説明

双眼鏡

【課題】焦点及び視度調節に必要な操作量が少なく、かつ左右の鏡筒を結合するヒンジが薄く、かつ双眼鏡の光軸の安定性を維持できる強度を有し、かつ軽量で、かつ持ち易い双眼鏡を提供すること。
【解決手段】調節レンズを可動にする一対の調節手段と、前記一対の調節手段の中間に位置する中心軸線を中心にして回転可能な中央転輪と、前記中央転輪の回転に応じて回転し又は不動となる回転筒体と、前記中心軸線に沿って前記一方の調節手段と共に移動可能である内側筒体と、前記中心軸線に沿って前記他方の調節手段と共に移動可能である外側筒体と、前記外側筒体に係合する係合片を備え、前記中央転輪と係合脱離可能である視度調節環と、前記一対の調節手段の移動距離及び移動方向を焦点及び視度調節に必要な前記調節レンズの移動距離及び移動方向に変換する変換装置とを備えることを特徴とする双眼鏡。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、双眼鏡に関し、特に詳しく言うと、焦点及び視度調節に必要な操作量が少なく、かつ左右の鏡筒を結合するヒンジが薄く、かつ双眼鏡の光軸の安定性を維持できる強度を有し、かつ軽量で、かつ持ち易い双眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の発明は、「持ち易く軽くて回転ノブの使い勝手の良い双眼鏡」に関し(特許文献1の段落番号0004参照)、その請求項1には、「双眼鏡における眼間を調整する為の、中心軸、関節装置が2つの管部材の中間位置にあると同時に、軸方向上部に偏って1箇所のみ設置されている事を特徴とする双眼鏡」が提案されている。
【0003】
また、特許文献2に記載された双眼鏡は、その請求項1に記載されているように、「一対の接眼光学系と対物光学系との間に設けられる調節レンズを光軸に沿って前後進可能に支持する一対の調節手段と、前記一対の調節手段を光軸方向に同時に前後進させて焦点調節を行う焦点調節手段と、一方の調節手段を、他方の調節手段を不動状態にしたまま、光軸方向に前後進させて視度調節を行う視度調節手段と、前記焦点調節手段と視度調節手段とを切り替える切替手段とを有する焦点視度調節ユニットを備えてなることを特徴とする双眼鏡」である。
【0004】
しかしながら、特許文献2に開示された双眼鏡は、請求項2に記載されたように、「前記焦点調節手段が、固定中心軸体に回転可能に装着され、外周に雄ネジを有する太径部と外周に雄ネジを有する細径部とを有し、調節レンズを支持する一方の調節手段を回動不能に前記太径部で支持するリード環と、前記リード環と螺合により結合され、回転により前記リード環を前後進させる第1回転体とを備え、前記視度調節手段が、前記リード環に回転可能に支持され、他方の調節レンズを支持する他方の調節手段を支持する小リード環を備え、前記切替手段が、固定中心軸体の軸線に沿って一方向に移動すると、前記小リード環に回転運動伝達不能状態下に前記第1回転体に回転運動を伝達可能にし、前記軸線方向に沿って逆方向に移動すると前記第1回転体の回転運動伝達不能状態下に前記小リード環に回転運動を伝達可能とする第2回転体を備えて成る前記請求項1に記載の双眼鏡」といった態様しか示されていない。
【0005】
焦点及び視度調節をすることのできる双眼鏡では、左右の鏡筒を結合するヒンジ内に種々の部材を収納することにより、ヒンジが厚くなり易く、操作者が双眼鏡を持ち難いことがあった。ヒンジの厚みを小さくすると、双眼鏡の光軸が安定しなくなると共に双眼鏡自体の強度が大きく低下することがあった。更に、ヒンジの厚みが大きい状態では双眼鏡全体が大きくなり易く、焦点及び視度調節に必要な操作量も多くなることがあった。
【0006】
これに鑑みて、焦点及び視度調節に必要な操作量が少なく、かつ左右の鏡筒を結合するヒンジが薄く、かつ双眼鏡の光軸の安定性を維持できる強度を有し、かつ軽量で、かつ持ち易い双眼鏡が求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開2007−127690号公報
【特許文献2】特開2006−53381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、焦点及び視度調節に必要な操作量が少なく、かつ左右の鏡筒を結合するヒンジが薄く、かつ双眼鏡の光軸の安定性を維持できる強度を有し、かつ軽量で、かつ持ち易い双眼鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、「一対の接眼光学系と対物光学系との間に設けられる調節レンズを可動にする一対の調節手段と、
前記一対の調節手段の中間に位置する中心軸線を中心にして回転可能な中央転輪と、
外周面に雄ネジを備えてなると共に前記中央転輪に係合又は脱離することにより、前記中央転輪の回転に応じて回転し又は不動となる回転筒体と、
前記回転筒体の雄ネジに係合する雌ネジを内周面に有すると共に外周面に雄ネジを備え、一方の調節手段を結合し、かつ前記中心軸線に沿って前記一方の調節手段と共に移動可能である内側筒体と、
前記内側筒体の雄ネジに螺合する雌ネジを内周面に有すると共に他方の調節手段を結合し、かつ前記中心軸線に沿って前記他方の調節手段と共に移動可能である外側筒体と、
前記外側筒体に係合する係合片を備え、前記中央転輪と係合脱離可能であり、前記中央転輪に係合しかつ前記中央転輪が前記回転筒体から脱離するときには、前記中心軸線を中心にして回動可能でありかつ前記係合片を回動可能にし、前記中央転輪から脱離しかつ前記中央転輪が前記回転筒体に係合するときには、前記外側筒体を前記中心軸線に沿って移動可能にする視度調節環と、
前記一対の調節手段の移動距離及び移動方向を焦点及び視度調節に必要な前記調節レンズの移動距離及び移動方向に変換する変換装置とを備えることを特徴とする双眼鏡」である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、中央転輪の操作により内側筒体及び外側筒体と調節レンズを可動にする一対の調節手段とが共に移動することとなり、変換装置が前記一対の調節手段の移動距離及び移動方向を焦点及び視度調節に必要な調節レンズの移動距離及び移動方向に変換することにより、焦点及び視度調節に必要な操作量が少なく、かつ左右の鏡筒を結合するヒンジが薄く、かつ双眼鏡の光軸の安定性を維持できる強度を有し、かつ軽量で、かつ持ち易い双眼鏡を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の双眼鏡の一例を図1に示す。なお、図1に示す双眼鏡1は、ズーム機能を備えている。図1に示されるように、この発明の一例である双眼鏡1は、接眼光学系2及び対物光学系3を夫々内蔵する一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4bと、前記一方の鏡筒4a及び前記他方の鏡筒4bを回動可能に結合すると共に、接眼光学系3の一方の光軸及び接眼光学系3の他方の光軸を観察者の両眼間隔に一致させることができるようにする回動結合部5とを備える。一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4bは、両端を開口する略円筒体であり、周側面の一部が回動結合部5で互いに結合している。また、一方の鏡筒4aにおける接眼光学系2近傍には、光軸を中心として回転又は回動可能な環状部材であるズーム操作環4cが設けられている。更に、一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4bの内部には像をズーム可能な変倍装置(図示せず)が設けられると共に、中央転輪6の上部には変倍装置が一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4b内で同時に作動するように連動部材(図示せず)が設けられている。ズーム操作環4cが回転又は回動すると、中央転輪6の上部に設けられる連動部材(図示せず)により、変倍装置(図示せず)が駆動し、双眼鏡1のズーム機能が作用することとなる。変倍装置としては、公知の変倍可能な機構を適用することができ、連動部材としては、変倍装置の動作を連動可能である部材例えばスチールベルト等を用いることができる。
【0012】
双眼鏡1は、一方の鏡筒4aの軸線と他方の鏡筒4bの軸線との中間であってかつ夫々の軸線に平行な仮想的中間軸線上に配置された中央転輪6を備える。中央転輪6からは、一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4bに向って一方のワイヤ7a及び他方のワイヤ7bが延在している。また、一方のワイヤ7a及び他方のワイヤ7bは、一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4b内に夫々装着される変換装置8に接続されている。なお、図1において一方の鏡筒4aの左下に示される破断部は、一方の鏡筒4aを横方向から切断した場合の断面図である。変換装置8は、光学系駆動手段9に接続されている。光学系駆動手段9は、変換装置8が作動することにより、一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4bの軸線に沿って視度レンズ10を前後進させることができる。
【0013】
中央転輪6は有底円筒体であり、図示しないが、中央転輪6の周側面が回動結合部5の表面に露出するようにして設置されている。したがって、一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4bを手で持った状態で、操作者は例えば指で中央転輪6を操作することができる。
【0014】
前記回動結合部5は、一方の鏡筒4aの略中央部から張り出した装着部と他方の鏡筒4bの略中央部から張り出した装着部とを回動可能に装着する基体(図示せず。)を有している。
【0015】
図2には、図1における双眼鏡1の中央転輪6、一方のワイヤ7a、他方のワイヤ7b、変換装置8及び視度レンズ10等を示した。なお、以下において、「一方のワイヤ7a及び他方のワイヤ7b」を、纏めて「ワイヤ7」と称することがある。
【0016】
図2に示されるように、中央転輪6の内側には視度調節環11が設けられている。中央転輪6及び視度調節環11は、有底円筒体であり、互いの開口端部を合わせるようにして装着されている。また、一方のワイヤ7a及び他方のワイヤ7bの一端部が中央転輪6及び視度調節環11の内部に固定されており、他端部が中央転輪6及び視度調節環11近傍に設置された変換装置8におけるワイヤ固定部12に固定されている。なお、ワイヤ7が中央転輪6及び視度調節環11の内部からワイヤ固定部12まで延設されるまでに、ワイヤ7の方向を変更するガイド部材13をワイヤ7の略中央部に当接させ、かつワイヤ7が中央転輪6、視度調節環11及びガイド部材13に当接する箇所に緩衝材としてワイヤチューブ14を被覆させている。
【0017】
変換装置8は、ワイヤ固定部12、回動盤15、回動中心部16、回動端部17、弧状案内溝部18、昇降ピンホルダ19及びホルダ案内部材20を有している。ワイヤ固定部12は、上述したようにワイヤ7の他端部を固定する部材であり、ワイヤ7の他端部を巻き付けて固定するようなピン部材であるが、接着又は溶着してワイヤ7を固定しても良い。回動盤15は、一角が湾曲した略三角形状を成す平板であり、回動中心部16の一点で固定されているので、回動中心部16を中心にして回動することができる。回動端部17は、回転盤15が回動中心部16を中心として回動する場合に、回転盤15における変位が最大となる端部である。回動端部17には、ホルダ案内部材20が装着されている。ホルダ案内部材20は、矩形枠体であり、一端部が回動端部17に取り付けられ、かつ他端部が弧状案内溝部18に摺動することができる。ホルダ案内部材20は、回動端部17を中心として回動することができる。また、昇降ピンホルダ19は、後述の昇降ピン21の一端部を収容し、かつホルダ案内部材20の長軸方向に摺動することのできる部材である。昇降ピンホルダ19は、回動盤15及び回動端部17が回動することにより、回動端部17に取り付けられた昇降ピン21をその軸線に沿って前後進させることができる。
【0018】
光学系駆動手段9は、昇降ピン21、ピン案内部材22、貫通孔23、挿通管24、太径部25、環状部材26、封蓋部材27、コイルばね28を有している。昇降ピン21は、一端部が昇降ピンホルダ19に収容され、かつ他端部が視度レンズ枠29のピン固定部30に固定される棒体である。視度レンズ枠29は、その内部に視度レンズ10が固定されて成りかつ両端を開口する円筒体であり、図1における接眼光学系2及び対物光学系3の光軸に一致するように視度レンズを保持している。なお、回動盤15及び回動端部17が回動して昇降ピン21をその軸線に沿って前後進させた場合に、昇降ピン21と視度レンズ枠29とが接続されていることにより、視度レンズ10及び視度レンズ枠29がその軸線に沿って前後進することとなる。また、昇降ピン21は、ピン案内部材22に設けられた貫通孔23を挿通している。ピン案内部材22は、図2には図示されないが、図1における一方の鏡筒4a及び他方の鏡筒4bの内部に固定的に配置される部材である。貫通孔23は、昇降ピン21を挿通することにより、昇降ピン21がその軸線から外れて移動しないように、昇降ピン21の移動可能範囲を規制することができる。貫通孔23の内部には、挿通管24が設けられている。挿通管24は、昇降ピン21が挿通することのできる両端開口の管状部材であり、昇降ピン21ががたつきなくその軸線に沿って前後進することができるように支持する部材である。挿通管24の内径は、昇降ピン21がその軸線に沿って前後進した場合に、昇降ピン21が挿通管24に摺動する程度であれば良い。また、挿通管24の外径は、ピン案内部材22の貫通孔23に嵌合する程度であれば良い。挿通管24の回動盤15側には、貫通孔23の内径よりも大きい内径を有する太径部25が設けられている。太径部25は、昇降ピン21が貫通する環状部材26がその内側に配置されている。太径部25は、封蓋部材27により、太径部25の開口端部及び外周面を覆うようにして封蓋されている。太径部25により、昇降ピン21が挿通管24に摺動しつつ昇降ピン21の軸線に沿って前後進した場合でも、挿通管24が貫通孔23から抜け落ちることがない。コイルばね28は、昇降ピン21が挿通しており、一端部が挿通管24の視度レンズ10側に係止され、かつ他端部がピン固定部30に係止されている。したがって、昇降ピン21はその軸線に直交する方向には移動しないので、昇降ピンホルダ19及びホルダ案内部材20がその方向、例えば図2においては水平方向を維持することにより、結果として、昇降ピン21がホルダ案内部材20を回動させることとなる。
【0019】
中央転輪6の上部に示される固定用部材31は、図1における一方の鏡筒4a、他方の鏡筒4b及び回動結合部5等に結合し、中央転輪6の位置を固定する部材である。なお、図2における「X」は、焦点調節の際に視度レンズ10の移動する距離を示している。
【0020】
図3には、図2における中央転輪6、視度調節環11及びワイヤ7等を拡大して示した。
【0021】
中央転輪6は、転輪軸32、転輪締付環33、連動環34、転輪蓋35、転輪カバー36、操作部37及び係合環38を有している。
【0022】
転輪軸32は、中央転輪6の軸となる棒体である。転輪軸32の一端部には、軸固定用孔39が中心軸線に沿って設けられ、軸固定用孔39近傍の周側面には外側に張り出した縁辺部40が設けられている。軸固定用孔39に固定用部材31の一部が螺合されることにより、中央転輪6が回転しても中央転輪6の軸線が揺動しない。また、縁辺部40の更に周側面には、転輪固定枠41が付設されている。転輪固定枠41は、縁辺部40から転輪軸32の一端部方向に延在立設される筒体であり、縁辺部40との結合部近傍にワイヤ7が挿通される貫通孔を有している。
【0023】
転輪締付環33は、転輪軸32の他端部でかつ周側面に嵌合する環状部材であり、転輪軸32と共に回転することができる。転輪締付環33の周側面には、転輪締付環33の半径方向に凹陥部が設けられ、該凹陥部内にクリックばね42及びクリックボール43が装入されている。クリックボ−ル43は、クリックばね42により凹陥部から押出される方向に付勢されている。
【0024】
連動環34は、両端を開口する筒体であり、一端部が小径に形成されていると共に該小径部から頸部44が突設されている。なお、クリックボール43は、頸部44の内周面に押し付けられるようにして付勢されているので、クリックボール43が転輪締付環33の凹陥部から抜け落ちることはない。
【0025】
転輪蓋35は、その周囲が厚みの大きい縁辺を有する板体であり、縁辺の外周面には肩部45が設けられている。
【0026】
転輪カバー36は、中央転輪6の最外部に配置される部材であり、両端を開口する筒体である。転輪カバー36の周側面には、中央転輪6を操作する際に、操作者が指等を当接させて中央転輪の回転方向に力を付加することにより中央転輪6を回転させることのできる部位である操作部37が設けられている。転輪カバー36は、その内周面に連動環34が嵌合している。
【0027】
操作部37は、転輪カバー36の周側面において、中央転輪6の軸線に沿って平行に突起する凸状部として配設されている。転輪カバー36の一端部には内側に張り出したフランジ46が設けられている。
【0028】
係合環38は、筒体であり、転輪カバー36の他端内周面に嵌合可能なようにその外径が転輪カバー36の内径と略同一である。
【0029】
よって、中央転輪6は、転輪軸32の他端周側面に転輪締付環33が取り付けられ、かつ転輪カバー36の他端内周面に係合環38が嵌合し、かつ転輪カバー36の内周面に連動環34が嵌合し、かつ連動環34の頸部44の内周面と転輪カバー36のフランジ46との間で転輪蓋35を挟持し、かつ転輪蓋35が転輪カバー36の一端部及び連動環34の一端部を閉鎖するように配置して組み付けることで得られる。
【0030】
中央転輪6における転輪軸32には、転輪軸32を囲繞するように回転筒体47が装着されている。詳述すると、回転筒体47は、転輪軸32を囲繞しかつ摺動可能な筒状部48と、筒状部48の一端部から外側に張り出すように設けられた底面部49とを有している。連動環34における頸部44近傍の内壁面に設けられた連結部50と、底面部49の縁辺近傍の外面に設けられた被連結部51とが連結することにより、中央転輪6の回転が回転筒体47に伝達可能となっている。連結部50及び被連結部51の実施態様としては、例えばキーとキー溝との組み合わせ等を採用することができる。また、筒状部48の外周面には雄ネジ52が設けられている。
【0031】
回転筒体47の外周面には、回転筒体47の雄ネジ52に螺合する雌ネジ53を内周面に有する内側筒体54が設けられている。内側筒体54は、略円筒体であり、外周面の一部に突出部55を有している。突出部55には孔が設けられ、かつワイヤ固定用ビス56が孔を挿通していると共に、ワイヤ固定用ビス56には一方のワイヤ7aが締結されている。内側筒体54は、中央転輪6の軸線に沿って移動可能である。ワイヤ固定用ビス56が突出部55に固定的に装着されていることにより、一方のワイヤ7aは、内側筒体54に連動して移動可能となる。また、内側筒体54の外周面には雄ネジ57が設けられている。
【0032】
内側筒体54の外周面には、内側筒体54の雄ネジ57に螺合する雌ネジ58を内周面に有する外側筒体59が設けられている。外側筒体59は、略円筒体であり、外周面にワイヤ固定部材60が取り付けられている。なお、ワイヤ固定部材60は、外側筒体59の外周面に摺接しているに過ぎないので、外側筒体59が回動してもワイヤ固定部材60が回動することはない。但し、外側筒体59が中央転輪6の軸線に沿って移動すると、ワイヤ固定部材60が外側筒体59と同様に移動するようになっている。他方のワイヤ7bがワイヤ固定部材60に固定的に取り付けられていることにより、他方のワイヤ7bは、外側筒体59及びワイヤ固定部材60に連動して中央転輪6の軸線に沿って移動可能となる。
【0033】
よって、内側筒体54及び外側筒体59が中央転輪6の軸線に沿って移動すると、ワイヤ7の牽引又は牽引の緩和を行うことができる。
【0034】
視度調節環11は略有底円筒体であり、底面の中央部を転輪軸32が挿通しているので中央転輪6と視度調節環11とは軸線を共有している。また、視度調節環11は、縁辺部40の内側及び転輪軸32に当接する視度環押さえ61と回転筒体47の他端部が当接する転輪スペーサ62とを有している。視度環押さえ61が転輪スペーサ62に当接する回転筒体47と転輪軸の縁辺部40の内側と転輪軸32とで押さえ付けられているので、視度調節環11が中央転輪6の軸線を中心としてがたつきなく回動可能なように、視度環押さえ61は視度調節環11の位置を保持することができる。なお、転輪スペーサ62は回転筒体47の他端部に当接しているに過ぎないので、回転筒体47が回転した場合に、転輪スペーサ62によって視度調節環11が回動することはない。係合環38の一端部には係合部63が設けられると共に、視度調節環11の開口周縁部には被係合部64が設けられている。係合部63及び被係合部64は係合可能であり、係合部63及び被係合部64が係合すると、中央転輪6の回転する力が視度調節環11に直接伝達されることになる。係合部63及び被係合部64の実施態様としては、例えばキー及びキー溝の組み合わせ等を採用することができる。
【0035】
転輪固定枠41の外周面には視度メモリ環65が装着されている。視度メモリ環65は環状部材であり、操作者が視認可能な目盛りがその周側面に付されている(図示せず)。一度調節した視度に狂いが生じた際に、操作者が視度メモリ環65の目盛りを予め記憶しておくことにより、再度視度調節を行う時間が短縮することができる。すなわち、視度メモリ環65は、視度調節の操作性を向上させる部材である。なお、図3においては、視度メモリ環65は係合環38により操作者が視認し難い状態となっている。
【0036】
図4は、図2に示す中央転輪6の一部をその軸線に沿って移動させた状態を示している。なお、図4に示す部材において、図2に示す部材と共通している部材は、同一の番号を付すこととし、詳細な説明を省略することがある。
【0037】
図4においては、中央転輪6の一部をその軸線に沿って下方に移動させると、移動させた中央転輪6の一部と視度調節環11とが係合する。中央転輪6の一部と視度調節環11とが係合することにより、他方のワイヤ7bのみの牽引又は牽引の緩和が可能となり、図4における右側の視度レンズ10のみが作動することとなるので、双眼鏡の視度調節を行うことができる。なお、図4における「Y」は、視度調節の際に視度レンズ10の移動する距離を示している。
【0038】
図4で示した中央転輪6及び視度調節環11について、図5及び6を用いて更に詳述する。図5及び6において、中央転輪6の右下に示す矢印は、操作者が中央転輪6の一部を移動させる方向を示している。なお、図5及び6に示す部材において、図3に示す部材と共通している部材は、同一の番号を付すこととし、詳細な説明を省略することがある。
【0039】
図5には、図3における連動環34、転輪蓋35、転輪カバー36及び係合環38を下方に移動させた状態を示した。
【0040】
連動環34、転輪蓋35、転輪カバー36及び係合環38を下方に移動させることにより、係合部63と被係合部64とが係合する。視度調節環11は視度環押さえ61が縁辺部40及び回転筒体47により挟持されているので、連動環34、転輪蓋35、転輪カバー36及び係合環38を移動させた場合でも、視度調節環11は転輪軸32、転輪締付環33及び回転筒体47と共にその軸線方向に移動することはない。
【0041】
図5に示すように、連動環34の頸部36の内周面には、凸部66が設けられている。凸部66は、連動環34、転輪蓋35、転輪カバー36及び係合環38を移動させる際に使用感度を向上させる部材である。
【0042】
図6は、図5における視度調節環11の左側を他の部位で切断した断面を示す断面図である。図6に示されるように、視度調節環11の内周面には矩形板状を成す係合片67が設けられている。係合片67は、視度調節環11における半径方向に沿って設けられており、その端辺部が外側筒体59の外周面の一部に設けられた係合溝(図示せず)に係合している。したがって、視度調節環11を回動させると、外側筒体59に回動する力が直接伝達されるようになっている。
【0043】
なお、図4〜6では、視度メモリ環65を操作者が視認し易い状態となっている。
【0044】
以下に、図2〜6に示したこの発明の一実施態様である双眼鏡1の操作方法及びその作用を説明する。図2及び3を用いて焦点調節を行う方法及びその作用について説明し、図4〜6を用いて視度調節を行う方法及びその作用について説明することとする。
【0045】
図2及び3においては、焦点調節を行うことのできる状態の双眼鏡1の一部を示している。
【0046】
図3に示されるように、視度調節環11は、係合部63及び被係合部64が係合していないので、中央転輪6から脱離している。また、回転筒体47は、連結部50及び被連結部51が連結しているので、中央転輪6に係合している。
【0047】
よって、操作者が中央転輪6の操作部37を指等で摺動することにより、転輪カバー36、転輪蓋35及び連動環34が中央転輪6の軸線を中心にして回転する。連動環34が回転すると、連結部50及び被連結部51により回転筒体47に回転する力が伝達される。視度調節環11には、中央転輪6の回転する力は伝達されない。なお、回転筒体47は、底面部49が転輪締付環33に当接し、かつ他端部が転輪スペーサ62に当接しているので、その軸線方向に移動することはない。
【0048】
回転筒体47が回転すると、回転筒体47に螺合する内側筒体54及び内側筒体54に螺合する外側筒体59が中央転輪6の軸線に沿って移動する。内側筒体54及び外側筒体59の移動により、内側筒体54における突出部55にワイヤ固定用ビス56で固定された一方のワイヤ7aと、外側筒体59に取り付けられたワイヤ固定部材60に固定された他方のワイヤ7bとの牽引又は牽引の緩和を行うことができる。
【0049】
図2に示されるように、ワイヤ7は、その他端部が中央転輪6から引き出され、ガイド部材13を介して方向を変換され、ワイヤ固定部12に固定されている。ワイヤ7の牽引又は牽引の緩和が生じると、回動盤15は、回動中心部16を中心として回動する。昇降ピン21を固定している昇降ピンホルダ19から回動中心部16までの距離が、ワイヤ7を固定しているワイヤ固定部12から回動中心部16までの距離よりも大きい。よって、変換装置8は、ワイヤ7の牽引又は牽引の緩和される量、すなわち中央転輪6の操作量が小さい場合であっても、回動端部17の回動する量が増幅されて大きくなるので、視度レンズ10を容易に調節することができる。図2に示す実施態様では、視度レンズ10はXの範囲内で調節することができる。
【0050】
図4〜6においては、視度調節を行うことのできる状態の双眼鏡1の一部を示している。
【0051】
図5及び6に示されるように、視度調節環11は、係合部63及び被係合部64が係合しているので、中央転輪6に係合している。また、回転筒体47は、連結部50及び被連結部51が連結していないので、中央転輪6から脱離している。
【0052】
なお、視度調節環11を矢印の方向に移動させる操作は、連動環34、転輪蓋35、転輪カバー36及び係合環38をその軸線に沿って移動させれば良い。連動環34、転輪蓋35、転輪カバー36及び係合環38をその軸線に沿って移動させる際に、頸部44の内周面に当接していたクリックボール43が凸部66に押圧されることによりクリックばね42の付勢力に抗して一旦転輪締付環33の凹陥部内に没入し、更に連動環34が移動してクリックボール43が凸部66を乗り越えることによりクリックばね42の付勢力で頸部44の内周面に再度当接することとなる。操作者は、連動環34、転輪蓋35、転輪カバー36及び係合環38を移動させることにより、クリックボール43が凸部66を乗り越えたことを使用感度で知覚することができる。したがって、操作者は、係合部63及び被係合部64が係合したことを容易に認識することができる。
【0053】
焦点調節と同様に、操作者が中央転輪6の操作部37を指等で摺動することにより、転輪カバー36、転輪蓋35及び連動環34が中央転輪6の軸線を中心にして回動する。連動環34が回動すると、係合部63及び被係合部64により視度調節環11に回動する力が伝達される。回転筒体47には、中央転輪6が回動する力は伝達されない。
【0054】
視度調節環11が回動すると、図6に示されるように、係合片67が係合する外側筒体59に回動する力が伝達される。内側筒体54及び回転筒体47は回動しないので、外側筒体59が回動すると、外側筒体59が中央転輪6の軸線に沿って移動する。外側筒体59の移動により、他方のワイヤ7bの牽引又は牽引の緩和を行うことができる。
【0055】
図4に示されるように、他方のワイヤ7bの牽引又は牽引の緩和が生じると、他方のワイヤ7bに接続されている右側の回動盤15が回動中心部16を中心として回動することになる。図4に示す実施態様では、右側の視度レンズ10はYの範囲内で調節することになる。
【0056】
なお、図5に示されるように中央転輪6の一部を移動させると、図3に示される状態に比べて視度メモリ環65を操作者が視認し易くなる。視度調節を行った後に、視度メモリ環65の目盛り(図示せず)を操作者が記憶しておくと、一旦調節した視度に狂いが生じた際に、記憶した目盛りに視度メモリ環65を合わせることで容易に視度の再調節が可能であり、視度の再調節に要する時間を短縮することができる。
【0057】
図7は、図1〜6に示した実施態様とは別の実施態様を示している。なお、図2に示す態様と図7に示す態様との相違点は、中央転輪6及び視度調節環11と固定用部材31との位置が逆である点である。この相違点以外は共通の部材を用いているので、共通の番号を付すこととし、部材の説明を省略することがある。図7に示す態様は、単倍機の双眼鏡であり、ズーム機能を備えていない。単倍機は、ズーム機能を備えていないので、図1に示されるズーム操作環4c、連動部材(図示せず)及び変倍装置(図示せず)を設ける必要がない。よって、図7に示すように、中央転輪6及び視度調節環11と固定用部材31との位置を逆に配置することができる。図7に示す単倍機の双眼鏡であれば、連動部材及び変倍装置を配置する空間が必要ないので、双眼鏡の更なる小型化を図ることができる。
【0058】
以上、この発明の一例について説明したが、この発明は前記実施の態様に限定されることはなく、様々の設計変更を行うことができる。
【0059】
この発明における調節手段は、双眼鏡における一対の鏡筒内それぞれに存在する接眼光学系と対物光学系との間に設けられる調節レンズを、光軸に沿って前後進可能に支持することができる限り、様々の機械的構造を取り得る。調節手段は、一つの部材で形成されていても複数の部材の組合せにより形成されていても良い。この調節手段の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。なお、上述したワイヤは、金属製のワイヤであり、牽引及び経時等によって劣化し難い材料を用いている。もっとも、金属製のワイヤに限らず、スチールベルト、経時劣化し難いゴム等を用いることもできる。
【0060】
この発明における中央転輪は、接眼光学系と対物光学系との間に配設される一対の調節手段の中間に位置する仮想的中間軸線を中心にして回転することができ、この回転によって、一方の調節手段に結合される内側筒体を作動させることができる限り、様々の構造を有することができる。この中央転輪は、一つの部材で形成されていても複数の部材の組合せにより形成されていても良い。この中央転輪の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0061】
この発明における内側筒体は、中央転輪の回転により作動することができること、外周面に雄ネジを有すること、及び調節レンズに結合される視度調節用の一方の調節手段を結合することという条件を満たす限り、様々な構造を採用することができる。この内側筒体は、通常、中央転輪が有する仮想的中間軸線を共有する軸線を有する筒状体を呈する。この内側筒体の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0062】
この発明における外側筒体は、前記内側筒体の外周面に形成された雄ネジと螺合する雌ネジを内周面に備えること、視度調節環を回動させると回動可能であること、中央転輪の回転により回転不能であること、及び調節レンズに結合される焦点調節用の他方の調節手段を結合することという条件を満たす限り、様々な構造を採用することができる。この外側筒体は、通常、中央転輪が有する仮想的中間軸線を共有する軸線を有する筒状体を呈する。この外側筒体の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0063】
視度調節環は、内側筒体に結合する調節手段に取り付けられた調節レンズを仮想的中間軸線に沿って前後進させる機能を発揮するために、前記外側筒体を回動させることができ、かつ中央転輪が回転しているときには外側筒体を回動又は回転不能にさせるように形成される。この視度調節環の材質及び寸法は、双眼鏡を用いるフィールド及び状況等に応じて適宜に決定することのできる設計事項である。
【0064】
変換装置は、一対の調節手段が移動する距離及び方向を焦点及び視度調節に必要な調節レンズの移動距離及び方向に変換することができる限り様々の構造を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、この発明の双眼鏡の一例を示す説明図である。
【図2】図2は、この発明の双眼鏡の一例における焦点調節を行う場合の一部断面説明図である。
【図3】図3は、この発明の双眼鏡の一例における焦点調節を行う場合の中央転輪及び視度調節環を示す断面説明図である。
【図4】図4は、この発明の双眼鏡の一例における視度調節を行う場合の一部断面説明図である。
【図5】図5は、この発明の双眼鏡の一例における視度調節を行う場合の中央転輪及び視度調節環を示す断面説明図である。
【図6】図6は、この発明の双眼鏡の一例における視度調節を行う場合の中央転輪及び視度調節環を示す他の断面説明図である。
【図7】図7は、この発明の双眼鏡の別の例における焦点調節を行う場合の一部断面説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 双眼鏡
2 接眼光学系
3 対物光学系
4a 一方の鏡筒
4b 他方の鏡筒
4c ズーム操作環
5 回動結合部
6 中央転輪
7 ワイヤ
7a 一方のワイヤ
7b 他方のワイヤ
8 変換装置
9 光学系駆動手段
10 視度レンズ
11 視度調節環
12 ワイヤ固定部
13 ガイド部材
14 ワイヤチューブ
15 回動盤
16 回動中心部
17 回動端部
18 弧状案内溝部
19 昇降ピンホルダ
20 ホルダ案内部材
21 昇降ピン
22 ピン案内部材
23 貫通孔
24 挿通管
25 太径部
26 環状部材
27 封蓋部材
28 コイルばね
29 視度レンズ枠
30 ピン固定部
31 固定用部材
32 転輪軸
33 転輪締付環
34 連動環
35 転輪蓋
36 転輪カバー
37 操作部
38 係合環
39 軸固定用孔
40 縁辺部
41 転輪固定枠
42 クリックばね
43 クリックボール
44 頸部
45 肩部
46 フランジ
47 回転筒体
48 筒状部
49 底面部
50 連結部
51 被連結部
52、57 雄ネジ
53、58 雌ネジ
54 内側筒体
55 突出部
56 ワイヤ固定用ビス
59 外側筒体
60 ワイヤ固定部材
61 視度環押さえ
62 転輪スペーサ
63 係合部
64 被係合部
65 視度メモリ環
66 凸部
67 係合片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の接眼光学系と対物光学系との間に設けられる調節レンズを可動にする一対の調節手段と、
前記一対の調節手段の中間に位置する中心軸線を中心にして回転可能な中央転輪と、
外周面に雄ネジを備えてなると共に前記中央転輪に係合又は脱離することにより、前記中央転輪の回転に応じて回転し又は不動となる回転筒体と、
前記回転筒体の雄ネジに係合する雌ネジを内周面に有すると共に外周面に雄ネジを備え、一方の調節手段を結合し、かつ前記中心軸線に沿って前記一方の調節手段と共に移動可能である内側筒体と、
前記内側筒体の雄ネジに螺合する雌ネジを内周面に有すると共に他方の調節手段を結合し、かつ前記中心軸線に沿って前記他方の調節手段と共に移動可能である外側筒体と、
前記外側筒体に係合する係合片を備え、前記中央転輪と係合脱離可能であり、前記中央転輪に係合しかつ前記中央転輪が前記回転筒体から脱離するときには、前記中心軸線を中心にして回動可能でありかつ前記係合片を回動可能にし、前記中央転輪から脱離しかつ前記中央転輪が前記回転筒体に係合するときには、前記外側筒体を前記中心軸線に沿って移動可能にする視度調節環と、
前記一対の調節手段の移動距離及び移動方向を焦点及び視度調節に必要な前記調節レンズの移動距離及び移動方向に変換する変換装置とを備えることを特徴とする双眼鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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