説明

口腔用組成物

【課題】口腔内のう食原因菌および歯周病原因菌を長期にわたって抑制することができる口腔用組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式[I] (式中、nは1〜40)で表される高分子化合物0.001〜0.5重量%と、塩化セチルピリジニウム0.001〜0.1重量%を含有することを特徴とする口腔用組成物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内をすすぐ際に、あるいは、歯ブラシ等でブラッシングする際に用いられる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、口臭の予防、歯肉炎等の口腔疾患の予防、口中を爽快にするなどの目的で殺菌剤、界面活性剤、香料等を配合した歯磨き、洗口液、口中清涼剤等の口腔用組成物が用いられる。
【0003】
従来から歯磨きや洗口剤等の口腔用組成物にカチオン性殺菌剤を配合することが行われている。カチオン性殺菌剤の代表的なものとしては、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等があり、これらはう蝕、歯周疾患、口臭等の予防・改善のために配合されている。対象菌としては、う蝕原因菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、歯周疾患や口臭の原因菌であるポリフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が挙げられるが、この種のカチオン性殺菌剤配合口腔用組成物においては、口腔内の隅々まで容易に製剤を行き渡らせること、更に、口腔疾患の予防を考えた場合、隅々まで浸透した製剤が長時間滞留して、上記の菌に対する殺菌効果を発揮することが必要である。しかしながら、カチオン性殺菌剤等の薬効成分は、一般的に口腔内での滞留性が低く、特に洗口剤等の液体剤型においては、洗口後の吐き出しや飲み込みなどにより、口腔内に薬剤が十分には残り難く、このため薬効の持続性の改善が望まれているのが現状である。
【0004】
ところで、脂肪酸糖エステルを有効成分として含む抗菌剤(特許文献1)やバクチオールを有効成分として含む殺菌剤(特許文献2)等、口腔内細菌に対する多くの口腔用組成物が提案されている。その中でも、う蝕病原菌に関する報告はあるが、う蝕病原菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)に対する抗菌効果を持続的に示す口腔用組成物は報告されていない。
パラベンは、幅広い殺菌スペクトルを有するため、殺菌剤や防腐剤として多くの化粧品に使用されている。しかしながら、パラベンは、アレルギー等の皮膚障害を起こす恐れがあり、このことを表示することが薬事法で2001年まで義務付けられている「表示指定成分」とされていた物質である。また、パラベンは、皮膚との接触による炎症等が懸念されるため、現在も皮膚と接触するような化粧品には配合しないことが望まれている。そのために、経皮吸収が非常に低く、安全性の高い高分子化合物であるポリアミノプロピルビグアナイドが提案されており、身体用拭取シート(特許文献3)やコンタクトレンズ用消毒剤(特許文献4)への使用に加えて、海外においても、うがい薬(特許文献5)等に使用され、オーラルケア製品の保存剤としての利用も多い。
このように、従来技術では、薬効を持続性させることは容易でなく、特に、う蝕病原菌に対する抗菌効果を持続的に示す口腔用組成物の報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4401458号公報
【特許文献2】特許3798107号公報
【特許文献3】特開2008−295837号公報
【特許文献4】特表平08−503701号公報
【特許文献5】EP1642568号特許公開明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、口腔内細菌、特に、口腔内のう食原因菌および歯周病原因菌に対する抗菌効果を持続的に発揮することができる口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。本発明による口腔用組成物は、下記一般式[I]
【化1】

[式中、nは1〜40]で表される高分子化合物0.001〜0.5重量%と、塩化セチルピリジニウム0.001〜0.1重量%を含有することを特徴とする口腔用組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の口腔用組成物によれば、一般式[I]で表される高分子化合物中に存在する陽イオンにより、口腔粘膜に吸着する効果が非常に高く、これが薬効成分の局所滞留性を示し、その結果、高い口腔内滞留性が得られる。このように、本発明によれば、一般式[I]で表される高分子化合物の殺菌作用が口腔内で効果的に発揮されて、う蝕、歯周疾患、口臭等の予防や改善に極めて有効である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一般式[I]で表される高分子化合物は、ヘキサメチレン−1,6−ジアミンと、ヘキサメチレン−1,6−ビスジシアンジアミドを重合させることで調製することができるポリアミノプロピルビグアナイドの塩酸塩である。重合度nは1〜40、平均10〜13であり、重量平均分子量が約100000以下、好ましくは2300〜3100である。一般式[I]で表される高分子化合物は、市販品(アーチ・ケミカルズ・ジャパン社製「COSMOCIL CQ」)であっても良い。ポリアミノプロピルビグアナイドの製造法は、例えば英国特許702268号、1152243号、米国特許第4758595号に記載されている。
【0010】
本発明による口腔用組成物中の一般式[I]で表される高分子化合物の配合量は0.001重量%〜0.5重量%である。その理由は、配合量が0.001重量%未満であると口腔内のう食原因菌および歯周病原因菌に対する抑制効果が発揮されず、0.5重量%を超えると使用感がはなはだ悪くなるためである。一般式[I]で表される高分子化合物の特に好ましい配合量は、0.02重量%〜0.1重量%である。
【0011】
本発明による口腔用組成物中の塩化セチルピリジニウムの配合量は0.001重量%〜0.1重量%である。その理由は、配合量が0.001重量%未満であると口腔内のう食原因菌および歯周病原因菌に対する抑制効果が発揮されず、0.1重量%を超えると使用感がはなはだ悪くなるためである。塩化セチルピリジニウムの特に好ましい配合量は、0.01重量%〜0.05重量%である。
【0012】
本発明による口腔用組成物には、口腔内の抗菌効果を阻害しない限り通常の添加成分、例えば香料、湿潤剤、溶剤、界面活性剤、緩衝剤、消炎剤、色素、甘味剤等を配合できる。
【0013】
香料としてはペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、タイム油、セージ油、ハッカ油等の天然香料及びメントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、チモール、メントン、メンチルアセテート、ピネン等の香料が挙げられる。
【0014】
湿潤剤としては特に限定されないがプロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の多価アルコール類、ヒアルロン酸、アルギン酸、カラギーナン、ジェランガム等の多糖類、ベタイン等が挙げられる。
【0015】
溶剤としては特に限定されないが精製水、エタノールが挙げられる。
【0016】
界面活性剤としては特に限定されないがポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びその酸化エチレン付加物、グリセリン脂肪酸エステル及びその酸化エチレン付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びその酸化エチレン付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ショ糖脂肪酸エステル、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アシルアミノ酸塩、脂肪酸アミドプロピルベタイン、脂肪酸アミドベタイン等が挙げられる。
【0017】
緩衝剤としては特に限定されないが、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸及びそれらの塩等が挙げられる。
【0018】
消炎剤としては特に限定されないがグリチルリチン酸及びその塩、グリチルレチン、アズレン、ε−アミノカプロン酸、塩酸ピリドキシン、アラントイン等が挙げられる。
【0019】
甘味剤としては特に限定されないが、サッカリン、ステビオシド、スクラロース、アスパルテーム、甘草抽出物等が挙げられる。
【0020】
本発明による口腔用組成物は、歯磨き、洗口剤、口中清涼剤、含嗽剤、うがい薬等の口腔用製品に適用できる。
【0021】
以下に実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
〔洗口液の調製〕
実施例1〜7
一般式[I]で表される高分子化合物として用いる市販品(アーチ・ケミカルズ・ジャパン社製「COSMOCIL CQ」)(n=平均10〜13)、塩化セチルピリジニウム、およびその他の成分を表1に示す割合で配合し、種々の洗口液を調製した。
【0023】
比較例1〜9
一般式[I]で表される高分子化合物として用いる市販品(アーチ・ケミカルズ・ジャパン社製「COSMOCIL CQ」)(n=平均10〜13)、塩化セチルピリジニウム、およびその他の成分を表2に示す割合で配合し、種々の洗口液を調製した。
【0024】
〔各種病原菌に対する抗菌力試験〕
4×10 cfu/mLに調整した菌液を事前に培地に接種しておき、同培地上に直径8mmのペーパーディスクを置き、このペーパーディスクに上記洗口液30μlを添加し、37℃で1日間嫌気培養を行った。
【0025】
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans JCM 5175)(以下、S.mutansとする)の培地はTryptocase Soy Agar(日水製薬社製)であり、ポリフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis JCM 8525)(以下、P.gingivalisとする)の培地はYeast Extract(Becton,Pickinson and Company社製)を1mg/ml、Hemin(ナカライテスク社製)を1μg/ml、Menadion(ナカライテスク社製)を5μg/mlを添加したTryptocase Soy Agar(日水製薬社製)である。
【0026】
培養後、洗口液によって培養が阻止された円領域(以下、阻止円という)の直径を測定し、洗口液の抗菌効果を確認した。
【0027】
測定した阻止円の直径を下記の基準に従い、3段階で評価した。
◎ ; 10.0mm以上
○ ; 8.0mm以上、10.0mm未満
△ ; 8.0mm未満
【0028】
各種病原菌に対する抗菌力の評価結果を表1および表2中の下段にそれぞれ示す。
【0029】
〔抗菌持続性評価試験〕
実施例および比較例で得られた洗口液を対象として、唾液中のS.mutansの菌数を測定する検査キット「Dentocult SM(株式会社オーラルケア製)」を用いて、パネラー6名による抗菌持続性評価試験を行った。試験方法としては、洗口液ですすぐ直前(イニシャル)、洗口液10mLで20秒間口腔内をすすいで吐き出した直後と3時間後にそれぞれ口腔中の唾液を採取して、コロニーの有無を下記の基準に従い4段階で評価し、その平均値を算出した。
判定基準
3 ; 非常に多くの菌が存在する(106/ml以上)
2 ; 菌が存在する(105/ml以上、106/ml未満)
1 ; わずかに菌が存在する(105/ml未満)
0 ; 菌が存在しない
【0030】
算出したすすぎ直後と3時間後の評価の平均値から下記の式に従い、菌の抑制率を算出した。
菌の抑制率(%) = 100 − (各時間の平均値 /イニシャルの平均値)×100
【0031】
算出した菌の抑制率を下記の基準に従い、4段階で評価した。
◎ ; 80%〜100%
○ ; 40%〜79%
△ ; 21%〜39%
× ; 0%〜20%
【0032】
抗菌持続性の評価結果を表1および表2中の下段にそれぞれ示す。
【0033】
【表1】

【表2】

【0034】
〔各種病原菌に対する抗菌力試験結果〕
実施例1〜7の阻止円は比較例1〜9の阻止円と比較して大きかったので、一般式[I]で表される高分子化合物と塩化セチルピリジニウムを併用することで、S.mutansおよびP.gingivalisに対する抗菌効果が向上することが認められる。
【0035】
〔抗菌持続性評価結果〕
比較例1ではすすぎ直後でもS.mutansに対する抑制効果はなかった。比較例2、3、5〜9はすすぎ直後で抑制効果は高いが、3時間後では抑制効果は低下している。一方、実施例1〜7の抑制効果は3時間後でも高い。特に、実施例1、2、5の抑制効果は3時間後でも非常に高く、塩化セチルピリジニウムと併用することで、S.mutansに対する抑制効果の持続性が優れていることが認められる。
【0036】
以上の結果より、一般式[I]で表される高分子化合物と塩化セチルピリジニウムを配合することにより、S.mutansに対する長時間の抑制効果が得られることが分かった。特に、一般式[I]で表される高分子化合物中に存在する陽イオンにより、口腔粘膜に吸着する効果が非常に高く、口腔内に高い滞留性を与えたと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]
【化1】

[式中、nは1〜40]で表される高分子化合物の塩酸塩0.001〜0.5重量%と、塩化セチルピリジニウム0.001〜0.1重量%を含有することを特徴とする口腔用組成物。

【公開番号】特開2013−35760(P2013−35760A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171487(P2011−171487)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(500346419)NSファーファ・ジャパン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】