説明

収穫機

【課題】作物搬送手段の作動負荷に適応した車速で走行機体を移動でき、作物搬送手段の搬送性能を維持して、作物の搬送姿勢が乱れたり、作物が詰るのを未然に防止できるようにした収穫機を提供するものである。
【解決手段】エンジン14によって作動する走行部を備えた走行機体と、圃場に植立した作物の株元を切断する刈刃装置と、刈刃装置によって株元が切断された前記作物を搬送する作物搬送手段と、走行機体の移動速度を検出する車速センサ285と、走行機体の移動速度を変更する車速変更手段112とを備えてなる収穫機において、作物搬送手段を作動する搬送駆動用電動モータ92と、作物搬送手段の作動負荷を検出する負荷センサ313とを備え、作物搬送手段224の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、負荷センサ313の検出結果に基づき、車速変更手段112を制御して、走行機体の移動速度を減速するように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に植立した穀稈を刈取って穀粒を収集するコンバイン、又は飼料用穀稈や牧草等を刈取って飼料として収集する飼料収穫機等の収穫機に係り、より詳しくは、穀稈又は飼料用穀稈や牧草等の作物を搬送するための作物搬送手段を電動モータにて作動するようにした収穫機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、収穫機としてのコンバインは、圃場に植立した未刈り穀稈の株元を刈刃装置によって切断し、穀稈搬送装置(作物搬送手段)によって脱穀装置にその穀稈を搬送し、脱穀装置によってその穀稈を脱穀して、穀粒を収集するように構成している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この場合、従来の一般的なコンバインにおいては、特許文献1に示されるように、エンジンからの駆動力によって穀稈搬送装置が作動するように構成されている。また、電動モータによって刈刃装置を駆動する構成(例えば、特許文献2参照)や、電動モータによって穀稈搬送装置(スクレーパ)を駆動する構成(例えば、特許文献3参照)も公知である。
【特許文献1】特開2004−97038号公報
【特許文献2】特開昭63−258510号公報
【特許文献3】特開平7−177813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術は、特許文献1に示されるように、エンジンによって穀稈搬送装置を作動させた場合、車速に同期させて刈刃装置及び穀稈搬送装置を作動できるが、例えば収穫作業中、車速が極めて高速になったときに、穀稈搬送装置によって搬送する穀稈量が多くなりすぎて、過負荷の状態で穀稈搬送装置が作動することによって、搬送中の穀稈が詰まったり、穀稈搬送装置が損傷する等の問題がある。
【0005】
また、特許文献3に示されるように、電動モータによって穀稈搬送装置(スクレーパ)を駆動する場合、穀稈搬送装置の作動負荷の増減に関係なく、穀稈搬送装置を作動させるから、穀稈が搬送される途中で、穀稈の搬送姿勢が乱れたり、穀稈が詰る等の問題がある。
【0006】
本発明の目的は、作物搬送手段(穀稈搬送装置)の作動負荷に適応した車速で走行機体を移動でき、作物搬送手段の搬送性能を維持して、作物(穀稈)の搬送姿勢が乱れたり、作物が詰るのを未然に防止できるようにした収穫機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1に係る発明の収穫機は、エンジンによって作動する走行部を備えた走行機体と、圃場に植立した作物の株元を切断する刈刃装置と、前記刈刃装置によって株元が切断された前記作物を搬送する作物搬送手段と、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサと、前記走行機体の移動速度を変更する車速変更手段とを備えてなる収穫機において、前記作物搬送手段を作動する搬送駆動用電動モータと、前記作物搬送手段の作動負荷を検出する負荷センサとを備え、前記作物搬送手段の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、前記負荷センサの検出結果に基づき、前記車速変更手段を制御して、前記走行機体の移動速度を減速するように構成したものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の収穫機において、前記負荷センサによって前記搬送駆動用電動モータの駆動電流を検出し、前記搬送駆動用電動モータの駆動電流に基づいて前記作物搬送手段の作動負荷を算出し、前記作物搬送手段の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、前記車速変更手段を制御して前記走行機体の移動速度を減速するように構成したものである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の収穫機において、前記作物搬送手段の過負荷によって前記走行機体の移動速度を減速制御したときに、前記負荷センサ値が設定負荷以下に、一定時間以上維持されることによって、前記減速制御を解除して、前記車速変更手段を増速側に制御して、前記作物搬送手段の過負荷によって減速制御される直前の移動速度に、前記走行機体の移動速度を戻すように構成したものである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の収穫機において、前記走行部にエンジンの回転力を伝達する油圧無段変速機構を備え、前記油圧無段変速機構は油圧ポンプと油圧モータとを有し、前記油圧ポンプの出力制御部に変速レバーを連結し、前記油圧モータの出力制御部に前記車速変更手段を連結するように構成したものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、エンジンによって作動する走行部を備えた走行機体と、圃場に植立した作物の株元を切断する刈刃装置と、前記刈刃装置によって株元が切断された前記作物を搬送する作物搬送手段と、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサと、前記走行機体の移動速度を変更する車速変更手段とを備えてなる収穫機において、前記作物搬送手段を作動する搬送駆動用電動モータと、前記作物搬送手段の作動負荷を検出する負荷センサとを備え、前記作物搬送手段の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、前記負荷センサの検出結果に基づき、前記車速変更手段を制御して、前記走行機体の移動速度を減速するように構成したものであるから、前記作物搬送手段の作動負荷に適応した車速で走行機体を移動でき、前記作物搬送手段の搬送性能を維持して、前記作物搬送手段によって搬送する作物の搬送姿勢が乱れたり、前記作物が詰るのを未然に防止できるものである。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、前記負荷センサによって前記搬送駆動用電動モータの駆動電流を検出し、前記搬送駆動用電動モータの駆動電流に基づいて前記作物搬送手段の作動負荷を算出し、前記作物搬送手段の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、前記車速変更手段を制御して前記走行機体の移動速度を減速するように構成したものであるから、前記負荷センサの検出結果に基づき、コンピュータ等の制御手段によって、前記作物搬送手段の作動負荷を簡単に算出でき、前記作物搬送手段の作動負荷を検出する前記負荷センサの構造や、前記車速変更手段を自動制御する制御手段の構造等を、高機能且つ低コストに構成できるものである。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、前記作物搬送手段の過負荷によって前記走行機体の移動速度を減速制御したときに、前記負荷センサ値が設定負荷以下に、一定時間以上維持されることによって、前記減速制御を解除して、前記車速変更手段を増速側に制御して、前記作物搬送手段の過負荷によって減速制御される直前の移動速度に、前記走行機体の移動速度を戻すように構成したものであるから、前記作物搬送手段の過負荷によって前記走行機体の移動速度が減速されたときに、前記作物が詰るのを解消するためのその減速制御の時間を簡単に短縮でき、収穫作業効率を向上できるものである。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、前記走行部にエンジンの回転力を伝達する油圧無段変速機構を備え、前記油圧無段変速機構は油圧ポンプと油圧モータとを有し、前記油圧ポンプの出力制御部に変速レバーを連結し、前記油圧モータの出力制御部に前記車速変更手段を連結するように構成したものであるから、前記変速レバーによって出力制御する前記油圧ポンプを主変速手段として、前記車速変更手段によって出力制御する前記油圧モータを副変速手段として使い分けることによって、前記変速レバーの操作によって設定される主変速出力に関係なく、前記作物搬送手段の作動負荷の増加によって前記走行機体の移動速度が減速される自動制御を実行できるものである。
【0015】
特に、収穫機としてのコンバインは、路上走行速度と収穫作業速度との速度差が大きいが、例えば、前記油圧ポンプの主変速出力(収穫作業速度)を維持しながら、前記油圧モータの副変速出力の変更によって、前記作物搬送手段の負荷を適正範囲に保てるから、前記作物搬送手段の過負荷によって前記走行機体の移動速度を減速させる負荷軽減制御や、その過負荷の解除によって、減速制御される前の移動速度に、前記走行機体の移動速度を戻す速度復帰制御等を簡単に実行でき、前記負荷軽減制御の誤動作や前記速度復帰制御の誤動作等を防止できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1はコンバインの左側面図、図2はコンバインの平面図、図3は刈刃装置及び穀稈搬送装置の側面説明図、図4は刈刃装置及び穀稈搬送装置の平面説明図、図5はコンバインの駆動系統図、図6はミッションケースに設けた油圧無段変速機構の油圧回路図、図7は搬送駆動用電動モータ等の制御手段の機能ブロック図である。図1及び図2を参照しながら、コンバインの全体構造について説明する。なお、以下の説明では、走行機体1の進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
【0017】
本実施形態のコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、穀稈を刈り取りながら取り込む6条刈り用の刈取装置3が、単動式の昇降用油圧シリンダ4によって刈取回動支点軸4a回りに昇降調節可能に装着されている。走行機体1には、フィードチェン6を有する脱穀装置5と、該脱穀装置5から取出された穀粒を貯留する穀粒タンク7とが横並び状に搭載されている。本実施形態では、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、穀粒タンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部に旋回可能な排出オーガ8が設けられ、穀粒タンク7の内部の穀粒が、排出オーガ8の籾投げ口9からトラックの荷台またはコンテナ等に排出されるように構成されている。刈取装置3の右側方で、穀粒タンク7の前側方には、運転キャビン10が設けられている。
【0018】
運転キャビン10内には、操縦ハンドル11と、運転座席12と、主変速レバー42と、副変速レバー43と、脱穀クラッチ及び刈取クラッチを入り切りする作業クラッチレバー44とを配置している。なお、図示しないが、運転キャビン10には、オペレータが搭乗するステップと、操縦ハンドル11を設けたハンドルコラムと、前記各レバー42,43,44等を設けたレバーコラムとが配置されている。運転座席12の下方の走行機体1には、動力源としてのエンジン14が配置されている。
【0019】
図1乃至図4に示されるように、走行機体1の下面側に左右のトラックフレーム21を配置している。トラックフレーム21には、走行クローラ2にエンジン14の動力を伝える駆動スプロケット22と、走行クローラ2のテンションを維持するテンションローラ23と、走行クローラ2の接地側を接地状態に保持する複数のトラックローラ24と、走行クローラ2の非接地側を保持する中間ローラ25とを設けている。駆動スプロケット22によって走行クローラ2の前側を支持し、テンションローラ23によって走行クローラ2の後側を支持し、トラックローラ24によって走行クローラ2の接地側を支持し、中間ローラ25によって走行クローラ2の非接地側を支持することになる。
【0020】
次に、図5及び図6を参照してミッションケース71に設けた油圧無段変速機構の構造を説明する。図5及び図6に示すように、ミッションケース71には、直進用油圧ポンプ101及び直進用油圧モータ102を有する直進用油圧無段変速機構100と、旋回用油圧ポンプ104及び旋回用油圧モータ105を有する旋回用油圧無段変速機構103とを設けている。エンジン14の前側及び後側にその出力軸70を突出する。エンジン14の前側の出力軸70に自在継手83を介してミッションケース71の走行入力軸84を連結し、直進用油圧ポンプ101のポンプ軸101aと、旋回用油圧ポンプ104のポンプ軸104aとに、ギヤ機構106を介して走行入力軸84を連結している。走行入力軸84に伝達されたエンジン14の回転駆動力が、直進用油圧無段変速機構100又は旋回用油圧無段変速機構103によって変速された後、左右の車軸72に伝達され、左右の車軸72を介して左右の走行クローラ2がそれぞれ駆動されるように構成している。
【0021】
なお、旋回用油圧ポンプ104のポンプ軸104aにチャージポンプ107を連結している。直進用油圧ポンプ101及び直進用油圧モータ102は、閉油圧回路にて油圧接続され、チャージポンプ107のチャージ油圧がその閉油圧回路に供給されるように構成している。同様に、旋回用油圧ポンプ104及び旋回用油圧モータ105は、閉油圧回路にて油圧接続され、チャージポンプ107のチャージ油圧がその閉油圧回路に供給されるように構成している。
【0022】
図6に示す如く、直進用油圧ポンプ101の斜板101bの傾斜角度を変更して出力調整する主変速シリンダ108と、主変速レバー42及び操向ハンドル11に連結させて切換える主変速バルブ109と、直進用油圧ポンプ101の出力を一定量減速する減速バルブ110とを設け、チャージポンプ107を主変速バルブ109又は減速バルブ110を介して主変速シリンダ80に油圧接続させている。その結果、主変速レバー42によって主変速バルブ109を切換え、主変速シリンダ108を作動させて、直進用油圧ポンプ101の斜板101bの角度を変更させ、直進用油圧モータ102のモータ軸102bの回転数を、前進方向又は後進方向に無段階に変化させることになる。
【0023】
また、直進用油圧モータ102の斜板102aの角度を変更して出力調整する副変速シリンダ111を設け、前記チャージポンプ107に電磁副変速バルブ112を介して副変速シリンダ111を油圧接続させている。副変速バルブ112が中立の切換位置のときには、油タンクであるミッションケース71に副変速シリンダ111が短絡され、直進用油圧モータ102の斜板102aが、直進用油圧ポンプ101の油圧(閉回路油圧)によって最大傾斜位置に維持されるように構成している。
【0024】
一方、副変速バルブ112が中立位置以外の切換位置に切換られたときには、チャージポンプ107の油圧が副変速バルブ112を介して副変速シリンダ111に印加され、直進用油圧ポンプ101の油圧(閉回路油圧)に関係なく、直進用油圧モータ102の斜板102aの角度が副変速シリンダ111によって強制的に変更され、直進用油圧モータ102のモータ軸102bの回転数を高速側又は低速側に変化させることになる。即ち、直進用油圧モータ102の斜板102aの角度を変更する操作、換言すると、副変速バルブ112を切換える副変速操作によって、直進用油圧モータ102の出力回転数を変化させるように構成している。
【0025】
さらに、旋回用油圧ポンプ104の斜板104bの角度を変更して出力調整する旋回シリンダ113を設け、操向ハンドル11又は主変速レバー42によって切換える旋回バルブ114、又は電磁式自動操向バルブ115を介して旋回シリンダ113にチャージポンプ107を油圧接続させている。操向ハンドル11によって旋回バルブ114を切換えることによって、旋回シリンダ113が作動して、旋回用油圧ポンプ104の斜板104bの角度が変更される。その結果、操向ハンドル11の操作によって旋回用油圧モータ105の出力回転数が無段階に変化したり、旋回用油圧モータ105の出力回転が逆転することになる。即ち、操向ハンドル11の左右方向の回転操作量(操舵角)に比例して斜板104bの角度が変化し、旋回用油圧モータ105の出力回転数が変化したり逆転して、走行機体1の進路(左右旋回角度)が左方向又は右方向に変更されるように構成している。
【0026】
なお、主変速レバー42が中立以外の変速位置に操作された状態で、操向ハンドル11が直進以外の操舵角位置に操作された場合、主変速レバー42の操作方向(前進、後進)と操作量(増減速)に比例して、直進用油圧ポンプ101の斜板101bの角度(出力油圧)が増減したり反転して、油圧モータ102を、増速又は減速させたり、正転又は逆転させ、前進速度又は後進速度(直進移動速度と進行方向)が変更されることになる。また、主変速レバー42の操作量に比例して旋回用油圧ポンプ104の出力油圧が変化(増減)するように構成したものであり、主変速レバー42の高速側走行変速によって旋回半径が自動的に小さくなり、且つ主変速レバー42の低速側走行変速によって旋回半径が自動的に大きくなるように構成している。したがって、操向ハンドル11が直進以外の一定操舵角位置に保持されているときに、主変速レバー42が中立以外の変速位置に操作された場合、主変速レバー42の変速操作位置(直進移動速度)に関係なく、左右走行クローラ2の旋回半径が略一定に維持されて、走行機体1の移動速度(作業車速)を変更できたり、未刈り穀稈列等に機体を沿わせるように、走行機体1の進路を修正できる。
【0027】
一方、操向ハンドル11の操作量(操舵角)に比例させて、主変速バルブ109の制御によって直進用油圧ポンプ101の出力を変化させ、且つ旋回バルブ114の制御によって旋回用油圧ポンプ104の出力を変化させるように構成している。即ち、操向ハンドル11の操舵角を大きくして、走行機体1の旋回半径を小さくしたときに、その旋回半径(操舵角)に比例させて走行機体1の移動速度(車速)を減速させ乍ら、左右の走行クローラ2の速度差を大きくし、走行機体1を左右に旋回させることができる。連続的に穀稈を刈取って脱穀する収穫作業において、左右走行クローラ2の駆動速度を変更して、条合せ等の進路修正や、圃場枕地でのスピンターン等の方向転換を実行できる。なお、主変速レバー42が中立のときには、操向ハンドル11の操作に関係なく、旋回バルブ114が中立維持され、旋回用油圧ポンプ104の油圧出力が略零に保たれ、旋回用油圧モータ105を停止維持するように構成している。
【0028】
次に、図1乃至図4を参照して刈取装置3の構造を説明する。図1乃至図4に示されるように、刈取装置3の刈取回動支点軸4aに連結した刈取フレーム221の下方には、圃場に植立した未刈り穀稈(作物)の株元を切断するバリカン式の刈刃装置222が設けられている。刈取フレーム221の前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を引起す6条分の穀稈引起装置223が配置されている。穀稈引起装置223とフィードチェン6の前端部(送り始端側)との間には、刈刃装置222によって刈取られた刈取り穀稈を搬送する穀稈搬送装置224が配置されている。なお、穀稈引起装置223の下部前方には、圃場に植立した未刈り穀稈を分草する6条分の分草体225が突設されている。エンジン14にて走行クローラ2を駆動して圃場内を移動しながら、刈取装置3によって圃場に植立した未刈り穀稈を連続的に刈取ることになる。
【0029】
図3及び図4に示すように、刈取フレーム221は、走行機体1の前端側の軸受台15に回動可能に支持した刈取入力ケース16と、刈取入力ケース16から前方に向けて延長する縦伝動ケース18と、縦伝動ケース18の前端側で左右方向に向けて延長する横伝動ケース19と、横伝動ケース19に連結する6条分の分草フレーム20とによって形成されている。分草フレーム20の前端側に支持する6条分の分草体225とが配置されている。機体左右方向に水平に横架した刈取入力ケース16内には、エンジン14からの動力が伝達される刈取り穀稈用の刈取り入力軸17を組込んでいる。
【0030】
穀稈引起装置223は、分草体225によって分草された未刈穀稈を起立させる複数の引起タイン28を有する6条分の引起ケース29を有する。穀稈搬送装置224は、右側2条分の引起ケース29から導入される右側2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の右スターホイル30R及び左右の右掻込ベルト31Rと、左側2つの引起ケース29から導入される左側2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の左スターホイル30L及び左右の左掻込ベルト31Lと、中央2つの引起ケース29から導入される中央2条分の穀稈の株元側を掻込む左右の中央スターホイル30C及び左右の中央掻込ベルト31Cとを有する。
【0031】
刈刃装置222は、右スターホイル30R及び左右の右掻込ベルト31R、左スターホイル30L及び左右の左掻込ベルト31L、中央スターホイル30C及び左右の中央掻込ベルト31Cによって掻込まれた6条分の穀稈の株元を切断するバリカン形の左右の刈刃32を有する。
【0032】
また、穀稈搬送装置224は、右側2条分のスターホイル30R及び掻込ベルト31Rによって掻込まれた右側2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送する右株元搬送チェン33Rと、左側2条分のスターホイル30L及び掻込ベルト31Lによって掻込まれた左側2条分の刈取穀稈の株元側を右株元搬送チェン33Rの搬送終端部に合流させる左株元搬送チェン33Lと、中央2条分のスターホイル30C及び掻込ベルト31Cによって掻込まれた中央2条分の刈取穀稈の株元側を後方に搬送して右株元搬送チェン33Rの搬送途中に合流させる中央株元搬送チェン33Cとを有する。左右及び中央の株元搬送チェン33R,33L,33Cによって、右株元搬送チェン33Rの搬送終端部に、6条分の刈取穀稈の株元側を合流させることになる。
【0033】
穀稈搬送装置224は、右株元搬送チェン33Rから6条分の刈取穀稈の株元側を受継ぐ縦搬送チェン34と、縦搬送チェン34の搬送終端部からフィードチェン6の搬送始端部に6条分の刈取穀稈の株元側を搬送する補助株元搬送チェン35,36とを有する。縦搬送チェン34から、補助株元搬送チェン35,36を介して、フィードチェン6の搬送始端部に、6条分の刈取穀稈の株元側を搬送することになる。
【0034】
穀稈搬送装置224は、右株元搬送チェン33Rにて搬送される右側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する右穂先搬送タイン37Rと、左株元搬送チェン33Lにて搬送される左側2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する左穂先搬送タイン37Lと、中央株元搬送チェン33Cにて搬送される中央2条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する中央穂先搬送タイン37Cと、縦搬送チェン34にて搬送される6条分の刈取穀稈の穂先側を搬送する後穂先搬送タイン38とを有する。脱穀装置5の扱胴226室内に、刈取装置3で刈取った6条分の刈取穀稈の穂先側を搬送することになる。
【0035】
次に、図5を参照して刈取装置3の駆動構造を説明する。図5に示すように、穀稈引起装置223を駆動する引起駆動用電動モータ90と、刈刃装置222を駆動する刈刃駆動用電動モータ91と、穀稈搬送装置224を正逆回転切換可能に駆動する搬送駆動用電動モータ92と、エンジン14を冷却するためのラジエータ用の冷却ファン73と、上述した電動モータ90,91,92等を作動させるための電源を供給する発電機89とを備え、穀稈引起装置223と刈刃装置222と穀稈搬送装置224とをその各々の電動モータによって駆動することになる。引起駆動用電動モータ90の出力軸に引起横伝動軸48を連結する。引起横伝動軸48は、6条分の各引起ケース29の引起タイン駆動軸45にそれぞれ連結している。分草体225の後方で分草フレーム20の上方に引起ケース29が立設され、引起ケース29の上端側の背面から引起タイン駆動軸45を突出している。複数の引起タイン28を設けた引起タインチェン28aが、引起タイン駆動軸45及び引起横伝動軸48を介して、引起駆動用電動モータ90によって駆動されることになる。
【0036】
図5に示すように、刈刃駆動用電動モータ91に左右のクランク軸52a,52bを介して左右の刈刃32を連結する。刈刃駆動用電動モータ91によって左右の刈刃32を同期させて駆動するように構成している。なお、刈刃装置222は、6条分の刈幅の中央部で分割して左右の刈刃32を形成し、左右の刈刃32を相反する方向に往復移動させ、往復移動によって発生する左右の刈刃32の振動(慣性力)を相殺可能に構成している。
【0037】
図5に示すように、搬送駆動用電動モータ92の出力軸に刈取り穀稈用の搬送入力軸17を連結し、その搬送入力軸17に縦伝動ケース18内の縦伝動軸40の一端側を連結する。縦伝動軸40の他端側に横伝動ケース19内の横伝動軸41の一端側を連結する。縦伝動軸40及び横伝動軸41から穀稈搬送装置224の各駆動部に搬送駆動用電動モータ92の回転力を伝えることになる。
【0038】
即ち、縦伝動軸40には、後搬送駆動軸54と、右搬送駆動軸62とを連結している。搬送駆動用電動モータ92によって、縦伝動軸40及び後搬送駆動軸54を介して、補助搬送チェン35,36及び後穂先搬送タイン38を駆動するように構成している。また、搬送駆動用電動モータ92によって、右搬送駆動軸62を介して、右株元搬送チェン33R及び右穂先搬送タイン37Rと、右スターホイル30R及び右掻込ベルト31Rとを駆動するように構成している。また、右搬送駆動軸62に縦搬送伝動軸63を連結し、搬送駆動用電動モータ92によって、右搬送駆動軸62及び縦搬送伝動軸63を介して、縦搬送チェン34を駆動するように構成している。
【0039】
図5に示すように、横伝動軸41の左端側に左搬送駆動軸69を連結している。搬送駆動用電動モータ92によって、左搬送駆動軸69を介して、左株元搬送チェン33L及び左穂先搬送タイン37Lと、左スターホイル30L及び左掻込ベルト31Lとを駆動するように構成している。また、横伝動軸41に中央搬送駆動軸75を連結し、搬送駆動用電動モータ92によって、中央搬送駆動軸75を介して、中央株元搬送チェン33C及び中央穂先搬送タイン37Cと、中央スターホイル30C及び中央掻込ベルト31Cとを駆動するように構成している。
【0040】
次に、図1及び図2を参照して、脱穀装置5の構造を説明する。図1及び図2に示されるように、脱穀装置5には、穀稈脱穀用の扱胴226と、扱胴226の下方に落下する脱粒物を選別する揺動選別盤227及び唐箕ファン228と、扱胴226の後部から取出される脱穀排出物を再処理する処理胴229と、揺動選別盤227の後部の排塵を排出する排塵ファン230とが備えられている。なお、扱胴226の回転軸芯線は、フィードチェン6による穀稈の搬送方向(換言すると走行機体1の進行方向)に沿って延びている。刈取装置3から穀稈搬送装置224によって搬送された穀稈の株元側は、フィードチェン6に受け継がれて挟持搬送される。そして、この穀稈の穂先側が脱穀装置5の扱室内に搬入されて扱胴226にて脱穀されることになる。
【0041】
揺動選別盤227の下方側には、揺動選別盤227にて選別された穀粒(一番物)を取出す一番コンベヤ231と、枝梗付き穀粒等の二番物を取出す二番コンベヤ232とが設けられている。本実施形態の両コンベヤ231,232は、走行機体1の進行方向前側から一番コンベヤ231、二番コンベヤ232の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方の走行機体1の上面側に横設されている。
【0042】
揺動選別盤227は、扱胴226の下方に張設された受網237から漏下した脱穀物が、フィードパン238及びチャフシーブ239によって搖動選別(比重選別)されるように構成している。揺動選別盤227から落下した穀粒は、その穀粒中の粉塵が唐箕ファン228からの選別風によって除去され、一番コンベヤ231に落下することになる。一番コンベヤ231のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁(実施形態では右側壁)から外向きに突出した終端部には、上下方向に延びる揚穀コンベヤ233が連通接続されている。一番コンベヤ231から取出された穀粒は、揚穀コンベヤ233を介して穀粒タンク7に搬入され、穀粒タンク7に収集されることになる。なお、穀粒タンク7の後面の傾斜に沿わせて、揚穀コンベヤ233の上端側が後方に傾斜する後傾姿勢で、穀粒タンク7の後方に揚穀コンベヤ233が立設されている。
【0043】
また、揺動選別盤227は、搖動選別(比重選別)によってチャフシーブ239から枝梗付き穀粒等の二番物を二番コンベヤ232に落下させるように構成している。チャフシーブ239の下方に落下する二番物を風選する選別ファン241を備える。チャフシーブ239から落下した二番物は、その穀粒中の粉塵及び藁屑が選別ファン241からの選別風によって除去され、二番コンベヤ232に落下することになる。二番コンベヤ232のうち脱穀装置5における穀粒タンク7寄りの一側壁から外向きに突出した終端部は、揚穀コンベヤ233と交差して前後方向に延びる還元コンベヤ236を介して、フィードパン238の上面側に連通接続され、二番物をフィードパン238の上面側に戻して再選別するように構成している。
【0044】
一方、フィードチェン6の後端側(送り終端側)には、排藁チェン234が配置されている。フィードチェン6の後端側から排藁チェン234に受け継がれた排藁(穀粒が脱粒された稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方側に設けた排藁カッタ235にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方下方に排出されることになる。
【0045】
次に、図5を参照しながら、脱穀装置5、フィードチェン6、排藁チェン234、排藁カッタ235等の駆動構造について説明する。エンジン14の後側の出力軸70に、冷却ファン73を軸支したファン駆動軸88が連結されている。ファン駆動軸88には、発電機89の入力軸が連結されている。エンジン14の回転駆動力によって、冷却ファン73及び発電機89が駆動されるように構成している。また、エンジン14の後側の出力軸70に排出オーガ駆動軸76を連結し、エンジン21からの回転駆動力によって排出オーガ駆動軸76を介して排出オーガ8が駆動され、穀粒タンク7内の穀粒がコンテナ等に排出されるように構成している。
【0046】
また、扱胴226及び処理胴230にエンジン14からの回転駆動力を伝える脱穀駆動軸77を備える。エンジン14の後側の出力軸70には、テンションローラ形脱穀クラッチ78及び脱穀駆動ベルト79を介して、脱穀駆動軸77が連結されている。脱穀駆動軸77には、扱胴226を軸支した扱胴軸80と、処理胴230を軸支した処理胴軸81とが連結されている。エンジン14の略一定回転数の回転力によって、扱胴226及び処理胴230が略一定回転数で回転するように構成している。また、脱穀駆動軸77に選別入力軸82が連結されている。エンジン14の略一定回転数の回転力によって、選別入力軸82を介して、揺動選別盤227、唐箕ファン228、一番コンベヤ231、二番コンベヤ232、選別ファン241、排塵ファン230が略一定回転数で回転するように構成している。
【0047】
図5に示されるように、フィードチェン6を正逆回転切換可能に駆動するフィードチェン駆動用電動モータ93と、排藁チェン234を正逆回転切換可能に駆動する排藁チェン駆動用電動モータ94と、排藁カッタ235を正逆回転切換可能に駆動する排藁カッタ駆動用電動モータ95とを備えている。フィードチェン6と、排藁チェン234と、排藁カッタ235とが、それぞれ独立したその各々の電動モータ93,94,95によって、正回転又は逆回転方向に駆動されるように構成している。各電動モータ93,94,95等は、発電機89から供給される電源によって作動させることになる。
【0048】
次に、本実施形態のコンバインの収穫制御(刈取装置3及び脱穀装置5における穀稈の搬送制御と、走行機体1の車速制御)について説明する。図7は、コンバインの収穫制御手段の機能ブロック図であり、制御プログラムを記憶したROMと各種データを記憶したRAMとを有するマイクロコンピュータ等の作業コントローラ282を備えている。図7に示されるように、マイクロコンピュータで構成する作業コントローラ282の入力側には、脱穀装置5を駆動するための脱穀クラッチレバー(図示省略)の操作を検出する脱穀スイッチ272と、刈取装置3の各部及びフィードチェン6及び排藁チェン234及び排藁カッタ235を駆動する作業スイッチ273と、直進用油圧モータ102のモータ軸102bの出力回転数(走行クローラ2の駆動回転数)を検出する車速センサ285と、刈取装置3の搬送穀稈(刈取穀稈)の有無を検出する作物センサ287とを、接続している。作物センサ287は、オフデレー(切り遅延)機能を有するタイマ286を介して作業コントローラ282の入力側に接続する。
【0049】
また、作業コントローラ282の入力側には、引起駆動用電動モータ90の出力回転数(駆動速度)を無段階に調節する引起速度設定器261と、刈刃駆動用電動モータ91の出力回転数(駆動速度)を無段階に調節する刈刃速度設定器262と、搬送駆動用電動モータ92(フィードチェン駆動用電動モータ93、排藁チェン駆動用電動モータ94、排藁カッタ駆動用電動モータ95)の出力回転数(駆動速度)を無段階に調節する搬送速度設定器263と、引起駆動用電動モータ90の駆動負荷(出力トルク)の基準値を初期設定する引起負荷設定器266と、刈刃駆動用電動モータ91の駆動負荷(出力トルク)の基準値を初期設定する刈刃負荷設定器267と、搬送駆動用電動モータ92の駆動負荷(出力トルク)の基準値を初期設定する搬送負荷設定器268とを、接続している。
【0050】
図7に示されるように、作業コントローラ282の出力側には、引起駆動用電動モータ90を作動する引起ドライバ301と、左右の刈刃駆動用電動モータ91を作動する左右の刈刃ドライバ302と、搬送駆動用電動モータ92を作動する搬送ドライバ303と、フィードチェン駆動用電動モータ93を作動するフィードチェンドライバ304と、排藁チェン駆動用電動モータ94を作動する排藁ドライバ305と、排藁カッタ駆動用電動モータ95を作動するカッタドライバ306と、車速変更手段としての副変速バルブ112の増速ソレノイド112a及び減速ソレノイド112bとを、接続している。
【0051】
また、作業コントローラ282の出力側には、引起駆動用電動モータ90の出力回転数を検出する引起駆動電流センサ311と、刈刃駆動用電動モータ91の出力回転数を検出する刈刃駆動電流センサ312と、搬送駆動用電動モータ92の出力回転数を検出する搬送駆動電流センサ313と、フィードチェン駆動用電動モータ93の出力回転数を検出するフィードチェン駆動電流センサ314と、排藁チェン駆動用電動モータ94の出力回転数を検出する排藁チェン駆動電流センサ315と、排藁カッタ駆動用電動モータ95の出力回転数を検出するカッタ駆動電流センサ316とを、接続している。
【0052】
図7に示されるように、エンジン14によって駆動する発電機89に、引起駆動用電動モータ90及び引起ドライバ301と、左右の刈刃駆動用電動モータ91及び左右の刈刃ドライバ302と、搬送駆動用電動モータ92及び搬送ドライバ303と、フィードチェン駆動用電動モータ93及びフィードチェンドライバ304と、排藁チェン駆動用電動モータ94及び排藁ドライバ305と、排藁カッタ駆動用電動モータ95及びカッタドライバ306とを、接続している。発電機89を電源として、引起駆動用電動モータ90、左右の刈刃駆動用電動モータ91、搬送駆動用電動モータ92、フィードチェン駆動用電動モータ93、排藁チェン駆動用電動モータ94、排藁カッタ駆動用電動モータ95をそれぞれ作動可能に構成している。
【0053】
したがって、一定回転数で常に駆動して脱穀・選別性能を維持する必要がある脱穀装置5を備えた構造、換言すると、エンジン14からの一定回転数の出力が脱穀装置5に伝達される伝動構造において、最高出力状態で略一定回転数を維持するようにエンジン14が運転されるから、そのエンジン14からの出力によって発電機89を最適な回転数で駆動できる。即ち、前記各電動モータ90,91,92,93,94,95の作動に必要な発電機89の適正出力が確実に維持されることによって、前記各電動モータ90,91,92,93,94,95が常に一定回転数で適正に作動することになる。
【0054】
また、脱穀スイッチ272をオンにした状態で、作業スイッチ273をオンにしたときに、排藁カッタ駆動用電動モータ95、排藁チェン駆動用電動モータ94、フィードチェン駆動用電動モータ93、搬送駆動用電動モータ92、刈刃駆動用電動モータ91、引起駆動用電動モータ90が、穀稈の搬送下手側から順に作動する。なお、排藁チェン駆動用電動モータ94、フィードチェン駆動用電動モータ93、搬送駆動用電動モータ92、引起駆動用電動モータ90は、引起速度設定器261の設定値、又は搬送速度設定器263の設定値と、車速センサ285の検出値とから演算された車速同調速度で作動する。なお、刈刃速度設定器262の設定値に基づき、車速センサ285の検出値に関係なく、刈刃駆動用電動モータ91と、排藁カッタ駆動用電動モータ95とを、略一定の駆動速度で作動させる。
【0055】
次に、図8は走行機体1の車速制御のフローチャートである。図8を参照して、走行機体1の車速制御を説明する。脱穀装置5の作動によって脱穀スイッチ272がオンになり(S1yes)、上述した各電動モータ90,91,92,93,94,95の作動によって作業スイッチ273がオンになり(S2yes)、穀稈の検出によって作物センサ287がオンになってから(S3yes)、一定時間が経過したときに、引起駆動電流センサ311値、及び刈刃駆動電流センサ312値、及び搬送駆動電流センサ313値がそれぞれ読み込まれる(S4)。また、引起速度設定器261値、及び刈刃速度設定器262値、及び搬送速度設定器263値がそれぞれ読み込まれ(S5)。また、引起負荷設定器266値、及び刈刃負荷設定器267値、及び搬送負荷設定器268値がそれぞれ読み込まれる(S6)。
【0056】
そして、引起駆動電流センサ311値及び刈刃駆動電流センサ312値及び搬送駆動電流センサ313値と、引起負荷設定器266値及び刈刃負荷設定器267値及び搬送負荷設定器268値とに基づき、作業速度としての走行機体1の移動速度が演算される(S7)。また、車速センサ285値が読み込まれ(S8)、引起負荷設定器266値及び刈刃負荷設定器267値及び搬送負荷設定器268値よりも、引起駆動電流センサ311値及び刈刃駆動電流センサ312値及び搬送駆動電流センサ313値が大きい過負荷作業であるか、否かが判断される(S9)。
【0057】
ステップ9において、搬送駆動用電動モータ92、刈刃駆動用電動モータ91、引起駆動用電動モータ90の少なくともいずれか一方の電源電流が過電流となり、過負荷運転されている過負荷作業であると判断されたときに(S9yes)、減速制御が実行される(S10)。即ち、作業コントローラ282から車速変更手段としての副変速バルブ112に減速指令が出力されて、減速ソレノイド112bが励磁作動し、副変速バルブ112が減速位置に切換られ、副変速シリンダ111によって、直進用油圧モータ102の斜板102aの角度が減速側に設定角度だけ強制的に変更される。その結果、直進用油圧モータ102のモータ軸102bの回転数が設定回転数だけ減少して、直進用油圧モータ102の副変速出力が設定幅だけ低速側に変化し、走行機体1の移動速度(車速)が減速される。
【0058】
即ち、作物搬送手段としての穀稈搬送装置224の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、負荷センサとしての搬送駆動電流センサ313の検出結果に基づき、車速変更手段としての副変速バルブ112を制御して、走行機体1の移動速度を減速するように構成したから、穀稈搬送装置224の作動負荷に適応した車速で走行機体1を移動でき、穀稈搬送装置224の搬送性能を維持して、穀稈搬送装置224によって搬送する穀稈の搬送姿勢が乱れたり、前記穀稈が詰るのを未然に防止できる。
【0059】
また、引起駆動電流センサ311の検出結果に基づき、作業コントローラ282によって、引起駆動用電動モータ90の作動負荷を簡単に算出できる。刈刃駆動電流センサ312の検出結果に基づき、作業コントローラ282によって、刈刃駆動用電動モータ91の作動負荷を簡単に算出できる。搬送駆動電流センサ313の検出結果に基づき、作業コントローラ282によって、搬送駆動用電動モータ92の作動負荷を簡単に算出できる。したがって、引起駆動用電動モータ90又は刈刃駆動用電動モータ91又は搬送駆動用電動モータ92の作動負荷を検出する引起駆動電流センサ311又は刈刃駆動電流センサ312又は搬送駆動電流センサ313の構造や、副変速バルブ112を自動制御する作業コントローラ282の構造等を、高機能且つ低コストに構成できる。
【0060】
ステップ10の減速制御によって走行機体1の移動速度(車速)が減速された場合、刈取り搬送される穀稈量が減少することによって、引起駆動用電動モータ90の駆動負荷、刈刃駆動用電動モータ91の駆動負荷、搬送駆動用電動モータ92の駆動負荷がそれぞれ低減し、各モータ90,91,92の電源電流が低下する。その結果、引起負荷設定器266値及び刈刃負荷設定器267値及び搬送負荷設定器268値よりも、引起駆動電流センサ311値及び刈刃駆動電流センサ312値及び搬送駆動電流センサ313値が大きくなる過負荷作業が解消される。
【0061】
上述した過負荷作業の解消によって、搬送駆動用電動モータ92の電源電流値、刈刃駆動用電動モータ91の電源電流値、引起駆動用電動モータ90の電源電流値が、引起負荷設定器266値及び刈刃負荷設定器267値及び搬送負荷設定器268値よりもそれぞれ低下して、適正負荷作業であると判断された場合(S11yes)、一定時間が経過したときに(S12yes)、ステップ10の減速制御が完了して、作業コントローラ282の減速モードが解除される(S13)。ステップ13の減速モードの解除によって、作業コントローラ282から車速変更手段としての副変速バルブ112に増速指令が出力されて、増速ソレノイド112aが励磁作動し、副変速バルブ112が増速位置に切換えられ、副変速シリンダ111によって、直進用油圧モータ102の斜板102aの角度が、過負荷によって減速制御される直前の角度に強制的に戻される。その結果、直進用油圧モータ102のモータ軸102bの回転数が高速側に変化し、過負荷によって減速制御される直前の移動速度に、走行機体1の移動速度が戻される。一般的に、オペレータが過負荷作業の解消を認識してから走行機体1の移動速度を戻すオペレータの手動操作時間に比べて、過負荷作業によって走行機体1の移動速度が減速されてから走行機体1の移動速度が戻るまでの自動制御の実行時間を短くできる。したがって、穀稈搬送装置224等に穀稈が詰るのを解消するための減速制御(ステップ10)の時間が、オペレータの手動操作に比べて短縮できる。
【0062】
また、直進用油圧ポンプ101の出力制御部としての斜板101bに主変速レバー42を連結し、直進用油圧モータ102の出力制御部としての斜板102aに車速変更手段としての副変速バルブ112を連結したから、主変速レバー42によって出力制御する直進用油圧ポンプ101を主変速手段として、副変速バルブ112によって出力制御する直進用油圧モータ102を副変速手段として使い分けることによって、主変速レバー42の操作によって設定される主変速出力に関係なく、作物搬送手段としての穀稈搬送装置224の作動負荷の増加によって走行機体1の移動速度が減速される自動制御を実行できる。したがって、圃場間の農道を移動する路上走行速度、又は圃場内を移動する収穫作業速度に、走行機体1の移動速度を切換えるための主変速レバー42の変速操作を簡単に実行でき、走行機体1の移動速度を大幅に変更する主変速操作性を向上できるものでありながら、直進用油圧モータ102を出力制御する副変速制御の誤動作等を簡単に低減でき、副変速操作性及び減速制御等の自動制御の機能を向上できる。
【0063】
例えば、コンバイン等の収穫機は、圃場間の農道を移動する路上走行速度と、圃場内を移動する収穫作業速度との速度差が大きいが、直進用油圧ポンプ101の主変速出力(収穫作業速度)を維持しながら、直進用油圧モータ102の副変速出力の変更によって、穀稈搬送装置224の負荷を適正範囲に保持できる。即ち、穀稈搬送装置224の負荷が過負荷になったときに、主変速レバー42の変速操作によって設定された主変速出力を維持しながら、上述した副変速出力の減速制御によって、走行機体1の移動速度を自動的に減速させて、穀稈搬送装置224の負荷を簡単に軽減できる。また、その過負荷(減速制御)の解除によって、減速制御される前の移動速度に、走行機体1の移動速度を自動的に戻す速度復帰制御等を簡単に実行できる。
【0064】
なお、搬送駆動用電動モータ92の出力回転数を検出する搬送駆動電流センサ313値に基づく副変速バルブ112の車速制御(図8参照)と同様に、フィードチェン駆動用電動モータ93の出力回転数を検出するフィードチェン駆動電流センサ314値、又は排藁チェン駆動用電動モータ94の出力回転数を検出する排藁チェン駆動電流センサ315値、又は排藁カッタ駆動用電動モータ95の出力回転数を検出するカッタ駆動電流センサ316値に基づき、副変速バルブ112の車速制御を実行できることは云うまでもない。
【0065】
上記の記載及び図1、図5、図7から明らかなように、エンジン14によって作動する走行部としての走行クローラ2を備えた走行機体1と、圃場に植立した作物の株元を切断する刈刃装置222と、刈刃装置222によって株元が切断された前記作物を搬送する作物搬送手段としての穀稈搬送装置224と、走行機体1の移動速度を検出する車速センサ285と、走行機体1の移動速度を変更する車速変更手段としての副変速バルブ112とを備えてなる収穫機において、穀稈搬送装置224を作動する搬送駆動用電動モータ92と、穀稈搬送装置224の作動負荷を検出する負荷センサとしての搬送駆動電流センサ313とを備え、穀稈搬送装置224の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、搬送駆動電流センサ313の検出結果に基づき、副変速バルブ112を制御して、走行機体1の移動速度を減速するように構成したものであるから、穀稈搬送装置224の作動負荷に適応した車速で走行機体1を移動でき、穀稈搬送装置224の搬送性能を維持して、穀稈搬送装置224によって搬送する作物の搬送姿勢が乱れたり、前記作物が詰るのを未然に防止できる。
【0066】
上記の記載及び図5、図7から明らかなように、搬送駆動電流センサ313によって搬送駆動用電動モータ92の駆動電流を検出し、搬送駆動用電動モータ92の駆動電流に基づいて穀稈搬送装置224の作動負荷を算出し、穀稈搬送装置224の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、副変速バルブ112を制御して走行機体1の移動速度を減速するように構成したものであるから、搬送駆動電流センサ313の検出結果に基づき、コンピュータ等の制御手段によって、穀稈搬送装置224の作動負荷を簡単に算出でき、穀稈搬送装置224の作動負荷を検出する搬送駆動電流センサ313の構造や、副変速バルブ112を自動制御する制御手段(作業コントローラ282)の構造等を、高機能且つ低コストに構成できる。
【0067】
上記の記載及び図5、図7から明らかなように、穀稈搬送装置224の過負荷によって走行機体1の移動速度を減速制御したときに、搬送駆動電流センサ313値が設定負荷以下に、一定時間以上維持されることによって、前記減速制御を解除して、副変速バルブ112を増速側に制御して、穀稈搬送装置224の過負荷によって減速制御される直前の移動速度に、走行機体1の移動速度を戻すように構成したものであるから、穀稈搬送装置224の過負荷によって走行機体1の移動速度が減速されたときに、前記作物が詰るのを解消するためのその減速制御の時間を簡単に短縮でき、収穫作業効率を向上できる。
【0068】
上記の記載及び図5、図6から明らかなように、前記走行クローラ2にエンジン14の回転力を伝達する油圧無段変速機構100を備え、前記油圧無段変速機構100は直進用油圧ポンプ101と直進用油圧モータ102とを有し、直進用油圧ポンプ101の出力制御部としての斜板101bに主変速レバー42を連結し、直進用油圧モータ102の出力制御部としての斜板102aに副変速バルブ112を連結するように構成したものであるから、主変速レバー42によって出力制御する直進用油圧ポンプ101を主変速手段として、副変速バルブ112によって出力制御する直進用油圧モータ102を副変速手段として使い分けることによって、主変速レバー42の操作によって設定される主変速出力に関係なく、穀稈搬送装置224の作動負荷の増加によって走行機体1の移動速度が減速される自動制御を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態の6条刈り用コンバインの側面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】刈取装置の側面説明図である。
【図4】刈取装置の平面説明図である。
【図5】コンバインの駆動系統図である。
【図6】ミッションケースに設けた油圧無段変速機構の油圧回路図である。
【図7】は搬送駆動用電動モータ等の制御手段の機能ブロック図である。
【図8】車速制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1 走行機体
2 走行クローラ(走行部)
14 エンジン
42 主変速レバー
92 搬送駆動用電動モータ
100 油圧無段変速機構
101 直進用油圧ポンプ
101b 直進用油圧ポンプ101の斜板(出力制御部)
102 直進用油圧モータ
102a 直進用油圧モータ102の斜板(出力制御部)
112 副変速バルブ(車速変更手段)
222 刈刃装置
224 穀稈搬送装置(作物搬送手段)
313 搬送駆動電流センサ(負荷センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって作動する走行部を備えた走行機体と、圃場に植立した作物の株元を切断する刈刃装置と、前記刈刃装置によって株元が切断された前記作物を搬送する作物搬送手段と、前記走行機体の移動速度を検出する車速センサと、前記走行機体の移動速度を変更する車速変更手段とを備えてなる収穫機において、
前記作物搬送手段を作動する搬送駆動用電動モータと、前記作物搬送手段の作動負荷を検出する負荷センサとを備え、前記作物搬送手段の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、前記負荷センサの検出結果に基づき、前記車速変更手段を制御して、前記走行機体の移動速度を減速するように構成したことを特徴とする収穫機。
【請求項2】
前記負荷センサによって前記搬送駆動用電動モータの駆動電流を検出し、前記搬送駆動用電動モータの駆動電流に基づいて前記作物搬送手段の作動負荷を算出し、前記作物搬送手段の作動負荷が設定負荷以上に増加したときに、前記車速変更手段を制御して前記走行機体の移動速度を減速するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫機。
【請求項3】
前記作物搬送手段の過負荷によって前記走行機体の移動速度を減速制御したときに、前記負荷センサ値が設定負荷以下に、一定時間以上維持されることによって、前記減速制御を解除して、前記車速変更手段を増速側に制御して、前記作物搬送手段の過負荷によって減速制御される直前の移動速度に、前記走行機体の移動速度を戻すように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫機。
【請求項4】
前記走行部にエンジンの回転力を伝達する油圧無段変速機構を備え、前記油圧無段変速機構は油圧ポンプと油圧モータとを有し、前記油圧ポンプの出力制御部に変速レバーを連結し、前記油圧モータの出力制御部に前記車速変更手段を連結するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の収穫機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−106256(P2009−106256A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284964(P2007−284964)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】