説明

口腔衛生用固形物

【課題】
優れた食感、おいしさ、加工の容易性、使用者にとっての携帯性、摂取の簡便性を併せ持ち、価格も安価でありながら、舌苔除去効果、及び、持続的消臭効果を発揮する口腔衛生用固形物を提供する。
【解決手段】
糖質を加熱して溶融させた後に冷却させることによって得られる表面に微細な糖質の再結晶塊を含有し、この再結晶塊によって表面に凹凸が形成され、該凹凸を舌の上に接触させることにより、舌苔が除去されるように構成し、また前記糖質を、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、パラチノース、ソルビトール、還元麦芽水飴、トレハロースのうちの一種、あるいは二種以上を混合したもので構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舌苔除去効果または口臭除去効果を有し、口腔の衛生状態を向上させることを特徴とする口腔衛生用固形物に関し、特に安全性が高く携帯性に優れた口腔衛生用固形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ストレス社会、高齢化社会に伴うドライマウス症候群の増加により、口臭症患者、歯周病患者が増加しているといわれている。また、口腔環境の悪化が、高齢者の主な死因の一つである誤嚥性肺炎の要因といわれていることや、動脈硬化や脂質代謝異常のような生活習慣病にまで影響しているという研究が活発化している等から、口腔衛生が重要視されてきている。
【0003】
このような現状から、口臭予防食品、歯磨き、うがい剤、歯磨き器具等の口腔衛生商材の多様化と市場成長が進み、また平均歯磨き時間の増加に見られるように、社会全体的な口腔衛生意識、エチケット意識も向上してきている。
【0004】
ところで、口臭治療目的で歯科を受診する患者の主な口臭要因は、歯周病菌による病的口臭であり、その大部分は、舌苔および歯周ポケットを原因としている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、口腔に障害のある者の口腔衛生に限らず、健常者の口腔衛生においても、舌苔は口臭の主な原因の一つとして注目されており、舌苔の除去は健常者の口臭除去および口臭予防にも効果を奏する。
【0006】
主な口臭の発生機構は、口中に残存した食べ滓や口腔脱落上皮細胞が、舌苔や歯周ポケット等に住み着いた歯周病細菌の酵素により分解され、システインやメチオニンのようなアミノ酸から硫化水素やメチルメルカプタンのような口臭物質へと変換されることにより発生するといわれている。
【0007】
この口臭の予防方法および治療方法としては、以下の4種類の方法がある。
<方法1:化学的消臭方法>
化学反応により無臭化する方法には、口臭物質を消臭物質に結合させたり、消臭物質によって中和、酸化分解させたりという手段がある。
【0008】
例えば、ポリフェノール素材を消臭物質とする場合には、フェノール性化合物の水酸基にメチルメルカプタンのような口臭物質が結合して不揮発化するという機構である。類似の機構を有する消臭物質としては、茶カテキン、シャンピニオンエキス、柿ポリフェノール、ローズマリー抽出物、バラ科未熟果実ポリフェノール、フラバンジェノール等、多種の素材が存在し、市販されている。
【0009】
近年、ポリフェノール素材にポリフェノールオキシターゼを併用すると、水酸基が酸化された部位に口臭物質が結合しやすくなり、その消臭効果が著しく増強されるという報告がある。例えば、ローズマリー抽出物(非特許文献2参照)、生コーヒー豆(特許文献1参照)、茶、ブドウの果皮、ブドウの種子、リンゴの各抽出物と酵素を含有する消臭組成物(特許文献2参照)等の消臭物質に適用することが提案されている。
【0010】
<方法2:物理的消臭方法>
吸着剤としてはサイクロデキストリン、活性炭等が知られており、このような吸着剤に口臭物質を吸着させて固定し消臭する。
【0011】
<方法3:着香による方法>
ミント、シナモン、ジャスミン等芳香性物質等を用いることにより、不快臭が感得されにくいように感覚的にマスキングする。
【0012】
<方法4:口腔衛生による方法>
口腔衛生環境を改善し、口臭物質を産生する歯周病菌を繁殖しにくい状態とし、細菌の活動を抑制する方法であり、例えば、医療の現場では、虫歯、歯周病、炎症の治療や、ポピドンヨード、塩化ベンゼントニウム、塩化亜鉛等の医薬品の使用がある。
【0013】
口腔衛生環境を改善するための食品系素材としては、抗菌素材として茶カテキン(特許文献3参照)、ラクトフェリン(特許文献4参照)、クランベリー等(非特許文献3参照)、歯垢分解酵素剤としてデキストラナーゼ(非特許文献4参照)、プラーク形成阻害素材としてエリスリトール(特許文献5参照)、口腔血流改善素材としてフラバンジェノール、唾液分泌促進素材として有機酸、再石灰化素材としてリン酸化オリゴ糖Ca(特許文献6参照)、歯周病菌の歯への付着抑制素材として緑茶フッ素コート素材(特許文献7参照)、口腔内の悪玉菌の低減素材として乳酸菌(特許文献8参照)、歯周病菌酵素に対する抗体としてIgY (Immunoglobulin Yolk)(特許文献9参照)などがある。
【0014】
上述の口腔衛生環境の改善による口臭の除去には前述した舌苔除去の手段もあり、この舌苔除去には、化学的除去と物理的除去がある。
【0015】
化学的除去とは、舌苔の成分であるたんぱく質を分解するというもので、キウイフルーツの酵素が効果的という報告がある(特許文献10参照)。
また物理的除去とは、表面にざらつき素材を配合したものを摂食することで、舌苔を剥ぎ落とすというものであり、みかん、リンゴの繊維(特許文献11参照)、さらに、ポリフェノールと酸化還元酵素活性を含有する植物性繊維により、化学的に消臭する効果と物理的に舌苔を剥ぎ落とす効果を併せ持つ素材も提案されている(特許文献12参照)。
【0016】
【特許文献1】特開平9−38183公報
【特許文献2】特開平10−212221公報
【特許文献3】特願2004−502965公報
【特許文献4】特開2001−348344公報
【特許文献5】特開2006−117573公報
【特許文献6】特開2002−325556公報
【特許文献7】特開2003−310170公報
【特許文献8】特開2007−131601公報
【特許文献9】特開2007−82469公報
【特許文献10】特願2003−587343公報
【特許文献11】特開2005−281230公報
【特許文献12】特開2003−9784 公報
【特許文献13】特願2000−549104公報
【非特許文献1】「FOODSTYLE21」vol.11, No.2/2007、p.47〜50
【非特許文献2】石川正夫、渋谷耕司、於保孝彦、豊嶋優子著、「歯科審美」、Vol.17,No.1,No.1、p.90〜94
【非特許文献3】「FOODSTYLE21」、vol.11, No.2/2007、p.52〜54
【非特許文献4】第28回口腔衛生学総会抄録,口衛誌,29(2)90,1979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述した従来の口臭予防方法に関しては、以下のような課題が残されている。
【0018】
従来の化学的、物理的消臭方法(前記方法1および2)では口臭を一時的に除去することは可能だが、根本的に口臭を発生させている歯周病菌を減少させることができないため、口臭がすぐに再発してしまい、消臭効果の持続性に欠ける。
【0019】
また、個々の消臭物質には、各口臭物質に対する消臭効果の選択性が大きくて、口臭の種類によっては消臭効果が弱いという問題を生じるものや、例えば茶、ハーブ、柿渋エキス、シャンピニオンエキス、クロロフィル等の植物抽出物系のポリフェノール含有素材では、苦味、渋味などの味を有していたり、素材そのものに強い臭いがあったり、または特有の色を呈したりという問題があり、食品に添加する使用方法の場合に有効量を配合できないものもある。
【0020】
さらに天然物由来の消臭物質は、その原料自体が高価であったり、原料自体は安価であっても抽出のコストが掛かったりするために、一般に価格が高く、有効量の配合が困難である場合が多い。
【0021】
前記着香による方法(前記方法3)で口臭をマスキングする場合、ミント香料等をガムや錠菓に配合して、口臭を感じにくくするという手段が一般的に行われるが、このマスキングによる方法も一時的な消臭効果を得られるに過ぎず、またマスキング用の芳香性物質として、通例香気の強いものを採択する傾向が高く、その香気を感じるヒトによっては芳香と見なしても、第三者は不快に感じる場合が往々にしてある。
【0022】
前記口腔衛生による方法(前記方法4)すなわち口腔衛生環境の改善に関する方法では、口腔衛生に関する効果の強い薬剤を使用する場合、薬剤に副作用の懸念があって長期投与することができない、医師の処方が必要で個人的な実施ができないという問題がある。
【0023】
また、医薬品は口中に塗付するにあたり、風味が悪く不快であるものが多い。一方、比較的効果の弱い食品素材では、ハーブ、茶、ヨモギ、柿渋エキス等植物抽出物系の抗菌、或いは、プラーク形成阻害素材等が存在するが、苦味、渋味などの味を有していたり、強い臭いがあったり、または特有の色を呈するなどという問題がある。
【0024】
すなわち、このような物質を消臭物質として有効量使用すると、適用した食品、口腔用剤の味質、風味、色などに影響を及ぼす可能性があるため、食品、口腔用剤への適用範囲が限定されてしまう。
【0025】
また、リゾチームやデキストラナーゼ、ラクトフェリン、IgY抗体のようなたんぱく質素材は、機能の発現にその立体構造が重要であり、その立体構造は概ね60℃以上の熱により損傷を受けるために、加熱工程を有する食品に配合した場合、その機能性が失われるという問題があり、多くの食品への利用は不適である。
【0026】
舌苔除去の方法に関しては、物理的除去では、不溶性植物繊維を配合する(特許文献11参照)、パルプを配合する(特許文献12参照)という提案があるが、これらの素材は、主にガムやグミ、キャラメルのようなチューイングキャンディ、或いは、錠剤のように噛んで食す基材には適しているが、舐めて食すハードキャンディに配合した場合、ざらつきが生じ、舐めることで舌や上顎が痛むという不快なテクスチャーとなってしまう。
【0027】
また、化学的除去に関しては、舌苔の主成分であるたんぱく質を分解する酵素が配合されているが(特許文献10参照)、酵素は概ね60℃程度でその活性を失うため、ハードキャンディのような100℃以上の加熱工程の入る食品には配合したとしてもその活性が失われるものである。
【0028】
その他の舌苔除去手段では、食品以外の口腔ケア器具も色々と市販されている。例えばその中で、舌ブラシに関しては、舌の表面を傷つけ味覚障害を引き起こす可能性が指摘されており、また、舌ブラシは洗面所などで使用するために、使用場所が限られ、携帯性が悪いなどの欠点もある。
【0029】
口臭予防食品の基材としては、近年、ガム、フィルム、スプレー、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠菓、コーティンググミキャンディ、ハードキャンディ等、多種多様な商品が市販されているが、物理的に舌苔を落とすという方法においては、長時間、舌の上で転がしたり舐めたりする摂食法であるハードキャンディが妥当と考えられる。
【0030】
しかし、ハードキャンディでは表面が滑らかであるがゆえに、植物繊維のように不快なざらつきのある素材は配合すべきではなく、また100℃以上の加熱加工工程を経なければならないため前述のような酵素類の素材を配合することは困難である。
【0031】
なお、前述したキシリトールやエリスリトールに関しては、歯周病菌が資化することができないことから、古くから、虫歯になりにくい糖質とされており、近年、ガムを中心とした使用が拡大しており、最近の研究では、これらの糖質は歯周病菌の巣であるプラークの形成を阻害するという、新たな機能性が見出されており、歯磨き等にも利用されている(特許文献5参照)。しかし、これらの報告では、舌苔を除去する効果に関しては言及していない。
【0032】
また、キシリトールの発明国であるフィンランドの特許に、キシリトール微細結晶(粉末)の製法が示されており、その製法によって得られたキシリトール微細結晶を利用した口腔衛生用品に関して記載している(特許文献13参照)。しかし、その内容はマウスリンスや歯磨きにキシリトール微細結晶を配合するということであり、舌苔の除去に関するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0033】
以上の課題を解決するために、全く不快感を与えない糖質の再結晶塊の微細な凹凸を舌の上で作用させ、舌苔を物理的に剥ぎ取ることによって、口腔衛生環境を改善し、口臭を持続的に低減させるということを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0034】
しかして本発明に係る口腔衛生用固形物は、糖質を加熱して溶融させた後に冷却させることによって得られる表面に微細な糖質の再結晶塊を含有し、この再結晶塊によって表面に凹凸が形成され、該凹凸を舌の上に接触させることにより、舌苔が除去されるように構成したものとしてある。
【0035】
また前記糖質を、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、パラチノース、ソルビトール、還元麦芽水飴、トレハロースのうちの一種、あるいは二種以上を混合したもので構成したものとしてある。
【0036】
さらに前記再結晶塊を含有する層と、同再結晶塊を含有しない表面の滑らかな層との複層に構成したものとしてある。
【0037】
また、前記再結晶塊を含有する層を下層とし、かつ再結晶塊を含有しない層を上層となるように上下2層構造に構成したものとしてある。
【0038】
さらに、前記再結晶塊を含有する層を芯層とし、かつ再結晶塊を含有しない層を外周層となるように内外2層構造に構成し、前記芯層を、その上下端部が表面に露出するように構成したものとしてある。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、再結晶表面の微細な凹凸構造という物理的特性によって、口臭の原因となる口腔細菌が繁殖する舌苔が除去されて口腔内の細菌が減少させられ、持続的な消臭効果をはじめとする口腔衛生効果が発揮された。
【0040】
また、糖質としてキシリトールやエリスリトールを含有するものでは、歯周病菌が資化できないという化学的特性をも併せ持ち、さらに口腔衛生効果を向上せしめることができる。
【0041】
そして本発明の口腔衛生用固形物は、優れた食感、おいしさ、加工の容易性、使用者にとっての携帯性、摂取法の容易性、安全性を併せ持ち、価格も安価でありながら、舌苔除去効果と持続的消臭効果を十分に発揮することができ、また、口腔衛生用固形物の基材そのものが口腔衛生効果を有するため、既存の口腔ケア素材との組み合わせにより、さらなる口臭除去効果を生み出すことができ、汎用性の高い口腔衛生固形物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
まず、実施例について説明する。
【実施例1】
【0043】
図1は本発明に係る口腔衛生用固形物の一例を示し、タブレット状の単層無垢固形物1として構成されている。
本実施例の固形物の製法は以下のとおりである。
キシリトール100重量部に対し、溶解水10重量部を添加、溶解させ、195℃になるまで煮詰める。この煮詰め液を90℃まで冷却させ、結晶の種としてキシリトール微粉を少量添加するとともに、消臭・抗菌素材としてローズバッツエキスを少量添加し、ホモゲナイザーにて良く攪拌する。85℃程度に保温しながら鋳型に充填し、冷却すると、単層の固形物ができる。
【実施例2】
【0044】
図2は上下2層に構成した固形物2の一例を示し、下層3がキシリトールの再結晶からなる、舌苔を落とす作用部分であり、上層4が還元麦芽水飴からなる滑らかな非結晶固形物からなる構造としてある。
【0045】
この実施例2のものは、次の手順にて製造する。
固形物上層部:還元麦芽水飴を195℃まで煮詰め、140℃まで冷却させ、消臭素材としてフィチン酸、消臭・抗菌素材としてローズバッツエキスを添加し、140℃に保温しながら攪拌する。
固形物下層部:キシリトール100重量部に対し、溶解水10重量部を添加、溶解させ、195℃までに詰める。この煮詰め液を90℃まで冷却させ、結晶の種としてキシリトール微粉を少量と、抗菌素材として緑茶エキスを少量添加し、85℃に保温しながら、ホモゲナイザーにて良く攪拌する。
【0046】
なお前記緑茶エキスは消臭効果の強い素材であるが、褐色を呈するので、透明で鮮やかなキャンディ等にはその色味を害すため微量しか配合することはできない。しかし、キシリトール結晶塊に配合することで、その色調が出にくく、十分な消臭効果を発揮させることが可能となる。
【0047】
固形物の鋳型に対し、まず、上層部4を充填し、数分間冷却して固め、その上から、下層部3を充填すると図2のような上下2層構造の固形物が完成する。
【0048】
本実施例2のように、上顎と接する固形物上層部分4を滑らかな固形物とし、舌に接する固形物下層部分3を微細な凹凸を有するキシリトールなどの再結晶固形物とした上下2層構造とすることで、上層部がより滑らかで、全く上顎に違和感を与えることなく、下層部3で舌苔を落とし、持続的に口臭を予防することが可能となる。また、2層構造の固形物においては、結晶化を妨げるような素材を下層部に配合することはできないが、物性の異なる上層部には配合することができ、下層と上層の組合せ効果が発揮される。
【実施例3】
【0049】
図3は、タブレット状の固形物5を内外の2層構造に構成したものを示し、内側の芯層たる芯部7が外周層たる側部6の中心部分を上下に貫通するいわば芯部貫通型固形物としてある。
【0050】
この実施例3のものでは、芯部7がキシリトールの再結晶からなる、舌苔を落とす作用部分であり、側部6が還元麦芽水飴からなる滑らかな非結晶固形物からなる構造としてある。
【0051】
この実施例3のものは、次の手順にて製造する。
側部:還元麦芽水飴を195℃まで煮詰めてから140℃まで冷却させ、消臭素材としてフィチン酸、消臭・抗菌素材としてローズバッツエキスを添加し、140℃に保温しながら攪拌する。
芯部:キシリトール100重量部に対し、溶解水10重量部を添加、溶解させ、195℃まで煮詰める。この煮詰め液を90℃まで冷却させ、結晶の種としてキシリトール微粉を少量と、抗菌素材として緑茶エキスを少量添加し、85℃に保温しながら、ホメゲナイザーにて良く攪拌する。
【0052】
そしてリング状の鋳型に対し、まず、側部を充填し、数分間冷却して固め、リング状の側部を作成する。続いてリング構造の芯部の空洞部分にキシリトール溶液を充填し、冷却させると図3のような芯部貫通型の固形物が完成する。
【0053】
芯部貫通型構造とする理由は、側部6を滑らかにし、芯部7に微細な凹凸を有するキシリトール結晶部を位置させることで、口腔内で固形物を転がしたときに、より滑らかな食感にするという目的や、機能を発揮する芯部を、使用者により意識させるというデザインとする、または、2層構造の固形物と同様で、結晶化を妨げるような素材を芯部に配合することはできないが、物性の異なる側部には配合することができ、芯層と側層の組合せ効果が発揮されるものである。
【0054】
前記キシリトールの結晶塊が、固形物の表面に広く露出したほうが口腔衛生の効果がより強く発揮される傾向にあるので、芯部のサイズは、口腔衛生の効果、食感、製品のデザイン性等を考慮して、任意に決めることができる。
【0055】
実施例1乃至実施例3によって得られた口腔衛生用固形物の消臭効果を、米国インタースキャン社の口臭測定器ハリメーターRH17Kを用いて測定した結果を図4に示す。キシリトールの結晶塊のみでも消臭効果を発揮するが、さらに様々な消臭素材を配合することで、さらに消臭効果が増強されている。
【0056】
以上の実施例1、2、3の製造方法条件については任意で、攪拌の方法、攪拌時間、温度、シードの粒子サイズ等で結晶表面の凹凸サイズを調整することも可能である。また、キシリトールの一部を、マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、マンニトール、パラチノース、トレハロース、還元麦芽水飴のような別の糖質に置き換えたり、乳化剤、油脂、起泡剤、等を配合することで結晶表面の凹凸サイズを調節することも可能であるが、そうした場合、凹凸に斑が生じ、不快なざらつきを発生してしまったり、複数の糖質が混在することにより、結晶化に要する時間がかなり長くなったりする場合がある。ここでは、最良の実施例として、キシリトール、エリスリトール単独で結晶を作製する方法を記載している。
【0057】
また、実施例1と2においては、複数の消臭素材、抗菌素材、唾液促進素材、口腔血流促進素材等の口腔衛生用素材、あるいは舌苔除去剤として不溶性粒子を併せて配合することも可能であり、消臭効果をさらに強めることも可能であるが、これらの素材を配合することによる効果については、本発明の意図するところではない。
【0058】
また、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、パラチノース、ソルビトール、還元麦芽水飴、トレハロースにおいても、表面に凹凸を有する結晶塊を作製し、口臭抑制の結果を得ることができる。
【0059】
例えば、マルチトール100g、マンニトール40g、ソルビトール10gを195℃まで加熱し、その後155℃まで冷却させてから充填すると、マンニトールが部分的に結晶化し、表面に微細な凹凸を有する結晶塊ができる。
また、マルチトール部分を還元麦芽水飴やラクチトールに置き換えることも可能である。
【0060】
あるいは、トレハロース100gに30gほど加水し、120℃まで加熱して充填すると、トレハロースの結晶塊ができる。また、任意で、還元麦芽水飴10gほど配合し結晶化を制御することも可能である。
しかし、これらは凹凸サイズが大きいためざらつきが激しく、食感が不快であることや、結晶化の制御が難しく、大量生産に不向きであることから、キシリトールやエリスリトールを用いた結晶塊を最良の形態として記載している。
【0061】
上述した構成による本発明の口腔衛生用固形物の口臭除去効果を検証すべく、以下の実験を行った。
<実験例1>
(日常における口臭推移の測定)
口臭の機器測定は、米国インタースキャン社の口臭測定器ハリメーターRH17Kを用いた。
この測定器は口臭の主な原因物質である揮発性硫黄化合物を高い精度で測定し、口臭治療の医療現場でもよく利用されている機器である。被験者は、カンロ株式会社に在職する社員に研究の趣旨を説明し、同意を得た6名に依頼した。
【0062】
先ずは、被験者の日常生活における口臭の推移を調べた。
試験当日は起床後の歯磨きと飲食を禁止(禁煙)した状態で出社し、出社直後、朝食摂取後、昼食前、昼食後、夕方空腹時に測定した。
なお、朝食後は歯磨きを一度のみ許可した。夕方空腹時の測定前の2時間は飲食を禁止して測定した。ハリメーターでの測定方法は、3回測定した平均値を測定値とした。測定結果を図5に示す。
【0063】
結果として、最も口臭の強い時間帯は、出社後であり、朝食を摂ると口臭は低下し、その後経時的に徐々に上昇し、昼食を摂ると再度低下し、さらに夕方の空腹時になると口臭は強くなることが判明した。
よって、以下の実験は、口臭の強い時間帯として、出社後を採用することとした。
【0064】
<実験例2>
(口臭測定器による消臭効果測定)
実験例1と同様、ハリメーターを使用し、同6名を被験者とし、測定は、口臭が比較的強い出社直後に実施した。試料は下記の試料1〜5を実験に供した。
【0065】
(試料の調製)
試料1(対照区);一般的に使用されている還元麦芽水飴を195℃まで煮詰め、140℃まで冷却して、鋳型に流し込み、冷却、及び、成型する。還元麦芽水飴は結晶化しないので、無色透明で表面の滑らかな固形物が得られる。
【0066】
試料2;キシリトールに少量の溶解水を添加し、195℃まで煮詰める。90℃まで冷却し、結晶化を促進するために少量のキシリトール結晶シードを添加し、ホモゲナイザーにてよく攪拌して85℃の時点で鋳型に流し込み、成型する。キシリトールが結晶化し、白色で表面に微かな凹凸を有するキシリトール結晶固形物が得られる。
【0067】
試料3;エリスリトールに少量の溶解水を添加し、195℃まで煮詰める。125℃まで冷却し、結晶化を促進するために少量の結晶シードを添加し、ホモゲナイザーにてよく攪拌して120℃で鋳型に流し込み、成型する。エリスリトールが結晶化し、白色で表面に微かな凹凸を有するエリスリトール結晶固形物が得られる。
試料4、5;37℃のキシリトール72%飽和水溶液、37℃のエリスリトール45%飽和水溶液を調製した。
【0068】
前記、試料1〜3の形状は、概ね、長径25mm×短径21mmの楕円状で、厚み7.6mm、粒重3.8gとした。
【0069】
(試料の摂取方法)
前記試料1〜3の固形物を舌の上で3分間転がしながら舐め、溶け残りを吐き出してから、各測定へ進む。
試料4、5の液体試料に関しては、20mlの試料を口中に含み、3分間うがいをして吐き出し、各測定へ進む。
【0070】
結果は図6のグラフに示したように、試料1の表面の滑らかな固形物では、消臭効果の持続性が低く、30分ほど経過すると、口臭は試料摂取前の100%の値に戻る。
【0071】
一方、試料2、3の表面に微細な凹凸を有するキシリトールやエリスリトールの結晶固形物では消臭効果の持続性が高く、60分間後も口臭がエリスリトールでは80%程度、キシリトールでは60%程度で推移した。
【0072】
また、試料4、5のキシリトールやエリスリトールの飽和溶液で3分間うがいをした場合では、持続的効果が見られないことから、これらを再結晶化させ、表面に微細な凹凸を有した固形物として舐めることが重要であることが明らかになった。
【0073】
<実験例3>
(官能試験による消臭効果測定)
実験例1と同様に、口臭が比較的強い出社直後に、被験者として同6名を使用して官能試験を実施した。官能試験は、アズワン株式会社製のにおい袋に呼気を収集し、表1に示した評価基準に則り、6名の呼気をそれぞれ6名の評価者によってスコア評価を行った。
【0074】
結果は6名の平均スコアを示している。試料は実験例2と同じ試料を用い、同じ方法で摂取し、試料摂取後0分後、30分後、60分後の収気袋に収集した呼気を官能試験に供した。
【0075】
【表1】

【0076】
図7に示すとおり、結果として、ハリメーターでの試験同様、試料1の還元麦芽水飴の固形物や、試料4、5のキシリトール、エリスリトールの飽和溶液では30分後には口臭が再発してくるが、試料2、3のキシリトール結晶塊を摂取したあとにおいては、60分経過した時点においても口臭低減が顕著であった。
【0077】
<実験例4>
(口腔衛生検査機器による口腔細菌除去効果の測定)
先に述べているように、口臭の主な原因は舌苔に生息している口腔細菌の代謝によるといわれていることから、この凹凸が舌の上に作用し、舌苔を除去させていることが、持続的消臭効果に繋がっていると考えられる。
【0078】
そこで、舌の様子と、口腔細菌の機器測定を行った。
測定機器は、株式会社タイヨウの口腔衛生検査システムアテインmBA−400を用いた。この測定器は口臭治療の医療現場でもよく利用されている機器である。原理は、口臭の主な原因菌が有するウレアーゼ活性を測定するというものであり、ウレアを口中に一定量含んだ後のアンモニアの発生量を検知管で測定することで簡易的に口腔細菌量を測定することができる。
【0079】
前述の試験と同様に本研究の被験者6名に対して試験を実施し、試験当日は起床後の歯磨きと飲食を禁止した状態で出社させ、測定した。試料1〜3を3分間舌の上で転がしながら舐める前と後の、試料4、5に関しては、3分間うがいをする前と後の口中アンモニア量を測定した。
【0080】
図8に示すように、試料1の表面の滑らかな固形物では、口腔細菌の除去効果は弱く、一方、試料2、3の表面に微細な凹凸を有するキシリトールやエリスリトールの結晶固形物では優位に口腔細菌除去効果を発揮した。
また、キシリトールやエリスリトールの飽和溶液で3分間うがいをした場合では効果が見られず、これらを再結晶化させ、微細な凹凸を有する固形物として舐めることが、口腔細菌除去の効果因子であることを見出した。
【0081】
<実験例5>
(官能試験による舌苔除去効果の測定)
実験例1と同様に、試験当日は起床後の歯磨きと飲食を禁止した状態で出社し、出社直後(起床後)に舌の写真撮影を行い、引き続き、試料摂取後に、同一者が本実験全ての撮影を同じ照明下で行った。
【0082】
舌の写真の観察による舌苔量の評価は、本研究の被験者6名により実施した。被験者ごとに、左に試料摂取前、右に試料摂取後の写真を並べ、表2に示す評価基準に則り、4段階のスコア評価とした。
【0083】
【表2】

【0084】
表3の舌苔除去効果に示すように、試料1の表面の滑らかな固形物や、試料4、5のキシリトール、エリスリトール飽和溶液でのうがい後では、舌苔の量は不変であったが、一方、試料2、3、4、5の表面に微細な凹凸を有するキシリトールやエリスリトールの結晶固形物では明らかな改善があるという結果が得られた。
【0085】
【表3】

【0086】
<実験例6>
(食感の官能評価)
本実験では、試料1〜3に加え、追加の試料として、下記の方法で試料6を調整した。食感評価は、本研究の被験者6名にて実施した。試料1〜3、および試料6を舌の上で3分間舐めて、表4に示す評価基準に則り、5段階評価の平均値で表した。
【0087】
(試料の調整)
試料6;試料1と同様、還元麦芽水飴を195℃まで煮詰め、140℃まで冷却した固形物ベースに対し、不溶性植物繊維として、凍結乾燥オレンジパウダーの50メッシュパスサイズのパウダーを5重量%混練し、鋳型に流し込み、冷却、成型する。透明で植物の繊維により表面のざらついたキャンディが得られる。
【0088】
【表4】

【0089】
表5のように、舌苔除去素材として不溶性食物繊維を配合した従来のキャンディでは、舌がひりひりして痛むほど、極めて不快な食感であったのに対し、本発明の試料2、3のような固形物では、表面の滑らかな通常の還元麦芽水飴と同等で、ほとんど口中に違和感が残らない食感であった。
【0090】
一方、食物繊維を配合した試料6においては、対照的に不快感の強いものであった。食物繊維の粒子サイズを小さくしたり、配合量を減らしたりすることにより、この不快感を多少減じることも可能かもしれないが、表面のつるつるした固形物に対して不溶性繊維等の突起状の物質が少しでも入るということは、往々にして嗜好性の劣化に繋がるものである。それに対し、試料2、3のような、キシリトールやエリスリトールからなる糖質の結晶固形物では、口腔内に違和感を与えることなく、消臭効果を発揮するものである。
【0091】
【表5】

【0092】
<実験例7>
(顕微鏡による表面構造解析)
試料固形物の表面の微細な凹凸を、株式会社キーエンス社製のレーザー顕微鏡VK-97700VioletLaserにて観察した。
表6で示すように、凹凸の寸法(Ra)は、JIS0601:1994に基づいて測定し、5箇所を撮影した平均値で表している。また、各試料表面の顕微鏡写真を図9中の(a)〜(c)に示す。
【0093】
消臭持続的効果が最も高いキシリトールの結晶が最も凹凸サイズが大きい。また、写真から見られるように、凹凸のサイズばかりではなく、凹凸の頻度も多く、小刻みな構造特徴を有する。
【0094】
【表6】

【0095】
以上の結果より、消臭効果の持続性は、試料1のような平らな固形物や、試料4、5のような糖質の飽和溶液においては発揮されなかったが、キシリトール結晶のように表面に微細な凹凸構造を有するものにおいては発揮された。この微細な凹凸が舌上に作用することで口腔細菌数を低下させ、持続的消臭作用が発揮されると考えられる。
【0096】
キシリトールやエリスリトールは、歯周病菌が資化できない糖質であることから、虫歯になりにくい糖質として、厚生労働省特定保健用食品の素材としても、特にガムに使用されている。本発明では、歯周病菌が資化できないという化学的特性に併せ、再結晶の微細な凹凸構造という物理的特性によって、持続的な消臭効果をはじめとする口腔衛生効果が発揮された。
【0097】
なお、上述した実施例、実験例においては、主に糖アルコールを使用している。糖アルコールではないブドウ糖、砂糖、麦芽糖のような一糖類や二糖類、あるいはデンプン、ペクチンのような多糖類を使用することも可能であるが、これらを使用した場合、口腔細菌の代謝により、有機酸やグルカンが生成され、口腔内pHの低下によるエナメル質の溶出や細菌巣の構築促進に繋がり、一過的には消臭や口腔細菌の減少が見られるかもしれないが、長期的にみた場合、口腔環境を悪化させる懸念がある。よって、本発明では、糖アルコールのように、口腔細菌にほとんど資化されない糖質を利用するのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の口腔衛生用固形物は、優れた食感、おいしさ、加工の容易性、使用者にとっての携帯性、摂取の簡便性を併せ持ち、価格も安価でありながら、舌苔除去効果、及び、持続的消臭効果を発揮する。また、口腔衛生用固形物の基材そのものが口腔衛生効果を有するため、既存の口腔ケア素材との組み合わせにより、さらなる効果を生み出すことができ、食品としてばかりではなく、医療の現場においては、口臭や虫歯予防の口腔衛生用医薬品、医薬部外品として利用でき、汎用性のある口腔衛生固形物を提供することが可能となった。
したがって、産業上の利用可能性が極めて大であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明に係る実施例1の固形物を示す斜視図。
【図2】本発明に係る実施例2の固形物を示す斜視図。
【図3】本発明に係る実施例3の固形物を一部透視して示す斜視図。
【図4】口臭除去効果を示すグラフ。
【図5】日常生活における公衆の推移を示すグラフ。
【図6】糖質の再結晶塊の口臭除去効果を示すグラフ。
【図7】糖質の再結晶塊の口臭除去効果の推移を示すグラフ。
【図8】糖質の口腔細菌除去効果を示すグラフ。
【図9】固形物表面の状態を示した図面代用写真である。
【符号の説明】
【0100】
1 実施例1の固形物
2 実施例2の固形物
3 下層部
4 上層部
5 実施例3の固形物
6 側部
7 芯部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質を加熱して溶融させた後に冷却させることによって得られる表面に微細な糖質の再結晶塊を含有し、この再結晶塊によって表面に凹凸が形成され、該凹凸を舌の上に接触させることにより、舌苔が除去されるように構成してなる口腔衛生用固形物。
【請求項2】
前記糖質を、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、パラチノース、ソルビトール、還元麦芽水飴、トレハロースのうちの一種、あるいは二種以上を混合したもので構成してなる請求項1に記載の口腔衛生用固形物。
【請求項3】
前記再結晶塊を含有する層と、同再結晶塊を含有しない表面の滑らかな層との複層に構成してなる請求項1または2に記載の口腔衛生用固形物。
【請求項4】
前記再結晶塊を含有する層を下層とし、かつ再結晶塊を含有しない層を上層となるように上下2層構造に構成してなる請求項3に記載の口腔衛生用固形物。
【請求項5】
前記再結晶塊を含有する層を芯層とし、かつ再結晶塊を含有しない層を外周層となるように内外2層構造に構成してなる請求項3に記載の口腔衛生用固形物。
【請求項6】
前記芯層を、その上下端部が表面に露出するように構成してなる請求項5に記載の口腔衛生用固形物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−286749(P2009−286749A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142904(P2008−142904)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(391004218)カンロ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】