説明

原子吸光分光光度計

【課題】専用の光軸調整冶具を用いなくても光軸調整が簡単且つ正確にできる原子吸光分光光度計を提供する。
【解決手段】光源1と、この光源1がこの光源1に最も近い第1集光素子11を見込む立体角を定義する大きさの第1の開口2を設けた第1開口装置3と、光源1から第1集光素子11に至る光軸調整時に、第1開口装置3と第1集光素子11との間に設けられ、光源1から放射され第1の開口2を通過した光束の一部を制限する大きさの第2の開口4が設けられ、原子吸光分析時には第2の開口4が光束を制限しない位置に移動する第2開口装置5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子吸光分光光度計に係り、特に原子吸光分光光度計の光軸の調整技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子吸光分光光度計においては、光源と光源に最も近い集光素子(以下において、光源に最も近い集光素子を「第1集光素子」と言う。)で初期光軸が決定している。第1集光素子は、レンズ及びミラー等で構成される。原子吸光分光光度計の初期光軸は、光源と第1集光素子により形成されるが、これらを精密に定義するための方法は煩雑であるため、工場に於ける出荷時の光学系の調整等においては、独自に開発した専用の光軸調整冶具を使用していた(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、専用の光軸調整冶具を有しないユーザが光源交換時等において、これらの光学素子を調整するのは困難である。
【0003】
したがって、従来の原子吸光分光光度計においては、精度良く光軸を調整するのには限度があり、その結果、光学系の配置において精度のばらつきが生じる問題がある。
【特許文献1】特公平08−027232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、専用の光軸調整冶具を用いなくても光軸調整が簡単且つ正確にできる原子吸光分光光度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の様態は、(イ)光源と、(ロ)この光源がこの光源に最も近い集光素子を見込む立体角を定義する大きさの第1の開口を設けた第1開口装置と、(ハ)光源から集光素子に至る光軸調整時に、第1開口装置と集光素子との間に設けられ、光源から放射され第1の開口を通過した光束の一部を制限する大きさの第2の開口が設けられ、原子吸光分析時には第2の開口が光束を制限しない位置に移動する第2開口装置とを備える原子吸光分光光度計であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、専用の光軸調整冶具を用いなくても光軸調整が簡単且つ正確にできる原子吸光分光光度計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0008】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る原子吸光分光光度計は、図2〜図4に示すように、光源1と、この光源1がこの光源1に最も近い第1集光素子11を見込む立体角を定義する大きさの第1の開口2を設けた第1開口装置3と、光源1から第1集光素子11に至る光軸調整時に、第1開口装置3と第1集光素子11との間に設けられ、光源1から放射され第1の開口2を通過した光束の一部を制限する大きさの第2の開口4が設けられ、原子吸光分析時には第2の開口4が光束を制限しない位置に移動する第2開口装置5とを備える。「第1集光素子11を見込む立体角を定義する大きさの第1の開口2」とは、第1の開口2の面積は、第1集光素子11の全体を見込む立体角が第1開口装置3を切り取る面積に等しいという意味に等価である。第1開口装置3の第1の開口2は、光軸調整時及び原子吸光分析時(測定時)のどちらにも使用される。一方、第2開口装置5の第2の開口4は、光軸調整時のみに使用され、原子吸光分析時(測定時)には、第2の開口4は光軸から移動し、光源1から放射された光束を制限しないような配置位置に配置される。
【0009】
本発明の実施の形態に係る原子吸光分光光度計は、図1に示すように、更に、第2集光素子12,原子化部6、分光部7、検出部8、測定部9、制御部10、操作部13、表示部14等を備える。光源1は、測定元素固有の波長(共鳴吸収線)を有する測定光を放射する。光源1には、例えば、中空陰極ランプ、重水素ランプ及びそれらの組み合わせたもの、あるいは、ネオンやアルゴンのような希ガスが1mmHg程度封入されたホロカソードランプ等が使用可能である。原子吸光分析時(測定時)において、第1集光素子11で反射された光は、更に第2集光素子12で反射され、原子化部6に導入される。原子化部6は、霧状にした試料溶液を燃焼ガス及び助燃ガスと混合し燃焼させ、原子化する。分光部7は、第2集光素子12で反射され、高温で原子化した試料蒸気を通過した光束を分光し、輝線スペクトルを得る。検出部8は、分光部7で得られた輝線スペクトルを検出し、電気信号として出力する。測定部9は、検出部8が出力した電気信号から試料に照射した特定波長における光の吸収強度を測定し、試料溶液中の測定対象の元素濃度を決定する。制御部10は、光源1の出力や原子化部6の処理を制御する。操作部13は、制御部10に送信する、制御すべき情報を入力する。表示部14は、操作部13で入力された制御情報及び測定部9によって得られた、試料中に含まれる元素濃度等の測定結果を表示する。
【0010】
図2及び図3に示すように、第1開口装置3は、光軸調整時において、光源1から放射された光束の光軸を決定するため、第1の開口2を設けている。第1開口装置3は、例えば、光源1と第1集光素子11との距離の1/5〜1/2程度、好ましい一例としては1/3程度の距離で光源1から離間して配置される。第1開口装置3には、光軸調整用に新たに部品を追加する必要をなくすため、原子吸光分光光度計の本来の機能(即ち、光軸調整とは別の機能)を実現するために原子吸光分光光度計の基本要素として設置されている部品を兼用する。このような原子吸光分光光度計の基本要素としては、例えば、熱遮蔽板及び仕切り板があり、これらの熱遮蔽板や仕切り板に、第1の開口2を設けることで、第1開口装置3として使用可能である。従来の原子吸光分光光度計の熱遮蔽板にも、光源1からの光束を通過させる開口が開いているものがあるが、本発明の実施の形態に係る原子吸光分光光度計の第1の開口2は、従来の原子吸光分光光度計の熱遮蔽板に設けられた開口よりも、例えば、約1/3程度の大きさの小さな大きさである。このような従来よりも小さな第1の開口2を規定することにより、第1の開口2は、光源1から第1集光素子11を見込む立体角を定義している。
【0011】
第2開口装置5は、光軸調整時において、第1開口装置3の第1の開口2を通過した光束を調整するため、第2の開口4を設けている。第2開口装置5は、例えば、光源1と第1集光素子11との距離の1/5〜1/2程度、好ましい一例としては1/3程度の距離で第1集光素子11から離間して配置される。第2開口装置5には、第2開口装置5と同様、光軸調整用に新たに部品を追加する必要をなくすため、他の機能(原子吸光分光光度計の本来の機能)を実現するために原子吸光分光光度計の基本要素として設置されている部品を兼用する。このような原子吸光分光光度計の基本要素としては、例えば、回転等により場所の切替機能を有する減光素子がある。光軸調整時においては、この減光素子上の、原子吸光分光測定時に用いられる箇所ではない位置に、第1開口装置3の第1の開口2を通過した光束の一部を制限する第2の開口4を設けることで、第2開口装置5として使用可能である。これにより、光軸調整時には、回転移動により減光素子のメクラ板部分に光軸を決定するための第2の開口4を光軸上に挿入し、試料の原子吸光分析時(測定時)には第2開口装置5として用いた減光素子を回転して減光素子本来の機能を使用できる。
【0012】
図2及び図3に示すように、第1開口装置3に設けられた第1の開口2は、光源1から放射した光束が、第1集光素子11の全体を見込むような最小の立体角を定義する大きさにする。原子吸光分析時(測定時)には第2開口装置5の第2の開口4は除去されるのであるが、原子吸光分析時(測定時)に光源1から放射された光束が検出部8に到達する前に、第1の開口によって、第1集光素子11に到達する光束の光量に損失を与えないようにするためである。
【0013】
第2開口装置5が設ける第2の開口4の大きさは、光源1から放射され、第1の開口2を通過した光束の一部が、光軸調整時において制限される程度の大きさにするが、原子吸光分析時(測定時)には第2開口装置5の第2の開口4は光軸から除去される。上述したように、第2開口装置5として、減光素子を用いた場合、第2の開口4は、減光素子の原子吸光分析時(測定時)に用いられる部位ではない箇所に設けられる。減光素子は、図5及び図6に示すように、透過率が連続的及び段階的に変化する切替機構を有するが、第2開口装置5として用いる場合は、減光素子の原子吸光分析時(測定時)に用いられる部位ではない箇所に第2の開口4設けられる。
【0014】
即ち、図2及び図3に示すように、光源1から放射される光束の光軸調整及び光軸確認の際には、光軸を定義するための第2の開口4を、第1の開口2を通過した光束で形成される光軸上に挿入することで、光軸を調整する。一方、原子吸光分析時(測定時)には、本来の減光素子としての役割を果たすため、第2開口装置5として用いた減光素子の回転によって、第1の開口2を通過する測定光の光量を変化させ、減光率を変更できる。通常は、光量の調整機構を設けた光源1を調整することによって、減光率を変更するが、減光素子によっても、更に減光率を調整できる。
【0015】
図2及び図3に示すように、第1の開口2及び第2の開口4によって、光源1が放射する光束によって形成される初期光軸を一意に決定することにより、エネルギー効率が高く、安定した原子吸光分光を可能にする光軸調整を実現する。また、光軸調整用に別途大規模な治具を取り付ける必要がないため、客先などの原子吸光分光光度計の据付現場において、原子吸光分光光度計の光軸の調整及び確認を迅速、容易に行うことができる。
【0016】
図4は、図2及び図3の模式図に示した第1開口装置3と第2開口装置5とが、実際の原子吸光分光光度計として用いられる際の一態様を例示する概略図である。図4が示す例では、第1の開口2が設けられた第1開口装置3としてコの字型の熱遮蔽板が採用され、光源1を囲むように設置される。試料の原子吸光分析時(測定時)において、光源1が測定光を放射する際、同時に発生する熱を周囲の機器から遮断し、熱の影響によって生じる機器の測定誤差及び誤作動等を未然に防止する。また、第2の開口4が設けられた第2開口装置5として、光源1が放射する測定光の光路内に設けられた減光素子が採用される。第2開口装置(減光素子)5は、試料の原子吸光分析時(測定時)には、光源1から発せられた原子吸光測定用光束を所定の割合で減光し、その透過率を調節する。
【0017】
第2開口装置(減光素子)5は、試料の原子吸光分析時(測定時)において、測定光の減光の程度を光学的に調整する。このため、第2開口装置(減光素子)5は、図5に示す光学フィルタ23及び図には示してないが、光学フィルタ23を円周方向に移動させるステッピングモータで構成される。光学フィルタ23は、ガラス等の円形基材に混入する金属等の濃度の円周方向の変化により、透過率が円周方向に連続的に変化する。そして、第2開口装置5の減光素子として用いない空きスペースに第2の開口4が設けられている。
【0018】
また、第2開口装置(減光素子)5は、光学フィルタ23の代わりに、ガラス等による長方形の基材に混入する金属等の濃度の長手方向の変化により、透過率が長手方向を直線的、連続的に変化する光学フィルタと、この光学フィルタをラックとピニオンを介して直線方向に移動させるステッピングモータで構成されても良い。
【0019】
また、光学フィルタ23は、図6に示すように、円形の薄板に細かな開口を多数設け、円周方向にこの開口の径や単位面積当たりの孔数を変化させたことで、透過率が円周方向に連続的に変化する第2開口装置(減光素子)5が実現できる。図6においても、第2開口装置5の減光素子として用いない空きスペースに第2の開口4が設けられている。
【0020】
以上のように、本発明の実施の形態に係る原子吸光分光光度計によれば、光源1と第1集光素子11によって形成される初期光軸を一意に決定することで、エネルギー効率が高くばらつきの少ない原子吸光分光を可能にする光軸調整が可能となる。また、熱遮蔽板を第1開口装置3として、減光素子を第2開口装置5として用いているので、別途冶具を取り付ける必要がないため、容易に光軸の確認や調整が可能となり、原子吸光分光光度計の装置間の性能のバラツキも押さえることが可能になる。
【0021】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0022】
例えば、本発明の実施の形態においては、開口を設けた開口装置を、光源1及び第1集光素子11の間に2つ配置した。しかし、更に詳細な光束の調整行うために、2つ以上の開口装置を配置しても良い。
【0023】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る原子吸光分光光度計のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る原子吸光分光光度計において、光源1及び第1集光素子11が形成する光軸と第1開口装置及び第2開口装置との配置を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る原子吸光分光光度計において、光源1及び第1集光素子11が形成する光軸と第1開口装置及び第2開口装置との配置、光束と開口との関係を示す模式図である。
【図4】図2及び図3に示した第1開口装置と第2開口装置とを、実際の原子吸光分光光度計として用いられる際の一態様を例示する鳥瞰図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る第2開口装置として採用可能な減光素子(光学フィルタ)の模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る第2開口装置として採用可能な他の減光素子の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1…光源
2…第1の開口
3…第1開口装置
4…第2の開口
5…第2開口装置
6…原子化部
7…分光部
8…検出部
9…測定部
10…制御部
11…第1集光素子
12…第2集光素子
13…操作部
14…表示部
21…熱遮蔽板
22…減光素子
23…光学フィルタ
24…減光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
該光源が該光源に最も近い集光素子を見込む立体角を定義する大きさの第1の開口を設けた第1開口装置と、
前記光源から前記集光素子に至る光軸調整時に、前記第1開口装置と前記集光素子との間に設けられ、前記光源から放射され前記第1の開口を通過した光束の一部を制限する大きさの第2の開口が設けられ、原子吸光分析時には前記第2の開口が前記光束を制限しない位置に移動する第2開口装置
とを備えることを特徴とする原子吸光分光光度計。
【請求項2】
前記第1開口装置及び前記第2開口装置はそれぞれ、前記原子吸光分析時に所定の機能を発揮することを特徴とする請求項1に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項3】
前記第1開口装置は、前記光源が発生する熱を周囲の機器から遮断する熱遮蔽板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の原子吸光分光光度計。
【請求項4】
前記第2開口装置は、透過率が円周方向に変化する光学フィルタを備え、前記第2の開口は、前記光学フィルタの前記円周方向の空きスペースの一部に配置され、光軸調整時には前記光軸上に前記第2の開口が位置し、原子吸光分析時には、前記第2の開口が前記光軸から除外されるように前記円周方向に回転移動することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子吸光分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−103562(P2009−103562A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275063(P2007−275063)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】