説明

可塑性油脂組成物

【課題】本発明の目的は、ロングライフのパン、パイ、クロワッサン、デニッシュなど多層状膨化小麦粉食品を可能にするロールイン用可塑性油脂組成物を提供すること、およびこれを利用したロングライフの多層状膨化小麦粉食品を提供することにある。
【解決手段】本発明の可塑性油脂組成物は、15℃で液状を呈し、且つ構成する脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸が0〜20%、且つヨウ素価が50〜110である油脂と15℃で固体状を呈する油脂からなる油相を使用し、且つ、茶抽出物およびトコフェロールを含有する可塑性油脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性油脂組成物に関するものである。さらに詳しくは、パン、パイ、クロワッサン、デニッシュなどの膨化小麦粉食品を製造するのに適した可塑性油脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化が進んできている中で食感の軟らかいパンが高齢者層に好んで食べられる機会が増えてきているので、買い溜めをしたいといった要望が増えてきている。売られている市販パンの多くは賞味期限が2〜5日といった短いものがほとんどであった。一方市販のロングライフパンは30日が目安となり市販されている。
【0003】
ロングライフパンは経時で硬くなったり、特に風味の点でバター風味がなくなり油臭が強くなり賞味期限にも限界があった。さらに風味が経時で油臭の発生を抑え、賞味期限が30日以上であるロングライフパンが要望されるようになってきた。
【0004】
特許文献1および特許文献2では、一般にパネトーネ種と呼ばれる、いくつかの特定の菌種を用いて作られた発酵物を用いてイタリアンケーキやパンを製造することによって、ロングライフを達成する方法が示されている。しかし、パイ、クロワッサン、デニッシュのような多層状膨化小麦粉食品では、ロールイン用可塑性油脂組成物あるいは澱粉を主体とするつなぎを生地に多量に折り込むため、ロールイン用可塑性油脂組成物あるいは澱粉を主体とするつなぎの風味劣化が多層状膨化小麦粉食品の風味により大きな影響を与えるため、これらの方法はスポンジ状のパンについてのみ適用可能であった。
特許文献3では、ロングライフのパイ、クロワッサン、デニッシュなどに適用できる澱粉を主体とするつなぎ、およびそれを用いた多層状膨化小麦粉食品が示されている。しかし、澱粉を主体とするつなぎを折り込んだ多層状膨化小麦粉食品は、糊化した澱粉独特のネチャネチャした食感が出てしまうという問題があった。
【特許文献1】特公平3−58695号公報
【特許文献2】特公2005−3677693号公報
【特許文献3】特開2005−237248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ロングライフのパイ、クロワッサン、デニッシュなど多層状膨化小麦粉食品に適用可能であり、且つ、ネチャネチャした食感のない多層状膨化小麦粉食品を製造することができるロールイン用可塑性油脂組成物、およびこれを使用したロングライフの多層状膨化小麦粉食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を行った結果、ロールイン用可塑性油脂組成物を生地に折り込むことによって製造された多層状膨化小麦粉食品の経時的な風味の劣化は、生地ではなくロールイン用可塑性油脂組成物の油脂相の風味の影響を大きく受けることを見出した。可塑性油脂組成物の油相に特定の油脂を含有し、且つ、茶抽出物およびトコフェロールを含有させることにより、上記課題を解決できるという知見を得、本発明を完成するに至ったのである。
即ち本発明の第1は15℃で液状を呈し、且つ構成する脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸が0〜20%、且つヨウ素価が50〜110である油脂と、15℃で固体状を呈する油脂から油相が成り、且つ、茶抽出物およびトコフェロールを含有する可塑性油脂組成物であり、第2はロールイン用である請求項1記載の可塑性油脂組成物であり、第3は、第1記載の可塑性油脂組成物を用いて製造されたロングライフの多層状膨化小麦粉食品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ロングライフの多層状膨化小麦粉食品を製造する際、風味、食感とも良好な焼成品が得られ、且つ、保存期間が長期に及んでも良好な風味を維持できるロールイン用可塑性油脂組成物、およびこれを使用したロングライフの多層状膨化小麦粉食品を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の可塑性油脂組成物を構成する油相は、15℃で固体状の油脂1種類以上および15℃で液体状の油脂1種類以上を混合した油相を持つ必要がある。
【0009】
本発明の可塑性油脂組成物に使用する15℃で固体状の油脂原料としては例えば、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨脂等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の単独又は混合油あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂が適する。
【0010】
本発明の可塑性油脂組成物に使用する15℃で液体状を呈する油脂原料としては、好ましくは12℃で液体状を呈する油脂であって、且つ、ヨウ素価が50〜110であることが好ましく、60〜100であると更に好ましい。また、構成脂肪酸として、リノール酸、リノレン酸に代表される多価不飽和脂肪酸が好ましくは0〜20%、更に好ましくは0〜18%であることが望ましい。また、オレイン酸に代表される一価不飽和脂肪酸が好ましくは35〜85%、更に好ましくは45〜85%であることが望ましい。
【0011】
15℃で液状を呈し、且つ構成する脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸が0〜20重量%、且つヨウ素価が50〜110である油脂は、可塑性油脂組成物中に1〜70重量%、好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは10〜35重量%含有すると良い。下限未満では可塑性油脂組成物が硬くなりすぎ、使用用途に合わせた物性が得られず、製パン性が著しく劣り好ましくない。上限を超える場合は、可塑性油脂組成物が軟らかくなりすぎ、又は可塑性が得られにくくなり、製パン性が著しく劣る為、好ましくない。
【0012】
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は上記15℃で液状を呈し、且つ構成する脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸が0〜20%、且つヨウ素価が50〜110である油脂に加え、茶抽出物およびトコフェロールを含有する必要がある。三者のいずれか一つでも欠けた場合には満足に値する長期にわたる風味劣化防止効果が得られ難い。
【0013】
本発明の茶抽出物としては、緑茶、ウーロン茶、紅茶等の茶葉またはその加工品の抽出物であり、熱エタノールまたは熱水で抽出したものが好ましい。茶抽出物としては市販茶抽出物が使用でき、太陽化学株式会社製の「サンカトール」(茶抽出物10%含有)などが例示される。
本発明の可塑性油脂組成物に配合する茶抽出物の含量は0.0001〜0.1重量%、好ましくは0.001〜0.05重量%、最も好ましくは0.005〜0.02重量%の範囲で使用すると良い。茶抽出物の使用量が下限未満であると風味劣化防止効果が十分ではなく、上限を超えると茶抽出物そのものの味のために風味が悪くなる。
【0014】
本発明の可塑性油脂組成物に使用するトコフェロールとしては、市販品として入手可能である。これらは天然の植物から抽出した精製品でも未精製品でも良く、合成品でも良い。また、α―トコフェロール等の単品でも、α、β、γ、δ―トコフェロール等の混合物でも良い。市販品としては、理研ビタミン株式会社製の「理研オイルスーパー80」(トコフェロール64%含有)などが例示できる。本発明の可塑性油脂組成物に用いるトコフェロールの含量としては0.0001〜0.1重量%、好ましくは0.001〜0.05重量%、最も好ましくは0.005〜0.02重量%の範囲で使用するのが望ましい。トコフェロールの使用量が下限未満の場合は、期待される効果は得られなく上限を超えるとトコフェロールそのものの味が出て風味が悪くなる。
【0015】
本発明の可塑性油脂組成物は必要に応じて乳化剤を添加しても良い。乳化剤としては蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび酢酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリド、酢酸酒石酸混合モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、リンゴ酸モノグリセリド等各種有機酸モノグリセリド、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、レシチンなどが挙げられる。
【0016】
本発明において、上記の原料、添加物の他に、所望により、色素、抗酸化剤、香料などの油溶性成分、水、および食塩、糖類、粉乳、発酵乳などの水溶性成分を使用することができる。
【0017】
本発明の可塑性油脂組成物の製造法については特に限定されないが、常法通り、油相と水相を予備乳化した後、パーフェクター、ボテーター、コンビネーターなどで急冷捏和することにより製造することができる。可塑性油脂組成物が油相のみで構成される場合は、窒素ガスなどを吹き込みパーフェクター、ボテーター、コンビネーターなどで急冷捏和することにより製造することができる。
【0018】
本発明のロングライフの層状膨化小麦粉食品とは、生地を薄く延ばし、これにロールイン用油脂組成物をのせて折りたたみ、焼成することにより得ることが出来る。このようにして得られた層状膨化小麦粉食品の具体例はパン、パイ、クロワッサン、デニッシュ等が例示できる。これらを製造する時に、ロールイン用可塑性油脂組成物はフィリング用途、練り込み用途とは求めれる物性、風味が大きく異なる。ロールイン工程において冷やされた生地に包み込みシーターで伸ばし、折りたたみ層を形成していく。ロールイン工程において生地の温度が上がり柔らかくなるためリタードをとり生地の硬さを調製する場合が多い。そしてロールイン用可塑性油脂組成物は隅々までロールインされ、焼成品に浮き、内層の良さ、および低温時の伸展性、腰の強さの物性が要求されると同時に保存での経時変化による風味の良さの持続性が要求される。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実 施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味す る。
【0020】
実施例1
硬化大豆油(上昇融点52℃)10部、硬化菜種油(上昇融点35℃)44部、硬化菜種油(上昇融点10℃、ヨウ素価95、リノール酸含量13.6%、リノレイン酸含量4.0%で合計多価不飽和脂肪酸含量17.6%、オレイン酸含量73.2%)30部を60℃で融解し、飽和モノグリセリド0.5部、大豆レシチン0.3部、理研オイルスーパー80 を0.1部、サンカトール0.03部、バターフレーバー0.1部を溶解/分散させ油相を得た。50℃の水15部に食塩1部を溶解させ水相を得た。油相と水相とを55℃で混合攪拌し予備乳化させ、コンビネーターにより急冷捏和し、実施例1の組織良好なロールイン用可塑性油脂組成物を得た。これらを表1に纏めた。
表2の配合において、実施例1のロールイン用可塑性油脂組成物以外の原料を練り上げ、28℃、湿度75%の庫内にて60分間発酵させた後、−18℃のフリーザーで60分間リタードをとった。実施例1のロールイン用可塑性油脂組成物を折り込み、リバースシーターで3つ折りを2回行った後、−7℃のフリーザーで60分間リタードをとり、リバースシーターで3つ折りを1回行った後、−7℃のフリーザーで45分間リタードをとった。そして、リバースシーターで生地厚4mmまで延ばし、55gを成形し、30℃、湿度75%の庫内で60分間発酵させた後、庫内温度205〜215℃のオーブンで15〜19分間焼成し実施例1のクロワッサンを得た。評価としては焼成品の浮き、内層とも良好であった。1日、10日、20日、40日、60日保存後の風味について評価を行ったところ、40日保存後までは良好な風味を保っていたが、60日保存後では、若干の油脂劣化臭が感じられた。この結果を表3に纏めた。
【0021】
実施例2
実施例1において、硬化菜種油(上昇融点10℃)30部をパーム分別油低融点部30部(上昇融点10℃、ヨウ素価68.0、リノール酸含量13.5%、リノレイン酸含量0.8%で合計多価不飽和脂肪酸含量14.3%、オレイン酸含量49.0%)に代えた以外は実施例1に準じて実施しこれらを表1に纏めた。実施例1と同様にロールイン油脂組成物を製造し、実施例1と同様の方法でクロワッサンを作成した。1日、10日、20日、40日、60日保存後の風味について評価を行ったところ、40日保存後までは良好な風味を保っていたが、60日保存後では、若干の油脂劣化臭が感じられた。この結果を表3に纏めた。
【0022】
比較例1
実施例1において、硬化菜種油(上昇融点10℃)30部を菜種油(ヨウ素価111.5、リノール酸含量20.6%、リノレイン酸含量9.2%で合計多価不飽和脂肪酸29.8%、オレイン酸含量60.8%)30部に代えた以外は実施例1に準じて実施し比較例1のロールイン用可塑性油脂組成物を得た。これらを表1に纏めた。これを用いてクロワッサンを作成した。評価としては比較例1は1日保存後の風味においては実施例1とほぼ同等で良好であったが、10日保存後から風味の劣化が見られた。20日保存後の風味は劣化臭があった。40日、60日は完全にバター臭がなく油脂の劣化臭がした。この結果を表3に纏めた。
【0023】
比較例2
実施例1において、理研オイルスーパー80を 0.03部抜いた以外は実施例1に準じて実施し比較例2のロールイン用可塑性油脂組成物を得た。これらを表1に纏めた。
表2の配合において、実施例1のロールイン用可塑性油脂組成物の代わりに比較例2のロールイン用可塑性油脂組成物を使用した以外は実施例1と同様な処理を行なった。評価としては比較例2は1日保存後の風味においては実施例1とほぼ同等で良好であったが、10日後の風味はややバター臭が少なく、20日保存後から風味の劣化が見られた。40日、60日はバター臭がなく油脂の劣化臭がした。これらを表3に纏めた。
比較例3
実施例1において、サンカトール0.1部を抜いた以外は実施例1に準じて実施し比較例3のロールイン用可塑性油脂組成物を得た。これらを表1に纏めた。
表2の配合において、実施例1のロールイン用可塑性油脂組成物の代わりに比較例3のロールイン用可塑性油脂組成物を使用した以外は実施例1と同様な処理を行なった。評価としては比較例3は1日保存後の風味においては実施例1とほぼ同等で良好であったが、20日保存後から風味の劣化が見られた。40日、60日は完全にバター臭がなく油脂の劣化臭がした。これらを表3に纏めた。
【0024】
表1、2、3、に実施例1、2および比較例1〜比較例3の配合と結果を纏めた。
【0025】
【表1】

【0026】
次に実施例1、比較例1〜比較例3のロールイン用可塑性油脂組成物を使用し、表2の配合通りに、それぞれクロワッサンを焼成した。クロワッサンは鮮度保持剤(アルコール製剤:フレテック社製)と共に透明な袋に入れ30℃の条件下で長期保存し、1日、10日、20日、40日、60日後の風味の評価を行った。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、ロールイン用可塑性油脂組成物に関し、さらに詳しくは、ロングライフのパン、パイ、デニッシュ、ペストリーなどの多層状膨化小麦粉食品を製造するに適したロールイン用可塑性油脂組成物及びそれを使用してなるロングライフの多層状膨化小麦粉食品に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15℃で液状を呈し、且つ構成する脂肪酸中の多価不飽和脂肪酸が0〜20%、且つヨウ素価が50〜110である油脂と、15℃で固体状を呈する油脂から油相が成り、且つ、茶抽出物およびトコフェロールを含有する可塑性油脂組成物。
【請求項2】
ロールイン用である請求項1記載の可塑性油脂組成物。
【請求項3】
請求項1の可塑性油脂組成物を用いて製造されたロングライフの多層状膨化小麦粉食品。

【公開番号】特開2008−5786(P2008−5786A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180571(P2006−180571)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】