説明

印刷装置、及び、印刷装置の制御方法

【課題】染料インクと顔料インクを用いて、より高画質の画像を印刷することが可能な印刷装置等を提供する。
【解決手段】染料インクを吐出する第1ノズルと、染料インクと同色の顔料インクを吐出する第2ノズルと、第1ノズル及び第2ノズルからのインクの吐出を制御するコントローラーと、を備え、コントローラーは、媒体上の所定位置に、第1ノズルから染料インクを吐出させた後に、第2ノズルから顔料インクを吐出させる第1吐出動作と、媒体上の所定位置とは異なる位置に、第2ノズルから記顔料インクを吐出させた後に、第1ノズルから染料インクを吐出させる第2吐出動作と、を実行し、第1吐出動作にて吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合が、第2吐出動作にて吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料インクを吐出するノズルと、染料インクと同色の顔料インクを吐出するノズルとを備えた印刷装置、及び、印刷装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
染料インクを吐出するノズルと、染料インクと同色の顔料インクを吐出するノズルとを有する印刷装置としては、専用紙に高画質のカラー画像を印刷するための黒色の染料インクと、特に文字等を普通紙に鮮明に印刷するための黒色の顔料インクを吐出するノズルとを備えたインクジェット記録装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなインクジェット記録装置は、染料インクを吐出するノズル列と顔料インクを吐出するノズル列とが、媒体の搬送方向と交差する交差方向に並べて配置されたヘッドを有し、ヘッドを交差方向に移動しつつ、媒体の所定の位置に染料インクと顔料インクとを用いて印刷する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−225719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなインクジェット記録装置に用いられる染料インクと顔料インクとは、同じ黒色であっても、吐出される媒体に対応させて色相が相違する場合がある。また、上記のようなヘッドを媒体の搬送方向と交差する交差方向に往復動作させつつ染料インクと顔料インクとを吐出させて画像を形成すると、媒体の所定の位置に吐出されるインクの順番が、ヘッドの往路と復路とで逆転する。すなわち、例えば往路では媒体上に吐出された染料インク上に顔料インクが吐出され、復路では媒体上に吐出された顔料インク上に染料インクが吐出される。このように、吐出されるインクの順番が逆転すると、往路にて印刷された部位と復路にて印刷された部位とにて色相が相違し、画像にムラや縞模様が発生し画質が低下してしまうという課題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、染料インクと顔料インクとを用いて、より高画質の画像を印刷することが可能な印刷装置、及び、印刷装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、染料インクを吐出する第1ノズルと、前記染料インクと同色の顔料インクを吐出する第2ノズルと、前記第1ノズル及び前記第2ノズルを制御するコントローラーと、を備えた印刷装置であって、
媒体上の所定の位置に、前記第1ノズルから前記染料インクを吐出した後に、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出する第1吐出動作と、
前記媒体上の前記所定の位置とは異なる位置に、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出した後に、前記第1ノズルから前記染料インクを吐出する第2吐出動作と、を有し、
前記コントローラーは、前記第1吐出動作にて吐出される前記顔料インクに対する前記染料インクの割合が、前記第2吐出動作にて吐出される前記顔料インクに対する前記染料インクの割合より小さくなるように前記顔料インク及び前記染料インクを吐出させることを特徴とする印刷装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態のプリンターの全体構成ブロック図である。
【図2】プリンターの斜視図である。
【図3】プリンターの断面図である。
【図4】ヘッドの下面におけるノズルの配列を示す説明図である。
【図5】駆動信号生成回路で生成される駆動信号を説明するための図である。
【図6】印刷データに含まれるドット階調値と駆動パルスとの対応データテーブルのイメージ図である。
【図7】染料Kのドット径と顔料Kのドット径の違いを示す図である。
【図8】プリンター側のコントローラーによる制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
===開示の概要===
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0010】
染料インクを吐出する第1ノズルと、前記染料インクと同色の顔料インクを吐出する第2ノズルと、前記第1ノズル及び前記第2ノズルからのインクの吐出を制御するコントローラーと、を備えた印刷装置であって、
前記コントローラーは、媒体上の所定の位置に、前記第1ノズルから前記染料インクを吐出させた後に、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出させる第1吐出動作と、
前記媒体上の前記所定の位置とは異なる位置に、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出させた後に、前記第1ノズルから前記染料インクを吐出させる第2吐出動作と、を実行し、
前記第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合が、前記第2吐出動作において吐出される単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合より小さいことを特徴とする印刷装置である。
【0011】
顔料インクと染料インクとは、同色であっても、重ね合わせられる際に媒体上に吐出された順序の相違により色相が相違する。例えば、染料インクが吐出された後に顔料インクが吐出されると、顔料インクが吐出された後に染料インクが吐出された場合より、色相が染料インク側に偏る。このため、上記印刷装置では、第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合が、第2吐出動作にて吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合より小さくなるように、顔料インク及び染料インクを吐出している。これにより、第1吐出動作にて印刷される領域の色相が顔料インク側に近づく。このため、第1吐出動作と第2吐出動作にて印刷される領域間にて色相差が小さくなるので、より高画質の画像を印刷することが可能である。
【0012】
かかる印刷装置であって、前記第1吐出動作において吐出させる前記染料インクの量を少なくすることにより、前記第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合を、前記第2吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合より小さくすることが望ましい。
第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合を、第2吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合より小さくする方法としては、第1吐出動作にて吐出する染料インクの量を減らす方法と、第2吐出動作にて吐出される染料インクの量を増やす方法とがある。このとき、上記印刷装置のように、第1吐出動作において吐出させる染料インクの量を少なくする方法にて第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合を、第2吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合より小さくすると、インクの吐出回数を増やすことなく、また媒体の送り量を小さくすることなく第1吐出動作にて吐出される顔料インクに対する染料インクの割合を、第2吐出動作にて吐出される顔料インクに対する染料インクの割合より小さくすることが可能である。すなわち、インクの吐出回数を増やしたり、媒体の送り量を小さくしないので、印刷速度を低下させることなくより高画質の画像を印刷することが可能である。
【0013】
かかる印刷装置であって、前記染料インク及び前記顔料インクは、黒色であることが望ましい。
染料インクは透明度及び色の再現性が高く、顔料インクは、文字等をより鮮明に印刷することができるという特徴を有している。このため、文字の印刷に最も頻繁に用いられる黒色の染料インクと顔料インクを備えて、第1吐出動作にて吐出される顔料インクに対する染料インクの割合を、第2吐出動作にて吐出される顔料インクに対する染料インクの割合より小さくすることにより、顔料インクによる鮮明な文字の印刷を維持しつつ、染料インクと顔料インクとを用いた印刷において、色相差の発生を抑え、より高画質の画像を印刷することが可能である。
【0014】
かかる印刷装置において、前記媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
前記第1ノズルと前記第2ノズルとが前記搬送方向と交差する交差方向に並べて配置されたヘッドと、
前記ヘッドを前記交差方向に沿う双方向に移動させるヘッド移動機構と、を有し、
前記第1吐出動作は、前記ヘッドが前記双方向のうちの一方側への移動にて実行し、前記第2吐出動作は、前記双方向のうちの他方側への移動にて実行することが望ましい。
このような印刷装置では、染料インクを吐出する第1ノズルと顔料インクを吐出する第2ノズルとが媒体の搬送方向と交差する交差方向に並べて配置されたヘッドが、交差方向に沿う双方向に移動されつつインクを吐出した場合には、双方向における一方側への移動と、他方側への移動時とで吐出するインクの順序が相違する。このため、ヘッドの一方側への移動の際に第1吐出動作、他方側への移動の際に第2吐出動作を実行することによりヘッド双方向に移動させつつ、色相差の発生を抑え、より高画質の画像を印刷することが可能である。このため、より高速に印刷しつつ、より高画質の画像を印刷することが可能である。
【0015】
かかる印刷装置において、前記ヘッドは、前記搬送方向に沿って所定ピッチにて配置された複数の前記第1ノズルでなる第1ノズル列と、
前記搬送方向に沿って前記所定ピッチにて配置された複数の前記第2ノズルでなる第2ノズル列と、を有し、
前記第1ノズル列の各ノズルは、前記第2ノズル列の各ノズルに対し、前記搬送方向に前記所定ピッチの半分ずれた位置に配置されていることが望ましい。
このような印刷装置によれば、いずれも同色のインクを吐出する第1ノズル列の各ノズルと第2ノズル列の各ノズルとが搬送方向に各ノズル列のピッチと半分の距離だけずれた位置に配置されているので、搬送方向において第1ノズルにて形成したドット間に、第2ノズルにて形成したドットを、または、第2ノズルにて形成したドット間に、第1ノズルにて形成したドットを配置することが可能である。このため、第1ノズル列または第2ノズル列のみを備えた印刷装置より、より高画質の画像を短時間にて印刷することが可能である。
【0016】
また、染料インクを吐出する第1ノズルと、前記染料インクと同色の顔料インクを吐出する第2ノズルと、前記第1ノズル及び前記第2ノズルからのインクの吐出を制御するコントローラーと、を備えた印刷装置の制御方法であって、
媒体上の所定の位置に、前記第1ノズルから前記染料インクを吐出させた後に、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出させる第1吐出動作を実行することと、
前記媒体上の前記所定の位置とは異なる位置に、前記第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合より大きくなるように、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出させた後に前記第1ノズルから前記染料インクを吐出させる第2吐出動作を実行することと、
を有することを特徴とする印刷装置の制御方法である。
【0017】
顔料インクと染料インクとは、同色であっても、重ね合わせられる際に媒体上に吐出された順序の相違により色相が相違する。例えば、染料インクが吐出された後に顔料インクが吐出されると、顔料インクが吐出された後に染料インクが吐出された場合より、色相が染料インク側に偏る。このため、上記印刷装置では、第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料インクに対する染料インクの割合より大きくなるように、第2ノズルから顔料インクを吐出させた後に、第1ノズルから染料インクを吐出させる第2吐出動作を実行している。これにより、第1吐出動作にて印刷される領域の色相が顔料インク側に近づくため、第1吐出動作と第2吐出動作にて印刷される領域間にて色相差が小さくなるため、より高画質の画像を印刷することが可能である。
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の印刷装置として、インクジェットプリンター(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0019】
===プリンターの構成===
図1は、本実施形態のプリンター1の全体構成ブロック図である。図2は、プリンター1の斜視図であり、図3は、プリンター1の断面図である。外部装置であるコンピューター60から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー10により、各ユニット(搬送ユニット20、キャリッジユニット30、ヘッドユニット40)を制御し、用紙S(媒体)に画像を形成する。また、プリンター1内の状況を検出器群50が監視し、その検出結果に基づいて、コントローラー10は各ユニットを制御する。
【0020】
コントローラー10は、プリンター1の制御を行うための制御ユニットである。インターフェース部11は、外部装置であるコンピューター60とプリンター1との間でデータの送受信を行うためのものである。メモリー13は、CPU12のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU12は、メモリー13に記憶されているコンピュータプログラム(ファームウェア等)に従い、各制御対象部を制御する。例えば、CPU12は、搬送ユニット20やキャリッジユニット30を制御する。また、CPU12は、ヘッド41の動作を制御するためのヘッド制御信号をヘッド制御部HCに送信したり、駆動信号COMを生成させるための制御信号を駆動信号生成回路14に送信したりする。
【0021】
搬送ユニット20は、用紙Sを印刷可能な位置に送り込んだ後、印刷時に搬送方向に所定の搬送量で用紙Sを搬送させるためのものであり、給紙ローラー21と、搬送モーター22と、搬送ローラー23と、プラテン24と、排紙ローラー25とを有する。給紙ローラー21を回転させ、印刷すべき用紙Sを搬送ローラー23まで送る。紙検出センサー51が、給紙ローラー21から送られてきた用紙Sの先端の位置を検出すると、コントローラー10は搬送ローラー23を回転させ、用紙Sを印刷開始位置に位置決めする。用紙Sが印刷開始位置に位置決めされたとき、ヘッド41の少なくとも一部のノズルは、用紙Sと対向している。ここで、搬送ユニット20が搬送機構に相当する。
【0022】
キャリッジユニット30は、ヘッド41を搬送方向と交差する交差方向(以下、移動方向という)に移動させるためのものである。本プリンター1は、移動方向における双方向への移動時に、いずれも各ノズルからインクを吐出させることが可能である。ここで、キャリッジユニット30が、ヘッド移動機構に相当する。
【0023】
ヘッドユニット40は、用紙Sにインクを吐出するためのヘッド41を有する。ヘッド41の下面には、インク吐出部であるノズルが複数設けられ、各ノズルには、インクが入ったインク室(不図示)と、インク室の容量を変化させてインクを吐出させるための駆動素子(ピエゾ素子)が設けられている。
【0024】
図4は、ヘッド41の下面(ノズル面)におけるノズルの配列を示す説明図である。本実施形態のプリンター1のヘッド41のノズルからは、ブラックの顔料インクと、ブラックの染料インクと、カラー(シアン、マゼンタ、イエロー)の染料インクと、がそれぞれ吐出される。そのため、ヘッド41の下面には、第1ノズル列としての染料のブラックインクノズル列Kdと、第2ノズル列としての顔料のブラックインクノズル列Kpと、染料のシアンインクノズル列Cdと、染料のマゼンタインクノズル列Mdと、染料のイエローインクノズル列Ydと、が形成されている。ここで、染料のブラックインクノズル列Kdを構成するノズルが第1ノズルに相当し、顔料のブラックインクノズル列Kpを構成するノズルが第2ノズルに相当する。
【0025】
各ノズル列は180個のノズルを備え、下流側のノズルほど若い番号が付されている(#i=#1〜#180)。また、各ノズル列のノズルは、搬送方向(所定方向に相当)に沿って、一定の間隔(ピッチ)D(例えば180dpi)でそれぞれ整列している。また、ヘッド41の下面に設けられた顔料のブラックインクノズル列Kp、染料のシアンインクノズル列Cd、染料のマゼンタインクノズル列Md、染料のイエローインクノズル列Ydの4つのノズル列の各ノズルは、同じ番号のノズル同士が移動方向に並ぶように配置されており、染料のブラックインクノズル列Kdの各ノズルは、他の4つのノズル列が有するノズルより、ノズルピッチDの半分だけ搬送方向において下流側に配置されている。
【0026】
このようなシリアル式のプリンター1では、移動方向に沿って移動するヘッド41からインクを断続的に吐出させ、用紙S上にドットを形成するドット形成処理と、用紙Sを搬送方向に搬送する搬送処理と、を交互に繰り返す。そうすることで、先のドット形成処理により所定の位置に形成されたドットとは異なる位置にドットが形成され、画像が完成する。
【0027】
駆動信号生成回路14は、DACデータに基づいて駆動信号COMを生成する。DACデータは、生成される駆動信号COMの電位の変化パターンを定めるデータであり、メモリー13に記憶されて、駆動信号COMの生成時に読み出されて駆動信号生成回路14へ出力される。ヘッド制御部HCは、駆動信号生成回路14で生成された駆動信号COMの必要部分をヘッド制御信号に基づいて選択し、ピエゾ素子へ印加する。
【0028】
駆動信号生成回路14で生成される駆動信号COMは、例えば図5に示すものである。図5において、横軸は時間を示し、縦軸は信号の電位を示す。この駆動信号COMは、繰り返し周期T毎に繰り返し生成される。この繰り返し周期Tは、生成される駆動パルスに対応させて4つの期間に分けることができる。すなわち、第1期間T1では微振動パルスVPが生成され、第2期間T2では中ドットパルスPS1が生成される。また、第3期間T3では小ドットパルスPS2が生成され、第4期間T4では大ドットパルスPS3が生成される。なお、これらの期間は、ラッチ信号LATが有するラッチパルスや、チェンジ信号CHが有するチェンジパルスによって規定される。
【0029】
微振動パルスVPは、インク滴を吐出させない場合にピエゾ素子へ印加されるものである。この微振動パルスVPが印加されると、ピエゾ素子は僅かに伸縮して、インクが吐出されない程度の弱い圧力変化を圧力室内のインクに与える。この圧力変化により、メニスカス(ノズルで露出しているインクの自由表面)がノズル内で微振動し、ノズル付近におけるインクの増粘が抑制される。中ドットパルスPS1は用紙に中ドットを形成する際にピエゾ素子へ印加される。同様に、小ドットパルスPS2は小ドットを形成する際に、大ドットパルスPS3は大ドットを形成する際に、それぞれピエゾ素子へ印加される。
【0030】
図6に示すように、このプリンター1では、印刷データに含まれるドット階調値に応じて駆動パルス(微振動パルスVP〜大ドットパルスPS3)を選択し、ピエゾ素子へ印加する。すなわち、ドットなしを示すドット階調値[00]に応じて微振動パルスVPがピエゾ素子に印加され、小ドットの形成を示すドット階調値[01]に応じて小ドットパルスPS2がピエゾ素子に印加される。そして、中ドットの形成を示すドット階調値[10]に応じて中ドットパルスPS1がピエゾ素子431に印加され、大ドットの形成を示すドット階調値[11]に応じて大ドットパルスPS3がピエゾ素子に印加される。
【0031】
本実施形態のプリンター1はブラックに関して顔料インクと染料インクを吐出する。顔料インクは、染料インクに比べて、滲み難く、耐水性や耐候性に優れている。しかし、色材である顔料成分が用紙上に残り、表面が凹凸形状となり光沢感が出難い。逆に、染料インクは、顔料インクに比べて、用紙に染み込むため光沢感は出易いが、滲み易く、耐水性や耐候性に劣る。また、染料インクと顔料インクとは、同じ黒色であっても、印刷すべき画像と画像に対応づけられた媒体の種類に応じて色相を相違させており、本プリンター1では、染料インクはシアン側に偏った色相を有し、顔料インクはマゼンタ側に偏った色相を有している。
【0032】
また、顔料のブラックインク(以下、顔料K)は染料のブラックインク(以下、染料K)に比べて、ブラックの濃度を濃く表現できる。そのため、例えば、モノクロのテキスト文書を「顔料K」にて印刷すると、黒文字の画質を高めることができる。一方、カラーの写真画像は「染料YMCK」にて印刷すると、光沢感のある画像が得られる。
【0033】
図7は、染料Kのドット径と顔料Kのドット径の違いを示す図である。ノズルから同じインク量(Ypl)を吐出した場合、図7に示すように、顔料Kのドット径(d2)に比べて、染料Kのドット径(d1)の方が大きくなる。これは、染料Kは用紙Sに染み込みながら用紙Sの表面に広がるからであると考えられる。
【0034】
ところで、プリンター1にて、上述したように顔料Kを吐出するノズルが搬送方向に沿って並べられた顔料Kノズル列Kpと染料Kを吐出するノズルが搬送方向に沿って並べられた染料Kノズル列Kdとがキャリッジ31の移動方向に互いに間隔を隔てて配置されている。このため、キャリッジ31を移動方向において双方向に移動させつつ、顔料Kと染料Kとを用いて画像を印刷する場合には、双方向における一方側への移動の際に吐出されるインクの順が、他方側への移動の際に吐出されるインクの順序と逆になる。
【0035】
具体的には、図4において染料Kノズル列Kd側を先頭としてキャリッジ31が移動しつつ、用紙Sの所定の位置にインクを吐出する第1吐出動作(以下、往路動作という)の際には、染料Kが先に吐出された後に顔料Kが吐出され、イエローインクノズル列Yd側を先頭としてキャリッジ31が移動しつつ、用紙Sの所定の位置にインクを吐出する第2吐出動作(以下、復路動作という)の際には、顔料Kが先に吐出された後に染料Kが吐出される。
【0036】
このように、染料Kが先に吐出された後に顔料Kが吐出された部分と、顔料Kが先に吐出された後に染料Kが吐出された部分とでは、同じ黒色を印刷したにも拘わらず、色相が相違してしまう。具体的には、染料Kが先に吐出された後に顔料Kが吐出された部分は、色相が染料K側に偏り、顔料Kが先に吐出された後に染料Kが吐出された部分は、色相が顔料K側に偏ってしまう。例えば、プリンター1では、用紙の種類に対応させて、染料Kの色相がシアン系に偏らせ、顔料Kの色相がマゼンタ系に偏らせて設定されているので、染料Kが先に吐出された後に顔料Kが吐出された部分は、シアン系に偏った黒色が印刷され、顔料Kが先に吐出された後に染料Kが吐出された部分は、マゼンタ系に偏った黒色が印刷される。これは、顔料Kが先に用紙Sに吐出されると、顔料Kがその位置にとどまるのに対し、染料Kが先に吐出されていると顔料Kが染料Kとともに用紙Sに浸み込んだり、染料とともに拡散されることにより、表面に現れる色剤の割合が、顔料Kの方が高くなり、色相が染料K側に偏ると考えられる。
【0037】
このためプリンター1では、キャリッジ31が移動方向における双方向に移動しつつ染料Kと顔料Kとを使用して印刷する際に、往路動作にて吐出される顔料Kに対する染料Kの割合が、復路動作にて吐出される顔料Kに対する染料Kの割合より小さくなるように顔料K及び染料Kを吐出させている。言い換えると、キャリッジ31が移動方向における双方向に移動しつつ染料Kと顔料Kとを使用して印刷する際に、復路動作にて吐出される顔料Kに対する染料Kの割合が、往路動作にて吐出される顔料Kに対する染料Kの割合より大きくなるように顔料K及び染料Kを吐出させている。
【0038】
キャリッジ31が移動方向における双方向に移動しつつ染料Kと顔料Kとを使用して印刷する際の動作について説明する。ここでは、コンピューター60から全面が黒色の画像、所謂ベタ画像を、ノズルピッチDの半分のピッチでラスターライン(移動方向に連なるドットにて形成されるライン)を形成して高速に印刷する印刷指令信号を画像データとともにプリンター1が受信した例について説明する。
【0039】
ここで、プリンター1は、顔料Kのみ、又は、染料Kのみにて画像を印刷することが可能であるが、顔料Kのみ、又は、染料Kのみにて画像を印刷する場合には、ノズル列の長さ分の搬送と、搬送方向においてノズルピッチDにおける半分の距離の搬送とを繰り返して印刷する所謂疑似バンド印刷を行うことになる。また、上記のような全面が黒色のドットで埋め尽くされるベタ画像を印刷する際には、全て大ドットを形成すべくインクが吐出される。
【0040】
ところが、プリンター1は、染料Kのノズル列Kdと、顔料Kのノズル列KpとがノズルピッチDの半分だけ搬送方向にずれた位置に配置されている。このため、染料Kと顔料Kとを用いて印刷することにより、ノズルピッチDにおける半分の距離の搬送をすることなくノズル列の長さ分の搬送のみを繰り返して印刷する所謂バンド印刷にて、ノズルピッチの半分のピッチでラスターラインが形成されるように印刷することが可能である。
【0041】
このため、プリンター1がコンピューター60から受信した印刷指令信号と画像データは、コンピューター60のプリンタードライバーにて、染料Kと顔料Kとを用いた双方向印刷にて黒色のベタ画像を印刷するための印刷指令信号と画像データである。
【0042】
そして、プリンター1のコントローラー10は、受信した印刷指令信号と画像データに基づいて、キャリッジ31の移動方向が、図4において染料Kノズル列Kd側を先頭としてキャリッジ31が移動する方向の場合には、染料K及び顔料Kにて全て大ドットを形成すべくインクが吐出され、図4においてイエローインクノズル列Yd側を先頭としてキャリッジ31が移動する方向の場合には、染料Kにて全て中ドットを形成すべくインクが吐出され、顔料Kにて全て大ドットを形成すべくインクが吐出されるような駆動信号COMを生成するための信号を駆動信号生成回路14に送出する。
【0043】
すなわち、コントローラー10は、染料Kと顔料Kとを用い、双方向印刷を実行する印刷指令信を受信すると、図8に示すように、受信した指令信号に基づいてキャリッジ31の移動方向を特定する。このとき、往路動作、すなわち、用紙Sの所定の位置に染料Kが吐出された後に顔料Kが吐出される印刷動作であると判別した際(S1)には、染料Kノズル列Kdには中ドットの形成を示すドット階調値[10]に応じた駆動信号COMを、顔料Kノズル列Kpには大ドットの形成を示すドット階調値[11]に応じた駆動信号COMを生成すべく駆動信号生成回路14に信号を送出する(S2)。一方、復路動作、すなわち、用紙Sの所定の位置に顔料Kが吐出された後に染料Kが吐出される印刷動作であると判別した際(S1)には、染料Kノズル列Kd及び顔料Kノズル列Kpのいずれも大ドットの形成を示すドット階調値[11]に応じた駆動信号COMを生成すべく駆動信号生成回路14に信号を送出する(S3)。
【0044】
そして、駆動信号生成回路14から送出された駆動信号COMに基づいて、大ドットパルスPS3または中ドットパルスPS1がピエゾ素子に印加される。
【0045】
本実施形態のプリンター1は、染料Kを吐出するノズルと顔料Kを吐出するノズルとが用紙Sの搬送方向と交差する交差方向に並べて配置されたヘッド41が、交差方向に沿う双方向に移動されつつインクを吐出した場合には、双方向における一方側への移動時と、他方側への移動時とで吐出するインクの順序が相違する。また、プリンター1は、染料Kが吐出された後に同量の顔料Kが吐出されると、顔料Kが吐出された後に同量の染料Kが吐出された場合より、色相が染料K側に偏る。
【0046】
このため、上記プリンター1では、往路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合が、復路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合より小さくなるように、顔料K及び染料Kを吐出させている。これにより、往路動作にて印刷される領域の色相が顔料K側に近づく。このため、往路動作と復路動作にて印刷される領域間にて色相差が小さくなるので、より高画質の画像を印刷することが可能である。そして、ヘッド41の一方側への移動の際に往路動作、他方側への移動の際に復路動作を実行することにより、ヘッド41を双方向に移動させつつ、色相差の発生を抑え、より高画質の画像を印刷することが可能である。このため、より高速に印刷しつつ、より高画質の画像を印刷することが可能である。
【0047】
ここで往路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合を、復路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合より小さくする方法としては、往路動作において吐出させる染料Kの量を減らす方法と、復路動作において吐出させる染料Kの量を増やす方法とがある。このとき、上記プリンター1のように、往路動作において吐出させる染料Kの量を少なくする方法にて、往路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合を、復路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合より小さくすると、インクの吐出回数を増やすことなく、また用紙Sの送り量を小さくすることなく往路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合を、復路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合より小さくすることが可能である。すなわち、インクの吐出回数を増やしたり、用紙Sの送り量を小さくしないので、印刷速度を低下させることなくより高画質の画像を印刷することが可能である。
【0048】
また、染料インクは透明度及び色の再現性が高く、顔料インクは、文字等をより鮮明に印刷することができるという特徴を有している。このため、文字の印刷に最も頻繁に用いられる黒色の染料Kと顔料Kを備えて、往路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、顔料Kに対する染料Kの割合を、復路動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の顔料Kに対する染料Kの割合より小さくすることにより、顔料Kによる鮮明な文字の印刷を維持しつつ、染料Kと顔料Kとを用いた印刷において、色相差の発生を抑え、より高画質の画像を印刷することが可能である。
【0049】
また、いずれも黒色のインクを吐出する染料Kノズル列Kdの各ノズルと顔料Kノズル列Kpの各ノズルとが搬送方向に各ノズル列のピッチDと半分の距離だけずれた位置に配置されているので、搬送方向において染料Kのノズルにて形成したドット間に、顔料Kのノズルにて形成したドットを、または、顔料Kのノズルにて形成したドット間に、染料Kのノズルにて形成したドットを配置することが可能である。このため、染料Kノズル列Kdまたは顔料Kノズル列Kpのみを備えたプリンターより、より高画質の画像を短時間にて印刷することが可能である。
【0050】
上記実施形態においては、顔料Kと染料Kとの吐出量における割合の変更を、ドットのサイズを大ドットから中ドットに変更することで実現する例について説明したが、吐出量を少なくする側のノズルから吐出されるインクにて形成されるドットのサイズは小ドットであっても構わない。また、顔料Kと染料Kとの吐出量における割合の変更を、ドットのサイズを変更することにより変更する例について説明したが、これに限るものではない。例えば、ピエゾ素子に印加されるパルスを変更しても良い。すなわち、顔料Kが先に吐出された後に染料Kが吐出された際に印刷された領域と、顔料Kの吐出量が、染料Kが先に吐出された後に顔料Kが吐出される際に印刷された領域の色相差が小さくなるように、染料Kを吐出した後に顔料Kを吐出する動作にて吐出される顔料Kに対する染料Kの割合が、顔料Kを吐出した後に染料Kを吐出する動作にて吐出される顔料Kに対する染料Kの割合より小さくなるように顔料K及び染料Kを吐出すれば構わない。
【0051】
そして、本発明は、染料インクと顔料インクを用いて印刷可能な印刷装置であれば、プリンターに限らず、プロッタ、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 プリンター、10 コントローラー、11 インターフェース部、
12 CPU、13 メモリー、14 駆動信号生成回路、20 搬送ユニット、
21 給紙ローラー、23 搬送ローラー、24 プラテン、25 排紙ローラー、
30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、40 ヘッドユニット、
41 ヘッド、50 検出器群、51 紙検出センサー、60 コンピューター、
Cd 染料のシアンインクノズル列、 Kd 染料のブラックインクノズル列、
Kp 顔料のブラックインクノズル列、Md 染料のマゼンタインクノズル列、
Yd 染料のイエローインクノズル列、COM 駆動信号、HD ヘッド制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料インクを吐出する第1ノズルと、前記染料インクと同色の顔料インクを吐出する第2ノズルと、前記第1ノズル及び前記第2ノズルからのインクの吐出を制御するコントローラーと、を備えた印刷装置であって、
前記コントローラーは、媒体上の所定の位置に、前記第1ノズルから前記染料インクを吐出させた後に、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出させる第1吐出動作と、
前記媒体上の前記所定の位置とは異なる位置に、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出させた後に、前記第1ノズルから前記染料インクを吐出させる第2吐出動作と、を実行し、
前記第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合が、前記第2吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合より小さいことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記第1吐出動作において吐出させる前記染料インクの量を少なくすることにより、前記第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合を、前記第2吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合より小さくすることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷装置であって、
前記染料インク及び前記顔料インクは、黒色であることを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の印刷装置において、
前記媒体を搬送方向に搬送する搬送機構と、
前記第1ノズルと前記第2ノズルとが前記搬送方向と交差する交差方向に並べて配置されたヘッドと、
前記ヘッドを前記交差方向に沿う双方向に移動させるヘッド移動機構と、を有し、
前記第1吐出動作は、前記ヘッドが前記双方向のうちの一方側への移動にて実行し、前記第2吐出動作は、前記双方向のうちの他方側への移動にて実行することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の印刷装置において、
前記ヘッドは、前記搬送方向に沿って所定ピッチにて配置された複数の前記第1ノズルでなる第1ノズル列と、
前記搬送方向に沿って前記所定ピッチにて配置された複数の前記第2ノズルでなる第2ノズル列と、を有し、
前記第1ノズル列の各ノズルは、前記第2ノズル列の各ノズルに対し、前記搬送方向に前記所定ピッチの半分ずれた位置に配置されていることを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
染料インクを吐出する第1ノズルと、前記染料インクと同色の顔料インクを吐出する第2ノズルと、前記第1ノズル及び前記第2ノズルからのインクの吐出を制御するコントローラーと、を備えた印刷装置の制御方法であって、
媒体上の所定の位置に、前記第1ノズルから前記染料インクを吐出させた後に、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出させる第1吐出動作を実行することと、
前記媒体上の前記所定の位置とは異なる位置に、前記第1吐出動作において吐出させる単位面積当たりのインク量の、前記顔料インクに対する前記染料インクの割合より大きくなるように、前記第2ノズルから前記顔料インクを吐出させた後に前記第1ノズルから前記染料インクを吐出させる第2吐出動作を実行することと、
を有することを特徴とする印刷装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−56867(P2011−56867A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210995(P2009−210995)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】