説明

原子吸光光度計

【課題】原子吸光光度計における電気加熱炉の抵抗値の変化に基づく加熱温度のバラつきを低減し、信頼性の高い測定結果を得る。
【解決手段】電気加熱炉の加熱温度と電気加熱炉に印加する印加電流の値、および電気加熱炉の発光強度をモニターする光センサーの出力値との関係を求める制御装置と、加熱温度と光センサーの出力値の時間変化に応じた複数の特性曲線を求めて記憶する記憶装置とを備え、制御装置は、加熱温度の測定値に対する印加電流を複数の特性曲線の中から選択して制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気加熱炉に注入された試料を加熱原子化し、試料中の金属濃度を定量する原子吸光光度計に関し、特に電気加熱炉の加熱温度の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料を電気加熱する原子吸光光度計は、一般に、グラファイトあるいは金属等の電気良導体からなる電気加熱炉に試料を導入し、電気加熱炉内を加熱することによって、導入された試料に含まれる金属元素の原子化を行い、このとき生じる光の吸収を測定することにより、試料中の金属元素の定量を行う。この電気加熱炉は、一般に、電源から電力が供給されることにより生じたジュール熱により加熱される。電気加熱炉に試料が導入されると、電気加熱炉は、まず約100℃に加熱されて、試料の乾燥を行う。次に、元素の種類によりその値は異なるが数100℃に加熱され、試料中に共存する有機物や無機物の分解,蒸発など、すなわち灰化が行われる。次に、これも元素の種類により値が異なるが1000℃から3000℃に加熱され、目的元素の原子化を行う。原子化した元素は、特定波長の光を吸収するため、電気加熱炉を通過する光の吸収信号として検知することができる。
【0003】
電気加熱炉は、測定を繰り返すうちに電気加熱炉の材質が劣化することで、その抵抗値が変化していく。抵抗値が変化することにより、電気加熱炉の加熱温度にばらつきが生じ、測定データの精度が低下してしまう。
【0004】
この加熱温度のばらつきを防止するために、従来の技術では、電気加熱炉の発光強度による光温度制御方式を使用し、発光強度が記憶されている発光強度と一致するように電流の制御が行われている。これは、発光強度が得られる温度範囲でもある原子化のみにて行われている。
【0005】
これを、発光強度の得られない温度範囲にて加熱温度を制御する手段として、電気加熱炉が加熱時に消費する電流値と電圧値を計測して、電力値を算出し、電力値の変化量で加熱温度を制御する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−180283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、原子吸光光度計における電気加熱炉の抵抗値の変化に基づく加熱温度のバラつきを低減し、信頼性の高い測定結果を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施態様によれば、電気加熱炉の加熱温度と電気加熱炉に印加する印加電流の値、および電気加熱炉の発光強度をモニターする光センサーの出力値との関係を求める制御装置と、加熱温度と光センサーの出力値の時間変化に応じた複数の特性曲線を求めて記憶する記憶装置とを備え、制御装置は、加熱温度の測定値に対する印加電流を複数の特性曲線の中から選択して制御するように構成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電気加熱炉の抵抗値の変化による加熱温度のバラつきを低減することができ、信頼性の高い測定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】原子吸光光度計の概略構成を示す構成図である。
【図2】電気加熱炉の加熱温度と印加電流の関係の一例を示す関係図である。
【図3】電気加熱炉の加熱温度と光センサーの出力の関係の一例を示す関係図である。
【図4】電気加熱炉の抵抗変化時における光センサーの出力の変化の一例を示す関係図である。
【図5】電気加熱炉の抵抗変化時における印加電流と加熱温度の関係の一例を示す関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0012】
〔実施例〕
図1は、本発明の実施例である原子吸光光度計の概略構成を示す構成図である。光源1からの光は電気加熱炉2を通過し、分光器3を経て検出器4に入射する。試料は、電気加熱炉2に導入され、電圧印加部8にて出力された電流により電気加熱炉の温度が上昇し、原子化する。この際、原子化された試料は光源1からの光を吸収するため、この光吸収を検出器4にて検出し、吸光度に換算する。これらの動作は、全て制御部6によって制御されている。また、電気加熱炉の発光は、光センサー5によってモニターされ、光センサー5の出力は、制御部6に取りこまれている。さらに、電気加熱炉に印加する電流は、電流センサー7によって検出され、制御部6に取りこまれている。
【0013】
電気加熱炉2の温度は、これに印加され電流によって制御される。図2は、電気加熱炉2の加熱温度と印加電流の関係の一例を示す関係図である。実際の測定においては、制御部6に入力された温度に対し、図2の関係に基づいた電流が印加される。
【0014】
図3は、電気加熱炉2の加熱温度と光センサー5の出力の関係の一例を示す関係図である。このグラフは、電気加熱炉2の加熱温度を変え、光センサー5の出力をプロットすることで得ることができる。この関係を制御部6の図示しない記憶装置に記憶させておく。
【0015】
図4は、電気加熱炉2の抵抗変化時における光センサー5の出力の変化の一例を示す関係図である。一般に、加熱温度は一定値に設定されるので、印加される電流値も一定である。そのため、加熱温度Tに対する光センサー5の出力が出力値Aとして記憶される。この関係は、線分aとして表される。しかし、測定を繰り返すうちに、電気加熱炉2が消耗することでその抵抗値が上がり、一定電流値における光センサー5の出力が出力値Bに変化してしまう。そのときの特性は、線分bとして表される。特性が線分bのようになってしまう結果、電気加熱炉の温度が高くなってしまう。したがって、出力値Aと出力値Bとの差を予め見込んで補正する必要がある。
【0016】
図5は、電気加熱炉2の抵抗変化時における印加電流と加熱温度の関係の一例を示す関係図である。測定においては、加熱温度Tに対し、温度−電流の関係式である曲線cに基づいた電流値Cを印加する。電気加熱炉2の抵抗値が変化しても、印加される電流は一定であるため、電気加熱炉2の抵抗変化時には、電気加熱炉2の温度が高くなる。
【0017】
本発明では、加熱温度Tにする際に、印加する電流値D,E,Fに伴った温度−電流関係式、すなわち曲線d,曲線e,曲線fを、図4に示した方法で、光センサー5を用いてそれぞれ実測してあらかじめ算出し、記憶装置へ記憶させておく。そして、電気加熱炉2の抵抗変化時には、電気加熱炉の温度を一定に保つために必要な電流値を算出する。
【0018】
加熱温度Tに対し、算出された電流値が電流値Dであれば、記憶されている温度−電流関係式の曲線dを記憶装置から呼び出し、加熱温度Tにおける印加電流がDになるように制御を行う。電流値E,電流値Fについても同様であり、加熱温度Tに対し、算出された電流値が電流値Eであれば、記憶されている温度−電流関係式の曲線eを記憶装置から呼び出し、加熱温度Tにおける印加電流がEになるように制御を行う。また、加熱温度Tに対し、算出された電流値が電流値Fであれば、記憶されている温度−電流関係式の曲線fを記憶装置から呼び出し、加熱温度Tにおける印加電流がFになるように制御を行う。このようにして、電気加熱炉2の抵抗変化時における温度変化を低減することが可能となる。
【0019】
以上のように、本発明によれば、光センサーの出力に基づき特性曲線を作成し、これに基づいて印加電流を制御すことにより、電気加熱炉の抵抗値の変化による加熱温度のばらつきを低減することが可能となり、信頼性の高いデータを得ることができる。
【0020】
以上をまとめると、本発明による原子吸光光度計は以下の手段を有している。すなわち、電流を流して電気加熱炉内の試料を加熱し、乾燥,灰化、および原子化し、偏光ゼーマン法により試料原子の吸収分析を行う原子吸光光度計において、前記試料を加熱し原子化を行う電気加熱炉を有する加熱手段と、原子化した前記試料に対して測定光を照射する発光手段と、前記加熱手段を通過した測定光を任意の波長毎に分光する分光手段と、該分光手段により分光された波長について光度検出を行う検出手段と、測定すべき波長を指示入力する入力手段と、前記各手段の制御を行う制御手段と、前記電気加熱炉に流れる電流を検出する電流検出手段と、電流供給時の電気加熱炉の発光強度をモニターする光センサーと、電流供給時の電気加熱炉の発光強度を記憶する記憶手段とを備え、一定温度範囲においてあらかじめ記憶しておいた発光強度と実測した発光強度の値から補正値の算出を行い、該補正値に従い温度−電流関係式の算出を行う算出手段と、前記温度−電流関係式に従って前記電流の制御を行う電流制御手段である。
【符号の説明】
【0021】
1 光源
2 電気加熱炉
3 分光器
4 検出器
5 光センサー
6 制御部
7 電流センサー
8 電圧印加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流を流して電気加熱炉内の試料を加熱し、乾燥,灰化、および原子化し、偏光ゼーマン法により試料原子の吸収分析を行う原子吸光光度計において、前記試料を加熱し原子化を行う電気加熱炉を有する加熱手段と、原子化した前記試料に対して測定光を照射する発光手段と、前記加熱手段を通過した測定光を任意の波長毎に分光する分光手段と、該分光手段により分光された波長について光度検出を行う検出手段と、測定すべき波長を指示入力する入力手段と、前記各手段の制御を行う制御手段と、前記電気加熱炉に流れる電流を検出する電流検出手段と、電流供給時の電気加熱炉の発光強度をモニターする光センサーと、電流供給時の電気加熱炉の発光強度を記憶する記憶手段とを備え、一定温度範囲においてあらかじめ記憶しておいた発光強度と実測した発光強度の値から補正値の算出を行い、該補正値に従い温度−電流関係式の算出を行う算出手段と、前記温度−電流関係式に従って前記電流の制御を行う電流制御手段とを備えたことを特徴とする原子吸光光度計。
【請求項2】
試料を電気加熱炉で加熱して原子化し、光源からの光の原子化された試料による吸収を測定して前記試料を分析する原子吸光光度計において、
前記電気加熱炉の加熱温度と前記電気加熱炉に印加する印加電流の値、および前記電気加熱炉の発光強度をモニターする光センサーの出力値との関係を求める制御装置と、前記加熱温度と前記光センサーの出力値の時間変化に応じた複数の特性曲線を求めて記憶する記憶装置とを備え、前記制御装置は、加熱温度の測定値に対する印加電流を前記複数の特性曲線の中から選択して制御することを特徴とする原子吸光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−154653(P2012−154653A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11506(P2011−11506)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】