説明

印刷装置

【課題】ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化する巻き癖の画質への影響を、有効に抑制可能な印刷装置を実現する。
【解決手段】(A)ロール状に巻かれた媒体を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、(B)搬送された媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルと、(C)前記複数のノズルに対向して設けられ、前記搬送された媒体を支持するための支持部と、(D)該支持部に支持された媒体を、該支持部の方に吸引するための吸引機構と、(E)該吸引機構が前記媒体に与える吸引力を、前記ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化させるコントローラと、(F)を備えていることを特徴とする印刷装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状に巻かれた媒体を繰り出して印刷する印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロール状に巻かれた媒体の一例としてのロール紙を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、搬送された前記紙に印刷するための印刷ヘッドと、前記搬送された紙を支持すべく前記印刷ヘッドに対向して設けられたプラテンと、を備えた印刷装置は既によく知られている。そして、このような印刷装置は、前記プラテン上の紙と印刷ヘッドとの間のギャップが所期の設計値に維持されている前提で使用され、この前提が満足されていれば、印刷ヘッドから吐出したインクによって所定画質の画像を印刷可能である(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開昭63−208464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述のロール紙は、通常、繰り出された時点においてカール状の巻き癖を有しており、プラテン上で弓なりに反ってしまうことから、単票状の用紙に比べて、前記印刷ヘッドとの間のギャップを所期の設計値に保ち難い。また、この巻き癖の程度がロール紙の残量に応じて変化してしまうことが、前記設計値への調整を更に困難なものにしており、その結果、前記インクが前記ロール紙上に形成する画像の画質が悪くなってしまう虞が有った。
【0004】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化する巻き癖の画質への影響を、有効に抑制可能な印刷装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
主たる本発明は、
(A)ロール状に巻かれた媒体を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、
(B)搬送された媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルと、
(C)前記複数のノズルに対向して設けられ、前記搬送された媒体を支持するための支持部と、
(D)該支持部に支持された媒体を、該支持部の方に吸引するための吸引機構と、
(E)該吸引機構が前記媒体に与える吸引力を、前記ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化させるコントローラと、
(F)を備えていることを特徴とする印刷装置、
である。
【0006】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0008】
(A)ロール状に巻かれた媒体を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、
(B)搬送された媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルと、
(C)前記複数のノズルに対向して設けられ、前記搬送された媒体を支持するための支持部と、
(D)該支持部に支持された媒体を、該支持部の方に吸引するための吸引機構と、
(E)該吸引機構が前記媒体に与える吸引力を、前記ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化させるコントローラと、
(F)を備えていることを特徴とする印刷装置。
【0009】
このような印刷装置によれば、繰り出されて搬送された媒体に生じているカール状の巻き癖を前記吸引機構にて矯正し、前記搬送された媒体を前記支持部に倣わせることができて、その結果、前記支持部に支持された媒体とノズルとのギャップを、常に所期の設計値に維持させることができる。
【0010】
但し、ノズルから吐出されたインクの飛行経路は、前記吸引力によって乱されて、その着弾位置が目標位置から外れる虞がある。このため、その吸引力は極力小さい方が望ましい。一方、前記媒体の巻き癖の状態は、ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化する性質のものである。このため、巻き癖を矯正するための必要最小限の吸引力は前記残量に応じて変化する。
【0011】
ここで、本発明によれば、前記コントローラによって前記吸引機構の吸引力を、ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化させる。従って、吸引機構の吸引力を、巻き癖の矯正に必要な最小限のレベルに設定可能となり、もって、前記支持部に支持された媒体とノズルとのギャップを可及的に前記設計値に維持しつつ、インクの飛行経路の乱れも可能な限り抑制することができる。その結果、前記インクが前記媒体上に形成する画像の画質の向上が図れ、これをもって、前記巻き癖の画質への影響を有効に抑制可能となる。
【0012】
かかる印刷装置において、
前記コントローラは、前記残量が少なくなるにつれて前記吸引力を大きくするのが望ましい。
このような印刷装置によれば、一般に前記媒体の残量が少なくなるにつれて大きくなっていく傾向の巻き癖に対応させて、吸引力を制御することができて、もって、矯正に必要な最小限の吸引力を、前記搬送された媒体に対して作用させることが可能となる。従って、インクの飛行経路の乱れを有効に抑制しつつ、巻き癖を効果的に矯正可能となり、もって、前記インクが前記媒体上に形成する画像の画質の更なる向上が図れる。なお、巻き癖が大きいというのは、媒体のカールの曲率が大きいことを言う。
【0013】
かかる印刷装置において、
前記コントローラは、前記吸引力の大きさを前記残量に対応させて規定した所定の調整パターンに基づいて、前記吸引力を調整し、
前記調整パターンを、前記媒体の種類毎に有しているのが望ましい。
このような印刷装置によれば、媒体毎に固有の調整パターンを有しているので、より精細に吸引力を調整可能となる。よって、本発明は、特に、残量と巻き癖との関係が媒体の種類毎に変化する場合に有効である。
【0014】
かかる印刷装置において、
前記吸引機構は、前記支持部に形成された複数の吸引孔と、前記吸引孔に連通形成されたチャンバと、該チャンバから空気を吸引するブロアと、前記ブロアのインペラを駆動回転するためのモータと、を備えており、
前記コントローラは、前記残量に応じて前記モータの回転数を調整するのが望ましい。
このような印刷装置によれば、モータの回転数の調整によって吸引力を調整可能であるため、吸引力を高精度に調整することができる。
【0015】
かかる印刷装置において、
前記支持部と前記複数のノズルとのギャップを変更するためのギャップ変更機構を備え、
前記吸引力が所定の閾値を超えない場合には、前記コントローラは、前記ギャップを変化させず、前記閾値を超えた場合に、前記残量に応じて前記ギャップを変更するのが望ましい。
このような印刷装置によれば、吸引力が所定の閾値を超えた場合には、前記支持部と前記複数のノズルとのギャップを前記残量に応じて変更する。よって、吸引機構で矯正不能な巻き癖に対しては、前記ギャップの変更によって対処可能であり、これによって、前記ノズルと前記搬送された媒体とのギャップを、常に所期の設計値に維持させることができる。
【0016】
(A)ロール状に巻かれた媒体を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、
(B)搬送された媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルと、
(C)前記複数のノズルに対向して設けられ、前記搬送された媒体を支持するための支持部と、
(D)該支持部と前記複数のノズルとのギャップを変更するためのギャップ変更機構と、
(E)前記ギャップ変更機構を制御して、前記ギャップを前記ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変更するコントローラと、
(F)を備えていることを特徴とする印刷装置。
このような印刷装置によれば、前記残量に応じて前記支持部と前記複数のノズルとのギャップを変更するので、前記支持部に支持された媒体とノズルとのギャップを、常に所期の設計値に維持させることができる。その結果、前記インクが前記媒体上に形成する画像の画質の向上を図れ、これをもって、前記巻き癖の画質への影響を有効に抑制可能となる。
【0017】
詳細に言うと、通常、繰り出された媒体にはカール状の巻き癖が生じており、支持部に支持された媒体とノズルとのギャップは、前記巻き癖分だけ狭くなることから、当該ギャップは巻き癖の大きさに応じて変動する。一方、この巻き癖の大きさは、ロール紙の残量に応じて変化する性質のものであり、すなわち、残量が多いと小さく、残量が少ないと大きくなる。ここで、本発明によれば、前記残量に応じて、支持部とノズルとのギャップを変更する。従って、前記媒体とノズルとのギャップを、所期の設計値に維持させることが可能となる。
【0018】
かかる印刷装置において、
前記複数のノズルは、前記媒体の搬送方向および前記ギャップの変更方向の両方と交差する交差方向に移動可能に設けられ、
前記交差方向への移動中に、前記搬送された媒体に向けてインクを吐出するのが望ましい。
このような印刷装置によれば、前記ノズルは前記交差方向への移動中にインクを吐出するので、そのインクの着弾位置は、前記ノズルと媒体とのギャップの変動の影響を大きく受ける。このため、この発明によれば、当該ギャップを常に所期の設計値に維持させることによる画質向上の効果を最も享受することができる。
【0019】
かかる印刷装置において、
前記ノズルが形成された印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドを前記交差方向に移動可能に案内支持するガイド軸と、を備え、
前記ギャップ変更機構は、前記ガイド軸を前記ギャップの変更方向に動かす機構であるのが望ましい。
このような印刷装置によれば、前記交差方向に亘って前記ギャップを一斉に変更可能となる。
【0020】
かかる印刷装置において、
前記コントローラは、前記残量が少なくなるにつれて前記ギャップを大きくするのが望ましい。
このような印刷装置によれば、一般に前記媒体の残量が少なくなるにつれて大きくなっていく傾向の巻き癖に対応させて、前記支持部とノズルとのギャップを変更することができる。従って、ロール状に巻かれた媒体の使い始めから使い終わりまでに亘って、前記媒体とノズルとのギャップを所期の設計値に維持させることが可能となる。
【0021】
かかる印刷装置において、
前記コントローラは、前記ギャップの大きさを前記残量に対応させて規定した所定の調整パターンに基づいて、前記ギャップを変更し、
前記調整パターンを、前記媒体の種類毎に有しているのが望ましい。
このような印刷装置によれば、媒体毎に固有の調整パターンを有しているので、より精細に前記ギャップを変更可能となる。よって、本発明は、特に、残量と巻き癖との関係が媒体の種類毎に変化する場合に有効である。
【0022】
かかる印刷装置において、
前記搬送された媒体を切断するための切断ユニットと、前記ロール状に巻かれた媒体の残量を測定するための第1センサと、を備え、
前記ロール状に巻かれた媒体が前記印刷装置から取り外される際には、
前記切断ユニットによって、前記搬送された媒体は切断されるとともに、切断形成された前記媒体の端部には、前記第1センサによって測定された、前記ロール状に巻かれた媒体の切断時点における残量が記録されるのが望ましい。
このような印刷装置によれば、ロール状に巻かれた媒体が前記印刷装置から取り外された場合であっても、その媒体の端部に記録された残量に基づいて媒体の残量を知ることができて、便利である。
【0023】
かかる印刷装置において、
前記端部に記録された残量を読み取るための第2センサを備え、
前記印刷装置から取り外された前記ロール状に巻かれた媒体が、該印刷装置に再び取り付けられた際には、
前記第2センサは、前記ロール状に巻かれた媒体の端部からその残量を読み取るとともに、
前記第1センサは、前記残量の読み取り値に基づいて残量の測定を再開するのが望ましい。
このような印刷装置によれば、ロール状に巻かれた媒体を印刷装置から取り外したり取り付けたりしながら使用する場合であっても、取り付け時に前記媒体の端部から残量を読み取って残量の測定を再開するので、前記残量を確実に継続監視可能となる。
【0024】
(A)ロール状に巻かれた媒体を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、
(B)搬送された媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルと、
(C)前記複数のノズルに対向して設けられ、前記搬送された媒体を支持するための支持部と、
(D)該支持部に支持された媒体を、該支持部の方に吸引するための吸引機構と、
(E)該吸引機構が前記媒体に与える吸引力を、前記ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化させるコントローラと、
(F)を備え、
前記コントローラは、前記残量が少なくなるにつれて前記吸引力を大きくし、
前記コントローラは、前記吸引力の大きさを前記残量に対応させて規定した所定の調整パターンに基づいて、前記吸引力を調整し、
前記調整パターンを、前記媒体の種類毎に有し、
前記吸引機構は、前記支持部に形成された複数の吸引孔と、前記吸引孔に連通形成されたチャンバと、該チャンバから空気を吸引するブロアと、前記ブロアのインペラを駆動回転するためのモータと、を備えており、前記コントローラは、前記残量に応じて前記モータの回転数を調整し、
前記支持部と前記複数のノズルとのギャップを変更するためのギャップ変更機構を備え、
前記吸引力が所定の閾値を超えない場合には、前記コントローラは、前記ギャップを変化させず、前記閾値を超えた場合に、前記残量に応じて前記ギャップを変化させ、
前記コントローラは、前記残量が少なくなるにつれて前記ギャップを大きくし、
前記搬送された媒体を切断するための切断ユニットと、前記ロール状に巻かれた媒体の残量を測定するための第1センサと、を備え、
前記ロール状に巻かれた媒体が前記印刷装置から取り外される際には、
前記切断ユニットによって、前記搬送された媒体は切断されるとともに、切断形成された前記媒体の端部には、前記第1センサによって測定された、前記ロール状に巻かれた媒体の切断時点における残量が記録され、
前記端部に記録された残量を読み取るための第2センサを備え、
前記印刷装置から取り外された前記ロール状に巻かれた媒体が、該印刷装置に再び取り付けられた際には、
前記第2センサは、前記ロール状に巻かれた媒体の端部からその残量を読み取るとともに、
前記第1センサは、前記残量の読み取り値に基づいて残量の測定を再開することを特徴とする印刷装置。
このような印刷装置によれば、既述のほぼ全ての効果を奏するため、本発明の目的が最も有効に達成される。
【実施例】
【0025】
===印刷システム700の構成例===
先ず、第1実施形態に係る印刷装置を用いた印刷システム700について、図1及び図2を参照しながら説明する。
図1は、印刷システム700の外観構成を示した説明図である。図2は、図1に示した印刷システム700の構成の一部を示すブロック図である。
【0026】
この印刷システム700は、印刷装置の一例としてのインクジェットプリンタ(以下、プリンタともいう)10と、当該プリンタ10と通信可能なコンピュータ702と、を備えている。また、コンピュータ702は、コンピュータ本体703と、CRT(Cathode Ray Tube:陰極線管)や液晶表示装置等の表示装置704と、キーボード708Aやマウス708B等の入力装置708と、FD(フレキシブルドライブ)装置710AやCD−ROMドライブ装置710BやDVD(Digital Versatile Disk)装置(不図示)等の読取装置710と、RAM等の内部メモリ(不図示)と、ハードディスクドライブユニット等の外部メモリ(不図示)と、を備えている。
【0027】
プリンタ10は、媒体の一例としての紙に印刷画像を印刷する印刷装置である。すなわち、本実施の形態に係るプリンタ10は、「ロール状に巻かれた媒体」の一例としての「ロール状に巻かれた紙」たるロール紙1が、着脱可能となるように構成されており、プリンタ10は、当該プリンタ10に取り付けられたロール紙1を繰り出し、その繰り出されたロール紙1に印刷画像を印刷する。なお、図1には、印刷システム700と共に、プリンタ10に着脱可能なロール紙1も示されている。
【0028】
コンピュータ702は、プリンタ10と電気的に接続されており、オペレーティングシステムと、当該オペレーティングシステムの下で動作するアプリケーションプログラム795、及び、プリンタドライバ796と、を有している。プリンタドライバ796には、画像処理部797と、表示インターフェース部801と、入力インターフェース部803と、ユーザインターフェース処理部805と、が備えられている。
【0029】
アプリケーションプログラム795は、プリンタ10に印刷を実施させるためのコンピュータ702上のプログラムである。アプリケーションプログラム795からの印刷実行命令により、アプリケーションプログラム上の画像データADが、プリンタドライバ796へ送られる。
【0030】
画像処理部797は、アプリケーションプログラム795により解釈され得る前記画像データADを受け取り、プリンタ10により解釈され得る印刷データPDに変換し、変換された印刷データPDを、各種制御信号COMと共にプリンタ10に送出する機能を有している。すなわち、プリンタドライバ796の画像処理部797は、上述した画像処理を行った後に、プリンタ10に対し、印刷の実行を指示する。当該機能を実現するために、画像処理部797は、例えば、解像度の変換や、色成分の変換等を実施する。
【0031】
表示インターフェース部801は、プリンタ10に関連する種々のユーザインターフェースウィンドウを表示装置704に表示する機能を有している。また、入力インターフェース部803は、ユーザが前記ユーザインターフェースウィンドウ上で入力装置708によって入力した入力情報、を受け取る機能を有している。
【0032】
ユーザインターフェース処理部805は、表示インターフェース部801又は入力インターフェース部803と、プリンタ10間のインターフェースを取る機能を有している。例えば、ユーザインターフェース処理部805は、入力インターフェース部803から前記入力情報を受け取って、当該入力情報を解釈する。そして、プリンタ10や画像処理部797へ各種制御信号COMを送出する。また、プリンタ10から受け取った各種制御信号COMを解釈して、表示インターフェース部801へ表示に係る情報を送出する。
【0033】
なお、コンピュータ702が備えるプリンタドライバ796は、コンピュータ702が読み取り可能な記録媒体に記録された形態で供給される。このような記録媒体としては、フレキシブルディスクやCD−ROM、光磁気ディスク、ICカード、ROMカートリッジ、バーコードなどの記号が印刷された印刷物、コンピュータ702の内部記憶装置(RAMやROMなどのメモリ)および外部記憶装置等の、コンピュータ702が読み取り可能な種々の媒体を利用できる。また、このようなコンピュータプログラムを、インターネットを介してコンピュータ702にダウンロードすることも可能である。
【0034】
なお、以上の説明においては、プリンタ10が、コンピュータ本体703、表示装置704、入力装置708、読取装置710、内部メモリ、外部メモリを備えたコンピュータ702、と電気的に接続されて印刷システム700が構成されている例について説明したが、プリンタ10に、コンピュータ本体703、表示装置704、入力装置708、読取装置710、内部メモリ、外部メモリがそれぞれ有する機能又は機構の一部を持たせてもよい。例えば、プリンタ10が、画像処理を行う画像処理部、各種の表示を行う表示部、及び、デジタルカメラ等により撮影された画像データを記録した記録メディアを着脱するための記録メディア着脱部を有する構成としてもよい。
【0035】
したがって、「印刷システム」とは、狭義には、プリンタ10とコンピュータ702とを含むコンピュータシステムを意味するが、広義には、コンピュータ702に係る前記機能又は機構、を備えたプリンタ10等の印刷装置をも意味する。
【0036】
===印刷装置の構成例===
次に、印刷装置の一例としてのプリンタ10について、図3乃至図5を参照しながら説明する。図3は、プリンタ10の外観構成を示した説明図である。図4は、プリンタ10の構成を示すブロック図である。図5は、プリンタ10の構成要素の一部を模式的に表した模式図である。なお、図3においては、後述するホルダー14aの構成を明示するために、ロール紙取り付けユニット14が、プリンタ10の筐体12及びロール紙1から取り外された状態にて、示されている。
【0037】
<<<プリンタ10の外観構成について>>>
先ず、プリンタ10の外観構成について、図3を用いて説明する。このプリンタ10は、筐体12と、ロール紙取り付けユニット14と、給紙部16と、排紙部18と、操作パネル20と、を有している。
筐体12は、プリンタ10の種々の構成要素を中に収める箱である。
【0038】
ロール紙取り付けユニット14は、ロール紙1を取り付けるためのものであり、取り付けられたロール紙1を保持する。ロール紙1は、芯材3と、芯材3の外周に巻き付けられた印刷用紙と、を備えている。なお、「ロール紙」とは、芯材3と芯材3の外周に巻き付けられた印刷用紙とを併せたものを意味するが、狭義には、当該印刷用紙のみをも意味する。
【0039】
ロール紙取り付けユニット14には、ホルダー14aが設けられている。当該ホルダー14aは、プリンタ10の背面の両側に対をなすように配置され、双方によりロール紙1を挟むようにしてロール紙1を保持する。なお、ロール紙取り付けユニット14には、ロール紙1がロール紙取り付けユニット14に取り付けられたことを検知するための取り付け検知センサ(不図示)も備えられている。
【0040】
給紙部16は、プリンタ10の背面に設けられた、ロール紙1の筐体12内への挿入口である。排紙部18は、プリンタ10の前面に設けられた、ロール紙1の筐体12外への排出口である。すなわち、プリンタ10は、背面から挿入されたロール紙1を前面から排出する構成を備えている。なお、プリンタ10には、当該プリンタ10の不使用時に排紙部18を塞ぐ排紙トレー19も設けられている。
【0041】
操作パネル20は、プリンタ10の前面に設けられており、操作ボタン20aと、液晶表示部20bとを備えている。ユーザは、液晶表示部20bに表示された情報(メニュー画面等)を参照しながら操作ボタン20aを操作することによって、プリンタ10に対し種々の指令を与えることができる。
【0042】
<<<プリンタ10の内部構成について>>>
次に、プリンタ10の内部構成について、図4及び図5を用いて説明する。プリンタ10は、カラー画像を印刷可能であり、例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色の色インクをロール紙1に吐出してドットを形成することによって印刷画像を形成する。なお、色インクとして、上記4色に加えて、ライトシアン(淡いシアン、LC)、ライトマゼンタ(淡いマゼンタ、LM)、ダークイエロー(暗いイエロー、DY)、ライトブラック(淡いブラック、LK)等を用いても良い。
【0043】
このプリンタ10は、搬送ユニット25と、キャリッジユニット30と、ヘッドユニット35と、切断ユニット40と、検出器群45と、タイマー50と、コントローラ60と、を有している。また、本第1実施形態のプリンタ10は、吸引機構80を有している。
【0044】
搬送ユニット25は、ロール紙1を繰り出して印刷可能な位置に送り込み、印刷時に所定の搬送方向に所定の搬送量でロール紙1を搬送させるためのものである。搬送ユニット25は、ロール紙1の給紙、搬送、排紙等を行うための複数のローラや、これらのローラに回転力を与えるモータや、印刷中にロール紙1を支持する支持部としてのプラテン28等を有している。なお、図5には、これらの構成要素の一部、すなわち、搬送ローラ26、排紙ローラ27、及び、プラテン28、が示されている。このプラテン28は、前記吸引機構80によってロール紙1の巻き癖を矯正可能となっているが、これについては後述する。
【0045】
キャリッジユニット30は、印刷ヘッド36(図5)を、前記搬送方向の直交方向たるキャリッジ移動方向(図5においては、紙面を貫く方向)に移動させるものである。キャリッジ31(図5)と、このキャリッジ31を前記キャリッジ移動方向に移動可能に案内支持するキャリッジガイド軸33と、前記キャリッジ31を移動させるためのキャリッジモータ(不図示)を有している。
【0046】
キャリッジ31には、インクを収容するインクカートリッジ及び印刷ヘッド36が搭載されており、キャリッジ31の移動によって、前記印刷ヘッド36等は前記キャリッジ移動方向に移動する。また、キャリッジ31には、第2センサとしてのバーコードリーダー47(図5)も搭載されており、当該バーコードリーダー47も、キャリッジ31の移動に伴って前記キャリッジ移動方向に移動する。
【0047】
ヘッドユニット35は、ロール紙1にインクIを吐出するためのものである。ヘッドユニット35は、印刷ヘッド36等を有している。印刷ヘッド36は、断続的にインクIを吐出するノズルnを複数有している。この印刷ヘッド36は、キャリッジ31に設けられている。そのため、キャリッジ31が前記キャリッジ移動方向に移動すると、印刷ヘッド36も当該キャリッジ移動方向に移動する。そして、印刷ヘッド36が移動中にノズルnからインクIを断続的に吐出することによって、前記キャリッジ移動方向に沿ったドットライン(ラスタライン)がロール紙1に形成される。
【0048】
切断ユニット40は、ロール紙1を切断して、ロール紙1の印刷部分を切り離すためのものである。切断ユニット40は、回転刃を有するカッター41(図5)と、回転刃を回転させたり、カッター41を前記キャリッジ移動方向に沿った方向に移動させたりするためのモータ等を有している。回転刃が回転している状態でカッター41が前記キャリッジ移動方向に移動するとロール紙1が切断される。
【0049】
検出器群45には、前述したバーコードリーダー47や取り付け検知センサの他に、第1センサとしてのロータリー式エンコーダやリニア式エンコーダ等が含まれている。ロータリー式エンコーダは、搬送ローラ26の回転量によってロール紙1の搬送量を計測する。リニア式エンコーダは、キャリッジ31のキャリッジ移動方向の位置や移動量を計測する。
タイマー50は、現在の日付、時刻を得るための時計である。
【0050】
コントローラ60は、プリンタ10の制御を行うためのものである。コントローラ60は、図4に示すように、インターフェース部62と、イメージバッファ64と、CPU66と、メモリ68と、ユニット制御回路70と、を有している。インターフェース部62は、コンピュータ702との間でデータや信号の送受信を行うためのものである。イメージバッファ64は、印刷データPDを格納するためのものである。CPU66は、プリンタ全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリ68は、プログラムや各種情報を格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等を有する。ユニット制御回路70は、各ユニット(搬送ユニット25、キャリッジユニット30、ヘッドユニット35、切断ユニット40、吸引機構80)を制御するためのものである。
【0051】
コントローラ60が、コンピュータ702から印刷データPD及び制御信号COMをインターフェース部62で受信すると、印刷データPDは、イメージバッファ64に格納される。CPU66は、当該制御信号COMに基づいて、イメージバッファ64から印刷データPDを読み出しつつ各ユニット(搬送ユニット25、キャリッジユニット30、ヘッドユニット35、切断ユニット40)を、ユニット制御回路70を介して制御する。このようにして、コントローラ60は、ロール紙1に印刷画像を印刷し、ロール紙1の、印刷画像が印刷された部分、を適宜切り離す。なお、プリンタ10内の状況は検出器群45によって監視されており、検出器群45は、検出結果をコントローラ60に出力する。検出器群45から検出結果を受けたコントローラ60は、その検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
【0052】
また、本実施の形態に係るコントローラ60は、コンピュータ702がプリンタ10に電気的に接続されていない場合でも、ロール紙1に印刷画像を印刷することができる。かかる場合には、CPU66が、メモリ68内のプログラムに基づいて、メモリ68内の各種情報を適宜参照しながら、印刷データPDと制御信号COMを作成する。印刷データPDはイメージバッファ64に格納され、CPU66は、当該制御信号COMに基づいて、イメージバッファ64から印刷データPDを読み出しつつ各ユニットを制御する。このようにして、コントローラ60は、ロール紙1に印刷画像を印刷し、ロール紙1の、印刷画像が印刷された部分を適宜切り離す。
【0053】
===ロール紙1の残量のロール紙1への印刷について===
ところで、ロール紙1を使い切る前に、ユーザがプリンタ10からロール紙1を取り外す場合がある。例えば、当該プリンタ10を用いて、他のロール紙1に印刷を行う場合等である。しかし、そのまま取り外したのでは、今までプリンタ10が監視してきたロール紙1の残量が判らなくなってしまう。
【0054】
そのため、取り外す前に、ロール紙1の先端部に残量を示すバーコードBCを印刷するようにしている(図6に示すロール紙1の上面図を参照)。そして、取り外したロール紙1を再びプリンタ10に取り付けた際には、プリンタ10は、図5に示すバーコードリーダー47によって前記ロール紙1の先端部のバーコードBCを読み取り、当該読み取った残量情報に基づいて、前記ロール紙1の残量の監視を再開するように構成されている。
【0055】
なお、ロール紙1の残量の監視は、コントローラ60内のユニット制御回路70に設けられたロール紙残量演算部(不図示)によって行われる。すなわち、このロール紙残量演算部は、前記バーコードリーダー47から残量情報を受信し、この残量情報が示す数値から、前記ロータリーエンコーダにて計測された搬送量を時々刻々減算することによって残量を算出する。ちなみに、新品のロール紙1の先端部にも、ロール紙1の生産ラインにて、残量を示すバーコードBCが印刷されており、当該ロール紙1の取り付け時には、前記バーコードBCをバーコードリーダー47が読み取ることによって残量情報が取得される。但し、場合によっては、バーコードBCの代わりに文字列を印刷しておき、この文字列を視認したユーザが、これに対応する残量を前記操作パネル20から手入力するようにしても良い。
【0056】
また、ロール紙1の先端部へのバーコードBCの印刷は、次のようにして行われる。先ず、図2に示すプリンタ10のコントローラ60は、ロール紙残量演算部が監視してきた残量をコンピュータ702へ送信して、その残量を表すバーコードBCの印刷データPDの生成をコンピュータ702に要求する。すると、これに応えて、コンピュータ702のアプリケーションプログラム795及びプリンタドライバ796が、前記残量を示すバーコードBCの画像データAD及びこの画像データADに基づく印刷データPDを順次生成し、当該印刷データPDをプリンタ10へ送信する。その結果、この印刷データPDに基づいてプリンタ10が印刷動作を行い、ロール紙1の先端部にバーコードBCが印刷される。
【0057】
===ロール紙1の巻き癖対策について===
<<<巻き癖が与える印刷画像の画質への影響>>>
図7に、印刷ヘッド36から吐出されたインクIの軌跡を示す。図示のように印刷ヘッド36は、キャリッジ移動方向に所定速度Vcで移動中に、ロール紙1に向けてインクIを吐出する。そして、これらインクIの着弾痕である多数のドットによってロール紙1上に印刷画像が形成される。このため、図7の二点鎖線で示すように、印刷ヘッド36のノズルnとロール紙1とのギャップGが、所期の設計値Sから変動すると、インクIの着弾位置が目標位置からキャリッジ移動方向にずれてしまい、これによって印刷画像の画質は悪化してしまう。
【0058】
ロール紙1の場合には、このギャップGの変動要因の一つとして、繰り出された際に生じるカール状の巻き癖が挙げられる。図8に、この巻き癖の様子を示すが、巻き癖が無くてプラテン28上にロール紙1がちゃんと接触していれば、前記ギャップGは設計値Sになるべきところ、同図のように巻き癖が有る場合には、ロール紙1が、前記巻き癖分だけプラテン28上において弓なりに浮いてしまい、その浮いた分だけ、印刷ヘッド36のノズルnとロール紙1との間のギャップGが設計値Sよりも狭くなってしまう。
【0059】
このギャップ変動を抑制する方法としては、プラテン28に吸引機構80を設けてプラテン28の方へロール紙1を吸引して巻き癖を矯正する方法と、巻き癖分だけ印刷ヘッド36をプラテン28から離す方法との二つが挙げられる。本第1実施形態では、前者の方法を採用しており、後述の第2実施形態では、後者の方法を採用している。
【0060】
<<<ロール紙1をプラテン28の方へ吸引して巻き癖を矯正する方法>>>>
図9はプラテン28の上面図である。このプラテン28は、キャリッジ移動方向に関してロール紙1よりも広く設けられ、また、搬送方向については搬送ローラ26と排紙ローラ27との間に収まる寸法になっている。そして、搬送ローラ26によって搬送されたロール紙1は、このプラテン28の上面28cに接触して支持される。なお、プラテン28の上面28cには部分的に溝部28aが形成されているが、この溝部28aは、縁無し印刷時等に、ロール紙1に着弾しなかったインクIの回収に供される。
【0061】
図10は、図9中のX−X矢視で示す吸引機構80の概念図である。吸引機構80は、プラテン28の上面28cの複数の凹部28b内に形成された複数の吸引孔81と、これら吸引孔81に連通されてプラテン28内部に形成されたチャンバ82と、このチャンバ82からホース83を介して空気を吸引するブロワ84と、を有している。なお、ブロワ84は、そのケーシング84a内部のインペラ84cを、モータ84bで駆動回転して空気を吸引する周知構成のものである。
【0062】
そして、このブロワ84を駆動すると、チャンバ82内の圧力が下がり、これによって、プラテン28上のロール紙1は、前記吸引孔81を介してプラテン28の方へ吸引される。その結果、ロール紙1は、図5に示すようにプラテン28上面28cに接触してその巻き癖は矯正され、もって、ロール紙1と印刷ヘッド36のノズルnとのギャップGは、前記設計値Sとなる。
【0063】
ここで、この吸引機構80の吸引量(単位時間当たりの体積量)は、多くする程にその吸引力が増大し巻き癖の矯正効果が大きくなることから、当該矯正効果の確実性を高めるには、前記吸引量を可能な限り多くする方が良いように思える。しかしながら、吸引量を闇雲に多くし過ぎると、印刷画像の画質に悪影響を及ぼす危険があって得策ではない。すなわち、吸引量を多くし過ぎると、印刷ヘッド36とプラテン28との間の空気を吸引し過ぎてしまい、印刷ヘッド36から吐出されたインクIの飛行経路に悪影響を及ぼし、目標位置から外れた位置にインクIを着弾させてしまう虞がある。従って、望ましくは、巻き癖の矯正に必要な最小限の吸引量に抑えると良い。
【0064】
この必要最小限の吸引量を検討すべく、矯正すべき巻き癖の大きさについて注目してみると、この巻き癖の大きさは、ロール紙1の残量に応じて変化する。すなわち、図11Aに示すように残量が多い状態においては、ロール紙1の直径が大きいために、繰り出されたロール紙1の巻き癖も小さいが、図11Bに示すように残量が少なくなると、前記直径が小さくなることに伴って、その巻き癖も大きくなる。そして、このことから、巻き癖を矯正するための必要最小限の吸引量は前記残量に応じて変化すると考えられ、この残量に応じて吸引量を変化させれば、インクIの飛行経路の乱れを可及的に抑制しつつ、巻き癖を有効に矯正可能と考えられる。
【0065】
そこで、本第1実施形態では、前記コントローラ60によって前記吸引機構80の吸引量を、ロール紙1の残量に応じて変化させるようにしており、これによって、インクIの飛行経路の乱れを有効に抑制しつつ、ロール紙1とノズルnとのギャップGを可及的に前記設計値Sに維持させることを達成している。そして、その結果、前記インクIによって前記ロール紙1上に形成される印刷画像の画質の向上が図れ、これをもって、当該第1実施形態では、前記巻き癖の画質への影響を有効に抑制可能となっている。
【0066】
以下、この第1実施形態について詳細に説明する。
本第1実施形態に係る吸引機構80は、コントローラ60のユニット制御回路70によって制御され、その吸引量は、監視中のロール紙1の残量に基づいて時々刻々と調整される。すなわち、この残量と吸引量との関係は、図12に示す吸引量調整パターンに規定されており、当該吸引量調整パターンは予めユニット制御回路70に格納されている。そして、このユニット制御回路70が、そのロール紙残量演算部で逐次生成されたロール紙1の残量情報に対応する吸引量を、前記吸引量調整パターンから読み出して取得し、その吸引量となるように吸引機構80のモータ80bの回転数を時々刻々調整するようになっている。
【0067】
ここで、前記吸引量調整パターンには、巻き癖を矯正するための必要最小限の吸引量が各残量に対応させて規定されており、その結果、当該吸引量調整パターンは、図12のような、残量が少なくなるにつれて吸引量が大きくなる関係となっている。これは、前述したように、残量が減少するにつれてロール紙1の外径が小さくなって、巻き癖が大きくなるからである。
【0068】
そして、このような必要最小限の吸引量が規定された吸引量調整パターンによれば、吸引によるインクIの飛行経路の乱れを有効に抑制しつつ、ロール紙1とノズルnとのギャップGを可及的に前記設計値Sに維持させることができる。
【0069】
なお、前記吸引量調整パターンは、望ましくは、ロール紙1の種類と未使用時の内外径との組み合わせからなるロール紙1の規格毎に用意されていると良い。これは、これら規格毎に巻き癖の程度が変わるためである。ちなみに、規格毎の吸引量調整パターンは、次のような実験的手法によって求められる。すなわち、ロール紙1の規格毎に、実際に搬送ユニット25にてロール紙1を巻き出して搬送し、プラテン28上の巻き癖による浮きが、所定の閾値以下となる吸引量を所定の残量おきに調べる。そして、これら残量と吸引量とからなるプロット点を曲線近似すれば前記吸引量調整パターンが取得される。なお、前記浮きに係る閾値は、印刷画像の画質から決めれば良い。また、巻き癖はある程度の再現性を期待できるため、前記吸引量調整パターンの測定は規格毎に一回行えば良いが、信頼性の観点からは複数回測定する方が好ましいのは言うまでもない。
【0070】
===第2実施形態===
前述したように、本第2実施形態では、印刷ヘッド36とロール紙1とのギャップGを前記設計値Sに維持する方法として、巻き癖分だけ印刷ヘッド36をプラテン28から離す方法が採用されている。具体的には、第1実施形態の吸引機構80に代えて、ロール紙1の残量に応じて印刷ヘッド36とプラテン28とのギャップPGを変更するPG変更機構90が設けられている(図13に示す第2実施形態のプリンタ10のブロック図を参照)。
【0071】
このPG変更機構90を、図14乃至図17を参照しながら説明する。なお、図14は、駆動伝達部92の周辺の斜視図であり、図15は、駆動伝達部92のギアの噛み合い状態を示す側面図である。また、図16は、キャリッジガイド軸33を上下させる機構の斜視図であり、図17は、PG変更カム94周辺の構造の正面図である。
【0072】
PG変更機構90は、プリンタ1内に設けられており、キャリッジガイド軸33を上下させることにより、印刷ヘッド36とプラテン28とのギャップPGを変更する。PG変更機構90は、モータ91と、駆動伝達部92と、ガイド軸ギア93と、PG変更カム94と、固定ピン95と、案内溝96とを有する。
【0073】
モータ91は、印刷ヘッド36とプラテン28とのギャップPGを変更するために必要な駆動力を発生する。このモータ91の駆動力は、駆動伝達部92へ供給される。駆動伝達部92は、複数の歯車を有する。この駆動伝達部92は、ガイド軸ギア93まで駆動力を伝達する。ガイド軸ギア93の中心には、キャリッジガイド軸33が回転自由に支持されている。また、ガイド軸ギア93には、PG変更カム94が固定されている。そのため、ガイド軸ギア93が駆動伝達部92からの駆動力によって回転すると、PG変更カム94が一緒に回転する。但し、キャリッジガイド軸33はガイド軸ギア93と回転自由であるため、キャリッジガイド軸33は回転しない。PG変更カム94の外周面は、固定ピン95と接触している。そして、この固定ピン95は、PG変更カム94のカムフォロアとして機能する。案内溝96は、キャリッジガイド軸33を上下方向に案内する。このため、キャリッジガイド軸33が外部から力を受けても、水平方向への移動は規制されている。
【0074】
モータ91が駆動すると、駆動伝達部92を介して、ガイド軸ギア93が回転する。ガイド軸ギア93が回転すると、PG変更カム94が回転し、PG変更カム94の外周面と固定ピン95との作用により、キャリッジガイド軸33に力が加わる。そして、キャリッジガイド軸33は、案内溝に案内されて、上下方向に移動する。キャリッジガイド軸33が上下方向に移動した結果、キャリッジガイド軸33に支持されるキャリッジ31も上下方向に移動する。これにより、印刷ヘッド36とプラテン28とのギャップPGが変更される。
【0075】
このPG変更機構90は、コントローラ60のユニット制御回路70によって制御され、前記ギャップPGは、監視中のロール紙1の残量に基づいて時々刻々と調整される。すなわち、この残量とギャップPGとの関係は、図18に示すギャップ調整パターンに規定されており、当該ギャップ調整パターンは予めユニット制御回路70に格納されている。そして、このユニット制御回路70が、そのロール紙残量演算部で逐次生成されたロール紙の残量情報に対応するギャップPGを、前記ギャップ調整パターンから読み出して取得し、そのギャップPGとなるようにPG変更機構90のモータ91を回転させるようになっている。
【0076】
ここで、図18のギャップ調整パターンは、残量が少なくなるにつれてギャップPGが大きくなるように設定されているが、これは、前述したように、残量が減少するにつれてロール紙1の外径が小さくなって、巻き癖が大きくなるからである。
【0077】
なお、前記ギャップ調整パターンは、前述の吸引量調整パターンと同様に、ロール紙1の種類と未使用時の内外径との組み合わせからなるロール紙1の規格毎に用意されているのが望ましく、これら規格毎のギャップ調整パターンは、次のような実験的手法によって求められる。すなわち、ロール紙1の規格毎に、実際に搬送ユニット25にてロール紙1を巻き出して搬送し、プラテン28上の巻き癖による浮きの大きさを残量に対応させて計測する。そして、その浮きの計測値に前記設計値Sを加算した値がギャップ調整パターンのギャップPGであるため、このギャップPGを所定の残量おきに算出し、これら残量とギャップPGとからなるプロット点を曲線近似すれば、前記ギャップ調整パターンが得られる。なお、前記吸引量調整パターンと同様に、当該ギャップ調整パターンも、規格毎に一回測定すれば足りるが、信頼性の観点からは複数回測定すると良い。
【0078】
===第3実施形態===
図19は第3実施形態に係るプリンタ10の構成を示すブロック図である。この第3実施形態は、第1実施形態の構成と第2実施形態の構成とを組み合わせたものであり、すなわち、前記吸引機構80と前記PG変更機構90との両者を有している。そして、これら吸引機構80及びPG変更機構90は、前記ユニット制御回路70によって制御される。
【0079】
図20に、ユニット制御回路70が行う制御フローを示す。同図に示すように、ユニット制御回路70は、最初は吸引機構80のみを動作させて、ロール紙1の残量に応じて吸引量を調整する(ステップS110)。なお、この吸引量の調整は、第1実施形態と同様に吸引量調整パターンに基づいて行われる。
【0080】
そして、吸引量が所定の上限値を超えると(ステップS120)、本第3実施形態のユニット制御回路70は、これ以上の巻き癖の矯正は困難と判断し、それ以降は、吸引機構80に対しては前記上限値での吸引をそのまま継続させつつ(ステップS130)、これに加えてPG変更機構90を残量に応じて動作させてギャップPGを調整する(ステップS140)。このギャップPGの調整は、第2実施形態と同様に、ギャップ調整パターンに基づいて行われる。但し、このギャップPGの調整は、図21に示すように、キャップ調整パターン上における、PG変更機構90の動作開始時点の残量に対応するギャップPGを基準値とし、この基準値からの差分だけギャップPGを相対的に開くことによって行われる。
ちなみに、前述の上限値は、矯正効果の有無の観点から決定したが、これに限るものではなく、インクIの飛行経路の乱れが顕著となる吸引量を前記上限値としても良い。
【0081】
===その他の実施の形態===
以上、上記実施の形態に基づき本発明に係る印刷装置等を説明したが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【0082】
また、上記実施の形態において、ハードウエアによって実現されていた構成の一部または全部をソフトウエアによって置き換えても良く、逆に、ソフトウエアによって実現されていた構成の一部をハードウエアによって置き換えても良い。
【0083】
上記実施の形態においては、印刷装置として、インクジェットプリンタ10を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ドットインパクト式プリンタ等の印刷装置にも本発明を適用できる。
【0084】
上記実施の形態においては、「ロール状に巻かれた媒体」の一例として、「ロール状に巻かれた紙」たるロール紙1を示したが、これに限るものではなく、例えば「ロール状に巻かれた布」や「ロール状に巻かれたフィルム」であっても良い。
【0085】
上記実施の形態においては、残量をロール紙1の先端部に記録するための記号として、バーコードBCを例示したが、これに限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】第1実施形態に係る印刷装置を用いた印刷システム700の外観構成を示した説明図である。
【図2】前記印刷システム700の構成の一部を示すブロック図である。
【図3】前記印刷装置たるプリンタ10の外観構成を示した説明図である。
【図4】前記プリンタ10の構成を示すブロック図である。
【図5】前記プリンタ10の構成要素の一部を模式的に表した模式図である。
【図6】ロール紙1の先端部を示す上面図である。
【図7】印刷ヘッド36から吐出されたインクIの軌跡を示す図である。
【図8】ロール紙1の巻き癖の様子を示す側面図である。
【図9】プラテン28の上面図である。
【図10】吸引機構80の概念図である。
【図11A】ロール紙1の残量と巻き癖の大きさの関係を説明するための図である。
【図11B】ロール紙1の残量と巻き癖の大きさの関係を説明するための図である。
【図12】吸引量調整パターンを示す図である。
【図13】第2実施形態に係るプリンタ10の構成を示すブロック図である。
【図14】PG変更機構90に係る駆動伝達部92の周辺の斜視図である。
【図15】駆動伝達部92のギアの噛み合い状態を示す側面図である。
【図16】キャリッジガイド軸33を上下させる機構の斜視図である。
【図17】PG変更カム94周辺の構造の正面図である。
【図18】ギャップ調整パターンを示す図である。
【図19】第3実施形態に係るプリンタ10の構成を示すブロック図である。
【図20】第3実施形態に係るプリンタ10のユニット制御回路70が行う制御フローである。
【図21】ギャップPGの調整を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1 ロール紙,3 芯材,10 プリンタ,12 筐体,
14 ロール紙取り付けユニット,14a ホルダー,16 給紙部,
18 排紙部,19 排紙トレー,20 操作パネル,
20a 操作ボタン,20b 液晶表示部,25 搬送ユニット,
26 搬送ローラ,27 排紙ローラ,
28 プラテン,28a 溝部,28b 凹部,28c 上面,
30 キャリッジユニット,31 キャリッジ,
35 ヘッドユニット,36 印刷ヘッド,
40 切断ユニット,41 カッター,45 検出器群,
47 バーコードリーダー,50 タイマー,60 コントローラ,
62 インターフェース部,64 イメージバッファ,66 CPU,
68 メモリ,70 ユニット制御回路,
80 吸引機構,81 吸引孔,82 チャンバ,83 ホース,
84 ブロワ,84a ケーシング,84b モータ,84c インペラ,
90 PG変更機構,91 モータ,92 駆動伝達部,93 ガイド軸ギア
94 PG変更カム,95 固定ピン,96 案内溝,
700 印刷システム,702 コンピュータ,
703 コンピュータ本体,704 表示装置,
708 入力装置,708A キーボード,708B マウス,
710 読取装置,710A FD装置,710B CD−ROMドライブ装置,
795 アプリケーションプログラム,796 プリンタドライバ,
797 画像処理部,801 表示インターフェース部,
803 入力インターフェース部,805 ユーザインターフェース処理部,
AD 画像データ,COM 制御信号,PD 印刷データ,
I インク,n ノズル,G ギャップ,S 設計値,PG ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロール状に巻かれた媒体を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、
(B)搬送された媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルと、
(C)前記複数のノズルに対向して設けられ、前記搬送された媒体を支持するための支持部と、
(D)該支持部に支持された媒体を、該支持部の方に吸引するための吸引機構と、
(E)該吸引機構が前記媒体に与える吸引力を、前記ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化させるコントローラと、
(F)を備えていることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置において、
前記コントローラは、前記残量が少なくなるにつれて前記吸引力を大きくすることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置において、
前記コントローラは、前記吸引力の大きさを前記残量に対応させて規定した所定の調整パターンに基づいて、前記吸引力を調整し、
前記調整パターンを、前記媒体の種類毎に有していることを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の印刷装置において、
前記吸引機構は、前記支持部に形成された複数の吸引孔と、前記吸引孔に連通形成されたチャンバと、該チャンバから空気を吸引するブロアと、前記ブロアのインペラを駆動回転するためのモータと、を備えており、
前記コントローラは、前記残量に応じて前記モータの回転数を調整することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の印刷装置において、
前記支持部と前記複数のノズルとのギャップを変更するためのギャップ変更機構を備え、
前記吸引力が所定の閾値を超えない場合には、前記コントローラは、前記ギャップを変化させず、前記閾値を超えた場合に、前記残量に応じて前記ギャップを変更することを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
(A)ロール状に巻かれた媒体を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、
(B)搬送された媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルと、
(C)前記複数のノズルに対向して設けられ、前記搬送された媒体を支持するための支持部と、
(D)該支持部と前記複数のノズルとのギャップを変更するためのギャップ変更機構と、
(E)前記ギャップ変更機構を制御して、前記ギャップを前記ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変更するコントローラと、
(F)を備えていることを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項6に記載の印刷装置において、
前記複数のノズルは、前記媒体の搬送方向および前記ギャップの変更方向の両方と交差する交差方向に移動可能に設けられ、
前記交差方向への移動中に、前記搬送された媒体に向けてインクを吐出することを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
請求項7に記載の印刷装置において、
前記ノズルが形成された印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドを前記交差方向に移動可能に案内支持するガイド軸と、を備え、
前記ギャップ変更機構は、前記ガイド軸を前記ギャップの変更方向に動かす機構であることを特徴とする印刷装置。
【請求項9】
請求項4乃至8のいずれかに記載の印刷装置において、
前記コントローラは、前記残量が少なくなるにつれて前記ギャップを大きくすることを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
請求項9に記載の印刷装置において、
前記コントローラは、前記ギャップの大きさを前記残量に対応させて規定した所定の調整パターンに基づいて、前記ギャップを変更し、
前記調整パターンを、前記媒体の種類毎に有していることを特徴とする印刷装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の印刷装置において、
前記搬送された媒体を切断するための切断ユニットと、前記ロール状に巻かれた媒体の残量を測定するための第1センサと、を備え、
前記ロール状に巻かれた媒体が前記印刷装置から取り外される際には、
前記切断ユニットによって、前記搬送された媒体は切断されるとともに、切断形成された前記媒体の端部には、前記第1センサによって測定された、前記ロール状に巻かれた媒体の切断時点における残量が記録されることを特徴とする印刷装置。
【請求項12】
請求項11に記載の印刷装置において、
前記端部に記録された残量を読み取るための第2センサを備え、
前記印刷装置から取り外された前記ロール状に巻かれた媒体が、該印刷装置に再び取り付けられた際には、
前記第2センサは、前記ロール状に巻かれた媒体の端部からその残量を読み取るとともに、
前記第1センサは、前記残量の読み取り値に基づいて残量の測定を再開することを特徴とする印刷装置。
【請求項13】
(A)ロール状に巻かれた媒体を繰り出して搬送するための搬送ユニットと、
(B)搬送された媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルと、
(C)前記複数のノズルに対向して設けられ、前記搬送された媒体を支持するための支持部と、
(D)該支持部に支持された媒体を、該支持部の方に吸引するための吸引機構と、
(E)該吸引機構が前記媒体に与える吸引力を、前記ロール状に巻かれた媒体の残量に応じて変化させるコントローラと、
(F)を備え、
前記コントローラは、前記残量が少なくなるにつれて前記吸引力を大きくし、
前記コントローラは、前記吸引力の大きさを前記残量に対応させて規定した所定の調整パターンに基づいて、前記吸引力を調整し、
前記調整パターンを、前記媒体の種類毎に有し、
前記吸引機構は、前記支持部に形成された複数の吸引孔と、前記吸引孔に連通形成されたチャンバと、該チャンバから空気を吸引するブロアと、前記ブロアのインペラを駆動回転するためのモータと、を備えており、前記コントローラは、前記残量に応じて前記モータの回転数を調整し、
前記支持部と前記複数のノズルとのギャップを変更するためのギャップ変更機構を備え、
前記吸引力が所定の閾値を超えない場合には、前記コントローラは、前記ギャップを変化させず、前記閾値を超えた場合に、前記残量に応じて前記ギャップを変化させ、
前記コントローラは、前記残量が少なくなるにつれて前記ギャップを大きくし、
前記搬送された媒体を切断するための切断ユニットと、前記ロール状に巻かれた媒体の残量を測定するための第1センサと、を備え、
前記ロール状に巻かれた媒体が前記印刷装置から取り外される際には、
前記切断ユニットによって、前記搬送された媒体は切断されるとともに、切断形成された前記媒体の端部には、前記第1センサによって測定された、前記ロール状に巻かれた媒体の切断時点における残量が記録され、
前記端部に記録された残量を読み取るための第2センサを備え、
前記印刷装置から取り外された前記ロール状に巻かれた媒体が、該印刷装置に再び取り付けられた際には、
前記第2センサは、前記ロール状に巻かれた媒体の端部からその残量を読み取るとともに、
前記第1センサは、前記残量の読み取り値に基づいて残量の測定を再開することを特徴とする印刷装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−76254(P2006−76254A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265609(P2004−265609)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】