説明

印刷装置

【課題】 使用頻度の高いプリンタで印刷所要時間が長い印刷処理を行うと、他の印刷物の処理は長時間待たなくてはいけなくなる。
【解決手段】 特定の印刷ジョブをプリンタが使用されていない時間に印刷処理を行うように指定可能にするとともに、省電力モードへの移行用の設定時間をそのままプリンタが使用されていない時間の判断基準とするように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は処理に時間を要するの印刷物の処理の効率化を図るプリンタ装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピュータ技術の進歩によるハードディスクの大容量化と低価格化は目覚ましく、それに伴い民生用の一般機器にも安価な大容量記憶装置としてハードディスクが用いられる場合が多く見られるようになった。その一例がプリンタ等の印刷機器であり、印刷ジョブをハードディスクに蓄積して記憶することにより、さまざまな利点が得られるようになった。利点の1つとしては、印刷物が蓄積できることにより、印刷処理を受信した順番に関係なく処理することが可能になることである。例えばポスターなどに代表される大きなサイズの用紙の印刷処理には多くの時間を必要とするが、その場合長い時間を1つの処理で機器が占有されてしまう。その結果、使用頻度の高い機器の場合に、印刷時間はかからないが緊急性の高い印刷物の処理を同じ機械で実行しようとした場合に長い時間待たされてしまい、事務処理効率が良くない。そのような場合には印刷ジョブを一旦ハードディスクに蓄積するとともに、各ジョブの処理の優先度を指定可能にしてその優先順位に従って印刷処理するように構成することにより、緊急度の高いジョブを効率的に処理できるようにできる。また各ジョブの処理の開始時刻を指定可能にしておき、その時刻になれば印刷処理を開始するように構成すれば、処理時間を要する印刷ジョブを明らかに機械が使用されていない時間帯に設定することにより機器の使用効率を上げられる。また別の利点の1つとしては、処理効率の向上以外に機器効率の向上を図ることも挙げられる。例えば時刻指定による印刷処理の実装とともに、節電モードへの遷移の回数を少なくして機器の電力消費を軽減するように構成されたものがある。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2003−220742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記の従来技術のうち、印刷ジョブに対して優先度を指定する構成では、印刷指定時に他のジョブの状態を把握した上でその優先度を指定する必要がある。すなわち他のジョブの印刷所要時間を予測したり、自分のジョブの処理の所要時間や緊急度を鑑みてその優先度を指定しないと効果がない。機器の共有の度合いによっては他のジョブがよくわからない場合もあり、そのような場合には効果的な優先度の設定ができない場合が予想される。また所要時間が長い印刷ジョブを優先度を最低にして実行指定した場合でも、一旦印刷が開始すると長い時間専用してしまうので、使用頻度の高い機器では時間帯によっては他の人に迷惑をかけてしまう可能性がある。またもう一例の印刷ジョブに対して印刷開始時刻を指定する構成では、機器を使用していない時間を把握しておく必要がある。この場合も前例と同様に他の使用者の使用動向を予測して設定しなくてはならず、前例と同様に効果的な設定が難しい場合が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では上記のように他のジョブの状況の把握を必要とせずに処理するために、緊急性がないジョブであることを指定するだけで、他の緊急性のあるジョブの処理を妨げないように構成する。また緊急性がないと指定されたジョブの印刷処理は、機器が明らかに未使用状態であるところの省電力モードへの移行時に実施するように構成する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、所要時間が長い印刷ジョブを簡単な指定により他の緊急性のあるジョブの処理を妨げないように処理を指定することが可能になり、事務処理効率を上げることができる。また機械の使用頻度が高い時間帯か低い時間帯かなどをいちいち意識せずに、明らかに使用頻度の低い時間帯で印刷処理できるようになる。またその時間の設定も他の処理の時間設定と共通化することで、独自の設定が不要になり操作性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【実施例1】
【0007】
以下に図面に基づいて本発明の実施例を具体的に説明する。
【0008】
図1は本発明に係わる装置の基本的構成を示すブロック図である。1は印刷指示などの機器の各種の機能の実行指示を行うための操作部である。操作部1は複数個のキー、ボタン、スイッチなどから構成される。2は機器の状態や各種の操作結果をユーザーに通知するための表示部である。表示部2は液晶パネル、LEDなどで構成される。3は外部の機器との通信を行う通信部である。通信部3はパラレルポート、ネットワーク、USBなど各種のインタフェースの一つまたは複数から構成される。印刷データを機器に入力する場合や操作部1を使用しないで印刷などの各種操作を行う場合に使用される。4は印刷を実行する印刷部である。印刷部4は紙送り機構や描画機構などから構成され制御部5から処理されたデータの印刷を実行する。各機構には各種の検知装置が備わっており、紙なし、紙づまり、インク切れやカバーオープン等のさまざまな動作エラーを検出することができる。5は機器の各機能の実行を行う制御部である。制御部5は操作部1や通信部3からの各種の入力動作に対応して各種の出力動作の制御を行う。各種の制御の手順はROM7内のプログラム記憶71に記憶されている。6は記憶装置の一種であるRAMである。RAMはランダムアクセスメモリの略語であり、揮発性の記憶装置である。RAM6内には印刷データなどの大量のデータを扱う場合に使用されるバッファ61、制御部5が各種制御を行う際に必要となる変数などを一時的に記憶するワークエリア62などを備えている。7は記憶装置の一種であるROMであり、制御部5を制御するプログラムを記憶するプログラム記憶部71を備えている。8は記憶装置の一種であるHDDである。HDDとはハードディスクドライブの略語で、不揮発性の記憶装置であるハードディスクとそれを駆動する機構から構成される。HDD8内には通信部3を介して入力された印刷データを蓄積して記憶する印刷データ記憶部81やその中に記憶されている内容の管理情報を記憶するデータ管理記憶部82などを備えている。9はタイマーで、時間の経過を計測管理する。
【0009】
図2は本発明に係わる装置での印刷データ記憶部81の内部構成の一例を示す図である。印刷データ記憶部81には通信部3を介して受信した印刷データが記憶される。一回の通信処理で受信したデータを一単位として、それを印刷ジョブと呼ぶ。ハードディスク内では各ジョブはファイルとして保存される。各ファイルには特有の名前が付けられ、その名前で管理される。図2の例では21が”A1.TIF”、22が”B2.JPG”、23が”C3.TIF”という名前の各ファイルとして記憶されている。この名前の情報自体は印刷データ記憶部81に記憶されておらず、データ管理記憶部82内に記憶されている。各ファイルの内容は受信したデータをそのまま記憶してもよいし、それを適当に加工した結果を記憶したものでもよい。
【0010】
図3は本発明に係わる装置でのデータ管理記憶部82の内部構成の一例を示す図である。データ管理記憶部82には印刷データ記憶部81で記憶している印刷データファイルの記憶内容を示す管理情報を記憶している。管理情報は1ファイルにつき31〜34に示す4つの項目から構成され、その4つの項目をまとめてレコードと呼ぶ。31には各印刷ジョブの識別子であるファイル名を記憶している「ファイル名」項目である。図2の例に示す”A1.TIF”、”B2.JPG”、”C3.TIF”の3つのファイル名が記憶されている。32には各ファイルのデータサイズを記憶している「データサイズ情報」項目である。サイズを現す数値の単位は一定の基準で決められている。33には印刷データ記憶部81において各ファイルが記憶されている場所を示すアドレス情報を記憶している「開始アドレス情報」項目である。アドレス情報を現す数値の単位も一定の基準で決められている。34は印刷ジョブの属性を示す「ジョブ属性情報」項目である。この項目で各ジョブの属性を定義する。本発明で対象とする、機器を使用していない時に印刷させる指定内容もこの属性の一つとして記憶される。以降このように指定されたジョブを「待ちジョブ」を呼ぶこととする。例えばここでは値が「1」であるものが待ちジョブ、値が「0」であるものが通常ジョブであるとする。31〜34に示す4つの管理情報から特定の印刷データの記憶場所とその記憶容量及び属性が判別できる。また管理情報は一つのファイルにつき1レコードが記憶されており、全てのファイルについて各レコードが記憶されている。35は図2の例に示す21のファイル”A1.TIF”について記憶し、36は図2の例に示す22のファイル”B2.JPG”について記憶し、37は図2の例に示す23のファイル”C3.TIF”について記憶している。また全レコードの最後には最後であることを示す空白レコードが存在する。空白レコードの内容は38に示すように全ての項目の内容が0である。この空白レコードを検出することにより全てのデータファイルの数を検知することができる。
【0011】
図4は本発明に係わる装置での電源投入後の制御手順を示すフローチャートである。使用者がプリンタの電源スイッチをオンにした場合にこのフローチャートが開始する。図4の制御手順はプログラム記憶部71内に記憶されている。ステップS101では機器の各種の初期化を実施する。初期化処理は制御プログラムなどのソフトウェア的な処理や、機器内の各種の装置のハードウェア的な処理からなり、通信部3や印刷部4などの機構を使用可能になるように処理する。ステップS102ではイベントが発生するのを待つ。イベントとは機器の状態の変化を引き起こす事象であり、使用者による機器の操作、機器の動作による機器の状態の変化などのことを指す。具体的には使用者によるものでは操作部1の操作を行った場合や、通信部3を介しての機器へ指示を送った場合などが挙げられ、機器の状態の変化ではプリンタのインク切れを検知した場合であったり、紙が詰まってしまった場合などが挙げられる。本装置ではこれらのイベントに応じて各種の処理を実施する。ただし停電などの予測できない電源遮断イベントには対応することはできない。ステップS103ではステップS102で発生したイベントが印刷を指示するものであるかを調べ、そうであればステップS104へ進み、そうでなければステップS106へ進む。ステップS104ではステップS102で指示された印刷処理を実行する。通信部3から受信される印刷データを受信してワークエリア62に蓄積しながら印刷可能なデータ形式に変換して、そのデータを印刷部4に送って印刷機構で印刷処理を実行する。印刷処理が終了したらステップS105へ進み、スリープカウンタの値を初期化してステップS102へ戻る。スリープカウンタとはタイマー9内に存在し、省電力モードへ移行するための時間を計測する。スリープカウンタはステップS102でイベントを待っている間にカウントアップされており、このカウントが一定値に達した場合にイベントが発生してステップS111からのスリープモードへの移行処理を開始するようになる。ステップS106ではステップS102で発生したイベントが待ちジョブの登録を指示するものであるかを調べ、そうであればステップS107へ進み、そうでなければステップS109へ進む。待ちジョブとは図3で定義した通り、直ちに印刷を開始する通常のジョブとは異なり、機器が使用されていない時に印刷させるように指定されたジョブのことである。このような属性の指定は制御情報としてジョブデータ内に含まれており、その情報を解析することにより待ちジョブであるかを判定する。ステップS107では受信されるデータの保存処理を実行する。通信部3から受信される印刷データを受信してワークエリア62に蓄積しながら必要ならば保存可能なデータ形式に変換し、そのデータをHDD8に送って印刷データ記憶部81に保存する。印刷データ記憶部81内では図2に示すように1データにつき1ファイルとして記憶する。全データの受信と保存が完了したら図3に示すようにデータ管理記憶部82にジョブを登録する。ステップS108ではステップS107で保存したデータのジョブ属性を待ちジョブを示すものに変更する。具体的には図3に示すデータ管理記憶部82のジョブ属性情報34の設定を待ちジョブを示す値「1」に変更する。その後はステップS102へ戻る。ステップS109ではステップS102で発生したイベントがスリープ時間が経過したものであるかを調べ、そうであればステップS110へ進み、そうでなければステップS111へ進む。スリープ時間の経過は前記スリープカウンタの値が一定値に達しているかどうかで判定する。ステップS110ではステップS103〜ステップS109で処理される印刷処理、待ちジョブ登録、スリープ時間経過以外のイベントの処理を実行する。このようなイベントの一例としては内部データの印刷指示などの操作部1の操作、例えば機器の設定処理指示などで、それぞれの指示に応じて処理を実行する。また他の例としてはプリンタのインク切れや紙詰まりなどの現象発生が挙げられ、これらの場合には印刷を中断や中止を行い、使用者に対して表示部2で警告を発生するなどの処理を実施する。各イベントの処理を実施した後はステップS102へ戻り、次のイベントの発生を待つ。ステップS111〜S115では機器を省電力モードに移行する前に待ちジョブの処理を実施する。ステップS111では待ちジョブがあるかどうかを調べ、待ちジョブがあればステップS112へ進み、なければステップS116へ進む。具体的にはデータ管理記憶部82のレコードリストにジョブ属性情報34の設定が待ちジョブを示す値「1」であるレコードがあるか検索して判定する。ステップS112ではステップS111で検出されたレコードに対応する待ちジョブの印刷処理を実行する。印刷されるジョブのデータは印刷データ記憶部81内の、検出されたレコードのデータサイズ情報32と開始アドレス情報33で決定される領域に存在する。このデータを基にステップS104と同様に印刷処理を実施する。ステップS113ではステップS112で印刷処理を完了したデータを印刷データ記憶部81及びデータ管理記憶部82から削除する。この処理は製品の機能仕様によっては必ずしも必要ではなく、ジョブ属性情報の変更のみを行うようにしても良い。ステップS114では機器にイベントが発生しているかどうかを調べ、発生していればステップS115へ進み、そうでなければステップS111へ戻る。機器にイベントが発生していた場合は省電力モードへの移行及び待ちジョブの処理を中止してステップS115へ進み、ステップS105と同様にスリープカウンタの値を初期化してステップS102へ戻る。発生したイベントはステップS103以降で解析され実行される。ステップS116では省電力モードに移行するかどうかを調べ、移行するならばステップS117へ進み、そうでなければステップS115へ進む。本実施例の機器では省電力機能を使用するかどうかをユーザーにより選択可能になっており、その設定はHDD8内の図示しない領域に保存されている。省電力モードに移行するかどうかの判定はその設定内容を参照することにより行われる。もし設定が移行しないようになっていたらステップS115へ進み、スリープカウンタの値を初期化してステップS102へ戻り、処理を続ける。ステップS117では機器の状態を通常電力モードから省電力モードへ移行するように制御する。この結果、制御部4もスリープ状態となるため、CPUによる制御は停止する。その後通常電力モードへの復帰が必要な要件、例えば通信部3を介してのホスト機器側からのデータの受信や、使用者による操作部1の操作などのイベントが発生すると、割り込み信号が発生してステップS118の処理へ遷移する。ステップS118では機器の状態を省電力モードから通常電力モードへ移行するように制御する。その後はステップS115へ進み、スリープカウンタの値を初期化してステップS102へ戻る。ステップS117からステップS118の間に発生したイベントはステップS103以降で解析され実行される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わる装置の基本的な構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係わる装置での印刷データ記憶部の内部構成の一例を示す図である。
【図3】本発明に係わる装置でのデータ管理記憶部の内部構成の一例を示す図である。
【図4】本発明に係わる装置での制御手順の概要を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0013】
1 操作部
2 表示部
3 通信部
4 印刷部
5 制御部
6 RAM
61 バッファ
62 ワークエリア
7 ROM
71 プログラム記憶部
8 HDD
81 印刷データ記憶部
82 データ管理記憶部
9 タイマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の各種機能を実行するための入力操作を行う操作部と、機器の各種の状態を表示する表示部と、外部機器からの操作指示及び印刷データの通信を行う通信部と、印刷データの印刷を行う印刷部と、機器制御のための変数を記憶する揮発性記憶部と、機器の動作の制御を行う制御部と、印刷データを記憶する不揮発性記憶部とを備え、特定の遷移条件で機器の状態を通常電力状態から低消費電力状態へ遷移する省電力機能と、省電力機能を発動する機会に印刷するように指定可能な印刷指示機能を有することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記特定の遷移条件は機器が未使用である期間が一定時間経過した場合であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記特定の遷移条件を満たす場合は、前記省電力機能の実施の有無によらずに前記印刷指示機能に伴う印刷処理を実施することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−113333(P2009−113333A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288683(P2007−288683)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】