説明

可動部用ケーブル

【課題】シールドの屈曲寿命を長くし、かつ、従来と同等の遮蔽効果を有するシールドを備えた耐屈曲性に優れた可動部用ケーブルを提供する。
【解決手段】可動部用ケーブルのシールド層を、金属素線を複数本並列に配列し、螺旋状に巻き付けた横巻きシールドを二重に施し、各横巻きシールドは交差角度が30度以上となるように互いに交差するように巻き付けられるとともに、上記二重の横巻きシールド間にセパレータを設けて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体に絶縁体を被覆した絶縁線の外周にシールドを設けたケーブルに係り、特に、屈曲運動が加わる環境下で使用される可動部用ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のシールド構造を有するケーブルは、導体に絶縁体を被覆した絶縁線を撚り合わせ、撚り合わせた絶縁線の周囲に、銅線や銅合金線にスズめっきを施した金属素線を交差させて編んだ編組シールド、あるいは、上記のような金属素線を多数本並べ、所定のピッチで横巻きした横巻きシールドを配し、シールド上にポリ塩化ビニル等からなるシースを被覆したものである。
【0003】
近年、このようなシールド構造を有するケーブルにおいて、屈曲運動が加わる環境下で使用するために、耐屈曲性を有する可動部用のケーブルが種々検討されている。可動部用ケーブルとしては、例えば、導体やシールドを、耐屈曲性を有する特殊な合金線で構成したものや、導体の中心にポリエステル繊維を配した特殊な導体を用いて屈曲寿命の強化を図っているものなどがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−38722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、可動部用ケーブルにおいては、一般に導体の屈曲寿命に比べ、シールドの屈曲寿命は短い傾向にある。その理由としては、導体は材料特性の他に、素線径、導体構成、撚線および撚り合わせピッチの構造による耐屈曲性強化が可能であるのに対して、シールドは、一定以上の遮蔽効果を得ることが必要であるため、耐屈曲性を付与するために構造上変更可能なものは、ピッチあるいは角度のいずれかとなり、設計上の制約が大きく、したがって材料特性へ依存せざるを得ず、それ以上の耐屈曲性強化がしづらいことにある。
【0006】
また、ケーブルの構造上、シールドは中心導体よりも外側に配置されるため、導体よりも可動時の曲げ半径が小さくなり、圧縮力を大きく受けるため、これらが早期断線の要因になってしまう。
【0007】
また、編組シールドのように素線同士が交差し、且つ接触している場合、接触部で素線同士の摩耗が起こることにより断線が早まることもある。この現象を防ぐために、素線同士が交差しない横巻きシールドを用いる方法もある。しかしながら、可動時における絶縁線の撚り合わせ上を占めるシールド占有率が編組シールドに比べ低下するため、ノイズが通過するギャップが大きくなり、耐ノイズ性が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、シールドの屈曲寿命を長くし、且つ、従来と同等の遮蔽効果を有するシールドを備えた耐屈曲性に優れた可動部用ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の可動部用ケーブルは、導体に絶縁体を被覆した絶縁線の外周にシールド層を設けた可動部用ケーブルにおいて、前記シールド層は、金属素線を複数本並列に配列し、螺旋状に巻き付けた横巻きシールドを二重に施し、各横巻きシールドは交差角度が30度以上となるように互いに交差するように巻き付けられるとともに、前記二重の横巻きシールド間にセパレータを設けることを特徴とするものである。
【0010】
また、前記セパレータが紙テープからなってもよい。
【発明の効果】
【0011】
横巻きシールドを二重に施すことにより従来の編組シールドと同等の遮蔽効果を有するとともに、二重の横巻きシールド間にセパレータを設けることにより、素線同士の摩擦を防ぐことができ、これにより、従来と同等の遮蔽効果を有するシールドを備えた耐屈曲性に優れた可動部用ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の可動部用ケーブルの一実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の可動部用ケーブルに施される二重の横巻きシールドの一実施例を示す断面図である。
【図3】本発明の可動部用ケーブルに施される各横巻きシールドの一実施例を示す側面図である。
【図4】左右90度屈曲試験の概略図である。
【図5】本発明の可動部用同軸ケーブルの一実施例を示す断面図である。
【図6】本発明の二重の横巻きシールドを用いた平型ケーブルの一実施例を示す断面図である。
【図7】本発明の二重の横巻きシールドを用いた熱融着平型ケーブルの一実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の可動部用ケーブルの一実施例を示す断面図である。
【0015】
可動部用ケーブル20は、導体1Aの外周に絶縁体2Aを設けて絶縁線を形成し、この絶縁線を2本撚り合わせ、撚り合わせた絶縁線の外周に、二重の横巻きシールド3Aの間にセパレータ4Aが設けられたシールド層を配置し、その外周を内部シース5で被覆する。その後、内部シース5で被覆されたユニットを3本撚り合わせ、撚り合わせ上に押え巻きテープ7Aを巻き付ける。この時、撚り合わせ上と押え巻きテープ7Aの間に介在物6を介在させる。さらに、押え巻きテープ7A上に、絶縁線の撚り合わせ上に施したものと同様のシールド層を配置し、その外周に外部シース10Aを設ける。
【0016】
導体としては、軟銅線、錫めっき軟銅線、銅合金線、あるいはこれらを複数本撚り合わせたものなどを使用することができる。
【0017】
絶縁体としては、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロプロピルビニルエーテル共重合体(PFA)あるいはフッ素ゴムの中から選定した樹脂を用いることができる。
【0018】
図2に記載の通り、シールド層は、二重の横巻きシールドの間にセパレータが設けられた三層構造からなり、一層目が第1の横巻きシールド、二層目がセパレータ、三層目が第2の横巻きシールドからなる。第1および第2の横巻きシールドは、図3に記載の通り、金属素線を複数本並列に配列したものからなり、図3の12、13はそれぞれ第1および第2の横巻きシールドである。第1および第2の横巻きシールド12,13は、交差角度が30度以上となるように互いに交差するように逆方向に巻き付けられている。このとき、交差角度が30度より小さいと、屈曲時に長手方向から受ける張力に対してシールド素線の可動範囲が狭くなり、伸びしろが確保できなくなるため、早期断線の原因となる。また、第1および第2の横巻きシールドを構成する金属素線としては、軟銅線、めっき線、合金線、あるいは、ポリエステル繊維状に銅箔を巻き付けた構造の銅箔糸などを用いることができる。この中でも、銅箔糸は、他の素線に比べ優れた耐屈曲性を有している一方で、素線上に銅箔の継ぎ目が存在しており、素線同士の擦れに加え、継ぎ目での擦れも断線原因となっていたが、各横巻きシールの間にセパレータを設けたことにより、これらの擦れを解消することが可能となる。したがって銅箔糸を適用した場合がより効果的である。
【0019】
セパレータの材質としては、紙、テフロン(登録商標)、ナイロンなどを用いることができるが、耐摩耗性に優れ、摩擦係数の小さな材料であればこれらに限られるものではない。
【0020】
その他、介在や押え巻きテープとしては、従来より可動部用ケーブルに使用されているものであればいずれも適用可能である。
【0021】
また、内部シースおよび外部シースに用いる材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)などを用いることができる。
【0022】
(第2の実施形態)
図5は本発明の可動部用同軸ケーブルの一実施例を示す断面図である。
【0023】
可動部用同軸ケーブル30は、導体1Bの上に絶縁体2Bを設け、さらにその外周に二重の横巻きシールド3Bの間にセパレータ4Bが設けられたシールド層を配置し、その外周を外部シース10Bで被覆したものである。本実施の形態における導体、絶縁体、シールド層、シースは、それぞれ第1の実施の形態と同様のものを使用することができる。
【0024】
(第3の実施の形態)
図6は本発明の二重の横巻きシールドを用いた平型ケーブルの一実施例を示す断面図である。
【0025】
平型ケーブル40は、導体1Cの上に絶縁体2Cを設けて絶縁線を形成し、この絶縁線を3本撚り合わせ、撚り合わせた絶縁線の外周に、二重の横巻きシールド3Cの間にセパレータ4Cが設けられたシールド層を設け、その後、シールド層が設けられたユニットを4本並列に並べて、外部シース10Cにより一括被覆したものである。本実施の形態における導体、絶縁体、シールド層、シースは、それぞれ第1の実施の形態と同様のものを使用することができる。
【0026】
(第4の実施の形態)
図7は本発明の二重の横巻きシールドを用いた熱融着平型ケーブルの一実施例を示す断面図である。
【0027】
熱融着平型ケーブル50は、第3の実施の形態に記載のシールド層が設けられたユニットの外周に外部シース10Dを設けて、これらを5本並列に並べてシース間を熱風で熱融着させたものである。外部シース10Dは、第1の実施の形態と同様のものを使用することができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
外径0.08mmの錫めっき軟銅線を40本撚り合わせてなる導体の外周に、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)からなる絶縁体を厚さ0.2mmで被覆した絶縁線を形成する。形成した絶縁線を2本撚り合わせ、撚り合わせ上に、複数本並列に配列した素線からなる二重の横巻きシールドとセパレータからなるシールド層を施した。各横巻きシールドを形成する素線には、外径0.08mmの錫めっき軟銅線を用い、セパレータとしては、厚さ0.05mmの紙テープを用いた。これらを、第1の横巻きシールド、セパレータ、第2の横巻きシールドの順で層状に形成したものをシールド層として用いた。このとき、第1の横巻きシールドと第2の横巻きシールドは、巻き付け方向を互いに交差するように逆方向とした。また、その交差角度は30度とした。シールド層の外周には、塩化ビニル(PVC)を厚さ0.25mmで被覆した内部シースを設けた。内部シースで被覆したユニットを3本撚り合わせ、撚り合わせ上に紙テープで押え巻きテープ7を巻き付けた。その後、押え巻きテープ上に、絶縁線の撚り合わせ上に施したものと同様のシールド層を施し、その上から外部シースを被覆した。外部シースは、塩化ビニル(PVC)を厚さ1.0mmで施した。
【0029】
(従来例1)
実施例1に記載のケーブルにおいて、シールド層を従来からの編組シールドにより構成した。
【0030】
実施例1に記載の可動部用ケーブルと従来例1に記載のケーブルを、図4に示す試験方法を用いて、左右90度屈曲試験を行い、屈曲寿命を評価した。
【0031】
この試験方法は、吊り下げたケーブルに、2kgの荷重15を取り付け、局率半径Rが12.7mmのガイド16を両側に配して、それぞれ左右90度に曲げる。吊り下げた状態から左右に90度曲げ、元の状態に戻るまで([1]〜[4])を1回とし、屈曲速度を30回/分として屈曲させる。このとき、シールドには1A以下の電流を通電し、導通が無くなるまでの屈曲回数を測定した。
【0032】
実施例1に記載の可動部用ケーブルと、従来例1に記載のケーブルを比較したところ、実施例1に記載の本発明に係るケーブルは従来のケーブルに比べ高い屈曲寿命を示した。
【符号の説明】
【0033】
1A,1B,1C : 導体
2A,2B,2C : 絶縁体
3A,3B,3C : 二重横巻きシールド
4A,4B,4C : セパレータ
5 : 内部シース
6 : 介在物
7A,7C : 押え巻きテープ
10A,10B,10C,10D : 外部シース
11 : シールド素線
12 : 第1の横巻きシールド層
13 : 第2の横巻きシールド層
14 : ガイド
15 : 錘
20 : 可動部用ケーブル
30 : 可動部用同軸ケーブル
40 : 平型ケーブル
50 : 熱融着平型ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に絶縁体を被覆した絶縁線の外周にシールド層を設けた可動部用ケーブルにおいて、前記シールド層は、金属素線を複数本並列に配列し、螺旋状に巻き付けた横巻きシールドを二重に施し、各横巻きシールドは交差角度が30度以上となるように互いに交差するように巻き付けられるとともに、前記二重の横巻きシールド間にセパレータを設けることを特徴とする可動部用ケーブル。
【請求項2】
前記セパレータが紙テープからなることを特徴とする請求項1記載の可動部用ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−124117(P2011−124117A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281315(P2009−281315)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】