説明

可動被案内部材の位置検出装置

【課題】 近接スイッチの機能検査を向上させた、可動被案内部材の位置検出装置を提供する。
【解決手段】 移動部材(30)の位置を検出する位置検出装置は、正面の物体(2)までの距離をその計測量である出力信号の形で送出する近接センサ(20)と、移動部材(30)上に設けられた少なくとも1つのトランスポンダ(50)を備えている。近接センサ(20)はトランスポンダ(50)に記憶されたデータを読み出し可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正面の物体までの距離をその計測量である出力信号の形で送出する近接センサを備えた、可動被案内部材の位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置は、例えば、特許文献1から公知である。この文献に開示された近接センサは、例えば、クレーン車の可動被案内部材の所定位置を検出するために使用される。例えば、伸縮ジブの各段を伸張する際には、対応する油圧シリンダの動きを監視及び制御するとともに、各段を固定するボルトの位置を検出する必要がある。上記公知の装置の場合、近接センサの出力信号をAD変換器によってデジタルの出力値に変換し、その出力値を基準の上下閾値と比較する。デジタル出力値が許容の基準閾値の範囲外にある場合には、エラーメッセージが発せられ、評価部によって検査される。AD変換器に信号の誤変換がある場合やデジタル出力値と基準閾値との誤照合の場合には、近接スイッチが正確に動作していないにもかかわらずエラーメッセージが発せられない恐れがある。同じことは、可動被案内部材の位置に関係なく常に同じ信号が出力され、デジタル値が許容範囲内にあるが、実際には近接センサが誤動作している場合にも言える。
【特許文献1】独国特許発明第19830981号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明は、近接スイッチの機能検査を向上させた、可動被案内部材の位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的は、本発明の請求項1に記載された装置によって解決される。すなわち、正面の物体までの距離をその計測量である出力信号の形で送出する近接センサを備え、この近接センサによって可動被案内部材の位置を検出する位置検出装置であって、この位置検出装置は、上記可動被案内部材上に設けられた少なくとも1つのトランスポンダをさらに備えており、上記近接センサは上記トランスポンダに記憶されたデータを読み出し可能に構成されていることを特徴とする。
【0005】
この構成によれば、トランスポンダから受け取った情報に基づいて、近接センサが正確に動作しているか否かを検査することができる。これにより、例えば上記特許文献1に記載の方法に加えて、近接センサとトランスポンダとの間の対話に基づいて、近接センサの機能検査を実行することができる。本発明の好ましい態様によれば、2つの異なる測定方法を用いて近接スイッチの機能検査が行われる。これにより、安全性を向上させるとともに診断対象範囲を拡大させることができ、より高い安全等級を達成することができる。
【0006】
上記近接センサは、LC型減衰振動子の原理に従って動作する誘導性センサであることが好ましい。
【0007】
上記近接センサは発振回路を内蔵しており、上記位置検出装置は、上記発振回路が第1の周波数では上記近接センサを位置検出に利用するよう動作され、第2の周波数すなわち変調周波数では上記近接センサを上記トランスポンダとの通信に利用するよう動作されるように上記発振回路を制御するプロセッサをさらに備えていると有利である。
【0008】
誘導性近接センサとしては、発振回路の一部であるセンサコイルによって高周波交流磁界を発生させる調和振動子がある。センサコイルの交流磁界内に金属が入ると、渦電流が発生することによって系からエネルギーが引き出され、発振の振幅が小さくなる。その結果生じた電流の変化は、後段の電子部で評価される。センサの計測面から物体までの距離の計測量である連続出力信号が生成される。また、本発明によれば、近接センサがトランスポンダとの通信にも利用される。この目的のため、近接センサは、第2の周波数すなわち第1の周波数を変調させた周波数で動作可能になっている。これにより、近接センサとトランスポンダとの間の通信が可能になる。この通信は、トランスポンダからデータを読み出すために利用され、さらに、本発明の好ましい実施形態では、トランスポンダのメモリにデータを書き込むために利用される。
【0009】
したがって、本発明の別の態様では、上記トランスポンダが読み出し可能かつ書き込み可能に構成されている。トランスポンダは、受動トランスポンダ又は能動トランスポンダであってもよい。例えば、トランスポンダは誘導性の能動トランスポンダとして構成されてもよい。
【0010】
上記トランスポンダに記憶されるデータが可動被案内部材に関しているならば非常に有利である。データは、例えば、可動被案内部材の識別番号、通し番号、品質データ及び製造者に関するデータであってもよい。
【0011】
本発明の非常に有利な実施形態では、上記トランスポンダに記憶されるデータに、上記可動被案内部材の履歴、特に上記可動被案内部材に割り当てられた集中荷重に関するデータが含まれている。これにより、トランスポンダによる可動被案内部材に対する対応付けの結果として、クレーンジブの格段に割り当てられた集中荷重を記憶及び走査することができる。例えば、使用中のクレーンなど、使用中の装置の場合には、その装置の残りの値を測定するための基礎となる、各部材に割り当てられる集中荷重に関する手掛かりを求めることができる。
【0012】
本発明の別の態様では、上記近接センサの出力値又は該出力値から算出される値と基準値とを比較する第1の評価部が設けられている。さらに、上記トランスポンダの応答信号と基準信号とを比較する第2の評価部が設けられている。そして、上記出力値と上記基準値との差が閾値を超えた場合あるいは上記トランスポンダの応答信号が上記基準信号と一致しなかった場合には、エラーメッセージを発するよう構成されている。第1及び第2の評価部は1個の共通の構成要素からなっていてもよい。
【0013】
原理的には、上記評価部が近接スイッチと適切に接続される構成要素を構成することは可能である。同様に、近接スイッチ自体が評価を実行し、したがって、インテリジェントな構成要素として構成されることは可能である。本発明のさらに別の態様では、上記第1の評価部と第2の評価部の一方又は両方が近接スイッチに統合されている。
【0014】
上記近接センサの出力値から算出される値がデジタル値であって、位置検出装置が、上記近接センサの出力値をデジタル値に変換するアナログ−デジタル変換器をさらに備えていてもよい。
【0015】
上記近接センサは、バスを介して制御部と接続されていることが好ましい。上記バスのアドレスが、上記トランスポンダによって自動的に割り当てられるならば非常に有利である。さらに、本発明の有利な態様は、上記近接スイッチが、上記トランスポンダに記憶されたデータに基づいて取付け位置に自動的に対応付けされることである。これにより、最初はまだ一定の取付け位置に対応付けされておらず、従ってパラメータも割り当てられていない所望の取付け位置に近接センサ又は近接スイッチを設けることができる。近接スイッチを取り付けると、対応するトランスポンダが同定され、近接スイッチがその取付け位置に自動的に対応付けされる。移動距離、移動閾値、その他の関数など、近接スイッチ又は近接センサの関連パラメータが中央制御部から読み出され、当該近接スイッチ又は近接センサに割り当てられる。同じことは、トランスポンダによるバスアドレスの自動割当てにも当てはまる。したがって、最初に近接センサにアドレスを割り当てることなく、トランスポンダを用いてバスアドレスを自動的に割り当てることができる。
【0016】
原理的には、トランスポンダが近接スイッチによって走査又は読出しされるようにバスアドレスを割り当てることも可能である。この場合、近接スイッチがデフォルトのアドレスを有している。直接割当てを実行することも可能であり、それは非常に有利になる。この場合、近接スイッチはデフォルトのアドレスを持たず、トランスポンダが独立して読み出される。
【0017】
本発明のさらに詳細な説明と利点は図面に示す以下の実施形態に基づいて説明されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態にかかる可動被案内部材の位置検出装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1に示すように、近接スイッチ10は、LC型減衰振動子の原理に従って動作する近接センサ20を備えている。LC発振回路の一部である上記センサのコイル内では、調和振動子が高周波の交流磁界を発生させる。減衰面として使用される移動部材30が上記センサコイルの交流磁界に導入されると、渦電流が発生することによって系からエネルギーが引き出され、発振の振幅が小さくなる。その電流の変化が後段の電子部で評価される。
【0020】
図1に示す移動部材30は、3つの優先位置すなわち要素1,2,3を有している。図面では、近接センサ20は、要素2から近接センサ20の計測面までの距離が測定される位置に図示されている。要素1,2,3はトランスポンダを備えていてもよい。要素1,2,3に加えて、移動部材30にもトランスポンダを配置することができる。
【0021】
近接センサ20は、計測可能範囲内であれば、センサ正面の物体までの距離をその計測量である連続出力信号の形で出力する。近接センサ20は、可動被案内部材である移動部材30の所定位置を検出するよう動作する。移動部材30は、出力信号が少なくとも上記所定位置で変化するように構成されている。
【0022】
移動部材30には、移動部材30に関するデータを記憶するトランスポンダ50が設けられている。そのようなデータは、例えば、製造者、識別番号、通し番号、品質データ、その部材に割り当てられた集中荷重に関するデータである。
【0023】
移動部材30に、1個以上のトランスポンダ50を配置してもよい。
【0024】
図1に示すように、センサ20はプロセッサ(MIC)40に接続されている。プロセッサ40は、例えば、上記特許文献1から公知のように、近接スイッチの通常の方法を適用できるようにセンサ20を制御する。この動作モードでは、センサ20はセンサ20と移動部材30の要素2との間の距離を検出するか、あるいは移動部材30の位置を検出するように動作する。センサ20は、センサ計測面と要素2との間の距離をその計測量である連続出力信号の形で送出する。可動被案内部材30は、少なくとも上記所定位置でセンサ20の出力信号が変化するように構成されていることが好ましい。
【0025】
また、センサ20の出力信号をデジタル出力値に変換する、図示しないAD変換器が設けられている。
【0026】
さらに、デジタル出力値をある位置を検出するために記憶された基準上下閾値と比較し、デジタル出力値が許容基準上下閾値の範囲外にある場合にエラーメッセージを発する評価部が設けられている。
【0027】
マイクロプロセッサ40は、別の動作モードでは、周波数を変えて変調することによってトランスポンダ50からデータを読み出したり、トランスポンダ50にデータを書き込んだりできるようにセンサ20を制御する。
【0028】
これにより、例えば、近接スイッチ10の機能を2つの異なる計測方法によって検査することができるという利点がもたらされる。その結果、安全性が向上するとともに診断対象範囲が拡大して、より高い安全等級を達成することができる。
【0029】
例えば、センサ20が特定の信号をトランスポンダ50に送信し、トランスポンダ50から所定の信号が返されたり読み出されたりすることが考えられる。このような同定処理が正しく終了しなかった場合、それが評価部で判断され、エラーメッセージが発せられるようにすることができる。
【0030】
トランスポンダ50は、例えば、誘導性の能動トランスポンダであってもよい。
【0031】
図面に示すように、マイクロプロセッサ40はバス60に接続されている。バス60は、プロセッサ40を、例えば中央コンピュータとして構成可能な図示しない制御部と接続する。
【0032】
図面に示すように、近接スイッチ10は、中央コンピュータとの接続用のバス以外に、電源と、補助光学出力部を備えている。
【0033】
近接スイッチ10を取付け位置に取り付けると、近接スイッチ10又はそのセンサ20がトランスポンダ50を検出し、そこから取付け位置に関する情報を受け取る。その情報は制御部に送られ、その後、移動距離、移動閾値、その他の関数などのパラメータが近接スイッチ10に割り当てられる。
【0034】
同じことは、バスアドレスの割り当てにも適用される。トランスポンダ50が存在するため、センサ20によるトランスポンダ50の検出時に、バスアドレスの自動割り当てを実行することができる。
【0035】
本発明の特に有利な態様は、トランスポンダの特性が被案内部材に割り当てられた集中荷重を記憶するという目的で利用される場合である。この目的のためには、トランスポンダのメモリは読み出し及び書き込みが可能でなければならない。トランスポンダによるクレーンジブの格段などの可動被案内部材に対する対応付けにより、対応する構成要素の以前の荷重、荷重ピークなどの情報を得ることができ、例えば、使用部材の評価を行う場合に重要になる。
【0036】
本発明は、移動部材にトランスポンダが存在するので、移動部材の距離及び位置を検出できるのみならず、それを同定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】近接センサと、トランスポンダ付き移動部材の概略図である。
【符号の説明】
【0038】
10 近接スイッチ
20 近接センサ
30 移動部材
40 プロセッサ
50 トランスポンダ
60 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面の物体(2)までの距離をその計測量である出力信号の形で送出する近接センサ(20)を備え、この近接センサによって可動被案内部材(30)の位置を検出する位置検出装置であって、
上記可動被案内部材(30)上に設けられた少なくとも1つのトランスポンダ(50)をさらに備え、
上記近接センサ(20)は、上記トランスポンダ(50)に記憶されたデータを読み出し可能に構成されている位置検出装置。
【請求項2】
上記近接センサ(20)は発振回路を内蔵しており、
上記発振回路が第1の周波数では上記近接センサ(20)を位置検出に利用するよう動作され、第2の周波数では上記近接センサ(20)を上記トランスポンダ(50)との通信に利用するよう動作されるように上記発振回路を制御するプロセッサ(40)をさらに備えている請求項1記載の位置検出装置。
【請求項3】
上記トランスポンダ(50)が読み出し可能かつ書き込み可能に構成されている請求項1又は2記載の位置検出装置。
【請求項4】
上記トランスポンダは、誘導性の受動トランスポンダ又は能動トランスポンダである請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の位置検出装置。
【請求項5】
上記トランスポンダ(50)に記憶されるデータには、上記可動被案内部材(30)の識別番号、通し番号、品質データ及び製造者に関するデータが含まれる請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の位置検出装置。
【請求項6】
上記トランスポンダ(50)に記憶されるデータには、上記可動被案内部材(30)の履歴、特に上記可動被案内部材(30)に割り当てられた集中荷重に関するデータが含まれる請求項1乃至5のうち何れか1項に記載の位置検出装置。
【請求項7】
上記近接センサ(20)の出力値又は該出力値から算出される値と基準値とを比較する第1の評価部と、
上記トランスポンダの応答信号と基準信号とを比較する第2の評価部とをさらに備え、
上記出力値と上記基準値との差が閾値を超えた場合あるいは上記トランスポンダの応答信号が上記基準信号と一致しなかった場合にエラーメッセージを発するよう構成されている請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の位置検出装置。
【請求項8】
上記第1の評価部と第2の評価部は、1個の構成要素からなっている請求項7記載の位置検出装置。
【請求項9】
上記近接センサ(20)の出力値から算出される値はデジタル値であり、
上記近接センサ(20)の出力値をデジタル値に変換するアナログ−デジタル変換器をさらに備えている請求項7又は8に記載の位置検出装置。
【請求項10】
上記近接センサ(20)を内蔵した近接スイッチ(10)に接続された制御部をさらに備えている請求項1乃至9のうち何れか1項に記載の位置検出装置。
【請求項11】
上記の接続は、バス(60)を介して行われている請求項10記載の位置検出装置。
【請求項12】
上記バスのアドレスが、上記トランスポンダ(50)に記憶されたデータに基づいて自動的に割り当てられる請求項11記載の位置検出装置。
【請求項13】
上記近接センサ(20)を内蔵した上記近接スイッチ(10)は、上記トランスポンダ(50)に記憶されたデータに基づいて取付け位置に自動的に対応付けされている請求項10乃至12のうち何れか1項に記載の位置検出装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−48699(P2006−48699A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223316(P2005−223316)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(597120075)リープヘル−ヴェルク エーインゲン ゲーエムベーハー (23)
【氏名又は名称原語表記】Liebherr−Werk EhingenGmbH
【Fターム(参考)】