説明

可変偏波分散補償装置および可変偏波分散補償方法

【課題】信号光に対する損失を低減し、かつ簡易な構成において可変のDGDを付与可能な可変偏波分散補償器又は可変偏波分散補償方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、偏波保持ファイバ114に入力された、第1の偏波状態の信号光に偏波分散補償を行う。偏波分散補償時には、偏波コントローラ115にて、信号光の周波数よりも偏波保持ファイバ114のブリルアンシフト周波数だけ大きいまたは小さい周波数の光を第2の偏波状態にする。第2の偏波状態の偏波を、偏波保持合波器116を介して、信号光とは反対方向となるように、第2の偏波状態を保持したまま偏波保持ファイバ114に入力する。該入力された第2の偏波状態の偏波を偏波保持ファイバ114内を伝搬させて、保持ファイバ114中で誘導ブルリアン散乱を発生させ、該誘導ブリルアン散乱の偏波依存性により、信号光の、X偏波またはY偏波に対し異なる群屈折率変化を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送システムにおける可変偏波分散補償装置及び可変偏波分散補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送ネットワークにおいて、40Gbps伝送の実用化などの高速化が進んでおり、波長分散に加えて、偏波分散の影響が無視できなくなっている。そこで、偏波分散補償を行うため、図2に示すような偏波分散補償装置が考案されている。
【0003】
図2に示す偏波分散補償装置は、コアに異方性応力を付加している偏波保持ファイバ14と偏波コントローラ(または偏光子)13とを用い、固定のDifferential Group Delay(DGD;群遅延時間差)を付与するものである。このような構成において、送信機10から送信された被補償信号光について偏波コントローラ13によって偏波状態を適切に変換し、該適切な偏波となった信号光を偏波保持ファイバ14に入射することにより、偏波分散により生じたDGDを補償している。
【0004】
この図2に記載のシステムでは、偏波保持ファイバ14のパラメータである複屈折やファイバの長さによって与えられるDGDが固定的に決まっているが、偏波分散補償においては、DGDは可変である場合が、DGDが固定である場合よりもQ値ペナルティが抑えられるなどの報告がなされている(非特許文献1)。そこで、可変量のDGDを与える手法として、偏波ビームスプリッタと空間系ディレイラインとを用いたものや(非特許文献2)、チャープドグレーティングを施した偏波保持ファイバを用い、該偏波保持ファイバを一方の偏波面へ曲げることによりDGDを制御する(非特許文献3)等の提案がなされている。
【0005】
【非特許文献1】Qian Yu, A. E. Willner, “Comparison of optical PMD compensation using a variable and fixed differential group delays”, Optical Fiber Communication Conference (OFC) 2001, paper MO2
【非特許文献2】Heismann, F.; Fishman, D. A.; Wilson, D. L. , “Automatic compensation of first order polarization mode dispersion in a 10 Gb/s transmission system”, Optical Communication, 1998. 24th European Conference on Volume 1, 20-24 Sept. 1998 Page(s): 529-530 vol.1 Digital Object Identifier 10. 1109/ECOC. 1998. 732706
【非特許文献3】Muguang Wang, Tangjun Li, and Shuisheng Jian, “Tunable PMD compensator based on high birefringence linearly chirped FBG with cantilever beam”, Optics Express, vol.11, Issue 19, pp. 2354-2363
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した可変DGDを与える偏波分散補償システムは、固定DGDを与えるシステムに比べ、空間系ディレイラインやチャープドグレーティング偏波保持ファイバ等の特殊な装置を必要とし、制御法には機械的な動作が介するため、応答速度に制約が生じるなどの問題が生じる。
【0007】
また、これらの特殊な装置により偏波分散補償を行うことで、信号光は余計な損失を受け、受信側でのビットエラーレートに影響を与える。
【0008】
以上のことから、本発明は、信号光に対する損失を低減し、かつ簡易な構成において可変のDGDを付与可能な可変偏波分散補償器又は可変偏波分散補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、可変偏波分散補償装置であって、偏波保持ファイバと、該偏波保持ファイバの一方端に光学的に接続された、光が入力されると所定の偏波を出力する第1の偏波出力手段であって、入力された信号光を第1の偏波状態で出力する第1の偏波出力手段とを有する、固定のDifferential Group Delay(DGD)を付与する偏波分散補償器と、前記第1の偏波出力手段に入力される信号光の周波数よりも前記偏波保持ファイバのブリルアンシフト周波数だけ大きいまたは小さい周波数の光を発振する光源と、前記光源に光学的に接続され、光が入力されると所定の偏波を出力する第2の偏波出力手段であって、前記光源から入力された光を第2の偏波状態で出力する第2の偏波出力手段と、少なくとも第1、第2、および第3のポートを有し、入力された偏波を保持したまま出力する偏波保持出力手段であって、前記第1のポートが前記偏波保持ファイバに光学的に接続され、前記第2のポートが前記第2の偏波出力手段に光学的に接続され、前記第1のポートから入力された光を偏波を保持したまま前記第3のポートから出力し、前記第2のポートから入力された光を偏波を保持したまま前記第1のポートから出力する偏波保持出力手段とを備え、偏波分散補償を行う際は、前記光源から出力された光の偏波を、前記第2の偏波出力手段によって、前記偏波保持ファイバの2つの主軸の一方に調節して第2の偏波状態にし、該第2の偏波状態の偏波を前記偏波保持出力手段を介して前記第2の偏波状態を保持したまま前記偏波保持ファイバに入力し、前記信号光とは反対の伝搬方向で前記偏波保持ファイバ内を伝搬させて、前記保持ファイバ中で誘導ブルリアン散乱を発生させ、該誘導ブリルアン散乱の偏波依存性により、前記信号光の、前記偏波保持ファイバの2つの主軸の一方の方向に電界が振動する偏波、または前記偏波保持ファイバの2つの主軸の他方の方向に電界が振動する偏波に対し異なる群屈折率変化を与えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光源と前記偏波保持出力手段との間に配置された光アンプを備え、前記光アンプの増幅率を制御することで、前記光源から出力された光の光強度を変更することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記偏波保持出力手段を介して前記偏波保持ファイバに入力される前記第2の偏波状態の偏波の光強度および前記第2の偏波状態の少なくとも一方を変化させることによって、前記信号光に対して可変のDGDを与えることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記第1の偏波出力手段は、偏波コントローラまたは偏光子であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明において、前記第2の偏波出力手段は、偏波コントローラまたは偏光子であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明において、前記偏波保持出力手段は、偏波保持合波器または偏波保持サーキュレータであることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、偏波保持ファイバに入力された、第1の偏波状態の信号光に対して偏波分散補償を行う可変偏波分散補償方法であって、前記信号光の周波数よりも前記偏波保持ファイバのブリルアンシフト周波数だけ大きいまたは小さい周波数の光を第2の偏波状態にする工程と、前記第2の偏波状態の偏波を、前記信号光とは反対の伝搬方向となるように、前記第2の偏波状態を保持したまま前記偏波保持ファイバに入力する工程と、前記入力された第2の偏波状態の偏波を前記反対の伝搬方向で前記偏波保持ファイバ内を伝搬させて、前記保持ファイバ中で誘導ブルリアン散乱を発生させ、該誘導ブリルアン散乱の偏波依存性により、前記信号光の、前記偏波保持ファイバの2つの主軸の一方の方向に電界が振動する偏波、または前記偏波保持ファイバの2つの主軸の他方の方向に電界が振動する偏波に対し異なる群屈折率変化を与える工程とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記第2の偏波状態にする工程の前に、光アンプにより、前記光の光強度を調節する工程をさらに有することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載の発明において、前記偏波保持ファイバに入力される前記第2の偏波状態の偏波の光強度および前記第2の偏波状態の少なくとも一方を変化させることによって、前記信号光に対して可変のDGDを与えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、可変のDGDを、偏波保持出力手段(例えば、偏波保持合波器または偏波保持サーキュレータ)設置側の偏波出力手段(例えば、偏波コントローラまたは偏光子)において、偏波を変更することで可変のDGDを付与する可変偏波分散補償器を実現でき、高速なDGDの制御が可能である効果を奏する。
【0019】
さらには、従来の固定DGDを付与する偏波分散補償器に偏波保持出力手段、偏波出力手段、光源のみを加えるだけで可変のDGDを付与する偏波分散補償器を実現でき、簡易な構造のため、経済的となる効果を奏する。
【0020】
さらには、偏波保持ファイバ中の誘導ブリルアン散乱により信号光は増幅されるため、信号光は損失を低減して偏波分散が補償され、伝送特性の向上につながる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
(第1の実施形態)
図3に、本実施形態に係る可変偏波分散補償装置の構成を示す。
図3に示す本実施形態に係る可変偏波分散補償装置は、偏波コントローラ113および偏波保持ファイバ114を備える、固定のDGDを付与する偏波分散補償装置に、被補償信号光(本明細書では、単に、「信号光」とも呼ぶ)の周波数fsとの周波数差の絶対値が偏波保持ファイバ114のブリルアンシフト周波数fbの絶対値と等しい周波数fpを出力する光源111、偏波コントローラ115、および偏波保持合波器116を加えた構成である。
【0022】
より具体的には、偏波保持ファイバ114の一方端には、偏波コントローラ113が接続されており、偏波保持ファイバ114の他方端には、3つのポートを有する偏波保持合波器116の第1のポートが接続されている。上記偏波コントローラ113は、送信機110に光学的に接続されており、送信機110から送信された周波数fsの信号光を入力可能な構成となっている。よって、周波数fsの信号光は、偏波コントローラ113にて所定の偏波状態となって偏波保持ファイバ114の一方端に入射して他方端から出射し、偏波保持合波器116を介して受信機112に出射される。
【0023】
一方、上記偏波保持合波器116の第2のポートには、偏波コントローラ115が光学的に接続されている。また、偏波コントローラ115は、光源111に光学的に接続されており、光源111から出力された周波数fpの光(本明細書では、「ポンプ光」とも呼ぶ)を偏波コントローラ115に入力可能となっている。よって、上記周波数fpの光は、偏波コントローラ115にて所定の偏波状態となって偏波保持合波器116に入射し、該偏波保持合波器116を介して偏波保持ファイバ114に入射する。
【0024】
上記偏波保持合波器116の第3のポートには、受信機112が光学的に接続されており、第1のポートから入力された光を、その偏波状態を保持したまま第3のポートから出力する。
【0025】
なお、本実施形態では、偏波状態を制御するために偏波コントローラ113および115を用いているが、これらに限定されず、例えば偏光子等、光が入力されると所定の偏波を出力する(所定方向に電界が振動する偏光を出力する)ものであればいずれの手段を用いても良い。また、このように偏波を出力する手段において、出力する偏波の状態を固定とする(固定された方向に電界が振動する偏光を出力する)ようにしても良いが、様々な偏波分散補償に対応することを考慮すると、出力する偏波の状態を調節できること(出力される偏光の電界の振動方向を可変にできること)が好ましい。
【0026】
また、本実施形態では、周波数fpのポンプ光を偏波保持ファイバ114に入射するために偏波保持合波器116を用いているが、これに限定されず、例えば偏波保持サーキュレータ等、少なくとも3つのポートを有し、それらのポートのうち1つのポート(偏波保持合波器116においては第2のポート)から入力された光を、偏波を保持したまま他のポート(偏波保持合波器116においては第1のポート)から出力し、かつ該他のポートから入力された光を、偏波を保持したままさらに他のポート(偏波保持合波器116においては第3のポート)から出力するものであればいずれの手段を用いても良い。
【0027】
さらに、偏波保持ファイバ114としては、入力された光の偏波を保持して出力できればいずれのファイバを用いても良く、例えば、PANDAファイバに代表されるコアに非軸対称な応力が付与された光ファイバや、コアの形状を非軸対称にした光ファイバ等を用いることができる。
【0028】
上述のように、本実施形態に係る可変偏波分散補償装置は、偏波コントローラ113と偏波保持ファイバ114の一方端とが接続された固定のDGDを付与する偏波分散補償器の偏波保持ファイバ114の他方端に、偏波コントローラ115と、光源111とをこの順で接続した形態を有しており、偏波保持ファイバ114に接続されている偏波コントローラ113から入射される信号光に対して偏波分散の補償を行う装置である。
【0029】
このような構成において、偏波分散補償の際には、送信機110から出力された信号光の周波数fsよりも偏波保持ファイバ114のブリルアンシフト周波数fbだけ大きい又は小さい周波数fpを発振する光源111から出力された光の偏波を、偏波コントローラ115によって、偏波保持ファイバ114の2つの主軸の一方(X偏波軸又はY偏波軸)に調節する。そして、該調節された偏波を、偏波保持合波器116に入射し、上記調節された偏波状態のままで信号光とは反対の伝搬方向で偏波保持ファイバ114内を伝搬させる。すると、上記反対の伝搬方向で伝搬する光(ポンプ光)が偏波保持ファイバ114中で誘導ブリルアン散乱を起こし、誘導ブリルアン散乱の偏波依存性を用いて、偏波保持ファイバ114中で、信号光のX偏波又はY偏波に対し異なる群屈折変化を与え、光源111の出力を変更する。これによって、可変量のDGDを与えることになり、上記信号光の偏波分散を補償する可変偏波分散補償装置を実現することができる。
【0030】
なお、X偏波とは、信号光の、偏波保持ファイバ114の2つの主軸の一方(例えば、Slow軸)の方向に電界が振動している偏波(信号光の偏光の、偏波保持ファイバ114の2つの主軸の一方に電界の振動方向を持つ成分)である。また、Y偏波とは、信号光の、偏波保持ファイバ114の2つの主軸の他方(例えば、Fast軸)の方向に電界が振動している偏波(信号光の偏光の、偏波保持ファイバ114の2つの主軸の他方に電界の振動方向を持つ成分)である。
【0031】
以下に、誘導ブリルアン散乱による群屈折率変化が生じる仕組みを説明する。
誘導ブリルアン散乱とは、入射光と音響フォノンとの相互作用によって生じる散乱現象で、スペクトル線幅の狭い光を光ファイバに入射すると、入射光と反対の伝搬方向に、ブリルアンシフト周波数と呼ばれる周波数だけ低い周波数を持つストークス光を発生する。このとき、ストークス光を発生させる入射光をポンプ光(上述のように、本実施形態では、光源111から出力される光となる)と呼ぶことにする。つまり、ポンプ光の周波数をfp、ブリルアンシフト周波数をfbとすると、ストークス光の周波数はfp−fbとなる。
【0032】
ここで、中心周波数がfp−fbである信号光を、ポンプ光に対向して(ポンプ光の伝搬方向とは逆方向で)光ファイバに入射すると、光ファイバ中でポンプ光から信号光へ光パワーが移り、信号光がゲインされる。このゲインは、図1(a)に示すとおりfp−fbを中心にローレンツ型のスペクトル特性を持っており、このゲインにはクラマース・クローニッヒの関係と呼ばれる法則から、同じくfp−fbを中心に図1(b)に示す屈折率変化が生じる。群屈折率は、
【0033】
【数1】

【0034】
の関係から求められ、図1(c)に示すスペクトル特性の群屈折率変化が生じ、群屈折率はfp−fbを中心に増加する。ゲイン量や群屈折率変化量のピーク値は、ポンプ光強度に比例するため、ポンプ光の強度を制御することによって、群屈折率の変化量を制御できる。すなわち、本実施形態では、ポンプ光として機能する周波数fpの光を光源111から出力しているので、光源111から出力される光の強度を制御することにより、ゲイン量や群屈折率変化量のピーク値を所望に応じて設定することができ、群屈折率を所望に応じて変化させることができる。よって、可変量のDGDを付与することができる。さらに、偏波保持ファイバ114に対するポンプ光の入力によって生じたストークス光により信号光の伝搬方向と反対方向にのみゲインを作ることができるので、その分信号光を増幅することができる。
【0035】
また、ポンプ光の周波数がfp、信号光の周波数がfp+fbである場合、先に説明したゲインとは逆に、光パルスにロスが生じる。このロスのスペクトル特性は、図1に示した特性の正負反転の特性で、ロスや群屈折率変化量のピークを示す周波数はfp+fbとなり、群屈折率はfp+fbにおいて減少する。この現象に関しても、ロスや群屈折率変化のピーク値は、ポンプ光強度に比例する為、ポンプ光強度の制御による群屈折率変化量の制御が可能である。
【0036】
つまり、偏波保持ファイバ114のSlow軸(2つの主軸のうち一方)に対し、周波数fpのポンプ光を入射した場合、Slow軸の偏波面の周波数fp−fbの領域において群屈折率が増加し、偏波保持ファイバ114が生じさせるDGDは増加することとなる。
【0037】
同様に偏波保持ファイバ114のFast軸(2つの主軸のうち他方)に対し、周波数fpのポンプ光を入射した場合、Fast軸の偏波面の周波数fp−fbの領域において群屈折率が増加し、偏波保持ファイバ114が生じさせるDGDは減少することとなる。
【0038】
ここで、この時、群屈折率の増加と共に増幅作用が働くため、損失を受けずに偏波分散を行うことが可能となる。
【0039】
このように、本実施形態では、偏波分散補償時に偏波保持ファイバ114に入力するポンプ光の偏波状態(偏光方向)によって、偏波保持ファイバ114が生じさせるDGDの増減の方向が決められる。このポンプ光の偏波状態は、偏波コントローラ115によって設定されるので、偏波分散補償に必要な、偏波保持ファイバ114が与えるDGDに応じて、偏波コントローラ115を調節することにより、上記偏波分散補償に適した偏波状態を実現することができる。そして、偏波保持ファイバ114の、信号光の入力側と反対側からポンプ光を入力するための手段として機能する偏波保持合波器116は、偏波保持したまま偏波コントローラ115から入力された光を偏波保持ファイバ114へと結合することができるので、上記偏波分散補償に適した偏波状態のままポンプ光を偏波保持ファイバ114に入力することができる。よって、偏波保持ファイバ114において、狙い通りの軸に対して群屈折率変化を与えることができる。
【0040】
以下で、偏波分散補償にかかる動作をより詳細に説明する。
送信機110から出力された周波数fsの信号光が入力されると、偏波コントローラ113は、第1の偏波状態にして上記信号光を偏波保持ファイバ114に出力する。本実施形態では、このようにして出力された第1の偏波状態の信号光に対して偏波分散補償を行う。
【0041】
このような偏波分散補償の際には、光源111から周波数fpのポンプ光を偏波コントローラ115に出力する。該偏波コントローラ115は、偏波保持ファイバ114の2つの主軸のうち一方の方向に電界の振動方向が一致するような第2の偏波状態のポンプ光を偏波保持合波器116に出力する。
【0042】
ここで、第2の偏波状態を、上記2つの主軸の一方(Slow軸)に一致させると、偏波保持ファイバ114にて生じるDGDは増加し、上記2つの主軸の他方(Fast軸)に一致させると、偏波保持ファイバ114にて生じるDGDは減少するので、偏波保持ファイバ114にて生じさせるべきDGDに応じて、第2の偏波状態を選択すれば良い。例えば、偏波分散補償するためには、偏波保持ファイバ114のSlow軸の群屈折率を増加させる必要がある場合は、第2の偏波状態を、その偏波がSlow軸となるように偏波コントローラ115を調節すれば良い。
【0043】
また、上述したように光源111から出力されるポンプ光の光強度を制御することにより、群屈折率の変化量を制御できる。よって、本実施形態では、光源111から出力されるポンプ光の光強度および偏波コントローラ115にて決定される偏波状態(偏光方向)の少なくとも一方を変化させることによって、信号光に対して可変のDGDを与えることができる。
【0044】
さて、第2の偏波状態のポンプ光が入力されると、偏波保持合波器116は、該入力されたポンプ光の偏波を保持したまま、ポンプ光を、信号光とは反対の伝搬方向で偏波保持ファイバ114に入力する。このように第2の偏波状態のポンプ光が入力された偏波保持ファイバ114では、該ポンプ光により誘導ブルリアン散乱が起こり、該ブルリアン散乱によって生じたストークス光によって信号光の増幅を行うと共に、信号光の、第2の偏波状態と同一の偏波状態を有する偏波に対して群屈折率変化を与える。従って、該群屈折率の変化に応じてDGDを変化させることができ、偏波保持ファイバ114において、可変分散補償を実現することができる。
【0045】
このように本実施形態では、偏波保持ファイバにおいて、誘導ブルリアン散乱の偏波依存性を用いて、偏波保持ファイバ114の2つの主軸のうち、狙った主軸方向に振動する信号光の偏波に対して、所望の群屈折率変化を生じさせることができる。よって、信号光の、上記2つの主軸のそれぞれに振動方向を有する偏波成分に対して異なる群屈折率変化を与えることができるので、偏波保持ファイバ114において所望のDGDを生じさせることができ、信号光の偏波分散補償を行うことができる。
【0046】
そして、上記誘導ブルリアン散乱を用いて偏波分散補償を行い、かつ誘導ブルリアン散乱を起こさせるためのポンプ光の周波数を、信号光の周波数よりも偏波保持ファイバ114のブリルアンシフト周波数fbだけ大きい又は小さい値としているので、上記分散補償と同時に信号光は増幅される。よって、偏波分散補償と同時に、信号光の増幅も行うことができる。
【0047】
また、本実施形態では、偏波保持ファイバ114にて生成すべきDGDに応じて、光源111の強度および偏波コントローラ115から出力される偏波状態を、偏波分散補償動作の前に設定するだけで、可変のDGDを与えることができる。よって、従来のように可変量のDGDを与える際に、機械的な動作を行う必要が無く、偏波分散補償動作の高速化を実現することができる。
【0048】
さて、本実施形態では、上述のように、可変量のDGDを与え、かつ信号光の増幅を行うべく、誘導ブルリアン散乱により生じるゲインと群屈折率変化を用いている。そしてこの群屈折率変化を起こさせる際に、DGDを変化させるために、2つの主軸のうち一方の群屈折率を変化させ、2つの主軸に対する群屈折率を相対的に変化させることが重要となる。そのために、本実施形態では、偏波保持ファイバ114の、信号光の入力側と反対側から、電界の振動方向が、上記2つの主軸のうち、偏波分散補償について適切な方に一致するような偏波を入力する必要がある。
【0049】
これに対して本実施形態では、上記偏波分散補償について適切な偏波状態を作るために、偏波コントローラ115を用い、さらに、該適切な偏波状態でポンプ光を偏波保持ファイバ114に入力するために、偏波保持機能を持った合波器である偏波保持合波器116を用いているのである。
【0050】
すなわち、偏波コントローラ115にて、偏波分散補償を行えるように設定された偏波状態にてポンプ光を出力し、偏波保持合波器116にてその偏波状態を保ったままポンプ光を偏波保持ファイバ114に入力できるので、偏波保持ファイバ114において、誘導ブルリアン散乱を狙った主軸に対して作用させることができる。よって、可変量のDGDを付与することができるのである。このように、最適な偏波状態を生成するために偏波コントローラ115のような所定の偏波状態で入射された光を出射するための手段が必要であり、その生成された偏波状態のまま、偏波保持ファイバ114に入力するために、偏波保持合波器116などの、偏波を保持したまま入射光を偏波保持ファイバに結合するための手段が必要なのである。
【0051】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、ポンプ光を発振するための光源111の出力強度を変化させることによって、群屈折率の変化量を制御可能であり、信号光に可変のDGDを与えることが可能であることを説明した。しかしながら、本発明では、群屈折率の変化を制御するためにポンプ光の光源の出力強度を変化させることが本質ではなく、用いるポンプ光の光強度を変化させることが本質である。
【0052】
よって、なお、図4に示すとおり、偏波コントローラ115と光源111との間に光アンプ117を設置し、光源111の出力を変更する替わりに、光アンプ117の増幅率を変えることにより、偏波保持ファイバ114に入射するポンプ光の強度を制御し、偏波分散補償量を変更する形態もとれる。
【0053】
なお、本実施形態では、上述のように、偏波保持ファイバ114に入力される前の段階で、所望に応じてポンプ光の光強度を制御することが本質である。よって、光アンプ117の配置の位置は、偏波コントローラ115と偏波保持合波器116との間であっても良い。すなわち、光源111と偏波保持合波器116との間であればいずれの位置に配置しても良い。
【0054】
以上説明した本発明は、可変量の偏波分散を補償する機能を持ち、高速伝送システムの偏波分散補償装置として利用することができる。
【0055】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種種の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る、誘導ブリルアン散乱によって引き起こされるゲインのスペクトル特性を示す図であり、(b)は、誘導ブリルアン散乱によって引き起こされる屈折率変化のスペクトル特性を示す図であり、(c)は、誘導ブリルアン散乱によって引き起こされる群屈折率変化のスペクトル特性を示す図である。
【図2】従来の固定DGDを付与する偏波分散補償器の構成例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る可変偏波分散補償器の構成を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る、光アンプの出力を制御することによって偏波分散補償量を制御する可変偏波分散補償器の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
110 送信機
111 光源
112 受信機
113、115 偏波コントローラ
114 偏波保持ファイバ
116 偏波保持合波器
117 光アンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波保持ファイバと、該偏波保持ファイバの一方端に光学的に接続された、光が入力されると所定の偏波を出力する第1の偏波出力手段であって、入力された信号光を第1の偏波状態で出力する第1の偏波出力手段とを有する、固定のDifferential Group Delay(DGD)を付与する偏波分散補償器と、
前記第1の偏波出力手段に入力される信号光の周波数よりも前記偏波保持ファイバのブリルアンシフト周波数だけ大きいまたは小さい周波数の光を発振する光源と、
前記光源に光学的に接続され、光が入力されると所定の偏波を出力する第2の偏波出力手段であって、前記光源から入力された光を第2の偏波状態で出力する第2の偏波出力手段と、
少なくとも第1、第2、および第3のポートを有し、入力された偏波を保持したまま出力する偏波保持出力手段であって、前記第1のポートが前記偏波保持ファイバに光学的に接続され、前記第2のポートが前記第2の偏波出力手段に光学的に接続され、前記第1のポートから入力された光を偏波を保持したまま前記第3のポートから出力し、前記第2のポートから入力された光を偏波を保持したまま前記第1のポートから出力する偏波保持出力手段とを備え、
偏波分散補償を行う際は、
前記光源から出力された光の偏波を、前記第2の偏波出力手段によって、前記偏波保持ファイバの2つの主軸の一方に調節して第2の偏波状態にし、該第2の偏波状態の偏波を前記偏波保持出力手段を介して前記第2の偏波状態を保持したまま前記偏波保持ファイバに入力し、前記信号光とは反対の伝搬方向で前記偏波保持ファイバ内を伝搬させて、前記保持ファイバ中で誘導ブリルアン散乱を発生させ、該誘導ブリルアン散乱の偏波依存性により、前記信号光の、前記偏波保持ファイバの2つの主軸の一方の方向に電界が振動する偏波、または前記偏波保持ファイバの2つの主軸の他方の方向に電界が振動する偏波に対し異なる群屈折率変化を与えることを特徴とする可変偏波分散補償装置。
【請求項2】
前記光源と前記偏波保持出力手段との間に配置された光アンプを備え、
前記光アンプの増幅率を制御することで、前記光源から出力された光の光強度を変更することを特徴とする請求項1に記載の可変偏波分散補償装置。
【請求項3】
前記偏波保持出力手段を介して前記偏波保持ファイバに入力される前記第2の偏波状態の偏波の光強度および前記第2の偏波状態の少なくとも一方を変化させることによって、前記信号光に対して可変のDGDを与えることを特徴とする請求項1または2に記載の可変偏波分散補償装置。
【請求項4】
前記第1の偏波出力手段は、偏波コントローラまたは偏光子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の可変偏波分散補償装置。
【請求項5】
前記第2の偏波出力手段は、偏波コントローラまたは偏光子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の可変偏波分散補償装置。
【請求項6】
前記偏波保持出力手段は、偏波保持合波器または偏波保持サーキュレータであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の可変偏波分散補償装置。
【請求項7】
偏波保持ファイバに入力された、第1の偏波状態の信号光に対して偏波分散補償を行う可変偏波分散補償方法であって、
前記信号光の周波数よりも前記偏波保持ファイバのブリルアンシフト周波数だけ大きいまたは小さい周波数の光を第2の偏波状態にする工程と、
前記第2の偏波状態の偏波を、前記信号光とは反対の伝搬方向となるように、前記第2の偏波状態を保持したまま前記偏波保持ファイバに入力する工程と、
前記入力された第2の偏波状態の偏波を前記反対の伝搬方向で前記偏波保持ファイバ内を伝搬させて、前記保持ファイバ中で誘導ブリルアン散乱を発生させ、該誘導ブリルアン散乱の偏波依存性により、前記信号光の、前記偏波保持ファイバの2つの主軸の一方の方向に電界が振動する偏波、または前記偏波保持ファイバの2つの主軸の他方の方向に電界が振動する偏波に対し異なる群屈折率変化を与える工程と
を有することを特徴とする可変偏波分散補償方法。
【請求項8】
前記第2の偏波状態にする工程の前に、光アンプにより、前記光の光強度を調節する工程をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の可変偏波分散補償方法。
【請求項9】
前記偏波保持ファイバに入力される前記第2の偏波状態の偏波の光強度および前記第2の偏波状態の少なくとも一方を変化させることによって、前記信号光に対して可変のDGDを与えることを特徴とする請求項7または8に記載の可変偏波分散補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−188458(P2009−188458A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23156(P2008−23156)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】