反射部材及びこの反射部材を用いた照明器具
【課題】銀を含む反射面を有する反射部材において、可視光の反射率を低下させることなく、長期間に亘って銀の変色を抑制する。
【解決手段】反射部材1は、基材11と、基材11上に又は基材11上に形成されるアンダーコート層12を介して設けられ、銀を含み、入射する光を反射する反射面13を有する反射層14と、光を干渉させて吸収する光吸収ピーク波長を波長250〜420nmの範囲に有し、基材11若しくはアンダーコート層12と反射層14との間に、又は反射層14の反射面13に積層される光遮断層15と、を備える。この構成によれば、光遮断層15によって、波長250〜420nmの範囲の光を吸収させることにより、可視光の反射率を低下させることなく、反射層14に含まれる銀の変色を長期間に亘って抑制することができる。
【解決手段】反射部材1は、基材11と、基材11上に又は基材11上に形成されるアンダーコート層12を介して設けられ、銀を含み、入射する光を反射する反射面13を有する反射層14と、光を干渉させて吸収する光吸収ピーク波長を波長250〜420nmの範囲に有し、基材11若しくはアンダーコート層12と反射層14との間に、又は反射層14の反射面13に積層される光遮断層15と、を備える。この構成によれば、光遮断層15によって、波長250〜420nmの範囲の光を吸収させることにより、可視光の反射率を低下させることなく、反射層14に含まれる銀の変色を長期間に亘って抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀を含み、入射する光を反射する反射面を有する反射部材及びこの反射部材を用いた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、照明器具の光源からの光を反射する反射部材の反射層には、光反射性に優れる銀が用いられている。特に、ダウンライトのような、奥行きのある椀形状の反射部材に、反射率の高い銀を用いることにより、反射部材内で光が繰り返し反射され、光利用効率を向上させることができる。しかし、銀は化学的に不安定で、変色し易い性質がある。反射部材における銀の変色は、反射部材の外観を悪くするだけでなく、反射率を低下させ、光利用効率を低下させる原因となる。
【0003】
銀の変色原因として、光(特に紫外線)、熱、及び大気中の水分、亜硫酸ガス、硫化水素、アンモニア等のガスが挙げられる。一般に、これらの変色原因が相互的に作用し、反射部材表面の銀原子が、硫化物イオンや塩化物イオン等と反応し、硫化銀や塩化銀等の化合物へ変化することにより、銀が褐色や黒色に変色すると考えられている。
【0004】
また、銀の変色原因の一つとして、銀の薄膜には、波長325nm付近の紫外線領域に、光を透過する透過率の「窓」が存在することが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。上記特許文献1には、透過率の「窓」を透過した紫外線が、銀と接する樹脂製のアンダーコート層を劣化させ、二酸化炭素ガスの「小気泡」が発生し、この「小気泡」が銀を変色させることが記載されている。
【0005】
そこで、上記特許文献1に記載の反射部材においては、有機系紫外線吸収剤を含有するポリマー層を形成することにより、反射層に入射する紫外線を遮蔽し、上記透過率の「窓」への紫外線の入射を防止して、銀の変色を抑制している。また、紫外線吸収剤として使用されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、銀とキレートを作り、黄色く発色することが知られている。そのため、反射層上にメルカプタンを含有する第1ポリマー層を形成し、その上に紫外線吸収剤を含有する第2ポリマー層を形成することにより、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が直接的に銀反射層と反応しないようにしている。
【0006】
更に、有機系紫外線吸収剤の代わりに紫外線吸収性の固形物を含有するトップコート層で反射層を覆うことにより、紫外線が反射層へ入射することを防ぎ、銀の変色を抑制した反射部材が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭61−154942号公報
【特許文献2】特開平7−108643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、ポリマー内を拡散すると共に、銀とキレートを作り、黄色く発色することが知られている。そのため、上記特許文献1に記載された反射部材が長期間使用されると、第1ポリマー層に含まれるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、第2ポリマー層にも浸透し、反射層に達して、銀を変色させる虞がある。しかも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の多くは、上記透過率の「窓」に相当する波長320nm付近の光吸収ピークが減少しているため、波長320nm付近の紫外線を十分に遮蔽できない。
【0008】
また、特許文献2に記載された紫外線吸収性の固形物は、粒子状の物質であるため、トップコート層へ添加することによって、可視光の散乱が発生し、トップコート層の透過率を低下させると共に、反射部材としての反射率を低下させる虞がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであって、可視光の反射率を低下させることなく、銀の変色を長期間に亘って抑制することができる反射部材及びこの反射部材を用いた照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る反射部材は、基材と、前記基材上に又は前記基材上に形成されるアンダーコート層を介して設けられ、銀を含み、入射する光を反射する反射面を有する反射層と、光を干渉させて吸収する光吸収ピークを波長250〜420nmの範囲に有し、前記基材若しくは前記アンダーコート層と前記反射層との間に、又は前記反射層の反射面に積層される光遮断層と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る反射部材において、前記光遮断層は、波長320nm付近の紫外線の透過率が20%以下であることが望ましい。
【0012】
好ましくは、前記光遮断層は、光学多層膜として形成される。
【0013】
また、本発明に係る照明器具は、上記反射部材を用いたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る反射部材によれば、光遮断層において、波長250〜420nmの範囲の光が吸収されるので、可視光の反射率を低下させることなく、反射層に含まれる銀の変色を長期間に亘って抑制することができ、この反射部材を用いることにより、光利用効率の良い照明器具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る反射部材を用いた照明器具の側面図、(b)は同上面図。
【図2】同反射部材の部分側断面図。
【図3】同反射部材における光遮断層の構成例(1)を示す図。
【図4】同反射部材における光遮断層の構成例(2)を示す図。
【図5】上記光遮断層の構成例(1)における全光透過率を示す図。
【図6】上記光遮断層の構成例(2)における全光透過率を示す図。
【図7】本実施形態で用いる光源から出射される放射照度と波長分布との関係を示す図。
【図8】図5に示す光遮断層を用いた反射部材を適用した際の光源から出射される放射照度と波長分布との関係を示す図。
【図9】反射部材における銀の膜厚と全光透過率との関係を示す図。
【図10】(a)〜(c)は、銀の変色メカニズムを説明する側断面図。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る反射部材の部分側断面図。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る反射部材の部分側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の実施形態に係る反射部材及びこの反射部材を用いた照明器具について、図1乃至図10を参照して説明する。本実施形態の反射部材1を用いた照明器具2は、一般的な施設、店舗、住宅等に用いられる照明器具であり、ここでは、図1(a)(b)に示すように、天井埋込式のスポットライトを示す。照明器具2は、光源3と、この光源3からの光を反射するための反射部材1と、を備える。反射部材1は、光源3を取り付けるためのソケット4が設けられるソケット部1aから中央部1b及び光出射方向の開口部1cへ広がった碗形状に形成される。ソケット部1aは、照明器具2の本体部5に接続され、開口部1cには、照明器具2を天井裏へ係止するための板バネ6が取り付けられる。本体部5には、光源3に適合する適宜の安定器7等が設けられる。
【0017】
反射部材1は、図2に示すように、基材11と、この基材11上に形成されるアンダーコート層12と、銀を含み、入射する光を反射する反射面13を有する反射層14と、光を干渉させて吸収する光吸収ピーク波長を波長250〜420nmの範囲に有する光遮断層15と、を備える。
【0018】
基材11は、光源3から発生する熱に耐え得る材料から構成されたものであれば、特に限定されるものではない。また、基材11の形状は、上記の碗形状に限らず、照明器具2の仕様等に応じて、光源3からの光を効率良く反射し、所望の配光を実現できるように形成されたものであればよい。
【0019】
基材11は、樹脂材料により形成される場合、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネート(PC)、液晶ポリマー(LCP)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)等が用いられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、バルクモールディングコンパウンド(BMC)用材料として汎用される不飽和ポリエステル(UP)等が用いられる。これらの樹脂材料には、いずれも光反射性能、耐熱性、強度、耐光性等を向上させるため、無機充填剤等の各種添加剤が添加されてもよい。基材11の成形方法は、材質や器具形状により、例えば、射出成形、圧縮成形、真空成形、圧空成形等の公知の方法が選択的に用いられる。
【0020】
基材11が、金属材料により形成される場合、例えば、アルミ(Al)基合金、マグネシウム(Mg)基合金、鉄(Fe)基合金、亜鉛(Zn)合金等が用いられる。成形方法としては、スピニング加工、プレス加工、ダイキャスト、チクソモールディング等が、材料と要求される反射部材1の形状等を考慮して選択的に用いられる。また、ガラスを基材11として用いる場合、プレス加工やブロー加工等が用いられる。基材11の表面は、滑らかで、清浄な面とされることが望ましく、成形時に付着した離型剤やガスマーク、滑剤、オイル等は物理的又は化学的手段によって除去される。
【0021】
アンダーコート層12は、基材11と反射層14との密着性を向上させ、基材11の平滑性を向上させるために形成される。そのため、基材11が樹脂材料から成り、反射層14との密着性や平滑性が十分に確保されていれば、必ずしも形成されていなくてもよい。このアンダーコート層12は、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の樹脂材料から成る塗膜から形成される。成膜方法は、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート等の公知の方法が選択的に用いられる。また、硬化方法には、熱、紫外線、電子線等の公知の手段が用いられる。なお、アンダーコート層12の膜厚は、特に限定されないが、例えば、5〜30nmが望ましい。アンダーコート層12の膜厚が30nm以上になると、予め光照射方向を考慮して設計された基材11の形状に影響する虞があるので好ましくない。
【0022】
反射層14は、銀又は銀を主成分とする合金を20〜1000nmの膜厚で形成したものである。形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD法が用いられ、また、銀鎖反応のような化学的析出法でもよい。銀又は銀を主成分とする合金は、反射層14の反射面13側に20nm以上の膜厚で積層されていればよい。反射層14の基材11側の成分には、反射層14の耐熱性や密着性を高めるため、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル等の、銀以外金属が含まれていてもよい。
【0023】
光遮断層15は、複数の無機物を、所定膜厚で、複数層積層した光学多層膜15a,15bから成る。光遮断層15は、積層される材料の種類、膜厚、層数を制御することによって、各層で反射される光を互いに干渉させて、光を吸収するものであり、所望の光吸収ピーク(所望の波長における光透過率のアンダーピーク)が設定される。本実施形態においては、その光吸収ピークが波長250〜400nmの範囲となるよう形成される。
【0024】
形成材料の無機物としては、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ハフニウム(HfO)等が用いられる。光遮断層15の形成方法には、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD法等が用いられる。なお、光遮断層15として、上記と同様の効果を有するものであれば、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化セレン(CeO)、酸化チタン(Ti02)等、波長250〜400nmに吸光特性を有する材料そのものを単一層として形成してもよい。
【0025】
図2には、酸化チタン(TiO2)と酸化ケイ素(SiO2)とを11層、積層させた光遮断層15の光学多層膜の構成例(1)を示す。図3は、この構成例(1)における各層の膜厚を示す。また、図4は、酸化ジルコニウム(SiO2)と酸化ケイ素(SiO2)とを11層、積層させた光遮断層15の光学多層膜の構成例(2)における各層の膜厚を示す。
【0026】
図5は、図3に示した光遮断層15の多層膜の構成例(1)における光透過特性を示す。この構成によれば、波長250〜420nmの光透過率が低い、すなわち波長250〜420nmの範囲の光を吸収する光吸収ピーク波長が得られる。特に、波長300〜400nmの範囲の光透過率が30%以下となり、しかも波長320nm付近の紫外線の透過率が20%以下となる。また、図6は、図4に示した光遮断層15の多層膜の構成例(2)における光透過特性を示す。この構成においても、波長250〜420nmの範囲の光を吸収する光吸収ピーク波長が得られ、波長300〜400nmの範囲の光透過率が30%以下となり、波長320nm付近の紫外線の透過率が20%以下となる。
【0027】
照明器具2の光源3には、汎用の蛍光ランプが用いられる。図7は、本実施形態で用いた光源3の照射光の波長分布の例を示す。同図から、光源3の照射光は、可視光領域に強いピーク波長を有するだけでなく、紫外領域にもピーク波長を有していることが認められる。図8は、図3に示した光遮断層15の備えた反射部材1を用いた照明器具2における、照射光の波長分布の例を示す。図8では、図7に比べて、波長420nm以下の波長成分のピークが小さくなっていることが確認される。すなわち、光遮断層15が波長250〜420nmの光を吸収したことにより、照明器具2における照射光に含まれる紫外線が低減される。
【0028】
ここで、銀を含む反射層14を用いた照明器具2において、銀が変色するメカニズム等について、図9及び図10を参照して説明する。
【0029】
図9は、石英から成る基材上に純度99.99%の純銀を、マグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した際の膜厚の違いによる光の透過率の変化を示す。同図から、銀膜の膜厚が薄くなると、波長250nm〜420nmの範囲の紫外線の透過率が高くなる、いわゆる透過率の「窓」が存在することが確認される。この透過率の「窓」は、波長320nm付近の紫外線領域をピークとし、膜厚が170nmである例において確認され、膜厚が薄くなるほど、波長域及び透過率共に拡大する。膜厚が65nmである例においては、波長320nmをピークとする光の透過率は27%に達する。この場合、光源から出射された紫外線のうち、波長320nm付近の紫外線の約3割は、銀膜によって反射又は吸収されることなく、銀膜(本実施形態の反射層14)の下に形成された層(本実施形態のアンダーコート層12)の表面まで達することになる。
【0030】
反射層14を透過して、アンダーコート層12の表面に達した紫外線は、図10(a)に示すように、アンダーコート層12の樹脂を劣化させ、ヒドロキシラジカル(・OH)やパーオキシラジカル(・OR)を発生させる。そして、発生した・OHや・ORは、図10(b)に示すように、アンダーコート層12と接する反射層14の銀原子(Ag)を酸化し、銀イオン(Ag+)を生成する(図例では・OHのみ示す)。生成されたAg+は、アンダーコート層の層中に拡散し、また、・OHはOH−となってアンダーコート層12の層中に拡散する。そして、図10(c)に示すように、これらAg+とOH−とが反応して、暗褐色の酸化銀(Ag20)が生成されることにより、銀の変色が生じる。
【0031】
これに対して、本実施形態においては、光源3から出射された光のうち、波長250〜420nmの範囲の光は、光遮断層15によって吸収される。そのため、波長250〜420nmの範囲の光が、反射層14とアンダーコート層12との界面に達することがなく、銀の変色を抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態においては、紫外線吸収剤等を用いることなく、紫外線を遮断することができ、しかも、従来のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤では、十分に遮蔽できなかった波長320nm付近の紫外線を吸収することができる。そのため、銀を含む反射層14の膜厚が薄く、透過率の「窓」を有する反射層14においても、波長320nm付近の紫外線が、反射層14とアンダーコート層12との界面に達することがなく、銀の変色を抑制することができる。
【0033】
しかも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤のように、銀とのキレートを作って変色することがないので、銀の変色を長期間に亘って抑制することができる。更に、紫外線吸収剤を含有する層を形成すると、光源3から出射された可視光のうち、短波長領域の一部の光が、紫外線吸収剤によって吸収されたり、拡散したりするので、僅かに反射率が低下することがある。これに対して、本実施形態においては、紫外線吸収剤等を用いることなく、波長250〜420nmの範囲の光を吸収するので、短波長領域の可視光の反射率の低下を防ぎ、光利用効率を高めることができる。
【0034】
光源3から出射された光のうち、光遮断層15に吸収されない波長域の光、すなわち可視光は、光遮断層15を透過した後、反射率の高い銀を含む反射面13によって反射され、反射部材1の光出射方向の端部から出射される。そのため、本実施形態の反射部材1によれば、可視光の反射率を低下させることなく、銀の変色を長期間に亘って抑制することができる。また、この反射部材を用いることにより、光利用効率が低下し難い照明器具が得られる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係る反射部材について、図11を参照して説明する。本実施形態の反射部材1は、アンダーコート層12と反射層14との間に、波長250〜420nmの範囲に光吸収ピークを有する光遮断層15が形成されているものである。各層は、積層する順番を除き、上記第1の実施形態と同様である。なお、本実施形態の反射部材1は、反射層14を保護するために、この反射層14の反射面13にトップコート層16が形成されている。
【0036】
なお、トップコート層16は、アンダーコート層12と同様、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂又はメラミン樹脂等の樹脂材料から成る塗膜から形成される。塗布方法は、アンダーコート層12と同様、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート等公知の塗布方法が用いられる。なお、硬化方法は、熱、電子線等の公知の手段を用いられるが、反射層14に影響を与えない手段が望ましい。なお、トップコート層16は、複数の樹脂層を積層させたものでもよい。また、トップコート層16は、SiO2やTiO2等の無機物から成る層を真空蒸着等により形成されてもよい。更に、この無機物から成る層を、反射層14とトップコート層16との間に設けてもよい。
【0037】
この構成によれば、波長250〜420nmの範囲の光が、反射層14における透過率の「窓」を透過しても、反射層14とアンダーコート層12との間に光遮断層15が介在するため、反射層14とアンダーコート層12との界面において、銀の変色を抑制することができる。
【0038】
次に、本発明の第3の実施形態に係る反射部材について、図12を参照して説明する。本実施形態の反射部材1は、光遮断層15を保護するため、上記第1の実施形態の光遮断層15上にトップコート層16が形成されている。トップコート層16は、上記第2の実施形態と同様の構成のものが、同様の方法により形成される。
【0039】
この構成によれば、上記第1の実施形態と同様、波長250〜420nmの範囲の光が、光遮断層15によって吸収されるので、反射層14とアンダーコート層12との界面に達することがなく、銀の変色を抑制することができる。また、金属薄膜から成る光遮断層15が、トップコート層16によって保護されるので、反射部材1の耐久性を向上させることができる。
【0040】
<実施例1>
実施例1は、上記第1の実施形態の反射部材1に対応するものである。ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(東レ社製(トレコン1401×06))を射出成形方法により、ダウンライト用反射鏡(パナソニック電工製(図1(a)(b)参照))形状に成形し、これを基材11とした。このときの概略寸法は、開口部:170mm、高さ:200mmである。次に、この基材11に、アクリルメラミン塗料をスプレー塗布した後、180℃×30分間焼付乾燥して、膜厚15μmのアンダーコート層12を形成した。アンダーコート層12を形成した後、Ag(純度99.99%)をアルゴン(Ar)ガス雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリングし、反射層14を形成した。この反射層12の膜厚は、開口部1c:150nm、高さ方向中央部1b:100nm、ソケット部1a:50nm(図1(a)参照)であった。
【0041】
反射層12を形成した後、上記図3に示した材料及び膜厚において光遮断層15を形成し、図2に示す層構成を有する反射部材1を作成した。この反射部材1を円周方向に8分割して、これを実施例1とした。
【0042】
<実施例2>
実施例2は、上記第2の実施形態の反射部材1に対応するものである。反射層12を形成する前に、上記図4に示した材料及び膜厚において光遮断層15を形成し、図11に示す層構成を有する反射部材1を作成した。また、反射増14上にアクリル塗料をスプレー塗布し、160℃×30分間、焼付乾燥して、膜厚15μmのトップコート層16を形成した。他の構成は、実施例1と同様とした。
<実施例3>
【0043】
実施例3は、上記第3の実施形態の反射部材1に対応するものである。反射層12を形成した後、上記図4に示した材料及び膜厚において光遮断層15を形成し、実施例2と同様、反射増14上にトップコート層16を形成することにより、図3に示す層構成を有する反射部材1を作成した。他の構成は、実施例1と同様とした。
【0044】
<比較例>
反射層12を形成した後、光遮断層15を形成することなく、実施例2と同様、反射増14上にトップコート層16を形成した(図示せず)。他の構成は、実施例1と同様とした。
【0045】
これら実施例1〜3及び比較例について、以下に示す評価試験を行った。
【0046】
<反射率>
自記分光光度計を用いて、波長555nmにおける全光線反射率を測定した。
【0047】
<反射層の膜厚測定>
反射部材1の断面を切断し、電子顕微鏡(SEM)観察にて膜厚を測定した。
【0048】
<耐熱試験>
120℃に保持した熱風循環槽中に各試料を夫々放置し、100日後及び150日後の外観変化を観察した。
【0049】
<耐光試験>
120℃雰囲気の恒温槽内で、2mW/cm2の紫外線強度にて水銀灯を点灯させ、100日間及び150日間、各試料を夫々放置した。その後、各試料を、自記分光光度計を用いて波長555nmにおける全光線反射率を測定した。また、市販のトレーシングペーパーをサンプル上にかぶせ、外観変化、特にサンプルの色目変化を観察した。
【0050】
<耐ガスバリア性試験>
硫化水素(H2S)ガスを10ppm混入し、温度50℃、湿度85%に保持したデシケータ中に各試料を夫々100時間放置した後、取り出し、外観変化を観察した。これら各評価試験の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示す通り、実施例1〜3はいずれも反射率はほとんど低下せず、銀の変色が発生せず、上記実施形態における反射部材1の効果が認められた。一方、比較例においては、特に、ソケット部1aや高さ方向中央部1b(図1(a)参照)といった、光源3に近く、高強度の紫外線に曝される部位において、黄色又は褐色の変色が認められた。
【0053】
なお、本発明は、銀の薄膜には波長320nm付近の紫外線を透過する「窓」が存在することに着目し、この波長領域を含む紫外線を、光の干渉により吸収する光遮断層15を用いることで、反射層に含まれる銀の変色を抑制したものであり、光遮断層15の構成は、必ずしも上述した実施形態の記載に限られず、種々の変形が可能である。
【0054】
例えば、反射層14上に、チタンやアルミニウム等から成る金属薄膜を成膜してから、光遮断層15を設けてもよい。こうすれば、光源3からの紫外線を効果的に反射することができ、銀の変色を抑制することができる。また、光遮断層15は、可視光領域の光に対する増反射効果を有するよう、各層の膜厚を設計することもできる。こうすれば、紫外線を吸収する一方で、可視光を効率良く反射でき、光利用効率が向上する。
【符号の説明】
【0055】
1 反射部材
11 基材
12 アンダーコート層
13 反射面
14 反射層
15 光遮断層
16 トップコート層
2 照明器具
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀を含み、入射する光を反射する反射面を有する反射部材及びこの反射部材を用いた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、照明器具の光源からの光を反射する反射部材の反射層には、光反射性に優れる銀が用いられている。特に、ダウンライトのような、奥行きのある椀形状の反射部材に、反射率の高い銀を用いることにより、反射部材内で光が繰り返し反射され、光利用効率を向上させることができる。しかし、銀は化学的に不安定で、変色し易い性質がある。反射部材における銀の変色は、反射部材の外観を悪くするだけでなく、反射率を低下させ、光利用効率を低下させる原因となる。
【0003】
銀の変色原因として、光(特に紫外線)、熱、及び大気中の水分、亜硫酸ガス、硫化水素、アンモニア等のガスが挙げられる。一般に、これらの変色原因が相互的に作用し、反射部材表面の銀原子が、硫化物イオンや塩化物イオン等と反応し、硫化銀や塩化銀等の化合物へ変化することにより、銀が褐色や黒色に変色すると考えられている。
【0004】
また、銀の変色原因の一つとして、銀の薄膜には、波長325nm付近の紫外線領域に、光を透過する透過率の「窓」が存在することが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。上記特許文献1には、透過率の「窓」を透過した紫外線が、銀と接する樹脂製のアンダーコート層を劣化させ、二酸化炭素ガスの「小気泡」が発生し、この「小気泡」が銀を変色させることが記載されている。
【0005】
そこで、上記特許文献1に記載の反射部材においては、有機系紫外線吸収剤を含有するポリマー層を形成することにより、反射層に入射する紫外線を遮蔽し、上記透過率の「窓」への紫外線の入射を防止して、銀の変色を抑制している。また、紫外線吸収剤として使用されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、銀とキレートを作り、黄色く発色することが知られている。そのため、反射層上にメルカプタンを含有する第1ポリマー層を形成し、その上に紫外線吸収剤を含有する第2ポリマー層を形成することにより、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が直接的に銀反射層と反応しないようにしている。
【0006】
更に、有機系紫外線吸収剤の代わりに紫外線吸収性の固形物を含有するトップコート層で反射層を覆うことにより、紫外線が反射層へ入射することを防ぎ、銀の変色を抑制した反射部材が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭61−154942号公報
【特許文献2】特開平7−108643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、ポリマー内を拡散すると共に、銀とキレートを作り、黄色く発色することが知られている。そのため、上記特許文献1に記載された反射部材が長期間使用されると、第1ポリマー層に含まれるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、第2ポリマー層にも浸透し、反射層に達して、銀を変色させる虞がある。しかも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の多くは、上記透過率の「窓」に相当する波長320nm付近の光吸収ピークが減少しているため、波長320nm付近の紫外線を十分に遮蔽できない。
【0008】
また、特許文献2に記載された紫外線吸収性の固形物は、粒子状の物質であるため、トップコート層へ添加することによって、可視光の散乱が発生し、トップコート層の透過率を低下させると共に、反射部材としての反射率を低下させる虞がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであって、可視光の反射率を低下させることなく、銀の変色を長期間に亘って抑制することができる反射部材及びこの反射部材を用いた照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る反射部材は、基材と、前記基材上に又は前記基材上に形成されるアンダーコート層を介して設けられ、銀を含み、入射する光を反射する反射面を有する反射層と、光を干渉させて吸収する光吸収ピークを波長250〜420nmの範囲に有し、前記基材若しくは前記アンダーコート層と前記反射層との間に、又は前記反射層の反射面に積層される光遮断層と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る反射部材において、前記光遮断層は、波長320nm付近の紫外線の透過率が20%以下であることが望ましい。
【0012】
好ましくは、前記光遮断層は、光学多層膜として形成される。
【0013】
また、本発明に係る照明器具は、上記反射部材を用いたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る反射部材によれば、光遮断層において、波長250〜420nmの範囲の光が吸収されるので、可視光の反射率を低下させることなく、反射層に含まれる銀の変色を長期間に亘って抑制することができ、この反射部材を用いることにより、光利用効率の良い照明器具が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る反射部材を用いた照明器具の側面図、(b)は同上面図。
【図2】同反射部材の部分側断面図。
【図3】同反射部材における光遮断層の構成例(1)を示す図。
【図4】同反射部材における光遮断層の構成例(2)を示す図。
【図5】上記光遮断層の構成例(1)における全光透過率を示す図。
【図6】上記光遮断層の構成例(2)における全光透過率を示す図。
【図7】本実施形態で用いる光源から出射される放射照度と波長分布との関係を示す図。
【図8】図5に示す光遮断層を用いた反射部材を適用した際の光源から出射される放射照度と波長分布との関係を示す図。
【図9】反射部材における銀の膜厚と全光透過率との関係を示す図。
【図10】(a)〜(c)は、銀の変色メカニズムを説明する側断面図。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る反射部材の部分側断面図。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る反射部材の部分側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の実施形態に係る反射部材及びこの反射部材を用いた照明器具について、図1乃至図10を参照して説明する。本実施形態の反射部材1を用いた照明器具2は、一般的な施設、店舗、住宅等に用いられる照明器具であり、ここでは、図1(a)(b)に示すように、天井埋込式のスポットライトを示す。照明器具2は、光源3と、この光源3からの光を反射するための反射部材1と、を備える。反射部材1は、光源3を取り付けるためのソケット4が設けられるソケット部1aから中央部1b及び光出射方向の開口部1cへ広がった碗形状に形成される。ソケット部1aは、照明器具2の本体部5に接続され、開口部1cには、照明器具2を天井裏へ係止するための板バネ6が取り付けられる。本体部5には、光源3に適合する適宜の安定器7等が設けられる。
【0017】
反射部材1は、図2に示すように、基材11と、この基材11上に形成されるアンダーコート層12と、銀を含み、入射する光を反射する反射面13を有する反射層14と、光を干渉させて吸収する光吸収ピーク波長を波長250〜420nmの範囲に有する光遮断層15と、を備える。
【0018】
基材11は、光源3から発生する熱に耐え得る材料から構成されたものであれば、特に限定されるものではない。また、基材11の形状は、上記の碗形状に限らず、照明器具2の仕様等に応じて、光源3からの光を効率良く反射し、所望の配光を実現できるように形成されたものであればよい。
【0019】
基材11は、樹脂材料により形成される場合、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネート(PC)、液晶ポリマー(LCP)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)等が用いられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、バルクモールディングコンパウンド(BMC)用材料として汎用される不飽和ポリエステル(UP)等が用いられる。これらの樹脂材料には、いずれも光反射性能、耐熱性、強度、耐光性等を向上させるため、無機充填剤等の各種添加剤が添加されてもよい。基材11の成形方法は、材質や器具形状により、例えば、射出成形、圧縮成形、真空成形、圧空成形等の公知の方法が選択的に用いられる。
【0020】
基材11が、金属材料により形成される場合、例えば、アルミ(Al)基合金、マグネシウム(Mg)基合金、鉄(Fe)基合金、亜鉛(Zn)合金等が用いられる。成形方法としては、スピニング加工、プレス加工、ダイキャスト、チクソモールディング等が、材料と要求される反射部材1の形状等を考慮して選択的に用いられる。また、ガラスを基材11として用いる場合、プレス加工やブロー加工等が用いられる。基材11の表面は、滑らかで、清浄な面とされることが望ましく、成形時に付着した離型剤やガスマーク、滑剤、オイル等は物理的又は化学的手段によって除去される。
【0021】
アンダーコート層12は、基材11と反射層14との密着性を向上させ、基材11の平滑性を向上させるために形成される。そのため、基材11が樹脂材料から成り、反射層14との密着性や平滑性が十分に確保されていれば、必ずしも形成されていなくてもよい。このアンダーコート層12は、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の樹脂材料から成る塗膜から形成される。成膜方法は、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート等の公知の方法が選択的に用いられる。また、硬化方法には、熱、紫外線、電子線等の公知の手段が用いられる。なお、アンダーコート層12の膜厚は、特に限定されないが、例えば、5〜30nmが望ましい。アンダーコート層12の膜厚が30nm以上になると、予め光照射方向を考慮して設計された基材11の形状に影響する虞があるので好ましくない。
【0022】
反射層14は、銀又は銀を主成分とする合金を20〜1000nmの膜厚で形成したものである。形成方法は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD法が用いられ、また、銀鎖反応のような化学的析出法でもよい。銀又は銀を主成分とする合金は、反射層14の反射面13側に20nm以上の膜厚で積層されていればよい。反射層14の基材11側の成分には、反射層14の耐熱性や密着性を高めるため、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル等の、銀以外金属が含まれていてもよい。
【0023】
光遮断層15は、複数の無機物を、所定膜厚で、複数層積層した光学多層膜15a,15bから成る。光遮断層15は、積層される材料の種類、膜厚、層数を制御することによって、各層で反射される光を互いに干渉させて、光を吸収するものであり、所望の光吸収ピーク(所望の波長における光透過率のアンダーピーク)が設定される。本実施形態においては、その光吸収ピークが波長250〜400nmの範囲となるよう形成される。
【0024】
形成材料の無機物としては、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O5)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ハフニウム(HfO)等が用いられる。光遮断層15の形成方法には、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD法等が用いられる。なお、光遮断層15として、上記と同様の効果を有するものであれば、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化セレン(CeO)、酸化チタン(Ti02)等、波長250〜400nmに吸光特性を有する材料そのものを単一層として形成してもよい。
【0025】
図2には、酸化チタン(TiO2)と酸化ケイ素(SiO2)とを11層、積層させた光遮断層15の光学多層膜の構成例(1)を示す。図3は、この構成例(1)における各層の膜厚を示す。また、図4は、酸化ジルコニウム(SiO2)と酸化ケイ素(SiO2)とを11層、積層させた光遮断層15の光学多層膜の構成例(2)における各層の膜厚を示す。
【0026】
図5は、図3に示した光遮断層15の多層膜の構成例(1)における光透過特性を示す。この構成によれば、波長250〜420nmの光透過率が低い、すなわち波長250〜420nmの範囲の光を吸収する光吸収ピーク波長が得られる。特に、波長300〜400nmの範囲の光透過率が30%以下となり、しかも波長320nm付近の紫外線の透過率が20%以下となる。また、図6は、図4に示した光遮断層15の多層膜の構成例(2)における光透過特性を示す。この構成においても、波長250〜420nmの範囲の光を吸収する光吸収ピーク波長が得られ、波長300〜400nmの範囲の光透過率が30%以下となり、波長320nm付近の紫外線の透過率が20%以下となる。
【0027】
照明器具2の光源3には、汎用の蛍光ランプが用いられる。図7は、本実施形態で用いた光源3の照射光の波長分布の例を示す。同図から、光源3の照射光は、可視光領域に強いピーク波長を有するだけでなく、紫外領域にもピーク波長を有していることが認められる。図8は、図3に示した光遮断層15の備えた反射部材1を用いた照明器具2における、照射光の波長分布の例を示す。図8では、図7に比べて、波長420nm以下の波長成分のピークが小さくなっていることが確認される。すなわち、光遮断層15が波長250〜420nmの光を吸収したことにより、照明器具2における照射光に含まれる紫外線が低減される。
【0028】
ここで、銀を含む反射層14を用いた照明器具2において、銀が変色するメカニズム等について、図9及び図10を参照して説明する。
【0029】
図9は、石英から成る基材上に純度99.99%の純銀を、マグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した際の膜厚の違いによる光の透過率の変化を示す。同図から、銀膜の膜厚が薄くなると、波長250nm〜420nmの範囲の紫外線の透過率が高くなる、いわゆる透過率の「窓」が存在することが確認される。この透過率の「窓」は、波長320nm付近の紫外線領域をピークとし、膜厚が170nmである例において確認され、膜厚が薄くなるほど、波長域及び透過率共に拡大する。膜厚が65nmである例においては、波長320nmをピークとする光の透過率は27%に達する。この場合、光源から出射された紫外線のうち、波長320nm付近の紫外線の約3割は、銀膜によって反射又は吸収されることなく、銀膜(本実施形態の反射層14)の下に形成された層(本実施形態のアンダーコート層12)の表面まで達することになる。
【0030】
反射層14を透過して、アンダーコート層12の表面に達した紫外線は、図10(a)に示すように、アンダーコート層12の樹脂を劣化させ、ヒドロキシラジカル(・OH)やパーオキシラジカル(・OR)を発生させる。そして、発生した・OHや・ORは、図10(b)に示すように、アンダーコート層12と接する反射層14の銀原子(Ag)を酸化し、銀イオン(Ag+)を生成する(図例では・OHのみ示す)。生成されたAg+は、アンダーコート層の層中に拡散し、また、・OHはOH−となってアンダーコート層12の層中に拡散する。そして、図10(c)に示すように、これらAg+とOH−とが反応して、暗褐色の酸化銀(Ag20)が生成されることにより、銀の変色が生じる。
【0031】
これに対して、本実施形態においては、光源3から出射された光のうち、波長250〜420nmの範囲の光は、光遮断層15によって吸収される。そのため、波長250〜420nmの範囲の光が、反射層14とアンダーコート層12との界面に達することがなく、銀の変色を抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態においては、紫外線吸収剤等を用いることなく、紫外線を遮断することができ、しかも、従来のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤では、十分に遮蔽できなかった波長320nm付近の紫外線を吸収することができる。そのため、銀を含む反射層14の膜厚が薄く、透過率の「窓」を有する反射層14においても、波長320nm付近の紫外線が、反射層14とアンダーコート層12との界面に達することがなく、銀の変色を抑制することができる。
【0033】
しかも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤のように、銀とのキレートを作って変色することがないので、銀の変色を長期間に亘って抑制することができる。更に、紫外線吸収剤を含有する層を形成すると、光源3から出射された可視光のうち、短波長領域の一部の光が、紫外線吸収剤によって吸収されたり、拡散したりするので、僅かに反射率が低下することがある。これに対して、本実施形態においては、紫外線吸収剤等を用いることなく、波長250〜420nmの範囲の光を吸収するので、短波長領域の可視光の反射率の低下を防ぎ、光利用効率を高めることができる。
【0034】
光源3から出射された光のうち、光遮断層15に吸収されない波長域の光、すなわち可視光は、光遮断層15を透過した後、反射率の高い銀を含む反射面13によって反射され、反射部材1の光出射方向の端部から出射される。そのため、本実施形態の反射部材1によれば、可視光の反射率を低下させることなく、銀の変色を長期間に亘って抑制することができる。また、この反射部材を用いることにより、光利用効率が低下し難い照明器具が得られる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係る反射部材について、図11を参照して説明する。本実施形態の反射部材1は、アンダーコート層12と反射層14との間に、波長250〜420nmの範囲に光吸収ピークを有する光遮断層15が形成されているものである。各層は、積層する順番を除き、上記第1の実施形態と同様である。なお、本実施形態の反射部材1は、反射層14を保護するために、この反射層14の反射面13にトップコート層16が形成されている。
【0036】
なお、トップコート層16は、アンダーコート層12と同様、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂又はメラミン樹脂等の樹脂材料から成る塗膜から形成される。塗布方法は、アンダーコート層12と同様、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、ディップコート等公知の塗布方法が用いられる。なお、硬化方法は、熱、電子線等の公知の手段を用いられるが、反射層14に影響を与えない手段が望ましい。なお、トップコート層16は、複数の樹脂層を積層させたものでもよい。また、トップコート層16は、SiO2やTiO2等の無機物から成る層を真空蒸着等により形成されてもよい。更に、この無機物から成る層を、反射層14とトップコート層16との間に設けてもよい。
【0037】
この構成によれば、波長250〜420nmの範囲の光が、反射層14における透過率の「窓」を透過しても、反射層14とアンダーコート層12との間に光遮断層15が介在するため、反射層14とアンダーコート層12との界面において、銀の変色を抑制することができる。
【0038】
次に、本発明の第3の実施形態に係る反射部材について、図12を参照して説明する。本実施形態の反射部材1は、光遮断層15を保護するため、上記第1の実施形態の光遮断層15上にトップコート層16が形成されている。トップコート層16は、上記第2の実施形態と同様の構成のものが、同様の方法により形成される。
【0039】
この構成によれば、上記第1の実施形態と同様、波長250〜420nmの範囲の光が、光遮断層15によって吸収されるので、反射層14とアンダーコート層12との界面に達することがなく、銀の変色を抑制することができる。また、金属薄膜から成る光遮断層15が、トップコート層16によって保護されるので、反射部材1の耐久性を向上させることができる。
【0040】
<実施例1>
実施例1は、上記第1の実施形態の反射部材1に対応するものである。ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(東レ社製(トレコン1401×06))を射出成形方法により、ダウンライト用反射鏡(パナソニック電工製(図1(a)(b)参照))形状に成形し、これを基材11とした。このときの概略寸法は、開口部:170mm、高さ:200mmである。次に、この基材11に、アクリルメラミン塗料をスプレー塗布した後、180℃×30分間焼付乾燥して、膜厚15μmのアンダーコート層12を形成した。アンダーコート層12を形成した後、Ag(純度99.99%)をアルゴン(Ar)ガス雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリングし、反射層14を形成した。この反射層12の膜厚は、開口部1c:150nm、高さ方向中央部1b:100nm、ソケット部1a:50nm(図1(a)参照)であった。
【0041】
反射層12を形成した後、上記図3に示した材料及び膜厚において光遮断層15を形成し、図2に示す層構成を有する反射部材1を作成した。この反射部材1を円周方向に8分割して、これを実施例1とした。
【0042】
<実施例2>
実施例2は、上記第2の実施形態の反射部材1に対応するものである。反射層12を形成する前に、上記図4に示した材料及び膜厚において光遮断層15を形成し、図11に示す層構成を有する反射部材1を作成した。また、反射増14上にアクリル塗料をスプレー塗布し、160℃×30分間、焼付乾燥して、膜厚15μmのトップコート層16を形成した。他の構成は、実施例1と同様とした。
<実施例3>
【0043】
実施例3は、上記第3の実施形態の反射部材1に対応するものである。反射層12を形成した後、上記図4に示した材料及び膜厚において光遮断層15を形成し、実施例2と同様、反射増14上にトップコート層16を形成することにより、図3に示す層構成を有する反射部材1を作成した。他の構成は、実施例1と同様とした。
【0044】
<比較例>
反射層12を形成した後、光遮断層15を形成することなく、実施例2と同様、反射増14上にトップコート層16を形成した(図示せず)。他の構成は、実施例1と同様とした。
【0045】
これら実施例1〜3及び比較例について、以下に示す評価試験を行った。
【0046】
<反射率>
自記分光光度計を用いて、波長555nmにおける全光線反射率を測定した。
【0047】
<反射層の膜厚測定>
反射部材1の断面を切断し、電子顕微鏡(SEM)観察にて膜厚を測定した。
【0048】
<耐熱試験>
120℃に保持した熱風循環槽中に各試料を夫々放置し、100日後及び150日後の外観変化を観察した。
【0049】
<耐光試験>
120℃雰囲気の恒温槽内で、2mW/cm2の紫外線強度にて水銀灯を点灯させ、100日間及び150日間、各試料を夫々放置した。その後、各試料を、自記分光光度計を用いて波長555nmにおける全光線反射率を測定した。また、市販のトレーシングペーパーをサンプル上にかぶせ、外観変化、特にサンプルの色目変化を観察した。
【0050】
<耐ガスバリア性試験>
硫化水素(H2S)ガスを10ppm混入し、温度50℃、湿度85%に保持したデシケータ中に各試料を夫々100時間放置した後、取り出し、外観変化を観察した。これら各評価試験の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示す通り、実施例1〜3はいずれも反射率はほとんど低下せず、銀の変色が発生せず、上記実施形態における反射部材1の効果が認められた。一方、比較例においては、特に、ソケット部1aや高さ方向中央部1b(図1(a)参照)といった、光源3に近く、高強度の紫外線に曝される部位において、黄色又は褐色の変色が認められた。
【0053】
なお、本発明は、銀の薄膜には波長320nm付近の紫外線を透過する「窓」が存在することに着目し、この波長領域を含む紫外線を、光の干渉により吸収する光遮断層15を用いることで、反射層に含まれる銀の変色を抑制したものであり、光遮断層15の構成は、必ずしも上述した実施形態の記載に限られず、種々の変形が可能である。
【0054】
例えば、反射層14上に、チタンやアルミニウム等から成る金属薄膜を成膜してから、光遮断層15を設けてもよい。こうすれば、光源3からの紫外線を効果的に反射することができ、銀の変色を抑制することができる。また、光遮断層15は、可視光領域の光に対する増反射効果を有するよう、各層の膜厚を設計することもできる。こうすれば、紫外線を吸収する一方で、可視光を効率良く反射でき、光利用効率が向上する。
【符号の説明】
【0055】
1 反射部材
11 基材
12 アンダーコート層
13 反射面
14 反射層
15 光遮断層
16 トップコート層
2 照明器具
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に又は前記基材上に形成されるアンダーコート層を介して設けられ、銀を含み、入射する光を反射する反射面を有する反射層と、光を干渉させて吸収する光吸収ピーク波長を波長250〜420nmの範囲に有し、前記基材若しくは前記アンダーコート層と前記反射層との間に、又は前記反射層の反射面に積層される光遮断層と、を備えることを特徴とする反射部材。
【請求項2】
前記光遮断層は、波長320nm付近の紫外線の透過率が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の反射部材。
【請求項3】
前記光遮断層は、光学多層膜として形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の反射部材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の反射部材を用いた照明器具。
【請求項1】
基材と、前記基材上に又は前記基材上に形成されるアンダーコート層を介して設けられ、銀を含み、入射する光を反射する反射面を有する反射層と、光を干渉させて吸収する光吸収ピーク波長を波長250〜420nmの範囲に有し、前記基材若しくは前記アンダーコート層と前記反射層との間に、又は前記反射層の反射面に積層される光遮断層と、を備えることを特徴とする反射部材。
【請求項2】
前記光遮断層は、波長320nm付近の紫外線の透過率が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の反射部材。
【請求項3】
前記光遮断層は、光学多層膜として形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の反射部材。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の反射部材を用いた照明器具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−248021(P2011−248021A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119782(P2010−119782)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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