説明

印刷装置

【課題】複数の大きさの印刷媒体のそれぞれにおいて印刷ヘッドの加減速の程度が変動する場合であっても、インク滴の記録位置ずれを抑制することが可能な技術の提供。
【解決手段】固定プラテンの一方の端部に第1回転軸によって回転可能に支持される第1可動プラテンと、前記第1可動プラテンの前記第1回転軸と逆側の端部に第2回転軸によって回転可能に支持される第2可動プラテンと、前記固定プラテンの他方の端部に第3回転軸によって回転可能に支持される第3可動プラテンと、前記第1可動プラテンおよび前記第2可動プラテンの角度を調整する第1角度調整機構と前記第3可動プラテンの角度を調整する第2角度調整機構とを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからインクを吐出して印刷を行う印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインクを吐出して印刷媒体に記録する、いわゆるインクジェットプリンターにおいては、印刷ヘッドを主走査方向に移動させながら所定周期の吐出タイミングでインク滴を吐出させる。印刷ヘッドを主走査方向に移動させる際の速度は一定に制御されるが、速度が一定になるまでの期間においては印刷ヘッドを加速する必要があり、速度が一定になっている状態から印刷ヘッドを停止させる場合には印刷ヘッドを減速する必要がある。印刷ヘッドから吐出されるインクの速度ベクトルは、インクの吐出速度ベクトルと印刷ヘッドの移動速度ベクトルとの合成ベクトルとなる。従って、印刷ヘッドから吐出されるインクの速度が一定である場合、印刷ヘッドの加速期間と、定速期間と、減速期間とで合成ベクトルが異なり、この結果、期間毎に記録位置ずれが発生してしまう。
【0003】
すなわち、印刷ヘッドの加速期間と減速期間とでは、定速期間よりも印刷ヘッドの移動速度が小さいため、印刷ヘッドとプラテンとの距離が一定である場合には、加速期間と減速期間とにおいて定速期間における記録位置よりも主走査方向の逆方向にずれた位置にインク滴が記録される。そこで、特許文献1に開示された技術においては、加速または減速期間において、印刷ヘッドと印刷媒体との距離が定速期間よりも大きくなるように印刷ヘッドと印刷媒体との距離を調整することで、期間毎のインク滴の記録位置ずれを解消することとしている。また、特許文献1においては、プラテンを回転させることによって印刷ヘッドと印刷媒体との距離を複数段階に調整する技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−178318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術においては、複数の大きさの印刷媒体や印刷ヘッドの加減速の程度に応じて印刷ヘッドと印刷媒体との距離を調整することは事実上困難であった。すなわち、印刷ヘッドに対面するプラテンは印刷ヘッドに向かい合うように印刷媒体を支持する必要があり、プラテンによって印刷媒体を支持する支持面は少なくとも大部分で平面であることが重要である。また、印刷ヘッドには印刷媒体の搬送方向に平行な方向に複数のノズルが形成されているため、印刷媒体の搬送方向に平行な方向のプラテンの幅はある程度の大きさ(例えば数cm等)を確保する必要がある。
【0006】
従って、ある程度の幅を持った平面性の高いプラテンの両端に固定的な傾斜を設けた構造を複数個形成し、プラテンを回転させることによって複数個の構造のいずれかを利用可能にするとプラテンと搬送経路との間に大きな穴が形成される等の不都合が生じ、現実的ではない。また、従来の技術においては、傾斜が異なる2個の構造は開示されているが、回転可能なプラテンに、印刷媒体と印刷ヘッドの速度との組み合わせの数と同数の構造を形成して回転可能に構成することは事実上不可能である。
本発明は前記課題にかんがみてなされたもので、複数の大きさの印刷媒体のそれぞれにおいて印刷ヘッドの加減速の程度が変動する場合であっても、インク滴の記録位置ずれを抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明においては、固定プラテンの一方の端部に印刷媒体の搬送方向に平行な方向に配向する回転軸によって回転可能に支持される第1可動プラテンおよび第2可動プラテンを設ける。また、固定プラテンの他方の端部に印刷媒体の搬送方向に平行な方向に配向する回転軸によって回転可能に支持される第3可動プラテンを設ける。固定プラテンは固定支持面、第1可動プラテンは第1支持面、第2可動プラテンは第2支持面、第3可動プラテンは第3支持面で印刷媒体を支持することが可能であり、第1角度調整機構によって第1可動プラテンおよび第2可動プラテンの角度を調整することにより、第1可動プラテンの第1支持面と印刷ヘッドとの距離を調整可能であり、また、第2可動プラテンの第2支持面と印刷ヘッドとの距離を調整可能である。さらに、第2角度調整機構によって第3可動プラテンの角度を調整することにより、第3可動プラテンの第3支持面と印刷ヘッドとの距離を調整可能である。
【0008】
従って、固定プラテンと印刷ヘッドとの距離は一定であるとともに、固定プラテンの一方の端部においては第1支持面および第2支持面の角度が変化することにより印刷媒体とプラテンとの距離であるプラテンギャップが調整される。また、固定プラテンの他方の端部においては第3支持面の角度が変化することにより印刷媒体とプラテンとの距離であるプラテンギャップが調整可能である。すなわち、固定プラテンの両端においてプラテンギャップが調整可能である。
【0009】
さらに、固定プラテンの一方の端部においては、第1支持面と第2支持面とによってプラテンギャップを調整可能であるため、第1支持面と第3支持面とを組にして印刷媒体の両端における印刷ヘッドの加速区間および減速区間に対応した支持面の傾斜を形成する状態と、第2支持面と第3支持面とを組にして印刷媒体の両端における印刷ヘッドの加速区間および減速区間に対応した支持面の傾斜を形成する状態とを実現可能である。従って、少なくとも2個の大きさの印刷媒体においてインク滴の記録位置ずれを抑制することができる。むろん、可動プラテンの数を増加させることによってさらに多数の印刷媒体においてインク滴の記録位置ずれを抑制可能に構成してもよい。
【0010】
さらに、第1角度調整機構と第2角度調整機構とで第1可動プラテン,第2可動プラテン,第3可動プラテンを回転させることによってプラテンギャップを調整する構成であるため、第1可動プラテン,第2可動プラテン,第3可動プラテンの可動範囲内で各可動プラテンの回転角を連続的に調整可能である。従って、印刷ヘッドの加減速の程度が変動する場合であっても、加減速の程度に応じてインク滴の記録位置ずれを抑制することが可能である。
【0011】
ここで、固定プラテンは、印刷媒体を印刷ヘッドに向かい合うように(印刷ヘッドから吐出されるインクが印刷媒体の印刷面に記録できるように)支持することができればよい。従って、固定支持面は平面であることが好ましい。また、固定支持面は、印刷ヘッドのインク吐出領域に渡って印刷媒体を支持できるように形成されていれば良く、当該固定支持面が延びる方向が印刷ヘッドの移動方向と平行であることやインク吐出領域で搬送される印刷媒体の印刷面に平行であることが厳密に要求されなくてもよく、平行や垂直の範囲は許容誤差範囲内であればよい。なお、平行や垂直の文言について、以下同様である。
【0012】
第1可動プラテンは、固定プラテンの一方の端部においてインク吐出領域にて印刷媒体を支持するとともに、第1角度調整機構によって印刷ヘッドと第1支持面との距離が少なくとも印刷ヘッドと固定支持面との距離以上になるように調整できればよい。従って、例えば、第1可動プラテンと第1回転軸とを回転自在に連結して第1可動プラテンが自重によって下方に向けて回転する状態としておき、カムによって第1可動プラテンが上方に向けて回転される構成等を採用可能である。また、モーター等の駆動源によって第1回転軸を回転させ、当該第1回転軸に連動して第1可動プラテンが回転するように構成してもよい。
【0013】
第2可動プラテンは、第2回転軸によって第1可動プラテンの前記第1回転軸と逆側の端部に取り付けられる。すなわち、第1可動プラテンの一方の端部には第1回転軸、他方の端部には第2回転軸が取り付けられ、当該第2回転軸に対して回転可能に第2可動プラテンが支持される。また、第2可動プラテンは、インク吐出領域にて印刷媒体を支持するとともに、第1角度調整機構によって印刷ヘッドと第2支持面との距離が少なくとも印刷ヘッドと固定支持面との距離以上になるように調整できればよい。従って、例えば、第2可動プラテンと第2回転軸とを回転自在に連結して第2可動プラテンが自重によって下方に向けて回転する状態としておき、カムによって第2可動プラテンが上方に向けて回転される構成等を採用可能である。また、モーター等の駆動源によって第2回転軸を回転させ、当該第2回転軸に連動して第2可動プラテンが回転するように構成してもよい。また、第1支持面と第2支持面とが同時に利用されない状態、すなわち、第1支持面で印刷媒体を支持するが、第2支持面では印刷媒体を支持していない状態が形成されても良い。
【0014】
第3可動プラテンは、固定プラテンの他方の端部においてインク吐出領域にて印刷媒体を支持するとともに、第2角度調整機構によって印刷ヘッドと第3支持面との距離が少なくとも印刷ヘッドと固定支持面との距離以上になるように調整できればよい。従って、例えば、第3可動プラテンと第3回転軸とを回転自在に連結して第3可動プラテンが自重によって下方に向けて回転する状態としておき、カムによって第3可動プラテンが上方に向けて回転される構成等を採用可能である。また、モーター等の駆動源によって第3回転軸を回転させ、当該第3回転軸に連動して第3可動プラテンが回転するように構成してもよい。
【0015】
第1角度調整機構は、第1支持面が固定支持面に対して傾斜するように第1可動プラテンを回転させ、または、第1支持面が固定支持面に対して平行に配向するとともに第2支持面が固定支持面に対して傾斜するように第1可動プラテンおよび第2可動プラテンを回転させることができればよい。第2角度調整機構は、第3支持面が第1支持面や第2支持面に合わせた角度となるように第3可動プラテンを回転させることができればよい。
【0016】
このような構成の例として第1角度調整機構に第1カムが含まれ、第2角度調整機構に第2カムが含まれるような構成を採用しても良い。具体的には、第1カムは、第1可動プラテンおよび第2可動プラテンの下方に配置されて第1回転軸に平行な方向に配向された第1カム回転軸によって回転可能に支持され、第1可動プラテンおよび第2可動プラテンに対して下方から接触し、回転によって第1支持面および第2支持面と印刷ヘッドとの距離を調整できればよい。すなわち、第1カムにおいて、第1カム回転軸と第1カムの周との距離が変化するように周の形状が形成されており、当該形状が変化する範囲に応じて第1可動プラテンおよび第2可動プラテンの可動範囲が決められる。従って、第1の印刷媒体を印刷する際に、第1可動プラテンの傾斜角を印刷ヘッドの複数の加減速の程度に応じた角度とできるように第1カムの周の形状および第1カム回転軸の位置が決定され、第2の印刷媒体を印刷する際に、第2可動プラテンの傾斜角を印刷ヘッドの複数の加減速の程度に応じた角度とできるように第2カムの周の形状および第2回転軸の位置が決定されていればよい。ここでも、第1回転軸と第1カム回転軸とが平行であることが厳密に要求されなくても良く、平行の範囲は許容誤差範囲内であればよい。
【0017】
第2カムは、第3可動プラテンの下方に配置されて第3回転軸に平行な方向に配向された第2カム回転軸によって回転可能に支持され、第3可動プラテンに対して下方から接触し、回転によって第3支持面と印刷ヘッドとの距離を調整できればよい。すなわち、第2カムにおいて、第2カム回転軸と第2カムの周との距離が変化するように周の形状が形成されており、当該形状が変化する範囲に応じて第3可動プラテンの可動範囲が決められる。従って、第1の印刷媒体あるいは第2の印刷媒体を印刷する際に、第3可動プラテンの傾斜角を印刷ヘッドの複数の加減速の程度に応じた角度とできるように第2カムの周の形状および第2カム回転軸の位置が決定されていればよい。ここでも、第2回転軸と第2カム回転軸とが平行であることが厳密に要求されなくても良く、平行の範囲は許容誤差範囲内であればよい。
【0018】
第1カムと第2カムとの回転量は、第1カムと第2カムとの形状および第1支持面と第2支持面と第3支持面との形状に応じて決められればよい。すなわち、第1支持面と第3支持面が加速期間と減速期間にてインクが記録される印刷媒体の部分を支持し、また、第2支持面と第3支持面が加速期間と減速期間にてインクが記録される印刷媒体の部分を支持する構成において、各加速期間と各減速期間におけるインクの記録位置が、定速期間におけるインクの記録位置に対してずれないプラテンギャップとなるように第1カムと第2カムとの回転量を調整すればよい。
【0019】
さらに、第1カムと第2カムとの回転量を容易に調整可能となるように、第1カムと第2カムとを同期させて駆動可能な構成としても良い。例えば、第1支持面と第2支持面と第3支持面とを印刷ヘッドの移動方向と平行になるように並べた場合に、当該移動方向と平行な方向の第1可動プラテンと第2可動プラテンと第3可動プラテンとの長さが同一になるように構成する。さらに、第1カムと第2カムとにおける周は同形状であるとともに、第1カム回転軸および第2カム回転軸に垂直な投影面上に周を投影した形状が線対称となるように配向されて第1カムが第1カム回転軸に支持され、第2カムが第2カム回転軸に支持されるように構成する。
【0020】
この構成によれば、第1カムと第2カムの回転方向が逆方向であるとともに角速度が同一である構成とすることにより、第1カムと第2カムとによる可動プラテンのリフト量を同一にすることができる。
【0021】
また、第2カム回転軸が印刷ヘッドの移動方向と平行な方向に移動可能であるとともに、第1固定位置と第2固定位置で固定可能である。すなわち、第2カムを支持する第2カム回転軸を第1固定位置と第2固定位置との2カ所に移動させることによって第2カムを2カ所で回転させることができる。この構成によれば、固定プラテンの他方に取り付けられた一つの第3可動プラテンの傾斜角と、固定プラテンの一方に取り付けられた計2個の可動プラテン(第1可動プラテンと第2可動プラテン)の傾斜角とが対称になるように維持しながら調整可能である。
【0022】
具体的には、第1カムの周は、第1角度範囲で第1支持面と固定支持面との角度が最大角度となっている状態から第1支持面と固定支持面との角度が0°となっている状態まで第1支持面の角度を変化させる形状である。一方、第2カムの周は、第3角度範囲で第2カム回転軸が第1固定位置に回転可能に固定された状態で、第3支持面と固定支持面との角度が最大角度となっている状態から第3支持面と固定支持面との角度が0°となっている状態まで第3支持面の角度を変化させる形状である。ここで、第1カムと第2カムとは左右対称に配置され、第2カム回転軸が第1固定位置に回転可能に固定された状態で第1カムと第2カムとを逆方向に同一角速度で回転させることで第1角度範囲と第3角度範囲とが同時に利用される。そして、第1カムの第1角度範囲によって第1支持面の角度が調整され、第2カムの第3角度範囲によって第3支持面の角度が調整されることで第1支持面の角度と第3支持面の角度が対称になるように維持される。
【0023】
さらに、第1カムの周は、第2角度範囲で第1支持面と固定支持面との角度を0°に維持し、第2支持面と固定支持面との角度が最大角度となっている状態から第2支持面と固定支持面との角度が最小角度となっている状態まで第2支持面の角度を変化させる形状である。一方、第2カムの周は、第4角度範囲で第2カム回転軸が第2固定位置に固定された状態で、第3支持面と固定支持面との角度が最大角度となっている状態から第3支持面と固定支持面との角度が最小角度となっている状態まで第3支持面の角度を変化させる形状である。第1カムと第2カムとは左右対称であり、第2カム回転軸が第2固定位置に固定された状態で第1カムと第2カムとを逆方向に同一角速度で回転させることで第2角度範囲と第4角度範囲とが同時に利用される。そして、第1カムの第2角度範囲によって第22支持面の角度が調整され、第2カムの第4角度範囲によって第3支持面の角度が調整されることで第2支持面の角度と第3支持面の角度が対称になるように維持される。なお、最小角度は0°であってもよいし、0°より大きな角度であっても良い。
【0024】
さらに、固定プラテンの両端で可動プラテンが対称になるように構成してもよい。この構成によれば、第2カムの第2カム回転軸を可動に構成しなくても第1カムと第2カムとの回転を同期させて固定プラテンの両端で可動プラテンによってプラテンギャップを調整することが可能になる。すなわち、第3回転軸と逆側の端部に印刷媒体の搬送方向に平行な方向に配向するように取り付けられた第4回転軸によって回転可能に支持されるとともにインク吐出領域にて印刷媒体を支持する第4支持面を備える第4可動プラテンを備える構成とする。すなわち、第1可動プラテンと第3可動プラテンが対称であり、第2可動プラテンと第4可動プラテンとが対称となるように構成する。
【0025】
さらに、第1支持面と第2支持面と第3支持面と第4支持面とを印刷ヘッドの移動方向と平行な方向に並べた場合に、当該移動方向と平行な方向の第1可動プラテンと第2可動プラテンと第3可動プラテンと第4可動プラテンとの長さは同一となるように構成する。また、第1カムと第2カムとにおける周は同形状であるとともに、第1カム回転軸および第2カム回転軸に垂直な投影面上に周を投影した形状が線対称となるように配向される。このため、第1カムと第2カムとを逆方向に同一角速度で回転させることにより、第1可動プラテンと第3可動プラテンが対称であり、第2可動プラテンと第4可動プラテンとが対称となるように可動プラテンを駆動することができ、容易にプラテンギャップを調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(1A)は本発明の実施形態にかかるインクジェットプリンターのブロック図、(1B)はインクジェットプリンターが備える制御部および制御部によって制御されるハードウェアを示す図である。
【図2】(2A)は印刷ヘッドの速度による記録位置のずれを説明するための図、(2B)は(1A)にて矢印Aで示す方向からプラテンを眺めた状態を示す図である。
【図3】(3A)(3B)は矢印Aで示す方向からプラテンを眺めた状態を示す図である。
【図4】(4A)(4B)は矢印Aで示す方向からプラテンを眺めた状態を示す図である。
【図5】(5A)(5B)は矢印Aで示す方向からプラテンを眺めた状態を示す図である。
【図6】(6A)(6B)は矢印Aで示す方向からプラテンを眺めた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)印刷装置の構成:
(2)プラテンの構成:
(3)プラテンの動作:
(3−1)小さい印刷媒体に印刷を行う場合のプラテンの動作:
(3−2)大きい印刷媒体に印刷を行う場合のプラテンの動作:
(4)他の実施形態:
【0028】
(1)印刷装置の構成:
図1Aは本発明の一実施形態にかかるインクジェットプリンターの構成を模式的に示す図である。本実施形態にかかるインクジェットプリンターは、インクを吐出する印刷ヘッド41を備え、ストッカー20に蓄積された印刷媒体を一点鎖線に示す搬送経路に沿ってプラテン50上に搬送し、印刷ヘッド41からインクを吐出しながら印刷ヘッド41を往復動させる主走査と、印刷媒体を搬送する副走査とを実行することによって印刷を行う。
【0029】
本実施形態にかかるインクジェットプリンターにおいては、2個のローラーで印刷媒体を挟み、一方のローラーを回転させることによって印刷媒体を搬送する搬送機構が印刷媒体の搬送経路に沿って複数箇所で構成されている。すなわち、インクジェットプリンターは、搬送ローラー11a,12a,11b,12b,11c,12cを備え、搬送ローラー11aに搬送モーター45a、搬送ローラー11bに搬送モーター45b、搬送ローラー11cに搬送モーター45cが接続されている。すなわち、搬送モーター45a,45b,45cが搬送ローラー11a,11b,11cを回転させることによってストッカー20に蓄積された印刷媒体を印刷ヘッド41とプラテン50との間のインク吐出領域に搬送し、さらに、印刷後の印刷媒体をインクジェットプリンターから排出させることができる。なお、ストッカー20は、2種類の大きさの印刷媒体を蓄積可能であり、各印刷媒体はストッカー20の幅方向(図1Aの紙面に垂直な方向)の一方の端部に印刷媒体の端部が接触する状態で蓄積される。
【0030】
印刷媒体は、印刷ヘッド41の下方において、印刷ヘッド41とプラテン50との間に搬送され、印刷ヘッド41は、印刷ヘッド41とプラテン50との間に搬送される印刷媒体の印刷面に対して平行な面内で印刷媒体の搬送方向(図1Aに示す矢印Dc)に対して垂直な方向(主走査方向)に往復動可能である。すなわち、印刷ヘッド41は図示しないキャリッジに搭載され、当該キャリッジとともに往復動可能である。キャリッジにはキャリッジモーター44aが取り付けられ、当該キャリッジモーター44aの駆動力でキャリッジを往復動させることができる。本実施形態においては、印刷ヘッド41にCMYK(C:シアン、M:マゼンタ、Y:イエロー、K:ブラック)のインクを搭載しており、印刷ヘッド41がキャリッジとともに往復動している過程において各色のインクを印刷ヘッド41に形成されたノズルから吐出されることによって印刷を実行することが可能である。
【0031】
プラテン50は、印刷ヘッド41のインク吐出領域において印刷媒体を支持する支持面を構成する固定プラテンと第1可動プラテンと第2可動プラテンと第3可動プラテン等によって構成されており、各可動プラテンを第1カム(図1Aの51)および第2カムによって回転させることによってプラテンギャップを調整可能である。すなわち、第1カムにはカムモーター46aが接続されており、第2カムは第1カムと連動して回転するように構成されており、カムモーター46aを駆動することによって第1カムおよび第2カムを回転させて可動プラテンを回転させることができる。そして、当該可動プラテンの回転によってプラテンギャップが調整される。当該プラテンギャップの調整についての詳細は後述する。なお、第2カムの回転軸を構成する第2カム回転軸には、回転軸モーター47aが接続されており、当該回転軸モーター47aの駆動力によって第2カム回転軸は2カ所の固定位置間で往復移動する。
【0032】
図1Bはインクジェットプリンターが備える制御部および制御部によって制御されるハードウェアを示す図である。すなわち、インクジェットプリンターは、RAM,CPU,ROM等を備える制御部40と、印刷ヘッド41と駆動電圧生成部42とキャリッジモータードライバー44と搬送モータードライバー45とカムモータードライバー46と回転軸モータードライバー47とを備えている。
【0033】
制御部40は、ROMに記録された印刷制御プログラム実行することが可能であり、当該印刷制御プログラムの処理により、印刷媒体および印刷条件(印刷ヘッド41の加減速の程度)に応じて可動プラテンの角度を調整して印刷を行うことができる。キャリッジモータードライバー44、搬送モータードライバー45、カムモータードライバー46、回転軸モータードライバー47は、接続されたモーターに対して印加する電圧を生成する回路を備えている。
【0034】
印刷ヘッド41には、複数のノズルが形成されており、各ノズルからインク滴を吐出することができる。本実施形態においては、複数のノズルが副走査方向に並ぶノズル列が印刷ヘッド41に複数列形成されている。各ノズルは図示しないインクタンクに連結されたインク室の開口部であり、インク室の壁面はピエゾ素子の伸縮に応じて移動可能に構成されている。当該ピエゾ素子が伸縮すると、インク室の壁面の変動に連動してインク室の容積が変動し、インク室内のインクがノズルから吐出される。
【0035】
複数のノズルに対応する複数のピエゾ素子には、駆動電圧生成部42が接続されている。当該駆動電圧生成部42は、所定の波形の周期的な電圧を生成する回路を備えており、当該電圧がピエゾ素子に印加されることにより、当該ピエゾ素子が駆動してインク滴を吐出する。また、本実施形態において、駆動電圧生成部42は複数のサイズのインク滴を吐出するための駆動電圧を周期的に生成するように構成されている。そして、制御部40が制御信号を出力して、駆動電圧生成部42が生成した電圧波形を選択し、任意のノズルのピエゾ素子に対して印加させることにより、複数のサイズのインク滴をノズルから吐出することができる。
【0036】
さらに、本実施形態において印刷ヘッド41は、上述のようにキャリッジによって主走査方向に往復動可能に構成されている。すなわち、制御部40は、キャリッジモータードライバー44に対して制御信号を出力し、キャリッジモーター44aを駆動して主走査方向に印刷ヘッド41を移動させることが可能である。また、主走査方向に移動可能な範囲の端部まで印刷ヘッド41が達した場合、制御部40は、搬送モータードライバー45に対して制御信号を出力し、搬送モーター45a,45b,45cを駆動して搬送ローラー11a,11b,11cを回転させ、副走査方向に印刷媒体を単位距離だけ搬送する。
【0037】
さらに、制御部40は、主走査方向に印刷ヘッド41が単位距離だけ移動する度に、駆動電圧生成部42に対して制御信号を出力して所定の電圧波形を選択してピエゾ素子に当該電圧波形を印加し、インク滴を吐出させる。この結果、制御部40は、印刷媒体にインクを記録して画像を印刷することができる。
【0038】
さらに、制御部40は、回転軸モータードライバー47に対して制御信号を出力し、回転軸モーター47aを駆動して第2カム回転軸を当該第2カム回転軸が延びる方向に対して垂直な方向に移動させ、移動範囲の端部の2カ所で第2カム回転軸が固定された状態とすることができる。すなわち、第2カム回転軸を印刷ヘッド41での主走査方向と平行な方向に移動させ、第1固定位置と第2固定位置で回転可能な状態で固定可能である。
【0039】
さらに、制御部40は、カムモータードライバー46に対して制御信号を出力し、第1カムを回転させ、当該第1カムに連動して回転する第2カムも回転させることができる。第1カムおよび第2カムを回転させると、固定プラテンの両端において後述するようにプラテンギャップが変動する。そして、当該プラテンギャップは、印刷ヘッド41の加減速に伴う記録位置ずれを抑制する距離となるように設定される。
【0040】
図2Aは、印刷ヘッド41の速度による記録位置のずれを説明するための図であり、印刷ヘッド41からインクを吐出する様子を示している。図2Aにおいては、左から右に向かう方向が印刷ヘッド41の主走査方向であり、左から右に主走査を行う場合、制御部40は、キャリッジモータードライバー44に制御信号を出力し、駆動開始当初は印刷ヘッド41を加速させ、印刷ヘッド41が予め決められた目標速度VHCに達したら、当該目標速度VHCにおいて定速で駆動し、駆動終了前に印刷ヘッドを減速させる。
【0041】
従って、印刷ヘッド41を加速させている加速期間および減速させている減速期間においては、目標速度VHCで印刷ヘッド41が駆動されている定速期間よりも小さい速度で印刷ヘッドが駆動される。図2Aにおいては、左側に目標速度VHCで駆動される印刷ヘッド41,右側に目標速度VHCよりも小さい速度VHAで駆動される印刷ヘッド41を示している。双方において、印刷ヘッド41から吐出されるインクの吐出速度が速度VIであるとすると、目標速度VHCで印刷ヘッド41が駆動されている場合のインクの飛翔速度はベクトルVHCとベクトルVIとの合成ベクトルVICとなる。また、速度VHAで印刷ヘッド41が駆動されている場合のインクの飛翔速度はベクトルVHAとベクトルVIとの合成ベクトルVIAとなる。
【0042】
そして、印刷ヘッド41と印刷媒体Pとの距離が一定の距離PGである場合に、印刷ヘッド41から吐出されたインク滴が記録される位置は、左側においてインク吐出位置よりも距離D1だけ主走査方向に移動した位置P1、右側においてインク吐出位置よりも距離D2だけ主走査方向に移動した位置P2となる。このように、印刷ヘッド41の主走査方向への速度が目標速度VHCよりも小さい場合、印刷ヘッド41と印刷媒体Pとの距離を大きくすればインク滴の記録位置ずれを抑制することができる。例えば、図2Aの右側に示す図では、印刷ヘッド41と印刷媒体Pとの距離がPGよりもさらに距離Gだけ大きければ、インク吐出位置よりも距離D1だけ主走査方向に移動した位置となる。
【0043】
そこで、本実施形態においては、予め印刷条件ごとに印刷ヘッド41の加速期間と減速期間とのそれぞれにおける時間毎の主走査方向の速度を特定し、各速度においてインクの記録位置を目標速度における記録位置と同一にするために印刷ヘッド41と印刷媒体Pとの距離に加えるべき距離を特定しておく。一方、第1カムおよび第2カムを回転させると上述するように第1可動プラテンの第1支持面と第2可動プラテンの第2支持面と第3可動プラテンの第3支持面の傾斜角が調整されるため、第1カムおよび第2カムの回転角毎との各支持面の傾斜角を予め特定しておく。
【0044】
さらに、印刷ヘッド41と印刷媒体Pとの距離に加えるべき距離に対応する傾斜角を予め特定することにより、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カムおよび第2カムの回転角を特定しておく。そして、制御部40は、印刷が実行されると、印刷実行の際に指定された印刷条件に対応する加速期間および減速期間の印刷ヘッド41の主走査方向の速度を特定し、各速度に対応する回転角度となるようにカムモータードライバー46に対して制御信号を出力する。カムモータードライバー46が当該制御信号に応じてカムモーター46aを駆動すると、印刷ヘッド41の主走査方向への速度に依存するインク滴の記録位置ずれが解消された状態で印刷が行われる。
【0045】
(2)プラテンの構成:
次に、プラテン50の構成を詳細に説明する。図2Bは、図1Aにて矢印Aで示す方向からプラテン50を眺めた状態を示す図である。同図2Bにおいては、図1Aの上下方向を図2Bにおける図面の上下方向として示しており、以下、図2Bのように矢印Aからプラテン50を眺めた場合の左右を左右方向として説明を行う。図2Bにおいては、左右方向が印刷ヘッド41の主走査方向であり、主走査の範囲に相当する左右方向の所定範囲が印刷ヘッド41によるインク吐出領域Riとなる。なお、インク吐出領域Riは、印刷ヘッド41によってインクを吐出可能な領域であり、実際にインクが吐出される範囲は印刷媒体の大きさによって異なる。
【0046】
プラテン50は固定プラテン50aと第1可動プラテン51と第2可動プラテン52と第3可動プラテン53と固定部材54と第1カム55と第2カム56とを備えている。固定プラテン50aは直方体の板状の部材であり、長手方向は図2Bにおいて左右方向に配向している。従って、固定プラテン50aの長手方向は、インク吐出領域で搬送される印刷媒体の印刷面と平行な面内で印刷ヘッド41の移動方向(主走査方向)と平行である。なお、図1Aにおいては、インク吐出領域における印刷媒体の搬送方向を矢印Dcで示しており、インク吐出領域で搬送される印刷媒体の印刷面は当該矢印Dcに平行であるとともに上下方向に垂直である。
【0047】
また、固定プラテン50aは、上方に配向される長方形の平面で印刷媒体を支持して印刷媒体を印刷ヘッド41に向かい合わせる。従って、固定プラテン50aの上方の面は、インク吐出領域にて印刷媒体を印刷ヘッド41に向かい合うように支持する固定支持面50a1を構成する。
【0048】
本実施形態にかかるインクジェットプリンターは、上述のように2種類の印刷媒体を利用して印刷を実行可能であり、印刷媒体の大きさに応じて印刷ヘッド41の加速期間、定速期間、減速期間が予め決められている。そして、固定プラテン50aにおいて固定支持面50a1の長手辺の長さは、上述の2種類の印刷媒体のうち、幅(図2Bに示す左右方向の長さ)が小さい方の印刷媒体における定速期間にて印刷ヘッド41が移動する長さに相当する。
【0049】
固定プラテン50aの左右方向の端部には、回転軸を介して可動プラテンが取り付けられる。固定プラテン50aの右側の端部には、印刷媒体の搬送方向に平行な方向(固定プラテン50aの短手方向に平行な方向)に配向するように第1回転軸51bが取り付けられ、当該第1回転軸51bによって回転可能に第1可動プラテン51が支持されている。
【0050】
第1可動プラテン51は略直方体の板状の部材であり、短手辺の長さが固定プラテン50aの短手辺の長さと一致するとともに、短手辺が第1回転軸51bに支持される。さらに、第1可動プラテン51は、上方の面でインク吐出領域にて印刷媒体を支持することが可能である。従って、第1可動プラテン51の上方の面は、インク吐出領域にて印刷媒体を支持する第1支持面51aを構成する。
【0051】
第1可動プラテン51の長手辺の長さは、後述する第1カム55によって第1可動プラテン51の第1支持面51aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとなる状態において、上述の2種類の印刷媒体のうち、幅が小さい方の印刷媒体に印刷を行う場合の減速期間にて印刷ヘッド41が移動する長さに、第1支持面51aが含まれるように設計してある。
【0052】
第1可動プラテン51においては、第1回転軸51bと逆側に存在する短手辺に印刷媒体の搬送方向に平行な方向(固定プラテン50aの短手方向に平行な方向に)配向するように第2回転軸52bが取り付けられ、当該第2回転軸52bによって回転可能に第2可動プラテン52が支持されている。
【0053】
第2可動プラテン52は略直方体の板状の部材であり、短手辺の長さが固定プラテン50aの短手辺の長さと一致するとともに、短手辺が第2回転軸52bに支持される。さらに、第2可動プラテン52は、上方の面でインク吐出領域にて印刷媒体を支持することが可能である。従って、第2可動プラテン52の上方の面は、インク吐出領域にて印刷媒体を支持する第2支持面52aを構成する。
【0054】
第2可動プラテン52の長手辺の長さは、後述する第1カム55によって第2可動プラテン52の第2支持面52aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとされる状態において、上述の2種類の印刷媒体のうち、幅が大きい方の印刷媒体に印刷を行う場合の減速期間にて印刷ヘッド41が移動する長さに、第2支持面52aが含まれるように設計してある。なお、本実施形態において、第2可動プラテン52の長手辺の長さと第1可動プラテン51の長手辺の長さは同一の長さである。
【0055】
固定部材54は、直方体の板状の部材であり、後述する第1カム55によって第1可動プラテン51の第1支持面51aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとされる状態において、第2可動プラテンの第2回転軸52bと逆側の端部が固定部材54の上面に乗るような位置に取り付けてある。
【0056】
固定プラテン50aの左側の端部には、印刷媒体の搬送方向に平行な方向(固定プラテン50aの短手方向に平行な方向に)配向するように第3回転軸53bが取り付けられ、当該第3回転軸53bによって回転可能に第3可動プラテン53が支持されている。
【0057】
第3可動プラテン53は略直方体の板状の部材であり、短手辺の長さが固定プラテン50aの短手辺の長さと一致するとともに、短手辺が第3回転軸53bに支持される。さらに、第3可動プラテン53は、上方の面でインク吐出領域にて印刷媒体を支持することが可能である。従って、第3可動プラテン53の上方の面は、インク吐出領域にて印刷媒体を支持する第3支持面53aを構成する。
【0058】
第3可動プラテン53の長手辺の長さは、後述する第2カム56によって第3可動プラテン53の第3支持面53aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとされる状態において、上述の2種類の印刷媒体のうち、幅が小さい方の印刷媒体に印刷を行う場合の加速期間にて印刷ヘッド41が移動する長さに、第3支持面53aが含まれるように設計してある。なお、本実施形態において、第3可動プラテン53の長手辺の長さと第1可動プラテン51の長手辺の長さは同一の長さである。
【0059】
第1カム55は、第1回転軸51bに平行な方向に配向された第1カム回転軸55aに回転可能に支持される。第1カム55においては、第1カム回転軸55aを中心とした基準の姿勢に対する回転角であるカム角の変化に応じて第1カム回転軸55aと周との距離が変化するように周の形状が設計してある。すなわち、第1カム55の周が第1可動プラテン51および第2可動プラテン52に対して第1支持面51aおよび第2支持面52aの逆側(第1可動プラテン51および第2可動プラテン52の下側)から接触することで回転によって第1可動プラテン51および第2可動プラテン52の傾斜角を調整する。この結果、第1可動プラテン51の第1支持面51aおよび第2可動プラテン52の第2支持面52aと、印刷ヘッド41との距離を調整することができる。
【0060】
第2カム56は、第3回転軸53bに平行な方向に配向された第2カム回転軸56aに回転可能に支持される。第2カム56においては、第2カム回転軸56aを中心とした基準の姿勢に対する回転角であるカム角の変化に応じて第2カム回転軸56aと周との距離が変化するように周の形状が設計してある。すなわち、第2カム56の周が第3可動プラテン53に対して第3支持面53aの逆側(第3可動プラテン53の下側)から接触することで回転によって第3可動プラテン53の傾斜角を調整する。この結果、第3可動プラテン53の第3支持面53aと、印刷ヘッド41との距離を調整することができる。
【0061】
さらに、本実施形態においては、図2Bに示すように第1カム55の周と第2カム56の周とが同形状である。そして、第1カム回転軸55aおよび第2カム回転軸56aに垂直な投影面上に周を投影した形状(すなわち図2Bに示す形状)が、第1カム回転軸55aと第2カム回転軸56aとの中点を結ぶ線に垂直な上下方向の線Sに対して線対称となるように配向されて、第1カム55が第1カム回転軸55aと第2カム回転軸56aに支持され、第2カム56が第2カム回転軸56aに支持されている。すなわち、同形状の第1カム55および第2カム56が、図2Bに示すような投影面上で左右対称となるように配向されている。
【0062】
本実施形態においては、このように配向された第1カム55および第2カム56が同期するように回転させる。すなわち、図示しないタイミングベルトおよびギヤを介して第1カム回転軸55aと第2カム回転軸56aとが逆方向に同一角速度で回転するように構成されている。具体的には、タイミングベルトおよびギヤにより、第1カム55が時計回り(図2Bに示すDrc)に回転すると、同一角速度で第2カム56が反時計回り(図2Bに示すDra)に回転するように構成されている。従って、カムモーター46aの駆動力により、第1カム55が回転されると、第2カム56も同期して回転することになる。
【0063】
さらに、本実施形態においては、上述のように、回転軸モーター47aの駆動力により、第2カム回転軸56aを移動させ、2カ所で固定可能である。図2Bに示す例においては、2カ所のうちの一カ所である第1固定位置Ps1に第2カム回転軸56aが回転可能に固定されている状態を示している。また、第2個定位置Ps2は第1固定位置Ps1から右方向に第2カム回転軸56aを平行移動させた位置であり、固定プラテン50aの左側の端部よりも右側に位置している。すなわち、回転軸モーター47aは、第2カム回転軸56aに対して駆動力を作用させて第1固定位置Ps1から第2個定位置Ps2に移動させることが可能であり、さらに、移動後に各位置において第2カム回転軸56aが回転可能な状態で支持することができる。具体的には、各位置において、第1カム55と同期して第2カム56が回転されるように、タイミングベルトの張力が調整されるとともにギヤも第2カム回転軸56aとともに移動するように構成されている。
【0064】
(3)プラテンの動作:
(3−1)小さい印刷媒体に印刷を行う場合のプラテンの動作:
以下、第1カム55および第2カム56の周の形状とプラテン50における動作を説明する。本実施形態においては、上述の2種類の印刷媒体で印刷可能であり、図2B〜図3Bは、2種類の印刷媒体のうち、幅が小さい方の印刷媒体で印刷を行う場合のプラテン50の動作を示している。当該幅が小さい方の印刷媒体を印刷する際に、本実施形態においては印刷ヘッド41が図2Bに示す左から右に向けて主走査を行う。従って、左側における加速期間で加速し、定速期間を経て右側の減速期間で減速する動作によって主走査が行われる。
【0065】
図2Bにおいては、加速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲を範囲Ra1、定速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲を範囲Rc1、減速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲を範囲Rd1として示している。なお、本実施形態において、第1カム回転軸55aの中心の左右方向の位置は、減速期間において印刷ヘッド41が移動する範囲Rd1の右端の位置と一致するように配置し、第2カム回転軸56aの中心の左右方向の位置は、加速期間において印刷ヘッド41が移動する範囲Ra1の左端の位置と一致するように配置してある。また、本実施形態において、加速期間および減速期間における印刷ヘッド41の速度は左右対称である。すなわち、図2Bに示す線Sを挟んで対称な位置における速度は大きさが等しい。
【0066】
本実施形態における第1カム55の周は、図2Bに示すように、カム角がα1の範囲においては、カム角の単調変化に対して径の大きさが単調に変化するように構成され、カム角がβ1の範囲においては、カム角の変化に対して径の大きさが変化しないように構成される。また、カム角がγ1の範囲においては水平方向(図2Bに示す左右方向)に平行に配向され得る直線となるように第1カム55の周が構成される。
【0067】
本実施形態においては、第1カム55がこのような形状であることにより、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとなっている状態から第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°となっている状態まで第1支持面51aの角度を変化させることができる。すなわち、図2Bに示す第1カム55の状態を回転角0°とみなし、この状態からカム角を時計回りにα1(図2Bに示す例では180°)回転すると、図2Bに示す状態から図3Aの状態を経て図3Bの状態となり、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°になる。従って、第1カム55においては、図2Bに示すカム角がα1の範囲においては、第2可動プラテン52が水平に配向するとともに第1可動プラテン51の傾斜角が最大角度α1maxとなるように第1カム55の径の大きさが設定された状態から、第1可動プラテン51が水平に配向するように第1カム55の径の大きさが設定された状態まで徐々に径の大きさが変化するように周の形状が設計されていることになる。本実施形態においては、図2Bに示す状態を回転角0°とし、時計回りに第1カム55を角度α1だけ回転させる角度範囲が第1角度範囲となる。
【0068】
一方、第2カム56の周は、図2Bに示すように、カム角がα3の範囲においては、カム角の単調変化に対して径の大きさが単調に変化し、カム角がβ2の範囲においては、カム角の変化に対して径の大きさが変化しない。また、カム角がγ2の範囲においては水平方向(図2Bに示す左右方向)に平行に配向され得る直線となるように第2カム56の周が構成された状態となる。第2カム56は図2Bにおいて左右対称であるため、α1とα3の大きさは等しく、β1とβ2の大きさは等しく、γ1とγ2の大きさは等しい。
【0069】
そして、第2カム56がこのような形状であることにより、第3支持面53aと固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとなっている状態から第3支持面53aと固定支持面50a1との角度が0°となっている状態まで第3支持面51aの角度を変化させることができる。すなわち、図2Bに示す第2カム56の状態を回転角0°とみなし、この状態からカム角を反時計回りにα3(図2Bに示す例では180°)回転すると、図2Bに示す状態から図3Aの状態を経て図3Bの状態となり、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°になる。従って、第2カム56においては、図2Bに示すカム角がα3の範囲においては、第3可動プラテンの傾斜角が最大角度α1maxとなるように第2カム56の径の大きさが設定された状態から、第1可動プラテン51が水平に配向するように第2カム56の径の大きさが設定された状態まで徐々に径の大きさが変化するように周の形状が設計されていることになる。本実施形態においては、図2Bに示す状態を回転角0°とし、反時計回りに第2カム56を角度α3だけ回転させる角度範囲が第3角度範囲となる。
【0070】
以上のように、第1角度範囲および第3角度範囲においては、第1支持面51aおよび第3支持面53aの傾斜角を最大角度α1maxから0°まで調整することができる。そこで、制御部40が、加速期間および減速期間において、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カム55および第2カム56の回転角を特定し、当該回転角となるようにカムモータードライバー46に制御信号を出力することにより、印刷ヘッド41の主走査方向への速度に依存するインク滴の記録位置ずれが解消された状態で印刷を行うことができる。なお、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カム55および第2カム56の回転角が加速期間および減速期間中に変動する場合、制御部40は、当該変動に追従するように制御信号を出力する。当該回転角が加速期間および減速期間中に変動しない場合、制御部40は、印刷前に当該回転角に設定すればよい。
【0071】
(3−2)大きい印刷媒体に印刷を行う場合のプラテンの動作:
次に、幅が大きい方の印刷媒体で印刷を行う場合のプラテン50の動作を説明する。図4Aおよび図4Bは、幅が大きい方の印刷媒体で印刷を行う場合のプラテン50の動作を示している。第1カム55および第2カム56を回転させて図3Bのような状態になると、第1支持面51aおよび第3支持面53aと固定支持面50a1との角度は0°となる。図3Bの右側においては、第1可動プラテン51の延長上に第2可動プラテン52が存在するため、幅が大きい印刷媒体を支持するため本実施形態においては当該第2可動プラテン52の第2支持面52aを利用する。
【0072】
一方、本実施形態において、第3可動プラテン53には他の可動プラテンが接続されていないため、第2カム回転軸56aを移動させることによって第2カム56で第3可動プラテン53の傾斜角をさらに調整する状態とする。すなわち、図3Bに示す状態において制御部40が回転軸モーター47aを駆動することにより、図4Aに示すように第2カム回転軸56aを第2個定位置Ps2に移動させる。このとき、第2カム56は回転させない。従って、図4Aに示す状態においても第1カム55と第2カム56とは図4Aにおいて線S2に対して左右対称である。
【0073】
第2個定位置Ps2と第3回転軸53bとの位置関係は、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°になっている場合における第1カム回転軸55aと第2回転軸52bとの位置関係と左右対称である。従って、図4Aに示すように、第2カム回転軸56aを第2個定位置Ps2に移動させると、第3可動プラテン53が自重で傾き、第1可動プラテン51の傾斜角および第3可動プラテン53の傾斜角が最大角度α1maxとなって左右対称となる。
【0074】
本実施形態においては印刷ヘッド41が図2Bに示す左から右に向けて主走査を行うため、幅が大きい方の印刷媒体で印刷を行う場合においても、左側における加速期間で加速し、定速期間を経て右側の減速期間で減速する動作によって主走査が行われる。図4Aにおいては、加速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲を範囲Ra2、定速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲を範囲Rc2、減速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲を範囲Rd2として示している。なお、範囲Rc2は、固定プラテン50aと第1可動プラテン51とが平行に配向した状態における両者の長手方向の長さの和に一致する。また、ここでも、加速期間および減速期間における印刷ヘッド41の速度は左右対称である。すなわち、図4Aに示す線S2を挟んで対称な位置における速度は大きさが等しい。
【0075】
図4Aにおいては、図2Bに示す回転角0°の状態から時計回りにα1だけ第1カム55が回転された後の第1カム55の状態を示しており、この状態において、第1カム55のカム角がα1の範囲における周と第2可動プラテン52の下面とが接するとともに、第2可動プラテン52の右側の端部が固定部材54の上面に接する状態となる。第1カム55の周は、カム角がα1の範囲でカム角に従って径の大きさが増加し、カム角がβ1の範囲で径が一定となるため、図4Aに示す角度範囲がα1の部分において、点P21から点P22に向けて径の大きさが逓増する。
【0076】
従って、図4Aに示す状態から、さらに第1カム55を時計回りに回転させていくと、第1カム55と第2可動プラテン52の下面との接点は徐々に第1カム回転軸55aより遠くなり、徐々に第2可動プラテン52の第2支持面52aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が小さくなる。そして、図4Aに示す状態から第1カム55を角度α2だけ回転させると、図4Bに示す状態となる。この後、第1カム55をさらに時計回りに回転させると、径が一定の部分が第1可動プラテン51の下面および第2可動プラテンの下面に接した状態で第1カム55が回転されるため、第1可動プラテン51および第2可動プラテンの傾斜角はカム角がβ1の間、維持される。そして、さらにγ1だけ第1カム55が回転されると、図2Bに示す状態に復帰する。
【0077】
以上のように、図4Aに示す状態から第1カム55を回転させて図4Bに示す状態とすることにより、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度を0°に維持し、第2支持面52aと固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとなっている状態から第2支持面52aと固定支持面50a1との角度が最小角度αminとなっている状態まで第2支持面52aの角度を変化させることができる。従って、本実施形態においては、図4Aに示すような状態から図4Bに示す状態となるまで時計回りに角度α2だけ回転させる角度範囲が第2角度範囲となる。
【0078】
一方、第1カム55と第2カム56とは左右対称であるため、図4Aに示すように、第3支持面53aと固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとなっている状態から第1カム55に同期して第2カム56が反時計回りに角度α4(α2と大きさが等しい角度)だけ回転すると、第3支持面53aと固定支持面50a1との角度が最小角度度αminとなっている状態まで第3支持面53aの角度を変化させることができる。従って、本実施形態においては、図4Aに示すような状態から図4Bに示す状態となるまで反時計回りに角度α4だけ回転させる角度範囲が第4角度範囲となる。
【0079】
以上のように、第2角度範囲および第4角度範囲においては、第2支持面52aおよび第3支持面53aの傾斜角を最大角度α1maxから最小角度度αminまで調整することができる。そこで、制御部40が、加速期間および減速期間において、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カム55および第2カム56の回転角を特定し、当該回転角となるようにカムモータードライバー46に制御信号を出力することにより、印刷ヘッド41の主走査方向への速度に依存するインク滴の記録位置ずれが解消された状態で印刷を行うことができる。ここでも、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カム55および第2カム56の回転角が加速期間および減速期間中に変動する場合、制御部40は、当該変動に追従するように制御信号を出力する。当該回転角が加速期間および減速期間中に変動しない場合、制御部40は、印刷前に当該回転角に設定すればよい。以上のように、本実施形態によれば、複数の大きさの印刷媒体のそれぞれにおいて印刷ヘッドの加減速の程度が変動する場合であっても、インク滴の記録位置ずれを抑制することが可能である。
【0080】
(4)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、可動プラテンの傾斜角を変動させることによって印刷ヘッドの加減速による記録位置ずれを解消することができる限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、固定プラテンの左右において可動プラテンを対称に配置し、第2カム回転軸56aの移動が不要になるように構成してもよい。図5A〜図6Bは、固定プラテンの左右において可動プラテンを対称に配置する構成のプラテンの構成および動作を示す図である。
【0081】
本実施形態にかかるインクジェットプリンターにおいても2種類の印刷媒体を印刷可能である。但し、本実施形態においては、大きさの異なる印刷媒体の中央がストッカー20の横方向の中央に合致した状態で印刷媒体がストッカーに蓄積され、印刷媒体の幅方向の中央が固定プラテンの左右方向の中央に合致した状態で搬送が行われる。また、本実施形態にかかるプラテンは、上述の実施形態のプラテンと同様の構成に対して可動プラテンと固定部材とを追加することによって実現可能である。そこで、図5A〜図6Bにおいては、上述の実施形態と同様の構成については同じ符号を付して示している。但し、同じ符号を付して示した部材であっても寸法は異なっていて良い。図5A〜図6Bも図1Aにて矢印Aで示す方向からプラテン50を眺めた状態であり、上下方向、左右方向は図2Bと同様である。本実施形態においても、図5Aに示すように左右方向が印刷ヘッド41の主走査方向であり、主走査の範囲に相当する左右方向の所定範囲が印刷ヘッド41によるインク吐出領域Riとなる。
【0082】
また、本実施形態においては、図5Aに示すように、固定プラテン50aの右側の短手辺に第1回転軸51bによって第1可動プラテン51が支持され、固定プラテン50aの左側の短手辺に第3回転軸53bによって第3可動プラテン53が支持される。さらに、第1可動プラテン51の第1回転軸51bと逆側の短手辺(右側の短手辺)には第2回転軸52bによって第2可動プラテン52が支持される。第2可動プラテン52の右側においてはインクジェットプリンターに固定部材54が取り付けられる。
【0083】
第1カム55は、第1可動プラテン51および第2可動プラテン52の下面に周が接触するように第1カム回転軸55aに回転可能に支持されている。従って、第1カム55が時計回りに回転することによって第1可動プラテン51および第2可動プラテン52の傾斜角を調整することができる。第2カム56は、第3可動プラテン53の下面に周が接触するように第2カム回転軸56aに回転可能に支持されている。従って、第2カム56が反時計回りに回転することによって第3可動プラテン53の傾斜角を調整することができる。
【0084】
なお、本実施形態においても、第1カム55と第2カム56とは図5Aにおいて線Sに対して左右対称となるように配向され、第2カム56は第1カム55の回転方向の逆方向に回転されるとともに同一角速度で回転される。すなわち、上述の実施形態と同様に、図示しないタイミングベルトとギヤによって第1カム55と第2カム56とが同期するように回転される。また、第2カム56を回転可能に支持する第2カム回転軸56aの位置は、上述の実施形態における第1固定位置Ps1と同様の位置である。
【0085】
さらに、本実施形態においては、第3可動プラテン53の第3回転軸53bと逆側の短手辺(左側の短手辺)には第4回転軸540bによって第4可動プラテン540が回転可能に支持される。第4可動プラテン540は略直方体の板状の部材であり、短手辺の長さが固定プラテン50aの短手辺の長さと一致するとともに、短手辺が第4回転軸540bに支持される。さらに、第4可動プラテン540は、上方の面でインク吐出領域にて印刷媒体を支持することが可能である。従って、第4可動プラテン540の上方の面は、インク吐出領域にて印刷媒体を支持する第4支持面540aを構成する。
【0086】
第4可動プラテン540の長手辺の長さは、第2可動プラテン52の長手辺の長さと同一である。すなわち、第3カム56によって第4可動プラテン540の第4支持面540aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が最大角度となる状態において、上述の2種類の印刷媒体のうち、幅が大きい方の印刷媒体に印刷を行う場合の加速期間にて印刷ヘッド41が移動する長さに、第4支持面540aが含まれるように設計してある。
【0087】
固定部材541は、直方体の板状の部材であり、第2カム56によって第3可動プラテン53の第3支持面53aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が最大角度となる状態において、第4可動プラテンの第4回転軸540bと逆側の端部が固定部材541の上面に乗るような位置に取り付けてある。
【0088】
本実施形態においても、左側における加速期間で印刷ヘッド41を加速させ、定速期間において一定速度で印刷ヘッド41を駆動し、減速期間で印刷ヘッド41を減速させる主走査が行われる。図5A〜図6Aは、小さい印刷媒体に印刷を行う場合に実現され得るプラテンの傾斜角に対応している。小さい方の印刷媒体を印刷する際の加速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲は図5Aに示す範囲Ra3、定速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲は図5Aに示す範囲Rc3、減速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲は図5Aに示す範囲Rd3である。なお、本実施形態において、第1カム回転軸55aの中心の左右方向の位置は、減速期間において印刷ヘッド41が移動する範囲Rd3の右端の位置と一致するように配置し、第2カム回転軸56aの中心の左右方向の位置は、加速期間において印刷ヘッド41が移動する範囲Ra3の左端の位置と一致する。
【0089】
本実施形態においては、第1カム55および第2カム56が上述の実施形態と同様の形状であることにより、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が最大角度α1max、第3支持面53aと固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとなっている状態から、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°、第3支持面53aと固定支持面50a1との角度が0°となっている状態まで第1支持面51aおよび第3支持面の角度を変化させることができる。すなわち、図5Aに示す第1カム55の状態を回転角0°とみなし、この状態からカム角を時計回りに角度α1だけ回転させ、第2カム56を第1カム55と同期させて角度α3だけ回転させると、図5Aに示す状態から図5Bの状態を経て図6Aの状態となり、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°になり、第3支持面53aと固定支持面50a1との角度が0°になる。
【0090】
以上のように、第1カム55のカム角が0°〜α1までの角度範囲においては、第1支持面51aおよび第3支持面53aの傾斜角を最大角度α1maxから0°まで調整することができる。そこで、制御部40が、加速期間および減速期間において、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カム55および第2カム56の回転角を特定し、当該回転角となるようにカムモータードライバー46に制御信号を出力することにより、印刷ヘッド41の主走査方向への速度に依存するインク滴の記録位置ずれが解消された状態で印刷を行うことができる。なお、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カム55および第2カム56の回転角が加速期間および減速期間中に変動する場合、制御部40は、当該変動に追従するように制御信号を出力する。当該回転角が加速期間および減速期間中に変動しない場合、制御部40は、印刷前に当該回転角に設定すればよい。
【0091】
図6Aおよび図6Bは、幅が大きい方の印刷媒体で印刷を行う場合のプラテン50の動作を示している。図6Aにおいては、第1可動プラテン51および第2可動プラテン52が固定プラテン50aと平行であるため、第1可動プラテン51および第2可動プラテン52および固定プラテン50aを一つの平面とみなすことにより、当該平面を定速期間、当該平面の左右を加速期間および減速期間に対応させる。すなわち、図6Aのように、大きい方の印刷媒体を印刷する際の加速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲が図6Aに示す範囲Ra4、定速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲が図6Aに示す範囲Rc4、減速期間によって印刷ヘッド41が移動する範囲が図6Aに示す範囲Rd4であるように構成する。
【0092】
図6Aにおいては、図5Aに示す回転角0°の状態から時計回りに角度α1だけ第1カム55が回転された後の第1カム55および同期して回転された後の第2カム56の状態を示している。この状態において、さらに第1カム55を時計回りに角度α2だけ回転させると、徐々に第2可動プラテン52の第2支持面52aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が小さくなり、第4可動プラテン540の第4支持面540aと固定プラテン50aの固定支持面50a1との角度が小さくなる。そして、図6Aに示す状態から第1カム55を時計回りに角度α2だけ回転させると、図6Bに示す状態となる。従って、図6A〜図6Bにおいては、第1支持面51aと第3支持面53aと固定支持面50a1との角度を0°に維持し、第2支持面52aと固定支持面50a1との角度が最大角度α1max、第4支持面540aと固定支持面50a1との角度が最大角度α1maxとなっている状態から、第2支持面52aと固定支持面50a1との角度が最小角度αmin、第4支持面540aと固定支持面50a1との角度が最小角度αminとなっている状態まで第2支持面52aおよび第4支持面540aの角度を変化させることができる。
【0093】
以上のように、第1カム55のカム角がα1〜α2までの角度範囲においては、第2支持面52aおよび第4支持面540aの傾斜角を最大角度α1maxから最小角度度αminまで調整することができる。そこで、制御部40が、加速期間および減速期間において、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カム55および第2カム56の回転角を特定し、当該回転角となるようにカムモータードライバー46に制御信号を出力することにより、印刷ヘッド41の主走査方向への速度に依存するインク滴の記録位置ずれが解消された状態で印刷を行うことができる。ここでも、印刷ヘッド41の主走査方向の速度に対応する第1カム55および第2カム56の回転角が加速期間および減速期間中に変動する場合、制御部40は、当該変動に追従するように制御信号を出力する。当該回転角が加速期間および減速期間中に変動しない場合、制御部40は、印刷前に当該回転角に設定すればよい。以上のように、本実施形態によれば、複数の大きさの印刷媒体のそれぞれにおいて印刷ヘッドの加減速の程度が変動する場合であっても、インク滴の記録位置ずれを抑制することが可能である。
【0094】
以上のように、カムを利用して可動プラテンの傾斜角を調整する構成は一例であり、カムを利用しない実施形態を構成することも可能である。例えば、上述の実施形態において、可動プラテンと当該可動プラテンの回転軸とを固定し、回転軸をモーターで回転させることによって可動プラテンを回転させて傾斜角を調整する構成としても良い。この場合、上述の第1可動プラテン51と第2可動プラテン52とにおいて、第1可動プラテン51の第1支持面51aで印刷媒体を支持する場合、第1回転軸51bを回転させることで第1可動プラテン51の傾斜角を調整する構成となる。また、第1可動プラテン51を水平の状態とし、第2可動プラテン52の第2支持面52aで印刷媒体を支持する場合(例えば、図4Aや図4Bに示す状態)、第2回転軸52bを回転させることで第2可動プラテン52の傾斜角を調整する構成となる。ここで、第2回転軸52bは、図4Aや図4Bに示すように第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°となった状態で回転されればよい。従って、例えば、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°となっていない状態では第2回転軸52bにモーターの駆動力が伝達されず、第1支持面51aと固定支持面50a1との角度が0°となることによってギヤが噛み合うことによって第2回転軸52bにモーターの駆動力が伝達されるように第2回転軸52bを駆動するためのギヤを構成することによって実現可能である。また、以上の構成においては、モーターの回転量を検出することによって回転軸間の回転量を同期させればよい。
【符号の説明】
【0095】
11a,12a,11b,12b,11c,12c…搬送ローラー、20…ストッカー、40…制御部、41…印刷ヘッド、42…駆動電圧生成部、44…キャリッジモータードライバー、44a…キャリッジモーター、45…搬送モータードライバー、45a,45b,45c…搬送モーター、46…カムモータードライバー、46a…カムモーター、47…回転軸モータードライバー、47a…回転軸モーター、50…プラテン、50a…固定プラテン、50a1…固定支持面、51…第1可動プラテン、51a…第1支持面、51b…第1回転軸、52…第2可動プラテン、52a…第2支持面、52b…第2回転軸、53…第3可動プラテン、53a…第3支持面、53b…第3回転軸、54…固定部材、55…第1カム、55a…第1カム回転軸、56…第2カム、56a…第2カム回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に移動可能な印刷ヘッドと、
印刷ヘッドからのインク吐出領域に印刷媒体を搬送する搬送機構と、
前記インク吐出領域で搬送される前記印刷媒体の印刷面と平行な面内で前記印刷ヘッドの移動方向と平行な方向に延びる固定支持面によって前記インク吐出領域にて前記印刷媒体を前記印刷ヘッドに向かい合うように支持する固定プラテンと、
前記固定プラテンの一方の端部に前記印刷媒体の搬送方向に平行な方向に配向するように取り付けられた第1回転軸によって回転可能に支持されるとともに前記インク吐出領域にて前記印刷媒体を支持する第1支持面を備える第1可動プラテンと、
前記第1可動プラテンの前記第1回転軸と逆側の端部に前記印刷媒体の搬送方向に平行な方向に配向するように取り付けられた第2回転軸によって回転可能に支持されるとともに前記インク吐出領域にて前記印刷媒体を支持する第2支持面を備える第2可動プラテンと、
前記固定プラテンの他方の端部に前記印刷媒体の搬送方向に平行な方向に配向するように取り付けられた第3回転軸によって回転可能に支持されるとともに前記インク吐出領域にて前記印刷媒体を支持する第3支持面を備える第3可動プラテンと、
前記第1可動プラテンおよび前記第2可動プラテンの角度を調整する第1角度調整機構と、
前記第3可動プラテンの角度を調整する第2角度調整機構と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記第1角度調整機構は、前記第1回転軸に平行な方向に配向された第1カム回転軸に回転可能に支持されるとともに、周が前記第1可動プラテンおよび前記第2可動プラテンに対して前記第1支持面および前記第2支持面の逆側から接触することで回転によって前記第1支持面および前記第2支持面と前記印刷ヘッドとの距離を調整する第1カムを備え、
前記第2角度調整機構は、前記第3回転軸に平行な方向に配向された第2カム回転軸に回転可能に支持されるとともに、周が前記第3可動プラテンに対して前記第3支持面の逆側から接触することで回転によって前記第3支持面と前記印刷ヘッドとの距離を調整する第2カムを備えることを特徴とする、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記第1支持面と前記第2支持面と前記第3支持面とを前記印刷ヘッドの移動方向と平行になるように並べた場合に、当該移動方向と平行な方向の前記第1可動プラテンと前記第2可動プラテンと前記第3可動プラテンとの長さは同一であり、
前記第1カムの周は、
第1角度範囲で前記第1支持面と前記固定支持面との角度が最大角度となっている状態から前記第1支持面と前記固定支持面との角度が0°となっている状態まで前記第1支持面の角度を変化させ、
第2角度範囲で前記第1支持面と前記固定支持面との角度を0°に維持し、前記第2支持面と前記固定支持面との角度が最大角度となっている状態から前記前記第2支持面と前記固定支持面との角度が最小角度となっている状態まで前記第2支持面の角度を変化させる形状を含み、
前記第2カムの周は、前記第1カムの周と同形状であるとともに、前記第1カムおよび前記第2カムは、前記第1カム回転軸および前記第2カム回転軸に垂直な投影面上に周を投影した形状が線対称となるように配向されて前記第1カム回転軸および前記第2カム回転軸に支持され、
前記第2カム回転軸は前記印刷ヘッドの移動方向と平行な方向に移動可能であるとともに、第1固定位置と第2固定位置で回転可能な状態で固定可能であり、
前記第2カムの周は、
前記第2カム回転軸が前記第1固定位置に固定された状態で、第3角度範囲で前記第3支持面と前記固定支持面との角度が最大角度となっている状態から前記第3支持面と前記固定支持面との角度が0°となっている状態まで前記第3支持面の角度を変化させ、
前記第2カム回転軸が前記第2固定位置に固定された状態で、第4角度範囲で前記第3支持面と前記固定支持面との角度が最大角度となっている状態から前記前記第3支持面と前記固定支持面との角度が最小角度となっている状態まで前記第3支持面の角度を変化させる形状を含むことを特徴とする、
請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記第3可動プラテンの前記第3回転軸と逆側の端部に前記印刷媒体の搬送方向に平行な方向に配向するように取り付けられた第4回転軸によって回転可能に支持されるとともに前記インク吐出領域にて前記印刷媒体を支持する第4支持面を備える第4可動プラテンを備え、
前記第1支持面と前記第2支持面と前記第3支持面と前記第4支持面とを前記印刷ヘッドの移動方向と平行な方向に並べた場合に、当該移動方向と平行な方向の前記第1可動プラテンと前記第2可動プラテンと前記第3可動プラテンと前記第4可動プラテンとの長さは同一であり、
前記第1カムの周は、
第1角度範囲で前記第1支持面と前記固定支持面との角度が最大角度となっている状態から前記第1支持面と前記固定支持面との角度が0°となっている状態まで前記第1支持面の角度を変化させ、
第2角度範囲で前記第1支持面と前記固定支持面との角度を0°に維持し、前記第2支持面と前記固定支持面との角度が最大角度となっている状態から前記前記第2支持面と前記固定支持面との角度が最小角度となっている状態まで前記第2支持面の角度を変化させる形状を含み、
前記第2カムの周は、前記第1カムの周と同形状であるとともに、前記第1カムおよび前記第2カムは、前記第1カム回転軸および前記第2カム回転軸に垂直な投影面上に周を投影した形状が線対称となるように配向されて前記第1カム回転軸および前記第2カム回転軸に支持され、
前記第2カムの周は、
第3角度範囲で前記第3支持面と前記固定支持面との角度が最大角度となっている状態から前記第3支持面と前記固定支持面との角度が0°となっている状態まで前記第3支持面の角度を変化させ、
第4角度範囲で前記第3支持面と前記固定支持面との角度を0°に維持し、前記第4支持面と前記固定支持面との角度が最大角度となっている状態から前記前記第4支持面と前記固定支持面との角度が最小角度となっている状態まで前記第4支持面の角度を変化させる形状を含むことを特徴とする、
請求項2に記載の印刷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−196892(P2012−196892A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62550(P2011−62550)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】