説明

口腔用組成物

【課題】モノフルオロリン酸イオン供給化合物のpH7以上での保存安定性を高め、象牙質知覚過敏予防又は治療の効果をより向上させることができる口腔用組成物の提供。
【解決手段】フッ素イオン供給化合物を含有する第1組成物(A)と、カルシウムイオン供給化合物及びモノフルオロリン酸イオン供給化合物を含有する造粒物である第2組成物(B)を含んでいる口腔用組成物であって、第2組成物(B)に含まれているカルシウムイオン供給化合物が、結晶水の少なくとも一部が除去されたものであり、第2組成物(B)が濃度10質量%の水溶液にしたときのpH(25℃)が7以上のものである、口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、象牙質知覚過敏予防又は治療に用いることができる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食などの刺激が直接歯髄の神経に伝達される象牙質知覚過敏が問題になっている。この象牙質知覚過敏の予防や治療には、象牙質にある象牙細管を閉塞させることにより、熱や酸などによる外部刺激の神経への伝達を遮断することが重要である。
【0003】
象牙質知覚過敏予防及び治療処置として、5%フッ化ナトリウムを歯に塗布することが行われている。この塗布処置は歯に含まれるカルシウム及び唾液中のカルシウムを利用して象牙細管の閉塞を行っていたため、フッ化カルシウムの形成に時間がかかり、象牙細管の閉塞効果が得られるまでの時間が長い、もしくは処置による効果の持続性が低いという問題点があった(非特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、(A)フッ化物イオン供給化合物と、無機リン酸又はその塩とを含有する第1組成物と、(B)有機酸カルシウム塩を含有する第2組成物とを混合し、知覚過敏症状を呈する象牙質部分に適用することで、短時間の処理で多くのフッ化物を効率的に歯に取り込ませることを可能にし、かつ、処理の際に生じるフッ化カルシウムやリン酸カルシウム粒子による象牙細管を閉塞する効果により、象牙質知覚過敏に対する高い防止効果を得ることができる口腔用剤が提案されている。
【0005】
この特許文献1には、耐酸性を高めるために、第2組成物(B)にモノフルオロリン酸ナトリウムを0.01〜20質量%配合した口腔用剤も提案されている。しかし、この口腔用剤においては、製剤中に含まれる水分に関する詳細な条件が含まれていないため、原料からの水分の持込をコントロールしない場合、保存中に、第2組成物(B)に配合したモノフルオロリン酸ナトリウムがカルシウム塩と相互作用を起こし、加水分解によりフッ化カルシウム、オルトリン酸、ピロリン酸が生じ、歯への吸着性能が大幅に低下してしまうという問題がある。
【0006】
特許文献2には、特定の酸を用いてpHを4〜6.2に調整することによって、モノフルオロリン酸イオンとカルシウムイオンが共存していてもその相互作用を抑制し、モノフルオロリン酸塩の保存安定性を向上させる方法が開示されている。しかし、フッ化カルシウムやリン酸カルシウムの歯への吸着性能はpH7以上で高くなること、むし歯は酸による歯の溶解により生じるため、予防には酸の中和が行われることが望ましく、初期むし歯の再石灰化も中性条件で進行しやすくなるため、剤は中性から弱塩基性であることが望まれる。
【0007】
カルシウムイオン供給化合物及びモノフルオロリン酸イオン供給化合物を含有するpH7以上の製剤において、カルシウムイオン供給化合物及びモノフルオロリン酸イオン供給化合物の保存安定性を長期に渡って維持する方法は、これまで存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-47903号公報
【特許文献2】特開2005-206592号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】小林賢一ら訳「Tooth Wearと象牙質知覚過敏」医歯薬出版 2003年 p.357
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、カルシウムイオン供給化合物とモノフルオロリン酸イオン供給化合物を含む組成物において、モノフルオロリン酸イオン供給化合物のpH7以上での保存安定性を高め、象牙質知覚過敏予防又は治療の効果をより向上させることができる口腔用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、カルシウムイオン供給化合物として結晶水の少なくとも一部を除去したものを含有すると、カルシウムイオンとモノフルオロリン酸イオンが共存していても、その相互作用が抑制され、保存安定性が飛躍的に高められることを見出した。その結果、再石灰化に有効なカルシウムイオンやリン酸イオンを安定に供給できることを見出した。
【0012】
本発明は、フッ素イオン供給化合物を含有する第1組成物(A)と、カルシウムイオン供給化合物及びモノフルオロリン酸イオン供給化合物を含有する造粒物である第2組成物(B)を含んでいる口腔用組成物であって、
第2組成物(B)に含まれているカルシウムイオン供給化合物が、結晶水の少なくとも一部が除去されたものであり、
第2組成物(B)が濃度10質量%の水溶液にしたときのpH(25℃)が7以上のものである、口腔用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る口腔用組成物を用いると、モノフルオロリン酸イオン供給化合物とカルシウムイオン供給化合物が共存していても、その相互作用が抑制されて保存安定性が飛躍的に高められるばかりでなく、再石灰化に有効なカルシウムイオンやリン酸イオンを安定に供給できる。このため、より多くの微粒子上のフッ化カルシウムやリン酸カルシウムを歯に吸着させやすくすることができ、象牙質の知覚過敏の予防や治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例における第2組成物(B)の保存試験方法(条件2)を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<口腔用組成物>
〔第1組成物(A)〕
第1組成物(A)に含有されるフッ素イオン供給化合物としては、直接フッ素イオンを供給可能な塩で、口腔内で使用可能な物質であれば特に限定されず、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化スズ、フッ化アンモニウム、フッ化リチウムなどの無機性フッ化物、アミンフッ化物等の有機性フッ化物が挙げられ、中でも安全性、溶解性及び風味等の点からフッ化ナトリウム、フッ化スズ、フッ化リチウム、フッ化アンモニウムが好ましい。
【0016】
本発明の第1組成物(A)は、第2組成物(B)との混合性の観点から、フッ素イオン供給化合物、必要に応じて含有する他の成分及び精製水からなる水溶液であることが好ましい。
【0017】
第1組成物(A)のpH(実施例記載の測定方法により求められる)は、7〜12が好ましく、7〜10がより好ましく、7〜9が更に好ましい。
【0018】
フッ素イオン供給化合物の含有量は、第1組成物(A)中に0.05〜10質量%が好ましく、更に0.1〜5質量%、特に0.1〜1質量%が好ましい。
【0019】
〔第2組成物(B)〕
第2組成物(B)に含有されるカルシウムイオン供給化合物としては、グリセロリン酸カルシウム、グルコースー1−リン酸カルシウム、グルコースー6−リン酸カルシウム、リン酸化オリゴ糖カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム、乳酸カルシウム、硝酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、イソ酪酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、サリチル酸カルシウム及びそれらの混合物が挙げられる。これらのカルシウムイオン供給化合物の中でも、味の良さの点から乳酸カルシウムやグリセロリン酸カルシウム等が好ましい。
【0020】
カルシウムイオン供給化合物は、結晶水の少なくとも一部が除去されたものを用いる。ここで「結晶水の少なくとも一部が除去された」とは、例えば、乳酸カルシウムは5水和物であり結晶水を持つが、少なくとも4水和物以下にまで結晶水が除去されることを意味する。この結晶水の少なくとも一部が除去されることにより、モノフルオロリン酸イオン供給化合物とカルシウムイオン供給化合物が共存していても、その相互作用が抑制され、保存安定性が飛躍的に高められる。
【0021】
カルシウムイオン供給化合物の含有量は、第2組成物(B)中に0.05〜50質量%が好ましく、更に0.1〜30質量%、特に1〜20質量%が好ましい。
【0022】
第2組成物(B)に含有されるモノフルオロリン酸イオン供給化合物としては、モノフルオロリン酸ナトリウム(以下、MFPと記載する場合がある)、モノフルオロリン酸カリウム、モノフルオロリン酸マグネシウム、モノフルオロリン酸カルシウム等が挙げられるが、モノフルオロリン酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
モノフルオロリン酸イオン供給化合物の含有量は、第2組成物(B)中に0.05〜20質量%が好ましく、更に0.1〜5質量%、特に0.2〜1質量%が好ましい。
【0024】
第2組成物(B)は、更に糖アルコールもしくは非う蝕性糖類とバインダーを含有することが、造粒し易くし、使用時のハンドリング性も良くなるために好ましい。
【0025】
糖アルコールとしては、ラクチトール、イソマルチトール、マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール、イソマルトテトライトール、エリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等が挙げられる。かかる糖アルコールは、D体、L体のいずれであってもよく、またその混合物であってもよい。非う蝕性糖類としては、トレハロース、オリゴ糖類が挙げられる。
【0026】
第2組成物(B)中の糖アルコールもしくは非う蝕性糖類の含有量は、10〜70質量%が好ましく、更に20〜65質量%、特に40〜65質量%が好ましい。
【0027】
第2組成物(B)に配合するバインダーとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェノールエーテル等から選ばれる1種以上を用いることができる。ポリエチレングリコール等のバインダーの数平均分子量は、第2組成物(B)を造粒する際の粘度調整の観点から、ポリスチレン(溶媒:水/エタノール)を標準としたGPC法で、4,000〜20,000が好ましく、更に6,000〜13,000、特に7,000〜9,000が好ましい。
【0028】
第2組成物(B)中のバインダーの含有量は、10〜40質量%が好ましく、更に15〜35質量%、特に20〜30質量%が好ましい。
【0029】
第2組成物(B)中に含まれる総水分質量(W1)(実施例に記載の方法により測定される)は、カルシウムイオン及びリン酸イオンの安定性を高める観点から少ない方が好ましく、前記W1とモノフルオロリン酸イオン供給化合物の質量(W2)(実施例に記載の方法により測定される第2組成物(B)に配合した質量)との比率(W1/W2)が3以下であることが好ましく、2.8以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。
【0030】
第2組成物(B)のpH(実施例記載の測定方法により求められる)は、7〜12が好ましく、7〜10がより好ましく、7〜9が更に好ましい。
【0031】
〔その他の成分〕
本発明の口腔用組成物には、前記成分の他、一般に用いられるアニオン界面活性剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩、N−アシルサルコシネート塩等のN−アシルアミノ酸塩等を含有してもよい。また、口腔用組成物に一般的に用いられている、無水ケイ酸、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等の研磨剤、グリセリン、ポリエチレングリコール(上記のとおり、バインダーとしても使用できる)等の湿潤剤、発泡剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン等の粘結剤、サッカリンナトリウム等の甘味剤、着色剤、パラオキシ安息香酸メチル等の保存剤、塩化ベンゼトニウム、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の殺菌剤、β―グリチルレチン酸、トコフェロール等の抗炎症剤、硝酸カリウム、香料等を適宜含有させることができる。これらの成分は、第1組成物(A)及び第2組成物(B)の両方又はいずれか一方に配合することが好ましいが、第1組成物(A)と第2組成物(B)とは別に配合してもよい。
【0032】
本発明の口腔用組成物は、第1組成物(A)と第2組成物(B)を含むものであり、第1組成物(A)と第2組成物(B)の比率(質量比)は、フッ化カルシウム形成の観点から第1組成物(A)/第2組成物(B)が0.1〜10が好ましく、0.5〜2がより好ましく、0.8〜1.2がさらに好ましい。
【0033】
本発明の口腔用組成物のpH(実施例記載の測定方法により求められる)は、フッ化カルシウムやリン酸カルシウムの凝集、定着を促進させるため、7以上であることが好ましく、より好ましくは7〜12であり、8〜12が更に好ましい。
【0034】
本発明の口腔用組成物は、保存時には、第1組成物(A)と第2組成物(B)が、非接触状態で容器に充填されているものが好ましい。
具体的には、内部が2室に仕切られた容器を用い、2つの室にそれぞれ第1組成物と第2組成物を充填する保存方法、第1組成物と第2組成物を別々の容器に充填する保存方法等を適用することができる。
第2組成物を充填する室又は容器は、第2組成物の吸湿による劣化を抑制するため、透湿性の低い材料で包囲されているか又は形成されていることが好ましく、例えば、アルミニウム層を形成したり、アルミピロー等を容器にしたりすることができる。
【0035】
<口腔用組成物の製造方法>
本発明の口腔用組成物は、第1組成物(A)と第2組成物(B)を別々に製造して得られるものであり、望ましくは上記した比率(質量比)の範囲内にて、使用時に第1組成物(A)と第2組成物(B)を混合する。
【0036】
第1組成物(A)は、フッ素イオン供給化合物、その他の必要に応じて配合される他の成分と、好ましい形態である水溶液にするときには、更に精製水(純水、滅菌水等)を混合して、製造する。
【0037】
第2組成物(B)は、
(b1)カルシウムイオン供給化合物の結晶水の少なくとも一部を除去した後に、モノフルオロリン酸イオン供給化合物のほか、糖アルコール、糖類、バインダー、その他の必要に応じて配合される他の成分とともに混合した後、造粒して製造する方法、
(b2)カルシウムイオン供給化合物、モノフルオロリン酸イオン供給化合物のほか、糖アルコール、糖類、バインダー、その他の必要に応じて配合される他の成分とともに混合した後、造粒し、その後乾燥する方法、
を適用して製造することができる。
なお、方法(b1)を適用する場合でも、モノフルオロリン酸イオン供給化合物、糖アルコール、その他の必要に応じて配合される他の成分を予め乾燥してもよいし、必要に応じて、造粒後に更に乾燥してもよい。
【0038】
カルシウムイオン供給化合物の結晶水の除去方法は特に制限されるものではなく、常圧又は減圧下、常温(15〜30℃)又は加熱雰囲気(例えば、赤外線加熱)にて保持する方法を適用することができる。例えば、乳酸カルシウム(5水和物)の場合、約80℃で約1時間以上乾燥処理することにより、結晶水を除去することができ、約80℃で約24時間乾燥することにより、ほぼ無水物にすることができる。
【0039】
造粒後の乾燥方法は、常圧又は減圧下、常温(15〜30℃)又は加熱雰囲気(例えば、赤外線で80〜120℃程度に加熱)にて保持する方法を適用することができる。
【0040】
第2組成物(B)に含有される各成分を混合する際には、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)、ハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製)、ナウターミキサー(ホソカワミクロン株式会社製)、リボン型混合機(株式会社特寿工作所製)、V型ブレンダ(株式会社ダルトン製)、ベンチニーダ(株式会社入江商会)等の公知の混合機を用いることができる。
【0041】
第2組成物(B)の造粒方法としては、押出造粒法、転動造粒法、解砕造粒法、流動層造粒法、噴霧造粒法、破砕造粒法等が挙げられるが、押出造粒法及び転動造粒法がより好ましい。
【0042】
押出造粒法で使用する押出造粒機としては、ペレッターダブル、ツインドームグラン、ディスクペレッター(ダルトン株式会社製)、バスケット式整粒機(株式会社菊水製作所製)、グラニュライザ(ホソカワミクロン株式会社製)、特開平10−192688号公報記載の横押出式スクリュー型押出造粒機等の公知の押出造粒機が挙げられる。また、エクストルードオーミックス(ホソカワミクロン株式会社製)のような混練押出装置も使用することができる。押出スクリーン径は、好ましくは0.3〜2.0mm、より好ましくは0.4〜1.5mm、更に好ましくは0.4〜1.0mmであり、円筒状又はヌードル状造粒物等の形態で押し出すことができる。
【0043】
転動造粒法を使用する場合には、造粒収率等の観点から、特に撹拌転動造粒法が好ましい。
撹拌転動造粒法で使用する撹拌転動造粒機としては、撹拌羽根を備えた主撹拌軸を内部の中心に有し、更に混合を補助し粗大粒子の発生を抑制するための補助撹拌軸を一般的には主撹拌軸と直角方向に壁面より突出させた構造を有するものが挙げられる。かかる撹拌転動造粒機としては、主撹拌軸が垂直に設置されているものとしては、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機株式会社製)、ハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製)、バーチカルグラニュレーター(富士産業株式会社製)等が挙げられる。主撹拌軸が水平に設置されているものとしては、レディゲミキサー(松坂技研株式会社製)、プローシェアミキサー(太平洋機工株式会社製)等が挙げられる。
【0044】
また、造粒物を得た後、圧縮成型物の合一化や塊状化を抑制するために冷却を行い、その後、必要に応じて整粒を行うことができる。整粒する際に使用される機器に特に限定はなく、周知の粉砕機(又は破砕機)を用いることができる。例えば、ハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製)、マルメライザー(ダルトン株式会社製)、スパイラーフロー(フロイント産業株式会社製)、フィッツミル(ダルトン株式会社製)、パワーミル(パウレック株式会社製)、コーミル(Quadro社製)等が挙げられる。
【0045】
このようにして製造した第1組成物(A)と第2組成物(B)は、上記したように、非接触状態で容器に充填して保存することが好ましい。
【0046】
<口腔用組成物の使用方法>
本発明の口腔用組成物は、使用時において、第1組成物(A)と第2組成物(B)を混合してから使用する方法が好ましい。
【0047】
本発明の口腔用組成物の使用方法としては、
使用時において、第1組成物(A)と第2組成物(B)を混合した後、口腔内に入れ、歯と接触させる使用方法(歯に塗布する方法、歯に噴霧する方法等の歯と接触させる方法も含まれる)、
使用時において、口腔内に第1組成物(A)と第2組成物(B)を入れ、口腔内にて混合して、歯と接触させる使用方法、
使用時において、第1組成物(A)と第2組成物(B)を混合した後、混合物を用いて歯磨きする方法等を適用することができる。
【実施例】
【0048】
実施例1 歯科用処理剤
第1組成物(A)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合し調製した。
【0049】
第2組成物(B)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合した。なお、乳酸カルシウム及びグリセロリン酸カルシウムは予め80℃で1昼夜(24時間)乾燥処理を施した後、各原料と混合した。混合にはハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製LFS−2(全容量2L))を用い、表1の組成の中でポリエチレングリコールを除く原料をアジテーター回転数850rpm、チョッパー回転数1350rpmの条件で5分間混合した。
その後、予め溶融させたバインダーとなるポリエチレングリコール(花王株式会社製、商品名:K−PEG6000LA)を投入し、更に1分混合した。次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン株式会社製:ペレッターダブルEXD−100型)により孔径0.5mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、整粒機(パウレック株式会社製:パワーミル)で粉砕して顆粒を得た。
調製した第1組成物(A)と第2組成物(B)は、各々等量で隔離された密閉容器に充填した。
【0050】
実施例2 歯科用処理剤
第1組成物(A)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合し調製した。
【0051】
第2組成物(B)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合した。なお、乳酸カルシウムは予め80℃で1昼夜(24時間)乾燥処理を施した後、各原料と混合した。混合にはハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製LFS−2(全容量2L))を用い、表1の組成の中でポリエチレングリコールを除く原料をアジテーター回転数850rpm、チョッパー回転数1350rpmの条件で5分間混合した。
その後、予め溶融させたバインダーとなるポリエチレングリコール(花王株式会社製、商品名:K−PEG6000LA)を投入し、更に1分混合した。次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン株式会社製:ペレッターダブルEXD−100型)により孔径0.5mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、整粒機(パウレック株式会社製:パワーミル)で粉砕して顆粒を得た。
調製した第1組成物(A)と第2組成物(B)は、各々等量で隔離された密閉容器に充填した。
【0052】
実施例3 歯科用処理剤
第1組成物(A)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合し調製した。
【0053】
第2組成物(B)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合した。なお、乳酸カルシウムは、実施例1と同様にして予め乾燥処理を施した後、各原料と混合した。混合にはハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製LFS−2(全容量2L))を用い、表1の組成の中でポリエチレングリコールを除く原料をアジテーター回転数850rpm、チョッパー回転数1350rpmの条件で5分間混合した。
その後、予め溶融させたバインダーとなるポリエチレングリコール(花王株式会社製、商品名:K−PEG6000LA)を投入し、更に1分混合した。次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン株式会社製:ペレッターダブルEXD−100型)により孔径0.5mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、整粒機(パウレック株式会社製:パワーミル)で粉砕して顆粒を得た。
調製した第1組成物(A)と第2組成物(B)は、各々等量で隔離された密閉容器に充填した。
【0054】
実施例4 歯科用処理剤
第1組成物(A)の調整
表1の組成に従い、各原料を混合し調製した。
【0055】
第2組成物(B)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合した。なお、乳酸カルシウムは、実施例1と同様にして予め乾燥処理を施した後、各原料と混合した。混合にはハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製LFS−2(全容量2L))を用い、表1の組成の中でポリエチレングリコールを除く原料をアジテーター回転数850rpm、チョッパー回転数1350rpmの条件で5分間混合した。
その後、予め溶融させたバインダーとなるポリエチレングリコール(花王株式会社製、商品名:K−PEG6000LA)を投入し、更に1分混合した。次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン株式会社製:ペレッターダブルEXD−100型)により孔径0.5mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、整粒機(パウレック株式会社製:パワーミル)で粉砕して顆粒を得た。
調製した第1組成物(A)と第2組成物(B)は、各々等量で隔離された密閉容器に充填した。
【0056】
実施例5 歯科用処理剤
第1組成物(A)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合し調製した。
【0057】
第2組成物(B)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合した。混合にはハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製LFS−2(全容量2L))を用い、表1の組成の中でポリエチレングリコールを除く原料をアジテーター回転数850rpm、チョッパー回転数1350rpmの条件で5分間混合した。
その後、予め溶融させたバインダーとなるポリエチレングリコール(花王株式会社製、商品名:K−PEG6000LA)を投入し、更に1分混合した。次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン株式会社製:ペレッターダブルEXD−100型)により孔径0.5mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、整粒機(パウレック株式会社製:パワーミル)で粉砕して顆粒を得た。その後、得られた顆粒を流動層乾燥機(フロイント産業株式会社製:スパイラーフロー)で約80℃で40分間乾燥した。
調製した第1組成物(A)と第2組成物(B)は、各々等量で隔離された密閉容器に充填した。
【0058】
比較例1 歯科用処理剤
第1組成物(A)の調製
表1の組成に従い、各原料を混合し調製した。
【0059】
第2組成物(B)の調製
表1の組成に従い各原料を混合した。混合にはハイスピードミキサー(深江パウテック株式会社製LFS−2(全容量2L))を用い、表1の組成の中でポリエチレングリコールを除く原料をアジテーター回転数850rpm、チョッパー回転数1350rpmの条件で5分間混合した。
その後、予め溶融させたバインダーとなるポリエチレングリコール(花王株式会社製、商品名:K−PEG6000LA)を投入し、更に1分混合した。次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン株式会社製:ペレッターダブルEXD−100型)により孔径0.5mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、整粒機(パウレック株式会社製:パワーミル)で粉砕して顆粒を得た。
調製した第1組成物(A)と第2組成物(B)は、各々等量で隔離された密閉容器に充填した。
【0060】
(1)pHの測定方法
第1組成物(A)、第2組成物(B)、口腔用組成物のpHは、次の方法で測定した。
サンプルを25℃の精製水で10倍に希釈し、pHメーター(堀場製作所(株)製D−51S)を使用して25℃で測定した。
【0061】
(2)水分量及び質量測定
第2組成物(B)中に含まれる総水分質量(W1)は、次の方法で測定した。
サンプル2gを秤量し、赤外線水分計(ケット科学研究所(株)製FD−610)を使用し、120℃/Autoの条件で水分を測定した。
【0062】
(3)モノフルオロリン酸イオンの残存率評価及びフッ素吸着量の評価
(3-1)第2組成物の保存条件
第2組成物は密閉容器に入れ、次に記す条件で保存した。
条件1:50℃で1ヶ月間
条件2:60℃〜−15℃のサイクル条件で6日間(図1に示すサイクル)
【0063】
(3-2)モノフルオロリン酸イオンの残存率の測定
条件1及び条件2で保存した第2組成物(B)を用いて、保存前後の顆粒中に含まれるモノフルオロリン酸イオンを測定し、前後の値から計算したモノフルオロリン酸イオンの残存率を求めた。モノフルオロリン酸イオンの定量はイオンクロマトグラフィーにより検量線法にて定量を行った。イオンクロマト装置は、ダイオネクス製DX−320(EG−40装備)を用いて、分離カラムIonPac AS−16、ガードカラムIonPac A0−70mmol/L(0−20min)、サプレッサー ASRS(200mA)、検出器は電気伝導度検出器を使用した。
【0064】
(3-3)フッ素吸着量の測定
表1に示す第1組成物(A)と条件1及び条件2で保存した第2組成物(B)をイオン交換水でそれぞれ3倍に希釈し、HAPペレット(ヒドロキシアパタイトペレット)を交互に15秒ずつ6回浸漬(計3分)した。その後HAPペレットを水で洗浄した。HAPペレットを1N塩酸で30秒間処理し吸着したフッ素を抽出し、フッ素イオン電極(ionplus-Fluoride(ORION社製))を用い、イオンアナライザー(Expandable ionAnalyzer EA940(ORION社製))を使用して定量した。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例1〜5の第2組成物(B)に含有されるモノフルオロリン酸イオンは、条件2で保存しても高い残存率を示した。また、実施例1〜3及び5の第2組成物(B)に含有されるモノフルオロリン酸イオンは、条件1で保存しても高い残存率を示した。すなわち、結晶水の少なくとも一部を除去したカルシウム塩を用いたことにより、保存中におけるモノフルオロリン酸イオン供給化合物との相互作用が抑制され、保存安定性が保たれたことが確認された。
一方、比較例1の第2組成物(B)に含有されるモノフルオロリン酸イオンは、条件1で保存すると残存率が0%となった。すなわち、結晶水を除去していないカルシウム塩との相互作用が抑制されず、殆どのMFPが分解されてしまったものと認められる。
【0067】
また、実施例1〜5のフッ素吸着量は、比較例1の吸着量より高かった。すなわち、比較例1では、結晶水を除去していないカルシウム塩との相互作用が抑制されず、加水分解を受け、HAPペレットへのフッ素取り込みが極めて低くなったものと考えられる。
【0068】
以上の結果から、本発明(実施例1〜5)の口腔用組成物は、知覚過敏症状を有する歯の象牙質を補修する効果が期待され、歯科用処理剤として好適であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素イオン供給化合物を含有する第1組成物(A)と、カルシウムイオン供給化合物及びモノフルオロリン酸イオン供給化合物を含有する造粒物である第2組成物(B)を含んでいる口腔用組成物であって、
第2組成物(B)に含まれているカルシウムイオン供給化合物が、結晶水の少なくとも一部が除去されたものであり、
第2組成物(B)が濃度10質量%の水溶液にしたときのpH(25℃)が7以上のものである、口腔用組成物。
【請求項2】
第2組成物(B)に含まれている水分の質量が、モノフルオロリン酸イオン供給化合物の質量1に対して3以下である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
第2組成物(B)が、糖アルコールもしくは非う蝕性糖類及びバインダーを含有している請求項1又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
第1組成物(A)が水溶液である請求項1〜3のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項5】
pHが7以上である請求項1〜4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
第1組成物(A)と第2組成物(B)が、非接触状態で容器に充填されている請求項1〜5のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の口腔用組成物の製造方法であって、
前記口腔用組成物が、第1組成物(A)と第2組成物(B)を別々に製造したものから得られるものであり、
第2組成物(B)の製造方法が、カルシウムイオン供給化合物の結晶水の少なくとも一部を除去した後にモノフルオロリン酸イオン供給化合物を含む成分とを混合する工程を含んでいる、口腔用組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−126802(P2011−126802A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285384(P2009−285384)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】