説明

可動式防波堤および可動式防波施設

【課題】施工作業を容易に行うことができ、かつ浮上管への水平方向の応力を十分に受け得る補強部材を配置すること。
【解決手段】上下に長尺に形成され、水底側に開口部11aを有して水底地盤E内に挿入固定された外筒管11と、外筒管11の内部に挿入され、外筒管11の長手方向に昇降移動可能に配置されるとともに、自身の内部に供給された気体により浮力を生じて上昇可能に設けられた浮上管12とを備える可動式防波堤10において、外筒管11は、水底面GLに対して開口部11aが一致され、浮上管12は、外筒管11がかつ水底面GLから下方に所定深さH1で埋設された部分に対し、上昇位置の浮上管12への水平方向の応力を受ける浮上管側上部補強部材12cを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必要に応じて水底から水面上に突出する可動式防波堤および可動式防波施設に関する。
【背景技術】
【0002】
水底に昇降可能な防波装置を設置して、津波が発生した場合や荒天時などには、防波装置を水面上まで突出させて、波の影響を低減する可動式防波堤が提案されている。例えば、特許文献1には、海底面に設けたコンクリートを貫通して水底地盤内に鉛直に挿入固定され、かつ密集状態で基礎コンクリートの表面に上端面を開口させて配列された複数の外筒管と、外筒管に昇降可能に挿入され、かつ下端面が開口し、上端面が閉塞された浮上管と、各浮上管内に空気を供給するための給気装置とを備えた可動式防波堤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−116131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような可動式防波堤は、図11に示すように、浮上管52を上昇させた場合、当該浮上管52の下端と、外筒管51の上端との間の重なり部分において、浮上管52への波の衝突による水平方向の応力を受けることになる。このため、外筒管51の上端外壁に外筒管側上部補強部材51bが設けられ、当該外筒管側上部補強部材51bに対して水平方向で重なる浮上管52の内壁に浮上管側上部補強部材52cが設けられるとともに、浮上管52の下端内壁に浮上管側下部補強部材52dが設けられ、当該浮上管側下部補強部材52dに対して水平方向で重なる外筒管51の外壁に外筒管側下部補強部材51cが設けられる。特に、外筒管の上端外壁にあっては、剛性を高めるために枠形のダイヤフラムを外管側上部補強部材51bとする。なお、ダイヤフラムとしての外管側上部補強部材51bは、図11に示す断面矩形枠状に限らず、図には明示しないが、例えば、水底面GLに沿う板材と、当該鋼板から下側で鋼板と外筒管51の外壁面との間に設けられたリブとで構成されたものもある。
【0005】
また、施工時において、外筒管51は、水上から吊り下げられつつ、電動バイブロに固定された上下長尺のヤットコの下端のチャック部で掴まれ、前記電動バイブロによって水底地盤内に鉛直に打設される。このため、外筒管51は、その上端に、ヤットコのチャック部によって掴まれる掴み代51fが必要である。
【0006】
しかしながら、上述したように、外筒管51は、上端外壁に外筒管側上部補強部材(ダイヤフラム)51bが設けられることから、当該外筒管側上部補強部材51bよりも上側に掴み代51fを設けなければならない。このため、掴み代51fが水底面GLから突出してしまうので、外筒管51を水底地盤内に打設した後に、掴み代51fを除去する作業が必要となる。この結果、施工作業に手間がかかることになる。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するものであり、施工作業を容易に行うことができ、かつ浮上管への水平方向の応力を十分に受け得る補強部材を配置することのできる可動式防波堤および可動式防波施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明の可動式防波堤は、上下に長尺に形成され、水底側に開口部を有して水底地盤内に挿入固定された外筒管と、前記外筒管の内部に挿入され、前記外筒管の長手方向に昇降移動可能に配置されるとともに、自身の内部に供給された気体により浮力を生じて上昇可能に設けられた浮上管と、を備える可動式防波堤において、前記外筒管は、水底面に対して前記開口部が一致され、前記浮上管は、前記外筒管が前記水底面から下方に所定深さで埋設された部分に対し、上昇位置の前記浮上管への水平方向の応力を受ける浮上管側上部補強部材が設けられていることを特徴とする。
【0009】
この可動式防波堤によれば、外筒管は、外筒管側補強部材よりも上側が開口部まで所定深さで埋設されるため、この部分をヤットコのチャック部で掴む掴み代として利用できる。このため、掴み代を除去する作業が不要となることから、施工作業を容易にすることができる。しかも、浮上管において、上昇位置で水平方向の応力を受ける浮上管側補強部材が、水底面から所定深さの位置に設けられていることから、上端よりも下がった位置で補強するため、断面強度が高くなる。このため、浮上管への水平方向の応力を十分に受けることができる。また、外筒管の断面強度が高くなることから、外筒管側の開口部の補強部材を簡素化し、従前のようなダイヤフラムを用いる必要がなくなるため、製造コストが低減できる。
【0010】
また、本発明の可動式防波堤は、前記浮上管は、蓄電池を内装するとともに、当該蓄電池に電力を供給するための電力受信部を有し、前記外筒管は、前記浮上管の下降位置において前記電力受信部に電力を送信する電力送信部を有しており、前記電力送信部は、前記外筒管の前記水底面から所定深さで埋設された範囲に配置され、前記電力受信部は、前記浮上管の上端が前記水底面と一致された下降位置において、前記浮上管の上端よりも下方の範囲で前記電力送信部に対向して配置されていることを特徴とする。
【0011】
この可動式防波堤によれば、浮上管の下降位置において、電力受信部および電力送信部が水底面よりも下方に配置されることから、当該電力受信部および電力送信部が投錨などに接触することがなく、損傷するおそれがない。
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明の可動式防波施設は、上述の可動式防波堤を水底に複数配列したことを特徴とする。
【0013】
この可動式防波施設によれば、施工作業を容易に行うことができ、かつ浮上管への水平方向の応力を十分に受け得る補強部材を設けることができる。特に、可動式防波堤を複数配列した可動式防波施設は、可動式防波堤間の隙間を極力小さくすることが好ましい。この点では、可動式防波堤において外筒管の断面強度が高くなることから、外筒管側補強部材を小型化し、鋼板をリング状にして外筒管の周方向で均一に配置できるので、可動式防波堤間の隙間を極力小さくすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、施工作業を容易に行うことができ、かつ浮上管への水平方向の応力を十分に受け得る補強部材を配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る可動式防波施設の平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A矢視一部断面図である。
【図3】図3は、図1のB−B断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る可動式防波堤を備える可動式防波施設の全体構成図である。
【図5−1】図5−1は、本発明の実施の形態に係る可動式防波堤の浮上管が浮上する様子を示す模式図である。
【図5−2】図5−2は、本発明の実施の形態に係る可動式防波堤の浮上管が浮上する様子を示す模式図である。
【図5−3】図5−3は、本発明の実施の形態に係る可動式防波堤の浮上管が浮上する様子を示す模式図である。
【図6】図6は、図1のB−B拡大断面図である。
【図7】図7は、図1のB−B拡大断面図である。
【図8】図8は、図1のB−B拡大断面図である。
【図9】図9は、図8のC−C矢視図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態に係る可動式防波堤の施工過程の説明図である。
【図11】図11は、従来の可動式防波堤の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0017】
本実施形態に係る可動式防波堤は、海底、川底などの水底に設置されて、例えば、津波や高潮などが発生した場合には、水底から水面上に浮上して、津波や高潮の通過を阻害し、港湾設備などを保護する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係る可動式防波施設の平面図である。図2は、図1のA−A矢視一部断面図である。この図2は、本実施の形態に係る可動式防波堤が浮上した状態を示している。図3は、図1のB−B断面図である。この図3は、本実施の形態に係る可動式防波堤が水底にある状態、すなわち浮上前の状態を示している。図4は、本実施の形態に係る可動式防波堤を備える可動式防波施設の全体構成図である。図5−1〜図5−3は、本実施の形態に係る可動式防波堤の浮上管が浮上する様子を示す模式図である。
【0019】
図1〜図3に示すように、可動式防波施設1は、複数の可動式防波堤10と、監視・制御システム施設100とを含んで構成される。本実施形態において、複数の可動式防波堤10は、岸壁K1、K2の間に一列に配置されて、港の内側(港内BI)と港の外側(港外BO)とを仕切っている。可動式防波堤10は、外筒管11の内側に浮上管12が配置されるとともに、浮上管12の内部に気体(本実施の形態では空気)を供給することによって浮上管12を浮上(上昇)させる構造である。なお、可動式防波堤10は、岸壁K1、K2の間に限らず、防波堤(固定式、杭式、浮体式を含む)での間にも設置可能である。
【0020】
それぞれの可動式防波堤10は、各送気管3から空気が送られる。複数の送気管3は、水底に配置される送気管ダクト2にまとめられて、一方の岸壁K2上の監視・制御システム施設100内に備えられる気体供給装置に接続される。そして、有事の際、例えば、津波や高潮などの発生時には、前記気体供給装置から送気管3を介して、それぞれの可動式防波堤10の浮上管12内へ気体が供給されて、前記浮上管12が水底から浮上し、一部が水面から突出する。
【0021】
図2、図3に示すように、可動式防波堤10は、外筒管11(可動式防波堤10の固定部分)と、浮上管12(可動式防波堤10の可動部分)とを有する。外筒管11および浮上管12は、円筒形状の部材であり、鋼管で構成されている。外筒管11および浮上管12は、いずれも防錆処理が施されている。なお、外筒管11および浮上管12は、円筒形状に限られるものではない。なお、外筒管11および浮上管12は、鋼管に限らず、炭素繊維で構成されていてもよく、あるいは、外筒管11または浮上管12の一方が鋼管で、他方が炭素繊維で構成されるような異種材料による構造であってもよい。
【0022】
外筒管11は、上下に長尺に形成され、水底地盤E内に打ち込まれている。外筒管11は、下層部が水底地盤E内に挿入固定され、上層部の周囲に捨石5が敷設されている。この捨石5の上面が水底面GLとなる。外筒管11は、水底側である上端に開口部11aを有する。また、外筒管11は、水底地盤Eに挿入された底部から上記送気管3が差し込まれて、内部に気体出口3aが配置される。
【0023】
浮上管12は、外筒管11の内部に、外筒管11の開口部11aから、外筒管11の長手方向(管軸方向)に沿って差し込まれ、外筒管11の長手方向に対して昇降可能に配置されている。この浮上管12は、その内部に供給される気体によって浮力を発生して、外筒管11から浮上可能に構成される。具体的に、図3に示すように、浮上管12は、内部に複数の仕切部材(本実施の形態では板状の部材)15,16が設けられている。(以下、仕切部材15を第1仕切部材といい、仕切部材16を第2仕切部材という)。第1仕切部材15は、浮上管12の上方に配置され、第2仕切部材16は、第1仕切部材15の下方に配置される。また、浮上管12は、上端が蓋17によって閉塞されている。そして、浮上管12は、第1仕切部材15、第2仕切部材16、および蓋17によって、内部が複数の部屋に仕切られる。
【0024】
第1仕切部材15と第2仕切部材16と浮上管12の側壁とで仕切られる空間13は、送気管3から浮上管12の内部に供給された気体を溜めて、浮上管12に浮力を発生させるための空間である。以下、空間13を気室13という。蓋17と第1仕切部材15と浮上管12の側壁とで仕切られる空間CRは、可動式防波堤10の状態を監視したり、送気管3から気体が供給されなかった場合に浮上管12を浮上させたり、浮上した浮上管12を下降させて外筒管11の内部に戻す動作をさせたりするための制御機器20が配置されている。以下、空間CRを機械室CRという。第2仕切部材16は、孔16aを備える。孔16aは、送気管3から浮上管12の内部に供給される気体を気室13へ導く。
【0025】
浮上管12は、その側壁内面に浮力発生手段14が取り付けられる。浮力発生手段14は、例えば、気泡を有する樹脂、例えば、発泡スチロールなどである。また、浮力発生手段14は、単なる空間に空気や窒素などの気体を充填した構造としてもよい。可動式防波堤10は、有事の際には浮上管12の気室13に気体を供給し、この気体によって浮上管12に浮力を発生させ、浮上管12を外筒管11から浮上させる。浮力発生手段14を浮上管12に取り付けることにより、浮上管12を浮上させる際には、浮上管12を浮上させるために必要な浮力のうち、浮力発生手段14が発生する浮力で不足する分を気体によってまかなえばよい。これによって、浮上管12の内部に供給する気体の量を低減できるので、浮上管12を迅速に浮上させることができる。
【0026】
浮上管12は、その下端に開口部12aが設けられている。そして、開口部12aの下方に、送気管3の気体出口3aが配置される。なお、送気管3の気体入口は、上述した気体供給装置に接続されている。
【0027】
気体供給装置は、図4に示すように、気体ボトル104と、気体ボトル104と送気管3との間に設けられる開閉弁110と、電動機103で駆動される圧縮機102とを含んで構成される。これらは、監視・制御システム施設100に備えられる。送気管3の気体入口は、気体供給装置を構成する開閉弁110に接続されている。気体ボトル104は、圧縮機102によって高圧(20MPa程度)の気体が充填される。そして、浮上管12を浮上させる際には、開閉弁110が開かれて、気体ボトル104内の気体が送気管3を通って浮上管12の内部に供給される。気体ボトル104は、それぞれの可動式防波堤10に対して設けられており、本実施の形態では、1台の可動式防波堤10に対して2台の気体ボトル104が用意される。なお、それぞれの気体ボトル104に対して個別に送気管3を設け、2本の送気管3を浮上管12の開口部12aの下方に配置してもよい。
【0028】
1台の気体ボトル104によって、1台の可動式防波堤10の浮上管12を浮上させることができるが、1台の可動式防波堤10に対して2台の気体ボトル104を用意することで、一方の気体供給系統に何らかの不具合が発生した場合には、もう一方をバックアップとして用いることにより、より確実に浮上管12を浮上させることができる。また、2台の気体ボトル104から1台の可動式防波堤10へ気体を供給することにより、気体ボトル104を単独で用いるよりも迅速に浮上管12を浮上させることができる。なお、1台の気体ボトル104によって、3台の可動式防波堤10の浮上管12を浮上させるように構成する例として、中央の可動式防波堤10の浮上管12にのみ送気間3で送気し、その両側の可動式防波堤10では、中央の可動式防波堤10よりも浮力発生手段14の体積を大きくしてほぼ中性浮力とし、両側の可動式防波堤10の浮上管12を、中央の浮上管12によって吊り上げるように浮上させる構成にすることが好ましい。このように構成することで、送気管3の数を減少させることが可能になる。また、同様の構成により、1台の気体ボトル104によって、5台の可動式防波堤10の浮上管12を浮上させるように構成することも可能である。このように、1台の気体ボトル104で複数の可動式防波堤10の浮上管12を浮上させるように構成してもよい。
【0029】
電動機103および圧縮機102は、監視・制御装置101によって制御される。監視・制御装置101は、例えば、気体ボトル104内に充填されている気体の圧力を気体圧力センサ111によって取得し、規定の圧力よりも低い場合には電動機103を駆動して圧縮機102を作動させ、規定の圧力になるまで圧縮機102から気体ボトル104内へ気体を充填する。また、監視・制御装置101は、送気管3に設けられた送気管3内の圧力を検出する送気管圧力検出センサ(送気管内圧力検出手段)105から送気管3内の圧力を取得して、送気管3に漏洩箇所があるか否かを監視する。
【0030】
さらに、監視・制御装置101は、可動式防波堤10の機械室CR内の制御機器20と通信して、可動式防波堤10の状態を監視したり、浮上管12の動きを制御したりする。例えば、浮上した浮上管12を外筒管11内に戻す場合、監視・制御装置101は、制御機器20を介して、気室13と気室13の外部とを接続する配管の途中に設けられた排気弁18を開く。これによって、気室13内の気体が気室13の外部に放出されるとともに、気室13内の気体が水に置換されて浮上管12の浮力が低下するので、浮上管12は沈降して外筒管11内に収まる。
【0031】
有事の際、例えば、監視・制御装置101が津波や高潮などの警報を受信した場合、監視・制御装置101は、開閉弁110を開き、図5−1に示すように、送気管3を介して気体ボトル104内の気体を浮上管12の内部に供給する。送気管3から浮上管12内へ供給された気体は、図5−1に示すように、第2仕切部材16の孔16aを通って気室13へ入る。気室13の内部の気体によって発生する浮力と、浮力発生手段14によって発生する浮力との和が水中における浮上管12全体の重量を超えると、図5−2に示すように、浮上管12は、水面WLに向かって外筒管11から浮上を開始する。そして、図5−3に示すように、浮上管12の一部が水面WL上に突出する。このとき、気室13内の余分な気体は、気室13に設けられた孔D1から排出される。また、機械室CR内の水は、機械室CRに設けられた孔D2から排水される。このようにして、有事の際には、図2に示すように複数の浮上管12が一列に水面WLから突出して防波堤の機能を発揮し、津波や高潮などから港湾設備などを保護する。
【0032】
以下、上述した可動式防波施設1に設けられた可動式防波堤10の詳細について図を参照して説明する。図6は、図1のB−B拡大断面図である。この図6は、本実施の形態に係る可動式防波堤が浮上した状態を示している。
【0033】
図6に示すように、可動式防波堤10の外筒管11は、上述のごとく水底側である上端に開口部11aを有する。外筒管11は、開口部11aが、捨石5の上面である水底面GLと一致して配置されている。また、外筒管11は、水底面GLから下方に所定深さH1(例えば、70[cm])で捨石5により埋設された外壁に対し、外筒管側上部補強部材(外筒管側補強部材)11bが設けられている。さらに、外筒管11は、外筒管側上部補強部材11bから下方に所定深さH2で水底地盤E内に埋設された外壁に対し、外筒管側下部補強部材(外筒管側補強部材)11cが設けられている。外筒管側上部補強部材11bおよび外筒管側下部補強部材11cは、鋼板をリング状に形成したもので、外筒管11の外壁に固定され、好ましくは周方向で均一に配置された状態で固定されている。また、外筒管11は、開口部11aの内縁となる内壁に、外筒管開口部揺止部材11dが設けられている。外筒管開口部揺止部材11dは、鋼板をリング状に形成したもので、外筒管11の内壁に固定され、好ましくは周方向で均一に配置された状態で固定されている。また、外筒管11は、開口部11aの外縁となる上端に、外筒管上端揺止部材11eが設けられている。外筒管上端揺止部材11eは、鋼板をリング状に形成したもので、外筒管開口部揺止部材11dと一体に接合され、外筒管11の上端に固定され、好ましくは周方向で均一に配置された状態で固定されている。なお、必要とされる断面強度を確保できれば、外筒管側補強部材としての外筒管側上部補強部材11bおよび外筒管側下部補強部材11cを設けなくてもよい。
【0034】
図6に示すように、可動式防波堤10の浮上管12は、上述のごとく外筒管11の開口部11aから、外筒管11の長手方向に沿って差し込まれている。浮上管12は、下降して外筒管11の内部に収まった状態では、その上端が水底面GLと一致する下降位置を呈する。この浮上管12は、ストッパ12bが設けられている。ストッパ12bは、浮上管12の外壁に固定され、浮上管12が浮上した上昇位置において、外筒管開口部揺止部材11dに当接することにより、浮上管12のさらなる浮上を止めるものである。すなわち、ストッパ12bは、浮上管12の浮上高さを位置決めするものである。また、浮上管12は、ストッパ12bが外筒管開口部揺止部材11dに当接した状態で、外筒管11の外筒管側上部補強部材11bに水平方向で対向する位置となる内壁に、浮上管側上部補強部材(浮上管側補強部材)12cが設けられている。さらに、浮上管12は、ストッパ12bが外筒管開口部揺止部材11dに当接した状態で、外筒管11の外筒管側下部補強部材11cに水平方向で対向する位置となる内壁に、浮上管側下部補強部材(浮上管側補強部材)12dが設けられている。浮上管側上部補強部材12cおよび浮上管側下部補強部材12dは、形鋼をリング状に形成したもので、浮上管12の内壁に固定され、好ましくは周方向で均一に配置された状態で固定されている。これら浮上管側上部補強部材12cおよび浮上管側下部補強部材12dをなす形鋼は、図6では、T形鋼として示している。その他、浮上管側上部補強部材12cおよび浮上管側下部補強部材12dをなす形鋼には、I形鋼、H形鋼、L形鋼、Z形鋼、山形鋼、溝形鋼、平形鋼、球平形鋼などがある。また、浮上管12は、その下端の外壁に浮上管下端揺止部材12eが設けられている。浮上管下端揺止部材12eは、鋼板をリング状に形成したもので、浮上管12の下端に固定されている。
【0035】
このような可動式防波堤10は、浮上管12が浮上した上昇位置において、ストッパ12bが外筒管開口部揺止部材11dに当接し、浮上管12の浮上高さが位置決めされる。そして、外筒管開口部揺止部材11d、外筒管上端揺止部材11e、および浮上管下端揺止部材12eが外筒管11と浮上管12との間のスペーサとなって、波や風の衝突による浮上管12の揺れが抑えられる。また、波や風の衝突による浮上管12への水平方向の応力を、外筒管側補強部材11b,11cおよび浮上管側補強部材12c,12dにより受ける。なお、外筒管開口部揺止部材11dや外筒管上端揺止部材11eも、波や風の衝突による浮上管12への水平方向の応力を受ける補強部材として機能する。
【0036】
図7は、図1のB−B拡大断面図である。この図7は、本実施の形態に係る可動式防波堤が浮上した状態を示している。図7に示すように、可動式防波堤10の浮上管12は、少なくとも浮上管側上部補強部材12cに対し、さらなる補強のために、長手方向(上下方向)に延在する補強リブ12fを設けてもよい。
【0037】
図8は、図1のB−B拡大断面図である。この図8は、本実施の形態に係る可動式防波堤が水底にある状態、すなわち浮上前の状態を示している。図9は、図8のC−C矢視図である。可動式防波堤10は、浮上管12に充電装置および蓄電池が内蔵されている。充電装置および蓄電池は、図には明示しないが、上述した制御機器20に設けられている。また、図8および図9に示すように、可動式防波堤10は、電力受信部21および電力送信部22を有している。
【0038】
電力受信部21は、浮上管12に設けられており、蓄電池に電力を供給したり、水中通信における送受信をしたりするためのものである。また、電力送信部22は、浮上管12の下降時において電力受信部21に電力を送信したり、水中通信における送受信をしたりするためのものである。これら、電力受信部21および電力送信部22は、互いに対向することで、電磁誘導を利用して電力や通信信号を非接触(例えば0mmを超え30mm程度の隙間を隔て)で伝送する。
【0039】
電力送信部22は、陸上の監視・制御システム施設100が備える電源(図示せず)と電気的に接続されている。電源は、交流をそのまま、あるいは直流電源をインバータによって交流に変換して、電力送信部22へ送る。電力送信部22は、給電側コイルと給電回路とからなり、電力受信部21は、受電側コイルと受電回路とからなる。すなわち、電力送信部22の給電側コイルへ交流が流れることにより発生する磁界の変化によって、電力受信部21の受電側コイルへ誘導起電力を発生させ、非接触で電源から送られる電力を制御機器20の充電装置へ伝送する。このように、電力送信部22で電気エネルギを磁気エネルギに変換して伝送し、電力受信部21でその磁気エネルギを電気エネルギに変換して、非接触で電力を伝送する。なお、充電装置は、電力受信部21から交流で伝送されてきた電力を直流に変換し、蓄電池へ充電するものである。
【0040】
電力送信部22は、外筒管11において、水底面GLから所定深さH1で捨石5により埋設された範囲で、外筒管11の側壁が切り欠かれた箇所に設けられている。具体的に、電力送信部22は、外筒管11の側壁が切り欠かれた箇所で、リブなどで補強されたブラケット22aを介して外筒管11に固定されている。このため、電力送信部22は、水底面GLよりも下方に配置されることになる。
【0041】
電力受信部21は、浮上管12の下降位置(下降により浮上管12の上端が水底面GLと一致する位置)において、浮上管12の上端よりも下方の範囲で浮上管12の側壁が切り欠かれた箇所にて電力送信部22に対向して設けられている。具体的に、電力受信部21は、浮上管12の側壁が切り欠かれた箇所で、リブなどで補強されたブラケット21aを介して浮上管12に固定されている。このため、電力受信部21は、水底面GLよりも下方に配置されることになる。また、電力受信部21は、浮上管12の上端に設けられた蓋17により上方が覆われている。
【0042】
また、図9において符号23で示す部分は、浮上管12の外壁に長手方向に沿って設けられ、外筒管11の内壁に設けられた外筒管開口部揺止部材11dの溝部に嵌合することで、浮上管12が外筒管11に対して回転する事態を防止する回転防止部材である。かかる回転防止部材23により、電力受信部21と電力送信部22とは、互いに対向する位置が決められることになる。
【0043】
図10は、本実施の形態に係る可動式防波堤の施工過程の説明図である。上述した可動式防波堤10を施工するには、図10に示すように、外筒管11は、外筒管側補強部材11b,11cが固定された状態で、クレーン120で吊り下げられた電動バイブロ121によって水底地盤E内に打ち込まれる。この際、電動バイブロ121は、水面WLよりも下方に下げること、すなわち水に浸すことができない。このため、電動バイブロ121にヤットコ122を取り付け、このヤットコ122のチャック部122aで外筒管11を掴んで打設する。この打設において、ヤットコ122のチャック部122aで掴む部分は、外筒管11の上端であって、施工後に水底面GLから所定深さH1の範囲とする。なお、外筒管11を打設する際、台船123に導入部材(図示せず)を取り付け、この導入部材により外筒管11を鉛直に打ち込めるように導く。その後、浮上管12に係る全ての構成が取り付けられた浮上管12をクレーン120で吊り下げて外筒管11内に挿入する。その後、外筒管11に係る残りの全ての構成を外筒管11に取り付ける。その後、外筒管11の周りに捨石5を引き詰めて外筒管11を埋設し、可動式防波堤10の施工を終了する。なお、図には明示しないが、台船123に代えて導材を設置し、当該導材を使用して外筒管11を打ち込むようにしてもよい。
【0044】
このように、本実施の形態の可動式防波堤10は、上下に長尺に形成され、水底側に開口部11aを有して水底地盤E内に挿入固定された外筒管11と、外筒管11の内部に挿入され、外筒管11の長手方向に昇降移動可能に配置されるとともに、自身の内部に供給された気体により浮力を生じて上昇可能に設けられた浮上管12とを備える可動式防波堤10である。そして、この可動式防波堤10において、外筒管11は、水底面GLに対して開口部11aが一致され、浮上管12は、外筒管11が水底面GLから下方に所定深さH1で埋設された部分に対し、上昇位置の浮上管12への水平方向の応力を受ける浮上管側上部補強部材12cが設けられている。
【0045】
この可動式防波堤10によれば、外筒管11は、外筒管側上部補強部材11bよりも上側が開口部11aまで所定深さH1で埋設されるため、この部分をヤットコ122のチャック部122aで掴む掴み代として利用できる。このため、掴み代を除去する作業が不要となることから、施工作業を容易にすることが可能になる。しかも、浮上管12において、上昇位置で水平方向の応力を受ける浮上管側上部補強部材12cが、水底面GLから所定深さH1の位置に設けられていることから、上端よりも下がった位置で補強するため、断面強度が高くなる。このため、浮上管12への水平方向の応力を十分に受けることが可能になる。また、外筒管11の断面強度が高くなることから、外筒管側上部補強部材11bを簡素化し、従前のようなダイヤフラムを用いる必要がなくなるため、製造コストが低減できる。このように、本実施の形態の可動式防波堤10によれば、施工作業を容易に行うことができ、かつ浮上管12への水平方向の応力を十分に受け得る補強部材を設けることが可能になる。
【0046】
ところで、可動式防波施設1として可動式防波堤10を複数配列する場合、防波性能を得るために可動式防波堤10間の隙間を極力小さくすることが好ましい。しかし、外筒管側上部補強部材11bとして径外方向に広がるダイヤフラムを用いると、可動式防波堤10間の隙間が大きくなるため、可動式防波堤10間にあるダイヤフラムを切り欠くことになる。これでは、補強の強度が低下し、また、施工時に外筒管11を吊り下げた状態でバランスが悪く傾いてしまい手間のかかる重心調整が必要になる。この点、本実施の形態の可動式防波堤10によれば、外筒管11の断面強度が高くなることから、外筒管側上部補強部材11bを小型化し、上述したように鋼板をリング状にして外筒管11の周方向で均一に配置できるので、可動式防波堤10間の隙間を極力小さくでき、かつ施工時に外筒管11を吊り下げた状態でバランスよく鉛直になるので施工作業を容易にすることが可能になる。
【0047】
また、本実施の形態の可動式防波堤10は、浮上管12は、蓄電池を内装するとともに、当該蓄電池に電力を供給するための電力受信部21を有し、外筒管11は、浮上管12の下降位置において電力受信部21に電力を送信する電力送信部22を有している。そして、電力送信部22は、外筒管11の水底面GLから所定深さH1で埋設された範囲に配置され、電力受信部21は、浮上管12の上端が水底面GLと一致された下降位置において、浮上管12の上端よりも下方の範囲で電力送信部22に対向して配置されている。
【0048】
この可動式防波堤10によれば、浮上管12の下降位置において、電力受信部21および電力送信部22が水底面GLよりも下方に配置されることから、当該電力受信部21および電力送信部22が投錨などに接触することがなく、損傷するおそれがない。
【0049】
また、本実施の形態の可動式防波施設1は、上述した可動式防波堤10を水底に複数配列したものである。
【0050】
この可動式防波施設1によれば、施工作業を容易に行うことができ、かつ浮上管12への水平方向の応力を十分に受け得る補強部材を設けることが可能になる。特に、可動式防波堤10を複数配列した可動式防波施設1は、可動式防波堤10間の隙間を極力小さくすることが好ましい。この点では、可動式防波堤10において外筒管11の断面強度が高くなることから、外筒管側上部補強部材11bを小型化し、上述したように鋼板をリング状にして外筒管11の周方向で均一に配置できるので、可動式防波堤10間の隙間を極力小さくすることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明に係る可動式防波堤および可動式防波施設は、施工作業を容易に行うことができ、かつ浮上管への水平方向の応力を十分に受け得る補強部材を配置することに適している。
【符号の説明】
【0052】
1 可動式防波施設
5 捨石
10 可動式防波堤
11 外筒管
11a 開口部
11b 外筒管側上部補強部材(外筒管側補強部材)
11c 外筒管側下部補強部材(外筒管側補強部材)
11d 外筒管開口部揺止部材
11e 外筒管上端揺止部材
12 浮上管
12a 開口部
12b ストッパ
12c 浮上管側上部補強部材(浮上管側補強部材)
12d 浮上管側下部補強部材(浮上管側補強部材)
12e 浮上管下端揺止部材
12f 補強リブ
21 電力受信部
21a ブラケット
22 電力送信部
22a ブラケット
23 回転防止部材
120 クレーン
121 電動バイブロ
122 ヤットコ
122a チャック部
H1 水底面からの所定深さ
E 水底地盤
GL 水底面
WL 水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に長尺に形成され、水底側に開口部を有して水底地盤内に挿入固定された外筒管と、前記外筒管の内部に挿入され、前記外筒管の長手方向に昇降移動可能に配置されるとともに、自身の内部に供給された気体により浮力を生じて上昇可能に設けられた浮上管と、を備える可動式防波堤において、
前記外筒管は、水底面に対して前記開口部が一致され、前記浮上管は、前記外筒管が前記水底面から下方に所定深さで埋設された部分に対し、上昇位置の前記浮上管への水平方向の応力を受ける浮上管側上部補強部材が設けられていることを特徴とする可動式防波堤。
【請求項2】
前記浮上管は、蓄電池を内装するとともに、当該蓄電池に電力を供給するための電力受信部を有し、前記外筒管は、前記浮上管の下降位置において前記電力受信部に電力を送信する電力送信部を有しており、
前記電力送信部は、前記外筒管の前記水底面から所定深さで埋設された範囲に配置され、
前記電力受信部は、前記浮上管の上端が前記水底面と一致された下降位置において、前記浮上管の上端よりも下方の範囲で前記電力送信部に対向して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の可動式防波堤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の可動式防波堤を水底に複数配列したことを特徴とする可動式防波施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−122308(P2012−122308A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276201(P2010−276201)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【Fターム(参考)】