説明

原子炉炉内構造物およびその製造方法

【課題】沸騰水型原子炉の炉内構造物へのクラッドの付着を十分抑制することができる原子炉炉内構造物を提供するとともに、製造工程が簡易で、複雑形状部材または大型部材にも対応可能であり、クラッドの付着を十分抑制することができる原子炉炉内構造物を安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物11の表面の少なくとも一部に、酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成する。また、沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物11の表面の少なくとも一部にニオブ化合物を含む溶液を塗布する工程と、前記溶液を塗布した原子炉炉内構造物の表面を熱処理して酸化ニオブからなるコーティング皮膜を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物およびその製造方法に関し、特に、原子炉炉内構造物へのクラッド付着を抑制することのできる原子炉炉内構造物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉では、出力密度を大きくするために、原子炉冷却材を冷却水として強制循環させるジェットポンプシステムが採用されている。このジェットポンプシステムには、原子炉圧力容器内の炉心部に原子炉冷却材を強制循環させる方式として、外部再循環方式と内部再循環方式とがある。
【0003】
このうち、外部再循環方式は、原子炉圧力容器内に配設される複数のジェットポンプと原子炉圧力容器外に配置される再循環ポンプとを備え、再循環ポンプから送られる冷却水をジェットポンプでジェット流にし、このジェットポンプで周囲の炉水を巻き込んで炉心部下方の炉心下部プレナムから炉心部に強制的に送り込み、原子炉冷却材を原子炉圧力容器内で強制的に再循環させるようになっている。
【0004】
図1は、この外部再循環方式によるジェットポンプシステムを採用した沸騰水型原子炉の概略構成を示す縦断面図である。原子炉圧力容器1内には原子炉冷却材2および炉心3が収容されており、この炉心3は図示しない複数の燃料集合体および制御棒等から構成され、炉心シュラウド10内に収容されている。
【0005】
原子炉冷却材2は炉心3を上方に向って流通し、その際、炉心3の核反応熱により昇温されて、水と蒸気との二相流状態となる。二相流状態となった冷却材2は、炉心3の上方に設置された気水分離器4内に流入し、そこで水と蒸気とに分離される。このうち、蒸気は気水分離器4の上方に設置された蒸気乾燥器5内に導入され、乾燥蒸気となり、主蒸気管6を介して図示しない蒸気タービンに移送され、発電に供される。炉心シュラウド10と原子炉圧力容器1との間のダウンカマ部7内にはジェットポンプ11が周方向に等間隔で複数設置されている。気水分離器4で分離された水は、図示しない再循環系を介して昇圧されて再循環入口ノズル13からジェットポンプ11内に導入され、このジェットポンプ11を介して炉心3の下方に流下する。
【0006】
図2は、図1に示したジェットポンプ11の要部を拡大して示す斜視図である。図2に示すように、ジェットポンプ11は、図示しない再循環ポンプの再循環入口ノズル13から供給された冷却材2を炉内に上昇流として導入する垂直なライザ管12を有している。このライザ管12の上部には、トラジションピース14を介して一対のエルボ15が接続され、これらのエルボ15により、冷却材が二手に分かれて下向き流となる。これらのエルボ15には、それぞれ混合ノズル16を介してインレットスロート17が接続されている。そして、混合ノズル16により、冷却材2が噴射され、その際周囲から炉水が巻き込まれ、この噴射された冷却材2および巻き込まれた炉水は、インレットスロート17内で混合される。各インレットスロート17は、それぞれディフューザ18に接続され、ディフューザ18は冷却材を炉心下方に送り込む。これらのエルボ15、混合ノズル16、インレットスロート17は一体となっており、インレットミキサー51と呼ばれている。
【0007】
ところで、沸騰水型原子炉の構造物であるジェットポンプには、そのジェットポンプを構成するジェットポンプ部材の表面に炉水中に存在する鉄酸化物であるクラッドが付着し、これが堆積することにより、圧力損失が増大して流量が減少し循環効率が低減するという課題があった。また、上述した原子炉炉内構造物の各部品においても同様の課題があった。例えば、ジェットポンプ部材へのクラッド(CRUD:Chalk River Unclassified Deposit)の付着堆積は、ジェットポンプ部材のうちでも高温の高流量水に曝されるインレットミキサーを構成するジェットポンプ部材に著しい。
【0008】
これに対し、現状は再循環ポンプ(PLRポンプ)の速度を上げることで対応しているが、これが大きなエネルギー損失を生み出している。
また、水ジェット洗浄を行うことで付着堆積したクラッドを取り除くことも提案されているが、その費用は極めて高価であり、実用的ではない。
【0009】
さらに、ジェットポンプ部材等の原子炉炉内構造物へのクラッド付着自体を抑制するために、ジェットポンプ部材の表面に皮膜を形成することが提案されている。例えば、特許文献1、特許文献2には、ジェットポンプ部材の表面にTiO、ZrO、Ta、SiOのなどの酸化物皮膜をCVD法(化学蒸着法)により形成する方法が提案されている。また、特許文献3、特許文献4には、ジェットポンプ部材等の構造用構成部品の表面に白金、ロジウム、イリジウム、パラジウム、銀、金又はそれらの金属合金の皮膜をプラズマ溶射、HVOF、CVD、PVD、電気めっき及び無電解めっき等により形成する方法が提案されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−207094号公報
【特許文献2】米国特許第6633623号明細書
【特許文献3】特開2007−10668号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2007/0003001号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、沸騰水型原子炉のジェットポンプ等の原子炉炉内構造物には、原子炉炉内構造物を構成する例えばジェットポンプ部材の表面に炉水中に存在するクラッドが付着し、これが堆積することにより、圧力損失が増大して流量が減少し循環効率が低減するという課題があった。
この課題を解決するために、従来、ジェットポンプ部材の表面に各種の皮膜を形成することによりクラッドの付着を抑制することが提案されていた(特許文献1〜4)。しかしながら、これらの技術は、いずれも、皮膜形成によるクラッドの付着抑制効果が十分でなく、また、皮膜形成のために高価な装置が必要であり、皮膜形成部材の大きさ、形状に制限があるなどの課題があった。
【0012】
本発明者等は、沸騰水型原子炉の炉内構造物へのクラッド付着の抑制に関し鋭意研究を重ねた結果、原子炉炉内構造物の表面に酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウム、またはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成することにより、クラッドの付着を抑制することができることを見出し、また、原子炉炉内構造物の表面にこれらの金属の化合物を含む溶液を塗布する工程と、これらの溶液を塗布した原子炉炉内構造物を加熱処理して皮膜を形成する工程からなるいわゆる化学溶液法により、原子炉炉内構造物表面に安価に良質な酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明の目的は、沸騰水型原子炉の炉内構造物へのクラッドの付着を十分抑制することができる原子炉炉内構造物を提供し、また、製造工程が簡易で、複雑形状部材または大型部材にも対応可能であり、クラッドの付着を十分抑制することができる原子炉炉内構造物を安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の表面の少なくとも一部に、酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成したことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る原子炉炉内構造物の製造方法は、沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の表面の少なくとも一部にニオブ化合物を含む溶液を塗布する工程と、前記溶液を塗布した原子炉炉内構造物の表面を熱処理して酸化ニオブからなるコーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る原子炉炉内構造物の製造方法は、沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の表面の少なくとも一部にチタン−ジルコニウム系化合物溶液を塗布する工程と、前記溶液を塗布した原子炉炉内構造物の表面を熱処理してチタン酸ジルコニウムからなるコーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る原子炉炉内構造物の製造方法は、沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の表面の少なくとも一部にチタン−ニッケル系化合物溶液を塗布する工程と、前記溶液を塗布した原子炉炉内構造物の表面を熱処理してチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の部材表面にクラッドが付着、堆積するのを抑制し、原子炉内を流れる冷却材について初期の性能を長期間に亘って維持することができる。また、本発明の製造方法によれば、クラッド付着を十分抑制することができる原子炉炉内構造物を、簡易な製造工程でしかも低い製造コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】外部再循環方式によるジェットポンプシステムを採用した沸騰水型原子炉の概略構成を示す縦断面図。
【図2】図1に示したジェットポンプの要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を沸騰水型原子炉のジェットポンプに適用した例で説明する。
図1は外部再循環方式によるジェットポンプシステムを採用した沸騰水型原子炉の概略構成を示す縦断面図、図2は沸騰水型原子炉のジェットポンプの要部拡大図である。
ジェットポンプ11へのクラッドの付着を抑制するために、ジェットポンプ11を構成するジェットポンプ部材の表面の少なくとも一部、特にクラッドの付着の著しい部位に、酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成する。これにより炉水中に存在するクラッドがジェットポンプ部材表面に付着、堆積することを抑制し、ジェットポンプ11の初期の性能を長期間に亘って維持することができる。
【0021】
これらのコーティング皮膜を形成することによるジェットポンプ部材表面へのクラッドの付着・堆積抑制効果が、いかなる機構によりもたらされるものかは必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0022】
まず、ジェットポンプ部材表面の少なくとも一部に酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成することにより、ジェットポンプ部材表面の表面電位が負となる。一方、炉水中に存在するクラッドを構成するへマタイト(Fe)、マグネタイト(Fe)などの鉄酸化物の表面電位は同じく負であるから、ジェットポンプ部材表面と炉水中に存在するクラッドとの間に電気的な反発力が発生し、ジェットポンプ部材表面へのクラッドの付着・堆積を抑制することができると考えられる。
【0023】
上記の酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜は、実機の原子力プラント炉水中において溶出がなく安定であり、しかもクラッドの付着・堆積抑制効果に加えて金属基材の耐酸化性を向上させる効果も期待できる。さらに、金属基材に対し高い密着強度を有するコーティング皮膜をいわゆる化学溶液法により形成することが可能である。
【0024】
上記のコーティング皮膜は、膜厚を0.01μm以上、10μm以下とすることが好ましい。ここで、コーティング皮膜の膜厚を0.01μm以上、10μm以下とするのは、以下の理由による。すなわち、膜厚が0.01μmより薄い場合、コーティング皮膜が基材を均一に覆うことができず、部分的に基材が露出してしまい、基材の耐酸化性が急激に低下するためである。一方、膜厚が10μmより厚い場合、コーティング皮膜の基材に対する密着強度が低下するため、コーティング皮膜にき裂が生じ、基材の耐酸化性が低下し、また、基材からのコーティング皮膜の剥離等の問題が発生するからである。
【0025】
実際の原子力プラントにおいて、ジェットポンプへのクラッドの付着、堆積は、高温の高流量水に曝されるインレットミキサー51の内面において著しい。よって、上記コーティング皮膜の形成は、ジェットポンプ部材のうち特に混合ノズル16およびインレットスロート17などのインレットミキサー51を構成する部材の内面に対し有効である。
【0026】
次に、本発明のジェットポンプ部材の製造方法について説明する。
【0027】
上記のジェットポンプ部材表面のコーティング皮膜を形成するために、まずジェットポンプ部材表面にニオブ化合物を含む溶液、チタン−ジルコニウム系化合物溶液、または、チタン−ニッケル系化合物溶液を塗布する。次にこれらの溶液を塗布したジェットポンプ部材を熱処理して酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成する。
【0028】
ここで、ニオブ化合物を含む溶液、チタン−ジルコニウム系化合物溶液、または、チタン−ニッケル系化合物溶液とは、これらの金属元素の錯体を含む溶液、これらの金属元素のアルコキシド化合物を含む溶液、これらの金属元素の塩を含む溶液、さらには、これらの金属元素の化合物の加水分解により生成されるゾル、などを含むものである。
【0029】
これらの溶液の溶媒としては、水、ブタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、その他の有機溶媒、またはこれらの混合物などが用いられる。
【0030】
また、これらの金属元素の錯体、アルコキシド化合物、塩としては、上記の溶媒に可溶なものであれば、いずれのものでも用いることができる。加水分解によりゾルを生成する金属元素の化合物としては、アルコキシド化合物や塩が挙げられる。これらも上記の溶媒に可溶なものであれば特に限定されない。
【0031】
これらの溶液をジェットポンプ部材の表面に塗布する方法としては、ディッピング、スプレー、スピンコーティング、ロールコーティング、バーコートなどの方法が挙げられる。コーティング皮膜を形成すべきジェットポンプ部材の寸法、形状に応じて最適な方法を採用すればよい。
【0032】
次いで、これらの溶液を塗布したジェットポンプ部材を熱処理する。加熱方法としては、溶液を塗布したジェットポンプ部材を電気炉中に保持して、ジェットポンプ部材全体を加熱する方法でもよいし、赤外線等によりジェットポンプ部材の表面部分のみを加熱する方法でもよい。さらに、これらの加熱方法に限定されるものではなく、周知の加熱方法が採用可能である。
【0033】
上記の熱処理は80℃以上、600℃以下で行うことが好ましい。熱処理温度が80℃より低いとニオブ化合物などの加熱分解が不十分となり、緻密な皮膜が得られず、また、形成された皮膜が不安定で経時変化や剥がれ等の問題が発生する。一方、熱処理温度が600℃より高いとジェットポンプ部材の基材である金属の組織が変化してしまい、疲労強度やクリープ強度などの特性が低下してしまう。熱処理雰囲気は、大気中などの酸素を含む雰囲気とする。
この熱処理により、ジェットポンプ部材の表面に酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜が形成される。
【0034】
上述した本発明のジェットポンプ部材の製造方法は、いわゆる化学溶液法であり、プロセスが簡易で、高価な装置を用いる必要がなく、コストが安価であるにもかかわらず、大型のジェットポンプ部材または複雑形状のジェットポンプ部材にも対応できる極めて実用性に富む方法である。同時に、均一な皮膜の形成が可能であり、コーティング施工によるジェットポンプ部材の表面粗さの変化がほとんどなく、コーティング施工後の加工が必要ないといった利点をも備えたものである。
【0035】
なお、上記実施の形態ではジェットポンプに適用した例で示したが、原子炉炉内構造物として炉心シュラウドの内表面、気水分離器のスタンドパイプ、蒸気乾燥器の波板に適用することもできる。この場合においても上記実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0036】
(実施例1)
試験片として、ステンレスSUS304Lを40mm×5mm×1mmの短冊状に加工したものを用意する。
【0037】
試験片の表面にニオブアルコキシドの5重量%ブタノール溶液をディッピングにより塗布し、塗布後、試験片を大気中400℃で10分間熱処理してコーティング皮膜を形成した。この工程を3回繰り返して皮膜の厚みを調整した。
【0038】
試験片の表面に形成されたコーティング皮膜の膜厚は約1μmで、コーティング皮膜は、アモルファスの酸化ニオブからなるものであった。
このコーティング皮膜を形成した試験片に対し、実機を模擬したクラッド付着特性試験を行った。
【0039】
クラッド付着特性試験は、試験片を、280℃、7MPaの条件で、へマタイト(Fe)とマグネタイト(Fe)を1:1の割合で混合したクラッドを60ppm注入した水中に浸漬、封入し、300時間保持するものである。試験前後の試験片の重量変化を測定することにより、クラッド付着特性を評価する。
【0040】
上記のアモルファスの酸化ニオブからなる厚さ約1μmのコーティング皮膜を形成した試験片は、試験前後で重量変化がほとんど認められなかった。
【0041】
(実施例2)
チタンとジルコニウムに原子比率が1:1であるチタン−ジルコニウム系アルコキシドを5重量%含むイソプロピルアルコール溶液を用いた他は実施例1と同じ方法、条件でコーティング皮膜を形成した。試験片上に形成されたコーティング皮膜はアモルファスのチタン酸ジルコニウムからなるものであった。
【0042】
チタン酸ジルコニウムからなるコーティング皮膜を形成した試験片に対して実施例1と同じ方法でクラッド付着特性試験を行った。その結果、試験前後で試験片の重量変化はほとんど認められなかった。
【0043】
(実施例3)
チタンとニッケルの原子比率が1:1であるチタン−ニッケル系アルコキシド5重量%含むブタノール溶液を用いた他は実施例1と同じ方法、条件でコーティング皮膜を形成した。試験片上に形成されたコーティング皮膜はアモルファスのチタン酸ニッケルからなるものであった。
【0044】
チタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成した試験片に対して実施例1と同じ方法でクラッド付着特性試験を行った。その結果、試験前後で重量変化がほとんど認められなかった。
【0045】
(比較例1)
比較例1として、コーティング皮膜を形成しないSUS304L基材からなる試験片についても実施例1と同じ方法でクラッド付着特性試験を行った。その結果、目視、または顕微鏡観察により試験片表面に顕著なクラッド付着が観察され、また顕著な重量増も認められた。
【0046】
以上説明したとおり、上記の実施例のジェットポンプ部材等の原子炉炉内構造物は、表面に酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜が形成されていることにより高いクラッド付着抑制効果を発現することが確認された。また、上記の実施例のジェットポンプ部材等の原子炉炉内構造物の製造方法では、化学溶液法によるため、安価であると同時に形状や大きさに依存せず高い品質のコーティング皮膜を形成することができる。
【0047】
従って、本発明によれば、沸騰型原子炉のジェットポンプ等原子炉炉内構造物の流路の圧力損失の上昇が抑制できることから初期の性能を長期間安定して維持することが可能であり、原子力プラントの安全性に大きく寄与することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…原子炉圧力容器、2…原子炉冷却材、3…炉心、4…気水分離器、5…蒸気乾燥器、6…主蒸気管、7…ダウンカマ部、10…炉心シュラウド、11…ジェットポンプ、12…ライザ管、13…再循環入口ノズル、14…トラジションピース、15…エルボ、16…混合ノズル、17…インレットスロート、18…ディフューザ、51…インレットミキサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の表面の少なくとも一部に、酸化ニオブ、チタン酸ジルコニウムまたはチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成したことを特徴とする原子炉炉内構造物。
【請求項2】
前記チタン酸ジルコニウムのチタンとジルコニウムの原子比率が1:1であることを特徴とする請求項1記載の原子炉炉内構造物。
【請求項3】
前記チタン酸ニッケルのチタンとニッケルの原子比率が1:1であることを特徴とする請求項1記載の原子炉炉内構造物。
【請求項4】
前記コーティング皮膜は、膜厚が、0.01μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の原子炉炉内構造物。
【請求項5】
前記原子炉炉内構造物が、インレットミキサーを構成するジェットポンプ部材であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の原子炉炉内構造物。
【請求項6】
沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の表面の少なくとも一部にニオブ化合物を含む溶液を塗布する工程と、前記溶液を塗布した原子炉炉内構造物の表面を熱処理して酸化ニオブからなるコーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする原子炉炉内構造物の製造方法。
【請求項7】
沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の表面の少なくとも一部にチタン−ジルコニウム系化合物溶液を塗布する工程と、前記溶液を塗布した原子炉炉内構造物の表面を熱処理してチタン酸ジルコニウムからなるコーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする原子炉炉内構造物の製造方法。
【請求項8】
前記チタン−ジルコニウム系化合物溶液のチタンとジルコニウムの原子比率が1:1であることを特徴とする請求項7記載の原子炉炉内構造物の製造方法。
【請求項9】
沸騰水型原子炉を構成する原子炉炉内構造物の表面の少なくとも一部にチタン−ニッケル系化合物溶液を塗布する工程と、前記溶液を塗布した原子炉炉内構造物の表面を熱処理してチタン酸ニッケルからなるコーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする原子炉炉内構造物の製造方法。
【請求項10】
前記チタン−ニッケル系化合物溶液のチタンとニッケルの原子比率が1:1であることを特徴とする請求項9記載の原子炉炉内構造物の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理は、80℃以上、600℃以下の温度で行うことを特徴とする請求項6ないし10いずれかに記載の原子炉炉内構造物の製造方法。
【請求項12】
前記コーティング皮膜は、膜厚が、0.01μm以上、10μm以下であることを特徴とする請求項6ないし11いずれかに記載の原子炉炉内構造物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−160144(P2010−160144A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279555(P2009−279555)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】