説明

口腔用組成物

【課題】口腔内細菌に対する殺菌活性を有する塩化セチルピリジニウムの歯牙表面への吸着効果を向上させ、かつ歯牙へのステイン付着を抑制させた口腔用組成物の提供。
【解決手段】炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物と塩化セチルピリジニウムを配合した口腔用組成物。炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物が、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内細菌に対する殺菌活性を有する塩化セチルピリジニウムの歯牙表面への吸着効果を促進するとともにステインの付着を抑制した口腔用組成物に関する。より詳細には、塩化セチルピリジニウム及び4〜8個の炭素数を有するジオールを含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化セチルピリジニウムは口腔内細菌に対する殺菌活性が高いだけでなく、口腔粘膜や歯牙表面に吸着し、歯牙や口腔粘膜の表面への口腔内細菌の吸着を阻害し、口腔衛生状態を改善したり、歯垢形成を抑制したりすることが知られている。そのため、塩化セチルピリジニウムは歯周疾患、口臭の予防・改善を目的として多くの口腔用組成物に配合されている。
【0003】
この塩化セチルピリジニウムのようなカチオン性殺菌剤の口腔内細菌に対する殺菌活性をさらに高めるために種々の方法が開示されている。特許文献1には、塩化セチルピリジニウムにN−長鎖アシル塩基性アミノ酸の低級アルキルエステルまたはその塩を組み合わせると塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着が促進されること、さらに特許文献2には、N−長鎖アシル塩基性アミノ酸の低級アルキルエステルまたはその塩によるカチオン性殺菌剤の歯牙への吸着促進作用が、pH5.5〜6.5の領域において最も高まることが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、カチオン性殺菌剤と非イオン性界面活性剤とを併用した口腔用組成物に対し、特定の化合物を配合すると、殺菌剤の失活が効果的に防止されることが開示されている。また、特許文献4には、塩化セチルピリジニウムに特定のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を組合せると他の界面活性剤と比べて塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を阻害しないことが開示されている。さらに、特許文献5には、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着性を高めるために、ポリビニルアルコールが用いられている。しかし、塩化セチルピリジニウムは歯牙のステイン付着を助長するため、歯牙表面が経時的に着色し、歯の美観を損ねるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−36231号公報
【特許文献2】特開平9−286712号公報
【特許文献3】特開昭60−255717号公報
【特許文献4】特開平4−173728号公報
【特許文献5】特開2003−113059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、口腔内細菌に対する殺菌活性を有する塩化セチルピリジニウムの歯牙表面への吸着効果を向上させるとともに、ステインの付着を抑制した口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、塩化セチルピリジニウムに4〜8個の炭素数を有するジオールを配合した場合、塩化セチルピリジニウムの歯牙表面への吸着効果が高まるとともに、歯牙へのステインの付着を抑制することができる口腔用組成物が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、特に以下の項1〜10の口腔用組成物または方法を提供するものである。
項1.
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物からなる群より選ばれる1以上のジオール化合物および塩化セチルピリジニウムを含有することを特徴とする口腔用組成物。
項2.
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物が、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオ−ルであることを特徴とする項1に記載の口腔用組成物。
項3.
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物が、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル-1,3-ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールであることを特徴とする項1に記載の口腔用組成物。
項4.
塩化セチルピリジニウムの配合量が、0.01〜0.1質量%であることを特徴とする項1〜3の何れかに記載の口腔用組成物。
項5.
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物の合計の配合量が、0.1〜15質量%であることを特徴とする項1〜4の何れかに記載の口腔用組成物。
項6.
口腔用組成物が、液体若しくは液状の口腔用組成物であることを特徴とする項1〜5の何れかに記載の口腔用組成物。
項7.
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物からなる群より選ばれる1以上のジオール化合物および塩化セチルピリジニウムを併用することにより、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進する方法。
項8.
エチルアルコ-ルの配合量が5質量%以下であることを特徴とする項6に記載の口腔用組成物。
項9.
エチルアルコールを配合しないことを特徴とする項6に記載の口腔用組成物。
項10.
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物からなる群より選ばれる1以上のジオール化合物および塩化セチルピリジニウムを併用することにより、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進し、かつステインの歯牙への付着を抑制する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用組成物は、塩化セチルピリジニウムの活性をさらに高めて歯牙表面への吸着効果を促進することにより、う蝕や歯周病などを引き起こす口腔内細菌の歯牙表面への付着を阻害して歯垢の形成を効果的に抑制することが可能となり、その上でさらに歯牙に対するステインの付着を抑制することで歯牙の美観を保持させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る口腔用組成物は、炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物からなる群より選ばれる1以上のジオール化合物および塩化セチルピリジニウムを配合することを特徴とするものである。
【0011】
本発明に用いる塩化セチルピリジニウムは、第四級アンモニウム化合物に含まれるカチオン性殺菌剤であり、口腔用組成物分野において広く使用されているものである。かかる塩化セチルピリジニウムは、本発明の口腔用組成物の全量に対して0.01〜0.1質量%を配合することができ、好ましくは0.05質量%を配合することができる。0.01質量%未満になると、塩化セチルピリジニウムの歯牙表面への吸着効果が低下してしまい、一方0.1質量%を超えると、使用時の苦味、歯の着色等の問題が生じてしまうため好ましくない。
【0012】
本発明に用いる炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物は、特に限定されるものではないが、具体的には、炭素数4個のジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールが、炭素数5個のジオールとしては、2−メチル−1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオールが、炭素数6個のジオールとしては、2,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−2,3−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオールが、炭素数7個のジオールとしては、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールが、炭素数8個のジオールとしては、1,2−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール、2,3−オクタンジオール、2,4−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールが挙げられる。これらのうち1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールが好ましく、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールがより好ましく、2−メチル−2,4−ペンタンジオールが最も好ましい。これらはそれぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。配合量としては、通常0.1〜20質量%であり、1〜15質量%が好ましく、香味の点から1〜5質量%が最も好ましい。
【0013】
本発明の口腔用組成物には、歯牙に対するステインの付着を助長する恐れがあるため、エチルアルコールの配合量を5質量%以下に抑えることが好ましく、配合しないことが最も好ましい。
【0014】
本発明の口腔用組成物は、特に限定するものではないが、練歯磨剤、液体歯磨剤、洗口剤、ジェル剤、パスタ剤、スプレー剤、ガム剤、軟ペースト剤(クリーム状製剤)、軟膏状製剤、等の形態(剤形)として用いることができる。このなかでも、軟ペースト剤(クリーム状製剤)などの液体若しくは液状の形態が好ましく、洗口液剤、液体歯磨剤、スプレー剤などの液体の形態がより好ましく、洗口液剤が最も好ましい。
【0015】
本発明の口腔用組成物は、炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物および塩化セチルピリジニウムの他に、本発明の効果を損なわない範囲であれば、通常口腔用組成物に配合し得る成分をさらに配合してもよい。
【0016】
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレン付加係数が4〜15、アルキル基の炭素数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系またはポリオキシエチレン付加係数が10〜18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、セバシン酸ジエチル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレンラノリン、ポリエチレンステロール、ポリエチレンラノリンアルコール、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩、ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤、N−ココイル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤、N−ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0017】
香味剤としては、例えばメントール、カルボン、サリチル酸メチル、バニリン、ベンジルサクシネート、メチルオイゲノール、アネトール、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネロール、メチルアセタート、シトロネニルアセテート、シネオール、エチルリナロール、ワニリン、タイム、ナツメグ、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、ティーツリー油、タバナ油、スターアニス油、フェンネル油、珪藻油、バジル油などが挙げられる。これら香料は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
研磨剤としては、例えば研磨性沈降シリカ、研磨性ゲルシリカなどの研磨性シリカ、リン酸水素カルシウム・二水和物および無水物、リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、第3リン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、不溶性メタリン酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、ポリメタクリル酸メチル、パミス(軽石)、ベントナイト、合成樹脂などが挙げられる。これら粘結剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
粘結剤としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、キサンタンガム、ジェランガムなどの微生物産生高分子、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、カラギーナン、デキストリンなどの天然高分子または天然ゴム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子、増粘性シリカ、ビーガムなどの無機粘結剤、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースなどのカチオン性粘結剤が挙げられる。これら粘結剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
甘味剤としては、例えばサッカリン、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビアエキス、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、ソウマチン、アスパルチルフェニルアラニンメチルエステル、メトキシシンナミックアルデヒド、パラチノース、パラチニット、エリスリトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトールなどが挙げられる。これら甘味剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
湿潤剤としては、例えばグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビット、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
保存剤としては、例えばメチルパラベン、プロピルパラベンなどのパラベン類、安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩などが挙げられる。これらの保存剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
またpH調整剤としては、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸、アスパラギン酸、コハク酸、グルクロン酸、フマル酸、グルタミン酸、アジピン酸、およびこれらの塩や、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの成分は単独または2種以上を組合せて本発明の口腔用組成物に含ませることができる。なお、本発明の口腔用組成物は、口腔内で使用できる範囲であれば、そのpHは特に制限されないが、通常pH3.0〜10.5、好ましくはpH5.5〜8.0である。
【0024】
薬効成分としては、殺菌剤として塩化セチルピリジニウム以外にも例えば塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムなどのカチオン性殺菌剤;ドデシルジアミノエチルグリシンなどの両性殺菌剤;イソプロピルメチルフェノール、トリクロサンなどの非イオン殺菌剤;デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)などの酵素;抗炎症剤としてグリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウムなどのグリチルリチン酸塩;血行促進剤としてニコチン酸または酢酸トコフェロールなど;抗プラスミン剤としてトラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸など;出血改善剤としてアスコルビン酸など;組織修復剤としてアラントインなど;再石灰化剤としてフッ化ナトリウムなどのフッ素化合物;その他、水溶性溶媒で抽出された植物抽出物、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、塩化亜鉛、ヒノキチオールなどが挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0025】
また、本発明の口腔用組成物には、N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステルまたはその塩を配合することができる。塩基性アミノ酸部分は、特に、オルニチン、リジン、アルギニンがよく、これらは光学活性体またはラセミ体のいずれであってもよい。アシル基は、炭素数8〜22の飽和または不飽和の天然または合成脂肪酸残基であり、例えば、ラウロイル基、ミリスチル基、パルミトイル基、ステアロイル基などの単一脂肪酸残基が例示され、ヤシ油脂肪酸残基、牛油脂肪酸残基などの天然系の混合脂肪酸残基であってもよい。低級アルキルエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルが例示される。これらのN−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステルの塩としては、塩酸塩、硫酸塩のような無機酸塩;グルタミン酸塩、ピログルタミン酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、脂肪酸塩、酸性アミノ酸塩などの有機酸塩が挙げられる。特に、グルタミン酸塩、ピログルタミン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩が好適である。N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステルまたはその塩としては、具体的には、N−ココイル−L−アルギニンエチルエステル・ピロリドンカルボン酸塩(CAE)、N−ラウリル−L−アルギニンエチルエステル・ピロリドンカルボン酸塩等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
【0027】
塩化セチルピリジニウムの歯牙表面への吸着評価方法
歯牙のエナメル質のモデルとして、ヒドロキシアパタイト粉末(BIO−RAD Lab. Hydroxyapatite Bio−Gel HTP Gel)(以下「HA」と略する。)50mgを 紫外線滅菌したヒト唾液2mlに37℃にて15時間浸漬して人工ペリクルをアパタイト表面に形成させ、その後、遠心処理(3000rpm、10分間)し、上清を除去した。次に、各溶液サンプル2mlに上記ヒドロキシアパタイトを37℃にて15分間浸漬し、遠心処理(3000rpm、10分間)を行なった後に、上清を除去した。さらに、蒸留水2mlを添加し攪拌した後に、遠心処理(3000rpm、10分間)を行い、上清を除去する操作を2回行なった。次に下記の抽出液を用いヒドロキシアパタイトに吸着しているCPCを抽出し、HPLCで定量してヒドロキシアパタイト50mgに滞留したCPC量を求めた。なお、塩化セチルピリジニウムの吸着量の単位は、μgである。

判断基準
◎:塩化セチルピリジニウムの吸着量が680以上
○:塩化セチルピリジニウムの吸着量が650以上680未満
×:塩化セチルピリジニウムの吸着量が650未満
【0028】
ステインの付着量評価方法
アクリル板(10mm×30mm×5mm)を、0.3%牛血清アルブミンに2分間、蒸留水に30秒間、試験サンプルに2分間、蒸留水に30秒間の順に浸漬処理した。次いで、1000mlの沸騰水に10gの紅茶葉を加え、2分間抽出した紅茶抽出液に60分間浸漬処理した。処理後のアクリル板は、蒸留水に30秒間浸漬後、自然乾燥させ、アクリル板表面の色調を、395nmにおける吸光度を測定することにより測定した。さらに、紅茶抽出液の浸漬処理およびアクリル板の吸光度測定の操作を10回繰り返した。

判断基準
4:吸光度の測定値が0.60未満
3:吸光度の測定値が0.60以上0.64未満
2:吸光度の測定値が0.64以上0.67未満
1:吸光度の測定値が0.67以上
【0029】
総合評価
総合評価は下記の基準に従って行なった。

判断基準
◎ : 塩化セチルピリジニウムの吸着量評価が ◎
かつ ステインの付着量評価が 4
○ : 塩化セチルピリジニウムの吸着量評価が ◎
かつ ステインの付着量評価が 3または2の何れか
または
塩化セチルピリジニウムの吸着量評価が ○
かつ ステインの付着量評価が 4、3または2の何れか
× : 塩化セチルピリジニウムの吸着量評価が ×
または
ステインの付着量評価が 1
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表1及び2に示したとおり、炭素数が4〜8のジオール化合物および塩化セチルピリジニウムを配合した組成物は優れたステインの付着抑制効果と塩化セチルピリジニウムのヒドロキシアパタイト表面への吸着性を示すことがわかった。比較例1の処方に1,2−デカンジオールを3質量%配合した処方も作製したが、組成物が均一にならなかったため評価を実施しなかった。
【0034】
以下、本発明に係る口腔用組成物の実施例の処方を挙げるが、本発明は下記の処方に限定されるものではない。
【0035】
処方例1 洗口剤

成分 配合量
塩化セチルピリジニウム 0.05
3−メチル−1,3−ブタンジオール 3.0
グリセリン 10.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.4
香料 0.1
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.02
サッカリンナトリウム 0.01
pH調整剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0
【0036】
処方例2 洗口剤

成分 配合量
塩化セチルピリジニウム 0.1
1,2−ペンタンジオール 3.0
グリセリン 10.0
キシリトール 5.0
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 0.2
香料 0.1
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
トリクロサン 0.02
pH調整剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0
【0037】
処方例3 洗口剤

成分 配合量
塩化セチルピリジニウム 0.05
2−エチル−1,3−ヘキサンジオール 1.0
グリセリン 10.0
1,3−ブチレングリコール 3.0
モノラウリン酸デカグリセリル 0.3
香料 0.1
サッカリンナトリウム 0.01
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
pH調整剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0
【0038】
処方例4 洗口剤(希釈タイプ)

成分 配合量
塩化セチルピリジニウム 1.0
オクタンジオール 5.0
エタノール 40.0
グリセリン 10.0
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 1.5
香料 1.0
サッカリンナトリウム 0.5
pH調整剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0
【0039】
処方例5 液体歯磨

成分 配合量
塩化セチルピリジニウム 0.1
2−メチル−2,4−ペンタンジオール 2.0
グリセリン 10.0
プロピレングリコール 1.0
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 0.2
香料 0.1
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
サッカリンナトリウム 0.01
β−グリチルレチン酸 0.01
pH調整剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0
【0040】
処方例6 液体歯磨

成分 配合量
塩化セチルピリジニウム 0.05
3−メチル−1,3−ブタンジオール 3.0
グリセリン 10.0
エタノール 3.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.4
ヒドロキシエチルセルロース 0.3
香料 0.1
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
トリクロサン 0.02
サッカリンナトリウム 0.01
pH調整剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0
【0041】
処方例7 液体歯磨

成分 配合量
塩化セチルピリジニウム 0.05
1,2−ペンタンジオール 2.0
モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20)
ソルビタン 0.2
グリセリン 10.0
エタノール 3.0
香料 0.1
サッカリンナトリウム 0.01
pH調整剤 適 量
精製水 残 部
合計 100.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物からなる群より選ばれる1以上のジオール化合物および塩化セチルピリジニウムを含有することを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物が、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオールであることを特徴とする請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物が、1,2−ブタンジオール、1,3ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル-1,3-ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールであることを特徴とする請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
塩化セチルピリジニウムの配合量が、0.01〜0.1質量%であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の口腔用組成物。
【請求項5】
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物の合計の配合量が、1〜15質量%であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の口腔用組成物。
【請求項6】
口腔用組成物が、液体若しくは液状の口腔用組成物であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の口腔用組成物。
【請求項7】
炭素原子を4〜8個分子内に有するジオール化合物からなる群より選ばれる1以上のジオール化合物および塩化セチルピリジニウムを併用することにより、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進する方法。

【公開番号】特開2011−148706(P2011−148706A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8718(P2010−8718)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】