説明

口腔用組成物

【課題】生体適合性に優れ、安全性に問題がなく、かつ、優れた抗う蝕作用を有する、更なる有用な抗う蝕剤、該抗う蝕剤を含有する口腔用組成物、ならびに該抗う蝕剤の有効成分を含有する、う蝕の進行抑制及び/又は予防用食品を提供すること。
【解決手段】式(I):


(式中、Rは、水素、糖類、又は脂肪酸類を示し、但し、全てのRは同一でも異なってもよい)
で表わされる、1,5-D-アンヒドログルシトール又はその誘導体を含有してなる、抗う蝕剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗う蝕剤に関する。さらに詳しくは、1,5-D-アンヒドログルシトール(本明
細書では「1,5-AG」と略す場合がある)又はその誘導体を含有する抗う蝕剤、該抗う蝕
剤を含有する口腔用組成物、ならびに1,5-AG又はその誘導体を含有する、う蝕の進行抑制及び/又は予防用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕(虫歯)の主たる原因菌は、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans、以降、ミュータンス菌と記載する)と呼ばれるレンサ球菌である。ミュータンス菌は、菌体の内外にグルコシルトランスフェラーゼ(GTase)という酵素を産生し、該酵素がス
クロースを基質として水不溶性グルカンを産生する。この水不溶性グルカンは、歯面に付着する性質も有するため、ミュータンス菌は該水不溶性グルカンを介して歯面に付着し、歯垢(プラーク)を形成する。歯垢には、ミュータンス菌だけでなく様々な口腔内細菌が繁殖し、これらの口腔内細菌が糖類を代謝して酸を産生する。産生された酸は歯のエナメル表面を脱灰し、その結果、う蝕が引き起こされる。
【0003】
従って、う蝕の進行抑制及び/又は予防をする方法としては、
(1)ミュータンス菌等のう蝕原因菌を口腔内から排除する方法、
(2)ミュータンス菌の歯面への付着を阻止する方法、
(3)脱灰作用を有する酸の産生を抑制する方法、
(4)歯面を強化する方法
等が考えられる。なかでも、ミュータンス菌の歯面への付着を阻止する方法として、グルコシルトランスフェラーゼ(GTase)の作用を阻害してグルカン合成を抑制する方法が注目
されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、キダチミカンソウ、ウバメガシ、ハマボウフウ、ボタンボウフウ、及びバナバからなる群より選択される少なくとも1種の植物から抽出される成分が、GTase阻害作用を有することが報告されている。また、特許文献2ではアカバナ科マツ
ヨイグサ属植物の極性溶媒抽出物が、特許文献3では桑葉抽出物が、それぞれ、GTase阻
害作用を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−119117号公報
【特許文献2】特開2006−306844号公報
【特許文献3】特開2008−280314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、植物抽出物は、原料となる植物の栽培環境や、植物から抽出する際の抽出条件の相違などで、品質に差が生じる場合があるなど、得られる効果の再現性の面等からも満足な効果が得られるとは言い難い。
【0007】
また、特許文献1〜3における抽出物は、生体内における代謝排泄過程が十分には解明されていないため、安全性が未だ不明である。一方、合成抗菌剤などは、口腔用製品に配合するには十分に安全であるとは言えない。
【0008】
本発明の課題は、生体適合性に優れ、安全性に問題がなく、かつ、優れた抗う蝕作用を有する、更なる有用な抗う蝕剤、該抗う蝕剤を含有する口腔用組成物、ならびに該抗う蝕剤の有効成分を含有する、う蝕の進行抑制及び/又は予防用食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
〔1〕 式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは、水素、糖類、又は脂肪酸類を示し、但し、全てのRは同一でも異なっても
よい)
で表わされる、1,5-D-アンヒドログルシトール又はその誘導体を含有してなる、抗う蝕剤、
〔2〕 前記〔1〕記載の抗う蝕剤を含有してなる口腔用組成物、ならびに
〔3〕 式(I):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rは、水素、糖類、又は脂肪酸類を示し、但し、全てのRは同一でも異なっても
よい)
で表わされる、1,5-D-アンヒドログルシトール又はその誘導体を含有し、う蝕の進行抑制及び/又は予防のために用いられるものである旨の表示を付した食品
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗う蝕剤は、生体適合性に優れ、安全性に問題がなく、かつ、優れた抗う蝕作用を有するという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ミュータンス菌による糖の資化試験の結果を示す図である。
【図2】図2は、ミュータンス菌の生育阻害試験(D-グルコース)の結果を示す図である。
【図3】図3は、ミュータンス菌の生育阻害試験(スクロース)の結果を示す図である。
【図4】図4は、ミュータンス菌の生育阻害試験(糖アルコール)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の抗う蝕剤は、う蝕の進行抑制及び/又は予防に有効な成分として、1,5-D-アンヒドログルシトール(1,5-AG)又はその誘導体を含有することに大きな特徴を有する。なお、1,5-AG又はその誘導体の含有量は、抗う蝕剤中、好ましくは0.1重量%以上、より
好ましくは1.0重量%以上、さらに好ましくは実質的に100重量%であることから、本発明の抗う蝕剤は、1,5-AG又はその誘導体からなるものであってもよい。なお、本明細書において、「抗う蝕」とは、う蝕の進行抑制及び/又は予防作用のことを意味し、「抗う蝕剤」とは、そのような作用を有する剤のことを意味する。
【0017】
1,5-AGは、α-D-グルコースの1位が還元された非還元糖であり、1,5-AG又はその
誘導体としては、具体的には、式(I):
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Rは、水素、糖類、又は脂肪酸類を示し、但し、全てのRは同一でも異なっても
よい)
で表わされる化合物が挙げられる。一般的に、還元糖は、環のアノマー位にヒドロキシ基を有して、6員環状態と開環した状態との平衡状態をとることから、反応性が高く、中性やアルカリ性条件下では不安定であり、分解して着色する。一方、非還元糖は、環のアノマー位に反応性官能基を有さないため、閉環状態を維持して反応性が低く、液性に関係なく安定である。よって、1,5-AGは上記構造をとることから、反応性が低く安定な非還元糖であると言える。また、1,5-AGは、体内に最も多く存在するポリオールの一つであり、尿中より体外に排泄され、合成抗菌剤等の非天然化合物に比べて、生体内での安全性がはるかに高いといえる。これらより、1,5-AGは生体適合性に優れ、安全性に問題がなく、かつ、生体内の蓄積性がないことが明らかである。
【0020】
一方、ミュータンス菌はスクロース由来のグルコースを代謝(資化)することが知られている。そこで、本発明者らが検討した結果、1,5-AGはミュータンス菌によって代謝されないことが判明した。従って、1,5-AGを摂取しても、ミュータンス菌による代謝が起こらずに、歯の脱灰に関与する酸の産生が抑制される。
【0021】
また、1,5-AGは、GTaseの作用を阻害し、さらにはミュータンス菌自身の生育をも阻
害することが判明した。これにより、1,5-AGの摂取は、GTaseによるグルカン合成を抑
制し、ひいてはプラーク形成も抑制されるため、ミュータンス菌の歯面への付着を抑制することができると考えられる。また、ミュータンス菌の生育も阻害するために、う蝕の原因菌の排除につながると考えられる。
【0022】
式(I)におけるRは、水素、糖類、又は脂肪酸類を示し、但し、全てのRは同一でも異
なってもよい。
【0023】
糖類としては、アルドース、ケトース、アルジトール、デオキシ糖、アンヒドロ糖、アミノ糖、イノシトール、アルドン酸、ウロン酸、アルダル酸、カルバ糖、チオ糖、イミノ糖、アザ糖等の炭素数3〜7の化合物である単糖類、ならびにそれらを構成成分とする二糖類及び多糖類が挙げられる。なお、構成する糖の構造はピラノース、フラノースなどの環状、直鎖のいずれでもよい。具体的には、キシロース、リキソース、アラビノース、リボース、グルコース、アロース、ガラクトース、イドース、タロース、マンノース、アルトロース、エリスリトール、キシリトール、リビトール、エリスリトール、アラビトール、マンニトール、ソルビトール、アリトール、タリトール、ガラクチトール、イディトール、myo−イノシトール、リブロース、キシルロース、フルクトース、プシコース、タガ
トース、ソルボース、ラムノース、フコース、グルクロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン等の単糖類;マルトース、ラクトース、トレハロース、イソマルトース、スクロース、セロビオース、ニゲロース等の二糖類;前記単糖類、二糖類がα1‐2結合、α1‐3結合、α1‐4結合、α1‐6結合、β1‐2結合、β1‐3結合、β1‐4結合、β1‐6結合などの各結合様式で結合した多糖類等が例示される。
【0024】
これらのなかでは、口腔内での分解性の観点から、グルコース、ガラクトース、グルクロン酸、マルトース、イソマルトース、ラクトースが好ましい。なお、これらの糖類を有する誘導体は、口腔内でアミラーゼ、マルターゼ、リパーゼ、あるいは口腔内細菌が持つ加水分解酵素によって加水分解されて1,5-AGに変換される。
【0025】
脂肪酸類としては、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸等の炭素数2〜20の脂肪酸が好ましく、炭素数8〜20の脂肪酸がより好ましい。これらの脂肪酸類を有する誘導体は、口腔内においてリパーゼ、口腔内細菌などによって加水分解され、あるいは口腔内の生理的酸性またはアルカリ性条件に曝露されることで加水分解されて1,5−AGに変換される。
【0026】
1,5-AG及びその誘導体は、市販品であっても、当該分野で公知の方法〔例えば、特開2008−54531号公報、J. Am. Chem. Soc. 72, 4547(1950)に記載の方法〕により合成されたものであってもよい。市販品としては、1,5-アンヒドログルシトール(和光純
薬社製)等が例示される。
【0027】
本発明の抗う蝕剤は、生体適合性に優れ、安全性に問題がなく、かつ、優れた抗う蝕作用を有することから、本発明ではさらに、本発明の抗う蝕剤を含有する口腔用組成物を提供する。
【0028】
本発明の口腔用組成物としては、1,5-AG又はその誘導体を含有するものであれば特に限定はなく、歯磨剤、洗口剤(マウスウォッシュ)、口中清涼剤、うがい剤、義歯用洗浄剤、歯肉マッサージ用剤等の各種形態の組成物が挙げられる。なお、歯磨剤としては、ペースト状の練歯磨、流動性のある液状歯磨、水とほぼ同じ粘性の液体歯磨が含まれる。
【0029】
本発明の口腔用組成物は、1,5-AG又はその誘導体以外に、公知の有効(薬効)成分、研磨剤、湿潤剤、増粘剤、界面活性剤、香料、甘味料、着色料、防腐剤、pH調整剤等を、本
発明の効果を損なわない範囲で、適宜選択して配合することができる。具体的には、酵素、抗歯垢剤、抗菌剤、ビタミン類、フッ化物、金属塩等の有効(薬効)成分;リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、無水ケイ酸等の研磨剤;ラクチトールのような糖アルコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールのような多価アルコール等の湿潤剤;ポリエチレングリコール、グリセリン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC・ナトリウム塩)、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;ラウリル硫酸ナトリ
ウム等の界面活性剤;メントール、ハッカ油、l-カルボン等の香料、サッカリン、ステビオサイド類等の甘味料、各種色素等の着色料等が例示される。また、1,5-AGと同じ用途に使用可能な他の成分として、例えば公知のう蝕予防作用を有する成分、具体的にはキシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコールも配合することもできる。
【0030】
本発明の口腔用組成物における、1,5-AG又はその誘導体の含有量は、特に限定されないが、通常、組成物中に0.1〜99重量%が好ましい。
【0031】
本発明の口腔用組成物は、その用途及び形態に応じて、常法に従って調製することができる。
【0032】
また、本発明は、前記式(I)で表わされる、1,5-AG又はその誘導体を含有する食品を
提供する。該食品は、咀嚼、舐める等によって摂取することにより、1,5-AGを口腔内に、好ましくは歯面表面に存在させて、う蝕の進行抑制や予防の効果を発揮する。また、1,5-AGは、ミュータンス菌によって資化されるD-グルコースやスクロースの存在下においても、ミュータンス菌の生育を阻害することができるため、D-グルコースやスクロースを含有する食品に、本発明の抗う蝕剤、即ち、1,5-AG又はその誘導体を配合することで、う蝕の進行抑制や予防をすることができると考えられる。従って、本発明の食品は、う蝕進行抑制作用及びう蝕予防作用を有する保健機能食品や健康食品として、例えば、う蝕の進行抑制及び/又は予防のために用いられるものである旨の表示を付して提供することが可能になると考えられる。ここで、保健機能食品とは、厚生労働省の定める保健機能食品を意味し、栄養機能食品及び特定保健用食品を含み、保健機能食品や健康食品としては、食品及び飲料のいずれであってもよい。
【0033】
本発明の食品としては、ケーキ、クッキー、チョコレート、パン、キャンディー、チューインガム、グミ、ゼリー、炭酸飲料、果汁飲料、清涼飲料等が挙げられる。
【0034】
本発明の食品における、1,5-AG又はその誘導体の含有量は、特に限定されないが、通常、食品中に0.1〜99重量%が好ましい。
【0035】
本発明の食品は、1,5-AG又はその誘導体を含有していれば、構成成分や製造方法に特に限定はなく、例えば、1,5-AG又はその誘導体を原料として用いて製造した食品であってもよく、1,5-AG又はその誘導体を混合することにより含有させた食品であってもよい。
【0036】
本発明の食品の摂取対象者としては、好ましくは、う蝕の進行抑制や予防を要するヒトであるが、ペット動物等であってもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。なお、実施例で用いた1,5-D-アンヒドログルシトール(1,5-A
G)は、J. Am. Chem. Soc. 72, 4547(1950)に記載の方法に従って合成したものを用いた
。また、Streptococcus mutans NBRC13955株は、製品評価技術基盤機構より入手したも
のを使用した。
【0038】
実施例1 (ミュータンス菌による資化試験)
Streptococcus mutans NBRC13955株を、表1に示す種類の糖を配合した、以下に示す
組成の無機塩培地(pH7.0)にて、37℃の条件で静置培養し、経時的(0、17、24時間)に、培養液の吸光度(Abs660nm)を測定することで資化性について調べた。また培養24時間後の培養液pHを測定し、酸の生成有無を確認した。結果を表1及び図1に示す。なお、波長660nmにおける吸光度が高いほど、培養液中に存在する菌体数が増加していることを示す。
〔培地組成(単位:w/v %)〕
硫酸アンモニウム 0.26
リン酸二水素カリウム 0.24
リン酸水素二カリウム 0.56
硫酸マグネシウム七水和物 0.01
酵母エキス 0.05
糖 0.50
【0039】
【表1】

【0040】
表1及び図1より、スクロースやグルコースを含む培地では、24時間の培養後には、糖がミュータンス菌によって代謝されて酸が生成し、培養液のpHが酸性に低下していたが、1,5-AGを含有する培地では、培養液のpH変動が認められず、代謝されていないことが示唆される。
【0041】
実施例2 (ミュータンス菌の生育阻害試験;D−グルコース)
Streptococcus mutans NBRC13955株を、糖としてD−グルコースを用い、さらに表2に示す濃度の1,5-AGを配合する以外は、実施例1と同じ組成の無機塩培地(pH7.0)にて培
養し、経時的(0、17、24時間)に、培養液の吸光度(Abs660nm)を測定した。また、培養24
時間の時点での1,5-AG無添加条件(1,5-AG濃度:0w/v %)の生育を100%として、以下の式に従って生育阻害率(%)を算出した。結果を表2及び図2に示す。
生育阻害率(%)={(無添加培養液の吸光度−各添加濃度培養液の吸光度)/無添加培
養液の吸光度}×100
【0042】
【表2】

【0043】
表2及び図2より、1,5-AG濃度依存的にミュータンス菌の生育が阻害され、1,5-AGを2.0w/v %添加条件においては約25%の阻害が認められた。また、1,5-AG濃度依存的
にpHの低下が抑制される現象が確認された。
【0044】
実施例3 (ミュータンス菌の生育阻害試験;スクロース)
実施例2において、D−グルコースを0.5w/v %用いる代わりに、スクロースを0.5w/v
%用いる以外は、実施例2と同様にして培養を行い、経時的(0、17、24時間)に、培養液
の吸光度(Abs660nm)を測定した。また、生育阻害率を培養24時間の時点について、実施例2と同様にして算出した。結果を表3及び図3に示す。なお、ミュータンス菌は、培地中にスクロースが存在する場合、グルカンを生じることからAbs660nmの値は微生物菌体及び不溶性グルカンによる濁度の合計になる。
【0045】
【表3】

【0046】
表3及び図3より、1,5-AG濃度依存的にミュータンス菌の生育、及び培地のpH低下が抑制され、1,5-AGを2.0w/v %添加条件においては約45%の阻害が認められた。
【0047】
実施例4 (ミュータンス菌の生育阻害試験;糖アルコール)
実施例2において、D−グルコースを0.5w/v %用いる代わりに、スクロースを0.5w/v
%と表4に示す糖アルコールを2.0w/v %用いる以外は、実施例2と同様にして培養を行
い、経時的(0、17、24時間)に、培養液の吸光度(Abs660nm)を測定した。また、培養24時
間の時点でのControl(糖アルコール無添加)の生育を100%として、以下の式に従って生育阻害率(%)を算出した。結果を表4及び図4に示す。
生育阻害率(%)={(Control培養液の吸光度−各糖アルコール添加培養液の吸光度)/Control培養液の吸光度}×100
【0048】
【表4】

【0049】
表4及び図4より、1,5-AGを含むすべての糖アルコールがミュータンス菌の生育を阻害していることが明らかになった。なかでも、1,5-AGは他の糖に比べるとより阻害の度合いが強く、培養24時間で45%以上の阻害を示した。また、培養24時間の時点での培養液pHは、1,5-AG添加の場合のみ5.5以上であった。
【0050】
実施例5 (グルカン合成阻害試験;1,5-AG)
1,5-AG存在下で、スクロースを基質としたグルコシルトランスフェラーゼ(GTase)の
グルカン合成反応を行い、1,5-AGのグルカン合成への影響を調べた。具体的な方法を以下に示す。
【0051】
<GTaseの調製>
Streptococcus mutans NBRC13955株を、BHI(ブレインハートインヒュージョン、ニッ
スイ社製)培地500mLに植菌量1%で植菌し、37℃の条件で、ガス濃度調節剤(アネロパッ
ク)を用い、微嫌気状態にて静置培養を48時間行った。培養液を遠心して回収した上清に、終濃度60%になるように硫酸アンモニウムを加えて塩析(4℃、18時間)を行った。その
後、遠心により沈殿を回収し、50mM リン酸緩衝液(pH6.5)を10mL加えて溶解した。溶解液はアミコンウルトラ(ミリポア社製、MW30000)にて限外ろ過し、精製を行うとともに濃縮
を行った(最終液量6mL)。得られた溶液を粗GTase(粗酵素液)として実験に用いた。
【0052】
<グルカン合成阻害試験>
スクロース(終濃度1.0w/v %)、アジ化ナトリウム(終濃度0.1w/v %)、粗酵素液0.1mL
、及び、表5又は6に示す濃度の1,5-AGを、50mM リン酸緩衝液(pH6.5)に添加して(液
量3mL)、37℃の条件で静置して、24時間反応を行った。なお、グルカンには、1,3−結合
を多く含む水不溶性グルカンと、1,6−結合を多く含む水溶性グルカンとが存在するため
、それぞれについて、以下の評価方法に従って合成反応阻害を調べた。結果を表5及び6に示す。
【0053】
(水不溶性グルカンの評価)
(1) 吸光度(Abs550nm)の測定
反応液を超音波で分散後そのまま測定する。阻害活性は、1,5-AG無添加(Control)を
対照として、以下の式に従って算出する。
反応阻害率(%)={(Control反応液の吸光度−各添加濃度反応液の吸光度)/Control
培養液の吸光度}×100
【0054】
(2) フェノール硫酸法によるグルカンの定量
反応液を5分間煮沸後、遠心分離して沈殿を回収する。また、上清は後述の水溶性グル
カンの評価に用いる。得られた沈殿物は、蒸留水で2回洗浄後、1N NaOHに溶解した液(液量1mL)を10倍に希釈してフェノール硫酸法により、吸光度(Abs490nm)を測定してグルカン濃度を算出する。また、阻害活性を前記と同様にして算出する。
【0055】
(水溶性グルカンの評価)
(1) 吸光度(Abs550nm)の測定
水不溶性グルカンの評価の際に得られた上清に、3倍量のエタノールを添加した溶液の吸光度を測定する。阻害活性は、1,5-AG無添加(Control)を対照として、以下の式に従
って算出する。
反応阻害率(%)={(Control反応液の吸光度−各添加濃度反応液の吸光度)/Control
培養液の吸光度}×100
【0056】
(2) フェノール硫酸法によるグルカンの定量
水溶性グルカンの評価(1)において得られたエタノール混合溶液を、遠心分離して沈殿
物を回収する。得られた沈殿物は、70%エタノールで2回洗浄後、1N NaOHに溶解した液(液量5mL)を10倍に希釈してフェノール硫酸法により、吸光度(Abs490nm)を測定してグルカン濃度を算出する。また、阻害活性を前記と同様にして算出する。
【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
表5及び6より、水不溶性グルカン及び水溶性グルカンのいずれも、1,5-AG濃度依存的に合成が阻害されていることが分かる。
【0060】
実施例6 (グルカン合成阻害試験;糖アルコール)
実施例5において、各種濃度の1,5-AGを用いる代わりに、表7又は8に示す糖アルコールを2.5w/v %用い、かつ、反応時間を16時間に変更する以外は、実施例5と同様にし
て、糖アルコールのグルカン合成への影響を調べた。結果を表7及び8に示す。なお、反応阻害率(%)は、Control(糖アルコール無添加)の反応を100%として、以下の式に従って算出した。
反応阻害率(%)={(Control反応液の吸光度−各糖アルコール添加反応液の吸光度)/Control培養液の吸光度}×100
【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
表7及び8より、水不溶性グルカン及び水溶性グルカンのいずれも、糖アルコールを添加することにより合成が阻害されていることが分かる。なかでも、1,5-AGは、より強く阻害することが示唆される。
【0064】
これらの結果から、1,5-AGは以下の特徴を有すると判断することができるため、抗う蝕剤として優れた効果を奏するものであることが示唆される。
(1) ミュータンス菌によって代謝(資化)されないことから、脱灰に関与する酸を生じな

(2) 甘味を有するので唾液の分泌を刺激する
(3) グルコース及びスクロースを含む組成物に添加することで、ミュータンス菌の生育
を阻害する
(4) GTase活性(グルカン生成)を阻害する
【0065】
以下の配合例1〜3に示す原材料を用い、当業者に公知の方法に従って、1,5-AG含有口腔内組成物、1,5-AGを含有する、う蝕の進行抑制及び/又は予防のために用いられるものである旨の表示を付した食品を作製することができる。なお、以下に示す原材料の使用量単位は、重量%である。
【0066】
配合例1:練歯磨
1,5-AG 3
第二リン酸カルシウム 45
CMC・ナトリウム塩 1
グリセリン 20
ラウリル硫酸ナトリウム 2
l-メントール 1
水 残部
【0067】
配合例2:マウスウォッシュ
1,5-AG 3
エタノール 20
グリセリン 0.2
クロルヒキシジン 5
l-カルボン 0.005
水 残部
【0068】
配合例3:チューインガム
1,5-AG 50
チューインガムベース 20
スクロース 15
水飴 10
軟化剤 4
香料 1
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の抗う蝕剤は、生体適合性に優れ、安全性に問題がなく、かつ、優れた抗う蝕作用を有するため、う蝕の進行抑制及び/又は予防用の組成物に、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Rは、水素、糖類、又は脂肪酸類を示し、但し、全てのRは同一でも異なっても
よい)
で表わされる、1,5-D-アンヒドログルシトール又はその誘導体を含有してなる、抗う蝕剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗う蝕剤を含有してなる口腔用組成物。
【請求項3】
式(I):
【化2】

(式中、Rは、水素、糖類、又は脂肪酸類を示し、但し、全てのRは同一でも異なっても
よい)
で表わされる、1,5-D-アンヒドログルシトール又はその誘導体を含有し、う蝕の進行抑制及び/又は予防のために用いられるものである旨の表示を付した食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−37806(P2011−37806A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189386(P2009−189386)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(591286270)株式会社伏見製薬所 (50)
【Fターム(参考)】