説明

反応射出成形用配合液、反応射出成形体の製造方法及び反応射出成形体

【課題】ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための配合液であって、低温でも流動性が低下せず、ヒケの少ない成形体を得ることができる反応射出成形用配合液を提供する。
【解決手段】ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための配合液であって、ノルボルネン系モノマー、プロピレン単位含有量が60重量%以上のオレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂を含有してなることを特徴とする反応射出成形用配合液。この配合液を用いる反応射出成形体の製造方法。この製造方法によって得られる反応射出成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応射出成形用配合液、これを用いる反応射出成形体の製造方法及びこの製造方法によって得られる反応射出成形体に関する。更に詳しくは、特定の配合物を含有してなる、低温時においても優れた流動性を示すノルボルネン系モノマー含有反応射出成形用配合液、これを用いる反応射出成形体の製造方法及びこの製造方法によって得られる反応射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
反応射出成形法により、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン等のノルボルネン系モノマーを、メタセシス重合触媒を用いて、金型内で開環重合することにより、ノルボルネン系重合体が得られることは周知である。
このようにして得られるノルボルネン系重合体は、機械的強度、耐熱性及び寸法安定性に優れており、その成形品は、自動車、農業機器、建設機器等の部材や、電気機器、電子機器等のハウジング等に賞用されている。
これらの成形品のうち、特に大型のものについては、耐衝撃性が重視される。耐衝撃性を向上させるために、ノルボルネン系モノマーの重合をエラストマーの共存下に行なう方法が知られている。
エラストマーとしては、スチレン/ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエン/スチレンブロック共重合体(SBS)、ブタジエン/イソプレンブロック共重合体(SIS)、ポリ−シス−1,4−ブタジエン(BR)、ポリ−シス−1,4−イソプレン(IR)、スチレン/エチレン/ブタジエンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、天然ゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレン/プロピレンゴム(EPR)、エチレン/プロピレン/ジエン−ターポリマーゴム(EPDMまたはEPT)、ブチルゴム(IIR)等が公知である。
【0003】
上記エラストマーの中でも、エチレン/プロピレンゴム、エチレン/プロピレン/ジエン−ターポリマーゴム等の汎用オレフィンエラストマーが、耐衝撃性向上の効果が大きく安価であることから、好ましく用いられている。これらの汎用オレフィンエラストマーのうち、通常用いられるものは、エチレン含有量が50〜90モル%のもの、特に60〜85モル%のものである(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平1−204924号公報
【0005】
ところで、ノルボルネン系モノマー等の反応射出成形においては、成形時にモノマー成分の硬化収縮が起こるため、成形体表面にヒケが生ずることが多い。これは、金型のキャビティ側表面で硬化した樹脂及びコア側表面で硬化した樹脂が共に収縮するので、樹脂の厚み方向に引っ張りあいが生じ、硬化の遅い側の樹脂が他の側の樹脂に引き寄せられるためと考えられている。
このヒケの発生を防止するために、金型温度の制御、金型表面の樹脂被覆、射出圧の増大、原料供給量の調整、樹脂温度の調整、金型の回転等種々の方法が提案されているが、十分な効果が得られていない。
【0006】
本発明者は、先に、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するに当り、配合液に特定の剪断速度係数を有するエラストマーを添加することにより、反応射出成形体のヒケを防止することができ、しかも、配合液の流動性も向上すること、及び、上記エラストマーとしては、オレフィン系エラストマーが好ましく、プロピレン単位50〜95重量%、エチレン単位5〜50重量%及びジエンモノマー単位0〜10重量%からなるものが特に好適であることを見出した(特願2006−352047)。
ところが、このようなエラストマーを配合した配合液には、低温における流動性が低下し、甚だしい場合には、凍結してしまうという問題があることが判明した。この流動性は、温度を高めると回復するが、例えば寒冷地での操業では、このような配合液を一定温度以上に保持しておくための装置・操作が必要となり、経済的ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための配合液であって、低温でも流動性が低下せず、ヒケの少ない成形体を得ることができる反応射出成形用配合液を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記配合液を用いる反応射出成形体の製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、この製造方法によって得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために、反応射出成形用配合液の組成について鋭意研究を進めた結果、配合液に特定の化合物を添加することにより、低温における配合液の流動性低下を防止することができ、しかも得られる反応射出成形体のヒケを防止することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための配合液であって、ノルボルネン系モノマー、プロピレン単位含有量が60重量%以上のオレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂を含有してなることを特徴とする反応射出成形用配合液が提供される。
本発明の反応射出成形用配合液において、オレフィン系エラストマーが、プロピレン単位60〜95重量%、エチレン単位5〜40重量%及び非共役ジエンモノマー単位0〜5重量%からなるものであることが好ましい。
本発明の反応射出成形用配合液において、オレフィン系エラストマーの配合量が、ノルボルネン系モノマー100重量部当り、1〜20重量部であることが好ましい。
本発明の反応射出成形用配合液において、芳香族系炭化水素樹脂の配合量が、ノルボルネン系モノマー100重量部当り、1〜20重量部であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、本発明の反応射出成形用配合液を型内で塊状重合させて反応射出成形する反応射出成形体の製造方法が提供される。
更に本発明によれば、本発明の反応射出成形体の製造方法によって得られる反応射出成形体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の反応射出成形用配合液は、低温においても流動性が低下することがない。従って、寒冷地等においても保温のための設備・操作を必要としないので経済的である。
また、本発明の反応射出成形用配合液を用いて、大型であっても、ヒケの少ない成形体を得ることができる。
本発明で得られる反応射出成形体は、バンパーやエアデフレクター等の自動車用途、ホイルローダーやパワーショベル等の建設・産業機械用途、ゴルフカートやゲーム機等のレジャー用途、医療機器等の医療用途、大型パネルや椅子等の産業用途、シャワーパンや洗面ボウル等の住宅設備用途、等において好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の反応射出成形用配合液(以下、単に「配合液」ということがある。)は、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための配合液であって、ノルボルネン系モノマー、プロピレン単位含有量が60重量%以上のオレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂を含有してなる。
【0013】
本発明で用いるノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環構造を有する化合物であれば、特に限定されない。
【0014】
ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン(シクロペンタジエン二量体)、ジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;シクロペンタジエン四量体等の七環体;等を挙げることができる。
これらのノルボルネン系モノマーは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;エチリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;等の置換基を有していてもよい。
更に、これらのノルボルネン系モノマーは、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、オキシ基、シアノ基、ハロゲン原子等の極性基を有していてもよい。
【0015】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエン共二量体、5−エチリデンノルボルネン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−ヘキサヒドロナフタレン、エチレンビス(5−ノルボルネン)等が挙げられる。
【0016】
ノルボルネン系モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記ノルボルネン系モノマーのうち、入手が容易であり、反応性に優れ、得られる成形体の耐熱性に優れる点から、三環体、四環体又は五環体のノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0017】
また、生成する開環重合体が熱硬化型となることが好ましく、そのためには、上記ノルボルネン系モノマーの中でも、対称性のシクロペンタジエン三量体等の、反応性の二重結合を二個以上有する架橋性モノマーを少なくとも含むものが用いられる。全ノルボルネン系モノマー中の架橋性モノマーの割合は、2〜30重量%であることが好ましい。
【0018】
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、ノルボルネン系モノマーと開環共重合し得るシクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロオクテン、シクロドデセン等の単環シクロオレフィン等を、コモノマーとして用いてもよい。
【0019】
本発明の配合液は、プロピレン単位含有量が60重量%以上のオレフィン系エラストマーを含有することが必須である。
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン/プロピレンコポリマー(EPR)及びエチレン/プロピレン/非共役ジエン−ターポリマー(EPDM)が好ましい。
これらのオレフィン系エラストマーは、エチレン、プロピレン、非共役ジエン以外に、炭素数が4〜8程度のα−オレフィンを構成要素として含むものであってもよい。
これらのオレフィン系エラストマーにおいて、プロピレン単位含有量が60重量%以上であることが必要である。プロピレン単位含有量が60重量%未満のオレフィン系エラストマーを使用しても、配合液の流動性低下を防止する効果を得ることができない。
【0020】
エチレン−プロピレンコポリマーは、プロピレン単位60〜95重量%及びエチレン単位5〜40重量%からなるものであることが好ましく、プロピレン単位65〜93重量%及びエチレン単位7〜35重量%からなるものであることがより好ましく、プロピレン単位70〜90重量%及びエチレン単位10〜30重量%からなるものであることが特に好ましい。
また、エチレン−プロピレン−非共役ジエンターポリマー(EPDM)は、プロピレン単位65〜93重量%、エチレン単位7〜35重量%及び非共役ジエンモノマー単位10重量%以下からなるものであることが好ましく、プロピレン単位70〜90重量%、エチレン単位4〜29重量%及び非共役ジエンモノマー単位1〜6重量%からなるものであることがより好ましい。
ここで、非共役ジエンモノマーとしては、通常、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等が用いられる。
【0021】
本発明において用いるオレフィン系エラストマーは、メルトフローレート(230℃、荷重2.16kg)が1〜20g/10分であるものが好ましい。
【0022】
本発明において用いるオレフィン系エラストマーは、1.30以上、1.60以下の剪断速度係数を有するものであることが好ましい。剪断速度係数は、1.50〜1.60の範囲にあることがより好ましい。
オレフィン系エラストマーの剪断速度係数が、上記範囲内にあるときに、配合液は特に流動性に優れ、これを用いて、ヒケの少ない成形体を得ることが容易になる。
【0023】
ここで、剪断速度係数は、以下のようにして得られる数値である。
即ち、得られるモノマー/エラストマー混合液の30℃での粘度が320mPa・sとなるような量のエラストマーを、エラストマーを配合すべきモノマーに添加して得たモノマー/エラストマー混合液を30℃に保持し、図1に示す、下部先端にノズル半径(r)0.95mm、高さ9.3mmの円筒状のダイを有する内径25mmのピストンを用いて、押出圧力10.2kPaで押出したときの流出液量(q)を求め、この流出液量から式(1)に従って剪断速度Aを求める。
同様に、押出圧力が33.2kPaのときの剪断速度Bを求める。
これらの剪断速度A及びBから、式(2)に従って、剪断速度係数を求める。
剪断速度(1/s)=4q/πrρ (1)
(式(1)中、qは、ダイから単位時間当たりに流出するモノマー/エラストマー混合液の量(g/s)、rは、ダイノズルの半径(cm)、ρは、モノマー/エラストマー混合液の密度(g/cm)である。)
剪断速度係数=ln(剪断速度B/剪断速度A)/ln(33.2/10.2)(2)
【0024】
また、本発明においては、オレフィン系エラストマーが5以上、100以下のムーニー粘度を有するものであることが好ましい。
オレフィン系エラストマーのムーニー粘度が上記範囲よりも高い場合、反応射出成形機を配合液が循環する間にオレフィン系エラストマーの分子鎖が切断されて、得られる成形品の物性が低下する恐れがある。また、ムーニー粘度が上記範囲よりも低い場合、オレフィン系エラストマーが成形品に完全相溶して耐衝撃性が劣る恐れがある。
【0025】
本発明の配合液において、オレフィン系エラストマーの配合量は、ノルボルネン系モノマー100重量部当り、1〜20重量部であることが好ましく、1.5〜15重量部であることがより好ましく、2〜10重量部であることが特に好ましい。
配合量が上記範囲内にあるときに、配合液の流動性がよく、ヒケが少ない成形体が得られる。
【0026】
本発明の配合液において、オレフィン系エラストマーに、その他のエラストマーを併用することができる。
併用することができるエラストマーの具体例としては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)及びこれらの水素化物等を挙げることができる。
【0027】
本発明の配合液は、芳香族系炭化水素樹脂を含有することが必須である。
ここで、芳香族系炭化水素樹脂は、芳香族ビニル化合物の単独重合体及び共重合体並びに芳香族ビニル化合物とこれと共重合可能な単量体との共重合体である。芳香族系炭化水素樹脂は、重合後に、それに含まれる炭素−炭素不飽和結合を水素化したものであってもよい。
【0028】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t−ブチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等のスチレン化合物;を挙げることができるが、本発明においては、インデン、メチルインデン等のインデン化合物並びにクマロン及びその誘導体等のクマロン化合物;のほか、これらスチレン化合物、インデン化合物及びクマロン化合物の任意の組合せの二量体も芳香族ビニル化合物に包含する。
【0029】
また、芳香族ビニル化合物と共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリロニトリル等のα,β−エチレン性不飽和ニトリル;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−p−ブロモフェニルマレイミド、N−o−クロルフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸無水物;アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有α,β−エチレン性不飽和化合物;アリルアミン等のα,β−エチレン性不飽和アミン;アクリルアミド等のα,β−エチレン性不飽和アミド;等が挙げられる。
【0030】
本発明において、芳香族系炭化水素樹脂としては、スチレン系樹脂及びその水素化物並びにC9系炭化水素樹脂及びその水素化物が好ましく、中でも、C9系炭化水素樹脂及びその水素化物が好ましい。
【0031】
スチレン系樹脂は、上記スチレン化合物の単独重合体及び共重合体であるが、スチレン/ブタジエンゴム、ポリブタジエン等のゴム成分の存在下にスチレン化合物を重合して得たゴム強化スチレン系樹脂であってもよい。スチレン系樹脂の数平均分子量は特に限定されないが、通常、100,000〜600,000程度が好ましく、150,000〜500,000程度がより好ましい。
【0032】
C9系炭化水素樹脂は、ナフサをクラッキングして得られるC9留分中に含まれる重合性モノマーをカチオン重合して得られる樹脂である。
中でも、ナフサクラッキングにより得られたC9留分(ビニルトルエン40重量%程度、インデン化合物40重量%程度、スチレン20重量%程度、その他α−メチルスチレン等からなる。)を蒸留して、C9留分中のインデン化合物や高沸点の化合物等を除去し、重合性モノマー中のビニルトルエン含有量が50重量%以上、好ましくは55重量%以上、より好ましくは60重量%以上、インデン含有量が20重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下になるように調整したものを重合して得られる樹脂が好ましい。
また、C9系炭化水素樹脂の水素化物は、芳香環の5〜100%、より好ましくは10〜98%を水素化したものが好ましい。
【0033】
このようなC9系炭化水素樹脂の水素化は、上記特定組成の重合性モノマーを含有するC9留分を、公知のカチオン重合法により重合してC9系炭化水素樹脂を製造した後、これを水素化触媒により水素化することにより行なう。
水素化触媒としては、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ロジウム、ルテニウム、モリブデン等の金属又はこれらの酸化物、硫化物等の金属化合物等が使用できる。
これらの水素化触媒は、多孔質で表面積の大きなアルミナ、シリカ、ケイソウ土、カーボン、チタニア等の担体に担持して使用してもよい。これら触媒の中でもコストの観点からは、ニッケル−ケイソウ土触媒を使用することが好ましい。触媒の使用量は原料であるC9系炭化水素樹脂に対し、0.1〜20重量%程度、好ましくは、0.1〜3重量%である。
水素化反応の条件は、特に限定されず、水素圧力は、通常、10〜300kg/cm程度、より好ましくは30〜200kg/cmである。反応温度は、通常、150〜330℃程度、より好ましくは200〜310℃である。
【0034】
本発明において用いるC9系炭化水素樹脂及びその水素化物の軟化点は、70〜180℃が好ましく、100〜160℃がより好ましい。軟化点が高すぎる場合には、耐衝撃性が低下するという問題が生じる恐れがある。一方、軟化点が低すぎる場合には、耐熱性が低下する不具合が発生する恐れがある。
また、C9系炭化水素樹脂の分子量は、特に限定されないが、一般的には数平均分子量500〜10,000程度のものが好ましい。
【0035】
本発明の配合液において、芳香族系炭化水素樹脂の配合量が、ノルボルネン系モノマー100重量部当り、1〜20重量部であることが好ましく、5〜15重量部であることが更に好ましい。
芳香族系炭化水素樹脂の配合量が少なすぎると、低温時の流動性が低下する恐れがある。他方、配合量が多すぎると、経済的でないばかりでなく、得られる反応射出成形体の物性が低下する不具合が生じる恐れがある。
【0036】
本発明の配合液は、更に、重合触媒を含有することが好ましい。
重合触媒は、メタセシス重合触媒が好ましい。
メタセシス重合触媒は、ノルボルネン系モノマーを開環重合することができる触媒であればよく、特に限定されない。
メタセシス重合触媒は、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体である。遷移金属原子としては、第5、6及び8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、例えばタンタルが挙げられ、第6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。
【0037】
第6族のタングステンやモリブデンを中心金属とするメタセシス重合触媒としては、六塩化タングステン等の金属ハロゲン化物;タングステン塩素酸化物等の金属オキシハロゲン化物;酸化タングステン等の金属酸化物;及びトリドデシルアンモニウムモリブデートやトリ(トリデシル)アンモニウムモリブデート等の有機金属酸アンモニウム塩;等を用いることができる。
これらの中では、オキシ有機タングステンハライド及び有機モリブデン酸アンモニウム塩が好ましい。これらのメタセシス重合触媒を用いる場合には、重合活性を制御する目的で、活性剤(共触媒)を併用することが好ましい。
【0038】
メタセシス重合触媒として、第5、6及び8族の金属原子を中心金属とする金属カルベン錯体を用いることも好ましい。金属カルベン錯体の中では、第8族のルテニウムやオスミウムのカルベン錯体が好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が優れるので、ノルボルネン系樹脂成形体の生産性に優れ、得られるノルボルネン系樹脂成形体の、未反応のノルボルネン系モノマーに由来する臭気が少ないからである。
ルテニウムカルベン錯体の中では、少なくとも2つのカルベン炭素がルテニウム金属原子に結合しており、該カルベン炭素のうち少なくとも一つにはヘテロ原子を含む基が結合しているルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。
【0039】
メタセシス重合触媒の使用量は、反応に使用するモノマー1モルに対し、通常、0.01ミリモル以上、好ましくは0.1ミリモル以上、且つ、50ミリモル以下、好ましくは20ミリモル以下である。メタセシス重合触媒の使用量が少なすぎると重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が悪く、使用量が多すぎると反応が激しすぎるため型内に十分に充填される前に硬化したり、触媒が析出したりし易くなり、均質に保存することが困難になる。
【0040】
また、メタセシス重合触媒が活性剤を必要とするものである場合は、配合液は、この活性剤を含有するものであってもよい。
なお、この場合において、活性剤は、メタセシス重合触媒を含有する配合液には添加せず、ノルボルネン系モノマー、オレフィン系エラストマー、芳香族系炭化水素樹脂及び活性剤を含有する別個の配合液とするのが好ましい。
活性剤は、特に限定されず、その具体例として、周期表第11〜14族の金属の有機金属化合物を挙げることができる。その具体例としては、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド、アルコキシアルキルアルミニウムハライド等の有機アルミニウム化合物;テトラブチル錫等の有機スズ化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;等が挙げられる。なお、メタセシス重合触媒としてルテニウムカルベン錯体を用いる場合には、活性剤を用いても用いなくてもよい。
【0041】
活性剤の使用量は、特に限定されないが、通常、反応に使用するメタセシス重合触媒1モルに対して、0.1モル以上、好ましくは1モル以上、且つ、100モル以下、好ましくは10モル以下である。活性剤を用いなかったり活性剤の使用量が少なすぎたりすると、重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が悪くなる。逆に、使用量が多すぎると、反応が激しすぎるので、型内に十分に充填される前に硬化することがある。
活性剤は、モノマーに溶解して用いるが、反応射出成形法による成形体の性質を本質的に損なわない範囲であれば、少量の溶剤に懸濁させた上で、モノマーと混合することにより、析出しにくくしたり、溶解性を高めたりして用いてもよい。
【0042】
重合触媒が活性剤を必要とするものである場合は、活性調節剤を併用するのが好ましい。活性調節剤は、後述するように重合触媒を含有する配合液と活性剤を含有する配合液とを混合して金型に注入して重合が開始する際、注入途中で重合が開始するのを防ぐためのものである。
かかる活性調節剤としては、エーテル、エステル、ニトリル等のルイス塩基;アセチレン類;及びα−オレフィン類が好適に使用される。具体的には、ルイス塩基としては、ブチルエーテル、安息香酸エチル、ジグライム等を例示することができる。また、アセチレン類としてはフェニルアセチレン等を、α−オレフィンとしてはビニルノルボルネン等を例示することができる。また、共重合モノマーとして極性基含有モノマーを用いる場合には、それ自体がルイス塩基であることがあり、活性調節剤としての作用を兼ね備えていることもある。活性調節剤は、活性剤を含む配合液に添加するのが好ましい。また、活性調節剤としては、アルコール類も好適に用いることができる。
更に、モノマーの重合転化率を向上させるため、重合促進剤を添加することが好ましい。重合促進剤としては、塩素原子含有化合物が好ましく、中でも有機塩素化合物及び塩素化ケイ素化合物が好ましい。その具体例としては、2,4−ジクロロベンゾトリクロリド、ヘキサクロロ−p−キシレン、2,4−ジクロロ−トリクロロトルエン及び四塩化ケイ素等を挙げることができる。
上記活性調節剤及び重合促進剤の添加量は、特に限定されないが、重合性組成物(反応射出成形時における本発明の配合液であって、ノルボルネン系モノマー、オレフィン系エラストマー、芳香族系炭化水素樹脂及び重合触媒のほか、活性剤等所要の成分を含有するものをいう。)重量の概ね10ppm〜10%である。
【0043】
本発明においては、配合液の任意成分として、充填材を配合することができる。
充填材は、無機充填材であっても、有機充填材であってもよいが、無機充填材が好ましい。
無機充填材は、アスペクト比が5〜100の繊維状充填材であってもアスペクト比が1〜2の粒子状充填材であってもよい。なお、充填材のアスペクト比とは、充填材の平均長軸径と50%体積累積径との比をいう。ここで、平均長軸径は、光学顕微鏡写真で無作為に選んだ100個の充填材の長軸径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均長軸径である。また、50%体積累積径は、X線透過法で粒度分布を測定することにより求められる値である。
【0044】
繊維状充填材の具体例としては、ガラス繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、ゾノライト、塩基性硫酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、テトラポッド型酸化亜鉛、石膏繊維、ホスフェート繊維、アルミナ繊維、ウィスカー状炭酸カルシウム、ウィスカー状ベーマイト等を挙げることができる。
中でも、塊状重合を阻害せず、得られる成形体の剛性を少ない使用量で高めることができるウォラストナイト及びウィスカー状炭酸カルシウムが好ましい。
【0045】
粒子状充填材の具体例としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、グラファイト、酸化アンチモン、赤燐、各種金属粉、クレー、各種フェライト、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。
中でも、塊状重合反応を阻害しないので、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムが好ましい。
【0046】
繊維状充填材と粒子状充填材との含有重量比率(繊維状充填材/粒子状充填材)は、95/5〜55/45であることが好ましく、80/20〜60/40であることがより好ましい。
この比率が上記範囲内にあることにより、剛性及び寸法安定性に優れた成形体を得ることが、より容易に可能になる。
【0047】
充填材は、その表面を疎水化処理したものであることが好ましい。疎水化処理した充填材を用いることにより、配合液における充填材の凝集・沈降を防止でき、また、得られる成形体中の充填材の分散を均一にすることができ、これによって、成形体の剛性や寸法安定性を均一にでき、更には、異方性を小さくすることができる。
疎水化処理に用いられる処理剤としては、ビニルシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ステアリン酸等の脂肪酸、油脂、界面活性剤、ワックス等を挙げることができる。
充填材の疎水化処理は、ノルボルネン系モノマー、オレフィン系エラストマー、芳香族系炭化水素樹脂及び充填材を含有してなる配合液を調製する際に、疎水化処理剤を同時に混合することによっても可能であるが、予め疎水化処理を行なった充填材を用いて上記配合液の調製を行なうのが好ましい。
【0048】
充填材の量は、ノルボルネン系モノマー及び触媒の合計量100重量部に対して、5〜55重量部であることが好ましく、10〜45重量部であることがより好ましい。
充填材量が多すぎると、配合液を金型内に注入する際にタンクや配管内で沈降したり、注入ノズルが詰まったりする場合がある。逆に、少なすぎると、得られる成形体の剛性や寸法安定性が不十分な場合がある。
【0049】
本発明において、成形体の特性の改良又は維持のために、配合液に各種添加剤を配合してもよい。かかる添加剤としては、補強材、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料、ジシクロペンタジエン系熱重合樹脂及びその水添物、等を挙げることができる。
【0050】
各種添加剤は、重合触媒や活性剤を含有する配合液に添加して用いる方法;別途モノマー溶液として調製し、反応射出成形時に触媒や活性剤を含有する配合液と混合する方法;予め型内に充填しておく方法;等により添加される。添加方法は、添加剤の種類により適宜選定すればよい。
【0051】
本発明において、ノルボルネン系モノマー、オレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂のほか、必要に応じて重合触媒、活性剤等の各成分を含有してなる配合液を調製する方法は、特に限定されず、これらの成分を任意の方法で混合すればよい。
【0052】
本発明の反応射出成形体の製造方法においては、上記各配合液を混合して得られた重合性組成物を、型内で塊状重合させて、成形体を得る。
重合性組成物の調製方法は、特に限定されないが、典型的には、重合触媒が活性剤を必要とするか否かによって、以下の二方法を示すことができる。
即ち、重合触媒が活性剤を必要としない場合には、ノルボルネン系モノマー、オレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂を含有する配合液(i)と、重合触媒を少量の不活性溶媒に溶解又は分散して調製した配合液(ii)とを混合すればよい。なお、必要に応じて、オレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂は、配合液(ii)に含有させてもよい。
【0053】
一方、重合触媒が活性剤を必要とする場合には、ノルボルネン系モノマーと重合触媒とを含有する配合液(以下、「A液」ということがある。)と、ノルボルネン系モノマーと活性剤とを含有する配合液(以下、「B液」ということがある。)とを混合すればよい。このとき、ノルボルネン系モノマーのみからなる配合液(以下、「C液」ということがある。)を併用してもよい。
この場合において、オレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂は、上記のどの配合液に配合してもよいが、オレフィン系エラストマーと芳香族系炭化水素樹脂とを、共に同一の配合液に配合する。即ち、例えば、オレフィン系エラストマーをA液に配合するときは、芳香族系炭化水素樹脂をもA液に配合する。
【0054】
充填材を使用する場合、充填材は、上記のどの配合液(A液、B液若しくはC液、又は、配合液(i)若しくは配合液(ii))に配合してもよいが、配合液(i)又はC液に配合して使用するのが好ましい。
【0055】
ノルボルネン系モノマー、オレフィン系エラストマー、芳香族系炭化水素樹脂及び重合触媒のほか、活性剤等所要の成分を含有してなる重合性組成物を金型内で塊状重合させるには、例えば、反応射出成形(RIM)装置として公知の衝突混合装置を用いることができる。
この衝突混合装置に、二種以上の配合液(A液、B液及びC液、又は、配合液(i)及び配合液(ii))を、それぞれ別個に導入して、ミキシングヘッドで瞬間的に混合させ、得られる重合性組成物を金型内に注入して、この金型内で塊状重合させることにより、反応射出成形体を得ることができる。
なお、衝突混合装置に代えて、ダイナミックミキサーやスタティックミキサー等の低圧注入機を使用することも可能である。
なお、反応射出成形に供する前の配合液の温度は、好ましくは10〜60℃であり、粘度は、例えば30℃において、通常、5〜3,000mPa・s、好ましくは50〜1,000mPa・s程度である。
【0056】
反応射出成形に使用する金型にも特に限定はないが、通常、雄型と雌型とで形成される金型を用いる。
金型の材質は、特に限定されず、スチール、アルミニウム、亜鉛合金、ニッケル、銅、クロム等の金属及び樹脂を示すことができる。また、これらの金型は、鋳造、鍛造、溶射、電鋳等のいずれの方法で製造されたものでもよく、また、メッキされたものであってもよい。
型の構造は型に重合性組成物を注入する際の圧力を勘案して決めるとよい。また、金型の型締め圧力は、ゲージ圧で0.1〜9.8MPaである。
成形時間は、ノルボルネン系モノマー、重合触媒及び活性剤の種類、これらの組成比、金型温度等によって変化するので、一様ではないが、一般的には5秒〜6分、好ましくは10秒〜5分である。
【0057】
雄型及び雌型を対とする金型で形成されるキャビティ内に重合性組成物を供給して塊状重合させる場合において、一般に意匠面側金型の金型温度T1(℃)を意匠面に対応する側の金型の金型温度T2(℃)より高く設定しておくことが好ましい。これにより、成形体の表面外観をヒケや気泡のない美麗なものとすることができる。
T1−T2は、下限が好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、上限が好ましくは60℃以下である。T1は、上限が好ましくは110℃以下、より好ましくは95℃以下であり、下限が好ましくは50℃以上である。T2は、上限が好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下であり、下限が好ましくは30℃以上である。
金型温度を調整する方法としては、例えば、ヒータによる金型温度の調整;金型内部に埋設した配管中に循環させる温調水、油等の熱媒体の温度調整;等が挙げられる。
【0058】
塊状重合の終了後、金型を型開きして脱型することにより、本発明の反応射出成形体を得ることができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。以下において「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
また、各特性は、下記に示す方法により測定した。
【0060】
(1)ヒケ
テクロック社製デジタルデプスゲージ「DMD−218」を使用し、各ヒケ部においてそれぞれの最大深さ(単位:μm)を測定する。この数値が小さい方がヒケが少ない。また、ヒケのバラつきを勘案し各箇所について5回測定して平均値を求め、更に、全ボス部分の平均値を評価値として用いる。
【0061】
(2)剪断速度
先端に直径1.9mm、高さ9.3mmの円筒状のダイを有する内径25mmのピストン(図1参照)にジシクロペンタジエン92.6重量部及びエチリデンノルボルネン7.4重量部からなる混合モノマーに、得られる溶液の30℃での粘度が320mPa・sとなるように、エラストマーを添加したエラストマー溶液を30℃に保持した後に、50ml注入した。ピストンに510gの錘を載せて押出圧力10.2kPaで押出したときの流出溶液量を求め、式(1)により剪断速度Aを求める。
同様に、ピストンに1,660gの錘を載せ、押出圧力を33.2kPaとしたときの剪断速度Bを求める。
剪断速度(1/s)=4q/πrρ (1)
(式(1)中、qは、ダイから単位時間当たりに流出するエラストマー溶液の量(g/s)、rは、ダイノズルの半径(cm)、ρは、エラストマー溶液の密度(g/cm)である。)
【0062】
(3)剪断速度係数
剪断速度A及びBから、式(2)に従って、剪断速度係数を求める。
剪断速度係数=ln(剪断速度B/剪断速度A)/ln(33.2/10.2)(2)
【0063】
(4)凝固点
槽内温度を0.1℃単位で調整できる恒温槽を使用し、容器に入れた配合液の液温を徐々に下げていく。適時、配合液の容器を上下逆さまにして、配合液が容器から流れ出すか否かを調べる。配合液の容器を上下逆さまにしたとき、配合液が容器から流れ出さなくなる温度を凝固点とし、流動性が失われたと判断する。
【0064】
〔実施例1〕
(配合液の調製)
ジシクロペンタジエン92.6部及びエチリデンノルボルネン7.4部からなる混合モノマー100部に、プロピレン単位88%及びエチレン単位12%からなるオレフィン系エラストマー(I)(剪断速度係数1.52)3.5部及びC9系炭化水素樹脂の水素化物(I)(荒川化学工業社製、商品名「アルコンP−90」)10部を溶解させた。次いで活性調整剤としてトリエチルアルミニウムを14ミリモル/kg濃度となるよう添加して混合分散して、配合液(A液)を得た。
六塩化タングステン17部を窒素気流下で乾燥トルエン44部に添加し、次いでt−ブタノール1部をトルエン1部に溶解した溶液を加え、30時間撹拌し、次にドデシルフェノール14部及びトルエン14部からなる溶液を添加して、窒素パージ下に、20時間、撹拌し、更にアセチルアセトン9部を加え副生する塩化水素ガスを追い出しながら窒素パージ下に、24時間、撹拌を継続し、重合用触媒溶液を調製した。
次いで、ジシクロペンタジエン92.6部及びエチリデンノルボルネン7.4部からなる混合モノマーに、オレフィン系エラストマー(I)3.5部及びC9系炭化水素樹脂の水素化物(I)10部を溶解させ、次いでフェノール系酸化防止剤を0.6部溶解させた。更に、上記重合触媒を6ミリモル/kg濃度となるよう添加して混合分散し、次いでジエチレングリコールジメチルエーテルを0.2部添加して混合分散して、配合液(B液)を得た。
これらの配合液の凝固点は、いずれも−10℃であった。
【0065】
(成形)
内部に縦480mm×横1,250mm×厚さ4mmの空間を有する電鋳製雌型と、これと対をなす鍛造アルミニウム製雄型からなる平板成形品反応射出成形用金型(図2参照)を準備し、雌型を75℃、雄型を45℃に加温した。
なお、この反応射出成形用金型は、側面中央部に重合性組成物注入孔Aを有する構造となっている。また、金型は、雄型面内に、ボスBを有し、その内部に部材を螺子止めするためのインサート(IS)1〜11を取り付けることができるようになっている。インサートは、図3(b)に示すような形状を有していて、下面は閉じられており、インサート内部には、上面からボルトを挿入可能な螺子溝つきの孔が形成されている。
図4(a)に、成形時に、インサート(IS)を取り付けた状態を示す。
【0066】
A液50部及びB液50部をミキシングヘッド内で混合圧力5.0Mpaで衝突混合させ、注入速度1.2kg/sで前記重合性組成物注入孔(A)より反応射出成形用金型(M)内に注入し、塊状重合反応を90秒間行なった。成形時には、インサートの周囲のボス(B)空隙部に樹脂が流入し、硬化して、インサート(IS)を成形体(R)に固着させる。このとき、図4(b)に示すように、ボスに対応する成形体(R)の意匠面側にヒケ(SM)が生じる。
その後、金型から成形体を取り出し、成形体1を得た。
この操作を5回繰返して行なった。得られた5個の成形体について、図2に示す11箇所について測定したヒケの平均値を表1に示す。ヒケの全平均値は、235μmであった。
【0067】
〔比較例1〕
オレフィン系エラストマー(I)3.5部に代えて、プロピレン単位36%、エチレン単位56%及びジエンモノマー単位8%からなる剪断速度係数1.25のオレフィン系エラストマー(II)を4.0部使用するほかは、実施例1と同様にして、A液及びB液を得た。
これらの配合液の凝固点は、いずれも0℃であった。
これらの配合液を用いて、実施例1と同様にして、成形体2を得た。
この操作を5回繰返して行なった。得られた5個の成形体の11箇所について測定したヒケの平均値を表1に示す。ヒケの全平均値は、296μmであった。
【0068】
〔比較例2〕
C9系炭化水素樹脂の水素化物(I)を配合しないほかは実施例1と同様にしてA液及びB液を得た。
これらの配合液の凝固点は、いずれも3℃であった。
これらの配合液を用いて、実施例1と同様にして、成形体3を得た。
この操作を5回繰返して行なった。得られた5個の成形体の11箇所について測定したヒケの平均値を表1に示す。ヒケの全平均値は、234μmであった。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示す結果から、以下のことが分かる。
ノルボルネン系モノマー及びオレフィン系エラストマーを含有するが芳香族系炭化水素樹脂を含有しない配合液から得られた重合性組成物を使用した場合は、成形体のヒケの程度は234μmと小さいが、配合液の凝固点が3℃と高い(比較例2)。
ノルボルネン系モノマー及びオレフィン系エラストマーに加えて更に芳香族系炭化水素樹脂を含有する配合液から得られた重合性組成物を使用した場合であっても、オレフィン系エラストマーの組成が本発明の規定を外れるときは、配合液の凝固点は0℃と改善されるものの、成形体のヒケの程度が296μmと悪い(比較例1)。
これに対して、ノルボルネン系モノマー、オレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂を配合してなる本発明の規定を満足する配合液から得られた重合性組成物を使用した場合は−10℃まで流動性を保つことができ、ヒケの程度も235μmと小さい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】エラストマーの剪断速度を測定するための装置の概念図である。
【図2】成形試験に用いた金型の全体図及びインサート(IS)配置を示す図
【図3】金型に取り付ける11箇所のインサート(IS)の形状の図 (a):側面。(b):上面。(c):下面
【図4】(a):成形用金型内にインサートを取り付けた状態において、インサートの断面を示す図 (b):成形体の意匠面側に形成されたヒケを示す図
【符号の説明】
【0072】
r:ダイノズルの半径
q:エラストマー溶液の流出量
ρ:エラストマー溶液の密度
A:重合性組成物注入口
M:金型
IS:インサート
B:ボス
1〜11:インサートの設置個所(ヒケ測定個所)
R:成形体
SM:ヒケ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための配合液であって、ノルボルネン系モノマー、プロピレン単位含有量が60重量%以上のオレフィン系エラストマー及び芳香族系炭化水素樹脂を含有してなることを特徴とする反応射出成形用配合液。
【請求項2】
オレフィン系エラストマーがプロピレン単位60〜95重量%、エチレン単位5〜40重量%及び非共役ジエンモノマー単位0〜5重量%からなるものである請求項1に記載の反応射出成形用配合液。
【請求項3】
オレフィン系エラストマーの配合量が、ノルボルネン系モノマー100重量部当り、1〜20重量部である請求項1又は2に記載の反応射出成形用配合液。
【請求項4】
芳香族系炭化水素樹脂の配合量が、ノルボルネン系モノマー100重量部当り、1〜20重量部である請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応射出成形用配合液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の反応射出成形用配合液を型内で塊状重合させて反応射出成形する反応射出成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項5の製造方法によって得られる反応射出成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−29865(P2009−29865A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192939(P2007−192939)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(503423096)RIMTEC株式会社 (23)
【Fターム(参考)】