説明

原子層堆積法成膜装置における回転ドラムおよび原子層堆積法成膜装置

【課題】装置全体を小型化可能として、多層の成膜を形成できる原子層堆積法成膜装置における回転ドラムおよび原子層堆積法成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜装置を、処理ドラム100に被成膜基板を所定角巻き付け連続的または断続的に搬送しながら、被成膜基板の内面に成膜する構成として、装置全体を小型化した。そして、処理ドラムに成膜源が設けられた回転ドラムを回転させることにより、多層の成膜を容易に形成できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相を用いて基板上に薄膜を形成する原子層堆積法成膜装置に関する。より詳しくは、基板を搬送しながら成膜を行う原子層堆積法成膜装置における回転ドラム及び原子層堆積法成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気相を用いて薄膜を形成する方法は、大別して化学的気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)と物理的気相成長法(PVD:Physical Vapor Deposition)とがある。
【0003】
PVDとして代表的なものには真空蒸着法やスパッタ法などがあり、特にスパッタ法では一般に装置コストは高いが膜質と膜厚の均一性に優れた高品質の薄膜の作製が行えるため、表示デバイスなどに広く応用されている。
【0004】
CVDは真空チャンバ内に原料ガスを導入し、熱エネルギーによって基板上で1種類あるいは2種類以上のガスを分解または反応させて固体薄膜を成長させるものである。反応を促進させたり、反応温度を下げたりするため、プラズマや触媒(Catalyst)反応を併用するものもある。プラズマを併用するものをPECVD(Plasma Enhanced CVD)、触媒反応を併用するものをCat−CVD(Catalytic CVD)と呼ぶ。化学的気相成長法は成膜欠陥が少ない特徴を有し、ゲート絶縁膜の成膜など半導体デバイス製造工程に主に適用されている。
【0005】
近年、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)が注目されている。ALDは、表面吸着した物質を表面における化学反応によって原子レベルで1層ずつ成膜していく方法であり、CVDに分類される。ALDが一般的なCVDと区別されるのは、一般的なCVDが単一のガスまたは複数のガスを同時に用いて基板上で反応させて薄膜を成長させるのに対して、ALDでは前駆体(またはプリカーサーともいう)と呼ばれる活性に富んだガスと反応性ガス(これもALDでは前駆体と呼ばれる)を交互に用い、基板表面における吸着と続く化学反応によって原子レベルで1層ずつ薄膜を成長させていく特殊な成膜方法にある。
【0006】
具体的には、表面吸着において表面がある種のガスで覆われるとそれ以上そのガスの吸着が生じない自己制限(self−limiting)効果を利用し、表面が前駆体を1層吸着したところで未反応の前駆体を排気する。続いて反応性ガスを導入して先の前駆体を酸化または還元して所望の組成を有する薄膜を1層得たのち反応性ガスを排気する。これを1サイクルとし、このサイクルを繰り返して、1サイクルで1層ずつ、薄膜を成長させていくものである。従ってALDでは薄膜は二次元的に成長する。ALDでは、従来の蒸着法やスパッタ法などとの比較ではもちろん、一般的なCVDなどと比較しても成膜欠陥が少ないことが特徴であり、様々な分野に応用が期待されている。
【0007】
ALDでは、第二の前駆体を分解し、基板に吸着している第一の前駆体と反応させる工程において、反応を活性化させるためにプラズマを用いる方法があり、これはプラズマ活性化ALD(PEALD:Plasma Enhanced ALD)または単にプラズマALDと呼ばれる。
【0008】
ALD技術そのものは1974年にフィンランドのDr. Tuomo Suntolaによって提唱された。高品質高密度な膜が得られるためゲート絶縁膜など半導体産業で応用が進められており、ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)にも記載がある。また他の成膜法と比較して斜影効果が無いなどの特徴があるため、ガスが入り込める隙間があれば成膜が可能であり、高アスペクト比を有するラインやホールの被覆のほか3次元構造物の被覆用途でMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)関連にも応用が期待されている。
【0009】
ALDの欠点として特殊な材料を使用する点やそのコスト等が挙げられるが、最大の欠点は、ALDは1サイクルで1層ずつ原子レベルの薄膜を成長させていく方法であるため、成膜速度が遅いことである。蒸着やスパッタ等の成膜法と比較して5〜10倍ほど遅い。
【0010】
以上述べてきたような成膜法を用いて薄膜を形成する対象は、ウェハーやフォトマスクなどの小さな板状の基板、ガラス板などの大面積でフレキシブル性が無い基板、またはフィルムなどの大面積でフレキシブル性がある基板、など様々に存在する。これに対応してこれらの基板に薄膜を形成するための量産設備では、コスト、取り扱いの容易さ、成膜品質などによって様々な基板の取り扱い方法が提案され、実用化されている。
【0011】
例えばウェハーでは基板一枚を成膜装置に供給して成膜して、その後、次の基板へ入れ換えて再び成膜を行う枚葉式や、複数の基板をまとめてセットし全てのウェハーに同一の成膜を行うバッチ式等がある。
【0012】
また、ガラス基板などに成膜を行う方法には、成膜の源となる部分に対して基板を逐次搬送しながら同時に成膜を行うインライン式や、さらには、主にフレシキブル基板に対してはロールから基板を巻き出し、搬送しながら成膜を行い、別のロールに基板を巻き取る、いわゆるロールツーロールによるウェブコーティング方式がある。フレシキブル基板だけでなく、成膜対象となる基板を連続搬送できるようなフレキシブルなシートまたは一部がフレシキブルとなるようなトレイに載せて連続成膜する方式も、ウェブコーティング方式に含まれる。
【0013】
いずれの成膜法、基板取り扱い方法も、コスト、品質、取り扱いの容易さなどから判断して最適な組み合わせが採用されている。
【0014】
光学膜の成膜などでは、異なる種類の薄膜を多層成膜する必要がある。またALDでは、膜厚によっては100〜200サイクルの前駆体曝露を実施して成膜が行われる。このような場合、フレシキブル基板を用いたウェブコーティング方式では1層に対して1成膜源が必要となる。
そのため、複数の成膜源を配設し、一つの工程で複数のサイクルの成膜を行う成膜装置が提案されている。
【0015】
このような従来の成膜装置として、特許文献1及び特許文献2に開示されたものがある。特許文献1に開示された成膜装置は、真空にしたチャンバ内においてALDを用いて成膜を行うものであり、処理ドラムの外面に巻きつけた薄膜の基板を2つのロールの間で搬送し、処理ドラムの外周部に放射状に配設された複数の成膜源により、薄膜の基板の外面に成膜する構成からなる。基板を複数の成膜源に暴露させて十分に厚い層を形成できる。
【0016】
特許文献2に開示された成膜装置は、CVDを用いて成膜を行うものであり、成膜ローラの外面に巻きつけた被成膜テープを2つのローラの間で搬送し、成膜ローラの外周部に放射状に配設された複数のCVD部により被成膜テープの外面に成膜する構成からなる。多層膜を時間的な無駄を伴うことなく効率的に形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特表2007−522344号公報
【特許文献2】国際公開第2006/093168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、複数の成膜源を処理ドラムの外周部に放射状に配設しているので、処理ドラムと比べて、装置全体が大きなものになるという不都合があった。また、サイクル数が増えるに従って設備が大型化し、生産コスト及び設備占有面積が増大するという不都合があった。
【0019】
また、特許文献2に記載の技術では、CVDにより多層化処理するために、複数のCVD部を成膜ローラの外周部に放射状に配設しているので、装置全体が大きくなるという不都合があった。
【0020】
本発明の目的は、装置全体の小型化を可能としながら、多層の成膜を形成できる原子層堆積法成膜装置における回転ドラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。
【0022】
本発明は、処理ドラムに被成膜基板を所定角巻き付け、被成膜基板に成膜する原子層堆積法成膜装置に用いられ、処理ドラム内に配置された回転ドラムに関する。
そして、回転ドラムは、成膜源被成膜基板の内面に成膜する成膜源を備え、処理ドラムに回転駆動可能に支持されていることを特徴とする。
【0023】
また、成膜源は複数のガス放出部とガス排気部とを備えることを特徴とする。
【0024】
また、ガス放出部は被成膜基板の所定幅にガスを放出し、ガス排気部はガス放出部に後続し、所定の凹部を有することを特徴とする。
【0025】
また、処理ドラムは略円筒形状に形成され、処理ドラムの内面の所定の位置には、ガス放出部と連通するガス放出部開口部が設けられていることを特徴とする。
【0026】
また、処理ドラムは略円筒形状に形成され、凹部の底部の所定の位置には凹部開口部が設けられ、凹部開口部は処理ドラムの内面にも貫通していることを特徴とする。
【0027】
また、処理ドラムに被成膜基板を所定角巻き付け、被成膜基板に成膜する原子層堆積法成膜装置において、処理ドラム内に回転ドラムが配置され、回転ドラムは、被成膜基板の内面に成膜する成膜源を備え、処理ドラムに回転駆動可能に支持されていることを特徴とする。
【0028】
また、成膜源は複数のガス放出部とガス排気部とを備えることを特徴とする。
【0029】
また、ガス放出部は被成膜基板の所定幅にガスを放出し、ガス排気部はガス放出部に後続し、所定の凹部を有することを特徴とする。
【0030】
また、処理ドラムは、さらに回転軸部を備え、回転ドラムは回転軸部の周りを回転するとともに、回転軸部の外面に連続する第1の溝が形成され、回転ドラム内面には第1の溝に対向する位置にガス放出部に連通するガス放出部開口部が形成されていて、溝とガス放出部開口部とを介して、ガス放出部が放出するガスを回転軸部側から供給されることを特徴とする。
【0031】
また、回転軸部の外面に連続する第2の溝が形成され、凹部には第2の溝に対向する位置に凹部開口部が形成されていて、溝と凹部開口部とを介して、凹部開口部が排気するガスを回転軸部側に排気されることを特徴とする。
【0032】
また、回転ドラムの内面と回転軸部の外面との間に磁気流体が配設され、ガスのシールをすることを特徴とする。
【0033】
また、成膜源は少なくも3つのガス放出部を備え、ガス放出部から第1の前駆体、第2の前駆体、パージガスをそれぞれ放出するようにしたことを特徴とする。
【0034】
そして、処理ドラムは、回転ドラムの両端に設けられ、被成膜基板を所定径に保持する被成膜基板ガイド部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、上述の特徴を有することから、下記に示すことが可能となる。
【0036】
処理ドラムに被成膜基板を所定角巻き付け、被成膜基板に成膜する原子層堆積法成膜装置に用いられ、処理ドラム内に配置された回転ドラムにおいて、回転ドラムは、被成膜基板の内面に成膜する成膜源を備え、処理ドラムに回転駆動可能に支持されているので、装置全体を小型化することが可能となるとともに、回転ドラムを複数回転させることにより多層の成膜を形成することができる。
【0037】
また、成膜源は複数のガス放出部とガス排気部とを備えるので、被成膜基板に吸着されなかったガスをすみやかに排気でき、パーティクルの発生を抑制し、高品質の膜を得ることができる。
【0038】
また、ガス放出部は被成膜基板の所定幅にガスを放出し、ガス排気部はガス放出部に後続し、所定の凹部を有するので、被成膜基板を所定の幅で一度に成膜できる。
【0039】
また、処理ドラムは略円筒形状に形成され、処理ドラムの内面の所定の位置には、ガス放出部と連通するガス放出部開口部が設けられているので、ガス放出部開口部からガスの供給を受けることができる。
【0040】
また、処理ドラムは略円筒形状に形成され、凹部の底部の所定の位置には凹部開口部が設けられ、凹部開口部は処理ドラムの内面にも貫通しているので、凹部開口部からガスの排気をすることができる。
【0041】
また、処理ドラムに被成膜基板を所定角巻き付け、被成膜基板に成膜する原子層堆積法成膜装置において、処理ドラム内に回転ドラムが配置され、回転ドラムは、被成膜基板の内面に成膜する成膜源を備え、処理ドラムに回転駆動可能に支持されているので、装置全体を小型化することが可能となるとともに、回転ドラムを複数回転させることにより多層の成膜を形成することができる。
【0042】
また、成膜源は複数のガス放出部とガス排気部とを備えるので、被成膜基板に吸着されなかったガスをすみやかに排気でき、パーティクルの発生を抑制し、高品質の膜を得ることができる。
【0043】
また、ガス放出部は被成膜基板の所定幅にガスを放出し、ガス排気部はガス放出部に後続し、所定の凹部を有するので、被成膜基板を所定の幅で一度に成膜できる。
【0044】
また、処理ドラムは、さらに回転軸部を備え、回転ドラムは回転軸部の周りを回転するとともに、回転軸部の外面に連続する第1の溝が形成され、回転ドラム内面には第1の溝に対向する位置にガス放出部に連通するガス放出部開口部が形成されていて、溝とガス放出部開口部とを介して、ガス放出部が放出するガスを回転軸部側から供給されるので、開口部と溝との位置が回転ドラムが回転しても維持され、ガスを供給することができる。
【0045】
また、回転軸部の外面に連続する第2の溝が形成され、凹部には第2の溝に対向する位置に凹部開口部が形成されていて、溝と凹部開口部とを介して、凹部開口部が排気するガスを回転軸部側に排気されるので、開口部と溝との位置が回転ドラムが回転しても維持され、ガスを排気することができる。
【0046】
また、回転ドラムの内面と回転軸部の外面との間に磁気流体が配設され、ガスのシールをするので、ガスをしっかりとシールするとともに、回転ドラムが回転するとき妨げとなる摩擦等を小さくすることができる。
【0047】
また、成膜源は少なくも3つのガス放出部を備え、ガス放出部から第1の前駆体、第2の前駆体、パージガスをそれぞれ放出するようにしたので、放出されるガスがそれぞれ別のガス放出部を有し、混ざり合うことなく処理できる。
【0048】
そして、処理ドラムは、回転ドラムの両端に設けられ、被成膜基板を所定径に保持する被成膜基板ガイド部を備えるので、所定径に保持された被成膜基板の内面で回転ドラムを自在に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る原子層堆積法成膜装置の概略図
【図2】一実施形態に係る原子層堆積法成膜装置の要部の概略図
【図3】一実施形態に係る原子層堆積法成膜装置の要部の分解斜視図
【図4】一実施形態に係る原子層堆積法成膜装置の要部の部分の概略図
【図5】一実施形態に係る原子層堆積法成膜装置の要部の一部の斜視図
【図6】一実施形態に係る原子層堆積法成膜装置の要部の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0051】
図1は、原子層堆積法成膜装置(以下、適宜「成膜装置」と省略することがある)1の全体構成を示す概略図である。図2は、この成膜装置1の要部である処理ドラム100の組み立て状態を示す概略図である。図3は、処理ドラム100を分解したときの斜視図である。図4は、処理ドラム100の要部である回転ドラム部101と回転軸部102とを示す概略図である。図5は、回転軸部101を示す斜視図である。図6は、回転軸部101と基板ガイド部103とを組み合わせた状態を示す概略断面図である。
【0052】
成膜装置1は処理ドラム100により、フレキシブル基板(被成膜基板)2に成膜処理をする装置である。図1に示すように、成膜装置1は処理ドラム100、巻き出しロール3、巻き取りロール4、巻き出し側ガイドローラ5、巻き取り側ガイドローラ6、プラズマ装置7、チェンバ8を備える。装置全体はチャンバ8に収納されている。チャンバ8内は図示しない真空ポンプにより真空に保持される。
【0053】
図1に示すように、フレキシブル基板2は巻き出しロール3から巻き出され、巻き出し側ガイドローラ5と巻き取り側ガイドローラ6により処理ドラム100の外周に所定の角度を巻き付けられて搬送され、巻き取りロール4により巻き取られる。処理ドラム100に設けられた成膜源により、処理ドラム100に巻き付けられたフレキシブル基板2の内面が成膜処理される。
【0054】
フレキシブル基板2は、可撓性のある長尺のフィルムであり、巻き出しロール3と巻き出し側ガイドローラ5と処理ドラム100と巻き取り側ガイドローラ6と巻き取りロール4とにより、連続的にまたは断続的に搬送される。
【0055】
図1に示すように、フレキシブル基板2は回転ドラム102の外周を、円周方向360°のうち90%以上を覆っている。このように構成することにより、ガス拡散の拡散を防ぎ、異なるガスが混じるのを防ぎ、パーティクルの発生を防止している。
【0056】
次に、処理ドラム100について、図2〜図6を参照しながら説明する。図2および図3に示すように、処理ドラム100は回転ドラム部101と回転軸部102と基板ガイド部103とを備える。なお、図3では、右側の1枚の基板ガイド103は図示していない。
【0057】
回転ドラム部101は、回転軸部102の周囲を、図示しない処理ドラム回転駆動部により回転駆動される。基板ガイド部103は中央に丸穴が設けられた円板型をなし、回転ドラム部101の両側に設けられ、回転軸部102の外周部を回転自在に構成される。回転ドラム部101の回転とは独立して別個に、基板ガイド部103は、図示しない基板ガイド回転駆動部により回転駆動される。処理ドラム回転駆動部と基板ガイド回転駆動部とは、図示しないコントロール部により回転が制御される。
回転軸部102は回転せず固定され、配管104が接続される。
【0058】
図2において、左右の基板ガイド部103の外方幅はフレキシブル基板2の幅と略同一に形成されている。フレキシブル基板2の幅方向の両端部が基板ガイド部103の外周部を覆うように巻き付いているので、フレキシブル基板2の内面は、基板ガイド部103の外形と同じ径に保持される。基板ガイド部103が回転駆動されると、外縁が基板ガイド部103に巻きついているフレキシブル基板2も回転駆動され、搬送される。
【0059】
図2において、回転ドラム部101の外径は、左右の基板ガイド部103の外径に対して、所定寸法だけ小さな径に形成されている。回転ドラム部101に巻き付けられたフレキシブル基板2の内面を、回転ドラム部101は回転駆動される。後述するように、回転ドラム部101の表面からはガスが放出されるので、この回転ドラム部101の表面とフレキシブル基板2の内面との間にエアフィルム部が形成され、回転ドラム部101は滑らかに回転する。
【0060】
図2に示すように、回転ドラム部101の表面に複数の区切りをして、その区切りで仕切られた区画(上面が解放された小部屋)をなす凹部106が設けられ、区切りの部分にガス放出部105を設けられている。回転ドラム部101の表面には、回転中心と略平行な方向である幅方向に並ぶ放出孔を備えるガス放出部105が(本実施形態では8条)形成されている。各々のガス放出部105の間には幅方向に広がった凹部106が設けられ、凹部106の底部には凹部開口部107が設けられている。
【0061】
回転ドラム101の表面には、この回転ドラム101の回転方向に順に4つのガス放出部105a、105c、105b、105cが形成されているが、これらは後述するように、異なるガスに対応しており、ガス放出部105a、105c、105b、105cにより1サイクルの成膜処理をおこなうことができる。本実施形態ではガス放出部105が8条形成されており、ガス放出部105a、105c、105b、105cの対向する面にも同じ順番でガス放出部105が形成されているので、一周で2サイクルの成膜処理ができるように構成されている。
【0062】
図4に示すように、回転軸部102の中央部には4つの溝部108a、108b、108c、108dが径方向に形成されている。また、回転軸部102の一方の端面には4本の連結管からなる配管104が設けられている。4つの溝部108a、108b、108c、108dは4本の連結管からなる配管104にそれぞれ連通している。配管104のうち太い方の連結管が、4つの溝部108a、108b、108c、108dのうちの幅の広い溝108dと連通している。
【0063】
図4に示すように、4つの溝部108a、108b、108c、108dの両脇の回転軸部102の外周面には、径方向に無端状に連続しているシール部109が形成されている。シール部109には磁気流体からなり、磁気流体が回転ドラム部101の内面円筒部と回転軸部102との隙間を埋めることにより、溝部108がそれぞれ封止される。
【0064】
図6(b)に示すように、凹部開口部107は幅の広い溝108dに対応した位置に開口されている。結局、凹部106は凹部開口部107を通じて、配管104のうちの太い方の連結管に連通されている。溝部108dは外周に連続して設けられているので、回転ドラム部101が回転しても、凹部開口部の107位置関係は維持される。
【0065】
図2及び図6に示すように、ガス放出部105a、105b、105cは回転ドラム部101の内面円筒部に図示しない内面開口部を有していて、この内面開口部は溝部108a、108b、108cにそれぞれ対応している。内面開口部はガス放出部105a、105b、105cにそれぞれ連通し、内面開口部が対応する溝部108a、108b、108cは配管104の連結管にそれぞれ連通するので、配管104の連結管とガス放出部105a、105b、105cはそれぞれ連通されている。
【0066】
次に、回転ドラム部101によるフレキシブル基板2の内面への成膜処理について説明する。ガス放出部105a、105b、105cには、第1の前駆体、第2の前駆体、パージガスが配管104から供給され、それぞれのガスがガス放出部105a、105b、105cから放出される。
【0067】
配管104のうち太い方の連結管は排気管となっており、これに連通する凹部106は排気を行う。ガス放出部105a、105b、105cから放出されたそれぞれのガスは、フレキシブル基板2の内面が前駆体等のガスを1層吸着したところで、未反応のガスは回転方向後方に隣接する後続する凹部106により排気される。これにより、フレキシブル基板2の内面は、第1の前駆体、パージガス、第2の前駆体、パージガスにより順次処理がなされ、未反応のガスはその都度、排気される。
【0068】
前駆体等のガスがガス放出部105から放出される時、回転ドラム部101を回転させていない状態では前駆体はフレキシブル基板2に当たるほか四方八方へ拡散するが、回転ドラム部101を回転させている状態ではガスは回転ドラム部101から見て相対的に後方へと流れる。凹部106により、回転ドラムが回転すると、後方へ流れた余剰のガスを効率よく排気することができる。
【0069】
従って、本実施形態では、回転ドラム部101に設けられたガス放出部105及び凹部106が成膜源ということになる。
【0070】
ガス放出部105は、回転ドラム部101に2組設けられているので、回転ドラム部101が1回転するごとに2サイクル分の成膜処理を行う。また、回転ドラム部101はフレキシブル基板2内面で自在に回転することができるので、例えば、フレキシブル基板2が通過する間に回転ドラム部101がN回回転したとすれば、2×N層の成膜処理がされることになる。例えば、回転ドラム部101を100回転させれば、200層の成膜処理がされる。
【0071】
図1に示すように、回転ドラム部101が回転しながらフレキシブル基板2も搬送されているため、フレキシブル基板2が回転ドラム部101から離れる部分では、第1の前駆体が基板のその部分に曝露された後、第2の前駆体がその部分に曝露される前に基板が回転ドラム部101から離れてしまう現象が生じることがある。このような場合、特に何も対策をしていない状況では第一の前駆体のみが曝露された部分には想定した一層が形成されることなくチャンバ8から取り出され、第1の前駆体が想定外の物質と結びつくなどして想定外の化合物が形成されることがある。これは膜の品質を低下させる原因となる。
【0072】
この課題に対応するため、成膜装置1には、回転ドラム102とは別に、フレキシブル基板2の搬送経路にプラズマを発生または照射するプラズマ装置7を備えている。プラズマ装置7によりプラズマを発生または照射することにより、フレキシブル基板2に吸着した第1の前駆体を安定な形に変化させ、膜の品質の低下を防ぐことができる。
【0073】
また、成膜前のフレキシブル基板2にプラズマを照射すると、成膜の密着性を向上させたり、クリーニングすることができる。
【0074】
図1に示すように、プラズマ装置7を巻き出しロール3から巻き出されるフレキシブル基板2と巻き取りロール4により巻き取られるフレキシブル基板2との間に配設したので、プラズマ装置7によりプラズマを発生または照射することにより、上述した2つの効果を同時に得ることができる。
【0075】
なお、プラズマ装置7により発生または照射するプラズマとして、酸化物薄膜を形成する際には酸素プラズマを、窒化物薄膜を形成するには窒素プラズマを用いることができる。金属の成膜ではアルゴンプラズマなども適用可能である。
【0076】
以上に述べた構成により、成膜源を回転ドラム部101に配設するようにして、装置全体の小型化を実現した。また、従来の成膜源は固定されていたが、回転するようにして、多くのサイクルの成膜処理が容易に可能となる。装置を小型化することによりチャンバ8も小型にすることが可能となり、特に中を真空にしたチャンバ8を用いる場合にはその効果は大きい。また、ALDは1サイクルで1層ずつ原子レベルの薄膜を成長させていく方法であり成膜速度が遅いが、成膜源を回転させることにより多層形成が容易になり、このALDの欠点も解消することができる。
【0077】
なお、本実施例では、回転ドラム部101に2つの成膜源を配設したが、これに限定されず、1つの成膜源を配設してもよいし、2つ以上の成膜源を配設するようにしてもよい。また、4つのガス放出部105により1サイクルとしたが、3種類以上の前駆体を用いる場合はさらにそれ以上の開口部を設けて割り当ててもよい。2種類以上のパージガスを使用する場合も同様である。
【0078】
ここで、パージガスはその役割の一つに、それぞれの前駆体が空間内で混合し反応することを避ける目的が有るため、パージガスを供給するガス放出部105cを、前駆体を供給するそれぞれのガス放出部との間に設けるとよい。すなわち、例えば第1の前駆体を供給するガス放出部105aと、第2の前駆体を供給するガス放出部105bとの間に、パージガスを供給するガス放出部105cを配置したように、放出部105bと第3の前駆体のための放出部との間にパージガスを供給する放出部105cを配置してもよい。一方で、排気のみで未吸着または未反応の前駆体を充分に除去できる場合には、パージガスを一切導入しなくてもよい。
【0079】
また、本実施形態では被成膜基板として、フレキシブル基板を用いて説明したが、他の可撓性のあるフィルムやシートであってもよい。また、ガラスやウェハーなど可撓性がない剛体であっても、回転ドラムに沿って搬送できる形態であれば本発明が適用できる。例えば、小さな基板を搬送用シートやベルトシートに固定して搬送する場合などがこれにあたる。いわゆるウェブコーティング方式での成膜に適用できる。すなわち、これらのガラスやウェハーなどや、小さな基板、ウェブコーティング方式での被成膜物も被成膜基板に含まれる。
【0080】
また、本実施形態では、フレキシブル基板2は基板ガイド部103により駆動され、搬送される構成となっているが、基板ガイド部103を駆動せず、フレキシブル基板2の移動により回転するいわゆるアイドラとして用いて、フレキシブル基板2の搬送を巻き出しロール3と巻き取りロール4を駆動することにより行ってもよい。また、基板ガイド部103を固定し、フレキシブル基板2の両縁が基板ガイド部103の円盤状の側面を滑るように構成し、フレキシブル基板2を所定の径に保持するようにしてもよい。
【0081】
また、前駆体は、使用時に気相になっているものであれば種類は問わない。パージガスは、成膜によって得られる薄膜を構成する成分とならない限り、種類は問わない。窒素ガスを使用すると、高品位の膜をより低コストで製造することができる。またパージガスに不活性ガスを用いると、使用できる前駆体の種類の幅が広がり、多彩な前駆体の中から最適な前駆体を選定することができる。その中でもアルゴンは不活性ガスとしては比較的低コストで導入でき、生産性を高めることができる。
【0082】
また、ガス放出部105として、回転ドラム部101上に幅方向に並ぶ放出孔により説明したが、これに限定されず、幅方向に形成されたスリット状のものでもよい。スリット状の形状では、放出されるガスの圧力が均一であるという長所がある。
【0083】
また、シール部109には磁性流体を用いる説明をしたが、Oリング等を使用しても良い。シール部109に磁性流体を用いると発塵などが抑えられ、またメンテナンス間隔も伸ばすことができる。また、回転ドラム部101の回転の抵抗力を小さくできる。
【0084】
また、回転ドラム部101の凹部106は、未反応のガスの排気に用いられるものであり、形状は溝状のものでも良い。凹部106の底部の凹部開口部107は複数設けてもよい。効率良く排気することができ、基板に吸着されずに空間内に残った前駆体を効率よく除去することができ、成膜中のパーティクル発生を抑えて高品質の薄膜を作製することができる。
【0085】
また、回転ドラム部101とフレキシブル基板2との間の隙間(クリアランス)は、できるだけ狭い方が好ましい。フレキシブル基板2を所定の径に保持する基板ガイド部103をフレキシブル基板2の両縁部分に設けたが、フレキシブル基板2の幅方向の中央部が撓む等の場合には、中央にも配置してもよい。
【0086】
また、本実施形態では、配管104のうちの太い方の連結管により、まとめて排気されるように構成したが、排気用の配管等を増やすことにより、ガス放出部から放出されたぞれぞれのガスを別々に排気するようにしてもよい。未反応の前駆体を回収して再利用することが容易になる。
【0087】
また、本実施形態では、チャンバ8は装置全体を収納する構成としたが、成膜が行われる処理ドラム100だけを収納する構成にしてもよい。また、チャンバ8を真空とするのが一般的ではあるが、大気圧で成膜する場合にはそれに適応したチャンバ8とすることもできる。
【0088】
また、回転ドラム部101は加熱機構を備えてもよい。前駆体が吸着した基板を加熱することによって反応を促進し薄膜の成長を促すことができる。また、成膜のために加熱が必要な前駆体を使用することができる。熱源としてフラッシュランプを用いると、温度制御が比較的容易であり、また輻射熱を利用することができるため効率的である。熱を伝えたくない部分に対しては水冷機構を設けて温度を制御してもよい。加熱機構はチャンバの壁面や、回転ドラムの外部に設けてもよい。
【0089】
また、回転ドラム部101はプラズマを発生または照射させる機構を備えてもよい。プラズマにより前駆体の反応を促進し薄膜の成長を促すことができる。プラズマの発生方法は、高周波(RF)放電やDC放電の他、誘導結合によるプラズマ生成(ICP)など、公知の技術が使用できる。
【0090】
また、前駆体の種類は問わない。成膜種、成膜温度によって適宜選択される。前駆体は装置使用時に気相となっていればよいので、前駆体の保管状態は気相の他、液相、あるいは固相であってもよい。例えば前駆体が液相の場合は加熱やバブリングなどの方法によって導入される。
【0091】
また、前駆体にはキャリアガスが含まれてもよい。キャリアガスは一般にパージガスと同一ものものまたは同様の性質を有するものが使用されるが、これに限定されるものではない。前述のバブリングを使用した場合、バブリングのためのガスがキャリアガスになることが多い。
【0092】
また、パージガスは膜の構成成分にはならないが、第一の前駆体放出と第二の前駆体放出の間を隔てるガスとして有効である。これにはアルゴンなどの希ガスの他、成膜種に影響しない範囲においてあらゆる種類のガスが使用できる。
【0093】
また、回転ドラム部101と基板ガイド部103の回転方向は、同一方向であっても、また相対的に逆方向であってもよい。また、フレキシブル基板2の搬送は、連続的であっても、あるいは断続的であってもよいし、必要に応じ、巻き戻し方向に行ってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 成膜装置
2 フレキシブル基板
3 巻き出しロール
4 巻き出しロール
5 巻き出し側ガイドローラ
6 巻き取り側ガイドローラ
7 プラズマ装置
8 チェンバ
100 処理ドラム
101 回転ドラム部
102 回転軸部
103 基板ガイド部
104 配管
105 ガス放出部
106 凹部
107 凹部開口部
108 溝部
109 シール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理ドラムに被成膜基板を所定角巻き付け、前記被成膜基板に成膜する原子層堆積法成膜装置に用いられ、前記処理ドラム内に配置された回転ドラムであって、
前記回転ドラムは、前記被成膜基板の内面に成膜する成膜源を備え、前記処理ドラムに回転駆動可能に支持されている
ことを特徴とする原子層堆積法成膜装置における回転ドラム。
【請求項2】
前記成膜源は複数のガス放出部とガス排気部とを備える
ことを特徴とする請求項1記載の原子層堆積法成膜装置における回転ドラム。
【請求項3】
前記ガス放出部は前記被成膜基板の所定幅にガスを放出し、
前記ガス排気部は前記ガス放出部に後続し、所定の凹部を有する
ことを特徴とする請求項2記載の原子層堆積法成膜装置における回転ドラム。
【請求項4】
前記処理ドラムは略円筒形状に形成され、前記処理ドラムの内面の所定の位置には、前記ガス放出部と連通するガス放出部開口部が設けられている
ことを特徴とする請求項2記載の原子層堆積法成膜装置における回転ドラム。
【請求項5】
前記処理ドラムは略円筒形状に形成され、前記凹部の底部の所定の位置には凹部開口部が設けられ、前記凹部開口部は前記処理ドラムの内面にも貫通している
ことを特徴とする請求項3記載の原子層堆積法成膜装置における回転ドラム。
【請求項6】
処理ドラムに被成膜基板を所定角巻き付け、前記被成膜基板に成膜する原子層堆積法成膜装置において、
前記処理ドラム内に回転ドラムが配置され、
前記回転ドラムは、前記被成膜基板の内面に成膜する成膜源を備え、前記処理ドラムに回転駆動可能に支持されている
ことを特徴とする原子層堆積法成膜装置。
【請求項7】
前記成膜源は複数のガス放出部とガス排気部とを備える
ことを特徴とする請求項6記載の原子層堆積法成膜装置。
【請求項8】
前記ガス放出部は前記被成膜基板の所定幅にガスを放出し、
前記ガス排気部は前記ガス放出部に後続し、所定の凹部を有する
ことを特徴とする請求項7記載の原子層堆積法成膜装置。
【請求項9】
前記処理ドラムは、
さらに回転軸部を備え、
前記回転ドラムは前記回転軸部の周りを回転するとともに、
前記回転軸部の外面に連続する第1の溝が形成され、前記回転ドラム内面には前記第1の溝に対向する位置に前記ガス放出部に連通するガス放出部開口部が形成されていて、前記溝とガス放出部開口部とを介して、前記ガス放出部が放出するガスを前記回転軸部側から供給される
ことを特徴とする請求項8記載の原子層堆積法成膜装置。
【請求項10】
前記回転軸部の外面に連続する第2の溝が形成され、前記凹部には前記第2の溝に対向する位置に凹部開口部が形成されていて、前記溝と前記凹部開口部とを介して、前記凹部開口部が排気するガスを前記回転軸部側に排気される
ことを特徴とする請求項9記載の原子層堆積法成膜装置。
【請求項11】
前記回転ドラムの内面と前記回転軸部の外面との間に磁気流体が配設され、前記ガスのシールをする
ことを特徴とする請求項10記載の原子層堆積法成膜装置。
【請求項12】
前記成膜源は少なくも3つの前記ガス放出部を備え、
前記ガス放出部から第1の前駆体、第2の前駆体、パージガスをそれぞれ放出するようにした
ことを特徴とする請求項7記載の原子層堆積法成膜装置。
【請求項13】
前記処理ドラムは、
前記回転ドラムの両端に設けられ、前記被成膜基板を所定径に保持する被成膜基板ガイド部を備える
ことを特徴とする請求項6記載の原子層堆積法成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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