部または全てが存在する構成を採用しても良い。たとえば、プリンター30の画像処理部35の各機能(用紙サイズ調整モジュール34A、紙送り調整モジュール34B、ノズル駆動モジュール34C、マスク処理モジュール34Dの各機能)の一部または全てをコンピューター20のプリンタードライバー23側で実行するように構成してもよい。また、コンピューター20のプリンタードライバー23の各機能(ラスタライザー23A、色補正処理部23B、色補正テーブル23C、ハーフトーン処理部23Dの各機能)の一部またはすべてを、プリンター30の画像処理部35側で実行するように構成しても良い。
【0055】
また、上述の実施の形態においては、ラインヘッド型のプリンター30を例示して説明している。しかしながら、印刷装置10は、ラインヘッド型のプリンター30には限られない。たとえば、単一のヘッドを備えたシリアルプリンターに対して、本発明を適用することが可能である。また、上述の実施の形態におけるプリンター30は、プリンター機能以外の機能(スキャナ機能、コピー機能等)を備える構成のような、複合的な機器の一部であっても良い。さらに、プリンターとしては、インクジェット方式以外の方式(レーザー方式、ドットインパクト方式等)に対しても、本発明を適用することは勿論可能である。
【符号の説明】
【0056】
10・・・印刷装置、20・・・コンピューター、21・・・OS、22・・・アプリケーション・プログラム、23・・・プリンタードライバー、23A・・・色補正処理部、23B・・・色補正テーブル、23C・・・ハーフトーン処理部、24・・・GDIモジュール、25・・・インターフェース部、30・・・プリンター、31・・・制御部、32・・・プリンターエンジン、32A・・・転送部、32B・・・機構制御部、32C・・・記録ヘッド、33・・・受信部、34・・・画像情報処理部、34A・・・用紙サイズ調整モジュール、34B・・・紙送り調整モジュール、34C・・・ノズル駆動モジュール、34D・・・マスク処理モジュール、35・・・記憶部、40・・・紙送り機構、41・・・紙送りモーター、42・・・給紙ローラ、50・・・インク供給機構、51・・・カートリッジホルダ、52・・・インクカートリッジ、53・・・インク供給路、60・・・ラインヘッド、61・・・短尺ヘッド、62・・・ノズル、63・・・ノズル列、S,C・・・ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷領域の所定位置を仮想的な基準給紙位置として設定すると共に、上記基準給紙位置と実際に印刷する印刷媒体の所定位置との差分を記憶し、上記差分に基づいてインクを噴射させない空白ラスターデータを印刷データに付加し、上記空白ラスターデータが付加された上記印刷データに基づいて上記基準給紙位置から印刷処理を開始する制御部を備えたことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記印刷媒体の中心位置が揃えて給紙されるように前記空白ラスターデータが設定されていることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、
前記印刷媒体の印刷開始位置を特定したときは、前記差分に基づいて前記印刷媒体の印刷終了位置も算出することを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、
前記印刷媒体を指定された位置に給紙するための紙送り量を、前記印刷領域までの紙送り量と前記空白ラスターデータを読み飛ばした際に生じる紙送り量の総和に基づいて決定することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、
前記空白ラスターデータが割り付けられたノズルは実際にインクを噴射させないように設定することを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
印刷領域の所定位置を仮想的な基準給紙位置として設定するステップと、
上記基準給紙位置と実際に印刷する印刷媒体の所定位置との差分を記憶するステップと、
上記差分に基づいてインクを噴射させない空白ラスターデータを印刷データに付加するステップと、
上記空白ラスターデータが付加された印刷データに基づいて、上記基準給紙位置から印刷処理を開始するステップと、
上記印刷媒体を指定された位置に給紙するための紙送り量を、上記印刷領域までの紙送り量と上記空白ラスターデータを読み飛ばした際に生じる紙送り量の総和に基づいて決定するステップと、
を有することを特徴とする印刷方法。
【請求項7】
印刷媒体の所定位置を仮想的な基準給紙位置として設定するステップと、
上記基準給紙位置と実際に印刷する印刷媒体の所定位置との差分を記憶するステップと、
上記差分に基づいてインクを噴射させない空白ラスターデータを印刷データに付加するステップと、
上記空白ラスターデータが付加された印刷データに基づいて、上記基準給紙位置から印刷処理を開始するステップと、
上記空白ラスターデータが割り付けられたノズルを未使用に設定するステップと、
を有することを特徴とする印刷開始位置設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−247390(P2010−247390A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97711(P2009−97711)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】