説明

反復配列タンパク質とフィロケイ酸塩粘土とのナノコンポジットおよびその調製

反復配列タンパク質ポリマーとフィロケイ酸塩とのナノコンポジットは、弾性の向上など、材料特性の向上が示され、縫合材料、組織足場材料および生分解性複合材料として有用なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空軍との共同研究開発協定の履行に当たりなされたものである。米国政府は、本発明を用いる一定の権利を有する。
【0002】
関連する出願の参照
本出願は、2005年8月22日に出願された米国特許仮出願第60/710,308号に対する優先権を主張するものである。
【0003】
発明の分野
本発明は、反復配列タンパク質ポリマーと層状ケイ酸塩との組み合わせから生成されるナノコンポジットに関するものである。本発明はまた、こうしたナノコンポジット材料を合成する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0004】
ポリマーと無機充填剤材料との組み合わせについては、機械的特性、熱的特性および遮断性が非修飾ポリマーよりも向上したナノコンポジット材料の製造で知られている。ナノコンポジットに関する詳細な考察は、アジャヤン,P.M.,(Ajayan,P.M.,)ナノコンポジットの科学と技術(Nanocomposite Science and Technology)(ワイリー(Wiley),2003)で確認することができる。
【0005】
また、ポリマーと、スメクタイト粘土またはフィロケイ酸塩とも呼ばれる層状ケイ酸塩との組み合わせも、ナノコンポジットの合成手段として利用されてきた。この主題に関しては、アレクサンダー(Alexandre)およびデュボイス(Dubois)(2001)ならびにピナバイア,T.J.(Pinnavaia,T.J.);ベアルG.W.(Beall,G.W.)ポリマークレイナノコンポジット(Polymer Clay Nanocomposites)ワイリー:ニューヨーク,2000年で包括的な検討がなされている。スメクタイト粘土については、グリム,R.E.(Grim,R.E.)粘土鉱物学(Clay Mineralology)第2版;マグローヒル(McGraw−Hill):ニューヨーク 1968年に記載されている。
【0006】
ポリマークレイナノコンポジットを合成するいくつかの方法については、たとえば、臼杵(Usuki)ら(1993)により最初に記載されたナイロン/粘土複合材料など、当該技術分野に記載がある。臼杵有光ら、「ナイロン6−粘土ハイブリッドの合成(Synthesis of nylon 6−clay hybrid)」、ジャーナルオブマテリアルズリサーチ(J.Mater.Res.),第8巻,No.5,1993年5月,p.1179−1184を参照のこと。このようなプロセスでは、ナイロンとモンモリロナイトとを高温で混合して、ポリマー単独に比べて材料特性の向上した層剥離型ナノコンポジットを生成する。
【0007】
天然ポリマーと、可塑剤と、層構造を持ち100グラム当たり陽イオン交換容量が30〜350ミリグラム当量である層剥離した粘土とを含む生分解性熱可塑性材料については、米国特許第6,811,599B2号に記載されている。この天然ポリマーは、多糖である。
【0008】
有機化学組成物とポリマーとで変性したスメクタイト粘土については、米国特許第6,521,690号に記載されている。
【0009】
フィロケイ酸塩と合成ホモポリマーであるポリ−L−リジンとから生成されるナノコンポジットについても、記載されてきた。(クリコリアン,V(Krikorian,V.)らジャーナルオブポリマーサイエンスB:ポリマーフィジックス(J.Polym.Sci.B:Polym.Phys.)2002,40,p.2579)。また、大豆タンパク質単離物を、ナトリウムモンモリロナイト粘土を含むナノコンポジットに組み入れることも行われてきた(チェン,P.(Chen,P.)およびジャン,L.(Zhang,L.)バイオマクロモレキュールズ(Biomacromolecules),2006,7,p.1700)。
【0010】
タンパク質は、多様な機能性をもたらすアミノ酸の複雑な配列により、ほとんどの生物の主要な構造要素を構成する。最も熱心に研究された構造タンパク質の1つであるカイコ絹は、クモの糸にも匹敵するその驚くべき機械的特性から大きな関心を集めてきた。もう1つのよく知られた構造タンパク質であるエラスチンは、大部分が体の動脈壁、肺、腸および皮膚に見られる。絹エラスチン様タンパク質(SELP)は、絹様アミノ酸とエラスチン様アミノ酸との交互ブロックからなる組換えタンパク質である。SELPのような組換えタンパク質の機械的特性は、自然界に見られる構造タンパク質よりも劣ることが多い。
【0011】
インビボ用途および体外用途で組換えタンパク質を用いるには、高温機械的挙動など、様々な特性の向上と変化とが必要かもしれない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、フィロケイ酸塩と1種または複数種の反復配列タンパク質ポリマーとのナノコンポジットを含む組成物を対象にするものである。本発明の一実施形態では、フィロケイ酸塩は、スメクタイト粘土のNaモンモリロナイト(MMT)であり、反復配列タンパク質ポリマーは、絹とエラスチンとに由来する配列を含む、SELPと呼ばれるコポリマーである。さらに本発明の別の実施形態では、反復配列タンパク質ポリマーは、タンパク質と無水コハク酸とが反応する化学修飾SELP類縁体である。本発明の別の実施形態では、フィロケイ酸塩は、アタパルガイトである。さらに本発明の別の実施形態では、添加剤、たとえば、可塑剤またはタンパク質架橋剤、あるいは、可塑剤および架橋剤をフィロケイ酸塩と反復配列タンパク質ポリマーとに加える。
【0013】
本発明の組成物は、RSPP単独に比べて材料特性の変化および/または強化を示すナノコンポジットである。
【0014】
このナノコンポジットは、フィロケイ酸塩シートがタンパク質マトリックス内に分散したものである。分散または剥離は、タンパク質の正電荷を帯びたリジン残基と負電荷を帯びたフィロケイ酸塩シートとの間の相互作用に加え、タンパク質構造内のこれ以外の極性官能基によって起こるものである。
【0015】
どのような特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、タンパク質の静電特性は、粒子間の長距離相互作用を支配し、タンパク質の水素結合特性は、タンパク質とフィロケイ酸塩材料と間の局所的相互作用を支配すると考えられる。具体的には、カチオン性タンパク質が、層剥離形態をもたらす一方で、アニオン性タンパク質残基により、MMTシートとの斥力相互作用が引き起こされ、溶液中のMMTのクラスター形成または凝集の低下の原因となり、固体の状態において少なくともある程度の不均一性が現れ得ることで、ナノコンポジットの形態に影響を与える。
【0016】
本発明のナノコンポジットは、RSPP単独の弾性率値を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%および少なくとも90%上回る弾性率値で示されるような、変化および/または向上した弾性に対応し得るものである。また、このナノコンポジットは、引張特性、形態、ゼータ電位およびまたは熱膨張係数を変化させるように設計することもできる。
【0017】
このタンパク質をベースとした、反復配列タンパク質ポリマーとフィロケイ酸塩とのナノコンポジットから、縫合材料、組織足場材料、人工組織材料または工業材料などの生分解性構造材料としての複合材料向けに好適な機械的特性を持つ反復配列タンパク質ポリマーが生成される。
【0018】
また、本発明のナノコンポジットは、水、あるいは、ナノコンポジットを製造するために用いるその他の溶媒だけでなく、ナノコンポジットの特性に合わせて選択されるその他の添加剤を様々な比率で保持することもできる。
【0019】
また、本発明は、フィロケイ酸塩と反復配列タンパク質ポリマーとからなるナノコンポジットを形成する方法も記載するものである。この方法は、フィロケイ酸塩を追加溶媒の有り無しで脱イオン水または緩衝水に懸濁させることと、フィロケイ酸塩懸濁液に反復配列タンパク質ポリマーを加えて、混合および/または超音波処理することとを含む。その結果得られる混合物を容器にキャストして、乾燥させてもよい。
【0020】
フィロケイ酸塩懸濁液に加えるSELP材料の量については、ナノコンポジットに望ましい材料特性を持たせられるように選択すればよい。たとえば、複合材料におけるSELPの量を変えることで、望ましい弾性率値または引っ張り強度値を持つナノコンポジットを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、フィロケイ酸塩材料と1種または複数種の反復配列タンパク質ポリマーとのナノコンポジットである組成物を対象にするものである。本発明の一実施形態では、フィロケイ酸塩材料は、たとえば、モンモリロナイト(MMT)粘土などのスメクタイト粘土であり、反復配列タンパク質ポリマーは、SELPと呼ばれる、絹とエラスチンとに由来する配列を有するコポリマーである。本発明のさらに別の実施形態では、反復配列タンパク質ポリマーは、化学修飾SELP類縁体であるため、このタンパク質は、無水コハク酸と反応する。
【0022】
本発明のナノコンポジットは、管理された条件下で製造される高度に層剥離した材料である。本発明は、フィロケイ酸塩と反復配列タンパク質ポリマーとのナノコンポジットを形成する方法をさらに含むものである。この方法は、溶媒の有り無しでフィロケイ酸塩粘土を水に懸濁し、このフィロケイ酸塩懸濁液に反復配列タンパク質ポリマーを加え、混合および/または超音波処理する。その結果得られる混合物を容器にキャストして、水またはその他の溶媒を種々の量で保持したまま乾燥させることができる。添加剤を用いてもよく、ナノコンポジットの特性を決めるために加えることができる。
【0023】
定義
本発明においては、以下の定義を適用するものとする。
【0024】
「弾性率」または弾性係数とは、ある材料が応力の除去後に元の寸法に戻る力を表す測定値をいい、式E=S/δで計算され、式中、Sは、応力度、δは、歪度である。本発明のナノコンポジットの弾性率は、フィロケイ酸塩材料を加えていないRSPPの弾性率を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%および少なくとも90%上回る。
【0025】
「層剥離型ナノコンポジット」とは、出発フィロケイ酸塩材料に見られる全体的にインターカレートされた層構造から、フィロケイ酸塩成分の層が分散または離れている複合材料形態をいう。「高度に層剥離したナノコンポジット」は、多くの層で分散が起きた結果、ナノコンポジットがフィロケイ酸塩とRSPPとの特徴的な相を示し得ないため、全体的に均一である形態を示す。
【0026】
どのような特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、タンパク質の静電特性は、粒子間の長距離相互作用を支配し、タンパク質の水素結合特性は、タンパク質とフィロケイ酸塩材料との間の局所的相互作用を支配すると考えられる。具体的には、カチオン性タンパク質が、層剥離形態をもたらす一方で、アニオン性タンパク質残基により、MMTシートとの斥力相互作用が引き起こされ、溶液中のMMTのクラスター形成または凝集の低下の原因となり、固体の状態において少なくともある程度の不均一性が現れ得ることで、ナノコンポジットの形態に影響を与える。
【0027】
「材料特性」とは、引っ張り強度、弾性率、形態ならびに変化および/または向上した熱的特性をいう。
【0028】
本発明のナノコンポジットは、反復配列タンパク質ポリマー単独に比べると、1種または複数種の材料特性の変化および/または向上を示すものである。
【0029】
「ナノコンポジット」とは、密着した物理的に異なる2種以上の材料からなり、2種以上の相の少なくとも1つでは、少なくとも1つの寸法がナノメートルサイズの範囲(すなわち、100ナノメートルよりも小さい)にある複合材料をいう。ナノコンポジットは相間が密着しているため、従来の複合材料に比べてこのクラスの材料に独特の特性が生じる。アジャヤン,P.M.,ナノコンポジットの科学と技術(Nanocomposite Science and Technology)(ワイリー,2003)を参照されたい。
【0030】
複合膜に用いられるような「引っ張り強度」は、引張試験で膜が破断(破損)する前に加え得る最大応力をいう。引っ張り強度は、パスカル(MPa)または重量ポンド毎平方インチ(psi)で表される。
【0031】
「破断時伸び率」は、破断歪みと呼ばれることもあり、材料が破断するときの材料の歪みのことで、パーセントで表される。引張特性には、引っ張り強度および破断時伸び率が含まれる。
【0032】
「ゼータ電位」とは、コロイド粒子の表面にイオンが集まることによって生じる電位をいう。
【0033】
反復配列タンパク質ポリマー
反復配列タンパク質ポリマー(RSPP)は、少なくとも1個の明確なドメインが配列全体を通じて2回以上の繰り返されるのであれば、どのような変性ポリペプチドであってもよい。
【0034】
本発明に好適なRSPPの少なくとも2個の明確な繰り返しドメインは、天然、化学合成および/もしくは変性、組換えタンパク質またはその混合物に由来し得る。たとえば、繰り返し配列単位は、絹、エラスチンおよびコラーゲンなどの材料を支持する天然構造の変性に由来してもよい。あるいは、繰り返し配列単位は、合成構造に由来してもよい。
【0035】
当業者であれば、本発明の反復配列タンパク質ポリマーの設計と製造を行うために変性および使用が可能な繰り返し配列単位を含む、種々の天然由来のタンパク質を理解するであろうが、そのいずれをも本明細書に用いることができる。具体的には、600種を超える繰り返しアミノ酸配列単位が、生物系に存在することが知られている。天然または合成タンパク質の繰り返しアミノ酸配列単位については、エラスチン、コラーゲン、アブダクチン、足糸、エクステンシン、鞭毛状の絹、ドラッグライン絹、グルテン高分子量サブユニット、タイチン、フィブロネクチン、ラミニン、グリアジン、接着性ポリペプチド、氷核タンパク質、ケラチンムチン、RNAポリメラーゼII、レジリンまたはその混合物を変性することで得られる。
【0036】
その全体を本明細書に援用する国際公開第04080426A1号(WO 04080426A1)に、上記の天然材料または合成材料のRSPP繰り返し配列単位について記載され、アミノ酸配列が示されている。
【0037】
反復配列タンパク質ポリマー(RSPP)の式は、以下の式を含み:
Ty[(An)(B)(A’n’x’(B’)b’(A’’n’’x’’T’y’
式中:TおよびT’はそれぞれ、約1〜約100個のアミノ酸のアミノ酸配列を含み、アミノ酸配列T’は、アミノ酸配列Tと同一または異なり;yおよびy’はそれぞれ、0〜1の整数であり、整数yは、整数yと同一または異なり;A、A’およびA’’はそれぞれ、個々に約3〜約30個のアミノ酸を含む繰り返しアミノ酸配列単位であり、アミノ酸配列Aおよびアミノ酸配列A’’は、アミノ酸配列Aと同一または異なり;n、n’およびn’’はそれぞれ、少なくとも2および250以下の整数であり;x、x’およびx’’はそれぞれ、0または少なくとも1の整数であり、整数はそれぞれ異なり、個々のアミノ酸配列繰り返し単位A、A’およびA’’においてアミノ酸が少なくとも30個になるように規定し、整数x’および整数x’’は、整数xと同一または異なり、x、x’およびx’’は、すべてが同時にゼロにはなり得ず;BおよびB’はそれぞれ、約4〜約50個のアミノ酸のアミノ酸配列を含み、アミノ配列B’は、アミノ酸配列Bと同一または異なり;bおよびb’はそれぞれ、0〜3の整数であり、整数b’は、整数bと同一または異なり;およびiは、1〜500の整数である。
【0038】
繰り返しアミノ酸配列単位は、同一の繰り返し配列単位を含んでもよく、あるいは、一緒になってブロックコポリマーまたは交互ブロックコポリマーを形成する相異なる繰り返し配列単位の組み合わせを含んでもよい。加えて、反復配列タンパク質ポリマーの個々の繰り返しアミノ酸配列単位は、約3〜約30個のアミノ酸または約3〜約8個のアミノ酸を含むものである。さらに、同じアミノ酸が、同じ繰り返し配列単位に少なくとも2回出現してもよい。
【0039】
当業者であれば、本発明の反復配列タンパク質ポリマーは、単分散または多分散し得ることをさらに理解するであろう。本発明の定義および記載において、「単分散の」ポリマーとは、明確な単一の分子量を持つポリマーである。本発明の定義および記載において、「多分散の」ポリマーとは、タンパク質分解またはその他の細分化手段を施されているか、あるいは、分子量の分布が起こるようなやり方で製造または変性されたポリマーである。
【0040】
一実施形態では、このコポリマーは、同じ単量体単位だけしかないポリマーとは異なる特性を持つ絹−エラスチンコポリマーを形成する、絹単位とエラスチン単位との組み合わせである。
【0041】
絹−エラスチンポリマー、SELP47Kを、本発明の反復配列タンパク質ポリマーとして用いてもよい。SELP47Kは、絹様結晶性ブロックとエラスチン様柔軟型ブロックとだけからなるホモブロックタンパク質ポリマーである。SELP47Kは、プロリン70%と、バリンと、アラニンとからなる変性材料であり、疎水性がある。また、反復配列タンパク質ポリマーは、SELP 47−E13、SELP 47R−3、SELP 47K−3、SELP47 E−3、SELP 67KおよびSELP 58を含んでもよい。
【0042】
本発明の一実施形態では、絹エラスチン様タンパク質の構造は、頭−(S13−尾であり、Sは、絹様アミノ酸配列GAGAGSであり、Eは、エラスチン様配列GVGVPであり、Eは、リジン残基で変性されたエラスチン様配列GKGVPである。アミノ酸の頭配列は、MDPVVQRRD WENPGVTQLN RLAAHPPFAS DPMであり、尾配列は、AGAGSGAGAM DPGRYQDLRS HHHHHHである。このコポリマーは、886個のアミノ酸を含み、780個のアミノ酸は、繰り返し配列単位にある。SELP47Kの分子量は、約70,000ダルトン、pIは、10.5である。その他のSELP変異体の特性を以下の表1に示す。
【表1】

【0043】
当業者であれば、本発明の反復配列タンパク質ポリマーを製造するための種々の方法を理解するであろうが、そのいずれをも本明細書に用いることができる。たとえば、反復配列タンパク質ポリマーについては、L アンダーソン(L Andersson)ら,ペプチドの大規模合成(Large−scale synthesis of peptides),バイオポリマーズ(Biopolymers)55(3),p.227−50(2000));遺伝子操作(たとえば、J.カペロ(J.Cappello),遺伝子改変タンパク質ポリマー(Genetically Engineered Protein Polymers),生分解性ポリマーハンドブック(Handbook of Biodegradable Polymers),ドム,A.J.(Domb,A.J.);コスト,J.(Kost,J.);ワイズマン,D.(Wiseman,D.)(編),ハーバードアカデミックパブリッシャーズ(Harvard Academic Publishers),アムステルダム;p.387−414);および酵素的合成(たとえば、CH.ウォン(CH.Wong)およびK.T.ワン(K.T.Wang),酵素的ペプチド合成の新たな展開(New Developments in Enzymatic Peptide Synthesis),エクスペリエンティア(Experientia) 47(11−12),p.1123−9(1991))など、一般に認められた化学合成方法によって製造することができる。たとえば、本発明の反復配列タンパク質ポリマーを、その開示を本明細書に援用する米国特許第5,243,038号;同第6,355,776号;および国際公開第07080426A1号に記載の方法を用いて製造することができる。別の実施例では、反復配列タンパク質ポリマーを、非リボソームペプチドシンターゼを用いて製造することができる(H.V.ドーレン(H.V.Dohren),ら,多官能ペプチドシンターゼ(Multifunctional Peptide Synthase),ケミカルレビュー(Chem.Rev.)97,p.2675−2705(1997))など。
【0044】
また、特定の絹−エラスチン反復配列タンパク質コポリマー、SELP47K、SELP37KおよびSELP27Kの組換えDNAを含む大腸菌株を、カリフォルニア州サンディエゴのプロテインポリマーテクノロジーズインク(Protein Polymer Technologies,Inc.)から取得した。SELP67K、SELP58、SELP37KおよびSELP27Kの変異体タンパク質を、上記のような標準的なSELP47K製造プロトコルを用いて流加培養液14Lで製造した。タンパク質を精製し、以下のような特徴付けを行った:14Lの培養液から収集した細胞ペースト40グラムをフレンチプレスで溶解し、続いて、ポリエチレンイミン(0.8w/v%)を加えた。遠心分離を用いて細胞抽出物を細胞残屑から分離した。SELPポリマーを、硫酸アンモニウム(飽和度30%)を用いて細胞抽出物から沈殿させ、遠心分離で収集し、水で復元した。
【0045】
変異体SELP47E、SELP47K−3、SELP47R−3およびSELP47E−3の遺伝子操作に用いたプロトコルは、特定のDNA配列に沿った複数の部位で単一塩基対変化が生じるように設計された市販のキット(クイックチェンジ(登録商標)マルチ(QUIKCHANGE(登録商標)Multi)(サイト−ディレクティドミュータジェネシスキット(Site−Directed Mutagenesis Kit))、ストラタジーンキャット(Stratagene cat)#200513)を改変したものである。標準プロトコルでは、目的のプラスミドテンプレート領域とハイブリダイゼーションして、点突然変異を取り込む単一方向の5’リン酸化プライマーの構築が必要になる。合成ごとに複数のプライマーを結合させるためのライゲーション反応を含む、サーモサイクリングを用いる。
【0046】
フィロケイ酸塩
本発明に好適な層状ケイ酸塩材料は、フィロケイ酸塩であり、しばしばスメクタイト粘土と呼ばれる。フィロケイ酸塩には、複層構造があり、層の厚さは、約3オングストロームから約10オングストロームである。二次元層はそれぞれ、八面体アルミナシートの両側に配置された2枚のシリカ四面体シートからなる。この複層は、陽イオンによって分離されている。多くのフィロケイ酸塩には、100g当たり20〜250mEqの陽イオン交換容量がある。
【0047】
層状フィロケイ酸塩は、水、あるいは、水素結合受容体および/または供与体として働くことで層間の空間を拡大できるその他の溶媒などの液体に触れると、膨張するという点で膨潤性粘土である。例として、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、サポナイト、ベイデライト、アタパルガイトおよびスチーブンサイトが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0048】
一実施形態では、フィロケイ酸塩は、ナトリウムモンモリロナイトまたは天然由来の粘土を用いてナトリウム形から得られるそのイオン交換体である。ナトリウムモンモリロナイトは、負電荷を帯びた厚さ1nmのアルミノケイ酸塩層からなり、表面に交換可能なナトリウム陽イオンがあるものである。このシートは、直径約100nmである。本発明の別の実施形態では、フィロケイ酸塩は、アタパルガイトである。
【0049】
当業者であれば、非粘土材料を除去処理してあるフィロケイ酸塩粘土を、必要に応じて、粘土スラリーを陽イオン交換樹脂に通すか、あるいは、粘土と、水と、水溶性ナトリウム化合物との混合物を生成してこの混合物を剪断することで、ナトリウム形に転化することができることを理解するであろう。
【0050】
本発明のナノコンポジットに用いたフィロケイ酸塩の重量濃度は、約0.1〜約99%、約0.1〜約50%、約1%〜約20%、約1%〜約10%および約4%〜約6%である。
【0051】
このナノコンポジットは、水、あるいは、複合材料の製造に用いるその他の溶媒を種々の量で保持することができる。たとえば、このナノコンポジットは、水またはその他の溶媒の約0.1%〜約90%、約1%〜約50%、約1%〜約25%、約1%〜約15%、約1%〜約10%、約5%〜約20%および約5%〜約10%を保持することができる。
【0052】
このナノコンポジットは、特性の調整および変更を行うための添加剤を含んでもよい。たとえば、添加剤として、塩、オニウムイオン、可塑剤、抗菌剤、強化剤、タンパク質架橋剤、増殖因子、防腐剤、ナノ粒子、ナノファイバー、カオトロピック剤および電解質が挙げられる。
【0053】
可塑剤は、特に室温でのナノコンポジット膜のガラス転移温度を引き下げ、膜の可撓性を高めるものである。こうした可塑剤の濃度は、懸濁液中の全固形分に対して約2wt%〜約10wt%である。好適な可塑剤として、ポリエチレングリコール(PEG)および単糖、多糖またはトレハロースなどの二糖が挙げられる。ナノコンポジット膜の可塑化に用いることもできる一般的な分子ファミリーには、アジピン酸誘導体、アゼイク酸誘導体、安息香酸誘導体、ジフェニル誘導体、クエン酸誘導体、エポキシド、グリコレート、イソフタル酸誘導体、マレイン酸誘導体、リン酸誘導体、フタル酸誘導体、ポリエステル、トリメリテートなどがある。具体的には、クエン酸エステル、クエン酸トリエチル、トリアセチン、フタル酸ジエチル、グリセリン、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、トレハロース、多糖類(polysaccharaides)、ポリスクシニミドおよびポリアスパラギン酸など、水溶性可塑剤を用いることができる。
【0054】
グルタルアルデヒドなどのタンパク質架橋剤を用いれば、溶剤攻撃に対して膜を安定化させるばかりでなく、有効分子量を増やすことができる。グルタルアルデヒド架橋には一般に、濃度約0.6%〜約4%で用いる。タンパク質アミン、スルフヒドリル基およびカルボキシル基と主に反応するこれ以外の同種官能性およびヘテロ二官能性タンパク質架橋剤を用いてもよい。スルフヒドリル基と反応するホモ二官能性タンパク質架橋剤として、1,4−ビス[3−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ブタン(DPDPB)、ビス[2−(N−スクシニミジル−オキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、エチレングリコールジコハク酸ジ(N−スクシニミジル)エステル(EGS)が挙げられる。通常、一級アミンと反応してアミジン結合を形成するホモ二官能性試薬は、ジメチル3,3’−ジチオプロピオンイミデートジヒドロクロリドである。アミン反応性の光反応性架橋剤には、ビス[2−(4−アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド(BASED)がある。アミン反応性のホモ二官能性架橋剤には、セバシン酸ビス(N−スクシニミジル)エステル(DSS)がある。アミン基およびスルフヒドリル基と相互作用するヘテロ二官能性架橋剤には、スルホスクシニミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸)(スルホSMCC)がある。ホモ二官能性でアミノ基に対して反応性を示すものには、ジチオビス(スクシニミジルプロピオネート)(DSP)がある。タンパク質の反応基間の距離が分からなければ、こうした分子にスペーサーアームを用いることができる。また、後で架橋または官能基化できるように、エチル−3−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)などの中間体架橋剤を用いて反応基を修飾してもよい。
【0055】
以下の実施例は、本発明の実施形態を説明する目的で加えたものであり、その制限を意図したものではない。
【実施例1】
【0056】
絹−エラスチン様タンパク質(SELP)の製造
米国特許出願公開第2004/0180027A1号に記載されているように、組換え大腸菌株を発酵させ、単分散のSELP47Kを含む細胞ペーストを調製することで、単分散の絹−エラスチンタンパク質ポリマーであるSELP47Kを製造した。この細胞ペーストを氷冷水に浸し、ホモジナイズして細胞抽出物を製造する。この細胞抽出物とポリエチレンイミンおよび濾過助剤とを混合し、7℃で1時間静置する。ポリエチレンイミンを用いて、細胞片と相当量の大腸菌タンパク質とを沈殿させる。次いで、このSELP47K含有反応混合物を、ロータリードラムバキュームフィルター(Rotary Drum Vacuum Filter)(RVDF)を用いて濾過する。次いで、SELP47Kが沈殿する飽和度25%まで、濾過したSELP47K溶液と、硫酸アンモニウムとを混合する。沈殿させたSELP47Kおよび母液と濾過助剤とを混合し、RVDFを用いて再び濾過する。SELP47Kおよび濾過助剤を含むRVDFケークと冷水とを混合し、SELP47Kを溶解させる。この沈殿および可溶化ステップを繰り返し、SELP47Kの純度プロファイルを高める。次いで、SELP溶液の導電率が50μS/cmになるまで、精製した単分散SELP47Kを水交換する。次いで、この単分散SELP溶液を10%wt/volまで濃縮し、ここで、凍結乾燥して、粉になった単分散SELP47Kタンパク質ポリマーを得る。適合性試験で必要になるまで、この材料を−70℃で保管した。
【実施例2】
【0057】
サクシニル化SELPの調製
サクシニル化SELPを、室温で無水コハク酸(152mg)により処理した25%水性アセトニトリル(10mL)にSELP(0.7g)を溶かした溶液から調製した。反応の過程でpHを7〜8に維持するため、水酸化ナトリウム溶液(3M)を滴加した。3時間後、アリコートがニンヒドリンに対して非反応性であることが判明し、有効なアミノ官能基の誘導体化が示された。このサンプルを水に対して一晩透析(3×2L)し、ここにおいて、凍結乾燥して海綿状の白色の固体(0.62g)を得た。
【実施例3】
【0058】
RSPP/フィロケイ酸塩溶液および膜の調製:
粉状のクロイサイト(登録商標)(Cloisite(登録商標))Na+モンモリロナイト(MMT)フィロケイ酸塩(サザンクレイ(Southern Clay)、陽イオン交換容量[CEC]92meq/100g)を加え、水を脱イオン化し、0.1〜1.0wt%の懸濁液を得た。次いで、この水/MMT懸濁液を、プローブソニケーターを用いて約10分間超音波処理した。ゼータ電位を測定するために、粉状のSELPをMMT懸濁液にゆっくりと加えた。薄膜の調製の場合、SELPを脱イオン水に溶解し、5wt%の溶液を得てから、MMT懸濁液に加えた。次いで、この混合物をポリスチレン秤量皿にキャストして、数日間乾燥させた。その結果得られた膜は、フリースタンディングで光学的に透明であり、直径は約5cm、各膜における固形物の総量は、約100mgであった。ナノコンポジット材料におけるMMTの最終量は、乾燥重量ベースで0%、2%、4%、6%、8%および10%であった。
【0059】
また、アタパルガイトを脱イオン水に加え、次いで、懸濁液とSELPとを混合して、粉状のフィロケイ酸塩アタパルガイトを用いたナノコンポジットも調製した。膜については、上述のように調製した。
【実施例4】
【0060】
ナノコンポジットの材料特性に特徴付けを行うための方法
ゼータ電位
ナノコンポジットの液体溶媒混合物のゼータ電位の測定を、ZetaPALS装置(ブルックヘブンインスツルメンツ社(Brookhaven Instruments Corp.)、ニューヨーク)により室温で実施した。各MMT濃度での平均値を、10回の測定から得た。水懸濁液中で0.01wt%のMMTと0.1wt%のMMTとを一晩撹拌し、次いで、数日間沈降させた。次いで、ゼータ電位測定対象のサンプルを、沈降懸濁液の上清から取り出した。SELPまたはサクシニル化したSELP粉末を懸濁液に種々の量で加えた。ゼータ電位の結果は概して、相対濃度が同じであれば、0.01wt%懸濁液と0.1wt%懸濁液との両方で類似していた。
【0061】
X線解析プロファイル
X線小角散乱プロファイルを、真空ビームパスを備えた、カメラ長1870mm、x線波長0.1366nmの国立シンクロトロン光源(National Synchrotron Light Source)の装置ビームラインX27Cと、Mar−CCD(電荷結合素子)大面積検出器(マーUSA(Mar USA)、イリノイ州エバンストン)とで収集した。広角散乱を、Rigaku(商標)の回転陽極を50kVで作動させて実施した。同装置は、スタットン(Statton(商標))カメラ(カメラ長73mm)を備え、イメージングプレートが真空下で支えられ、x線波長は0.15418nmであった。二次元パターンについては、Fit2Dソフトウェア(A.ハマースレイ(A.Hammersley)、欧州シンクロトロン放射光施設(European Synchrotron Radiation Facility))を用いて解析した。
【0062】
透過電子顕微鏡法(TEM)
透過電子顕微鏡法を、フィリップス(商標)(Philips(商標))CM200−FEG装置200kvで作動させて実施した。膜を断面寸法約25mmに切り、Spurr(エレクトロンマイクロスコピーサイエンス(Electron Microscopy Sciences)、ペンシルベニア州ハットフィールド(Hatfield))エポキシに包埋し、室温で一晩硬化させた。ダイヤモンドナイフを備えたRMC PowerTome(商標)で室温にて、横断面に顕微鏡切片作成法を実施した。切片の厚さは、100〜150nmであった。
【0063】
引張試験
引っ張り強度試験を行うために、膜を約5×35mmの細片に切った。サンプル濃度ごとに5回の試験を行った。歪み0.25%での応力歪み曲線の傾きを用いて、弾性率を計算した。また、破断時伸び率、すなわち破断歪みを、パーセント値として測定した。
【0064】
熱機械解析
熱機械解析では、熱膨張係数(CTE)について、一定応力対温度曲線におけるサンプルの長さを、サンプルの元の長さで除した商の傾きとして測定した。この傾きは、ゴム状領域(>200℃)において温度範囲2℃にわたり測定したものである。
【実施例5】
【0065】
ナノコンポジットの材料特性
X線解析
図1bは、小角および広角領域における散乱曲線を示す。MMT粉末対照物に見られるような1.2nmに近い層間隔は存在しなかった。原子間(シート内)のMMT間隔に起因するピークおよびSELPの幅の広いピークについては、1nm−1を超える散乱ベクター(q)値として確認することができない。小角範囲(q<1nm−1)では、散乱プロファイルが非常に一様であり、こうしたより長い尺度でのピークに関する証拠は確認されない。
【0066】
この結果から、タンパク質鎖がMMTシート間に順序正しくインターカレートする中間体構造が存在しないことが示される。WAXS領域(q>1nm−1)では、SELPは、結晶性ではなく、d=0.72nmにおける絹特有のIピークがないばかりでなく、絹のIIβシートの明確なピークもまったく見られない。
【0067】
TEM
図2は、SELPナノコンポジットサンプルにおいて、横断面の厚さ150nmの2%、4%および8%MMTのTEM顕微鏡写真を示す。高倍率顕微鏡写真(2b、d、f)では、SELPマトリックスにおいてMMTが十分に分散しており、個々の厚さが1nmのMMTシートを確認することができる。また、MMTの密度も、数百ミクロンの長さに沿って上から下まで膜全体に極めて均一であるように見える(図2a、c、e)。
【0068】
TEMおよびX線解析データはどちらも、高度に層剥離した構造の所見を裏付けるものである。
【0069】
引張特性
膜引張試験では、2GPaのSELP単独対照膜の弾性率(図3a)と50Mpaを超える引っ張り強度(データなし)とが示された。MMT濃度が上昇すると、添加量4〜6%まで弾性率が3GPa程度へと上昇した。弾性率は、MMT添加量が4〜6%を上回ると低下した。4%MMTでは、膜の弾性率は上昇したものの、膜は脆化し、破断時伸び率、すなわち破断歪みは、0%MMTの0.044(4.4%)から、4%MMTでは0.012(1.2%)に低下した。
【0070】
示差走査熱量測定
示差走査熱量測定(DSC)によれば、MMTを加えてもSELPガラス転移に大きな変化はなかった。Tは、MMTの量に関わりなく180℃近くにとどまり、この値は、絹とエラスチンとの乾燥膜およびファイバーから測定したTと同様の水準である。
【0071】
熱的特性
熱機械解析(TMA)を用いて、ゴム状領域(>200℃)の熱膨張係数(CTE)を判定した。CTEは、MMT量が増加すると低下し、SELP単独の対照物では94×10−3−1であったが、8%MMTを添加すると49×10−3−1にまで低下した(図3b)。DSCでは、T変化についての証拠は確認されなかったが、ガラス状領域とゴム状領域とにおけるサンプル長対温度曲線の傾きの交差から測定すると、サンプルがガラス挙動からゴム挙動へ移行する温度は、MMT濃度の上昇に伴い大きく上昇することが確認された。この温度は、SELPでは193℃であったが、10%MMT/SELPサンプルでは213℃に上昇した。
【0072】
ゼータ電位
図4は、SELP/MMTの種々の重量比におけるゼータ電位のプロットを示す。純粋なMMT懸濁液とSELP溶液とのゼータ電位をそれぞれ、SELP/MMTの相対濃度0.0001と10000とにおける対数線形プロットにプロットしている。水に加えた濃度0.1wt%のナトリウムMMTのゼータ電位は、−42mV(サザン(Southern))(商標)クレイNa、92meq/100g)である。光散乱から測定した大きさの対数正規分布の中央値で見たMMTシートの大きさは、90nmであった。SELPをより高い濃度で懸濁液に加えても、SELP/MMTの重量比が約1になるまで、MMTシートの有効径および表面電荷は、ほとんど変わりがない。表面電荷の大きさは、SELPをMMTに吸収させると小さくなり、ゼータ電位はゼロに向かい、次いで、SELP/MMTの重量比8:1で中性になる。この系のゼータ電位は、タンパク質の正電荷全体が小さい(886個の全残基のうち正電荷を帯びたリジンはわずか13個)ため、SELPを継続的加えても正電荷領域にはならない。SELP溶液(0.5〜1wt%)のゼータ電位を測定すると、+3mVであった。この剥離型複合材料のSELP/MMT重量比は、10:1〜50:1まで幅があるが、図4において、MMT電荷は、こうした比率で吸収タンパク質によって中性になることが確認できる。
【0073】
SELPsuccナノコンポジットでは、SELPナノコンポジットと同様に、ナノメートルという長さの尺度で十分な分散が見られる。X線散乱では、MMTの層間隔およびインターカレーションピークが示されない。しかしながら、より大きな長さの尺度では、SELPsuccにおいて巨視的な相分離をある程度確認することが可能であり、特に低倍率のTEM画像ではよく確認できる。図5は、SELPsuccサンプルの電子顕微鏡写真を示し、MMTとタンパク質とに富んだ領域の明瞭な領域を確認することができる。
【0074】
水性溶液では、イオン性残基がわずかであっても、SELPのMMTシートへの吸収が起こりやすいようである。しかしながら、こうした残基は、ナノコンポジットの形態を決定する際に支配的な役割を果たしている。なぜなら、アニオン性残基は、MMTシートとの斥力相互作用を引き起こし、溶液中のMMTのクラスター形成または凝集の低下の原因となり、固体の状態において不均一性が現れるためである。
【実施例6】
【0075】
RSPPの可塑化ナノコンポジット膜の調製。
【0076】
ポリエチレングリコール(PEG)およびトレハロースなどの可塑剤を用いて、膜のガラス転移温度を下げ、室温での膜の柔軟性を高めた。脱イオン水に加えたMMTとのSELP溶液を、実施例3と同様に調製し、PEG(分子量200g/mol)を、懸濁液の全固形分に対して2〜10wt%の濃度範囲で加えた。3%w/wのMMTと、2%w/wのPEGと、95%w/wのSELPとを含むサンプルを製造し、図6に示すように、これらのサンプルの引っ張り強度と、SELP単独の引っ張り強度とを比較検討した。また、このようなナノコンポジット膜の可塑化に用いることもできる一般的な分子ファミリーとして、アジピン酸誘導体、アゼイク酸誘導体、安息香酸誘導体、ジフェニル誘導体、クエン酸誘導体、エポキシド、グリコレート、イソフタル酸誘導体、マレイン酸誘導体、リン酸誘導体、フタル酸誘導体、ポリエステル、トリメリテートなどが挙げられる。具体的には、クエン酸エステル、クエン酸トリエチル、トリアセチン、フタル酸ジエチル、グリセリン、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、トレハロース、多糖類(polysaccharaides)、ポリスクシニミドおよびポリアスパラギン酸などの水溶性可塑剤を用いることができる。
【実施例7】
【0077】
架橋RSPPナノコンポジット膜の調製。
【0078】
タンパク質架橋剤を用いて、溶剤攻撃に対して膜を安定化させるとともに、有効分子量を増やした。実施例3に従って製造したSELP/MMT膜を乾燥させた後、2.5vol.%グルタルアルデヒド溶液に浸し、18時間架橋させた。グルタルアルデヒド架橋には通常、濃度約0.6%〜4%を用いた。次いで、この膜を2時間DI水に浸し、すすいでから乾燥させた。グルタルアルデヒド架橋には通常、濃度約0.6%〜約4%を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明のナノコンポジットのX線散乱曲線を示すグラフである。
【図2】本発明のナノコンポジットの低倍率と高倍率との透過電子顕微鏡(TEM)画像である。
【図3A】本発明のナノコンポジットの弾性率と熱膨張係数(CTE)とを示すグラフである。
【図3B】本発明のナノコンポジットの弾性率と熱膨張係数(CTE)とを示すグラフである。
【図4】反復配列タンパク質ポリマーの濃度上昇に伴うフィロケイ酸塩の水性懸濁液のゼータ電位を示すグラフである。
【図5】本発明のナノコンポジットの低倍率と高倍率とのTEM画像である。
【図6】本発明のナノコンポジットの応力歪み曲線を示すグラフであり、表は、曲線から算出した弾性率(GPa)と破断時伸び率(%)とを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の反復配列タンパク質ポリマーとフィロケイ酸塩とを含む、ナノコンポジット。
【請求項2】
前記反復配列タンパク質ポリマーの式が:
Ty[(An)(B)(A’n’x’(B’)b’(A’’n’’x’’T’y’を含み、
式中:
TおよびT’はそれぞれ、約1〜約100個のアミノ酸のアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列T’は、前記アミノ酸配列Tと同一または異なり;
yおよびy’はそれぞれ、0〜1の整数であり、前記整数yは、前記整数yと同一または異なり;
A、A’およびA’’はそれぞれ、個々に約3〜約30個のアミノ酸を含む繰り返し配列単位であり、前記アミノ酸配列Aおよび前記アミノ酸配列A’’は、前記アミノ酸配列Aと同一または異なり;
n、n’およびn’’は、少なくとも2であり、なおかつ250以下の整数であり;
x、x’およびx’’はそれぞれ、0または少なくとも1の整数であり、各整数は、異なり、個々の繰り返し配列単位A、A’およびA’’においてアミノ酸が少なくとも30個になるように規定し、前記整数x’および前記整数x’’は、前記整数xと同一または異なり;
BおよびB’はそれぞれ、約4〜約50個のアミノ酸のアミノ酸配列を含み、前記アミノ配列B’は、前記アミノ酸配列Bと同一または異なり;
bおよびb’はそれぞれ、0〜3の整数であり、前記整数b’は、前記整数bと同一または異なり;
iは、1〜100の整数である、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項3】
前記フィロケイ酸塩が、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、サポナイト、ベイデライト、アタパルガイトおよびスチーブンサイトから選択される、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項4】
可塑剤、タンパク質架橋剤、または可塑剤およびタンパク質架橋剤をさらに含む、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項5】
前記可塑剤が、アジピン酸誘導体、アゼイク酸誘導体、安息香酸誘導体、ジフェニル誘導体、クエン酸誘導体、エポキシド、グリコレート、イソフタル酸誘導体、マレイン酸誘導体、リン酸誘導体(derivaties)、フタル酸誘導体、ポリエステル、トリメリテート、ポリアルキレングリコール、多糖類、二糖類および単糖類から選択される、請求項4に記載のナノコンポジット。
【請求項6】
前記可塑剤が、ポリエチレングリコールまたはトレハロースであり、前記タンパク質架橋剤は、グルタルアルデヒドである、請求項4に記載のナノコンポジット。
【請求項7】
前記フィロケイ酸塩を加えていない前記反復配列タンパク質ポリマーの材料特性と比較した場合、少なくとも1つの材料特性が変化した、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項8】
前記変化した少なくとも1つの材料特性が、引っ張り強度、弾性率、形態および熱膨張係数から選択される、請求項7に記載のナノコンポジット。
【請求項9】
層剥離形態である、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項10】
全体的に均一な形態である、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項11】
前記ナノコンポジットの前記弾性率が、前記フィロケイ酸塩を加えていない前記反復配列タンパク質ポリマーの前記弾性率を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%および少なくとも90%上回る、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項12】
前記ナノコンポジットの前記膨張係数が、フィロケイ酸塩を加えていない前記反復配列タンパク質ポリマーの熱膨張係数よりも小さい、請求項8に記載のナノコンポジット。
【請求項13】
前記反復配列タンパク質ポリマーを加えていない前記フィロケイ酸塩のゼータ電位と比較した場合、前記ナノコンポジットのゼータ電位が変化している、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項14】
可塑剤を含む前記ナノコンポジットであって、前記ナノコンポジットが、可塑剤なしのナノコンポジットの破断時伸び率と比較した場合、破断時伸び率が大きい、請求項5に記載のナノコンポジット。
【請求項15】
反復配列絹−エラスチンタンパク質ポリマーまたはその誘導体とフィロケイ酸塩粘土とを含む、ナノコンポジット。
【請求項16】
前記ナノコンポジットが、縫合材料である、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項17】
前記ナノコンポジットが、縫合材料である、請求項15に記載のナノコンポジット。
【請求項18】
前記ナノコンポジットが、組織足場材料である、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項19】
前記ナノコンポジットが、組織足場材料である、請求項15に記載のナノコンポジット。
【請求項20】
前記ナノコンポジットが、生分解性構造材料である、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項21】
前記ナノコンポジットが、生分解性構造材料である、請求項15に記載のナノコンポジット。
【請求項22】
ナノコンポジットを製造する方法であって:
少なくとも1種類の反復配列タンパク質ポリマーを選択することと;
フィロケイ酸塩を選択することと;
前記フィロケイ酸塩を水性液体に加えて、懸濁液を作製することと;
前記少なくとも1種類の反復配列タンパク質ポリマーと前記懸濁液とを混合することと;
前記懸濁液と混合した前記少なくとも1種類の反復配列タンパク質ポリマーを乾燥させることとを含む、方法。
【請求項23】
前記懸濁液と混合した前記少なくとも1種類の反復配列タンパク質ポリマーは、何らかの表面にキャストする、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
可塑剤、タンパク質架橋剤、または可塑剤およびタンパク質架橋剤を加えることをさらに含む、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−528255(P2009−528255A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−531123(P2008−531123)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/032598
【国際公開番号】WO2008/024105
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【出願人】(309017312)
【Fターム(参考)】