説明

印刷装置の製造方法

【課題】ラインプリンター、または、バンド送り走査方式のシリアル式プリンターにおいて、重複する印刷ヘッド、または、重複する主走査により印刷を行うオーバーラップ領域における印刷画質を向上させる。
【解決手段】先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとが配列されたラインプリンターであるプリンター20のハーフトーン処理に用いるディザマスク61は、先行ヘッドPHで印刷を行う領域用の先行ヘッド格納領域61aと、後行ヘッドFHで印刷を行う領域用の後行ヘッド格納領域61bとを備えている。先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとのオーバーラップ領域ORAにおいて、先行ヘッドPHで形成されるドットと、後行ヘッドFHで形成されるドットとが同一のドット形成位置に形成されることを許容した条件で、総合評価値CEを用いて複数の閾値を格納すべき格納要素を決定して、ディザマスク61を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置のハーフトーン処理に用いるディザマスクの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式のラインプリンターにおいては、印刷用紙を送りながら、この用紙送り方向と交差する方向に用紙幅の全体に亘って設けられた印刷ヘッドのノズルからインクを吐出して印刷を行う。かかる印刷ヘッドは、通常、複数の印刷ヘッドを配列して構成される。また、これらの印刷ヘッドは、隣り合う印刷ヘッド同士が、配列方向において一部が重複するように設置される。かかる印刷ヘッドの重複領域(以下、オーバーラップ領域ともいう)においては、隣り合う印刷ヘッドの両方からインクを吐出して印刷画像を完成させる。
【0003】
こうしたラインプリンターでは、オーバーラップ領域において、濃度ムラの発生や粒状性の悪化といった問題が生じることがあった。かかる問題は、印刷ヘッドのノズルから吐出されたインクの用紙への着弾位置が目標位置からずれた結果、ドット配置の局所的な疎密が生じるために生じる。こうした目標位置のずれの要因としては、例えば、据付精度の問題によって印刷ヘッドの据え付け位置が目標位置からずれることや、機械精度の問題によって用紙の搬送量が厳密には一定しないことなどがある。
【0004】
こうした問題は、ラインプリンターに限らず、主に1回の主走査でラスターを完成させる、いわゆるバンド送り走査方式のシリアル式インクジェットプリンターにおいて、部分的に2回の主走査でラスターを完成させるオーバーラップ領域がある場合にも、共通して生じる問題であった。シリアル式インクジェットプリンターにおいても、上述した用紙の搬送量の精度の問題は生じるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−15359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の問題の少なくとも一部を踏まえ、本発明が解決しようとする課題は、ラインプリンター、または、バンド送り走査方式のシリアル式プリンターにおいて、重複する印刷ヘッド、または、重複する主走査により印刷を行うオーバーラップ領域における印刷画質を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]印刷範囲に亘って配列された複数の印刷ヘッドであって、該複数の印刷ヘッドのうちの隣り合う印刷ヘッド同士が、該配列の方向において一部が重複するオーバーラップ領域と、該重複のない単独領域とを有するように配列された印刷ヘッドに対して、印刷媒体を相対移動させながらインクを吐出して印刷を行う印刷装置で印刷を行うためのハーフトーン処理に用いるディザマスクであって、該ディザマスクを構成する複数の閾値が各々の格納要素に格納されたディザマスクを生成する方法であって、
前記ディザマスクは、前記オーバーラップ領域及び前記単独領域のうちの、前記隣り合う印刷ヘッドの一方である第1の印刷ヘッドで印刷を行う領域に適用する第1のディザマスク領域と、該隣り合う印刷ヘッドの他方である第2の印刷ヘッドで印刷を行う領域に適用する第2のディザマスク領域とを備え、
前記ディザマスクを評価する評価値であって、前記オーバーラップ領域に適用する閾値を前記第1のディザマスク領域に格納するか、前記第2のディザマスク領域に格納するかの違いによって異なる値となる所定の評価値を用意し、
前記オーバーラップ領域において、前記第1の印刷ヘッドで形成されるドットと、前記第2の印刷ヘッドで形成されるドットとが同一のドット形成位置に形成されることを許容した条件で、前記所定の評価値を用いて前記複数の閾値を格納すべき格納要素をそれぞれ決定して、該ディザマスクを生成する
ディザマスクの生成方法。
【0009】
かかるディザマスクの生成方法は、生成するディザマスクが、第1の印刷ヘッドで印刷を行う領域に適用する第1のディザマスク領域と、第2の印刷ヘッドで印刷を行う領域に適用する第2のディザマスク領域とを備えており、第1のディザマスク領域と第2のディザマスク領域のうちのいずれに閾値を格納するかによって異なる値となる評価値によって、閾値を格納すべき格納要素を決定する。つまり、当該ディザマスクは、オーバーラップ領域に対応させる格納要素を、第1のディザマスク領域と第2のディザマスク領域とで重複して有しているので、ディザマスクと、第1の印刷ヘッドと第2の印刷ヘッドのいずれでドットを形成するかを示す割当情報とを一連の工程で同時に生成することができる。
【0010】
その結果、ディザマスクによって発生するオーバーラップ領域での各階調のドットパターンにおける割当のバランスを制御しながら、ディザマスク及び割当情報を生成することができる。こうして生成されるディザマスク及び割当情報を用いてハーフトーン処理を行えば、階調変化によって、オーバーラップ領域における印刷ヘッドの割当が急激に変化することを抑制することができる。その結果、インクの着弾位置ずれが生じた場合の、各階調間におけるドットの疎密の変化量が小さくなり、オーバーラップ領域における印刷画質の低下を抑制できる。しかも、閾値を格納すべき格納要素は、オーバーラップ領域において、第1の印刷ヘッドで形成されるドットと、第2の印刷ヘッドで形成されるドットとが同一のドット形成位置に形成されることを許容した条件で行われるので、閾値を格納すべき格納要素の選択の自由度を高めることができ、より評価値の優れた閾値を格納すべき格納要素を決定することができる。
【0011】
[適用例2]適用例1記載のディザマスクの生成方法であって、前記オーバーラップ領域における、前記配列の方向に直交する方向に並ぶドット列であるラスターごとに、該ラスターを構成する各々のドットの形成についての、前記第1の印刷ヘッドと前記第2の印刷ヘッドとが占める割合である印字比率を定める第1の工程と、前記閾値が未だ格納されていない格納要素である空白格納要素に格納すべき前記複数の閾値の1つを着目閾値として選択する第2の工程と、前記定めた印字比率と、ドットの配置のバランスに関する所定の条件とに基づいて、前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域の前記空白格納要素のうちから、前記着目閾値を格納する候補としての候補格納要素を複数設定する第3の工程と、前記設定した候補格納要素のそれぞれについて、該候補格納要素に前記着目閾値を格納した場合の、前記所定の評価値を算出する第4の工程と、前記複数の候補格納要素の中から、前記算出した評価値が最も適切な1つを選択し、該選択した候補格納要素に前記着目閾値を格納する第5の工程とを備え、前記所定の評価値は、前記隣り合う印刷ヘッドの違いに起因して、該隣り合う印刷ヘッド間での前記印刷媒体へのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた場合の、前記オーバーラップ領域においてドットが前記印刷媒体を覆う割合を示すドット被覆率の変化を定量化した評価値を含み、前記第2ないし第5の工程を所定回数繰り返して、前記ディザマスクを生成するディザマスクの生成方法。
【0012】
かかるディザマスクの生成方法は、印字比率と、ドット配置のバランスに関する条件とに基づいて、候補格納要素を設定し、当該候補格納要素のそれぞれについて算出した評価値に基づいて、着目閾値の格納場所を決定する。ここで、評価値は、ドット被覆率の変化を定量化したものであるので、インクの着弾位置ずれが生じた場合のドット被覆率の変化が小さくなるという観点から、換言すれば、ドットの疎密の変化が相対的に小さくなるという観点から、候補格納要素を評価することができる。したがって、インクの着弾位置ずれが生じてもドットの疎密の変化量が小さいディザマスクを生成することができる。しかも、閾値を格納すべき格納要素は、オーバーラップ領域において、第1の印刷ヘッドで形成されるドットと、第2の印刷ヘッドで形成されるドットとが同一のドット形成位置に形成されることを許容した条件で行われるので、ドット被覆率の制御の自由度を高めることができ、ドット被覆率の変化の観点から候補格納要素をより適切に評価することができる。また、上述の条件で絞り込まれた候補格納要素についてのみ評価値を算出すれば、評価値の算出数を少なくすることができ、ディザマスクの生成処理を効率化することができる。
【0013】
[適用例3]適用例2記載のディザマスクの生成方法であって、前記所定の条件は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合に、(1)前記単独領域であるか、前記オーバーラップ領域であるかの違い、及び、前記印刷ヘッドのいずれの部分で印刷される領域であるかの違いにより区分された区分エリアごとの、前記格納要素の数に対する、前記閾値が既に格納された格納要素の割合が、均等な状態から最も近くなること、(2)前記オーバーラップ領域を構成する各々のラスターに対応する前記格納要素ごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の数が均等な状態に最も近くなること、(3)前記ラスターごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の前記印字比率が、前記定めた値に最も近くなることであるディザマスクの生成方法。
【0014】
かかるディザマスクの生成方法は、候補格納要素を設定するに際して、(1)区分エリアごとのバランス、(2)ラスターごとのバランス、(3)設定した印字比率との整合性が最適となることを条件とするので、オーバーラップ領域におけるドットの配置のバランスを精度良く制御することができる。その結果、インクの着弾位置ずれが生じた場合のドットの疎密の変化量をより小さくすることができるディザマスクを生成することができる。また、候補格納要素を上記条件により大きく限定するので、評価値の算出数を少なくすることができ、ディザマスクの生成処理を効率化することができる。
【0015】
[適用例4]適用例2記載のディザマスクの生成方法であって、前記所定の条件は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合に、(1)前記単独領域であるか、前記オーバーラップ領域であるかの違い、及び、前記印刷ヘッドのいずれの部分で印刷される領域であるかの違いにより区分された区分エリアごとの、前記格納要素の数に対する、前記閾値が既に格納された格納要素の割合が、均等な状態から所定範囲に属すること、(2)前記オーバーラップ領域を構成する各々のラスターに対応する前記格納要素ごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の数が均等な状態から所定範囲に属すること、(3)前記ラスターごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の前記印字比率が、前記定めた値から所定範囲に属することであるディザマスクの生成方法。
【0016】
かかるディザマスクの生成方法は、候補格納要素を設定するに際して、(1)区分エリアごとのバランス、(2)ラスターごとのバランス、(3)設定した印字比率との整合性が、所定の許容範囲に収まることを条件とするので、候補格納要素の数が、適用例3の方法と比べて増加する。したがって、オーバーラップ領域におけるドットの配置のバランスを精度良く制御しつつ、幅広い候補格納要素の中から評価値が最適なものを選択することができるので、インクの着弾位置ずれが生じた場合のドットの疎密の変化量を小さくする効果を適用例3よりもさらに高めることができる。
【0017】
[適用例5]適用例3または適用例4記載のディザマスクの生成方法であって、前記所定の評価値は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合の評価値であって、前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域のうちの、前記候補格納要素が属する一方に対応する前記印刷ヘッドでドットを形成する領域における、前記閾値が既に格納された格納要素が表すドット配置の分散性を示す分散性評価値と、前記隣り合う印刷ヘッドの違いに起因して、該隣り合う印刷ヘッド間での前記印刷媒体へのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた状態を示す、ずれパターンを複数種類想定し、該複数種類のずれパターンごとに、前記オーバーラップ領域における前記ドット被覆率を算出し、該ドット被覆率の変化を定量化した被覆率評価値とを含むディザマスクの生成方法。
【0018】
かかるディザマスクの生成方法は、前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域のうちの、前記候補格納要素が属する一方に対応する前記印刷ヘッドでドットを形成する領域におけるドット配置の分散性を評価する分散性評価値を含む評価値で、候補格納要素を評価するので、単独領域におけるドット分散性を確保して、単独領域における印刷画像も良好に保つことができるディザマスクを生成することができる。また、複数種類のずれパターンごとに算出された、オーバーラップ領域におけるドット被覆率の変化を定量化した被覆率評価値を含む評価値で、候補格納要素を評価するので、いずれのずれパターンが生じても、オーバーラップ領域におけるドットの疎密の変化量が一定程度小さくなるように制御して、オーバーラップ領域におけるインクの着弾位置ずれに伴う印刷画質の低下を抑制できるディザマスクを生成することができる。
【0019】
[適用例6]前記複数種類のずれパターンには、前記ずれが生じていない状態を含む適用例5記載のディザマスクの生成方法。
かかるディザマスクの生成方法は、ずれを生じていない状態のずれパターンを含むので、インクの着弾位置ずれが生じない場合にも、良好な印刷結果が得られるディザマスクを生成することができる。
【0020】
[適用例7]前記被覆率評価値は、前記複数種類のずれパターンごとに算出されたドット被覆率のばらつきの程度を示す評価値である適用例5または適用例6記載のディザマスクの生成方法。
かかるディザマスクの生成方法は、ずれパターンごとに算出されたドット被覆率のばらつきの程度により、候補格納要素を評価できるので、想定したどのようなずれパターンが生じても、ドット被覆率の変動が小さい、つまり、ドットの疎密の変化が小さいディザマスクを生成することができる。したがって、インクの着弾位置ずれが生じても、オーバーラップ領域における印刷画質が大きく低下することがない。
【0021】
[適用例8]前記印刷装置は、前記オーバーラップ領域において、前記複数の印刷ヘッドの違いに起因して、前記ラスターと交差する方向に生じる印刷画像の濃度むらを補正するための濃度差補正手段を備えた適用例1ないし適用例7のいずれか記載のディザマスクの生成方法。
オーバーラップ領域における濃度ムラの発生原因は、印刷ヘッドのずれなどによって常に一定量発生するずれに起因するものと、印刷用紙の搬送精度の問題などによって、印字ごとに変化する量で発生するずれに起因するものとがある。適用例8のディザマスクの生成方法において、印刷装置が濃度補正手段を備えているので、濃度補正手段によって、常に一定量発生するずれに起因する濃度ムラの発生を抑制することができる。したがって、適用例1〜7の方法により生成されるディザマスクを用いて印刷を行えば。当該ディザマスクの効果と相まって、濃度ムラの発生抑制効果をより高めることができる。逆に言えば、濃度補正手段を備える印刷装置で、適用例1〜7の方法により生成されるディザマスクを用いて印刷すれば、濃度ムラを目立たない程度に収めるための、インクの着弾位置ずれの許容幅を広げることができる。
【0022】
また、本発明は、適用例9〜適用例16のディザマスクの生成方法としても実現することができる。かかる生成方法によっても、適用例1ないし適用例8と同様の効果を奏する。
[適用例9]印刷ヘッドを印刷媒体に対して主走査方向及び副走査方向に相対移動させながらインクを吐出し、1回の主走査で、該主走査方向に並ぶドット列であるラスターを完成させる単独領域と、連続する2回の主走査で前記ラスターを完成させるオーバーラップ領域とからなる印刷画像の印刷を行う印刷装置で印刷を行うためのハーフトーン処理に用いるディザマスクであって、該ディザマスクを構成する複数の閾値が各々の格納要素に格納されたディザマスクを生成する方法であって、前記ディザマスクは、前記オーバーラップ領域及び前記単独領域のうちの、前記連続する2回の主走査の一方である第1の主走査で印刷を行う領域に適用する第1のディザマスク領域と、該連続する2回の主走査の他方である第2の主走査で印刷を行う領域に適用する第2のディザマスク領域とを備え、前記ディザマスクを評価する評価値であって、前記オーバーラップ領域に適用する閾値を前記第1のディザマスク領域に格納するか、前記第2のディザマスク領域に格納するかの違いによって異なる値となる所定の評価値を用意し、前記オーバーラップ領域において、前記第1の主走査で形成されるドットと、前記第2の主走査で形成されるドットとが同一のドット形成位置に形成されることを許容した条件で、前記所定の評価値を用いて前記複数の閾値を格納すべき格納要素をそれぞれ決定して、該ディザマスクを生成するディザマスクの生成方法。
【0023】
[適用例10]適用例9記載のディザマスクの生成方法であって、前記オーバーラップ領域における各々のラスターごとに、該ラスターを構成する各々のドットの形成についての、前記第1の主走査と前記第2の主走査とが占める割合である印字比率を定める第1の工程と、前記閾値が未だ格納されていない格納要素である空白格納要素に格納すべき前記複数の閾値の1つを着目閾値として選択する第2の工程と、前記定めた印字比率と、ドットの配置のバランスに関する所定の条件とに基づいて、前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域の前記空白格納要素のうちから、前記着目閾値を格納する候補としての候補格納要素を複数設定する第3の工程と、前記設定した候補格納要素のそれぞれについて、該候補格納要素に前記着目閾値を格納した場合の、前記所定の評価値を算出する第4の工程と、前記複数の候補格納要素の中から、前記算出した評価値が最も適切な1つを選択し、該選択した候補格納要素に前記着目閾値を格納する第5の工程とを備え、前記所定の評価値は、前記隣り合う印刷ヘッドの違いに起因して、該隣り合う印刷ヘッド間での前記印刷媒体へのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた場合の、前記オーバーラップ領域においてドットが前記印刷媒体を覆う割合を示すドット被覆率の変化を定量化した評価値を含み、前記第2ないし第5の工程を所定回数繰り返して、前記ディザマスクを生成するディザマスクの生成方法。
【0024】
[適用例11]適用例10記載のディザマスクの生成方法であって、前記所定の条件は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合に、(1)前記単独領域であるか、前記オーバーラップ領域であるかの違い、及び、いずれの主走査の、前記印刷ヘッドのいずれの部分で完成される領域であるかの違いにより区分された区分エリアごとの、前記格納要素の数に対する、前記閾値が既に格納された格納要素の割合が、均等な状態から最も近くなること、(2)前記オーバーラップ領域を構成する各々のラスターに対応する前記格納要素ごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の数が均等な状態に最も近くなること、(3)前記ラスターごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の前記印字比率が、前記定めた値に最も近くなることであるディザマスクの生成方法。
【0025】
[適用例12]適用例10記載のディザマスクの生成方法であって、前記所定の条件は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合に、(1)前記単独領域であるか、前記オーバーラップ領域であるかの違い、及び、いずれの主走査の、前記印刷ヘッドのいずれの部分で完成される領域であるかの違いにより区分された区分エリアごとの、前記格納要素の数に対する、前記閾値が既に格納された格納要素の割合が、均等な状態から所定範囲に属すること、(2)前記オーバーラップ領域を構成する各々のラスターに対応する前記格納要素ごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の数が均等な状態から所定範囲に属すること、(3)前記ラスターごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の前記印字比率が、前記定めた値から所定範囲に属することであるディザマスクの生成方法。
【0026】
[適用例13]適用例11または適用例12記載のディザマスクの生成方法であって、前記所定の評価値は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合の評価値であって、前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域のうちの、前記候補格納要素が属する一方に対応する前記主走査でドットを形成する領域における、前記閾値が既に格納された格納要素が表すドット配置の分散性を示す分散性評価値と、前記2回の主走査の違いに起因して、該2回の主走査間での前記印刷媒体へのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた状態を示す、ずれパターンを複数種類想定し、該複数種類のずれパターンごとに、前記オーバーラップ領域における前記ドット被覆率を算出し、該ドット被覆率の変化を定量化した被覆率評価値とを含むディザマスクの生成方法。
【0027】
[適用例14]前記複数種類のずれパターンには、前記ずれが生じていない状態を含む適用例13記載のディザマスクの生成方法。
【0028】
[適用例15]前記被覆率評価値は、前記複数種類のずれパターンごとに算出されたドット被覆率のばらつきの程度を示す評価値である適用例13または適用例14記載のディザマスクの生成方法。
【0029】
[適用例16]前記印刷装置は、前記オーバーラップ領域において、前記連続する2回の主走査の違いに起因して、前記ラスターと交差する方向に生じる印刷画像の濃度むらを補正するための濃度差補正手段を備えた適用例9ないし適用例15のいずれか記載のディザマスクの生成方法。
【0030】
また、本発明は、ディザマスクの生成方法としての構成のほか、当該方法によって生成したディザマスクを記憶した印刷装置や、当該方法によって生成したディザマスクを用いてハーフトーン処理を行う機能をコンピューターに実現させるためのプログラム、ディザマスクの生成プログラム、これらのプログラムを記録した記憶媒体等としても実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例としてのプリンター20の概略構成を示す説明図である。
【図2】印刷ヘッド80の詳細構成を示す説明図である。
【図3】プリンター20による印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】ディザマスク61のサイズを示す説明図である。
【図5】ディザマスク61の閾値を格納する格納要素の領域を示す説明図である。
【図6】ディザマスク61の生成手順を示すフローチャートである。
【図7】ディザマスク61の生成手順を示すフローチャートである。
【図8】印字比率の具体例を示す説明図である。
【図9】着目閾値を格納する区分エリアの決定方法を具体的に示す説明図である。
【図10】ヘッドグループ判定処理の内容を具体的に示す説明図である。
【図11】閾値が格納されていない空白格納要素の選択方法を具体的に示す説明図である。
【図12】着目閾値が格納要素に格納される様子を具体的に示す説明図である。
【図13】ドットOFF閾値THoffが格納される様子を具体的に示す説明図である。
【図14】総合評価値CEを算出するための第1の評価値E1及び第2の評価値E2を算出する対象となる格納要素の範囲を示す説明図である。
【図15】第1の評価値E1の算出手順を示すフローチャートである。
【図16】第1の評価値E1を算出するための被覆率Cnの算出方法を示す説明図である。
【図17】ブルーノイズ特性及びグリーンノイズ特性の説明図である。
【図18】第2の評価値E2の算出方法を示す説明図である。
【図19】ディザマスク61のハーフトーン処理での使用方法を示す説明図である。
【図20】変形例としてのディザマスク61のハーフトーン処理での使用方法を示す説明図である。
【図21】変形例としてのディザマスク61の生成手順を示すフローチャートである。
【図22】先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64の使用方法を示す説明図である。
【図23】先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64の更新の方法を具体的に示す説明図である。
【図24】変形例としてのプリンター420の概略構成図である。
【図25】印刷ヘッド490の詳細構成を示す説明図である。
【図26】本発明の効果を示す説明図である。
【図27】本発明の効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
A.実施例:
本発明の実施例について説明する。
A−1.装置構成:
図1は、本願の実施例としてのプリンター20の概略構成を示す説明図である。プリンター20はインクジェット式のラインプリンターであり、図示するように、制御ユニット30、インクカートリッジ71〜74、印刷ヘッド80、紙送り機構90などを備えている。インクカートリッジ71〜74は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロ(Y)、ブラック(K)の色を現す各インクに対応している。勿論、インクの種類や数はこれに限るものではなく、例えば、Kのみであってもよいし、ライトシアン(Lc)、ライトマゼンタ(Lm)などのライトインクやブルー(B)、レッド(R)などの特色を含むものであってもよい。
【0033】
印刷ヘッド80は、ラインヘッドタイプの印刷ヘッドであり、その下面に概ね一列に配されたサーマル方式のノズルを複数備えている。インクカートリッジ71〜74内の各インクは、図示しない導入管を通じて、印刷ヘッド80の下面に設けられたノズルに供給され、これらのノズルからインクが吐出されて、印刷用紙Pに印刷が行われる。印刷ヘッド80の詳細については、図2を用いて後述する。
【0034】
紙送り機構90は、紙送りローラー91と紙送りモーター92とプラテン93とを備えている。紙送りモーター92は、紙送りローラー91を回転させることで、印刷ヘッド80と平板状のプラテン93との間に配された印刷用紙Pを紙送りローラー91の軸方向と垂直の方向に搬送する。
【0035】
制御ユニット30は、CPU40、ROM51、RAM52、EEPROM60がバスで相互に接続されて構成されている。CPU40は、ROM51やEEPROM60に記憶されたプログラムをRAM52に展開し、実行することにより、プリンター20の動作全般を制御するほか、入力部41、ハーフトーン処理部42、印刷部43、濃度差補正部44としても機能する。これらの機能部の詳細については後述する。
【0036】
EEPROM60には、ディザマスク61と濃度補正テーブル62とが記憶されている。ディザマスク61は、組織的ディザ法によるハーフトーン処理に用いるものであり、複数の閾値により構成される。本実施例のディザマスク61は、その生成方法に起因して、所定の特性を有している。かかる特性については、ディザマスク61の生成方法と共に後述する。濃度補正テーブル62は、印刷画像の濃度ムラを抑制するために、入力階調値を補正するためのテーブルであり、補正前後の入力階調値が対応付けられている。
【0037】
制御ユニット30には、メモリカードスロット98が接続されており、メモリカードスロット98に挿入したメモリカードMCから画像データORGを読み込んで入力することができる。本実施例においては、メモリカードMCから入力する画像データORGは、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3色の色成分からなるデータである。また、制御ユニット30には、操作パネル99が接続されており、プリンター20のユーザーは、操作パネル99を介して、プリンター20の操作を行うことができる。
【0038】
A−2.印刷ヘッド80の詳細構成:
図2は、印刷ヘッド80の詳細構成を示す説明図である。図示するように、本実施例の印刷ヘッド80は、C,M,Y,Kの各色のインクをそれぞれ吐出するノズル列81〜84が形成された印刷ヘッドが、印刷用紙Pの印刷範囲に亘って千鳥状に複数配列されて構成される。このように各々の印刷ヘッドを千鳥状に配列しているのは、印刷ヘッドの端部の強度上の問題や、その付属装置の設置スペースの問題を解決するためである。なお、印刷ヘッドの数は、2以上であればよい。また、印刷ヘッドの配列方法は、特に限定するものではなく、例えば、階段状などでもよい。同様に、実施例においては、ノズル列81〜84を構成する各ノズルは、印刷ヘッドの配列方向に一直線上に並べられて形成されるが、ノズルの配列方法は特に限定するものではなく、例えば、千鳥状に並べられてもよい。
【0039】
これらの印刷ヘッドのうち、印刷用紙Pの搬送方向の上流側に配置されているものを先行ヘッドPH、下流側に配置されているものを後行ヘッドFHともいう。先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとは、その両端部が互いに重複した領域(以下、オーバーラップ領域ORAともいう)と、当該重複がない領域(以下、単独領域SAともいう)とを有するように配置されている。このようにオーバーラップ領域ORAを設けているのは、各々の印刷ヘッドの特性の違い等により、印刷画像における印刷ヘッド同士のつなぎ目に対応する部分に、バンディングが発生することを抑制するためである。
【0040】
かかる先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHは、紙送りとインクの吐出タイミングを調整することにより、印刷ヘッドの配列方向に沿った1つのドット列を形成する。当該ドット列は、単独領域SAにおいては、先行ヘッドPH、後行ヘッドFHのいずれか一方によって形成され、オーバーラップ領域ORAにおいては、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHの両方によって形成される。オーバーラップ領域ORAにおける各々のドット形成位置には、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとのうちのいずれか一方によって、ドットが形成される。
【0041】
かかる印刷ヘッドの配列方向に沿ったドット列の形成動作が連続的に行われることによって、印刷用紙Pの搬送方向にもドット列(本実施例では、ラスターともいう)が形成される。このようにして印刷される印刷領域のうち、各々の印刷ヘッドに対応する領域をバンドともいう。本実施例では、オーバーラップ領域ORA領域に対応する印刷領域については、説明の便宜上、図2に示すように、その中央部分で区切って、また、番号を付して(図中のJは正の整数)、バンドを区別することとする。
【0042】
A−3.印刷処理:
プリンター20における印刷処理について説明する。図3は、プリンター20における印刷処理の流れを示すフローチャートである。ここでの印刷処理は、ユーザーが操作パネル99等を用いて、メモリカードMCに記憶された所定の画像の印刷指示操作を行うことで開始される。印刷処理を開始すると、CPU40は、まず、入力部41の処理として、メモリカードスロット98を介してメモリカードMCから印刷対象であるRGB形式の画像データORGを読み込んで入力する(ステップS110)。
【0043】
画像データORGを入力すると、CPU40は、EEPROM60に記憶されたルックアップテーブル(図示せず)を参照して、画像データORGについて、RGB形式をCMYK形式に色変換する(ステップS120)。
【0044】
色変換処理を行うと、CPU40は、ハーフトーン処理部42の処理として、画像データを各色のドットのON/OFFデータに変換するハーフトーン処理を行う(ステップS130)。本実施例におけるハーフトーン処理は、ディザマスク61を用いた組織的ディザ法によって、入力データとディザマスク61の閾値とを比較し、入力データが閾値以上であればドットONと判断し、入力データが閾値未満であればドットOFFと判断する。なお、ハーフトーン処理は、ドットのON/OFFの2値化処理に限らず、大ドット及び小ドットのON/OFFなど、多値化処理であってもよい。また、ステップS130に供する画像データは、解像度変換処理やスムージング処理などの画像処理が施されたものであってもよい。
【0045】
本実施例においては、CPU40は、上述のハーフトーン処理の対象とする入力データとして、濃度差補正処理を施したものを用いる。濃度差補正処理は、公知の技術であり(例えば、特開2005−224976号公報)、詳しい説明は省略するが、印刷ヘッドやそのノズルの加工精度の問題として、ノズルの向きや間隔が厳密には一定でないことに起因して、ドットの着弾位置がノズル単位やラスター単位で目標位置からずれた場合に、当該ずれによって生じるドットの疎密が印刷画質の濃度ムラとして視認されるので、当該濃度ムラを予め測色しておき、濃度ムラを緩和できるように、ハーフトーン処理の対象となる入力階調値を補正する処理である。本実施例においては、濃度差補正処理は、CPU40が、濃度差補正部44の処理として、濃度補正テーブル62を参照して行う。
【0046】
ハーフトーン処理を行うと、CPU40は、印刷部43の処理として、ハーフトーン処理結果に基づいて、印刷ヘッド80、紙送りモーター92等を駆動させて、印刷を実行する(ステップS140)。こうして、印刷処理は終了となる。
【0047】
A−4.ディザマスク61の生成方法:
上述したディザマスク61の生成方法について説明する。まず、生成するディザマスク61のサイズと構成について以下に説明する。印刷ヘッド80を構成する先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとの位置関係は、これらの千鳥配列に起因して、一定の単位での繰り返しパターンが生じる。具体的には、図4に示すように、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとのノズル列方向における位置関係には、後行ヘッドFHの下端と先行ヘッドPHの上端とがノズル列方向に重複するオーバーラップ領域ORA1と、ノズル列方向に先行ヘッドPHのみが存在する単独領域SA1と、後行ヘッドFHの上端と先行ヘッドPHの下端とがノズル列方向に重複するオーバーラップ領域ORA2と、ノズル列方向に後行ヘッドFHのみが存在する単独領域SA2とからなる繰り返しパターンが生じる。
【0048】
生成するディザマスク61の縦方向(ノズル列方向)サイズD1は、かかる繰り返しパターンの周期の整数倍に対応する画素数に相当するように設定することが望ましい。本実施例においては、ディザマスク61の縦方向サイズD1は、繰り返しパターンの周期の1倍とした。例えば、1つの印刷ヘッドにおける1つのノズル列を構成するノズル数が360であり、オーバーラップ領域ORA1,ORA2のノズル数が8である場合、縦方向サイズD1は、704画素(=8+(360―8×2)+8+(360―8×2))に相当するサイズである。
【0049】
このように、ディザマスク61の縦方向サイズD1を設定し、1つのディザマスク61を縦方向に繰り返し適用すれば、繰り返しパターンにおける各ノズルの位置と、各ノズルでのドットON/OFF判断に用いられるディザマスク61の閾値との対応関係を一定に保つことができる。その結果、後述する生成方法によって得られるディザマスク61の特性に基づいた所望のハーフトーン処理を効率的に行うことができる。もとより、縦方向サイズD1は、かかる繰り返しパターンの周期の整数倍に限るものではなく、例えば、2つのディザマスクを交互に適用するのであれば、かかる繰り返しパターンの周期の1/2倍であってもよい。
【0050】
ディザマスク61の横方向(用紙搬送方向)サイズD2は、ディザマスク61を横方向に繰り返し適用してハーフトーン処理を行う場合に、ディザマスク61の繰り返し周期が印刷画質において視認されにくい程度に大きく、例えば、256画素程度に設定することが望ましい。
【0051】
以下の説明においては、ディザマスク61のサイズは、説明を簡単にするために、縦方向サイズD1を18画素、横方向サイズD2を5画素、つまり合計90画素(=18×5)の画像データに適用するサイズとして説明する(特に断る場合を除く)。ディザマスク61は、そのサイズに応じた格納要素を有している。格納要素とは、ディザマスク61を構成する閾値を格納する要素である。これらの格納要素の全てに閾値を格納することで、ディザマスク61は構成される。
【0052】
本実施例のディザマスク61は、図4に示すように、先行ヘッドPHでドット形成が可能な画素に相当するサイズの格納要素の領域である先行ヘッド格納領域61aと、後行ヘッドFHでドット形成が可能な画素に対応するサイズの格納要素の領域である後行ヘッド格納領域61bとを備えている。本実施例のハーフトーン処理においては、先行ヘッドPHでのドットのON/OFFの判断は、先行ヘッド格納領域61aに格納された閾値を用いて、また、後行ヘッドFHでのドットのON/OFFの判断は、後行ヘッド格納領域61bに格納された閾値を用いて行われる。これらの格納要素のうち、オーバーラップ領域ORA1、単独領域SA1、オーバーラップ領域ORA2、単独領域SA2に適用する閾値を格納する領域を、それぞれ区分エリアA1〜A4ともいう。
【0053】
区分エリアA1〜A4の詳細を図5に示す。図5に示す格子は、それぞれの格納要素を示している。図示するように、先行ヘッド格納領域61aは、オーバーラップ領域ORA1に対応する4個×5個の格納要素からなる区分エリアA1と、単独領域SA1に対応する5個×5個の格納要素からなる区分エリアA2と、オーバーラップ領域ORA2に対応する4個×5個の格納要素からなる区分エリアA3とを有している。図中の「0」は、先行ヘッドPHでドットが形成される画像データに適用する閾値を格納する領域であることを示している。「1」は、後行ヘッドFHでドットが形成される画像データに適用する閾値を格納する領域であることを示している。「0/1」は、後述するディザマスク61の生成方法によって、「1」にも「0」にもなりうる領域であることを示している。
【0054】
同様に、後行ヘッド格納領域61bは、オーバーラップ領域ORA2に対応する4個×5個の格納要素からなる区分エリアA3と、単独領域SA2に対応する5個×5個の格納要素からなる区分エリアA4と、オーバーラップ領域ORA1に対応する4個×5個の格納要素からなる区分エリアA1とを有している。
【0055】
つまり、本実施例のディザマスク61は、90画素の画像データに適用するものであるが、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとを有し、これらが、区分エリアA1と区分エリアA3とを重複して有している。その結果、ディザマスク61は130個(=(4+5+4+4+5+4)×5)の格納要素を有している。
【0056】
かかるサイズのディザマスク61の生成方法について以下に説明する。ディザマスク61の生成方法の手順を示すフローチャートを図6及び図7に示す。以下に説明する生成方法は、メインフレーム等のCPUによって、ディザマスク61等を生成する処理である。なお、以下に説明する工程の一部または全部をユーザーが行っても差し支えない。本実施例におけるディザマスク61は、130個の格納要素を有するが、90画素に対応するものであるから、以下の説明においては、値0〜89の90個の閾値を用意し、これらを130個の格納要素のいずれかに格納して、ディザマスク61を生成するものとして説明する。
【0057】
ディザマスク61の生成においては、まず、オーバーラップ領域ORA1,ORA2における、ラスター(印刷用紙Pの搬送方向のドット列)ごとの印字比率を指定する(ステップS210)。印字比率とは、オーバーラップ領域ORA1,ORA2において、ラスターごとに、当該ラスターを構成する各々のドットの形成を先行ヘッドPHと後行ヘッドFHのいずれで形成するかを示す、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとの割合、つまり、ラスターごとの先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHのドット発生率である。
【0058】
本実施例における印字比率を図8に示す。図8の横軸は、ディザマスク61の縦方向サイズD1に対応するラスター番号を示している。縦軸は、先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHのドット発生率を示している。図示するように、本実施例の印字比率は、オーバーラップ領域ORA1,ORA2を構成する全てのラスターにおいて、先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHのドット発生率がいずれも50%となるように指定することとした。単独領域SA1の各ラスターは、先行ヘッドPHのみが存在する領域であることから、当然に先行ヘッドPHのドット発生率は100%であり、単独領域SA2の各ラスターは、後行ヘッドFHのみが存在する領域であることから、後行ヘッドFHのドット発生率は100%である。なお、印字比率は、上述の例に限られるものではなく、製造者の所望の比率を指定すればよい。
【0059】
印字比率を指定すると、次に、着目閾値を選択する(ステップS220)。着目閾値とは、用意した0〜89の閾値のうちの、未だ格納要素に格納されていない閾値のうちから選択される1つの閾値である。本実施例においては、用意した閾値のうちの小さい閾値から順に、着目閾値を選択することとした。例えば、後述する工程によって値0〜7の閾値が既に格納要素に格納されている場合には、次にステップS220において選択される着目閾値は値8である。
【0060】
着目閾値を選択すると、次に、当該選択した着目閾値を格納する区分エリアを区分エリアA1〜A4の中から決定する区分エリア決定処理を行う(ステップS230)。区分エリア決定処理は、着目閾値を格納すべき格納要素が属する区分エリアの候補を決定するものであり、選択される区分エリアは、単数であってもよいし、複数であってもよい。この処理については、図9を用いて具体的に説明する。図9に示すように、区分エリアA1,A3は、それぞれ20個の格納要素を有し、区分エリアA2,A4は、それぞれ25個の格納要素を有している。なお、区分エリアA1とは、先行ヘッド格納領域61aの区分エリアA1と後行ヘッド格納領域61bのA1とを含み、区分エリアA3とは、先行ヘッド格納領域61aの区分エリアA3と後行ヘッド格納領域61bのA3とを含む。ここでは、区分エリアA1〜A4には、既に格納された閾値が、それぞれ3個、6個、4個、6個あるものとして説明する。
【0061】
ステップS230の処理は、以下のようにして行われる。まず、区分エリアA1〜A4ごとの格納要素数と格納済みの閾値数とを用いて、次式(1)により、閾値設定割合を算出する。例えば、区分エリアA1の閾値設定割合は、15%(=3/20)となる。
閾値設定割合(%)=格納済みの閾値数/格納要素数・・・(1)
【0062】
次に、閾値設定割合の最小値を特定する。この例では、区分エリアA1の値15が最小となる。そして、閾値設定割合が、特定した最小値から所定の許容幅にある区分エリアを選択する。本実施例では、許容幅は値5とした。この場合、選択される区分エリアは、区分エリアA1及びA3となる。
【0063】
要するに、ステップS230の処理は、着目閾値を、閾値が未だ格納されていない格納要素(以下、空白格納要素ともいう)に格納したとした場合に、区分エリアごとの、格納要素の数に対する、閾値が既に格納された格納要素(以下、既格納要素ともいう)の割合が、均等な状態から所定範囲に属する結果となるように、着目閾値を格納する候補としての区分エリアを決定する処理である。
【0064】
こうして、区分エリアを決定すると、次に、決定した区分エリアが、オーバーラップ領域ORA1,ORA2に対応する区分エリアA1,A3を含むか否かを判断する(ステップS240)。その結果、決定した区分エリアが区分エリアA1またはA3を含めば(ステップS240:YES)、ヘッドグループ判定処理を行う(ステップS250)。ヘッドグループ判定処理とは、オーバーラップ領域ORAに対応する、着目閾値を格納すべき空白格納要素の候補を、ドットの配置のバランスを考慮して絞り込む処理である。具体的には、着目要素が属する区分エリアA1またはA3において、着目閾値を格納すべき空白格納要素をいずれのラスターに属させるかというラスターの絞り込みと、着目閾値が適用されるドット形成位置に、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHのいずれでドットを形成するかという割当情報の絞り込みとを行う処理である。
【0065】
ヘッドグループ判定処理については、図10を用いて具体的に説明する。図10は、区分エリアA3の既格納要素数の数と、その理想値とをラスターごとに示している。なお、本実施例のディザマスク61の横方向サイズD2は、上述の通り5画素に対応するが、ここでは、処理の内容をより明らかにするために、25画素に対応するものとして、つまり、ラスター方向に25個の格納要素を有するものとして説明する。
【0066】
図10の(A)欄は、区分エリアA3におけるラスターに対応する各格納要素行を区別するために付した番号を示している。図10の説明では、これらの各格納要素行を単にラスターともいい、番号を付した格納要素行を「ラスター1」などともいう。なお、ここでいうラスターは、先行ヘッド格納領域61aのラスターと後行ヘッド格納領域61bのラスターとを含んでいる。図10の(B)欄は、各ラスターごとの既格納要素数を示している。図示するとおり、ラスター1〜4には、それぞれ21個、22個、20個、22個の閾値が既に格納されている。
【0067】
また、図10の(B)欄は、これらの既格納要素が、先行ヘッド格納領域61aの区分エリアA3と後行ヘッド格納領域61bの区分エリアA3のいずれに属しているかを示している。例えば、ラスター1では、21個の既格納要素のうちの10個が後行ヘッド格納領域61bの区分エリアA3に属し、11個が先行ヘッド格納領域61aの区分エリアA3に属している。このことは、10個の既格納要素に格納された閾値が適用されるドット形成位置が、後行ヘッドFHでドットを形成するように割り当てられ、11個の既格納要素に格納された閾値が適用されるドット形成位置が、先行ヘッドPHでドットを形成するように割り当てられていることを意味する。
【0068】
図10の(D)欄は、ステップS210で指定した印字比率に基づいた、各ラスターの最終的な先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとの割当(以下、閾値格納割合ともいう)を示している。図示するとおり、各ラスターの閾値格納割合は、いずれも50%となっている。
【0069】
図10の(C)欄は、着目閾値を各ラスターに格納したと仮定した場合の、理想的な先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHの割当の数(以下、割当理想値ともいう)を示している。割当理想値は、閾値格納割合と、該当するラスターの既格納要素の数に値1(着目閾値が格納されたと仮定した分)を加算した値との積として求めることができる。例えば、着目閾値をラスター1に格納すると仮定した場合には、割当理想値は、先行ヘッドPH、後行ヘッドFHともに50%×(21+1)=11個となる。
【0070】
本実施例のヘッドグループ判定処理では、これらの情報に基づいて、ドットの配置のバランスが理想的な状態からの許容幅を設定して、着目閾値を格納すべきラスターと割当情報との組み合わせの候補を設定する。換言すれば、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとを区別したラスターの候補を設定する。
【0071】
具体的には、ラスターの絞り込みは、各ラスターに着目閾値を格納したと仮定した場合に、ラスターごとの既格納要素の数が均等な状態から所定範囲に収まるように行う。本実施例においては、既格納要素の数が最も少ないラスターと最も多いラスターとの差分が値2以下となるように絞り込みを行う。
【0072】
図10に示した例では、ラスター1に着目閾値を格納したと仮定した場合、ラスター1の既格納要素数は値22(=21+1)となる。このとき、上述の差分は値2となるから、上述の所定範囲に収まる結果となる。同様に、ラスター3に着目閾値を格納した場合、ラスター3の既格納要素数は値21となり、上述の差分は値1となるから、上述の所定範囲に収まる結果となる。一方、ラスター2やラスター4に着目閾値を格納した場合、ラスター2及びラスター4の既格納要素数は値23となり、上述の差分は値3となるから、上述の所定範囲に収まらない結果となる。以上から、着目閾値を格納すべきラスターは、ラスター1とラスター3とに絞り込まれることとなる。こうして絞り込まれたラスターをラスター候補ともいう。
【0073】
また、割当情報の絞り込みは、絞り込んだラスターについて、各ラスターに着目閾値を格納し、当該着目閾値を格納する格納要素を先行ヘッドPHまたは後行ヘッドFHのいずれかに割り当てたと仮定した場合に、既格納要素の割当が割当理想値から所定範囲に収まるように行う。本実施例においては、割当理想値として先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHに割り当てられた格納要素の数と、実際に割り当てられた先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHに割り当てられた格納要素の数との差分が値2以下となるように絞り込みを行う。
【0074】
図10に示した例では、ラスター1に着目閾値を格納した場合、当該着目閾値を格納する格納要素を後行ヘッドFHに割り当てれば、後行ヘッドFH、先行ヘッドPHの割当数(FH,PH)=(11,11)となり、割当理想値(11,11)と一致する。つまり、割当理想値との差分は値0である。一方、該着目閾値を格納する格納要素を先行ヘッドPHに割り当てれば、後行ヘッドFH、先行ヘッドPHの割当数(FH,PH)=(10,12)となり、割当理想値(11,11)との差分値は値1となる。
【0075】
また、ラスター3に着目閾値を格納した場合、当該着目閾値を格納する格納要素を後行ヘッドFHに割り当てれば、後行ヘッドFH、先行ヘッドPHの割当数(FH,PH)=(9,12)となり、割当理想値(10.5,10.5)との差分値は値1.5となる。一方、該着目閾値を格納する格納要素を先行ヘッドPHに割り当てれば、後行ヘッドFH、先行ヘッドPHの割当数(FH,PH)=(8,13)となり、割当理想値(10.5,10.5)との差分値は値2.5となる。以上から、割当情報は、ラスター1については、先行ヘッドPH及び後行ヘッドFH、ラスター3については、後行ヘッドFHに絞り込まれることとなる。こうして絞り込まれた割当情報を割当候補ともいう。
【0076】
こうして、ヘッドグループ判定処理により、ラスターと割当情報の絞り込みを行うと、あるいは、決定した区分エリアが区分エリアA1またはA3を含まなければ(ステップS240:NO)、ステップS230で決定した区分エリアに属する空白格納要素の1つを選択する(ステップS260)。ステップS260では、ステップS230で決定した区分エリア(ここでは、区分エリアA1及びA3)の格納要素を順次スキャンすることで、空白格納要素を特定する。本実施例では、図11に示すように、区分エリアA1の右上の格納要素からスキャンしていき、繰り返し実行されるステップS260(詳細は後述)において未だ選択されていない未選択の空白格納要素を順次選択するものとした。こうして選択された空白格納要素を着目要素ともいう。
【0077】
空白格納要素を着目要素として選択すると、次に、着目要素がオーバーラップ領域ORA1,ORA2に対応する区分エリアA1,A3に属するか否かを判断する(ステップS270)。その結果、着目要素が区分エリアA1またはA3に属すれば(ステップS270:YES)、更に、着目要素がステップS250で絞り込んだラスター候補に属するか否かを判断する(ステップS280)。
【0078】
その結果、着目要素がラスター候補に属すれば(ステップ280:YES)、更に、着目要素がステップS250で絞り込んだ割当候補に属するか否かを判断する(ステップS300)。この判断は、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bのうちの、ステップS260で選択した着目要素が属する一方の格納領域と、割当候補とが一致するか否かによって行う。これらが一致すれば、着目要素は割当候補に属し、一致しなければ、着目要素は割当候補に属さない。
【0079】
その結果、着目要素が割当候補に属すれば(ステップS300:NO)、または、着目要素が区分エリアA1またはA3に属さなければ(ステップS270:NO)、ステップS260で選択した着目要素についての総合評価値CEの算出を行う(ステップS310)。総合評価値CEとは、着目閾値を格納する格納要素の複数の候補を評価して、当該候補の中から着目閾値を格納すべき格納要素を決定するための評価値である。総合評価値CEは、着目閾値が先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bのいずれに格納するかの違いが、評価値に反映されるように構成される。総合評価値CEの算出方法の詳細は後述するが、本実施例では、総合評価値CEの値が小さい方が、着目閾値を格納する格納要素として優れているといえる。
【0080】
一方、着目要素がラスター候補に属さなければ(ステップS280:NO)、または、着目要素が割当候補に属さなければ(ステップS300:NO)、総合評価値CEを最大値MAXに設定する(ステップS290)。ここでの最大値MAXとは、着目要素がラスター候補及び割当候補に属する場合に(ステップS300:YES)ステップS310において算出される総合評価値CEよりも必ず大きくなるように予め定められた値である。このように総合評価値CEを設定するのは、着目要素がラスター候補及び割当候補に属さなければ、当該着目要素に着目閾値を格納することは望ましくないため、当該着目要素を、着目閾値を格納する格納要素の候補から実質的に除外するためである。
【0081】
こうして、総合評価値CEを算出、または設定すると、着目要素の総合評価値CEと最有力要素の総合評価値CEとを比較する(ステップS320)。その結果、着目要素の総合評価値CEが最有力要素の総合評価値CEよりも小さければ(ステップS320:YES)、着目要素を最有力要素に設定する(ステップS330)。一方、着目要素の総合評価値CEが最有力要素の総合評価値CE以上であれば(ステップS320:NO)、ステップS330の処理は省略される。
【0082】
かかるステップS260〜S340の処理は、ステップS230で決定した区分エリアに属する空白格納要素の全てについて繰り返し行う(ステップS340)。以上の説明からも明らかなように、上述した最有力要素とは、空白格納要素の各々について総合評価値CEを順次算出していく過程において、その時点で総合評価値CEが最も小さい値となった空白格納要素である。
【0083】
こうして全ての空白格納要素について総合評価値CEを求めると(ステップS340:YES)、最有力要素へ着目閾値を格納する(ステップS350)。ステップS350の具体例を図12に示す。図12(a)は、閾値0〜18が既に格納要素に格納され、上述の処理により、着目閾値についての最終的な最有力要素が決定された様子を示している。格子中の数字は、格納された閾値の値を示している。この例では、図示するように、後行ヘッド格納領域61bの区分エリアA3に属する格納要素EL1が最終的な最有力要素となっている。格納要素EL1と同一のドット形成位置に対応する格納要素EL2には、既に値10の閾値が格納されている。このような場合に、ステップS350では、図12(b)に示すように、値19の着目閾値を最有力要素である格納要素EL1に格納するのである。なお、図示する閾値の配置は、説明用に無作為に配置したものであり、上述の手法により最適化された配置を示しているわけではない。以下に、図示する閾値の配置についても同様である。
【0084】
以上の説明から明らかなように、本実施例においては、同一のドット形成位置に対応する先行ヘッド格納領域61aの格納要素と後行ヘッド格納領域61bの格納要素の両方に閾値を格納することを許容している。本実施例のハーフトーン処理においては、先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHでのドットのON/OFFの判断を、それぞれに対応する先行ヘッド格納領域61aまたは後行ヘッド格納領域61bに格納された閾値を用いて行うのであるから、上述の閾値格納方法は、先行ヘッドPHで形成されるドットと、後行ヘッドFHで形成されるドットとが、同一のドット形成位置に重畳して形成されることを許容していることを意味する。
【0085】
こうして、着目閾値を格納すると、用意した閾値0〜89の全てが格納されるまで、上記ステップS220〜S350処理を繰り返す(ステップS360)。そして、閾値0〜89の全てが格納されると、その時点で閾値か格納されていない空白格納要素にドットOFF閾値THoffを格納する(ステップS370)。ここでのドットOFF閾値THoffとは、入力される階調値よりも必ず大きくなるように値が予め定められた閾値である。
【0086】
ステップS360の具体例を図13に示す。図13(a)は、用意した値0〜89の閾値の全てが、ステップS210〜S360の処理によって空白格納要素に格納された様子を示している。格子中の数字は、格納された閾値の値を示し、閾値の値を反転表示した格子は、上述のドットの重畳がなされる格納要素を示している。このような場合に、ステップS360では、図13(b)に示すように、その時点での空白格納要素にドットOFF閾値THoff(図中では値99とした)を格納するのである。なお、図中では、ドットOFF閾値THoffを格納した格納要素は、閾値を反転表示している。こうして、先行ヘッド格納領域61a及び後行ヘッド格納領域61bの全ての格納要素に、用意した閾値0〜89、または、ドットOFF閾値THoffのいずれかが格納されると、ディザマスク61は完成となる。
【0087】
A−5.総合評価値CEの算出方法:
上述した総合評価値CEの算出方法について、以下に説明する。本実施例における総合評価値CEは、第1の評価値E1と第2の評価値E2と調整係数α,βとを用いて、次式(2)によって算出される。調整係数α,βは、ディザマスク61を用いた実際の印刷結果に基づいて実験的に定められる係数である。
CE=α×E1+β×E2・・・(2)
【0088】
第1の評価値E1、第2の評価値E2は、それぞれ概念の異なる評価値であり、評価値を算出する対象となる格納要素の領域も異なる。図14は、第1の評価値E1及び第2の評価値E2を算出する対象となる格納要素の範囲を示す説明図である。
図14の右側の格子は、先行ヘッド格納領域61aを示している。また、図14の中央の格子は、後行ヘッド格納領域61bを示している。ハッチングで表示した格子は、既格納要素を示している。つまり、先行ヘッド格納領域61aのハッチングは、先行ヘッドPHで形成されるドットパターン(以下、先行ヘッドグループドット配置ともいう)を示しており、後行ヘッド格納領域61bのハッチングは、後行ヘッドFHで形成されるドットパターン(以下、後行ヘッドグループドット配置ともいう。また、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHのいずれか一方のみで形成されるドットパターンをヘッドグループドット配置ともいう)を示している。黒く塗りつぶした格子は、ステップS260で選択された着目要素であることを示している。
【0089】
図14の左側の格子は、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとを重畳した様子を示している。つまり、図14の左側の格子におけるハッチングは、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHの両方で形成されるドットパターンを示している。かかるドットパターンを最終ドット配置ともいう。
【0090】
このようにグループ化されたドット配置のうち、第1の評価値E1は、着目要素が属する区分エリア(ここでは区分エリアA3)の最終ドット配置に対して算出される評価値である。一方、第2の評価値E2は、先行ヘッド格納領域61aまたは後行ヘッド格納領域61bのうちの、着目要素が属する方の格納領域に対応するヘッドグループドット配置に対して算出される評価値である。図14の例では、着目要素は後行ヘッド格納領域61bに属しているから、第2の評価値E2は、後行ヘッドグループドット配置に対して算出される。
【0091】
第1の評価値E1の詳細について以下に説明する。第1の評価値E1は、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHのいずれでドットを形成するかの違いに起因にして、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとの間で、印刷用紙Pへのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた場合の、ドット被覆率の変化を定量化したものである。ドット被覆率とは、オーバーラップ領域ORAにおいて、ドットが印刷用紙Pを覆う割合である。以下、ドット被覆率を単に被覆率ともいう。第1の評価値E1の評価の対象となる最終ドット配置は、着目要素に着目閾値が格納されたと仮定した場合の、それまでの工程で閾値が格納された格納要素に対応する画素がドットONとなった場合の最終ドット配置である。
【0092】
第1の評価値E1の具体例について、図15及び図16を用いて説明する。第1の評価値E1の算出は、図15に示すように、まず、N種類(Nは2以上の整数)のずれパターンを想定し、指定する(ステップS311)。ずれパターンとは、上述のインク着弾位置のずれの方向とずれ量とを想定したパターンであり、本実施例では、ずれが生じていない状態のパターンを含む。かかる着弾位置のずれは、例えば、印刷用紙Pの搬送速度の精度に起因して、印刷用紙Pの搬送方向へのずれとして生じ得る。あるいは、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHの据付精度に起因して、上下左右のあらゆる方向へのずれとして生じ得る。なお、想定するずれパターンは、必ずしも、ずれが生じていない状態のパターンを含む必要はない。
【0093】
本実施例においては、ステップS311では、ずれが生じていない状態を示すパターン1と、後行ヘッドグループドット配置が印刷用紙Pの搬送方向に1画素分ずれた状態を示すパターン2とを想定した。かかるずれパターンについて具体例を示す。図16(a)は、図14で例示した注目要素に閾値を格納したと仮定した場合のヘッドグループドット配置を示している。図16(a)に示したヘッドグループドット配置を前提とすれば、パターン1の場合の区分エリアA3の最終ドット配置は、図16(b)に示すように、先行ヘッドグループドット配置と後行ヘッドグループドット配置とを単純に重畳した形状となる。シングルハッチングで表示した格納要素は、先行ヘッドグループドット配置に属するものであり、クロスハッチングで表示した格納要素は、後行ヘッドグループドット配置に属するものである。また、黒く塗りつぶして表示した格納要素は、先行ヘッドグループドット配置と後行ヘッドグループドット配置の両方に属するものである。一方、パターン2の場合の区分エリアA3の最終ドット配置は、図16(c)に示すように、クロスハッチングで示した後行ヘッドグループドット配置が、印刷用紙Pの搬送方向に1画素分ずれた配置となる。
【0094】
本実施例では、想定するずれパターンの数は2種類としたが、3種類以上であってもよい。また、想定するずれの方向は、用紙搬送方向に限らず、用紙搬送方向と反対の方向、用紙搬送方向と直交する方向などでもよく、用紙搬送方向とそれに用紙搬送方向との両方に同時にずれた状態でもよい。また、想定するずれ量は、1画素の整数倍に限らず、1.5画素、1.25画素などであってもよい。これらのずれパターンは、プリンター20の紙送り精度や印刷ヘッド80の据付精度を実測して、実際に生じ得るパターンのうちから設定することが望ましい。
【0095】
ずれパターンを複数想定すると、次に、ドット形状を定義する(ステップS312)。ここで定義するドット形状は、インクが印刷用紙Pに着弾した際に、実際に形成されるドットの形状である。インクジェット式プリンターにおいては、印刷用紙Pに着弾したインクは、所定範囲に広がって定着する。また、印刷ヘッドと印刷用紙Pとの相対移動を行いながらインクを吐出するので、相対移動方向に広がりやすい。ドット形状を定義するのは、このようなドットの実際の形状を反映させて、より正確にドット被覆率を算出するためである。
【0096】
ドット形状の定義の具体例を図16(d)に示す。この例では、用紙搬送方向及びそれに直交する方向にそれぞれ2倍の解像度変換を行うことにより、1画素を4画素に変換した上で、ドット形状を定義している。クロスハッチングで示した画素は、インクの広がりが生じない場合にドットが形成される画素であり、図16(a)〜図16(c)でハッチング表示または塗りつぶし表示した1画素分に相当する。シングルハッチングで表示した画素は、インクの広がりによりドットが形成される画素である。このように解像度変換を行って、ドット形状の分解能を上げることにより、精度良くドット形状を反映させることができる。また、想定するずれ量が1画素の整数倍でない場合にも対応可能となる。なお、このようなドット形状の定義や解像度変換は、必須ではない。
【0097】
ドット形状を定義すると、次に、ステップS311で想定したずれパターンごとに、当該ずれパターンに基づいて、ドット形状を反映して、先行ヘッドグループドット配置と後行ヘッドグループドット配置とを重畳する(ステップS313)。パターン1及びパターン2についての重畳後のドット配置を図16(e)に示す。図示するドットパターンは、図16(b),図16(c)に示した最終ドット配置に対して、各々の画素を、定義したドット形状に置き換えたものである。図中のクロスハッチングで表示した画素は、図16(b),図16(c)に示した最終ドット配置と一致するドットパターンであり、シングルハッチングで表示した画素は、図16(d)においてシングルハッチングで表示した画素に対応している。
【0098】
先行ヘッドグループドット配置と後行ヘッドグループドット配置とを重畳すると、次に、N種類のずれパターンごとに被覆率Cnを算出する(ステップS314)。被覆率Cnは、次式(3)により求めることができる。
Cn=評価領域のドットONの画素数/評価領域の総画素数×100・・・(3)
【0099】
例えば、図16(e)に示すパターン1では、評価領域である区分エリアA3の総画素数は80個であり、ハッチング表示したドットONの画素数は28個であるから、パターン1の被覆率C1は値35.0(=28/80×100)となる。また、パターン2では、区分エリアA3のドットONの画素数が34個であるから、被覆率C2は値42.5(=34/80×100)となる。
【0100】
被覆率Cnを算出すると、これらに基づいて、第1の評価値E1を算出する(ステップS315)。本実施例においては、第1の評価値E1は、次式(4)によって算出される。
【0101】
【数1】

【0102】
こうして算出される第1の評価値E1は、被覆率Cnのばらつきの程度を示すこととなる。第1の評価値E1は、その値が小さいほど、想定したインク着弾位置ずれによる被覆率Cnのばらつきが小さいことを意味する。つまり、その値が小さいほど、想定したインク着弾位置ずれが生じた場合に、オーバーラップ領域ORAにおけるインク着弾位置ずれによる印刷画質における濃度ムラの発生や粒状性の悪化を抑制でき、その点において優れているといえる。
【0103】
第2の評価値E2の詳細について以下に説明する。第2の評価値E2は、着目要素が属する方の格納領域に対応するヘッドグループドット配置についてのドットの分散性を示す評価値、具体的には、どの程度満遍なくドットが分散された状態で形成されるかを示す評価値である。第2の評価値E2の評価の対象となるヘッドグループドット配置は、着目要素に着目閾値が格納されたと仮定した場合の、それまでの工程で閾値が格納された格納要素に対応する画素がドットONとなった場合のヘッドグループドット配置である。ドットを満遍なく分散された状態で形成するためには、図17に示すブルーノイズ特性やグリーンノイズ特性を有するディザマスクを生成すればよいことが知られている。
【0104】
こうした第2の評価値E2としては、例えば、粒状性指数を用いることができる。粒状性指数は、公知の技術であるため(例えば、特開2007−15359号公報)、詳しい説明は省略するが、画像をフーリエ変換してパワースペクトルFSを求め、得られたパワースペクトルFSを、人間が有する視覚の空間周波数に対する感度特性VTF(Visual Transfer Function)に相当する重みを付けて、各空間周波数で積分して求められる指標である。図18(a)に、VTFの一例を示す。こうしたVTFを与える実験式には、種々の式が提案されているが、図18(b)に代表的な実験式を示す。変数Lは観察距離を表しており、変数uは空間周波数を表している。粒状性指数は、かかるVTFに基づいて、図18(c)に示した計算式によって算出することができる。係数Kは、得られた値を人間の感覚と合わせるための係数である。なお、算出方法からも明らかなように、粒状性指数は、人間がドットを目立つと感じるか否かを示す指標であるとも言える。かかる第2の評価値E2は、その値が小さいほど印刷画質においてドットが視認されにくく、その点において優れているといえる。
【0105】
以上のように、本実施例の総合評価値CEは、オーバーラップ領域ORAにおける被覆率Cnのばらつきが小さい点と、ヘッドグループドット配置についてのドットの分散性が良好である点とを、所定のレベルで両立させるための評価値であるといえる。
【0106】
A−6.ディザマスク61の使用方法:
上述したディザマスク61のハーフトーン処理(ステップS130)での使用方法について説明する。以下に述べる使用方法は、本実施例のディザマスク61が、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとを有していることつまり、重複する区分エリアA1,A3を有していることに起因するものである。図19(a)は、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとの位置関係を示している。図19(b)は、ハーフトーン処理の対象となる画像データDの領域を示している。図示するように、オーバーラップ領域ORA1に対応する画像データ領域を画像データD1,D11,D21などという。同様に、単独領域SA1に対応する画像データ領域をD2、D12、オーバーラップ領域ORA2に対応する画像データ領域を画像データD3,D13、単独領域SA2に対応する画像データ領域をD4、D14などという。
【0107】
かかる画像データDにディザマスク61を適用してハーフトーン処理を行うに際しては、図19(c)に示すように、画像データDのうち、オーバーラップ領域ORA1及びORA3に対応する画像データ領域(図中では、画像データD1,D3,D11,D13)をコピーして印刷ヘッドの配列方向に連続させた画像データDRを生成する。そして、図19(d)に示すように、画像データDRの構成と、先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHの並びに合わせて、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとの並びを組み替えて合成したディザマスク61を印刷ヘッドの配列方向に繰り返し適用して、ハーフトーン処理を行う。
【0108】
あるいは、ディザマスク61によりハーフトーン処理は、以下のように行ってもよい。図20の(a)〜図20(c)は、図19(a)〜図19(c)と同一の図である。図20(d)は、画像データDRに対するディザマスク61の適用方法を示している。この例では、図20(d)に示すように、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bの並びをそのままに合成したディザマスク61を、オーバーラップ領域ORA1、単独領域SA1、オーバーラップ領域ORA2、単独領域SA2に対応する画像データDRの領域が、それぞれディザマスク61の区分エリアA1〜A4に対応するように、印刷ヘッドの配列方向に繰り返し適用して、ハーフトーン処理を行う。このように、ディザマスク61の使用方法は、オーバーラップ領域ORA1、単独領域SA1、オーバーラップ領域ORA2、単独領域SA2に対応する画像データDRの領域が、それぞれディザマスク61の区分エリアA1〜A4に対応するように適用するものであればよい。
【0109】
A−7.効果:
上述したディザマスク61の生成方法は、生成するディザマスクが、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとを備えており、オーバーラップ領域ORAに対応させる格納要素を、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとで重複して有している。そして、先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bのうちのいずれに閾値を格納するかによって異なる値となる総合評価値CEによって、閾値を格納すべき格納要素を決定する。したがって、ディザマスク61と、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHのいずれでドットを形成するかを示す割当情報とを一連の工程で同時に生成することができる。
【0110】
その結果、ディザマスク61によって発生するオーバーラップ領域での各階調のドットパターンにおける割当のバランスを制御しながら、ディザマスク61を生成することができる。こうして生成されるディザマスク61を用いてハーフトーン処理を行えば、階調変化によって、オーバーラップ領域ORAにおける印刷ヘッドの割当が急激に変化することを抑制することができる。その結果、インクの着弾位置ずれが生じた場合の、各階調間におけるドットの疎密の変化量が小さくなり、オーバーラップ領域ORAにおける印刷画質の低下を抑制できる。しかも、閾値を格納すべき格納要素は、オーバーラップ領域ORAにおいて、先行ヘッドPHで形成されるドットと、後行ヘッドFHで形成されるドットとが同一のドット形成位置に形成されることを許容した条件で行われるので、閾値を格納すべき格納要素の選択の自由度を高めることができ、より評価値の優れた閾値を格納すべき格納要素を決定することができる。
【0111】
また、上述したディザマスク61の生成方法は、候補格納要素を設定するに際して、区分エリアA1〜A4の既格納要素のバランスと、オーバーラップ領域ORAにおけるラスターごとの既格納要素のバランスと、設定した印字比率との整合性とを条件として、着目閾値を格納すべき格納要素の候補を絞り込むので、オーバーラップ領域ORAにおけるドットの配置のバランスを精度良く制御することができる。その結果、インクの着弾位置ずれが生じた場合のドットの疎密の変化量をより小さくすることができるディザマスク61を生成することができる。また、格納要素の候補を上記条件により大きく限定するので、総合評価値CEの算出数を少なくすることができ、ディザマスク61の生成処理を効率化することができる。また、上記条件について、最適なバランス等に対して許容幅を設けているので、最適なバランス等に限る場合と比べて、幅広い候補格納要素の中から総合評価値CEが最適なものを選択することができ、インクの着弾位置ずれが生じた場合のドットの疎密の変化量を小さくする効果を高めることができる。
【0112】
また、上述したディザマスク61の生成方法は、第2の評価値E2によって、候補格納要素が属するヘッドグループドット配置のドットの分散性を評価して、候補格納要素を評価するので、単独領域SAにおけるドットの分散性を確保することができる。したがって、単独領域SAにおける印刷画像を良好に保つことができるディザマスク61を生成することができる。また、第1の評価値E1によって、着目要素が属する区分エリアの最終ドット配置に対して、想定したずれパターンごとに算出される被覆率Cnのばらつきの程度が小さくなるように、候補格納要素を評価するので、いずれのずれパターンが生じても、オーバーラップ領域におけるドットの疎密の変化量が一定程度小さくなるように制御することができる。したがって、オーバーラップ領域ORAにおけるインクの着弾位置ずれに伴う印刷画質の低下を抑制できるディザマスク61を生成することができる。
【0113】
また、上述したディザマスク61の生成方法は、想定するずれパターンとして、インク着弾位置のずれが生じていない状態のパターンを含めているので、インク着弾位置のずれが生じない場合においても、被覆率の変動を抑制することができる。
【0114】
また、上述したディザマスク61の生成方法は、オーバーラップ領域ORAにおける最終ドット配置に対しては、ドットの分散性を考慮せずに、被覆率のばらつきのみを評価しているので、ドットの疎密に伴う濃度ムラの発生を最大限抑制することができる。
【0115】
また、上述した方法により生成されたディザマスク61を搭載するプリンター20は、濃度差補正部44としての機能を有している。オーバーラップ領域ORAにおける濃度ムラの発生原因は、印刷ヘッドのずれなどによって常に一定量発生するずれに起因するものと、印刷用紙の搬送精度の問題などによって、印字ごとに変化する量で発生するずれに起因するものとがあるが、濃度差補正部44の機能によって、常に一定量発生するずれに起因する濃度ムラの発生を抑制することができる。したがって、ディザマスク61の濃度ムラ抑制効果と相まって、濃度ムラの発生抑制効果をより高めることができる。逆に言えば、かかるプリンター20において、ディザマスク61によってハーフトーン処理を行い、印刷すれば、濃度ムラを目立たない程度に収めるための、インクの着弾位置ずれの許容幅を広げることができる。
【0116】
上述した生成方法により生成されたディザマスク61の特性と効果の具体例を図26及び図27を用いて説明する。図26(a)は、プリンター20の先行ヘッドPHと後行ヘッドFHの位置関係を示している。先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとは、オーバーラップ領域ORAを有するように配置されている。従来手法でディザマスクを生成した場合の、オーバーラップ領域ORAの周辺のドット配置を図26(b)に示す。図示するように、インク着弾位置のずれが生じていない場合には、ドットは適度に分散配置されている。
【0117】
この最終ドット配置を先行ヘッドグループドット配置と後行ヘッドグループドット配置とに分離してみれば、オーバーラップ領域ORAにおいて、ドットの疎密が生じていることが分かる。これは、最終ドット配置の粒状性を確保できるようにディザマスクを生成した後に、オーバーラップ領域ORAにおける先行ヘッドPHと後行ヘッドFHの割当を決定しているからである。その結果、インク着弾位置が目標位置からずれた(ここでは用紙搬送方向に3画素のずれ)場合の最終ドット配置は、図示するように、局所的にドットの疎密が発生した結果となっている。
【0118】
一方、上述した本発明の手法で生成したディザマスク61等を生成した場合のオーバーラップ領域ORAの周辺のドット配置を図26(c)に示す。図示するように、インク着弾位置のずれが生じていない場合には、ドットは適度に分散配置されている。この最終ドット配置を先行ヘッドグループドット配置と後行ヘッドグループドット配置とに分離してみれば、オーバーラップ領域ORAのいずれのグループドット配置においても、ドットは適度に分散配置されていることがわかる。これは、ディザマスク61が、区分エリアA1,A3が重複する先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとを有する構成として、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとの割当をディザマスク61の閾値の格納と同時に行って、総合評価値CEによってオーバーラップ領域ORAにおけるドット配置をコントロールした結果である。これにより、インク着弾位置が目標位置からずれた(ここでは用紙搬送方向に3画素のずれ)場合の最終ドット配置においても、局所的なドットの疎密の発生を抑制した結果となっている。また、区分エリアA1,A3におけるドットの重畳を許容した条件で第1の評価値E1を算出して、被覆率Cnの変動を抑制したために、ドットの疎密の発生を抑制する効果が高められている。
【0119】
かかるオーバーラップ領域ORAでの印刷結果を図27(a)の評価画像について示せば、従来手法では、図27(b)に示すように、粒状性の悪化や濃度ムラの発生が目立つ印刷結果となる。図示するオーバーラップ領域ORAは、図2に示したバンドJとバンドJ+1とのつなぎ目のオーバーラップ領域ORAを示している。一方、本発明では、図27(c)に示すように、粒状性の悪化や濃度ムラの発生が大幅に抑制されていることがわかる。
【0120】
B.変形例:
上述の実施形態の変形例について説明する。
B−1.変形例1:
上述の実施形態においては、ディザマスク61の生成において、ディザマスク61が、区分エリアA1,A3が重複する先行ヘッド格納領域61aと後行ヘッド格納領域61bとを有し、用意した閾値が格納されなかった空白格納要素には、ドットOFF閾値THoffを格納する構成としたが、かかる構成に限られるものではない。図21に変形例としてのディザマスク61の生成方法について示す。図21は、図7に相当するディザマスク61の生成工程を示している。図6に示した処理は、本変形例でも実施例と共通の処理である。図21においては、図7と同一の工程については、図7と同一の符号を付して説明を省略し、図7と異なる点について以下に説明する。最有力要素に着目閾値を格納すると、着目閾値を格納した格納要素が、オーバーラップ領域ORA1,OA3に対応する区分エリアA1,A3に属するか否かを判断する(ステップS352)。その結果、着目閾値を格納した格納要素が区分エリアA1またはA3に属すれば(ステップS352:YES)、先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64を更新する(ステップS354)。
【0121】
先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64とは、オーバーラップ領域ORAにおける各ドット形成位置に、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHのいずれでドットを形成するかを識別するためのマスクである。先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64の使用方法の具体例を図22に示す。図22に示す最終ドット配置DAは、オーバーラップ領域ORAについてのハーフトーン処理(ステップS130)の結果を例示するものである。図示する格子は、画像データの画素を示している。ハッチングで表示した格子は、ハーフトーン処理においてドットONと判断された画素を示し、白色で表示した格子は、ハーフトーン処理においてドットOFFと判断された画素を示している。
【0122】
先行ヘッド識別マスク63には、オーバーラップ領域ORAで印刷される各画素のうち、先行ヘッドPHによってドットを形成する画素の位置が記録されている。図示する格子のうち、ハッチング表示した格子は、先行ヘッドPHでドットを形成する(ドットONとする)画素を示し、白色で表示した画素は、先行ヘッドPHでドットを形成しない、つまり、後行ヘッドFHでドットを形成する画素を示している。
【0123】
かかる先行ヘッド識別マスク63を用いて、最終ドット配置DAをマスク処理することによって、最終ドット配置DAのうちの先行ヘッドPHでドットの形成を行う画素を決定することができる。具体的には、最終ドット配置DAのドットONの画素と、先行ヘッド識別マスク63のドットONの画素との重複部分が、先行ヘッドPHによってドットが形成されるドット配置DA1となる。
【0124】
後行ヘッド識別マスク64には、オーバーラップ領域ORAに対応する各画素のうち、後行ヘッドFHによってドットを形成する画素の位置が記録されている。後行ヘッド識別マスク64におけるドットのON/OFFは、先行ヘッド識別マスク63のドットのON/OFFを反転させたものである。かかる後行ヘッド識別マスク64を用いて、最終ドット配置DAをマスク処理することによって、後行ヘッドFHによってドットが形成されるドット配置DA2を決定することができる。なお、ドット配置DA2は、最終ドット配置DAのドットONの画素と、先行ヘッド識別マスク63のドットOFFの画素との重複部分として、決定することも可能である。
【0125】
かかる先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64をステップS354で更新する具体例を図23に示す。図23(a)は、更新前の先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64を示している。先行ヘッド識別マスク63のハッチング表示した画素は、先行ヘッドPHでドットONとする画素を示している。後行ヘッド識別マスク64のハッチング表示した画素は、後行ヘッドFHでドットONとする画素を示している。
【0126】
一方、図23(b)は、更新後の先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64を示している。ステップS354では、先行ヘッド格納領域61a及び後行ヘッド格納領域61bのうちの、ステップS350で着目閾値を格納した格納要素が属する方に対応する識別マスクの画素を、ドットONとして更新する。図23(b)では、図12に示したように、後行ヘッド格納領域61bに着目要素が格納され、当該格納要素に対応する位置の、後行ヘッド識別マスク63画素がドットONに更新された様子を示している。
【0127】
こうして、先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64を更新すると、または、着目閾値を格納した格納要素が区分エリアA1またはA3に属さなければ(ステップS352:NO)、用意した閾値0〜89の全てが格納されるまで、上記ステップS220〜S354の処理を繰り返す(ステップS360)。そして、閾値0〜89の全てが格納されると、その時点で閾値か格納されていない空白格納要素に適当な閾値を格納する(ステップS375)。ここで格納される閾値は、どのような値であってもよい。こうして、先行ヘッド格納領域61a及び後行ヘッド格納領域61bの全ての格納要素に、用意した閾値0〜89、または、ドットOFF閾値THoffのいずれかが格納されると、ディザマスク61は完成となる。
【0128】
このように、ディザマスク61と先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64とを、相互に関連させた一連の工程で同時に生成し、印刷処理において、ハーフトーン処理(ステップS130)の後に、先行ヘッド識別マスク63及び後行ヘッド識別マスク64を用いて、オーバーラップ領域ORAにおける各ドット形成位置に、先行ヘッドPHと後行ヘッドFHのいずれでドットを形成するかを割り当てる割当処理を行えば、実施例と同様の印刷結果を得ることができる。
【0129】
B−2.変形例2:
上述の実施形態においては、第1の評価値E1は、上述した式(4)によって算出するものとしたが、第1の評価値E1の算出式は、かかる例に限るものではない。例えば、第1の評価値E1は、被覆率Cnの分散、標準偏差などとしてもよい。あるいは、ずれパターンごとに算出される被覆率Cnから抽出される2つの被覆率Cnの全ての組み合わせの差分値の各々を合計した値であってもよいし、当該差分値の各々を所定の重み付けで合計した値であってもよい。これらのように、被覆率Cnのばらつきの程度を評価できるものであればよい。
【0130】
もとより、第1の評価値E1は、被覆率Cnのばらつきの程度を評価できるものに限らず、インク着弾位置のずれが生じた場合のオーバーラップ領域ORAにおける被覆率Cnの変動を定量化した評価値であればよい。例えば、ずれが生じたずれパターンごとに算出される被覆率Cnと、ずれが生じていないずれパターンに基づいて算出される被覆率Cnとの差分値が最大となるときの当該差分値や、ずれパターンごとに算出される被覆率Cnから抽出される2つの被覆率Cnの全ての組み合わせの差分値のうちの最大値を、第1の評価値E1としてもよい。こうしても、被覆率Cnの変動を所定以下に抑制したディザマスク61等を生成することができるので、上述の濃度ムラの発生や粒状性の悪化を抑制する効果を奏する。
【0131】
B−3.変形例3:
上述の実施形態においては、区分エリア決定処理やヘットグループ判定処理において、所定の許容幅をもってドットの配置バランスの観点から、着目閾値を格納すべき格納要素が属する区分エリア、ラスター、割当情報の絞り込みを行ったが、許容幅は設けなくてもよい。例えば、区分エリア決定処理(S230)において、区分エリアごとの、格納要素の数に対する既格納要素の割合が、均等な状態から最も近くなることを条件として区分エリアを決定してもよい。
【0132】
また、ヘッドグループ判定処理(ステップS240)において、ラスターの絞り込みは、各ラスターに着目閾値を格納したと仮定した場合に、ラスターごとの既格納要素の数が均等な状態に最も近くなることを条件として行ってもよい。また、割当情報の絞り込みは、絞り込んだラスターについて、各ラスターに着目閾値を格納し、当該着目閾値を格納する格納要素を先行ヘッドPHまたは後行ヘッドFHのいずれかに割り当てたと仮定した場合に、既格納要素の割当が割当理想値に最も近くなることを条件として行ってもよい。こうすれば、総合評価値CEを算出する回数が減少するので、ディザマスク61等の処理を高速化することができる。勿論、条件の種類によって、許容幅を設けるものと設けないものとを組み合わせてもよい。
【0133】
B−4.変形例4:
上述の実施形態においては、ディザマスク61等の生成に際して、第2の評価値E2は、先行ヘッド格納領域61aまたは後行ヘッド格納領域61bのうちの、着目要素が属する方の格納領域に対応するヘッドグループドット配置を対象として算出したが、他方のヘッドグループドット配置も対象に含めてもよい。例えば、調整係数γ,δと、先行ヘッドグループドット配置に対する評価値E2phと、後行ヘッドグループドット配置に対する評価値E2fhとを用いて、次式(5)によって第2の評価値E2を求めてもよい。また、ヘッドグループドット配置に加えて、最終ドット配置も対象として第2の評価値E2を算出してもよい。
E2=γE2ph+δE2fh・・・(5)
【0134】
B−5.変形例5:
上述の実施形態においては、総合評価値CEは、第1の評価値E1と第2の評価値E2とを含む構成としたが、第2の評価値E2は必須ではなく、例えば、第1の評価値E1のみによって生成するディザマスク61を評価してもよい。こうしても、被覆率の変動が小さくなるようにディザマスク61等を生成できるので、濃度ムラの発生や粒状性の悪化を抑制する効果を一定程度奏することができる。もとより、第2の評価値E2は、ドット分散の指標に限らず、ディザマスク61に備えさせたい特性を評価する者であればよく、例えば、ドット集中の指標であってもよい。
【0135】
B−6.変形例6:
上述の実施形態においては、第2の評価値E2として粒状性指数を用いたが、第2の評価値E2は、ドット配置の分散性を評価できるものであればよい。例えば、第2の評価値E2は、RMS粒状度を用いてもよい。RMS粒状度は公知の技術であるため(例えば、特開2007−174272号公報)、詳しい説明は省略するが、ドット密度値に対して、ローパスフィルターを用いてローパスフィルター処理を行うとともに、ローパスフィルター処理がなされた密度値の標準偏差を算出するものである。あるいは、ローパスフィルター処理後のドット密度を第2の評価値E2としてもよい。これは、いわゆるポテンシャル法に用いられる評価値である。
【0136】
B−7.変形例7:
上述の実施形態では、ヘッドグループ判定処理において、オーバーラップ領域ORAに対応する区分エリアA1,A3のラスターごとの閾値設定割合が許容範囲内で略均一となるように候補ラスターを絞り込むことで、ラスター単位でみたドットの分散性を確保する構成について示したが、第2の評価値E2として、オーバーラップ領域ORAと単独領域SAにおける、先行ヘッドPH及び後行ヘッドFHのドット発生率の違いを反映して、ドットの分散性を評価できる指標を用いれば、かかるラスター単位のドット分散性制御は必須ではない。
【0137】
B−8.変形例8:
上述の実施形態においては、用意した閾値0〜89の全てを、図6及び図7に示した方法によって、先行ヘッド格納領域61aまたは後行ヘッド格納領域61bに格納したが、上述の方法によって格納する閾値は、用意した閾値の一部であってもよい。例えば、オーバーラップ領域ORA領域における濃度ムラの発生や粒状性の悪化が特に現れやすい中階調領域についてのみ、上述の方法を用いて閾値を格納してもよい。
【0138】
B−9.変形例9:
上述の実施形態においては、ラインプリンターのハーフトーン処理に用いるディザマスク61の生成方法や、当該生成方法によって生成されたディザマスク61を記憶したラインプリンターについての構成を示したが、本発明は、印刷ヘッドを印刷媒体に対して主走査方向及び副走査方向に相対移動させながらインクを吐出し、1回の主走査で、該主走査方向に並ぶドット列であるラスターを完成させる単独領域と、連続する2回の主走査で前記ラスターを完成させるオーバーラップ領域とからなる印刷画像の印刷を行う印刷装置、いわゆるバンド送り走査方式のシリアル式プリンターについても適用することができる。
【0139】
かかるバンド送り走査方式のシリアル式プリンターの構成について図24に示す。図24は、変形例としてのプリンター420の概略構成図である。図24においては、図1に示した実施例としてのプリンター20と同一の構成については、図1と同一の符号を付して、説明を省略する。プリンター420は、シリアル式インクジェットプリンターであり、図示するように、紙送りモーター474によって印刷用紙Pを搬送する機構と、キャリッジモーター470によってキャリッジ480をプラテン475の軸方向に往復動させる機構と、キャリッジ480に搭載された印刷ヘッド490を駆動してインクの吐出及びドット形成を行う機構と、これらの紙送りモーター474,キャリッジモーター470,印刷ヘッド490及び操作パネル99との信号のやり取りを司る制御ユニット30とから構成されている。
【0140】
キャリッジ480をプラテン475の軸方向に往復動させる機構は、プラテン475の軸と平行に架設され、キャリッジ480を摺動可能に保持する摺動軸473と、キャリッジモーター470との間に無端の駆動ベルト471を張設するプーリー472等から構成されている。
【0141】
キャリッジ480には、C,M,Y,Kに対応するインクカートリッジ481〜484が搭載される。キャリッジ480の下部の印刷ヘッド490には、上述の各色のカラーインクに対応するノズル列が形成されている。キャリッジ480にこれらのインクカートリッジ481〜484を上方から装着すると、各カートリッジから印刷ヘッド490へのインクの供給が可能となる。
【0142】
以上のようなハードウェア構成を有するプリンター420は、キャリッジモーター470を駆動することによって、印刷ヘッド490を印刷用紙Pに対して主走査方向に往復動させ、また、紙送りモーター474を駆動することによって、印刷用紙Pを副走査方向に移動させる。制御ユニット30は、キャリッジ480が往復動する動き(主走査)や、印刷媒体の紙送りの動き(副走査)に合わせて、印刷データに基づいて適切なタイミングでノズルを駆動することにより、印刷用紙P上の適切な位置に適切な色のインクドットを形成する。こうすることによって、プリンター420は、メモリカードMCから入力したカラー画像を印刷用紙P上に印刷することが可能となっている。
【0143】
本変形例においては、プリンター20は、いわゆるバンド送り走査によって、印刷を実行する。具体的には、図25に示すように、印刷ヘッド490は、C,M,Y,Kの各色のインクをそれぞれ吐出するノズル列81〜84を備えている。ノズル列81〜84は、副走査方向に沿って配列されている。かかる印刷ヘッド490は、K回目(Kは正の整数)の主走査によって、その位置に対応する主走査方向のドット列(本変形例ではラスターともいう)を形成する。また、印刷ヘッド490は、K回目の主走査の後、印刷用紙Pが副走査方向に所定量だけ搬送されて、印刷ヘッド490と印刷用紙Pとが相対移動すると、K+1回目の主走査によって、K+1回目の主走査における印刷ヘッド490の相対位置に対応するラスターを形成する。K+2回目の主走査においても同様である。なお、図中では、表示の便宜上、1回の主走査ごとに印刷ヘッド490が移動するように表示しているが、実際には、印刷用紙Pが副走査方向に移動している。
【0144】
こうした印刷ヘッド490において、連続するK回目とK+1回目の主走査における印刷ヘッド490の印刷用紙Pに対する相対位置は、副走査方向にノズル列81〜84の一部が重複するように設定される。図中では、ノズル列81〜84のうちの副走査方向側の先端部に配列された上端ノズル列UNと、それと反対側の先端部に配列された下端ノズル列LNとが重複する様子を示している。かかる重複した領域をオーバーラップ領域ORAともいう。また、重複していない領域を単独領域SAともいう。
【0145】
単独領域SAに対応するラスターは、1回の主走査によって形成され、オーバーラップ領域ORAにおけるラスターは、連続する2回の主走査(例えば、K回目とK+1回目)によって形成される。
【0146】
このようなプリンター420においては、実施例に示したプリンター20と同様に、バンドKとバンドK+1とのつなぎ目領域において濃度ムラの発生や粒状性の悪化の課題が発生するが、実施例と同様の方法によって、ディザマスク61を生成すれば、実施例と同様の効果を奏する。なお、実施例と同様の方法によって、ディザマスク61等を生成するに際し、実施例における先行ヘッドPHと後行ヘッドFHとの違いは、偶数回目の主走査と奇数回目の主走査との違いと読み替えればよい。
【0147】
B−10.変形例10:
上述した実施形態においては、プリンター20において、図3に示した印刷処理の全てを実行する構成としたが、プリンターとコンピューターとが接続された印刷システム(広義の印刷装置)において印刷処理を行う場合には、印刷処理やハーフトーン処理の全部または一部が、コンピューターとプリンターのうちのいずれで行われてもよい。また、ディザマスク61は、コンピューターとプリンターのうちのいずれに記憶されていてもよい。あるいは、印刷のたびにネットワークを介して、当該ネットワークに接続されたノードなどから取得する構成としてもよい。
【0148】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態における本発明の構成要素のうち、独立クレームに記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。また、本発明はこうした実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明は、ディザマスクの生成方法や、当該方法によって生成したディザマスクを記憶した印刷装置の構成のほか、当該方法によって生成したディザマスクを用いてハーフトーン処理を行う機能をコンピューターに実現させるためのプログラム、ディザマスクの生成プログラム、当該プログラムを記録した記憶媒体等としても実現することができる。
【符号の説明】
【0149】
20…プリンター
30…制御ユニット
40…CPU
41…入力部
42…ハーフトーン処理部
43…印刷部
44…濃度差補正部
51…ROM
52…RAM
60…EEPROM
61…ディザマスク
61a…先行ヘッド格納領域
61b…後行ヘッド格納領域
63…先行ヘッド識別マスク
64…後行ヘッド識別マスク
71〜74…インクカートリッジ
80…印刷ヘッド
81〜84…ノズル列
90…紙送り機構
91…紙送りローラー
92…紙送りモーター
93…プラテン
98…メモリカードスロット
99…操作パネル
420…プリンター
470…キャリッジモーター
471…駆動ベルト
472…プーリー
473…摺動軸
474…紙送りモーター
475…プラテン
480…キャリッジ
481〜484…インクカートリッジ
490…印刷ヘッド
MC…メモリカード
P…印刷用紙
ORA,ORA1,ORA2…オーバーラップ領域
SA,SA1,SA2…単独領域
A1〜A4…区分エリア
PH…先行ヘッド
FH…後行ヘッド
UN…上端ノズル列
LN…下端ノズル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷範囲に亘って配列された複数の印刷ヘッドであって、該複数の印刷ヘッドのうちの隣り合う印刷ヘッド同士が、該配列の方向において一部が重複するオーバーラップ領域と、該重複のない単独領域とを有するように配列された印刷ヘッドに対して、印刷媒体を相対移動させながらインクを吐出して印刷を行う印刷装置で印刷を行うためのハーフトーン処理に用いるディザマスクであって、該ディザマスクを構成する複数の閾値が各々の格納要素に格納されたディザマスクを生成する方法であって、
前記ディザマスクは、前記オーバーラップ領域及び前記単独領域のうちの、前記隣り合う印刷ヘッドの一方である第1の印刷ヘッドで印刷を行う領域に適用する第1のディザマスク領域と、該隣り合う印刷ヘッドの他方である第2の印刷ヘッドで印刷を行う領域に適用する第2のディザマスク領域とを備え、
前記ディザマスクを評価する評価値であって、前記オーバーラップ領域に適用する閾値を前記第1のディザマスク領域に格納するか、前記第2のディザマスク領域に格納するかの違いによって異なる値となる所定の評価値を用意し、
前記オーバーラップ領域において、前記第1の印刷ヘッドで形成されるドットと、前記第2の印刷ヘッドで形成されるドットとが同一のドット形成位置に形成されることを許容した条件で、前記所定の評価値を用いて前記複数の閾値を格納すべき格納要素をそれぞれ決定して、該ディザマスクを生成する
ディザマスクの生成方法。
【請求項2】
請求項1記載のディザマスクの生成方法であって、
前記オーバーラップ領域における、前記配列の方向に直交する方向に並ぶドット列であるラスターごとに、該ラスターを構成する各々のドットの形成についての、前記第1の印刷ヘッドと前記第2の印刷ヘッドとが占める割合である印字比率を定める第1の工程と、
前記閾値が未だ格納されていない格納要素である空白格納要素に格納すべき前記複数の閾値の1つを着目閾値として選択する第2の工程と、
前記定めた印字比率と、ドットの配置のバランスに関する所定の条件とに基づいて、前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域の前記空白格納要素のうちから、前記着目閾値を格納する候補としての候補格納要素を複数設定する第3の工程と、
前記設定した候補格納要素のそれぞれについて、該候補格納要素に前記着目閾値を格納した場合の、前記所定の評価値を算出する第4の工程と、
前記複数の候補格納要素の中から、前記算出した評価値が最も適切な1つを選択し、該選択した候補格納要素に前記着目閾値を格納する第5の工程と
を備え、
前記所定の評価値は、前記隣り合う印刷ヘッドの違いに起因して、該隣り合う印刷ヘッド間での前記印刷媒体へのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた場合の、前記オーバーラップ領域においてドットが前記印刷媒体を覆う割合を示すドット被覆率の変化を定量化した評価値を含み、
前記第2ないし第5の工程を所定回数繰り返して、前記ディザマスクを生成する
ディザマスクの生成方法。
【請求項3】
請求項2記載のディザマスクの生成方法であって、
前記所定の条件は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合に、
(1)前記単独領域であるか、前記オーバーラップ領域であるかの違い、及び、前記印刷ヘッドのいずれの部分で印刷される領域であるかの違いにより区分された区分エリアごとの、前記格納要素の数に対する、前記閾値が既に格納された格納要素の割合が、均等な状態から最も近くなること、
(2)前記オーバーラップ領域を構成する各々のラスターに対応する前記格納要素ごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の数が均等な状態に最も近くなること、
(3)前記ラスターごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の前記印字比率が、前記定めた値に最も近くなること
であるディザマスクの生成方法。
【請求項4】
請求項2記載のディザマスクの生成方法であって、
前記所定の条件は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合に、
(1)前記単独領域であるか、前記オーバーラップ領域であるかの違い、及び、前記印刷ヘッドのいずれの部分で印刷される領域であるかの違いにより区分された区分エリアごとの、前記格納要素の数に対する、前記閾値が既に格納された格納要素の割合が、均等な状態から所定範囲に属すること、
(2)前記オーバーラップ領域を構成する各々のラスターに対応する前記格納要素ごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の数が均等な状態から所定範囲に属すること、
(3)前記ラスターごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の前記印字比率が、前記定めた値から所定範囲に属すること
であるディザマスクの生成方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載のディザマスクの生成方法であって、
前記所定の評価値は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合の評価値であって、
前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域のうちの、前記候補格納要素が属する一方に対応する前記印刷ヘッドでドットを形成する領域における、前記閾値が既に格納された格納要素が表すドット配置の分散性を示す分散性評価値と、
前記隣り合う印刷ヘッドの違いに起因して、該隣り合う印刷ヘッド間での前記印刷媒体へのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた状態を示す、ずれパターンを複数種類想定し、該複数種類のずれパターンごとに、前記オーバーラップ領域における前記ドット被覆率を算出し、該ドット被覆率の変化を定量化した被覆率評価値と
を含む
ディザマスクの生成方法。
【請求項6】
前記複数種類のずれパターンには、前記ずれが生じていない状態を含む請求項5記載のディザマスクの生成方法。
【請求項7】
前記被覆率評価値は、前記複数種類のずれパターンごとに算出されたドット被覆率のばらつきの程度を示す評価値である請求項5または請求項6記載のディザマスクの生成方法。
【請求項8】
前記印刷装置は、前記オーバーラップ領域において、前記複数の印刷ヘッドの違いに起因して、前記ラスターと交差する方向に生じる印刷画像の濃度むらを補正するための濃度差補正手段を備えた請求項1ないし請求項7のいずれか記載のディザマスクの生成方法。
【請求項9】
印刷ヘッドを印刷媒体に対して主走査方向及び副走査方向に相対移動させながらインクを吐出し、1回の主走査で、該主走査方向に並ぶドット列であるラスターを完成させる単独領域と、連続する2回の主走査で前記ラスターを完成させるオーバーラップ領域とからなる印刷画像の印刷を行う印刷装置で印刷を行うためのハーフトーン処理に用いるディザマスクであって、該ディザマスクを構成する複数の閾値が各々の格納要素に格納されたディザマスクを生成する方法であって、
前記ディザマスクは、前記オーバーラップ領域及び前記単独領域のうちの、前記連続する2回の主走査の一方である第1の主走査で印刷を行う領域に適用する第1のディザマスク領域と、該連続する2回の主走査の他方である第2の主走査で印刷を行う領域に適用する第2のディザマスク領域とを備え、
前記ディザマスクを評価する評価値であって、前記オーバーラップ領域に適用する閾値を前記第1のディザマスク領域に格納するか、前記第2のディザマスク領域に格納するかの違いによって異なる値となる所定の評価値を用意し、
前記オーバーラップ領域において、前記第1の主走査で形成されるドットと、前記第2の主走査で形成されるドットとが同一のドット形成位置に形成されることを許容した条件で、前記所定の評価値を用いて前記複数の閾値を格納すべき格納要素をそれぞれ決定して、該ディザマスクを生成する
ディザマスクの生成方法。
【請求項10】
請求項9記載のディザマスクの生成方法であって、
前記オーバーラップ領域における各々のラスターごとに、該ラスターを構成する各々のドットの形成についての、前記第1の主走査と前記第2の主走査とが占める割合である印字比率を定める第1の工程と、
前記閾値が未だ格納されていない格納要素である空白格納要素に格納すべき前記複数の閾値の1つを着目閾値として選択する第2の工程と、
前記定めた印字比率と、ドットの配置のバランスに関する所定の条件とに基づいて、前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域の前記空白格納要素のうちから、前記着目閾値を格納する候補としての候補格納要素を複数設定する第3の工程と、
前記設定した候補格納要素のそれぞれについて、該候補格納要素に前記着目閾値を格納した場合の、前記所定の評価値を算出する第4の工程と、
前記複数の候補格納要素の中から、前記算出した評価値が最も適切な1つを選択し、該選択した候補格納要素に前記着目閾値を格納する第5の工程と
を備え、
前記所定の評価値は、前記隣り合う印刷ヘッドの違いに起因して、該隣り合う印刷ヘッド間での前記印刷媒体へのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた場合の、前記オーバーラップ領域においてドットが前記印刷媒体を覆う割合を示すドット被覆率の変化を定量化した評価値を含み、
前記第2ないし第5の工程を所定回数繰り返して、前記ディザマスクを生成する
ディザマスクの生成方法。
【請求項11】
請求項10記載のディザマスクの生成方法であって、
前記所定の条件は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合に、
(1)前記単独領域であるか、前記オーバーラップ領域であるかの違い、及び、いずれの主走査の、前記印刷ヘッドのいずれの部分で完成される領域であるかの違いにより区分された区分エリアごとの、前記格納要素の数に対する、前記閾値が既に格納された格納要素の割合が、均等な状態から最も近くなること、
(2)前記オーバーラップ領域を構成する各々のラスターに対応する前記格納要素ごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の数が均等な状態に最も近くなること、
(3)前記ラスターごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の前記印字比率が、前記定めた値に最も近くなること
であるディザマスクの生成方法。
【請求項12】
請求項10記載のディザマスクの生成方法であって、
前記所定の条件は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合に、
(1)前記単独領域であるか、前記オーバーラップ領域であるかの違い、及び、いずれの主走査の、前記印刷ヘッドのいずれの部分で完成される領域であるかの違いにより区分された区分エリアごとの、前記格納要素の数に対する、前記閾値が既に格納された格納要素の割合が、均等な状態から所定範囲に属すること、
(2)前記オーバーラップ領域を構成する各々のラスターに対応する前記格納要素ごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の数が均等な状態から所定範囲に属すること、
(3)前記ラスターごとの、前記閾値が既に格納された格納要素の前記印字比率が、前記定めた値から所定範囲に属すること
であるディザマスクの生成方法。
【請求項13】
請求項11または請求項12記載のディザマスクの生成方法であって、
前記所定の評価値は、前記着目閾値が前記空白格納要素の1つに格納されたとした場合の評価値であって、
前記第1のディザマスク領域及び前記第2のディザマスク領域のうちの、前記候補格納要素が属する一方に対応する前記主走査でドットを形成する領域における、前記閾値が既に格納された格納要素が表すドット配置の分散性を示す分散性評価値と、
前記2回の主走査の違いに起因して、該2回の主走査間での前記印刷媒体へのドットの着弾位置が、所定の方向に所定量だけずれた状態を示す、ずれパターンを複数種類想定し、該複数種類のずれパターンごとに、前記オーバーラップ領域における前記ドット被覆率を算出し、該ドット被覆率の変化を定量化した被覆率評価値と
を含む
ディザマスクの生成方法。
【請求項14】
前記複数種類のずれパターンには、前記ずれが生じていない状態を含む請求項13記載のディザマスクの生成方法。
【請求項15】
前記被覆率評価値は、前記複数種類のずれパターンごとに算出されたドット被覆率のばらつきの程度を示す評価値である請求項13または請求項14記載のディザマスクの生成方法。
【請求項16】
前記印刷装置は、前記オーバーラップ領域において、前記連続する2回の主走査の違いに起因して、前記ラスターと交差する方向に生じる印刷画像の濃度むらを補正するための濃度差補正手段を備えた請求項9ないし請求項15のいずれか記載のディザマスクの生成方法。
【請求項17】
請求項1ないし請求項16のいずれか記載の方法によって生成したディザマスクを記憶した印刷装置。
【請求項18】
請求項1ないし請求項16のいずれか記載の方法によって生成したディザマスクを用いてハーフトーン処理を行う機能をコンピューターに実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−121249(P2011−121249A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280083(P2009−280083)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】