説明

印刷装置、印刷材カートリッジ、印刷材収容体アダプター、カートリッジセット、及び、アダプターセット

【課題】従来とは異なる手段によって印刷材カートリッジの装着検出を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】印刷装置は、印刷材カートリッジセットが装着されるホルダーと、ホルダー内における印刷材カートリッジの装着状態を検出するための装着検出回路と、を備える。N個の印刷材カートリッジのそれぞれは、収容されている印刷材に関する情報を記憶するための記憶装置と、装着検出用の電気デバイスと、記憶装置用の端子と、電気デバイス用の端子とを有している。N個の印刷材カートリッジの電気デバイスは、ホルダー内にN個の印刷材カートリッジがすべて装着されたときに、検出電圧が予め設定されたしきい値電圧以上となるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、印刷装置に用いる印刷材カートリッジ、及び、カートリッジ用のアダプターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、印刷材カートリッジとして、印刷材に関する情報(例えばインク残量)を格納する記憶装置を搭載したものが利用されている。また、印刷材カートリッジの装着検出を行う技術も利用されている。例えば、特許文献1では、印刷装置のCPUが、インクカートリッジの記憶装置と通信することによって、インクカートリッジが装着されているか否かを検出している。
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術では、ユーザーがインクカートリッジの交換動作を行っている間に装着検出を行おうとすると、カートリッジの記憶装置に通電したままの状態でインクカートリッジの脱着を行う必要が生じる。この場合には、記憶装置の活線挿抜が行われることになるので、その活線挿抜によって、記憶装置内の半導体素子にストレスを与え、ビット誤りを誘発する可能性がある。一方、このようなビット誤りを防ぐために、インクカートリッジの交換動作中にCPUがカートリッジの記憶装置にアクセスしないようにすると、その交換動作中に、印刷装置の表示パネルなどに、どのカートリッジが非装着であるかを表示してユーザーに通知することができず、ユーザーの利便性が大きく損なわれるという問題がある。
【0004】
なお、インクカートリッジの装着検出技術としては、特許文献2に記載されたものも知られている。特許文献2の技術では、印刷装置の装着検出回路が、インクカートリッジ内のインク抵抗値に応じて変わる電圧を検出することによって、インクカートリッジの装着の有無を判定している。しかし、この技術では、複数のインクカートリッジのうちの個々のカートリッジの装着有無を検出するためには、各カートリッジと印刷装置の装着検出回路との間に、装着検出用の配線を個別に設置する必要があるという問題があった。
【0005】
なお、上述の問題は、インクカートリッジに限らず、他の種類の印刷材(例えば、トナー)が収容された印刷材カートリッジについても同様であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−119228号公報
【特許文献2】特開平3−284953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来とは異なる手段によって印刷材カートリッジの装着検出を行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
印刷装置であって、
互いに独立して装着可能な異なるN個(Nは2以上の整数)の印刷材カートリッジで構成されたカートリッジセットが装着されるホルダーと、
前記ホルダー内における印刷材カートリッジの装着状態を検出するための装着検出回路と、
を備え、
前記N個の印刷材カートリッジのそれぞれは、収容されている印刷材に関する情報を記憶するための記憶装置と、前記装着検出回路に対して互いに並列に接続される装着検出用の電気デバイスと、前記記憶装置用の端子と、前記電気デバイス用の端子とを有しており、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、前記ホルダー内に前記N個の印刷材カートリッジがすべて装着されたときに、前記装着検出回路で検出される検出電圧が予め設定されたしきい値電圧以上となるように構成されている、印刷装置。
この印刷装置によれば、記憶装置とは別個に設けられた装着検出用の電気デバイスの装着状態に応じて検出電圧が決定され、また、ホルダー内にN個の印刷材カートリッジがすべて装着されたときにはこの検出電圧が予め設定されたしきい値電圧以上となるので、ホルダー内に印刷材カートリッジがきちんと装着されているか否かを判定することが可能である。また、印刷カートリッジの装着検出の際に、記憶装置の活線挿抜によるビット誤りを心配する必要が無い。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の印刷装置であって、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、前記検出電圧が前記N個の印刷材カートリッジに関する2N種類の装着状態を一意に識別可能な電圧値を取るように構成されており、
前記装着検出回路は、前記検出電圧に基づいて、前記ホルダーにおける印刷材カートリッジの装着状態を判定する、印刷装置。
この構成によれば、検出電圧が、2N種類の装着状態に応じて決まる一意に識別可能な電圧値を取るので、この検出電圧から、ホルダーにおける印刷材カートリッジの装着状態が2N種類の装着状態のいずれであるかを判定することが可能である。
【0011】
[適用例3]
適用例2記載の印刷装置であって、
前記N個の印刷材カートリッジのうちのn番目(n=1〜N)の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、Rを一定値とし、許容誤差εを1/{4(2N-1-1)}としたときに、2nR(1±ε)の範囲内の抵抗値を有する抵抗素子である、印刷装置。
この構成によれば、個々の抵抗値に許容範囲の誤差がある場合にも、検出電圧から2N種類の装着状態を識別することが可能である。
【0012】
[適用例4]
適用例1〜3のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイス用の端子には、前記記憶装置用の端子に印加される電圧よりも高い電圧が前記装着検出回路から供給され、
前記N個の印刷材カートリッジは、さらに、前記電気デバイス用の端子の近傍に設けられた過電圧検出用の端子をそれぞれ有しており、
前記装着検出回路は、前記過電圧検出用の端子を介して過電圧が検出された場合に前記電気デバイスへの前記高い電圧の供給を停止する、印刷装置。
この構成によれば、電気デバイス用の端子と過電圧検出用の端子との間にインクやゴミなどの異物による意図しない短絡が生じた場合に、直ちに過電圧として検出できるので、意図しない短絡に起因して、装着検出用の高電圧が他の回路に印加されて損傷を与える可能性を低減することが可能である。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、印刷材カートリッジ、複数種類の印刷材カートリッジで構成された印刷材カートリッジセット、カートリッジアダプター、複数種類のカートリッジアダプターで構成されたカートリッジアダプターセット、印刷装置、印刷材カートリッジの装着検出方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における印刷装置の構成を示す斜視図。
【図2】実施形態に係るインクカートリッジの構成を示す斜視図。
【図3】実施形態に係る基板の構成を示す図。
【図4】インクカートリッジと印刷装置の電気的構成を示すブロック図。
【図5】カートリッジ検出回路の内部構成を示すブロック図。
【図6】カートリッジの個別装着検出処理の内容を示す説明図。
【図7】装着検出処理の処理手順を示すフローチャート。
【図8】個別装着検出処理の詳細手順を示すフローチャート。
【図9】他の実施形態における個別装着検出部の回路図。
【図10】他の実施形態における個別装着検出部の回路図。
【図11】他の実施形態における個別装着検出部の回路図。
【図12】他の実施形態における個別装着検出部の回路図。
【図13】他の実施形態におけるカートリッジ検出回路の回路図。
【図14】他の実施形態に係る基板の構成を示す図。
【図15】他の実施形態におけるインクカートリッジの構成を示す斜視図。
【図16】他の実施形態におけるインクカートリッジの構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.印刷装置およびインクカートリッジの外観構成:
図1は、本発明の一実施形態における印刷装置の構成を示す斜視図である。印刷装置1000は、副走査送り機構と、主走査送り機構と、ヘッド駆動機構を有している。副走査送り機構は、図示しない紙送りモータを動力とする紙送りローラ10を用いて印刷用紙Pを副走査方向に搬送する。主走査送り機構は、キャリッジモータ2の動力を用いて、駆動ベルトに接続されたキャリッジ3を主走査方向に往復動させる。ヘッド駆動機構は、キャリッジ3に備えられた印刷ヘッド5を駆動してインクの吐出およびドット形成を実行する。印刷装置1000は、さらに、上述した各機構を制御する主制御回路40を備えている。主制御回路40は、キャリッジ3とフレキシブルケーブル37を介して接続されている。
【0016】
キャリッジ3は、ホルダー4と、印刷ヘッド5と、キャリッジ回路(後述)とを備えている。ホルダー4は、複数のインクカートリッジを装着可能に構成され、印刷ヘッド5の上面に配置されている。図1に示す例では、ホルダー4には、4つのインクカートリッジが独立に装着可能であり、例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの4種類のインクカートリッジが1つずつ装着される。なお、ホルダー4には、任意の複数種類のインクカートリッジを装着できるものとしてもよい。ホルダー4には、カバー11が開閉可能に取り付けられている。印刷ヘッド5の上部には、インクカートリッジから印刷ヘッド5にインクを供給するためのインク供給針6が配置されている。
【0017】
図2は、実施形態に係るインクカートリッジの構成を示す斜視図である。インクカートリッジ100は、インクを収容する筐体101と、基板200(「回路基板」とも呼ぶ)と、を備えている。筐体101の内部には、インクを収容するインク室120が形成されている。筐体101の底面には、ホルダー4に装着されたときに、印刷装置のインク供給針6が挿入されるインク供給口110が形成されている。使用前の状態では、インク供給口110の開口はフィルムによって封止されている。なお、インクカートリッジ100とキャリッジ3には、インクカートリッジ100内のインク残量を光学的に検出するためのセンサー機構が設けられているが、ここでは図示が省略されている。なお、以下では、インクカートリッジを単に「カートリッジ」とも呼ぶ。
【0018】
図3(A)は、基板200の表面の構成を示している。基板200の表面は、カートリッジ100に装着されたときに外側に露出している面である。図3(B)は、基板200を側面から見た図を示している。基板200の上端部には、固定用のボス溝201が形成され、基板200の下端部には、ボス穴202が形成されている。
【0019】
図3(A)における矢印Zは、ホルダー4へのカートリッジ100の挿入方向を示している。基板200は、裏面に記憶装置203を備え、表面に9つの端子210〜290からなる端子群を備えている。記憶装置203は、カートリッジ100のインク残量に関する情報を格納する。端子210〜290は、略矩形状に形成され、挿入方向Zと略垂直な列を2列形成するように配置されている。2つの列のうち、挿入方向Z側、すなわち、図3(A)における下側に位置する列を下側列と呼び、挿入方向Zの反対側、すなわち、図3(A)における上側に位置する列を上側列と呼ぶ。
【0020】
上側列を形成する端子210〜240と、下側列を形成する端子250〜290は、それぞれ以下の順に配列されている。
<上側列>
(1)第1の過電圧検出端子210
(2)リセット端子220
(3)クロック端子230
(4)第2の過電圧検出端子240
<下側列>
(5)第1の装着検出端子250
(6)電源端子260
(7)接地端子270
(8)データ端子280
(9)第2の装着検出端子290
【0021】
各端子210〜290は、その中央部に、複数の装置側端子のうちの対応する端子と接触する接触部cpを含んでいる。上側列を形成する端子210〜240の各接触部cpと、下側列を形成する端子250〜290の各接触部cpは、互い違いに配置され、いわゆる千鳥状の配置を構成している。また、上側列を形成する端子210〜240と、下側列を形成する端子250〜290も、互いの端子中心が挿入方向Zに並ばないように、互い違いに配置され、千鳥状の配置を構成している。
【0022】
第1の装着検出端子250は、2つの端子(電源端子260と、第1の過電圧検出端子210)と隣り合っているが、そのうちの第1の過電圧検出端子210は、第1の装着検出端子250の近傍にあり、特に第1の装着検出端子250に最も近い位置に配置されている。同様にして、第2の装着検出端子290は、2つの端子(第2の過電圧検出端子240と、データ端子280)と隣り合っているが、そのうちの第2の過電圧検出端子240は、第2の装着検出端子290の近傍にあり、特に第2の装着検出端子290に最も近い位置に配置されている。
【0023】
接触部cp間の関係についてみると、第1の装着検出端子250の接触部cpは、2つの端子(電源端子260と、第1の過電圧検出端子210)の各接触部cpと隣り合っている。同様にして、第2の装着検出端子290の接触部cpは、2つの端子(第2の過電圧検出端子240と、データ端子280)の各接触部cpと隣り合っている。
【0024】
図3(A)から解るように、第1と第2の装着検出端子250,290は、下側列の両端部、すなわち、下側列の最も外側にそれぞれ配置されている。また、下側列は、上側列より端子数が多く、下側列の挿入方向Zと略垂直方向の長さは上側列の長さより長い。従って、第1と第2の装着検出端子250,290は、上側列および下側列を含む全端子210〜290のうち、挿入方向Zと略垂直方向にみて、最も外側に位置している。
【0025】
また、第1と第2の装着検出端子250,290の接触部cpは、各端子の接触部cpにより形成される下側列の両端部、すなわち、下側列の最も外側にそれぞれ位置している。また、第1と第2の装着検出端子250,290の接触部cpは、上側列および下側列を含む全端子210〜290の接触部cpの中で、挿入方向Zと略垂直方向にみて、最も外側に位置している。
【0026】
第1と第2の過電圧検出端子210,240は、上側列の両端部、すなわち、上側列の最も外側にそれぞれ配置されている。結果として、第1と第2の過電圧検出端子210,240の接触部cpも、同様に、各端子の接触部cpにより形成される上側列の両端部、すなわち、最も外側に位置している。従って、記憶装置203用の端子220、230、260、270、280は、第1の過電圧検出端子210および第1の装着検出端子250のペアと、第2の過電圧検出端子240および第2の装着検出端子290のペアとに両側から挟まれるように配置されている。
【0027】
B.印刷装置およびインクカートリッジの電気的構成:
図4は、インクカートリッジ100と印刷装置1000との電気的構成を示すブロック図である。印刷装置1000は、表示パネル30と、主制御回路40と、キャリッジ回路500とを備えている。表示パネル30は、ユーザーに印刷装置1000の動作状態や、カートリッジの装着状態などの各種の通知を行うための表示部である。主制御回路40は、CPU410と、メモリー420と、非装着状態検出部430とを有している。メモリー420には、カートリッジの装着の有無を判定する際に使用されるしきい値を格納したしきい値テーブルTTが記憶されている。CPU410は、このしきい値テーブルTTから読み出したしきい値を使用して、ホルダー4に装着されているカートリッジの種類を判定する(後述)。なお、しきい値テーブルTTは、EEPROMなどの不揮発性メモリー内に格納されていることが好ましい。キャリッジ回路500は、メモリー制御回路501と、カートリッジ検出回路502とを有している。
【0028】
カートリッジ100の基板200(図3(A))に設けられた9つの端子のうち、リセット端子220と、クロック端子230と、電源端子260と、接地端子270と、データ端子280は、記憶装置203に電気的に接続されている。記憶装置203は、例えば、シリアルにアクセスされるメモリセルアレイ(図示省略)を備えており、クロック信号SCKに同期してデータの読み書きを行う不揮発性メモリである。クロック端子230は、キャリッジ回路500の端子530と電気的に接続され、キャリッジ回路500から記憶装置203にクロック信号SCKを供給するために用いられる。電源端子260と接地端子270には、印刷装置1000側の端子560,570を介して電源電圧(例えば3.3V)と接地電圧(0V)がそれぞれ供給されている。データ端子280は、キャリッジ回路500の端子580と電気的に接続され、キャリッジ回路500と記憶装置203との間で、データ信号SDAをやり取りするために用いられる。リセット端子220は、キャリッジ回路500の端子520と電気的に接続され、キャリッジ回路500から記憶装置203にリセット信号RSTを供給するために用いられる。
【0029】
第1と第2の過電圧検出端子210,240は、カートリッジ100の基板200(図3(A))内で配線で接続されており、また、キャリッジ回路500の端子510,540とそれぞれ電気的に接続されている。なお、2つの端子が配線で接続されている状態を、「短絡接続」又は「導線接続」とも呼ぶ。配線による短絡接続は、意図しない短絡とは異なる状態である。第1と第2の装着検出端子250,290は、その間に装着検出用の抵抗素子204が設けられており、また、キャリッジ回路500の端子550、590とそれぞれ電気的に接続されている。
【0030】
メモリー制御回路501は、カートリッジ100の記憶装置203を制御してデータの読み書きを実行する回路である。メモリー制御回路501とカートリッジの記憶装置203とは、比較的低い電圧(本実施形態では、定格3.3V)で動作する低電圧回路である。
【0031】
カートリッジ検出回路502は、主制御回路40と協働して、ホルダー4におけるカートリッジの装着検出を行うための回路である。なお、カートリッジ検出回路502と主制御回路40とを併せて、「装着検出回路」とも呼ぶ。カートリッジ検出回路502とカートリッジの抵抗素子204とは、記憶装置203に比べて高い電圧(本実施形態では、定格42V)で動作する高電圧回路である。
【0032】
図5は、カートリッジ検出回路502の内部構成を示すブロック図である。ここでは、4つのカートリッジ100がホルダーに装着された状態が示されており、各カートリッジを区別するために参照符号IC1〜IC4が使用されている。カートリッジ検出回路502は、検出電圧制御部610と、過電圧検出部620と、個別装着電圧値検出部630とを有している。
【0033】
カートリッジ検出回路502内には、装着検出用の高電圧電源VHVが設けられている。この高電圧電源VHVは、トランジスタ612を介して、各カートリッジIC1〜IC4の装着位置に設けられた4つの装置側端子550に並列に接続されている。なお、高電圧電源VHVの電圧値を、「高電圧VHV」と呼ぶ。トランジスタ612は、検出電圧制御部610によってオン/オフ制御される。各装置側端子550は、対応するカートリッジの第1の装着検出端子250に接続されている。各カートリッジ内では、第1と第2の装着検出端子250,290の間に、抵抗素子204がそれぞれ設けられている。但し、4つのカートリッジIC1〜IC4では、抵抗素子204の抵抗値が互いに異なる値に設定されている。具体的には、n番目(n=1〜4)のカートリッジICnの抵抗素子204の抵抗値は、2nR(Rは一定値)に設定されている。4つのカートリッジIC1〜IC4の第2の装着検出端子290は、対応する装置側端子590を介して、個別装着電圧値検出部630に並列に接続されている。また、これらの装置側端子590は、カートリッジ検出回路502内に設けられた基準抵抗634を介して接地されている。この基準抵抗634の抵抗値Rは、カートリッジ内の抵抗素子204の最も小さい抵抗値2Rの1/2の値に設定されている。図5から理解できるように、4つのカートリッジIC1〜IC4の装着検出用の抵抗素子204は、カートリッジ検出回路502に対して互いに並列に接続される。個別装着電圧値検出部620は、これらのカートリッジの装着状態に応じて決まる検出電圧VDETを検出する回路である。検出電圧VDETを、「個別装着検出電圧」、又は、単に「装着検出電圧」とも呼ぶ。この検出電圧VDETの値については後述する。
【0034】
各カートリッジ内において、第1と第2の過電圧検出端子210,240は配線で接続されている。1番目のカートリッジIC1の第1の過電圧検出端子210は、対応する装置側端子510を介してカートリッジ検出回路502内の配線651に接続されており、この配線651は、抵抗652を介して低電圧電源VDDに接続されている。また、この配線651は、主制御回路40内の非装着状態検出部430(図4)に接続されている。なお、低電圧電源VDDの電圧値を、「低電圧VDD」と呼ぶ。n番目(n=1〜3)のカートリッジの第2の過電圧検出端子240と、n+1番目のカートリッジの第1の過電圧検出端子210とは、対応する装置側端子540,510を介して互いに接続されている。また、4番目のカートリッジIC4の第2の過電圧検出端子240は、抵抗654を介して接地電位に接続されている。すべてのカートリッジIC1〜IC4がホルダー内に装着されていれば、非装着状態検出部430に接続されている配線651の電圧は、電源電圧VDDを2つの抵抗652,654で分圧した所定の電圧値となる。一方、1つでも未装着のカートリッジがあれば、配線651の電圧は電源電位VDDとなる。従って、非装着状態検出部430は、この配線651の電圧を監視することによって、未装着のカートリッジが存在するか否かを判定することができる。このように、本実施形態では、すべてのカートリッジIC1〜IC4がホルダー内に装着されたときには各カートリッジの過電圧検出端子240,210が順次直列に接続されるので、その接続先の配線651の電圧を検出することによって、1つ以上のカートリッジが未装着であるか否かを直ちに判定することが可能である。
【0035】
さらに、4つのカートリッジIC1〜IC4の第1の過電圧検出端子210は、対応する装置側端子510を介して、ダイオード641〜644のアノード端子に接続される。また、4つのカートリッジIC1〜IC4の第2の過電圧検出端子240は、対応する装置側端子540を介して、ダイオード642〜645のアノード端子に接続される。なお、第2のダイオード642のアノード端子は、第1のカートリッジIC1の第2の過電圧検出端子240と、第2のカートリッジIC2の第1の過電圧端子210に共通に接続される。ダイオード643,644も同様に、1つのカートリッジの第2の過電圧検出端子240と隣接するカートリッジの第1の過電圧検出端子210に共通に接続される。これらのダイオード641〜645のカソード端子は、過電圧検出部620に並列に接続される。これらのダイオード641〜645は、過電圧検出端子210,240に異常な高電圧(具体的には、低電圧電源VDDの電圧値を超える電圧)が印加されていないか否かを監視するために使用される。このような異常な電圧値(「過電圧」と呼ぶ)は、各カートリッジの過電圧検出端子210,240のいずれかと、装着検出端子250,290のいずれかとの間に意図しない短絡が生じている場合に発生する。例えば、インク滴やゴミが基板200(図3(A))の表面に付着すると、第1の過電圧検出端子210と第1の装着検出端子250の間、又は、第2の過電圧検出端子240と第2の装着検出端子290の間に意図しない短絡が発生する可能性がある。このような意図しない短絡が発生すると、ダイオード641〜645のいずれかを介して過電圧検出部620に電流が流れるので、過電圧検出部620は、過電圧の発生の有無、及び、意図しない短絡の発生の有無を判定することが可能である。なお、過電圧が検出されると、過電圧検出部620から検出電圧制御部610に過電圧の発生を示す信号が供給され、これに応じて検出電圧制御部610がトランジスタ612をオフに設定する。これは、過電圧によって生じ得る印刷装置やカートリッジの損傷を防止するためである。なお、過電圧検出部620は、短絡検出部と呼ぶことも可能である。
【0036】
以上のように、本実施形態では、過電圧検出端子210,240は、ホルダー4にすべてのカートリッジが装着されているか否かの検出処理(全カートリッジ装着検出)と、過電圧検出端子210,240と装着検出端子250,290との間の意図しない短絡の有無の検出処理と、の両方に使用されている。但し、これらの2つの検出処理の一方又は両方を省略することも可能である。また、過電圧検出端子210,240を使用したこれらの2つの検出処理を両方とも行わない場合には、端子210,240,510,540と、ダイオード641〜645と、過電圧検出部620等の回路要素を省略可能である。
【0037】
図6(A),(B)は、個別装着電圧値検出部630及びCPU410によって行われるカートリッジの個別装着検出処理の内容を示す説明図である。図6(A)は、4つのカートリッジIC1〜IC4がすべて装着された状態を示している。4つのカートリッジの抵抗素子204は、高電圧電源VHVと個別装着電圧値検出部630との間に互いに並列に接続される。個別装着電圧値検出部630で検出される検出電圧VDETは、これらの抵抗素子204の合成抵抗値Rcと、基準抵抗634の抵抗値Rとで高電圧VHVを分圧した値である。ここで、カートリッジの個数をNとしたとき、N個のカートリッジがすべて装着されている場合には、検出電圧VDETは以下の式で与えられる。
【数1】

【数2】

また、1つ以上のカートリッジが未装着であれば、これに応じて合成抵抗値Rcが上昇し、検出電圧VDETは低下する。
【0038】
図6(B)は、カートリッジIC1〜IC4の装着状態と、検出電圧VDETとの関係を示している。図の横軸は、16種類の装着状態を示しており、縦軸はこれらの装着状態における検出電圧VDETの値を示している。16種類の装着状態は、4つのカートリッジIC1〜IC4から任意に1〜4個を選択することによって得られる16個の組み合わせに対応している。なお、これらの個々の組み合わせを「サブセット」とも呼ぶ。検出電圧VDETは、これらの16種類の装着状態を一意に識別可能な電圧値となる。換言すれば、4つのカートリッジIC1〜IC4の抵抗素子204の抵抗値は、4つのカートリッジが取り得る16種類の装着状態に応じて、互いに異なる合成抵抗値Rcを与えるように設定されている。
【0039】
高電圧VHVの電圧が42Vのとき、4つのカートリッジIC1〜IC4がすべて装着状態にあれば、検出電圧VDETは20.3Vとなる。一方、最も抵抗値の大きな抵抗素子204を有するカートリッジIC4のみが未装着の状態では、検出電圧VDETは19.6Vとなる。従って、検出電圧VDETが、これらの電圧間の値として予め設定されたしきい値電圧Vthmax以上であるか否かを調べることにより、4つのカートリッジIC1〜IC4がすべて装着されているか否かを検出することが可能である。なお、個別装着検出のために、通常のロジック回路の電源電圧(約3.3V)よりも高い電圧VHVを使用する理由は、検出電圧VDETのダイナミックレンジを広くとることによって、検出精度を高めるためである。
【0040】
個別装着電圧値検出部630は、検出電圧VDETをデジタル信号SVDETに変換して、主制御回路40のCPU410(図4)にその検出電圧信号SVDETを送信する。CPU410は、この検出電圧信号SVDETの値を、しきい値テーブルTT内に予め格納されている15個のしきい値と順次比較することによって、16種類の装着状態のいずれであるかを判定することが可能である。すなわち、CPU410は、検出電圧値VDETから装着状態を判定する判定回路としての機能を有している。
【0041】
図7は、主制御回路40とカートリッジ検出回路502とによって行われる装着検出処理の処理手順を示すフローチャートである。この装着検出処理は、キャリッジ3がカートリッジ交換のための位置(「カートリッジ交換位置」と呼ぶ)に停止して、ホルダー4のカバー11(図1)が開かれると開始される。カートリッジ交換位置は、キャリッジ3の主走査方向の一方側の端部付近(例えば図1の右端付近)に予め設定されている。なお、カートリッジ交換位置では、カートリッジの記憶装置203は非通電状態(電源電圧VDDが供給されない状態)となる。
【0042】
キャリッジ3がカートリッジ交換位置に停止すると、ステップS110,S120において、非装着状態検出部430(図4)が、すべてのカートリッジがホルダー4に装着されているか否かを検出する。すべてのカートリッジが装着されていれば、ステップS120から後述するステップS140に進む。一方、1つ以上のカートリッジが未装着である場合には、ステップS130において、主制御回路40が、所定の非装着エラー処理を実行する。非装着エラー処理は、例えば、表示パネル30に「カートリッジが正しく装着されていません」のような通知(未装着カートリッジがある旨の通知)を表示する処理である。ステップS140では、カートリッジ検出回路502の検出電圧制御部610(図5)がトランジスタ612をオフからオンに切り換えて、装着検出用の高電圧VHVをカートリッジの装着検出用デバイス(具体的には抵抗素子204)に印加する。ステップS150、S160では、過電圧検出部620が、過電圧(電源電圧VDDより高い電圧)が発生しているか否かを検出する。過電圧が発生している場合には、ステップS200において、過電圧検出部620が検出電圧制御部610に過電圧の発生を通知し、トランジスタ612をオフさせる。この場合には、表示パネル30に、過電圧が発生した旨や、カートリッジを一度脱着して再度挿入する操作を行うことなどの指示を表示させてもよい。一方、過電圧が生じていない場合には、ステップS160からステップS170に進み、カートリッジの個別装着検出処理が実行される。
【0043】
図8は、個別装着検出処理の詳細手順を示すフローチャートである。ステップS210(1)では、CPU410が、個別装着電圧値検出部630から供給された検出電圧信号SVDETの値と、1番目のしきい値とを比較する。この1番目のしきい値は、全カートリッジが非装着の場合の検出電圧値VDETと、最も抵抗値の大きな抵抗素子204を有するカートリッジIC4が装着されている場合の検出電圧値VDETとの間の電圧値に相当する予め設定された値である。検出電圧値VDETが1番目のしきい値以下であれば、全カートリッジが非装着なので、ステップS220でその旨を表示パネル30に表示して処理を終了する。以下同様に、ステップS210(2N−1)まで、それぞれ予め設定されたしきい値と検出電圧値VDETとを比較することによって、図6(B)の下部に示した2N個の装着状態(装着パターン)のいずれであるかを判定し、表示パネル30に判定結果(未装着のカートリッジの種類)を表示することが可能である。なお、本実施形態ではN=4なので、15個のしきい値が使用される。
【0044】
こうして個別装着検出処理が終了すると、図7のステップS180に戻り、ホルダー4のカバー11が閉じられたか否かが判断される。カバー11が閉じられていなければ、ステップS180からステップS110に戻り、上述したステップS110以降の処理が再度実行される。一方、カバー11が閉じられると、ステップS190において、検出電圧制御部610が装着検出用のトランジスタ612をオフさせて、処理が完了する。
【0045】
このように、本実施形態では、カートリッジの交換の最中に個々のカートリッジの未装着状態が表示パネル30に表示されるので、ユーザーはこの表示を見ながらカートリッジ交換を実行することが可能である。特に、カートリッジの交換時に新しいカートリッジをホルダー4に装着すると、そのカートリッジが装着されている旨が表示パネル30に表示されるので、カートリッジ交換作業に不慣れなユーザーでも安心して次の操作に進むことが可能である。また、本実施形態では、カートリッジの記憶装置203が非通電の状態でカートリッジの脱着と装着検出を行うことができるので、いわゆる記憶装置の活線挿抜によって生じるビット誤りの発生を防止することが可能である。
【0046】
また、本実施形態では、過電圧検出端子250,290に過電圧が発生している場合には、直ちに装着検出用の高電圧VHVの印加を解除するので、印刷装置やカートリッジの電気回路に過電圧による損傷が生じるのを防止することが可能である。
【0047】
C.カートリッジの装着検出用抵抗素子の許容誤差:
図6(A),(B)で説明したように、カートリッジの個別装着検出処理は、N個のカートリッジに関する2N種類の装着状態に応じて合成抵抗値Rcが一意に決まり、これに応じて検出電圧VDETが一意に決まることを利用している。以下では、カートリッジの抵抗素子204の抵抗値の許容誤差について検討する。
【0048】
まず、カートリッジの個数Nが4である場合を考える。抵抗値の許容誤差をεとしたとき、4つの抵抗素子204(図6(A))の抵抗値は、それぞれ(1±ε)2R,(1±ε)4R,(1±ε)8R,(1±ε)16Rの範囲の値を取ることが許容される。ところで、図6(B)の16種類の装着状態のうちで、最も合成抵抗値Rcの差が小さく、従って最も検出電圧Vdetが大きな2つの状態は、全カートリッジIC1〜IC4が装着された状態と、4番目のカートリッジIC4のみが非装着の状態である。ここで、全カートリッジIC1〜IC4が装着された状態の第1の合成抵抗値をRc1とし、4番目のカートリッジIC4のみが非装着である状態の第2の合成抵抗値をRc2とすると、Rc1<Rc2が成立する。この関係は、各抵抗素子204の抵抗値が許容誤差εの範囲内で変動する場合にも成立することが好ましい。このとき、最悪条件は、第1の合成抵抗値Rc1がその最大値Rc1maxを取り、第2の合成抵抗値Rc2がその最小値Rc2minを取る場合である。このとき、Rc1max<Rc2minが成立することが好ましく、これを書き換えると次式となる。
【数3】

【0049】
(3)式のRc1maxとRc2minは、それぞれ以下の式で与えられる。
【数4】

【数5】

【0050】
(3)式に(4),(5)式を代入すると次の(6)式が成立し、これを変形すると(7)式となる。
【数6】

【数7】

【0051】
(7)式において、誤差εは1に比べて十分に小さいので、(1−ε)=1とおけば次式が成立し、抵抗値の許容誤差εは3.6%となる。
【数8】

【0052】
以上の考察を一般化すると、カートリッジの個数がNの場合には、許容誤差εは次式で与えられる。
【数9】

【0053】
すなわち、許容誤差εが(9)式を満足すれば、常にN個のカートリッジの装着状態に応じて合成抵抗値Rcが一意に決まり、これに応じて検出電圧VDETが一意に決まることを保証することができる。但し、実際の設計上の抵抗値の許容誤差は、(9)式の右辺の値よりも小さな値に設定することが好ましい。また、上述のような検討を行わずに、抵抗素子204の抵抗値の許容誤差を十分に小さな値(例えば1%以下の値)に設定するようにしてもよい。
【0054】
D.他の実施形態:
図9は、他の実施形態における個別装着検出部の構成を示す回路図である。この回路は、図6(A)の回路と基準抵抗634の抵抗値が異なるだけである。すなわち、基準抵抗634の抵抗値は、図6(A)ではRであり、図9では2Rである。図9の回路においても図6(B)と同様に、N個のカートリッジの2N種類の装着状態に応じて検出電圧VDETが一意に決まる特性が得られる。このように、基準抵抗634の抵抗値は、カートリッジの抵抗素子204の抵抗値とは無関係に選択することが可能である。なお、実際の個別装着検出部は、検出電圧値VDETから装着状態を判定する判定回路(例えば図4のCPU410)も含んでいるが、図9では図示が省略されている。
【0055】
図10は、更に他の実施形態における個別装着検出部の構成を示す回路図である。この回路は、図6(A)の回路とカートリッジの抵抗素子204の抵抗値が異なるだけである。すなわち、図10の回路では、4つのカートリッジIC1〜IC4の抵抗値が、2R,4R,10R,30Rとなっている。ここでは、2つのカートリッジの抵抗値の比の値が、2と2.5と3であり、それぞれ異なる値となっている。一般に、2つのカートリッジの抵抗値の比として2以上の値を採用すれば、N個のカートリッジの2N種類の装着状態に応じて、それらの合成抵抗値Rcが一意に決まるような回路構成を得ることができる。この例から理解できるように、カートリッジの抵抗素子204の抵抗値は、2nRである必要は無く、N個のカートリッジの2N種類の装着状態に応じて合成抵抗値Rcが一意に決まるような種々の抵抗値を採用可能である。
【0056】
図11は、更に他の実施形態における個別装着検出部の構成を示す回路図である。この回路は、8個のカートリッジIC1〜IC8のための回路である。4個のカートリッジIC1〜IC4と、他の4個のカートリッジIC5〜IC8は、別個の個別装着検出部を構成しており、それぞれに個別装着電圧値検出部630a,630bが設けられている。このように、印刷装置に装着されるすべてのカートリッジの個別装着検出を1つの個別装着検出部で検出する必要はなく、複数の組に分けて各組毎に個別装着検出を行うようにしてもよい。また、各組に含まれるカートリッジの個数は異なっていても良い。このように、カートリッジの組み分け(グルーピング)を行えば、印刷装置に装着されるカートリッジの個数が多くなったときにも、上述した許容誤差εが過度に小さくならないので、個別装着検出部を容易に構成することができる。
【0057】
図12は、更に他の実施形態における個別装着検出部の構成を示す回路図である。この回路は、図6(A)におけるカートリッジの抵抗素子204を、定電圧源206に置き換えたものである。これらの定電圧源206は、高電圧VHVを受けて一定の電圧Vconstを出力する。この一定電圧Vconstは、図6(B)に示したしきい値電圧Vthmaxよりも大きな値に設定されている。この構成においても、CPU410(判定回路)に、カートリッジが装着されているものと判定させることが可能である。なお、図12の構成では、個別装着検出はできなくなるが、特別な用途(1個のカートリッジの装着状態で試験やクリーニング等を行いたいとき、あるいは、個別装着検出を行わないようにしたいときなど)に利用可能である。
【0058】
なお、図12において、定電圧源206の代わりに、図6(A)に記載されている合成抵抗値RcのN倍の抵抗値N×Rcを有する同一の抵抗素子204を、すべてのカートリッジに搭載するようにしてもよい。この構成では、すべてのカートリッジが搭載されたときに、検出電圧VDETがしきい値電圧Vthmaxよりも大きくなるので、すべてのカートリッジが装着されている場合に未装着なカートリッジが無いことを正しく判定することが可能である。
【0059】
なお、カートリッジの装着検出端子250,290(図3(A),図4)に接続された電気デバイスとしては、抵抗素子204や定電圧源206以外の他の任意の種類の電気デバイスを採用可能である。但し、このような電気デバイスは、ホルダー4内にN個のカートリッジがすべて装着されたときに、個別装着検出用の検出電圧VDETが、予め設定されたしきい値電圧Vthmax以上となるように構成されていることが好ましい。
【0060】
図13は、他の実施形態におけるカートリッジ検出回路の構成を示す回路図である。この回路は、図5に示したカートリッジ検出回路に描かれていた抵抗652,654を省略し、この代わりに検知パルス発生部650を設けたものであり、他の構成は図5と同じである。検知パルス発生部650は、図7のステップS110において矩形状の検知パルスDPを発生する。この検知パルスDPは、すべてのインクカートリッジの過電圧検出端子240,210を順次経由した後に、非装着状態検出部430(図4)で受信される。非装着状態検出部430は、この検知パルスDPの波形を解析することによって、インクカートリッジの端子の接触状態が、高抵抗である不十分な接触状態(接触不良)であるか否かを判定することが可能である。すなわち、非装着状態検出部430は、単にすべてのカートリッジが装着されているか否かだけでなく、不十分な接触状態にあるか否かを検出ことができる。接触状態が不十分である場合には、例えば、表示パネル30にカートリッジの再装着を促す通知を表示するようにしてもよい。
【0061】
図14は、更に他の実施形態における基板の構成を示す図である。これらの基板200a〜200cは、図3(A)に示した基板200と端子210〜290の表面形状が異なるだけである。但し、これらの基板200a〜200cにおいても、各端子210〜290に対応する装置側端子との接触部cpの配置は、図3(A)の基板200と同じである。このように、個々の端子の表面形状としては、接触部cpの配置が同一である限り、種々の変形が可能である。
【0062】
図15、図16は、他の実施形態におけるインクカートリッジの構成を示す斜視図である。このインクカートリッジは、インク収容部100Bと、アダプター100Aとに分離されている。
【0063】
インク収容部100Bは、インクを収容する筐体101Bと、インク供給口110と、を含んでいる。筐体101Bの内部には、インクを収容するインク室120Bが形成されている。インク供給口110は、筐体101Bの底壁に形成されている。インク供給口110は、インク室120Bに連通している。
【0064】
アダプター100Aは、本体101Aと、基板200とを備えている。本体101Aの内部には、インク収容部100Bを受け入れる空間101ASが形成されている。本体101Aの上部には、空間101ASへ通じる開口が設けられている。インク収容部100Bが空間101ASの中に収められた状態では、インク供給口110が、開口101AHを通じて、アダプター100Aの外へ突出する。なお、アダプター100Aの側壁の一部は省略することが可能である。
【0065】
このように、インクカートリッジは、インク収容部100B(「印刷材収容体」とも呼ぶ)と、アダプター100Aとに分離することも可能である。この場合には、回路基板200は、アダプター100A側に設けられることが好ましい。
【0066】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0067】
・変形例1:
上記実施形態では、インクカートリッジには、記憶装置203と抵抗素子204とが搭載されているが、インクカートリッジに搭載される複数の電気デバイスは、これらに限られず、1つ以上の任意の種類の電気デバイスをインクカートリッジに搭載するようにしてもよい。例えば、インク量検出のためのセンサーとして、光学的なセンサーの代わりに、電気デバイス(例えば圧電素子や、抵抗素子)をインクカートリッジに設けても良い。また、上記実施形態では、記憶装置203と抵抗素子204の両方が基板200に設けられているが、カートリッジの電気デバイスは、他の任意の部材上に配置することが可能である。例えば、記憶装置203は、カートリッジの筐体や、アダプター、あるいは、カートリッジとは別体の他の構造体上に配置されても良い。
【0068】
・変形例2:
上記実施形態では、n番目のカートリッジ内の1つの抵抗素子204によって個々のカートリッジの装着を検出するための装着検出用抵抗が形成されているが、この装着検出用抵抗の抵抗値は、複数の抵抗素子で実現してもよい。また、これらの単一の抵抗素子又は複数の抵抗素子は、カートリッジと印刷装置本体の一方のみに設けてもよく、あるいは、装着検出用抵抗を構成する複数の抵抗素子をカートリッジと印刷装置本体の両方に分けて配置するようにしてもよい。
【0069】
・変形例3:
上記実施形態で記載されている各種の構成要素のうち、特定の目的・作用・効果に関係の無い構成要素は省略可能である。例えば、カートリッジ内の記憶装置203は、カートリッジの個別装着検出に使用されていないので、カートリッジの個別装着検出を主な目的とする場合には省略可能である。
【0070】
・変形例4:
上記実施形態では、インクカートリッジ100に本発明を適用しているが、インクカートリッジに限らず、他の印刷材、例えば、トナーが収容された印刷材収容体についても同様に本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
2…キャリッジモータ
3…キャリッジ
4…ホルダー
5…印刷ヘッド
6…インク供給針
10…紙送りローラ
11…カバー
30…表示パネル
37…フレキシブルケーブル
40…主制御回路
100…インクカートリッジ(印刷材カートリッジ)
100A…アダプター
100B…インク収容部
101…筐体
101A…本体
101AH…開口
101AS…空間
101B…筐体
102…蓋体
103…張り出し部
105…凹部
107…リブ
108…ボス
110…インク供給口
120B…インク室
200…基板(回路基板)
201…ボス溝
202…ボス穴
203…記憶装置
204…抵抗素子
206…定電圧源
210,240…過電圧検出端子
220…リセット端子
230…クロック端子
250,290…装着検出端子
260…電源端子
270…接地端子
280…データ端子
410…CPU
420…メモリー
430…非装着状態検出部
500…キャリッジ回路
501…メモリー制御回路
502…カートリッジ検出回路
510〜590…装置側端子
610…検出電圧制御部
612…トランジスタ
620…過電圧検出部
630…個別装着電圧値検出部
634…基準抵抗
642〜644…ダイオード
650…検知パルス発生部
651…配線
652,654…抵抗
1000…印刷装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷装置であって、
互いに独立して装着可能な異なるN個(Nは2以上の整数)の印刷材カートリッジで構成されたカートリッジセットが装着されるホルダーと、
前記ホルダー内における印刷材カートリッジの装着状態を検出するための装着検出回路と、
を備え、
前記N個の印刷材カートリッジのそれぞれは、収容されている印刷材に関する情報を記憶するための記憶装置と、前記装着検出回路に対して互いに並列に接続される装着検出用の電気デバイスと、前記記憶装置用の端子と、前記電気デバイス用の端子とを有しており、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、前記ホルダー内に前記N個の印刷材カートリッジがすべて装着されたときに、前記装着検出回路で検出される検出電圧が予め設定されたしきい値電圧以上となるように構成されている、印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の印刷装置であって、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、前記検出電圧が前記N個の印刷材カートリッジに関する2N種類の装着状態を一意に識別可能な電圧値を取るように構成されており、
前記装着検出回路は、前記検出電圧に基づいて、前記ホルダーにおける印刷材カートリッジの装着状態を判定する、印刷装置。
【請求項3】
請求項2記載の印刷装置であって、
前記N個の印刷材カートリッジのうちのn番目(n=1〜N)の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、Rを一定値とし、許容誤差εを1/{4(2N-1-1)}としたときに、2nR(1±ε)の範囲内の抵抗値を有する抵抗素子である、印刷装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の印刷装置であって、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイス用の端子には、前記記憶装置用の端子に印加される電圧よりも高い電圧が前記装着検出回路から供給され、
前記N個の印刷材カートリッジは、さらに、前記電気デバイス用の端子の近傍に設けられた過電圧検出用の端子をそれぞれ有しており、
前記装着検出回路は、前記過電圧検出用の端子を介して過電圧が検出された場合に前記電気デバイスへの前記高い電圧の供給を停止する、印刷装置。
【請求項5】
印刷材カートリッジの装着検出回路を有する印刷装置のホルダー内に互いに独立して装着可能な異なるN個(Nは2以上の整数)の印刷材カートリッジで構成されたカートリッジセットであって、
前記N個の印刷材カートリッジのそれぞれは、収容されている印刷材に関する情報を記憶するための記憶装置と、前記装着検出回路に対して互いに並列に接続される装着検出用の電気デバイスと、前記記憶装置用の端子と、前記電気デバイス用の端子とを有しており、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、前記ホルダー内に前記N個の印刷材カートリッジがすべて装着されたときに、前記装着検出回路で検出される検出電圧が予め設定されたしきい値電圧以上となるように構成されている、カートリッジセット。
【請求項6】
請求項5記載のカートリッジセットであって、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、前記検出電圧が前記N個の印刷材カートリッジに関する2N種類の装着状態を一意に識別可能な電圧値を取るように構成されている、カートリッジセット。
【請求項7】
請求項6記載のカートリッジセットであって、
前記N個の印刷材カートリッジのうちのn番目(n=1〜N)の印刷材カートリッジの前記電気デバイスは、Rを一定値とし、許容誤差εを1/{4(2N-1-1)}としたときに、2nR(1±ε)の範囲内の抵抗値を有する抵抗素子である、カートリッジセット。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載のカートリッジセットであって、
前記N個の印刷材カートリッジの前記電気デバイス用の端子には、前記記憶装置用の端子に印加される電圧よりも高い電圧が供給され、
前記N個の印刷材カートリッジは、さらに、前記電気デバイス用の端子の近傍に設けられた過電圧検出用の端子をそれぞれ有する、カートリッジセット。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか一項に記載のカートリッジセットを構成するためのn番目(n=1〜N)の印刷材カートリッジ。
【請求項10】
印刷材収容体アダプターの装着検出回路を有する印刷装置のホルダー内に互いに独立して装着可能な異なるN個(Nは2以上の整数)の印刷材収容体アダプターで構成されたアダプターセットであって、
前記N個の印刷材収容体アダプターのそれぞれは、印刷材収容体に収容されている印刷材に関する情報を記憶するための記憶装置と、前記装着検出回路に対して互いに並列に接続される装着検出用の電気デバイスと、前記記憶装置用の端子と、前記電気デバイス用の端子とを有しており、
前記N個の印刷材収容体アダプターの前記電気デバイスは、前記ホルダー内に前記N個の印刷材収容体アダプターがすべて装着されたときに、前記装着検出回路で検出される検出電圧が予め設定されたしきい値電圧以上となるように構成されている、アダプターセット。
【請求項11】
請求項10記載のアダプターセットであって、
前記N個の印刷材収容体アダプターの前記電気デバイスは、前記検出電圧が前記N個の印刷材収容体アダプターに関する2N種類の装着状態を一意に識別可能な電圧値を取るように構成されている、アダプターセット。
【請求項12】
請求項11記載のアダプターセットであって、
前記N個の印刷材収容体アダプターのうちのn番目(n=1〜N)の印刷材収容体アダプターの前記電気デバイスは、Rを一定値とし、許容誤差εを1/{4(2N-1-1)}としたときに、2nR(1±ε)の範囲内の抵抗値を有する抵抗素子である、アダプターセット。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一項に記載のアダプターセットであって、
前記N個の印刷材収容体アダプターの前記電気デバイス用の端子には、前記記憶装置用の端子に印加される電圧よりも高い電圧が供給され、
前記N個の印刷材収容体アダプターは、さらに、前記電気デバイス用の端子の近傍に設けられた過電圧検出用の端子をそれぞれ有する、アダプターセット。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか一項に記載のアダプターセットを構成するためのn番目(n=1〜N)の印刷材収容体アダプター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−51310(P2012−51310A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197312(P2010−197312)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】