説明

反射防止構造及びその製造方法並びに低屈折率層用塗布組成物

【課題】下地層に種々の添加剤や改質剤が添加されていても反射防止性能及び耐擦傷性に優れる反射防止構造及びその製造方法、並びに反射防止構造の低屈折率層用塗布組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の反射防止構造は、基材上に設けられたハードコート層と、前記ハードコート層上に直接又は高屈折率層を介して設けられた低屈折率層と、を具備し、前記低屈折率層が少なくとも鎖状シリカ粒子を含んでおり、前記低屈折率層の膜厚が50〜150nmであり、前記低屈折率層の外表面の表面粗さ(Ra)が6nm以下であり、前記低屈折率層の前記外表面から内部に向かって空隙率が増加していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止構造及びその製造方法並びに低屈折率層用塗布組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品、眼鏡、ディスプレイ装置などを被覆する反射防止膜は、単層又は複数層からなるものが知られているが、単層及び2層からなるものは残存反射率が大きくなってしまうため、屈折率の異なる3層以上を積層したものが好ましいと考えられてきた。しかしながら、3層以上を積層させるのは、公知の真空蒸着法やディップコーティング法などいずれの方法でも、工程が煩雑であるとともに生産性が低いという欠点があった。
【0003】
その後、単層であっても下記の条件を満足すれば反射率の低減が可能であることが見出され、下記条件を満足する単層膜の開発が検討されてきた。すなわち、基材の屈折率をnとし、単層膜の屈折率をnとした場合の反射率Rが、n>nのときに極小値として(n−n/(n+nをとることを利用し、この反射率Rが、n=nとなるように単層膜の屈折率nを(n1/2に近づけて反射率を低減させる技術の開発がなされてきた。このような単層膜の目標屈折率を達成するものとして、鎖状のシリカ及びアルカリ土類金属塩を含む反射防止用塗布組成物が開示されている(特許文献1,2参照)。
【0004】
反射防止膜においては、さらに機械的強度(例えば、耐擦傷性)を向上させるために、基材と低屈折率層との間にハードコート層を設けることが通常行われており、層構造としては、基材/ハードコート層/低屈折率層の積層構造や基材/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層の積層構造を有するものが知られている。このため、低屈折率層用塗布組成物には、様々なコーティングを施された、広範な基材上に塗布して低屈折率性能を発現することが求められる。
【0005】
また、反射防止膜の機械的強度(例えば、耐擦傷性)を向上させるためには、基材/ハードコート層/低屈折率層の積層構造において低屈折率層とハードコート層との間の密着性が良いこと、又は、基材/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層の積層構造において低屈折率層と高屈折率層との間の密着性が良いこと、並びに低屈折率層の表面が平滑であることが要求される。
【0006】
一方、低屈折率層の下地層にあたるハードコート層や高屈折率層には、低屈折率層との間の接着性を向上させるために、種々の添加剤や改質剤が添加される。このため、下地層に種々の添加剤や改質剤が添加されていても反射防止性能及び耐擦傷性を発揮する反射防止構造が望まれている。
【特許文献1】特開2004−191741号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2004−73972号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、下地層に種々の添加剤や改質剤が添加されていても反射防止性能及び耐擦傷性に優れる反射防止構造及びその製造方法、並びに反射防止構造の低屈折率層用塗布組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の反射防止構造は、基材上に設けられたハードコート層と、前記ハードコート層上に直接又は高屈折率層を介して設けられた低屈折率層と、を具備し、前記低屈折率層が少なくとも鎖状シリカ粒子を含んでおり、前記低屈折率層の膜厚が50〜150nmであり、前記低屈折率層の外表面の表面粗さ(Ra)が6nm以下であり、前記低屈折率層の前記外表面から内部に向かって空隙率が増加していることを特徴とする。
【0009】
本発明の反射防止構造においては、前記低屈折率層が、少なくとも鎖状シリカと、前記鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物から加水分解脱水縮合して得られた加水分解脱水縮合物と、前記鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の反射防止構造においては、前記低屈折率層の膜厚が50〜150nmであることが好ましい。
【0011】
本発明の反射防止構造の製造方法は、基材上にハードコート層を形成する工程と、少なくとも鎖状シリカと、前記鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物と、前記鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、溶媒と、を含む低屈折率層用塗布前駆液を加水分解脱水縮合して得られた低屈折率層用塗布組成物を前記ハードコート層上に直接又は高屈折率層を介して塗布し成膜することを特徴とする。
【0012】
本発明の低屈折率層用塗布組成物は、反射防止少なくとも鎖状シリカと、前記鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物と、前記鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、溶媒と、を含む低屈折率層用塗布前駆液を加水分解脱水縮合して得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の反射防止構造は、基材上に設けられたハードコート層と、前記ハードコート層上に直接又は高屈折率層を介して設けられた低屈折率層と、を具備し、前記低屈折率層が少なくとも鎖状シリカ粒子を含んでおり、前記低屈折率層の外表面の表面粗さ(Ra)が6nm以下であり、前記低屈折率層の前記外表面から内部に向かって空隙率が増加しているので、下地層に種々の添加剤や改質剤が添加されていても優れた反射防止性能及び耐擦傷性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らの研究により、鎖状シリカ及びアルカリ土類金属塩を含む低屈折率層用組成物を種々のコーティング被膜の上に塗布して反射防止性能と耐擦傷性を調べたところ、ある種の添加剤、例えば沸点の低いシランカップリング剤などを含むコーティング被膜上に塗布した場合に、実用上十分な反射防止性能と耐擦傷性を発揮しないことが判明した。
【0015】
本発明者らは、低屈折率層の外表面を緻密にして耐擦傷性を発揮させ、低屈折率層の厚さ方向における空隙率を調整して、下地層からの種々の添加剤や改質剤が拡散したとしても低屈折率を維持し、反射防止性能を発揮させることができることを見出し本発明をするに至った。
【0016】
すなわち、本発明の骨子は、基材上に設けられたハードコート層と、前記ハードコート層上に直接又は高屈折率層を介して設けられた低屈折率層と、を具備し、前記低屈折率層が少なくとも鎖状シリカ粒子を含んでおり、前記低屈折率層の外表面の表面粗さ(Ra)が6nm以下であり、前記低屈折率層の前記外表面から内部に向かって空隙率が増加することにより、下地層に種々の添加剤や改質剤が添加されていても優れた反射防止性能及び耐擦傷性を発揮させることである。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の反射防止構造は、基材上に、ハードコート層/低屈折率層、又は、ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層を順次積層してなる多層構造を含む。
【0018】
基材としては、透明プラスチック基材やガラス基材が好ましく。透明プラスチック基材としては、光学用フィルムを用いることができる。光学用フィルムとしては、例えば、耐熱性200℃以下のトリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアセテート系フィルム;延伸したポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム;ポリカーボネート系フィルム;ノルボネン系フィルム;ポリアリレート系フィルム;ポリスルフォン系フィルム;耐熱性150℃以下のセルローストリアセテートフィルム;セルロースアセテートプロピオネートフィルム;ポリカーボネートフィルム;延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。基材の厚さは、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは20〜500μm、さらに好ましくは30〜200μmである。この範囲の厚さが透明性、強度、操作性において優れる。また、基材として、上記のフィルムよりも厚いアクリルシートやポリカーボネートシートを用いることもできる。さらにガラス基材としては、公知のガラス基材を用いることができる。
【0019】
本発明の反射防止構造において、耐傷性を付与するために、ハードコート層を基材上に設ける。ハードコート剤としては、市販のシリコーン系ハードコート剤やアクリル系ハードコート剤を用いることができる。ハードコート層は、架橋しているポリマーを含むことが好ましい。架橋しているポリマーを含むハードコート層は、多官能モノマーと重合開始剤を含む塗布液を透明支持体上に塗布し、多官能モノマーを重合させることにより形成できる。多官能モノマーは、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステルであることが好ましい。多価アルコールの例には、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサノール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジペンタエリスリトール、1,2,4−シクロヘキサノール、ポリウレタンポリオール及びポリエステルポリオールが含まれる。この中で、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びポリウレタンポリオールが好ましい。なお、二種類以上の多官能モノマーを併用してもよい。
【0020】
また、多官能モノマーの重合反応には、光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤の例には、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイドおよびチオキサントン類が含まれる。光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の例には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトンおよびチオキサントンが含まれる。光重合開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。光重合反応は、ハードコート層の塗布及び乾燥後、紫外線照射により実施することが好ましい。
【0021】
ハードコート層には、充填剤を添加することが好ましい。充填剤はハードコート層の硬度を高くし、多官能モノマーの硬化収縮を抑える機能がある。充填剤としては、無機微粒子または有機微粒子を用いることが好ましい。無機微粒子の例には、二酸化ケイ素粒子、二酸チタン粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化スズ粒子、炭酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、タルク、カオリン及び硫酸カルシウム粒子が含まれる。有機微粒子の例には、メタクリル酸−メチルアクリレートコポリマー粉末、シリコーン樹脂粉末、ポリスチレン粉末、ポリカーボネート粉末、アクリル酸−スチレンコポリマー粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、ポリオレフィン粉末、ポリエステル粉末、ポリアミド粉末、ポリイミド粉末及びポリフッ化エチレン粉末が含まれる。充填剤として使用する微粒子の平均粒子径は、0.01〜2μmであることが好ましく、0.02〜0.5μmであることがさらに好ましい。ハードコート層又はその塗布液には、さらに、本発明の効果を損なわない範囲内で、着色剤(顔料、染料)、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤や改質用樹脂を添加してもよい。なお、ハードコート層の厚さは、1〜15μmであることが好ましい。
【0022】
ハードコート層には、帯電防止能を付与したものを用いてもよい。ハードコート層に帯電防止能を付与するには、導電性無機微粒子や導電性有機ポリマーを添加する方法が好ましく、特に導電性無機微粒子を添加することが好ましい。
【0023】
導電性無機微粒子として好ましいものは、酸化アンチモン、酸化セレン、酸化チタン、酸化タングステン、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、酸化亜鉛、アンチモン酸亜鉛、スズドープ酸化インジウムなどの導電性金属酸化物超微粒子である。特に好ましく用いられるのは、導電性の高いアンチモンドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、アンチモン酸亜鉛、スズドープ酸化インジウムなどのスズ、アンチモン、インジウムの中から選ばれる成分を主成分とするゾル粒子である。ここで、ゾル粒子とは、平均粒子径が好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.08μm以下の超微粒子のことで、コーティングすると透明性を示す。分散性の高いゾルを得るために、通常は水、アルコール、エステル、炭化水素などの分散媒に分散させたものを用いる。
【0024】
これらの導電性金属酸化物超微粒子は、ハードコート層に、導電性や屈折率、ハードコート層の硬度などを考慮して、好ましくは40〜80質量%、より好ましくは50〜75質量%で加えられる。
【0025】
本発明の反射防止構造における高屈折率層は、好ましくは、高屈折率の無機化合物微粒子及びマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性組成物を塗布して形成される屈折率1.55〜2.40の硬化皮膜である。屈折率は1.65〜2.30が好ましく、更には1.80〜2.00が特に好ましい。
【0026】
高屈折率の無機化合物微粒子は、前記ハードコート層に添加しても良い微粒子として挙げた酸化アンチモン、酸化セレン、酸化チタン、酸化タングステン、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、リンドープ酸化スズ、酸化亜鉛、アンチモン酸亜鉛、スズドープ酸化インジウムなどが好ましい。また、上記以外で好ましい高屈折率無機微粒子は、Zr、Ta、Nd、La、Ce、Nb、V、Sm、Yなどの酸化物、又は、複合酸化物、硫化物を主成分とする粒子が挙げられる。なお、この高屈折率層は、上記導電性金属酸化物超微粒子を添加するので、帯電防止能を付与してもよい。
【0027】
本発明の反射防止構造における低屈折率層は、少なくとも鎖状シリカ粒子を含んでおり、低屈折率層の外表面の表面粗さ(Ra)が6nm以下であり、低屈折率層の外表面から内部に向かって空隙率が増加していることを特徴とする。
【0028】
さらに、低屈折率層は、少なくとも鎖状シリカと、鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物から加水分解脱水縮合して得られる加水分解脱水縮合物と、鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩とを含むことが好ましい。
【0029】
このような低屈折率層は、少なくとも鎖状シリカと、この鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物と、前記鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、溶媒とを含む低屈折率層用塗布前駆液を加水分解脱水縮合して得られた低屈折率層用塗布液を、プラスチック基材やガラス基材上に設けたハードコート層上に直接又は高屈折率層を介して塗布成膜することによって得られる。
【0030】
低屈折率層の膜厚は、50〜150nmであり、好ましくは60〜130nmであり、さらに好ましくは60〜120nmである。反射防止膜の最低反射率を与える波長は、低屈折率層や各層の屈折率、及び、各層の膜厚に支配されるが、その最低反射率を与える波長を500〜600nm付近に設定するには、低屈折率層を上記の範囲することが好ましい。
【0031】
低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.35、好ましくは1.23〜1.32、より好ましくは1.26〜1.29である。この範囲において、低反射率と耐擦傷性に優れた性能を得ることができる。
【0032】
低屈折率層の表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)にて測定した低屈折率層の算術平均表面粗さの値であり、6nm以下である。好ましくは5nm以下、より好ましくは4nm以下である。この範囲にある場合、低屈折率層の表面が緻密であり、低屈折率を示すとともに耐擦傷性に優れる。
【0033】
低屈折率層は、その外表面から内部に向かって空隙率が増加していることを特徴とする。すなわち、低屈折率層の外表面では空隙率が相対的に低く、内部に向って高くなる。このような構造は、低屈折率層の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察することによって確認することができる。図1及び図2に示す構造においては、低屈折率層の外表面から内部に向って多孔質化しており、すなわち空隙率が増加している。このように低屈折率層の内部の空隙率を相対的に高くするように調整することにより、下地層、例えば高屈折率層やハードコート層に含まれる添加剤などが低屈折率層の内部に拡散されたとしても、低屈折率層の空隙を維持することができ、その結果、低反射性能を発揮することができる。また、低屈折率層の外表面は空隙率が相対的に低くなるように調整されているので、外表面が緻密である。したがって、本発明の反射防止構造は、低反射率と耐擦傷性を両立できる。
【0034】
一方、図3に示す構造においては、低屈折率層の空隙が全体的に少ない。このため、下地層、例えば高屈折率層やハードコート層に含まれる添加剤などが低屈折率層の内部に拡散されると低反射率を満たすことができない。また、図4に示す構造においては、低屈折率層が全体的に多孔質であるが、外表面(表層部)が緻密でないので、耐擦傷性が不十分である。
【0035】
本発明の反射防止構造における低屈折率層は、少なくとも鎖状シリカと、この鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物から加水分解脱水縮合して得られる加水分解脱水縮合物と、前記鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、を含むことによって得られる。
【0036】
鎖状シリカは、シリカ微粒子がシロキサン結合などの化学結合により連続して鎖状なったものをいい、直線状に伸びた形状であっても、二次元的、もしくは三次元的に湾曲した形状であっても構わない。
【0037】
鎖状シリカは、例えば約10〜25nmの平均粒子径を有するシリカ微粒子が、約30〜200nmの平均長さを有するまで連続したものである。ここで平均粒子径とは、通常窒素吸着法(BET法)により測定された比表面積(m)から、平均粒子径=(2720/比表面積)の式によって与えられた値である。また平均長さとは、動的光散乱法による測定値である。なお、この鎖状のシリカの大きさについては、上記サイズは例示であり、鎖状のシリカ同士の空隙の体積(空隙の総体積)に起因する屈折率、反射防止膜表面の算術平均粗さ、ヘイズの発生、透視像の解像度、視認性などを考慮して、適宜変更することが可能である。
【0038】
上記鎖状のシリカの例としては、例えば日産化学工業社製の「スノーテックス(登録商標)OUP」、「スノーテックス(登録商標)UP」「IPA−ST−UP」「スノーテックス(登録商標)PS−M」、「スノーテックス(登録商標)PS−MO」、「スノーテックス(登録商標)PS−S」、「スノーテックス(登録商標)PS−SO」、触媒化成工業株式会社製の「ファインカタロイドF−120」、扶桑化学工業株式会社製の「クォートロンPL」が挙げられる。これらの鎖状のシリカは、三次元的に湾曲した形状を有する。
【0039】
加水分解基含有シラン化合物の加水分解基とは、加水分解により水酸基が生じる基であればよく、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、エノキシ基、オキシム基などが挙げられる。
【0040】
加水分解基含有シランとして、下記一般式(1)で表される加水分解基含有シラン、下記一般式(2)で表される加水分解基含有シランを用いることができる。
SiX4−n (1)
(式中、Rは各々独立に水素又は炭素数1〜10個のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基を表す。またこれらの置換基上にさらにハロゲン基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基などの官能基を有していても良い。Xは各々独立に加水分解基を表す。nは0〜3の整数である。)
Si−R−SiX (2)
(式中、Xは各々独立に加水分解基を表し、Rは炭素数1〜6個のアルキレン基又はフェニレン基を表す。また、mは0又は1である)
【0041】
加水分解基含有シランとして具体的に用いられるものは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(i−ブトキシ)シラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリフェノキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリフェノキシシリル)エタン、1,3−ビス(トリメトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(トリエトキシシリル)プロパン、1,3−ビス(トリフェノキシシリル)プロパン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラキス(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラキス(トリフルオロアセトキシ)シラン、トリアセトキシシラン、トリス(トリクロロアセトキシ)シラン、トリス(トリフルオロアセトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラフルオロシラン、トリクロロシラン、トリブロモシラン、トリフルオロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリブロモシラン、メチルトリフルオロシラン、テトラキス(メチルエチルケトキシム)シラン、トリス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、ビス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルビス(メチルエチルケトキシム)シラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)メチルシランなどが挙げられる。
【0042】
また、例えば日本国コルコート社製のメチルシリケート51、エチルシリケート40、エチルシリケート48などに代表される、下記一般式(3)にて表される加水分解基含有シランも好適に用いることができる。
−(O−Si(OR−OR (3)
(式中、Rは各々独立に炭素数1〜6個のアルキル基を表す。pは2〜8の整数である)
【0043】
上記加水分解基含有シランは、単独又は2種以上の混合物として用いることができる。上記加水分解基含有シランの中でもテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好適に用いられる。
【0044】
これらの加水分解基含有シランは、加水分解反応により加水分解基の一部又は全部が反射防止膜用塗布組成物を製造する過程でシラノール基に変換する。そのため、上記の加水分解基含有シランの一部又は全部の代わりに、シラノール基を含有するシランを用いても良い。このようなシランとしては、ケイ酸、トリメチルシラノール、トリフェニルシラノール、ジメチルシランジオール、ジフェニルシランジオールなどのシラン、あるいは末端や側鎖にヒドロキシル基を有するポリシロキサンなどを用いることができる。また、オルトケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カリウム、オルトケイ酸リチウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、メタケイ酸リチウム、オルトケイ酸テトラメチルアンモニウム、オルトケイ酸テトラプロピルアンモニウム、メタケイ酸テトラメチルアンモニウム、メタケイ酸テトラプロピルアンモニウムなどのケイ酸塩や、これらを酸やイオン交換樹脂に接触させることにより得られる活性シリカなどのシランなども用いることができる。
【0045】
上記加水分解基含有シランは、加水分解基含有シラン由来の縮合物がシリカ微粒子間の間隙を埋めることや屈折率を考慮して、鎖状のシリカに含まれる全ケイ素原子に対してモル比で0.005以上1.0以下の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは0.01以上0.5以下である。
【0046】
加水分解脱水縮合物は、後で詳しく製法について説明するが、少なくとも鎖状シリカと、鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物と、鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、溶媒とを含む低屈折率層用塗布前駆液を加水分解脱水縮合して得られる。
【0047】
反射防止膜の低屈折率層に含有するアルカリ土類金属塩は、例えばマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、蟻酸塩、酢酸塩などの無機酸塩及び有機酸塩が好ましい。中でもマグネシウム、カルシウムの無機酸塩及び有機酸塩が特に好ましい。また、上記アルカリ土類金属塩は、単独又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0048】
上記アルカリ土類金属塩は、低屈折率層の空隙率、表面粗さなどを考慮して、鎖状のシリカに含まれるケイ素原子に対してモル比で0.0001以上0.15未満の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.0001以上0.01未満であり、さらに好ましくは0.001以上0.005未満である。
【0049】
本発明の反射防止構造は、低屈折率層の外表面、すなわち基材側の反対側の表面に、オーバーコート層(防汚層)が設けられていてもよい。オーバーコート層としては、含フッ素ポリマーやシリコーン系ポリマーからなる層が好ましく、硬化性のポリマーであることがさらに好ましい。オーバーコート層塗布液を低屈折率層の表面に塗布する場合、低屈折率層が多孔質であるために、オーバーコート層塗布液の成分が低屈折率層に浸透して低屈折率層の屈折率を上昇させるという問題があるが、これを抑制するために、様々な手段が採用できる。例えば、低屈折率層の表面に存在する孔よりも大きな径を有する微粒子とバインダーポリマーとを含む材料を用いて低屈折率層の空隙を閉じた状態でオーバーコート層を形成することにより、低屈折率層の空隙を残存させることができ、低反射性能を発揮させることができる。あるいは、オーバーコート層用の塗布液が低屈折率層の空隙に浸入しないように塗布液の粘度を高くしてもよい。さらには、オーバーコート層用の材料の塗布量を低屈折率層の空隙の80体積%以下、好ましくは40%以下となるように調整するか、あるいは含フッ素化合物の重量平均分子量が大きいオーバーコート層用の材料や、オーバーコート塗布液中でのバインダーポリマーの分子サイズが低屈折率層の表面に存在する孔よりも大きなサイズであるオーバーコート層用の材料を用いることが挙げられる。
【0050】
本発明の反射防止構造における低屈折率層の表面粗さは6nm以下に設定する。これにより、低屈折率層の表面を緻密にして耐擦傷性を向上させるとともに、低屈折率層上に形成したオーバーコート層のバインダーポリマーが低屈折率層内に浸透することを防止できる。
【0051】
次に、本発明の反射防止構造に使用する低屈折率層用塗布組成物の製造方法について説明する。
本発明の低屈折率層用塗布組成物は、上記の鎖状シリカと、加水分解基含有シラン化合物と、アルカリ土類金属塩と、溶媒とを含む低屈折率層用塗布前駆液を加水分解脱水縮合して得られる。本発明の低屈折率層用塗布組成物の製造方法では、低屈折率層用塗布前駆液において、鎖状シリカの濃度を1質量%以上、好ましくは5質量%以上の条件で、加水分解脱水縮合を行い、続いて溶媒で希釈して、低屈折率用塗布組成物とすることが好ましい。
【0052】
本発明の低屈折率層用塗布前駆液で使用される溶剤は、実質的に鎖状シリカが安定に分散し、かつ加水分解基含有シラン、アルカリ土類金属塩が均一に溶解するものであれば特に限定されない。具体的には、水、又は、少なくとも加水分解基含有シランの加水分解に必要な水を含む有機溶剤が挙げられる。通常、市販の鎖状シリカを使用する場合は、水が分散媒である場合が多く、この場合には加水分解に必要な水量はこの分散媒で十分であり、必要に応じて有機溶剤を添加することが好ましい。水を含まない有機溶媒に分散された鎖状シリカを用いる場合には、加水分解基含有シランのモル数に対し2倍以上の水が系内に含まれるように添加するのが好ましい。
【0053】
低屈折率層用塗布前駆液で使用される有機溶剤として、具体的には、炭素数1〜6個の一価アルコール、炭素数1〜6個の二価アルコール、グリセリンなどのアルコール類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジ(n−プロピル)エーテル、ジイソプロピルエーテル、ジグライム、1,4−ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチル(n−ブチル)ケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、イソブチロニトリルなどのニトリル類;ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどが好適に用いられる。これらの中でもより好ましい溶媒は、炭素数1〜6個の一価アルコール類又はエチレングリコールモノメチルエーテルやプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルカノールエーテル類である。これらの溶媒は、本発明の効果を損なわない限り混合しても良く、他の任意の溶媒あるいは添加物を混合しても良い。
【0054】
加水分解脱水縮合は、触媒により促進させてもよい。触媒としては酸性触媒、アルカリ性触媒、有機スズ化合物などが挙げられる。特に酸性触媒が好ましく、例えば硝酸、塩酸などの鉱酸やシュウ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。
【0055】
上記の鎖状のシリカ、加水分解基含有シラン、アルカリ土類金属塩、分散媒、触媒、水を添加する順番は特に規定されない。また添加の方法も特に規定されず、一度に全量を加えても徐々に滴下してもよい。
【0056】
加水分解及び脱水縮合は、上で述べた混合物を静置あるいは攪拌することによって進行する。加水分解及び脱水縮合の反応は室温でも冷却下でも進行するが、加熱により反応を促進しても良い。この場合の温度は室温〜溶媒の沸点の範囲で、10分〜1000時間の攪拌を行うのが好ましい。
【0057】
得られた低屈折率層用塗布前駆液は、好ましくは、前記溶媒によって希釈されて所定の鎖状シリカ濃度に調整して低屈折率層用塗布組成物として用いられる。なお、本発明の低屈折率層用塗布組成物において、鎖状シリカの濃度は、厚膜化、粘度などを考慮して、0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.05質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1質量%以下の範囲にあることが、成膜性の点で好適である。
【0058】
次に、本発明の低屈折率層用塗布組成物を用いて反射防止構造を製造する方法について説明する。
本発明の低屈折率層用塗布組成物は、種々の光学基材上に形成されたハードコート層上に又は高屈折率層上に塗布する。特に、本発明の低屈折率層用塗布組成物は、耐熱性の低い光学フィルムなどに用いることで優れた機能を発揮する。そこで、以下に、耐熱性の低い光学フィルムを基材に用いた場合の本発明の低屈折率層用塗布組成物の成膜条件について説明する。
【0059】
光学フィルムとしては、透明なフィルムが好ましく、例えば、耐熱性200℃以下のトリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースアセテート系フィルム、延伸したポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ノルボネン系フィルム、ポリアリレート系フィルム及びポリスルフォン系フィルムなどを用いることができ、耐熱性150℃以下のセルローストリアセテートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム、ポリカーボネートフィルム、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムも用いることができる。また、基材として、上記のフィルムよりも厚いアクリルシートやポリカーボネートシートを用いることもできる。
【0060】
本発明では、塗布組成物は、ディッピング、スピンコーター、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレイコーター、ダイコーターなどの公知の方法を用いて塗布することができる。これらのうち連続塗布が可能なナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレイコーター、ダイコーターが好ましい。
【0061】
塗布された塗布膜は、その後光学フィルムの熱変形温度より低い温度で加熱処理して硬化させる。硬化を行う温度は、上記光学フィルムの耐熱性に依存して変更することができるが、膜の密着性、基材の変形などを考慮して、60〜150℃、好ましくは70〜130℃、より好ましくは80〜120℃である。硬化時間は、1時間以内、好ましくは10分以内、より好ましくは2分以内である。なお、上記加熱処理の他に、紫外線照射や電子線照射などを併用しても構わない。
【0062】
反射防止膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、例えば一層の反射防止膜用の場合、反射防止効果、光の位相のずれによる干渉などを考慮して、50〜1,000nmの範囲内、好ましくは50〜500nmの範囲内、より好ましくは60〜200nmの範囲内である。
【0063】
上記の方法によって得られる反射防止構造は、例えば、メガネレンズ、ゴーグル、コンタクトレンズなどのメガネ分野;車の窓、インパネメーター、ナビゲーションシステムなどの自動車分野;窓ガラスなどの住宅・建築分野;ハウスの光透過性フィルムやシートなどの農芸分野;太陽電池、光電池、レーザーなどのエネルギー分野;TVブラウン管、ノートパソコン、電子手帳、タッチパネル、液晶テレビ、液晶ディスプレイ、車載用テレビ、液晶ビデオ、プロジェクションテレビ、光ファイバー、光ディスクなどの電子情報機器分野;照明グローブ、蛍光灯、鏡、時計などの家庭用品分野;ショーケース、額、半導体リソグラフィー、コピー機器などの業務用分野;液晶ゲーム機器、パチンコ台ガラス、ゲーム機などの娯楽分野などにおいて、映り込みの防止及び/又は光透過性の向上を必要としている光透過性光学基材、特に耐熱性の低い光学フィルムなどの表面塗装に用いることが可能である。
【0064】
本発明の塗布組成物が、ある種の添加剤を含むコーティング被膜上に塗布した場合でも、十分な反射防止性能を付与できる理由は明らかではないが、塗布組成物が少量のアルカリ土類金属塩を含有することにより、製膜された時にポーラスな膜を形成するため、下地層から各種添加剤が拡散してきても、低屈折率を維持できるためであると考えられる。
【0065】
加えて、上記の低屈折率層用塗布組成物は、低温で反射防止膜とすることが可能であるため、耐熱性の低い光学フィルムなどへの形成も可能である。
【0066】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルム、と表記)として、片面に易接着処理を施された厚さ125μmのPETフィルム(東洋紡績社製、商品名:コスモシャイン(登録商標)A4100、耐熱温度約150℃、屈折率1.55相当、鉛筆硬度HB)を用いた。
【0067】
(絶対反射率、膜厚の測定)
FE−3000型反射分光計(大塚電子株式会社製)を用いて、波長250〜800nmの範囲での反射スペクトルを測定した。該波長範囲における反射率が最小の波長を反射率最小波長λbtmとし、その反射率を最低反射率Rminと定めた。膜厚は、FE−3000型反射分光計による波長と反射率との関係からシミュレーションにより求めた。
【0068】
(表面粗さ(Ra)の評価)
走査型プローブ顕微鏡(NanoScope(登録商標)III、米国デジタルインスツルメンツ社製)を用い、タッピングモードにて1μm四方の範囲を下記条件にて観測した。画像処理にあたっては一次の傾き補正を演算方向Yにて行った。
Scan rate:1.00Hz
Tip velocity:2.00μm/s
Samples/line:512
カンチレバー:NCH−10T型シリコン単結晶プローブ
【0069】
(断面の走査電子顕微鏡解析)
ミクロトーム(LEICA社製)による切削で予備断面を剖出後、試料表面に保護膜としてオスミウムとカーボンをコーティングした後に走査電子顕微鏡S−900(SEM HITACHI社製)を用いて加速電圧1.2kVにて測定した。
【0070】
(耐擦傷性試験)
表面特性試験機(井元製作所社製)を用いた。直径15mmのステンレス柱の片端にベンコット(旭化成社製)を取り付け、500gの荷重をかけながら反射防止構造上を10回往復させた後、摩擦痕を目視で観察した。反射光が変化する傷がみられなければ○、傷がみられれば×とした。
【0071】
(実施例1)
アクリル系紫外線硬化型樹脂(ライトアクリレートDPE−6A、共栄社化学社製、固形分100質量%)2.5gにエタノール2.5gを加え、室温で攪拌下、イルガキュア(商標)184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.125gと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(サイラエースS710、チッソ社製)を加え、ハードコート層用塗布組成物Aを得た。
【0072】
上記PETフィルムの易接着面に、ハードコート層用塗布組成物Aをバーコーター(米国R.D.Specialities,Inc.製の#10ロッドを装着)で塗布し、紫外線硬化装置(ウシオ電機社製、商品名:UVC−2519/1MNSC7−MS01)を用いて出力120W、コンベア速度2m/分、光源距離10mmにて紫外線照射(積算光量620mJ/cm)を行うことによって厚み5μmのハードコート層を形成した。
【0073】
平均直径が約15nmで平均長さが約170nmの、鎖状シリカの水分散液(商品名:スノーテックス(登録商標)OUP、日産化学工業社製、シリカ固形分濃度15質量%)6.67g(鎖状シリカに含まれるケイ素原子=0.0167mol)を室温で攪拌下、エタノールを13.3g、テトラエトキシシランを0.347g、10%CaCl・2HO水溶液を0.0368g(CaCl=2.5×10−5mol、ケイ素原子に対するモル比=0.0015)、1N硝酸水溶液を0.05g加えた。その後、本混合物を60℃の湯浴上で6時間攪拌した。さらに30gのイソプロピルアルコールを添加し、低屈折率層用塗布組成物Bを得た。
【0074】
塗布組成物Bを、前記ハードコート層の上に、バーコーター(米国R.D.Specialities,Inc.製の#4ロッドを装着)で塗布し、続いて熱風循環乾燥機にて、120℃、2分間の乾燥を行って、低屈折率層を形成し、反射防止構造である積層体Cを得た。この積層体Cのλbtmは520nm、Rminは0.19%と良好であった。また、低屈折率層の膜厚は110nmであった。さらに、表面粗さ(Ra)は4.0nmであり、耐擦傷性試験は○と良好であった。この反射防止構造である積層体Cの断面SEM写真を図1に示す。図1から分かるように、低屈折率層(上層)の外表面(最表層)が緻密であり、低屈折率層の内部に向って多孔質化して空隙が増えている。
【0075】
(実施例2)
10%CaCl・2HO水溶液の添加量を0.0736g(CaCl=5.0×10−5mol、ケイ素原子に対するモル比=0.003)に変更した以外は実施例1と同様に実施して、反射防止構造である積層体Dを得た。
【0076】
この積層体Dのλbtmは500nm、Rminは0.24%であった。また、低屈折率層の膜厚105nmであった。さらに、表面粗さ(Ra)は4.0nmであり、耐擦傷性試験は○と良好であった。この反射防止構造である積層体Dの断面SEM写真を図2に示す。図2から分かるように、低屈折率層(上層)の外表面(最表層)が緻密であり、低屈折率層の内部に向って多孔質化して空隙が増えている。
【0077】
(比較例1)
10%CaCl・2HO水溶液の添加量を0.736g(CaCl=5.0×10−4mol、ケイ素原子に対するモル比=0.03)に変更した以外は実施例1と同様に実施して、反射防止構造である積層体Eを得た。この積層体Eのλbtmは520nmであり、Rminは0.40%であった。また、低屈折率層の膜厚100nmであった。さらに、表面粗さ(Ra)は6.1nmであり、耐擦傷性試験は×であった。このように、積層体Eは、反射率及び耐擦傷性について不十分な性能であった。この反射防止構造である積層体Eの断面SEM写真を図3に示す。図3から分かるように、低屈折率層(上層)全体が多孔質であり、表面も粗い。
【0078】
(比較例2)
10%CaCl・2HO水溶液を添加しなかった以外は実施例1と同様に実施して、反射防止構造である積層体Fを得た。この積層体Fのλbtmは500nmであり、Rminは0.48%であった。また、低屈折率層の膜厚100nmであった。さらに、表面粗さ(Ra)は5.0nmであり、耐擦傷性試験は○であった。このように、積層体Fは、反射率について不十分な性能であった。この反射防止構造である積層体Fの断面SEM写真を図4に示す。図4から分かるように、低屈折率層(上層)全体が緻密化しており、空隙が不十分である。このため、屈折率が高い層となっている。
【0079】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態における材料、数値などは例示であり、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1の反射防止構造の断面SEM写真である。
【図2】実施例2の反射防止構造の断面SEM写真である。
【図3】比較例1の反射防止構造の断面SEM写真である。
【図4】比較例2の反射防止構造の断面SEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられたハードコート層と、前記ハードコート層上に直接又は高屈折率層を介して設けられた低屈折率層と、を具備し、前記低屈折率層が少なくとも鎖状シリカ粒子を含んでおり、前記低屈折率層の外表面の表面粗さ(Ra)が6nm以下であり、前記低屈折率層の前記外表面から内部に向かって空隙率が増加していることを特徴とする反射防止構造。
【請求項2】
前記低屈折率層が、少なくとも鎖状シリカと、前記鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物から加水分解脱水縮合して得られた加水分解脱水縮合物と、前記鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、を含むことを特徴とする請求項1記載の反射防止構造。
【請求項3】
前記低屈折率層の膜厚が50〜150nmであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の反射防止構造。
【請求項4】
基材上にハードコート層を形成する工程と、少なくとも鎖状シリカと、前記鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物と、前記鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、溶媒と、を含む低屈折率層用塗布前駆液を加水分解脱水縮合して得られた低屈折率層用塗布組成物を前記ハードコート層上に直接又は高屈折率層を介して塗布し成膜することを特徴とする反射防止構造の製造方法。
【請求項5】
少なくとも鎖状シリカと、前記鎖状シリカのケイ素原子に対する加水分解基含有シラン化合物のケイ素原子のモル比が0.005以上1.0未満である加水分解基含有シラン化合物と、前記鎖状シリカのケイ素原子に対するアルカリ土類金属原子のモル比が0.0001以上0.015未満であるアルカリ土類金属塩と、溶媒と、を含む低屈折率層用塗布前駆液を加水分解脱水縮合して得られたことを特徴とする低屈折率層用塗布組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−25077(P2007−25077A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204856(P2005−204856)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】