説明

反射エコーの弁別方法

【課題】管軸方向の位置が互いに同一であるように管に設けられた外面人工きず及び内面人工きずからのそれぞれの反射エコーが外面きず反射エコーであるか内面きず反射エコーであるかを弁別することができる超音波探傷における人工きずからの反射エコーの弁別方法を提供する。
【解決手段】管軸方向の位置が互いに同一であり、管周方向の位置が互いに離間し、かつ、管軸を挟んだ正反対の位置とならないように、管1に外面人工きずF1及び内面人工きずF2を設ける。超音波探触子21を管周方向に相対移動させながら管1の超音波探傷を行なう。外面人工きずF1及び内面人工きずF2の内のいずれか一方からの反射エコーを検出してから反射エコーを次に検出するまでの第1時間と、更に反射エコーを次に検出するまでの第2時間とを算出し、第1時間及び第2時間の関係と、外面人工きず及び内面人工きずの管周方向の位置の関係とを対比することにより弁別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷における人工きずからの反射エコーの弁別方法に関する。特に、管軸方向の位置が互いに同一であるように管に設けられた外面人工きず及び内面人工きずからのそれぞれの反射エコーが外面人工きずからの反射エコーであるか内面人工きずからの反射エコーであるかを弁別する超音波探傷における人工きずからの反射エコーの弁別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼管等の管の外面や内面のきずの有無を調べる方法として超音波探傷法が用いられている。管の端部においては、端面までの超音波の伝搬距離が短いために、きずからの反射エコーを検出するために設定したゲートに端面からの反射エコーが入るので、きずを検出できない未探傷領域が発生する。未探傷領域は、鋼管の場合、鋼管の肉厚等によっても異なるが、端面からの距離が0〜300mmの範囲である。また、未探傷領域及び未探傷領域に隣接する端部の領域(以下、未探傷領域に隣接する端部の領域を端部隣接領域という)においては、一般に管の支持機構が管の端部を支持できないために、管と超音波探触子との位置関係が変動し、きずからの反射エコーの感度が低下する傾向にある。
この未探傷領域の範囲を調べるために、テスト探傷用の管が用いられる。その管には、未探傷領域及び端部隣接領域に相当する管軸方向の同一位置おいて、外面人工きず及び内面人工きずを設けなければならない。
【0003】
外面人工きず及び内面人工きずを管軸方向の同一位置に設けた場合の外面きずからの反射エコー(以下、外面きず反射エコー)と内面きずからの反射エコー(以下、内面きず反射エコー)について説明する。
超音波探触子から外面人工きずまでの超音波の伝搬距離は、内面人工きずまでよりも長い。
そして、管の肉厚が厚いときは、その伝搬距離の差が大きくなるので、外面人工きずを検出するための探傷ゲート(以下、外面きず探傷ゲートという)及び内面人工きずを検出するための探傷ゲート(以下、内面きず探傷ゲートという)が重ならないように設定することは容易である。そして、外面きず探傷ゲートと内面きず探傷ゲートとが重なっていなければ、外面きず反射エコーと内面きず反射エコーとを容易に弁別することができる。
しかしながら、管の肉厚が薄いときは、超音波探触子から外面人工きずまでの超音波の伝搬距離と超音波探触子から内面人工きずまでの超音波の伝搬距離の差が小さくなるので、外面きず探傷ゲート及び内面きず探傷ゲートを重ならないように設定することが難しくなる。そして、外面きず探傷ゲートと内面きず探傷ゲートとが重なっていると、外面きず反射エコー及び内面きず反射エコーのいずれもが外面きず探傷ゲートと内面きず探傷ゲートとの両方に入り易くなるので、外面きず反射エコーと内面きず反射エコーとを弁別することが難しくなる。
【0004】
管の肉厚が厚い場合における外面人工きずと内面人工きずを超音波探傷したときの反射エコーを、図1を参照して説明する。図1(a)は、超音波探傷を行っているときの管の断面と超音波探触子の状態を示す模式図である。外面人工きずF1及び内面人工きずF2は、管軸方向の同一位置に設けられている。図1(b)は、図1(a)に示す超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。図1(b)においては、別々に検出された外面きず反射エコーと内面きず反射エコーとをそれぞれの表面エコーの位置を合わせて表わしている。
管101が矢印A方向に回転することにより、超音波探触子102は管周方向に相対移動しながら超音波探傷する。
外面きず探傷ゲートG1と内面きず探傷ゲートG2とは重ならず、外面人工きずF1からの反射エコーE1は外面きず探傷ゲートG1に入り、内面人工きずF2からの反射エコーE2は内面きず探傷ゲートG2に入る。このために、外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2とを、弁別することができる。
【0005】
次に、管の肉厚が薄い場合における外面人工きずF1及び内面人工きずF2を超音波探傷したときの反射エコーを図2を参照して説明する。
図2(a)は、外面人工きず及び内面人工きずが設けられた管の超音波探傷を行っている状態を示す概略図である。
管101の中央部において管軸方向の異なる位置に外面人工きずF1と内面人工きずF2とが個別に設けられており、端部隣接領域に外面人工きずF1及び内面人工きずF2が設けられている。管101が矢印A方向に回転することにより、超音波探触子102は管周方向に相対移動しながら超音波探傷する。超音波探触子102は、外面人工きずF1又は内面人工きずF2が設けられているそれぞれの軸方向の位置に移動させられ、それぞれの人工きずを超音波探傷する。
図2(b),(c)は、図2(a)の管中央部における外面人工きずF1又は内面人工きずF2が設けられたそれぞれの位置において超音波探触子102が超音波探傷を行っているときの管101の断面と超音波探触子102の状態を示す模式図であり、図2(d)は端部隣接領域における外面人工きずF1及び内面人工きずF2が設けられた位置において超音波探触子102が超音波探傷を行っているときの管101の断面と超音波探触子102の状態を示す模式図である。図2(e),(f),(g)は、それぞれ図2(b),(c),(d)のそれぞれの超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。尚、図2(g)においては、別々に検出された外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2とをそれぞれの表面エコーの位置を合わせて表わしている。
【0006】
図2(e)に示すように、外面人工きずF1のみが設けられている位置における超音波探傷においては、外面きず探傷ゲートG1が設定され、外面きず探傷ゲートG1に入った外面きず反射エコーE1を認識できる。
同様に図2(f)に示すように、内面人工きずF2のみが設けられている位置における超音波探傷においては、内面きず探傷ゲートG2が設定され、内面きず探傷ゲートG2に入った内面きず反射エコーE2を認識できる。
しかしながら端部隣接領域においては、外面人工きずF1及び内面人工きずF2が設けられているが、管の肉厚が薄いので、超音波探触子102から外面人工きずF1までと内面人工きずF2までの伝搬距離の差が小さくなり、外面きず探傷ゲートG1と内面きず探傷ゲートG2とが重ならないように設定することができない(図2(g)参照)。
そのために、検出された反射エコーE1及び反射エコーE2の両反射エコーは、外面きず探傷ゲートG1及び内面きず探傷ゲートG2の両方に入り易くなるので、それぞれの反射エコーが外面人工きずF1からの反射エコーE1であるのか、内面人工きずF2からの反射エコーE2であるのかの弁別をすることが難しくなる。
【0007】
このように、管の肉厚が薄い場合には、管軸方向の同一位置に設けられた外面人工きずF1と内面人工きずF2からの反射エコーを弁別することが難しい。特に鋼管の肉厚が10mm以下のときに難しい。
また、端部隣接領域において管軸方向の同一位置に設けられた外面人工きずF1と内面人工きずF2からの反射エコーとを弁別するために、管軸方向の同一位置に外面人工きずF1を設けた管と、内面人工きずF2を設けた管を用いるという方法も考えられるが、2つの管を用意し、それらの管毎に超音波探傷を行わなければならないので、費用と手間がかかるという問題がある。
【0008】
また、超音波探傷法において欠陥の種類を弁別する方法として、例えば、特許文献1及び2に記載された方法が知られているが、いずれの方法によっても、外面人工きず及び内面人工きずの管軸方向の位置が同一である場合に外面きず反射エコーと内面きず反射エコーとを弁別することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−53756号公報
【特許文献2】特開昭63−314463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、管軸方向の位置が互いに同一であるように管に設けられた外面人工きず及び内面人工きずからのそれぞれの反射エコーが外面きず反射エコーであるか内面きず反射エコーであるかを弁別することを特徴とする超音波探傷における人工きずからの反射エコーの弁別方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者は、外面人工きず及び内面人工きずを設ける管周方向の位置と、検出した反射エコーを解析する方法とを工夫することにより、検出した反射エコーが外面きず反射エコーであるか内面きず反射エコーであるかを弁別することができるという知見を得た。
【0012】
本発明は、上記の本発明者の知見に基づき完成されたものである。すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、管軸方向の位置が互いに同一であり、管周方向の位置が互いに離間し、かつ、管軸を挟んだ正反対の位置とならないように、管外面に外面人工きずを設け、管内面に内面人工きずを設ける第1ステップと、超音波探触子を管周方向に相対移動させながら該管の超音波探傷を行ない、前記外面人工きずからの反射エコーと前記内面人工きずからの反射エコーとを交互に検出する第2ステップと、前記外面人工きず及び前記内面人工きずの内のいずれか一方からの反射エコーを検出してから該外面人工きず及び該内面人工きずの内のいずれか他方からの反射エコーを次に検出するまでの第1時間と、前記いずれか他方からの反射エコーを検出してから前記いずれか一方からの反射エコーを次に検出するまでの第2時間とを算出し、前記第1時間及び第2時間の関係と、該外面人工きずの管周方向の位置及び該内面人工きずの管周方向の位置の関係を対比することにより、検出した前記反射エコーのそれぞれが該外面人工きずからの反射エコーであるか該内面人工きずからの反射エコーであるかを弁別する第3ステップとを含むことを特徴とする超音波探傷における人工きずからの反射エコーの弁別方法を提供する。
【0013】
本発明において、外面人工きず及び内面人工きずの管周方向の位置が互いに離間しているとは、検出された外面きず反射エコー及び内面きず反射エコーのピーク位置(検出時点)が一致しない外面人工きず及び内面人工きずの位置をいう。
また、外面人工きず及び内面人工きずの管周方向の位置が管軸を挟んだ正反対の位置とは、外面きず反射エコーのピークの検出時点から内面きず反射エコーのピークの検出時点までの時間と、内面きず反射エコーのピークの検出時点から外面きず反射エコーのピークの検出時点までの時間とが同じになる外面人工き及び内面人工きずの位置をいう。
また、第2時間を「前記いずれか他方からの反射エコーを検出してから前記いずれか一方からの反射エコーを次に検出するまでの」時間としているが、この第2時間は、外面人工きずからの反射エコーと内面人工きずからの反射エコーとが交互に繰り返して検出される状態において、「いずれか他方からの反射エコーを検出してから」その次に繰り返して「いずれか一方からの反射エコー」が検出されるまでの時間をいう。
【0014】
本発明によれば、例えば、本発明の第1ステップにおいて、超音波探触子の移動方向に測定した長さが、内面人工きずから外面人工きずまでよりも外面人工きずから内面人工きずまでの方において長くなるように、外面人工きず及び内面人工きずを設ける。すると、第2ステップにおける超音波探傷において、外面きず反射エコーが検出されてから内面きず反射エコーが検出されるまでの時間は、内面きず反射エコーが検出されてから外面きず反射エコーが検出されるまでの時間よりも長くなる。従って、第3ステップにおいて、外面人工きず及び内面人工きずの内のいずれか一方からの反射エコーを検出してから外面人工きず及び内面人工きずの内のいずれか他方からの反射エコーを次に検出するまでの時間を第1時間とし、前記いずれか他方からの反射エコーを検出してから前記いずれか一方からの反射エコーを次に検出するまでの時間を第2時間とすると、第1時間及び第2時間の関係と、内面人工きずから外面人工きずまでの距離及び外面人工きずから内面人工きずまでの距離の関係とを対比すれば、検出されたそれぞれの反射エコーが外面人工きずからの反射エコーであるか内面人工きずからの反射エコーであるかを容易に弁別することができる。上記の例では、第1時間が第2時間よりも長ければ、前記いずれか一方からの反射エコーが外面人工きずからの反射エコーであり、前記いずれか他方からの反射エコーが内面人工きずからの反射エコーである。逆に、第1時間が第2時間よりも短ければ、前記いずれか一方からの反射エコー内外面人工きずからの反射エコーであり、前記いずれか他方からの反射エコーが外面人工きずからの反射エコーである。
このように、管軸方向の位置が互いに同一であるように管に設けられた外面人工きず及び内面人工きずからのそれぞれの反射エコーが外面人工きずからの反射エコーであるか内面人工きずからの反射エコーであるかを弁別することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、管軸方向の位置が互いに同一であるように外面人工きず及び内面人工きずが管に設けられたとしても、外面人工きず及び内面人工きずからのそれぞれの反射エコーが外面きず反射エコーであるか内面きず反射エコーであるかを容易に弁別することができる。外面人工きず及び内面人工きずが設けられる管軸方向の位置は、未探傷領域以外であれば、中央部でも端部でもよい。
特に、管の肉厚が薄いために外面きず探傷ゲートと内面きず探傷ゲートとが重なり、外面きず探傷ゲート及び内面きず探傷ゲートによって反射エコーが外面きず反射エコーであるか内面きず反射エコーであるかを弁別することができなくても、反射エコーが外面きず反射エコーであるか内面きず反射エコーであるかを弁別することができる。
検出された反射エコーが外面きず反射エコーであるか内面きず反射エコーであるかを弁別することができることにより、管の超音波探傷における未探傷領域の範囲を正確に認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)は、従来の反射エコーの弁別方法に係る超音波探傷を行っているときの管の断面と超音波探触子の状態を示す模式図であり、図1(b)は、図1(a)に示す超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。
【図2】図2(a)は、同弁別方法において外面人工きず及び内面人工きずが設けられた管の超音波探傷を行っている状態を示す概略図である。図2(b),(c)は、図2(a)の管中央部における外面人工きず又は内面人工きずが設けられたそれぞれの位置において超音波探触子が超音波探傷を行っているときの管の断面と超音波探触子の状態を示す模式図である。図2(d)は端部隣接領域における外面人工きず及び内面人工きずが設けられた位置において超音波探触子が超音波探傷を行っているときの管の断面と超音波探触子の状態を示す模式図である。図2(e)は、図2(b)の超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。図2(f)は、図2(c)の超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。図2(g)は、図2(d)の超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。
【図3】図3は、本実施形態に係る超音波探傷を行っている超音波探傷装置が鋼管の超音波探傷を行っている状態を示す概略図である。
【図4】図4は、同超音波探傷を行っているときの鋼管の断面と超音波探触子の状態を示す図である。
【図5】図5は、図4に示す同超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。
【図6】図6は、同超音波探傷において外面きず探傷ゲート又は内面きず探傷ゲートに入った反射エコーを時系列に示す図である。
【図7】図7は、実施例における鋼管の断面と超音波探触子の状態を示す図である。
【図8】図8は、実施例における超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。
【図9】図9(a)乃至(d)は、実施例において外面きず探傷ゲート及び内面きず探傷ゲートに入った反射エコーが時系列に示されたチャートから、反射エコーを外面きず反射エコーと内面きず反射エコーとに弁別する過程を示す図である。
【図10】図10は、実施例において弁別した実際の反射エコーのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態に係る超音波探傷における人工きずからの反射エコーの弁別方法について説明する。
図3は、超音波探傷を行っている超音波探傷装置が鋼管の超音波探傷を行っている状態を示す概略図である。
鋼管1の超音波探傷を行う超音波探傷装置2は、超音波を送受信する超音波探触子21と超音波探触子21の動作を制御する演算制御部22とを備えている。
鋼管1は、鋼管1を周方向に回転させる回転駆動部(図示せず)の上に置かれており、鋼管1が回転することによって超音波探触子21が管周方向に相対移動する。
鋼管1と超音波探触子21との間には、給水装置(図示せず)によって水が供給され、超音波が鋼管1と超音波探触子21との間を伝搬するようにされている。
【0018】
人工きずからの反射エコーを弁別するには、最初に、管軸方向の位置が互いに同一であり、管周方向の位置が互いに離間し、かつ、管軸を挟んだ正反対の位置とならないように、鋼管1の外面に外面人工きずF1として管軸方向に延びた細長いノッチを1つ設け、鋼管1の内面に内面人工きずF2として管軸方向に延びた細長いノッチを1つ設ける(第1ステップ)。図4は超音波探傷を行っているときの鋼管1の断面と超音波探触子21の状態を示す図である。鋼管1の周方向に超音波が伝搬するように鋼管1の表面の法線方向に対して斜めに超音波を入射する斜角探傷を行って外面人工きずF1及び内面人工きずF2を検出している。尚、管周方向に延びた細長いノッチを設けた場合には、鋼管1の管軸方向に超音波が伝搬するように鋼管1の表面の法線方向に対して斜めに超音波を入射する斜角探傷を行えばよい。
また、本実施形態では、斜角探傷を行っているが、垂直探傷を行うことで、外面人工きずF1及び内面人工きずF2を検出してもよい。
尚、ノッチの長さ等は、鋼管への要求品質等から、好ましくは、長さが12mm以上で50.8mm以下であり、幅は1mm以下であり、深さは鋼管の肉厚に対して5%±12.5%である。
ここで、外面人工きずF1及び内面人工きずF2の管周方向の位置が互いに離間しているとは、超音波探傷を行ったときに、検出された外面きず反射エコーE1及び内面きず反射エコーE2のピーク位置(検出時点)が一致しない外面人工きずF1及び内面人工きずF2の位置をいう。
また、外面人工きずF1及び内面人工きずF2の管周方向の位置が管軸を挟んだ正反対の位置とは、外面きず反射エコーE1のピークの検出時点から内面きず反射エコーE2のピークの検出時点までの時間と、内面きず反射エコーE2のピークの検出時点から外面きず反射エコーE1のピークの検出時点までの時間とが同じになる外面人工きずF1及び内面人工きずF2の位置をいう。
【0019】
図4に示すように、管軸と外面人工きずF1とを結ぶ直線から管軸と内面人工きずF2とを結ぶ直線へ超音波探触子21が相対移動する方向に測定した角度がαであり、管軸と内面人工きずF2とを結ぶ直線から管軸と外面人工きずF1とを結ぶ直線へ超音波探触子21が相対移動する方向に測定した角度がβとなっている。ここで、α+β=360°である。尚、反射エコーの弁別が行い易いように、α又はβのいずれか一方が、45°以上135°以下であることが望ましい。
【0020】
次に、回転駆動部によって鋼管1を矢印A方向に回転させることによって超音波探触子21を管周方向に相対移動させながら鋼管1の超音波探傷を行なう。
超音波探触子21から超音波が送信され、鋼管1の回転によって超音波が外面人工きずF1と内面人工きずF2のそれぞれに交互に照射され、外面人工きずF1からの反射エコーE1と内面人工きずF2からの反射エコーE2とが交互に超音波探触子21によって検出される(第2ステップ)。
図5は、超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。図5においては、別々に検出された外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2とをそれぞれの表面エコーの位置を合わせて表わしている。本実施形態では、鋼管1の肉厚が薄いために、外面きず探傷ゲートG1と内面きず探傷ゲートG2とが重なって設定されている。
外面きず反射エコーE1及び内面きず反射エコーE2のそれぞれは、外面きず探傷ゲートG1又は内面きず探傷ゲートG2に入っているので、外面人工きずF1又は内面人工きずF2からの反射エコーであると認められる。
しかしながら、外面きず反射エコーE1及び内面きず反射エコーE2のそれぞれは、外面きず探傷ゲートG1及び内面きず探傷ゲートG2の両方に入っているので、外面人工きずF1からの反射エコーであるか内面人工きずF2からの反射エコーであるかの弁別をすることはできない。
【0021】
上記のように、鋼管1の回転に応じて外面きず反射エコーE1及び内面きず反射エコーE2が交互に検出される。
図6は、外面きず探傷ゲートG1又は内面きず探傷ゲートG2に入った反射エコーを時系列に示す図である。
外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2の内のいずれか一方である反射エコーP1と、外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2の内のいずれか他方である反射エコーP2とが交互に検出されている。
【0022】
次に、反射エコーP1のピークを検出してから反射エコーP2のピークを次に検出するまでの第1時間T1と、反射エコーP2のピークを検出してから反射エコーP1のピークを次に検出するまでの第2時間T2とを算出し、第1時間T1及び第2時間T2の関係と、外面人工きずF1の管周方向の位置及び内面人工きずF2の管周方向の位置の関係を対比することにより、検出した反射エコーP1及びP2のそれぞれが外面きず反射エコーE1であるか内面きず反射エコーE2であるかを弁別する(第3ステップ)。
この第3ステップの対比は、例えば次のように行う。
角度αと角度βの大小関係と、第1時間T1と第2時間T2の大小関係を判定する。大小関係は、例えば、大小を較べる両者の差が正になるか負になるかで判定したり、両者の比が1より大きいか1より小さいかで判定すればよい。
α<βの場合に、T1<T2であれば反射エコーP1は外面きず反射エコーE1であって反射エコーP2は内面きず反射エコーE2であり、T1>T2であれば反射エコーP1は内面きず反射エコーE2であって、反射エコーP2は外面きず反射エコーE1である。
上記とは反対にα>βの場合に、T1<T2であれば反射エコーP1は内面きず反射エコーE2であって反射エコーP2は外面きず反射エコーE1であり、T1>T2であれば反射エコーP1は外面きず反射エコーE1であって、反射エコーP2は内面きず反射エコーE2である。
【0023】
このように、管軸方向の位置が互いに同一であるように外面人工きずF1及び内面人工きずF2が管1に設けられたとしても、外面人工きずF1及び内面人工きずF2からのそれぞれの反射エコーが外面きず反射エコーE1であるか内面きず反射エコーE2であるかを容易に弁別することができる。外面人工きずF1及び内面人工きずF2が設けられる管軸方向の位置は、未探傷領域以外であれば、中央部でも端部でもよい。
特に、鋼管1の肉厚が薄いために外面きず探傷ゲートG1と内面きず探傷ゲートG2とが重なり、外面きず探傷ゲートG1及び内面きず探傷ゲートG2によって反射エコーが外面きず反射エコーE1であるか内面きず反射エコーE2であるかを弁別することができなくても、反射エコーが外面きず反射エコーE1であるか内面きず反射エコーE2であるかを弁別することができる。特に鋼管の肉厚が10mm以下のときに有効である。
検出された反射エコーが外面きず反射エコーE1であるか内面きず反射エコーE2であるかを弁別することができることにより、外面きず反射エコーE1及び内面きず反射エコーE2のそれぞれを対象として個別に超音波探傷装置2の感度調整を行うことができるので、外面人工きずF1及び内面人工きずF2の検出精度が良くなる。
そして、感度調整が行われた超音波探傷装置2を鋼管1の超音波探傷に用いることにより、未探傷領域以外における自然きずの検出精度が向上することが期待できる。
【0024】
上記第3ステップにおける対比を次のように行ってもよい。
超音波探触子21が鋼管1の周囲の半周を相対移動するのに必要な時間を時間THとする。
α<βの場合に、反射エコーP1のピークを検出した時点以後の時間TH内に反射エコーP2のピークがあれば、即ちT2>TH>T1であれば、反射エコーP1は外面きず反射エコーE1あって反射エコーP2は内面きず反射エコーE2である。反射エコーP1のピークを検出する時点以前の時間TH内に反射エコーP2のピークがあれば、即ちT1>TH>T2であれば、反射エコーP1は内面きず反射エコーE2であって反射エコーP2は外面きず反射エコーE1である。
上記とは反対にα>βの場合に、反射エコーP1のピークを検出した時点以後の時間TH内に反射エコーP2のピークがあれば、即ちT2>TH>T1であれば、反射エコーP1は内面きず反射エコーE2であって反射エコーP2は外面きず反射エコーE1である。反射エコーP1のピークを検出する時点以前の時間TH内に反射エコーP2のピークがあれば、即ちT1>TH>T2であれば、反射エコーP1は外面きず反射エコーE1であって反射エコーP2は内面きず反射エコーE2である。
第3ステップにおける対比をこのように行っても、上述した対比方法と同様の効果を得ることができる。
【0025】
上記において、外面人工きずF1と内面人工きずF2の管周方向の位置を管軸における角度で表したが、管軸における角度で表さずに、例えば、管周における超音波探触子21の移動方向での外面人工きずF1から内面人工きずF2までの距離と内面人工きずF2から外面人工きずF1までの距離によって表してもよい。
【0026】
(実施例)
鋼管1に、外面人工きずF1としてのノッチと内面人工きずF2としてのノッチを管軸方向の同一位置に1つずつ設けた。鋼管は外径73.0mm、肉厚5.5mmであった。また、ノッチは長さ25.4mm、幅1mm、深さ0.30mmであった。
図7は、鋼管1の断面と超音波探触子21の状態を示す図である。管軸と外面人工きずF1とを結ぶ直線から管軸と内面人工きずF2とを結ぶ直線へ超音波探触子21が移動する方向に測定した角度が90°になるようにした。
そして、鋼管1を回転駆動部によって矢印A方向に回転させながら超音波探触子21によって超音波探傷を行った。このとき、外面きず反射エコーE1及び内面きず反射エコーE2を検出するように、外面きず探傷ゲートG1及び内面きず探傷ゲートG2を設定したが、外面きず探傷ゲートG1及び内面きず探傷ゲートG2は重なった。図8は、超音波探傷で得られる反射エコーのチャート(Aスコープ)である。図8においては、別々に検出された外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2とをそれぞれの表面エコーの位置を合わせて表わしている。
【0027】
図9は、外面きず探傷ゲートG1及び内面きず探傷ゲートG2に入った反射エコーが時系列に示されたチャートから、反射エコーを外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2とに弁別する過程を示す図である。
超音波探傷の実施にあたっては、検出された反射エコーが人工きずからの反射エコーであると判断するための人工きず判断基準値を予め定めておき、検出された反射エコーの中の最大のエコー高さが人工きず判断基準値を超えている場合には、人工きずからの反射エコーが検出されたとして、反射エコーの解析を進める(図9(a)参照)。
続いて、ノイズを判断するためのノイズ判断基準値を反射エコーの中の最大のエコー高さに予め定めた割合を掛けて設定し、ノイズ判断基準値よりもエコー高さが低い反射エコーは、ノイズとして除去する(図9(b)参照)。
続いて、ピークのエコー高さが最大の反射エコーを選択し、その反射エコーのピークを検出した時点から超音波探触子21が鋼管1の周囲の半周を移動するのに必要な時間TH内に次に検出された反射エコーが有れば、ピークのエコー高さが最大の反射エコーが外面きず反射エコーE1であり、ピークのエコー高さが最大の反射エコーから時間TH内に検出された反射エコーが内面きず反射エコーE2である。
ピークのエコー高さが最大の反射エコーを検出した時点よりも時間TH前の間に、先に検出された反射エコーが有れば、ピークのエコー高さが最大の反射エコーが内面きず反射エコーE2であり、ピークのエコー高さが最大の反射エコーから時間TH前の間に検出された反射エコーが内面きず外面きず反射エコーE1である。このようにして1組の外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2とを弁別することができる(図9(c)参照)。
次に、弁別した1組の外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2とを除いた後の反射エコーを対象として、上記と同様にして順に1組の外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2を弁別することを繰り返し、検出した全ての反射エコーを弁別することができる(図9(d)参照)。
【0028】
図10は、このようにして弁別した実際の反射エコーのチャートである。反射エコーが外面きず反射エコーE1と内面きず反射エコーE2とに弁別されている。
そして、弁別された外面きず反射エコーE1及び内面きず反射エコーE2を用いて超音波探傷装置の感度調整を行うことができる。
【0029】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1・・・鋼管
21・・・超音波探触子
E1・・・外面きず反射エコー
E2・・・内面きず反射エコー
F1・・・外面人工きず
F2・・・内面人工きず
T1・・・第1時間
T2・・・第2時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管軸方向の位置が互いに同一であり、管周方向の位置が互いに離間し、かつ、管軸を挟んだ正反対の位置とならないように、管外面に外面人工きずを設け、管内面に内面人工きずを設ける第1ステップと、
超音波探触子を管周方向に相対移動させながら該管の超音波探傷を行ない、前記外面人工きずからの反射エコーと前記内面人工きずからの反射エコーとを交互に検出する第2ステップと、
前記外面人工きず及び前記内面人工きずの内のいずれか一方からの反射エコーを検出してから該外面人工きず及び該内面人工きずの内のいずれか他方からの反射エコーを次に検出するまでの第1時間と、前記いずれか他方からの反射エコーを検出してから前記いずれか一方からの反射エコーを次に検出するまでの第2時間とを算出し、前記第1時間及び第2時間の関係と、該外面人工きずの管周方向の位置及び該内面人工きずの管周方向の位置の関係とを対比することにより、検出した前記反射エコーのそれぞれが該外面人工きずからの反射エコーであるか該内面人工きずからの反射エコーであるかを弁別する第3ステップとを含むことを特徴とする超音波探傷における人工きずからの反射エコーの弁別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−159339(P2012−159339A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17788(P2011−17788)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】