説明

印刷装置及び印刷方法

【課題】タクトの悪化及び印刷材料の表面状態の変化を抑えるとともに、被印刷体に塗布された後の印刷材料の膜厚を一定に近づけることのできる技術を提供する。
【解決手段】印刷装置10は、表面上に隔壁60の配列が形成された基板Wを保持するステージ22と、所定のパターンが形成された印刷版17を有し、有機EL材料のインク70が塗布された印刷版17から基板Wの隔壁60間にインク70のパターンを転写する版胴14と、印刷版17にインクを供給するインク供給ローラ12と、インク供給スリットノズル11がインク供給ローラ12上に吐出したインク70を非接触で加熱する赤外線ヒータ80と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷材料が印刷版から有機ELディスプレイ用基板、有機EL照明用基板又はカラーフィルタ用基板など(以下、基板と称する)に転写されることで、基板上にパターンを形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELの発光材料に高分子材料を使用し、各種印刷方法で被印刷体の表面に有機EL発光層のパターンを形成する技術が知られている。このうち、凸版による印刷法では、発光材料が凸部に塗布された状態の印刷版が所定の印圧で被印刷体の表面に押し込まれる。これによって、印刷版に形成されたパターンが被印刷体表面に転写される。
【0003】
被印刷体には、隔壁の配列が形成されたガラス基板が使用される場合がある。このような基板に塗布された発光材料は、表面張力の作用によって隔壁付近の膜厚が最も厚く、隔壁間の中央部分の膜厚が最も薄い状態になる。この状態では、過電流が発光材料の膜厚の薄い部分に流れるため、発光材料の寿命の低下、発光効率の低下などの問題が引き起こされる。
【0004】
このような問題を解決できる技術として、特許文献1には、非撥油性材料の下層と撥油性材料の上層とで形成された隔壁が開示されている。また、特許文献2には、物質表面に形成された有機薄膜に光を照射することによって、表面の物性を選択的に変化させて撥液性を制御する方法が開示されている。また、特許文献3には、従来の凸版印刷において、伝熱部材がインクに接触した状態でインクを加熱し、インク粘度を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−216297号公報
【特許文献2】特開2006−188487号公報
【特許文献3】特開平10−16372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1又は特許文献2のように、基板、又は基板に塗布された発光材料に対して加工処理を施す方法では、基板の製造コストの上昇又はタクトの悪化、さらには基板表面の状態が経時変化することによるパネル大量生産時の歩留まりの悪化が懸念される。また、特許文献3のようにインクの粘度を変化させる方法では、直接加熱部がインクと接触するため、インクの表面状態の変化が懸念される。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、タクトの悪化及び印刷材料の表面状態の変化を抑えるとともに、被印刷体に塗布された後の印刷材料の膜厚を一定に近づけることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、印刷装置であって、表面上に隔壁の配列が形成された被印刷体を保持するステージと、所定のパターンが形成された印刷版を有し、印刷材料が塗布された前記印刷版から前記被印刷体の前記隔壁間に前記印刷材料のパターンを転写する転写部と、前記印刷版に前記印刷材料を供給する供給部と、を備え、前記供給部は、外周面に供給された前記印刷材料を前記印刷版に塗布するローラと、前記ローラに供給された前記印刷材料を非接触で加熱する加熱部と、を備える。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係る印刷装置であって、前記ローラを冷却する第1冷却部をさらに備える。
【0010】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明に係る印刷装置であって、前記印刷版を冷却する第2冷却部をさらに備える。
【0011】
第4の発明は、第1の発明ないし第3の発明のいずれか一つに係る印刷装置であって、前記加熱部が赤外線ヒータを備える。
【0012】
第5の発明は、第1の発明ないし第4の発明のいずれか一つに係る印刷装置であって、前記被印刷体が、転写された後の前記印刷材料に電圧を印加して電流駆動することにより発光を行わせる発光デバイス用の基板である。
【0013】
第6の発明は、印刷材料をローラに供給する供給工程と、前記ローラに供給された前記印刷材料を非接触で加熱する加熱工程と、加熱された前記印刷材料を前記ローラから所定のパターンが形成された印刷版に塗布する塗布工程と、前記印刷材料が塗布された前記印刷版から、隔壁の配列が形成された被印刷体にパターンを転写する転写工程と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明ないし第6の発明において、供給部は、ローラ上に吐出された印刷材料を非接触で加熱する加熱部を備える。このため、加熱部の加熱によって印刷材料に含まれる溶媒の溶剤成分は蒸発し、印刷材料の粘度を高めることができる。従って、被印刷体上の隔壁に接する印刷材料の接触角は大きくなるとともに、印刷材料の流動性を抑えられるため、塗布後の印刷材料の膜厚は一定に近づけることができる。また、印刷材料がローラ上に吐出されてから加熱され、粘度が高められるため、タクト低下を抑えられる。さらに、加熱部が非接触で印刷材料を一様に加熱するため、印刷材料の表面状態が変化することを抑えられる。
【0015】
特に、第2の発明において、第1冷却部がローラの温度を降下させるため、加熱部の加熱により昇温した印刷材料の温度を降下させることができる。このため、印刷版に供給された印刷材料の熱による印刷版の劣化及び熱膨張による印刷板の寸法変化を抑えられる。
【0016】
特に、第3の発明において、第2冷却部が印刷版を冷却するため、印刷版に塗布された印刷材料の温度を降下させることができる。このため、印刷版に供給された印刷材料の熱による印刷版の劣化及び熱膨張による印刷版の寸法変化を抑えられる。
【0017】
特に、第4の発明において、赤外線ヒータを加熱部に採用することにより、簡易な構造でありながら出力の調整が比較的容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る印刷装置の概略側面図である。
【図2】印刷装置が備える制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】印刷処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る加熱処理の一部分の様子を示す概略斜視図である。
【図5】転写されたインクのプロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0020】
<1.印刷装置について>
図1には、本発明の実施形態に係る印刷装置10の概略側面図が示されている。図2には、制御部90のハードウェア構成を表すブロック図が示されている。
【0021】
まず、本発明の実施形態に係る印刷装置10について説明する。図1に示される印刷装置10では、パターンが形成された印刷版17の表面に塗布された有機ELの発光材料(以下において、インクと称する)が被印刷体に転写されることによって、有機ELディスプレイの各表示素子(画素)のパターン形成が行われる。被印刷体には、複数の隔壁(バンク)60が形成された基板(ガラス基板)Wが使用される。この隔壁60と隔壁60との間にインク70が供給されることによって、発光層のセルが形成される。
【0022】
複数の隔壁60が形成された基板Wは、種々の後工程を経ることによって、有機ELの発光デバイス(ディスプレイ等)のパネルとなる基板である。パネルが完成した後に、電圧が印加され、電流が上記発光層のセルのインク70に流れることによって、発光層のセルは発光する。つまり、発光層のセルのインク70は電流駆動で発光する。
【0023】
印刷装置10は、基台20、基板Wが載置された状態で基台20上を往復移動するステージ22、外周面に印刷版17を装着する版胴14、軸芯が版胴14の軸芯と平行に配置され、印刷版17の表面に塗布液を供給するインク供給ローラ12、このインク供給ローラ12の軸芯方向に延びるスリットを有し、インク供給ローラ12に塗布液を供給するインク供給スリットノズル11及び赤外線を照射することで被照射物を加熱させる赤外線ヒータ80を備える。
【0024】
また、印刷装置10は、装置の各動作機構を制御して印刷処理を実行させる制御部90を備える。なお、制御部90は印刷装置10の一部であってもよいし、印刷装置10とは別体に構成されたコンピュータであってもよい。制御部90に予めインストールされたプログラムに従って、後述する一連のシーケンスが実行される。
【0025】
なお、以下において、版胴14の回転軸に沿う方向(X方向)を軸心方向(第1方向)と称し、版胴14の回転軸に直交する方向(Y方向)を印刷方向(第2方向)と称する。また、基板Wが載置されるステージ22の面に直交する方向(Z方向)を高さ方向と称する。
【0026】
図1に示されるように、一対の直動ガイド32及びリニアモータ31が基台20上に配設されている。この直動ガイド32は、その長手方向が版胴14の回転軸に直交する方向(Y方向)に沿うように基台20上に配設されており、リニアモータ31はこの一対の直動ガイド32の間に配設されている。
【0027】
ステージ22は、これらの直動ガイド32及びリニアモータ31と連結されている。従って、ステージ22は、リニアモータ31の駆動をうけて直動ガイド32に沿って往復移動可能である。
【0028】
ステージ22の上面には複数の図示しない吸引孔が形成されており、この吸引孔に負圧(吸引圧)を形成することによって、ステージ22上に載置された基板Wは水平姿勢に固定保持される。
【0029】
昇降テーブルはこのようなステージ22の経路を跨ぐようにして設置されており、基台20に対して高さ方向に昇降可能である。
【0030】
昇降テーブルは、インク供給スリットノズル11、インク供給ローラ12、赤外線ヒータ80及び版胴14を支持している。そのため、これらの各部分は、昇降テーブルとともに一体的に昇降可能である。なお、本実施形態では、インク供給ローラ12及び赤外線ヒータ80が供給部に相当し、版胴14が転写部に相当する。
【0031】
版胴14は、円筒形状を有するローラであり、軸心方向(X方向)に沿って延設された回転軸を中心にしてモータ142の駆動によって回転可能である。
【0032】
このような版胴14の内部には冷却部145が設けられていることが望ましい。この場合、版胴14は冷却部145によって冷却された状態で処理動作を行う。冷却部145には、例えば冷却水が流れる冷却配管などが採用される。本実施形態では、冷却部145が第2冷却部に相当する。
【0033】
このような版胴14の外周面の一部に、印刷版17が装着されている。印刷版17は、凸部がパターン領域を構成する樹脂層と、樹脂層を支持するベース層とを有する凸版である。なお、樹脂層は、ポリエステル系樹脂又はゴムなどの樹脂材料で構成される。印刷版17は、例えばCADなどによってコンピュータ上に作成された設計データに基づいて、レーザ光が直接版上に出力を行うことによって作製される。
【0034】
インク供給スリットノズル11はインク70の供給源111と連結されており、インク供給ローラ12の上方に設置される。インク供給スリットノズル11は、インク供給ローラ12の軸心方向(X方向)に沿って延びるスリットを有しており、スリットからインク供給ローラ12の表面に供給源111に貯留されていた有機ELの高分子材料をインク70として吐出する。
【0035】
有機ELの高分子材料のインク化の際の溶媒としては、例えばアニソール又はキシレンなどが採用される。これらの物質はいずれも100度付近に沸点を有し、400度付近に発火点を有する。本実施形態では、このような沸点と発火点との差が比較的大きい物質が溶媒として使用されることが望ましい。
【0036】
インク供給ローラ12は円筒形状を有するローラであり、インク供給ローラ12の回転軸が版胴14の回転軸と平行に(つまり軸心方向に沿って)配置されている。このインク供給ローラ12の回転軸の一端にはモータ122が設けられており、インク供給ローラ12はモータ122の駆動によって回転可能である。印刷処理時には、版胴14に装着された印刷版17の表面がインク供給ローラ12の表面に当接し、インク供給ローラ12の外周面に供給されたインク70が印刷版17に供給される。
【0037】
インク供給ローラ12の内部には冷却部125が設けられていることが望ましい。この場合、インク供給ローラ12は冷却部125によって冷却された状態で動作を行う。冷却部125には、例えば冷却水が流れる冷却配管などが採用される。本実施形態では、冷却部125が第1冷却部に相当する。
【0038】
赤外線ヒータ80は、インク供給ローラ12の軸心方向にその長手方向が沿うようにして、インク供給ローラ12よりも上方に設置されている。この赤外線ヒータ80は、インク供給ローラ12の外周面に向けて赤外線を照射し、当該外周面に塗布されていたインク70を加熱する機構である。より具体的には、インク供給ローラ12の外周面のうち、インク供給ローラ12の回転方向における、インク供給スリットノズル11から吐出されたインク70を受ける部分と、印刷版17が当接する部分との間の一部分に、赤外線ヒータ80は赤外線を照射する。
【0039】
このようにして、赤外線ヒータ80は、インク供給ローラ12上に吐出されたインク70を非接触で軸心方向に沿って均一に加熱する。この結果、インク70の温度が100度近辺に達すると、インク70を構成する溶媒の溶剤成分が蒸発し、インク70は、インク供給スリットノズル11から吐出された段階のインク70と比較して高粘度になる。例えば、加熱される前の段階では数十センチポアズ(cP)だったインク粘度は、加熱されることによって、100未満から数百センチポアズ(cP)に変化する。
【0040】
なお、説明の都合上、以下において赤外線ヒータ80による加熱処理が行われていないインク70を低粘度インク70aと称し、加熱処理が行われたインク70を高粘度インク70bと称する場合がある。
【0041】
また、本実施形態では赤外線ヒータ80が加熱部に相当するが、これに限られるものではない。均一に加熱処理を行うことが可能な部材であれば、例えば、フラッシュランプアニール、電熱線ヒータ、高周波誘導加熱装置及びレーザなどが、加熱部として採用されても構わない。もっとも、簡易な構造でありながら出力の調整が比較的容易であるという点で、この実施形態のように赤外線ヒータ80を用いることが好ましい。
【0042】
図4は、制御部90のハードウェア構成を示すブロック図である。制御部90のハードウェアとしての構成は、一般的なコンピュータと同様である。即ち、制御部90は各種演算処理を行うCPU91、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるRОM92、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAM93及び制御用ソフトウェア、又はデータなどを記憶しておく磁気ディスク94、キーボード及びマウスなどの入力部95をバスライン99に接続して構成されている。
【0043】
バスライン99には、版胴14を回転させるモータ142、インク供給ローラ12を回転させるモータ122、ステージ22を直動移動させるリニアモータ31、赤外線ヒータ80などが、電気的に接続されている。
【0044】
上記の構成以外にも印刷装置10は、版胴14及びインク供給ローラ12をそれぞれ洗浄する洗浄機構、ならびに、インク供給スリットノズル11とインク供給ローラ12との距離、インク供給ローラ12と印刷版17との距離をそれぞれ調整する機構等を備える。
【0045】
<2.処理の流れ>
図3には、処理の流れを示すフローチャートが示されている。また、図4には、加熱処理が行われている際の印刷装置10の要部構成を示す斜視図が示されている。図3に示されるフローチャートに沿って、上述の構成を有する印刷装置10の処理動作について説明する。
【0046】
本実施形態では、はじめにインク供給ローラ12の回転が開始される(ステップS1)。このとき、図1に示されるインク供給ローラ12は反時計回りに回転する。なお、冷却部145又は冷却部125が設けられている場合には冷却水の供給も開始される。
【0047】
続いて、赤外線ヒータ80が赤外線の照射を開始する(ステップS2)。冷却部125が設けられている場合、冷却部125がインク供給ローラ12を冷却しているため、インク供給ローラ12の急激な昇温は抑えられる。
【0048】
赤外線の照射が開始された後で、インク供給スリットノズル11からインク供給ローラ12の表面に向けて低粘度インク70aが供給される(ステップS3)。供給された低粘度インク70aは、ほぼ均等な厚みを有する膜をインク供給ローラ12の外周面に形成する。
【0049】
そして、版胴14の回転が開始される(ステップS4)。図1に示される版胴14は時計回りに回転する。
【0050】
低粘度インク70aが吐出されたインク供給ローラ12の外周面の部分は、インク供給ローラ12の回転によって、印刷版17とインク供給ローラ12とが当接する部分に向かって移動する。このとき、低粘度インク70aの膜は、赤外線ヒータ80によって軸心方向に沿って一様に照射されている赤外線の領域を通過する(図4参照)。このため、インク70aの膜は赤外線によって軸心方向に均一に加熱される。
【0051】
加熱によって低粘度インク70aの温度が100度近辺に達すると、低粘度インク70aを構成する溶媒の溶剤成分が蒸発し、低粘度インク70aの粘度は高くなる。つまり、低粘度インク70aは加熱によって高粘度インク70bに転換される。このとき、インク供給ローラ12が冷却部125を備えているならば、昇温した高粘度インク70bは直ちに冷却される。
【0052】
インク供給ローラ12上で低粘度インク70aから転換された高粘度インク70bは、インク供給ローラ12と印刷版17との当接部分から印刷版17に塗布されることによって供給される(ステップS5)。なお、高粘度インク70bは幾分熱を帯びた状態であっても、印刷版17に供給されることによってその温度は低下する。また、版胴14が冷却部145を備えているならば、高粘度インク70bの温度は確実に低下する。
【0053】
洗浄等の処理が前工程で施された基板Wを固定保持するステージ22は、版胴14の位置に応じて移動する。直動ガイド32に沿って移動するステージ22が、版胴14の下端に到達するタイミングで版胴14に装着された印刷版17が版胴14の下端に到達する。
【0054】
高粘度インク70bが塗布された印刷版17は、版胴14の回転によって基板Wの表面に押し当てられる(ステップS6)。これによって、高粘度インク70bのパターンが隔壁60と隔壁60との間における基板Wの表面に転写される。
【0055】
図5には、隔壁60と隔壁60との間におけるインク70のプロファイル(断面形状)が示されている。高粘度インク70bのプロファイルは実線で描かれている。また、低粘度インク70aが基板Wに供給された場合のプロファイルは点線で描かれている。このように、低粘度インク70aのプロファイルよりも高粘度インク70bのプロファイルのほうが、隔壁60と隔壁60との間において、膜厚は一定の状態に近くなる。
【0056】
パターンが転写された基板Wは次工程の処理が施される装置へと搬送される。制御部90は、未処理の基板Wが存在するか否かを判断し(ステップS7)、未処理の基板Wが存在するならば印刷処理が続行され、未処理の基板Wが存在しないならば、印刷処理が終了する。
【0057】
以上のように、本実施形態では、赤外線ヒータ80がインク供給ローラ12上に供給されたインク70を非接触で加熱する。このため、インク70に含まれる溶媒の溶剤成分は蒸発し、インク70の粘度を高めることができる。
【0058】
基板W上の隔壁60に接する粘度の高いインク70の接触角は、粘度の低いインク70の接触角よりも大きくなる。また、インク70の粘度が高くなることによって、流動性は抑えられる。従って、隔壁60近傍のインク70が受ける表面張力の作用は抑えられ、インク70の膜厚は一定に近づけることができる。
【0059】
また、赤外線ヒータ80が、インク供給スリットノズル11から吐出された後のインク70に対して加熱処理を施すことによって、インク70の粘度制御が行われる。従って、インク70は流動性を有した状態でインク供給スリットノズル11の内部を流れるため、タクトに悪影響を及ぼすことはない。また、インク供給スリットノズル11から吐出された段階のインク70は低粘度であるため、均等な厚みの膜を得ることができる。
【0060】
また、赤外線ヒータ80は非接触でインク70を軸心方向に沿って均一に加熱する。このため、加熱部に接することによってインク70の表面状態が変化することを抑えられる。また、加熱によるインク70を構成する溶媒の溶剤成分は軸心方向に沿ってほぼ一定量ずつ蒸発する。従って、インク70の膜の厚みは加熱の前後で変動するものの、インク70の膜が軸心方向に沿って均一な厚みで形成された状態は維持されつつ、インク70の粘度制御は行われる。このため、インク70は、印刷版17に対して均等に供給され、基板Wに転写される。つまり、インク70が基板Wの表面に対して偏って供給されることを抑えられる。さらに、赤外線ヒータ80がインク70を非接触で加熱するため、加熱部を介したインクのコンタミネーションを抑えられる。
【0061】
また、インク供給ローラ12が冷却部125を備えている場合、赤外線ヒータ80によって昇温したインク供給ローラ12及びインク70の温度を低下させるため、印刷版17の熱による劣化及び熱膨張による寸法変化を抑制できる。
【0062】
また、版胴14が冷却部145を備えている場合、赤外線ヒータ80によって昇温したインク70及び印刷版17の温度を低下させるため、印刷版17の熱による劣化及び熱膨張による寸法変化を抑制できる。
【0063】
また、赤外線ヒータ80を加熱部に採用することにより、簡易な構造でありながら出力の調整が比較的容易に行える。
【符号の説明】
【0064】
10 印刷装置
11 インク供給スリットノズル
12 インク供給ローラ
14 版胴
17 印刷版
22 ステージ
60 隔壁
70 インク
80 赤外線ヒータ
90 制御部
125 冷却部(第1冷却部)
145 冷却部(第2冷却部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に隔壁の配列が形成された被印刷体を保持するステージと、
所定のパターンが形成された印刷版を有し、印刷材料が塗布された前記印刷版から前記被印刷体の前記隔壁間に前記印刷材料のパターンを転写する転写部と、
前記印刷版に前記印刷材料を供給する供給部と、
を備え、
前記供給部は、
外周面に供給された前記印刷材料を前記印刷版に塗布するローラと、
前記ローラに供給された前記印刷材料を非接触で加熱する加熱部と、
を備える印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記ローラを冷却する第1冷却部をさらに備える、印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷装置であって、
前記印刷版を冷却する第2冷却部をさらに備える、印刷装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一つに記載の印刷装置であって、
前記加熱部が赤外線ヒータを備える、印刷装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の印刷装置であって、
前記被印刷体が、転写された後の前記印刷材料に電圧を印加して電流駆動することにより発光を行わせる発光デバイス用の基板である、印刷装置。
【請求項6】
印刷材料をローラに供給する供給工程と、
前記ローラに供給された前記印刷材料を非接触で加熱する加熱工程と、
加熱された前記印刷材料を前記ローラから所定のパターンが形成された印刷版に塗布する塗布工程と、
前記印刷材料が塗布された前記印刷版から、隔壁の配列が形成された被印刷体にパターンを転写する転写工程と、
を備える印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−30333(P2013−30333A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165062(P2011−165062)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代大型有機ELディスプレイ基盤技術の開発(グリーンITプロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】