説明

口内温度にて水溶性であるグリシルレチン酸の塩を含んだ口内パッチ

【解決課題】口内温度で水溶性であるグリシルレチン酸の形態の溶解性口内パッチが開示されている。
【解決手段】局部組織内への多量吸収、すなわち使用される薬剤量に比して薬効が高い治療(副作用のリスクを最低にする)のために、グリシルリチン甘草抽出物の水溶塩(SGE)を使用することが望ましい。SGEは口内温度で水溶性である1群のグリシルリチン酸の化学塩を含む。それらにはグリシルレチン酸のカリウム塩とグリシルレチン酸のアルカリ金属塩が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
口腔内または咽喉内の疾患治療のために持続的に口内に薬剤を投与する口内パッチに関する。
【0002】
本発明は2006年4月13日に出願された米国特許願60/792121の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
口腔内または咽喉内の疾患治療のために持続的に口内に薬剤を投与する口内パッチが開発されている。
【0004】
ここで使用する“パッチ”には一箇所に固定されることなく移動し、所望箇所に高濃度の放出薬剤を維持できない咳止めドロップや喉飴のごとき薬剤は含まれない。さらに唾液内で噛み砕かれたり、唾液内に置かれると粉末化またはペースト化するような粉末形態、液体形態、ペースト形態、粘液ゲル形態または錠剤形態あるいはトローチ形態のごとき口内で保持されたときに固体形状を維持できないような薬剤も含まれない。2002年11月5日に出願された米国特許願10/287843にて本願と同一の発明者によって開示された接着式溶出口内パッチのごとき口内に保持されても一体性を維持するハイドロコロイドで形成された接着性薬剤物は含まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の形態の口内パッチと、その他の形態の薬剤との最も大きな相違点は、口内パッチが口内に薬剤を例えば30分あるいはそれ以上の時間をかけて放出するように設計されており、一箇所に留まり、パッチ領域で薬剤を高濃度に保ち、口腔内に一体物として留まって口内に分散しないことである。
【0006】
グリシルリジン酸を含有する甘草抽出物は周囲組織を麻痺させずに潰瘍性口内炎による痛みを緩和し、治癒を促進する。しかし所望の効果を発揮させるのに必要な薬剤濃度は非常に不快な味を放出する。唾液内の酵素であるグルクロニターゼは甘草抽出物からのグリシルリジン酸分子をグルクロン酸とグリシルレチン酸(GTA)に分解し、その後に抗炎症剤として作用する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
試行を重ねた結果、発明者は、口内潰瘍(義歯炎症、潰瘍性口内炎、アフタ性潰瘍とも呼称)の治療のために接着式口内パッチとして甘草根(グリシリザ)から抽出できるグリシレチン酸(GTA)を直接的に投与すると痛みの緩和に有効であり、治癒を促進することを発見した。GTAが15分以上口内パッチによって潰瘍性口内炎上に保持されると口内炎による痛みは軽減されるが、周囲の組織には麻痺が発生しない。この痛みの軽減効果は、和らいだ痛みの状態で食事を完了するまで余裕を持って持続した。GTAのパッチは治癒をも促進する。
【0008】
GTA塩基を口内パッチに使用することも可能である。しかし副作用のリスクを最低限度に抑えた局所組織内への大量吸収(すなわち使用される薬剤量の割には効果が高い対処)のため、口内温度にて水溶性であるグリシルレチン甘草抽出物の塩(溶解性グリシルレチン抽出物“SGE”)を使用することが望ましい。SGEは口内温度にて水溶性であるグリシルレチン酸の化学塩群を含む。この塩にはグリシルレチン酸のカリウム塩やグリシルレチン酸の他のアルカリ金属塩が含まれる。
【0009】
1態様において本発明は、口内で唾液に曝露されると30分以上にわたってGTAを持続放出するパッチを準備するステップと、口腔内の潰瘍性口内炎の近辺で1日に少なくとも2時間パッチを維持するように指示するステップとを含んだ潰瘍性口内炎の治療法を提供する。このパッチは薬剤を保持して放出するための結合剤成分を含むことができる。
【0010】
この結合剤成分は唾液内で溶解するゴム類の組み合わせでよい。例えばアラビアゴム(アカシアゴム)、カラギーナン、キサンタンゴム、コニャックゴム、寒天またはイナゴマメゴムであり、非溶解性食物繊維と組み合わされる。もし結合剤がキサンタンゴム、コニャックゴムおよびセルロース繊維であれば効果的な乾燥重量組成物はGTAのカリウム塩のごとき1%から10%のSGE、20%から55%の食品グレードのゼラチンおよび20%から75%のその他の結合剤である。他の効果的な組成は約5%から7%のベンゾカインと50%から93%のゼラチンを含んだ2%から4%のSGEを有しており、さらに接着力を増強するようにアカシアゴムが側面に加えられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は完全溶解(正確には分子が水化するに連れて侵食)する接着性口内パッチを図示する。口内ではこのパッチは硬質ガムキャンディのような感触と肌触りを提供する。このパッチは持続的に分解するハイドロコロイドで製造されており、典型的には完全溶解するまで口内で1時間から6時間持続する。このパッチは錠剤形態またはドロップ形態あるいはウェハー形態に成型でき、またはどのような他の所望形状であってもよい。好適な形状は図1aで示すような一方側がほぼ平坦な薄レンズ形状である。
【0012】
潰瘍と原因となるような切り傷を負わせる歯または歯列矯正具に接着させる別な好適形状は裏側に凹部を有したドーム形状である。すなわち片面が凸状であり、反対面が凹状である。その1例は図3において断面図で示されている。凹部は少々窪んだ程度でよい。粉末をコンパクト化した場合には9ミリ径で、0.5から1.5ミリの深さの凹部を有したものがこのようなドーム形状には好適である。歯列矯正具のブラケットに接着させるにはそのような凹部はブラケットおよびワイヤと好適な接触状態となって良好な接着状態を提供する。パッチを歯に接着させる場合には、この凹部は平坦あるいは凸状であるパッチ表面の中央部近辺の実質的に1接着点においてではなく、パッチの縁部に複数の接着点を提供してパッチを歯の凸形状表面に好適に接着させる。
【0013】
パッチおよびその製造方法の詳細な説明は2002年11月5日出願の米国特許願10/287843で開示されている。一方の接着力が非常に強力である2層にプレス成型された粘着性ハイドロコロイドで製造された粉末パッチの詳細な説明は本発明者による2007年1月11日出願の米国特許願60/879846「キシリトールトローチおよび利用方法」(所内整理番号0729−037−02(2))にて開示されている。
【0014】
唾液内でパッチを持続的に溶解(侵食)させるため、唾液内で持続的に溶解する結合剤が加えられる。試験によって良好に作用すると判明した結合剤にはゼラチン、カラギーナン(好適にはカッパ)、キサンタンゴム、コニャックゴム、寒天、アラビアゴム、およびペクチンが含まれる。コニャックゴムに類似した特性を有するイナゴマメゴム等のこれらに類似した他のゴム類やグアゴムも同様に作用するであろう。
【0015】
口内でパッチを非常にゆっくりと侵食させることに加えて結合剤は長時間かけて味(香味)を徐々に放出させることで強い香味を和らげる。従って強い香味を隠す甘味料や他の材料の利用は不要である。もちろんユーザによっては少量の甘味料の添加を好み、またユーザによっては他の香味の追加を好む。
【0016】
図1で示すパッチの製造方法はガムドロップ製造装置を使用し、ゲル溶解温度以上に加熱された水和混合物をノズルからプラスチックシート上または型上に注出し、パッチを冷却してゲル状にし、乾燥させる。パッチは好適には水分活性レベルが0.8以下となるまで乾燥され、パッチにカビや他の有機物を繁殖させないようにする。パッチは密封シールで包装され、空気中の湿気の吸収を防止する。得られたパッチは少なくとも2方向で少なくとも5ミリの直径であり、好適には8ミリから18ミリの直径である。
【0017】
混合物の高温粘性液滴が高温プラスチックシート上あるいはプラスチックコーティングされた紙上にアレイ状に堆積される。液滴は冷却され、アレイ状の液滴がその上に形成されているプラスチックシートまたはコーティングされた紙は乾燥室内で乾燥される。この製品はプラスチック上または紙上に接着した状態で販売され、ユーザがパッチをプラスチックまたは紙から引き剥がして使用する。
【0018】
図2は浸透層1と非浸透性の平坦表面を有した外層2とを含む2層構造の口内パッチを図示する。この口内パッチは頬内側の潰瘍性口内炎3を覆っている。外層2は好適には平滑であり、使用中のパッチのズレを防止する。薬剤は、浸透層から持続的に滲出する高粘性液体薬剤を使用するか、ゼラチン等である前述のゴム類等の持続的に溶解する結合剤によって浸透層に薬剤を浸透結合させることで浸透層1に保持される。好適なパッチサイズは18ミリであり、パッチの片側層または両側層に赤色顔料を含ませて口内裏側に似せることができる。
【0019】
あるいはゲル混合物を加熱し、平坦シート物上に押出成型し、ダイカットすることで製造されるパッチのごとき公知のどのような他の口内パッチでも利用できる。
【0020】
好適には、副作用を避けつつ薬効を高めるように局所組織内への十分量の薬剤吸収のためにグリシルレチン甘草抽出物(溶解性グリシルレチン抽出物“SGE”)の水溶塩が利用される。これで純粋グリシルレチン酸を使用することで生じるpHの降下が回避される。SGEは口内温度にて水溶性であるグリシルレチン酸の化学塩類を含むものである。例えばグリシルレチン酸のカリウム塩および他のアルカリ金属塩である。
【0021】
20分間から6時間効果が持続する各パッチに浸透しているSGEの好適量は1%から10%の非水成分であり、最も好適には2%から6%の非水成分である。0.1乾燥グラムから0.2乾燥グラムのパッチではこれは、グリシルレチン酸のカリウム塩のごとき2mgから12mgのSGEに相当する。錠剤プレス法で製造された口内パッチでは好適サイズは総錠剤重量で約100mgから150mgであり、好適なSGE量は2.5mgから4mgである。
【0022】
グリシルレチン酸(GTA)はグリシルリジン酸の単に1成分であり、グリシルリジン塩のネガティブ部分であり、甘草根の単なる水抽出物内の1主要成分である。水溶されるとグリシルリジン酸はグリシルリジンから生体利用性となる。唾液等である全体液内に存在する酵素グルクロニダーゼにより補助されてこの成分は水化し、グリシルレチン酸を放出するが、この物質は過剰に摂取されると不都合な副作用を引き起こす。しかし少量である場合にはグリシルレチン酸の抗炎症効果は痛みの緩和と潰瘍の治癒期間の短縮に望ましいものである。なぜなら必要な薬剤量は副作用発症の閾値を大きく下回るからである。これは特にGTAの水溶形態(SGE)が使用されており、GTAがパッチから浸出し、上皮組織内に容易に進入するからである。
【0023】
好適なパッチ形態はGTA抽出物をコラーゲンおよび結合剤成分と組み合わせることで製造される。皮膚並びに口内表皮を形成する有機分子であるコラーゲンは非常に自己接着性が高く、粘着性を提供し、口内表皮に非常に良好に接着する。コラーゲンの効果的でコスト効率が高い形態は動物の皮膚から製造される食品グレードのゼラチンである。コラーゲン分子がゆっくりと溶解しながらパッチから滲出すると、その分子は近辺の口内表皮に接着し、膜を形成する傾向がある。この膜は接触刺激および化学的刺激の両方において潰瘍に対する敏感性を大きく低減させる。
【0024】
テストでは、もし結合剤がキサンタンゴム、コニャックゴムおよびセルロース繊維であれば、効果的な乾燥重量組成物は1%から10%のGTA、20%から99%の食品グレードゼラチン並びに0%から75%の他の結合剤を有するものである。
【0025】
以下は約7%から9%のGTAを含有した接着溶解性である口内パッチを49人の被験者に対して実験した結果である。
【0026】
痛み緩和:食事前にパッチを10分から15分間使用すると潰瘍性口内炎の痛みが緩和し、食事開始時まで使用すると痛みの緩和効果は典型的な食事が終了するまで持続する。周囲組織には麻酔症状はない。
【0027】
初期手当て:ユーザが潰瘍性口内炎に早期に対処すると治療期間は短くて済む。口内炎は小さい切り傷から始まることが多い。使用者によっては潰瘍性口内炎の症状が現れる前に1時間から4時間パッチを使用すると、その切り口からは潰瘍性口内炎は発症しない。他のケースでは口内炎は痛み出す前に粘膜層が1箇所で薄くなり過ぎる感覚を伴って発症する。ユーザによってはそのような箇所にパッチを適用すると潰瘍性口内炎は悪化しない。ユーザは、潰瘍性口内炎が非常に小さく、痛みも軽いときにパッチを使用するとパッチは痛みが大きくなる前に和らぎ、治癒も促進されると報告した。
【0028】
舌の治療:舌の治療のために大抵のユーザはパッチ(両面で抽出物を放出)を対象疾患部に最も近い歯の箇所に貼り付ける。これは特に夜間に有効に作用する。
【0029】
歯列矯正具:歯列矯正具を使用するユーザはパッチを潰瘍性口内炎に対面する矯正具の箇所に貼り付け、パッチが潰瘍性口内炎と常時接触し、歯と矯正具に接着状態となるようにする。軟化するに従ってパッチは矯正具内に沈着する。パッチは3時間から9時間で矯正具から完全に溶け出す。パッチはその間中GTAを口内炎部に供給する。
【0030】
以上、本発明の特定実施例を解説したが、発明の範囲はそれらの記述内容によって限定されず、本明細書の「請求の範囲」によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1a】図1aは完全に溶解(侵食)する口内パッチの側面図である。
【図1b】図1bは図1の口内パッチの平面図である。
【図2】図2は潰瘍性口内炎を覆っている層状の口内パッチを示す。
【図3】図3は粉末をコンパクト化することで成型された凹部を有したドーム型口内パッチを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口内潰瘍を治療する方法であって、
(a)接着性口内パッチを準備するステップであって、該口内パッチは、少なくとも5mm四方または5mm径であり、口内温度で水溶性であるグリシルリチン酸の塩を含有しており、唾液に曝露されるとグリシルレチン酸を放出することを特徴とするステップと、
(b)前記パッチの使用者に対して、口内潰瘍の治療のために潰瘍上またはその近辺で該パッチを保持するように指示するステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
塩はグリシルレチン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項記載の方法。
【請求項3】
塩はグリシルレチン酸のカリウム塩であることを特徴とする請求項記載の方法。
【請求項4】
パッチは唾液内で溶解するゴムを含んでいることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
ゴムはキサンタンゴムであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
ゴムはコニャックゴムであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項7】
ゴムはゼラチンであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項8】
ゴムはイナゴマメゴムであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項9】
ゴムはアカシアゴムであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項10】
接着パッチであって、少なくとも5mm四方または5mm径であり、口内に保持されると一度に口内の複数箇所に分散することのない単一物質として残留してゆっくりと溶解し、持続的にグリシルレチン酸を放出するものであり、乾燥重量で、
(a)口内温度で水溶性である1%から10%のグリシルレチン酸の塩と、
(b)50%から99%の結合剤成分と、
から本質的に成ることを特徴とする接着パッチ。
【請求項11】
塩はグリシルレチン酸のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項10記載の接着パッチ。
【請求項12】
塩はグリシルレチン酸のカリウム塩であることを特徴とする請求項11記載の接着パッチ。
【請求項13】
グリシルレチン酸は2%から6%であることを特徴とする請求項10記載の接着パッチ。
【請求項14】
歯または歯列矯正器具に接着する凹部を有した接着トローチであって、
少なくとも2方向で少なくとも5mmのサイズである凸面と、該凸面の反対側の凹面とを有したトローチを含んでおり、前記凹面は接着剤を含んでいることを特徴とする接着トローチ。
【請求項15】
口内に保持されると溶解することを特徴とする請求項14記載の接着トローチ。
【請求項16】
グリシルレチン酸を放出することを特徴とする請求項14記載の接着トローチ。
【請求項17】
ベンゾカインを放出することを特徴とする請求項14記載の接着トローチ。
【請求項18】
コラーゲンを放出することを特徴とする請求項14記載の接着トローチ。
【請求項19】
凹面は少なくとも0.5mmの深さを有していることを特徴とする請求項14記載の接着トローチ。
【請求項20】
接着剤はアカシアゴムを含んでいることを特徴とする請求項14記載の接着トローチ。
【請求項21】
接着剤はコラーゲンを含んでいることを特徴とする請求項14記載の接着トローチ。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−535304(P2009−535304A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505479(P2009−505479)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/009032
【国際公開番号】WO2007/120768
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(505333997)オラヘルス コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】