説明

可変剛性型動吸振装置

【課題】動吸振装置で振動を制振するには固有振動数の調整が最も重要である。従来の前記可変剛性型動吸振装置では、構造的に大きく、狭い振動数範囲を精度良くチューニングすることが困難であり、減衰器が装着しづらく、チューニング範囲を変更する際の設計変更が大きい。
【解決手段】振動体の直線的振動方向に対して直行する同一直線上に、又は同一直交面上の平行線の各片側上に回転軸心を位置し且つ横断面に長軸と短軸を有する一対の同一剛性の長尺剛性体と、振動体に取り付けられ前記一対の長尺剛性体の各外側部を回転可能に装着した吸振本体と、前記一対の長尺剛性体の各内側部を中央部に軸受け連結し且つ互いに点対称状態で逆転可能に歯車連結して吊り下げた重錘と、前記一対の長尺剛性体の合成振動方向を振動体の直線的振動方向に保持したままでその合成剛性係数を変更する回転機構とから構成してなる可変剛性型動吸振装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並進方向振動に対する可変剛性型動吸振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業界では、接触回転系の稼働にともなって徐々に規則的なパタ−ンがロールやロールに接触している系に形成されて、それがまた激しい振動を誘発したり、製品に転写されて欠陥製品となる現象が多く見受けられる。たとえば、鉄道車両とレール、繊維機械のワインダ系の糸玉を介したドライブロールとボビンホルダ、一対の抄紙機ゴム巻きロール、自動車タイヤと道路、製鉄機械、工作機械などの系には特定のパターンが形成される。これらの現象はパターン形成現象と呼ばれ、その発生メカニズムの解明と対策の研究を行ってきた。
【0003】
特に、製鉄機械においては、テンションレベラのチャタマーク、熱間・冷間圧延時のチャタリングなどが製品の精度要求の高まりとともに製品管理上重大な問題となっている。また、一方では、抄紙機のプレスパートにおけるスムーザロールやゲートロールサイズプレスのロール多角形化現象も、ライン速度の向上を阻害する最も主要な原因である。
これらの現象のほとんどは、ロールとロールが接触回転する接触ロール系に発生するパターン形成現象である。
【0004】
このような接触回転系のパターン形成現象の研究は、世界的な研究の見地から見ても、主に工作機械のびびり現象と鉄道レールのコルゲーションが国内で多く研究されているのみで、ロールとロールが接触回転する接触ロール系のパターン形成現象に関する研究は、現在発展途上段階にある。特に、熱間圧延、冷間圧延等の製鉄機械に発生するチャタリング現象、抄紙機のロール多角変形化現象、紙などの薄帯巻き取り過程の異常振動等に関しては、その明確な発生メカニズムが未だ解明されていない。従って、このような接触ロール系に発生するパターン形成現象に対する現場の対策としては、ライン速度を遅くしたり、ロールの早期交換を余儀なくされたりするのみで、根本的な問題解決にはいたっていない。
この現象が発生した場合、製品に致命的なダメージを与たり、ライン速度の上限を設定せざるを得ない状況に陥るため、工業界ではその防止対策の開発が急務となっている。
しかしながら、このような防止対策は未だ検討されていなかった。
これまでの研究において、前記パターン形成現象の防止対策として、ロールの直径比を最適化して不安定度を低減させる手法およびロール回転速度を変動させるパターン形成の遅延対策を検討し、設計指針を提言してきた。直径比最適化による手法は、対をなすロールがともに均等に且つ対称的に変形する場合に有効であるが、一方のロールが変形する場合などは効果をなさない。また、回転数変動に対しては、製鉄機械や製紙機械など、一定回転数で運転せざるを得ないケースが多く存在するため、対策が利用できる機械の種類が限定されてしまう。
さらに、パッシブ型動吸振器を取り付けることにより、パターン形成現象がどのように影響させられるか理論的に解析を試みた。その結果、一般的な自励振動に対する動吸振器の制振効果と異なり、ドラスティックな制振は望めず、しかも、制振対象となる振動モードがあらたに出現する等の問題があった。
また、繊維機械のワインダ系や、紙などの薄帯の巻き取り機などは、システムの固有振動数が時々刻々と変化するため、パッシブ型動吸振器では制振が不可能である。
そこで、本発明者は、上記の問題点を解決するため特許文献1により片支持方式の可変剛性型動吸振器を紹介し、またこの特許文献1で紹介の片支持方式の可変剛性型動吸振器の若干の欠点つまり吸振体が一対の同一剛性長尺剛性体を介して片支持して重錘が円弧振動するため、剛性係数に異方性を有する長尺剛性体の回転角を確実正確に面対称状態で又は正確な平行関係で変更することが困難であることを改善した両支持方式の可変剛性型動吸振器を特許文献2で紹介した。
前記片支持方式の可変剛性型動吸振器は、振動体の振動方向に対する同一直交面上に各軸心を位置し且つ横断面に長軸と短軸を有する一対の同一剛性長尺剛性体と、振動体に取り付けられ前記一対の長尺剛性体の一側部のみを回転可能に装着した吸振本体と、前記一対の長尺剛性体の各他側部を回転可能に装着した重錘と、前記一対の長尺剛性体を面対称状態で互いに逆方向回転させて該一対の長尺剛性体の合成振動方向を振動体の直線的振動方向に保持したままでその合成剛性係数を変更する機構とから構成してなる。
両支持方式の可変剛性型動吸振器は、振動体の振動方向に対する同一直交面上に各軸心を位置し且つ横断面に長軸と短軸を有する一対の同一剛性長尺剛性体と、振動体に取り付けられ前記一対の長尺剛性体の両側部を回転可能に装着した吸振本体と、前記一対の長尺剛性体の中央部を回転可能に装着した重錘と、前記一対の長尺剛性体を面対称状態で互いに逆方向回転させて該一対の長尺剛性体の合成振動方向を振動体の直線的振動方向に保持したままでその合成剛性係数を変更する機構とから構成してなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
動吸振装置で振動を制振するには固有振動数の調整が最も重要である。前述の発明以前に使用されていた可変剛性型動吸振装置は、片持ちばり先端の質量部分を前後に移動させる機構であり、構造的に大きく、狭い振動数範囲を精度良くチューニングすることが困難であった。また、減衰器が装着しづらく、チューニング範囲を変更する際の設計変更が大きい等の問題点がある。
また、特許文献2で紹介した構造では、重錘が長尺剛性体により4箇所で支持されているため、土台となる吸振本体が大きな構造にならざるを得ない。吸振本体が構造的に大きな場合、吸振本体の装着により制振対象とした振動系の振動特性を変化させることになる。そのため、吸振本体は、できるだけ小さな構造が望ましい。吸振本体が大きすぎると制振効果が得られない可能性もあり問題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決する可変剛性型動吸振器を提供するものであり、その特徴とする手段は次の通りである。
(1)、振動体の直線的振動方向に対して直行する同一直線上に、又は同一直交面上の平行線の各片側上に回転軸心を位置し且つ横断面に長軸と短軸を有する一対の同一剛性の長尺剛性体と、振動体に取り付けられ前記一対の長尺剛性体の各外側部を回転可能に装着した吸振本体と、前記一対の長尺剛性体の各内側部を中央部に軸受け連結し且つ互いに点対称状態で逆転可能に歯車連結して吊り下げた重錘と、前記一対の長尺剛性体の合成振動方向を振動体の直線的振動方向に保持したままでその合成剛性係数を変更する回転機構とから構成してなることを特徴とする可変剛性型動吸振装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明において一対の前記長尺剛性体は、その内側部を重錘(振動質量)の中央部で軸受けし且つ互いに逆転可能に歯車連結し、しかも振動体の直線的振動方向に直交する同一直線上に配置し、又は同一直交面上の平行線の各片側上にそれぞれ配置したことにより長尺剛性体の本数を従来の半分に削減し、吸振装置のみならず土台となる吸振本体の著しいコンパクトさを実現できる。
又、本発明は、前記構成により、チューニングする振動数は、ほぼ自由に選定可能で、構造的な大きさがほとんど変わらず、非常に狭い振動数範囲を精度良くチューニング可能である。剛性係数のみ可変にするタイプなので、調整する設計パラメータが少なくて済み、減衰器の装着やチューニング範囲の変更が容易である。特に設置範囲が限られてコンパクト性が要求される場合に有効である。また、吸振本体の大きさを非常に小さく設計することが可能であり、制振対象となる振動系におよぼす吸振本体の影響を非常に小さく抑えることが可能である。
そして本発明は、次に紹介する通り製鉄機械や製紙機械等への多数の応用例があり工業的に極めて有益な効果を有するのである。
a)。円筒状のロール内に、中心軸を介してすべり軸受等の軸受を設け、その軸受を介して配置することができる。
b)。ロール表面にバックアップロールを取り付け、バックアップロール軸受に取り付けるその上下振動を吸収する。
これらの例は、ロール表面に接触するロール軸受部の振幅が小さい振動モードに対しても制振効果が得られる。
c)。レールのコルゲーション、車輪の多角形化防止装置として応用する。
電車が走行を繰り返すうちにレールの表面や、車輪が多角形に変形し(コルゲーション)、騒音、レールの寿命低下、走行安全性の問題など発生している。車軸部分にベアリングを介して吸振装置を装着し、車輪の上下方向振動を抑制することにより、コルゲーションを防止する。
d)。工作機械に応用する。
工作機械のびびり振動を抑制するために、バイト上に吸振装置を装着する。
e)。自動車用ブレーキ鳴き現象防止装置に応用する。
自動車のディスクブレーキ鳴きは、ロータとパッド、あるいはロータとキャリパの連成による自励振動である。特に問題となっている後者は、キャリパに動吸振器を装着することで、確実に鳴きを抑えることができる。しかしながら、ベンチテストでチューニングした振動吸振器を実車に取り付けた場合、シャーシ構造の違いから、効果が得られないことが多い。この吸振装置は容易にチューニングが可能であるため、実車のブレーキ鳴き現象にも効果的である。装着箇所としては、キャリパ、ロータ内部(この場合複数個必要となる)、油圧ピストン内などが考えられる。また、前者の鳴きに関しては、パッドに装着する。
f)。自動車用サスペンションに応用する。
自動車のサスペンション上部に本装置を装着することにより、路面の強制振動による車体への振動を最小限度に抑えることができる。
g)。その他
地震による建物の振動抑制、電線の自励振動(ギャロッピング)抑制、電車のスキールノイズ防止などに応用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の可変剛性型動吸振装置において、長尺剛性体の形状は、振動質量両端で同一であり、しかも一対の剛性体から重錘が受ける合成振動方向は、常に振動体の振動方向と同一方向となり且つ回転角の点対称状態変更で逆向きに回転し合成剛性係数が連続的に変化する矩形、楕円等の長軸・短軸を有する断面形状にするのである。
また長尺剛性体の剛性係数変更機構としては、適宜な長尺剛性体の回転連結機構例えば歯車式回転装置の例として、振動質量内で両長尺剛性体の内側部の回転軸に同一仕様の歯車を設けこれらを直接噛み合わせて連結し相互に逆回転させるタイプや、前記歯車に代えて傘歯車を設けこれらを一対の傘歯車介して連結した所謂ベベルギヤー機構により相互に逆回転させるタイプ等が簡単である。
また他の例として、長尺剛性体の各内側部の回転軸に同一仕様の円筒歯車を設け、各円筒歯車の下部を一つの小径の中間円筒歯車に噛合せることにより一対の長尺剛性体を相互に逆回転させるタイプ等が揚げられる。
長尺剛性体から重錘(振動質量)が受ける合成振動方向は、常に振動体の上下(並進)方向のみとなり且つ一対の長尺剛性体の回転角の変更で合成剛性係数が連続的に変化する。長尺剛性体の剛性係数変更機構としては、長尺剛性体の適宜な回転装置を用いる。
【実施例1】
【0009】
次に本発明の実施例1を図1〜図2と共に説明する。
図1は、図2の矢視A−Aからの平断面図である。図2は、図1の矢視B−Bからの側断面図である。
図1〜図2において、振動体1に吸振本体2を取り付け、吸振本体2に一対の軸受けスタンド2-1、2-2を竪設し、これに同一剛性係数の板バネ(長尺剛性体)3、4の各外側部を回転軸3a、4aに成形しこれをベアリングB1、B2で回転可能に軸受け装着すると共に、板バネ3、4の内側部を回転軸3b、4bに成形しこれを重錘5の中央部にベアリングB3、B4で回転可能に軸受け装着し、且つ傘歯車K1、K2を併設しこれらを一対の傘歯車K3、K4を介して連結して相互に逆回転可能にする。板バネ3側のスタンド2-1には板バネ3を回転させる剛性係数変更機構6を付設してある。
吸振本体2の下部面は、振動体1の振動方向Vに対する直交線H1に一致させて振動体1に取り付けてある。
板バネ3、4は、断面形状を同一の長方形(矩形の一種)にしてあり、その軸芯C1、C2を振動体1の振動方向Vに対する同一直交線H2上に位置させ、又その断面長軸L1、L2を基準位置で該振動方向Vに一致させる。
板バネ用の剛性係数変更機構6は、前記基準位置にした板ばね3の回転軸3aにメイン歯車7を固定し、これに駆動歯車機構8を噛み合わせ回転調節用サーボモーター9の回転駆動により駆動歯車機構8、メイン歯車7、板バネ3、傘歯車K1〜K4、板バネ4を回転角度操作して板バネ3、4の合成剛性係数を変更する。
回転調節用サーボモーター9には振動体1と吸振本体2の振動周波数検出器11からの検出振動周波数に基づきこれらが一致する板ばね回転角度に回転作動制御する制御器10を設けたものである。
図2中5−1は重錘5の下部に固定突出して設けた被ガイドロッドであり吸振本体2の中央部に設けたガイド筒2−3によって振動体1の振動方向Vに沿ってガイドされる。
【実施例2】
【0010】
次に本発明の実施例2を図3〜図4と共に説明する。
図3は、図4の矢視C−Cからの平断面図である。図4は、図3の矢視D−Dからの側断面図である。
この実施例2の、実施例1との違いは、一対の板バネ3、4(長尺剛性体)の内側部の回転軸に同一仕様の円筒歯車E1、E2を設けこれらを直接噛み合わせて連結し相互に逆回転させるタイプにしたものである。このため板バネ3、4は、その軸芯C1、C2を振動体1の振動方向Vに対する直交面上の平行線H1、H2の各片側上にそれぞれ配置したものである。
その他は実施例1と同一構成であり、同一部分には同一符号を付しその詳細説明は省略する。
【0011】
このように本発明の各実施例は、一対の前記長尺剛性体:板バネ3、4、の内側部を重錘5の中央部で軸受けし且つ互いに逆転可能に歯車連結し、しかも振動体1の直線的振動方向Vに直交する同一直線H2上に配置し、又は直交面上の平行線H3、H4の各片側上にそれぞれ配置したことにより板バネ3、4の本数を従来の半分に削減し、コンパクトさを実現できると共に、狭い振動数範囲でも、前記回転機構6により該一対の板バネ3、4の回転角を確実正確に該点対称状態で可変して板バネ3、4の合成剛性係数を連続的に変化させて、吸振本体2側の固有振動数を振動体1の固有振動数に精度良くチューニングして振動体1の振動を制止又は低減或いは遅延したものである。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は、前述の効果を有し、車、電車などの交通機関、機械振動等の多くの振動体に幅広く応用でき、更に騒音問題対策等にも活用でき、特に自励振動系に対する制振には最も効果的でありこの種産業上の利用可能性は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明装置の実施例1を示す説明図であり図2の矢視B−Bからの平断面図。
【図2】図1の矢視A−Aからの側断面図。
【図3】本発明装置の実施例2を示す説明図であり図5の矢視D−Dからの平断面図。
【図4】図4の矢視C−Cからの側断面図。
【符号の説明】
【0014】
1 振動体
2 吸振本体
3、4 板バネ(長尺剛性体)
3a、4a、3b、4b 回転軸
5 重錘
6 剛性係数変更機構
7 メイン歯車
8 駆動歯車機構
9 回転調節用サーボモーター
10 制御器
11 振動周波数検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体の直線的振動方向に対して直交する同一直線上に、又は同一直交面上の平行線の各片側上に回転軸心を位置し且つ横断面に長軸と短軸を有する一対の同一剛性の長尺剛性体と、振動体に取り付けられ前記一対の長尺剛性体の各外側部を回転可能に装着した吸振本体と、前記一対の長尺剛性体の各内側部を中央部に軸受け連結し且つ互いに点対称状態で逆転可能に連結して吊り下げた重錘と、前記一対の長尺剛性体の合成振動方向を振動体の直線的振動方向に保持したままでその合成剛性係数を変更する回転機構とから構成してなることを特徴とする可変剛性型動吸振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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