説明

反応器およびこれを用いた反応生成物製造方法

【課題】 触媒反応によって得られた反応生成物を、反応器内の反応温度に影響を与えることなく、連続的に反応器の内部で凝縮させて外部へと抜き出すとともに、該合成反応を促進させ、より高い収量が得られること。
【解決手段】 ガス導入部2が反応器1の胴部1bに設けられ、ガス排出部7が反応器1の中軸部に設けられ、供出部5が一部に三重管50を形成する冷却部5aと反応生成物の一部が抜き出される抜出部5bとから一体として構成され、三重管50が冷却媒体が導入され流通される外管51と外管51の内部に設けられ先端部52cから反応生成物の一部が抜き出される内管52と内管52の外周であって外管51の内部に設けられ冷却媒体が流通され排出される中管53とから構成されるとともに、内管52の先端部52cが反応器1内部の上部から略中央部のいずれかに位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器およびこれを用いた反応生成物製造方法に関するものであり、特に、再生可能エネルギーであるバイオマスを原料としたメタノール反応器およびメタノール合成方法への適用に有用である。
【背景技術】
【0002】
バイオマス等を原料とするメタノール合成プロセスや、DME合成プロセスあるいはF−T(フィッシャー・トロプシュ)合成プロセスなどの各種合成反応プロセスにおいては、触媒による吸熱反応あるいは発熱反応が利用される。このとき、その反応効率あるいは反応生成物の収率を適切に管理するには、反応器や反応槽の温度を管理し、反応熱を適切に処理し、触媒の温度制御を行う必要がある。特に、発熱反応においては、反応時の除熱の方法が反応効率およびプロセスのエネルギー効率に大きく影響することから、反応器の構成については、従前より種々の工夫や提案がなされてきた。
【0003】
気相反応における具体的な反応器の形式として、発熱反応の場合を例にとると、現在工業的には以下のようなものが用いられている(例えば特許文献1参照)。
(i)断熱クエンチ式反応器…竪型円筒状の加圧容器に触媒を多段に充填し、原料ガスを上部より供給する。触媒層で反応が進行して発生する熱により温度が上昇するので、触媒層間に低温の原料ガス(クエンチガス)を導人して触媒層の温度制御が行われる。
(ii)管型反応器…竪型の熱交換器の管内に触媒を充填し、シェル側にボイラ水を入れて反応熱を水蒸気として回収する。
(iii)管型二重管式反応器…竪型の熱交換器に二重管を用い、内管と外管の間の円周部に触媒を充填し、内管中に合成ガスを通過させ、外管の外側(シェル側)にボイラ水を入れて反応熱を水蒸気として回収するもの。
(iv)ラジアルフロー熱交換式反応器…反応ガスをラジアルフローとし、触媒層内に軸方向に多数の伝熱管を設け、反応熱を高圧高温の水蒸気として回収するもの。
【0004】
例えば、メタノール合成反応は、以下の反応式からなることが知られ、これらは、いずれも発熱反応である。
CO+2H→CHOH ・・式1
CO+3H→CHOH+HO ・・式2
CO+HO→H+CO ・・式3
一般に、メタノール合成反応は、上式1の反応が支配的であり、式1の反応熱は標準状態で90.8kJmol−1であり、発熱量の大きな反応である。ここで、高温になるほど平衡転化率が小さくなることから、反応器の設計にあたっては、反応熱を適切に除去し、触媒の温度制御を十分考慮する必要がある。また,除熱の方法がプロセスのエネルギー効率に関わりをもってくるので,様々な方式が考えられている。
【0005】
メタノール合成反応は、熱力学的制約からワンパスでの転化率が低く、そのため化学平衡的に有利な高圧力下(8〜12MPa)での反応が一般的であり、エネルギー消費の大きいプロセスとなっている。また、未反応の原料ガスを循環させてメタノールを合成しているため、設備の大型化・複雑化を招き、設備コストが大きい。そのため、エネルギー効率および経済性の観点から、メタノールは、数千トン/日の非常に大規模な設備でしか生産されていない状況である。一方、メタノールは、主に天然ガスあるいは石炭を原料に製造されているが、化石資源の枯渇、CO排出を要因とする地球温暖化問題等を背景に、再生可能エネルギーであるバイオマスを原料としたメタノール製造技術の開発が進められている。しかし、一般にバイオマスは小規模分散型の資源であり、従来の高圧・ガスリサイクルのメタノール製造技術は、エネルギー効率および経済性の観点から好ましくないことから、実用化のために種々の検討がされている。
【0006】
具体的には、図10に示すように、水素と一酸化炭素あるいは二酸化炭素を主成分とする原料ガスを、触媒の存在下に反応させてメタノールを合成する方法であって、触媒層内にメタノールの蒸気圧の露点以下の冷却面を存在せしめ、該冷却面においてメタノールを液化、滴下させて反応系外に抜き出し、平衡転化率を超える転化率下にメタノール合成を遂行する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。冷却体(冷却管)104は多孔円筒内部に配置され、冷却面積を大ならしめるべく螺旋状に形成されている。必要に応じて、冷却面積を拡大するためにフィンを冷却管外周面に形成してもよい。冷却体(冷却管)104内部には、この実施例においては、水が冷却媒体として流通せしめられる。冷却水(常温)は、反応容器101上部の冷却水入口110から導入され、触媒充填層103において生成したメタノールと冷却体(冷却管)104内壁面において熱交換して昇温し、60℃〜80℃の温水となって冷却水出口111から排出される。この熱交換によって生成メタノールは液化され滴下して反応容器101外に抜き出される。
【0007】
さらに、こうした反応器では、超大型の反応器を構成することが困難であることから、図11に示すような気水ドラム式超大型メタノール反応器が提案されている(例えば特許文献1参照)。具体的には、堅型状の反応器201の上部と反応器201内の下部に蒸気発生用のドラム202,204を設け、半球状の管板を用いて冷却管(伝熱管群205)を取り付け、反応器内に触媒を充填する構造を有している。ここで、203は降水管、206は延長管、207は触媒受皿、208〜212は流路、213〜215はマンウェイを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許2964589号公報
【特許文献2】特開2005−298413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のような合成方法では、以下に挙げるような問題点や課題が生じることがあった。
(i)従前の技術においては、発熱反応により生じた熱が系外に取り出されるが、いずれの方式も生成する反応生成物(例えばメタノール)の露点以上の冷却温度である。そのため、平衡転化率を超える転化率での合成反応が不可能である、また転化率が平衡転化率に近づくと反応速度が低下し、反応器の効率が低下するという問題があった。
(ii)また、触媒層入口付近では、原料ガス中の濃度が高く反応速度が高いことから十分に反応が進むが、触媒層出口付近では、原料ガスの濃度が低く反応速度が十分でないことから反応が十分に進まないという問題点があった。
(iii)一般に冷却管は反応器の上部と下部で固定されるが、熱応力による負荷のため冷却管の破損を招く原因になることから、反応器の実用機規模へのスケールアップが難しい。
(iv)また、こうした構成においては、反応器上部に比べて下部がより温度低下し、鉛直方向に温度むらを生ずることがあり、冷却管の上下方向あるいは反応ガスの流通方向における温度むらが生じる。このため、触媒層全域を反応に最適な撮度とすることが難しく、アルコール合成反応などのように反応温度の微妙な変化が反応率に影響するような場合にあっては、メタノールの凝縮引抜きを行っているにも関わらずメタノール収率が増加しない場合がある。冷却管を反応器上部から底部まで挿入した場合や反応器底部から上向きに押入した場合のいずれにおいても同様の現象が生ずる。従って、一定の反応率の確保や最適な反応温度維持が難しくなり、所望の反応生成物の収率が得られないという課題があった。
(v)また、各反応管の間に凝縮部や凝縮液の抜出部を有し、凝縮後のガスが再度触媒層に戻る構造をとった場合にあっては、凝縮液を所定量貯留し、貯留された凝縮液を一定量ずつあるいは一定時間ごとに系外に供出されることから、連続的に凝縮液を確保することができなかった。また、メタノール等の凝縮液を貯留するためには貯留槽のみならず反応器全体を耐食性材料とする必要があり、耐圧容器である反応器の構造が複雑となることから製造コストが高くなるという課題があった。さらに触媒層へ導入するガスの再加熱が必要となり、エネルギー効率の低下につながり、冷却水のユーティリティ量が大きくなるとの課題があった。
(vi)一般に、触媒充填部は単管式となっている。ガス流速を固定して設計する場合、ガス流量の増大に応じて反応管の管径を大きくする必要があり、圧力容器の場合、反応管径を大きくすると、それに応じて必要肉厚も大きくなり、製造コストの増大を招く。こうした理由から、反応器の実用機規模へのスケールアップが難しいという課題があった。
(vii)さらに、図10に示すような方法を実用化する場合にあっては、触媒充填層への原料ガスの導入に際し、ガスの偏流を起せば反応率の低下を招き、触媒充填層にホットスポットを生じる可能性があることから、均一なガスの流れを確保できる反応器の構造が課題となっていた。また、触媒充填層内での精製したメタノールと冷却管の接触効率が上げ、反応器内部での凝縮効果を向上させる構成も重要な課題であった。
(viii)図11に示すような方法を実用化する場合にあっては、触媒充填層を有する反応管を複数直列に接続した形をとるため、触媒の充填や抜き出しが煩雑になるという課題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、原料ガスの合成反応によって得られた反応生成物を、反応器内の反応温度に影響を与えることなく、連続的に反応器の内部で凝縮させて外部へと抜き出すとともに、該合成反応を促進させ、より高い収量が得られる反応器およびこれを用いた反応生成物製造方法を提供することである。特に、バイオマス等を原料とする原料ガスからメタノールを作製するプロセスにおいては、ワンパスで平衡転化率を超える高い転化率を確保し、原料ガスを循環せずとも連続的に高いメタノール収率を得ることができることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す反応器およびこれを用いた反応生成物製造方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
本発明は、原料ガス導入部、触媒充填層、反応生成物供出部および反応ガス排出部を有し、触媒反応によって反応生成物が作製される反応器において、
前記原料ガス導入部が、反応器の胴部に設けられ、反応ガス排出部が、反応器の中軸部に設けられ、前記反応生成物供出部が、反応器の上端部から内挿され、一部に三重管を形成する反応生成物冷却部と、反応器の上部から反応生成物の一部が抜き出される反応生成物抜出部と、から一体として構成され、前記三重管が、冷却媒体が導入され流通される外管と、該外管の内部に設けられ先端部から反応生成物の一部が抜き出される内管と、該内管の外周であって前記外管の内部に設けられ前記冷却媒体が流通され排出される中管と、から構成されるとともに、前記内管の先端部が、反応器内部の上部から略中央部のいずれかに位置することを特徴とする。
【0013】
メタノール合成等反応器における反応率を上げるには、原料ガスの反応によって発生する反応熱による影響を如何に低減するかが重要となる。また、触媒充填層内にて反応生成物を凝縮させ抜き出すことが好ましい。反面、反応生成物の凝縮や冷却部の設置は、触媒充填層内部の温度低下や温度分布のムラの解消が大きな課題となっている。本発明は、一部に冷却機能を有する三重管を形成し、反応器内部の上部から略中央部のいずれかから反応生成物の一部が抜き出される反応生成物抜出部(以下「抜出部」という)を用い、最適な原料ガスと反応生成物を含むガス(以下「反応ガス」という)および排出ガスの流れと温度条件を形成することによって、効率のよい合成反応により高い収量を得ることが可能となった。
【0014】
具体的には、以下の構成によって、原料ガスから反応生成物を作製するプロセスにおいて、ワンパスで平衡転化率を超える高い転化率を確保し、原料ガスを循環せずとも高い収率を得ることができる反応器を提供することが可能となった。
(a)触媒充填層の上流側で生成した反応生成物を触媒充填層内において抜き出すことによって、より高い転化率を確保することができる。つまり、可逆反応においては、反応生成物を系から除去することによって反応を促進する方向に化学平衡を移行させることができることから、触媒充填層上流側で合成された反応生成物を凝縮させて反応器外へと抜き出すことで反応を促進させ、より高い収量が得られるとの知見を利用したものである。
(b)反応器内部の上部あるいは略中央部までの冷却部によって反応生成物を凝縮させ、その端部から反応生成物を抜き出すことによって、反応生成物を効率よく凝縮させ抜き出すことが可能となる。つまり、冷却部を触媒充填層上部もしくは触媒充填層上部から略中央部までに限定することで、触媒充填層の温度ムラが解消されるとともに、流下過程における反応生成物の蒸散による損失を防止することができるとの知見を得たものである。
(c)反応器の胴部から導入された原料ガスを反応器軸方向に対し垂直方向に流し、冷却部を反応器軸方向に設置することで、ガスが確実に触媒充填層を通過するようにできる。
(d)反応熱によって変化する原料ガスの温度を、反応生成物冷却部(以下「冷却部」という)の冷熱を利用し最適反応温度範囲内に維持することによって、高い反応効率を確保することができる。
また、抜出部を反応器の上端部から内挿されることによって、一方向からの冷却媒体の供給と回収が可能となり反応器の構造の簡便化を図ることができるとともに、触媒充填層内部の温度差の拡大の防止を図ることが可能となる。さらに、冷却部自体に係る熱応力による負荷の軽減を図ることもできる。
【0015】
本発明は、上記反応器であって、前記反応器に内挿された前記三重管の外周部が、漸次外径が縮小または一部に同一径部を有しつつ縮小するとともに、前記内管の先端部に、内管の中心軸に垂直な平坦面を有することを特徴とする。
凝縮された反応生成物(凝縮液)は、自重によって三重管の外周面に沿って落下し三重管の内管内部から抜き出される。このとき、例えば、外管の外周端部あるいは三重管先端の外周端部が内管先端部の内壁部から遠い場合には、凝縮液が外周端部から落下することがある。また、三重管先端の外周部が内管の中心軸に対して平行に形成あるいは内管の先端部に対して鋭角的に形成された場合も同様である。本発明は、三重管の外周部が、漸次外径が縮小または一部に同一径部を有しつつ縮小するとともに、内管の先端部に、内管の中心軸に垂直な平坦面を有する構造とすることによって、凝縮液が外周端部から落下することなく内管内部に流入し抜き出すことが可能となった。具体的な三重管の外周部の形状として、例えば略錐形状、一部に直管部を有する略錐形状または一部に脹らみを有する略円錐状などが挙げられる。
【0016】
本発明は、上記反応器であって、前記反応生成物供出部が、前記三重管の周囲を仕切る円筒多孔板を有し、前記触媒充填層内に同心状に複数配列されることを特徴とする。
三重管の外周が形成する冷却部は、冷却部表面での凝縮による反応生成物の反応器内部での凝縮とともに、原料ガスの冷却による触媒反応の効率確保を担っている。このとき、冷却部が直接触媒と接触すると、熱伝導による触媒温度の低下に伴う反応効率の低下を招くとともに、凝縮液の触媒表面への付着に伴う凝縮液の回収量の低下と触媒表面での反応効率の低下を招く可能性がある。本発明は、冷却部の周囲を円筒多孔板で仕切ることによって、冷却空間(冷却層)の形成と凝縮液の回収流路を確保することができる。また、複数の三重管によって、反応生成物を効率よく冷却し凝縮させることによって、凝縮液として高い回収効率を確保することができ、さらに触媒充填層の上流から複数の冷却層によって順次反応生成物を回収することによって、平衡転化率を超える高い転化率を確保することができる。ここで、「同心状」とは、複数の抜出部を幾重もの周回状の断面を有するように配列する場合であって、複数の円形を形成する場合には同心円状とし、複数の正方形を形成する場合には、その中心点を共通とする同心形状とし、複数の他の形状を形成する場合も同様とする。
【0017】
本発明は、上記反応器であって、前記ガス導入部と触媒充填層間がガス整流層で仕切られ、整流された原料ガスを前記触媒充填層に導人することを特徴とする。
触媒反応においては、触媒充填層の内部でのガスの均一な流れが好ましい。本発明は、触媒充填層の外部からの原料ガスの供給においてこれを実現するもので、ガス導入部と触媒充填層の間、および反応ガス排出部と触媒充填層の間にガス整流層を設けることによって、触媒充填層内における反応効率のバラツキをなくし、最小容量の触媒充填層によって高い反応効率を確保することが可能となる。
【0018】
本発明は、上記反応器であって、前記反応ガス排出部と触媒充填層間がガス整流層で仕切られ、触媒充填層内部でのガス流の均一性を高めることを特徴とする。
触媒充填層の内部でのガスの均一な流れは、特定の流路への偏流の形成によって阻害される。本発明は、触媒充填層の導入側だけでなく排出側にも同様の整流機能を形成することによって、触媒充填層内部でのガス流のさらに高い均一性を確保することができ、最小容量の触媒充填層によって高い転化率を確保することが可能となる。
【0019】
本発明は、上記反応器であって、前記触媒充填層内にガスの流れを規制する遮蔽板を配設し、ガスと冷却部との接触効率を高めることを特徴とする。
上記では、触媒充填層を通過するガスを整流化することによって、触媒充填層の内部でのガスの均一な流れの形成を図った。本発明は、触媒充填層内部のガスの流れを規制することによって、ガスと冷却部との接触効率の向上を図ったもので、後述するような複数の抜出部同士の間など、所定の間隔あるいは所定の場所に遮蔽板を配設することによって、反応器内部での反応生成物の高い凝縮量を確保することが可能となる。つまり、ワンパスで平衡転化率を超える高い転化率を確保し高い収率を得ることができる反応器を構成することができる。
【0020】
また、本発明は、上記のいずれかの反応器を用いた反応生成物製造方法であって、原料ガスを反応器軸方向に対して垂直方向に導入し、触媒充填層の合成反応により生成した反応生成物の一部を前記三重管の外周部上で凝縮させ、凝縮した反応生成物の一部を反応器の外部へ抜き出すとともに、反応生成物の分圧を低減することで後段の触媒充填層での合成反応を促進させることを特徴とする。
上記反応器は、上記(a)〜(d)という基本機能を有するもので、本発明はこうした優れた機能を生かすことによって、ワンパスで平衡転化率を超える高い転化率を確保し、原料ガスを循環せずとも高い収率を得ることができる反応生成物製造方法を構成することができる。特に(a)触媒充填層の上流から複数の冷却層によって順次反応生成物を回収することによって、平衡転化率を超える高い転化率を確保することができるとの知見に基づく反応生成物製造方法は、従前にない高い収率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る反応器の基本構成を例示する全体構成図。
【図2】本発明に係る三重管の構成例を示す構成図。
【図3】本発明に係る三重管の先端部の構成例を示す構成図。
【図4】本発明に係る反応器の他の構成例を示す構成図。
【図5】本発明に係る反応器を備えた反応生成物製造装置の構成例を示す構成図。
【図6】本発明に係る実験装置の構成例および実験結果として触媒充填層内の鉛直方向の温度分布を例示する状態図。
【図7】本発明に係る触媒充填層内の水平方向の温度分布を例示する説明図。
【図8】本発明に係る合成反応器のCO転化率の試算結果を例示する説明図。
【図9】複数の触媒充填層・冷却層を有する本発明に係る合成反応器の温度分布,CO転化率の試算結果を例示する説明図。
【図10】従来技術に係る1のメタノールの合成方法の概略を例示する全体構成図。
【図11】従来技術に係る他のメタノールの合成方法の概略を例示する全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明に係る反応器(以下「本装置」という)は、原料ガス導入部(以下「ガス導入部」という)、触媒充填層、反応生成物供出部(以下「供出部」ということがある)および反応ガス排出部(以下「ガス排出部」ということがある)を有する。原料ガス導入部が、反応器の胴部(以下「胴部」という)に設けられ、反応ガス排出部が、反応器の中軸部に設けられる。反応生成物供出部が、反応器の上端部から内挿され、一部に三重管を形成する反応生成物冷却部(以下「冷却部」という)と、反応器の上部から反応生成物の一部が抜き出される反応生成物抜出部(以下「抜出部」という)と、から一体として構成される。三重管は、冷却媒体が導入され流通される外管と、外管の内部に設けられ先端部から反応生成物の一部が抜き出される内管と、内管の外周であって外管の内部に設けられ冷却媒体が流通され排出される中管と、から構成される。内管の先端部が、反応器内部の上部から略中央部のいずれかに位置することを特徴とする。
【0023】
<本装置の第1構成例>
本装置の1つの実施態様として、第1構成例の概略全体構成を、図1に示す。本装置1の正面からの断面を図1(A)に、供出部5の正面からの断面を図1(B)に示す。本装置1の外周から順に、ガス導入部2、第1ガス整流層3、触媒充填層4で構成され、触媒充填層4内には、1または同心円状に複数の供出部5が配置される(第1構成例では1つの供出部5が設けられた例を示す)。触媒充填層4の中心部は、第2ガス整流層6で仕切られ、ガス排出部7が設けられている。本装置1内部の最外周部にはガス導入部2があり、原料ガス入口2aから導入された原料ガスが、ガス導入部2を介して外周全体から、本装置1の軸方向Mに対し垂直方向に流れる。ガス導人部2と触媒充填層4の間には第1ガス整流層3を有する。第1ガス整流層3で均一に分散された原料ガスは、軸方向Mに対し垂直方向に触媒充填層4に導入される。触媒充填層4には合成反応用触媒(例えばメタノール合成触媒等)が充填されている。触媒充填層4に導入された原料ガスは、反応して反応生成物を含む反応ガスとなり、供出部5を通過するとき供出部5の外表面の冷却部5aに接触した反応生成物の一部は凝縮する。反応ガスは、供出部5において凝縮した反応生成物を分離して、排出ガスとして第2ガス整流層6および反応ガス排出部7を介して排出される。冷却部5aにおいて凝縮した反応生成物は、自重により冷却部5aの外表面に沿って供出部5の下部に流下し、供出部5の下端部から抜き出される。
【0024】
上記の説明においては、本装置1の内部最外周部に設けたガス導入部2から中心部の反応ガス排出部7へとガスが流れる場合について説明したが、逆に、中心部から原料ガスを導入し、外周部へと流し供出する構成を用いることも可能である。その場合において、本装置1の構造および各部位の機能については、上記と同様である。特に、第1ガス整流層3および第2ガス整流層6を有することによって、両者の互換性を持たせることが可能となる。
【0025】
また、供出部5および触媒充填層4の配置および寸法は、反応条件(ガス量、ガス濃度、圧力)および経済的な条件(反応器塔径、高さ)から決定するものである。
【0026】
導入される原料ガスは、例えば、上記のようなメタノール製造装置の場合には、HおよびCOあるいはCOを主成分とし、天然ガスの水蒸気改質、あるいは石炭やバイオマスのガス化、あるいは下水処理場等におけるメタン発酵において生成されるバイオガスの水蒸気改質により得られるガス(合成ガス)などを対象とすることができる。
【0027】
〔本装置の構成要素の機能について〕
本装置1は、合成反応の使用条件(圧力)に耐えうる金属製の圧力容器であり、縦型円筒状の容器であり、一般に、炭素鋼またはステンレス(SUS)製の耐圧容器を用いることができる。原料ガス入口2aの内側には邪魔板を設置し、ガスを分散させる機能を有することができる。また、原料ガス入口2aの設置箇所および個数は特に指定されるものではない。本装置1は、上述するようにワンパスで平衡転化率を超える高い転化率を得られることから、従来の反応条件よりも低圧力で、従来と同程度の収率を得ることができるために、原料ガスの圧縮に必要な動力を削減できる。また、原料ガスを循環せずとも高い収率を得ることができるため、従来オフガスの循環に必要であった循環ポンプ等の設備を省略することででき、設備の簡素化、低廉化、省スペース化を図ることができる。従って、例えばバイオマス等を原料とする比較的小規模(数百kg/日〜数トン/日の生産規模)なメタノール製造プラントに好適に用いることができる。
【0028】
ガス導入部2と触媒充填層4の間は、第1ガス整流層3で仕切られ、整流された原料ガスを触媒充填層4に導人することが好ましい。第1ガス整流層3は、焼結金属板などの金属製あるいはセラミック製の多孔板であり、触媒粒子より十分に小さい孔を多数有するものである。ただし、ガス導人部2において原料ガスを均一に分散させる程度に孔の細かいものとし、合成反応の条件(圧力、流量)における第1ガス整流層3の圧損が過大とならない程度が好ましい。第1ガス整流層3は、その上下を環状端部1a,1cで反応器1の胴部1bと結合され、その結合部は、ガスが流れないようなシール構造(例えばOリングによるシール)、あるいは溶接により完全にシールされたものである。
【0029】
触媒充填層4に充填される触媒は、上記のようなメタノール製造装置の場合には、銅−亜鉛系の固形メタノール合成触媒が多く用いられる。こうした合成反応の多くは、触媒充填層4において反応が進むと触媒温度はガス進行方向に従って上昇するが、所定の温度まで上昇すると、熱力学的平衡の制約を受けることになる。本装置1では、原料ガスが化学平衡に到達するだけの触媒充填層長あるいはそれ以下の触媒充填層長を通過した後、供出部5に導入される。なお、この触媒充填層長は反応条件(圧力、原料ガス濃度、触媒SV値、触媒性能、ガス温度)に応じて決まる反応速度から決定されるものであって、特に指定されたものではない。触媒の充填や抜き出しは、触媒充填口4aおよび触媒抜出口4bから行われ、本装置1上部および下部の耐圧部にそれぞれ設ける。これにより、複数の触媒充填層4および供出部5を有する反応器においても容易に触媒の交換が可能である。
【0030】
触媒充填層4の温度は、各反応が効率的に進行する温度範囲内となるように設定され、メタノール合成反応においては、170〜250℃(望ましくは190〜250℃)に保たれることが好ましい。170℃未満では未反応となり、190℃は、一般的にメタノール合成触媒において炭素析出による性能劣化が起こる上限値であり、250℃は、銅系触媒がシンタリングによる性能劣化をおこす下限値である。触媒性能によってはこの値に限定されるものではないが、一般的な銅−亜鉛系の固形メタノール合成触媒を用いる場合、好ましくは200〜230℃に保つものとする。これは化学平衡の観点からは低温が好適である一方、反応速度の観点からは高温が有利なためであり、200〜230℃に保つことで、触媒充填層4での反応率を最大化できる。
【0031】
触媒充填層4には、供出部5が設けられる。供出部5は、本装置1に内挿された部分が三重管構造を有する冷却部5aと、本装置1の上部から反応生成物を含むガス(以下「抜出ガス」という)が抜き出される抜出部5bとからなり、一体として構成されている。冷却部5aは、図1(B)に示すように、最外部を形成する外管51、外管51の内部に設けられる内管52、および内管52の外周であって外管51の内部に設けられる中管53からなる三重管50により構成される。三重管50の一端部が本装置1の上部に固定されることによって、熱応力による負荷の軽減を図ることができる。外管51内部には、中管53外周部53aとの間に冷却媒体が導入され流通される流通路51bが形成され、中管53内部には、内管52外周部52aとの間に冷却媒体が導入され流通される流通路53bが形成される。流通路51bと流通路53bは、三重管50下部で繋がる。また、内管52内部には、抜出ガスが抜き出される抜出路52bが形成される。ただし、三重管50の断面形状は、同心円状に形成された場合に限定されるものではなく、楕円や正方形あるいは長方形やひし形など種々の形状が可能である。
【0032】
流通路51bに冷却媒体が導入され流通されることによって外管51が冷却され、触媒充填層4で作製された反応生成物が外管51の外周部51a上で凝縮する。凝縮した反応生成物は、自重により外管51の外周部51aの表面に沿って流下し、外周部51aの冷熱によって液状を維持したまま、三重管50の下端部を形成する内管52の先端部52cから内管52の内部に導入される。導入された反応生成物は、内管52の内部を上昇し、内管52が繋がる抜出部5bから抜出ガスの一部として抜き出される。冷却媒体は、本装置1の上部から流通路51bに導入され、流通路53bを流通して本装置1の上部から排出される。このとき、内管52の外周部52aは、流通路53bを流通する冷却媒体の冷熱によって低温を維持することができることから、抜き出される反応生成物は液状を維持することができるとともに、流通路51b以下の温度となることはないことから、抜出ガス中の新たな凝縮がなく液状体の成長を促すことがなく、本装置1内部に滴下することがない。
【0033】
ここで、内管52の先端部52cが、本装置1の内部の上部から略中央部のいずれかに位置することが好ましい。触媒充填層4の上層部から下層部まで冷却管を配設し反応ガスと接触させた場合には、触媒充填層内の自然対流など、種々の要素が相互に関連する触媒充填層内の温度のムラが発生し易くなる。また、反応生成物の凝縮物が反応器内に滞留する時間が長くなることから、凝縮物の蒸散が起り易くなり、抜出ガス中の反応生成物の収率の低下が起り易くなる。図1(A)のように、冷却部5aを本装置1の内部の中上層部までにとどめ、先端部52cから凝縮された反応生成物の抜き出しを行うことによって、こうした影響を排除し、効率のよい合成反応により高い収量を得ることが可能となった。冷却部5aに沿って触媒充填層4の下層部まで凝縮し流下する反応生成物による触媒充填層4の温度低下や温度ムラが解消されるとともに、流下過程あるいは貯留過程における反応生成物の蒸散による損失を防止することができるとの知見を得たものである。こうした構造の具体的な技術的効果は、後述する検証結果に示す。
【0034】
図2(A)〜(C)に、供出部5全体の構成を例示する。冷却媒体の流路として三重管50の外管51と中管53を利用することにより冷却部5aでの一方向からの冷却媒体の供給と回収を可能とし、冷却部5aの構造の簡便化を図ることができるとともに、触媒充填層4の鉛直方向の温度差の拡大の防止を図ることが可能となった。冷却媒体は、所定流量以上を流通させた場合には、流通路51bから流通路53bあるいは流通路53bから流通路51bのいずれの方向に流しても構わない。少量の冷却媒体を使用する場合には、流通路51bから流通路53bに流通させることによって、外管51において初期の低温条件での反応ガスの冷却を図るとともに、中管53において少し加温された条件で内管52(内部の抜出ガス)と熱交換することによって、新たな凝縮がなく液状体の成長を促すことがないことから本装置1内部に滴下することがない。
【0035】
例えば、メタノール製造プロセスにおいては、冷却部5aの外管の外表面は、供出部5に導入されるガス中の生成メタノールの露点より低い温度に保たれる。従って、冷却媒体の種類および冷却媒体の温度や流量は、供出部5に導入されるガス中のメタノール濃度および反応圧力に応じて最適な条件をとなるように設定される。具体的には、供出部5内の反応ガスの平均温度は、触媒充填層4の適正温度範囲である170〜250℃(望ましくは190〜250℃)に保たれることが好ましい。また、不純物を含む液状メタノールは腐食性を示す場合があるため、液状メタノールが触れる冷却部5aは、ステンレス等耐食性材料が好ましい。
【0036】
ここで、冷却部5a先端の構造は、図3(A),(B)に例示するように、外管51の外周部51a外径が漸次縮小または一部に同一径部を有しつつ縮小するとともに、内管52の先端部52cに、内管52の中心軸Nに垂直な平坦面52dを有することが好ましい。具体的な形状として、例えば略錐形状、一部に直管部を有する略錐形状または一部に脹らみを有する略円錐状などが挙げられる。外周部51aで凝縮された反応生成物(凝縮液)は、自重によって流下する。このとき、図3(C)に例示するように、外管51あるいは三重管50先端の外周端部51cが内管52の先端部52cの抜出路52bから遠い場合には、凝縮液の多くが外周端部51cから落下することがある。また、図3(D)に例示するように、外周部51aが内管52の先端部52cに対して鋭角的に形成された場合も凝縮液の多くが先端部52cから落下することがある。本装置では、三重管50の外周部51aが、図3(A)に例示するように、漸次外径が一部に同一径部を有しつつ縮小するとともに、先端部52cに中心軸Nに垂直な平坦面52dを有する構造、あるいは、図3(B)に例示するように、漸次外径が縮小するとともに、先端部52cに中心軸Nに垂直な平坦面52dを有する構造とすることによって、凝縮液が外周端部51cから落下することなく内管52内部の抜出路52bに流入させることが可能となった。
【0037】
また、図3(A),(B)における冷却部5a先端の具体的な構造において、抜出路52bの内径d1は、2〜5mmφが好適である。粉塵等による閉塞もなく、少量の抜出ガスで凝縮液の輸送が可能である。平坦面52dの幅d2は、1〜5mmが好適である。1mm未満であれば、図3(D)に例示された構造に近くなり、5mmを超えると、図3(C)に例示された構造に近くなり、いずれも凝縮液が落下し易く収率の低下を招くこととなる。さらに、図3(E)に例示するように、先端部52cを含む内管52の近傍の外周を、金属不織布や焼結金属などの金属製あるいはセラミックス製の多孔質体54で被覆することによって、凝縮液を、外管51からの冷熱で冷却された多孔質体54の内部を通過させて抜出路52bに流入させることが可能となる。また、図3(F)に例示するように、先端部52cに凝縮液の受け部55を設け、その近傍の外周部51aに抜出路52bと導通する横穴部52e,52eを設けることによって、外周部51aから落下し受け部55で受けられた凝縮液を抜出路52bに流入させることが可能となる。
【0038】
ガス排出部7と触媒充填層4の間は、第2ガス整流層6で仕切られ、整流された排出ガスを供出することが好ましい。第2ガス整流層6は、第1ガス整流層3と同様、触媒粒子より細かい孔を有し、触媒充填層4内のガスを均一に分散させるだけの圧損を持つ焼結金属板などの金属製あるいはセラミック製の多孔質体である。第1構成例では、円筒形状に構成された第2ガス整流層6を示しているが、これに限定されるものではない。原料ガスの導入側の第1ガス整流層3だけでなく、反応ガスの供出側にも同様の整流機能を有する第2ガス整流層6を設けることによって、触媒充填層4内部でのガス流の高い均一性を確保することができる。
【0039】
〔本装置の他の構成例〕
冷却部5aは、触媒充填層4との間を円筒多孔板55で仕切られることが好ましい。図4(A)〜(E)および拡大図に例示するように、冷却部5aの周囲を仕切る円筒多孔板55が配置されることによって冷却層56が形成される。このとき、冷却部5aが触媒充填層4と接触していないことから触媒充填層4の温度を熱伝導により直接下げることがなく、触媒充填層4に対しては、凝縮された反応生成物が除かれた熱容量の小さな反応ガスによる冷熱効果しか及ぼさない。このとき、冷却層56は、図4(A),(B),(D)および(E)のように、各冷却部5aの周囲に円筒多孔板55が配置されて仕切られる構成や、図4(C)のように、同心状に配置された4つの冷却部5aを、2つの大きな円筒多孔板55によって挟むように同心状に配置されて仕切られる構成、あるいは、複数の冷却部5aが同心状に配置され、それらの上下流側から円筒多孔板55によって挟むように同心状に配置されて仕切られる構成(図示せず)によって形成することができる。
【0040】
冷却層56を構成する円筒多孔板55は、触媒粒子より小さな孔を有する円筒型の多孔板であり、冷却部5aと触媒充填層4を仕切るように軸方向Mに沿って設置される。例えばφ4mmの孔を有する開口率40%のパンチングメタルなどが用いられる。ガス流れ方向と円筒多孔板55で仕切られる冷却層56が垂直方向に交わることで、ガスが確実に触媒充填層4を流れる構造としている。このような冷却層56は、触媒充填層4と冷却部5aの間の熱交換を緩和する機能を有しているとともに、凝縮液の触媒への付着を防いでいる。円筒多孔板55の上端部は触媒充填層4の端部と同一面かあるいはそれより上方に位置し、触媒が冷却層56に流入しない構造となっている。円筒多孔板55の下端部は触媒充填層4の下端部と同一面かあるいはそれより下部に位置する。
【0041】
上記第1構成例では、触媒充填層4中に1つの供出部5を有しているが、これに限定されるものではなく、供出部5や触媒充填層4の配置や数量を含め任意に構成することが可能である。具体的には、図4(A)〜(C)に例示するように、4つの供出部5を同心状に配置することによって、その同心外にある触媒充填層41と同心内にある触媒充填層42に分けることができる(第2構成例)。また、図4(D),(E)に例示するように、12の供出部5を2つの同心状に配置することによって、最も前段にある触媒充填層41と中段にある触媒充填層42および最も後段にある触媒充填層43に分けることができる(第3構成例)。このとき、前段の触媒充填層で合成された反応生成物が供出部5によって凝縮させられ抜き出されることによって、後段の触媒充填層での合成反応が促進され、より高い収量を得ることができる。また、後述する試算結果からわかるように、反応効率と反応器サイズとのバランスを考慮すると触媒充填層の数量は2〜4程度が好ましい。
【0042】
供出部5および触媒充填層4の配置および寸法は、反応条件(ガス量、ガス濃度、圧力)および経済的な条件(反応器塔径、高さ)から決定するものである。
【0043】
また、本装置1を応用し、図4(F)に例示するように、同心円状に間隔を設けて配置される円筒多孔板55の間に、ガス流れを遮蔽する邪魔板5cを設置するものである(第4構成例)。円筒多孔板55同士と接続するように邪魔板5cを設置しその間でのガス流れを遮断している。これにより、合成されたメタノールを含むガスが確実に複数の円筒多孔板55を介して冷却層56に導人され、ガスと冷却部5aの接触効率が向上し、本装置1内部での反応生成物の凝縮量を向上させることができ、反応率の向上につながる。その他の構造、機能は第1構成例で示す反応器と同じである。
【0044】
<本装置を用いた反応生成物製造方法>
次に、本装置1を用いた反応生成物製造方法を詳述する。本装置1において、導入される原料ガスが反応して反応ガスとして供出されるとともに、反応生成物が凝縮液として抜き出される。つまり、原料ガスを反応器軸方向に対して垂直方向に導入し、触媒充填層の合成反応により生成した反応生成物の一部を三重管の外周部上で凝縮させ、凝縮した反応生成物を反応器の外部へ抜き出すとともに、原料ガスの分圧の向上により後段の触媒充填層での合成反応を促進させることを特徴とする。以下、その一例として、原料ガスをHおよびCO,COを主成分とし、反応生成物をメタノールとし、上記第1構成例に係る反応器を備えた図5に例示する反応生成物製造装置(以下「本製造装置」という)を用いたメタノール合成プロセスについて説明する。本製造装置は、本装置1と、その供出部5から抜き出されたメタノールを含む抜出ガスを気液分離器8に導入して液状メタノールと供出ガスに分離する流路と、ガス排出部7から排出された排出ガスを凝縮器9および気液分離器10に導入して排出ガスに含まれるメタノールを凝縮させて分離する流路と、メタノールが分離された後の排出ガスを供出ガスと混合する流路を有している。
【0045】
(1)原料ガスの導入
およびCO,COを主成分とする原料ガスが、ガス導入部2を介して本装置1に導入される。このとき、原料ガスは、180〜300℃(望ましくは190〜230℃)および1〜15MPa(望ましくは2〜8MPa)に整えられて、所定流量に調整された上で導入される。望ましくは、H10〜80%、CO5〜40%、CO5〜30%を含むガスである。
【0046】
(2)原料ガスの整流化
導入された原料ガスは、第1ガス整流層3で均一に分散され、軸方向Mに対し垂直方向に触媒充填層4に導入される。本装置1の外周全体から中心に向けて整流し流通させることによって、その均一性を高めることができる。
【0047】
(3)メタノール合成反応
均一に分散され、触媒充填層4に導入された原料ガスは、既述の反応式1〜3により反応し、メタノールを含む反応ガスとなる。既述のように、一般的な銅−亜鉛系の固形メタノール合成触媒を用いる場合、反応温度を200〜230℃に保つことで、触媒充填層4での反応率を最大化できる。
【0048】
(4)反応ガスの冷却
反応ガスは、触媒充填層4から1または複数の供出部5に移送され、供出部5を構成する冷却部5aによって冷却され、反応ガス中のメタノールの一部が冷却部5aの表面において凝縮する。冷却条件は、具体的には、冷却部5aの表面がメタノールの露点より低い温度であって、触媒充填層4が適正温度範囲である170〜250℃(望ましくは190〜250℃)に保たれる条件とする。
【0049】
(5)反応ガスの供出
供出部5において凝縮したメタノールを分離した反応ガスは、第2ガス整流層6およびガス排出部7を介して、本装置1の外部に供出される。複数の供出部5が配置された場合には、最前段の供出部5において凝縮したメタノールを分離した反応ガスが、次の触媒充填層4に導入され、さらに合成反応によって新たなメタノールを含む反応ガスを形成し、次の供出部5に導入され、反応ガスの冷却および凝縮したメタノールの供出を繰り返す。最後段の供出部5を流通した反応ガスは、第2ガス整流層6,ガス排出部7を介し、排出ガスとして本装置1の外部に供出される。
【0050】
(6)メタノールの凝縮・抜き出し
上記(4)のように、反応ガス中のメタノールが冷却部5aの表面において凝縮する。凝縮されたメタノールは、微小な液滴から徐々に増大し凝縮液となり、冷却部5aに沿って下部に流下し先端部52aを介して供出部5から抜き出される。本装置1においては、適正な配置の供出部5によって、効率よくメタノールを凝縮させることができることから、高い回収率を確保することができる。
【0051】
(7)抜出ガス中のメタノールの分離
供出部5からの抜出ガスは、気液分離器8に導入され液状メタノールと供出ガスに分離される。分離された粗メタノールは、気液分離器8に所定量貯留された後、下部の開閉弁V1を開とし系外に抜き出される。
【0052】
(8)排出ガス中のメタノールの分離
ガス排出部7からの排出ガスは、凝縮器9によって排出ガス中のメタノールを凝縮させた後、気液分離器10に導入され液状メタノール(粗メタノール)と排出ガスに分離される。分離された粗メタノールは、気液分離器10に所定量貯留された後、下部の開閉弁V2を開とし系外に抜き出される。系外に抜き出された粗メタノールは、気液分離器8から抜き出されたメタノールと混合された上で、別途精製プロセス等を経由して製品メタノールとして用いられる。
【0053】
(9)供出ガスおよび排出ガスの供出
気液分離器8からの供出ガスは、減圧弁V3により大気圧にまで減圧された後、流量調節弁V4によって所定流量に調整される。一方、気液分離器10からの排出ガスは減圧弁V5により大気圧にまで減圧される。流量調整された排出ガスと供出ガスは、混合された後、ガス発電あるいは燃料として利用したり、再度メタノール製造システムに循環利用することができる。
【0054】
以上のように、本メタノール合成方法においては、触媒充填層4の上流から1または複数の供出部5によって順次メタノールを回収することによって、平衡転化率を超える高い転化率を確保することができ、従前にない高いメタノール収率を得ることができる。
【実施例】
【0055】
〔実施例1〕
反応器における冷却部の構成が、触媒充填層に対して大きな影響を与える。ここでは、触媒充填層内の温度分布を実証し、その技術的効果を検証した。
【0056】
(1)実験装置
図6(A)に示す本構成例および図6(B)に示す従来構成例に係る反応器について、触媒充填層内の鉛直方向の温度分布を実証した。従来構成例は、触媒充填層R4内鉛直方向に2本の冷却管R5が反応器R1上部から反応器R1底部まで挿入されており、反応器R1内部で凝縮したメタノールは冷却管R5外表面に沿って流下し、反応器R1底部より排出される。一方、本構成例は、4本の三重管型冷却管5が反応器1上部から触媒充填層4中間高さまで挿入される。反応器1内部で凝縮したメクノールは冷却管5外表面に沿って流下し、冷却管5下端から抜出ガスとともに冷却管5の内部を通って反応器1上部から排出される。三重管型冷却管5最中央の抜出ガスが流通する管の内径は2mmである。
【0057】
(2)実験条件
反応器入口の原料ガスの組成は、H14〜20%、CO8〜11%、CO15〜20%、その他(Nなど)成分50〜60%とし、ガス供給流量は約50mN/h、ガスの圧力は4〜5MPa、ガス温度は200〜240℃として反応器に導入した。冷却媒体には冷却水を用い(冷却水温度は5〜40℃)、本構成例における三重管型冷却管からの抜出ガス流量は、冷却管1本あたり0.25mN/hとした。
【0058】
(2)検証結果
触媒充填層の鉛直方向の温度分布パターンを図6(C)に示す。なお、温度計測点は触媒充填層の最下流部(反応器の中心寄り)にて測定した。図6(C)に示す2つの結果は、触媒充填層下流側平均温度(上部/中部/下部の算術平均)、反応器出口ガス温度ともほぼ等しい。しかし温度分布パターンは異なり、従来構成例では触媒充填層の鉛直方向に約30℃の温度差があったものが、本構成例では鉛直方向の温度差を約10℃にまで圧縮することができた。また、触媒充填層の温度ムラを抑制できたことで本構成例においては、従来構成例に比べて反応率が約10%向上した。
【0059】
〔実施例2〕
本構成例に係る反応器を用い、反応器内部の水平方向の温度状態および反応率を実証した。
(1)実験条件
原料ガスの組成は下表1の通りとし、ガス供給流量約3.5mN/h、圧力3MPa、温度180〜230℃として反応器に導入した。このときの触媒充填層内の水平方向の温度分布について、触媒充填層に冷却部(冷却層)を配設した場合と配設しなかった場合を比較した。反応器内には水平方向に鞘管を挿入し、その中に熱電対を挿入することで反応器内の触媒温度分布を計測した。また、反応器の入口および出口でガス組成をマイクロガスクロマトグラフで計測し、反応率の計測を行った。なお、ここでは反応率として、CO転化率を用いた。なお、本実施例ではガス流量が小さく、また反応器からの放熱が大きく、触媒充填層を一定温度に保つことができないため、反応器胴部の側面から電気ヒータによる加温を行い、放熱分を補う形とした。
【表1】

【0060】
(2)実験結果
(2−1)温度分布
このときの触媒充填層内の水平方向の温度分布を図7に示す。冷却部(冷却層)を配設していない反応器に鞘管内に挿入した熱電対では、触媒充填層に入るとともに、反応熱により、触媒温度の上昇が見られ、触媒充填層入口付近近辺で温度が横ばいになっているのがわかる。つまり、それ以降では触媒充填層内では反応が進行していない。それに対し、冷却層を配設している反応器では、冷却層からの伝熱により触媒充填層での温度上昇が若干低く、冷却層内ではガスが冷却されることから、ガス温度の低下が確認された。冷却層後の触媒充填層においては、再度、触媒温度が上昇しているのがわかる。つまり、冷却層内で反応生成物であるメタノールを分離し、化学平衡が生成物側に移動したことで、後段の触媒充填層でも反応が促進された。
(2−2)反応率(CO転化率)
反応器の入口および出口で計測したガス組成から算出したCO転化率は64.6%であった。一方、反応器入口ガス組成の触媒充填層出口温度における平衡転化率は53.7%であり、化学平衡値を超える反応率を達成していることが分かる。このとき、反応器内部で凝縮・回収したメタノール量は、反応により生成したメタノール(ガス流量×入口CO濃度×CO転化率)の51.3%であった。
【0061】
〔実施例3〕
反応器内部で反応生成物(メタノール)を凝縮させ反応系外に分離することによって、上反応式1〜3の化学平衡は移動する。ここでは、化学平衡計算により、化学平衡を移動させることの技術的効果を検証した。
(1)検証条件
原料ガスとして、木質系バイオマスのガス化ガス(ガス化剤:空気および水蒸気)を用いた。ガス組成は、下表2に示す。メタノール合成反応の圧力は4.0MPaとし、触媒充填層においては、反応温度493.15Kで化学平衡値まで反応が進むと仮定した。第3構成例に示す反応器を用い、試算例1は、触媒充填層3層(冷却層2層)を有し、冷却層におけるメタノール凝縮率(生成メタノール量に対する凝縮メタノール量の割合)を0〜50%とした場合である(0%はすなわち化学平衡値)。試算例2は、第1構成例に示す反応器を用い、触媒充填層2層(冷却層1層)の場合である。
【0062】
(2)検証結果
試算例1および2について、このときの反応率(CO転化率=反応器入口のCOの物質量のうち、メタノールに転換する割合)を図8に示す。反応器内部で反応生成物であるメタノールを−部凝縮・抜き出すことで、化学平衡値に対して高い反応率が得られることがわかった。また、複数段の冷却層を設置することでより高い収率向上が可能になることがわかった。
【0063】
〔実施例4〕
つぎに、反応速度解析に基づいて反応生成物を分離し化学平衡を移動させることの効果および冷却層を設けて触媒充填層を複数段有することの効果を示す。実験により得た反応速度係数を用い、反応速度式から反応器の温度分布およびCO転化率を試算した。
(1)試算条件
原料ガスの供給条件は、下表2に示すとおりである。
【表2】

【0064】
(2)試算結果
触媒充填層の長さを横軸にとったときの反応器内の温度分布およびCO転化率を図9に示す。後段に進むにつれて、原料ガスの分圧が低下するために、反応速度が徐々に低下するが、複数の触媒充填層を経ることで、反応率が大きく上昇することが分かる。なお、既述のように、触媒充填層の数が増えることは、反応器の塔径が大きくなることを意味し、耐圧容器の耐圧部は塔径が大きくなるほど肉厚が大きくなり、反応器の製造コスト増大につながる。従って、試算結果を考慮すると、反応効率と反応器塔径の関係から触媒充填層数は2〜4程度が好ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明の実施態様を、バイオマス等を原料とするメタノール合成プロセスを挙げて説明したが、本発明を適用することが可能な対象物は、これらに限定されるものではなく、以下の点を満たす反応プロセスに適用することが好ましい。
(i)気相反応であること
(ii)可逆反応であること
(iii)冷却することで反応生成物が凝縮し、且つ反応物ならびに反応中間体が凝縮しない運転条件が存在すること
(iv)発熱反応であること
例えば、触媒充填層を用い複数の冷却層によって反応合成物の抜き出しが可能な各種プロセスに適用することができる。特に、F−T合成プロセス、エタノール合成プロセスなどに用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 反応器(本装置)
1a,1c 環状端部
1b 反応器の胴部(胴部)
2 原料ガス導入部(ガス導入部)
2a 原料ガス入口
3 第1ガス整流層
4 触媒充填層
4a 触媒充填口
4b 触媒抜出口
5 反応生成物供出部(供出部)
5a 反応生成物冷却部(冷却部)
5b 反応生成物抜出部(抜出部)
50 三重管
51 外管
52 内管
53 中管
51a,52a,53a 外周部
51b,52b,53b 流通路
52c 先端部
6 第2ガス整流層
7 反応ガス排出部(ガス排出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガス導入部、触媒充填層、反応生成物供出部および反応ガス排出部を有し、触媒反応によって反応生成物が作製される反応器において、
前記原料ガス導入部が、反応器の胴部に設けられ、
反応ガス排出部が、反応器の中軸部に設けられ、
前記反応生成物供出部が、反応器の上端部から内挿され、一部に三重管を形成する反応生成物冷却部と、反応器の上部から反応生成物の一部が抜き出される反応生成物抜出部と、から一体として構成され、
前記三重管が、冷却媒体が導入され流通される外管と、該外管の内部に設けられ先端部から反応生成物の一部が抜き出される内管と、該内管の外周であって前記外管の内部に設けられ前記冷却媒体が流通され排出される中管と、から構成されるとともに、
前記内管の先端部が、反応器内部の上部から略中央部のいずれかに位置することを特徴とする反応器。
【請求項2】
前記反応器に内挿された前記三重管の外周部が、漸次外径が縮小または一部に同一径部を有しつつ縮小するとともに、前記内管の先端部に、内管の中心軸に垂直な平坦面を有することを特徴とする請求項1記載の反応器。
【請求項3】
前記反応生成物供出部が、前記三重管の周囲を仕切る円筒多孔板を有し、前記触媒充填層内に同心状に複数配列されることを特徴とする請求項1または2記載の反応器。
【請求項4】
前記原料ガス導入部と触媒充填層間がガス整流層で仕切られ、整流された原料ガスを前記触媒充填層に導人することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の反応器。
【請求項5】
前記反応ガス排出部と触媒充填層間がガス整流層で仕切られ、触媒充填層内部でのガス流の均一性を高めることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の反応器。
【請求項6】
前記触媒充填層内にガスの流れを規制する遮蔽板を配設し、ガスと冷却管との接触効率を高めることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の反応器。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかの反応器を用いた反応生成物製造方法であって、原料ガスを反応器軸方向に対して垂直方向に導入し、触媒充填層の合成反応により生成した反応生成物の一部を前記三重管の外周部上で凝縮させ、凝縮した反応生成物の一部を反応器の外部へ抜き出すとともに、反応生成物の分圧を低減することで後段の触媒充填層での合成反応を促進させることを特徴とする反応生成物製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−143370(P2011−143370A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7293(P2010−7293)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】