反応化合物と安定化ポリメラーゼの乾燥組成物
【課題】一定の保存時間の後の再溶解の際に化合物の生体活性を維持する反応化合物の乾燥組成物を得るための方法の提供。
【解決手段】反応化合物の保存可能な乾燥組成物を製造する方法であって、前記方法がa) 反応化合物の液体混合物であって、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ及び第一安定化分子を含んで成る液体混合物を準備する工程、及びb) 前記液体混合物の周囲の圧力を減少させることで、前記液体混合物を乾燥する工程、を含んで成り、ここで、前記反応化合物の乾燥組成物は水溶液中で可溶であり、工程a)における前記反応化合物の液体混合物は、第二安定化分子として、アプタマーを更に含んで成ることを特徴とする、方法。
【解決手段】反応化合物の保存可能な乾燥組成物を製造する方法であって、前記方法がa) 反応化合物の液体混合物であって、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ及び第一安定化分子を含んで成る液体混合物を準備する工程、及びb) 前記液体混合物の周囲の圧力を減少させることで、前記液体混合物を乾燥する工程、を含んで成り、ここで、前記反応化合物の乾燥組成物は水溶液中で可溶であり、工程a)における前記反応化合物の液体混合物は、第二安定化分子として、アプタマーを更に含んで成ることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
生体反応化合物が、可溶化された形態で短時間でも安定していることはほとんどなく、このことは、室温での保存の場合に特に当てはまる。その結果、乾燥状態の生体反応化合物の保存能力を強化する可能性を評価する膨大な量の研究が過去に行われてきた。
【0002】
乾燥した反応化合物の分野における従来技術についての大量の文書に基づいて、当業者は、例えばポリメラーゼの生体活性を再溶解の際に確保するために、少なくとも1つの安定化用添加物を使用することが必須であろうことを確信している。
【0003】
WO2008/36544は、乾燥組成物を提供するためのいわゆる充填材の使用について記載しており、前記充填材とは、例えば、炭水化物、例えばFICOLL(登録商標)、スクロース、グルコース、トレハロース、メレジトース、DEXTRAN(登録商標)又はマンニトール、タンパク質、例えばBSA、ゼラチン又はコラーゲン及びポリマー、例えばPEG又はポリビニルピロリドン(PVP)である。生物学的な試薬を安定化するためのガラス形成充填材は、更に、US 5,098,893, US 5,200,399及びUS 5,240,843に記載されている。充填材であるFICOLL(登録商標)は、US 3,300,474で開示されているコポリマーである。
【0004】
更に、液体反応混合物を乾燥させる方法は、ほとんどの場合、実際には非常に複雑であり、そのため、乾燥させる手法は要求が厳しく、そして費用がかかる。文献では、フリーズドライ(US 5,593,824)又は真空乾燥(US 5,565,318)を用いて炭水化物ポリマーマトリックス中の生体材料を乾燥している。凍結乾燥又はフリーズドライは、従来技術の水準を示す多くの文献で開示されている、タンパク質の保存について非常に確立された技術である(例えば、Passot, S., et al., Pharmaceutical Development and Technology 12 (2007) 543-553; Carpenter, J.F., et al., Pharmaceutical Research 14(8) (1997) 969-975; Schwegman, J.J., et al., Pharmaceutical Development and Technology 10 (2005) 151-173)。
【0005】
Taqポリメラーゼの遺伝子組換えを含んで成るシークエンシングアプリケーションのための異なる反応混合物の乾燥条件の選択は、US 7,407,747に記載されている。使用した乾燥手順は、フリーズドライ、追加の乾燥を行わないスピードバック、追加の乾燥を行うスピードバック、及び室温での風乾である。この特許における反応混合物は、種々の凍結保存物質、例えばトレハロース、スクロース、グルコース及びトリメチルアミン−N−オキシド(TMANO)について試験された。更に、凍結乾燥物質を全く用いないでの実験も行われたが、それらの反応混合物の経時的な安定性に関するデータは開示されなかった。8週間の間に限って良好な安定性が報告されたが、これはトレハロース及び牛血清アルブミン(BSA)を含んで成る反応混合物についてのみであった。
【0006】
更に、US 7,407,747は、異なるシークエンシング混合物中のポリメラーゼを用いた実験を開示しており、前記シークエンシング混合物は、緩衝液、ヌクレオチド、蛍光標識されたヌクレオチド及びプライマーの異なる組成物を含んで成るものである。リアルタイムPCR増幅のための混合物、すなわち緩衝液、ヌクレオチド、プライマー及び検出プローブを含んで成る混合物中のポリメラーゼが、そのポリメラーゼ活性に影響を与えることなく乾燥され、そして保存される場合についての開示はない。
【0007】
本発明は、Taq DNAポリメラーゼをリアルタイムPCR混合物中で乾燥させる方法を提供する。一方、得られた乾燥組成物は、Taq DNAポリメラーゼのPCR性能に影響を及ぼすことなく保存することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリメラーゼを含んで成る反応化合物の乾燥組成物を提供することは、特に、ある一定時間前記乾燥組成物を保存することが意図されており、そして前記乾燥組成物のその後の再溶解がPCR応用の際にポリメラーゼ活性に影響を及ぼすことなく実行可能でなければならない場合に複雑な課題である。
【0009】
異なる成分を含んで成る液体溶液を乾燥する間、前記成分の濃度は断続して増加するため、その性質は大幅に変化する。一方、その溶液の正確な挙動はその成分及び乾燥手順に依拠する。当業者は、例えば、高い塩濃度がタンパク質を不安定化し、そして緩衝液は、高濃度でそれらの挙動が変化し、その結果、極端なpH値が生じうるであろうことを理解するであろう。
【0010】
前述のとおり、当業者は、乾燥時のポリメラーゼの安定性を増大させるために、ポリメラーゼを含んで成る溶液に添加することができる幾つかの化合物について理解している。更に、当業者は、ポリメラーゼ混合物の成分が変化する場合に、あるポリメラーゼについて同一の乾燥結果を得ることを期待しないであろう。
【0011】
例えば、US 7,407,747はTaqポリメラーゼが、緩衝液、ヌクレオチド、BSA及びトレハロースから成る混合物中で乾燥できること、そして当該ポリメラーゼが8週間の間活性を維持したことを開示している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、PCRに利用するためのポリメラーゼの乾燥組成物であって、緩衝液とヌクレオチドだけでなく、完全な検出混合物を形成するための追加の成分、すなわちプライマーあるいはプライマーとプローブをも含んで成る組成物を提供する方法が開発された。
【0013】
ポリメラーゼ、ヌクレオチド及び安定化分子を含んで成る液体混合物は、ポリメラーゼ活性に影響を及ぼすことなく乾燥され、そして保存されうること、一方、追加的にプライマーが当該液体混合物に添加された場合には当該ポリメラーゼ活性は失われたこと、が認められた。より具体的には、プライマーの添加に起因して、乾燥手順の直後に再溶解を行った場合、PCR性能は既に失われていた。
【0014】
乾燥すべき液体混合物が追加的にプライマーを含んでもよいようにTaqポリメラーゼの安定性を増大させることの技術的な問題は、本発明により解決された。
【0015】
驚くべきことに、アプタマーを液体溶液に添加することで、Taqポリメラーゼの安定性が増強されることが明らかとなった。かかる安定性は、乾燥させるだけでなく、乾燥された混合物を保存するのにも十分なほど良好であった。
【0016】
その結果、本発明の第一の態様は、反応化合物の保存可能な乾燥組成物を製造する方法であって、前記方法が
a) 反応化合物の液体混合物であって、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ及び第一安定化分子を含んで成る液体混合物を準備する工程、及び
b) 前記液体混合物の周囲の圧力を減少させることで、前記液体混合物を乾燥する工程、
を含んで成り、
ここで、前記反応化合物の乾燥組成物は水溶液中で可溶であり、工程a)における前記反応化合物の乾燥組成物は、第二安定化分子として、アプタマーを更に含んで成ることを特徴とする、方法である。
【0017】
本発明を通じて、用語「乾燥組成物」とは、溶媒、好ましくは水性溶媒の量が5重量%未満に減少していることを強調するために使用される。
【0018】
用語「保存可能な乾燥組成物」とは、本発明を通じて、当該乾燥組成物が、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも4週間、より好ましくは8週間超、ポリメラーゼ活性に影響を及ぼすことなく安定でなければならないことを意味する。
【0019】
本発明における「安定化分子」とは、ポリメラーゼのPCR活性が、当該ポリメラーゼを含んで成る水溶液を乾燥させる際に失われることに対し、当該ポリメラーゼの耐性を向上させる分子である。
【0020】
本発明の別の態様は、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ、第一安定化分子及び第二安定化分子としてのアプタマーを含んで成る反応化合物の乾燥組成物であって、少なくとも1週間室温で保存した後、再溶解の際にPCR活性を提供する組成物である。
【0021】
本発明の更に別の態様は、PCR増幅を実施する方法であって、
a) 水溶液を添加することで本発明の反応化合物の乾燥組成物を再溶解する工程、及び
b) 再溶解された反応化合物を含んで成る水溶液を用いてサーモサイクリングプロトコールを実施する工程、
を含んで成る方法である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Taqポリメラーゼ及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図2】Taqポリメラーゼ及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図3】Taqポリメラーゼ及びBSAを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図4】Taqポリメラーゼ及びBSAを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図5】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図6】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図7】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びBSAを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図8】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びBSAを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図9】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図10】Taqポリメラーゼ、21-41-Pアプタマー及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図11】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図12】Taqポリメラーゼ、21-41-Pアプタマー及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図13】乾燥プラスミドDNA、Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図14】乾燥プラスミドDNA、Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【0023】
本発明の詳細な説明
本発明の第一の態様は、反応化合物の保存可能な乾燥組成物を提供する方法であって、前記方法が
a) 反応化合物の液体混合物であって、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ及び第一安定化分子を含んで成る液体混合物を準備する工程、及び
b) 前記液体混合物の周囲の圧力を減少させることで、前記液体混合物を乾燥する工程、
を含んで成り、
ここで、前記反応化合物の乾燥組成物は水溶液中で可溶であり、工程a)における前記反応化合物の乾燥組成物は、第二安定化分子として、アプタマーを更に含んで成ることを特徴とする、方法である。
【0024】
複数の分子群から、Taq DNAポリメラーゼのための第一安定化分子を選択することができる。
【0025】
本発明の好ましい方法は、前記第一安定化分子がタンパク質であり、好ましくは前記安定化分子がカゼイン又はBSAである方法である。
【0026】
本発明の別の好ましい方法は、前記第一安定化分子が炭水化物であり、好ましくは前記安定化分子がトレハロース又はマンニトールである方法である。
【0027】
本発明の更に別の好ましい方法は、前記第一安定化分子が合成ポリマーであり、好ましくは前記安定化分子がPEG又はポリビニルピロリドン(PVP)である方法である。
【0028】
本発明の驚くべき知見は、別の分子群、すなわちアプタマー群が、ポリメラーゼについての安定化作用を提供することができる点にある。アプタマーは、溶液中でポリメラーゼに結合することが知られており、一方、いわゆる「ホットスタート」特性はそのポリメラーゼに追加される(例えば、US 5,475,096及びUS 5,270,163)。要約すると、その短いオリゴヌクレオチド(アプタマー)は、ポリメラーゼがブロックされるようにポリメラーゼに結合する。温度がPCR増幅のサーモサイクリングプロトコールの間にある閾値超に増大する場合、アプタマーはポリメラーゼを放出し、そしてポリメラーゼ活性が生じる。その結果、「ホットスタート」PCRにおいて、ポリメラーゼ結合アプタマーを使用することで、反応温度がプライマーアニーリングにとっての高ストリンジェンシーを発揮するのに十分である間、ポリメラーゼの不所望な低温活性を縛り付ける。
【0029】
前述のとおり、緩衝液、ヌクレオチド及び第一安定化分子を含んで成る混合物内のTaq DNAポリメラーゼは、ポリメラーゼ活性を変化させることなく乾燥し、保存し、そして再溶解することができた。しかし、当該混合物にプライマーを添加した後、ポリメラーゼ活性は乾燥直後に失われた。当該溶液にアプタマーを添加した後に限って、ポリメラーゼ活性を再び維持することができた。
【0030】
理論に拘束されるものではないが、プライマーの3'末端にあるヒドロキシル基が、PCR活性にとって重要なポリメラーゼの少なくともそれらのアミノ酸に影響を及ぼすと予想される。この理論は追加実験で試験された(データは示さない)。ここで、プライマーは、リン酸化プリマーによって置換されており、PCR活性は、乾燥後に解析した。リン酸化プライマーはポリメラーゼに影響を及ぼさず、そして反応化合物の液体混合物は、アプタマーを追加する必要なしに乾燥することができたことが判明した。
【0031】
Taq DNAポリメラーゼの場合、緩衝液、ヌクレオチド及び安定化分子としての、例えばカゼインを含んで成る混合物は、ポリメラーゼの安定化に影響を及ぼすことなく、乾燥し、保存し、そして再溶解することができた(実施例を参照のこと)。プライマーを当該混合物に添加した後、そのPCR性能は乾燥直後に失われた(データは示さない。実施例は保存後の結果のみを示す)。その結果、乾燥の際にTaqポリメラーゼを安定化する要件は、液体混合物へのプライマーの添加に起因して増大する。
【0032】
追加実験により、アプタマーは、第一安定化分子無しでは、ポリメラーゼ活性を維持するのに十分な安定性を提供することができなかったことが示された(データは示さない)。すなわち、第一安定化分子とアプタマーとの組み合わせは、緩衝液、ヌクレオチド及びプライマーを含んで成る混合物中でTaq DNAポリメラーゼを乾燥し、そして保存することを可能にする。
【0033】
本発明の好ましい方法において、前記アプタマーは、配列番号9又は配列番号10の配列を有するアプタマーである。
【0034】
理論に拘束されるものではないが、アプタマーは、Taq DNAポリメラーゼに結合するそれらの性能に起因して、高塩濃度、極端なpH値、そしてプライマーのヒドロキシル基に関するポリメラーゼの耐性を増大させる。
【0035】
本発明の別の好ましい態様において、前記反応化合物の液体混合物は、マグネシウム塩を含んで成る緩衝水溶液である。
【0036】
本発明のより好ましい方法において、前記反応化合物の液体混合物は、トリス又はヘペスによって緩衝化されている。
【0037】
本発明の別のより好ましい態様において、前記反応化合物の液体混合物は、塩化カリウムを更に含んで成る。
【0038】
本発明の方法の工程b)の乾燥手順に関して、複数のワークフローが適している。通常、当業者は、液体混合物を乾燥させるのに必要な時間が、前記液体混合物の周囲の圧力と相関していることを認識する。本発明においては、当該圧力は、最低圧力値にまで低下させられるべきであることが、少なくとも一工程のみではなく認められた。この圧力の違いが大きすぎると、液体混合物は当該混合物を含む容器との接触を失い、その結果、完全な再溶解がもはや実現できなくなる。
【0039】
本発明の好ましい方法において、前記液体混合物の周囲の圧力は、工程b)において、600mbar未満、好ましくは400mbar未満、最も好ましくは200mbarに減少される。
【0040】
本発明のより好ましい方法において、かかる減圧は、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも10時間、最も好ましくは16時間維持される。
【0041】
研究のプラクティスについての適合性に基づいて、前記液体混合物を200mbarで一晩保存するのが好ましい。
【0042】
乾燥組成物を製造するのにかかる時間を減少させるために、本発明の方法の乾燥工程b)を二工程で、すなわち、相対的に高い圧力による第一工程、続いて、より低い圧力での第二工程で実施することが可能である。
【0043】
本発明の別の好ましい態様において、圧力は、工程b)の第二部分で更に減少され、この更に減少した圧力は200mbar未満、好ましくは100mbar未満、最も好ましくは50mbarである。
【0044】
本発明の更に別の好ましい方法において、かかる更に減少した圧量は、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも3時間、最も好ましくは4時間維持される。
【0045】
好ましい2段階の乾燥ワークフローは、200mbarで10時間の第一工程、続く、50mbarで4時間の第二工程、を含んで成る。
【0046】
本発明の更に別の好ましい方法において、工程b)における前記乾燥は、室温で実施される。
【0047】
本発明において、温度をある高い値又は低い値に調節することは、再溶解の際のPCR活性に影響を及ぼさないことが明らかになった。すなわち、前記乾燥は室温で実施するのが好ましい。
【0048】
リアルタイムPCRのための完全な乾燥組成物を提供するために、検出プローブを反応化合物の液体混合物に添加することも必要である。本発明においては、反応化合物の液体混合物に対し検出プローブを添加することは、再溶解の際のPCR活性に影響を及ぼさないことが認められた。Taq DNAポリメラーゼは、前記液体混合物が、検出プローブを含んでいるがプライマーを含まない場合、アプタマーを添加しなくても、再溶解の際にそのPCR活性を維持したことは注目すべきものである(データは示さない)。
【0049】
本発明の好ましい方法において、前記反応化合物の液体混合物は、更に検出プローブを含んで成る。
【0050】
本発明のより好ましい方法において、前記検出プローブは、蛍光標識プローブ、好ましくはハイブリダイゼーションプローブ又は加水分解プローブである。
【0051】
リアルタイムPCRは通常蛍光検出に基づいて実施されるので、蛍光標識プローブを使用するのが好ましい。主要な3つのプローブフォーマットを以下簡単に説明する。
【0052】
a) 加水分解プローブフォーマット(TaqMan(登録商標)フォーマット):
一本鎖ハイブリダイゼーションプローブは、2つの成分で標識される。第一の成分が適当な波長の光で励起されると、吸収されたエネルギーは、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に従い、第二の成分、いわゆるクエンチャーへと移動される。PCR反応のアニーリング工程の間、ハイブリダイゼーションプローブは標的DNAに結合し、そしてその後の伸長段階の間にTaqポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって分解される。その結果、励起した蛍光成分及びクエンチャーは、空間的に互いに分離され、その結果、第一成分の蛍光放射を測定することができる(US 5,210,015, US 5,538,848, US 5,487,972, US 5,804,375)。
【0053】
b) 分子ビーコン:
これらのハイブリダイゼーションプローブは、第一の成分及びクエンチャーでも標識され、当該標識は、好ましくは当該プローブの両末端に位置する。プローブの二次構造の結果として、両成分は溶液中空間的に近傍にある。標的核酸にハイブリダイゼーションした後、両成分は互いに分離し、その結果、適当な波長光による励起の後、第一成分の蛍光放射を測定することができる(US5,118,801)。
【0054】
c) FRETハイブリダイゼーションプローブ:
このフォーマットは、同時に使用され、且つ増幅された標的核酸の同一の鎖の隣接部位に対して相補的である2つの一本鎖ハイブリダイゼーションプローブによって特徴付けられる。両プローブは、異なる蛍光成分で標識される。適当な波長光で励起されると、第一成分は、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に従い、吸収したエネルギーを第二の成分へと移動させ、その結果、両ハイブリダイゼーションプローブが検出すべき標的分子の隣接部位と結合する場合に第二成分の蛍光放出を測定できるようになる。あるいは、FRETアクセプター成分の蛍光の増大をモニタリングするために、ハイブリダイゼーションイベントの定量的な測定として、FRETドナー成分の蛍光の増大をモニタリングすることもできる(WO 97/46707; WO 97/46712; WO 97/46714)。
【0055】
多くのPCRの応用において、PCR増幅自体が機能したか否かを評価するために、コントロールメカニズムを組み込むことが望ましい。通常、これは、サンプルに対しスパイクした鋳型DNA(内部標準)又は異なる容器内の鋳型DNA(外部標準)を用いて実施される。本発明を通じて、両択一的手段はポジティブコントロールという用語で要約される。
【0056】
本発明の好ましい方法において、前記反応化合物の液体混合物は、更に鋳型DNAを含んで成る。
【0057】
本発明のより好ましい方法において、前記鋳型DNAは、ポジティブコントロールとして使用される。
【0058】
前述のとおり、本発明の範囲内での実験は、核酸の3'末端にあるヒドロキシル基がTaq DNAポリメラーゼに影響を及ぼすことを示唆している。すなわち、液体混合物に添加された鋳型DNAも、再溶解後のPCR性能に負の影響を及ぼすことがある。しかし、通常のプライマー濃度と比較して遥かに低い鋳型DNA濃度に恐らく基づくと、鋳型DNAを液体混合物に添加することは、再溶解後のPCR性能に影響を及ぼさないことが認められた。
【0059】
本発明のより好ましい方法において、前記鋳型DNAは環状プラスミドである。
【0060】
かかる環状プラスミドは3'ヒドロキシル基を何ら有しておらず、そのため、ヒドロキシル基の負の影響を更にもっと軽減することができる。
【0061】
本発明の別の態様は、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ、第一安定化分子及び第二安定化分子としてのアプタマーを含んで成る反応化合物の乾燥組成物であって、室温で少なくとも1週間保存した後、再溶解の際にPCR活性を提供する乾燥組成物である。
【0062】
本発明のより好ましい反応化合物の乾燥組成物において、前記PCR活性は、少なくとも4週間、より好ましくは少なくとも8週間、室温での保存後の再溶解の際に提供される。
【0063】
長期の安定性を評価するために複数の実験を行ったところ、例えば、Taq DNAポリメラーゼとアプタマーNTQ12-46A(配列番号9)、そしてプライマーとプローブを含んで成る反応化合物の乾燥組成物は、8週間室温で保存した後、再溶解の際にPCR活性を提供した(データは示さない)。
【0064】
本発明の好ましい反応化合物の乾燥組成物は、検出プローブを更に含んで成る乾燥組成物である。
【0065】
本発明のより好ましい反応混合物の乾燥組成物において、前記検出プローブは、蛍光標識プローブ、好ましくはハイブリダイゼーションプローブ又は加水分解プローブである。
【0066】
本発明の別の好ましい反応化合物の乾燥組成物は、前記第一安定化分子がタンパク質であり、好ましくは前記安定化分子がカゼイン又はBSAである、乾燥組成物である。
【0067】
本発明の更に別の好ましい反応化合物の乾燥組成物は、前記第一安定化分子が炭水化物であり、好ましくは前記安定化分子がトレハロース又はマンニトールである、乾燥組成物である。
【0068】
本発明の更に別の好ましい組成物は、前記安定化分子が合成ポリマーであり、好ましくは前記安定化分子がPEG又はポリビニルピロリドン(PVP)である、乾燥組成物である。
【0069】
本発明の別の好ましい反応化合物の乾燥組成物において、前記アプタマーは、配列番号9又は配列番号10の配列を有するアプタマーである。
【0070】
本発明の更に別の好ましい乾燥組成物において、前記反応化合物の液体混合物は、更に鋳型DNAを含んで成る。
【0071】
本発明のより好ましい反応化合物の乾燥組成物において、前記鋳型DNAはポジティブコントロールである。
【0072】
本発明の別のより好ましい反応化合物の乾燥組成物において、前記鋳型DNAは環状プラスミドである。
【0073】
本発明の更に別の態様は、PCR増幅を実施するための方法であって、
a) 水溶液を添加することで本発明の反応化合物の乾燥組成物を再溶解する工程、及び
b) 再溶解された反応化合物を含んで成る水溶液を用いてサーモサイクリングプロトコールを実施する工程、
を含んで成る方法である。
【0074】
本発明の反応化合物の乾燥組成物は、特別な補助手段を用いることなく、単に水溶液を添加することで溶解することができる。しかし、溶解を補助し、そして溶解時間を減少させるために、機械的刺激を利用することが好ましいこともある。
【0075】
本発明のPCR増幅方法を実施するための好ましい方法において、工程b)の前記再溶解は、混合物の振盪によって補助される。
【0076】
本発明のPCR増幅を実施するための別の好ましい方法において、工程b)の前記再溶解は、混合物をボルテックスにかけることで補助される。
【0077】
前記反応化合物の乾燥組成物に添加する水はわずかですむため、PCR増幅を実施するための2つの択一的手段が本発明の本発明の範囲内に含まれる。第一の選択肢において、乾燥組成物は水溶液で再溶解され、そして解析される標的核酸を含んで成るサンプルはその後添加される。第二の好ましい選択肢において、乾燥組成物は、増幅される標的核酸を含んで成る水溶液を用いて直接再溶解される。
【0078】
本発明の好ましい方法において、前記水溶液は、サーモサイクリングプロトコールによって増幅されるべき標的核酸を含んで成る。
【0079】
以下の実施例、配列表及び図面は、本発明の理解を助けるために提供される。これらの真の範囲は特許請求の範囲に記載されている。記載した手順の改変は、本発明の精神を逸脱することなく実施可能であることは理解されたい。
【実施例】
【0080】
実施例1
Taq DNAポリメラーゼの安定性
本実施例は、アプタマー無しのTaq DNAポリメラーゼの液体混合物の結果を要約する。保存及び再溶解後のDNAポリメラーゼのPCR性能を、2種類の異なるパラメーターを用いて、検出ミックスを使用して又は使用せずに(プライマーとプローブを使用又は不使用)分析した。液体混合物を200mbarにて16時間乾燥しそして37℃で1週間保存した後、再溶解した。対照として乾燥しない液体混合物も使用した(以降は参照液体と称する)。
【0081】
全混合物を384マイクロタイタープレート(Roche Diagnostic GmbH)のウェル内に提供し、再溶解後にLightCycler(登録商標)480(Roche Diagnostic GmbH)上で次の反応プロトコールを使ってPCR反応を実施した。
・ 95℃で5分
・ 95℃で10秒、60℃で30秒、72℃で1秒(45回)
・ 40℃で10秒。
【0082】
カゼインを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 mg/mL カゼイン及び0.3 U/μL Taq DNAポリメラーゼ(グリセロール不含有)。
【0083】
BSAを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4 mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 mg/mL BSA及び0.3 U/μL Taq DNAポリメラーゼ(グリセロール不含有)。
【0084】
qPCR Eamst検出ミックス:
10 mM Tris pH 8.3, 0.05%Brij, 7.1 μM正プライマー(配列番号1), 7.1μM逆プライマー(配列番号2)及び0.6μM Fam-Tamraプローブ(配列番号3)。
【0085】
qPCR Wsebi検出ミックス:
10 mM Tris pH 8.3, 0.05%Brij, 7.1μM正プライマー(配列番号4),7.1μM逆プライマー(配列番号5)及び0.6μM Fam-Tamraプローブ(配列番号6)。
【0086】
下記の混合物を調製し、マイクロタイタープレート上で乾燥し、その際に各混合物を前記マイクロタイタープレート上に3回置いた:
【0087】
【表1】
【0088】
その後のPCR増幅のために、下記のピペット注入スキームに従って溶液を添加することにより、乾燥組成物を再溶解した。参照液体は、マイクロタイタープレートの空のウエルにPCR実施前に添加した。プラスミドは4×10e4コピー/μLの濃度でピペット注入した。
【0089】
【表2】
【0090】
結果:
本実施例のPCR増幅曲線は図1〜図4に要約され、それらの図中では検出ミックスを使用しない曲線は“1”と表示され、検出ミックスを使用した曲線は“2”と表示され、そして参照液体の曲線は“3”と表示される。更に、次の表は図1〜4の曲線から得られたPCR値を要約する。
【0091】
【表3】
【0092】
本実施例から、検出ミックス無しで乾燥したTaq DNAポリメラーゼの性能が参照液体のものと同等であることは明白である。他方で、Taq DNAポリメラーゼを検出ミックスと共に乾燥した場合、再溶解後のPCR性能はもはや許容できない。
【0093】
Wsebiパラメーターに関しては、検出ミックスと共に乾燥した場合にはいずれも増幅が検出不可能である。Eamstパラメーターに関しては、同様なクロッシングポイント(crossing point)がまだ検出可能であるが、蛍光値はもはや許容できない。
【0094】
実施例2
アプタマーNTQ12-46Aを有するTaq DNAポリメラーゼの安定性
本実施例は、アプタマーNTQ12-46A(配列番号9)を有するTaq DNAポリメラーゼの液体混合物の結果を要約する。アプタマーが結合しているTaq DNAポリメラーゼを、本実施例を通してAptaTaq DNAポリメラーゼNTQ12-46Aと称する。
【0095】
保存及び再溶解後のポリメラーゼのPCR性能を、検出ミックスを用いて又は用いずに(プライマーとプローブを使用又は不使用)2つの異なるパラメーターを使って分析した。液体混合物を200mbarで16時間乾燥しそして37℃で1週間保存した後、再溶解した。対照として乾燥しない液体混合物も使用した(下記では参照液体と称する)。
【0096】
全ての混合物を384マイクロタイタープレート(Roche Diagnostic GmbH)のウェル中に入れ、再溶解後に次の反応プロトコールを使ってLightCycler(登録商標)480(Roche Diagnostic GmbH)上でPCR反応を実施した。
・ 95℃で5分
・ 95℃で10秒、60℃で30秒及び72℃で1秒(45×)
・ 40℃で10秒。
【0097】
カゼインを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 g/L カゼイン及び0.3 U/μL AptaTaq DNAポリメラーゼ〔グリセロール不含有;0.65ピコモルのアプタマー(NTQ12-46A;配列番号9)/1UのTaq DNAポリメラーゼ〕。
【0098】
BSAを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4 mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 mg/mL BSA及び0.3 U/μL AptaTaq DNAポリメラーゼ〔グリセロール不含有;0.65ピコモルのアプタマー(NTQ12-46A;配列番号9)/1UのTaq DNAポリメラーゼ〕。
【0099】
qPCR Eamst検出ミックス及びqPCR Wsebi検出ミックス:
これらの検出ミックスは実施例1のものと同一である。
【0100】
次の混合物を調製しそしてマイクロタイタープレート上で乾燥する一方、各混合物を前記マイクロタイタープレート上に3回置いた:
【0101】
【表4】
【0102】
その後のPCR増幅のために、下記のピペット注入スキームに従って溶液を添加することにより、乾燥組成物を再溶解した。参照液体は、PCR反応前にマイクロタイタープレートの空のウェルに添加した。プラスミドは4×10e4コピー/μLの濃度でピペット注入した。
【0103】
【表5】
【0104】
結果:
本実施例のPCR増幅曲線は図5〜図8に要約され、それらの図中では検出ミックス無しの曲線は“1”と表示され、検出ミックス無しの曲線は“2”と表示され、そして参照液体の曲線は“3”と表示される。更に、次の表は図5〜8の曲線から得られたPCR値を要約する。
【0105】
【表6】
【0106】
アプタマーの安定化性質を確かめるためには、図5〜8の増幅曲線を図1〜4と比較し、より正確には図5を図1と、図6を図2と、図7を図3と、図8を図4と比較する必要がある。図1〜4が乾燥後に大幅に減少した増幅曲線を示し、一方で図5〜8が乾燥後にごくわずかだけ異なった曲線を示すことは明白である。
【0107】
本実施例から、検出ミックスを使用して又は使用せずに乾燥したTaq DNAポリメラーゼの性能が、乾燥組成物の再溶解後にもまだ許容できることは明白である。
【0108】
実施例3
アプタマーNTQ12-46Aを有するTaq DNAポリメラーゼとアプタマー21-42-Pを有するTaq DNAポリメラーゼとの比較
本実施例では、アプタマーNTQ12-46A(配列番号9)を有するTaq DNAポリメラーゼの液体混合物のPCR性能を、アプタマー21-42-P(配列番号10)を有するものと比較する。本実施例を通して、アプタマーを有するTaq DNAポリメラーゼをそれぞれAptaTaq DNAポリメラーゼ NTQ12-46A及びAptaTaq DNAポリメラーゼ 21-42-Pと称する。
【0109】
各アプタマーを有するポリメラーゼのPCR性能を、2つの異なるパラメーターを使って、検出ミックスを使用して(プライマーとプローブを使用して)保存及び再溶解後に分析した。液体混合物を200mbarにて16時間乾燥しそして37℃で1週間保存した後、再溶解した。対照として乾燥しない液体混合物も使用した(下記では参照液体と称する)。
【0110】
全ての混合物を384マイクロタイタープレート(Roche Diagnostic GmbH)のウェル中に入れ、再溶解後に次の反応プロトコールを使ってLightCycler(登録商標)480(Roche Diagnostic GmbH)上でPCR反応を実施した。
・ 95℃で5分
・ 95℃で10秒、60℃で30秒、72℃で1秒(45回)
・ 40℃で10秒。
【0111】
カゼイン+アプタマーNTQ21-46Aを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 g/L カゼイン及び0.3 U/μL AptaTaq DNAポリメラーゼ〔グリセロール不含有;0.65ピコモルのアプタマーNTQ12-46A(配列番号9)/1UのTaq DNAポリメラーゼ〕。
【0112】
カゼイン+アプタマー21-42-Pを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4 mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 g/L カゼイン,0.8 U /μL AptaTaq DNAポリメラーゼ〔グリセロール不含有;0.5μMのアプタマー21-42-P(配列番号10)〕。
qPCR Eamst検出ミックス及びqPCR Wsebi検出ミックス:
これらの検出ミックスは実施例1のものと同一である。
【0113】
次の混合物を調製しそしてマイクロタイタープレート上で乾燥する一方、各々の混合物を前記マイクロタイタープレート上に3回置いた:
【0114】
【表7】
【0115】
その後のPCR増幅のために、下記のピペット注入スキームに従って溶液を添加することにより、各アプタマーの乾燥組成物を再溶解した。参照液体は、PCR反応の前にマイクロタイタープレートの空のウェルに添加した。プラスミドは4×10e4コピー/μLの濃度でピペット注入した。
【0116】
【表8】
【0117】
結果:
本実施例のPCR増幅曲線は図9〜図12に要約され、それらの図中、検出ミックスを使用した乾燥後の曲線は“1”と表示され、そして参照液体の曲線(乾燥せず)は“2”と表示される。更に、次の表は図9〜12の曲線から得られたPCR値を要約する。
【0118】
【表9】
【0119】
再び、アプタマーの安定化特性を確かめるために、図9〜12の増幅曲線を図1〜4と比較する必要がある。図1〜4が乾燥後に大幅に減少した増幅曲線を示す一方で、図9〜12が乾燥後にごくわずかだけ異なった曲線を示すことは明白である。
【0120】
本実施例から、検出ミックスと共に乾燥したAptaTaq DNAポリメラーゼ NTQ12-46Aの性能及びAptaTaq DNAポリメラーゼ 21-41-Pの性能が、乾燥組成物の再溶解後に同等であることは明白である。
【0121】
実施例4
プラスミドDNAと共に乾燥したAptaTaq DNAポリメラーゼNTQ12-46A
本実施例では、AptaTaq DNAポリメラーゼ NTQ12-46A、2つの異なるパラメーターのプラスミドDNA及び各々の検出ミックスを含む液体混合物を乾燥し、そして保存及び再溶解後のPCR性能を、前記プラスミドを含まない液体混合物と比較した。液体混合物を200mbarにて16時間乾燥しそして37℃で1週間保存した後、再溶解した。対照として乾燥しない液体混合物も使用した(下記では参照液体と称する)。全ての混合物を384マイクロタイタープレート(Roche Diagnostic GmbH)のウェル中に入れ、再溶解後に次の反応プロトコールを使ってLightCycler(登録商標)480(Roche Diagnostic GmbH)上でPCR反応を実施した。
・ 95℃で5分
・ 95℃で10秒、60℃で30秒、72℃で1秒(45回)
・ 40℃で10秒。
【0122】
マスターミックス及び両検出ミックスは実施例2のものと同一である。
【0123】
次の混合物を調製しそしてマイクロタイタープレート上で乾燥する一方、その際に各々の混合物を前記マイクロタイタープレート上に3回置いた。プラスミドは4×10e4コピー/μLの濃度でピペット注入した。
【0124】
【表10】
【0125】
その後のPCR増幅のために、下記のピペット注入スキームに従って溶液を添加することにより、各混合物の乾燥組成物を再溶解した。参照液体は、PCR反応の前にマイクロタイタープレートの空のウェルに添加した。
【0126】
【表11】
【0127】
結果:
本実施例のPCR増幅曲線は図13〜図14に要約され、それらの図中、プラスミド無しで乾燥した後の曲線は“1”と表示され、プラスミドと共に乾燥した後の曲線は“2”と表示され、そして参照液体の曲線(乾燥せず)は“3”と表示される。更に、次の表は図13〜14の曲線から得られたPCR値を要約する。
【0128】
【表12】
【0129】
この実施例から、乾燥前に液体混合物にプラスミドを添加すれば、乾燥組成物の保存及び再溶解後のAptaTaq DNAポリメラーゼ NTQ12-46Aの性能に影響がないことは明らかである。
【技術分野】
【0001】
生体反応化合物が、可溶化された形態で短時間でも安定していることはほとんどなく、このことは、室温での保存の場合に特に当てはまる。その結果、乾燥状態の生体反応化合物の保存能力を強化する可能性を評価する膨大な量の研究が過去に行われてきた。
【0002】
乾燥した反応化合物の分野における従来技術についての大量の文書に基づいて、当業者は、例えばポリメラーゼの生体活性を再溶解の際に確保するために、少なくとも1つの安定化用添加物を使用することが必須であろうことを確信している。
【0003】
WO2008/36544は、乾燥組成物を提供するためのいわゆる充填材の使用について記載しており、前記充填材とは、例えば、炭水化物、例えばFICOLL(登録商標)、スクロース、グルコース、トレハロース、メレジトース、DEXTRAN(登録商標)又はマンニトール、タンパク質、例えばBSA、ゼラチン又はコラーゲン及びポリマー、例えばPEG又はポリビニルピロリドン(PVP)である。生物学的な試薬を安定化するためのガラス形成充填材は、更に、US 5,098,893, US 5,200,399及びUS 5,240,843に記載されている。充填材であるFICOLL(登録商標)は、US 3,300,474で開示されているコポリマーである。
【0004】
更に、液体反応混合物を乾燥させる方法は、ほとんどの場合、実際には非常に複雑であり、そのため、乾燥させる手法は要求が厳しく、そして費用がかかる。文献では、フリーズドライ(US 5,593,824)又は真空乾燥(US 5,565,318)を用いて炭水化物ポリマーマトリックス中の生体材料を乾燥している。凍結乾燥又はフリーズドライは、従来技術の水準を示す多くの文献で開示されている、タンパク質の保存について非常に確立された技術である(例えば、Passot, S., et al., Pharmaceutical Development and Technology 12 (2007) 543-553; Carpenter, J.F., et al., Pharmaceutical Research 14(8) (1997) 969-975; Schwegman, J.J., et al., Pharmaceutical Development and Technology 10 (2005) 151-173)。
【0005】
Taqポリメラーゼの遺伝子組換えを含んで成るシークエンシングアプリケーションのための異なる反応混合物の乾燥条件の選択は、US 7,407,747に記載されている。使用した乾燥手順は、フリーズドライ、追加の乾燥を行わないスピードバック、追加の乾燥を行うスピードバック、及び室温での風乾である。この特許における反応混合物は、種々の凍結保存物質、例えばトレハロース、スクロース、グルコース及びトリメチルアミン−N−オキシド(TMANO)について試験された。更に、凍結乾燥物質を全く用いないでの実験も行われたが、それらの反応混合物の経時的な安定性に関するデータは開示されなかった。8週間の間に限って良好な安定性が報告されたが、これはトレハロース及び牛血清アルブミン(BSA)を含んで成る反応混合物についてのみであった。
【0006】
更に、US 7,407,747は、異なるシークエンシング混合物中のポリメラーゼを用いた実験を開示しており、前記シークエンシング混合物は、緩衝液、ヌクレオチド、蛍光標識されたヌクレオチド及びプライマーの異なる組成物を含んで成るものである。リアルタイムPCR増幅のための混合物、すなわち緩衝液、ヌクレオチド、プライマー及び検出プローブを含んで成る混合物中のポリメラーゼが、そのポリメラーゼ活性に影響を与えることなく乾燥され、そして保存される場合についての開示はない。
【0007】
本発明は、Taq DNAポリメラーゼをリアルタイムPCR混合物中で乾燥させる方法を提供する。一方、得られた乾燥組成物は、Taq DNAポリメラーゼのPCR性能に影響を及ぼすことなく保存することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリメラーゼを含んで成る反応化合物の乾燥組成物を提供することは、特に、ある一定時間前記乾燥組成物を保存することが意図されており、そして前記乾燥組成物のその後の再溶解がPCR応用の際にポリメラーゼ活性に影響を及ぼすことなく実行可能でなければならない場合に複雑な課題である。
【0009】
異なる成分を含んで成る液体溶液を乾燥する間、前記成分の濃度は断続して増加するため、その性質は大幅に変化する。一方、その溶液の正確な挙動はその成分及び乾燥手順に依拠する。当業者は、例えば、高い塩濃度がタンパク質を不安定化し、そして緩衝液は、高濃度でそれらの挙動が変化し、その結果、極端なpH値が生じうるであろうことを理解するであろう。
【0010】
前述のとおり、当業者は、乾燥時のポリメラーゼの安定性を増大させるために、ポリメラーゼを含んで成る溶液に添加することができる幾つかの化合物について理解している。更に、当業者は、ポリメラーゼ混合物の成分が変化する場合に、あるポリメラーゼについて同一の乾燥結果を得ることを期待しないであろう。
【0011】
例えば、US 7,407,747はTaqポリメラーゼが、緩衝液、ヌクレオチド、BSA及びトレハロースから成る混合物中で乾燥できること、そして当該ポリメラーゼが8週間の間活性を維持したことを開示している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、PCRに利用するためのポリメラーゼの乾燥組成物であって、緩衝液とヌクレオチドだけでなく、完全な検出混合物を形成するための追加の成分、すなわちプライマーあるいはプライマーとプローブをも含んで成る組成物を提供する方法が開発された。
【0013】
ポリメラーゼ、ヌクレオチド及び安定化分子を含んで成る液体混合物は、ポリメラーゼ活性に影響を及ぼすことなく乾燥され、そして保存されうること、一方、追加的にプライマーが当該液体混合物に添加された場合には当該ポリメラーゼ活性は失われたこと、が認められた。より具体的には、プライマーの添加に起因して、乾燥手順の直後に再溶解を行った場合、PCR性能は既に失われていた。
【0014】
乾燥すべき液体混合物が追加的にプライマーを含んでもよいようにTaqポリメラーゼの安定性を増大させることの技術的な問題は、本発明により解決された。
【0015】
驚くべきことに、アプタマーを液体溶液に添加することで、Taqポリメラーゼの安定性が増強されることが明らかとなった。かかる安定性は、乾燥させるだけでなく、乾燥された混合物を保存するのにも十分なほど良好であった。
【0016】
その結果、本発明の第一の態様は、反応化合物の保存可能な乾燥組成物を製造する方法であって、前記方法が
a) 反応化合物の液体混合物であって、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ及び第一安定化分子を含んで成る液体混合物を準備する工程、及び
b) 前記液体混合物の周囲の圧力を減少させることで、前記液体混合物を乾燥する工程、
を含んで成り、
ここで、前記反応化合物の乾燥組成物は水溶液中で可溶であり、工程a)における前記反応化合物の乾燥組成物は、第二安定化分子として、アプタマーを更に含んで成ることを特徴とする、方法である。
【0017】
本発明を通じて、用語「乾燥組成物」とは、溶媒、好ましくは水性溶媒の量が5重量%未満に減少していることを強調するために使用される。
【0018】
用語「保存可能な乾燥組成物」とは、本発明を通じて、当該乾燥組成物が、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも4週間、より好ましくは8週間超、ポリメラーゼ活性に影響を及ぼすことなく安定でなければならないことを意味する。
【0019】
本発明における「安定化分子」とは、ポリメラーゼのPCR活性が、当該ポリメラーゼを含んで成る水溶液を乾燥させる際に失われることに対し、当該ポリメラーゼの耐性を向上させる分子である。
【0020】
本発明の別の態様は、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ、第一安定化分子及び第二安定化分子としてのアプタマーを含んで成る反応化合物の乾燥組成物であって、少なくとも1週間室温で保存した後、再溶解の際にPCR活性を提供する組成物である。
【0021】
本発明の更に別の態様は、PCR増幅を実施する方法であって、
a) 水溶液を添加することで本発明の反応化合物の乾燥組成物を再溶解する工程、及び
b) 再溶解された反応化合物を含んで成る水溶液を用いてサーモサイクリングプロトコールを実施する工程、
を含んで成る方法である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】Taqポリメラーゼ及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図2】Taqポリメラーゼ及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図3】Taqポリメラーゼ及びBSAを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図4】Taqポリメラーゼ及びBSAを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図5】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図6】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図7】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びBSAを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図8】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びBSAを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図9】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図10】Taqポリメラーゼ、21-41-Pアプタマー及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【図11】Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図12】Taqポリメラーゼ、21-41-Pアプタマー及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図13】乾燥プラスミドDNA、Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたEamstプラスミドの増幅。
【図14】乾燥プラスミドDNA、Taqポリメラーゼ、NTQ12-46Aアプタマー及びカゼインを用いたWsebiプラスミドの増幅。
【0023】
本発明の詳細な説明
本発明の第一の態様は、反応化合物の保存可能な乾燥組成物を提供する方法であって、前記方法が
a) 反応化合物の液体混合物であって、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ及び第一安定化分子を含んで成る液体混合物を準備する工程、及び
b) 前記液体混合物の周囲の圧力を減少させることで、前記液体混合物を乾燥する工程、
を含んで成り、
ここで、前記反応化合物の乾燥組成物は水溶液中で可溶であり、工程a)における前記反応化合物の乾燥組成物は、第二安定化分子として、アプタマーを更に含んで成ることを特徴とする、方法である。
【0024】
複数の分子群から、Taq DNAポリメラーゼのための第一安定化分子を選択することができる。
【0025】
本発明の好ましい方法は、前記第一安定化分子がタンパク質であり、好ましくは前記安定化分子がカゼイン又はBSAである方法である。
【0026】
本発明の別の好ましい方法は、前記第一安定化分子が炭水化物であり、好ましくは前記安定化分子がトレハロース又はマンニトールである方法である。
【0027】
本発明の更に別の好ましい方法は、前記第一安定化分子が合成ポリマーであり、好ましくは前記安定化分子がPEG又はポリビニルピロリドン(PVP)である方法である。
【0028】
本発明の驚くべき知見は、別の分子群、すなわちアプタマー群が、ポリメラーゼについての安定化作用を提供することができる点にある。アプタマーは、溶液中でポリメラーゼに結合することが知られており、一方、いわゆる「ホットスタート」特性はそのポリメラーゼに追加される(例えば、US 5,475,096及びUS 5,270,163)。要約すると、その短いオリゴヌクレオチド(アプタマー)は、ポリメラーゼがブロックされるようにポリメラーゼに結合する。温度がPCR増幅のサーモサイクリングプロトコールの間にある閾値超に増大する場合、アプタマーはポリメラーゼを放出し、そしてポリメラーゼ活性が生じる。その結果、「ホットスタート」PCRにおいて、ポリメラーゼ結合アプタマーを使用することで、反応温度がプライマーアニーリングにとっての高ストリンジェンシーを発揮するのに十分である間、ポリメラーゼの不所望な低温活性を縛り付ける。
【0029】
前述のとおり、緩衝液、ヌクレオチド及び第一安定化分子を含んで成る混合物内のTaq DNAポリメラーゼは、ポリメラーゼ活性を変化させることなく乾燥し、保存し、そして再溶解することができた。しかし、当該混合物にプライマーを添加した後、ポリメラーゼ活性は乾燥直後に失われた。当該溶液にアプタマーを添加した後に限って、ポリメラーゼ活性を再び維持することができた。
【0030】
理論に拘束されるものではないが、プライマーの3'末端にあるヒドロキシル基が、PCR活性にとって重要なポリメラーゼの少なくともそれらのアミノ酸に影響を及ぼすと予想される。この理論は追加実験で試験された(データは示さない)。ここで、プライマーは、リン酸化プリマーによって置換されており、PCR活性は、乾燥後に解析した。リン酸化プライマーはポリメラーゼに影響を及ぼさず、そして反応化合物の液体混合物は、アプタマーを追加する必要なしに乾燥することができたことが判明した。
【0031】
Taq DNAポリメラーゼの場合、緩衝液、ヌクレオチド及び安定化分子としての、例えばカゼインを含んで成る混合物は、ポリメラーゼの安定化に影響を及ぼすことなく、乾燥し、保存し、そして再溶解することができた(実施例を参照のこと)。プライマーを当該混合物に添加した後、そのPCR性能は乾燥直後に失われた(データは示さない。実施例は保存後の結果のみを示す)。その結果、乾燥の際にTaqポリメラーゼを安定化する要件は、液体混合物へのプライマーの添加に起因して増大する。
【0032】
追加実験により、アプタマーは、第一安定化分子無しでは、ポリメラーゼ活性を維持するのに十分な安定性を提供することができなかったことが示された(データは示さない)。すなわち、第一安定化分子とアプタマーとの組み合わせは、緩衝液、ヌクレオチド及びプライマーを含んで成る混合物中でTaq DNAポリメラーゼを乾燥し、そして保存することを可能にする。
【0033】
本発明の好ましい方法において、前記アプタマーは、配列番号9又は配列番号10の配列を有するアプタマーである。
【0034】
理論に拘束されるものではないが、アプタマーは、Taq DNAポリメラーゼに結合するそれらの性能に起因して、高塩濃度、極端なpH値、そしてプライマーのヒドロキシル基に関するポリメラーゼの耐性を増大させる。
【0035】
本発明の別の好ましい態様において、前記反応化合物の液体混合物は、マグネシウム塩を含んで成る緩衝水溶液である。
【0036】
本発明のより好ましい方法において、前記反応化合物の液体混合物は、トリス又はヘペスによって緩衝化されている。
【0037】
本発明の別のより好ましい態様において、前記反応化合物の液体混合物は、塩化カリウムを更に含んで成る。
【0038】
本発明の方法の工程b)の乾燥手順に関して、複数のワークフローが適している。通常、当業者は、液体混合物を乾燥させるのに必要な時間が、前記液体混合物の周囲の圧力と相関していることを認識する。本発明においては、当該圧力は、最低圧力値にまで低下させられるべきであることが、少なくとも一工程のみではなく認められた。この圧力の違いが大きすぎると、液体混合物は当該混合物を含む容器との接触を失い、その結果、完全な再溶解がもはや実現できなくなる。
【0039】
本発明の好ましい方法において、前記液体混合物の周囲の圧力は、工程b)において、600mbar未満、好ましくは400mbar未満、最も好ましくは200mbarに減少される。
【0040】
本発明のより好ましい方法において、かかる減圧は、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも10時間、最も好ましくは16時間維持される。
【0041】
研究のプラクティスについての適合性に基づいて、前記液体混合物を200mbarで一晩保存するのが好ましい。
【0042】
乾燥組成物を製造するのにかかる時間を減少させるために、本発明の方法の乾燥工程b)を二工程で、すなわち、相対的に高い圧力による第一工程、続いて、より低い圧力での第二工程で実施することが可能である。
【0043】
本発明の別の好ましい態様において、圧力は、工程b)の第二部分で更に減少され、この更に減少した圧力は200mbar未満、好ましくは100mbar未満、最も好ましくは50mbarである。
【0044】
本発明の更に別の好ましい方法において、かかる更に減少した圧量は、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも3時間、最も好ましくは4時間維持される。
【0045】
好ましい2段階の乾燥ワークフローは、200mbarで10時間の第一工程、続く、50mbarで4時間の第二工程、を含んで成る。
【0046】
本発明の更に別の好ましい方法において、工程b)における前記乾燥は、室温で実施される。
【0047】
本発明において、温度をある高い値又は低い値に調節することは、再溶解の際のPCR活性に影響を及ぼさないことが明らかになった。すなわち、前記乾燥は室温で実施するのが好ましい。
【0048】
リアルタイムPCRのための完全な乾燥組成物を提供するために、検出プローブを反応化合物の液体混合物に添加することも必要である。本発明においては、反応化合物の液体混合物に対し検出プローブを添加することは、再溶解の際のPCR活性に影響を及ぼさないことが認められた。Taq DNAポリメラーゼは、前記液体混合物が、検出プローブを含んでいるがプライマーを含まない場合、アプタマーを添加しなくても、再溶解の際にそのPCR活性を維持したことは注目すべきものである(データは示さない)。
【0049】
本発明の好ましい方法において、前記反応化合物の液体混合物は、更に検出プローブを含んで成る。
【0050】
本発明のより好ましい方法において、前記検出プローブは、蛍光標識プローブ、好ましくはハイブリダイゼーションプローブ又は加水分解プローブである。
【0051】
リアルタイムPCRは通常蛍光検出に基づいて実施されるので、蛍光標識プローブを使用するのが好ましい。主要な3つのプローブフォーマットを以下簡単に説明する。
【0052】
a) 加水分解プローブフォーマット(TaqMan(登録商標)フォーマット):
一本鎖ハイブリダイゼーションプローブは、2つの成分で標識される。第一の成分が適当な波長の光で励起されると、吸収されたエネルギーは、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に従い、第二の成分、いわゆるクエンチャーへと移動される。PCR反応のアニーリング工程の間、ハイブリダイゼーションプローブは標的DNAに結合し、そしてその後の伸長段階の間にTaqポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって分解される。その結果、励起した蛍光成分及びクエンチャーは、空間的に互いに分離され、その結果、第一成分の蛍光放射を測定することができる(US 5,210,015, US 5,538,848, US 5,487,972, US 5,804,375)。
【0053】
b) 分子ビーコン:
これらのハイブリダイゼーションプローブは、第一の成分及びクエンチャーでも標識され、当該標識は、好ましくは当該プローブの両末端に位置する。プローブの二次構造の結果として、両成分は溶液中空間的に近傍にある。標的核酸にハイブリダイゼーションした後、両成分は互いに分離し、その結果、適当な波長光による励起の後、第一成分の蛍光放射を測定することができる(US5,118,801)。
【0054】
c) FRETハイブリダイゼーションプローブ:
このフォーマットは、同時に使用され、且つ増幅された標的核酸の同一の鎖の隣接部位に対して相補的である2つの一本鎖ハイブリダイゼーションプローブによって特徴付けられる。両プローブは、異なる蛍光成分で標識される。適当な波長光で励起されると、第一成分は、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に従い、吸収したエネルギーを第二の成分へと移動させ、その結果、両ハイブリダイゼーションプローブが検出すべき標的分子の隣接部位と結合する場合に第二成分の蛍光放出を測定できるようになる。あるいは、FRETアクセプター成分の蛍光の増大をモニタリングするために、ハイブリダイゼーションイベントの定量的な測定として、FRETドナー成分の蛍光の増大をモニタリングすることもできる(WO 97/46707; WO 97/46712; WO 97/46714)。
【0055】
多くのPCRの応用において、PCR増幅自体が機能したか否かを評価するために、コントロールメカニズムを組み込むことが望ましい。通常、これは、サンプルに対しスパイクした鋳型DNA(内部標準)又は異なる容器内の鋳型DNA(外部標準)を用いて実施される。本発明を通じて、両択一的手段はポジティブコントロールという用語で要約される。
【0056】
本発明の好ましい方法において、前記反応化合物の液体混合物は、更に鋳型DNAを含んで成る。
【0057】
本発明のより好ましい方法において、前記鋳型DNAは、ポジティブコントロールとして使用される。
【0058】
前述のとおり、本発明の範囲内での実験は、核酸の3'末端にあるヒドロキシル基がTaq DNAポリメラーゼに影響を及ぼすことを示唆している。すなわち、液体混合物に添加された鋳型DNAも、再溶解後のPCR性能に負の影響を及ぼすことがある。しかし、通常のプライマー濃度と比較して遥かに低い鋳型DNA濃度に恐らく基づくと、鋳型DNAを液体混合物に添加することは、再溶解後のPCR性能に影響を及ぼさないことが認められた。
【0059】
本発明のより好ましい方法において、前記鋳型DNAは環状プラスミドである。
【0060】
かかる環状プラスミドは3'ヒドロキシル基を何ら有しておらず、そのため、ヒドロキシル基の負の影響を更にもっと軽減することができる。
【0061】
本発明の別の態様は、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ、第一安定化分子及び第二安定化分子としてのアプタマーを含んで成る反応化合物の乾燥組成物であって、室温で少なくとも1週間保存した後、再溶解の際にPCR活性を提供する乾燥組成物である。
【0062】
本発明のより好ましい反応化合物の乾燥組成物において、前記PCR活性は、少なくとも4週間、より好ましくは少なくとも8週間、室温での保存後の再溶解の際に提供される。
【0063】
長期の安定性を評価するために複数の実験を行ったところ、例えば、Taq DNAポリメラーゼとアプタマーNTQ12-46A(配列番号9)、そしてプライマーとプローブを含んで成る反応化合物の乾燥組成物は、8週間室温で保存した後、再溶解の際にPCR活性を提供した(データは示さない)。
【0064】
本発明の好ましい反応化合物の乾燥組成物は、検出プローブを更に含んで成る乾燥組成物である。
【0065】
本発明のより好ましい反応混合物の乾燥組成物において、前記検出プローブは、蛍光標識プローブ、好ましくはハイブリダイゼーションプローブ又は加水分解プローブである。
【0066】
本発明の別の好ましい反応化合物の乾燥組成物は、前記第一安定化分子がタンパク質であり、好ましくは前記安定化分子がカゼイン又はBSAである、乾燥組成物である。
【0067】
本発明の更に別の好ましい反応化合物の乾燥組成物は、前記第一安定化分子が炭水化物であり、好ましくは前記安定化分子がトレハロース又はマンニトールである、乾燥組成物である。
【0068】
本発明の更に別の好ましい組成物は、前記安定化分子が合成ポリマーであり、好ましくは前記安定化分子がPEG又はポリビニルピロリドン(PVP)である、乾燥組成物である。
【0069】
本発明の別の好ましい反応化合物の乾燥組成物において、前記アプタマーは、配列番号9又は配列番号10の配列を有するアプタマーである。
【0070】
本発明の更に別の好ましい乾燥組成物において、前記反応化合物の液体混合物は、更に鋳型DNAを含んで成る。
【0071】
本発明のより好ましい反応化合物の乾燥組成物において、前記鋳型DNAはポジティブコントロールである。
【0072】
本発明の別のより好ましい反応化合物の乾燥組成物において、前記鋳型DNAは環状プラスミドである。
【0073】
本発明の更に別の態様は、PCR増幅を実施するための方法であって、
a) 水溶液を添加することで本発明の反応化合物の乾燥組成物を再溶解する工程、及び
b) 再溶解された反応化合物を含んで成る水溶液を用いてサーモサイクリングプロトコールを実施する工程、
を含んで成る方法である。
【0074】
本発明の反応化合物の乾燥組成物は、特別な補助手段を用いることなく、単に水溶液を添加することで溶解することができる。しかし、溶解を補助し、そして溶解時間を減少させるために、機械的刺激を利用することが好ましいこともある。
【0075】
本発明のPCR増幅方法を実施するための好ましい方法において、工程b)の前記再溶解は、混合物の振盪によって補助される。
【0076】
本発明のPCR増幅を実施するための別の好ましい方法において、工程b)の前記再溶解は、混合物をボルテックスにかけることで補助される。
【0077】
前記反応化合物の乾燥組成物に添加する水はわずかですむため、PCR増幅を実施するための2つの択一的手段が本発明の本発明の範囲内に含まれる。第一の選択肢において、乾燥組成物は水溶液で再溶解され、そして解析される標的核酸を含んで成るサンプルはその後添加される。第二の好ましい選択肢において、乾燥組成物は、増幅される標的核酸を含んで成る水溶液を用いて直接再溶解される。
【0078】
本発明の好ましい方法において、前記水溶液は、サーモサイクリングプロトコールによって増幅されるべき標的核酸を含んで成る。
【0079】
以下の実施例、配列表及び図面は、本発明の理解を助けるために提供される。これらの真の範囲は特許請求の範囲に記載されている。記載した手順の改変は、本発明の精神を逸脱することなく実施可能であることは理解されたい。
【実施例】
【0080】
実施例1
Taq DNAポリメラーゼの安定性
本実施例は、アプタマー無しのTaq DNAポリメラーゼの液体混合物の結果を要約する。保存及び再溶解後のDNAポリメラーゼのPCR性能を、2種類の異なるパラメーターを用いて、検出ミックスを使用して又は使用せずに(プライマーとプローブを使用又は不使用)分析した。液体混合物を200mbarにて16時間乾燥しそして37℃で1週間保存した後、再溶解した。対照として乾燥しない液体混合物も使用した(以降は参照液体と称する)。
【0081】
全混合物を384マイクロタイタープレート(Roche Diagnostic GmbH)のウェル内に提供し、再溶解後にLightCycler(登録商標)480(Roche Diagnostic GmbH)上で次の反応プロトコールを使ってPCR反応を実施した。
・ 95℃で5分
・ 95℃で10秒、60℃で30秒、72℃で1秒(45回)
・ 40℃で10秒。
【0082】
カゼインを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 mg/mL カゼイン及び0.3 U/μL Taq DNAポリメラーゼ(グリセロール不含有)。
【0083】
BSAを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4 mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 mg/mL BSA及び0.3 U/μL Taq DNAポリメラーゼ(グリセロール不含有)。
【0084】
qPCR Eamst検出ミックス:
10 mM Tris pH 8.3, 0.05%Brij, 7.1 μM正プライマー(配列番号1), 7.1μM逆プライマー(配列番号2)及び0.6μM Fam-Tamraプローブ(配列番号3)。
【0085】
qPCR Wsebi検出ミックス:
10 mM Tris pH 8.3, 0.05%Brij, 7.1μM正プライマー(配列番号4),7.1μM逆プライマー(配列番号5)及び0.6μM Fam-Tamraプローブ(配列番号6)。
【0086】
下記の混合物を調製し、マイクロタイタープレート上で乾燥し、その際に各混合物を前記マイクロタイタープレート上に3回置いた:
【0087】
【表1】
【0088】
その後のPCR増幅のために、下記のピペット注入スキームに従って溶液を添加することにより、乾燥組成物を再溶解した。参照液体は、マイクロタイタープレートの空のウエルにPCR実施前に添加した。プラスミドは4×10e4コピー/μLの濃度でピペット注入した。
【0089】
【表2】
【0090】
結果:
本実施例のPCR増幅曲線は図1〜図4に要約され、それらの図中では検出ミックスを使用しない曲線は“1”と表示され、検出ミックスを使用した曲線は“2”と表示され、そして参照液体の曲線は“3”と表示される。更に、次の表は図1〜4の曲線から得られたPCR値を要約する。
【0091】
【表3】
【0092】
本実施例から、検出ミックス無しで乾燥したTaq DNAポリメラーゼの性能が参照液体のものと同等であることは明白である。他方で、Taq DNAポリメラーゼを検出ミックスと共に乾燥した場合、再溶解後のPCR性能はもはや許容できない。
【0093】
Wsebiパラメーターに関しては、検出ミックスと共に乾燥した場合にはいずれも増幅が検出不可能である。Eamstパラメーターに関しては、同様なクロッシングポイント(crossing point)がまだ検出可能であるが、蛍光値はもはや許容できない。
【0094】
実施例2
アプタマーNTQ12-46Aを有するTaq DNAポリメラーゼの安定性
本実施例は、アプタマーNTQ12-46A(配列番号9)を有するTaq DNAポリメラーゼの液体混合物の結果を要約する。アプタマーが結合しているTaq DNAポリメラーゼを、本実施例を通してAptaTaq DNAポリメラーゼNTQ12-46Aと称する。
【0095】
保存及び再溶解後のポリメラーゼのPCR性能を、検出ミックスを用いて又は用いずに(プライマーとプローブを使用又は不使用)2つの異なるパラメーターを使って分析した。液体混合物を200mbarで16時間乾燥しそして37℃で1週間保存した後、再溶解した。対照として乾燥しない液体混合物も使用した(下記では参照液体と称する)。
【0096】
全ての混合物を384マイクロタイタープレート(Roche Diagnostic GmbH)のウェル中に入れ、再溶解後に次の反応プロトコールを使ってLightCycler(登録商標)480(Roche Diagnostic GmbH)上でPCR反応を実施した。
・ 95℃で5分
・ 95℃で10秒、60℃で30秒及び72℃で1秒(45×)
・ 40℃で10秒。
【0097】
カゼインを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 g/L カゼイン及び0.3 U/μL AptaTaq DNAポリメラーゼ〔グリセロール不含有;0.65ピコモルのアプタマー(NTQ12-46A;配列番号9)/1UのTaq DNAポリメラーゼ〕。
【0098】
BSAを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4 mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 mg/mL BSA及び0.3 U/μL AptaTaq DNAポリメラーゼ〔グリセロール不含有;0.65ピコモルのアプタマー(NTQ12-46A;配列番号9)/1UのTaq DNAポリメラーゼ〕。
【0099】
qPCR Eamst検出ミックス及びqPCR Wsebi検出ミックス:
これらの検出ミックスは実施例1のものと同一である。
【0100】
次の混合物を調製しそしてマイクロタイタープレート上で乾燥する一方、各混合物を前記マイクロタイタープレート上に3回置いた:
【0101】
【表4】
【0102】
その後のPCR増幅のために、下記のピペット注入スキームに従って溶液を添加することにより、乾燥組成物を再溶解した。参照液体は、PCR反応前にマイクロタイタープレートの空のウェルに添加した。プラスミドは4×10e4コピー/μLの濃度でピペット注入した。
【0103】
【表5】
【0104】
結果:
本実施例のPCR増幅曲線は図5〜図8に要約され、それらの図中では検出ミックス無しの曲線は“1”と表示され、検出ミックス無しの曲線は“2”と表示され、そして参照液体の曲線は“3”と表示される。更に、次の表は図5〜8の曲線から得られたPCR値を要約する。
【0105】
【表6】
【0106】
アプタマーの安定化性質を確かめるためには、図5〜8の増幅曲線を図1〜4と比較し、より正確には図5を図1と、図6を図2と、図7を図3と、図8を図4と比較する必要がある。図1〜4が乾燥後に大幅に減少した増幅曲線を示し、一方で図5〜8が乾燥後にごくわずかだけ異なった曲線を示すことは明白である。
【0107】
本実施例から、検出ミックスを使用して又は使用せずに乾燥したTaq DNAポリメラーゼの性能が、乾燥組成物の再溶解後にもまだ許容できることは明白である。
【0108】
実施例3
アプタマーNTQ12-46Aを有するTaq DNAポリメラーゼとアプタマー21-42-Pを有するTaq DNAポリメラーゼとの比較
本実施例では、アプタマーNTQ12-46A(配列番号9)を有するTaq DNAポリメラーゼの液体混合物のPCR性能を、アプタマー21-42-P(配列番号10)を有するものと比較する。本実施例を通して、アプタマーを有するTaq DNAポリメラーゼをそれぞれAptaTaq DNAポリメラーゼ NTQ12-46A及びAptaTaq DNAポリメラーゼ 21-42-Pと称する。
【0109】
各アプタマーを有するポリメラーゼのPCR性能を、2つの異なるパラメーターを使って、検出ミックスを使用して(プライマーとプローブを使用して)保存及び再溶解後に分析した。液体混合物を200mbarにて16時間乾燥しそして37℃で1週間保存した後、再溶解した。対照として乾燥しない液体混合物も使用した(下記では参照液体と称する)。
【0110】
全ての混合物を384マイクロタイタープレート(Roche Diagnostic GmbH)のウェル中に入れ、再溶解後に次の反応プロトコールを使ってLightCycler(登録商標)480(Roche Diagnostic GmbH)上でPCR反応を実施した。
・ 95℃で5分
・ 95℃で10秒、60℃で30秒、72℃で1秒(45回)
・ 40℃で10秒。
【0111】
カゼイン+アプタマーNTQ21-46Aを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 g/L カゼイン及び0.3 U/μL AptaTaq DNAポリメラーゼ〔グリセロール不含有;0.65ピコモルのアプタマーNTQ12-46A(配列番号9)/1UのTaq DNAポリメラーゼ〕。
【0112】
カゼイン+アプタマー21-42-Pを含むマスターミックス:
60 mM Tris/HCl pH 8.3, 60 mM KCl, 6.4 mM MgCl2, 0.4 mM dATP, 0.4 mM dCTP, 0.4 mM dGTP, 1.2 mM dUTP, 1 g/L カゼイン,0.8 U /μL AptaTaq DNAポリメラーゼ〔グリセロール不含有;0.5μMのアプタマー21-42-P(配列番号10)〕。
qPCR Eamst検出ミックス及びqPCR Wsebi検出ミックス:
これらの検出ミックスは実施例1のものと同一である。
【0113】
次の混合物を調製しそしてマイクロタイタープレート上で乾燥する一方、各々の混合物を前記マイクロタイタープレート上に3回置いた:
【0114】
【表7】
【0115】
その後のPCR増幅のために、下記のピペット注入スキームに従って溶液を添加することにより、各アプタマーの乾燥組成物を再溶解した。参照液体は、PCR反応の前にマイクロタイタープレートの空のウェルに添加した。プラスミドは4×10e4コピー/μLの濃度でピペット注入した。
【0116】
【表8】
【0117】
結果:
本実施例のPCR増幅曲線は図9〜図12に要約され、それらの図中、検出ミックスを使用した乾燥後の曲線は“1”と表示され、そして参照液体の曲線(乾燥せず)は“2”と表示される。更に、次の表は図9〜12の曲線から得られたPCR値を要約する。
【0118】
【表9】
【0119】
再び、アプタマーの安定化特性を確かめるために、図9〜12の増幅曲線を図1〜4と比較する必要がある。図1〜4が乾燥後に大幅に減少した増幅曲線を示す一方で、図9〜12が乾燥後にごくわずかだけ異なった曲線を示すことは明白である。
【0120】
本実施例から、検出ミックスと共に乾燥したAptaTaq DNAポリメラーゼ NTQ12-46Aの性能及びAptaTaq DNAポリメラーゼ 21-41-Pの性能が、乾燥組成物の再溶解後に同等であることは明白である。
【0121】
実施例4
プラスミドDNAと共に乾燥したAptaTaq DNAポリメラーゼNTQ12-46A
本実施例では、AptaTaq DNAポリメラーゼ NTQ12-46A、2つの異なるパラメーターのプラスミドDNA及び各々の検出ミックスを含む液体混合物を乾燥し、そして保存及び再溶解後のPCR性能を、前記プラスミドを含まない液体混合物と比較した。液体混合物を200mbarにて16時間乾燥しそして37℃で1週間保存した後、再溶解した。対照として乾燥しない液体混合物も使用した(下記では参照液体と称する)。全ての混合物を384マイクロタイタープレート(Roche Diagnostic GmbH)のウェル中に入れ、再溶解後に次の反応プロトコールを使ってLightCycler(登録商標)480(Roche Diagnostic GmbH)上でPCR反応を実施した。
・ 95℃で5分
・ 95℃で10秒、60℃で30秒、72℃で1秒(45回)
・ 40℃で10秒。
【0122】
マスターミックス及び両検出ミックスは実施例2のものと同一である。
【0123】
次の混合物を調製しそしてマイクロタイタープレート上で乾燥する一方、その際に各々の混合物を前記マイクロタイタープレート上に3回置いた。プラスミドは4×10e4コピー/μLの濃度でピペット注入した。
【0124】
【表10】
【0125】
その後のPCR増幅のために、下記のピペット注入スキームに従って溶液を添加することにより、各混合物の乾燥組成物を再溶解した。参照液体は、PCR反応の前にマイクロタイタープレートの空のウェルに添加した。
【0126】
【表11】
【0127】
結果:
本実施例のPCR増幅曲線は図13〜図14に要約され、それらの図中、プラスミド無しで乾燥した後の曲線は“1”と表示され、プラスミドと共に乾燥した後の曲線は“2”と表示され、そして参照液体の曲線(乾燥せず)は“3”と表示される。更に、次の表は図13〜14の曲線から得られたPCR値を要約する。
【0128】
【表12】
【0129】
この実施例から、乾燥前に液体混合物にプラスミドを添加すれば、乾燥組成物の保存及び再溶解後のAptaTaq DNAポリメラーゼ NTQ12-46Aの性能に影響がないことは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応化合物の保存可能な乾燥組成物を製造する方法であって、
a) 反応化合物の液体混合物であって、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ及び第一安定化分子を含んで成る液体混合物を準備する工程、及び
b) 前記液体混合物の周囲の圧力を減少させることで、前記液体混合物を乾燥する工程、
を含んで成り、
ここで、前記反応化合物の乾燥組成物は水溶液中で可溶であり、工程a)における前記反応化合物の液体混合物は、第二安定化分子として、アプタマーを更に含んで成ることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第一安定化分子がタンパク質であり、好ましくは前記安定化分子がカゼイン又はBSAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アプタマーが、配列番号9又は配列番号10の配列を有するアプタマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応化合物の液体混合物が、マグネシウム塩を含んで成る緩衝水溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記液体混合物の周囲の圧力が、工程b)において、600mbar未満、好ましくは400mbar未満、最も好ましくは200mbarに減少される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)の前記乾燥が室温で実施される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応化合物の液体混合物が更に検出プローブを含んで成り、好ましくは前記検出プローブが蛍光標識プローブである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応化合物の液体混合物が更に鋳型DNAを含んで成る、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ、第一安定化分子及び第二安定化分子としてのアプタマーを含んで成る反応化合物の乾燥組成物であって、室温で少なくとも1週間保存した後、再溶解の際にPCR活性を提供する乾燥組成物。
【請求項10】
前記反応化合物の乾燥組成物が更に検出プローブを含んで成る、請求項9に記載の反応化合物の乾燥組成物。
【請求項11】
前記第一安定化分子がタンパク質であり、好ましくは前記安定化分子がカゼイン又はBSAである、請求項9又は10に記載の反応化合物の乾燥組成物。
【請求項12】
前記アプタマーが配列番号9又は配列番号10の配列を有するアプタマーである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の反応化合物の乾燥組成物。
【請求項13】
前記反応化合物の液体混合物が更に鋳型DNAを含んで成る、請求項9〜12のいずれか1項に記載の乾燥組成物。
【請求項14】
PCR増幅を実施するための方法であって、
a) 水溶液を添加することで本発明の反応化合物の乾燥組成物を再溶解する工程、及び
b) 再溶解された反応化合物を含んで成る水溶液を用いてサーモサイクリングプロトコールを実施する工程、
を含んで成る方法。
【請求項15】
前記水溶液が、サーモサイクリングプロトコールによって増幅されるべき標的核酸を含んで成る、請求項14に記載の方法。
【請求項1】
反応化合物の保存可能な乾燥組成物を製造する方法であって、
a) 反応化合物の液体混合物であって、プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ及び第一安定化分子を含んで成る液体混合物を準備する工程、及び
b) 前記液体混合物の周囲の圧力を減少させることで、前記液体混合物を乾燥する工程、
を含んで成り、
ここで、前記反応化合物の乾燥組成物は水溶液中で可溶であり、工程a)における前記反応化合物の液体混合物は、第二安定化分子として、アプタマーを更に含んで成ることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第一安定化分子がタンパク質であり、好ましくは前記安定化分子がカゼイン又はBSAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アプタマーが、配列番号9又は配列番号10の配列を有するアプタマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応化合物の液体混合物が、マグネシウム塩を含んで成る緩衝水溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記液体混合物の周囲の圧力が、工程b)において、600mbar未満、好ましくは400mbar未満、最も好ましくは200mbarに減少される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)の前記乾燥が室温で実施される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応化合物の液体混合物が更に検出プローブを含んで成り、好ましくは前記検出プローブが蛍光標識プローブである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応化合物の液体混合物が更に鋳型DNAを含んで成る、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
プライマー、ヌクレオチド、Taq DNAポリメラーゼ、第一安定化分子及び第二安定化分子としてのアプタマーを含んで成る反応化合物の乾燥組成物であって、室温で少なくとも1週間保存した後、再溶解の際にPCR活性を提供する乾燥組成物。
【請求項10】
前記反応化合物の乾燥組成物が更に検出プローブを含んで成る、請求項9に記載の反応化合物の乾燥組成物。
【請求項11】
前記第一安定化分子がタンパク質であり、好ましくは前記安定化分子がカゼイン又はBSAである、請求項9又は10に記載の反応化合物の乾燥組成物。
【請求項12】
前記アプタマーが配列番号9又は配列番号10の配列を有するアプタマーである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の反応化合物の乾燥組成物。
【請求項13】
前記反応化合物の液体混合物が更に鋳型DNAを含んで成る、請求項9〜12のいずれか1項に記載の乾燥組成物。
【請求項14】
PCR増幅を実施するための方法であって、
a) 水溶液を添加することで本発明の反応化合物の乾燥組成物を再溶解する工程、及び
b) 再溶解された反応化合物を含んで成る水溶液を用いてサーモサイクリングプロトコールを実施する工程、
を含んで成る方法。
【請求項15】
前記水溶液が、サーモサイクリングプロトコールによって増幅されるべき標的核酸を含んで成る、請求項14に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−142229(P2010−142229A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−286615(P2009−286615)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286615(P2009−286615)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】
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