説明

印刷配線板用樹脂組成物、ワニス、プリプレグ及びそれを用いた印刷配線板用積層板

【課題】 耐電食性、接着性、耐熱性、耐燃性及び高周波帯域での誘電特性に優れた印刷配線板用樹脂組成物、該組成物を用いた印刷配線板用プリプレグ及び印刷配線板用積層板を提供する。
【解決手段】(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマー100重量部、(B)フェノール類化合物5〜30重量部、(C)シアネート類化合物と反応性を有しない難燃剤5〜200重量部及び(D)フェノール系酸化防止剤又は有機硫黄化合物系酸化防止剤0.1〜30重量部を必須成分として含む印刷配線板用樹脂組成物。該組成物を溶剤に溶解、分散させ印刷配線板用樹脂ワニスとし、基材に含浸、乾燥させ積層板用プリプレグを作製し、この複数枚と金属箔を積層し、加熱加圧して印刷配線板用積層板とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、誘電特性や耐熱性に優れた印刷配線板等の製造に用いられる樹脂組成物とそれを用いたワニス、プリプレグ及び印刷配線板用積層板に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、通信分野等の高周波機器に用いられる印刷配線板用材料には、比誘電率及び誘電正接の低い樹脂材料が望まれている。これに対し比誘電率や誘電正接の低いふっ素樹脂やポリフェニレンエーテル等の熱可塑性の樹脂材料が使用されてきたが、これらはコストが高く、また成形時に高温、高圧が必要という問題や寸法安定性、金属めっきとの接着性に劣るという欠点があった。一方、熱硬化性樹脂材料の中で比誘電率や誘電正接が低い樹脂として知られるシアネートエステル樹脂及びこれをベースとしたBT(ビスマレイミドトリアジン)樹脂等の樹脂材料が提案されている。しかしながら、これらの樹脂材料単独では、耐燃性や吸湿後の耐熱性に劣るという問題のほか、剛直な骨格のため硬化物が脆くスルーホールのドリル加工時等にクラックが発生しやすい。このためこのクラックから金属マイグレーション(電食)が発生しやすく、高い電気絶縁信頼性を満足できないという欠点があった。
【0003】これらの問題の改良を目的としてBT(ビスマレイミドトリアジン)樹脂又はシアネートエステル樹脂に、特開昭63−54419号公報に記載されているフェノールノボラックのグリシジルエーテル化物を併用する方法、特開平2−214741号公報に記載のフェノール類付加ジシクロペンタジエン重合体のグリシジルエーテル化物を併用する方法、特開平3−84040号公報に記載のビスフェノールAのグリシジルエーテル化物等のエポキシ樹脂、また特開平5−310673号公報に記載のフェノール類付加ブタジエン重合体、特公平7−47637号公報に記載のビスフェノールA等の多価フェノール類化合物、或いは特公平4−24370号公報に記載の臭素化ビスフェノールA及び臭素化ビスフェノールAのヒドロキシルエーテル化物、特開平2−286723号公報に記載の臭素化フェノールノボラックのグリシジルエーテル化物、特開平5−339342号公報に示されている臭素化ビスフェノールAのグリシジルエーテル化物、特開平7−207022号公報に記載の臭素化マレイミド類化合物等のBT(ビスマレイミドトリアジン)樹脂又はシアネートエステル樹脂との反応性を有する難燃剤を併用させる方法等が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、特開昭63−54419号公報、特開平2−214741号公報、特開平3−84040号公報に示されているようなエポキシ樹脂をシアネートエステル樹脂に併用させる方法では、低温での硬化性、加工性、吸湿後の耐熱性、耐電食性等に関する欠点は改善されるものの、Tg(ガラス転移温度)が低下したりGHz帯域での誘電特性が悪化するため高周波用途には不十分であった。また特開平5−310673号公報、特公平7−47637号公報に示されているような多価フェノール類化合物を併用させる方法では、硬化性や加工性は改善されるものの、Tgの低下や接着性、吸湿時の耐熱性に劣るという問題、GHz帯域での誘電特性が悪化するため高周波用途には対応できないという問題があった。また特公平4−24370号公報、特開平2−286723号公報、特開平5−339342号公報、特開平7−207022号公報に示されているような難燃剤を併用させる方法では、耐燃性は付加できるものの、Tgが低下したり、吸湿時の耐熱性やGHz帯域での誘電特性が悪化するという問題があった。このようにエポキシ樹脂、多価フェノール類化合物及び反応性難燃剤を併用する方法では、何れもGHz帯域での誘電特性が十分ではなく、またTgも低下する。
【0005】本発明は、かかる状況に鑑みなされたもので、Tgが低下したり、硬化性、加工性、接着性、耐燃性、吸湿後の耐熱性等といった特性を損なうことなく、高周波帯域での誘電特性に優れ、金属マイグレーションの発生を抑え、高い電気絶縁信頼性を付与する印刷配線板用樹脂組成物及びそれを用いたワニス、プリプレグ及び印刷配線板用積層板を提供することを目的とした。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマー、(B)フェノール類化合物、(C)シアネート類化合物との反応性を有しない難燃剤及び(D)フェノール系酸化防止剤又は有機硫黄化合物系酸化防止剤を必須成分として含む印刷配線板用樹脂組成物である。 また、本発明は、前記印刷配線板用樹脂組成物を溶剤に溶解ないし分散させた印刷配線板用樹脂ワニスであり、さらに印刷配線板用ワニスを基材に含浸後、80〜200℃で乾燥させて得られる印刷配線板用プリプレグである。さらに、本発明は、この印刷配線板用プリプレグを、多層プリント配線板の層間接続用プリプレグとして使用することもでき、また、積層板用プリプレグを複数枚重ね、さらにその外側に金属箔を積層し加熱加圧して得られる印刷配線板用積層板である。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明の印刷配線板用樹脂組成物において用いられる(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマーの材料は、特に限定されるものではないが、式(1)で表される化合物が好ましく、具体例としては、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、ビス(4−シアネートフェニル)エタン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−シアネートフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、フェノール付加ジシクロペンタジエン重合体のシアネートエステル化物等及びそれらのプレポリマが挙げられる。この中で、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−シアネートフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンであると硬化物の誘電特性が特に良好であるためより好ましい。
【0008】
【化4】


【0009】上記の(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物のモノマは結晶性が高く、これらのモノマを溶剤でワニス化する場合、固形分濃度にもよるがワニス中で再結晶する場合がある。そのため上記シアネート類化合物モノマをあらかじめプレポリマ化して用いるのが好ましい。プレポリマのシアネート基の転化率は特に限定されるものではないが、通常は20〜60重量%の範囲内で転化されたプレポリマを用いることが望ましい。また(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマーは一種類単独で用いてもよく、二種類以上を併用して用いてもよい。
【0010】本発明の印刷配線板用樹脂組成物において用いられる(B)フェノール類化合物の具体例としては、p−ノニルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−tert−オクチルフェノール等のアルキル基置換フェノール類化合物及び式(2)で表される一価フェノール類化合物等が挙げられる。式(2)で表される一価フェノール類化合物としては、p−(α−クミル)フェノール等があり、p−(α−クミル)フェノールが好ましい。また(B)一価フェノール類化合物は1種類単独で用いてもよく2種類以上を併用して用いてもよい。
【0011】
【化5】


(式中,R4,R5は水素原子又はメチル基を示し,それぞれ同じであっても異なってもよい。また,mは1〜2の整数を表す)
【0012】本発明における(B)フェノール類化合物の配合量は、(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマー100重量部に対して、5〜30重量部の範囲で配合することが好ましい。更に好ましくは7〜30重量部である。5重量部未満の場合、誘電特性が悪化する傾向を示すため望ましくない。30重量部を超えると、ワニス化した場合のワニスの保存安定性が低下する傾向を示すため望ましくない。
【0013】本発明の印刷配線板用樹脂組成物において用いられる(C)シアネート類化合物と反応性を有しない難燃剤は、シアネート基と反応する官能基を有してない難燃剤であれば制限されず、その具体例として、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン及びヘキサブロモシクロドデカン等の脂肪族環型難燃剤及び式(3)で表される複素環型難燃剤が挙げられる。式(3)で表される複素環型難燃剤としては,2,4,6−トリス(トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンが好ましい。
【0014】
【化6】


(式中,l,m,nは1〜5の整数を表し,それぞれ同じ値であっても異なってもよい)
【0015】この(C)シアネート類化合物と反応性を有しない難燃剤は、(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマー100重量部に対し、5〜200重量部の範囲で配合することが好ましい。好ましくは、5〜100重量部である。5重量部未満では、難燃効果に乏しく、200重量部を超えると耐熱性が低下するので好ましくない。
【0016】本発明の印刷配線板用樹脂組成物において用いられる(D)の酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、有機硫黄化合物系酸化防止剤がそれぞれ単独で、または併用して用いられるが、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、ピロガロール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどのモノフェノール系や2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)などのビスフェノール系及び1,3,5−トリメチル−2,4,6トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−〔メチレン−3−(3’−5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンなどの高分子型フェノール系が挙げられる。有機硫黄化合物系酸化防止剤の具体例としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等がある。これらの酸化防止剤は何種類かを併用してもよい。
【0017】(D)のフェノール系酸化防止剤又は有機硫黄化合物系酸化防止剤の配合量は、(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマー100重量部に対して、0.1〜30重量部が好ましい。0.1重量部未満では絶縁特性の向上は見られず、30重量部を超えると逆に絶縁特性は低下する傾向を示す。
【0018】本発明の印刷配線板用樹脂組成物では、硬化反応を促進するための硬化促進剤が用いられる。その硬化促進剤の具体例としては、コバルト,マンガン,スズ,ニッケル,亜鉛,銅等の有機金属塩化合物や有機金属錯体を用いることができる。特に、2−エチルへキサン酸コバルトやナフテン酸コバルト等の有機コバルト塩化合物が好ましい。有機金属塩化合物は1種類単独で用いてもよく2種類以上を併用して用いてもよい。硬化促進剤の配合量は、(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマー100重量部に対し、配合効果と硬化物の物性を劣化させない範囲の0.01〜3重量部であり、より好ましくは0.02〜0.5重量部である。
【0019】本発明の印刷配線板用樹脂組成物には、さらに、必要に応じて充填剤及びその他の添加剤を配合することができる。充填剤としては、通常、無機充填剤が好適に用いられ、その具体例として、溶融シリカ,ガラス,アルミナ,チタニア,ジルコン,炭酸カルシウム,珪酸カルシウム,珪酸マグネシウム,珪酸アルミニウム,窒化珪素,窒化ホウ素,ベリリア,ジルコニア,チタン酸バリウム,チタン酸カリウム,チタン酸カルシウム等が挙げられる。
【0020】本発明の印刷配線板用樹脂組成物は加熱硬化させることにより誘電特性や耐熱性に優れた積層板の製造に供せられる。即ち本発明の印刷配線板用樹脂組成物を溶剤に溶解していったんワニス化し、ガラス布等の基材に含浸し乾燥することによってまずプリプレグを作製する。次いでこのプリプレグを任意枚数と上下又は一方の面に金属箔を重ねて加熱成形することによって印刷配線板又は金属張積層板とすることができる。ここでの乾燥とは、溶剤を使用した場合には溶剤を除去すること、溶剤を使用しない場合には室温での流動性がなくなるようにすることをいう。
【0021】本発明の印刷配線板用樹脂組成物をワニス化する場合、溶剤は特に限定するものではないが、具体例としては、アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン等のケトン類,トルエン,キシレン等の芳香族炭化水素類,メトキシエチルアセテート,エトキシエチルアセテート,ブトキシエチルアセテート,酢酸エチル等のエステル類,N−メチルピロリドン,ホルムアミド,N−メチルホルムアミド,N,N−ジメチルホルムアミド,N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類,メタノール,エタノール,エチレングリコール,エチレングリコールモノメチルエーテル,エチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノエチルエーテル,ジエチレングリコール,トリエチレングリコールモノメチルエーテル,トリエチレングリコールモノエチルエーテル,トリエチレングリコール,プロピレングリコールモノメチルエーテル,ジプロピレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノプロピルエーテル,ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール類等が用いられる。また、これら上記溶剤は1種類単独で用いてもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0022】上記の印刷配線板用樹脂ワニスは、ガラス織布やガラス不織布、プラスチック織布やプラスチック不織布、紙などの積層板に用いられている基材に含浸後、80〜200℃で乾燥させて印刷配線板用プリプレグとする。多層プリント配線板の層間接着用プリプレグとして使用する場合は、プリプレグ中の樹脂分を多めにする。また、印刷配線板用積層板とするときは、要求される誘電特性に応じて、誘電率や誘電正接の値が小さいものが要求される場合は、誘電特性に優れる本発明の印刷配線板用樹脂組成物を多くするため樹脂分を多くするようにする。
【0023】印刷配線板用プリプレグは、これを複数枚重ね、さらにその外側に金属箔を積層し加熱加圧して印刷配線板用積層板とする。
【0024】一般に、樹脂硬化物の誘電特性は、分子構造、即ち分子内の極性基の量や強さ及び分子骨格の動きやすさ等に影響を受ける。元来、シアネートエステルの硬化物は低極性、剛直かつ対称性構造のトリアジン骨格を有するため低誘電率及び低誘電正接である。しかし、吸湿時の耐熱性の改善や耐燃性の付加、またドリル加工時のクラック発生の低減のためシアネートエステルにエポキシ樹脂、多価フェノール類化合物及びシアネート基との反応性を有する反応型難燃剤等を併用する従来の樹脂組成物では、シアネート基との反応によりトリアジン環以外の構造で極性基の高いものが生成したり、硬化反応の進行により流動性が失なわれ反応しきれないで残存する官能基が多くなるため、Tgや耐熱性が低下したり、比誘電率や誘電正接が高くなる。これに対して、本発明の印刷配線板用樹脂組成物は、フェノール類化合物の中でもシアネ−ト基との反応性が高く、かつトリアジン環の生成を促進するフェノール類化合物である。また、本発明において用いられる難燃剤は、低極性構造でかつシアネート基に対し反応性を有しない難燃剤であるため、トリアジン環の生成を妨げないため誘電特性を悪化させることがなく耐燃性を付加できる。さらに、フェノール系酸化防止剤又は有機硫黄化合物系酸化防止剤を用いることにより、誘電特性や耐熱性等の特性を損なうことなく金属マイグレーションの発生を抑え、高い電気絶縁信頼性を有する積層板が得られ、硬化性に優れると共に硬化物はTgが高く、優れた成形性、加工性、接着性、吸水性、耐熱性及び耐燃性を有し、かつ低誘電率及び低誘電正接である。
【0025】
【実施例】以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマーとして、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタンのプレポリマ(Arocy M−30,旭チバ株式会社製商品名)、(B)フェノール類化合物としてp−ノニルフェノール及び(C)シアネート類化合物と反応性を有しない難燃剤として、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン(SAYTEX BCL−462,アルベマール社製商品名)とを表1に示す配合量でトルエンに溶解し、さらに、硬化促進剤としてシアネート類化合物100重量部に対してナフテン酸コバルトを0.1重量部、(D)フェノール系酸化防止剤として、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)を0.5重量部の割合で配合し、不揮発分65重量%の印刷配線板用樹脂ワニスを作製した。
【0026】実施例22,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマ(ArocyB−30,旭チバ株式会社製商品名)とp−tert−ブチルフェノール及びテトラブロモシクロオクタン(SAYTEX BC−48,アルベマール社製商品名)とを表1に示す配合量でトルエンに溶解し、更に硬化促進剤としてシアネート類化合物100重量部に対して、ナフテン酸コバルトを0.1重量部、フェノール系酸化防止剤としてピロガロールを0.5重量部の割合で配合し、不揮発分65重量%の印刷配線板用樹脂ワニスを作製した。
【0027】実施例3α,α’−ビス(4−シアネートフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンのプレポリマ(RTX−366,旭チバ株式会社製商品名)とp−tert−オクチルフェノール及びヘキサブロモシクロドデカン(CD−75P,グレートレイクス社製商品名)を表1に示す配合量でトルエンに溶解し、更に硬化促進剤としてシアネート類化合物100重量部に対してナフテン酸コバルトを0.1重量部、有機硫黄化合物系酸化防止剤としてジラウリルチオジプロピオネートを0.5重量部の割合で配合し、不揮発分65重量%の印刷配線板用樹脂ワニスを作製した。
【0028】実施例4実施例1において、p−ノニルフェノールをp−(α−クミル)フェノールに、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサンを臭素化トリフェニルシアヌレート(ピロガードSR−245,第一工業製薬株式会社製商品名)に代えて表1に示す配合量でトルエンに溶解した他は実施例1と同様にして不揮発分65重量%の印刷配線板用樹脂ワニスを作製した。
【0029】比較例1実施例1において,4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)を除いた他は実施例1と同様にして印刷配線板用樹脂ワニスを作製した。
【0030】比較例2比較例1において、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタンのプレポリマを2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパンのプレポリマに、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサンを臭素化型ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ESB400T,住友化学工業株式会社製商品名)に代えて表1に示す配合量でトルエンに溶解した他は比較例1と同様にして印刷配線板用樹脂ワニスを作製した。
【0031】比較例3比較例2において、p−ノニルフェノールを除き、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を臭素化ビスフェノールA(TBA)に代えて表1に示す配合量でトルエンに溶解した他は比較例2と同様にして印刷配線板用樹脂ワニスを作製した。
【0032】比較例4比較例2において、p−ノニルフェノールをフェノール類付加ブタジエン重合体(PP700−300,日本石油化学株式会社製商品名)に、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂を臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂(BREN−S,日本化薬株式会社製商品名)に代えて表1に示す配合量でトルエンに溶解した他は比較例2と同様にして印刷配線板用樹脂ワニスを作製した。
【0033】
【表1】


【0034】各実施例及び比較例で得られた印刷配線板用樹脂ワニスを、厚み0.2mmのガラス布(Eガラス、坪量210g/m2)に含浸し、140℃で10分加熱して印刷配線板用プリプレグを得た。次いで、得られた印刷配線板用プリプレグ4枚を重ね、その両側に厚み18μmの銅箔を重ね、170℃、60分、2.5MPaの条件でプレス成形した後、230℃で120分加熱処理し印刷配線板用積層板を作製した。
【0035】得られた印刷配線板用積層板について、誘電特性、はんだ耐熱性、Tg(ガラス転移温度)、耐燃性、銅箔引きはがし強さ及び耐電食性を測定した。その結果を表2に示す。
【0036】試験方法は以下の通りである。
・1MHzの比誘電率(εr)及び誘電正接(tanδ):JIS C−6481に準拠して測定した。
・1GHzの比誘電率(εr)及び誘電正接(tanδ):トリプレート構造直線線路共振器法により測定した。
・Tg(ガラス転移温度):銅箔をエッチングして除去し、TMA(熱機械分析)により測定した。
・はんだ耐熱性:銅箔をエッチングして除去し、PCT(121℃,0.22MPa)中に保持した後、260℃の溶融はんだに20秒間浸漬して、外観を調べた。表中の異常無し個数とは、ミーズリング及びふくれの発生が無いことを意味し、試験数(分母)に対する個数を(分子)である。
・耐燃性:UL−94垂直試験法に準拠して測定した。
・銅箔引きはがし強さ:JIS C−6481に準拠して測定した。
・耐電食性:各銅張積層板を用いてスルーホール穴壁間隔を350μmとしたテストパターンを作製し、その各試験片について85℃、90%RH雰囲気中100V印加処理後、400穴の絶縁抵抗を導通破壊が発生するまでの間、経時的に測定した。
【0037】
【表2】

【0038】表2から明らかなように、実施例1〜4の樹脂組成物を用いた印刷配線板用積層板は、何れもTgが高く、吸湿時のはんだ耐熱性、銅箔引きはがし強さ及び耐電食性が良好でかつ1GHzでの比誘電率、誘電正接が低い。
【0039】これに対して、フェノール系や有機硫黄化合物系酸化防止剤を配合しなかった各比較例の印刷配線板用積層板は、耐電食性に劣る。また,難燃剤に臭素化エポキシ樹脂や臭素化フェノール化合物を配合した比較例2〜4の印刷配線板用積層板は1GHzの比誘電率及び誘電正接が高く、吸湿時のはんだ耐熱性及び銅箔引きはがし強さが低い。
【0040】
【発明の効果】本発明の印刷配線板用樹脂組成物は、印刷配線板とした場合に優れた接着性、耐燃性、吸湿時の耐熱性を有し、また金属マイグレーションの発生を抑え、高い電気絶縁信頼性を保持し、かつ高周波帯域での比誘電率や誘電正接が低く高周波信号を扱う機器に対応した印刷配線板用樹脂組成物として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマー、(B)フェノール類化合物、(C)シアネート類化合物と反応性を有しない難燃剤及び(D)フェノール系酸化防止剤又は有機硫黄化合物系酸化防止剤を必須成分として含む印刷配線板用樹脂組成物。
【請求項2】 (A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマー100重量部に対し、(B)フェノール類化合物を5〜30重量部、(C)シアネート類化合物と反応性を有しない難燃剤を5〜200重量部及び(D)フェノール系酸化防止剤又は有機硫黄化合物系酸化防止剤を0.1〜30重量部配合することを特徴とする請求項1に記載の印刷配線板用樹脂組成物。
【請求項3】 (A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマーの材料が、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアネートフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアネートフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン及びα,α’−ビス(4−シアネートフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンから選ばれる少なくとも1種類以上である請求項1または請求項2に記載の印刷配線板用樹脂組成物。
【請求項4】 (A)分子中にシアネート基を2個有するシアネート類化合物またはそのプレポリマーの材料が、式(1)で表される化合物の少なくとも1種類以上である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の印刷配線板用樹脂組成物。
【化1】


【請求項5】 (B)フェノール類化合物が、p−ノニルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール及びp−tert−オクチルフェノールから選ばれるアルキルフェノール類化合物の少なくとも1種類以上である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の印刷配線板用樹脂組成物。
【請求項6】 (B)フェノール類化合物が、式(2)で表されるフェノール類化合物である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の印刷配線板用樹脂組成物。
【化2】


(式中,R4,R5は水素原子又はメチル基を示し,それぞれ同じであっても異なってもよい。また,mは1〜2の整数を表す)
【請求項7】 (C)シアネート類化合物と反応性を有しない難燃剤が、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン及びヘキサブロモシクロドデカンから選ばれる脂肪族環型難燃剤の少なくとも1種類以上である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の印刷配線板用樹脂組成物。
【請求項8】 (C)シアネート類化合物と反応性を有しない難燃剤が、式(3)で表される複素環型難燃剤のうち少なくとも1種類以上である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の印刷配線板用樹脂組成物。
【化3】


(式中,l,m,nは1〜5の整数を表し,それぞれ同じ値であっても異なってもよい)
【請求項9】(D)のフェノール系酸化防止剤がビスフェノール系酸化防止剤である請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の印刷配線板用樹脂組成物。
【請求項10】請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の印刷配線板用樹脂組成物を溶剤に溶解ないし分散させた印刷配線板用樹脂ワニス。
【請求項11】請求項10に記載の印刷配線板用樹脂ワニスを基材に含浸後、80〜200℃で乾燥させて得られる印刷配線板用プリプレグ。
【請求項12】請求項11に記載の印刷配線板用プリプレグを複数枚重ね、さらにその外側に金属箔を積層し加熱加圧して得られる印刷配線板用積層板。

【公開番号】特開平11−12464
【公開日】平成11年(1999)1月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−171775
【出願日】平成9年(1997)6月27日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)