説明

印刷装置

【課題】弁等の付加的機構が不要であり、さらに吐出するインクの温度調整を迅速且つ的確に行うことができ、ウォームアップ時間を短縮するとともに画質の低下を回避する印刷装置を提供する。
【解決手段】インク循環型の印刷装置であって、印刷媒体にインクを吐出するインクジェットヘッド3a,3b,3cと、インクを循環経路で循環させるポンプ8と、ポンプ8により循環されたインクを加熱するヒータ9aと、インクジェットヘッド3a,3b,3cのインクの温度を測定する第1温度センサと、第1温度センサにより測定された温度に基づいて、ヒータ9aを制御するとともに、インク循環経路上におけるインク流量を制御する制御部20とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙等の記録媒体上にヘッドからインクを吐出して記録を行うインクジェット方式の印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写装置や通信機器、あるいはコンピュータ等の情報処理機器のデジタル画像を記録する手段としてインクジェット方式を採用した印刷装置が多く普及している。この印刷装置は、複数の記録素子(ノズル)を配列した記録ヘッド(インクジェットヘッド)を用いて紙等の記録媒体上にインクを吐出して着弾させることで記録を行うものであり、低騒音や低ランニングコストといった利点を有している。
【0003】
インクを循環させるインク吐出ヘッド及びインク経路を使用するインクジェットプリンタ装置等の従来の印刷装置は、高品位な画質を得るためにインクの温度を安定させる必要がある。インクの温度が不安定であるとインクの粘度が変化するため、インク吐出ヘッドから噴射されるインクの吐出量は不安定となる。その結果、記録媒体に着弾した微量インクによるドットの大きさがインクの温度変化に合わせて変化してしまい、線の太さの変化や濃度ムラ等の画質の低下が発生する。
【0004】
特許文献1には、劣化を生じさせることなくインクの温度調整を可能とする画像記録装置等が記載されている。この画像記録装置は、複数のノズルより形成される少なくとも1つのノズル列を有するとともに、複数のノズルに連通するインク室内に貯えられるインクの温度の検出がなされる少なくとも1つの記録ユニットと、インクを貯留する貯留部と、記録ユニットと貯留部との間でインクを循環させるためのインク流路と、インク流路中に配設されインクの温度を加温して調整する温度調整部と、インク流路中に配設されインクを当該インク流路中で循環させる循環部と、温度調整部に対するインクの調整温度の制御と循環部に対するインクの循環流量の制御とを記録ユニットにおいて検出されるインクの温度に基づいて行うインク循環制御部とを備えている。
【0005】
この画像記録装置によれば、インクの温度に基づいてインク循環制御部がインクの循環流量を制御するので、劣化を生じさせることなくインクの温度を適温範囲に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−184301号公報
【特許文献2】特開2008−23806号公報
【特許文献3】特開2007−1128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の循環型インクジェット方式を採用した印刷装置は、循環している全インクを一定の温度にするために時間がかかるという問題がある。したがって、特許文献1に記載されている画像記録装置等は、ヒータやヒータ保持部材、循環している全インク、インク経路等の有する熱容量により、温度調整のレスポンスが低下し、ヘッドに供給されるインクの温度が一定にならずに吐出乱れ等に基づく画質低下を引き起こし、あるいは印刷前のウォームアップ時間が長くなってユーザビリティが低下するといった問題を発生させる。
【0008】
また、特許文献2にはインク循環量を制御することによりインクあるいはインクジェットヘッドを適切な状態に保持するインクジェット記録装置が記載されている。このインクジェットヘッド記録装置は、検出したインクの温度に応じてポンプによる循環インク流量を制御し、インク温度を適切な値に維持するものであるが、特許文献1と同様の問題が考えられるほか、ヘッドの駆動による発熱でインクの温度上昇を促しているため、インクの加温がヘッドの駆動状態に左右され、印刷前の迅速なウォームアップや印刷中における積極的且つ適切な加温が困難であるという問題がある。
【0009】
さらに、特許文献3には、インク温度の設定に対し、速やかな応答性を有するインクジェットヘッドが記載されている。このインクジェットヘッドは、最終的に合流する複数のインク経路を有しており、合流後にインク吐出部に供給するインク供給手段と、複数のインク経路のうち、少なくとも1つのインク経路のインク温度を制御する温度制御手段と、合流されるインクの混合比を制御して温度を調整するインク温度調整手段とを備えている。ここで、インク温度調整手段は、インクジェットヘッド内に弁機構を設けることにより実現される。したがって、特許文献3に記載のインクジェットヘッドは、精度の高い温度制御ができる反面、構成の複雑化に伴う強度劣化や高コスト化といった問題が懸念される。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決するもので、弁等の付加的機構が不要であり、さらに吐出するインクの温度調整を迅速且つ的確に行うことができ、ウォームアップ時間を短縮するとともに画質の低下を回避する印刷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る印刷装置は、上記課題を解決するために、インク循環型の印刷装置であって、印刷媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、インクを循環経路で循環させるポンプと、前記ポンプにより循環されたインクを加熱する加熱部と、前記インクジェットヘッドのインクの温度を測定する第1温度センサと、前記第1温度センサにより測定された温度に基づいて、前記加熱部を制御するとともに、循環経路上におけるインク流量を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷装置の第2の特徴は、インク循環経路上に設けられてインクを貯留するとともに、貯留したインクを前記インクジェットヘッドの各々に供給する上部タンクと、前記インクジェットヘッドから吐出されなかったインクを貯留する下部タンクとを備え、前記ポンプは、インクを循環経路で循環させるために前記下部タンクから前記上部タンクにインクをくみ上げ、前記加熱部は、前記上部タンクから前記ヘッドに至るまでのインク循環経路上に設けられることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷装置の第3の特徴は、インク循環経路上における前記加熱部の上流側に設けられ、前記加熱部により加熱される前のインクの温度を測定する第2温度センサを備え、前記制御部は、前記第1温度センサにより測定された温度と前記第2温度センサにより測定された温度とに基づいて、前記加熱部のオン/オフを制御するとともに、前記ポンプによるインク流量を制御することである。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷装置の第4の特徴は、前記上部タンクにより貯留されたインクを前記複数のヘッドの各々に分配するインク分配部を備え、前記加熱部は、前記インク分配部に設けられ、前記複数のヘッドの各々に分配されるインクを加熱することである。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷装置の第5の特徴は、前記制御部は、前記加熱部のオン/オフを制御する際に、前記複数のヘッドのうち使用するヘッドに流れるインクのみが必要に応じて加熱され、使用しないヘッドに流れるインクが加熱されないように前記加熱部のオン/オフを制御することである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、弁等の付加的機構が不要であり、さらに吐出するインクの温度調整を迅速且つ的確に行うことができ、ウォームアップ時間を短縮するとともに画質の低下を回避することができる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、上部タンクからヘッドに至るまでのインク循環経路上に加熱部を備えるとともに、制御部がポンプの流量制御によりインク温度を調整するので、上部タンクの前段に加熱部を備える場合と異なって循環している全インクの温度を一定にする必要が無く、温度調整のレスポンスが良くなる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、第1温度センサのみならず第2温度センサを備えているので、加熱部における加熱前後のインク温度を知ることができ、当該温度情報に基づいて、よりインク温度を適切に制御することができる。
【0019】
請求項4記載の発明によれば、加熱部がヘッド直前であるインク分配部に設けられているので、ヘッドに供給されるインク(すなわち印字に使用される直前のインク)のみを効率的に加熱することができ、最適温範囲になるまでの時間が短縮されることにより、インクの温度が上昇/下降した場合でも短時間で最適温範囲に戻し、インク温度に起因する印刷される画質に対する悪影響を回避することができる。また、必要な領域のみを加熱することができるため、消費電力を低く抑えることができる。
【0020】
請求項5記載の発明によれば、使用するヘッドに流れるインクのみを必要に応じて加熱し、使用しないヘッドに流れるインクは加熱しないので、消費電力を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1の形態の印刷装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の形態の印刷装置のインク経路関連の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の形態の印刷装置の制御部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例1の形態の印刷装置の動作を説明するフローチャート図である。
【図5】本発明の実施例1の形態の印刷装置におけるインク温度とインク流量の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例2の形態の印刷装置の動作を説明するフローチャート図である。
【図7】本発明の実施例3の形態の印刷装置の制御部の動作を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の印刷装置の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。まず、本実施の形態の構成を説明する。図1は、本発明の実施例1の印刷装置100の構成を示すブロック図である。図1においては、特に印刷用紙搬送経路を中心に示している。この印刷装置100は、印刷用紙の供給を行う給紙機構、用紙を搬送する用紙搬送部(搬送ベルト360を含む)、及び印刷済の印刷用紙を排出する排紙機構としての排紙口18等を備えたインクジェット方式の印刷装置である。この印刷装置100は、印刷用紙の供給を行う給紙機構として、筐体側面の外部に露出したサイド給紙台320と、筐体内部に設けられた複数の給紙トレイ(330a、330b、330c、330d)とを備えている。また、この印刷装置100は、印刷済の印刷用紙を排出する排紙機構として排紙口340を備えている。
【0024】
この印刷装置100は、印字機構として、用紙搬送方向に直交する方向に伸び、多数のノズルが形成されたインクジェットヘッドを有する複数のヘッドユニット120を備え、それぞれのインクジェットヘッドから黒またはカラーのインクを吐出してライン単位で印刷を行う。ただし、ライン方向に走査して画像形成を行うシリアルカラープリンタとしてもよい。
【0025】
さらに、印刷装置100は、CPU、メモリ等が配置されたコントローラ基板等で構成される制御部20や、メニューを表示したりユーザからの操作を受け付けたりする操作パネル40、及びその他の機能部(図示しない)を備えている。
【0026】
サイド給紙台320および給紙トレイ330のいずれかの給紙機構から1枚ずつ給紙された印刷用紙は、ローラ等の駆動機構によって筐体内の給紙系搬送路(図中の黒太線)に沿って搬送され、レジスト部Rgに導かれる。ここでレジスト部Rgは、印刷用紙の先端の位置あわせと斜行修正を行うために設けられており、1対のレジストローラ350を備えて構成される。給紙された印刷用紙はレジスト部Rgで一時停止し、所定のタイミングで印字機構方向に搬送される。
【0027】
レジスト部Rgのさらに搬送方向側には、複数本のヘッドユニット120が設けられている。これらの複数のヘッドユニット120は、レジストローラ350から近い順に、K(黒)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の順に4本のヘッド列を構成しているものとする。なお、インク色の順番、インクの色数及びヘッド列の数は、この限りではない。また、各インクジェットヘッドは、用紙の搬送方向と直交する方向に複数のノズルが配列されている。
【0028】
印刷用紙は、ヘッドユニット120の対向面に設けられた環状の搬送ベルト360によって印刷条件により定められる速度で搬送されながら、各ヘッドユニット120に備えられたインクジェットヘッドから吐出されたインクによりライン単位で画像形成される。搬送ベルト360の内側にはエア吸引ファン370が設けられている。搬送ベルト360の表面には多数の通気孔が形成されており、エア吸引ファン370の回転によって生じる吸引力で、印刷用紙は搬送ベルト360に吸着されて搬送される。
【0029】
印刷済の印刷用紙は、さらに、ローラ等の駆動機構によって筐体内を搬送される。印刷用紙の片側の面のみに印刷を行う片面印刷の場合は、そのまま排紙口340に導かれて排紙され、排紙口340の受台として設けられた排紙台345に印刷面を下にして積載されていく。排紙台345は、筐体から突出したトレイ形状をしており、ある程度の厚みを有している。排紙台345は傾斜しており、傾斜の下位置に形成された壁により、排紙口340から排紙され、傾斜に沿って滑落する印刷用紙が自然に整えられて重なっていくようになっている。
【0030】
印刷用紙の両面に印刷を行う両面印刷の場合は、表面(最初に印刷される面を「表面」、次に印刷される面を「裏面」とする)印刷終了時には排紙口340に導かれずに、さらに筐体内を搬送される。このため、印刷装置100は、裏面印刷用に搬送路を切り替えるための切替機構380を備えている。切替機構380によって排出されなかった印刷用紙は、スイッチバック経路SRに引き込まれ、スイッチバックを行ない、搬送路に対して表裏が反転する。そして、ローラ等の駆動機構によって再度レジスト部Rgに導かれ、一時停止する。その後、所定のタイミングで印字機構方向に搬送され、表面と同様の手順によって裏面の印刷が行なわれる。裏面の印刷が行なわれ、両面に画像が形成された印刷用紙は、排紙口340に導かれて排紙され、排紙口340の受台として設けられた排紙台345に積載されていく。
【0031】
図2は、本実施例の印刷装置100のインク経路関連の構成を示す図である。この印刷装置100は、図2に示すように、着脱可能なインクボトル6から供給されるインクを用いて印刷を実行するインク循環型の印刷装置であり、複数のヘッド3a,3b,3c、下部タンク4、上部タンク1、ポンプ8、ヒータ9a、ファン10、ヒートシンク11、インク分配器18、及び制御部20により構成され、ヘッド3下にセットされた用紙30に印字を行う。本実施例の印刷装置100は、上部タンク1、インク分配器18(ヘッド3a,3b,3c)、下部タンク4、ポンプ8をつなぐ循環経路を形成しており、インクを循環経路で循環させる方式を採用している。
【0032】
ここで、複数のヘッド3a,3b,3cは、図1で説明したヘッドユニット120が有するインクジェットヘッドであり、インクを吐出する多数のノズルが設けられ、用紙(印刷媒体)30にインクを吐出する。例えば、本実施例の複数のヘッド3a,3b,3cの各々は、ピエゾ素子を用いてインクを噴射させる方式のヘッドである。なお、本実施例の印刷装置100は、1例として、3つのヘッド3a,3b,3cを備えているとして説明しているが、必ずしも3つとは限らない。
【0033】
また、図2中に示されていないが、本実施例の印刷装置100は、複数のヘッド3a,3b,3cの各々の内部にインクの温度を直接的あるいは間接的に測定するための温度センサを備えている。なお、温度センサは、ある程度の精度が期待できるのであれば、ヘッド内部ではなく、ヘッド外部の近傍に設置されていてもよい。
【0034】
さらに、本実施例の印刷装置100において、インクボトル6から下部タンク4につながる供給経路と、下部タンク4からポンプ8、上部タンク1、インク分配器18(ヘッド3a,3b,3c)を通って下部タンク4に戻る循環経路とは、樹脂や金属等のパイプまたは樹脂等のチューブにより形成されている。
【0035】
上部タンク1は、インク循環経路上に設けられてインクを貯留するとともに、貯留したインクをインクジェットヘッドの各々に供給する。具体的には、上部タンク1は、インク循環経路上における複数のヘッド3a,3b,3cの上流側に設けられてインクを貯留するとともに、貯留したインクを複数のヘッド3a,3b,3cの各々に供給する。
【0036】
インク分配器18は、本発明のインク分配部に対応し、循環されたインクをインクジェットヘッドに分配する。具体的には、インク分配器18は、上部タンク1により貯留されたインクを複数のヘッド3a,3b,3cの各々に分配する。
【0037】
ヒータ9aは、本発明の加熱部に対応し、ポンプ8により循環されたインクを加熱する。具体的には、ヒータ9aは、インク循環経路上における複数のヘッド3a,3b,3cの上流側に設けられ、ポンプ8によりくみ上げられたインクを加熱する。本実施例においては、ヒータ9aは、上部タンク1からインクジェットヘッドに至るまでのインク循環経路上に設けられている。すなわち、ヒータ9aは、インク分配器18に設けられ、複数のヘッド3a,3b,3cの各々に分配されるインクを加熱する。なお、ヘッド3に供給されるインクに対して迅速且つ的確に温度制御するために、ヒータ9aは、ヘッド3の直前でインクを加熱するのが望ましい。すなわち、本発明を実施するに際し、ヒータ9aは、インク循環経路上の中でもヘッド3近傍に設けられるのが好ましい。
【0038】
下部タンク4は、インクジェットヘッドから吐出されなかったインクを貯留する。具体的には、下部タンク4は、インク循環経路上における複数のヘッド3a,3b,3cの下流側に設けられ、インクを貯留する。ヘッドで印刷時に消費されなかったインクは、下部タンク4に戻される。また、インクボトル6により供給されたインクは、弁7を含む供給経路を通って下部タンク4に一旦溜められる。
【0039】
上部タンク1からヘッドユニット120(複数のヘッド3a,3b,3cの各々)へのインク供給及びヘッドユニット120で消費されなかったインクの下部タンク4への帰還は、上部タンク1と下部タンク4との水頭差により行われる。
【0040】
ポンプ8は、インクを循環経路で循環させる。具体的には、ポンプ8は、インク循環経路上における複数のヘッド3a,3b,3cの下流側に設けられ、インクを循環経路で循環させるために複数のヘッド3a,3b,3cの上流側にインクをくみ上げる。具体的には、ポンプ8は、インクを循環経路上で循環させるために下部タンク4から上部タンク1にインクをくみ上げる。すなわち、循環経路において下部タンク4に溜められたインクは、ポンプ8により上部タンク1に送られる。
【0041】
また、図示されない温度センサは、本発明の第1温度センサに対応し、インクジェットヘッドのインクの温度を測定する。例えば、この温度センサは、複数のヘッド3a,3b,3cの少なくとも1つにおけるインクの温度を測定する。本実施例において、複数のヘッド3a,3b,3cの各々は、いずれも内部に温度センサを設けているものとする。
【0042】
ファン10とヒートシンク11とは、本発明の冷却部に対応し、インク循環経路上に設けられ、インクを冷却する。具体的には、ヒートシンク11は、ポンプ8と上部タンク1との間の循環経路に接触する形で設けられており、経路内を流れるインクの熱を逃がす役割を有する。また、ファン10は、ヒートシンク11における冷却効果を高めるために、ヒートシンク11の近傍に配置されている。
【0043】
制御部20は、第1温度センサにより測定された温度に基づいて、ヒータ9aを制御するとともに、インク循環経路上におけるインク流量を制御する。具体的には、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度に基づいて、ヒータ9aのオン/オフを制御するとともに、ポンプ8によるインク流量を制御する。また、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度に基づいて、冷却部(ファン10)のオン/オフを制御する。
【0044】
図3は、本実施例の印刷装置100の制御部20の詳細な構成を示すブロック図である。制御部20は、図3に示すように、外部インタフェース15、CPU21、メモリ22、ドライバ23、及びA/D変換部24により構成され、画像情報に基づいてドライバ23に接続されたヘッド3(3a,3b,3c)を駆動し、印字を行わせるとともに、搬送モータ26、ファン10、インクポンプ8、及びインクヒータ9aの制御を行う。A/D変換部24に接続されたインク温度センサ25は、本発明の第1温度センサに対応し、ヘッド3a,3b,3cの内部に設けられ、インク温度の情報を出力する。
【0045】
また、ドライバ23は、インクポンプ8、インクヒータ9a、モータ26、及びセンサ27に接続されており、インクポンプ8を用いたインク流量の制御、インクヒータ9aのオン/オフ制御、搬送モータ26の制御、ファン10のオン/オフ制御等を行う。また、センサ27は、搬送系に用いるセンサであり、例えば駆動する際の位置決めやジャム検知等を行うセンサである。
【0046】
印字を行う際のインク温度の適温範囲は、後述する図5に示すように、下限である基準温度2から上限である基準温度4までの間である。印刷装置100は、ヘッドにおけるインクの温度が適温範囲にある場合にのみ印字が可能であり、インクの温度が適温範囲外の場合には印字の乱れ等が生ずる可能性があるため印字を行わない。また、最適温範囲は、適温範囲中においてさらに最適な温度範囲である。この最適温範囲は、下限である基準温度1から上限である基準温度3までの間であり、理想的な印字を行うことができる。したがって、印刷装置100は、基本的にインクの温度が最適温範囲となるように制御を行う。
【0047】
なお、基準温度は、図5に示すように、温度の低い順に基準温度2、基準温度1、基準温度3、基準温度4となる。さらに、基準温度1は本発明の第1基準温度に対応する。基準温度2は本発明の第2基準温度に対応する。基準温度3は本発明の第3基準温度に対応する。基準温度4は本発明の第4基準温度に対応する。開発者あるいはユーザ、作業者等は、基準温度1、基準温度2、基準温度3、及び基準温度4の値を決定し、予め制御部20に記憶させておく。1例として、適温範囲が25℃から45℃までの間であり、最適温範囲が35℃から40℃までの間である場合には、基準温度1を35℃とし、基準温度2を25℃とし、基準温度3を40℃とし、基準温度4を45℃とする。
【0048】
制御部20は、予め設定された第1基準温度、第1基準温度よりも低い第2基準温度、第1基準温度よりも高い第3基準温度、及び第3基準温度よりも高い第4基準温度と、第1温度センサにより測定された温度との比較結果に基づいて、ヒータ9aのオン/オフを制御するとともに、ポンプ8によるインク流量を制御する。制御部20による加熱部(ヒータ9a)や冷却部の制御、及びインク流量の制御の詳細については後述する。
【0049】
<印刷装置の作用>
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図4は、本実施例の印刷装置100の動作を説明するフローチャート図である。まず、制御部20は、印刷開始前にポンプ8を起動し、インクの循環を開始する。なお、制御部20は、インクの循環を開始する際にヒータ9aをオフにしておく。また、冷却部(ファン10)はオフである(ステップS1)。本実施例において、制御部20は、冷却部(ファン10)の制御も行うものとする。
【0050】
次に、制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、印字可能な最大流量で所定量のインクを循環させる(ステップS2)。開始時点において、循環経路内の全てのインク温度は一定ではない。特に経路内のインクは、経路が細いために熱容量が低く冷めやすいので、所定量を流してから温度を測定する必要がある。ここで所定量とは、例えばインク循環経路内を循環しているインクの総量、上部タンク1からインク分配器18までの経路内インク量とインク分配器18内部に存在するインク量とを加算した量等が挙げられる。
【0051】
次に、ヘッド3a,3b,3c内に設けられた第1温度センサは、ヘッド内(すなわちヒータ9aの出口側)のインクの温度を測定し(ステップS3)、測定結果である温度情報を制御部20に出力する。なお、第1温度センサは、測定した温度を1度だけ制御部20に送るというわけではなく、継続して測定した温度を送り続けるか、所定時間毎に送る。
【0052】
その後、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度が第2基準温度未満であるか否かを判断する(ステップS11)。第1温度センサにより測定された温度が第2基準温度未満である場合には、インクの温度が適温範囲外にあるので、制御部20は、ヒータ9aをオンするとともに、冷却部をオフする(ステップS12)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、印字に影響が出ない範囲で最小流量とする(ステップS13)。流量を最小にすることにより、循環経路を流れるインクは、ヒータ9aで効率良く加熱される。
【0053】
なお、この場合において、印刷装置100は、インクの温度が適温範囲外にあるので、印字を行うことができない(ステップS14)。したがって、制御部20は、流量を極端に少なくすることも可能である。しかしながら、印字前に流量を減らして印字開始時に急激に流量を増やすと、インク温度は下がる可能性がある。そこで、ステップS13において、制御部20は、「印字に影響が出ない範囲」でインク流量を最小流量とする。
【0054】
ステップS11において、第1温度センサにより測定された温度が第2基準温度以上である場合には、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度が第4基準温度以上であるか否かを判断する(ステップS15)。第1温度センサにより測定された温度が第4基準温度以上である場合には、インクの温度が適温範囲外にあるので、制御部20は、ヒータ9aをオフするとともに、冷却部をオンする(ステップS16)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、印字に影響が出ない範囲で最小流量とする(ステップS17)。流量を最小にすることにより、循環経路を流れるインクは、冷却部(ファン10、ヒートシンク11)で効率良く冷却される。
【0055】
なお、この場合において、印刷装置100は、インクの温度が適温範囲外にあるので、印字を行うことができない(ステップS18)。したがって、制御部20は、流量を極端に少なくすることも可能である。しかしながら、印字前に流量を減らして印字開始時に急激に流量を増やすと、インク温度は上がる可能性がある。そこで、ステップS17において、制御部20は、「印字に影響が出ない範囲」でインク流量を最小流量とする。
【0056】
ステップS15において、第1温度センサにより測定された温度が第4基準温度未満である場合には、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度が第1基準温度未満であるか否かを判断する(ステップS19)。第1温度センサにより測定された温度が第1基準温度未満である場合には、インクの温度が第2基準温度以上第1基準温度未満であるので、制御部20は、ヒータ9aをオンするとともに、冷却部をオフする(ステップS20)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、印字可能な範囲で最小流量とする(ステップS21)。なお、この場合において、印刷装置100は、インクの温度が適温範囲内にあるので、印字を行うことができる(ステップS22)。
【0057】
ステップS19において、第1温度センサにより測定された温度が第1基準温度以上である場合には、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満であるか否かを判断する(ステップS23)。第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満である場合には、インクの温度が第1基準温度以上第3基準温度未満であるので、制御部20は、ヒータ9aをオフするとともに、冷却部をオフする(ステップS24)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、第1温度センサにより測定された温度(ヒータ9a出口側温度)が第1基準温度から第3基準温度の間になるように印字可能な範囲で流量を調整する(ステップS25)。
【0058】
ステップS23において、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度以上である場合には、インクの温度が第3基準温度以上第4基準温度未満であるので、制御部20は、ヒータ9aをオフするとともに、冷却部をオンする(ステップS27)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、第1温度センサにより測定された温度(ヒータ9a出口側温度)が第1基準温度から第3基準温度の間になるように印字可能な範囲で流量を調整する(ステップS28)。例えば、第1温度センサにより測定された温度(ヒータ9a出口側温度)が第3基準温度に比して高い場合には、制御部20は、ポンプ8のインク流量を減らす方向に制御する。なお、この場合において、印刷装置100は、インクの温度が適温範囲内にあるので、印字を行うことができる(ステップS29)。
【0059】
ステップS14又はステップS18又はステップS22又はステップS26又はステップS29を経た後、制御部20は、温度調節を終了するか否かを判断する(ステップS30)。温度調節を終了するか否かの基準は様々なものが考えられるが、例えば印刷を終了する場合に、制御部20は、温度調節を終了すると判断する。温度調節を終了しない場合には、ステップS11に戻って処理を繰り返すことにより、本実施例の印刷装置100は、ヘッドにおけるインクの温度を適温に調節することができる。温度調節を終了する場合には、制御部20は、ポンプ8を停止させ、インクの循環を終了する。
【0060】
図4のステップS11〜S29に示すように、制御部20は、基本的にインク温度が第1基準温度から第3基準温度の間になるようにヒータ9aのオン/オフ制御、冷却部(ファン10)のオン/オフ制御、及びポンプ8を用いたインク流量制御を行う。ただし、インク温度は、ヘッド駆動による発熱が原因で上昇しやすい。そこで冷却用のファン10の稼働を最低限とするためには、制御部20は、インク循環量制御において、インク温度が第1基準温度になるように制御を行うのが好ましい。
【0061】
図5は、本実施例の印刷装置100におけるインク温度とインク流量の関係を示す図である。図5において、横軸はヒータ9a入口の温度であり、縦軸は循環制御フローを用いて制御した場合のインク温度及び循環流量を示す。ここで、入口温度とはヒータ9aに入る前のインク温度を示す。また、*は出口温度(ヒータ9aを出た後のインク温度)を示し、ヘッド内の第1温度センサにより測定されるインク温度である。また、×は温度変化を示し、出口温度*から入口温度□を引いたものである。さらに、△はインク流量を示す。
【0062】
なお、前提条件として、インクの入口温度と出口温度との差は、何も調整しない場合には0である。また、印刷装置100のインクジェットヘッド推奨循環流量幅は、30mL/minから100mL/minまでの間であるものとする。すなわち、印刷装置100における印字可能な最低流量は30mL/minであり、印字可能な最大流量は100mL/minである。また、最小流量(30mL/min)にした場合のヒータ9aにおけるインクの温度上昇、つまりインクの入口温度と出口温度との差は、10℃である。本実施例において、この値は、インクが変質しない最大値であるものとする。ヒータ9aは、この値となるように一定温度に固定されている。さらに、最大流量(100mL/min)にした場合のヒータ9aにおけるインクの温度上昇は、1℃である。すなわち、上述したヒータ9aは、インク流量を最大流量にした場合に、ヒータ9aの前後でインクに1℃の温度差を与えるような能力を有することを意味する。
【0063】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係る印刷装置100によれば、弁等の付加的機構が不要であるため低コストで実現可能であり、さらに吐出するインクの温度調整を迅速且つ的確に行うことができ、ウォームアップ時間を短縮するとともに画質の低下を回避することができる。
【0064】
すなわち、本実施例の印刷装置100は、上部タンク1からヘッド3a,3b,3cに至るまでのインク循環経路上に設けられたヒータ9aを備えるとともに、制御部20がポンプ8の流量制御によりインク温度を調整するので、上部タンク1の前段にヒータを備えるのみの場合と異なって循環している全インクの温度を一定にする必要が無く、温度調整のレスポンスが良くなる。さらに、最適温範囲になるまでの時間が短縮されることで、本実施例の印刷装置100は、ファーストプリントまでの時間を短縮し、ユーザビリティを向上することができる。
【0065】
特に、本実施例のヒータ9aは、ヘッド直前であるインク分配器18に接触するように設けられているので、ヘッドに供給されるインク(すなわち印字に使用される直前のインク)のみを効率的に加熱することができ、最適温範囲になるまでの時間が短縮されることにより、インクの温度が上昇/下降した場合でも短時間で最適温範囲に戻し、インク温度に起因する印刷される画質に対する悪影響を回避することができる。
【0066】
また、本実施例の印刷装置100は、循環量で温度を調整するので、インクの温度を一定にすることが容易であり、且つ短時間で調整できるという利点を有する。
【0067】
また、本実施例の印刷装置100は、制御部20が予め設定された4つの基準温度と実際のインク温度とを比較し、比較結果に基づいて温度調整を行うので、インク温度が適温範囲に入るまでの制御を迅速且つ容易に行うことができる。
【0068】
さらに、本実施例の印刷装置100は、加熱部(ヒータ9a)のみならず冷却部を備えているので、インク温度が適温範囲内となるための制御をより容易且つ迅速に行うことができる。
【0069】
なお、本発明を実施するうえで、上部タンク1と下部タンク4とは、必ずしも必須の構成ではない。例えば、上部タンク1と下部タンク4との水頭差で循環させる代わりにポンプ8で直接循環するような密閉系の循環型インクジェットに対しても本発明を適用することは可能である。
【0070】
また、ヒータ9aは、主走査方向に所定領域毎の加熱が可能な構成としてもよい。この場合には、制御部20は、インクジェットヘッドの印刷に使用する領域に対応したヒータ9aの領域のみにインクを加熱させる。これにより、本実施例の印刷装置100は、必要な領域のみを加熱することができるため、消費電力を低く抑えることができる。これらの印刷に使用する領域は、後述するように制御部20により原稿データや使用する用紙サイズ、拡大・縮小等の印刷設定から判断される。
【実施例2】
【0071】
次に、本発明の実施例2の印刷装置100について説明する。図2に示す実施例1の構成と異なる点は、第2温度センサをさらに備えている点である。第2温度センサを設置する位置としては、ヒータ9aの上流側であって、ヒータ9aによる熱の影響を受けない位置であることが望ましい。
【0072】
第2温度センサは、インク循環経路上におけるヒータ9aの上流側に設けられ、ヒータ9aにより加熱される前のインクの温度を測定する。すなわち、本実施例の印刷装置100は、ヘッド3a,3b,3cの内部に加熱後のインク温度を測定する第1温度センサを備えているほか、加熱前のインク温度を測定する第2温度センサを備えているので、さらに効率的にインク温度を調節することができる。
【0073】
制御部20は、第1温度センサにより測定された温度と第2温度センサにより測定された温度とに基づいて、ヒータ9aのオン/オフを制御するとともに、ポンプ8によるインク流量を制御する。また、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度と第2温度センサにより測定された温度とに基づいて、冷却部(ファン10)のオン/オフを制御することもできる。
【0074】
その他の構成は実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0075】
<印刷装置の作用>
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図6は、本実施例の印刷装置100の動作を説明するフローチャート図である。まず、制御部20は、印刷開始前にポンプ8を起動し、インクの循環を開始する。なお、制御部20は、インクの循環を開始する際にヒータ9aをオフにしておく。また、冷却部(ファン10)はオフである。本実施例において、制御部20は、冷却部(ファン10)の制御も行うものとする。
【0076】
図6中におけるステップS11からステップS22までの動作は、図4で説明した実施例1のステップS11からステップS22までの動作と同一であるため、重複した説明を省略する。
【0077】
ステップS19において、第1温度センサにより測定された温度が第1基準温度以上である場合には、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満であるか否かを判断するとともに、第2温度センサにより測定された温度が第1基準温度未満であるか否かを判断する(ステップS31)。
【0078】
第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満であり、且つ第2温度センサにより測定された温度が第1基準温度未満である場合には、制御部20は、ヒータ9aをオンするとともに、冷却部をオフする(ステップS32)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、第1温度センサにより測定された温度(ヒータ9a出口側温度)が第1基準温度から第3基準温度の間になるように印字可能な範囲で流量を調整する(ステップS33)。なお、この場合において、印刷装置100は、インクの温度が適温範囲内にあるので、印字を行うことができる(ステップS34)。
【0079】
ステップS31において、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度以上である場合か、第2温度センサにより測定された温度が第1基準温度以上である場合には、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満であるか否かを判断するとともに、第2温度センサにより測定された温度が第1基準温度から第3基準温度の間であるか否かを判断する(ステップS35)。
【0080】
第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満であり、且つ第2温度センサにより測定された温度が第1基準温度から第3基準温度の間である場合には、制御部20は、ヒータ9aをオフするとともに、冷却部をオフする(ステップS36)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、ヘッドが要求する標準流量となるように流量を調整する(ステップS37)。なお、この場合において、印刷装置100は、インクの温度が適温範囲内にあるので、印字を行うことができる(ステップS38)。
【0081】
ステップS35において、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度以上である場合か、第2温度センサにより測定された温度が第1基準温度から第3基準温度の間でない場合には、制御部20は、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満であるか否かを判断するとともに、第2温度センサにより測定された温度が第3基準温度以上であるか否かを判断する(ステップS39)。
【0082】
第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満であり、第2温度センサにより測定された温度が第3基準温度以上である場合には、制御部20は、ヒータ9aをオフするとともに、冷却部をオンする(ステップS40)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、第1温度センサにより測定された温度(ヒータ9a出口側温度)が第1基準温度から第3基準温度の間になるように印字可能な範囲で流量を調整する(ステップS41)。なお、この場合において、印刷装置100は、インクの温度が適温範囲内にあるので、印字を行うことができる(ステップS42)。
【0083】
ステップS39において、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度以上である場合か、第2温度センサにより測定された温度が第3基準温度未満である場合には、第1温度センサにより測定された温度が第3基準温度以上であると考えられるので、制御部20は、ヒータ9aをオフするとともに、冷却部をオンする(ステップS43)。また。制御部20は、ポンプ8のインク流量を制御して、印字可能な範囲で最小流量とする(ステップS44)。なお、この場合において、印刷装置100は、インクの温度が適温範囲内にあるので、印字を行うことができる(ステップS45)。
【0084】
ステップS14又はステップS18又はステップS22又はステップS34又はステップS38又はステップS42又はステップS45を経た後、制御部20は、温度調節を終了するか否かを判断する(ステップS46)。温度調節を終了するか否かの基準は様々なものが考えられるが、例えば印刷を終了する場合に、制御部20は、温度調節を終了すると判断する。温度調節を終了しない場合には、ステップS11に戻って処理を繰り返すことにより、本実施例の印刷装置100は、ヘッドにおけるインクの温度を適温に調節することができる。温度調節を終了する場合には、制御部20は、ポンプ8を停止させ、インクの循環を終了する。
【0085】
上述のとおり、本発明の実施例2の形態に係る印刷装置100によれば、実施例1の効果に加え、第1温度センサのみならず第2温度センサを備えているので、ヒータ9aにおける加熱前後のインク温度を知ることができ、当該温度情報に基づいて、よりインク温度を適切に制御することができる。
【0086】
すなわち、本実施例の制御部20は、加熱後のヘッドにおけるインク温度が第1基準温度から第3基準温度までの間であったとしても、加熱前のインク温度情報も得るとともに、得た情報に基づいてヒータ9aのオン/オフ、冷却部(ファン10)のオン/オフ、及びポンプ8によるインク流量を細かく制御し、速いレスポンスで常に適切なインク温度に保つことが可能となる。
【実施例3】
【0087】
次に、本発明の実施例3の印刷装置100について説明する。インクジェットヘッドは、主走査方向に複数のヘッドを配置することで構成されるラインヘッドとし、加熱部は、複数のヘッドの各々に対応してインク分配器18と複数のヘッドの各々との間に複数設けられた構成が考えられる。
【0088】
すなわち、図2に示す実施例1の構成と異なる点は、ヒータ9aが複数のヘッド3a,3b,3cの各々に供給されるインクを一律に加熱するのではなく、ヘッド毎に供給されるインクの加熱を行うか否かを制御できる点である。ヘッド毎に加熱制御を行うためのヒータの構成は、様々なものが考えられるが、本実施例における印刷装置100には、ヒータ9aの代わりにヘッド毎に異なる3つのヒータ29a,29b,29cが設けられているものとする。すなわち、ヒータ29aは、インク分配器18からヘッド3aに至る途中の経路に設けられ、ヘッド3aに流入するインクを加熱する。ヒータ29bは、インク分配器18からヘッド3bに至る途中の経路に設けられ、ヘッド3bに流入するインクを加熱する。ヒータ29cは、インク分配器18からヘッド3cに至る途中の経路に設けられ、ヘッド3cに流入するインクを加熱する。
【0089】
制御部20は、ヒータ29a,29b,29cのオン/オフを制御する際に、複数のヘッド3a,3b,3cのうち使用するヘッドに流れるインクのみが必要に応じて加熱され、使用しないヘッドに流れるインクが加熱されないようにヒータ29a,29b,29cのオン/オフを制御する。
【0090】
なお制御部20の詳細な構成は、図3で説明した実施例1の構成と同様であるが、ヒータ9aの代わりにヒータ29a,29b,29cがドライバ23に接続されているものとする。
【0091】
その他の構成は実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0092】
<印刷装置の作用>
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図7は、本実施例の印刷装置100の制御部20の動作を説明するフローチャート図である。
【0093】
まず、制御部20は、図3に示す外部インターフェース15を介して印刷ジョブを受信する(ステップS51)。次に、制御部20内のCPU21は、用紙幅と印刷画像に基づいてヘッドを選択する(ステップS52)。具体的には、CPU21は、受信した印刷ジョブに基づいて用紙幅とヘッド位置の関係を抽出し(ステップS53)、印字を行わないヘッドを決定する(ステップS54)。本実施例において印刷装置100は、ヘッド3a,3cを使用せず、ヘッド3bのみを用いて用紙30に印字を行うものとする。すなわち、図2に示すように印刷媒体(用紙30)への印刷がヘッド3bのみで可能な場合である。この場合、CPU21は、使用するヘッドとしてヘッド3bのみを選択し、ヘッド3a,3cは印字を行わないヘッドであると決定する。
【0094】
また、制御部20は、ステップS51で印刷ジョブを受信した際に、ヘッド選択の動作と並行して温度調整機構動作を開始する(ステップS55)。その後、制御部20は、ステップS54で決定したヘッド情報に基づいて、ヘッド下に通紙・印字があるか否か(すなわちヘッド3の各々について使用するか否か)を判断する(ステップS56)。上述したように、ヘッド3a,3cは印字を行わないので、ヘッド3a,3cに対する温度調整機構はオフとなる(ステップS58)。すなわち、制御部20は、ヘッド3a,3cのインク温度調整のためのヒータ29a,29cをオフに維持し、使用しないヘッド3a,3cに流れるインクが加熱されないようにする。
【0095】
また、ヘッド3bは印字を行うので、ヘッド3bに対する温度調整機構はオンとなる(ステップS57)。この場合には、制御部20は、ヘッド3b内の第1温度センサにより測定されたインク温度に基づいてヒータ29bのオン/オフを制御し、ヘッド3bに流れるインクのみが必要に応じて加熱されるようにする。なお、制御部20の動作自体は、実施例1と同様であり、図4で説明したフローチャート図にしたがって、ヒータ29bのオン/オフ、冷却部(ファン10)のオン/オフ、及びポンプ8によるインク流量を制御する。
【0096】
その後、制御部20は、印刷ジョブが終了したか否かを判断し(ステップS59)、終了していない場合にはステップS56に戻ってインク温度調整動作を継続する。印刷ジョブが終了している場合には、制御部20内のCPU21は、ドライバ23に画像情報を出力する。ドライバ23は、画像情報に基づいてヘッド3を駆動し、印刷後、印刷ジョブを終了する(ステップS60)。
【0097】
その他の作用は実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0098】
上述のとおり、本発明の実施例3の形態に係る印刷装置100によれば、実施例1の効果に加え、ヒータ29a,29b,29cがヘッド毎に設けられ、ヘッドの使用状況に応じて通電するヒータを選択できるので、インクを温める必要のないヘッドに設けられたヒータに対しては通電せず、消費電力を低く抑えることができる。
【0099】
なお、上記の実施例では複数のインクジェットヘッドを主走査方向に千鳥状に配置させラインヘッドを構成する例を挙げたが、これに限らない。つまり、本発明は1つのインクジェットヘッドでラインヘッドを構成する場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係る印刷装置は、紙等の記録媒体上にヘッドからインクを吐出して記録を行うインクジェット方式の印刷装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 上部タンク
2 インク
3 ヘッド
4 下部タンク
5 インク
6 インクボトル
7 弁
8 ポンプ
9 ヒータ
10 ファン
11 ヒートシンク
12 冷却機構
15 外部I/F
18 インク分配器
20 制御部
21 CPU
22 メモリ
23 ドライバ
24 A/D変換部
25 インク温度センサ
26 搬送モータ
27 センサ
29 ヒータ
30 用紙(印刷媒体)
40 操作パネル
100 印刷装置
120 ヘッドユニット
320 サイド給紙台
330 給紙トレイ
340 排紙口
345 排紙台
350 レジストローラ
360 搬送ベルト
370 エア吸引ファン
380 切替機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク循環型の印刷装置であって、
印刷媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、
インクを循環経路で循環させるポンプと、
前記ポンプにより循環されたインクを加熱する加熱部と、
前記インクジェットヘッドのインクの温度を測定する第1温度センサと、
前記第1温度センサにより測定された温度に基づいて、前記加熱部を制御するとともに、循環経路上におけるインク流量を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
インク循環経路上に設けられてインクを貯留するとともに、貯留したインクを前記インクジェットヘッドの各々に供給する上部タンクと、
前記インクジェットヘッドから吐出されなかったインクを貯留する下部タンクとを備え、
前記ポンプは、インクを循環経路で循環させるために前記下部タンクから前記上部タンクにインクをくみ上げ、
前記加熱部は、前記上部タンクから前記インクジェットヘッドに至るまでのインク循環経路上に設けられることを特徴とする請求項1記載の印刷装置。
【請求項3】
インク循環経路上における前記加熱部の上流側に設けられ、前記加熱部により加熱される前のインクの温度を測定する第2温度センサを備え、
前記制御部は、前記第1温度センサにより測定された温度と前記第2温度センサにより測定された温度とに基づいて、前記加熱部のオン/オフを制御するとともに、前記ポンプによるインク流量を制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の印刷装置。
【請求項4】
循環されたインクを前記インクジェットヘッドに分配するインク分配部を備え、
前記加熱部は、前記インク分配部に設けられ、主走査方向に所定領域毎の加熱が可能であり、
前記制御部は、前記インクジェットヘッドの印刷に使用する領域に対応した前記加熱部の領域のみにインクを加熱させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の印刷装置。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドは、主走査方向に複数のヘッドを配置することで構成されるラインヘッドであり、
前記加熱部は、前記複数のヘッドの各々に対応して前記インク分配部と前記複数のヘッドの各々との間に複数設けられ、
前記制御部は、前記加熱部のオン/オフを制御する際に、前記複数のヘッドのうち使用するヘッドに流れるインクのみが必要に応じて加熱され、使用しないヘッドに流れるインクが加熱されないように前記加熱部のオン/オフを制御することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−207064(P2011−207064A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77465(P2010−77465)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】