双眼鏡
【課題】簡単な構成で容易かつ精度良く対物光学系の光軸調整を行うことができる双眼鏡を提供する。
【解決手段】双眼鏡は、左右の対物光学系L1L,L1Rと、該左右の対物光学系によりそれぞれ形成された光学像を正立させる左右の正立光学系L3L,L3Rと、該正立させられた光学像を観察者に両眼で観察させる左右の接眼光学系とを有する。左右の対物光学系は、その少なくとも一部に、一体となるように保持された左右の光学要素L1L,L1Rを含む。そして、該左右の光学要素を、左右の対物光学系の光軸に平行な軸の回りで回動させる調整機構17,18を有する。
【解決手段】双眼鏡は、左右の対物光学系L1L,L1Rと、該左右の対物光学系によりそれぞれ形成された光学像を正立させる左右の正立光学系L3L,L3Rと、該正立させられた光学像を観察者に両眼で観察させる左右の接眼光学系とを有する。左右の対物光学系は、その少なくとも一部に、一体となるように保持された左右の光学要素L1L,L1Rを含む。そして、該左右の光学要素を、左右の対物光学系の光軸に平行な軸の回りで回動させる調整機構17,18を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双眼鏡に関し、さらに詳しくは対物光学系の調整機構を有する双眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
双眼鏡には、左右の対物光学系と、複数のプリズムやミラーを含み、該左右の対物光学系によりそれぞれ形成された光学像を正立させる左右の正立光学系と、該正立させられた光学像を観察者に両眼で観察させる左右の接眼光学系とが設けられている。そして、各光学系の光軸調整を行うための構成が種々提案されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1にて開示された双眼鏡では、それぞれ正立光学系と接眼光学系とを一体的に保持した左右の接眼ユニットを互いに傾けることで接眼ユニットの光軸調整を行う。また、特許文献2にて開示された双眼鏡では、左右の対物光学系のうち少なくとも一方の対物光学系を、光軸に直交する方向に移動させることで対物光学系の光軸調整を行う。
【特許文献1】特開2003−057563号公報
【特許文献2】特開平08−211303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2にて開示されている光軸調整のための構成に対して、より簡単で、調整作業を容易かつ精度良く行える構成が望まれている。
【0005】
本発明は、簡単な構成で容易かつ精度良く対物光学系の光軸調整を行うことができる双眼鏡を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての双眼鏡は、左右の対物光学系と、該左右の対物光学系によりそれぞれ形成された光学像を正立させる左右の正立光学系と、該正立させられた光学像を観察者に両眼で観察させる左右の接眼光学系とを有する。左右の対物光学系は、その少なくとも一部に、一体となるように保持された左右の光学要素を含む。そして、該左右の光学要素を、左右の対物光学系の光軸に平行な軸の回りで回動させる調整機構を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、左右の対物光学系のうち少なくとも一部の左右の光学要素を一体となるように保持して光軸に平行な軸の回りで回動させる調整機構を設けたことにより、簡単な構成で容易かつ精度良く対物光学系の光軸調整を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0009】
図1、図2及び図3には、本発明の実施例1である双眼鏡の構成を示している。図1は、左右一対の対物光学系及び左右一対の接眼光学系のそれぞれ光軸を含む面での断面を示す。図2は双眼鏡の斜視図であり、図3は分解斜視図である。
【0010】
図1及び図2において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。
【0011】
図1〜図3において、L1L,L1Rは左右の対物光学系のそれぞれの一部を構成する左右の対物レンズである。L2L,L2Rは左右の対物光学系のそれぞれの他の一部を構成する左右の振れ補正レンズ(振れ補正光学系)である。振れ補正レンズL2L,L2Rは、対物レンズL1L,L1Rに対して上下左右(対物光学系の光軸OL,ORに直交する方向)にシフトすることで、左右の対物光学系がそれぞれ形成する光学像を上下左右に移動させる。これにより、双眼鏡に加わる手振れに起因する像振れを低減する。
【0012】
L3L,L3Rは左右の正立光学系を構成する左右のポロII型正立プリズムである。L4L,L4Rは左右の接眼光学系を構成する左右の接眼レンズである。
【0013】
左右のポロII型正立プリズムL3L,L3Rは、左右の対物光学系によって形成される光学像を正立させるととともに、左右の対物光学系の光軸OL,ORを左右の接眼光学系の光軸EL,ERに対して偏芯させる。左右の接眼光学系は、正立された光学像を観察者に両眼で観察させる。なお、正立光学系を、ポロII型正立プリズム以外のプリズム(ダハプリズムや平行四辺形プリズム)又はミラーを用いて構成してもよい。
【0014】
1L,1Rはそれぞれ、対物レンズL1L,L1Rを保持する対物鏡筒である。2Aは左右の振れ補正レンズL2L,L2Rを含む振れ補正ユニットであり、対物鏡筒2の内部に組み込まれている。
【0015】
対物レンズ保持枠1L,1Rは、対物鏡筒2の左右の前端にバヨネット結合され、不図示の回り止め構造によって対物鏡筒2に対して回転しないように固定されている。すなわち、左右の対物レンズ(光学要素)L1L,L1Rは、対物鏡筒2によって一体(つまり左右一体)となるように保持されている。
【0016】
左右の振れ補正レンズL2L,L2Rの光軸はそれぞれ、該振れ補正レンズL2L,L2Rの上下左右の可動範囲内の中心位置にて、左右の対物レンズL1L,L1Rの光軸に一致する。左右の振れ補正レンズL2L,L2Rは、シフト枠21によって一体(つまり左右一体)となるように、言い換えれば、対物鏡筒2に対して一体で上下左右にシフトするように保持されている。このようにして、本実施例では、左右の対物光学系の全体が、その内部で振れ補正レンズL2L,L2Rが移動可能なように一体化されている。なお、振れ補正ユニット2Aの詳しい構成については後述する。
【0017】
4L,4Rは左右の接眼レンズL4L,L4Rをそれぞれ保持する左右の接眼鏡筒である。3L,3Rは左右のポロII型正立プリズムL3L,L3R及び左右の接眼鏡筒4L,4Rをそれぞれ保持する左右の支持枠である。
【0018】
5L,5Rは接眼鏡筒4L,4Rのそれぞれに取り付けられた観察用の目当てゴムである。接眼鏡筒4L,4Rの外周にはそれぞれオスヘリコイドが形成されている。また、支持枠3L,3Rの内周壁には、メスヘリコイドが形成されている。このため、左右の接眼鏡筒4L,4Rをそれぞれ左右の接眼光学系の光軸EL,ERの回りで回転させることで、接眼レンズL4L,L4Rをその光軸方向に移動させることができる。これにより、左右の視度調節が可能である。
【0019】
接眼レンズL4L,L4R、ポロII型正立プリズムL3L,L3R、接眼鏡筒4L,4R及び左右の支持枠3L,3Rにより、左右の接眼ユニット6L,6Rが構成される。
【0020】
7は支持ベース部材であり、接眼ユニット6L,6Rを左右の対物光学系の光軸OL,ORの回りで回転可能に支持するとともに、左右の対物光学系の全体を光軸方向に移動させて観察対象物に対するピント合わせを行うためのベースとなる。
【0021】
支持ベース部材7には、対物光学系の光軸OL,ORに直交するように折り曲げられた垂直部7aが設けられている。垂直部7aには、左右の開口部7L,7Rが形成されており、該開口部7L,7Rには、支持枠3L,3Rのそれぞれに設けられた円筒部3La,3Raが係合する。
【0022】
8L,8Rは左右の連動板であり、左右の接眼ユニット6L,6Rのうち一方の接眼ユニットの対物光学系の光軸(OL又はOR)の回りでの回転を、他方の接眼ユニットに伝達する。連動板8L,8Rにはそれぞれギア部8La,8Raが設けられており、これらは互いに噛み合っている。また、連動板8L,8Rにはそれぞれ、複数の腕部8Lb,8Rbが形成されている。連動板8L,8Rは、支持枠3L,3Rとの間に支持ベース部材7の垂直部7aを挟んで支持枠3L,3Rにビスにより取り付けられる。これにより、左右の接眼ユニット6L,6Rは、支持ベース部材7(垂直部7a)に対して、左右の対物光学系の光軸OL,ORの回りで連動回転可能に保持される。なお、複数の腕部8Lb,8Rbは、連動板8L,8Rと支持ベース部材7(垂直部7a)との間で弾性変形し、連動板8L,8Rの垂直部7aに対する回転に抵抗を付与する。
【0023】
左右の接眼光学系の光軸EL,ERはそれぞれ、左右の対物光学系の光軸OL,ORに対して偏芯しているので、左右の接眼ユニット6L,6Rを左右の対物光学系の光軸OL,ORの回りで回動させると、左右の接眼光学系の光軸EL,ER間の幅が変化する。これにより、左右の接眼光学系の光軸EL,ERの間隔を、観察者の左右の眼の間隔に合わせる、いわゆる眼幅調整が可能となる。
【0024】
また、接眼ユニット6L,6Rのそれぞれで、左右の接眼レンズL4L,L4Rを通して観察される光学像が眼幅調整時にずれないように、左右のポロII型正立プリズムL3L,L3Rの位置がそれぞれ調整される。この調整は、左右の接眼ユニット6L,6Rの回転軸のそれぞれを、接眼レンズL4L,L4Rの光軸に一致させるためのものである。
【0025】
7bは支持ベース部材7において左右の対物光学系の光軸OL,ORに平行に延びる上面部であり、左右の対物光学系を光軸方向に移動させてピント合わせを行うときのベース面となる部分である。上面部7bの4箇所には、エンボス加工により凸部7cが形成されている。
【0026】
9は対物鏡筒2が取り付けられるフォーカス支持部材である。フォーカス支持部材9の4箇所には、それぞれ光軸方向に延びるように設けられたガイド溝部9a,9b,9c,9dが形成されている。ガイド溝部9a,9bに比べて、ガイド溝部9c,9dの方が、幅が広く形成されている。
【0027】
10は4つのガイド部材であり、ガイド溝部9a,9bに光軸方向に移動可能に係合するガイド部10aと、左右に延びる腕部10bとを有する。各ガイド部材10は、ガイド部10aがガイド溝部9a〜9dに係合した状態で支持ベース部材7の上面部7bにビスにより固定される。
【0028】
フォーカス支持部材9は、ガイド溝部9a,9bに係合するガイド部材10のガイド部10aによって光軸方向にガイドされる。フォーカス支持部材9は、ガイド溝部9a〜9dの幅方向両側の部分がガイド部材10の腕部10bによって押えられることでベース部材7の凸部7cに圧接される。
【0029】
11は定位置で回転する送りねじである。12は送りねじ11の後端部に結合される操作ダイアルである。13は送りねじ11と操作ダイアル12を定位置で回転可能に支持する軸受けである。軸受け13は、ベース部材7の上面部7bの後端において直角に曲げ起されたダイアル保持部7dにビスにより固定される。14は雌ねじ部材であり、フォーカス支持部材9の後端にて直角に曲げ起されたねじ保持部9eにビスにより固定される。雌ねじ部材14には、送りねじ11が螺合する。このような構成によれば、操作ダイアル12を回転させることで、フォーカス支持部材9を光軸方向に移動させることができる。
【0030】
15は送りねじ11に雌ねじ部材14を螺合させた後に、送りねじ11の前端部に固定されるストッパである。フォーカス支持部材9の光軸方向の移動は、ストッパ15とダイアル保持部7dとの間に制限される。
【0031】
対物鏡筒2には、フォーカス支持部材9がビスにより結合される結合部2a,2bと、フォーカス支持部材9に対する左右方向の位置を決める位置決めピン2cとを有する。さらに、対物鏡筒2には、フォーカス支持部材9に対する光軸方向の位置を決める位置決めピン2d,2eが設けられている。
【0032】
結合部2a,2bと位置決めピン2cは、ベース部材7の上面部7bに光軸方向に延びるように形成された開口部7eを貫通して2本のビス16によりフォーカス支持部材9に固定される。位置決めピン2d,2eは、フォーカス支持部材9に左右方向に延びるように形成された長溝部9e,9fに係合する。
【0033】
このようにして、左右一体化された対物光学系がフォーカス支持部材9に対して光軸方向において固定される。これにより、フォーカス支持部材9の光軸方向への移動により、観察対象物に対するピント合わせを行うことができる。
【0034】
次に光軸調整機構について、図4を用いて説明する。図4は、図2に示す面Aでの断面を示している。面Aは、左右の対物光学系の光軸OL,ORに直交し、対物鏡筒2の位置決めピン2d,2eを通る面である。
【0035】
17は対物鏡筒2の左右にビスにより固定された光軸調整部材である。光軸調整部材17には、雌ねじ部17aが設けられている。
【0036】
18は左右の光軸調整ビスであり、フォーカス支持部材9に形成された左右の穴部を貫通して、左右の光軸調整部材17の雌ねじ部17aに螺合する。
【0037】
図4は、左の対物光学系(光軸OL)が右の対物光学系(光軸OR)に対して下側に位置した状態からの光軸調整の様子を示している。この場合、左の光軸調整ビス18を対物鏡筒2に固定された左の光軸調整部材17の雌ねじ部17aに対してねじ込んでいく。これにより、対物鏡筒2は、フォーカス支持部材9に対して2本のビス16により固定されている部分を支点として、左の対物光学系(光軸OL)が斜め上方向に、右の対物光学系(光軸OR)が斜め下方向に移動するように回動する。言い換えれば、対物鏡筒2は、フォーカス支持部材9に対して2本のビス16により固定されている部分を通って対物光学系の光軸OL,ORに平行に延びる軸の回りで回動する。
【0038】
これにより、左の対物光学系の光軸OLと右の対物光学系の光軸ORの上下方向での位置を一致させることができる。つまり、接眼レンズL4L,L4Rを通して観察される左右の光学像の上下方向での位置を一致させることができる。なお、左の対物光学系の光軸OLと右の対物光学系の光軸ORは、左右方向には同じ量だけ移動する。
【0039】
右の対物光学系(光軸OR)が左の対物光学系(光軸OL)よりも下側に位置する場合には、右の光軸調整ビス18を右の光軸調整部材17の雌ねじ部17aにねじ込めばよい。
【0040】
このように、左右の光軸調整ビス18を対物鏡筒2に固定した光軸調整部材17に対して螺合させただけの簡単な構成で、該ビス18を回転させるだけの簡単な作業により、対物光学系の光軸OL,ORの上下方向位置を精度良く調整することができる。
【0041】
なお、このような光軸調整の後に、左右の光軸調整ビス18を接着剤で固定しておけば、振動や衝撃による光軸調整ビス18の緩み等によって対物光学系の光軸OL,ORの位置がずれることを防止できる。
【0042】
図1において、19は左右の対物光学系や前述した光軸調整機構及びピント合わせ機構等を囲う外装部材である。なお、外装部材19は、図2、図3及び図4では図示を省略している。ピント合わせに伴う可動部分や光軸調整機構は、外装部材19によって保護されている。
【0043】
ここで、光軸調整後の左右の対物光学系の光軸OL,ORのずれ量の許容値について説明する。左右の光軸OL,ORの平行度は日本工業規格[JIS B 7121]に規格が定められている。例えば、10倍の倍率を有するAA級双眼鏡の許容値は、実視界での角度において、上下方向が2.5分、左右の外方向が3.5分、内方向が7.5分となっている。内方向とはいわゆる寄り目になる方向である。人は近距離の物を見るときには自然に寄り目になるので、寄り目方向での視界調節は無理なく行うことができる。しかし、外方向及び上下方向の目の動きは自然にはできないので、左右の対物光学系の光軸OL,ORのずれ量が大きいと目が疲れたり、左右の光学像を重ねることが困難となったりする。上述の許容値は、双眼鏡の倍率が高くなるほど小さな値となる。
【0044】
本実施例では、左右の対物光学系は精度の高い部品で一体的に保持されている。対物レンズL1L,L1Rは、対物レンズ保持枠1L,1Rにより保持されて、対物鏡筒2の前端にバヨネット結合されて固定されている。また、左右の振れ補正レンズL2L,L2Rも、後述する1つの保持枠によって一体的に保持されている。左右の対物光学系の左右の接眼光学系に対するずれは、支持ベース部材7に形成された開口部7L,7Rの位置精度により決定される。このため、左右の対物光学系の左右方向での光軸平行度は、これらの部品の製作精度を良くすることで、調整作業を行うことなく許容値の範囲内に入れることが可能である。したがって、本実施例では、左右の対物光学系の上下方向での光軸調整を行う機構のみを設けている。
【0045】
次に、図5を用いて振れ補正ユニット2Aの構成について詳しく説明する。2は前述した対物鏡筒であり、21は前述したように左右の振れ補正レンズL2L,L2Rを一体となるように保持するシフト枠である。シフト枠21が対物鏡筒2に対して回転することなく上下左右にシフトすることで、振れ補正レンズL2L,L2Rが対物レンズL1L,L1Rに対して偏芯し、対物光学系により形成される光学像が上下左右に移動する。
【0046】
22は対物鏡筒2に対して左右方向にのみ移動可能に支持されたガイド部材である。23,24はガイド部材22の左右方向の動きをガイドするガイドバーである。ガイドバー23の両端は、対物鏡筒2に形成された溝部20a,20bに圧入又は接着されて保持されている。また、ガイドバー24の両端は、対物鏡筒2に形成された溝部20c,20dに圧入又は接着されて保持されている。
【0047】
25は駆動コイルであり、ガイド部材22に接着されて固定されている。26は駆動マグネットであり、左右方向にN極とS極が形成されている。駆動マグネット26の背面には、図1に示すヨーク27が配置されており、該ヨーク27は、駆動マグネット26の背面側で磁気回路を閉じている。ヨーク27及び駆動マグネット26は、対物鏡筒2に接着されて固定されているとともに、互いに吸着している。
【0048】
28はヨークであり、対物鏡筒2に設けられて、ガイド部材22を貫通したボス部20eにビスにより固定されている。ヨーク28と駆動マグネット26との間に駆動コイル25が配置されており、ヨーク28はヨーク27とは反対側で磁気回路を閉じている。
【0049】
駆動コイル25に通電されると、ローレンツ力が発生してガイド部材22が左右方向に移動する。ガイド部材22における駆動コイル25の中心には、磁気センサとしてのホール素子29が取り付けられている。ホール素子29は、ガイド部材22とともに駆動マグネット26に対して左右方向に移動することで、磁束密度の変化に応じた電気信号を出力する。ホール素子29からの電気信号を用いて、ガイド部材22の左右方向での位置を検出することができる。
【0050】
30,31はガイドバーであり、シフト枠21をガイド部材22に対して上下方向に移動可能に支持している。ガイドバー30の両端は、ガイド部材22に形成された溝部22a,22bに圧入又は接着されて保持されている。また、ガイドバー31の両端は、ガイド部材22に形成された溝部22c,22dに圧入又は接着されて保持されている
32は駆動コイルであり、シフト枠21に接着されて固定されている。33は駆動マグネットであり、上下方向にN極とS極が配置されるように支持部材35に接着されて固定されている。34は駆動マグネット33の背面側に配置され、磁気回路を閉じるヨークであり、支持部材35に接着されて固定されている。ヨーク34は、駆動マグネット33に吸着している。駆動コイル32は、前述したヨーク28と駆動マグネット33との間に配置されている。ヨーク28は、前述したように駆動マグネット26側の磁気回路を閉じているとともに、駆動マグネット33側の磁気回路も閉じる。
【0051】
支持部材35は、対物鏡筒2に対して位置決めされたうえでビスにより固定されている。駆動コイル32に通電されると、ローレンツ力が発生して、シフト枠21が上下方向に移動する。図示はしないが、シフト枠21における駆動コイル32の中心には、磁気センサであるホール素子が取り付けられている。このホール素子は、シフト枠21とともに駆動マグネット33に対して上下方向に移動することで、磁束密度の変化に応じた電気信号を出力する。該ホール素子からの電気信号を用いて、シフト枠21の上下方向での位置を検出することができる。
【0052】
また、図示はしていないが、対物鏡筒2には、振れ補正ユニット2Aを制御する電気回路基板が固定される。該基板には、双眼鏡のピッチ及びヨー方向の角速度を検出する振動ジャイロ等の振れセンサと、上記各ホール素子からの電気信号に基づいて、駆動コイル25,32への通電を制御する制御回路が実装されている。また、該基板には、電源ユニットや、振れ補正動作のON/OFFを切り替えるためのスイッチが設けられている。
【実施例2】
【0053】
図6及び図7には、本発明の実施例2である双眼鏡の構成を示している。図6は双眼鏡の斜視図であり、図7は分解斜視図である。
【0054】
図6において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。左右の対物光学系、左右の正立光学系及び左右の接眼光学系の構成は、実施例1と同じである。
【0055】
106L,106Rは左右の接眼ユニットである。107は左右の接眼ユニット106L,106R及び左右の対物光学系を支持する支持ベース部材である。
【0056】
左右の接眼ユニット106L,106Rは、支持ベース部材107の後端において対物光学系の光軸OL,ORに直交するように折り曲げられた垂直部107aに取り付けられている。接眼ユニット106L,106Rの垂直部107aへの取り付け構造と眼幅調整機構は実施例1と同じである。ただし、本実施例では、接眼光学系を光軸方向に移動させることで観察対象物にピントを合わせる構成を採用している。
【0057】
101L,101Rはそれぞれ、対物レンズL1L,L1Rを保持する対物レンズ枠である。102は実施例1と同様に、対物レンズ枠101L,101Rが結合された対物鏡筒である。対物鏡筒102の内部には、実施例1と同様に構成された振れ補正ユニットが組み込まれている。本実施例でも、左右の対物レンズ(光学要素)L1L,L1Rは、対物鏡筒2によって一体となるように保持されている。本実施例でも、左右の対物光学系の全体が、その内部で振れ補正レンズが移動可能なように一体化されている。
【0058】
107bは支持ベース部材107の上面部であり、該上面部107bには、対物鏡筒102が固定される。103は対物鏡筒102の上部に圧入又は接着により固定された4つの支持ピンである。該支持ピン103の根元部分には球面部103bが形成されており、該球面部103bの上端には円筒部103aが形成されている。
【0059】
104は2つの板バネであり、対物鏡筒102の上部に設けられたバネ取り付け部102a,102bに対して、支持ベース部材107に形成された穴部107g,107hを貫通したビスによって位置決め固定される。2つの板バネ104は、そのバネ力により、対物鏡筒102を支持ベース部材107の上面部107bに押し付けるように引き上げる。これにより、4つの支持ピン103の球面部103bが、支持ベース部材107の上面部107bに形成された位置決め穴部107c,107dと光軸方向に延びる位置決め長穴部107e,107fの下面側の周縁部分に当接する。これにより、対物鏡筒102が支持ベース部材107により一体的に保持される。
【0060】
次に、本実施例における光軸調整機構について説明する。図8には、図6に示す面Bでの断面を示している。面Bは、対物光学系の光軸OL,ORに直交し、対物鏡筒102の2つのバネ取り付け部102a,102bを通る面である。
【0061】
117は対物鏡筒102の左右にビスにより固定された光軸調整部材である。118は光軸調整ビスである。図7にも示すように、支持ベース部材107の上面部107bには、光軸調整ビス118をねじ込むための雌ねじ部107i,107jが設けられている。
【0062】
図8は、左の対物光学系(光軸OL)が右の対物光学系(光軸OR)に対して上側に位置した状態からの光軸調整の様子を示している。この場合、光軸調整ビス118を、支持ベース部材107の左の雌ねじ部107iにねじ込んでいくと、光軸調整ビス118の下端が左側の光軸調整部材117に当接して、対物鏡筒102の左側を押し下げる。このとき、支持ベース部材107の右側の位置決め穴部107dと位置決め長穴部107fを結ぶ軸、すなわち対物光学系の光軸OL,ORに平行な軸の回りで対物鏡筒102が回動する。
【0063】
これにより、左の対物光学系(光軸OL)が斜め下方向に移動するとともに、右の対物光学系(光軸OR)が左方向に移動し、左の対物光学系の光軸OLと右の対物光学系の光軸ORの上下方向での位置を一致させることができる。つまり、接眼ユニット106L,106Rを通して観察される左右の光学像の上下方向での位置を一致させることができる。なお、左の対物光学系の光軸OLと右の対物光学系の光軸ORは、左右方向には同じ量だけ移動する。
【0064】
右の対物光学系(光軸OR)が左の対物光学系(光軸OL)よりも上側に位置する場合には、光軸調整ビス118を支持ベース部材107の右の雌ねじ部107jにねじ込めばよい。この場合、支持ベース部材107の左側の位置決め穴部107cと位置決め長穴部107eを結ぶ軸、すなわち対物光学系の光軸OL,ORに平行な軸の回りで対物鏡筒102が回動する。
【0065】
このように、対物鏡筒102を板バネ104により付勢し、光軸調整ビス118を支持ベース部材107に螺合させただけの簡単な構成で、該ビス118を回転させるだけの簡単な作業により、対物光学系の光軸OL,ORの上下方向位置を精度良く調整できる。
【0066】
また、本実施例では、対物光学系の光軸調整のための回動中心となる軸を、対物光学系の上方に設定することで、支持ベース部材107の前側の中央部107kを大きく空けることができる。これにより、外装部材(図示せず)の対応する部分を凹ますことができ、外観デザインの自由度を増すことができる。
【実施例3】
【0067】
図9及び図10には、本発明の実施例3である双眼鏡の構成を示している。図9は双眼鏡の斜視図であり、図10は分解斜視図である。
【0068】
これらの図において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。
【0069】
L201L,L201Rは左右の対物光学系の一部を構成する左右の第1対物レンズである。また、L205L,L205Rは左右の対物光学系の他の一部を構成する左右の第2対物レンズである。L202L,L202Rは左右の対物光学系のさらに他の一部を構成する左右の振れ補正レンズである。
【0070】
振れ補正レンズL202L,L202Rは、第1及び第2対物レンズL201L,L201R,L205L,L205Rに対して上下左右にシフトすることで、左右の対物光学系がそれぞれ形成する光学像を上下左右に移動させる。
【0071】
L206L,L206Rは左右の接眼ユニットであり、実施例1と同様に構成されている。L204L,L204Rは左右の接眼ユニットL206L,L206R内に配置されて左右の接眼光学系を構成する左右の接眼レンズである。
【0072】
201は左右の第1対物レンズ(光学要素)L201L,L201Rを一体となるように保持する対物鏡筒である。本実施例では、左右の対物光学系の一部を構成する左右の第1対物レンズL201L,L201Rを対物鏡筒201により一体となるように保持し、該対物鏡筒201を回動させることで、左右の対物光学系の上下方向での光軸調整を行う。
【0073】
202は振れ補正ベース部材である。221は左右の振れ補正レンズL202L,L202Rを一体となるように保持するシフト枠である。振れ補正ベース部材202は、シフト枠221を第1及び第2対物レンズL201L,L201R,L205L,L205Rに対して上下左右にシフトさせるためのベースとなる。
【0074】
また、振れ補正ベース部材202は、右の第2対物レンズL205Rを保持する。また、振れ補正ベース部材202は、レンズ枠205を介して左の第2対物レンズL205Lを保持する。208はリング形状の板バネである。板バネ208は、3本のビスによって振れ補正ベース部材202に固定され、レンズ枠205を振れ補正ベース部材202の突き当て面に押し付けて、左の第2対物レンズL205Lを右の第2対物レンズL205Rと同じ光軸方向位置に保持させる。以上により実施例1と同様に構成された振れ補正ユニットに左右の第2対物レンズL205L、L205Rを追加した振れ補正ユニット202Aを構成している。
【0075】
207は左右の接眼ユニットL206L,L206R及び左右の対物光学系を支持する支持ベース部材である。接眼ユニット206L,206Rは、支持ベース部材207の後端において対物光学系の光軸OL,ORに直交するように折り曲げられた垂直部207aに取り付けられている。接眼ユニット206L,206Rの垂直部207aへの取り付け構造と眼幅調整機構は実施例1と同じである。
【0076】
209は、後述するように対物鏡筒201が取り付けられた振れ補正ベース部材202が3本のビスにより位置決めされて固定されるフォーカス支持部材である。本実施例では、実施例1と同様に、支持ベース部材207の上面部207bをベースとして、対物光学系全体を光軸方向に移動させることにより観察対象物にピントを合わる構成を採用している。ピント合わせ機構は、実施例1と同じである。
【0077】
次に、本実施例での光軸調整機構について、図11、図12、図13及び図14を用いて説明する。図11及び図13は双眼鏡の正面図であり、図12は双眼鏡の下面図である。図14は、双眼鏡の側面図である。いずれの図でも外装部材は省略している。また、図13及び図14では、対物鏡筒201の図示も省略している。
【0078】
図11において、201aは図9及び図10にも示す対物鏡筒201における左右の対物光学系の光軸OL,ORの間に設けられた回動中心穴部である。202aは振れ補正ベース部材202に、回動中心穴部201aに対応するよう設けられた回動中心ピンである。対物鏡筒201は、回動中心穴部201aに回動中心ピン202aが挿入され、4本のビスによって振れ補正ベース部材202の前端面に仮固定される。
【0079】
図12において、201bは図10にも示すように対物鏡筒201の下部に設けられた調整穴部であり、202bは振れ補正ベース部材202の下面に形成された調整溝部である。230は円筒部230aと該円筒部230aに対して偏芯したピン部230bとを有する偏芯ピンである。
【0080】
調整穴部201bには、偏芯ピン230の円筒部230aが嵌め込まれ、調整溝部202bには、ピン部230bが挿入される。偏芯ピン230を調整穴部201b内で円筒部230aの軸回りに回転させると、ピン部230bが調整溝部202bの左右方向の端面を押す。これにより、図11に示すように、対物鏡筒201が回動中心ピン202aの回りで振れ補正ベース部材202に対して回動し、左右の対物光学系の光軸OL,ORが上下逆方向に移動する。なお、回動中心ピン202aは、対物光学系の光軸OL,ORに平行な軸である。
【0081】
こうして対物光学系の光軸調整を行った後、対物鏡筒201を振れ補正ベース部材202に仮固定していた4本のビスの増し締めを行うか接着によって、対物鏡筒201を振れ補正ベース部材202に固定する。以上の構成により、対物光学系の上下方向での光軸調整が可能である。
【0082】
図13において、205cはレンズ枠205に設けられた位置決め穴部であり、202cは振れ補正ベース部材202に設けられた位置決めピンである。また、図12において、202dは振れ補正ベース部材202の下面に設けられた調整穴部であり、205dはレンズ枠205の下面に設けられた調整溝部である。
【0083】
調整穴部202dには、先に説明した偏芯ピン230の円筒部230aが嵌め込まれ、調整溝部205dには、ピン部230bが挿入される。偏芯ピン230を調整穴部202d内で円筒部230aの軸回りに回転させると、ピン部230bが調整溝部205dの左右方向の端面を押す。これにより、図13に示すように、レンズ枠205が振れ補正ベース部材202に対して左右に移動し、左の対物光学系の光軸OLが左右に移動する。
【0084】
こうして左の対物光学系の光軸調整を行った後、図14に示すように振れ補正ベース部材202の側面に形成された開口部202e,202fから接着剤を流し込んで、レンズ枠205を振れ補正ベース部材202に固定する。
【0085】
調整穴部201bと調整溝部202b及び調整穴部202dと調整溝部205dをそれぞれ同一形状に形成することで、ひとつの偏芯ピン230を用いて対物光学系の上下方向及び左右方向での光軸調整を、同じ側(双眼鏡の下面側)から続けて行うことができる。
【0086】
ただし、前述したように光軸ずれ許容量の小さい上下方向での光軸調整を行う偏芯ピン230においては、円筒部203aに対するピン部230bの偏芯量を小さくして、偏芯ピン230の回転量に対する調整敏感度を低くし、調整をより容易にしてもよい。
【0087】
このように、対物鏡筒201を回動可能に振れ補正ベース部材202に結合させ、それぞれに調整穴部及び調整溝部を形成しただけの簡単な構成で、偏芯ピン230を回転させるだけの簡単な作業により、対物光学系の光軸調節を精度良く行うことができる。
【0088】
なお、本実施例は、特に、双眼鏡を構成する部品の製造精度のみでは、左右方向の光軸平行度が許容値の範囲に収められない場合に有効である。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0090】
例えば、上記実施例1〜3では、振れ補正ユニットを有する双眼鏡について説明したが、振れ補正ユニットを有さない双眼鏡にも、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施例1である双眼鏡の断面図。
【図2】実施例1の双眼鏡の斜視図。
【図3】実施例1の双眼鏡の分解斜視図。
【図4】実施例1の双眼鏡における光軸調整を説明する図。
【図5】実施例1の双眼鏡に設けられた振れ補正ユニットの分解斜視図。
【図6】本発明の実施例2である双眼鏡の斜視図。
【図7】実施例2の双眼鏡の分解斜視図。
【図8】実施例2の双眼鏡における光軸調整を説明する図。
【図9】本発明の実施例3である双眼鏡の斜視図。
【図10】実施例3の双眼鏡の分解斜視図。
【図11】実施例3の双眼鏡の正面図。
【図12】実施例3の双眼鏡の下面図。
【図13】実施例3の双眼鏡の左右方向での光軸調整を説明する図。
【図14】実施例3の双眼鏡の側面図。
【符号の説明】
【0092】
OL,OR 対物光学系の光軸
EL,ER 接眼光学系の光軸
L1L,L1R 対物レンズ
L2L,L2R 振れ補正レンズ
L3L,L3R ポロII型正立プリズム
L4L,L4R 接眼レンズ
2 対物鏡筒
4L,4R 接眼鏡筒
6L,6R 接眼ユニット
7 支持ベース部材
8L,8R 連動板
9 フォーカス支持部材
17 光軸調整部材
18 光軸調整ビス
【技術分野】
【0001】
本発明は、双眼鏡に関し、さらに詳しくは対物光学系の調整機構を有する双眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
双眼鏡には、左右の対物光学系と、複数のプリズムやミラーを含み、該左右の対物光学系によりそれぞれ形成された光学像を正立させる左右の正立光学系と、該正立させられた光学像を観察者に両眼で観察させる左右の接眼光学系とが設けられている。そして、各光学系の光軸調整を行うための構成が種々提案されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1にて開示された双眼鏡では、それぞれ正立光学系と接眼光学系とを一体的に保持した左右の接眼ユニットを互いに傾けることで接眼ユニットの光軸調整を行う。また、特許文献2にて開示された双眼鏡では、左右の対物光学系のうち少なくとも一方の対物光学系を、光軸に直交する方向に移動させることで対物光学系の光軸調整を行う。
【特許文献1】特開2003−057563号公報
【特許文献2】特開平08−211303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2にて開示されている光軸調整のための構成に対して、より簡単で、調整作業を容易かつ精度良く行える構成が望まれている。
【0005】
本発明は、簡単な構成で容易かつ精度良く対物光学系の光軸調整を行うことができる双眼鏡を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての双眼鏡は、左右の対物光学系と、該左右の対物光学系によりそれぞれ形成された光学像を正立させる左右の正立光学系と、該正立させられた光学像を観察者に両眼で観察させる左右の接眼光学系とを有する。左右の対物光学系は、その少なくとも一部に、一体となるように保持された左右の光学要素を含む。そして、該左右の光学要素を、左右の対物光学系の光軸に平行な軸の回りで回動させる調整機構を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、左右の対物光学系のうち少なくとも一部の左右の光学要素を一体となるように保持して光軸に平行な軸の回りで回動させる調整機構を設けたことにより、簡単な構成で容易かつ精度良く対物光学系の光軸調整を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0009】
図1、図2及び図3には、本発明の実施例1である双眼鏡の構成を示している。図1は、左右一対の対物光学系及び左右一対の接眼光学系のそれぞれ光軸を含む面での断面を示す。図2は双眼鏡の斜視図であり、図3は分解斜視図である。
【0010】
図1及び図2において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。
【0011】
図1〜図3において、L1L,L1Rは左右の対物光学系のそれぞれの一部を構成する左右の対物レンズである。L2L,L2Rは左右の対物光学系のそれぞれの他の一部を構成する左右の振れ補正レンズ(振れ補正光学系)である。振れ補正レンズL2L,L2Rは、対物レンズL1L,L1Rに対して上下左右(対物光学系の光軸OL,ORに直交する方向)にシフトすることで、左右の対物光学系がそれぞれ形成する光学像を上下左右に移動させる。これにより、双眼鏡に加わる手振れに起因する像振れを低減する。
【0012】
L3L,L3Rは左右の正立光学系を構成する左右のポロII型正立プリズムである。L4L,L4Rは左右の接眼光学系を構成する左右の接眼レンズである。
【0013】
左右のポロII型正立プリズムL3L,L3Rは、左右の対物光学系によって形成される光学像を正立させるととともに、左右の対物光学系の光軸OL,ORを左右の接眼光学系の光軸EL,ERに対して偏芯させる。左右の接眼光学系は、正立された光学像を観察者に両眼で観察させる。なお、正立光学系を、ポロII型正立プリズム以外のプリズム(ダハプリズムや平行四辺形プリズム)又はミラーを用いて構成してもよい。
【0014】
1L,1Rはそれぞれ、対物レンズL1L,L1Rを保持する対物鏡筒である。2Aは左右の振れ補正レンズL2L,L2Rを含む振れ補正ユニットであり、対物鏡筒2の内部に組み込まれている。
【0015】
対物レンズ保持枠1L,1Rは、対物鏡筒2の左右の前端にバヨネット結合され、不図示の回り止め構造によって対物鏡筒2に対して回転しないように固定されている。すなわち、左右の対物レンズ(光学要素)L1L,L1Rは、対物鏡筒2によって一体(つまり左右一体)となるように保持されている。
【0016】
左右の振れ補正レンズL2L,L2Rの光軸はそれぞれ、該振れ補正レンズL2L,L2Rの上下左右の可動範囲内の中心位置にて、左右の対物レンズL1L,L1Rの光軸に一致する。左右の振れ補正レンズL2L,L2Rは、シフト枠21によって一体(つまり左右一体)となるように、言い換えれば、対物鏡筒2に対して一体で上下左右にシフトするように保持されている。このようにして、本実施例では、左右の対物光学系の全体が、その内部で振れ補正レンズL2L,L2Rが移動可能なように一体化されている。なお、振れ補正ユニット2Aの詳しい構成については後述する。
【0017】
4L,4Rは左右の接眼レンズL4L,L4Rをそれぞれ保持する左右の接眼鏡筒である。3L,3Rは左右のポロII型正立プリズムL3L,L3R及び左右の接眼鏡筒4L,4Rをそれぞれ保持する左右の支持枠である。
【0018】
5L,5Rは接眼鏡筒4L,4Rのそれぞれに取り付けられた観察用の目当てゴムである。接眼鏡筒4L,4Rの外周にはそれぞれオスヘリコイドが形成されている。また、支持枠3L,3Rの内周壁には、メスヘリコイドが形成されている。このため、左右の接眼鏡筒4L,4Rをそれぞれ左右の接眼光学系の光軸EL,ERの回りで回転させることで、接眼レンズL4L,L4Rをその光軸方向に移動させることができる。これにより、左右の視度調節が可能である。
【0019】
接眼レンズL4L,L4R、ポロII型正立プリズムL3L,L3R、接眼鏡筒4L,4R及び左右の支持枠3L,3Rにより、左右の接眼ユニット6L,6Rが構成される。
【0020】
7は支持ベース部材であり、接眼ユニット6L,6Rを左右の対物光学系の光軸OL,ORの回りで回転可能に支持するとともに、左右の対物光学系の全体を光軸方向に移動させて観察対象物に対するピント合わせを行うためのベースとなる。
【0021】
支持ベース部材7には、対物光学系の光軸OL,ORに直交するように折り曲げられた垂直部7aが設けられている。垂直部7aには、左右の開口部7L,7Rが形成されており、該開口部7L,7Rには、支持枠3L,3Rのそれぞれに設けられた円筒部3La,3Raが係合する。
【0022】
8L,8Rは左右の連動板であり、左右の接眼ユニット6L,6Rのうち一方の接眼ユニットの対物光学系の光軸(OL又はOR)の回りでの回転を、他方の接眼ユニットに伝達する。連動板8L,8Rにはそれぞれギア部8La,8Raが設けられており、これらは互いに噛み合っている。また、連動板8L,8Rにはそれぞれ、複数の腕部8Lb,8Rbが形成されている。連動板8L,8Rは、支持枠3L,3Rとの間に支持ベース部材7の垂直部7aを挟んで支持枠3L,3Rにビスにより取り付けられる。これにより、左右の接眼ユニット6L,6Rは、支持ベース部材7(垂直部7a)に対して、左右の対物光学系の光軸OL,ORの回りで連動回転可能に保持される。なお、複数の腕部8Lb,8Rbは、連動板8L,8Rと支持ベース部材7(垂直部7a)との間で弾性変形し、連動板8L,8Rの垂直部7aに対する回転に抵抗を付与する。
【0023】
左右の接眼光学系の光軸EL,ERはそれぞれ、左右の対物光学系の光軸OL,ORに対して偏芯しているので、左右の接眼ユニット6L,6Rを左右の対物光学系の光軸OL,ORの回りで回動させると、左右の接眼光学系の光軸EL,ER間の幅が変化する。これにより、左右の接眼光学系の光軸EL,ERの間隔を、観察者の左右の眼の間隔に合わせる、いわゆる眼幅調整が可能となる。
【0024】
また、接眼ユニット6L,6Rのそれぞれで、左右の接眼レンズL4L,L4Rを通して観察される光学像が眼幅調整時にずれないように、左右のポロII型正立プリズムL3L,L3Rの位置がそれぞれ調整される。この調整は、左右の接眼ユニット6L,6Rの回転軸のそれぞれを、接眼レンズL4L,L4Rの光軸に一致させるためのものである。
【0025】
7bは支持ベース部材7において左右の対物光学系の光軸OL,ORに平行に延びる上面部であり、左右の対物光学系を光軸方向に移動させてピント合わせを行うときのベース面となる部分である。上面部7bの4箇所には、エンボス加工により凸部7cが形成されている。
【0026】
9は対物鏡筒2が取り付けられるフォーカス支持部材である。フォーカス支持部材9の4箇所には、それぞれ光軸方向に延びるように設けられたガイド溝部9a,9b,9c,9dが形成されている。ガイド溝部9a,9bに比べて、ガイド溝部9c,9dの方が、幅が広く形成されている。
【0027】
10は4つのガイド部材であり、ガイド溝部9a,9bに光軸方向に移動可能に係合するガイド部10aと、左右に延びる腕部10bとを有する。各ガイド部材10は、ガイド部10aがガイド溝部9a〜9dに係合した状態で支持ベース部材7の上面部7bにビスにより固定される。
【0028】
フォーカス支持部材9は、ガイド溝部9a,9bに係合するガイド部材10のガイド部10aによって光軸方向にガイドされる。フォーカス支持部材9は、ガイド溝部9a〜9dの幅方向両側の部分がガイド部材10の腕部10bによって押えられることでベース部材7の凸部7cに圧接される。
【0029】
11は定位置で回転する送りねじである。12は送りねじ11の後端部に結合される操作ダイアルである。13は送りねじ11と操作ダイアル12を定位置で回転可能に支持する軸受けである。軸受け13は、ベース部材7の上面部7bの後端において直角に曲げ起されたダイアル保持部7dにビスにより固定される。14は雌ねじ部材であり、フォーカス支持部材9の後端にて直角に曲げ起されたねじ保持部9eにビスにより固定される。雌ねじ部材14には、送りねじ11が螺合する。このような構成によれば、操作ダイアル12を回転させることで、フォーカス支持部材9を光軸方向に移動させることができる。
【0030】
15は送りねじ11に雌ねじ部材14を螺合させた後に、送りねじ11の前端部に固定されるストッパである。フォーカス支持部材9の光軸方向の移動は、ストッパ15とダイアル保持部7dとの間に制限される。
【0031】
対物鏡筒2には、フォーカス支持部材9がビスにより結合される結合部2a,2bと、フォーカス支持部材9に対する左右方向の位置を決める位置決めピン2cとを有する。さらに、対物鏡筒2には、フォーカス支持部材9に対する光軸方向の位置を決める位置決めピン2d,2eが設けられている。
【0032】
結合部2a,2bと位置決めピン2cは、ベース部材7の上面部7bに光軸方向に延びるように形成された開口部7eを貫通して2本のビス16によりフォーカス支持部材9に固定される。位置決めピン2d,2eは、フォーカス支持部材9に左右方向に延びるように形成された長溝部9e,9fに係合する。
【0033】
このようにして、左右一体化された対物光学系がフォーカス支持部材9に対して光軸方向において固定される。これにより、フォーカス支持部材9の光軸方向への移動により、観察対象物に対するピント合わせを行うことができる。
【0034】
次に光軸調整機構について、図4を用いて説明する。図4は、図2に示す面Aでの断面を示している。面Aは、左右の対物光学系の光軸OL,ORに直交し、対物鏡筒2の位置決めピン2d,2eを通る面である。
【0035】
17は対物鏡筒2の左右にビスにより固定された光軸調整部材である。光軸調整部材17には、雌ねじ部17aが設けられている。
【0036】
18は左右の光軸調整ビスであり、フォーカス支持部材9に形成された左右の穴部を貫通して、左右の光軸調整部材17の雌ねじ部17aに螺合する。
【0037】
図4は、左の対物光学系(光軸OL)が右の対物光学系(光軸OR)に対して下側に位置した状態からの光軸調整の様子を示している。この場合、左の光軸調整ビス18を対物鏡筒2に固定された左の光軸調整部材17の雌ねじ部17aに対してねじ込んでいく。これにより、対物鏡筒2は、フォーカス支持部材9に対して2本のビス16により固定されている部分を支点として、左の対物光学系(光軸OL)が斜め上方向に、右の対物光学系(光軸OR)が斜め下方向に移動するように回動する。言い換えれば、対物鏡筒2は、フォーカス支持部材9に対して2本のビス16により固定されている部分を通って対物光学系の光軸OL,ORに平行に延びる軸の回りで回動する。
【0038】
これにより、左の対物光学系の光軸OLと右の対物光学系の光軸ORの上下方向での位置を一致させることができる。つまり、接眼レンズL4L,L4Rを通して観察される左右の光学像の上下方向での位置を一致させることができる。なお、左の対物光学系の光軸OLと右の対物光学系の光軸ORは、左右方向には同じ量だけ移動する。
【0039】
右の対物光学系(光軸OR)が左の対物光学系(光軸OL)よりも下側に位置する場合には、右の光軸調整ビス18を右の光軸調整部材17の雌ねじ部17aにねじ込めばよい。
【0040】
このように、左右の光軸調整ビス18を対物鏡筒2に固定した光軸調整部材17に対して螺合させただけの簡単な構成で、該ビス18を回転させるだけの簡単な作業により、対物光学系の光軸OL,ORの上下方向位置を精度良く調整することができる。
【0041】
なお、このような光軸調整の後に、左右の光軸調整ビス18を接着剤で固定しておけば、振動や衝撃による光軸調整ビス18の緩み等によって対物光学系の光軸OL,ORの位置がずれることを防止できる。
【0042】
図1において、19は左右の対物光学系や前述した光軸調整機構及びピント合わせ機構等を囲う外装部材である。なお、外装部材19は、図2、図3及び図4では図示を省略している。ピント合わせに伴う可動部分や光軸調整機構は、外装部材19によって保護されている。
【0043】
ここで、光軸調整後の左右の対物光学系の光軸OL,ORのずれ量の許容値について説明する。左右の光軸OL,ORの平行度は日本工業規格[JIS B 7121]に規格が定められている。例えば、10倍の倍率を有するAA級双眼鏡の許容値は、実視界での角度において、上下方向が2.5分、左右の外方向が3.5分、内方向が7.5分となっている。内方向とはいわゆる寄り目になる方向である。人は近距離の物を見るときには自然に寄り目になるので、寄り目方向での視界調節は無理なく行うことができる。しかし、外方向及び上下方向の目の動きは自然にはできないので、左右の対物光学系の光軸OL,ORのずれ量が大きいと目が疲れたり、左右の光学像を重ねることが困難となったりする。上述の許容値は、双眼鏡の倍率が高くなるほど小さな値となる。
【0044】
本実施例では、左右の対物光学系は精度の高い部品で一体的に保持されている。対物レンズL1L,L1Rは、対物レンズ保持枠1L,1Rにより保持されて、対物鏡筒2の前端にバヨネット結合されて固定されている。また、左右の振れ補正レンズL2L,L2Rも、後述する1つの保持枠によって一体的に保持されている。左右の対物光学系の左右の接眼光学系に対するずれは、支持ベース部材7に形成された開口部7L,7Rの位置精度により決定される。このため、左右の対物光学系の左右方向での光軸平行度は、これらの部品の製作精度を良くすることで、調整作業を行うことなく許容値の範囲内に入れることが可能である。したがって、本実施例では、左右の対物光学系の上下方向での光軸調整を行う機構のみを設けている。
【0045】
次に、図5を用いて振れ補正ユニット2Aの構成について詳しく説明する。2は前述した対物鏡筒であり、21は前述したように左右の振れ補正レンズL2L,L2Rを一体となるように保持するシフト枠である。シフト枠21が対物鏡筒2に対して回転することなく上下左右にシフトすることで、振れ補正レンズL2L,L2Rが対物レンズL1L,L1Rに対して偏芯し、対物光学系により形成される光学像が上下左右に移動する。
【0046】
22は対物鏡筒2に対して左右方向にのみ移動可能に支持されたガイド部材である。23,24はガイド部材22の左右方向の動きをガイドするガイドバーである。ガイドバー23の両端は、対物鏡筒2に形成された溝部20a,20bに圧入又は接着されて保持されている。また、ガイドバー24の両端は、対物鏡筒2に形成された溝部20c,20dに圧入又は接着されて保持されている。
【0047】
25は駆動コイルであり、ガイド部材22に接着されて固定されている。26は駆動マグネットであり、左右方向にN極とS極が形成されている。駆動マグネット26の背面には、図1に示すヨーク27が配置されており、該ヨーク27は、駆動マグネット26の背面側で磁気回路を閉じている。ヨーク27及び駆動マグネット26は、対物鏡筒2に接着されて固定されているとともに、互いに吸着している。
【0048】
28はヨークであり、対物鏡筒2に設けられて、ガイド部材22を貫通したボス部20eにビスにより固定されている。ヨーク28と駆動マグネット26との間に駆動コイル25が配置されており、ヨーク28はヨーク27とは反対側で磁気回路を閉じている。
【0049】
駆動コイル25に通電されると、ローレンツ力が発生してガイド部材22が左右方向に移動する。ガイド部材22における駆動コイル25の中心には、磁気センサとしてのホール素子29が取り付けられている。ホール素子29は、ガイド部材22とともに駆動マグネット26に対して左右方向に移動することで、磁束密度の変化に応じた電気信号を出力する。ホール素子29からの電気信号を用いて、ガイド部材22の左右方向での位置を検出することができる。
【0050】
30,31はガイドバーであり、シフト枠21をガイド部材22に対して上下方向に移動可能に支持している。ガイドバー30の両端は、ガイド部材22に形成された溝部22a,22bに圧入又は接着されて保持されている。また、ガイドバー31の両端は、ガイド部材22に形成された溝部22c,22dに圧入又は接着されて保持されている
32は駆動コイルであり、シフト枠21に接着されて固定されている。33は駆動マグネットであり、上下方向にN極とS極が配置されるように支持部材35に接着されて固定されている。34は駆動マグネット33の背面側に配置され、磁気回路を閉じるヨークであり、支持部材35に接着されて固定されている。ヨーク34は、駆動マグネット33に吸着している。駆動コイル32は、前述したヨーク28と駆動マグネット33との間に配置されている。ヨーク28は、前述したように駆動マグネット26側の磁気回路を閉じているとともに、駆動マグネット33側の磁気回路も閉じる。
【0051】
支持部材35は、対物鏡筒2に対して位置決めされたうえでビスにより固定されている。駆動コイル32に通電されると、ローレンツ力が発生して、シフト枠21が上下方向に移動する。図示はしないが、シフト枠21における駆動コイル32の中心には、磁気センサであるホール素子が取り付けられている。このホール素子は、シフト枠21とともに駆動マグネット33に対して上下方向に移動することで、磁束密度の変化に応じた電気信号を出力する。該ホール素子からの電気信号を用いて、シフト枠21の上下方向での位置を検出することができる。
【0052】
また、図示はしていないが、対物鏡筒2には、振れ補正ユニット2Aを制御する電気回路基板が固定される。該基板には、双眼鏡のピッチ及びヨー方向の角速度を検出する振動ジャイロ等の振れセンサと、上記各ホール素子からの電気信号に基づいて、駆動コイル25,32への通電を制御する制御回路が実装されている。また、該基板には、電源ユニットや、振れ補正動作のON/OFFを切り替えるためのスイッチが設けられている。
【実施例2】
【0053】
図6及び図7には、本発明の実施例2である双眼鏡の構成を示している。図6は双眼鏡の斜視図であり、図7は分解斜視図である。
【0054】
図6において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。左右の対物光学系、左右の正立光学系及び左右の接眼光学系の構成は、実施例1と同じである。
【0055】
106L,106Rは左右の接眼ユニットである。107は左右の接眼ユニット106L,106R及び左右の対物光学系を支持する支持ベース部材である。
【0056】
左右の接眼ユニット106L,106Rは、支持ベース部材107の後端において対物光学系の光軸OL,ORに直交するように折り曲げられた垂直部107aに取り付けられている。接眼ユニット106L,106Rの垂直部107aへの取り付け構造と眼幅調整機構は実施例1と同じである。ただし、本実施例では、接眼光学系を光軸方向に移動させることで観察対象物にピントを合わせる構成を採用している。
【0057】
101L,101Rはそれぞれ、対物レンズL1L,L1Rを保持する対物レンズ枠である。102は実施例1と同様に、対物レンズ枠101L,101Rが結合された対物鏡筒である。対物鏡筒102の内部には、実施例1と同様に構成された振れ補正ユニットが組み込まれている。本実施例でも、左右の対物レンズ(光学要素)L1L,L1Rは、対物鏡筒2によって一体となるように保持されている。本実施例でも、左右の対物光学系の全体が、その内部で振れ補正レンズが移動可能なように一体化されている。
【0058】
107bは支持ベース部材107の上面部であり、該上面部107bには、対物鏡筒102が固定される。103は対物鏡筒102の上部に圧入又は接着により固定された4つの支持ピンである。該支持ピン103の根元部分には球面部103bが形成されており、該球面部103bの上端には円筒部103aが形成されている。
【0059】
104は2つの板バネであり、対物鏡筒102の上部に設けられたバネ取り付け部102a,102bに対して、支持ベース部材107に形成された穴部107g,107hを貫通したビスによって位置決め固定される。2つの板バネ104は、そのバネ力により、対物鏡筒102を支持ベース部材107の上面部107bに押し付けるように引き上げる。これにより、4つの支持ピン103の球面部103bが、支持ベース部材107の上面部107bに形成された位置決め穴部107c,107dと光軸方向に延びる位置決め長穴部107e,107fの下面側の周縁部分に当接する。これにより、対物鏡筒102が支持ベース部材107により一体的に保持される。
【0060】
次に、本実施例における光軸調整機構について説明する。図8には、図6に示す面Bでの断面を示している。面Bは、対物光学系の光軸OL,ORに直交し、対物鏡筒102の2つのバネ取り付け部102a,102bを通る面である。
【0061】
117は対物鏡筒102の左右にビスにより固定された光軸調整部材である。118は光軸調整ビスである。図7にも示すように、支持ベース部材107の上面部107bには、光軸調整ビス118をねじ込むための雌ねじ部107i,107jが設けられている。
【0062】
図8は、左の対物光学系(光軸OL)が右の対物光学系(光軸OR)に対して上側に位置した状態からの光軸調整の様子を示している。この場合、光軸調整ビス118を、支持ベース部材107の左の雌ねじ部107iにねじ込んでいくと、光軸調整ビス118の下端が左側の光軸調整部材117に当接して、対物鏡筒102の左側を押し下げる。このとき、支持ベース部材107の右側の位置決め穴部107dと位置決め長穴部107fを結ぶ軸、すなわち対物光学系の光軸OL,ORに平行な軸の回りで対物鏡筒102が回動する。
【0063】
これにより、左の対物光学系(光軸OL)が斜め下方向に移動するとともに、右の対物光学系(光軸OR)が左方向に移動し、左の対物光学系の光軸OLと右の対物光学系の光軸ORの上下方向での位置を一致させることができる。つまり、接眼ユニット106L,106Rを通して観察される左右の光学像の上下方向での位置を一致させることができる。なお、左の対物光学系の光軸OLと右の対物光学系の光軸ORは、左右方向には同じ量だけ移動する。
【0064】
右の対物光学系(光軸OR)が左の対物光学系(光軸OL)よりも上側に位置する場合には、光軸調整ビス118を支持ベース部材107の右の雌ねじ部107jにねじ込めばよい。この場合、支持ベース部材107の左側の位置決め穴部107cと位置決め長穴部107eを結ぶ軸、すなわち対物光学系の光軸OL,ORに平行な軸の回りで対物鏡筒102が回動する。
【0065】
このように、対物鏡筒102を板バネ104により付勢し、光軸調整ビス118を支持ベース部材107に螺合させただけの簡単な構成で、該ビス118を回転させるだけの簡単な作業により、対物光学系の光軸OL,ORの上下方向位置を精度良く調整できる。
【0066】
また、本実施例では、対物光学系の光軸調整のための回動中心となる軸を、対物光学系の上方に設定することで、支持ベース部材107の前側の中央部107kを大きく空けることができる。これにより、外装部材(図示せず)の対応する部分を凹ますことができ、外観デザインの自由度を増すことができる。
【実施例3】
【0067】
図9及び図10には、本発明の実施例3である双眼鏡の構成を示している。図9は双眼鏡の斜視図であり、図10は分解斜視図である。
【0068】
これらの図において、OLは左の対物光学系の光軸であり、ORは右の対物光学系の光軸である。ELは左の接眼光学系の光軸であり、ERは右の接眼光学系の光軸である。
【0069】
L201L,L201Rは左右の対物光学系の一部を構成する左右の第1対物レンズである。また、L205L,L205Rは左右の対物光学系の他の一部を構成する左右の第2対物レンズである。L202L,L202Rは左右の対物光学系のさらに他の一部を構成する左右の振れ補正レンズである。
【0070】
振れ補正レンズL202L,L202Rは、第1及び第2対物レンズL201L,L201R,L205L,L205Rに対して上下左右にシフトすることで、左右の対物光学系がそれぞれ形成する光学像を上下左右に移動させる。
【0071】
L206L,L206Rは左右の接眼ユニットであり、実施例1と同様に構成されている。L204L,L204Rは左右の接眼ユニットL206L,L206R内に配置されて左右の接眼光学系を構成する左右の接眼レンズである。
【0072】
201は左右の第1対物レンズ(光学要素)L201L,L201Rを一体となるように保持する対物鏡筒である。本実施例では、左右の対物光学系の一部を構成する左右の第1対物レンズL201L,L201Rを対物鏡筒201により一体となるように保持し、該対物鏡筒201を回動させることで、左右の対物光学系の上下方向での光軸調整を行う。
【0073】
202は振れ補正ベース部材である。221は左右の振れ補正レンズL202L,L202Rを一体となるように保持するシフト枠である。振れ補正ベース部材202は、シフト枠221を第1及び第2対物レンズL201L,L201R,L205L,L205Rに対して上下左右にシフトさせるためのベースとなる。
【0074】
また、振れ補正ベース部材202は、右の第2対物レンズL205Rを保持する。また、振れ補正ベース部材202は、レンズ枠205を介して左の第2対物レンズL205Lを保持する。208はリング形状の板バネである。板バネ208は、3本のビスによって振れ補正ベース部材202に固定され、レンズ枠205を振れ補正ベース部材202の突き当て面に押し付けて、左の第2対物レンズL205Lを右の第2対物レンズL205Rと同じ光軸方向位置に保持させる。以上により実施例1と同様に構成された振れ補正ユニットに左右の第2対物レンズL205L、L205Rを追加した振れ補正ユニット202Aを構成している。
【0075】
207は左右の接眼ユニットL206L,L206R及び左右の対物光学系を支持する支持ベース部材である。接眼ユニット206L,206Rは、支持ベース部材207の後端において対物光学系の光軸OL,ORに直交するように折り曲げられた垂直部207aに取り付けられている。接眼ユニット206L,206Rの垂直部207aへの取り付け構造と眼幅調整機構は実施例1と同じである。
【0076】
209は、後述するように対物鏡筒201が取り付けられた振れ補正ベース部材202が3本のビスにより位置決めされて固定されるフォーカス支持部材である。本実施例では、実施例1と同様に、支持ベース部材207の上面部207bをベースとして、対物光学系全体を光軸方向に移動させることにより観察対象物にピントを合わる構成を採用している。ピント合わせ機構は、実施例1と同じである。
【0077】
次に、本実施例での光軸調整機構について、図11、図12、図13及び図14を用いて説明する。図11及び図13は双眼鏡の正面図であり、図12は双眼鏡の下面図である。図14は、双眼鏡の側面図である。いずれの図でも外装部材は省略している。また、図13及び図14では、対物鏡筒201の図示も省略している。
【0078】
図11において、201aは図9及び図10にも示す対物鏡筒201における左右の対物光学系の光軸OL,ORの間に設けられた回動中心穴部である。202aは振れ補正ベース部材202に、回動中心穴部201aに対応するよう設けられた回動中心ピンである。対物鏡筒201は、回動中心穴部201aに回動中心ピン202aが挿入され、4本のビスによって振れ補正ベース部材202の前端面に仮固定される。
【0079】
図12において、201bは図10にも示すように対物鏡筒201の下部に設けられた調整穴部であり、202bは振れ補正ベース部材202の下面に形成された調整溝部である。230は円筒部230aと該円筒部230aに対して偏芯したピン部230bとを有する偏芯ピンである。
【0080】
調整穴部201bには、偏芯ピン230の円筒部230aが嵌め込まれ、調整溝部202bには、ピン部230bが挿入される。偏芯ピン230を調整穴部201b内で円筒部230aの軸回りに回転させると、ピン部230bが調整溝部202bの左右方向の端面を押す。これにより、図11に示すように、対物鏡筒201が回動中心ピン202aの回りで振れ補正ベース部材202に対して回動し、左右の対物光学系の光軸OL,ORが上下逆方向に移動する。なお、回動中心ピン202aは、対物光学系の光軸OL,ORに平行な軸である。
【0081】
こうして対物光学系の光軸調整を行った後、対物鏡筒201を振れ補正ベース部材202に仮固定していた4本のビスの増し締めを行うか接着によって、対物鏡筒201を振れ補正ベース部材202に固定する。以上の構成により、対物光学系の上下方向での光軸調整が可能である。
【0082】
図13において、205cはレンズ枠205に設けられた位置決め穴部であり、202cは振れ補正ベース部材202に設けられた位置決めピンである。また、図12において、202dは振れ補正ベース部材202の下面に設けられた調整穴部であり、205dはレンズ枠205の下面に設けられた調整溝部である。
【0083】
調整穴部202dには、先に説明した偏芯ピン230の円筒部230aが嵌め込まれ、調整溝部205dには、ピン部230bが挿入される。偏芯ピン230を調整穴部202d内で円筒部230aの軸回りに回転させると、ピン部230bが調整溝部205dの左右方向の端面を押す。これにより、図13に示すように、レンズ枠205が振れ補正ベース部材202に対して左右に移動し、左の対物光学系の光軸OLが左右に移動する。
【0084】
こうして左の対物光学系の光軸調整を行った後、図14に示すように振れ補正ベース部材202の側面に形成された開口部202e,202fから接着剤を流し込んで、レンズ枠205を振れ補正ベース部材202に固定する。
【0085】
調整穴部201bと調整溝部202b及び調整穴部202dと調整溝部205dをそれぞれ同一形状に形成することで、ひとつの偏芯ピン230を用いて対物光学系の上下方向及び左右方向での光軸調整を、同じ側(双眼鏡の下面側)から続けて行うことができる。
【0086】
ただし、前述したように光軸ずれ許容量の小さい上下方向での光軸調整を行う偏芯ピン230においては、円筒部203aに対するピン部230bの偏芯量を小さくして、偏芯ピン230の回転量に対する調整敏感度を低くし、調整をより容易にしてもよい。
【0087】
このように、対物鏡筒201を回動可能に振れ補正ベース部材202に結合させ、それぞれに調整穴部及び調整溝部を形成しただけの簡単な構成で、偏芯ピン230を回転させるだけの簡単な作業により、対物光学系の光軸調節を精度良く行うことができる。
【0088】
なお、本実施例は、特に、双眼鏡を構成する部品の製造精度のみでは、左右方向の光軸平行度が許容値の範囲に収められない場合に有効である。
【0089】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0090】
例えば、上記実施例1〜3では、振れ補正ユニットを有する双眼鏡について説明したが、振れ補正ユニットを有さない双眼鏡にも、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施例1である双眼鏡の断面図。
【図2】実施例1の双眼鏡の斜視図。
【図3】実施例1の双眼鏡の分解斜視図。
【図4】実施例1の双眼鏡における光軸調整を説明する図。
【図5】実施例1の双眼鏡に設けられた振れ補正ユニットの分解斜視図。
【図6】本発明の実施例2である双眼鏡の斜視図。
【図7】実施例2の双眼鏡の分解斜視図。
【図8】実施例2の双眼鏡における光軸調整を説明する図。
【図9】本発明の実施例3である双眼鏡の斜視図。
【図10】実施例3の双眼鏡の分解斜視図。
【図11】実施例3の双眼鏡の正面図。
【図12】実施例3の双眼鏡の下面図。
【図13】実施例3の双眼鏡の左右方向での光軸調整を説明する図。
【図14】実施例3の双眼鏡の側面図。
【符号の説明】
【0092】
OL,OR 対物光学系の光軸
EL,ER 接眼光学系の光軸
L1L,L1R 対物レンズ
L2L,L2R 振れ補正レンズ
L3L,L3R ポロII型正立プリズム
L4L,L4R 接眼レンズ
2 対物鏡筒
4L,4R 接眼鏡筒
6L,6R 接眼ユニット
7 支持ベース部材
8L,8R 連動板
9 フォーカス支持部材
17 光軸調整部材
18 光軸調整ビス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の対物光学系と、
該左右の対物光学系によりそれぞれ形成された光学像を正立させる左右の正立光学系と、
該正立させられた光学像を観察者に両眼で観察させる左右の接眼光学系とを有し、
前記左右の対物光学系は、その少なくとも一部に、一体となるように保持された左右の光学要素を含み、
該左右の光学要素を、前記左右の対物光学系の光軸に平行な軸の回りで回動させる調整機構を有することを特徴とする双眼鏡。
【請求項2】
前記左右の対物光学系は、一体になるように保持された左右の振れ補正光学系を含むことを特徴とする請求項1に記載の双眼鏡。
【請求項1】
左右の対物光学系と、
該左右の対物光学系によりそれぞれ形成された光学像を正立させる左右の正立光学系と、
該正立させられた光学像を観察者に両眼で観察させる左右の接眼光学系とを有し、
前記左右の対物光学系は、その少なくとも一部に、一体となるように保持された左右の光学要素を含み、
該左右の光学要素を、前記左右の対物光学系の光軸に平行な軸の回りで回動させる調整機構を有することを特徴とする双眼鏡。
【請求項2】
前記左右の対物光学系は、一体になるように保持された左右の振れ補正光学系を含むことを特徴とする請求項1に記載の双眼鏡。
【図8】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−97001(P2010−97001A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268114(P2008−268114)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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