説明

厚鋼板の溶接構造体

【課題】大入熱突合せ溶接された、板厚が50mmを超える厚鋼板からなる厚鋼板の溶接構造体に発生して進展する脆性亀裂を、確実に停止させることができ、十分な疲労強度を有し、しかも作業性、経済性に優れた厚鋼板の溶接構造体を提供する。
【解決手段】何れも板厚が50mmを超える厚鋼板から構成され厚鋼板の溶接構造体Wの第1厚鋼板1の突合せ溶接部1cの端部が交差する第2厚鋼板2の平面であって、かつこの第2厚鋼板2の第1厚鋼板1の板厚の外側の少なくとも一方側に、長手方向が第1厚鋼板1の平面に沿い、かつ第2厚鋼板2を貫通する長穴4を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板の溶接構造体に係り、より詳しくは、何れも板厚が50mmを超える厚鋼板から構成され、突合せ溶接部を有する第1厚鋼板の端面側が第2厚鋼板の平面に相対して溶接されたT字型継ぎ手、または前記第2厚鋼板の前記第1厚鋼板の溶接面の反対側の平面に第3厚鋼板の端面側が相対して溶接された十字型継ぎ手のうちの何れか一方の継ぎ手を備えた厚鋼板の溶接構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の世界的な荷動きの増加に伴って、造船分野においてはコンテナ船が大型化しており、これに伴ってより板厚が厚い厚鋼板が使用されるようになってきている。しかしながら、従来の強度の鋼板(降伏応力:390N/mm以下)を採用する場合、最近建造されるようになった5000TEU積み以上のコンテナ船ではさらに板厚が厚い鋼板を使用する必要がある。鋼構造物の設計においては、外力に対して降伏や疲労破壊を配慮すると共に、脆性亀裂の伝播停止特性が求められるが、鋼板の板厚が厚くなると、一般に鋼構造物の溶接継手部の破壊靭性が低下してしまうため、脆性亀裂が進展し易くなるという問題が生じる。
【0003】
一般に、溶接構造体の鋼板継ぎ手の溶接部には残留応力が存在するのに加えて、溶接部の破壊靭性は母材よりも劣る。従って、溶接構造体の溶接部には疲労亀裂が発生し易いだけでなく、高い応力が作用した場合は、溶接部を脆性亀裂が進展してしまう恐れがある。
最近では、省力化を目的として、溶接構造体はエレクトロガスアーク溶接等の大入熱溶接により製造されている関係上、その溶接部の破壊靭性がさらに低下するということが懸念されている。
【0004】
これまで、溶接構造体の溶接部で発生した亀裂の脆性的進展は、残留応力の存在により母材側に侵入するため、母材に十分な脆性亀裂伝播停止特性があれば、脆性亀裂の進展が停止すると考えられてきた。ところが、昨今の研究により、少なくとも50mm以上の板厚の圧鋼板の大入熱突合せ溶接部を進展する脆性亀裂は、母材側に逸れることなく溶接部(溶接金属部)を進み、特段の措置を講じなければ脆性亀裂の進展を停止させることができなということが明らかになってきている。
【0005】
ところで、脆性亀裂が伝播するのを阻止し得るようにした耐脆性亀裂伝播性に優れた溶接構造体が知られている。この従来例に係る耐脆性亀裂伝播性に優れた溶接構造体は、下記のとおりである。
【0006】
即ち、溶接構造体の脆性亀裂が伝播する可能性のある突合せ溶接継ぎ手において、脆性亀裂の進展を停止させる領域に対し、当該領域の突合せ溶接継ぎ手の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分を補修溶接することにより突合せ溶接部に比べて高い靭性を有し、かつ、突合せ溶接部の長手方向に対する外縁方向の角度φが10度以上、60度以下である補修溶接部を形成するにより、亀裂を母材に逸らせて脆性亀裂の進展を停止させるようにしたものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−131708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来例に係る耐脆性亀裂伝播性に優れた溶接構造体によれば、突合せ溶接部に補修溶接部を形成するにより、亀裂を母材側に逸らせて脆性亀裂の進展を停止させることができるので、脆性亀裂の進展停止機能の観点からすれば、極めて優れていると考えられる。
しかしながら、突合せ溶接部の一部をガウジングや機械加工によって除去するということは、作業工数の増加を来たすことになるため、多大な労力と時間を要するので、溶接構造体の製造コストの観点から好ましくない。
【0008】
従って、本発明の目的は、大入熱突合せ溶接された、板厚が50mmを超える厚鋼板からなるT字型継ぎ手、または十字型継ぎ手のうちの何れか一方の継ぎ手を備えた厚鋼板の溶接構造体に発生して進展する脆性亀裂を、T字型継ぎ手、または十字型継ぎ手付近で確実に停止させることができ、十分な疲労強度を有し、しかも作業性、経済性に優れた厚鋼板の溶接構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、下記の点を知見して本発明を具現するに至ったものである。即ち、大入熱溶接で突合せ溶接された、50mmを超える板厚の厚鋼板の溶接構造体の母材または突合せ溶接部に、何らかの原因(例えば、疲労等)で亀裂が発生し、高応力作用時に脆性亀裂が熱影響部あるいは溶接金属部に侵入すると、突合せ溶接部に沿って進展することを知見した。これは、溶接構造体の突合せ溶接部の破壊靭性が小さいため、残留応力の影響の有無に拘わらず、脆性亀裂が突合せ溶接部に沿って進展すると解することができる。そして、脆性亀裂の進展を停止させるためには、脆性亀裂の先端の応力集中を消失させる亀裂進展停止手段として穴を設ければよいと考えたものである。
【0010】
従って、上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る厚鋼板の溶接構造体が採用した手段の要旨は、何れも板厚が50mmを超える厚鋼板から構成され、所定の間隔を隔てて配設された2枚の厚鋼板の相対する側の端面に形成された開先同士の間が大入熱溶接されてなる突合せ溶接部を有する第1厚鋼板の端面側が第2厚鋼板の一方側の平面に相対して溶接されたT字型継ぎ手、または前記第2厚鋼板の前記第1厚鋼板が溶接された他方側の平面に第3厚鋼板の端面側が相対して溶接された十字型継ぎ手のうちの何れか一方の継ぎ手を備えた厚鋼板の溶接構造体において、前記第1厚鋼板の前記突合せ溶接部の端部が交差する前記第2厚鋼板の平面であって、かつこの第2厚鋼板の前記第1厚鋼板の板厚の外側の少なくとも一方側に、長手方向が前記第1厚鋼板の平面に沿い、かつ前記第2厚鋼板を貫通する長穴が設けられてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項2に係る厚鋼板の溶接構造体が採用した手段の要旨は、請求項1に記載の厚鋼板の溶接構造体において、前記長穴の長手方向の長さLは、前記第1厚鋼板の前記突合せ溶接部の幅を含む熱影響部の幅寸法より大寸法に設定されてなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項3に係る厚鋼板の溶接構造体が採用した手段の要旨は、請求項1に記載の厚鋼板の溶接構造体において、前記長穴の長手方向の長さLは、前記第1厚鋼板の前記突合せ溶接部の幅を含む熱影響部の幅寸法より、前記第1厚鋼板の表面から前記長穴の位置までの距離Lの2倍以上長い寸法に設定されてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項4に係る厚鋼板の溶接構造体が採用した手段の要旨は、請求項1乃至3のうちの何れか一つの項に記載の厚鋼板の溶接構造体において、前記長穴の内周面は、仕上げ加工されてなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項5に係る厚鋼板の溶接構造体が採用した手段の要旨は、請求項1乃至4のうちの何れか一つの項に記載の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手において、前記長穴は、前記第2厚鋼板に予め設けられてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1乃至5に係る厚鋼板の溶接構造体によれば、第1厚鋼板の突合せ溶接部の端部が交差する第2厚鋼板の平面であって、かつこの第2厚鋼板の第1厚鋼板の板厚の外側の少なくとも一方側に、長手方向が第1厚鋼板の平面に沿い、かつ第2厚鋼板を貫通する長穴が設けられている。
【0016】
従って、本発明の請求項1乃至5に係る厚鋼板の溶接構造体によれば、第1厚鋼板に何らかの原因で亀裂が発生し、脆性亀裂が第2厚鋼板を貫通する長穴に突入すれば、亀裂先端の応力集中が消失するため、脆性亀裂の進展が停止することになる。通常、亀裂の進展経路を分からないが、脆性亀裂の進展経路は突合せ溶接部に限られ、第2厚鋼板を貫通する長穴で、脆性亀裂の進展を停止させることができるため、第2厚鋼板にさらに亀裂が進展するのを防止することができる。
【0017】
本発明の請求項2に係る厚鋼板の溶接構造体によれば、長穴の長手方向の長さLは、第1厚鋼板の突合せ溶接部の幅を含む熱影響部の幅寸法より大寸法に設定されているため、長穴に脆性亀裂を誘導することができる。即ち、発明者らの実験による知見によれば、第1厚鋼板の突合せ溶接部に沿って進展する脆性亀裂は勿論のこと、熱影響部を進展する脆性亀裂も長穴に誘導されるため、第2厚鋼板に亀裂が進展するのを防止することができる。
【0018】
本発明の請求項3に係る厚鋼板の溶接構造体によれば、長穴の長手方向の長さLは、第1厚鋼板の突合せ溶接部の幅を含む熱影響部の幅寸法より、第1厚鋼板の表面から長穴の位置までの距離Lの2倍以上長い寸法に設定されているため、第2厚鋼板に進展した亀裂を確実に長穴に誘導することができる。例えば、第1厚鋼板の突合せ溶接部が第2厚鋼板の母材に交差している場合、第2厚鋼板の母材に進展してきた亀裂は残留応力の存在、亀裂進展時の応力分布、破壊靭性のばらつき等の理由によって、応力の作用方向に対して必ずしも垂直に進展する訳ではない。
【0019】
ところで、発明者らの実験による知見によれば、亀裂の進展方向の角度は引張り方向と直交する垂直線に対して±45度以上になることがないから、第2厚鋼板に進展した亀裂を確実に長穴に誘導することができる。なお、第1厚鋼板の表面から長穴の位置までの距離が近い方が長穴の長手方向の寸法を小寸法にすることができる。しかしながら、第1厚鋼板の表面から長穴の位置までの距離は、第2厚鋼板の応力が第1厚鋼板に近い方が高応力である場合や、第1厚鋼板と第2厚鋼板との溶接作業性を考慮すると、第1,2厚鋼板の板厚寸法以上にするのが好ましい。
【0020】
本発明の請求項4に係る厚鋼板の溶接構造体によれば、長穴の内周面は、仕上げ加工されている。従って、長穴に応力が集中するが、応力集中の程度を緩和することができ、十分な強度を備えた溶接構造体を構成することが可能になる。
【0021】
本発明の請求項5に係る厚鋼板の溶接構造体によれば、長穴は、第2厚鋼板に予め設けられている。従って、板状での加工であるため、短時間で、しかも仕上げ程度が優れた長穴を容易に加工することができるから、長穴の加工作業時間の短縮により溶接構造体の製造コスト低減が可能になるのに加えて、溶接構造体の疲労強度の著しい低下を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体を、この溶接構造体が十字型継ぎ手である場合を例として、添付図面を順次参照しながら説明する。図1は本発明の実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体の主要部斜視図であり、図2は図1のA矢視図であり、図3は図1のB矢視図でわり、図4は長穴の平面形状の例を示す図である。
【0023】
図に示す符号Wは、本発明の実施の形態に係り、何れも板厚が60mmの鋼板からなる厚鋼板の溶接構造体である。この厚鋼板の溶接構造体Wは、所定の間隔を隔てて配設されてなる厚鋼板1aと厚鋼板1bとが突合せ溶接されてなる第1厚鋼板1を有している。より詳しくは、前記第1厚鋼板1は、前記厚鋼板1aと前記厚鋼板1bの相対する端面の間に形成されてなるV型開先の間に、大入熱溶接されてなる突合せ溶接部1cが形成されている。
【0024】
第1厚鋼板1の端面側が第2厚鋼板2の、図1における上側の平面に相対して溶接されると共に、図1における下側の平面に第3厚鋼板5の端面側が相対して溶接されており、いわゆる十字型継ぎ手を備えている。そして、第1厚鋼板1の突合せ溶接部1cの端部が交差する第2厚鋼板2の平面であって、かつこの第2厚鋼板2の第1厚鋼板1の板厚の両側のそれぞれに、長手方向が前記第1厚鋼板1の平面に沿い、かつこの第2厚鋼板を貫通する、後述する長穴4が設けられている。なお、図1において示す符号3は、第1厚鋼板1の端面側を第2厚鋼板2の平面に大入熱溶接されてなる隅肉溶接部3である。
【0025】
因みに、この構成に係る厚鋼板の溶接構造体Wが、例えばコンテナ船のどの部位に相当するかといえば、図1における上側の第1厚鋼板がハッチサイドコーミングに相当し、また第2厚鋼板2が上甲板に相当するものである。なお、図1においては、コーミングトップ、スラブロンジ等は省略している。
【0026】
前記長穴4の長手方向の寸法、つまり長さLは、第1厚鋼板1の突合せ溶接部1cの幅を含む熱影響部の幅寸法よりも大寸法になるように設定されている。より具体的には、前記長穴4の長さLは、第1厚鋼板1の突合せ溶接部1cの幅を含む熱影響部の幅寸法よりも、前記第1厚鋼板1の表面から、この長穴4の位置までの距離Lの2倍以上長い寸法に設定されている。そして、この長穴4の内周面は、長穴4における応力集中を緩和するために、グラインダーにより仕上げ加工されている。
【0027】
なお、本実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体Wにおける長穴4は、図1,2から良く理解されるように、両端の半円間の幅は同寸法になっている。しかしながら、このような形状に限るものではなく、例えば図4に示すように、所定の間隔を隔てた位置の2箇所に丸穴をあけ、これら丸穴同士の間を、丸穴の直径よりも幅が狭い長穴で連ねた形状にすることができる。
【0028】
以下、本実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体Wの作用態様を説明する。即ち、この厚鋼板の溶接構造体Wでは、第1厚鋼板1の突合せ溶接部1cの端部が交差する第2厚鋼板2の平面であって、かつこの第2厚鋼板2の第1厚鋼板1の板厚の外側の少なくとも一方側に、長手方向が第1厚鋼板1の平面に沿い、かつ第2厚鋼板2を貫通する長穴4が設けられている。
【0029】
従って、本実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体Wによれば、第1厚鋼板1に何らかの原因で亀裂が発生し、脆性亀裂が第2厚鋼板2を貫通する長穴に突入すれば、亀裂先端の応力集中が消失するため、脆性亀裂の進展が停止することになる。通常、亀裂の進展経路を分からないが、脆性亀裂の進展経路は突合せ溶接部1cに限られ、第2厚鋼板2を貫通する長穴4で、脆性亀裂の進展を停止させることができるため、第2厚鋼板2に亀裂が進展するのを防止することができる。
【0030】
また、本実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体では、長穴の長手方向の寸法である長さLは、第1厚鋼板1の突合せ溶接部1cの幅を含む熱影響部の幅寸法よりも、第1厚鋼板1の表面から長穴4の位置までの距離Lの2倍以上長い寸法に設定されているため、第2厚鋼板に進展した亀裂を確実に長穴4に誘導することができる。例えば、第1厚鋼板1の突合せ溶接部1cが第2厚鋼板2の母材に交差している場合、第2厚鋼板2の母材に進展してきた亀裂は残留応力の存在、亀裂進展時の応力分布、破壊靭性のばらつき等の理由によって、応力の作用方向に対して必ずしも垂直に進展する訳ではない。
【0031】
しかしながら、発明者らの実験による知見によれば、亀裂の進展方向の角度は引張り方向と直交する垂直線に対して±45度以上になることがないから、第2厚鋼板2に進展してきた亀裂を確実に長穴に誘導して、亀裂の進展を停止させることができる。なお、第1厚鋼板1の表面から長穴4の位置までの距離Lが近い方が長穴4の長さLを小寸法にすることができる。なお、第1厚鋼板1の表面から長穴4の位置までの距離Lは、第2厚鋼板2の応力が第1厚鋼板1に近い方が高応力である場合や、第1厚鋼板1と第2厚鋼板2との溶接作業性を考慮すると、厚鋼板の板厚寸法、つまり60mm以上にするのが好ましい。
【0032】
本実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体Wによれば、長穴4の内周面は、グラインダーにより仕上げ加工されている。従って、長穴4に応力が集中するが、応力集中の程度を緩和することができるため、十分な強度を備えた厚鋼板の溶接構造体Wを構成することが可能になる。
【0033】
ところで、本実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体Wにおける第2厚鋼板の長穴4は、前記第1厚鋼板1を溶接する前に、板の状態の第2厚鋼板2に予め設けたものである。
従って、この場合、板状での加工であるため短時間で加工することができ、しかも機械加工が可能であるため、仕上げ程度が優れた長穴にすることができるから、長穴4の加工作業時間の短縮により溶接構造体Wの製造コスト低減が可能になるのに加えて、溶接構造体Wの疲労強度の著しい低下を回避することができる。
【実施例】
【0034】
本実施の形態に係る溶接構造体の試験体について行った実施例を説明する。この試験体の仕様は下記のとおりである。
(1)第1厚鋼板と第2厚鋼板の板厚 : 60mm
(2)第1厚鋼板の幅寸法 :1000mm
(3)第2厚鋼板の幅寸法 : 400mm
(4)長穴の寸法(長さ×幅) : 120mm×60mm
(5)第1厚鋼板の表面から長穴の位置までの距離: 60mm
(6)第1厚鋼板と第2厚鋼板の材質 :降伏応力390N/mm級鋼
(7)溶接 :エレクトロガスアーク溶接
上記のような仕様の溶接構造体の試験体に対して引張試験機により設計応力を発生させる荷重を付加しながら、第1厚鋼板と第2厚鋼板を−10℃に冷却して、第1厚鋼板に脆性亀裂を進展させた。その結果、脆性亀裂は第2厚鋼板に進展したが、この第2厚鋼板に進展した脆性亀裂は長穴に誘導されて停止した。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体Wによれば、第1厚鋼板1に高応力を発生させた場合に進展する脆性亀裂を長穴で確実に停止させることができる。そして、従来例のように、突合せ溶接部の一部をガウジングや機械加工によって除去する必要がないから、十分な疲労強度を有し、しかも作業性、経済性に優れた厚鋼板の溶接構造体を提供することができる。
【0036】
なお、以上の実施の形態に係る溶接構造体Wの場合にあっては、この溶接構造体Wが十字型継ぎ手を備えた構成である場合を例として説明した。しかしながら、特に十字型継ぎ手に限るものではなく、T字型継ぎ手を備えた溶接構造体に対しても本発明の技術的思想を適用することができる。また、以上の実施の形態に係る溶接構造体Wにおいては、第1厚鋼板1の突合せ溶接部1cの端部が交差する第2厚鋼板2の平面であって、かつこの第2厚鋼板2の第1厚鋼板1の板厚の両側に長穴4が設けられている。しかしながら、第2厚鋼板2の第1厚鋼板1の片側だけに長穴が設けられている場合でも、第2厚鋼板2に進展した脆性亀裂を停止させることができる。従って、上記実施の形態に係る構成の溶接構造体に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る厚鋼板の溶接構造体の主要部斜視図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】図1のB矢視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係り、長穴の平面形状の例を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
Ws…溶接構造体
1…第1厚鋼板,1a…第1半厚鋼板,1b…第2半厚鋼板
2…第2厚鋼板
3…隅肉溶接部
4…長穴
5…第3厚鋼板
…長穴の長さ
…第1厚鋼板の表面から長穴の位置までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
何れも板厚が50mmを超える厚鋼板から構成され、所定の間隔を隔てて配設された2枚の厚鋼板の相対する側の端面に形成された開先同士の間が大入熱溶接されてなる突合せ溶接部を有する第1厚鋼板の端面側が第2厚鋼板の一方側の平面に相対して溶接されたT字型継ぎ手、または前記第2厚鋼板の前記第1厚鋼板が溶接された他方側の平面に第3厚鋼板の端面側が相対して溶接された十字型継ぎ手のうちの何れか一方の継ぎ手を備えた厚鋼板の溶接構造体において、前記第1厚鋼板の前記突合せ溶接部の端部が交差する前記第2厚鋼板の平面であって、かつこの第2厚鋼板の前記第1厚鋼板の板厚の外側の少なくとも一方側に、長手方向が前記第1厚鋼板の平面に沿い、かつ前記第2厚鋼板を貫通する長穴が設けられてなることを特徴とする厚鋼板の溶接構造体。
【請求項2】
前記長穴の長手方向の長さLは、前記第1厚鋼板の前記突合せ溶接部の幅を含む熱影響部の幅寸法より大寸法に設定されてなることを特徴とする請求項1に記載の厚鋼板の溶接構造体。
【請求項3】
前記長穴の長手方向の長さLは、前記第1厚鋼板の前記突合せ溶接部の幅を含む熱影響部の幅寸法より、前記第1厚鋼板の表面から前記長穴の位置までの距離Lの2倍以上長い寸法に設定されてなることを特徴とする請求項1に記載の厚鋼板の溶接構造体。
【請求項4】
前記長穴の内周面は、仕上げ加工されてなることを特徴とする請求項1乃至3のうちの何れか一つの項に記載の厚鋼板の溶接構造体。
【請求項5】
前記長穴は、前記第2厚鋼板に予め設けられてなることを特徴とする請求項1乃至4のうちの何れか一つの項に記載の厚鋼板の溶接構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−113080(P2009−113080A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288669(P2007−288669)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】