説明

受信機、選択方法及びプログラム

【課題】 符号間干渉と量子化誤差の両方に簡易に対処可能な受信機等を提案する。
【解決手段】 受信機5の受信アンテナ21は、伝搬路7を経由した送信信号を無線により受信する。等化器29では、推定伝搬路処理部41が推定伝搬路を用いて受信信号レプリカを生成することにより、符号間干渉に対処する。さらに、近似モデル推定部35が、少なくともAD変換部25により生じる量子化誤差を近似する近似モデルを推定する。量子化誤差推定部43は、この近似モデルを用いて、各受信信号レプリカに対応する量子化誤差推定値を生成する。演算部45は、これを考慮してレプリカ値を生成する。比較部47は、受信した受信信号から生成した受信系列と、各レプリカ値とを比較して、送信機3における送信系列を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信機、選択方法及びプログラムに関し、特に、送信系列から生成された送信信号を受信する受信機等に関する。
【背景技術】
【0002】
無線メッシュネットワークにおいて、中継回線の大容量化を図るには、複数の送受信アンテナを用いるMIMO(Multi-Input Multi-Output)通信技術の採用が必須となる。従来の無線LAN等では、線形変調技術(図18(a)参照)を用いたマルチキャリア方式が採用されている。しかし、線形変調では、包絡線振幅に情報を有する。そのため、例えば、マルチキャリア方式の受信機で、十分な量子化ビットを有する高分解能ADC(Analog-Digital Converter)(7ビット以上)が必要になる。受信機の消費電力のうち、ADCの占める割合は大きい。よって、高分解能ADCを用いると、ハードウェアの低消費電力化・小型化が困難であった。この問題点は、複数のアンテナ素子(送受信機)を有するMIMO伝送においては更に深刻になる。
【0003】
発明者らは、アナログ受信回路の簡素化と低消費電力化を目的として、受信機側で低分解能ADCを用いるMIMOシステムを実現する手法として、定包絡線変調(図18(b)参照)を用いることを提案した(特許文献1及び2並びに非特許文献1及び2など参照)。すなわち、図18(b)の線L1及びL2にあるように、包絡線が一定のものである。
【0004】
定包絡線変調には、さらに、電力効率に優れる非線形送信電力増幅器を利用できるという利点もある。線形変調方式では、線形増幅を行う必要があるため、増幅器の入出力特性に高い線形性が求められる。そのため、非線形変調と比べて、増幅時の電力変換効率が低くなる。特に、無線LANなどで用いられるマルチキャリア方式では、送信信号のピーク対平均電力比(Peak-to-Average Power Ratio)が高いため、電力効率はさらに大きく低下する。よって、定包絡線変調は、電力増幅効率の改善という利点がある。
【0005】
無線回線において遅延波が存在する場合、符号間干渉のために通信品質が悪化する。そのため、受信機側での波形等化が必要となる。波形等化を実現するには受信機において、伝搬路の特性を知る必要がある。送信機から送信された信号のスペクトルがX(f)、伝搬路の周波数伝達特性がH(f)である場合、受信機に受信される信号スペクトルY(f)は、伝搬路特性H(f)に対して、Y(f)=H(f)X(f)となる。ここで、fは周波数を表す。受信機では、H(f)を推定することにより、受信信号Y(f)からX(f)の情報を推定する。例えば、伝搬路H(f)の影響を打ち消してR(f)=Y(f)/H(f)を得て、送信情報X(f)を推定する。発明者らは、この伝搬路周波数伝達特性H(f)又は伝搬路インパルス応答h(t)の状態を正確に推定する技術について、特許出願を行っている。h(t)は、H(f)のフーリエ変換対を表す。
【0006】
図19は、発明者らが提案した従来の通信システムの一例を示す概略ブロック図である。従来の波形等化器は、図19の推定部101にあるように、実際の伝搬路を推定し、受信回路を模擬するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−81745号公報
【特許文献2】PCT/JP2011/63272
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小寺、外2名著,“低分解能ADCとガウス送信フィルタを用いる定包絡線位相変調システムの伝送特性評価”,信学技法,vol.110,no.127,RCS2010-51,pp.19-24,July 2010.
【非特許文献2】牟田、外1名著,“定包絡線変調と低分解能ADCを用いるMIMO無線伝送の検討”,電子情報通信学会無線通信システム研究会,RCS2010-44,pp.157-162,June 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
受信機では、符号間干渉に加えて、ADCによる量子化誤差も生じる。そのため、受信機では、遅延波による符号間干渉に加えて、量子化誤差のために、十分な等化特性を得ることが困難になる。特に、低分解能ADCでは、量子化誤差が大きな影響を与える。その結果、通信品質が大きく劣化することになる。よって、波形等化(特に、非線形等化)が正しく動作するためには、ADCにより生じる量子化誤差を精度よく推定する必要がある。例えば発明者らが提案した定包絡線変調を用いる場合、中間周波数(IF)帯(高い周波数)で動作するADCで発生した量子化誤差が、ベースバンド帯(低い周波数)での信号処理に与える影響を推定する必要がある。
【0010】
しかしながら、従来の波形等化回路は、図19の推定部101にあるように、実際の伝搬路及び受信回路を模擬するものであった。そして、量子化誤差を精度よく推定するためには、実際の受信処理系を正確に模擬する必要がある。例えば、図19では、送信候補系列に対し、伝搬路推定値による演算、低分解能ADC、周波数変換、フィルタの動作を正確に模擬する必要があった。特に、IF帯でのADC、周波数変換、フィルタの動作をディジタル処理により模擬するには、シンボル周波数よりサンプリング周波数を高くして(受信回路のADCと同等程度のサンプリング周波数を用いて)信号を表現し演算を行う必要があった。その結果、演算が複雑になった。
【0011】
そこで、本願発明は、符号間干渉と量子化誤差の両方に簡易に対処可能な受信機等を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の第1の観点は、送信系列から生成された送信信号を無線により受信する受信機であって、伝搬路を経由した前記送信信号を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナが受信した受信信号に対してアナログディジタル変換を行って受信系列を生成するAD変換部と、既知の前記送信系列に対応する前記受信信号を用いて、前記AD変換部により前記受信系列に生じた量子化誤差を近似する近似モデルを推定するモデル推定部と、複数の送信候補系列のそれぞれに対応する送信候補信号が推定伝搬路を経由した後の受信信号レプリカを生成する推定伝搬路処理手段と、前記各受信信号レプリカ及び前記近似モデルを用いて量子化誤差推定値を計算する量子化誤差推定手段と、前記各受信信号レプリカ及び前記各量子化誤差推定値に対して演算を行ってレプリカ値を生成する演算手段と、前記各レプリカ値と前記受信系列とを比較して、差異が小さいものから一つ又は複数のレプリカ値を選択する比較手段を備えるものである。
【0013】
本願発明の第2の観点は、第1の観点において、前記比較手段が複数のレプリカ値を選択した場合、前記選択された送信候補系列に対して、前記AD変換部の動作を模擬して高精度レプリカを生成する模擬手段と、前記各高精度レプリカと前記受信系列とを比較して差異が小さい高精度レプリカに対応する送信候補系列を前記送信系列と推定する高精度比較手段を備え、前記比較手段が一つのレプリカ値を選択した場合、前記比較手段は、選択されたレプリカ値に対応する前記送信候補系列を前記送信系列と推定するものである。
【0014】
本願発明の第3の観点は、第2の観点において、前記模擬手段は、前記AD変換部がディザー信号を生成するディザー信号源を有するものである場合に前記選択された送信候補系列から得られた信号に前記ディザー信号を加算するものであり、前記選択された送信候補系列から得られた信号に対して、オフセット値を加算若しくは減算し、及び/又は、以前に前記AD変換部の動作を模擬して得られた値に応じて増加若しくは減少して、前記AD変換部の動作を模擬するものである。
【0015】
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点において、前記モデル推定手段は、前記送信信号の振幅及び/又は位相に基づいて前記近似モデルを推定するものである。
【0016】
本願発明の第5の観点は、第1から第4のいずれかの観点において、前記送信信号は、定包絡線変調により得られたものであり、前記受信信号に対して、中間周波数帯へ周波数変換をする第1周波数変換部を備え、前記AD変換部は、前記第1周波数変換部による周波数変換後の信号に対して、シンボルレートよりも高いサンプリングレートでアナログディジタル変換を行うものであり、さらに、前記アナログディジタル変換後の系列をベースバンド帯へ周波数変換をして前記受信系列を生成する第2周波数変換部を備え、前記量子化誤差推定手段は、前記受信信号レプリカからベースバンド帯に現れる量子化誤差を推定するものである。
【0017】
本願発明の第6の観点は、送信系列から生成された送信信号を無線により受信する受信機において、複数の送信候補系列のそれぞれから生成されたレプリカ値のうち、一つ又は複数を選択する選択方法であって、受信系列は、AD変換部が、受信アンテナが受信した受信信号に対してアナログディジタル変換を行って生成したものであり、近似モデルは、前記AD変換部により前記受信系列に生じる量子化誤差を近似するものであり、前記各レプリカ値は、推定伝搬路処理手段が、前記各送信候補系列及び推定伝搬路を用いて受信信号レプリカを生成し、量子化誤差推定手段が、前記各受信信号レプリカ及び前記近似モデルを用いて量子化誤差推定値を計算し、演算手段が、前記各受信信号レプリカ及び前記各量子化誤差推定値に対して演算を行って生成したものであり、前記受信機の比較手段が、前記各レプリカ値と前記受信系列とを比較して、一つ又は複数の前記レプリカ値を選択する比較ステップを含むものである。
【0018】
本願発明の第7の観点は、コンピュータにおいて、第6の観点の選択方法を実現するためのプログラムである。
【0019】
なお、本願発明を、第7の観点のプログラムを(定常的に)記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体としてとらえてもよい。
【0020】
また、第4の観点において、受信機に対して送信信号を送信する送信機は、伝搬路特性の情報に基づき推定されるストリーム間干渉、符号間干渉、及び、ADCの量子化誤差の少なくとも一つに起因する受信信号に生じる誤差を演算する誤差演算手段と、前記誤差を最小とする送信信号の振幅及び/又は位相を演算する位相演算手段と、前記位相演算手段により演算された振幅及び/又は位相により前記受信機に対して前記送信信号を送信する送信信号送信手段を備え、前記受信機の前記モデル推定手段は、前記送信信号の振幅及び/又は位相に基づいて前記近似モデルを推定するものであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本願発明によれば、推定伝搬路処理手段が推定した推定伝搬路を用いて遅延波による符号間干渉を考慮することができ、さらに、量子化誤差推定手段が、受信信号を入力とし量子化誤差推定値を出力とする近似モデルを用いて量子化誤差推定値を簡易に計算することにより、量子化誤差を簡易に推定して補償することが可能になる。よって、量子化誤差の影響を簡易に軽減することが可能になる。
【0022】
なお、近似モデルは、たとえば近似推定関数を用いるものである。近似モデルにおけるパラメータは、学習により最適値を求めることができる。これらのパラメータは、事前に学習させて与えることができる。そのため、波形等化における計算量に影響を与えなくすることも可能である。また、本願発明は、従来の非線型等化手法(例えば最尤系列推定手法など)と併用することも可能である。
【0023】
さらに、本願発明の第2の観点によれば、送信候補系列の全部を正確に模擬して判断するのでなく、送信候補系列の一部を模擬することにより、計算量の軽減を図ることが可能になる。
【0024】
さらに、本願発明の第3の観点によれば、AD変換器のアナログ回路の非理想性(例えば、ヒステリシス及び基準電圧オフセット)を補償し、ADCが理想的に動作した場合に近い特性を模擬することが可能となる。
【0025】
さらに、本願発明の第5の観点によれば、発明者らが提案した定包絡線変調システムの受信機において、量子化誤差推定手段がベースバンド帯において生じる量子化誤差を推定し、その影響を補償しながら波形等化を行うことが可能になる。定包絡線変調システムの送信信号の包絡線は一定である。しかし、遅延波による符号間干渉などの種々の要因により、受信信号の包絡線に変動を生じる。受信側ADCの量子化ビット数が少ない場合(例えば1ビットである場合)、包絡線変動の情報が失われる(大きな量子化誤差が発生する)。そのため、波形等化(符号間干渉の除去)性能が劣化する。これに対して、本願発明の手法によれば、ADCを通過後に受信信号に生じる量子化誤差を近似的に推定することで、その影響を軽減し、等化性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本願発明の実施の形態に係る通信システム1の概略ブロック図である。
【図2】トレリス線図の一例を示す図である。
【図3】時刻nから時刻n+1におけるトレリス線図の一例である。
【図4】時刻n+1の各状態の中から、累積誤差メトリクスの評価値が高いものからNr個である状態S0とS2を選択した場合を示す図である。
【図5】図4において、選択されたNr個以外の全ての状態を削除した図である。
【図6】時刻n+2における生き残りの状態数がNr個を超える場合に、Nr個の状態を選択し、残りの状態を削除した場合を示す図である。
【図7】初期状態が与えられている場合の手順を示すための図である。
【図8】図7において、評価値の高い状態のみを生き残りとし、他を削除した場合の一例を示す図である。
【図9】受信信号の観測値(点Po)と、受信信号レプリカ(候補値)との関係を示す図である。(a)は、量子化誤差推定値を用いない場合の例、(b)は、量子化誤差推定値を用いた場合の一例、(c)は、(b)の円C内の4つの候補値に対応する模擬結果を用いた場合を示す。
【図10】2x2MIMO通信システムのトレリス線図の一例を示す図である。
【図11】遅延波による符号間干渉等の影響により受信信号振幅は変動した場合について、(a)は、図1のBPF24の出力の一例を示し、(b)は、AD変換部25の出力信号の一例を示し、(c)は、LPF出力のI相出力について、量子化誤差がある場合E1と無い場合E0の一例を示す。
【図12】1bitADCの量子化誤差(菱形の点を結んだ線)と線形近似モデル(破線L3)との関係を示すグラフである。
【図13】SISO通信システムの場合の量子化誤差推定関数を用いた場合と、量子化誤差推定関数を用いない場合のBER特性の比較を示す図である。
【図14】SISO通信システムの場合の量子化誤差推定関数を用いた場合のBER特性を示す図である。
【図15】MIMO通信システムの場合の量子化誤差推定関数を用いた場合のBER特性を示す図である。
【図16】図1の模擬部51の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【図17】図16の模擬部を用いた計算器シミュレーション結果を示す図である。
【図18】(a)線形変調と(b)定包絡線変調の一例を示す図である。
【図19】従来の通信システムの一例を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
図1は、本願発明の実施の形態に係る通信システムの概略ブロック図である。通信システム1は、送信機3と受信機5を備える。
【0029】
送信機3は、データソース11と、定包絡線変調部13と、非線形増幅器14と、送信アンテナ15を備える。定包絡線変調部13は、差動演算部16と、波形整形部17と、FM変調部18を備える。データソース11は、送信系列(本願発明の「送信系列」の一例)を生成する。差動演算部16は、送信系列に対して差動演算を行うものである。波形整形部17は、入力信号の波形を整形し、帯域制限を行う(例えば、ガウス関数をインパルス応答とするフィルタを用いる)。このフィルタはFM変調出力の帯域外スペクトルを抑圧する効果を有する。FM変調部18は、波形整形部17の出力信号に対してFM変調を行う。帯域制限フィルタのインパルス応答にガウスフィルタを用い、FM変調部18の変調指数が0.5である場合、一般にGMSK(Gaussian Filtered Minimum Shift Keying)とよばれる。定包絡線変調部13は、差動演算部16、波形整形部17及びFM変調部18により、送信系列から生成された信号に対して定包絡線位相変調処理を行う。非線形増幅器は、電力の増幅処理を行い、送信信号(本願発明の「送信信号」の一例)を生成する。送信アンテナ15は、受信機5に対して送信信号を送信する。なお、図1の差動演算部16と波形整形部17について、いずれか片方のみを行う構成であっても、又は、両者とも行わない構成であってもよい。
【0030】
受信機5は、受信アンテナ21(本願発明の「受信アンテナ」の一例)と、バンドパスフィルタ(BPF)22と、第1周波数変換部23(本願発明の「第1周波数変換部」の一例)と、BPF24と、AD変換部25(本願発明の「AD変換部」の一例)と、第2周波数変換部27(本願発明の「第2周波数変換部」の一例)と、ローパスフィルタ(LPF)28と、等化器29を備える。
【0031】
受信アンテナ21は、伝搬路7を経由した送信信号を受信する。受信アンテナ21が受信した信号を受信信号という。第1周波数変換部23は、BPF22によるフィルタ処理後の受信信号に対して、中間周波数帯へ周波数変換(RF to IF)を行う。AD変換部25は、第1周波数変換部23による周波数変換後にBPF24のフィルタ処理がなされた信号に対して、シンボルレートよりも高いサンプリングレートでアナログディジタル変換を行う。本実施例では、定包絡線変調によるものであり、低分解能ADC(例えば、1ビットのADC)として説明するが、本願発明は、低分解能ADCに限られず、高分解能ADCの場合にも適用可能である。第2周波数変換部27は、AD変換部25によるAD変換後の系列をベースバンド(BB)帯へ周波数変換をする。LPF28によるフィルタ処理後の系列を、受信系列r[n]という。
【0032】
等化器29は、送信情報(送信系列)のk番目の候補系列(送信候補系列s(k)[i])に対応するレプリカ値y(k)に対して、各レプリカ値と受信系列r[n]とを比較して、送信系列を推定する。以下では、k番目の送信候補系列により定まる受信信号の状態を状態kと表記する。本実施例において、等化器29では、非線形等化(最尤系列推定)が行われる。最尤系列推定では、IF帯でのAD変換において生じる量子化ビットの影響を考慮した演算を行う必要がある。最尤系列推定における評価関数(メトリック)(誤差メトリック、ブランチメトリックとも呼ばれる)は、例えば、式(1)で与えられる。式(1)は、時刻t=nT(n=0,1,…)における受信系列r[n]と状態kに対応するレプリカ値y(k)との二乗誤差を表す評価関数である。ここで、Tはシンボル周期を表す。ここで、式(1)の評価関数は、r[n]とy(k)の差の絶対値のn乗和(nは1以上の整数)と定義してもよい。本実施例では、y(k)は、式(2)にあるように、量子化誤差の影響のない場合の受信信号レプリカx(k)と、量子化誤差推定値xq(k)との和で表されるとする。ここで、y(k)、x(k)及びxq(k)は、複素数又は実数とする。
【0033】
【数1】

【0034】
等化器29は、推定部31と、伝搬路推定部33と、近似モデル推定部35(本願発明の「モデル推定部」の一例)を備える。推定部31は、推定伝搬路処理部41(本願発明の「推定伝搬路処理手段」の一例)と、量子化誤差推定部43(本願発明の「量子化誤差推定手段」の一例)と、演算部45(本願発明の「演算手段」の一例)と、比較部47(本願発明の「比較手段」の一例)と、選択部49と、模擬部51(本願発明の「模擬手段」の一例)と、高精度比較部53(本願発明の「高精度比較手段」の一例)を備える。
【0035】
伝搬路推定部33は、既知の送信信号に対して、実際に受信した受信信号から伝搬路7を推定して、推定伝搬路を求める。
【0036】
近似モデル推定部35は、パラメータを調整して、量子化誤差推定値を近似する近似モデルを推定する。具体的には、既知の送信信号に対する受信系列から、既知の送信信号に対する受信系列に生じた量子化誤差を求める。近似モデルの各パラメータを調整して、この量子化誤差と、既知の送信信号に対する受信信号を用いた場合の近似モデルの推定値である量子化誤差推定値との違いを小さくする。このとき、例えば、受信系列において生じた量子化誤差と近似モデルの量子化誤差推定値との差の2乗和(2乗誤差)を求め、それが最小となるように近似モデルのパラメータを定めることができる。また、近似モデルのパラメータは、既知信号を用いて伝搬路特性を推定する際に求めてもよい。例えば、低分解能ADCを用いる定包絡線変調受信機の伝搬路特性推定において、本発明の近似モデルにより量子化誤差を与えた受信信号レプリカと実際の受信信号の差の2乗和(2乗誤差)を最小とするように、伝搬路特性とパラメータ値を同時に又は交互に学習させながら近似モデルのパラメータを求めることができる。また、近似モデルにより量子化誤差を与えた受信信号レプリカと実際の受信信号との差の絶対値のn乗和(nは1以上の整数)を最小とするように定めてもよい。あるいは、段落0006のように、受信回路を模擬して量子化誤差と伝搬路推定値を求めた後で、近似誤差のパラメータを求めてもよい。図1の推定伝搬路の推定値は、上記のいずれかの方法を用いて推定したものを用いてもよいし、その他の方法により推定したものを用いてもよい。量子化誤差の近似モデルのパラメータ及び伝搬路推定処理部のパラメータを、適応的に更新、又は切り替えて利用することができる。
【0037】
推定伝搬路処理部41は、複数の送信候補系列のそれぞれに対応する送信候補信号が推定伝搬路を経由した後の受信信号レプリカx(k)を生成する。送信候補系列は、状態k(例えば、8ビットであれば、各ビットの値により256の状態が存在する。)に対応するものであり、例えば記憶手段に格納されていてもよく、また、生成手段により適宜生成されるものでもよい。x(k)は、量子化誤差の影響のない場合の受信信号レプリカであり、式(3)で表される。ここで、h[i](i=0,…,N)は伝搬路インパルス応答の推定値であり、s(k)[i](i=0,…,N)は、状態kに対応する送信候補系列である。
【0038】
【数2】

【0039】
量子化誤差推定部43は、受信信号レプリカx(k)から、ベースバンド帯において観測される量子化誤差成分の推定値xq(k)を生成する。量子化誤差成分の大きさは、信号系列(結果として、特に信号振幅x(k))に依存し、両者は、高い相関を有すると考えられる。この性質に基づき、本実施例では、復調後にベースバンド帯に現れる量子化誤差を、線形近似モデルを用いて推定する。すなわち、量子化誤差のない場合の受信信号レプリカx(k)とベースバンド帯に生じる量子化誤差推定値xq(k)との関係を式(4)により近似する。ここで、a,bは、近似モデル推定部35が、既知の送信信号に対して(各時刻における既知の状態kに対して)、式(1)の二乗誤差の期待値を最小とするように与えた最適値である。これは、事前に学習させることにより、定数として与えることができる。式(4)は一次式による線形近似モデルであるが、2次以上の非線形の多項式モデルにより近似してもよい。また近似モデルにおけるパラメータ(式(4)ではaとb)はシステム、伝搬路状態の変動に応じて適応的に決定してもよい。
【0040】
式(4)において、aとbは任意の複素数である。aとbを実数として与える場合は、式(5)となる。θqはxq(k)の位相を表し、例えば、x(k)の位相がθである(θq=θとする)場合、式(6)と表される。
【0041】
なお、x(k)=|x(k)|ej(θ(k))とするとき、量子化誤差による振幅変動をAq(k)、位相変動をθq(k)と表記し、y(k)を、式(7)のように表してもよい。ここで、|x(k)|はx(k)の振幅成分、θ(k)はx(k)の位相成分を表す。また、Aq(k)及びθq(k)は、それぞれ、一次式Aq(k)=g1|x(k)|+g2及びθq(k)=g3|x(k)|+g4、又は、2次以上の多項式を用いて表現してよい。また、式(5)において、位相成分をθq(k)=c|x(k)|+dとし、振幅成分に加えて位相成分を一次式又は2次以上の多項式を用いて近似してよい(式(5)’参照)。これらのc,d,g1,g2,g3,g4の値及び2次以上の多項式により表現した場合の係数は、a,bと同様にして与える。
【0042】
【数3】

【0043】
演算部45は、式(2)に従い、量子化誤差の影響のない場合の受信信号レプリカx(k)と量子化誤差推定値xq(k)とを加算することにより、量子化誤差の影響を考慮したレプリカ値y(k)を生成する。なお、伝搬路のインパルス応答の変動がなく、その推定値h[i]が常に一定値である場合は、送信候補系列s(k)[i],i=0,1,…,N-1の全ての組み合わせに対してx(k)およびy(k)を計算し、テーブルなどに保存して、必要に応じてテーブルを参照し再利用してもよい。また、式(2)の代わりに、式(7)を用いて量子化誤差の影響を受信信号レプリカx(k)に与えてもよい。比較部47は、状態kに対応するレプリカ値と受信系列とを比較する。本実施例では、比較部47は、複数のレプリカ値のうち、近いもの(レプリカ値と受信値との誤差が小さいもの)から一つ又は複数を選択するものとする。レプリカ値を選択することは、それに対応する送信候補系列を選択することを意味する。
【0044】
比較部47が一つのレプリカ値を選択する場合、推定部31は、選択されたレプリカ値に対応する送信候補系列を送信系列と推定する。送信系列と推定された送信候補系列に対して、模擬部51において量子化誤差を高精度に推定したレプリカ信号を計算してよい。
【0045】
比較部47が受信信号と複数のレプリカ値を比較し、選択部49が評価値の高い(受信信号との差異の少ない)複数の受信信号レプリカx(k)を選択した場合、模擬部51は、選択された受信信号レプリカx(k)に対して、受信回路(第1周波数変換部23、AD変換部25、第2周波数変換部27など)の動作をシミュレーションして、高精度レプリカを生成する。このシミュレーションは、精度よく推定するため、実際の受信処理系をできるだけ正確に模擬する。そのため、量子化誤差推定部43による近似モデルを用いた演算に比較して、複雑な演算が要求される。最尤系列推定では、発生し得る全ての状態に対するレプリカと比較演算を行い、違いを最小とする系列を送信情報と推定する。例えば、レプリカ信号が式(3)により表され、送信情報s(k)[n],n=0,…,N-1の取り得る値が2値(例えば、1又は-1)である場合、レプリカの総数はM=2Nとなる(N=8の場合、レプリカの数はM=256個となる。)。また、複数のアンテナを備える無線機において、V本の送信アンテナから送信された信号が同時に受信される場合、レプリカ総数はN=2VNとなる(V=2、N=8の場合、レプリカの数はM=65536個となる。)これらの候補全てに対して量子化誤差を高精度に求める場合、演算量が膨大となる。それに対し、本実施例では、後に説明する通り、従来技術と比較して高精度の量子化誤差演算を要する状態数が限定されており、結果の信頼性を保証しつつ、全体として演算量を減少させることができる。高精度比較部53は、各高精度レプリカと受信系列を比較して、推定部31は、最も近いものに対応する送信候補系列を送信系列と推定する。
【0046】
このようにして、推定部31は、各レプリカ値y(k)と受信系列r[n]とを比較して、送信系列を推定することができる。
【0047】
なお、本願発明の他の実施例として、選択部49、模擬部51及び高精度比較部53を省略し、比較部47が、受信系列に近いレプリカ値y(k)を1つだけ選択して、このレプリカ値に対応する送信候補系列を送信系列と推定するようにしてもよい。
【0048】
続いて、上記の最尤系列推定の原理に基づき、ビタビ(Viterbi)等化を行う場合について、具体的に説明する。最尤系列推定における演算は、一般に、ビタビアルゴリズムと呼ばれる方法を用いて効率的に実行される。ビタビアルゴリズムを用いる方法は、ビタビ等化と呼ばれる。本発明はビタビ等化に適用可能である。その具体例を以下に示す。
【0049】
図2は、トレリス線図の一例を示す図である。ビタビ等化における受信機の演算は、図2のトレリス線図を用いて表現できる。N=3の場合、各状態(s(k)[0],s(k)[1],s(k)[2])は、式(3)におけるs(k)[i](i=0,1,2)に対応する。図2〜図8において、記号Skは、状態kに対応する。図2において、破線は、時刻n+1での送信データが-1である場合の状態推移を示し、実線は、時刻n+1での送信データが1である場合の状態推移を示す。例えば、時刻nにおける状態0(図2のS0)を(-1,-1,-1)とする。このとき、次の時刻n+1における送信値が1である場合、状態(-1,-1,1)に推移し、-1である場合は状態(-1,-1,-1)に推移する。
【0050】
最尤系列推定と同様に、式(2)及び(4)より、状態kに対応するレプリカy(k)の値から、式(1)における評価関数を計算する。なお、近似モデルに関する数式表現も、最尤系列推定と同様である。
【0051】
時刻n+2における状態kへの状態推移に対応する誤差メトリックをE(k)[n+2]と表記する場合、誤差メトリクス(累積誤差メトリクス、累積メトリクス、累積パスメトリクスとも呼ばれる)は式(8)で与えられる。
【0052】
【数4】

【0053】
ビタビアルゴリズムでは、ある状態に到来する全ての状態推移に対して、式(8)の累積誤差メトリクス(誤差メトリックの累積値)を計算する。その中から累積誤差メトリクスの最小のものを選択し、それ以外の状態推移を削除する。図3は、時刻nから時刻n+1におけるトレリス線図の一例である。時刻n+1において各状態に到来する推移のうち、累積誤差メトリクスが最小であるものが選択され、それ以外が削除されている。
【0054】
本願発明における量子化誤差推定手法の適用方法について説明する。
【0055】
まず、時刻nから時刻n+1への状態推移に関して、式(4)の近似モデルを用いて量子化誤差を推定し、各状態での誤差メトリック及び累積誤差メトリクスを計算する。時刻n+1の各状態に到来する推移の中から累積誤差メトリクスの値が最小のものを選択する。次に、時刻n+1の各状態の中から、累積誤差メトリクスの評価値が高い(誤差値が最小の)ものからNr個を選択する。図4の例では、状態S0とS2が選択されているものとする。次に、選択されたNr個以外の全ての状態を削除する(図5参照)。
【0056】
時刻n+1において削除されずに生き残った状態に関してのみ、時刻n+2への状態推移に対応する誤差メトリックの演算を行う(削除された状態については計算を行わない)。このとき、最尤系列推定の場合と同様に、上述のNr個の状態に到来している生き残りの状態推移に対しては、高精度に量子化誤差の値を計算し直す。このように、限られた状態推移に対してのみ量子化誤差の高精度演算を行うことで、計算量の増加を抑えながら伝送特性を改善できる。
【0057】
時刻n+2における生き残りの状態数がNr個を超える場合は、図5と同様に、誤差メトリクスが小さい方からNr個の状態を選択し、残りの状態を削除する(削除された状態に関する演算は行わない)。例えば、図6のように、ある状態に到来する推移が複数ある場合は、ビタビ等化のアルゴリズムに従い、累積誤差メトリクスが最小の推移を選択し、残りの推移状態を削除する。
【0058】
なお、上記の手順において、異なる評価関数を用いてもよい。例えば、誤差メトリクスの逆数を用いる場合、大きい値をとるほど評価値が高いことを表す。また、生き残りの状態の選択方法では、評価値の高いNr個の状態を生き残りとして選択するのではなく、評価値が一定値以下(又は誤差メトリックが一定値以上)の状態を削除するようにして演算を行ってもよい。
【0059】
初期状態が与えられている場合の手順について、図7と図8を用いて説明する。時刻0における初期状態が(-1,-1,-1)であるとする。(-1,-1,-1)以外の状態を通過する確率は0であるため、初期状態以外からの状態推移を考える必要はない。初期状態から図7のような状態推移が行われ、図7の例では時刻3において全ての状態に対する状態推移が生じる。本発明では、図7の状態推移に対して、上記と同様に量子化誤差の推定値を計算する。
【0060】
上記の手順と同様に、図8に示すように、評価値の高い状態のみを生き残りとし、他を削除する。初期状態が与えられてない場合は、最初に全ての状態における評価値を求めて、評価値(信頼度)の最も高い状態、または評価値の高い方から複数個の状態(評価値の常置の状態)を選ぶ必要がある。初期状態が与えられている場合は、初期状態以外を通過する確率は0であるので、最初に全ての状態を観測する必要がない。
【0061】
図9は、受信信号の観測値(点Po)と、式(3)で与えられる送信情報系列に対するM通りの受信信号レプリカ(候補値)との関係を示す図である。これらのM通りのレプリカ全てに対して高精度演算を行う場合、演算量が増大する。本発明による近似モデルを用いることで、候補レプリカの演算量が低減される。
【0062】
図9において、(a)は、量子化誤差の推定を行わない場合の候補点の一例を示す図である。(b)は、量子化誤差を近似モデルにより推定する場合の一例を示す図である。(c)は、(b)の円C内の4つの候補値に対応してのみ量子化誤差を高精度に求めた高精度レプリカと、受信系列の観測値との関係を示す図である。横軸は実軸であり、縦軸は虚軸である。
【0063】
時刻nにおけるLPF出力における受信信号を、式(9)とする。ここで、x[n]は量子化誤差の影響がない場合の受信信号、Q[n]は量子化誤差を表す。したがって、式(2)で与えられるk番目のレプリカ信号との誤差は、式(10)と表される。
【0064】
【数5】

【0065】
最尤系列推定において推定結果が正しい場合、式(10)の2乗誤差が最小の値をとる。言い換えると、式(10)の第1項の値(x[n]とx(k)の差)が、第2項の値(Q[n]とxq(k)の差)と比べて大きい場合、第2項の影響は無視できると考えられる。このことから、近似モデルを用いて量子化誤差を推定する場合、xq(k)の推定値には近似誤差が含まれるものの、可能性の低い候補点を除去する(可能性の高い候補点のみに対象を絞り込む)ことは可能と考えられる。上記の考えを利用した例について、具体的に説明する。
【0066】
最尤系列推定における処理は、受信系列の観測値(実際の受信信号)との誤差を最小とするレプリカ値(すなわち、受信系列と一番類似したレプリカ値)を探し出すことと同じである。例えば図9(a)にあるように、最も近いレプリカに対応する送信系列PN0を選択する。
【0067】
図9(b)にあるように、近似モデルを用いて量子化誤差値を推定することにより、ADCによる量子化誤差の影響を受けたレプリカ値を求めることができる。そして、図1の比較部47は全レプリカ値との比較演算を行い、受信系列の観測値P0の近傍にある候補値を選択する。図9(b)では、観測値を中心とする円C内にある4つの候補値PN1、PN2、PN3及びPN4が選択される。そして、これらの候補値に対応する送信候補系列について、模擬部51により受信回路をできるだけ正確に模擬して、高精度レプリカを求める。図9(c)では、PN2が最も近くなる。そのため、推定部31は、PN2に対応する送信候補系列を送信系列と推定する。これにより、高精度演算が必要な候補数を抑えながら、量子化誤差の影響を軽減した最尤系列推定が可能となる。
【0068】
本発明は量子化誤差影響下でのMIMOシステムの信号検出法にも適用できる。その例について、具体的に説明する。MIMOチャネルの場合も、信号レプリカが式(11)で与えられること以外は、SISO(Single Input Single Output:送受信アンテナがそれぞれ1本)の場合と基本的に同様である。
【0069】
図10は、2x2MIMOにおけるトレリス線図の例(N=2,状態数M=24=16)を示す図である。状態(a1,a2,a3,a4)において、a1,a2は第1の送信アンテナの送信系列、a3,a4は第2の送信アンテナの送信系列に対応する。
【0070】
図10に示すように、2x2MIMOでは、第1及び第2の送信アンテナの送信系列の組み合わせにより、受信信号状態が与えられる。時刻nにおける現在の状態が(1,1,1,1)である場合、第1の送信アンテナと第2の送信アンテナから送信される情報に応じて、時刻n+1において取り得る状態は、(1,1,1,1)、(1,1,1,-1)、(1,-1,1,1)、(1,-1,1,-1)の4通りとなる。この関係を表記したものが図10である。よって、MIMOにおける演算はトレリス線図が異なるのみで、量子化誤差の推定およびビタビ等化における演算はSISOの場合と同じである。
【0071】
数式を用いて、具体的に説明する。MIMO送信機では、複数のアンテナから情報信号が同時に送信される。送信アンテナNT本から情報信号が同時送信される場合、受信機の受信アンテナjにおける受信信号レプリカは式(11)で与えられる。ここで、Sm(k)[n]はm番目の送信アンテナから送られた送信信号である。
【0072】
受信アンテナがNR本である場合、それらの信号を式(12)のように合成することで受信信号品質を改善できる。hij[n]は送信アンテナiから送信アンテナjへの伝搬路のインパルス応答を示す。2x2MIMOの場合は式(13)となる。ここで、kは受信信号の状態番号である。送信アンテナ2本から同時にデータが送信される場合、受信信号が取り得る状態数はM=22Nとなる。N=8の場合、M=65536通りとなる。
【0073】
【数6】

【0074】
多相PSKを含む位相変調信号や周波数変調信号などの定包絡線信号を用いる場合でも、上記のSISOおよびMIMOの場合と同様に、全ての送信候補系列に対して量子化誤差を考慮した受信レプリカを求め、状態数を削減しながら送信情報を推定する本発明の考えを適用できる。また、送信信号は必ずしも定包絡線変調波でなくともよい。送信信号の包絡線が一定でないQPSK(Quadrature Phase shift keying:直交位相変調)や多相PSK、その他の変調信号にも適用してよい。線形等化を用いる場合でも、本発明を用いて量子化誤差を推定し、受信信号から量子化誤差を除去した信号に対して線形等化を適用してもよい。
【0075】
上記の実施例は送受信のアンテナ本数がいずれも2本であるが、MIMO通信における送信アンテナ本数NTと受信アンテナ本数NRが2本以上である場合にも適用できる(NT,NR≧2)。また、送信アンテナが受信アンテナ本数より多い場合(NT>NR)と、送信アンテナが受信アンテナ本数より少ない場合(NT<NR)のいずれにも適用できる。
【0076】
さらに、たたみ込み符号、ブロック符号、ターボ符号、LDPC(低密度パリティ検査)符号などの誤り訂正符号の復号演算である最大事後確率(MAP:Maximum A Posteriori)推定に基づく復号(MAP復号)、ターボ復号、sum-product復号、ビタビ復号などにおいて利用できる。また、MAP推定に基づく等化方法やターボ等化などの軟出力、軟入力を用いる演算において量子化誤差の影響を求めるために利用できる。また、上記の演算において、受信信号の状態数を削減するために本発明を適用できる。判定帰還型等化器(Decision Feedback equalizer)において量子化誤差の影響を推定するために本発明を適用してよい。
【0077】
MAP推定、ターボ復号、ターボ等化における演算の詳細は、例えば、文献(L.Hanzo、外2名、“Turbo coding,Turbo equalization and Space-time coding for transmission over fading channels”,Wiley-IEEE Press.)に記述されている。この文献文献に記載されているように、これらの演算においても、一般に時刻n-1から時刻nへの前方への状態推移sn-1=s’→sn=s(又は、時刻nから時刻n-1への後方への状態推移sn=s’→sn-1=s)に関して状態推移確率γn(s’,s)=P(yn|{s’,s})P(un)を求める。ここで、P(un)は、時刻nにおける送信シンボルがunである事前確率を表す。P(yn|{s’,s})は、状態推移sn-1=s’→sn=sが行われる場合に時刻nでの受信シンボルがynである条件付き確率(時刻n-1での状態S’が時刻nでの状態Sに推移するとの条件をつけた場合のykの尤度)を表す。これらの尤度を、式(1)〜(7)などで与えられる量子化誤差の推定値を用いて計算することができる。また、本発明の実施例と同様の方法を用いて、状態推移及び各時刻において取り得る状態数を制限し、計算量を削減してよい。具体的には、例えば上記文献に記載のMAP推定、ターボ復号、ターボ等化における前方再帰的演算(Forward recursion)、後方再帰的演算(Backward recursion)において、本発明と同様の方法を適用して、各時刻において取り得る状態数及び状態推移を制限し、計算量を削減できる。
【0078】
ターボ復号やターボ等化などのターボ原理に基づく繰り返し演算では、複数の復号器(あるいは復号器と等化器:要素復号器と呼ばれる)を用いて交互に復号(あるいは交互に復号と等化)を行い、各復号器の軟出力(外部値)を用いて状態推移確率における事前確率を更新する。要素復号器が互いに事前確率を更新しながら演算を繰り返すことで復号性能(等化性能)を改善できる。要素復号(または等化)の演算は上述のMAP復号と同様であり、本発明による量子化誤差の推定および計算量の削減を適用できる。個別の復号(等化)演算はMAP推定と同様であるので、本発明による量子化誤算の推定値を利用して状態推移確率の計算をできる。また、取り得る状態数および状態推移を削減できる。また、本発明の実施例と同様に、限られた状態推移に関してのみ高精度の量子化誤差推定を行うことで計算量の削減しながら、量子化誤差の推定精度を改善できる。例えば、繰り返し演算の初期(例えば、1回目や2回目の演算)においては近似モデルによる量子化誤差推定値を用いて演算を行い、演算を繰り返しながら状態数を削減し、繰り返し演算の終盤において限られた状態推移に対してのみ高精度の量子化誤差の演算を行うようにしてもよい。
【0079】
なお、等化器の演算は周波数領域と時間領域のいずれで行ってもよい。本実施例では時間領域信号表現にて誤差メトリックや累積誤差メトリクスを計算しているが、周波数領域の信号表現と演算を用いてもよい。
【0080】
MIMOシステム又はSISOシステムの送信機において伝搬路特性の情報を取得できる場合、定包絡線変調信号の送信信号の位相(より一般的には角度)を伝搬路状態に応じて制御することで信号品質を改善できる。送信位相の制御情報は受信側に通知されるものとする。無線バックホールの中継回線のように伝搬路が比較的静的(変動が少ない)とみなせる場合に、特に効果的である。
【0081】
前述の通り、送信信号の包絡線が一定である場合でも、各アンテナから送信される信号間の干渉(ストリーム間干渉。なお、SISOシステムでは生じない。)、遅延波による符号間干渉の影響により受信信号振幅は変動する。図11(a)は、図1のBPF24の出力の一例を示す。これは、アナログ処理の出力である。図11(b)は、AD変換部25の出力信号の一例を示す。図11(c)は、LPF出力のI相出力について、量子化誤差がある場合と無い場合の一例を示す。図11(c)において、E0は、量子化誤差が無い場合を示し、E1は、量子化誤差がある場合を示す。低分解能ADC(例えば、1ビットADC)を用いる場合、量子化誤差が発生し、これらの振幅変動情報が失われるため、伝送特性が劣化する。これらの振幅変動により生じる量子化誤差を軽減するように、MIMOにおける各アンテナの送信信号の位相を制御することで伝送特性を改善できる。通信品質を最良とするように(例えば、BER特性や2乗誤差値を最小化するように)送信信号位相を制御することで、ストリーム間干渉、符号間干渉、ADCの量子化誤差の影響を軽減し、伝送特性を改善できる。
【0082】
具体的には、送信機が伝搬路特性の情報を有する場合、ストリーム間干渉、符号間干渉、ADCの量子化誤差をそれぞれ推定できるので、それらにより受信信号に生じる誤差の2乗平均値を求め、それを最小とするように送信信号の位相を制御するとよい。このとき等化器では、量子化誤差の近似モデルのパラメータを伝搬路及び送信位相制御の状態に合わせて更新し、その他は本実施例と同様の演算を行う。また、送信信号として定包絡線変調信号を用いない場合、送信信号の振幅と位相のいずれか、あるいはその両方を受信信号品質が最良となるように制御してよい。その他の演算は定包絡線変調波を用いる場合と同様である。
【0083】
これをまとめると、送信機が受信機に送信する送信信号は、送信機によって振幅及び/又は位相が変更されるものであり、受信機のモデル推定部は、送信信号の振幅及び/又は位相によって近似モデルのパラメータを更新するものであってもよい。さらに、受信機に対して送信信号を送信する送信機は、伝搬路特性の情報に基づき推定されるストリーム間干渉、符号間干渉、及び、ADCの量子化誤差の少なくとも一つに起因する受信信号に生じる誤差を演算する誤差演算手段と、誤差を最小とする送信信号の振幅及び/又は位相を演算する位相演算手段と、前記位相演算手段により演算された振幅及び/又は位相により受信機に対して送信信号を送信する送信信号送信手段を備えるものである。
【0084】
続いて、本実施例の定包絡線位相変調システムの伝送特性を、計算機シミュレーションにより評価する。伝搬路としてレイリー等レベル6波モデルを仮定する。簡単のため、送信電力増幅器(図1の非線形増幅器14)による信号歪みの影響は無視し、伝搬路特性は受信機側で既知であるものとする。受信機において、AD変換は中間周波数帯で行われるものとする。また、ADCの量子化ビット数を1、サンプリングレートをシンボルレートの16倍とする。
【0085】
式(4)における係数a,bの値は、それぞれ、a=-0.824、b=0.482とする。図12は、1bitADCの量子化誤差(菱形の点を結んだ線)と線形近似モデル(破線L3)との関係を示すグラフである。横軸は、量子化前のレプリカ信号の振幅の絶対値を示す。縦軸は、量子化誤差振幅値を示す。
【0086】
図13は、量子化誤差推定関数を用いた場合(三角印を結んだ線)(w/ proposed method)のBER特性を示す図である。比較のため、量子化誤差推定関数を用いない場合(×印を破線で結んだもの)(w/o proposed method)及びさらに、比較のため、量子化誤差を全て高精度に推定し、状態数の削減を行わない場合(*印を一点破線で結んだもの)のBER特性を示す。横軸は、Eb/No[dB]である。縦軸は、平均のBER(Average Bit Error Rate)である。ここでEbはビットあたりのエネルギー、N0は雑音電力密度を表す。量子化誤差推定関数を用いない場合に比べて、量子化誤差推定関数を用いることによりBER特性が小さくなっている。そのため、量子化誤差推定関数を用いることにより、非適用の場合に比べて量子化誤差の影響を軽減でき、BER特性を改善することがわかる。
【0087】
続いて、図14及び図15により、さらに評価する。SISOチャネル及び2x2MIMOチャネルを仮定し、各送受信アンテナ間のフェージングは無相関とする。伝搬路としてレイリー等レベル5波モデルを仮定する。伝搬路のR.M.S.(Root mean square)遅延広がりは2.2Tである。Tはシンボル周期を表す。簡単のため、送信電力増幅器による信号歪みの影響は無視できるものとし、伝搬路特性は受信器側で正確に推定されているものとする。受信機においてAD変換は中間周波数帯で行われるものとし、ADCの量子化ビット数を1、サンプリングレートをシンボルレートの16倍とする。近似モデルのパラメータaとbの値は、SISOの場合、a=-0.776,b=13.39、MIMOの場合、a=-0.862,b=7.34とする。
【0088】
図14及び図15は、それぞれ、SISOチャネル及び2x2MIMOチャネルにおける本実施例のBER特性を示す。横軸は、Eb/No[dB]である。縦軸は、平均のBER(Average Bit Error Rate)である。近似モデルによる量子化誤差の推定値に基づき、ビタビ等化における状態数をNrに制限する。SISOにおける状態数は256、2x2MIMOにおける状態数は65536とする。図14及び図15において、Nrを1にした場合(四角を結んだ線)、2にした場合(ひし形を結んだ線)、4にした場合(三角を結んだ線)、8にした場合(丸を結んだ線)を示す。さらに、比較のため、量子化誤差を全て高精度に推定し、状態数の削減を行わない場合(*を結んだ線)のBER特性を示す。提案方式を適用することにより、非適用の場合に比べて量子化誤差の影響を軽減でき,BER特性を改善できる。これらの結果は、量子化誤差の推定値を用いて計算した誤差メトリクス値に基づき、ビタビ等化において同時に取り得る状態数を制限することで計算量を大きく削減しながら、BER特性の大幅に改善できることを示している。
【0089】
以上より、本願発明によれば、例えば低分解能ADCを用いる定包絡線変調システムの受信機においても、量子化誤差の影響を軽減することができる。さらに、本実施例によれば、線形近似に基づく簡易な量子化誤差推定関数を用いても、低分解能ADCを用いる場合の伝送特性の改善に有効である。
【0090】
図16は、図1の模擬部51の具体的な構成の一例を示すブロック図である。模擬部51は、BPF模擬部61と、第1周波数変換模擬部63と、BPF模擬部65と、ディザー信号加算部66と、オフセット模擬部67と、ヒステリシス模擬部69と、ADC模擬部71と、第2周波数変換模擬部73と、LPF模擬部75を備える。BPF模擬部61、第1周波数変換模擬部63、BPF模擬部65、ADC模擬部71、第2周波数変換模擬部73、及び、LPF模擬部75は、それぞれ、図1のBPF22、第1周波数変換部23、BPF24、AD変換部25、第2周波数変換部27、及び、LPF28の動作を模擬するものである。なお、一般に、BPF模擬部61、第1周波数変換模擬部63、及び、BPF模擬部65は、LPF模擬部75の出力である高精度レプリカには、大きな影響を与えない。そのため、計算量との兼ね合いで、これらの模擬部については、省略するようにしてもよい。
【0091】
図16では、ADC模擬部71は、1ビットADCを模擬するものとする。ADC模擬部は、サンプル部85と、理想比較器87を備える。ADC模擬部71の入力信号をx(t)、出力信号をy[nΔt](n=0,1,2,…)とする。Δtは、ADCのサンプリング間隔である。サンプル部85は、Δt間隔でサンプルする。理想比較器87は、サンプル部85によりサンプルされた値と所定の値とを比較して、1ビットの情報(例えば、+1と−1)を出力する。例えば、理想比較器87は、サンプルされた値の正負を判定し、ディジタル信号であるHigh(又はLow)に相当する1(又は−1)をAD変換値として出力する。この値が、ADC模擬部71の出力信号となる。
【0092】
まず、図16のディザー信号加算部66について説明する。ディザー信号加算部66は、ディザー信号発生部89と、加算部91を備える。一般的に量子化ビット数が十分多い場合、ADCの入力信号と量子化誤差とは無相関であると仮定し、白色雑音と近似して取り扱われる(例えば、山崎芳男,“広帯域音響信号の量子化への大振幅ディザの適用”,日本音響学会誌,第39巻,第7号,1983,pp.452-462参照)。しかし、量子化ビット数が少ない場合(例えば1ビットADCを用いる場合)、入力信号と量子化誤差との間の相関が強くなり、白色雑音と近似することができなくなる。量子化誤差を白色化する手法として、ディザーと呼ばれる疑似雑音(アナログ信号)をADCの入力信号に加算してから量子化する方法が知られている(例えば、上記に加え、Banerjee, K.、外4名,“An improved dither-stripping scheme for strapdown ring laser gyroscopes,”Proceedings of TENCON 2004,Vol.1,2004,pp.689-692参照)。ディザー信号源を有するADCは、意図的に発生させたディザー信号をADCの入力信号に重畳させる。ディザー信号源としては、一般に、M系列などの疑似雑音系列が用いられる。ディザー信号は受信機で加わる雑音(例えば、加法性白色ガウス雑音AWGN)と異なり、既知の系列である。そのため、模擬部51のディザー信号発生部は、同一の信号を発生することができる。加算部91は、ディザー信号発生部89が発生した信号を加算することで、ディザー信号の重畳を模擬することができる。したがって、図1のAD変換部25において、量子化誤差の白色化のために、ディザー信号源を有するADCを用いてもよい。その場合にも、模擬部51のディザー信号加算部66は、ディザー信号を加算した受信信号を複製可能であるので、本発明の等化器を適用することができる。なお、ディザー信号を付加しないADCを使用する場合には、ディザー信号加算部66は省略すればよい。
【0093】
続いて、図16のヒステリシス模擬部69及びオフセット模擬部67について説明する。例えば、R.JACOB BAKER,“CMOS circuit Design,Layout,and Simulation”WILEY IEEE press.2010 Chap.27に記載されているように、AD変換器(ADC)のアナログ回路の非理想性として、ヒステリシス及び基準電圧オフセットと呼ばれる現象が存在する。図16のヒステリシス模擬部69及びオフセット模擬部67は、それぞれ、図1のAD変換部25に生じ得るヒステリシス及び基準電圧オフセットを模擬するものである。ヒステリシス模擬部69は、遅延部77と、乗算部79と、加算部81を備える。オフセット模擬部67は、加算部83を備える。
【0094】
ヒステリシスとは、1サンプル前のADCの出力信号が現在の変換値に影響を及ぼす現象である。本来、ADCにおける比較器の閾値は一定であることが望ましいが、現実のADCではトランジスタ素子の非理想性のために、比較器の出力サンプル値がHigh(Low)である場合、閾値が上昇(減少)する。そのため、前回のサンプル値がHigh(Low)である場合、後続のサンプル値もHigh(Low)をとる確率が高くなる。この現象は、閾値が一定である理想的な比較器の入力信号に対して、前回の結果から決まる一定の電圧が加算(減算)されることにより生じるものと考えることができる。
【0095】
図16の遅延部77は、ADC模擬部71の出力値を1サンプル遅延する。乗算器79は、遅延部77による遅延後の信号をα倍(α>0)する。ここで、αは、ヒステリシスの強さを示すパラメータである。ADCのアナログ回路(トランジスタ等)の特性により定まる値である。αは、事前に既知のテスト信号等を用いて観測又は推定することで、事前に与えることができる。加算部81は、オフセット模擬部67の出力信号と、乗算器79の出力とを加算する。これにより、時刻nΔtで得られたADC模擬部71の出力値に基づき、時刻(n+1)Δtにおける入力値に一定の電圧α(回路設計時に確定)が加算又は減算される。
【0096】
基準電圧オフセットとは、LSI製造時の製造ばらつきによりトランジスタの寸法が設計通りの値にならず、ADCの比較器で用いる閾値電圧がずれる(オフセットが加わる)ことを指す。このオフセット量は経年劣化や温度変化で変化するものの、一般的には入力信号等には依存しない値である。このようなADCの非理想性はトランジスタ面積を増やすことで軽減できる(例えば、HeungJun Jeon、外2名,“Offset voltage analysis of dynamic latched comparator,”Proceedins of IEEE 54th International Midwest Symposium on Circuit and Systems Pages 1-4,2011参照)。しかしながら、回路規模を増加させるため望ましくない。ADCのアナログ回路の小型化には、ディジタル処理部においてメモリ効果などに対処することが効果的である
【0097】
図16の加算部83は、BPF模擬部65の出力に対して、一定の値βを加算するものである。ここで、βは、基準電圧オフセットの強さを示すパラメータである。これは、ADCのアナログ回路(トランジスタ等)の特性により定まる。βは、事前に既知のテスト信号等を用いて観測又は推定することで、事前に与えることができる。図16は、ADCの非理想性(ヒステリシス及び基準電圧オフセット)の発生メカニズムを表したものであり、このモデルを用いて受信信号レプリカを生成することで、実際の受信信号において生じる非理想性の影響を模擬することができる。
【0098】
量子化誤差の近似モデルのパラメータaとbの値は、前述と同様の方法により定める。これは、主として、ビット数削減による量子化誤差対策である。実際のADCの出力値には、量子化誤差だけでなく、ADCの非理想性の影響も含まれる。図16の模擬部51により、量子化誤差とADCの非理想性の両者を近似するようにパラメータが定まる。
【0099】
図17は、図16の模擬部を用いた計算器シミュレーション結果を示す図である。ディザー信号は無い場合である。本実施例の定包絡線位相変調システムの伝送特性を、計算機シミュレーションにより評価する。SISOチャネルを仮定し、伝搬路としてレイリー等レベル5波モデルを仮定する。伝搬路特性は受信器側で正確に推定されているものとする。受信機においてAD変換は中間周波数帯で行われるものとし、ADCの量子化ビット数を1、サンプリングレートをシンボルレートの16倍とする。状態数256の最尤系列推定等化器を用いる。簡単のため、全レプリカ信号を模擬部51により生成するものとする。図16において、α=0.1、β=0とする。
【0100】
図17は、図16のBER特性を示す。横軸は、Eb/No[dB]である。縦軸は、平均のBER(Average Bit Error Rate)である。横軸はEb/N0を示し、縦軸は平均ビットエラーレートを示す。三角のラインはADCが理想的に動作した場合を示し、丸のラインはADCの非理想性の補償を等価器において行う場合を示し、四角のラインはADCの非理想性を補償しない場合を示す。ADCが理想的に動作した場合と、ADCの非理想性の補償を等価器において行う場合は、ほぼ重なる。それに対し、ADCの非理想性を補償しない場合は、大きく異なっている。よって、ADCの非理想性を補償しない場合はBER特性が大きく劣化することが分かる。よって、ADCの非理想性を考慮する場合、補償無しの場合と比べてBER特性が大きく改善され、ADCが理想的に動作した場合に近い特性を達成できることを確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本願発明は、無線通信システム(例えば、固定マイクロ波無線、無線LAN、陸上移動通信、ディジタル放送など)に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 通信システム、3 送信機、5 受信機、7 伝搬路、11 データソース、13 定包絡線変調部、14 非線形増幅器、15 送信アンテナ、21 受信アンテナ、22,24 BPF、23 第1周波数変換部、25 AD変換部、27 第2周波数変換部、28 LPF、29 等化器、31 推定部、33 伝搬路推定部、35 近似モデル推定部、41 推定伝搬路処理部、43 量子化誤差推定部、45 演算部、47 比較部、49 選択部、51 模擬部、53 高精度比較部、61 BPF模擬部、63 第1周波数変換模擬部、65 BPF模擬部、66 ディザー信号加算部、67 オフセット模擬部、69 ヒステリシス模擬部、71 ADC模擬部、73 第2周波数変換模擬部、75 LPF模擬部、77 遅延部、79 乗算部、81 加算部、83 加算部、85 サンプル部、87 理想比較器、89 ディザー信号発生部、91 加算部、101 推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信系列から生成された送信信号を無線により受信する受信機であって、
伝搬路を経由した前記送信信号を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナが受信した受信信号に対してアナログディジタル変換を行って受信系列を生成するAD変換部と、
既知の前記送信系列に対応する前記受信信号を用いて、前記AD変換部により前記受信系列に生じる量子化誤差を近似する近似モデルを推定するモデル推定手段と、
複数の送信候補系列のそれぞれに対応する送信候補信号が推定伝搬路を経由した後の受信信号レプリカを生成する推定伝搬路処理手段と、
前記各受信信号レプリカ及び前記近似モデルを用いて量子化誤差推定値を計算する量子化誤差推定手段と、
前記各受信信号レプリカ及び前記各量子化誤差推定値に対して演算を行ってレプリカ値を生成する演算手段と、
前記各レプリカ値と前記受信系列とを比較して、差異が小さいものから一つ又は複数のレプリカ値を選択する比較手段を備える、受信機。
【請求項2】
前記比較手段が複数のレプリカ値を選択した場合、
前記選択された送信候補系列に対して、前記AD変換部の動作を模擬して高精度レプリカを生成する模擬手段と、
前記各高精度レプリカと前記受信系列とを比較して差異が小さい高精度レプリカに対応する送信候補系列を前記送信系列と推定する高精度比較手段を備え、
前記比較手段が一つのレプリカ値を選択した場合、前記比較手段は、選択されたレプリカ値に対応する前記送信候補系列を前記送信系列と推定する、請求項1記載の受信機。
【請求項3】
前記模擬手段は、
前記AD変換部がディザー信号を生成するディザー信号源を有するものである場合に前記選択された送信候補系列から得られた信号に前記ディザー信号を加算するものであり、
前記選択された送信候補系列から得られた信号に対して、オフセット値を加算若しくは減算し、及び/又は、以前に前記AD変換部の動作を模擬して得られた値に応じて増加若しくは減少して、前記AD変換部の動作を模擬するものである、請求項2記載の受信器。
【請求項4】
前記モデル推定手段は、前記送信信号の振幅及び/又は位相に基づいて前記近似モデルを推定する、請求項1から3のいずれかに記載の受信機。
【請求項5】
前記送信信号は、定包絡線変調により得られたものであり、
前記受信信号に対して、中間周波数帯へ周波数変換をする第1周波数変換部を備え、
前記AD変換部は、前記第1周波数変換部による周波数変換後の信号に対して、シンボルレートよりも高いサンプリングレートでアナログディジタル変換を行うものであり、
さらに、前記アナログディジタル変換後の系列をベースバンド帯へ周波数変換をして前記受信系列を生成する第2周波数変換部を備え、
前記量子化誤差推定手段は、前記受信信号レプリカからベースバンド帯に現れる量子化誤差を推定する、請求項1から4のいずれかに記載の受信機。
【請求項6】
送信系列から生成された送信信号を無線により受信する受信機において、複数の送信候補系列のそれぞれから生成されたレプリカ値のうち、一つ又は複数を選択する選択方法であって、
受信系列は、AD変換部が、受信アンテナが受信した受信信号に対してアナログディジタル変換を行って生成したものであり、
近似モデルは、前記AD変換部により前記受信系列に生じる量子化誤差を近似するものであり、
前記各レプリカ値は、
推定伝搬路処理手段が、前記各送信候補系列及び推定伝搬路を用いて受信信号レプリカを生成し、
演算手段が、前記各受信信号レプリカ及び前記近似モデルを用いて計算された量子化誤差推定値を用いて生成したものであり、
前記受信機の比較手段が、前記各レプリカ値と前記受信系列とを比較して、一つ又は複数の前記レプリカ値を選択する比較ステップを含む選択方法。
【請求項7】
コンピュータにおいて、請求項6記載の選択方法を実現するためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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