説明

可変形状鏡

【課題】光反射面の形状を高精度に可変させる。
【解決手段】可変形状鏡1は、光反射面10aを有するミラー10と、ミラー10を変形させるアクチュエータ20と、アクチュエータ20を保持するバックプレート30と、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の各温度を測定する温度センサ50と、温度センサ50から入力された各温度測定値と予め設定されたミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の線膨張係数に基づいてミラーの変形量を調節するための調節値を算出する温度補償演算部60と、温度補償演算部60で算出した調節値に基づいて、与えられた駆動指令値を調節してアクチュエータ20を駆動させるアクチュエータ制御部40とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入射した光を反射する光反射面の形状を所望の形状に変化する可変形状鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可変形状鏡は、光反射面の形状を所望の形状に変化して、入射した光の波面制御、光路長制御に用いられる。例えば、特許文献1によれば、可変形状鏡は、光反射面を有するミラーと、複数のアクチュエータと、アクチュエータと接続したバックプレートで構成されており、アクチュエータが駆動指令にしたがって変位してミラーの形状を変化させることで、光反射面の形状を可変にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−333274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1は、ハイパワーレーザーの波面制御に用いた場合、レーザー入射熱とアクチュエータ駆動の発熱により、ミラー、アクチュエータ、バックプレートの温度が上昇して熱膨張が発生し、光反射面が所望の形状から歪んでしまい精度が悪いという課題があった。
【0005】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、光反射面の形状を高精度に可変させる可変形状鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る可変形状鏡は、光反射面を有するミラーと、ミラーを変形させるアクチュエータと、アクチュエータを保持するバックプレートと、ミラー、アクチュエータ、バックプレートの各温度を測定する温度センサと、温度センサから入力された各温度測定値と予め設定されたミラー、アクチュエータ、バックプレートの線膨張係数に基づいてミラーの変形量を調節するための調節値を算出する温度補償演算部と、温度補償演算部で算出した調節値に基づいて、与えられた駆動指令値を調節してアクチュエータを駆動させるアクチュエータ制御部とを備えたものである。
【0007】
また、この発明に係る可変形状鏡は、光反射面を有するミラーと、ミラーを変形させるアクチュエータと、アクチュエータを保持するバックプレートと、ミラー、バックプレートの各温度を測定する温度センサと、温度センサから入力された各温度測定値と予め設定されたミラー、バックプレートの線膨張係数に基づいてミラーの変形量を調節するための調節値を算出する温度補償演算部と、ミラーとバックプレートの間の変位を測定する相対変位測定部と、温度補償演算部で算出した調節値と相対変位測定部からの相対変位測定値に基づいて、与えられた駆動指令値を調節してアクチュエータを駆動させるアクチュエータ制御部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明による可変形状鏡は、ミラー、アクチュエータ、バックプレートの各温度測定値に基づきミラーの変形量を調節するための調節値を算出するように構成したので、ミラーの光反射面の歪みを補償することができる。その結果、可変形状鏡は、光反射面の形状を高精度に可変させることができる。
【0009】
また、可変形状鏡は、ミラー、バックプレートの各温度測定値と、アクチュエータの変位量に基づいてミラーの変形量を調節するための調節値を算出するように構成したので、ミラーの光反射面の歪みを補償することができる。その結果、可変形状鏡は、光反射面の形状を高精度に可変させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る可変形状鏡の構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る可変形状鏡における処理動作を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態2に係る可変形状鏡の構成を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る可変形状鏡における処理動作を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態3に係る可変形状鏡の構成を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態3に係る可変形状鏡における処理動作を示すフローチャートである。
【0011】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1の可変形状鏡1の構成を示している。
可変形状鏡1は、図1に示すように、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30、アクチュエータ制御部40、温度センサ50、温度補償演算部60で構成されている。
【0012】
ミラー10は、一方の面(ミラー表面)に光反射面10aを有しており、他方の面(ミラー裏面)10bには複数のアクチュエータ20が接続されている。ミラー10は、入射した光を光反射面10aで受けて反射するよう機能する。
【0013】
アクチュエータ20は、軸方向に駆動する可動端20aがミラー裏面10bに接続され、可動端20aに対する他端がバックプレート30に保持されており、ミラー10とバックプレート30の間に配置されている。複数のアクチュエータ20は、それぞれ各アクチュエータ制御部40により駆動制御され、可動端20aが駆動することにより、ミラー裏面10bからミラー10の法線方向に押圧してミラー10を変形させ、光反射面10aの形状を変化させるよう機能する。
【0014】
バックプレート30は、ミラー裏面10bに対向するよう近接して設けられており、アクチュエータ20を保持している。
【0015】
アクチュエータ制御部40は、駆動指令部41、駆動回路42、調節器43で構成されており、アクチュエータ20を駆動制御するよう機能する。
駆動指令部41は、外部からの駆動指示または予め設定されたプログラムからの駆動指示により与えられた駆動指令値Aを出力する。駆動指令値Aは、例えば、使用者からの駆動指示に基づいて与えられ、アクチュエータ20の可動端20aの変位量を示している。
【0016】
調節器43は、駆動指令部41からの駆動指令値Aと後述する温度補償演算部60からの調節値ΔZを入力し、駆動指令値Aを調節値ΔZにより調節するよう機能する。調節器43は、例えば、駆動指令値Aから調節値ΔZを差し引いて駆動指令値Aを調節し、調節済みの駆動指令値A´を出力する。
【0017】
駆動回路42は、調節器43により調節された駆動指令値A´を入力し、入力した駆動指令値A´に基づいてアクチュエータ20に駆動指令を与えるよう機能する。
【0018】
ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30には、温度センサ50が取り付けられている。温度センサ50は、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30において温度を測定するよう機能する。温度センサ50は、ミラー10に取り付けられた温度センサ50m、アクチュエータ20に取り付けられた温度センサ50a、バックプレート30に取り付けられた温度センサ50bで構成されている。
【0019】
温度センサ50mはミラー10におけるアクチュエータ20近傍の温度を測定しており、温度センサ50aはアクチュエータ20の温度を測定しており、温度センサ50bはバックプレート30におけるアクチュエータ20近傍の温度を測定している。温度センサ50m,50a,50bは、それぞれ測定した温度測定値を温度補償演算部60へ出力する。
【0020】
温度補償演算部60は、予め設定されたミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の各線膨張係数と、入力された各温度測定値に基づいて熱膨張量を算出するとともに各熱膨張量を合計した調節値ΔZを算出するよう機能する。温度補償演算部60は、例えば、温度センサ50mからの温度測定値が所定の時間に変化した値を示す温度変化量を演算し、ミラー10の線膨張係数と温度変化量を乗算してミラー10の熱膨張量を算出する。温度補償演算部60は、温度センサ50aからの温度測定値が所定の時間に変化した値を示す温度変化量を演算し、アクチュエータ20の線膨張係数と温度変化量を乗算してアクチュエータ20の熱膨張量を算出する。温度補償演算部60は、温度センサ50bからの温度測定値が所定の時間に変化した値を示す温度変化量を演算し、バックプレート30の線膨張係数と温度変化量を乗算してバックプレート30の熱膨張量を算出する。
【0021】
温度補償演算部60は、ミラー10の熱膨張量と、アクチュエータ20の熱膨張量と、バックプレート30の熱膨張量を合計して調節値ΔZを算出する。
【0022】
ここで、温度補償演算部60において算出する調節値ΔZについて説明する。
一般に物体が温度変化した場合の熱膨張量は、線膨張係数と温度変化量に比例する。ミラー10の線膨張係数をCTEm、アクチュエータ20の線膨張係数をCTEa、バックプレート30の線膨張係数をCTEb、ミラー10における温度変化量をΔTm、アクチュエータ20における温度変化量をΔTa、バックプレート30における温度変化量をΔTbで表した場合、アクチュエータ20近傍におけるミラー10の熱膨張量ΔZm、アクチュエータ20の熱膨張量ΔZa、アクチュエータ20近傍におけるバックプレート30の熱膨張量ΔZbは、次の式(1)〜(3)で表される。
【0023】

ΔZm=CTEm×ΔTm (1)
ΔZa=CTEa×ΔTa (2)
ΔZb=CTEb×ΔTb (3)
【0024】
調節値ΔZは、次の式(4)に示すように、式(1)〜(3)で算出した熱膨張量ΔZm,ΔZa,ΔZbを足し合わせたものであり、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の総熱膨張量を示している。

ΔZ=ΔZm+ΔZa+ΔZb (4)
【0025】
可変形状鏡1は、この調節値ΔZで駆動指令値Aを調節し、調節した駆動指令値A´でアクチュエータ20を駆動制御することにより、アクチュエータ20近傍における光反射面10aに発生する歪みを補償し、ミラー10の変形量を調節することが可能となる。
【0026】
次に、可変形状鏡1における処理動作について図2のフローチャートを用いて説明する。可変形状鏡1は、外部からの駆動指示または予め設定されたプログラムからの駆動指示により処理動作を開始する(スタート)。
【0027】
駆動指令部41は、外部からの駆動指示または予め設定されたプログラムからの駆動指示により与えられた駆動指令値Aを出力する(ステップST101)。
【0028】
ここで、温度補償演算部60は、温度センサ50m,50a,50bから温度測定値を入力しており、温度センサ50mからの温度測定値に基づき温度変化量ΔTmを算出し、温度センサ50aからの温度測定値に基づき温度変化量ΔTaを算出し、温度センサ50bからの温度測定値に基づき温度変化量ΔTbを算出する。
【0029】
温度補償演算部60は、続いて、ミラー10の線膨張係数CTEmと温度変化量ΔTmを乗算してミラー10の熱膨張量ΔZmを算出し、アクチュエータ20の線膨張係数CTEaと温度変化量ΔTaを乗算してアクチュエータ20の熱膨張量ΔZaを算出し、バックプレート30の線膨張係数CTEbと温度変化量ΔTbを乗算してバックプレート30の熱膨張量ΔZbを算出する。
【0030】
温度補償演算部60は、熱膨張量ΔZm,ΔZa,ΔZbを足し合わせて調節値ΔZを算出し、調節器43へ出力する(ステップST102)。
【0031】
アクチュエータ制御部40の調節器43は、駆動指令部41から駆動指令値Aを入力すると、温度補償演算部60から調節値ΔZを入力する。調節器43は、駆動指令値Aから調節値ΔZを差し引いて調節し、調節済みの駆動指令値A´を駆動回路42へ出力する(ステップST103)。
【0032】
駆動回路42は、調節器43から駆動指令値A´を入力すると、駆動指令値A´に基づいてアクチュエータ20へ駆動指令を出力する(ステップST104)。アクチュエータ20は、駆動回路42から入力した駆動指令にしたがって可動端20aを変位させてミラー裏面10bを押圧する。
【0033】
ミラー10は、ミラー裏面10bから可動端20aに押圧され、ミラー10の法線方向に変形する(ステップST105)。
【0034】
以上のように、実施の形態1によれば、可変形状鏡1は、一方の面に光反射面10aを有するミラー10と、ミラー10の他方の面10bに接続してミラー10を変形させるアクチュエータ20と、アクチュエータ20を保持し、ミラー10の他方の面に対向して設けられたバックプレート30と、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の各温度を測定する温度センサ50m,50a,50bと、温度センサ50m,50a,50bから入力された各温度測定値と予め設定されたミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の各線膨張係数に基づいて熱膨張量ΔZm,ΔZa,ΔZbを算出し、算出した各熱膨張量ΔZm,ΔZa,ΔZbを合計した調節値ΔZを算出する温度補償演算部60と、温度補償演算部60で算出した調節値ΔZに基づいて、駆動指示により与えられた駆動指令値Aを調節し、調節した駆動指令値A´でアクチュエータ20を駆動させるアクチュエータ制御部40とを備えるよう構成したので、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の熱膨張量に基づきアクチュエータを駆動させる駆動指令値Aを調節し、調節済みの駆動指令値A´でミラー10の光反射面10aの歪みを補償することができる。その結果、可変形状鏡は、光反射面の形状を高精度に可変させることができる。
【0035】
なお、可変形状鏡1のミラー10は、一般的に温度変化による変形が小さい低膨張ガラスが材料として用いられており、一般的なガラスと比較して強度、熱伝導性、耐熱性等が優れている。一方、上記構成のようにすれば、可変形状鏡1は、線膨張係数が大きくレーザー入射熱による熱膨張が大きくなる金属、セラミック、半導体等をミラー10の材料とした場合、ミラー10の光反射面10aの歪みを補償することができるとともに、高強度、高温で使用可能な構成にすることができる。
【0036】
実施の形態2.
実施の形態1においては、アクチュエータ20の熱膨張量ΔZaを線膨張係数CTEaと温度変化量ΔTaに基づき算出する構成について説明したが、実施の形態2は、熱膨張量ΔZaを実測する構成について説明する。
【0037】
図3は、実施の形態2の可変形状鏡1の構成を示している。なお、図3において、実施の形態1と同様の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
可変形状鏡1は、図3に示すように、実施の形態1の温度センサ50aに替えて相対変位測定部70が設けられ、調節器44が加えられた構成である。
【0038】
ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30、温度センサ50m,50b、温度補償演算部60の構成は実施の形態1と同様の機能を有する構成であり、説明を省略する。
【0039】
相対変位測定部70は、相対変位センサ70mと相対変位センサ70bで構成されている。相対変位センサ70mはミラー10のミラー裏面10bにおけるアクチュエータ20近傍に取り付けられており、相対変位センサ70bはバックプレート30においてミラー裏面10bに対向する位置に取り付けられている。相対変位センサ70m,70bは、ミラー10とバックプレート30の間の変位を測定するよう機能し、相対変位測定値をアクチュエータ制御部40の調節器44へ出力し、駆動回路42へフィードバックする。
【0040】
調節器44は、アクチュエータ制御部40に設けられており、調節器43と駆動回路42の間に配置されている。調節器44は、相対変位測定部70からの相対変位測定値に基づき、調節器43からの駆動指令値B´を調節するよう機能する。調節器44は、例えば、駆動指令値B´から相対変位測定値を差し引いて駆動指令値B´を調節し、調節済みの駆動指令値B´´を駆動回路42へ出力する。なお、調節器44は、調節器43と入れ替えて構成しても良い。
【0041】
ここで、アクチュエータ20近傍におけるミラー10とバックプレート30間の相対変位はアクチュエータ20の熱膨張量とほぼ等しい。そこで、アクチュエータ制御部40では、相対変位測定部70からアクチュエータ20の熱膨張量の実測値を示す相対変位測定値を入力し、相対変位測定値に基づいて駆動指令値B´を調節している。
【0042】
次に、実施の形態2の可変形状鏡1における処理動作について図4のフローチャートを用いて説明する。実施の形態2の可変形状鏡1は、図2に示した処理動作のステップST103とステップST104の間にステップST201とステップST202の処理動作を加えた処理を行う。
【0043】
可変形状鏡1は、外部からの駆動指示または予め設定されたプログラムからの駆動指示により処理動作を開始する(スタート)。駆動指令部41は、外部からの駆動指示または予め設定されたプログラムからの駆動指示により与えられた駆動指令値Bを出力する(ステップST101)。
【0044】
温度補償演算部60は、温度センサ50m,50bから温度測定値を入力しており、温度センサ50mからの温度測定値に基づき温度変化量ΔTmを算出し、温度センサ50bからの温度測定値に基づき温度変化量ΔTbを算出する。
【0045】
温度補償演算部60は、続いて、ミラー10の線膨張係数CTEmと温度変化量ΔTmを乗算してミラー10の熱膨張量ΔZmを算出し、バックプレート30の線膨張係数CTEbと温度変化量ΔTbを乗算してバックプレート30の熱膨張量ΔZbを算出する。
【0046】
温度補償演算部60は、熱膨張量ΔZm,ΔZbを足し合わせて調節値ΔZ´を算出し、調節器43へ出力する(ステップST102)。
【0047】
調節器43は、駆動指令部41から駆動指令値Bを入力すると、温度補償演算部60から調節値ΔZ´を入力する。調節器43は、駆動指令値Bから調節値ΔZ´を差し引いて調節し、調節済みの駆動指令値B´を調節器44へ出力する(ステップST103)。
【0048】
ここで、相対変位測定部70は、相対変位センサ70mと相対変位センサ70bにより、ミラー10とバックプレート30の間の変位を測定し、相対変位測定値を調節器44へ出力する。
【0049】
アクチュエータ制御部40の調節器44は、調節器43から駆動指令値B´を入力すると(ステップST201)、相対変位測定部70から相対変位測定値を入力し、駆動指令値B´から相対変位測定値を差し引いて駆動指令値B´を調節し、調節済みの駆動指令値B´´を駆動回路42へ出力する(ステップST202)。
【0050】
駆動回路42は、調節器44から駆動指令値B´´を入力すると、駆動指令値B´´に基づいてアクチュエータ20へ駆動指令を出力する(ステップST104)。アクチュエータ20は、駆動回路42から入力した駆動指令にしたがって可動端20aを変位させてミラー裏面10bを押圧する。
【0051】
ミラー10は、ミラー裏面10bから可動端20aに押圧され、ミラー10の法線方向に変形する(ステップST105)。
【0052】
以上のように、実施の形態2によれば、可変形状鏡1は、実施の形態1の温度センサ50aに替えて、相対変位センサ70mと相対変位センサ70bにより、ミラー10とバックプレート30の間の変位を測定する相対変位測定部70と、相対変位測定部70からの相対変位測定値に基づき、調節器43からの駆動指令値B´を調節器44により調節して駆動回路42へ出力するアクチュエータ制御部40とを備えるよう構成したので、一方の面に光反射面10aを有するミラー10と、ミラー10の他方の面10bに接続してミラー10を変形させるアクチュエータ20と、アクチュエータ20を保持し、ミラー10の他方の面に対向して設けられたバックプレート30と、ミラー10、バックプレート30の各温度を測定する温度センサ50m,50bと、温度センサ50m,50bから入力された各温度測定値と予め設定されたミラー10、バックプレート30の各線膨張係数に基づいて熱膨張量ΔZm,ΔZbを算出し、算出した各熱膨張量ΔZm,ΔZbを合計した調節値ΔZ´を算出する温度補償演算部60と、相対変位センサ70mと相対変位センサ70bにより、ミラー10とバックプレート30の間に配置されたアクチュエータ20の変位を測定する相対変位測定部70と、温度補償演算部60で算出した調節値ΔZ´と相対変位測定部70からの相対変位測定値に基づいて、駆動指示により与えられた駆動指令値Bを調節し、調節した駆動指令値B´´でアクチュエータ20を駆動させるアクチュエータ制御部40とを備えるよう構成したので、相対変位測定部70によりアクチュエータ20の熱膨張量ΔZaを実測し、熱膨張量ΔZaの実測値に基づき、駆動指令値B´を調節し、調節済みの駆動指令値B´´でミラー10の光反射面10aの歪みを補償することができる。その結果、可変形状鏡1は、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0053】
実施の形態3.
実施の形態1,2においては、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の熱膨張量に基づいて駆動指令値を調節する構成について説明したが、実施の形態3では、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30を冷却する冷却指令値を用いる構成について説明する。
【0054】
図5は、実施の形態3における可変形状鏡1の構成を示している。なお、図5において、実施の形態1と同様の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0055】
可変形状鏡1は、図5に示すように、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30、アクチュエータ制御部40、温度センサ50、温度補償演算部60、冷却素子80、冷却制御部90で構成されている。ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30、アクチュエータ制御部40、温度センサ50の構成については、図1と同様であり、説明を省略する。
【0056】
冷却素子80は冷却素子80m,80a,80bで構成されており、冷却制御部90により制御されている。冷却素子80は、例えば、外部からの電気エネルギーが供給されることによって冷却し、その電気エネルギーの供給量(冷却指令値)に応じて冷却熱量が制御されるペルチェ素子である。
【0057】
冷却素子80mは、ミラー10に取り付けられ、冷却制御部90からの冷却指令値Qmにより冷却熱量が制御される。冷却素子80aは、アクチュエータ20に取り付けられ、冷却制御部90からの冷却指令値Qaにより冷却熱量が制御される。冷却素子80bは、バックプレート30に取り付けられ、冷却制御部90からの冷却指令値Qbにより冷却熱量が制御される。
【0058】
冷却制御部90は、冷却素子80へ電気エネルギーを供給し、その電気エネルギーの供給量(冷却指令値)に基づいて各冷却素子80m,80a,80bの冷却熱量を制御するよう機能する。冷却制御部90は、例えば、外部からの冷却指示に基づく冷却指令値Qm,Qa,Qbで各冷却素子80m,80a,80bへ電気エネルギーを供給する。冷却制御部90は、このように各冷却素子80m,80a,80bの冷却熱量を制御している。
【0059】
また、冷却制御部90は、冷却素子80へ電気エネルギーを供給する際に各冷却指令値Qm,Qa,Qbを温度補償演算部60へ出力するよう機能する。
【0060】
可変形状鏡1において、ハイパワーなレーザーを入射した場合、レーザー入射熱で温度上昇することにより、可変形状鏡1の各構成が損傷したり、ミラー10の光反射面10aに熱変形が生じたりする。そこで、可変形状鏡1の各構成が損傷、熱変形するのを防止するために、上述の冷却素子80m,80a,80bと冷却制御部90により、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30を冷却している。
【0061】
しかし、このように冷却する可変形状鏡1であっても、断続的にレーザーをオン、オフしたり、急激にレーザーパワーが変化したりするレーザービームの波面制御に適用する場合、レーザー入射熱の変化による温度変化に冷却素子による冷却が間に合わない。また、レーザー入射熱が伝わる部位と冷却部位の位置の差による温度勾配や、温度の過渡的な変化が生じる。
【0062】
そのため、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30のそれぞれ一部に取り付けられた温度センサ50m,50a,50bの温度測定値は、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30のそれぞれ代表的な温度を示さず、温度センサ50m,50a,50bで得られた温度変化量ΔTm,ΔTa,ΔTbに基づいて熱膨張量ΔZを計算すると、実際の熱膨張量とのずれが生じる。
【0063】
そこで、実施の形態3の可変形状鏡1は、温度変化量ΔTm,ΔTa,ΔTbに加えて、冷却制御部90から冷却素子80m,80a,80bへ供給される電気エネルギーの冷却指令値Qm,Qa,Qbに基づき、アクチュエータ20を駆動する駆動指令値Cを調節するように構成している。
【0064】
温度補償演算部60は、予め設定されたミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の各線膨張係数と、各温度センサ50m,50a,50bからの温度測定値に基づいて熱膨張量ΔZm,ΔZa,ΔZbを算出するとともに、冷却制御部90からの冷却指令値Qm,Qa,Qbに基づいて熱膨張量f(Qm),f(Qa),f(Qb)を算出するよう機能する。
【0065】
温度補償演算部60は、例えば、温度センサ50mからの温度測定値が所定の時間に変化した温度変化量ΔTmを演算し、ミラー10の線膨張係数CTEmと温度変化量ΔTmを乗算してミラー10の熱膨張量ΔZmを算出する。温度補償演算部60は、温度センサ50aからの温度測定値が所定の時間に変化した温度変化量ΔTaを演算し、アクチュエータ20の線膨張係数CTEaと温度変化量ΔTaを乗算してアクチュエータ20の熱膨張量ΔZaを算出する。温度補償演算部60は、温度センサ50bからの温度測定値が所定の時間に変化した温度変化量ΔTbを演算し、バックプレート30の線膨張係数CTEbと温度変化量ΔTbを乗算してバックプレート30の熱膨張量ΔZbを算出する。
【0066】
温度補償演算部60は、例えば、冷却制御部90から冷却指令値Qm,Qa,Qbを入力し、入力した冷却指令値Qm,Qa,Qbと、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の各熱容量、レーザー入射熱、冷却の熱輸送量に基づき熱計算を行い、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30毎の温度分布を算出する。温度補償演算部60は、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30毎の温度分布に基づいて熱膨張量f(Qm),f(Qa),f(Qb)を算出する。
【0067】
また、温度補償演算部60は、以下の式(5)に示すように、各熱膨張量ΔZm,ΔZa,ΔZb,f(Qm),f(Qa),f(Qb)を合計した調節値ΔZ´´を算出するよう機能する。

ΔZ´´=ΔZm+f(Qm)+,ΔZa+f(Qa)+ΔZb+f(Qb) (5)
【0068】
このように、可変形状鏡1は、冷却制御部90でそれぞれに対する冷却指令値Qm,Qa,Qbを制御することにより、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30を、それぞれを適度な温度範囲に冷却するよう構成されている。
【0069】
次に、実施の形態3の可変形状鏡1の処理動作について図6のフローチャートを用いて説明する。実施の形態3の可変形状鏡1は、図2に示した処理動作のステップST102に替えてステップST301の処理動作を行う。
図6において、ステップST101の処理は、図2と同様であるため説明を省略する。
【0070】
ステップST101においてアクチュエータ制御部40の駆動指令部41が駆動指令値Cを出力すると、温度補償演算部60は、温度センサ50mからの温度測定値に基づき温度変化量ΔTmを算出し、温度センサ50aからの温度測定値に基づき温度変化量ΔTaを算出し、温度センサ50bからの温度測定値に基づき温度変化量ΔTbを算出する。
【0071】
温度補償演算部60は、続いて、ミラー10の線膨張係数CTEmと温度変化量ΔTmを乗算してミラー10の熱膨張量ΔZmを算出し、アクチュエータ20の線膨張係数CTEaと温度変化量ΔTaを乗算してアクチュエータ20の熱膨張量ΔZaを算出し、バックプレート30の線膨張係数CTEbと温度変化量ΔTbを乗算してバックプレート30の熱膨張量ΔZbを算出する。
【0072】
また、温度補償演算部60は、冷却制御部90からミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30を冷却するための各冷却指令値Qm,Qa,Qbを入力し、冷却指令値Qm,Qa,Qbと、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30の各熱容量、レーザー入射熱、冷却の熱輸送量に基づき熱計算を行い、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30毎の温度分布を算出する。温度補償演算部60は、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30毎の温度分布に基づいて熱膨張量f(Qm),f(Qa),f(Qb)を算出する。
【0073】
温度補償演算部60は、各熱膨張量ΔZm,ΔZa,ΔZb,f(Qm),f(Qa),f(Qb)を合計した調節値ΔZ´´をアクチュエータ制御部40へ算出する(ステップST301)。可変形状鏡1は、ステップST301の処理が終わると、ステップST103へ進む。ステップST103からステップST105の処理は、図2と同様であるため説明を省略する。
【0074】
以上のように、実施の形態3によれば、可変形状鏡1は、ミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30を冷却する冷却素子80m,80a,80bと、冷却素子80m,80a,80bへ供給する冷却指令値Qm,Qa,Qbを出力する冷却制御部90と、冷却制御部90からの冷却指令値Qm,Qa,Qbに基づいて調節値ΔZ´´を算出する温度補償演算部60とを備えるよう構成したので、冷却素子80によりミラー10、アクチュエータ20、バックプレート30を冷却する可変形状鏡1の場合であっても、ミラー10の光反射面10aの歪みを補償することができる。その結果、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0075】
なお、上記実施の形態1〜3では、レーザー入射熱により可変形状鏡が温度上昇する場合について述べたが、可変形状鏡1を高温環境や低温環境の広い温度範囲で動作させる場合にも適用できる。
【0076】
なお、上記実施の形態1〜3では、光の波面制御、光路長制御などで有用な可変形状鏡に利用する場合について述べたが、ミラー10以外に高精度に面形状を可変にする装置に適用して構成しても良い。
【符号の説明】
【0077】
1 可変形状鏡、10 ミラー、10a 光反射面、10b ミラー裏面、20 アクチュエータ、20a 可動端、30 バックプレート、40 アクチュエータ制御部、41 駆動指令部、42 駆動回路、43,44 調節器、50m 温度センサ(ミラー用)、50a 温度センサ(アクチュエータ用)、50b 温度センサ(バックプレート用)、60 温度補償演算部、70 相対変位測定部、70m 相対変位センサ(ミラー側)、70b 相対変位センサ(バックプレート側)、80 冷却素子、80m 冷却素子(ミラー用)、80a 冷却素子(アクチュエータ用)、80b 冷却素子(バックプレート用)、90 冷却制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射面を有するミラーと、
上記ミラーを変形させるアクチュエータと、
上記アクチュエータを保持するバックプレートと、
上記ミラー、上記アクチュエータ、上記バックプレートの各温度を測定する温度センサと、
上記温度センサから入力された各温度測定値と予め設定された上記ミラー、上記アクチュエータ、上記バックプレートの線膨張係数に基づいて上記ミラーの変形量を調節するための調節値を算出する温度補償演算部と、
上記温度補償演算部で算出した調節値に基づいて、与えられた駆動指令値を調節して上記アクチュエータを駆動させるアクチュエータ制御部と、
を備えた可変形状鏡。
【請求項2】
光反射面を有するミラーと、
上記ミラーを変形させるアクチュエータと、
上記アクチュエータを保持するバックプレートと、
上記ミラー、上記バックプレートの各温度を測定する温度センサと、
上記温度センサから入力された各温度測定値と予め設定された上記ミラー、上記バックプレートの線膨張係数に基づいて上記ミラーの変形量を調節するための調節値を算出する温度補償演算部と、
上記ミラーと上記バックプレートの間の変位を測定する相対変位測定部と、
上記温度補償演算部で算出した調節値と、上記相対変位測定部からの相対変位測定値に基づいて、与えられた駆動指令値を調節して上記アクチュエータを駆動させるアクチュエータ制御部と、
を備えた可変形状鏡。
【請求項3】
上記ミラー、上記アクチュエータ、上記バックプレートを冷却する冷却素子を備え、
上記温度補償演算部は、上記冷却素子へ供給する冷却指令値に基づいて調節値を算出することを特徴とする請求項1記載の可変形状鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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