説明

反射型液晶表示装置およびその製造方法

【課題】 明るくてコントラストが良好で、かつ製造コストを抑えることが可能な反射型液晶表示装置を提供する。
【解決手段】 反射型液晶表示装置は、少なくとも一方が透明性を有し互いに対向配置される第1および第2の電極基板1,2と、これら電極基板間に隣接配置される第1および第2の薄膜3,4とを備えている。第1および第2の電極基板1,2間に、互いにらせん方位の異なる第1および第2の薄膜3,4を隣接配置するため、入射光の右円偏光成分と左円偏光成分をともに反射させることができ、反射強度が高くなることから、従来よりも明るい表示が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光を反射させることが可能な反射型液晶表示装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に液晶表示素子は、一定距離を隔てて対向配置された一対の電極基板と、これら電極基板表面を被覆する配向膜と、これら電極基板間に配向膜を介して挟持された液晶材料とを備えている。一方の電極基板には画素ごとに透明または非透明電極が形成され、他方の電極基板は一定の電圧に設定される。これら電極基板間に印加される電圧により、液晶材料に電圧が印加される。
【0003】
近年では、アクティブマトリクス方式に使用される液晶表示素子として、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)などの駆動素子を一方の電極基板上に形成する液晶表示素子が開発されて実用化されている。
【0004】
液晶表示素子は、液晶材料の配向/配列が外部より印加される電場/磁場等により変形されて、その光学的な性質が変化するという特徴がある。液晶表示素子は、一般に、偏光板を透過した光成分を液晶配列により制御して明状態と暗状態を実現している。液晶表示素子として、ツイストネマチック(TN)素子、スーパーツイストネマチック(STN)素子、表面安定化強誘電性液晶(SSFLC)素子、反強誘電性液晶(AFLC)素子などが開発されている。液晶表示素子では、通常偏光板を用いるためにその光利用効率は最大50%程度と低い。
【0005】
さて近年、ノートパソコン、サブノートパソコン、携帯電話、PHS、PDAなどに代表される携帯情報機器が大きな注目を集めて普及しつつあるが、携帯性の面から低消費電力が必須となっている。そのため、携帯情報機器に搭載される表示素子にも低消費電力が要求されている。しかし、バックライトを必要とする従来の透過型液晶表示素子ではこの要求を満足させることは極めて難しく、バックライトが不要で低消費電力な反射型液晶表示素子が強く求められている。
【0006】
反射型液晶表示素子としては、TN、STNなどの透過型液晶表示素子のバックライトを光反射板で置き換えたものがすでに実用化されているものの、前述したとおり偏光板を用いるために光利用効率が低く表示性能としては全く不十分である。そこで、偏光板を用いない反射型液晶表示素子がいくつか提案され、その一部は実用化されつつある。
【0007】
その一つとして高分子材料中に液晶材料を分散し、液晶の複屈折を利用して散乱状態と透過状態を電気的に制御することで、偏光板を必要せず比較的良好な視野角特性を有するPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)(特許文献1,2,3参照)が提唱されている。
【0008】
しかしながら、PDLCは、散乱性が低く、比較的高い駆動電圧を必要とする等の問題がある。散乱性については、ハーフミラーを表示素子の後方に設置して散乱性の向上を図る手法(特許文献4参照)、液晶層に接して凹凸部を設けて散乱性の向上を図る手法(特許文献5,6参照)、液晶材料の常光屈折率に等しい屈せ率を有する材料で形成された回折格子を液晶層に隣接配置して散乱性の向上を図る手法(特許文献7,8参照)などが提案されている。ところが、これら手法では、良好なコントラストと十分な明るさを得ることは難しい。
【0009】
また、散乱状態と透過状態を電気的に制御する方式としてコレステリック液晶材料を用いたものがG. H. Heilmeier 、J. E. Goldmacherら(RCA Lab.)によって提唱されている(例えば、Appl. Phys. Lett., 13, 132(1968))。この場合、らせん軸が電極基板面にほぼ垂直な配向状態であるプレーナ(Planar)構造やらせん構造が解消し液晶分子が電極基板に垂直配向したホメオトロピック(Homeotropic)構造での透過状態と、らせん軸がランダムながらも電極基板に比較的平行なフォーカルコニック(Focal conic)構造での散乱状態とを利用して表示を行う。電圧無印加時におけるプレーナ構造とフォーカルコニック構造間、あるいは保持電圧印加時におけるフォーカルコニック構造とホメオトロピック構造間の双安定性を利用した表示方式が提案されているものの、PDLCと同様に散乱性の低さに起因して、低反射率および低コントラストという問題がある。
【0010】
一方、コレステリック液晶材料を用いた反射型表示方式として散乱/透過モードと異なる選択反射モードと呼ばれるモードがJ. E. Adams、W. E. Hass 、 J. J. Wyscockiら(Xerox Co.)により提唱されている(例えば、Phys. Rev. Lett., 24, 577 (1970))。選択反射とは、プレーナ(Planar)構造においてそのらせん周期構造のピッチ長と液晶物質の平均屈折率の積で規定される波長を反射極大とし、らせんと同じ回転方向の円偏光成分を選択的に反射する現象である。選択反射モードでは、可視光を反射するようにらせんピッチを調整し、プレーナ(Planar)構造における選択反射状態とフォーカルコニック(Focal conic)構造における散乱状態を用いて表示を行う。しかし選択反射モードでは、選択反射領域における一方の円偏光成分のみを反射し、もう一方の円偏光成分を利用できない、さらに、反射波長領域が狭く白色化が難しいといった問題がある。
【0011】
これに対してD.-K.Yang, L.-C. Chein, J.W.Doane (Kent State Univ)らは、プレーナ構造をポリドメイン化することで、従来問題となっていた表示の単色性に関して改善を試み、マトリックス駆動の大型パネルを試作している(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、反射波長域の広域化は不十分であり、さらにまた一方の円偏光成分しか反射できないといった選択反射モードが抱える本質的な問題は解決できていない。
【0012】
また一方、積層構造によって白色化や高輝度化を狙う提案がなされている。たとえば、電極基板を介して複数の表示素子を積層する手法が提案されている(特許文献9,10参照)。しかしながら、この手法では、視差やコスト上昇の問題が不可避である。また一方、一組の電極基板間に右旋性高分子分散型コレステリック液晶層と左旋性高分子分散型コレステリック液晶層を積層する手法が提案されている(特許文献11,12参照)。ところが、この手法では、旋光方向を決定するコレステリック液晶が相互拡散してしまい、実質的に分離層を設ける必要がある。この場合、分離層での電圧降下に伴う駆動電圧上昇、さらに作製工程の増加に伴うコスト上昇が問題となる。
【特許文献1】特表昭58−501631号公報
【特許文献2】特表昭61−502128号公報
【特許文献3】特表昭63−501512号公報
【特許文献4】特開平5−273527号公報
【特許文献5】特開平4−250418号公報
【特許文献6】特開平4−318518号公報
【特許文献7】特開平5−88153号公報
【特許文献8】特開平6−11712号公報
【特許文献9】特開平3−209425号公報
【特許文献10】特開平7−2096627号公報
【特許文献11】特開平7−287214号公報
【特許文献12】特登3209254号公報
【非特許文献1】SID 95 DIGEST p.706(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、明るくてコントラストが良好で、かつ製造コストを抑えることが可能な反射型液晶表示装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、少なくとも一方が透明性を有し互いに対向配置される一対の電極基板と、前記一対の電極基板間に配置され、第1の液晶物質と、この第1の液晶物質に対して第1のらせん方位を誘起させる光学不活性の第1の高分子と、を有する第1の薄膜と、前記一対の電極基板間で前記第1の薄膜に隣接して配置され、第2の液晶物質と、この第2の液晶物質に対して前記第1のらせん方位とは異なる方位の第2のらせん方位を誘起させる光学不活性の第2の高分子と、を有する第2の薄膜と、を備え、前記第1および第2の液晶物質は、略同一組成であり、かつ可視光を反射可能ならせんピッチ長を有することを特徴とする反射型液晶表示装置を提供するものである。
【0015】
また、本発明の一態様によれば、第1の液晶物質と、この第1の液晶物質に対して第1のらせん方位を誘起させる第1の高分子と、を有する第1の薄膜を第1の電極基板上に形成する工程と、前記第1の薄膜から前記第1の液晶物質を除去する工程と、第2の液晶物質と、この第2の液晶物質に対して第2のらせん方位を誘起させる第2の高分子と、を有する第2の薄膜を第2の電極基板上に形成する工程と、前記第2の薄膜から前記第2の液晶物質を除去する工程と、前記第1および第2の薄膜を対向配置して、前記第1および第2の高分子に所定の液晶物質を保持させて、前記第1および第2の電極基板を張り合わせる工程と、を備えることを特徴とする反射型液晶表示装置の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明の一態様によれば、第1の液晶物質と、この第1の液晶物質に対して第1のらせん方位を誘起させる第1の高分子と、を有する第1の薄膜を第1の電極基板上に形成する工程と、第2の液晶物質と、この第2の液晶物質に対して第2のらせん方位を誘起させる第2の高分子と、を有する第2の薄膜を第2の電極基板上に形成する工程と、第1および第2の薄膜を対向配置して、前記第1および第2の電極基板を張り合わせる工程と、前記第1の液晶物質と前記第2の液晶物質とを混合して略同一物質とする工程と、を備えることを特徴とする反射型液晶表示装置の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、明るくてコントラストが良好で、かつ製造コストを抑えることができる反射型液晶表示装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る反射型液晶表示装置の断面構造を示す断面図である。図1の反射型液晶表示装置は、少なくとも一方が透明性を有し互いに対向配置される第1および第2の電極基板1,2と、これら電極基板間に隣接配置される第1および第2の薄膜3,4とを備えている。
【0020】
第1の薄膜3は、第1の液晶物質と、この第1の液晶物質に対して第1のらせん方位を誘起させる光学不活性の第1の高分子とを含んで形成されている。第2の高分子層12は、第2の液晶物質と、この第2の液晶物質に対して第1のらせん方位とは逆の第2のらせん方位を誘起させる光学不活性の第2の高分子とを含んで形成されている。
【0021】
第1および第2の液晶物質は、略同一組成であり、かつ可視光を反射可能ならせんピッチ長を有する。第1および第2の高分子は、らせん形成力が互いに等しい材料で形成されている。
【0022】
電圧無印加の状態では、第1の電極基板1に近い側に配置される第1の薄膜3のプレーナ構造により、入射光11のうち右(あるいは左)円偏光成分12が反射される。また、第2の電極基板2に近い側に配置される第2の高分子層12のプレーナ構造により、入射光のうち左(あるいは右)円偏光成分13が反射される。
【0023】
図2は反射型液晶表示装置の反射スペクトル図であり、横軸は入射光の波長、縦軸は反射率を示している。図2の波形aは本実施形態による反射型液晶表示装置の特性を示し、波形bは従来の反射型液晶表示装置の特性を示している。
【0024】
図2から明らかなように、本実施形態による反射型液晶表示装置によれば、従来の反射型液晶表示装置と比べて約2倍の反射率が得られる。これはすなわち、従来よりも明るい表示が可能であることを示している。
【0025】
従来よりも反射率が高くなる理由は、本実施形態は、入射光の右円偏光成分を反射する第1の薄膜3と、左円偏光成分を反射する第2の高分子層12とを有するのに対し、従来は一方の円偏光成分しか反射できず、他方の円偏光成分は透過してしまうためである。
【0026】
本実施形態では、第1および第2の電極基板1,2に電圧を印加したときに、第1および第2の薄膜3,4がともに光学的に透過状態であるホメオトロピック構造になって、反射光はほぼ観測されなくなり、コントラストも従来に比べて倍増する。
【0027】
第1および第2の液晶物質は、同一の低分子材料で形成される。これにより、これら液晶物質が第1および第2の薄膜3,4間で移動しても、表示素子の光学特性は劣化しなくなる。
【0028】
従来のように、高分子分散型液晶材料を用いる場合、高分子中にらせん方位が互いに異なる2種類のコレステリック液晶を分散させる必要があるため、第1および第2の薄膜3,4の境界に分離層を設けなければならない。
【0029】
本実施形態の場合、高分子に所定のらせん方位を誘起させるため、分離層は不要であり、分離層での電圧降下もなく、低電圧駆動が可能となる。
【0030】
また、通常のコレステリック液晶は、誘導異方性Δεが低いため、駆動電圧が高くなるが、本実施形態では、コレステリック液晶の代わりにネマチック液晶を利用できるため、Δεが高い液晶材料を使用でき、この点からも低電圧駆動が可能である。
【0031】
また、本実施形態による反射型液晶表示装置は、信頼性が高いという特徴もある。コレステリック液晶の場合、ピッチ長の温度依存性が大きく、温度によって選択反射光の波長が大きく変化するが、本実施形態では高分子によりピッチ長が規定されるため、選択反射光の波長が温度によらずほぼ一定になる。また、ネマチック液晶は、ツイストネマチック(TN)液晶表示装置等に幅広く利用されており、高純度で高い信頼性をもつ液晶材料であるため、本実施形態の液晶表示装置の信頼性も高くなる。
【0032】
また、ネマチック液晶は、一般に高価な光学活性物質を大量に含むコレステリック液晶と異なり、値段が安いため、部品コスト削減が図れる。
【0033】
図3は図1の反射型液晶表示装置の製造工程を示す図である。以下、図3に基づいて本実施形態の製造工程を順に説明する。まず、コレステリック液晶と高分子前駆体としての重合性モノマーとの混合物を第1の電極基板1と剥離基板5との間に注入し、その後、コレステリック相が形成された状態にて所望の条件で重合性モノマーを重合させる(図3(a))。重合により、所定のらせん方位を持つらせん構造を有する高分子を含む第1の薄膜3が形成される。その後、剥離基板5を剥離する(図3(b))とともに、第1の薄膜6中からコレステリック液晶を除去すると、第1の電極基板1上に右らせん構造を持つ第1の高分子を有する第1の高分子層11が形成される(図3(c))。
【0034】
同様の手順にて、第2の電極基板2と剥離基板7との間にコレステリック液晶と重合性モノマーとを注入した後に所望の条件で重合性モノマーを重合させて(図3(d))、第2の高分子を含む第2の薄膜8を形成する。その後、剥離基板7を剥離する(図3(e))とともに、高分子層8からコレステリック液晶を除去して、第2の高分子層12を形成する(図3(f))。
【0035】
続いて、第1の電極基板1上の第1の高分子層11と第2の電極基板2上の第2の高分子層12とを対向配置して両電極基板を張り合わせるとともに、これら第1および第2の高分子層11,12にネマチック液晶9を混合して第1および第2の薄膜3,4を形成する(図3(g))。第1および第2の薄膜3,4に保持されたネマチック液晶9は、周囲の高分子のらせん構造に沿って配向するため、ネマチック液晶であるにもかかわらず、コレステリック液晶相を呈する。より具体的には、第1の薄膜3中の第1の高分子により保持されたネマチック液晶は右らせん構造をとり、第2の薄膜4中の第2の高分子により保持されたネマチック液晶は左らせん構造をとる。
【0036】
これにより、選択反射波長における左右円偏光を反射することが可能となり、明るくてコントラストに優れた反射型液晶表示装置が得られる。
【0037】
本実施形態の場合、第1および第2の高分子にて保持される低分子材料は同一組成のネマチック液晶のみである。このため、第1および第2の薄膜3,4の境界に分離層を設ける必要はない。
【0038】
第1および第2の薄膜3,4は、相互拡散しないらせん構造を有する高分子で形成されている。これら高分子の構造は、コレステリック相が形成された状態にて重合性モノマーを重合させる際の条件を変えることで、任意に制御可能である。例えば、温度によりピッチ長を微調整したり、セル厚方向での温度勾配によりセル厚方向でのピッチ長を変調したり、電圧印加によりらせん軸方位を制御することも可能である。
【0039】
また、第1および第2の薄膜3,4の重合条件を変えることにより、表示特性や散乱特性を任意に制御可能である。例えば、観測者側の電極基板に散乱性の高い層を形成することで視野角特性を向上させるとともに、観測者側とは逆側の電極基板に散乱性の小さい層を形成することで、正面から見た場合の明るさも十分に確保することができる。
【0040】
予めフィルム基板上に所望の高分子層を形成しておけば、ロールツーロールプロセスも可能である。図4は図3とは異なる製造工程の一例を示す図である。図4の製造工程では、第1および第2の薄膜3,4の間にネマチック液晶を注入する代わりに、らせん構造をとる高分子とコレステリック液晶とを有する第1および第2の薄膜3,4を形成し(図4(a)〜図4(d))、その後にこれら薄膜3,4を互いに張り合わせて(図4(e))、その後に熱処理を行うことで(図4(f))、第1および第2の薄膜3,4中のコレステリック液晶を均一にして最終的にネマチック液晶を作製するものである。図4の手順で反射型液晶表示装置を製造する場合、コレステリック液晶を除去したり、ネマチック液晶を注入したりする工程が不要となって製造工程を簡略化できるが、第1および第2の薄膜3,4中のコレステリック液晶の種類により、駆動電圧、信頼性および製造コストが影響される。
【0041】
次に、多層構造について詳述する。上述した実施形態では、第1および第2の電極基板1,2間に2つの薄膜を形成する例を説明したが、3つ以上の薄膜を形成してもよい。例えば、らせんピッチ長が互いに異なる3種類の高分子を用いて、らせん方位が互いに異なる6つの薄膜を第1および第2の薄膜3,4間に形成する例について説明する。この反射型液晶表示装置は、右らせん構造を取る3種類の高分子と、左らせん構造を取る3種類の高分子と、ネマチック液晶物質とを用いて形成される。
【0042】
電圧無印加時には、青色を反射する右らせんプレーナ構造および左らせんプレーナ構造と、緑色を反射する右らせんプレーナ構造および左らせんプレーナ構造と、赤色を反射する右らせんプレーナ構造および左らせんプレーナ構造とが形成される。
【0043】
反射スペクトルを確認すると、本実施形態による反射型液晶表示装置の場合、白色化が可能となり、従来の単色性の特性が大きく改善される。電圧印加時は、6層すべてがホメオトロピック構造をとり、光学的に透過状態となる。
【0044】
なお、プレーナ構造の積層順序は、特に限定されるものではない。また、各色の層に印加する電圧を制御する構造にすれば、フルカラー反射型液晶表示装置が得られる。
【0045】
本実施形態における液晶物質は、高分子とともに電極間に保持された状態でコレステリック相を呈し、かつ可視領域の光を反射するのに有効ならせんピッチを有するものであれば、特に具体的な材料は限定されない。単一の液晶材料に限らず、2種類以上の液晶物質や液晶物質以外の物質を含む混合物でもよい。
【0046】
液晶物質の具体例としては、ネマチック液晶の他に、コレステリック液晶またはカイラルネマチック液晶(以下、コレステリック液晶と総称する)、ネマチック液晶とコレステリック液晶あるいは光学活性物質との混合物を用いることができる。液晶物質がホメオトロピック構造をとる場合に光散乱を最小に抑えることで高いコントラストの表示を実現するには、液晶物質の常光に対する屈折率が、第1および第2の電極基板1,2間に保持される高分子の屈折率に近い値をとるのが望ましい。
【0047】
液晶物質に光学活性物質を混合する場合には、らせんピッチ長pと光学活性物質の重量濃度cとの積の逆数1/pcで定義されるらせん形成力(Helical Twisting Power)と、希望選択反射波長と、電極間に保持される高分子とを考慮して、光学活性物質の含有量を設定すればよい。
【0048】
駆動電圧を低く抑える観点からは、液晶物質の誘電率異方性に対するねじれ弾性定数の比が小さい方が望ましく、反射率向上の点からは屈折率異方性(複屈折)が大きい方が望ましい。なお、
上述したように、本実施形態の液晶物質は可視光を反射可能ならせんピッチ長を持つ。ここで、可視光とは、その波長が400−760nmである光を指す。液晶物質には、選択反射の色調を調整する目的で2色性色素などを混合してもよい。ただし、その場合、理想的には選択反射波長領域以外の吸収特性を示す材料が適している。
【0049】
第1および第2の電極基板1,2のうち、少なくとも観測者側の電極基板は、透明性を有する限り、特に材料は問わない。この種の透明電極としては、例えばITO(Indium-Tin-Oxide)の薄膜を用いることができる。他方の電極基板は必ずしも透明でなくてもよく、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金などの各種電極材料を用いることができる。また、基板上への電極形成は蒸着、スパッタリング、フォトリソグラフィなど通常の方法で行える。
【0050】
第1および第2の電極基板1,2の基板材料としては、十分な強度と絶縁性を有し、少なくとも観測者側の基板が透明性を持っていればよく、例えばガラス、プラスチック、セラミックなどを用いることができる。
【0051】
第1および第2の電極基板1,2の表面には、絶縁性薄膜を形成するのが望ましい。絶縁性薄膜の材料としては、液晶材料に対する反応性や溶解性を持たず、電気的に絶縁性であれば材質的に特に限定されるものではない。絶縁性薄膜の具体例として、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、環化ゴム、ノボラック樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ビスフェノール樹脂またはゼラチンなどの有機物、また、酸化シリコン、窒化シリコンなどの無機物が挙げられる。
【0052】
配向膜の形成方法としては、スピンコートによる塗布、水面上に形成された単分子膜を電極基板上に写し取って積層して薄膜を形成させるラングミュア・ブロジェット法、蒸着法などの公知のものを挙げることができ、各材料に適した方法を選択すればよい。薄膜の厚さは、液晶層への電圧印加を十分行うことができれば特に限定されるものではないが、低電圧駆動の観点から絶縁性を損ねない範囲において薄い方が望ましい。絶縁性薄膜に対する配向処理は、ラビング処理などにより適宜行ってもよい。例えば、2つの薄膜を張り合わせて用いる場合、張り合わせ面の液晶配向が略同一方向となるようにするために行う。
【0053】
第1および第2の電極基板1,2間の距離をより正確に制御するためにスペーサーが用いられる。スペーサーは、通常用いられるような球状のものを基板面に散布してもよいし、第1および第2の電極基板1,2を封着する際にスペーサ同士が近接する危険が少なく、面内に均一に分散させることが可能な柱状体を基板上に一定間隔で形成させてもよい。
【0054】
特に、2層構造の液晶層を作製する場合に柱状体スペーサーを利用することで、第1および第2の電極基板1,2間の距離をより精密に制御することが可能である。第1および第2の電極基板1,2に散布するスペーサー材料としては、絶縁性でかつ使用する液晶分子と反応あるいは溶解せず、基板上に安定に分散されるならば材質的に特に限定されるものではなく、公知としてジビニルベンゼン、ポリスチレンなどの高分子、あるいはアルミナ、シリカなどの無機酸化物などを用いることができる。スペーサーの粒径分布は狭いことが望ましい。
【0055】
柱状体を電極基板上に一定間隔で形成させる方法としては、フォトリソグラフィで用いられる通常の方法で可能である。スペーサの材料としては、液晶材料に対する反応性や溶解性を持たず、電気的に絶縁性のポジ型またはネガ型の感光性樹脂などを用いることができる。例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、環化ゴム、ノボラック樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ビスフェノール樹脂またはゼラチンを感光性樹脂化したものを挙げることができるが、一般的にはネガ型の感光性ポリイミドが好ましい。
【0056】
なお、本実施形態における電極基板間の距離は、特に限定されるものではないが、反射率が低下しない範囲内でできるだけ小さい方が好ましい。これは、低電圧駆動、およびより高速な応答を実現するためである。
【0057】
第1および第2の電極基板1,2間に保持される高分子は、液晶物質にらせん構造を誘起させることができれば特に材質的に限定されないが、光学不活性な高分子であることを特徴とする。好ましくは、該高分子の前駆体が、液晶性モノマーや液晶性オリゴマー、または液晶性を示なくとも液晶材料と相互作用するメソゲン基を分子内に有し可視光に対して透明な材料であることが望ましい。前駆体の重合には熱あるいは光を用いればよいが、重合時の温度制御によりピッチ長、すなわち反射波長を選択できるという点からは光硬化性の方がより好ましい。
【0058】
重合性基としては、特に限定されるものではないが、代表的なものとしてアクリル基を挙げることができる。メソゲン基としては、特に限定されるものではなく、例えばフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルシクロヘキシル基、ビフェニルシクロヘキシル基、アゾベンゼン基、アゾキシベンゼン基、ベンジリデンアニリン基、スチルベン基、トラン基を挙げることができる。高分子前駆体の候補としては、4、4’−ビスアクリロイルビフェニル、4−アクリロイルビフェニル、4−アクリロイル−4’−シアノビフェニル、4−シクロヘキシルフェニルアクリレイトなどを挙げることができる。
【0059】
液晶物質と高分子の混合比については、高分子がらせん構造をとる範囲で、できるだけ光利用効率が高くなるように決定すればよい。
【0060】
本実施形態における重合を速やかに行うために重合開始剤を用いてもよい。光重合開始剤としては、選択するモノマーやオリゴマーに適するものであればよく、例えば市販され容易に入手できるものとして、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロバン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モンフォリノプロパン−1−オンなどを候補として挙げることができる。
【0061】
光重合開始剤の添加量は液晶の保持率を高く維持する観点から、好ましくはモノマー類、オリゴマー類に対し5重量%以下の範囲で添加される。また、重合性モノマーあるいはオリゴマーは必要に応じて架橋剤、界面活性剤、重合促進剤、連鎖移動剤、光増感剤などの改質剤を含んでもよい。
【0062】
本実施形態の製造方法では、図3および図4に示すように、剥離基板5を利用することができる。剥離基板5,7としては、基板自身が良剥離性のもののみならず、ガラス基板などに両剥離性の薄膜を被覆したものを用いることができる。良剥離性の基板あるいは薄膜の材料としては、テフロン(登録商標)などのフッ素系高分子やトリアセルセルロースなどのセルロース誘導体を挙げることができる。
【0063】
液晶物質と高分子からなる薄膜を電極基板上に形成する方法としては、液晶物質と重合性モノマーとの混合物を熱あるいは光により重合させる、あるいは液晶物質と高分子の混合物を適当な溶媒に溶解した後に溶媒を蒸発させる、といった方法をとることができる。
【0064】
図3の変形例として、第1および第2の薄膜3,4を形成した後、高分子への影響が軽微な有機溶剤などを用いて液晶物質を除去し、その後に第1および第2の薄膜3,4同士を対向配置させて第1および第2の電極基板1,2を封着してもよい。この場合、新たな液晶物質を電極間に保持させる方法として、電極基板封着後に真空注入などの公知の方法で注入してもよいし、電極基板を張り合わせる際に同時に新たな液晶を滴下注入させてもよい。このいずれの場合においても薄膜の厚さをより厳密に制御するためにスペーサを用いることができる。
【0065】
また、白色化を実現するために、第1および第2の薄膜3,4内で膜厚方向にピッチ長を変化させる場合には、電極基板に対して垂直方向に温度勾配を形成させた状態で重合性モノマーを重合させてもよい。
【0066】
カラー表示は、並置あるいは積層構造を用いることで可能である。並置構造の作製は、重合性モノマーの重合時にマイクロヒーターなどを用いた画素毎の温度制御により、RGBに対応したピッチ長画素領域を形成すればよい。またインクジェット塗布方式で各色毎に液晶物質と重合性モノマーの混合液を塗布した後、重合するプロセスを繰り返してもよい。RGBに対応したピッチ長制御は、重合時の温度制御で可能である。
【0067】
積層構造の作製は、2枚の剥離基板5間に薄膜を形成させた後に、順次、第1の電極基板1上に積層して、最後に第2の電極基板2と封着させてもよいし、第1の電極基板1上で塗布、重合化を繰り返して最後に第2の電極基板2と封着させてもよい。第1および第2の電極基板1,2の各々に薄膜を積層した上で最後に封着してもよい。また、素子を単純に積層させる方法でも構わない。その場合には、視差を抑制するために薄い基板を用いることが好ましい。
【0068】
このように、本実施形態では、第1および第2の電極基板1,2間に、互いにらせん方位の異なる第1および第2の薄膜3,4を隣接配置するため、入射光の右円偏光成分と左円偏光成分をともに反射させることができ、反射強度が高くなることから、従来よりも明るい表示が可能となる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例1〜5を順に説明する。
【0070】
(実施例1)
ITO(Indium-Tin-Oxide)電極付ガラス基板の電極面に、スピナーを用いて、配向膜としてポリイミド(AL-1051:日本合成ゴム(株))を70nmの厚さで形成(キャスト)した。
【0071】
次に、別のガラス基板に良剥離性樹脂をスピンコートで100nmの厚さで形成(キャスト)して剥離基板5とした。良剥離性樹脂は、常法にしたがってラビングによる配向処理を施した。常法により剥離基板5表面に張り合わせのためのエポキシ接着剤を所定の位置に付与し、ITO電極付ガラス基板に直径3μmの樹脂製スペーサボールを散布した。
【0072】
その後、剥離基板5とITO電極付ガラス基板を張り合わせて封着した。このとき、両基板間に、ネマチック液晶E48(MERCK社)68wt%と、光学活性物質S811(MERCK社)27wt%と、重合性モノマー4、4’−ビスアクリロイルビフェニル5wt%と、この重合性モノマーに対して0.5wt%添加された重合開始剤ダロキュア1173(MERCK社)とを混合した混合物を常法により注入した後に、液晶物質がプレーナ構造をとった状態で高圧水銀ランプを用いて紫外光照射を行った。
【0073】
次に、剥離基板5をITO電極付ガラス基板から剥離し、その後エタノール/IPA混合溶媒でネマチック液晶E48(MERCK社)と光学活性物質S811(MERCK社)を除去することで、電極基板上にらせん構造を有する高分子からなる薄膜(第1または第2の高分子層12)を作製した。
【0074】
一方、別のITO電極付ガラス基板と剥離基板5からなるセルに、ネマチック液晶E48(MERCK社)68wt%と、光学活性物質R811(MERCK社)27wt%と、重合性モノマー4、4’−ビスアクリロイルビフェニル5wt%と、この重合性モノマーに対して0.5wt%添加添加された重合開始剤ダロキュア1173(MERCK社)とを混合した混合物を注入した後、先と同じ要領で重合し、剥離基板5を剥離して、液晶物質と光学活性物質を除去する。これにより、電極基板上にらせん構造を有する高分子からなる薄膜(第2または第1の高分子層11)を作製した。
【0075】
最後に、これら薄膜同士が向き合うように、かつ良剥離性樹脂のラビング方向が略並行となるように2つのITO電極付ガラス基板を張り合わせつつ、ネマチック液晶E48(MERCK社)を滴下注入して液晶表示装置を作製した。
【0076】
作製した液晶表示装置の表示状態は、電圧オフ(0V)で選択反射状態の橙色(反射極大波長620nm)、反射率は110%であった。電圧オン(矩形波、Vp=15V、60Hz)では透過状態となり、電圧オフとのコントラストは55であった。
【0077】
なお、表示特性は、表示素子のガラス基板面の法線から10−20度方向より白色光を入射し、基板法線方向における反射光の輝度(Y値)測定および反射スペクトル測定により評価した。反射率100%は完全拡散板をサンプルに用いた場合の輝度を基準にした。本評価方法は、以下の実施例でも同様である。
【0078】
(実施例2)
ITO電極付ガラス基板の電極面に、スピナーを用いて、配向膜としてポリイミド(AL-1051:日本合成ゴム(株))を70nmの厚さで形成(キャスト)した。
【0079】
次に、良剥離性樹脂を別のガラス基板にスピンコートで100nmの厚さで形成(キャスト)して剥離基板5とした。良剥離性樹脂は、常法にしたがってラビングによる配向処理を施した。常法により剥離基板5表面に張り合わせのためのエポキシ接着剤を所定の位置に付与し、ITO電極付ガラス基板に直径3μmの樹脂製スペーサボールを散布した。
【0080】
その後、剥離基板5とITO電極付ガラス基板を張り合わせて封着した。このとき、両基板間に、ネマチック液晶E48(MERCK社)57wt%と、光学活性物質CB15(MERCK社)38wt%と、重合性モノマー4、4’−ビスアクリロイルビフェニル5wt%と、この重合性モノマーに対して0.5wt%添加された重合開始剤ダロキュア1173(MERCK社)とを混合した混合物を常法により注入した後に、液晶物質がプレーナ構造をとった状態で高圧水銀ランプを用いて紫外光照射を行った。
【0081】
次に、剥離基板5をITO電極付ガラス基板から剥離し、その後エタノール/IPA混合溶媒でネマチック液晶E48(MERCK社)と光学活性物質CB15(MERCK社)を除去することで、電極基板上にらせん構造を有する高分子からなる薄膜(第1または第2の高分子層12)を作製した。
【0082】
一方、別のITO電極付ガラス基板と剥離基板5からなるセルに、ネマチック液晶E48(MERCK社)50wt%と、光学活性物質CB15(MERCK社)45wt%と、重合性モノマー4、4’−ビスアクリロイルビフェニル5wt%と、この重合性モノマーに対して0.5wt%添加された重合開始剤ダロキュア1173(MERCK社)とを混合した混合物を注入後、先と同じ要領で重合、剥離基板5を剥離、液晶物質と光学活性物質除去することで、電極基板上にらせん構造を有する高分子からなる薄膜(第2または第1の高分子層11)を作製した。
【0083】
最後に、薄膜同士が向き合うように、かつ良剥離性樹脂のラビング方向が略並行となるように2つのITO電極付ガラス基板を張り合わせつつ、ネマチック液晶E48(MERCK社)を滴下注入することで液晶表示装置を作製した。
【0084】
作製した素子の表示状態は、電圧オフ(0V)で選択反射状態のほぼ白色(反射極大波長480nmと570nm)、反射率は100%であった。電圧オン(矩形波、Vp=17V、60Hz)では透過状態となり、電圧オフとのコントラストは50であった。
【0085】
(実施例3)
ITO電極付ガラス基板の電極面に配向膜としてポリイミド(AL-1051:日本合成ゴム(株))を70nmの厚さにスピナーによりキャストした。
【0086】
次に、良剥離性樹脂を別のガラス基板にスピンコートで100nmの厚さで形成(キャスト)して剥離基板5とした。良剥離性樹脂は、常法にしたがってラビングによる配向処理を施した。常法により剥離基板5表面に張り合わせのためのエポキシ接着剤を所定の位置に付与し、一方のITO電極付ガラス基板に直径3μmの樹脂製スペーサボールを散布した。
【0087】
その後、剥離基板5とITO電極付ガラス基板を張り合わせて封着した。このとき、両基板間に、ネマチック液晶ZLI4900−000(MERCK社)60wt%と、光学活性物質S1011(MERCK社)35wt%と、重合性モノマー4−シクロヘキシルフェニルアクリレイト5wt%と、この重合性モノマーに0.5wt%添加された重合開始剤ダロキュア1173(MERCK社)とを混合した混合物を常法により注入した後に、液晶物質がプレーナ構造をとった状態で高圧水銀ランプを用いて紫外光照射を行った。
【0088】
次に、剥離基板5をITO電極付ガラス基板から剥離し、その後エタノール/IPA混合溶媒でネマチック液晶E48(MERCK社)と光学活性物質S811(MERCK社)を除去することで、電極基板上にらせん構造を有する高分子からなる薄膜を作製した。
【0089】
一方、別のITO電極付ガラス基板と剥離基板5からなるセルに、ネマチック液晶ZLI4900−000(MERCK社)60wt%と、光学活性物質R1011(MERCK社)35wt%と、重合性モノマー4−シクロヘキシルフェニルアクリレイト5wt%と、この重合モノマーに対して0.5wt%添加された重合開始剤イルガキュア907(チバガイギー社)とを混合した混合物を注入した後、先と同じ要領で重合、剥離基板5を剥離、液晶物質と光学活性物質除去することで、電極基板上にらせん構造を有する高分子からなる薄膜を作製した。
【0090】
最後に、薄膜同士が向き合うように、かつ良剥離性樹脂のラビング方向が略並行となるように2つのITO電極付ガラス基板を張り合わせつつ、ネマチック液晶ZLI4900−000(MERCK社)を滴下注入することで液晶表示装置を作製した。
【0091】
作製した素子の表示状態は、電圧オフ(0V)で選択反射状態の橙色(反射極大波長580nm)、反射率は120%であった。電圧オン(矩形波、Vp=18V、60Hz)では透過状態となり、電圧オフとのコントラストは60であった。
【0092】
(実施例4)
ITO電極付ガラス基板の電極面に、スピナーを用いて、配向膜としてポリイミド(AL-1051:日本合成ゴム(株))を70nmの厚さで形成(キャスト)した。
【0093】
次に、良剥離性樹脂を別のガラス基板にスピンコートで100nmの厚さで形成(キャスト)して剥離基板5とした。良剥離性樹脂は、常法にしたがってラビングによる配向処理を施した。常法により剥離基板5表面に張り合わせのためのエポキシ接着剤を所定の位置に付与し、一方のITO電極付ガラス基板に直径3μmの樹脂製スペーサボールを散布した。
【0094】
その後、剥離基板5とITO電極付ガラス基板を張り合わせて封着した。このとき、両基板間に、ネマチック液晶E48(MERCK社)68wt%と、光学活性物質S811(MERCK社)27wt%と、重合性モノマー4、4’−ビスアクリロイルビフェニル5wt%と、この重合性モノマーに対して0.5wt%添加された重合開始剤ダロキュア1173(MERCK社)とを混合した混合物を常法により注入した後に、液晶物質がプレーナ構造をとった状態で高圧水銀ランプを用いて紫外光照射を行った。
【0095】
次に剥離基板5をITO電極付ガラス基板から剥離した。別のITO電極付ガラス基板と剥離基板5からなるセルに、ネマチック液晶E48(MERCK社)68wt%と、光学活性物質R811(MERCK社)27wt%と、重合性モノマー4、4’−ビスアクリロイルビフェニル5wt%と、この重合性モノマーに0.5wt%添加された重合開始剤ダロキュア1173(MERCK社)とを混合した混合物を注入した後、先と同じ要領で重合、剥離基板5を剥離した。
【0096】
最後に、液晶と光学活性物質を含有する高分子同士が向き合うように、かつ良剥離性樹脂のラビング方向が略並行となるように2つのITO電極付ガラス基板を張り合わせた後、アニールしてセル内の液晶材料および光学活性物質を均一状態として液晶表示装置を作製した。
【0097】
作製した素子の表示状態は、電圧オフ(0V)で選択反射状態の橙色(反射極大波長620nm)、反射率は110%であった。電圧オン(矩形波、Vp=25V、60Hz)では透過状態となり、電圧オフとのコントラストは55であった。実施例1と異なり、誘電異方性がE48に対して小さいS811およびR811が残存するために駆動電圧が高くなっていた。しかしながら、液晶物質を素子内で均一化してネマチック液晶となっても、高分子のらせん構造に誘起されたコレステリック相による選択反射状態が確認された。
【0098】
(実施例5)
実施例1の要領で、ネマチック液晶E48(MERCK社)と光学活性物質S811(MERCK社)の混合比を制御して反射極大波長が450nm、550nm、650nmの3つの素子を作製し、それを積層することで液晶表示装置を作製した。
【0099】
作製した素子の表示状態は、電圧オフ(0V)で選択反射状態の白色(反射極大波長450nm、550nm、650nm)、反射率は180%であった。各素子をすべて電圧オン(矩形波、Vp=16V、60Hz)では透過状態となり、電圧オフとのコントラストは85であった。また、各素子の電圧を制御することで各色の中間調を実現でき、フルカラー化が可能であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一実施形態に係る反射型液晶表示装置の断面構造を示す断面図。
【図2】反射型液晶表示装置の反射スペクトル図。
【図3】図1の反射型液晶表示装置の製造工程を示す図。
【図4】図3とは異なる製造工程の一例を示す図。
【符号の説明】
【0101】
1 第1の電極基板
2 第2の電極基板
3 第1の薄膜
4 第2の薄膜
5,7 剥離基板
6,8 高分子層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明性を有し互いに対向配置される一対の電極基板と、
前記一対の電極基板間に配置され、第1の液晶物質と、この第1の液晶物質に対して第1のらせん方位を誘起させる光学不活性の第1の高分子と、を有する第1の薄膜と、
前記一対の電極基板間で前記第1の薄膜に隣接して配置され、第2の液晶物質と、この第2の液晶物質に対して前記第1のらせん方位とは異なる方位の第2のらせん方位を誘起させる光学不活性の第2の高分子と、を有する第2の薄膜と、を備え、
前記第1および第2の液晶物質は、略同一組成であり、かつ可視光を反射可能ならせんピッチ長を有することを特徴とする反射型液晶表示装置。
【請求項2】
前記第1および第2の薄膜は、コレステリック相を呈することを特徴とする請求項1に記載の反射型液晶表示装置。
【請求項3】
前記第1および第2の液晶物質は、ネマチック液晶であることを特徴とする請求項1または2に記載の反射型液晶表示装置。
【請求項4】
前記第1および第2の液晶物質は、コレステリック液晶またはカイラルネマチック液晶であることを特徴とする請求項1または2に記載の反射型液晶表示装置。
【請求項5】
前記第1および第2の高分子の前駆体は、液晶性モノマーまたは液晶性オリゴマーであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の反射型液晶表示装置。
【請求項6】
前記第1および第2の高分子の前駆体は、その分子内にメソゲン基を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の反射型液晶表示装置。
【請求項7】
第1の液晶物質と、この第1の液晶物質に対して第1のらせん方位を誘起させる第1の高分子と、を有する第1の薄膜を第1の電極基板上に形成する工程と、
前記第1の薄膜から前記第1の液晶物質を除去する工程と、
第2の液晶物質と、この第2の液晶物質に対して第2のらせん方位を誘起させる第2の高分子と、を有する第2の薄膜を第2の電極基板上に形成する工程と、
前記第2の薄膜から前記第2の液晶物質を除去する工程と、
前記第1および第2の薄膜を対向配置して、前記第1および第2の高分子に所定の液晶物質を保持させて、前記第1および第2の電極基板を張り合わせる工程と、を備えることを特徴とする反射型液晶表示装置の製造方法。
【請求項8】
第1の液晶物質と、この第1の液晶物質に対して第1のらせん方位を誘起させる第1の高分子と、を有する第1の薄膜を第1の電極基板上に形成する工程と、
第2の液晶物質と、この第2の液晶物質に対して第2のらせん方位を誘起させる第2の高分子と、を有する第2の薄膜を第2の電極基板上に形成する工程と、
第1および第2の薄膜を対向配置して、前記第1および第2の電極基板を張り合わせる工程と、
前記第1の液晶物質と前記第2の液晶物質とを混合して略同一物質とする工程と、を備えることを特徴とする反射型液晶表示装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1および第2の電極基板の各対向面の液晶配向が同一方向になるように前記第1および第2の電極基板を張り合わせることを特徴とする請求項7または8に記載の反射型液晶表示装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1および第2の薄膜は、膜厚方向におけるらせん構造のピッチ長が互いに異なることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の反射型液晶表示装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1および第2の薄膜は、互いに異なるらせん軸の方位分布を持ち、方位分布の大きい薄膜は、観測者に近い側に配置されることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の反射型液晶表示装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1および第2の電極基板間の高分子のらせん構造のピッチ長が前記第1および第2の電極基板の面方向に沿って相違することを特徴とする請求項7乃至11のいずれかに記載の反射型液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−276599(P2006−276599A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97285(P2005−97285)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】