説明

双ロール式連続鋳造機

【課題】低コストで効率的にロールを冷却可能な双ロール式連続鋳造機を提供する。
【解決手段】所定間隔を空けて配置され、互いに逆方向に等速回転するロール2・2を備え、ロール2・2の間に溶湯4を供給して板状の鋳片5を連続的に鋳造する鋳造機1であって、ロール2の内部に周方向に沿って複数形成され、ロール2の表面を冷却する冷却室50・50・・・と、冷却室50の密閉及び開放を行う微細孔51・51・・・と、冷却室50・50・・・を膨張させる内部ロータ20及びベーン30・30・・・と、を具備し、冷却室50・50・・・は、範囲R1で、溶湯4によって微細孔51・51・・・が塞がれることで密閉されると共に、内部ロータ20及びベーン30・30・・・が一体的に冷却ローラ10とは逆方向に回転することによって膨張され、範囲R1を除く範囲で、微細孔51・51・・・によって開放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双ロール式連続鋳造機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定間隔を空けて配置された一対のロールを備える双ロール式連続鋳造機においては、鋳片の結晶粒の微細化を達成して、加工性、表面性状に優れた鋳片を鋳造するために、ロールの間に溶湯を供給することで成形された鋳片と一方のロールとの間に熱伝導率の高いガスを介在させる等して、鋳片を十分に冷却し結晶粒の微細化を実現している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の技術では、鋳片を冷却するためのガス、及び当該ガスを供給するための装置類が別途必要となるため、双ロール式連続鋳造機の製造コストが高くなる点で不利である。
また、ロールの内部に冷却用の水路を形成する技術が公知となっているが、水路を流動する水等の冷却媒体によってロールの全表面を冷却するため、溶湯に接している面のみを効率よく冷却できない点で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−51810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低コストで効率的にロールを冷却可能な双ロール式連続鋳造機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1においては、所定間隔を空けて配置され、互いに逆方向に等速回転する一対のロールを備え、前記一対のロールの間に溶湯を供給して板状の鋳片を連続的に鋳造する双ロール式連続鋳造機であって、前記ロールの内部に周方向に沿って複数形成され、該ロールの表面を冷却する冷却室と、前記冷却室の密閉及び開放を行う開閉手段と、前記冷却室を膨張させる膨張手段と、を具備し、前記冷却室は、前記ロールと前記溶湯とが接触する範囲で、前記開閉手段によって密閉されると共に、前記膨張手段によって膨張され、前記ロールと前記溶湯とが接触しない範囲で、前記開閉手段によって開放されるものである。
【0007】
請求項2においては、前記ロールは、該ロールの外郭をなす中空の冷却ローラと、前記冷却ローラの内部に設けられ、前記冷却ローラに対して偏心して配置される内部ロータと、前記内部ロータの外周に設けられ、前記冷却ローラの内周面に当接するように付勢される複数のベーンと、を含み、前記冷却室は、前記冷却ローラと前記内部ロータとの間に形成される空間が前記複数のベーンによって分割されて形成される空間であり、前記膨張手段は、前記内部ロータ及び前記複数のベーンにて構成され、前記内部ロータと前記複数のベーンとが一体的に回転することにより、前記冷却室の体積が変化し、前記ロールと前記溶湯とが接触する範囲で、前記冷却室が前記開閉手段によって密閉されると共に、前記冷却室が膨張するものである。
【0008】
請求項3においては、前記開閉手段は、前記冷却室と前記ロールの外部とを連通する微細孔であり、前記微細孔は、通気可能であるが、前記溶湯が通過できない大きさを有し、前記溶湯と接触する部分に配置されるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロールを冷却するためのガス等を供給することなく、低コストで効率的にロールを冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】鋳造機を示す斜視図。
【図2】ロールを示す正面断面図。
【図3】ロールを示す平面断面図。
【図4】ロールの冷却態様を示す図。
【図5】開閉手段の別形態を示す図。
【図6】ロールの別形態を示す正面断面図。
【図7】ロールの別形態を示す正面断面図。
【図8】ロールの別形態を示す平面断面図。
【図9】ロールの別形態を示す正面断面図。
【図10】ロールの別形態を示す平面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、図1を参照して、鋳造機1の全体構成について説明する。
【0012】
鋳造機1は、ロール2・2の間にノズル3を介して溶湯4を供給し、鋳片5を連続的に鋳造する双ロール式連続鋳造機である。
溶湯4は、アルミニウム合金や鋳鉄等の金属を溶融したものである。
鋳片5は、ロール2・2の表面で冷却されて凝固した溶湯4(凝固シェル)を互いにロール2・2の間で圧接させて成形される板状の金属であり、任意の長さで切断された後に適宜加工される。
【0013】
図1に示すように、鋳造機1は、所定間隔を空けて配置されたロール2・2と、ロール2・2の上方に配置されたノズル3とを備える。
【0014】
ロール2は、溶湯4を冷却するための部材であり、耐熱性や耐久性等に優れた熱伝導率の高い金属等からなる略円柱状の回転体である。ロール2は、所定間隔を空けて水平に二つ並設され、ロール2・2の間にノズル3を介して溶湯4が供給される。
ロール2・2は、これらの間にノズル3を介して供給された溶湯4を表面で冷却して凝固させる。そして、ロール2・2は、互いに逆方向(ノズル3の溶湯注出側から離間する方向であり、図1における矢印方向)に等速回転することで、ロール2・2の表面で冷却されて凝固した溶湯4(凝固シェル)を互いにロール2・2の間で圧接して、所定厚さを有する鋳片5を連続的に成形し下方(ノズル3が配置される側と反対側)に排出する。
【0015】
ノズル3は、ロール2・2の間に形成される空間に溶湯4を供給する筒状の部材であり、ロール2・2の間の上方近傍、かつ、ロール2・2の軸心方向に沿って配置される。ノズル3の下端部(ロール2・2側)には、溶湯4を注出するための注出口がロール2・2の軸心方向に沿って同一幅で開口されている。また、ノズル3の下端部の外周は、ロール2・2の外周形状に沿う円弧状に形成されており、ノズル3の下端部をできるだけロール2・2の外周面と近接させて溶湯4の供給を安定させると共に、ロール2・2の外周面とノズル3の下端部との隙間に溶湯4が入り込むことを防止している。
【0016】
以下では、図2〜図3を参照して、鋳造機1におけるロール2の内部構造について説明する。
なお、ロール2・2は互いに対称に配置されたものであるため、便宜上、片側のロール2についてのみ説明する。
また、説明の便宜上、図3におけるロール2の軸心方向の長さを短く表している。
【0017】
図2及び図3に示すように、ロール2は、外郭をなす冷却ローラ10と、冷却ローラ10の内部に設けられた内部ロータ20と、内部ロータ20の外周に設けられて冷却ローラ10の内周面に当接するように付勢された複数のベーン30・30・・・とを具備する。
【0018】
冷却ローラ10は、ロール2の外郭をなす略円筒状の部材であり、所定の方向(図2における矢印A方向)に回転可能に設けられる。冷却ローラ10は、軸部11及び本体部12を含む。
【0019】
軸部11は、冷却ローラ10の駆動軸となる略円筒状の部位であり、冷却ローラ10の軸心方向における一端部に形成されている。軸部11の内周面における一端部(本体部12側端部)には、内径ギア11aが形成されており、ピニオンギア40と歯合している。軸部11の他端は、任意の駆動装置と接続されており、当該駆動装置が駆動することで軸部11が回転駆動され、延いては冷却ローラ10が回転駆動される。
【0020】
本体部12は、冷却ローラ10の軸心方向に沿って軸部11と連続する部位であり、軸部11よりも径が大きい円筒状に形成されている。本体部12は、軸部11と同心的に配置されている。本体部12の内部には、内部ロータ20が設けられている。
なお、本体部12の内部空間の軸心方向の長さは、本体部12の外周面の軸心方向における溶湯4と接触する部分の長さより大きく設定されている。
【0021】
内部ロータ20は、略円柱状の部材であり、冷却ローラ10の回転駆動に従動して冷却ローラ10と逆方向(図2における矢印B方向)に回転可能に設けられる。
内部ロータ20は、冷却ローラ10の本体部12の内部に配置される。内部ロータ20の外径は本体部12の内径よりも小さく設定されており、内部ロータ20の外周面から本体部12の内周面にかけて所定の空間が形成される。
【0022】
内部ロータ20は、その軸心が冷却ローラ10の本体部12の軸心からキス点P(ロール2・2が最も接近する部分)の方向(図2における右方向)に所定の距離ずれた状態で本体部12の内部に配置されている。換言すれば、内部ロータ20は、冷却ローラ10に対して所定の距離だけキス点Pの方向に偏心している。そのため、本体部12と内部ロータ20との間の空間は、キス点P側の体積がその反対側の体積よりも小さくなっている。
なお、内部ロータ20の軸心方向の長さと、冷却ローラ10の本体部12の内部空間の軸心方向の長さは略同一に設定されている。
【0023】
内部ロータ20の軸心方向における一端面(冷却ローラ10の軸部11側)の中心には、冷却ローラ10の軸部11の内部に向けて突出するように外径ギア20aが形成されている。内部ロータ20の外径ギア20aは、ピニオンギア40と歯合している。前述のように、ピニオンギア40は冷却ローラ10の軸部11に形成された内径ギア11aとも歯合しているため、冷却ローラ10が前記駆動装置によって所定の方向(図2における矢印A方向)に回転駆動されることで、ピニオンギア40を介して内部ロータ20が冷却ローラ10と逆方向(図2における矢印B方向)に従動回転される。
ピニオンギア40は、冷却ローラ10の軸部11に形成された内径ギア11aと、内部ロータ20の外径ギア20aとの間に介装されたギアである。ピニオンギア40は、内径ギア11a及び外径ギア20aに対して相対的に一定の位置で回転自在に適宜の軸部材によって支持されている。ピニオンギア40を内径ギア11aと外径ギア20aとの間に介装することにより、冷却ローラ10の回転駆動力を内部ロータ20に伝達する際に、増速させることが可能であり、冷却ローラ10の回転速度と内部ロータ20の回転速度との間に差を付けることが可能である。
【0024】
内部ロータ20の外周面には、径方向内側に向けて所定の深さを有する複数の切込みが軸心方向全域に亘って連続的に形成され、前記複数の切り込みは内部ロータ20の周方向に互いに同一の位相差をもって配置されている。つまり、内部ロータ20の外周面の全周に亘って形成される複数の切り込みは、互いに周方向へ等間隔に配置されている。前記複数の切込みには、それぞれベーン30が設けられている。
【0025】
ベーン30は、板状の部材であり、付勢部材31を介して前記切込みに摺動自在に嵌挿されている。ベーン30は、冷却ローラ10の本体部12の内周面に当接するように付勢部材31によって付勢されている。つまり、ベーン30は、内部ロータ20の外周に互いに同一の位相差をもって複数配置されており、それぞれ付勢部材31によって冷却ローラ10の本体部12の内周面に当接するように内部ロータ20の径方向外側に向けて付勢されている。
付勢部材31は、例えば、コイルスプリング等のバネ部材である。付勢部材31は、ベーン30と接続された状態で前記切込み内に固定されており、ベーン30を内部ロータ20の径方向外側に向けて付勢する。
【0026】
以上のような構成により、冷却ローラ10の本体部12と内部ロータ20との間に形成される空間は、ベーン30・30・・・によって分割されて、複数の冷却室50・50・・・が形成される。つまり、冷却ローラ10の本体部12の内部に周方向に沿って複数の冷却室50・50・・・が形成される。ただし、内部ロータ20の軸心方向におけるベーン30の長さと内部ロータ20の長さは同一に設定され、内部ロータ20の径方向におけるベーン30の長さは、ベーン30が冷却ローラ10の本体部12の内周面に向けて付勢された状態で前記切込みから脱離しないように設定されている。
冷却室50・50・・・は、冷却ローラ10の本体部12の内周面、内部ロータ20の外周面、及びベーン30・30・・・によって密閉された空間である。冷却室50・50・・・は、冷却ローラ10に対して内部ロータ20が所定の距離だけキス点Pの方向に偏心しているので、隣接するもの同士が異なる体積を有しており、キス点Pに近付くにつれて体積が小さくなっている。
なお、ベーン30の数は、限定するものではなく、内部ロータ20の径等を考慮して設定され、それに伴って冷却室50の数も決定される。
【0027】
以上のように、所定の方向(図2における矢印A方向)に回転する冷却ローラ10の内部には、冷却ローラ10と逆方向(図2における矢印B方向)に回転する内部ロータ20が冷却ローラ10に対して偏心した状態で設けられ、内部ロータ20の外周には冷却ローラ10の内周面に当接するように付勢部材31によって付勢された複数のベーン30・30・・・が設けられる。
また、冷却ローラ10の本体部12と内部ロータ20との間に形成される空間は、複数のベーン30・30・・・によって分割されて、複数の冷却室50・50・・・が密閉空間として形成される。
【0028】
前記駆動装置によって冷却ローラ10が矢印A方向に回転駆動されると、冷却ローラ10の軸部11に形成された内径ギア11aと歯合したピニオンギア40も矢印A方向に回転される。これに伴って、ピニオンギア40と歯合した内部ロータ20の外径ギア20aが内径ギア11a及びピニオンギア40とは逆方向の矢印B方向に回転される。つまり、冷却ローラ10が前記駆動装置によって矢印A方向に回転駆動されるに伴って、ピニオンギア40がカウンタギアとして働くことにより、内部ロータ20が冷却ローラ10とは逆方向の矢印B方向に従動回転される。
【0029】
内部ロータ20が回転されると、内部ロータ20の外周に設けられた複数のベーン30・30・・・が冷却ローラ10の本体部12の内周面に当接した状態で摺動し、キス点P付近においては、冷却ローラ10と内部ロータ20との距離が小さくなるに伴い、ベーン30が内部ロータ20の径方向内側に向けて前記切込みに押し込まれると共に付勢部材31が収縮する。これに伴い、冷却室50の体積が減少する。
一方、キス点Pとは反対側(図2におけるロール2の左側)付近においては、冷却ローラ10と内部ロータ20との距離が大きくなるに伴い、付勢部材31が伸張すると共にベーン30が付勢部材31によって押圧されることで冷却ローラ10の本体部12の内周面に当接する。これに伴い、冷却室50の体積が増加する。
換言すれば、冷却室50・50・・・がそれらの体積を増減させながら、内部ロータ20やベーン30・30・・・と同じ方向(図2における矢印B方向)に回転している。
なお、冷却ローラ10の本体部12の内周面は、ベーン30・30・・・がスムーズに摺動できるように適宜加工されている。
【0030】
冷却ローラ10に対して内部ロータ20が所定の距離だけキス点Pの方向に偏心しており、冷却ローラ10の本体部12と内部ロータ20との距離が本体部12又は内部ロータ20の周方向において一定ではない。しかし、内部ロータ20とベーン30は付勢部材31を介して接続され、冷却ローラ10と内部ロータ20との距離に応じて、付勢部材31が伸縮するので、常にベーン30が冷却ローラ10の本体部12の内周面に当接された状態となって、冷却室50・50・・をそれぞれ密閉空間として形成している。また、冷却ローラ10と内部ロータ20との距離によって、付勢部材31が伸縮するのでベーン30が冷却ローラ10及び内部ロータ20の回転を妨げることはない。
【0031】
以下では、図4を参照して、鋳造機1のロール2における冷却ローラ10の冷却態様について説明する。
【0032】
図4に示すように、冷却ローラ10には、周方向に沿って多数の微細孔51・51・・・が設けられている。
微細孔51は、冷却室50の密閉及び開放を行う開閉手段となる孔であり、冷却室50とロール2の外部(大気雰囲気)とが連通するように冷却ローラ10の外周面から内周面に亘って貫通するように形成され、冷却ローラ10の軸心方向においては溶湯4と接触し得る部分に配置される。
【0033】
ここで、溶湯4と冷却ローラ10の一部とが接触する範囲(図4におけるR1で示す範囲)における冷却室50の体積をそれぞれ下方(冷却室50の回転方向における上流側)から、V1、V2、V3とする。この時、前述のように、冷却ローラ10に対して内部ロータ20が所定の距離だけキス点Pの方向に偏心しているので、V1<V2<V3の関係が成立する。
【0034】
範囲R1においては、溶湯4によって冷却ローラ10の微細孔51・51・・・が塞がれ、冷却室50が密閉された状態となる。この状態で、冷却ローラ10を矢印A方向に回転させるとともに、内部ロータ20を矢印B方向に回転させて、両者を互いに逆方向に回転させると、冷却室50の体積がV1からV2、そしてV3へと増加する。これに伴って密閉空間である冷却室50内の空気に断熱膨張が起こり、冷却室50の温度が低下する。つまり、冷却室50内の空気の断熱膨張により冷却室50が冷却され、冷却された冷却室50に面する冷却ローラ10の一部分が冷却されることで、当該部分に接触する溶湯4が冷却されて凝固が促進する。
なお、微細孔51は、微細な孔であり、通気可能であるが、溶湯4は表面張力により通過できない大きさに構成されている。
【0035】
一方、範囲R1を除く範囲においては、微細孔51・51・・・を介して冷却室50とロール2の外部とが連通した状態となるので、範囲R1で断熱膨張により冷却された冷却室50の空気が外部に排出されると共に外気が導入される。
冷却室50が密閉された状態のままでは、内部ロータ20を回転させて断熱膨張により冷却室50を冷却したとしても、それ以降の内部ロータ20が回転する過程で膨張した空気が圧縮されて元の体積に戻ることで温度も元の状態に戻ってしまい、冷却室50の冷却を持続させることができない。そのため、範囲R1を除く範囲で微細孔51を介して膨張して冷却された空気を排出し、冷却室50に外気を導入することで、膨張して冷却された空気が圧縮されて元の温度に戻ることを防いでいる。
【0036】
以上のように、鋳造機1のロール2は、冷却ローラ10を冷却するためのガス等を供給することなく、内部ロータ20及びベーン30・30・・・が冷却室50・50・・・の膨張手段となって冷却室50・50・・・を断熱膨張により冷却することで冷却ローラ10を冷却して溶湯4の冷却・凝固を促進させるため、鋳造機1の構成を簡易なものとして製造コストを低減することができる。
また、冷却ローラ10の径に対する内部ロータ20の径の比率や、冷却ローラ10の軸心と内部ロータ20の軸心との距離(冷却ローラ10に対する内部ロータ20の偏心の度合い)等によって、V1、V2、及びV3の大きさが決定される。そのため、冷却室50の体積がV1からV2、そしてV3へと増加する割合、つまりV1からV3への変化量が大きくなるように、冷却ローラ10の径に対する内部ロータ20の径の比率や、冷却ローラ10の軸心と内部ロータ20の軸心との距離等を設定することによって、冷却室50の温度を更に低下させて冷却ローラ10を良好に冷却することができる。
また、ピニオンギア40に対する内径ギア11aや外径ギア20aのギア比が小さくなるにつれて内部ロータ20の回転数が大きくなるため、内径ギア11aや外径ギア20aのギア比を小さくして内部ロータ20の回転数を大きくすることで、断熱膨張による冷却の頻度を増加させて冷却ローラ10を容易かつ良好に冷却することができる。
また、範囲R1で溶湯4によって冷却ローラ10の微細孔51・51・・・が塞がれた状態で溶湯4に接触する冷却ローラ10の一部分がピンポイントに冷却されるため、効率的に冷却ローラ10を冷却することができる。この時、冷却ローラ10と内部ロータ20とが互いに逆方向に回転して、冷却室50に面する冷却ローラ10の内周面が常に変動することで冷却ローラ10が均一に冷却されるため、冷却ローラ10の変形が防止される。
また、範囲R1で溶湯4によって冷却ローラ10の微細孔51・51・・・が塞がれた状態で冷却室50を膨張させるので、溶湯4が微細孔51・51・・・によって冷却ローラ10の径方向内側に吸引された状態となる。そのため、溶湯4が凝固時に収縮して冷却ローラ10の外周面から離れることを防止して、常に冷却ローラ10の外周面に密着させることで、効率的に溶湯4を冷却することができる。
【0037】
また、冷却室50の密閉及び開放を行う開閉手段として、微細孔51の代わりに通気路52及び制御弁53を適用することも可能である。
詳細には、図5に示すように、ロール2を多数の微細孔51・51・・・が設けられた冷却ローラ10や、内部ロータ20等から構成する代わりに、冷却ローラ110や、複数の通気路52・52・・・と、通気路52・52・・・を開閉するための制御弁53・53・・・とが設けられた内部ロータ120等から構成する。
なお、説明の便宜上、図5におけるロール2の軸心方向の長さを短く表している。
【0038】
冷却ローラ110は、多数の微細孔51・51・・・が設けられてない点以外は冷却ローラ10と同様に構成された部材である。
内部ロータ120は、複数の通気路52・52・・・と、通気路52・52・・・を開閉するための制御弁53・53・・・とが設けられている点以外は内部ロータ20と同様に構成された部材である。
【0039】
通気路52は、冷却室50とロール2の外部とが連通するように内部ロータ120の内部に形成された通路である。
制御弁53は、通気路52を開閉するための部材であり、通気路52の所定位置に配置される。
【0040】
溶湯4と冷却ローラ110とが接触しない範囲(図4におけるR1を除く範囲)では、制御弁53を所定のアクチュエータによって制御して通気路52を開くことで、冷却室50の空気を外部に排出すると共に外気を導入する。
一方、溶湯4と冷却ローラ110とが接触する範囲(図4におけるR1で示す範囲)では、制御弁53を所定のアクチュエータによって制御して通気路52を閉じることで、冷却室50を密閉する。この状態で、多数の微細孔51・51・・・を開閉手段とする場合と同様に、冷却ローラ110と内部ロータ120とを互いに逆方向に回転させて、断熱膨張により冷却室50を冷却し、冷却した冷却室50に面する冷却ローラ110の一部分が冷却されることで、当該部分に接触する溶湯4が冷却されて凝固が促進する。
【0041】
また、ロールの他の形態として、ロール202を適用することも可能である。
以下では、図6を参照して、ロール202の内部構造について説明する。
【0042】
図6に示すように、ロール202は、外郭をなす冷却ローラ210と、冷却ローラ210の内部に設けられた複数のピストン220・220・・・と、ピストン220・220・・・を摺動させるギア230・230・・・とを具備する。
【0043】
冷却ローラ210は、ロール202の外郭をなす略円柱状の部材である。冷却ローラ210の中心には、固定軸240が挿通され、冷却ローラ210を回転自在に支持している。冷却ローラ210は、任意の駆動装置と接続されており、当該駆動装置が駆動することで所定の方向(図5における矢印方向)に回転駆動される。
固定軸240は、冷却ローラ210に同心的に設けられた軸部材であり、所定の場所に固定される。固定軸240の所定の位置には、複数のギア230・230・・・と歯合する固定ギア240aが形成されている。
【0044】
冷却ローラ210の内部には、ピストン220が摺動する通路となるシリンダ部211が複数形成されている。
シリンダ部211は、冷却ローラ210の径方向に中心から外周面近傍に亘って一定の断面積を有する一直線形状に形成された密閉空間であり、冷却ローラ210の周方向に互いに同一の位相差をもって複数配置されている。シリンダ部211には、ピストン220が摺動可能に設けられる。
【0045】
ピストン220は、シリンダ部211の断面形状に一致するように成形された部材であり、シリンダ部211に摺動可能に設けられる。
ピストン220に対してシリンダ部211の外側(冷却ローラ210の外周面側)には、冷却ローラ210を冷却するための密閉空間である冷却室250が形成される。つまり、冷却ローラ210の内部に周方向に沿って複数の冷却室250・250・・・が形成される。
一方、ピストン220に対してシリンダ部211の内側(冷却ローラ210の中心側)には、ギア230が設けられる。
なお、冷却ローラ210の軸心方向における冷却室250の長さは、冷却ローラ210の外周面の軸心方向における溶湯4と接触する部分の長さより大きく設定されている。
【0046】
ギア230は、ピストン220を摺動させるための部材であり、シリンダ部211のピストン220よりも内側(冷却ローラ210の中心側)に設けられた軸231に回転自在に支持されている。ギア230は、固定軸240に形成された固定ギア240aと歯合している。
軸231は、ギア230の軸部材であり、冷却ローラ210の軸心方向に沿うように両端がシリンダ部211の内周面に固定されている。
【0047】
ギア230は、アーム221を介してピストン220に接続されている。
アーム221は、ピストン220とギア230とを連結する部材であり、アーム221の一端がギア230の軸心方向における一端面に接続され、アーム221の他端がピストン220に接続される。アーム221の両端部、つまりアーム221のピストン220及びギア230との接続部は、それぞれの接続部を中心としてアーム221が回転可能なように構成されている。
【0048】
前記駆動装置によって冷却ローラ210が矢印方向に回転駆動されると、冷却ローラ210のシリンダ部211・211・・・に固定された複数の軸231・231・・・が固定軸240を中心とする同心円上を回転する。そのため、複数の軸231・231・・・に回転自在に支持された複数のギア230・230・・・も固定軸240を中心とする同心円上を回転する。
【0049】
複数のギア230・230・・・は固定軸240に形成された固定ギア240aと歯合しているため、固定軸240の周りを回転すると、軸231・231・・・を中心に回転する。つまり、ギア230・230・・・は固定軸240の固定ギア240aの周りを公転すると共に自転する。
【0050】
複数のギア230・230・・・が自転すると、ギア230・230・・・に接続されたアーム221・221・・・の一端が冷却ローラ210の径方向に移動することとなる。これに伴って、アーム221・221・・・の他端に接続されたピストン220・220・・・がシリンダ部211・211・・・を摺動する。
【0051】
以上のように、冷却ローラ210の回転によって、複数のピストン220・220・・・がシリンダ部211・211・・・を摺動し、それに伴って冷却室250・250・・・の体積が増減する。
なお、シリンダ部211の数は、限定するものではなく、冷却ローラ210の径等を考慮して設定され、それに伴ってピストン220、ギア230、及び冷却室250の数も決定される。
【0052】
以下では、図6を参照して、ロール202における冷却ローラ210の冷却態様について説明する。
【0053】
ピストン220が最も冷却ローラ210の外周面に近接する位置(上死点)、つまり冷却室250の体積が最小となる位置から、ピストン220が最も冷却ローラ210の外周面から離間する位置(下死点)、つまり冷却室250の体積が最大となる位置までの範囲(図6におけるR2で示す範囲)においては、前述のような開閉手段をロール202にも適用して冷却室250を密閉した状態で、ピストン220を移動させることで、前述の実施形態と同様に断熱膨張により冷却室250を冷却して、冷却室250に面する冷却ローラ210の一部分を冷却する。
なお、冷却ローラ210の溶湯4と接触する部分は、R2で示す範囲内であり、かつ下死点寄りに設定される。
【0054】
一方、ピストン220が最も冷却ローラ210から離間する位置(下死点)、つまり冷却室250の体積が最大となる位置から、ピストン220が最も冷却ローラ210に近接する位置(上死点)、つまり冷却室250の体積が最小となる位置までの範囲(図6におけるR2を除く範囲)においては、前記開閉手段によって冷却室250の密閉を開放する。
【0055】
以上のように、ロール202は、冷却ローラ210を冷却するためのガス等を供給することなく、ピストン220が冷却室250の膨張手段となって冷却室250を断熱膨張により冷却することで冷却ローラ210を冷却して溶湯4の冷却・凝固を促進させるため、鋳造機1の構成を簡易なものとして製造コストを低減することができる。
【0056】
また、ロールの他の形態として、ロール302を適用することも可能である。
以下では、図7〜図8を参照して、ロール302の内部構造について説明する。
なお、説明の便宜上、図8におけるロール302の軸心方向の長さを短く表している。
【0057】
図7及び図8に示すように、ロール302は、外郭をなす冷却ローラ310と、冷却ローラ310の内部に設けられた複数のピストン320・320・・・と、ピストン320・320・・・を摺動させる斜板330とを具備する。
【0058】
冷却ローラ310は、ロール302の外郭をなす略円柱状の部材である。冷却ローラ310の中心には、駆動軸312が挿通され、冷却ローラ310に固定されている。
駆動軸312は、冷却ローラ310に同心的に設けられた軸部材であり、その一端側から冷却ローラ310の中心部に挿通されて他端側が冷却ローラ310から突出した状態で固定される。駆動軸312の他端は、任意の駆動装置と接続されており、当該駆動装置が駆動することで駆動軸312に固定された冷却ローラ310が所定の方向(図7における矢印方向)に回転駆動される。
【0059】
冷却ローラ310の内部には、冷却ローラ310を冷却するための密閉空間である冷却室350が形成され、冷却ローラ310の周方向に互いに同一の位相差をもって外周面近傍に複数配置されている。つまり、冷却ローラ310の内部に周方向に沿って複数の冷却室350・350・・・が形成されている。
なお、冷却ローラ310の軸心方向における冷却室350の長さは、冷却ローラ310の外周面の軸心方向における溶湯4と接触する部分の長さより大きく設定されている。
【0060】
冷却ローラ310の内部には、また、ピストン320が摺動する通路となるシリンダ部311が複数形成されている。
シリンダ部311は、冷却ローラ310の軸心方向における一端面から軸心に沿って内部に向けて一定の断面積を有する一直線形状に形成された通路であり、冷却ローラ310の周方向に互いに同一の位相差をもって冷却室350の内側(冷却ローラ310の中心側)に冷却室350と同数配置されている。シリンダ部311は、開口側とは反対側の端部で冷却室350と連通しており、シリンダ部311と冷却室350とが一体的な空間として構成されている。シリンダ部311には、ピストン320が摺動可能に設けられている。
【0061】
ピストン320は、シリンダ部311の断面形状に一致するように成形された部材であり、シリンダ部311に摺動可能に設けられる。ピストン320の一端部には、斜板330に把持される把持部321が形成されており、ピストン320の他端部がシリンダ部311に挿入されて把持部321が冷却ローラ310から突出した状態で支持される。
把持部321は、ピストン320の一端部に形成された部位であり、ピストン320がシリンダ部311に挿入された状態で斜板330によって把持される。
【0062】
斜板330は、円状の板材であり、冷却ローラ310の軸心方向における一端面(シリンダ部311・311・・・の開口側の面)に対して所定の傾斜を有した状態で所定の場所に固定される。斜板330の中心部には、駆動軸312が挿通され、所定の傾斜を有した状態で駆動軸312を回転自在に支持している。斜板330の冷却ローラ310側の表面には、ピストン320の把持部321を把持するためのレール状のガイド部331が周方向全域に亘って連続的に形成されている。
ガイド部331は、ピストン320を脱離しないように把持して案内することにより、ピストン320を冷却ローラ310の周方向に沿って移動可能とするものである。
【0063】
前記駆動装置によって駆動軸312が矢印方向に回転駆動されると、駆動軸312に固定された冷却ローラ310が矢印方向に回転する。そのため、冷却ローラ310に形成された複数のシリンダ部311・311・・・に挿入されたピストン320・320・・・が斜板330のガイド部331に案内されながら冷却ローラ310の周方向に沿って移動する。
【0064】
斜板330は冷却ローラ310の軸心方向における一端面(シリンダ部311・311・・・の開口側の面)に対して所定の傾斜を有した状態で固定されているため、斜板330と冷却ローラ310の軸心方向における一端面とが近接する位置においては、ピストン320・320・・・が冷却ローラ310の内部に向けて摺動する。これに伴って、シリンダ部311・311・・・とピストン320・320・・・とがなす空間の体積が減少する。
一方、斜板330と冷却ローラ310の軸心方向における一端面とが離間する位置においては、ピストン320・320・・・が冷却ローラ310の外部に向けて摺動する。これに伴って、シリンダ部311・311・・・とピストン320・320・・・とがなす空間の体積が増加する。
【0065】
以上のように、冷却ローラ310の回転によって、複数のピストン320・320・・・がシリンダ部311・311・・・を摺動し、それに伴ってシリンダ部311・311・・・とピストン320・320・・・とがなす空間の体積が増減する。
なお、冷却室350の数や大きさ等は、限定するものではなく、冷却ローラ310の径等を考慮して設定され、それに伴ってシリンダ部311、及びピストン320の数等も決定される。
【0066】
以下では、図7〜図8を参照して、ロール302における冷却ローラ310の冷却態様について説明する。
【0067】
斜板330と冷却ローラ310の軸心方向における一端面とが近接してピストン320が最も深くシリンダ部311に挿入される位置(上死点)、つまりシリンダ部311とピストン320とがなす空間の体積が最小となる位置から、斜板330と冷却ローラ310の軸心方向における一端面とが離間してピストン320が最も浅くシリンダ部311に挿入される位置(下死点)位置、つまりシリンダ部311とピストン320とがなす空間の体積が最大となる位置までの範囲においては、前述のような開閉手段をロール302にも適用してシリンダ部311及び冷却室350を密閉した状態で、ピストン320を移動させることで、前述の実施形態と同様に断熱膨張により冷却室350を冷却して、冷却室350に面する冷却ローラ310の一部分を冷却する。
なお、冷却ローラ310の溶湯4と接触する部分は、上記の範囲内であり、かつ下死点寄りに設定される。
【0068】
一方、斜板330と冷却ローラ310の軸心方向における一端面とが離間してピストン320が最も浅くシリンダ部311に挿入される位置(下死点)位置、つまりシリンダ部311とピストン320とがなす空間の体積が最大となる位置から、斜板330と冷却ローラ310の軸心方向における一端面とが近接してピストン320が最も深くシリンダ部311に挿入される位置(上死点)、つまりシリンダ部311とピストン320とがなす空間の体積が最小となる位置までの範囲においては、前記開閉手段によって冷却室350の密閉を開放する。
【0069】
以上のように、ロール302は、冷却ローラ310を冷却するためのガス等を供給することなく、ピストン320がシリンダ部311とピストン320とがなす空間、及び冷却室350の膨張手段となって冷却室350を断熱膨張により冷却することで冷却ローラ310を冷却して溶湯4の冷却・凝固を促進させるため、鋳造機1の構成を簡易なものとして製造コストを低減することができる。
また、シリンダ部311を冷却ローラ310の軸心に沿って平行に形成しているため、ピストン320を冷却ローラ310の軸心方向に摺動させて、ピストン320のストローク量を更に大きくすることが可能となる。したがって、冷却室350の温度を更に低下させて冷却ローラ310を良好に冷却することができる。
【0070】
また、ロールの他の形態として、ロール402を適用することも可能である。
以下では、図9〜図10を参照して、ロール402の内部構造について説明する。
なお、説明の便宜上、図10におけるロール2の軸心方向の長さを短く表している。
【0071】
図9及び図10に示すように、ロール402は、外郭をなす冷却ローラ410と、冷却ローラ410の内部に設けられた内部ロータ420と、冷却ローラ410の内周に設けられて内部ロータ420の外周面に当接するように付勢された複数のベーン430・430・・・とを具備する。
【0072】
冷却ローラ410は、ロール402の外郭をなす略円筒状の部材であり、所定の方向(図9における矢印方向)に回転可能に設けられる。冷却ローラ410は、軸部411及び本体部412を含む。
【0073】
軸部411は、冷却ローラ410の駆動軸となる略円筒状の部位であり、冷却ローラ410の軸心方向における一端部に形成されている。軸部411の一端は、任意の駆動装置と接続されており、当該駆動装置が駆動することで軸部411が回転駆動され、延いては冷却ローラ410が回転駆動される。
【0074】
本体部412は、冷却ローラ410の軸心方向に沿って軸部411と連続する部位であり、軸部411よりも径が大きい円筒状に形成されている。本体部412は、軸部411と同心的に配置されている。本体部412の内部には、内部ロータ420が設けられている。
なお、本体部412の内部空間の軸心方向の長さは、本体部412の外周面の軸心方向における溶湯4と接触する部分の長さより大きく設定されている。
【0075】
内部ロータ420は、略円柱状の部材であり、所定の位置に固定される。内部ロータ420は、冷却ローラ410の本体部412の内部に配置される。内部ロータ20の外径は本体部412の内径よりも小さく設定されており、内部ロータ420の外周面から本体部412の内周面にかけて所定の空間が形成される。
【0076】
内部ロータ420は、冷却ローラ410の本体部412の軸心からキス点P(ロール402・402が最も接近する部分)とは逆方向(図9における左方向)に所定の距離ずれた状態で本体部412の内部に配置されている。換言すれば、内部ロータ420は、冷却ローラ410に対して所定の距離だけキス点Pとは逆方向に偏心している。そのため、本体部412と内部ロータ420との間の空間は、キス点P側の体積がその反対側の体積よりも大きくなっている。
なお、内部ロータ420の軸心方向の長さと、冷却ローラ410の本体部412の内部空間の軸心方向の長さは略同一に設定されている。
【0077】
内部ロータ420の軸心方向における一端面(冷却ローラ410の軸部411側)は、固定軸440と固定されている。
固定軸440は、内部ロータ420を一定の状態に固定するための軸部材であり、冷却ローラ410の軸部411の軸心と一致するように軸部411の内部に配置される。固定軸440の一端は、内部ロータ420の軸心方向における一端面に固定され、固定軸440の他端は、所定の場所に固定されている。つまり、固定軸440は、内部ロータ420に対して所定の距離だけキス点Pの方向に偏心した状態で内部ロータ420に固定されて、内部ロータ420を一定の姿勢で保持している。
【0078】
冷却ローラ410の本体部412の内周面には、径方向外側に向けて所定の深さを有する切込みが軸心方向全域に亘って連続的に形成され、本体部412の周方向に互いに同一の位相差をもって複数配置されている。これらの複数の切込みには、それぞれベーン430が設けられている。
【0079】
ベーン430は、板状の部材であり、付勢部材431を介して前記切込みに設けられる。ベーン430は、内部ロータ420の外周面に当接するように付勢部材431によって付勢されている。つまり、ベーン430は、冷却ローラ410の本体部412の内周に互いに同一の位相差をもって複数配置されており、それぞれ付勢部材431によって内部ロータ420の外周面に当接するように本体部412の径方向内側に向けて付勢されている。
付勢部材431は、例えば、コイルスプリング等のバネ部材である。付勢部材431は、ベーン430と接続された状態で前記切込み内に固定されており、ベーン430を冷却ローラ410の本体部412の径方向内側に向けて付勢する。
【0080】
以上のような構成により、冷却ローラ410の本体部412と内部ロータ420との間に形成される空間は、ベーン430・430・・・によって分割されて、複数の冷却室450・450・・・が形成される。つまり、冷却ローラ410の本体部412の内部に周方向に沿って複数の冷却室450・450・・・が形成される。ただし、内部ロータ420の軸心方向におけるベーン430の長さと内部ロータ420の長さは同一に設定され、本体部412の径方向におけるベーン430の長さは、ベーン430が内部ロータ420の外周面に向けて付勢された状態で前記切込みから脱離しないように設定されている。
冷却室450・450・・・は、冷却ローラ410の本体部412の内周面、内部ロータ420の外周面、及びベーン430・430・・・によって密閉された空間である。冷却室450・450・・・は、冷却ローラ410に対して内部ロータ420が所定の距離だけキス点Pとは逆方向に偏心しているので、隣接するもの同士が異なる体積を有しており、キス点Pに近付くにつれて体積が大きくなっている。
なお、ベーン430の数は、限定するものではなく、冷却ローラ410の本体部412の径等を考慮して設定され、それに伴って冷却室450の数も決定される。
【0081】
前記駆動装置によって冷却ローラ410が矢印方向に回転駆動されると、冷却ローラ410の本体部412の内周に設けられた複数のベーン430・430・・・が内部ロータ420の外周面に当接した状態で摺動し、キス点P付近においては、冷却ローラ410と内部ロータ420との距離が大きくなるに伴い、付勢部材431が伸張すると共にベーン430が付勢部材431によって押圧されることで内部ロータ420の外周面に当接する。これに伴い、冷却室450の体積が増加する。
一方、キス点Pとは反対側(図9におけるロール402の左側)付近においては、冷却ローラ410と内部ロータ420との距離が小さくなるに伴い、ベーン430が本体部412の径方向外側に向けて前記切込みに押し込まれると共に付勢部材431が収縮する。これに伴い、冷却室450の体積が減少する。
換言すれば、冷却室450・450・・・がそれらの体積を増減させながら、冷却ローラ410やベーン430・430・・・と同じ方向(図9における矢印方向)に回転している。
なお、内部ロータ420の外周面は、ベーン430・430・・・がスムーズに摺動できるように適宜加工されている。
【0082】
以上のように、冷却ローラ410の回転によって、複数のベーン430・430・・・が内部ロータ420の外周面を摺動し、それに伴って冷却室450・450・・・の体積が増減する。
【0083】
以下では、図9〜図10を参照して、ロール402における冷却ローラ410の冷却態様について説明する。
【0084】
冷却ローラ410と内部ロータ420との距離が最も小さくなる位置、つまり冷却室450の体積が最小となる位置から、冷却ローラ410と内部ロータ420との距離が最も大きくなる位置、つまり冷却室450の体積が最大となる位置までの範囲(図9におけるR3で示す範囲)においては、前述のような開閉手段をロール402にも適用して冷却室450を密閉した状態で、冷却ローラ410を回転させることで、前述の実施形態と同様に断熱膨張により冷却室450を冷却して、冷却室450に面する冷却ローラ410の一部分を冷却する。
【0085】
一方、冷却ローラ410と内部ロータ420との距離が最も大きくなる位置、つまり冷却室450の体積が最大となる位置から、冷却ローラ410と内部ロータ420との距離が最も小さくなる位置、つまり冷却室450の体積が最小となる位置までの範囲(図9におけるR3を除く範囲)においては、前記開閉手段によって冷却室450の密閉を開放する。
【0086】
以上のように、鋳造機1のロール402は、冷却ローラ410を冷却するためのガス等を供給することなく、内部ロータ420及びベーン430・430・・・が冷却室450・450・・・の膨張手段となって冷却室450・450・・・を断熱膨張により冷却することで冷却ローラ410を冷却して溶湯4の冷却・凝固を促進させるため、鋳造機1の構成を簡易なものとして製造コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 鋳造機
2 ロール
3 ノズル
4 溶湯
5 鋳片
10 冷却ローラ
20 内部ロータ
30 ベーン
31 付勢部材
40 ピニオンギア
50 冷却室
51 微細孔
52 通気路
53 制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔を空けて配置され、互いに逆方向に等速回転する一対のロールを備え、
前記一対のロールの間に溶湯を供給して板状の鋳片を連続的に鋳造する双ロール式連続鋳造機であって、
前記ロールの内部に周方向に沿って複数形成され、該ロールの表面を冷却する冷却室と、
前記冷却室の密閉及び開放を行う開閉手段と、
前記冷却室を膨張させる膨張手段と、を具備し、
前記冷却室は、
前記ロールと前記溶湯とが接触する範囲で、前記開閉手段によって密閉されると共に、前記膨張手段によって膨張され、
前記ロールと前記溶湯とが接触しない範囲で、前記開閉手段によって開放される双ロール式連続鋳造機。
【請求項2】
前記ロールは、該ロールの外郭をなす中空の冷却ローラと、
前記冷却ローラの内部に設けられ、前記冷却ローラに対して偏心して配置される内部ロータと、
前記内部ロータの外周に設けられ、前記冷却ローラの内周面に当接するように付勢される複数のベーンと、を含み、
前記冷却室は、前記冷却ローラと前記内部ロータとの間に形成される空間が前記複数のベーンによって分割されて形成される空間であり、
前記膨張手段は、前記内部ロータ及び前記複数のベーンにて構成され、
前記内部ロータと前記複数のベーンとが一体的に回転することにより、前記冷却室の体積が変化し、前記ロールと前記溶湯とが接触する範囲で、前記冷却室が前記開閉手段によって密閉されると共に、前記冷却室が膨張する請求項1に記載の双ロール式連続鋳造機。
【請求項3】
前記開閉手段は、前記冷却室と前記ロールの外部とを連通する微細孔であり、
前記微細孔は、通気可能であるが、前記溶湯が通過できない大きさを有し、
前記溶湯と接触する部分に配置される請求項1又は請求項2に記載の双ロール式連続鋳造機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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