説明

受光窪み及び近接場光発生部を備えた薄膜磁気ヘッド

【課題】素子形成面と媒体対向面とが直交する構成において、光ファイバを用いて近接場光発生手段に確実に安定して光を照射することができて、さらに、光ファイバ端の固定位置を容易に精度良く決定することが可能である薄膜磁気ヘッドを提供する。
【解決手段】媒体対向面及びこの媒体対向面に垂直な素子形成面を有する基板と、この素子形成面に形成されたデータ書き込み用の電磁コイル素子と、近接場光を発生させて書き込みの際に磁気記録媒体を加熱するための近接場光発生部と、電磁コイル素子及び近接場光発生部を覆うように素子形成面上に形成された被覆層とを備えた薄膜磁気ヘッドであって、この被覆層の上面に、光ファイバの端を挿入可能である受光窪みが形成されており、素子形成面の上方であって受光窪みの直下に、光ファイバからの光を反射して近接場光発生部に向けさせるための反射部が設けられている薄膜磁気ヘッドが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号磁界の書き込み及び読み出しを行う薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置に関する。特に、本発明は、近接場光を利用して熱アシスト磁気記録方式により信号の書き込みを行う垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置の高記録密度化に伴い、薄膜磁気ヘッドのさらなる性能の向上が要求されている。薄膜磁気ヘッドとしては、読み出し用の磁気抵抗(MR)効果素子と書き込み用の電磁コイル素子とを積層した構造である複合型薄膜磁気ヘッドが広く用いられており、これらの素子によって磁気記録媒体である磁気ディスクに信号データが読み書きされる。
【0003】
磁気記録媒体は、いわば、磁性微粒子が集合した不連続体であり、それぞれの磁性微粒子は単磁区構造となっている。ここで、1つの記録ビットは、複数の磁性微粒子から構成されている。従って、記録密度を高めるためには、磁性微粒子を小さくして、記録ビットの境界の凹凸を減少させなければならない。しかし、磁性微粒子を小さくすると、体積減少に伴う磁化の熱安定性の低下が問題となる。
【0004】
磁化の熱安定性の目安は、KV/kTで与えられる。ここで、Kは磁性微粒子の磁気異方性エネルギー、Vは1つの磁性微粒子の体積、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。磁性微粒子を小さくするということは、まさにVを小さくすることであり、そのままではKV/kTが小さくなって熱安定性が損なわれる。この対策として、同時にKを大きくすることが考えられるが、このKの増加は、媒体の保磁力の増加をもたらす。これに対して、磁気ヘッドによる書き込み磁界強度は、ヘッド内の磁極を構成する軟磁性材料の飽和磁束密度でほぼ決定されてしまう。従って、保持力が、この書き込み磁界強度の限界から決まる許容値を超えると書き込みが不可能となってしまう。
【0005】
この磁化の熱安定性の問題を解決する第1の方法として、面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式への移行が考えられる。垂直磁気記録媒体では記録層厚をより大きくすることが可能であり、結果として、Vを大きくして熱安定性を向上させることができる。第2の方法として、パターンドメディアの使用が考えられる。通常の磁気記録では、上述したように1つの記録ビットをN個の磁性微粒子によって構成して記録しているが、パターンドメディアを用いて、1つの記録ビットを体積NVの1つの領域とすることによって、熱安定性の指標がKNV/kTとなり飛躍的に向上する。
【0006】
熱安定性の問題を解決する第3の方法として、Kの大きな磁性材料を用いるが、書き込み磁界印加の直前に、媒体に熱を加えることによって、保磁力を小さくして書き込みを行う、いわゆる熱アシスト磁気記録方式が提案されている。この方式は光磁気記録方式と一見類似しているが、光磁気記録方式は空間分解能を光に持たせているのに対し、熱アシスト磁気記録方式は空間分解能を磁界に持たせている。
【0007】
従来、提案されている熱アシスト磁気記録方式として、例えば、特許文献1においては、基板上に形成された円錐体等の形状をした金属の散乱体と、その散乱体の周辺に形成された誘電体等の膜とを備えた近接場光プローブを用いる光記録方式に関する技術が開示されている。また、特許文献2においては、記録再生装置において固体イマージョン・レンズを用いたヘッドを利用し、光磁気ディスクに超微細な光ビームスポットで超微細な磁区信号を記録する技術が開示されている。さらに、特許文献3においては、内蔵したレーザ素子部からの光を、媒体に対向した微小光学開口に照射して熱アシストを行う技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、近接場光プローブを構成する散乱体を、その照射される面が記録媒体に垂直となるように、垂直磁気記録用単磁極書き込みヘッドの主磁極に接して形成された構成が開示されている。さらに、非特許文献1には、水晶のスライダ上に形成されたU字状の近接場光プローブを用いて近接場光と磁界とを発生させ、70nm程度のトラック幅を有する記録パターンを形成する技術が開示されている。さらにまた、非特許文献2には、光がよく透過する回折格子を、光がほとんど透過しない回折格子を突き当てて結合したグレーティングを有する光加熱素子が開示されている。
【0009】
さらに、光の導入に光ファイバを用いる例として、特許文献5においては、斜めに切断した光ファイバ等の端面に、ピンホールが形成された金属膜を設けた構成が開示されている。さらに、特許文献6には、光ファイバから出射したレーザ光を適切にレンズ光学系に向けるための可動ミラーを備えた光学式浮上ヘッドが開示されている。このような技術を基にして、光ファイバから出射したレーザを、近接場光の発生手段に照射することにより近接場光を発生させて、この近接場光によって媒体を加熱する方法は、半導体レーザのような複雑な構造をヘッド内部に形成する必要がなく、所望の強度を有する微細な近接場光を比較的容易に得られることから、非常に有望と考えられる。
【0010】
【特許文献1】特開2001−255254号公報
【特許文献2】特開平10−162444号公報
【特許文献3】特開2001−283404号公報
【特許文献4】特開2004−158067号公報
【特許文献5】特開2000−173093号公報
【特許文献6】特表2002−511176号公報
【非特許文献1】Shintaro Miyanishi等 ”Near-field Assisted Magnetic Recording” IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL.41,NO.10, 第2817頁〜第2821頁,2005年
【非特許文献2】庄野敬二,押木満雅 「熱アシスト磁気記録の現状と課題」 日本応用磁気学会誌,VOL.29,NO.1, 第5頁〜第13頁,2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、光の導入に光ファイバを用いる場合、近接場光発生手段に確実に安定して光を照射することが困難であるという問題が生じていた。さらに、光ファイバ端の固定位置を精度良く決定することが困難であるという問題が生じていた。
【0012】
実際、近接場光発生手段は、磁気記録媒体を加熱するために、当然に磁気記録媒体に対向するヘッド端面に面している。さらに、近接場光発生手段は、信号データの書き込み用及び読み出し用の磁気ヘッド素子に近接して設ける必要があり、さらに近接場光の発生原理からして、受光面をそれほど大きく形成できない。従って、磁気記録媒体に対向するヘッド端面とは離隔した位置から光ファイバより出射した光を照射した場合、駆動時のヘッドの振動等によって、確実に安定して近接場光発生手段の受光面に光を照射することは困難となる。
【0013】
さらに、非常に微細な近接場光発生手段の受光面に光を照射するためには、光ファイバの出光端を、適切な位置に非常に高い精度で固定することが必要となるが、一般に、形成された薄膜磁気ヘッドにおいて、その固定位置を決定することは非常に困難となる。
【0014】
これらの問題に対して、例えば、特許文献6に記載された可動ミラーを用いて、入射した光を随時、適切に近接場光発生手段に向けさせて対処することも考えられる。しかしながら、このような可動ミラーを微細加工によって形成するには、多数かつ複雑な工程を必要とし、さらには、駆動のための電源や回路も必要となってしまう。
【0015】
また、非特許文献1に記載された技術によれば、ミラーを用いることなく、光源を媒体面から遠ざけた状態において光が入射可能となる。しかしながら、この技術は、近接場光発生手段の集積面と媒体対向面とが平行である構成を前提としており、素子形成面と媒体対向面とが直交する一般的な薄膜磁気ヘッドの構成とは全く異なり、親和性が良くない。すなわち、例えば、垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドに適用することが非常に困難である。
【0016】
さらに、光ファイバからの光が、磁気記録媒体に対向したヘッド端面から十分離れた位置から照射される場合、アルミナ等のオーバーコート層内を伝播する際、オーバーコート層内の空孔、不純物、異相等の存在による光の損失が大きくなり、電気双極子振動の誘導効率、ひいては近接場光の発生効率の低減が避けられない。
【0017】
従って、本発明の目的は、素子形成面と媒体対向面とが直交する構成において、光ファイバを用いて近接場光発生手段に確実に安定して光を照射することができて、さらに、光ファイバ端の固定位置を容易に精度良く決定することが可能である薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置を提供することにある。
【0018】
また、本発明の他の目的は、入射光の損失が小さく近接場光の発生効率が高い薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明について説明する前に、明細書において使用される用語の定義を行う。基板の素子形成面に形成された磁気ヘッド素子の積層構造において、基準となる層よりも基板側にある構成要素を、基準となる層の「下」又は「下方」にあるとし、基準となる層よりも積層される方向側にある構成要素を、基準となる層の「上」又は「上方」にあるとする。
【0020】
本発明によれば、媒体対向面及びこの媒体対向面に垂直な素子形成面を有する基板と、この素子形成面に形成されており、媒体対向面側のヘッド端面に達した端を有するデータ書き込み用の電磁コイル素子と、近接場光を発生させて書き込みの際に磁気記録媒体を加熱するための、媒体対向面側のヘッド端面に達した端を有する近接場光発生部と、これらの電磁コイル素子及び近接場光発生部を覆うように素子形成面上に形成された被覆層とを備えた薄膜磁気ヘッドであって、
この被覆層の上面に、近接場光発生部に光を照射するための光ファイバの端を挿入可能である受光窪みが形成されており、素子形成面の上方であってこの受光窪みの直下に、光ファイバからの光を反射して近接場光発生部に向けさせるための反射部が設けられている薄膜磁気ヘッドが提供される。
【0021】
このように、受光窪みが被覆層に形成されているので、光ファイバの出光端が、この受光窪みに挿入されて薄膜磁気ヘッドに直接固定される。従って、光ファイバからの光の光路が、駆動時の振動等によって変動したりずれたりすることがほとんど無い。その結果、光ファイバからの光を、反射部を経て、近接場光発生部に確実に安定して到達させることが可能となる。
【0022】
また、受光窪み及び反射部はともに、薄膜プロセスを用いた形成方法によって形成される。特に、受光窪みは、素子形成面上に設けられた被覆層の上面に形成されるので、反射部の形成から一連の薄膜プロセスとして、受光窪みを形成可能となる。従って、そのサイズ及び位置関係は、フォトリソグラフィ法によるパターニング技術によって、高精度で設定可能となる。すなわち、光ファイバの出光端の固定位置を、容易に精度良く設定することができる。これにより、光ファイバからのレーザ光を、設計通りに近接場光発生部に照射することができるので、所望の近接場光の発生効率が得られる。
【0023】
ここで、本発明による薄膜磁気ヘッドにおいて、媒体対向面側のヘッド端面に達した端を有するデータ読み出し用のMR効果素子が、素子形成面にさらに設けられており、近接場光発生部が、このMR効果素子と電磁コイル素子との間に位置しており、反射部が、媒体対向面側のヘッド端面から見て、MR効果素子、近接場光発生部及び電磁コイル素子の後方に位置していることも好ましい。この際、受光窪みの底面から反射部を介して近接場光発生部に至るまでの光路を含む導波路部が、被覆層を形成する材料よりも高い屈折率を有する材料から形成されていることが好ましい。
【0024】
または、媒体対向面側のヘッド端面に達した端を有するデータ読み出し用のMR効果素子が、素子形成面にさらに形成されており、近接場光発生部が、このMR効果素子と電磁コイル素子との間に位置しており、反射部が、媒体対向面側のヘッド端面から見て、近接場光発生部の斜め後方に位置していることも好ましい。この際、受光窪みの底面から反射部を介して近接場光発生部に至るまでの光路を含む導波路部が、被覆層を形成する材料よりも高い屈折率を有する材料から形成されていることが好ましい。
【0025】
このような構成によって、導波路部及び反射部の形成の際、MR効果素子及び電磁コイル素子34によるサイズの制限が小さくなるので、サイズの設計マージンが大きくなる。特に、導波路部の積層方向の高さ(厚さ)の設計自由度が大きくなるので、より多くの光を近接場光発生部に伝播させることが可能となり、近接場光の発生効率をより向上させることができる。
【0026】
また、導波路部が、媒体対向面側のヘッド端面の近傍においてヘッド端面に向かって先細りしており、近接場光発生部が、導波路部を形成する材料と同じ材料で形成されていて導波路部の媒体対向面側の端に接しており、導電材料からなるサイド導体層が、導波路部の先細りした部分及び近接場光発生部のトラック幅方向の両側に接して形成されていることが好ましい。
【0027】
さらに、電磁コイル素子が、書き込み磁界を発生させるための主磁極を有しており、近接場光発生部の媒体対向面側のヘッド端面に達した端が、主磁極の媒体対向面側のヘッド端面に達した端に近接していることが好ましい。
【0028】
さらにまた、反射部が、光ファイバからの光を絞るように湾曲している反射面を有する反射層であることが好ましい。また、受光窪みの底面に、単層又は多層の反射防止膜が形成されていることも好ましい。
【0029】
本発明によれば、さらにまた、上述した薄膜磁気ヘッドと、この薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構と、電磁コイル素子のための信号線と、薄膜磁気ヘッドがMR効果素子を備えている場合はこのMR効果素子のための信号線とを備えており、一端が受光窪みに挿入されて固定された光ファイバをさらに備えているHGAが提供される。
【0030】
本発明によれば、さらにまた、上述したHGAを少なくとも1つ備えており、少なくとも1つの磁気記録媒体と、光ファイバに光を供給するための光源と、この少なくとも1つの磁気記録媒体に対して薄膜磁気ヘッドが行う書き込み及び読み出し動作を制御するとともに、光源の発光動作を制御するための記録再生及び発光制御回路とをさらに備えている磁気ディスク装置が提供される。
【発明の効果】
【0031】
本発明による薄膜磁気ヘッド、この薄膜磁気ヘッドを備えたHGA及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置によれば、素子形成面と媒体対向面とが直交する構成において、近接場光発生手段に確実に安定して光を照射することができる。さらに、光ファイバ端の固定位置を容易に精度良く決定することが可能となる。また、入射光の損失が小さくなり、近接場光の発生効率が向上する。これにより、例えば、垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドにおいて、信頼性が高く効率の良い熱アシスト磁気記録を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0033】
図1は、本発明による磁気ディスク装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【0034】
同図において、10は、スピンドルモータ11の回転軸の回りを回転する複数の垂直磁気記録用の磁気記録媒体である磁気ディスク、12は、垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッド(スライダ)21をトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置、13は、この薄膜磁気ヘッド21の書き込み及び読み出し動作を制御し、さらに後に詳述する熱アシスト用のレーザ光を発生させる光源である半導体レーザ18を制御するための記録再生及び発光制御回路をそれぞれ示している。
【0035】
アセンブリキャリッジ装置12には、複数の駆動アーム14が設けられている。これらの駆動アーム14は、ボイスコイルモータ(VCM)15によってピボットベアリング軸16を中心にして角揺動可能であり、この軸16に沿った方向にスタックされている。各駆動アーム14の先端部には、HGA17が取り付けられている。各HGA17には、スライダ21が、各磁気ディスク10の表面に対向するように設けられている。磁気ディスク10、駆動アーム14、HGA17及びスライダ21は、単数であってもよい。
【0036】
半導体レーザ18は、光ファイバ26にレーザ光を供給するものであり、自身の活性層の位置に、第1のファイバホルダ19によって光ファイバ26の端断面が接続されている。発振レーザの波長は、例えば、635nmである。
【0037】
図2は、本発明によるHGAの一実施形態を示す斜視図である。ここで、図2(A)は、HGA17の磁気ディスク表面に対向する側の構成を示しており、図2(B)は、HGA17の磁気ディスク表面に対向する側とは反対側の構成を示している。
【0038】
図2(A)によれば、HGA17は、サスペンション20の先端部に、磁気ヘッド素子を有するスライダ21を固着し、さらにそのスライダ21の端子電極に配線部材25の一端を電気的に接続して構成される。
【0039】
サスペンション20は、ロードビーム22と、このロードビーム22上に固着され支持された弾性を有するフレクシャ23と、ロードビーム22の基部に設けられたベースプレート24と、フレクシャ23上に設けられておりリード導体及びその両端に電気的に接続された接続パッドからなる配線部材25とから主として構成されている。
【0040】
図2(B)によれば、HGA17は、薄膜磁気ヘッド21のヘッド端面からレーザ光を入射させるための光ファイバ26をさらに備えている。光ファイバ26の出光側の端は、後に詳述するように、薄膜磁気ヘッド21の素子形成面上に設けられた被覆層40の上面に形成された受光窪み35に挿入されており、接着剤で固定されている。
【0041】
なお、本発明のHGA17におけるサスペンションの構造は、以上述べた構造に限定されるものではないことは明らかである。なお、図示されていないが、サスペンション20の途中にヘッド駆動用ICチップ又は光ファイバ26にレーザ光を供給するための半導体レーザを装着してもよい。
【0042】
図3は、図2に示すHGAの先端部に装着されている、本発明による薄膜磁気ヘッド(スライダ)の第1の実施形態を示す斜視図である。
【0043】
図3によれば、第1の実施形態における薄膜磁気ヘッド21は、適切な浮上量を得るように加工された媒体対向面である浮上面(ABS)30を有するスライダ基板210と、スライダ基板210のABS30に垂直な素子形成面31に形成された、信号データを読み出すためのMR効果素子33及び信号データを書き込むための電磁コイル素子34と、MR効果素子33及び電磁コイル素子34の間に形成されている導波路部37と、導波路部37の端に接して連結しておりABS側のヘッド端面300に達した端を有する、磁気ディスクの記録層部分を加熱するための近接場光を発生させる近接場光発生部38と、ファイバ26からの光を反射させて導波路部37に向けさせるための反射部36と、MR効果素子33、電磁コイル素子34、導波路部37、近接場光発生部38及び反射部36を覆うように素子形成面31上に形成された被覆層40と、被覆層40の上面に形成されており、光ファイバ26の出光端を挿入するための受光窪み35と、被覆層40の層面から露出した合計4つの信号端子電極39とを備えている。
【0044】
MR効果素子33及び電磁コイル素子34の一端は、ヘッド端面300に達している。書き込み又は読み出し動作時には、薄膜磁気ヘッド21が回転する磁気ディスク表面上において流体力学的に所定の浮上量をもって浮上する。この際、これらの素子端が磁気ディスクと対向することによって、信号磁界の感受による読み出しと信号磁界の印加による書き込みとが行われる。
【0045】
信号端子電極39は、MR効果素子33及び電磁コイル素子34に2つずつ接続されている。なお、これらの信号端子電極の数及び位置は、図3(A)の形態に限定されるものではない。同図において端子電極は4つであるが、例えば、電極を3つとした上でグランドをスライダ基板に接地した形態でもよい。
【0046】
図4(A)は、図3に示した薄膜磁気ヘッドの第1の実施形態の要部の構成を概略的に示す図3のA−A線断面図であり、図4(B)は、導波路部37及び近接場光発生部38の形状を示す平面図であり、図4(C)は、近接場光発生部38のヘッド端面300における形状を示す平面図である。
【0047】
図4(A)によれば、MR効果素子33は、MR効果積層体332と、この積層体を挟む位置に配置されている下部電極層330及び上部電極層334とを備えている。MR効果積層体332は、磁化自由層と磁化固定層とがトンネルバリア層を挟んで積層されたトンネル磁気抵抗(TMR)効果多層膜、垂直通電型巨大磁気抵抗(CPP(Current Perpendicular to Plain)−GMR)効果多層膜、及び面内通電型巨大磁気抵抗(CIP(Current In Plain)−GMR)効果多層膜のうちのいずれか1つを備えている。いずれであっても、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受して読み出しを行う。なお、MR効果積層体332がCIP−GMR多層膜を備えている場合、上下部電極層334及び330の代わりに、MR効果積層体との間にシールドギャップ層を介する上下部シールド層がそれぞれ設けられ、さらにMR効果積層体にセンス電流を供給するための素子リード導体層が設けられることになる。
【0048】
下部シールド層330は、アルティック(Al−TiC)等からなるスライダ基板210の素子形成面31に積層されており、例えば、厚さ約0.3μm〜約3μmのNiFe、NiFeCo、CoFe、FeN又はFeZrN等から形成されている。上部シールド層334は、例えば、厚さ約0.3μm〜約4μmのNiFe、NiFeCo、CoFe、FeN又はFeZrN等から形成されている。なお、上下部シールド層334及び330の間隔である再生ギャップ長は、約0.02μm〜約1μmである。
【0049】
電磁コイル素子34は、垂直磁気記録用であり、主磁極層340、ギャップ層341、コイル層342、コイル絶縁層343、及び補助磁極層344を備えている。主磁極層340は、コイル層342によって誘導された磁束を、書き込みがなされる磁気ディスクの記録層まで収束させながら導くための導磁路である。ここで、主磁極層340のヘッド端面300側の端部340aの層厚方向の長さ(厚さ)は、他の部分に比べて小さくなっている。この結果、高記録密度化に対応した微細な書き込み磁界が発生可能となる。
【0050】
ここで、主磁極層340は、例えば、ABS側の端部での全厚が約0.01μm〜約0.5μmであって、この端部以外での全厚が約0.5μm〜約3.0μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。ギャップ層341は、例えば、厚さ約0.01μm〜約0.5μmのAl又はDLC等から形成されている。コイル層342は、例えば、厚さ約0.5μm〜約3μmのCu等から形成されている。コイル絶縁層343は、例えば、厚さ約0.1μm〜約5μmの熱硬化されたレジスト層等から形成されている。補助磁極層344は、例えば、厚さ約0.5μm〜約5μmのNi、Fe及びCoのうちいずれか2つ若しくは3つからなる合金、又はこれらを主成分として所定の元素が添加された合金等から形成されている。
【0051】
受光窪み35は、被覆層40の上面に形成された堀込み部分であって、反射部36の直上に形成されている。この受光窪み35に、近接場光発生部38に照射されるレーザ光を放射するための光ファイバ26の出光端が、真上から挿入されており、さらに、エポキシ系等の接着剤41で固定されている。光ファイバ26の出光端には、テーパーが形成されており、同じく壁面がテーパー状になっている受光窪み35に対して、隙間がない状態で精度良く所定位置に固定されている。また、光ファイバ26の端面は、底面350に対向又は接面している。ここで、光ファイバ26の出光端の直径は、約5μm〜約500μmであるので、受光窪み35の平均内径も、この値に合わせて正確に加工されている。また、光ファイバ26の出光端から放射されるレーザ光のビーム径もまた、約5μm〜約500μmとなる。
【0052】
受光窪み35の底面350には、光ファイバ26からの光の一部が反射して損失する分を低減するための、反射防止膜42が形成されている。反射防止膜42は、例えば、Ta又はSiOからなるイオンアシスト蒸着による単層構造、又はTaとSiOとが交互に積層されたイオンアシスト蒸着による多層構造を有している。この単層/多層構造は、入射されるレーザ光の波長に応じてなされた光学的な設計に基づいて形成される。
【0053】
反射部36は、受光窪み35の直下であって、ヘッド端面300から見て、MR効果素子33、電磁コイル素子34及び近接場光発生部38の後方に位置している。反射部36は、Au、Ag、Al、Cu若しくはTi等の金属層又はそれらのうちのいくつかの組合せの合金層であり、反射面360を有する。反射面360は、光ファイバ26からの光を絞って導波路直線部371の端371aに入射させるように湾曲しており、光ファイバ26からのレーザ光をできるだけ近接場光発生部38に到達させる役割を果たす。これにより、近接場光の発生効率が向上する。なお、反射部36の層厚は、約10nm〜約500nmであり、トラック幅方向の幅は、約10μm〜約500μmである。ここで、受光窪み35に挿入された光ファイバ26は、コア部260と、コア部260を取り囲むクラッド部261からなる。コア部260の直径は、例えば、約8μmである。レーザ光は、このコア部260の端から出射するので、反射面360は、コア部260の真下の部分の少なくとも一部において、適切な反射のための曲面を有している。
【0054】
なお、反射部の形態は、上述したものに限定されるものではなく、例えば、平らな反射面を有する平面鏡型、回折格子を利用したグレーティング型、さらにはプリズム型であってもよい。
【0055】
以上に述べたように、受光窪み35が被覆層40に形成されていて、光ファイバ26が薄膜磁気ヘッドに直接固定されるので、光ファイバ26からのレーザ光の光路が、駆動時の振動等によって変動したりずれたりすることがほとんど無い。従って、本発明の薄膜磁気ヘッドによれば、光ファイバをフレクシャ等の外部の部品に固定した場合に比べて、受光窪み35及び反射部36の位置関係が安定し、光ファイバ26からのレーザ光を、反射部36を経て、近接場光発生部38に確実に安定して到達させることが可能となる。
【0056】
ここで、受光窪み35及び反射部36はともに、後述する薄膜プロセスを用いた形成方法によって形成される。ここで、特に、受光窪み35が、素子形成面上に設けられた被覆層40の上面に形成されるので、反射部36の形成から一連の薄膜プロセスとして、受光窪み35を形成可能となる。従って、そのサイズ及び位置関係は、フォトリソグラフィ法によるパターニング技術によって、高精度で設定可能となる。すなわち、光ファイバ26の出光端の固定位置を、容易に精度良く設定することができる。これにより、光ファイバ26からのレーザ光を、設計通りに近接場光発生部38に照射することができるので、所望の近接場光の発生効率が得られる。
【0057】
導波路部37は、受光窪み35の底面350から反射部36を介して近接場光発生部38に至るまでの光路を含んでおり、受光窪み35の直下であって底面350と反射面360との間の領域を含む導波路反射部370と、MR効果素子33と電磁コイル素子34との間に位置していて素子形成面31とほぼ平行に伸長しているが、ヘッド端面300の近傍においてヘッド端面300に向かって先細りしている導波路直進部371とからなる。導波路部37は、何れの部分においても、被覆層40を形成する材料よりも高い屈折率nを有する誘電材料から形成されている。例えば、被覆層40が、SiO(n=1.5)から形成されている場合、導波路部37は、Al(n=1.63)から形成されていてもよい。さらに、被覆層40が、Al(n=1.63)から形成されている場合、導波路部37は、Ta(n=2.16)、Nb(n=2.33)、TiO(n=2.3〜2.55)又はTiO(n=2.3〜2.55)から形成されていてもよい。導波路部37をこのような材料で構成することによって、材料そのものが有する良好な光学特性によるだけではなく、界面での全反射条件が整うことによって、レーザ光の伝播損失が小さくなり、近接場光の発生効率が向上する。
【0058】
近接場光発生部38は、導波路部37と同じ誘電材料で形成されていて、一方の端が導波路直進部371のヘッド端面300側の端に接しており、他方の端がヘッド端面300に達している。図4(B)によれば、導波路直進部371のヘッド端面300に向かって先細りしている部分と近接場光発生部38とのトラック幅方向の両側に接して、Au、Pd、Pt、Rh若しくはIr、若しくはこれらのうちのいくつかの組合せからなる合金、又はAl、Cu等が添加されたこれらの合金等の導電材料からなるサイド導体層43が設けられている。このような構成によって、導波路反射部370を通って導波路直進部371を伝播するレーザ光の多くが、サイド導体層43の反射面430での反射を経て、近接場光発生部38に集中する。これにより、より多くのレーザ光が近接場光発生部38に到達するので、近接場光の発生効率が向上する。
【0059】
近接場光発生部38のトラック幅方向の幅及び層厚は、入射されるレーザ光の波長よりも十分に小さく、それぞれ、約10nm〜約300nm及び約10nm〜約200nmである。この近接場光発生部38がレーザ光を受けると、このレーザ光の電界成分のトラック幅方向の振動によって、構成材料である誘電体とサイド導体層43との界面に、同じくトラック幅方向に強制振動させられる電気双極子が誘導される。この電気双極子の振動は、近接場光発生部38のサイズがレーザ光の波長よりも十分に小さいことから、ほぼ一様となる。この一様な電気双極子の振動によって、この振動方向に垂直な方向、すなわち磁気ディスクの表面に向かう方向に電磁波が放射される。この電磁波の電気力線は、電気双極子の正負が入れ替わるように振動する際に、いったん閉じてまた開くといった形を繰り返して、節を作って伝播する。このうち、近接場光発生部38から最初の節までの極近傍に拡がる電気力線の領域が近接場光となる。
【0060】
この近接場光の電界強度は、入射光に比べて桁違いに強く、この非常に強力な近接場光が、磁気ディスク表面の対向する局所部分を急速に加熱する。これにより、この局所部分の保磁力が、書き込み磁界による書き込みが可能な大きさまでに低下するので、高密度記録用の高保磁力の磁気ディスクを使用しても、電磁コイル素子34による書き込みが可能となる。なお、近接場光は、ヘッド端面300から磁気ディスクの表面に向かって、上述した近接場光発生部38のトラック幅方向の幅又は層厚程度までの領域に存在する。従って、10nm又はそれ以下の浮上量である現状において、近接場光は、十分に記録層部分に到達する。また、このように発生する近接場光の幅は、同じく上述した幅又は層厚と同程度であって、この近接場光の電界強度は、この幅又は層厚以上の領域では指数関数的に減衰するので、非常に局所的に磁気ディスクの記録層部分を加熱することができる。
【0061】
なお、近接場光発生部38のヘッド端面300に垂直な方向の長さは、例えば、約10nm〜約500nmである。また、導波路直進部370のトラック幅方向の幅は、最も広い箇所において、例えば、約20μm〜約500μmである。
【0062】
図4(C)によれば、ヘッド端面300上において、近接場光発生部38の発生端38aは、電磁コイル素子34の主磁極層340の端340bに近接していて、端340bのリーディング側に位置している。また、発生端38aの形状は、トレーリング側に短辺を有する正台形となっている。
【0063】
ここで、近接場光は、入射されるレーザ光の波長及び導波路直進部371の形状にも依存するが、一般に、最も幅の狭いトレーリング側の短辺近傍において最も強い強度を有する。すなわち、磁気ディスクの記録層部分を加熱する熱アシスト作用において、このトレーリング側の短辺近傍が、主要な加熱作用部分となる。なお、発生端38aの形状が、例えば、リーディング側に底辺を有しておりトレーリング側に1つの頂角を有する三角形である場合、このトレーリング側の1つの頂点近傍が、主要な加熱作用部分となる。
【0064】
また、主磁極層340の端340bの形状は、トレーリング側に長辺を有する逆台形となっている。すなわち、主磁極層340の端部340aの側面には、ロータリーアクチュエータでの駆動により発生するスキュー角の影響によって隣接トラックに不要な書き込み等を及ぼさないように、ベベル角が付けられている。ベベル角の大きさは、例えば、15度程度である。実際に、書き込み磁界が主に発生するのは、トレーリング側の長辺近傍であり、この長辺の長さによって書き込みトラックの幅が決定される。
【0065】
以上に述べた、近接場光発生部38の発生端38a、及び主磁極層340の端340bの配置及び形状によれば、主要な加熱作用部分である発生端38aのトレーリング側の短辺近傍が、書き込み部分である主磁極層の端340bに非常に近い位置にあるので、磁気ディスクの記録層部分に熱を加えた直後に、ほとんど間を置かず、書き込み磁界を印加することができる。これにより、熱アシストによる安定した書き込み動作が、確実に実行可能となる。
【0066】
ここで、近接場光発生部38の発生端38aにおけるトレーリング側の短辺の長さWNF、及び主磁極層340の端340bにおけるトレーリング側の長辺の長さWMP、の関係を考察する。
【0067】
一般に、近接場光を用いた磁気記録方式は、磁気ドミナント記録と熱ドミナント記録との2つに大別される。磁気ドミナント記録の場合、磁気ディスクの記録層において書き込み磁界を印加する領域の幅(磁界印加幅)よりも、保持力Hを十分に低下させるまでに加熱する幅(加熱幅)を大きく設定する。すなわち、書き込み幅(トラック幅)は、磁界印加幅相当となる。この場合、WNF>WMPと設定される。これに対して、熱ドミナント記録の場合、加熱幅が、磁界印加幅と同等に又はより狭くなるように設定される。すなわち、書き込み幅(トラック幅)は、加熱幅相当となる。この場合、WNF≦WMPと設定される。熱アシスト磁気記録方式として記録ビットの空間分解能を磁界に持たせる場合、磁気ドミナントとして、WNF>WMPであることが求められる。
【0068】
以上に述べたような熱アシスト磁気記録方式を適用することにより、実際には、高保磁力の磁気ディスクに垂直磁気記録用の薄膜磁気ヘッドを用いて書き込みを行い、記録ビットを極微細化することによって、1Tbits/in級の記録密度を達成することも可能となり得る。
【0069】
なお、MR効果素子33と導波路直進部371及び近接場光発生部38との間に、素子間シールド層44が形成されている。素子間シールド層44は、MR効果素子33を、電磁コイル素子34より発生する磁界から遮断して読み出しの際の外来ノイズを防止する役割を果たす。また、素子間シールド層44と導波路直進部371との間に、さらに、バッキングコイルが形成されていてもよい。バッキングコイルは、電磁コイル素子34から発生してMR効果素子33の上下部電極層を経由する磁束ループを打ち消す磁束を発生させて、磁気ディスクへの不要な書き込み又は消去動作である広域隣接トラック消去(WATE)現象の抑制を図るものである。なお、コイル層342は、図4(A)において1層であるが、2層以上又はヘリカルコイルでもよい。
【0070】
図5は、図2に示すHGAの先端部に装着されている、本発明による薄膜磁気ヘッド(スライダ)の第2の実施形態を示す斜視図である。
【0071】
図5(A)によれば、第2の実施形態における薄膜磁気ヘッド21′において、受光窪み35′、反射部36′、導波路部37′及び近接場光発生部38′以外の構成要素の位置、及び各構成要素の機能は、図3に示した第1の実施形態と同様である。
【0072】
反射部36′は、第1の実施形態と同じく、受光窪み35′の直下に設けられているが、ヘッド端面300から見て、近接場光発生部38′の斜め後方に位置している。導波路部37′は、光ファイバからのレーザ光が反射部36′を介して近接場光発生部38′に至る光路を含んでおり、近接場光発生部38′を起点として、ヘッド端面300に垂直であるヘッドの中心線50′からトラック幅方向に傾いた領域に形成されている。従って、受光窪み35′は、被覆層40′の上面において、中心線50′からずれた位置に設けられることになる。なお、本実施形態においても、導波路部37′の端部及び近接場光発生部38′のトラック幅方向の両側に、図4(B)及び(C)に示したようなサイド導体層が設けられていることが好ましい。このような構成によって、導波路部37′及び反射部36′の形成の際、MR効果素子33及び電磁コイル素子34によるサイズの制限が小さくなるので、サイズの設計マージンが大きくなる。特に、図5(B)に示したように、導波路部37′の積層方向の高さ(厚さ)TWGの設計自由度が大きくなるので、より多くの光を近接場光発生部38′に伝播させることが可能となり、近接場光の発生効率をより向上させることができる。
【0073】
図6は、本発明による薄膜磁気ヘッドが備えている導波路部及び近接場光発生部についての種々の変更態様を示す断面図及び斜視図である。
【0074】
図6(A1)によれば、導波路部60は、図4(A)に示した第1の実施形態と同じくMR効果素子62及び電磁コイル素子63との間に形成されているが、そのヘッド端面64側の端に接して、近接場光発生部61が形成されている。近接場光発生部61は、図6(A2)に示すように、ヘッド端面64に向かって先細りした形状を有していて、素子形成面65に対してヘッド端面64側が上がる形で傾いており、光ファイバからのレーザ光を受ける受光面610を有している。なお、図6(A2)において、導波路部60及び近接場光発生部61は、図の見易さのため、素子形成面65側から(下側から)見た斜視像として表されている。この近接場光発生部61は、Au、Pd、Pt、Rh若しくはIr、若しくはこれらのうちのいくつかの組合せからなる合金、又はAl、Cu等が添加されたこれらの合金等からなり、受光面610にレーザ光を受けることによって、内部の自由電子がレーザ光の電界によって一様に強制振動させられることによりプラズモンが励起される。このプラズモンは、近接場光発生部61の、ヘッド端面64側の先端に向かって伝播し、この先端の近傍に非常に強い電界強度を有する近接場光を発生させる。この近接場光を用いて、熱アシスト磁気記録を行うことが可能となる。
【0075】
図6(B)によれば、導波路部67及び近接場光発生部68は、図4(A)に示した第1の実施形態と同じ構造を有しているが、電磁コイル素子69の上方に位置している。また、電磁コイル素子69の主磁極層691は、補助磁極層690のリーディング側に設けられており、近接場光発生部68のヘッド端面70側の端68aは、主磁極層691のヘッド端面70側の端691aに近接していて、端691aのトレーリング側に位置している。反射部66は、ヘッド端面70から見て、導波路部67の後方に位置しており、光ファイバからの光を反射させて、導波路部67に入射させる。このような構成においても、近接場光発生部68の端68a近傍に非常に強い電界強度を有する近接場光を発生させることができるので、この近接場光を用いて熱アシスト磁気記録を行うことが可能となる。
【0076】
図7は、本発明による薄膜磁気ヘッドの受光窪み及び反射部の形成方法の一実施形態を説明する断面図である。
【0077】
最初に、図7(A)に示すように、スライダ基板210上に、反射部の基台となるAl等の誘電体膜71を、例えばスパッタリング法によって成膜し、その上に、レジストパターン72を形成する。次いで、このレジストパターン72をマスクとして、イオンミリング法等を用いてエッチングを行い、反射面の形状を有する基台を形成する。この形成の際、図7(B1)に示すように、ミリング用のArイオン73の入射を、素子形成面31に対して高角度に、すなわち素子形成面31の法線方向に近くなるように設定すると、より急峻な曲面を有する基台が形成される。これに対して、図7(B2)に示すように、Arイオン74の入射を、素子形成面31に対して低角度に、すなわち素子形成面31内の方向に近くなるように設定すると、より緩やかな曲面を有する基台が形成される。従って、このイオンミリングの際のArイオンの入射角を調整することによって、設計された曲率分布を有する反射面を形成可能となる。
【0078】
次いで、図7(C)に示すように、形成された反射部の基台75の曲面上に、Au等の金属層又はそれらの合金層を、例えばスパッタリング法又はイオンビームデポジション法によって積層し、反射部36を形成する。次いで、図7(D)に示すように、所定の屈折率を有するTiO等の誘電体膜を、例えばスパッタリング法又はイオンビームデポジション法によって積層し、リフトオフ法でレジストパターン72を除去することによって、導波路部37を形成する。その後、導波路部37の導波路反射部の上面に、反射防止膜42を、例えばイオンアシスト蒸着法によって成膜する。次いで、導波路部37及び反射防止膜42を覆うように被覆層40を、例えばスパッタリング法によって積層する。その後、図7(E)に示すように、ウエットエッチング法又は反応性イオンエッチング(RIE)法等を用いて、被覆層40の上面をエッチングすることによって、受光窪み35を形成する。以上の工程により、受光窪み35及びその直下の反射部36が、一連の薄膜プロセスとして精度良く形成される。
【0079】
図8は、導波路直進部の先細りした部分及び近接場光発生部の形成方法の一実施形態を説明する平面図及び断面図である。なお、図8(A2)〜(E2)は、それぞれ、図8(A1)〜(E1)のa−a線〜e−e線断面を表している。
【0080】
図8(A1)及び(A2)において、最初に、Al等の下地80の上に、近接場光発生部となる、下地よりも屈折率の高いTiO等の誘電体膜81を成膜し、その上に、リフトオフ用のレジストパターン82を形成する。次いで、図8(B1)及び(B2)に示すように、イオンミリング法等を用いて、レジストパターン82の直下を除いて、誘電体膜81の不要部分を除去する。その後、図8(C1)及び(C2)に示すように、スパッタリング法等を用いて、サイド導体層となるAu等の導電膜83を成膜し、この後、レジストパターン82及びその上の導電膜を、いわゆるリフトオフによって除去する。その後、図8(D1)及び(D2)に示すように、レジストパターン84が形成された後、イオンミリング法等を用いて、レジストパターン84の直下を除いて、誘電体膜81及び導電膜83の不要部分を除去する。次いで、図8(E1)及び(E2)に示すように、スパッタリング法等を用いて、誘電体膜81と同じ誘電材料からなるバックフィル誘電体膜85を形成する。その後、レジストパターン84及びその上の誘電体膜を、いわゆるリフトオフによって除去する。なお、後のMRハイト工程において、図8(E2)のf−f線よりも左側の部分が研削されることにより、図8(E2)のf−f線がABS側のヘッド端面となって、f−f線よりも右側が薄膜磁気ヘッドの近接場光発生部となる。
【0081】
以上の工程を繰り返すことによって、図8(F)に示すように、近接場光発生部38、バックフィル誘電体膜85からなる導波路層86、さらにその後形成された導波路層87と、複数個の順次大きくなる導波路層を、連続して形成することができる。これらの導波路層は、導波路直進部の先細りした端部を構成することになる。さらに、下地80と同じく、導波路層を構成する材料よりも屈折率の小さい、例えば、Al等の材料からなるカバー誘電体膜88を形成する。ここで、近接場光発生部38の厚さは、例えば、約30nmであり、導波路層86の厚さは、例えば、約60nmであり、導波路層87の厚さは、例えば、約300nmである。さらに、下地80及びカバー誘電体膜88の厚さは、例えば、約60nmである。
【0082】
図9は、図1に示した磁気ディスク装置の記録再生及び発光制御回路13の回路構成を示すブロック図である。
【0083】
図9において、90は制御LSI、91は、制御LSI90から記録データを受け取るライトゲート、92はライト回路、93は、半導体レーザ18に供給する動作電流値の制御用テーブル等を格納するROM、95は、MR効果素子33へセンス電流を供給する定電流回路、96は、MR効果素子33の出力電圧を増幅する増幅器、97は、制御LSI90に対して再生データを出力する復調回路、98は温度検出器、99は、半導体レーザ18の制御回路をそれぞれ示している。
【0084】
制御LSI90から出力される記録データは、ライトゲート91に供給される。ライトゲート91は、制御LSI90から出力される記録制御信号が書き込み動作を指示するときのみ、記録データをライト回路92へ供給する。ライト回路92は、この記録データに従ってコイル層342に書き込み電流を流し、電磁コイル素子34により磁気ディスク上に書き込みを行う。
【0085】
制御LSI90から出力される再生制御信号が読み出し動作を指示するときのみ、定電流回路95からMR積層体332に定電流が流れる。このMR効果素子33により再生された信号は増幅器96で増幅された後、復調回路97で復調され、得られた再生データが制御LSI90に出力される。
【0086】
レーザ制御回路99は、制御LSI90から出力されるレーザON/OFF信号及び動作電流制御信号を受け取る。このレーザON/OFF信号がオン動作指示である場合、発振しきい値以上の動作電流が半導体レーザに印加される。この際の動作電流値は、動作電流制御信号に応じた値に制御される。制御LSI90は、記録再生動作とのタイミングに応じてレーザON/OFF信号を発生させ、磁気ディスクの記録層及び半導体レーザ18の、温度検出器98による温度測定値等を考慮し、ROM93内の制御テーブルに基づいて、動作電流値制御信号の値を決定する。ここで、制御テーブルは、発振しきい値及び光出力−動作電流特性の温度依存性のみならず、動作電流値と熱アシスト作用を受けた記録層の温度上昇分との関係、及び保磁力の温度依存性についてのデータも含む。このように、記録/再生動作制御信号系とは独立して、レーザON/OFF信号及び動作電流値制御信号系を設けることによって、単純に記録動作に連動した半導体レーザへの通電のみならず、より多様な通電モードを実現することができる。
【0087】
なお、記録再生及び発光制御回路13の回路構成は、図9に示したものに限定されるものでないことは明らかである。記録制御信号及び再生制御信号以外の信号で書き込み動作及び読み出し動作を特定してもよい。また、少なくとも書き込み動作時又はその直前において半導体レーザ18に通電することが望ましいが、書き込み動作及び読み出し動作のシーケンスにおいて、所定の期間だけ通電することも可能である。
【0088】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明による磁気ディスク装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明によるHGAの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2に示すHGAの先端部に装着されている、本発明による薄膜磁気ヘッドの第1の実施形態を示す斜視図である。
【図4】図3に示した薄膜磁気ヘッドの第1の実施形態の要部の構成を概略的に示す図3のA−A線断面図、導波路部及び近接場光発生部の形状を示す平面図、及び近接場光発生部のヘッド端面における形状を示す平面図である。
【図5】図2に示すHGAの先端部に装着されている、本発明による薄膜磁気ヘッドの第2の実施形態を示す斜視図である。
【図6】本発明による薄膜磁気ヘッドが備えている導波路部及び近接場光発生部についての種々の変更態様を示す断面図及び斜視図である。
【図7】本発明による薄膜磁気ヘッドの受光窪み及び反射部の形成方法の一実施形態を説明する断面図である。
【図8】導波路直進部の先細りした部分及び近接場光発生部の形成方法の一実施形態を説明する平面図及び断面図である。
【図9】図1に示した磁気ディスク装置の記録再生及び発光制御回路の回路構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0090】
10 磁気ディスク
11 スピンドルモータ
12 アセンブリキャリッジ装置
13 記録再生及び発光制御回路
14 駆動アーム
15 ボイスコイルモータ(VCM)
16 ピボットベアリング軸
17 ヘッドジンバルアセンブリ(HGA)
18 半導体レーザ
19 ファイバホルダ
20 サスペンション
21 スライダ
210 スライダ基板
22 ロードビーム
23 フレクシャ
24 ベースプレート
25 配線部材
26 光ファイバ
260 コア部
261 クラッド部
30 浮上面(ABS)
300、64、70 ヘッド端面
31、65 素子形成面
33、62 MR効果素子
330 下部電極層
332 MR効果積層体
334 上部電極層
34、63、69 電磁コイル素子
340、691 主磁極層
340a 端部
340b、344a、38a、68a、691a 端
341 ギャップ層
342 コイル層
343 コイル絶縁層
344、690 補助磁極層
35、35′ 受光窪み
350 底面
36、36′、66 反射部
360 反射層
37、37′、67 導波路部
370 導波路反射部
371 導波路直進部
38、38′、61、68 近接場光発生部
39 信号端子電極
40、40′ 被覆層
41 接着剤
42 反射防止膜
43 サイド導体層
44 素子間シールド層
50 中心線
610 受光面
71 誘電体膜
72 レジストパターン
73、74 Arイオン
80 下地
81 誘電体膜
82、84 レジストパターン
83 導電膜
84 磁性層
85 バックフィル誘電体膜
86、87 導波路層
88 カバー誘電体膜
90 制御LSI
91 ライトゲート
92 ライト回路
93 ROM
95 定電流回路
96 増幅器
97 復調回路
98 温度検出器
99 レーザ制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体対向面及び該媒体対向面に垂直な素子形成面を有する基板と、該素子形成面に形成されており、該媒体対向面側のヘッド端面に達した端を有するデータ書き込み用の電磁コイル素子と、近接場光を発生させて書き込みの際に磁気記録媒体を加熱するための、該媒体対向面側のヘッド端面に達した端を有する近接場光発生部と、該電磁コイル素子及び該近接場光発生部を覆うように素子形成面上に形成された被覆層とを備えた薄膜磁気ヘッドであって、
前記被覆層の上面に、前記近接場光発生部に光を照射するための光ファイバの端を挿入可能である受光窪みが形成されており、前記素子形成面の上方であって該受光窪みの直下に、該光ファイバからの光を反射して該近接場光発生部に向けさせるための反射部が設けられていることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
前記媒体対向面側のヘッド端面に達した端を有するデータ読み出し用の磁気抵抗効果素子が、前記素子形成面にさらに設けられており、前記近接場光発生部が、該磁気抵抗効果素子と前記電磁コイル素子との間に位置しており、前記反射部が、前記媒体対向面側のヘッド端面から見て、該磁気抵抗効果素子、該近接場光発生部及び該電磁コイル素子の後方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
前記媒体対向面側のヘッド端面に達した端を有するデータ読み出し用の磁気抵抗効果素子が、前記素子形成面にさらに形成されており、前記近接場光発生部が、該磁気抵抗効果素子と前記電磁コイル素子との間に位置しており、前記反射部が、前記媒体対向面側のヘッド端面から見て、該近接場光発生部の斜め後方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項4】
前記受光窪みの底面から前記反射部を介して前記近接場光発生部に至るまでの光路を含む導波路部が、前記被覆層を形成する材料よりも高い屈折率を有する材料から形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項5】
前記導波路部が、前記媒体対向面側のヘッド端面の近傍において該ヘッド端面に向かって先細りしており、前記近接場光発生部が、該導波路部を形成する材料と同じ材料で形成されていて該導波路部の該媒体対向面側の端に接しており、導電材料からなるサイド導体層が、該導波路部の先細りした部分及び該近接場光発生部のトラック幅方向の両側に接して形成されていることを特徴とする請求項4に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項6】
前記電磁コイル素子が、書き込み磁界を発生させるための主磁極を有しており、前記近接場光発生部の前記媒体対向面側のヘッド端面に達した端が、該主磁極の該媒体対向面側のヘッド端面に達した端に近接していることを特徴とする請求項5に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項7】
前記反射部が、光ファイバからの光を絞るように湾曲している反射面を有する反射層であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項8】
前記受光窪みの底面に、単層又は多層の反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッドと、該薄膜磁気ヘッドを支持する支持機構と、前記電磁コイル素子のための信号線と、該薄膜磁気ヘッドが磁気抵抗効果素子を備えている場合は該磁気抵抗効果素子のための信号線とを備えており、一端が前記受光窪みに挿入されて固定された光ファイバをさらに備えていることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項10】
請求項9に記載のヘッドジンバルアセンブリを少なくとも1つ備えており、少なくとも1つの磁気記録媒体と、前記光ファイバに光を供給するための光源と、該少なくとも1つの磁気記録媒体に対して前記薄膜磁気ヘッドが行う書き込み及び読み出し動作を制御するとともに、前記光源の発光動作を制御するための記録再生及び発光制御回路とをさらに備えていることを特徴とする磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−200475(P2007−200475A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18887(P2006−18887)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】