説明

受信局、それを用いた信号送受信方式

【課題】信号欠損部分の状態を判断し、電波到来角度の推定精度を高めると共に、電波伝搬路を構成する水中の過程を補正するための新しい電波伝搬モデルを組み込んだ受信局、それを用いた信号送受信方式を提供する。
【解決手段】 受信局は、予め、遮蔽物のない条件での受信ビームパターンをモデルビームパターンとして取り込んでおく手段1、実測データを取り込み、最大値を検索する手段2、検索した最大値を含む放物線の推定ビームパターンを特定する手段3、放物線の末端に近い受信データから、近い受信データ間の階差をとり、局所トレンドを推定する手段4、推定ビームパターンの正常範囲内の値となる受信データを候補に設定する手段5、抽出した候補の内で、推定ビームパターンに近い受信データを推定母集団の大勢を決めるサンプルと仮定し、最も可能性がある関数を生成する手段6、そのビームパターンの関数の頂点を電波到来角として抽出する手段7、を有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中からの微弱電波を受信したときに、水中から空中へ伝搬するときの影響や障害物の影響を修正する受信局、および前記受信局を用い、アンテナの回転角度に応じた受信電界強度の変化を測定し、発信源の位置を特定する信号送受信方式に関する。
【背景技術】
【0002】
(水中からの電波を受信する位置を最適化する方法)
従来、野生生物、特に魚類の自動追尾を行う方法は、魚類に電波発信機を装着し、行動を追跡するシステムを調査地内に設置し、
(1)目的とするサービスエリアから発信される電波を効率よく受信できる地点を絞り込み、
(2)受信局設置候補地点におけるカバーエリアを特定する手順からなる。
上記手順(1)(2)は、電波発信源と受信局設置候補地点間の電波伝搬解析に基づいて行われる手順である。従来、上記(1)(2)の電波伝搬解析方法は、大地伝搬式や奥村式といった比較的伝搬過程を単純化した電波伝搬モデルにより電波伝搬解析を行っていた。
【0003】
(水中から発信される電波到来角を高精度で推定する方法)
また、指向性アンテナを回転させ、間欠発信を行う電波発信機からの電波到来角を推定する方式(例えば、特許文献1参照)では、間欠発信波の発信間隔の間は信号が無くなり、受信特性曲線の頂点を検出することは困難になる。このため、高精度の電波到来角の推定ができなかった。

【特許文献1】特開平7−63559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電波発信機を用いて魚類の行動を自動追尾する場合、自然環境下、特に水中から空中へ電波が伝搬する電波伝搬過程は複雑な状態となる。
例えば、空中の電波伝搬特性の場合、電波発信源から電波受信源へ発信される電波は、直達波が最も強いが反射屈折波もかなりの強さで伝搬する。伝搬路は複数パス存在するが、発信源近くでの散乱が少なく比較的単純な伝搬特性を示す。
これに対し、水中の電波伝搬特性の場合、直達波が反射屈折波と比較して強く伝搬する。このため、受信波のサイドローブが大きく減少する。また、水中から出る時点で激しく散乱し、水中からの発信のため、電波自体が弱く、散乱し複雑な伝搬パスを形成する。反射・屈折等の影響も受け易い。
【0005】
また、指向性アンテナを回転させ電波到来角を推定する方法において、遮蔽物があった場合や水中からの電波発信等の特殊な電波伝搬を阻害する要因があった場合、ビームパターンの変形や一部情報の欠損が生じる。
本発明は、前記問題点に鑑み、信号欠損部分の状態を判断し、電波到来角度の推定精度を高めると共に、電波伝搬路を構成する水中の過程を補正するための新しい電波伝搬モデルを組み込んだ受信局、それを用いた信号送受信方式を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の受信局は、
予め、遮蔽物のない条件での受信ビームパターンをモデルビームパターンとして取り込んでおく手段1、
次に、実測データを取り込み、所定受信期間内の全受信データの内から最大値を検索する手段2、
検索した最大値を含む放物線の推定ビームパターンを特定する手段3、
前記手段3における推定ビームパターンを成す放物線の末端に近い受信データから、近い受信データ間の階差をとり、局所トレンドを推定する手段4、
前記手段4における局所トレンドの推定処理の結果、前記推定ビームパターンの正常範囲内の値となる受信データを候補に設定する手段5、
前記手段5で抽出した候補の内で、前記推定ビームパターンに近い受信データを推定母集団の大勢を決めるサンプルと仮定し、そのサンプルの中から関数を生成する手段6、
前記手段6で生成した関数を最も可能性があるビームパターンの関数とし、そのビームパターンの関数の頂点を電波到来角として抽出する手段7、
を有することを特徴とする。
【0007】
また、上記受信局と制御局を備えた信号送受信方式であって、
前記受信局各局により電波伝搬モデルを用いて目的とするサービスエリアから発信される電波を受信し、受信信号を前記制御局へ送信し、
前記制御局は前記受信信号を取り込み、効率よく受信できる地点を演算し、
受信局設置候補地点におけるカバーエリアを特定し、
前記カバーエリア同士の重なり合いを判断(閾値:例えばカバーエリアに対するサービスエリアの比率等の閾値により)し、目的とするサービスエリアを確保するための受信局の最適配置を求める。
【0008】
また、信号送受信方式は、上記受信局を用い、魚類に装着した前記電波発信機の発信電波を受信し、前記受信局と前記制御局とにより電波発信機の位置を追跡する信号送受信方式であって、
前記受信局各局は、前記信号送受信方式により前記電波伝搬モデルを用いて電波到来角度θを求めて前記制御局へ送信し、
前記制御局は、前記受信局から前記電波到来角度θを取り込み、三角計測により、発信源の位置を抽出する。
【0009】
(2)上記(1)記載の受信局を用い、魚類に装着した電波発信機の発信電波を受信し、前記受信局と前記制御局とにより前記電波発信機の位置を追跡する信号送受信方式において、
前記受信局各局は、前記信号送受信方式により前記電波伝搬モデルを用いて電波到来角度θを求めて前記制御局へ送信し、前記制御局は、前記受信局から前記電波到来角度θを取り込み、三角計測により、発信源の位置を抽出することを特徴とする。
【0010】
(3)上記(2)記載の信号送受信方式において、
前記受信局は、受信信号のビームパターンをビーム伝送経路に遮蔽物がある場合のパターン、前記ビーム伝送経路により歪みが生じた場合のパターン、およびその他の場合のパターンのいずれかに判定し、前記各パターンに応じて前記各パターンに補正を加えることにより、修正したビームパターンを求め、該修正したビームパターンから前記電波到来角度θを求めることを特徴とする。
【0011】
(4)上記(2)又は3記載の受信局と制御局を備えた信号送受信方式において、
シミュレーションにより、前記受信局各局により電波伝搬モデルを用いて目的とするサービスエリアから発信される電波を受信し、受信信号を前記制御局へ送信し、前記制御局は前記受信信号を取り込み、効率よく受信できる地点を演算し、受信局設置候補地点におけるカバーエリアを特定し、前記カバーエリア同士の重なり合いを判断し、目的とするサービスエリアを確保するための前記受信局の最適配置位置を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の信号送受信方式は、水中から空気中への電波伝搬特性の影響、および障害物による受信信号の影響を修正した電波伝搬モデルを用いるので、正確な受信信号を得ることができる。
また、本発明の電波伝搬モデルを用いて目的とするサービスエリアから発信される電波を効率よく受信できる地点を絞り込み、該地点に受信局を配置する方法を採用することにより、発信電波を効率よく受信することができる。
また、上記修正した電波伝搬モデルを有する信号送受信方式を用いて電波到来角度を推定する方式にしたので、正確な電波到来角度を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態を以下図に基づいて詳細に説明する。
本発明の信号送受信方式は、基本的に、以下の手順(ステップ)をとる。
図1は本発明の信号送受信方式の動作態様を示すフローチャートである。
フローチャートは、大きく分けて、2つの手順をとる。まず、受信局設置位置の検討の手順と、その次のシステムの運用の手順である。
受信局設置位置の検討の手順の内容は、
(手順1)電波伝搬シミュレーションにより受信局設置予定位置を含むシステムサービスエリアの抽出を行う(ステップS1):
調査対象地域を選定し、システムサービスエリアを選定する。
(手順2)設置予定位置を含むシステムサービスエリアと測定手法との整合性の検証を行う(ステップS2):
サービスエリア内の任意の設置予定位置から電波伝搬シミュレーションを行い、受信局候補エリアにおける受信エリア解析を行う。
(手順3)検証結果を反映してシステムの設置・校正を行う(ステップS3):
受信エリア解析の結果から受信局をサービスエリア内のどの位置に設置すべきか決定する。
【0014】
このように、受信局設置位置の検討の手順を実行して、受信局の最適な設置場所を見つける。受信局の設置位置の決定が終わった段階で次のシステムの運用の手順を実行し、受信を始め、電波発信機の位置を所定のアルゴリズムに基づくプログラムにより求める。すなわち、
(手順4)三角測量による電波発信機の位置を特定する(ステップS4):
(手順5)電波到来角度の推定(演算)を高精度に行う(ステップ)S5:
(手順6)三角測量手法により電波発信機の位置を特定する(ステップS6):
【0015】
以上の手順は、すべてシミュレーションにより実行する場合を説明する。これとは別に、実際の現場の予め候補地点に実際の受信機を配置し、移動体モデルを動かしてサンプリングデータを取得することにより実行することもできる。
【0016】
詳しくは、以下前記電波伝搬モデルを用いた位置特定原理に基づいて説明する。
(1) 予め、地理的条件による伝搬損失を考慮した特定の電波伝搬モデルを作成する。
受信局に特定の電波伝搬モデルを取り込み、
(2)仮想の電波発信機を想定調査地に設置し、前記特定の電波伝搬モデルを用いて調査候補地内の任意の位置への電波伝搬状態をシミュレーションする。
(3)伝搬路の状態をGISを用いて解析(見通し解析、伝搬路内の地形要素による修正を加えた解析等)して修正条件を抽出し、前記修正条件により前記特定の電波伝搬モデルを修正する。
(4)土木研究所が算定した水中での電波減衰量データに基づき、想定調査地内の水中での電波減衰量や遮蔽物による電波減衰量、水中から空中への電波減衰量等を推定し、前記特定の電波伝搬モデルを修正する。
(5)修正の済んだ電波伝搬モデルを用いて電波発信機を調査地内の複数の調査地点に設置し、調査地内のサンプリング位置への電波伝搬状態を再度シミュレーションする。
(6)調査地内のサンプリング位置の電波受信特性に基づき、該調査地内で最も電波受信確率が高いエリアAを抽出する。
(7)前記エリアAが、ATSの位置特定方法を実行した場合の適切な位置となるか否か判断する。
(8)上記(7)のステップにおいて、エリアAが、ATSの位置特定方法を実行した場合の適切な位置と判断されたとき、エリアAを設置場所の候補とする。
(9)制御器の指令によりエリアAの設置場所の特定が済んだ受信局によりシミュレーションして発信電波を受信し、到来角度θを計測し、制御局へ送信する。
(10)制御局は、各受信局からの到来角度θを基に、三点計測(三角測量)演算を行い、発信位置を特定する。
【0017】
本発明の電波伝搬モデルを用いた発信源位置特定方式は、以下の手順を有する。
魚類に電波発信機を装着し、受信局および制御局により、行動を追跡する方法および方式であって、
(1)電波伝搬路の状況、即ち、伝搬特性に影響を与える状況、例えば水中から空中への伝搬、障害物に遮られる伝搬等の状況、に応じた独自の電波伝搬モデルを作成する。
(2)前記電波伝搬モデルを用いて、目的とするサービスエリアから発信される電波を効率よく受信できる地点を絞り込む。
(3)受信局設置候補地点におけるカバーエリアを特定する。
(4)カバーエリア同士の重なり合いを判断し、目的とするサービスエリアを確保するための受信局の最適配置を行う。
(5)各受信局において、前記電波伝搬モデルを用いて、発信電波の到来角度θを抽出し、制御局へ送信する。
(6)制御局は、各受信局からの前記到来角度θを基に、三角計測(三角測量)により発信位置を特定する。
【0018】
上記発信源の位置特定のためには、電波伝搬モデルを必要とする。その必要性について説明する。
図2は遮蔽物に遮られる場合の電波伝搬特性の説明図である。
発信機と受信局との間に遮蔽物が無い場合の受信特性を検討する。
水中から発信された連続発信波を、アンテナを回転させながら受信すると、図2(a)に示すアンテナ回転角に対する受信電界強度特性のビームパターンとなり、指向性のよい特性になる。
一方、水中からの発信電波が間欠発信波の場合、受信信号パターンは図2(b)のようになる。
図2(b)の離散値信号形状は、図2(a)に示す連続発信信号の変化の特徴を有する。
【0019】
次に、発信機と受信局との間の、発信機周辺に大きな遮蔽物(植生、地形)が有る場合の受信特性を検討する。
図2cは、水中から発信された連続発信波が途中の遮蔽物を介して受信された場合の、受信信号をサンプリング表示したアンテナ回転角に応じた受信電界強度特性を示す。図中枠で囲った領域の特性は、先の図2(a)の特性を保持することができず、崩れた形になっている。
図2(d)は、水中から発信された間欠発信波が途中の遮蔽物を介して受信された場合のアンテナ回転角に応じた受信電界強度特性を示す。図中枠で囲った領域は、受信データのバラツキが生じている。間欠発信波を用いる場合、連続発信波を用いる場合に比べて受信データのバラツキが少ない傾向を示す。
【0020】
以上述べたように、遮蔽物によって受信電界強度特性にバラツキが発生する現象が起こる。この現象に共通することは、
(1)電波の遮蔽、瞬時値変動によりビームパターンの形が微妙に変動する、
(2)受信電界強度の最大値を含む受信電圧強度領域のサンプルデータは、ビームパターンの原型に近いか、若しくは、ビームパターンの原型に近い関数に乗る。
以上の検討結果に着目すると、以下のようにまとめることができる。
(1)受信データが離散値データで、且つ、回転角が変化するにつれて受信電界強度が指向性を持って、換言すると、概略、先鋭な放物線で変化するので、隣接離散値データを順次前記先鋭な放物線に従って設定することにより、適切な受信データを選択して受信精度を向上することができる。
(2)電波伝搬過程の影響を受けたデータを除外すれば、数値補間の精度が向上する。
【0021】
以上の検討結果を踏まえると、水中から発信される電波の到来角度を高精度で推定する際の基本的な考え方は、以下のようになる。
図3はビームパターンの説明図である。図3(a)はパターンAの説明図、図3(b)はメインローブとサイドローブを有する基本波形のビームパターンの説明図、図3(c)はパターンBの説明図である。図中、実線は実測ビームパターン、点線は電波伝搬による撹乱がない場合のビームパターンを表す。
以下に述べるビームパターンの判定手段およびビームパターンの修正手段は、ビーム伝搬経路に遮蔽物がある場合と無い場合(理想的な場合)、またはビーム伝搬経路上の問題でビームパターンがゆがむ場合とその問題が無くビームパターンがゆがまない場合との比較を行い、必要な修正データを採取し、予めテーブルに記憶してある。
【0022】
電波到来角度を推定する場合問題となる受信パターンが2種類(A、B)ある。
パターンA:受信前のビーム経路に遮蔽物がある場合のビームパターン、
パターンB:電波伝搬上の問題でビームパターンがゆがむビームパターン。
【0023】
パターンAは、図3(a)に示されているように、撹乱がない場合点線の特性A1となるが、遮蔽物があるため、実線のように2つのビームパターンになる。そのうちの受信電界強度が大きい方の波形の最大値の回転角θが実際の現地計測で得られるビームパターンとなる。なお、実線の小さいビームパターンの最大値の回転角はθとする。一方、電波伝搬による攪乱がない場合の点線のビームパターンの受信電界強度が最大の回転角はθとなる。パターンAの場合、θとθとが一致しないため、実測値のθをアルゴリズムを修正してθに一致させる。
【0024】
パターンBは、図3(c)に示されているように、実線の実際の現地計測で得られるビームパターンの最大値の回転角はθとなり、点線の電波伝搬による攪乱がない場合のビームパターンの最大値の回転角θTとが一致しないため、実測値のθをアルゴリズムを修正してθに一致させる。点線のビームパターンの最大値の回転角はθで、実線のビームパターンの最大値(V1C)の回転角はθとする。
θとV1Cを結んだ線と点線のビームパターンとが交差する点を通る等受信電界強度直線と実線のビームパターンとの交わる点(V1A)の回転角θを求め、回転角の軸線上で、θ−θ=θ−θとなるようにθを設け、回転角θの直線と実線のビームパターンの交わる点の受信電界強度V2Aを求める。
【0025】
このアルゴリズム修正のためには、下記(1)(2)を行う。
(1)ビームパターンの分類による処理アルゴリズムの選択、
図3(b)に示すように、真の電波到来方向のビームパターンは、サイドローブのビームパターンよりも大きく、物理的に決まる。図中、V1:受信電界強度の最大値、V2:受信電界強度最大値から2番目の値、W:メインローブ幅を表す。また、テレメトリシステムのアンテナ回転速度によりその基本形は影響を受け、測定条件により基本的なビームパターンの放物線に近い関数が決定される。
【0026】
(ビームパターン判断のアルゴリズム)
(a)ビームパターンの判断(パターンA):
図3(a)および図3(b)において、θd=θ1−θ2とすると、
条件1:θd<W
且つ
条件2:Vda<Vp
であれば、パターンAといえる。
【0027】
(b)ビームパターンの判断(パターンB):
図C(c)において、
条件1:
【数1】

但し、数1式中のC1は現地の状況に応じて変化する値で、例えば1.2をとる。
又は
【数2】

但し、数2式中のC2は現地の状況に応じて変化する値で、例えば1.2をとる。
且つ、
【0028】
条件2:
【数3】

但し、数3式中のC3は現地の状況に応じて変化する値で、例えば1.2をとる。
又は
【数4】

但し、数4式中のC4は現地の状況に応じて変化する値で、例えば1.2をとる。
であれば、パターンBといえる。
上記(a)または(b)の条件を満たさない場合には、図3(b)のビームパターンとする。
【0029】
(2)実際の処理アルゴリズムのアレンジ(例えば、パターンAに対する補足、等)を必要とする。→すなわち、簡単な数値処理から典型的なエラーを生じさせるビームパターンか否かを判断し、アルゴリズムを選択する。パターンA、またはパターンBに該当する場合には、それぞれに対応するアルゴリズムを選択・判断し、必要に応じて補正処理等を行う。
(ビームパターン補正アルゴリズム)
(a)パターンA:
図3(a)に基づいて説明する。
(1)実線の実測特性の各頂点(最大値)を基準としてノイズレベルの回転角θ、θを求める。ノイズレベルは、例えば最大値の20パーセントの受信電界強度とする。
(2)θ=(θ+θ)/2を求める。
(3)θ<θ<θの条件を満たし、Δ(V/θ)>0になる回転角θ部分を検索・選択する。
(4)θ<θ<θの条件を満たし、Δ(V/θ)<0になる部分を検索・選択する。
(5)(3)と(4)を組み合わせてビームパターンを合成する((3)と(4)により、実測の特性曲線P1の左側領域A1の傾向および実測の特性曲線P2の右側領域A2の傾向を含み左右対称な特性曲線を求める)。
(6)合成したビームパターンの最大値の回転角を電波到来角として求める。
【0030】
(b)パターンB:
図3(c)に基づいて説明する。
(1)探索限界値の算出を行う。算出式は(計測最大値−ノイズ平均)/2とする。ノイズ平均は頻度分布に基づいて求める。
(2)探索限界値以上のパルスデータを抽出する。
(3)抽出したパルスデータを用い、前回のビームパターン推定アルゴリズムに基づきビームパターンの最大値を求め、その回転角を電波到来角として求める(θAとθBを端点として(θAとθBの間隔)、最大値をV1Cとする左右対称な関数式をテーブルから求める)。
【0031】
以上の検討結果を踏まえると、水中から発信される電波の到来角度を高精度で推定する方法のアルゴリズムは以下のようになる。
受信局において、
(1)予め、遮蔽物のない条件での受信ビームパターンをモデルビームパターンとして取り込んでおく。
(2)次に、実測データを取り込み、所定受信期間内の全受信データの内から最大値を検索する。
(3)検索した最大値を含む放物線の推定ビームパターンを特定する。
(4)(3)の推定ビームパターンを成す放物線の末端に近い受信データから、近い受信データ間のn階差(n次の移動平均、但しnは任意の自然数)をとり、局所トレンドを推定する。
(5)(4)の局所トレンドの推定処理の結果、推定ビームパターンの正常範囲内の値となる受信データを候補に設定する。
(6)(5)で抽出した候補の内で、推定ビームパターンに近い受信データ(例えば、最大値から±20°〜40°の中のサンプル)を推定母集団の大勢を決めるサンプルと仮定し、そのサンプルの中から関数を生成する。
(7)(6)で生成した関数を最も可能性があるビームパターンの関数とし、そのビームパターンの関数の頂点を電波到来角として抽出する。
【0032】
以上述べた水中から空中へ発信される電波の電波伝搬特性を表す電波伝搬モデルを作成する方法、およびそれを用いた電波到来角度推定方法をそれぞれ方式として構成した実施例を次に説明する。
【実施例】
【0033】
図4は、本発明のATS(Advanced telemetry system)の説明図である。
ATS1は、発信器を装着した河川内の魚類の位置を追跡し、魚類生体を観測するシステムである。
河川の流れに沿って、上流から下流に向かって、受信局2(クライアント)No.1〜No.3を適宜間隔で配置する。また、受信局2から適当に離れた位置に制御局3(ホスト)を設け、受信局2No.1〜No.3からの送信信号を受信するようになっている。
図4のシステムは、以下の手順で動作を実行する。
(1)複数の受信局2(実施例の場合、No.1〜No.3)を調査地内に電波受信上、効率的に配置する。
(2)制御局3から各受信局2へ測定命令を無線LANを通じて送信し、各受信局2は指向性アンテナ(図5参照)を回転させて電波が最も強い方向を探査する。
(3)電波が最も強い方向を電波発信機4がある角度(電波到来角度)として計測する。
(4)各受信局2は、電波到来角度計測後、制御局3へ電波到来角度を返信する。
(5)制御局3は、三角測量の原理により電波発信機4の位置(魚類の位置)を特定する。
【0034】
図5は、本発明の受信局および制御局の構成図である。
受信局2は、指向性の強いアンテナ、例えば八木アンテナ5をローテータ6で回転駆動し、八木アンテナ5の受信波を受信機7およびADボード8を介して受信電界強度Vとして解析用演算装置、例えば解析用パーソナルコンピュータ9に取り込むと共に、ローテータ6の回転を制御するリレー制御ボード10から出力されるローテータ6の回転角θの値を解析用演算装置、例えば解析用パーソナルコンピュータ9に取り込む。また、受信局2は制御局3との間で無線LANを構成する通信手段(図示省略)を備える。
解析用パーソナルコンピュータ9は、以下の処理を行う。
(1)受信電界強度Vと回転角度θの抽出を行う。
(2)抽出した受信電界強度Vと回転角度θの散布図(離散ビームパターン)を作成する。
(3)離散ビームパターンの数値補間を行い、連続ビームパターンになおし、このパターンの関数式を求める。
(4)前記関数式を解析し、電波到来角度θの算出を行う。
一方、制御局3は、演算装置、例えばホストパーソナルコンピュータ11と、受信局2との間で無線LANを構成する通信手段(図示省略)を備える。
ホストパーソナルコンピュータ11は、以下の処理を行う。
(1)受信局2の制御、計測スタート制御、アンテナ回転角度制御を行う。
(2)受信局分の電波到来角度θの受信処理を行う。
(3)受信局分の電波到来角度θから三角測量の原理で発信源の位置を特定する。
以下、受信局2の動作は解析用演算装置9が行い、制御局3の動作は演算装置11が行う。
【0035】
前記受信局2の位置決めは以下のようにして決められる。
図6は本発明の魚類行動追跡システムにおけるシステム設置フロー説明図である。
図6(a)は調査地域を選定する説明図、図6(b)は仮想上でシステムサービスエリアの選定を説明する図、図6(c)は仮想上のサービスエリアにおける電波伝搬シミュレーションの説明図、図6(d)は仮想上の受信局設置候補エリアの抽出を説明する説明図、図6(e)は受信局候補エリアからの受信エリア解析の説明図、図6(f)は最終的に受信局を設置する説明図である。
魚類行動追跡システムにおけるシステム設置フローは、
(1)調査対象地域を選定する(STEP(ステップ)1:図6(a))。
(2)システムサービスエリアを選定する(仮想(シミュレーション)上でシステムサービスエリア(システムが調査できる範囲)の選定を行う(STEP1:図6(b))。
(3)サービスエリアから電波伝搬シミュレーションを行う(仮想上で電波発信機をサービスエリア中におき、伝搬可能性を検証する)(STEP1:図6(c))。
(4)サービスエリアから電波伝搬シミュレーションを行う(電波が安定して受信できる受信局設置候補エリアを選定する(STEP1:図6(d)))。
(5)受信局設置候補エリアからの受信エリア解析を行う(受信局設置候補エリアからサービスエリアを高確率で見通し、三角測量上適切な箇所の判断を行う。その際、水中からの電波伝搬条件と位置特定測量の関係から受信局の位置を判断する)(STEP(ステップ)2:図6(e))。
(6)最終的に受信局1、2の箇所に受信局を設置する(結果に基づいて最終的に受信局位置を決定する(STEP(ステップ)3:図6(f)))。
【0036】
このシステム設置フローにおける受信局設置候補エリアからの受信エリア解析の際には、水中からの電波伝搬条件と位置特定測量の関係から次の様にして解析する。

(1)水中の発信機4から空中の受信局2への電波伝搬特性は、以下のようにして求める。
まず、本発明の電波伝搬特性を求めるにつき、参考となる従来例を2つ検討する。
1つ目である、電波伝搬モデルの基本形Aは、以下の既応研究による平面大地反射モデルとなる。
【数5】

【数6】

【数7】


伝搬損失 =20log(A) 伝搬経路の状況により、係数を変更するものとする。
ただし、
:直接波の伝搬距離[m]
:反射波の伝搬距離[m] (Δd=dri―d
λ :波長[m]
Γ :反射係数(0≦Γ≦1)
2つ目である、森林帯通過に伴う伝搬損の基本形Bは、以下のようになる
「無線通信の電波伝搬(進士昌明編著 社団法人電子情報通信学会 P.49)」によれば、送受信アンテナの一方が奥行400m以下の樹林のごく近くにあって、伝搬路の大部分が樹林である場合、樹林による損失L(dB)は次式で与えられるとしている。
【数8】

(200 < f < 95,000MHz)
ここで、
ΔL :樹林による損失[dB]
f :周波数[MHz]
d :樹林の深さ[m]
【0037】
上記基本形Aおよび基本形Bにおいて、直接波の伝搬距離d[m]、反射波の伝搬距離d[m]や樹林の深さd[m]は、GISデータで提供できるので、上記基本形Aおよび基本形BはこれらGISデータにより修正することが可能となる。
そこで、本発明の水中の発信局から空中の受信局への電波伝搬特性は、これら従来例をベースにして特定の電波伝搬モデルを作成する。これにより、従来例と同様に、GISデータにより電波伝搬特性を修正することが可能となる。
また、本発明の水中の発信局から空中の受信局への電波伝搬特性は、直接波の伝搬距離d[m]、反射波の伝搬距離d[m]や樹林の深さd[m]等のGISデータや、伝搬媒質の相違による反射係数の変化等の電波伝搬特性におけるGISデータや反射係数等の変化に応じて求められることになるため、受信局の位置を変えると、電波伝搬特性に影響がでることになる。
【0038】
隣接受信局のカバーエリアは、相互に重複する領域がサービスエリアとして存在し、このサービスエリア内の発信源を隣接受信局からの三角測量により特定する。
具体的には、受信局と制御局を備えた信号送受信方式において、
前記受信局各局により前記電波伝搬モデルを用いて目的とするサービスエリアから発信される電波を受信し、受信信号を制御局へ送信し、
制御局は前記受信信号を取り込み、効率よく受信できる地点を演算し、
受信局設置候補地点におけるカバーエリアを特定し、
カバーエリア同士の重なり合いを判断し、目的とするサービスエリアを確保するための受信局の最適配置を求める。
【0039】
水中から発信される電波の到来角度を高精度で推定する方法は以下の手順で行う。
(1)予め、遮蔽物のない条件での受信ビームパターンをモデルビームパターンとして取り込んでおく(ステップ1)。
モデルビームパターン:水中からの電波は、電波発信源の方向(電波発信源と受信点を直線で結んだ方向)が他の伝搬路(サイドローブ)と比較して極端に強くサンプリング点内の最大値の近傍に求める関数の最大値のある場合がほとんどである。このような特徴を有するモデルビームパターンを、設定条件を替えて複数取り込んでおく。
【0040】
(2)次に、実測し、所定受信期間内の全受信データの内から最大値を検索する。
最大値:予め、信号とノイズを定義する方法を作成しておく。例えば、1回の計測サンプリングにおいて得られた受信データの最大値を「1」、受信データの最小値を「0」として各サンプリングデータを標準化する。標準化したデータの内、最小値から約20%をノイズレベルとする。サンプリングデータの最大値から標準化する方法で定義したノイズレベルまで最小値を検索する方法で放物線の末端を検索する。
(3)検索した最大値を含む放物線の推定ビームパターンを特定する。
【0041】
(4)(3)の推定ビームパターンを成す放物線の末端に近い受信データから、近い受信データ間のm階差(m次の移動平均、但しmは任意の自然数)をとり、局所トレンドを推定する。
末端: 上記(2)で説明したように、サンプリングデータの最大値から標準化する方法で定義したノイズレベルまで最小値を検索する方法で放物線の末端を検索する。
移動平均:ノイズの幅よりは、指向性アンテナ(実施例では、八木アンテナ)のアンテナ回転速度と電波発信機の発信間隔の関係から移動平均の次数を決める。この関係に着目することで離散化の度合いを評価することができる。例えば、アンテナの回転速度に対して電波発信機の発信間隔が短い場合、離散化される率は少なくなる。従って、移動平均の次数を上げなくてもスムーズ(連続的)なビームパターンを復元することが可能になり、結果として電波到来角度の推定精度は向上する。
局所トレンド:局所トレンドは階差で近似される関数で、階差を算出した地点から階差の傾きで線を延長(延線)して評価する。階差は1つの算出値となる(例えば、1次直線の傾き)。階差がプラスのとき、関数は増加傾向になる。関数がマイナスのとき、関数は減少傾向になる。この階差は、曲線変化トレンドを抽出するのに優れた指標で、この値が一致する場合には曲線変化は同一の関数形を持つ可能性が高くなる。
【0042】
(5)(4)の局所トレンドの推定処理の結果、推定ビームパターンの正常範囲内の値となる受信データを候補に設定する。
正常範囲内:正常範囲内又は正常範囲外を容易に判断するために、局所トレンドに幅を付けている。階差の算出においてできた延線から外れるサンプルを特定し延線とサンプルの距離を算出し、距離のデータサンプルの大きさから一定のマージンを設ける。
【0043】
(6)(5)で抽出した候補の内で、推定ビームパターンに近い受信データを推定母集団の大勢を決めるサンプルと仮定し、そのサンプルから関数を生成する。
延線との間隔で定義する。延線と一致することは、受信電界強度が最大付近のビームパターンを形成する潜在的な関数の変形であることを意味する。この関数は、現在、2次関数(V=aθ+bθ+c)で近似する。
【0044】
(7)(6)で生成した関数を最も可能性があるビームパターンの関数とし、そのビームパターンの関数の頂点を電波到来角θとして抽出する。
最も可能性があるビームパターンの関数:現在の段階では、2次関数(y=ax+bx+c)で近似する。
【0045】
以上説明した各局の制御動作は、最終的に所期の動作を行う限りにおいて、手順の入れ替えや代替手順で実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の信号送受信方式の動作態様を示すフローチャートである。
【図2】遮蔽物に遮られる場合の電波伝搬特性の説明図である。
【図3】ビームパターンの説明図である。
【図4】本発明のATS(Advanced telemetry system )の説明図である。
【図5】本発明の受信局および制御局の構成図である。
【図6】本発明の魚類行動追跡システムにおけるシステム設置フロー説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ATS
2 受信局
3 制御局
4 発信機
5 八木アンテナ
6 ローテータ
7 受信機
8 ADボード
9 解析用演算装置(解析用パーソナルコンピュータ)
10 リレー制御ボード
11 演算装置(ホストパーソナルコンピュータ)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め、遮蔽物のない条件での受信ビームパターンをモデルビームパターンとして取り込んでおく手段1、
次に、実測データを取り込み、所定受信期間内の全受信データの内から最大値を検索する手段2、
検索した最大値を含む放物線の推定ビームパターンを特定する手段3、
前記手段3における推定ビームパターンを成す放物線の末端に近い受信データから、近い受信データ間の階差をとり、局所トレンドを推定する手段4、
前記手段4における局所トレンドの推定処理の結果、前記推定ビームパターンの正常範囲内の値となる受信データを候補に設定する手段5、
前記手段5で抽出した候補の内で、前記推定ビームパターンに近い受信データを推定母集団の大勢を決めるサンプルと仮定し、そのサンプルの中から関数を生成する手段6、
前記手段6で生成した関数を最も可能性があるビームパターンの関数とし、そのビームパターンの関数の頂点を電波到来角として抽出する手段7、
を有することを特徴とする受信局。
【請求項2】
請求項1記載の受信局を用い、魚類に装着した電波発信機の発信電波を受信し、前記受信局と制御局とにより前記電波発信機の位置を追跡する信号送受信方式であって、
前記受信局各局は、前記信号送受信方式により電波伝搬モデルを用いて電波到来角度θを求めて前記制御局へ送信し、前記制御局は、前記受信局から前記電波到来角度θを取り込み、三角計測により、発信源の位置を抽出することを特徴とする請求項1記載の信号送受信方式。
【請求項3】
前記受信局は、受信信号のビームパターンをビーム伝送経路に遮蔽物がある場合のパターン、前記ビーム伝送経路により歪みが生じた場合のパターン、およびその他の場合のパターンのいずれかに判定し、前記各パターンに応じて前記各パターンに補正を加えることにより、修正したビームパターンを求め、該修正したビームパターンから前記電波到来角度θを求めることを特徴とする請求項2記載の信号送受信方式。
【請求項4】
請求項2又は3記載の受信局と制御局を備えた信号送受信方式であって、
シミュレーションにより、前記受信局各局により前記電波伝搬モデルを用いて目的とするサービスエリアから発信される電波を受信し、受信信号を前記制御局へ送信し、前記制御局は前記受信信号を取り込み、効率よく受信できる地点を演算し、受信局設置候補地点におけるカバーエリアを特定し、前記カバーエリア同士の重なり合いを判断し、目的とするサービスエリアを確保するための前記受信局の最適配置位置を求めることを特徴とする信号送受信方式。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−132838(P2007−132838A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327242(P2005−327242)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(301031392)独立行政法人土木研究所 (107)
【Fターム(参考)】